説明

血管再生材料

【課題】本発明は、生体内に埋め込み可能であり、血管組織に類似した構造を有し、かつ弾性率、弾性回復率に優れた血管再生材料を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、(i)同心円状の内層、中間層および外層からなり、外径が0.5〜50mmで、厚みが200〜5,000μmの中空の円筒状であり、各層は、平均繊維径が0.05〜10μmの脂肪族ポリエステルの繊維からなり、内層を構成する脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸(PLA)と、50〜90モル%の乳酸由来の繰り返し単位および10〜50モル%のカプロラクトン由来の繰り返し単位からなる共重合体(PLCA)とを含有し、前者の含有量が40〜100重量%で、後者の含有量が0〜60重量%である血管再生材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管再生材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大きく損傷したり失われた生体組織の治療法として、細胞の分化、増殖能を利用し元の生体組織を再構築する再生医療の研究が活発になってきている。血管再生もその1つであり、先天的もしくは病気によるダメージを受けた血管を切除し、欠損部に再生の足場となる材料あるいは足場材料に細胞を含有させた複合材料を架橋し、血管を再生する研究が行われている。
実際の血管組織は血管内面を被覆している内皮細胞を含む内膜、平滑筋細胞からなる中膜、繊維芽細胞からなる外膜の3層から構成されている。内膜は物質の選択的な透過をコントロールするため空間体積の小さい密な構造を有している。また中膜は血管特有の弾性機能を担っている。さらに外膜は血管の外から栄養分を取るため空間体積の大きい疎な構造を有している。血管治療用材料としては、このような血管組織の3層構造を模倣したものが好ましい。
【0003】
細胞を含有させた複合材料としては、ポリウレタン繊維等からなり血管組織の3層構造を模倣した足場材料に血管内皮細胞および平滑筋細胞を含有させたハイブリッド人工血管が提案されている(特許文献1)。しかし再生医療においては、生分解性材料であることが好ましい。
生分解性材料を用いた足場材料としては、生分解性材料からなる発泡体を生分解性材料からなる補強材によって強化した心血管系組織培養用基材が提案されている(特許文献2)。しかし、このような基材は発泡体であることから実際の血管組織とは構造が大きく相違する。また、生分解性材料からなる織編物およびコラーゲンを構成成分とする足場材料が提案されている(非特許文献1)。しかし、織編物を構成する繊維は繊維径が大きいため比表面積が小さく、高い細胞接着性を得ることは困難であると考えられる。
細胞接着性を向上させた材料として、数ナノメートルから数十マイクロメートルの外径を有するコラーゲン、ポリウレタンなどの医療用高分子の繊維を用いて作製された不織布を含む足場材料が提案されている(特許文献3)。しかし、合成生分解性ポリマーを使用した例は開示されていない。コラーゲン等の動物由来製品は未知のウイルスを有している危険性があるため、生体内に埋め込んで使用する血管治療用材料は、合成生分解性ポリマーからなるものが好ましい。
【特許文献1】特開2003−24351号公報
【特許文献2】特開2001−078750号公報
【特許文献3】特開2004−321484号公報
【非特許文献1】Ann Thorac Surg. 2005 Nov;80(5):1821-7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来のかかる問題を解決し、生体内に埋め込み可能であり、血管組織に類似した構造を有し、かつ弾性率、弾性回復率に優れた血管再生材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、血管組織に類似した内層、中間層および外層からなる3層構造を有し、かつ同程度の機械的強度を有する血管再生材料について検討した。その結果、内層にポリ乳酸(PLA)と、50〜90モル%の乳酸由来の繰り返し単位および10〜50モル%のカプロラクトン由来の繰り返し単位からなる共重合体(PLCA)とを含有し、前者の含有量が40〜100重量%で、後者の含有量が0〜60重量%であるの脂肪族ポリエステルの繊維を用いると、細胞浸潤性を適度に抑制することが出来、表面付近に細胞が局在し、血管内腔に類似の内皮細胞構造を構築できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
即ち本発明は、同心円状の内層、中間層および外層からなる中空の円筒状であり、各層は、平均繊維径が0.05〜10μmの脂肪族ポリエステルの繊維からなり、内層を構成する脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸(PLA)と、50〜90モル%の乳酸由来の繰り返し単位および10〜50モル%のカプロラクトン由来の繰り返し単位からなる共重合体(PLCA)とを含有し、前者の含有量が40〜100重量%で、後者の含有量が0〜60重量%である血管再生材料である。該血管再生材料は、細胞を含有することが好ましい。
【0007】
また本発明は、同心円状の内層、中間層および外層からなる中空の円筒状であり、各層は、平均繊維径が0.05〜10μmの脂肪族ポリエステルの繊維からなる血管再生材料を製造する方法であって、
(i) ポリ乳酸(PLA)と、50〜90モル%の乳酸由来の繰り返し単位および10〜50モル%のカプロラクトン由来の繰り返し単位からなる共重合体(PLCA)とを含有し、前者の含有量が40〜100重量%で、後者の含有量が0〜60重量%である脂肪族ポリエステルおよび揮発性溶媒を含有するドープを静電紡糸法にて紡糸し、得られた繊維をコレクタ上に巻き取り内層を形成する工程、
(ii) 脂肪族ポリエステルおよび揮発性溶媒を含有するドープを静電紡糸法にて紡糸し、得られた繊維を内層上に巻き取り中間層を形成する工程、並びに
(iii) 脂肪族ポリエステルおよび揮発性溶媒を含有するドープを静電紡糸法にて紡糸し、得られた繊維を中間層上に巻き取り外層を形成する工程、
を含む血管再生材料の製造方法である。該方法は、さらに細胞を播種する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の血管再生材料は、3層からなり、血管組織に類似した構造を有する。また本発明の血管再生材料は、弾性率、弾性回復率に優れ、血管組織と同程度の弾性率、弾性回復率を有する。よって、本発明の血管再生材料は血管再生用の足場材料に好適である。
また本発明の血管再生材料は、空気透過率の高い外層を有し、空間体積が大きい外膜を有する血管組織の構造に類似している。そのため該血管再生材料は、細胞の浸潤性に優れ血管組織の再生に適している。
また本発明の血管再生材料は、細胞浸潤性の低い内層を有するので、内層に播種した細胞は、血管組織の内皮細胞に類似した密な薄い層に覆われた構造を有する。従って本発明の血管再生材料は再生医療における血管治療用材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳述する。
<血管再生材料>
本発明の血管再生材料は、同心円状の内層、中間層および外層の3層からなる。各層の厚みは、好ましくは30〜500μmであり、より好ましくは50〜250μmである。各層は、脂肪族ポリエステル繊維が血管再生材料の軸を中心として、渦巻き状に巻き付けられたものが好ましい。
血管再生材料を構成する脂肪族ポリエステル繊維の平均繊維径は、0.05〜10μm、好ましくは0.2〜10μmである。平均繊維径が、0.05μmよりも小さいと血管再生材料の強度が保てないため好ましくない。また平均繊維径が10μmを超えると繊維の比表面積が小さく生着する細胞数が少なくなるため好ましくない。平均繊維径は、光学顕微鏡による画像から20箇所の繊維径の測定値の平均である。
本発明の血管再生材料の断面の一例を図2に示す。図2は説明のための略図であり、本発明の血管再生材料の外面、内面には不規則な凹凸が存在する。本発明の血管再生材料は外径(11)が、0.5〜50mm、好ましくは1〜30mmである。外径はマイクロメーターにより10箇所測定を行い、測定値の最小値と最大値の範囲で表す。血管再生材料の内部は中空であり、中空部の内径(15)は、好ましくは0.1〜45mm、より好ましくは0.5〜25mmである。内径は、測定された外径の値と厚みの値との差である。
【0010】
本発明の血管再生材料は、厚み(14)が200〜5,000μm、好ましくは200〜2,000μmである。厚みが200μmより薄いと機械強度が低く、血管など負荷の高い組織の再生材料としては好ましくない。厚みは血管再生材料を切り開き、長さ5cm、幅1cmの試料を調製し、マイクロメーターにより10箇所測定を行った際の、測定値の最小値と最大値の範囲で表す。
血管再生材料の引張弾性率は、好ましくは0.1〜10MPa、より好ましくは0.2〜2.5MPaの範囲である。実際の人体の動脈血管の引張り弾性率は2MPaであるためである(臨床工学ライブラリーシリーズ2,P54(秀潤社)、生体物性/医用機械工学 池田研二、嶋津秀照著)。0.1MPaより低いと血液による負荷に耐えられず、破損する場合がある。また引張り弾性率が10MPaより高いと、移植した際、コンプライアンスミスマッチが起こる場合がある。引張弾性率は、血管再生材料を切り開き、軸方向に5cm、円周方向に1cmの試料を作製し、軸方向に引張試験を行うことにより求める。
【0011】
また本発明の血管再生材料の弾性回復率は、70〜100%であることが好ましい。70%未満であると血液による負荷に耐えられず、破損する可能性がある。よって、引張弾性率が0.1〜10MPa、弾性回復率が70〜100%である血管再生材料が好ましい。弾性回復率は、以下の式により算出した値である。
[L−(L30−L)]/L×100(%)
:血管再生材料の長さ(mm)
30:血管再生材料の長さに対し10%変位の引張り処理を30回行った後の血管再生材料の長さ(mm)
【0012】
また血管再生材料は、外層の空気透過率が30cm/cm・s以上、好ましくは70〜250cm/cm・s、より好ましくは70〜200cm/cm・sである。外層の空気透過率が30cm/cm・s以上であると細胞の浸潤性が高く血管再生用の足場材料として好ましい。外層の空気透過率の上限は実質250cm/cm・sである。外層の空気透過率は、差圧125Pa、厚み100μmに換算した空気透過量で表され、JIS−L1096、JIS−R3420に従い測定した値である。
血管再生材料は、軸方向に連続する山部(9)および谷部(10)を有する蛇腹状の血管再生材料であり、山部の間隔(12)が2mm以下であり、谷部の深さ(13)が0.1〜10mmであることが好ましい。蛇腹状の血管再生材料の断面略図を図3に示す。山部の間隔(12)が2mmより長いと血管再生材料の伸縮性が十分でない。山部、および谷部の間隔は、光学顕微鏡により10箇所測定を行い、測定値の最大値と最小値との範囲で表す。図3は説明のための略図である。血管再生材料の蛇腹部の構造は規則的であっても不規則であっても良い。製法によっては血管再生材料の蛇腹部の構造は不規則であり、山部の高さ、谷部の深さ、およびこれらの間隔は一定ではない。
【0013】
血管再生材料の各層を構成する脂肪族ポリエステルの組成により、細胞浸潤性を制御することが可能である。例えば、グリコール酸由来の繰り返し単位を含有する重合体では細胞との親和性が高く細胞浸潤性が高まる。一方、乳酸単独の重合体では細胞が表面に接着するものの、血管再生材料内部への細胞の浸潤性は低くなる。従って、高い細胞生着が求められる外層ではグリコール酸由来の繰り返し単位を含有するものが好ましく、内層では一層の内皮細胞層を形成することが望まれるため、乳酸由来の繰り返し単位を含有するものが好ましい。従って、内層、中間層、外層の脂肪族ポリエステルは以下のものが好ましい。
【0014】
血管の内膜は、一層の内皮細胞層に覆われた密な構造を有し、物質の選択的な透過をコントロールしている。よって、血管再生材料の内層は、血管組織と同様に一層の内皮細胞層に覆われた構造を有することが好ましい。血管再生材料の最内層にグリコール酸由来の繰り返し単位が含まれると、細胞浸潤性が高まるため一層の内皮細胞構造が構築され難く好ましくない。
そのため、内層を構成する脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸(PLA)と、50〜90モル%の乳酸由来の繰り返し単位および10〜50モル%のカプロラクトン由来の繰り返し単位からなる共重合体(PLCA)とを含有し、前者の含有量が40〜100重量%で、後者の含有量が0〜60重量%である。PLCAは、60〜90モル%の乳酸由来の繰り返し単位および10〜40モル%のカプロラクトン由来の繰り返し単位からなることが好ましい。PLAとPLCAとは、前者の含有量が50〜90重量%で、後者の含有量が10〜50重量%であることが好ましい。
【0015】
中間層を構成する脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、トリメチレンカーボネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートおよびこれらを構成するモノマーの共重合体などであることが好ましい。これらのうち、乳酸、グリコール酸およびカプロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも一種のモノマーの重合体であることが好ましい。血管の中膜は、弾性機能を担っている。そのため血管再生材料の中間層は、弾性を有する50〜90モル%の乳酸と10〜50モル%のカプロラクトンとの共重合体(PLCA)であることが特に好ましい。
【0016】
外層を構成する脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリトリメチレンカーボネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートおよびこれらを構成するモノマーの共重合体などであることが好ましい。これらのうち、乳酸、グリコール酸およびカプロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも一種のモノマーの重合体であることが好ましい。
【0017】
血管の外膜は、血管の外から栄養分を取るため疎な構造を有し、高い空気透過率を有し、胞浸潤性に優れている。よって、血管再生材料の外層は、細胞の生着性を向上させるため、グリコール酸由来の繰り返し単位を含むことが好ましい。グリコール酸由来の繰り返し単位を含む共重合体としては、乳酸とグリコール酸との共重合体(PLGA)が挙げられる。該共重合体は、好ましくは20〜80モル%、より好ましくは40〜80モル%の乳酸由来の繰り返し単位および好ましくは20〜80モル%、より好ましくは20〜60モル%のグリコール酸由来の繰り返し単位からなる。外層には、乳酸とカプロラクトンとの共重合体を含有していてもよい。該共重合体は、50〜90モル%の乳酸由来の繰り返し単位および10〜50モル%のカプロラクトン由来の繰り返し単位からなることが好ましい。
また外層は、乳酸とグリコール酸との共重合体、および乳酸とカプロラクトンとの共重合体からなる組成物であることが好ましい。組成物中の前者の含有量は好ましくは50〜90重量%、後者の含有量は好ましくは10〜50重量%である。前者は、20〜80モル%の乳酸由来の繰り返し単位および20〜80モル%のグリコール酸由来の繰り返し単位からなることが好ましい。後者は、50〜90モル%の乳酸由来の繰り返し単位および10〜50モル%のカプロラクトン由来の繰り返し単位からなることが好ましい。
【0018】
本発明の血管再生材料には、脂肪族ポリエステル中に他の成分をさらに含有しても良い。該成分としては、リン脂質類、糖質類、糖脂質類、ステロイド類、ポリアミノ酸類、タンパク質類、およびポリオキシアルキレン類からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。具体的な第2成分としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールなどのリン脂質類および/またはポリガラクチュロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン、デキストラン硫酸、硫酸化セルロース、アルギン酸、デキストラン、カルボキシメチルキチン、ガラクトマンナン、アラビアガム、トラガントガム、ジェランガム、硫酸化ジェラン、カラヤガム、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、カードラン、プルラン、セルロース、デンプン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、グルコマンナン、キチン、キトサン、キシログルカン、レンチナンなどの糖質類および/またはガラクトセレブロシド、グルコセレブロシド、グロボシド、ラクトシルセラミド、トリヘキソシルセラミド、パラグロボシド、ガラクトシルジアシルグリセロール、スルホキノボシルジアシルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、グリコシルポリプレノールリン酸などの糖脂質類および/またはコレステロール、コール酸、サポゲニン、ジギトキシンなどのステロイド類および/またはポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリジンなどのポリアミノ酸類および/またはコラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、フィブリン、ラミニン、カゼイン、ケラチン、セリシン、トロンビンなどのタンパク質類および/またはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンエーテルなどのポリオキシアルキレン類、FGF(線維芽細胞増殖因子)、EGF(上皮増殖因子)、PDGF(血小板由来増殖因子)、TGF−β(β型形質転換増殖因子)、NGF(神経増殖因子)、HGF(肝細胞増殖因子)、BMP(骨形成因子)などの細胞増殖因子などが挙げられる。
【0019】
細胞は、血管細胞、血管前駆細胞および骨髄由来細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。血管細胞は、血管内皮細胞、平滑筋細胞および線維芽細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。細胞の継代数は、好ましくは5以下である。継代数が5を越えた細胞は脱分化が進んでいる可能性があるため好ましくない。
細胞は、繊維表面に付着し、血管再生材料中に包含される。播種密度は、好ましくは10〜10個/cm、より好ましくは10〜10個/cmである。本発明の血管再生材料は、内層に含有された細胞の総数を100%としたとき、少なくとも50%の細胞が、内層表面から30μmまでに存在することが好ましい。
【0020】
<血管再生材料の製造>
本発明の血管再生材料は、(i) ポリ乳酸(PLA)と、50〜90モル%の乳酸由来の繰り返し単位および10〜50モル%のカプロラクトン由来の繰り返し単位からなる共重合体(PLCA)とを含有し、前者の含有量が40〜100重量%で、後者の含有量が0〜60重量%である脂肪族ポリエステルおよび揮発性溶媒を含有するドープを静電紡糸法にて紡糸し、得られた繊維をコレクタ上に巻き取り内層を形成する工程、
(ii) 脂肪族ポリエステルおよび揮発性溶媒を含有するドープを静電紡糸法にて紡糸し、得られた繊維を内層上に巻き取り中間層を形成する工程、並びに
(iii) 脂肪族ポリエステルおよび揮発性溶媒を含有するドープを静電紡糸法にて紡糸し、得られた繊維を中間層上に巻き取り外層を形成する工程、
により製造することができる。
【0021】
工程(i)は、脂肪族ポリエステルおよび揮発性溶媒を含有するドープを静電紡糸法にて紡糸し、得られた繊維をコレクタ上に巻き取り内層を形成する工程である。
【0022】
脂肪族ポリエステルは血管再生材料の項で説明した通りである。揮発性溶媒は、脂肪族ポリエステルを溶解し、常圧で沸点が200℃以下であり、室温で液体である物質である。具体的には、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、トルエン、テトラヒドロフラン、1,1,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール、水、1,4−ジオキサン、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリルなどが挙げられる。これらのうち、脂肪族ポリエステルの溶解性等から、塩化メチレン、クロロホルム、アセトンが特に好ましい。これらの溶媒は単独で用いても良く、複数の溶媒を組み合わせても良い。また本発明においては、本目的を損なわない範囲で他の溶媒を併用しても良い。
【0023】
ドープ中の脂肪族ポリエステルの濃度は、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは2〜20重量%である。脂肪族ポリエステルの濃度が1重量%より低いと、濃度が低すぎるため繊維を形成することが困難となり好ましくない。また、30重量%より高いと得られる繊維の繊維径が大きくなり好ましくない。
【0024】
静電紡糸法とは、脂肪族ポリエステルおよび揮発性溶媒を含有するドープを電極間で形成された静電場中に吐出し、ドープを電極に向けて曵糸することにより、繊維状物質をコレクタに巻き付け、血管再生材料を製造する方法である。繊維状物質とは既に溶液の溶媒が留去され、繊維状物質となっている状態のみならず、いまだ溶液の溶媒を含んでいる状態も含む。
静電紡糸法は、例えば図1に示す装置を用いて行うことができる。図1は、ノズル(1)を有する保持槽(3)中に吐出側電極(4)を挿入した装置である。この装置はさらに捕集側電極(5)、高電圧発生器(6)、コレクタ(7)および静電除去器(8)を有する。吐出側電極(4)と捕集側電極(5)との間には、高電圧発生器(6)により所定の電圧が付与される。図1に示す装置において、ドープ(2)を保持槽(3)に充填し、ノズル(1)を通じて静電場中に吐出させ、電界によって曳糸して繊維化させ、コレクタ(7)に集めることにより血管再生材料を得ることができる。静電気除去器(8)を用いることにより外層の空気透過率を高めることができる。
【0025】
電極は、吐出側電極(4)と捕集側電極(5)とからなる。これらの電極は、金属、無機物または有機物のいかなるものでも導電性を示しさえすれば良い。また、絶縁物上に導電性を示す金属、無機物または有機物の薄膜を持つものであっても良い。静電場は一対または複数の電極間で形成されており、いずれの電極に高電圧を印加しても良い。これは例えば電圧値が異なる高電圧の電極が2つ(例えば15kVと10kV)と、アースにつながった電極の合計3つの電極を用いる場合も含み、または3本を超える数の電極を使う場合も含む。
ドープをコレクタ(7)に向けて曳糸する間に、条件に応じて溶媒が蒸発して繊維状物質が形成される。通常の室温であればコレクタ(7)に捕集されるまでの間に溶媒は完全に蒸発するが、もし溶媒蒸発が不十分な場合は減圧条件下で曳糸しても良い。
コレクタ(7)として鏡面仕上げされていない心棒を用いると、血管再生材料を簡便に製造することが出来る。静電紡糸法により心棒上に血管再生材料を形成する際、心棒を円周方向に回転させることが好ましい。コレクタ(7)を回転させることにより、均質な厚さの円筒体を形成することができる。回転の速度は好ましくは1〜1,000rpm、より好ましくは5〜200rpmである。
電極間の距離は、帯電量、ノズル寸法、ドープ吐出量、ドープ濃度等に依存するが、10kV程度のときには5〜20cmの距離が適当である。また、印加される静電気電位は、好ましくは3〜100kV、より好ましくは5〜50kV、さらに好ましくは5〜30kVである。
ドープをノズルから静電場中に供給する場合、数個のノズルを用いて繊維状物質の生産速度を上げることもできる。ノズルの内径は好ましくは0.1〜5mm、より好ましくは0.1〜2mmである。曳糸する温度は溶媒の蒸発挙動や紡糸液の粘度に依存するが、通常は、0〜50℃である。
【0026】
工程(ii)は、工程(i)で形成された内層の上に、工程(i)と相違する脂肪族ポリエステルを積層する以外は、工程(i)と同じである。工程(iii)は、工程(ii)で形成された中間層の上に、工程(ii)と相違する脂肪族ポリエステルを積層する以外は、工程(ii)と同じである。
外層を形成した後、血管細胞、血管前駆細胞および骨髄由来細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種類の細胞を播種することが好ましい。播種密度は、好ましくは10〜10個/cm、より好ましくは10〜10個/cmである。細胞の播種は、細胞を含有する培養液中で、血管再生材料を回転させることにより行うことができる。
【0027】
(蛇腹構造)
本発明によれば、血管再生材料を伸長させることにより弾性回復率を損なわずに蛇腹構造を有する血管再生材料を得ることができる。伸長率としては50〜300%が好ましい。ここで50%伸長とは、10cmのものを15cmに伸長させることをいう。十分な弾性回復率を有する血管再生材料を得るために50%以上伸長させることが好ましい。また300%を超えて伸長させると血管再生材料自体が破断する場合がある。心棒から血管再生材料を取り外し、血管再生材料の両端を固定し伸長させることで、山部の間隔が2mm以下であり谷部の深さが0.1〜10mmの蛇腹構造を有する血管再生材料を得ることができる。蛇腹構造を有する血管再生材料の断面略図を図3に示す。
コレクタ(7)から血管再生材料を取り外すとき、血管再生材料の一端のみに応力をかけ蛇腹構造を得ることができる。即ち、血管再生材料の一端を固定しておき、コレクタ(7)をその固定端の方向に引き抜くことで、一端のみに応力をかけ、蛇腹構造を得ることができる。山部の間隔および谷部の深さは、例えば、デジタルマイクロスコープ(株式会社KEYENCE、VHX DIGITAL MICROSCOPE)により、それぞれ図3の(12)および(13)で示す長さを10箇所程度測定し、範囲を求めることができる。
【実施例】
【0028】
以下の実施例により本発明を具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(1)実施例に使用した材料は以下の通りである。
【0029】
(i)PLGA(50/50、IV=0.6):乳酸(50モル%)−グリコール酸(50モル%)共重合体、固有粘度(以下IV)=0.6dL/g(HFIP中、30℃)、Birmingham Polymers社製、
(ii)PLGA(50/50、IV=1.08):乳酸(50モル%)−グリコール酸(50モル%)共重合体、IV=1.08dL/g(HFIP中、30℃)、Absorbable Polymers International社製、
(iii)PLA:乳酸重合体、島津製作所(株)製、
(iv)PLCA(77/23):乳酸(77モル%)−カプロラクトン(23モル%)共重合体、Mw=2.5×10、多木化学(株)製、
(v)塩化メチレン、エタノール、マイヤーヘマトキシリン溶液:和光純薬工業(株)製、
(vi)正常ブタ大動脈内皮細胞:APPLICATIONS社製、
(vii)FBS(ウシ胎児血清):HYCLONE社製、
(viii)DMEM、PBS:Invitrogen社製、
(ix)Tissue-Tek OCT compound、エオジン溶液:サクラファインテックジャパン(株)製、
(x)7.5%中性ホルムアルデヒド溶液(pH7.2):シグマアルドリッチジャパン(株)製、
(xi)AQUATEX:Merck社製
【0030】
(2)血管再生材料の物性は以下の方法により測定した。
(i)平均繊維径:デジタルマイクロスコープ(株式会社KEYENCE、VHX DIGITAL MICROSCOPE)により20箇所測定を行い、その平均値を平均繊維径とした。
(ii)外径:マイクロメーター(株式会社ミツトヨ)により10箇所測定を行い、測定値の最小値と最大値との範囲を外径とした。
(iii)厚み:血管再生材料を切り開き、長さ5cm、幅1cmの試料を調製し、マイクロメーターにより10箇所測定を行い、測定値の最小値と最大値との範囲を厚みとした。
(iv)内径:測定された外径の値と厚みの値との差より求めた。
(v)引張弾性率:血管再生材料を切り開き、血管再生材料の軸方向に5cm、円周方向に1cmの試料を作製し、血管再生材料の軸方向に張力をかけテンシロン(EZ TEST:島津製作所)により引張試験を行った。
(vi)弾性回復率:血管再生材料を切り開き、血管再生材料の軸方向に5cm、円周方向に1cmの試料を作製し、血管再生材料の軸方向に張力をかけ、LおよびL30を求め、以下の式により算出した。
[L−(L30−L)]/L×100(%)
:血管再生材料の長さ(mm)
30:血管再生材料の長さに対し10%変位の引張り処理を30回行った後の血管再生材料の長さ(mm)
【0031】
(vii)外層の空気透過率:血管再生材料を切り開き外層のみを剥がし、5cm×5cmになるように形状を整え、フラジール・パーミヤメータ((株)東洋精機製作所)を用いて、JIS-L1096、JIS-R3420に従い空気透過率(cm/cm・s)を測定し、厚み100μmにおける空気透過率に換算した。
【0032】
<参考例1>(ドープの調製)
(ドープAの調製)
PLGA(50/50、IV=0.6)0.8g、PLCA(77/23)0.2g、塩化メチレン/エタノール=8/1(重量部/重量部)9gを室温(25℃)で混合し濃度10重量%のドープAを調製した。
(ドープBの調製)
PLCA(77/23)1g、塩化メチレン/エタノール=8/1(重量部/重量部)9gを室温(25℃)で混合し濃度10重量%のドープBを調製した。
(ドープCの調製)
PLGA(50/50、IV=1.08)0.8g、PLCA(77/23)0.2g、塩化メチレン/エタノール=8/1(重量部/重量部)9gを室温(25℃)で混合し濃度10重量%のドープCを調製した。
(ドープDの調製)
PLA0.8g、PLCA(77/23)0.2g、塩化メチレン/エタノール=8/1(重量部/重量部)9gを室温(25℃)で混合し濃度10重量%のドープDを調製した。
(ドープEの調製)
PLA0.5g、PLCA(77/23)0.5g、塩化メチレン/エタノール=8/1(重量部/重量部)9gを室温(25℃)で混合し濃度10重量%のドープEを調製した。表1にドープA〜Eに含有された脂肪族ポリエステルの組成を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
<実施例1>(D/B/A)
(血管再生材料の製造)
図1に示す装置を組み立てた。ノズル(1)の内径は0.8mmとした。ノズル(1)から捕集電極(5)までの距離は10cmに設定した。捕集側電極(5)として、外径4mm、長さ20cmのステンレス棒を用いた。ノズル(1)と捕集側電極(5)との間に、コレクタ(7)および静電除去器(8)を設置した。
(内層の形成)
ドープDを保持槽(3)に入れ、ドープDを捕集側電極(5)に向けて5分間吐出し、内層を形成した。吐出側電極(4)と捕集側電極(5)との電圧は14kVに設定した。コレクタ(7)は100rpmで回転させながら捕集した。このとき、静電除去器(8)は使用しなかった。内層の厚みは60〜80μmであった。内層を構成する繊維の平均繊維径は6μmであった。
(中間層の形成)
さらに、ドープDの代わりにドープBを保持槽(3)に入れ、5分間吐出し、中間層を形成した。このとき、静電除去器(8)は使用しなかった。中間層の厚みは60〜80μmであった。中間層を構成する繊維の平均繊維径は4μmであった。
(外層の形成)
次に、ドープBの代わりにドープAを保持槽(3)に入れ、5分間吐出し、外層を形成し血管再生材料を得た。このとき、静電除去器(8)を使用した。外層の厚みは60〜80μmであった。外層を構成する繊維の平均繊維径は6μmであった。得られた血管再生材料は、長さ10cm、外径4.4〜4.5mm、厚み200〜240μmであった。血管再生材料の引張弾性率は、1.17MPa、弾性回復率は97.3%、空気透過率は149cm3/cm2・sであった。
【0035】
(ヒト臍帯静脈内皮細胞の播種)
得られた円柱状の血管再生材料の内部に一方の端部から細胞懸濁液を注入し、細胞を播種した。細胞懸濁液は、血管再生材料の内径と長さから播種密度が1×10cells/cmとなるように細胞数を調整しておいた。注入は、血管再生材料を垂直にし、下から上に向かって注入することにより行った。上側まで細胞懸濁液面が上がってきた時点で注入を止めた。
注入後、血管再生材料の両端(注入側、反対側)に一方向弁付きの栓を取り付けた後、培地入りの円筒状の培養容器内に固定した。培養容器をウェーブローター(株式会社サーモニクス)に置き37℃で約3−6回/分で、約4−6時間回転させながら培養を行った。その後、栓は開放し静地で培養を継続した。培養後の担体断面のHE染色像を図4に示す。なお、HE染色法は実施例3に示す通りである。図4によれば、血管再生材料の内層の中空部側に細胞層が形成されているのが分かる。
【0036】
<実施例2>(E/B/A)
内層をドープEを用いて形成する以外は実施例1と同じ方法で血管再生材料を得た。血管再生材料の物性を表2に示す。その後、実施例1と同じ方法で細胞を播種した。
【0037】
<比較例1>(A/B/A)
内層をドープAを用いて形成する以外は実施例1と同じ方法で血管再生材料を得た。血管再生材料の物性を表2に示す。その後、実施例1と同じ方法で細胞を播種した。
【0038】
<比較例2>(C/B/A)
内層をドープCを用いて形成する以外は実施例1と同じ方法で血管再生材料を得た。血管再生材料の物性を表2に示す。その後、実施例1と同じ方法で細胞を播種した。
【0039】
<実施例3>(細胞浸潤性の評価)
実施例1の血管再生材料の細胞浸潤性を以下の方法で評価した。
(血管内皮細胞培養)
実施例1で外層を形成する前の内層(a)および中間層(b)からなる血管再生材料をシート状に切り開き、直径17mmの円形に切り取った。内層上に正常ブタ大動脈内皮細胞を1×10個/cmの密度で播種し、10%FBSを含む培養液(DMEM)を用いて5%CO、37℃の環境下で7日間培養した。
(凍結切片作製)
培養後のシートをPBSを用いて洗浄後、Tissue-Tek OCT compound内に包埋し、液体窒素を用いて凍結した。この試料からクライオスタット(ライカマイクロシステムズ(株)社製、CM1800)を用いて厚さ5μmの凍結縦切片を作製し、スライドグラス(Polyscience社製、Tissue Tack Microscope Slides)に貼り付け、室温で一晩静置することにより自然乾燥させた。
(HE染色)
上記手順により作製した標本を7.5%中性ホルムアルデヒド溶液に10分間浸すことにより固定した。水道水で洗浄後、マイヤーヘマトキシリン溶液に5分間浸すことにより核を染色した。水道水に15分間浸した後、エオジン溶液に3分間浸すことにより細胞質を染色した。水道水で洗浄後、余分な水分を取り除き乾燥後、封入剤AQUATEXを用いてカバーグラス(松浪硝子工業(株)製)内に封入した。
(評価)
染色後の標本を光学顕微鏡(OLYMPUS(株)製、BX51)を用いて観察し、細胞が内層表面に接着している様子および内層内部に浸潤している様子を確認した。その結果、内層(a)の無作為に抽出した幅1mm範囲内に存在する全細胞のうち、67%の細胞が内層表面(c)から30μmまでに分布していた。その顕微鏡写真を図5に示す。
【0040】
<実施例4>(細胞浸潤性の評価)
実施例2の血管再生材料の細胞浸潤性を実施例3と同じ方法で評価した。その結果、内層の(a)無作為に抽出した幅1mm範囲内に存在する全細胞のうち、68%の細胞が内層表面(c)から30μmまでに分布していた。
【0041】
<比較例3>(細胞浸潤性の評価)
比較例1の血管再生材料の細胞浸潤性を実施例3と同じ方法で評価した。その結果、内層(a)の無作為に抽出した幅1mm範囲内に存在する全細胞のうち、39%の細胞が内層表面(c)から30μmまでに分布していた。その顕微鏡写真を図6に示す。
【0042】
<比較例4>(細胞浸潤性の評価)
比較例2の血管再生材料の細胞浸潤性を実施例3と同じ方法で評価した。その結果、内層(a)の無作為に抽出した幅1mm範囲内に存在する全細胞のうち、41%の細胞が内層表面(c)から30μmまでに分布していた。
【0043】
細胞浸潤性の評価から分かるように、内層(a)の組成により細胞浸潤性に差が認められる。即ち、グリコール酸由来の繰り返し単位を含有しない内層(a)を有する実施例1および2の血管再生材料は、グリコール酸由来の繰り返し単位を含有する内層(a)を有する比較例1および2の血管再生材料に比べ、細胞浸潤性が有意に抑えられ、表面付近に細胞が局在し、血管内腔に類似の内皮細胞構造を構築することができる。
【0044】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の血管再生材料は血管組織に類似した構造および物理特性を示すため、再生医療における血管治療用材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】静電紡糸法で用いる装置の一例である。
【図2】本発明の血管再生材料の断面の説明図である。
【図3】蛇腹状の血管再生材料の断面の説明図である。
【図4】実施例1で得られた血管再生材料にヒト臍帯静脈内皮細胞を播種し培養後のHE染色像である。
【図5】実施例3において細胞浸潤性を評価した顕微鏡写真である。
【図6】比較例3において細胞浸潤性を評価した顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0047】
1. ノズル
2. ドープ
3. 保持槽
4. 吐出側電極
5. 捕集側電極
6. 高電圧発生器
7. コレクタ
8. 静電除去器
9. 山部
10. 谷部
11. 外径
12. 山部の間隔
13. 谷部の深さ
14. 厚み
15. 内径
a. 内層
b. 中間層
c. 内層表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心円状の内層、中間層および外層からなる中空の円筒状であり、各層は、平均繊維径が0.05〜10μmの脂肪族ポリエステルの繊維からなり、内層を構成する脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸(PLA)と、50〜90モル%の乳酸由来の繰り返し単位および10〜50モル%のカプロラクトン由来の繰り返し単位からなる共重合体(PLCA)とを含有し、前者の含有量が40〜100重量%で、後者の含有量が0〜60重量%である血管再生材料。
【請求項2】
外層、中間層またはこれらの双方を構成する脂肪族ポリエステルは、乳酸、グリコール酸およびカプロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマーの重合体である請求項1記載の血管再生材料。
【請求項3】
各層は、脂肪族ポリエステル繊維が円筒の軸を中心として、渦巻き状に巻き付けられたものである請求項1記載の血管再生材料。
【請求項4】
内層、中間層および外層の厚みがそれぞれ30〜500μmである請求項1記載の血管再生材料。
【請求項5】
外層の、差圧125Paにおける厚み100μm換算した空気透過率が30cm/cm・s以上である請求項1記載の血管再生材料。
【請求項6】
引張弾性率が、0.1〜10MPa、弾性回復率が70〜100%である請求項1記載の血管再生材料。
【請求項7】
さらに、血管細胞、血管前駆細胞および骨髄由来細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞を含有する請求項1記載の血管再生材料。
【請求項8】
血管細胞が、血管内皮細胞、平滑筋細胞および線維芽細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項7記載の血管再生材料。
【請求項9】
内層に含有された細胞の総数を100%としたとき、少なくとも50%の細胞が、内層表面から30μmまでに存在する請求項7記載の血管再生材料。
【請求項10】
同心円状の内層、中間層および外層からなる中空の円筒状であり、各層は、平均繊維径が0.05〜10μmの脂肪族ポリエステルの繊維からなる血管再生材料を製造する方法であって、
(i) ポリ乳酸(PLA)と、50〜90モル%の乳酸由来の繰り返し単位および10〜50モル%のカプロラクトン由来の繰り返し単位からなる共重合体(PLCA)とを含有し、前者の含有量が40〜100重量%で、後者の含有量が0〜60重量%である脂肪族ポリエステルおよび揮発性溶媒を含有するドープを静電紡糸法にて紡糸し、得られた繊維をコレクタ上に巻き取り内層を形成する工程、
(ii) 脂肪族ポリエステルおよび揮発性溶媒を含有するドープを静電紡糸法にて紡糸し、得られた繊維を内層上に巻き取り中間層を形成する工程、並びに
(iii) 脂肪族ポリエステルおよび揮発性溶媒を含有するドープを静電紡糸法にて紡糸し、得られた繊維を中間層上に巻き取り外層を形成する工程、
を含む血管再生材料の製造方法。
【請求項11】
外層を形成した後、血管細胞、血管前駆細胞および骨髄由来細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種類の細胞を播種する工程を含む請求項10記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−307132(P2007−307132A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−139069(P2006−139069)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】