血管形成を減少させるためのクラスIIIのSLRPのアゴニスト
本発明は、血管形成を阻害するための医薬の製造における、クラスIIIのSLRPの活性を促進する作用物質の使用に関する。加えて、本発明は、単球及び/又はマクロファージの過剰な活性及び/又は遊走によって特徴付けられる病気を予防及び/又は治療するための医薬の製造における、クラスIIIのSLRPの活性を促進する作用物質の使用に関する。適切な作用物質としては、オプチシンなどのクラスIIIのSLRPが挙げられる。クラスIIIのSLRPの活性を促進できる作用物質を使用する治療方法も提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たな血管形成を減少させるための医薬品、並びに過剰な血管形成によって特徴付けられる病気を治療及び/又は予防するための医薬品に関する。更に本発明は、単球及び/又はマクロファージの過剰な活性及び/又は遊走によって特徴付けられる病気を予防及び/又は治療するための医薬品を提供する。
【背景技術】
【0002】
新たな血管の形成は、主に血管新生(angiogenesis)(既存の血管から生長する出芽)及びin situ血管発生(vasculogenesis)(前駆細胞の血管網への分化)の結果として起こる。多くの場合において、新たな血管形成は、発生又は損傷した組織に酸素及び栄養を供給するのに重要な役割を果たしているが、新たな血管形成に関連する数多くの病理状態も存在する。
新たな血管形成に関連する疾患の例としては、癌(新たな血管の発生が腫瘍の成長及び転移に付随する)、血管増殖性網膜症、例えば増殖性糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、鎌状赤血球網膜症、‘湿潤型(wet)’黄斑変性症及び他の形態の脈絡膜新生血管、乾癬、並びに関節炎のような多数の炎症性症状が挙げられる。
眼が病理的な新生血管(vascularisation)の増加を受ける血管増殖性網膜症は、西側諸国では視力障害及び失明の主要原因のひとつを構成している。増殖性糖尿病性網膜症は、硝子体出血、網膜剥離、血管新生緑内障、また結果として生じる視覚障害によって特徴付けられる。
単球及び/又はマクロファージの過剰な活性及び/又は遊走は、病理的な血管新生の過程の一部であり、それに加えて数多くの炎症性症状に関連している。そのような症状の例としては、敗血性ショック、糸球体腎炎、炎症性腸疾患及び慢性関節リウマチが挙げられる。単球/マクロファージ系統の細胞の過剰な活性及び/又は遊走は、そのような病気に関連する悪影響の多くを引き起こす。例えば、慢性関節リウマチでは、マクロファージの活性が、疾患に付随する関節組織及び骨の破壊に対して主要な寄与者となる。
新たな血管形成が望ましくないと考えられ得る事情の数に起因して、血管形成を阻害し得る新たな作用物質の必要性が依然として存在している。
また、単球及び/又はマクロファージの過剰な活性及び/又は遊走に関連する病状を予防及び/又は治療できる作用物質の必要性も、依然として存在している。
【発明の開示】
【0003】
本発明の第一の観点によると、血管形成を阻害するための医薬の製造における、クラスIIIのスモールロイシンリッチリピートタンパク質/プロテオグリカン(クラスIIIのSLRP)の活性を促進する作用物質の使用が提供される。
本発明の第二の観点によると、単球及び/又はマクロファージの過剰な活性及び/又は遊走によって特徴付けられる病状を予防及び/又は治療するための医薬の製造における、クラスIIIのスモールロイシンリッチリピートタンパク質/プロテオグリカン(クラスIIIのSLRP)の活性を促進する作用物質の使用が提供される。
本出願で用いられる「クラスIIIのSLRPの活性を促進する作用物質」という用語は、クラスIIIのSLRPそれ自体、クラスIIIのSLRPの生物学的に活性な断片、クラスIIIのSLRPの誘導体、及びクラスIIIのSLRPの活性を模倣する作用物質をも包含する。
「単球及び/又はマクロファージ」に対する参照は、文脈がそうでないと指示する箇所を除いて、単球/マクロファージの細胞系統に由来する全ての種類の細胞を包含するものと解釈されるべきである。
本発明者らは、オプチシン(opticin)(硝子体液中の原繊維に関連して最初に同定されたクラスIIIのSLRPであり、オキュログリカン(oculoglycan)としても知られている)、エピフィカン(epiphycan)、ミメカン(mimecan)(オステオグリシン(osteoglycin)としても知られている)などのクラスIIIのスモールロイシンリッチリピートタンパク質/プロテオグリカン(SLRP)ファミリーが新たな血管形成を阻害できるということを発見した。
オプチシン(ヒト及びウシの両方の形態)、エピフィカン及びミメカンのアミノ酸配列が図1に示されている。この図は、アミノ酸配列のアラインメントも示しており、クラスIIIのSLRPファミリーの異なるメンバー間の高度な類似性を図示している。
図2は、マトリックスメタロプロテイナーゼ2又は9(MMP-2又はMMP-9)によるクラスIIIのSLRPであるオプチシンの切断によって放出された、生物学的に活性な断片を(パネル2aで)図示している。パネル2bは、抗血管新生活性と単球/マクロファージに作用する能力とにとって好ましい、ヒト及びウシのオプチシンのNH末端領域内に由来するペプチド配列を示している。これらの配列は種間で高度に保存されており、この高度な保存は、前記配列の生物学的な機能を示している。図2のパネル2cは、異なる種(ウシ、イヌ、ヒト及びマウス)に由来するオプチシンのNH末端領域のアミノ酸残基のアラインメントを図示している。
【0004】
新たな血管形成に対する作用に加えて、本発明者らは、クラスIIIのSLRPが単球及びマクロファージの活性及び遊走を阻害することも見出した。これら両方の知見を確立するために行った研究は、実施例及び添付図面においてより詳細に説明されている。
クラスIIIのSLRP、クラスIIIのSLRPの改変型、及びこれらの生物学的に活性な断片は、in vitro及びin vivoで新たな血管形成を阻害することができる。どのような仮説によっても拘束されることを望まないが、クラスIIIのSLRPが、酸性繊維芽細胞増殖因子(aFGF又はFGF-1)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF又はFGF-2)及び血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などの血管新生増殖因子に応答して、培養された血管内皮細胞の増殖及び再構成(re-arrangement)を阻害すると考えられる。これらの因子は、新たな血管形成を刺激できる増殖因子の中でも最もよく知られ且つ最も強力なものである。
本発明者らはクラスIIIのSLRPがVEGF165及びFGF-2などの増殖因子に結合できることを示しており、その結合が結合された増殖因子を隔離し、従って結合された増殖因子と対応する受容体(VEGF-R2及びFGF-R1など)との相互作用が阻害され得ると考えられる。そのうえ、本発明者らはオプチシンなどのクラスIIIのSLRPが増殖因子受容体それ自体に結合できることを示しており、その結合と、結果生じる前記受容体由来の細胞内シグナル伝達の減少とは、クラスIIIのSLRP分子の抗血管新生作用に対して更に寄与し得ると考えられる。
VEGF-R1及びFGF-R2は血管新生において重要な受容体であり、更に、他の重要な生物学的活性を媒介する。特に、VEGF-R1は単球及びマクロファージの細胞遊走を調節することが知られている。クラスIIIのSLRPのVEGF-R1への結合は、単球/マクロファージの活性及び/又は遊走を阻害するこのような作用物質の能力を担うことができ、従って本発明の第二の観点の使用に適する作用物質を表すと考えられる。
先の段落で考察した結果を考慮すると、本発明に従って用いられる作用物質が、血管新生増殖因子又はそれらの受容体に結合する能力と、血管新生増殖因子受容体によって行われる細胞内シグナル伝達を阻害する能力とについて選択され得ることを、当業者は理解するであろう。
【0005】
更に、クラスIIIのSLRPは、α4β1、αvβ3及びα5β1などのインテグリン類との相互作用によっても新たな血管形成を阻害できると考えられる。この相互作用が内皮接着を阻害し、従って、新たな血管形成に必要な細胞の拡散(spreading)及び遊走が妨げられる。例えば、本発明者らは、クラスIIIのSLRPであるオプチシンが、α4β1インテグリンの潜在的な認識部位を表すLDV(ロイシン-アスパラギン酸-バリン)モチーフを含むことを見出した。
本発明者らは、クラスIIIのSLRPが多種多様な組織由来の培養された血管内皮細胞において血管新生を阻害できることを見出した。クラスIIIのSLRPは、血管内皮細胞の増殖、遊走及び芽形成を減少させ、またニワトリ漿尿膜(CAM)アッセイで示されるように新たな血管形成を減少させた。このような、クラスIIIのSLRPのin vitroでの抗新血管形成特性の明らかな証拠を表す結果を全体として見ると、本発明の作用物質は様々な組織においてin vivoで血管形成を阻害できるということの明らかな徴候が提供される。
疾患及び他の有害な症状に関連する新たな血管形成を予防することに加えて、本発明の作用物質が正常な生物学的機能に関連する新たな血管形成を阻害するのに有利であり得る、ある種の状況が存在し得る。そのような新たな血管形成の阻害は、一例を挙げると、特定の正常な生物学的過程に関連して細胞が利用できる酸素、血液由来の栄養及び増殖因子を減少させるのに役立ち、従って、対象とする過程の速度を減速することができる。
過剰な血管形成によって特徴付けられる病状を予防及び/又は治療することにおいて、また、単球及び/マクロファージの過剰な活性及び/又は遊走によって特徴付けられる病状を予防及び/又は治療することにおいて、本発明の作用物質が使用できることは理解されるであろう。
【0006】
過剰な血管形成によって特徴付けられる病状の例としては、癌(新たな血管形成が腫瘍の成長に関連している)、血管増殖性網膜症、例えば増殖性糖尿病性網膜症、‘湿潤型’黄斑変性症及び他の脈絡膜新生血管、一次硝子体過形成遺残(PPHV)、乾癬並びに創傷治癒が挙げられる。眼における新たな血管の病理的な発生に関係する他の病状としては、網膜下新生血管、虹彩新生血管(緑内障をもたらし得る)、ルベオーシス、角膜新生血管及び網膜新生血管が挙げられる。
血管増殖性網膜症(VPR)は、網膜毛細血管の閉鎖及び非灌流(non-perfusion)によって発生し、結果として網膜の低酸素症及び虚血を生じる。この低酸素症及び虚血は、網膜前方の新生血管及び繊維症を引き起こす血管新生増殖因子の産生を誘導し、その結果としてVPR(例えば、硝子体出血、網膜剥離、血管新生緑内障、及びこれらの結果として起こる視覚障害が挙げられる)の病理的特徴の発生につながると考えられている。
単球及び/又はマクロファージの過剰な活性及び/又は遊走によって特徴付けられる病状としては、広範な炎症性症状(例えば、ブドウ膜炎及び関節炎)が挙げられる。そのような炎症性症状の多く、例えば関節炎などは、過剰な血管形成によっても特徴付けられ、よって前記症状は、本発明の第一及び第二の観点に従って製造される医薬を用いる治療に特に適している。単球/マクロファージの細胞は、新たな血管形成を刺激し且つ更なる新生血管の部位に対するマーカーとして働くため、病理的な血管新生が単球/マクロファージの活性に関連していることも知られている。
【0007】
本発明の第一又は第二の観点に従って用いられる作用物質は、in vivoでクラスIIIのSLRPの作用を模倣する化合物又は組成物のいずれであってもよい。しかしながら、作用物質は以下のどれかであるのが好ましい:
(a)オプチシン(オキュログリカンとしても知られている);又は
(b)エピフィカン;又は
(c)ミメカン(オステオグリシンとしても知られている);又は
(d)前記(a)〜(c)のいずれかのエレメントを含むキメラ分子;又は
(e)前記(a)〜(d)のいずれかの改変型;又は
(f)前記(a)〜(e)のいずれかの生物学的に活性な断片若しくは誘導体。
本発明の使用に適する作用物質がクラスIIIのSLRPの活性を模倣できる分子を包含することは、理解されるであろう。そのような分子は、クラスIIIのSLRPの結合活性を複製できる(例えば、増殖因子及び/又はそれらの受容体に対する結合を複製できる)ものであってもよい。好ましい分子は、例えば、クラスIIIのSLRPの生物学的機能を達成するのに重要である部分の高次構造を複製することができる。クラスIIIのSLRPの活性を模倣し得る適切な作用物質は、小型の可溶性分子を含み得る。
本発明の使用に適する合成又は天然の作用物質の結合特性は、その作用物質が置かれる使用目的に従って改変されて、改良された作用物質が生成されてもよい。一例を挙げると、本発明の第一の観点に従って用いられる作用物質は、VEGF及びFGF-2などの血管新生増殖因子に結合する活性を増強するために改変されてもよい。同様に、本発明の第二の観点に従って用いられる作用物質が改変されて、VEGF-R1などの受容体に結合する活性を増強されてもよい。
【0008】
本発明の作用物質は、好ましくは、ヒトのクラスIIIのSLRP又はその断片若しくは誘導体である。最も好ましい作用物質は、ヒトオプチシン又はその断片若しくは誘導体である。
該作用物質がヒトのものでないクラスIIIのSLRP又はその断片若しくは誘導体である場合、その作用物質は、作用物質が投与されるヒト患者において良好な耐容性を示すものであるのが好ましい。適切な非ヒト由来の作用物質は、ヒト患者による作用物質の拒絶に寄与する可能性があるエピトープをほとんど含まないものが選択され得るか、又は例えば改変によって「ヒト化」されて、対応するヒトのクラスIIIのSLRP配列の一部を含み得る。そのようなヒトのものでないクラスIIIのSLRPに由来する作用物質の好ましい例は、ウシオプチシンなどのウシのクラスIIIのSLRPに由来するものである。
クラスIIIのSLRPは、天然に存在する供給源から単離されたものであってもよい。一例として、クラスIIIのSLRPであるオプチシンは眼の硝子体液中に豊富に存在し、従って、この組織から濃縮及び単離されてもよい。あるいは、クラスIIIのSLRP及びそれらの誘導体が、組換えDNA技術を用いて産生されてもよい。好ましくは、本発明の作用物質が組換え型のクラスIIIのSLRP又はその断片若しくは誘導体であり得る。組換え型のクラスIIIのSLRP及びそれらの誘導体は、多数の代替供給源から産生されてもよく、一例としては、オプチシンのようなクラスIIIのSLRPのウシ組換え体が挙げられる。より好ましくは、そのような作用物質が、ヒトのクラスIIIのSLRP又はその断片若しくは誘導体の組換え体を含む。最も好ましくは、本発明の作用物質が組換え型ヒトオプチシン又はその断片若しくは誘導体である。
【0009】
本発明に従って使用される「クラスIIIのSLRPの生物学的に活性な断片」という用語は、in vivo又はin vitroいずれかのアッセイによって評価される場合にSLRPの活性を(血管形成を阻害する能力と、単球又はマクロファージの遊走及び/又は活性を妨げる及び/又は減少させる能力との両方の点に関して)複製し得る断片を包含する。
クラスIIIのSLRPであるオプチシンは、アミノ末端(NH)ドメインに連結しているロイシンリッチリピート(LRR)が非共有結合的に連結することによって形成されているホモダイマーを含む。LRRドメイン及びNHドメインは互いに酵素的に切断することができ、そのような酵素的に切断されたクラスIIIのSLRPの断片は、本発明の第一及び第二の観点の使用に好ましい作用物質を表す。オプチシンのようなクラスIIIのSLRPの好ましい酵素的切断は、マトリックスメタロプロテイナーゼMMP-2又はMMP-9を用いて行われてもよい。一例として、ウシオプチシンのMMP-2切断又はMMP-9切断によって得られるNH末端断片のアミノ酸配列が、図2に示されている。当業者は、同様の切断生成物がヒトのクラスIIIのSLRPの酵素処理で生成され得ることを、理解するであろう。
酵素的に切断したクラスIIIのSLRPのNHドメイン断片は、可溶性であり、本発明の使用に適する好ましい作用物質を表す。NHドメインは、好ましくはオプチシンのNHドメインであり得る。
【0010】
あるいは、酵素的消化以外の手段によって得られるクラスIIIのSLRPのN末端断片も、本発明の作用物質として使用され得る。N末端断片とは、クラスIIIのSLRPのN末端に位置する65アミノ酸のうちの少なくとも連続する7アミノ酸残基、好ましくは少なくとも連続する12アミノ酸残基、より好ましくは少なくとも連続する24アミノ酸残基を含む断片のいずれをも意味する。
本発明の使用に適する好ましいN末端断片は、オプチシンのヒト型形態及びウシ型形態から抜粋される次のアミノ酸配列:
ヒトオプチシン由来: DNYGEVIDLSNYEELTDYGDQLPE
ウシオプチシン由来: DNYDEVIDPSNYDELIDYGDQLPQ
の一つを含んでいてもよい。
上記配列は種間で高度に保存されており、クラスIIIのSLRPの生物学的活性を媒介することにおけるこれらアミノ酸残基の重要性を示している。
酵素的切断によって得られるもの以外のクラスIIIのSLRPの断片は、例えば、本技術分野で既知の適切なペプチド合成方法論のいずれかによって生成され得る。そのような合成された断片の構成成分のアミノ酸は、クラスIIIのSLRP配列の好ましい一部分を含むように選択されてもよい。そのような合成された断片の可能な配列はクラスIIIのSLRP内の酵素切断部位に制約されないことから、クラスIIIのSLRPの酵素的に得られたのでない断片の可能な範囲が、酵素消化によって得られ得る断片の可能な範囲よりも大きいことは、当業者に理解されるであろう。
【0011】
クラスIIIのSLRPのLRR領域も本発明の使用に適する作用物質を表すことは、理解されるであろう。LRR領域は、適切には、クラスIIIのSLRPのLRR領域を含む断片の形態で利用され得る。そのような断片は、適切なクラスIIIのSLRPのC末端部分に由来する更なるアミノ酸残基を更に含んでいてもよい。これらの断片は、上で考察されるのと同様に、酵素的に又は他の手段によって得ることができる。
好ましくは、LRRドメインがオプチシンのLRRであるが、エピフィカン及びミメカンのLRRドメインがグリコシル化されており且つ比較的高い可溶性を有することも知られていることから、エピフィカン及びミメカンのLRRドメインも同様に本発明の使用に適切な作用物質を表す。個々のクラスIIIのSLRPのLRR領域は、図1に示す配列アラインメントデータに図示されているように互いに高度の類似性を共有しており、従って、特定のクラスIIIのSLRPのLRR領域に関連する生物学的活性がこのファミリーの他のメンバーに共通していると予測できることを、当業者は認識するであろう。
血管形成を阻害する本発明の作用物質の能力は、当業者に周知のモデルで容易に試験することができる。そのようなアッセイの例としては、ヒヨコ漿尿膜モデル及び培養内皮細胞モデル類(この場合、血管新生及び/又は血管発生は、内皮細胞の増殖、遊走及び/又は血管に似た血管内皮細胞“細管”の形成によって示され得る)が挙げられる。
単球及び/又はマクロファージの活性及び/又は遊走を阻害する本発明の作用物質の能力は、当業者に周知のアッセイを用いて評価され得る。前記能力を調べるのに適するアッセイの例としては、ボイデン(Boyden)チャンバーアッセイなどが挙げられる。
【0012】
クラスIIIのSLRPの誘導体又はそれらの断片は、クラスIIIのSLRPのin vivoの半減期を増加させた又は減少させたクラスIIIのSLRPの誘導体を含み得る。半減期を増加させたクラスIIIのSLRP又はクラスIIIのSLRPの断片の誘導体の例としては、アミノ酸の欠失及び/又は置換によって酵素切断モチーフが除去された改変クラスIIIのSLRP、クラスIIIのSLRPのペプチド誘導体、クラスIIIのSLRPのD-アミノ酸誘導体、並びにペプチド-ペプトイド混成体が挙げられる。
天然のクラスIIIのSLRP、改変型のクラスIIIのSLRP又はそれらの断片などの作用物質は、幾つかの手段(例えば、生物学的な系でのプロテアーゼ活性)によって分解されてもよい。そのような分解は、クラスIIIのSLRP(又はそれらの断片)の生体利用効率を制限し、よって、新たな血管形成を阻害する又は単球/マクロファージの活性及び/又は遊走を妨げるクラスIIIのSLRPの能力を制限することができる。生物学的状況において安定性を高めたペプチド誘導体を設計及び生成できる充分に確立された手法が、数多く存在する。このようなペプチド誘導体は、プロテアーゼ媒介性の分解に対する抵抗性の増加の結果として、改善された生体利用効率を有し得る。
好ましくは、本発明の使用に適するペプチド誘導体又はペプチドアナログは、それらの起源のペプチド(又は糖タンパク質)よりも、よりプロテアーゼ抵抗性である。プロテアーゼ抵抗性が与えられ得る適切な方法としては、クラスIIIのSLRPに存在するセリン又はトレオニンの保護、置換又は改変が挙げられる。ペプチド誘導体及びその起源のペプチド(又は糖タンパク質)のプロテアーゼ抵抗性は、周知のタンパク質分解アッセイを用いて評価され得る。そして、ペプチド誘導体及びペプチド(又は糖タンパク質若しくはプロテオグリカン)について、プロテアーゼ抵抗性の相対値が比較されてもよい。
【0013】
本発明の作用物質のペプトイド誘導体は、クラスIIIのSLRPの構造の知識から容易に設計され得る。充分に確立されたプロトコールに従い、商業的に入手可能なソフトウエアが用いて、ペプトイド誘導体が作成されてもよい。
レトロペプトイド(全てのアミノ酸が、逆の順序でペプトイド残基によって置き換えられている)も、高親和性の結合性タンパク質を模倣することができる。レトロペプトイドは、ペプチド又は1つのペプトイド残基を含むペプトイド-ペプチド混成体と比べて、リガンド結合溝で逆方向に結合することが予測される。結果として、ペプトイド残基の側鎖は、本来のペプチドの側鎖と同じ方向を向くことができる。
本発明の使用に適するクラスIIIのSLRPの改変型の更なる態様は、D-アミノ酸を含む。この場合のアミノ酸残基の順序は、天然のクラスIIIのSLRPに認められるものと比較して、逆転している。
本発明の使用に適するクラスIIIのSLRPの誘導体が、対応する天然のクラスIIIのSLRPのものと比べてアミノ酸配列を変更されたクラスIIIのSLRPの改変型又はそれらの断片も含むことは、理解されるであろう。このようなクラスIIIのSLRPの改変型又は変異型は、天然の分子に存在する1又は2以上のアミノ酸残基を付加、除去又は置換することによって生成することができる。そのような付加、除去又は置換によって変種を生成し得る適切な方法は、当業者に周知であり、また数多くの刊行物の主題であり、それらの刊行物は用いることができる実験プロトコールの詳細を提供する。行われるアミノ酸置換の性質は、達成されることが所望される作用に関連して、決定することができる。
例えば、上で考察するように、クラスIIIのSLRPの改変型が酵素切断部位を取り除くように設計されてもよく、それによって酵素分解を減少させてin vivoの半減期を増加させることができる。様々なタンパク質分解酵素によって消化されるアミノ酸モチーフに関する公的に利用可能な情報が大量に存在しており、当業者であれば、そのようなモチーフの存在を天然のクラスIIIのSLRP分子内で認識することができるであろう。次いで、切断部位を中断するためにアミノ酸が付加、除去又は置換されたクラスIIIのSLRPの改変版を生成することは、簡単なことである。
【0014】
クラスIIIのSLRPの改変型は、局所的な環境と有利に相互作用して所望の作用を達成することができるアミノ酸配列を含むように生成することもできる。一例を挙げると、改変型のクラスIIIのSLRPの細胞外マトリックス(ECM)への結合を促進するためにアミノ酸配列が導入されてもよく、それによって、改変型のクラスIIIのSLRPの活性に影響を及ぼされることが望まれる細胞の近くに、利用可能な改変型のクラスIIIのSLRPの蓄積を提供してもよい。一例を挙げると、当業者は、新たな血管の発生と関連しているECM構成成分に対して改変分子の接着を促進するアミノ酸配列を含むように、クラスIIIのSLRPを改変することができる。
アミノ酸の付加又は置換によるクラスIIIのSLRPの好ましい改変は、変異型の三次構造が、その変異型の起源である天然のクラスIIIのSLRPの三次構造から著しく変更されてはいないような、保存的改変であってもよい。保存的な付加又は置換を用いた改変ペプチドの生成において、当業者を助ける豊富な情報が科学文献に存在しており、そのような保存的改変を達成するのに適切なアミノ酸残基の選択は、一部の熟練した技術者の発明力の施用を必要としない。
好ましくは、クラスIIIのSLRPの変異型が、その変異型の起源である天然のクラスIII SLRの対応する部分と少なくとも50%のアミノ酸配列同一性を共有し得る。より好ましくは、同一性の程度が少なくとも60%又は70%であってもよく、最も好ましくは、前記変異型がその変異型の起源である天然のペプチドの配列の対応する部分と少なくとも80%、90%又は95%の相同性を共有し得る。クラスIIIのSLRPの変異型と天然分子とのアミノ酸配列の類似性は、自由に利用可能な比較ソフトウエアを用いて容易に決定することができる。
【0015】
本発明の作用物質が単剤治療に使用できること(すなわち、本発明の作用物質の、新たな血管形成を減少させるため又は単球及び/若しくはマクロファージの過剰な活性及び/若しくは遊走によって特徴付けられる病状を縮小するための、単独での使用)は、理解されるであろう。
あるいは、本発明の作用物質が、補助剤として、又は血管形成又は単球及び/若しくはマクロファージの過剰な活性及び/若しくは遊走を阻害できる既知の治療法と併せて、用いることができる。血管新生促進(pro-angiogenic)経路(特に、腫瘍の転移に関係するもの)の重複性は、最適な治療効果を提供するために複数の経路を遮断することを必要とし得ることが一般に考えられることから、本発明の作用物質の他の治療法と併せての使用が好まれ得る。
本発明の作用物質は、インテグリンの機能を阻害し得る物質と併せて用いることができる。そのような物質としては、インテグリンに結合し得る中和抗体が挙げられ得る。好ましくは、機能を阻害されるインテグリンが、α4、α5、αV、β1及びβ3を含む群から選択され得る。
【0016】
本発明者によって行われた研究により、クラスIIIのSLRP及びそれらの誘導体の医療用途が初めて示される。従って、本発明の第三の観点によると、クラスIIIのSLRPの医薬としての使用が提供される。
クラスIIIのSLRPは、好ましくは以下の(a)〜(f)を含む群から選択され得る:
(a) オプチシン(オキュログリカン);
(b) エピフィカン;
(c) ミメカン(オステオグリシンとしても知られる);
(d) 前記(a)〜(c)のいずれかのエレメントを含むキメラ分子;
(e) 前記(a)〜(d)のいずれかの改変型;及び
(f) 前記(a)〜(e)のいずれかの生物学的に活性な断片又は誘導体。
本発明の作用物質は、複数の異なる形態を有する組成物中に組み込まれてもよく、前記形態は、特に前記組成物が使用される方法に依存する。従って、例えば、前記組成物は、散剤、錠剤、カプセル剤、液剤、軟膏剤、クリーム、ゲル、ヒドロゲル、エアロゾル、スプレー、ミセル、経皮パッチ若しくはリポソームの形態であってもよく、又はヒト若しくは動物へ投与できるその他適切ないずれかの形態であってもよい。本発明の組成物のビヒクルが、そのビヒクルを投与される対象者に充分に耐用性のあるものとすべきことは、理解されるであろう。
【0017】
本発明の作用物質を含む組成物は、複数の方法で使用できる。一例を挙げると、全身投与が必要とされ得る場合、そのような化合物が、例えば錠剤、カプセル剤又は液剤の形態で経口的に摂取され得る組成物中に含まれ得る。あるいは、該組成物が血流内への注射によって投与されてもよい。注射は、静脈内注射(瞬時投与若しくは注入)であってもよく、又は皮下注射(瞬時投与若しくは注入)であってもよい。該組成物が、吸入によって(例えば、鼻腔内へ)投与されてもよい。
本発明の作用物質を含む組成物は、眼における血管形成を調節するのに用いることができる。そのような組成物は、眼それ自体への注射(例えば、硝子体内注射)又は眼の周囲への注射(例えば、眼窩周囲注射)のいずれかに調剤され得る。あるいは、該化合物が眼の局所使用又は灌注のために、例えば目薬の形態に調剤されてもよい。注射又は局所使用に適切な組成物の製剤形態は、当業者には周知であろう。
イオン浸透療法は、本発明の作用物質を所望の組織に送達し得る別の経路を表している。眼のイオン浸透療法(例えば、Iomed, Inc.によって製造されているOcuPhorシステムを用いるような)は、作用物質が眼の内部に非侵襲的に導入され得るような方法を提供することができる。
【0018】
作用物質は、緩慢放出デバイス内又は遅延放出デバイス内に組み込まれていてもよい。そのようなデバイスは、例えば、皮膚上若しくは皮膚下に又は他の組織に(例えば、眼内に、特には眼の硝子体液内に;又は眼の近傍に)挿入されてもよく、また該化合物が数週間にわたって又は数ヶ月間かけて放出されてもよい。そのようなデバイスは、本発明の作用物質を用いる長期的な治療が必要とされる場合、また頻繁な投与が通常必要とされる場合に(例えば、少なくとも毎日の注射が必要とされる場合)、特に有利であり得る。
必要とされる作用物質の量は、生物学的活性、並びに投与の様式、使用される作用物質の物理化学的特性及び作用物質が単剤治療として使用されるのか又は併用療法に使用されるのかに順番に依存する生体利用効率によって決定されることは、理解されるであろう。投与の頻度も、上述する要因、特に治療を受ける対象者体内での作用物質の半減期によって、影響されるであろう。
投与される最適投薬量は、当業者により決定することができ、使用される特定の作用物質、製剤の力価、投与の様式及び疾患症状の進行に伴って変動するであろう。治療を受ける特定の対象者に依存する付加的な要因(例えば対象者の年齢、体重、性別、食餌及び投与時間が挙げられる)は、結果として投薬量を調整する必要があるであろう。
医薬業界により通常使用されているような既知の手法(例えば、生体内実験、臨床試験など)は、本発明の作用物質の具体的な製剤形態と適確な治療計画(例えば、該化合物の1日量及び投与の頻度など)とを確立するために用いることができる。
【0019】
一般的には、本発明の作用物質は、使用される具体的な作用物質に依存して、体重の0.01 μg/kg〜1.0 g/kgの1日量で、血管新生を阻害するのに使用され得る。より好ましくは、1日量が体重の0.01 mg/kg〜100 mg/kgである。
1日量は、単回投与として与えられてもよい(例えば、毎日1回の注射又は目薬の使用)。あるいは、使用される作用物質が、1日のうちに2又は3回以上の投与を必要としてもよい。一例として、本発明の作用物質は、10 μg〜500 mgの用量で毎日2回(又は症状の重度に依存して3回以上)目薬の形態で投与されてもよい。治療を受ける患者は、起床のときに第一の用量を服用して、次に第二の用量を夜に(2回投与計画の場合)又は服用後3〜4時間おきに間隔をあけて服用してもよい。あるいは、緩慢放出デバイスを使用して、反復する用量を投与する必要なしに、患者に最適用量を提供してもよい。
本発明の第三の観点によるこの発明は、治療上有効な量の本発明の第一又は第二の観点の作用物質を含む医薬組成物を提供し、前記医薬組成物は医薬として許容されるビヒクルを含んでもよい。ある態様では、本発明の作用物質の量は約0.01 mg〜約800 mgである。別の態様では、本発明の作用物質の量は約0.01 mg〜約500 mgである。また別の態様では、本発明の作用物質の量は約0.01 mg〜約250 mgである。また別の態様では、本発明の作用物質の量は約0.1 mg〜約100 mgである。また別の態様では、本発明の作用物質の量は約0.1 mg〜約20 mgである。
オプチシン1〜25 μg/mLの投与は、血管形成を阻害するために特に有効であることが見出された(実施例を参照)。オプチシンは1〜10 μg/mLの濃度で投与されてもよく、好ましくはオプチシンが1〜25 μg/mLの濃度で投与され得る。
オプチシン以外のクラスIIIのSLRPの好ましい用量は、実施例で使用するのと同様な方法を用いて決定できることは理解されるであろうが、そのような化合物は1〜25 μg/mLの濃度での投与が治療上の効果を達成し得ることが予見される。
【0020】
この発明は、治療上有効な量の本発明の作用物質と医薬として許容されるビヒクルとを混合することを含む、医薬組成物を製造する方法を提供する。「治療上有効な量」とは、本発明の第一の観点の作用物質の、対象者に投与された場合に血管新生を阻害する、いずれもの量である。「対象者」は、脊椎動物、哺乳動物、家畜又は人間である。
本明細書で参照される「医薬として許容されるビヒクル」とは、当業者に公知で、医薬組成物を調剤するのに有用な、いずれもの生理学上のビヒクルである。
好ましい態様では、医薬上のビヒクルが液体であり、医薬組成物が液剤の形態である。別の態様では、医薬上のビヒクルが固体であり、医薬組成物が散剤又は錠剤の形態である。更なる態様では、医薬上のビヒクルがゲルであり、医薬組成物がクリーム剤などの形態であり得る。
固体ビヒクルは、香味剤、滑沢剤、安定剤、懸濁剤、増量剤、滑剤(glidant)、圧縮助剤、結合剤又は錠剤崩壊剤としても役立ち得る1又は2以上の物質を含むこともでき、またカプセル化材料であってもよい。散剤では、ビヒクルは、細かく分かれた活性な作用物質と混合されている細かく分かれた固体である。錠剤では、活性な作用物質が、必要な圧縮特性を有するビヒクルと適切な割合で混合されて、所望の形状及びサイズに成形される。散剤及び錠剤は、好ましくは99%まで活性な作用物質を含む。適切な固体ビヒクルとしては、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖類、ラクトース、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリジン、低融点ワックス及びイオン交換樹脂が挙げられる。
【0021】
液体ビヒクルは、液剤、懸濁剤、乳濁剤、シロップ剤、エリキシル剤及び加圧組成物に使用される。活性な作用物質は、水、有機溶媒、それらの混合物、又は医薬として許容される油類若しくは油脂類のような医薬として許容される液体ビヒクル中に、溶解されても又は懸濁されてもよい。液体ビヒクルは、可溶化剤、乳化剤、緩衝剤、保存剤、甘味料、香味剤、懸濁剤、増粘剤、着色剤、粘度調整剤、安定剤又は浸透圧調整剤などの他の適切な医薬添加剤を含んでいてもよい。経口投与及び非経口投与に適する液体ビヒクルの例としては、水(部分的に上述する添加剤、例えばセルロース誘導体を含み、好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム溶液)、アルコール類(一価アルコール類及び多価アルコール類、例えばグリコール類を含む)及びそれらの誘導体、並びに油類(例えば、分留したココナツ油及びラッカセイ油)が挙げられる。非経口投与については、ビヒクルは、オレイン酸エチル及びミリスチン酸イソプロピルのような油性エステルであってもよい。無菌液体ビヒクルは、非経口投与用の無菌液剤形態の組成物に有用である。加圧組成物用の液体ビヒクルは、ハロゲン化炭化水素又は他の医薬として許容される推進体であってもよい。
無菌の溶液又は懸濁液である液状医薬組成物は、例えば、筋肉内、くも膜下腔内、硬膜外、腹腔内、皮下及び特に眼内の注射に利用され得る。無菌溶液は、静脈内に投与されてもよく、又は眼を灌注するために使用されてもよい。本発明の化合物は、投与時に滅菌水,生理食塩水又は他の適切な無菌注射用媒体を用いて溶解又は懸濁され得る、無菌固形組成物として調製されてもよい。ビヒクルは、必要且つ不活性な、結合剤、懸濁剤、滑沢剤、香味剤、甘味料、保存料、色素及びコーティング剤を含むように意図される。
【0022】
本発明の作用物質は、他の溶質類又は懸濁剤(例えば、溶液をイオン性にするのに十分な生理食塩水又はグルコース)、胆汁酸塩、アカシア、ゼラチン、ソルビタンモノオレエート、ポリソルベート80(エチレンオキシドと共重合されたソルビトールのオレイン酸エステル類及びその無水物)などを含む無菌の溶液又は懸濁液の形態で経口的に投与されてもよい。
本発明の作用物質は、液体又は固体いずれかの組成物の形態で経口的に投与されてもよい。経口投与に適する組成物としては、ピル、カプセル剤、顆粒剤、錠剤及び散剤などの固体形態、並びに溶液、シロップ剤、エリキシル剤及び懸濁剤などの液体形態が挙げられる。非経口投与に有用な形態としては、無菌の溶液、乳濁液及び懸濁液が挙げられる。
本発明の使用に適する作用物質がクラスIIIのSLRP(及びそれらの誘導体)をコードする作用物質をも包含することは、当業者には理解されるであろう。例えば、考えられる作用物質は、クラスIIIのSLRPをコードする核酸分子を含む。このような核酸は、例えば、E1/E3を除去したAd5ゲノムを含むプラスミド中、すなわちアデノウイルスベクター(アデノウイルス)に挿入したオプチシンのcDNAといった、適切なベクター中で投与されるのが好ましい。このようなベクター類は、遺伝子治療での用途に適切な作用物質を提供し得る。
【0023】
新たな血管形成が阻害できる並びに/又は、単球/マクロファージの活性化及び/若しくは遊走が阻害できる便利な方法は、遺伝子治療によって、本発明の前記のような作用物質をその活性が必要とされる部位に治療上有効な量で提供することであってもよい。
本発明の第四の観点によると、遺伝子治療技術での使用のために送達システムが提供され、その送達システムは本発明の作用物質をコードするDNA分子を含み、前記DNA分子が転写されて、選択された作用物質の発現をもたらすことができる。
本発明の第五の観点によると、血管形成の阻害に用いる医薬の製造に用いる、上記段落で規定される送達システムの使用が提供される。
本発明の第六の観点によると、血管形成を阻害する方法が提供され、その方法は、治療を必要とする患者に対して、本発明の第四の観点に規定される送達システムを治療上有効な量で投与することを含む。
遺伝コードの縮重のため、本発明の使用に適する作用物質をコードする核酸配列は、コードされている生成物の配列に実質的に影響することなく変動又は変化されて、機能的変種を提供し得る。本発明の使用に適する作用物質は、血管形成を阻害する能力、単球及び/又はマクロファージの活性及び/又は遊走を妨げる能力を保持するべきである。
【0024】
本発明の作用物質(クラスIIIのSLRP、それらの断片及び誘導体を含む)をコードする適切なヌクレオチドは、例えばサイレント変化の生成のように、配列内では同じアミノ酸をコードする別個のコドンの置換によって変更された配列を有するヌクレオチドを含む。他の適切な変種は、相同なヌクレオチド配列を有するが、その配列の全部又は一部が種々のコドンの置換によって変更されているものであり、前記コドンは、置換するアミノ酸に類似する生物物理的特性の側鎖を有するアミノ酸をコードして、保存的変化を生成する。例えば、小型で非極性の疎水性アミノ酸としては、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン及びメチオニンが挙げられる。大型で非極性の疎水性アミノ酸としては、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンが挙げられる。有極性の中性アミノ酸としては、セリン、トレオニン、システイン、アスパラギン及びグルタミンが挙げられる。正電荷を有する(塩基性)アミノ酸としては、リジン、アルギニン及びヒスチジンが挙げられる。負電荷を有する(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられる。
本発明の送達システムは、血管形成を阻害すること又は単球及び/若しくはマクロファージの遊走及び/若しくは活性を阻害することが望まれる部位で、通常の送達システムに可能である最長期間よりも長い期間にわたって、本発明の作用物質レベルの持続を達成するのに非常に適する。例えば、血管形成を阻害するのに適する本発明の作用物質は、新生血管の部位で連続的に発現されることができ、前記新生血管は、本発明の第五の観点で開示されるDNA分子でトランスフォームされた細胞によって阻害される。従って、本発明の作用物質がin vivoで非常に短い半減期を有していても、前記作用物質の治療上有効な量で処置された組織から、連続的に発現され得る。
【0025】
さらに、本発明の送達システムは、軟膏剤又はクリーム剤で必要とされるか、あるいは本発明に従って使用され得るような通常の医薬的ビヒクルを使用する必要なく、DNA分子を(また、それにより、本発明の作用物質を)提供するのに使用できる。
本発明の送達システムは、DNA分子が発現されて(送達システムが患者に投与されるときに)、血管形成を阻害する活性並びに/又は、単球及び/若しくはマクロファージの活性及び/若しくは遊走を妨げる活性を直接的又は間接的に有する本発明の作用物質を生成するものである。「直接的に」とは、遺伝子発現の産物それ自体が、必要な活性を有することを意味する。「間接的に」とは、遺伝子発現の産物が、少なくとも一つの更なる反応を受けて又は媒介して(例えば、酵素として)、必要な活性を有する活性な作用物質を提供することを意味する。
DNA分子は、適切なベクター内に収容されて、組換えベクターを形成し得る。ベクターは、例えばプラスミド、コスミド又はファージであってもよい。このような組換えベクターは、本発明の送達システムにおいて、該DNA分子を用いて細胞を形質転換するのに非常に有用である。
組換えベクターは、他の機能的エレメントを含んでいてもよい。一例を挙げると、組換えベクターは、ベクターが細胞の核内で自立的に複製するように設計され得る。この場合、組換えベクター中にDNAの複製を誘導するエレメントが必要とされてもよい。あるいは、組換えベクターが、ベクター及び組換えDNA分子が細胞のゲノム中に組み込まれるように設計され得る。この場合、DNA配列は、標的化した組込みに有利に働く(例えば、相同組換えによって)ものであることが望ましい。組換えベクターは、クローニング過程で選択マーカーとして使用され得る遺伝子をコードするDNAを有していてもよい。
【0026】
組換えベクターは、必要に応じて、遺伝子の発現を制御するプロモーター又はレギュレーターを更に含んでいてもよい。
DNA分子は、治療される対象者の細胞のDNAに組み込まれるものであってもよい(が、組み込まれることが必須ではない)。未分化細胞は、遺伝的に改変された娘細胞の産生をもたらすように、安定に形質転換され得る。このような場合は、例えば特異的な転写因子若しくは遺伝子アクチベータを用いて、又は、より好ましくは新たな血管形成の部位で特異的に認められるシグナルに応答して遺伝子を転写する誘導性プロモーターを用いて、対象者における発現の調節が必要とされてもよい。あるいは、送達システムが、治療される対象者の分化した細胞の不安定な又は一過性のトランスフォーメーションに有利に働くように設計されてもよい。この例では、トランスフォームした細胞が死んだ場合又はタンパク質の発現を停止した場合に(理想的には、必要な血管形成阻害がもたらされた場合に)該DNA分子の発現が停止するであろうことから、発現の調節は重要性が低くてもよい。
送達システムは、DNA分子をベクター中に組み込むことなく対象者に提供することができる。一例を挙げると、DNA分子は、リポソーム内又はウイルス粒子内に組み込まれていてもよい。あるいは、「裸の」DNA分子が、適切な手段、例えば直接的エンドサイトーシス取り込みによって、対象者の細胞に挿入されてもよい。
【0027】
DNA分子は、トランスフェクション、インフェクション、マイクロインジェクション、細胞融合、プロトプラスト融合又は弾道衝撃(ballistic bombardment)によって、治療される対象者の細胞に移動させられてもよい。例えば、コーティングした金粒子を用いる弾道トランスフェクション、DNA分子を含むリポソーム、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス)、及びプラスミドDNAの使用により直接的DNA取り込み(例えば、エンドサイトーシス)を提供する手段によって、血管形成が阻害される部位に、直接的に(例えば、局所的に又は注射によって)移動させられ得る。
DNA分子から発現される本発明の作用物質は、クラスIIIのSLRPであってもよく、又はその生物学的に活性な断片若しくは誘導体であってもよい。
本発明の方法は、血管形成又はマクロファージ及び/若しくは単球の活性及び/若しくは遊走を阻害できる本発明の作用物質の、細胞内発現の増加を誘導することによっても実現し得る。このような本発明の作用物質の治療的発現は、前記作用物質の天然に存在する発現(例えば、天然に存在するクラスIIIのSLRPの天然の発現)を増加させることによって達成されてもよく、前記作用物質の自然でない発現の誘導(例えば、クラスIIIのSLRPを天然に発現しない細胞による、クラスIIIのSLRP発現の誘導)によって達成されてもよく、又は前記作用物質の過剰発現の誘導によって達成されてもよい。オプチシンなどのクラスIIIのSLRPの内因性発現の増加は、オプチシンをコードする遺伝子の転写を増加し得る薬剤の投与によって容易に達成できることが理解されるであろう。
【0028】
本発明の第七の観点によると、血管形成を阻害する能力について被検化合物をスクリーニングする方法が提供され、その方法は、
(i) 被検化合物の非存在下で、クラスIIIのSLRPとクラスIIIのSLRPの基質との間の結合の度合いを評価する工程;
(ii) 被検化合物の存在下で、クラスIIIのSLRPとクラスIIIのSLRPの基質との間の結合の度合いを評価する工程;
(iii) 工程(i)で生じる結合の度合いを、工程(ii)で生じる結合の度合いと比較する工程;を含み、
ここで、工程(ii)で生じる結合の度合いが工程(i)で生じる結合の度合いよりも弱い場合は、被検化合物は血管形成を阻害することができる。
本発明の第八の観点によると、単球及び/又はマクロファージの活性及び/又は遊走を阻害する能力について被検化合物をスクリーニングする方法が提供され、その方法は、
(i) 被検化合物の非存在下で、クラスIIIのSLRPとクラスIIIのSLRPの基質との間の結合の度合いを評価する工程;
(ii) 被検化合物の存在下で、クラスIIIのSLRPとクラスIIIのSLRPの基質との間の結合の度合いを評価する工程;
(iii) 工程(i)で生じる結合の度合いを、工程(ii)で生じる結合の度合いと比較する工程;
を含み、
ここで、工程(ii)で生じる結合の度合いが工程(i)で生じる結合の度合いよりも弱い場合は、被検化合物は単球及び/又はマクロファージの活性及び/又は遊走を阻害することができる。
【0029】
基質は、ヘパリン若しくはヘパラン硫酸であってもよく、又は増殖因子、特にVEGF、FGFなどの血管新生増殖因子であってもよい。あるいは、基質は、クラスIIIのSLRPに結合される細胞受容体であってもよい。そのような受容体の例は、VEGF及びFGFに対する細胞受容体も含む。
オプチシンなどのクラスIIIのSLRPと同様の細胞受容体結合プロフィールを有する他の作用物質が、クラスIIIのSLRPに示されるものに類似する生物学的作用を有すると予測できることは、理解されるであろう。従って、本発明の更なる観点では、クラスIIIのSLRPと実質的に同じ受容体結合プロフィールを有する作用物質の、血管形成を阻害するための薬物の製造における使用を提供する。クラスIIIのSLRPと実質的に同じ受容体結合プロフィールを有する作用物質は、単球及び/又はマクロファージの過剰な活性及び/又は遊走によって特徴付けられる病状の予防及び/又は治療のための薬物の製造にも用いられ得る。
これら分子の生物学的ふるまいを媒介することにおけるクラスIIIのSLRPの受容体結合プロフィールの重要性の認識が、クラスIIIのSLRP活性を模倣できる(すなわち、血管形成又は単球及び/若しくはマクロファージの遊走及び/若しくは活性化を阻害することによって)作用物質を同定し得る方法を提供することは、理解されるであろう。
従って、本発明は、クラスIIIのSLRP活性を模倣できる被検化合物をスクリーニングする方法を提供し、その方法は、被検化合物の受容体結合プロフィールをクラスIIIのSLRPの受容体結合プロフィールと比較することを含み、ここでクラスIIIのSLRPと実質的に同じ受容体結合プロフィールを有することは、被検化合物がクラスIIIのSLRP活性を模倣できることを示す。
クラスIIIのSLRPに特有の受容体結合プロフィールは、当業者に周知の実験方法及びプロトコールを用いて、容易に決定することができる。
本発明は、次の実施例で、付属の図面に関連して、更に詳しく説明されるであろう。
【0030】
(実施例1:血管内皮細胞増殖に対するオプチシンの作用)
増殖因子及び組換え型オプチシンの存在下で、ウシ大動脈内皮細胞(BAEC)を用いて増殖アッセイを行った(その方法は、Slevin M, Kumar S, Gaffney J., "Angiogenic oligosaccharides of hyaluronan induce multiple signaling pathways affesting vascular endothelial cell mitogenic and wound healing responses." J. Biol. Chem. 2002. 277:41046-59に記載されている)。pCEP-Puベクターを用いて、ヒト胚性腎細胞で組換え型オプチシンの完全長を作製した(Le Goff et al., "Characterization of opticin and evidence of stable dimerisation in solution." J. Biol. Chem. 2003. 278:45280-7)。イオン交換及びレクチン親和性のクロマトグラフィの組合せを用いて、ならし培地からオプチシンを精製した。増殖アッセイのために、BSECを、6ウェルプレートに2×104/mLの濃度にて三連で播種した。接着の後、2.5%ウシ胎児血清を含む低血清培地中で培養した。幾つかのウェルでは、FGF-2、FGF-1(両方とも25 ng/mLにて)又はVEFGアイソフォーム(10 ng/mLにて)を含む増殖因子を添加する前に、細胞をオプチシン0.1〜10 μg/mLで1時間プレインキュベートした。続いて、これらの細胞を更に72時間インキュベートした。72時間後に、細胞を洗滌し、トリプシンを用いて細胞を剥がし、クールター計数器で計数した。
対照実験により、オプチシンは、これらの実験に用いた濃度では細胞への毒性が無いことが示された(データは示さず)。平均値は図3〜6に示されており、種々の血管新生促進増殖因子によって誘導された内皮細胞の増殖に対するオプチシンの作用を示している。
【0031】
図3:1はコントロール(すなわち、増殖因子もオプチシンも添加していない細胞)、2はコントロールにオプチシン10 μg/mLを添加したもの、3はFGF-2のみ、4はFGF-2にオプチシン0.1 μg/mLを添加したもの、5はFGF-2にオプチシン1 μg/mLを添加したもの、6はFGF-2にオプチシン10 μg/mLを添加したもの、7はFGF-2にオプチシン25 μg/mLを添加したものとした。オプチシンの濃度が増すにつれて、FGF-2誘導性細胞増殖がベースライン(コントロール)のレベルに向かって減少した。FGF-2のみの場合と比較して、オプチシンは1〜25 μg/mLの濃度でBAEC増殖の有意な低下を引き起こした。オプチシンは、25 μg/mLで95%を超えてFGF-2誘導性BAEC増殖を阻害した。
図4:FGF-2及びFGF-1によって誘導したBAEC増殖に対する、オプチシン10 μg/mLの作用を比較した。オプチシンの存在は、両方の増殖因子により誘導された増殖レベルをコントロールレベル近くまで低下させた。従って、オプチシンはFGF-1及びFGF-2の両方の誘導性増殖を阻害するのに同様に有効であることが示された。
図5:1はコントロール、2はVEGF、3はVEGFにオプチシン1 μg/mLを添加したもの、4はVEGFにオプチシン10 μg/mLを添加したものとした。オプチシンの濃度が増すにつれて、VEGF誘導性細胞増殖がベースライン(コントロール)レベルに向かって減少した。VEGFのみのものと比較して、オプチシンは1 μg/mL及び10 μg/mLの両濃度でBAEC増殖を有意に低下させ、またオプチシン10 μg/mLは90%を超えて増殖を阻害した。
図6:VEGF164及びVEGF120によって誘導されたBAEC増殖に対するオプチシン10 μg/mLの作用を比較した。オプチシンの存在は、両方の増殖因子によって誘導された増殖レベルをコントロールレベル近くまで低下させた。従って、オプチシンはVEGF120及びVEGF164の誘導性増殖を阻害するのに同様に有効であることが示された。
内皮細胞増殖の抑制により、本発明の作用物質が血管形成を阻害する効力を有することが示されることは、理解されるであろう。
【0032】
(実施例2:FGF-2及びVEGFによって誘導されたウシ大動脈内皮細胞(BAEC)の芽形成に対するオプチシンの作用)
オプチシンの存在下、0.1%ゼラチン/PBSでコーティングされているプレート上において、コンフレントなBAECが“管様”毛細血管の“芽”を形成する能力について調べた(Canfield AE and Schor AM., "Evidence that tenascin and thrombospondin-1 modulate sprouting of endothelial cells." J Cell Sci., 1995. 108:797-809に記載されている方法に基づいて)。このような出芽能力は、新たな血管形成のin vitroモデルを提供する。
手短にいうと、ちょうどコンフレントなBAECを収容している6ウェルプレートの三連の被覆ウェルに、2.5%FCS-DMEMを入れ、オプチシンで1時間処理し(0.1〜10 μg/mL)、FGF-2(25 ng/mL)又はVEGF(10 ng/mL)を添加してから、12日間インキュベートした。コントロールのウェルは、ビヒクルのみ(PBS)で処理した。実験の最後に、各ウェルから5つずつランダムな領域を位相差顕微鏡で写真撮影し(図7)、芽で覆われた面積を画像解析によって決定した。
図8:芽で覆われた平均面積のグラフ表示を示している。“コントロール”の値は、マイトジェン又はオプチシンを添加せず、12日後、出芽している細胞による被覆度の%を表している。“オプチシン”と表示した棒グラフは、芽形成に対するオプチシン単独での作用を示しており、コントロールと比べて有意な相違は示されなかった。増殖因子単独と比較して、芽形成の有意な減少が存在した棒グラフには、アスタリスクで標識した。オプチシンは10 μg/mLで、FGF-2誘導性細胞出芽を73%、VEGF誘導性出芽を70%減少させ、これによって、クラスIIIのSLRPであるオプチシンの新たな血管形成の減少における有効性が示された。
【0033】
(実施例3:FGF-2及びVEGFによって誘導されたウシ大動脈内皮細胞(BAEC)の遊走に対するオプチシンの作用)
使用した細胞層創傷アッセイ(cell-layer wounding assay)は、文献(Slevin M, Kumar S, Gaffney J., "Angiogenic oligosaccharides of hyaluronan induce multiple signaling pathways affecting vascular endothelial cell mitogenic and wound healing responses." J. Biol. Chem., 2002. 277:41046-59)に記載されている。BAECをプラスチックカバーグラス上でコンフレントになるまで培養し、次に5%FCSを含む培養液に入れた。更に24時間後、そのカバーグラスをPBS中で洗滌し、次にカミソリの刃を用いて細胞の層に傷をつけた。ウェルの幾つかにオプチシン(0.1〜10 μg/mL)を添加して、更に1時間インキュベートしておいた。次に、被検ウェルにFGF-2(25 ng/mL)又はVEGF(10 ng/mL)を添加し、そのプレートを37℃で24時間インキュベートした。インキュベーションの後、カバーグラスをPBS中でリンスし、100%エタノール中で固定した。裸になった領域への細胞の遊走は、コンピュータ画像解析システムを用いて定量化した。その面積を換算して、全く同じに処理した3つのカバーグラスから平均の%被覆度を得た。
図9:裸になった領域のBAECによる再被覆を図解する。“コントロール”の値は、マイトジェンもオプチシンも添加せずに24時間インキュベーションした後、細胞によって覆われた平均面積を表している。“オプチシン”と表示した棒グラフは、オプチシンのみの添加は、コントロールの未処理細胞の場合と比較して、細胞遊走に対する有意な作用を持たないことを示している。
“VEGF”及び“FGF-2”と表示した棒グラフは、これらの因子の(それぞれ、10 ng/mL及び25 ng/mLの濃度で添加した)細胞遊走に対する作用を示している。
“VEGF+オプチシン”及び“FGF-2+オプチシン”と表示した棒グラフは、増殖因子誘導性細胞遊走に対して、添加したオプチシン10 μg/mLの効果を示している。クラスIIIのSLRPであるオプチシンは、VEGF誘導性細胞遊走を53%、FGF-2誘導性細胞遊走を86%減少させた。この内皮細胞遊走の減少により、クラスIIIのSLRPの血管形成を阻害する能力が示された。
上述の結果を考慮すると、オプチシンのようなクラスIIIのSLRPは、様々な状況で内皮細胞の遊走を妨げることに使用できることが理解されるであろう。
【0034】
(実施例4:VEGF164及びFGF-2誘導性ERKリン酸化に対するオプチシンの作用)
MARK経路は血管内皮細胞の増殖及び遊走で重要な役割を果たすことから、ここでMARK経路を経由するシグナル伝達に対するオプチシンの作用について調べた。6ウェルプレートで48時間SPMの状態で培養したセミコンフレントなBAECを、10 μg/mLの濃度のオプチシンと1時間プレインキュベートしてから、FGF-2(25 ng/mL)又はVEGF164(10 ng/mL)のどちらかを添加した。5〜20分間のインキュベーションの後、全ての細胞上清を、放射性免疫沈降(RIPA)緩衝液(10 mM Tris-HCl(pH 7.5)、50 mM NaCl、0.5% w/vデオキシコール酸ナトリウム、0.5% v/v ノニデット(Nonidet)P40、0.1% w/v SDS、1 mM Na3VO4及び0.5% w/v アプロチニンを含む(Vainnika et al, 1994))に収集した。次に、この試料を遠心分離して(10,000 g、4℃で15分間)不溶性の細胞片を取り除き、使用するまで−70℃にて保存した。この細胞上清のタンパク質濃度をブラッドフォード(Bradford)アッセイ(Bio-Rad, California, USA)の変法を用いて決定し、等量のタンパク質(15 μg)を2×レムリ(Laemmli)サンプルバッファーと混合して、ボルテックスミキサーにかけて、水浴中で15分間煮沸した。製造元の指示に従って4〜12% Bis-Trisグラジエントゲル(Invitrogen)とMESシステムを用いて、SDS-PAGEを行った。次に、サンプルに、リン酸化ERK-1及び2、全ERK-1及び2並びにα-アクチンを認識する抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った。
図10:ウエスタンブロットにより、オプチシンでのBAECのプレインキュベーションがVEGF164及びFGF-2処理した細胞におけるERK1/2のリン酸化を誘導するVEGF164及びFGF-2両方の能力を低下させたことが実証された。全ERK-2及びα-アクチンを認識する抗体のプロービングによって、ゲルのレーンが同様に装填されたことを確かめた。
【0035】
(実施例5:ニワトリ漿尿膜(CAM)アッセイ)
一般に認められているプロトコールに従って、CAMアッセイを行った。手短に言うと、オプチシン1 μgの存在下又は非存在下のいずれかで血管新生増殖因子FGF-2を含むペレットを、8日目の卵の漿尿膜と接触させておいた。2日後、ペレットへ向かって成長している血管の数を数えて、存在する血管の数を分析した。
図11:標本画像は、FGF-2のみを含むペレットと比較して、より少ない数の新たな血管がFGF-2及びオプチシンを含むペレットに向かって成長していることを明らかに示している。このことにより、SLRPのクラスIIIのオプチシンは、新たな血管形成あるいは血管新生増殖因子の活性化に応答してin vivoで起こる他の事象を劇的に減少できることが明らかに証明された。
【0036】
(実施例6:血管新生に関与するインテグリンと相互作用するオプチシン)
多種多様なインテグリンを発現するA375-SMヒトメラノーマ細胞を用いて、細胞拡散(cell-spreading)アッセイを行った。この細胞を、組換え型ウシオプチシン又はBSA(ネガティブコントロール)、VCAM及び50 K、すなわち50 kDaフィブロネクチン断片(ポジティブコントロール)を含む対照物質に接した状態で蒔いた。その細胞を1時間拡散させておき、この時間のあいだBSAと接した状態での拡散は5%未満であった。これにより、この時間枠内で内因的に生じたリガンド上への拡散は検出されなかったことが示された。
図12:異なる濃度のオプチシンと接した状態での細胞拡散は用量応答性効果(dose-response effect)を示し、100 μg/mLの濃度にてオプチシンが被覆された場合の細胞拡散は約30%の最大拡散に達した。用量作用曲線を用いて(下記参照)、阻害アッセイのためのリガンドの最適被覆濃度(すなわち、オプチシンは35 μg/mL、VCAMは10 μg/mL及び50 Kは10 μg/mL)を決定した。
図13:インテグリンの機能遮断抗体に関連して、細胞拡散アッセイを行った。グラフは、種々の抗体の組合せに対してプロットした細胞拡散率を示している。H120は、ネガティブコントロールとして使用した無関係な抗体である。α4、α5及びαV抗体又はβ1及びβ3抗体を含む抗体の組合せはほぼ完全に拡散を阻害し、これらの結果を一まとめにして考えると、オプチシンはα4β1、α5β1、αVβ3と相互作用することが示唆できる。血管新生の間にα5β1及びαVβ3のインテグリンは血管内皮細胞によって発現されており、血管新生過程で重要な役割を果たす。いずれの仮説によっても拘束されることを望まないが、オプチシンのようなクラスIIIのSLRPのこれら血管新生インテグリンとの相互作用は、血管新生出芽に必要な細胞接着、拡散及び遊走を防止するのに役立ち、従って、新たな血管形成を妨げ得ると考えられている。加えて、オプチシンのこれらインテグリン類との相互作用は、インテグリン類を介して外部から内部へのシグナル伝達をもたらし、VEGF及びFGFの受容体を含む増殖因子受容体を介するシグナル伝達のダウンレギュレーションにつながると考えられている。
【0037】
(実施例7:FGF-1、FGF-2、VEGF164、VEGF120及びそれらの受容体に対するオプチシンの結合を分析する固相結合アッセイ)
受容体の可溶型細胞外ドメインは、R&D Systems Europe Ltdから入手した。
i) オプチシン結合アッセイ
手短に言うと、増殖因子受容体(FGF-R1、FGF-R2、VEGF-R1及びVEGF-R2(図14参照))並びに増殖因子(FGF-1、FGF-2、VEGF164及びVEGF120(図15参照))を2 μg/mLにて96ウェルプレート上を被覆した。次に、そのウェルを1%BSAでブロッキングした。PBS中で種々の濃度にてオプチシンをウェルに添加し、2時間インキュベートした。オプチシン特異的な抗体を用いて、結合したオプチシンを検出した。
図14:オプチシンは、VEGF-R1及びFGF-R2には用量作用依存的な様式で(in dose-response dependent manner)結合したが、VEGF-R2又はFGF-R1には結合しなかった。VEGF-R1については、見かけ上のKd(解離定数)21 nMが得られたが、FGF-R2については飽和に到達しなかったため、Kdを導くのが不可能であった。
オプチシンのVEGF-R1及びFGF-R2に対して結合する能力は、病理的な血管新生並びに単球及び/又はマクロファージの活性及び/又は遊走の両方に関係することから、その結合がオプチシンの活性を媒介するのに重要であることが示唆される。そのような受容体に対するオプチシンの結合は、生物学的に活性なリガンドの結合を妨げ、よって、それらリガンドが誘導し得る活性及び/又は遊走のレベルを低下させ得る。
図15:オプチシンは、FGF-2及びVEGF164には用量作用依存的な様式で結合したが、FGF-1又はVEGF120には結合しなかった。FGF-2については34 nM、VEGF164については42 nMの見かけ上の解離定数(Kd)が導かれた。
【0038】
ii) 競合アッセイ
オプチシンは固相実験でVEGF-R2及びFGF-R1に結合しなかったため、この各受容体とVEGF164及びFGF-2それぞれとの間の相互作用をオプチシンが阻害するかどうかを調べた。2 μg/mLの(A)FGF-R1又は(B)VEGF-R2を用いてウェルをコーティングし、次いで1%BSAでブロッキングした後、ウェルを種々の濃度のオプチシンと混合した0.2 μg/mLの(A)FGF-2又は(B)VEGF164とインキュベートして、競合アッセイを行った。受容体に結合している増殖因子を、特異的な抗体を用いて検出した。
図16:オプチシンは、FGF-2とFGF-R1との間の相互作用(A)及びVEGF164とVEGF-R2との間の相互作用(B)を用量依存的な様式で阻害した。従って、両方の場合で、増殖因子に対するオプチシンの結合が増殖因子とその受容体との間の相互作用を阻害した。
【0039】
iii) 結論
これらの結果は、クラスIIIのSLRPが内皮細胞の増殖、遊走及び芽形成を阻害できることを示している。内皮細胞の増殖、遊走及び芽形成は全て血管新生過程の必須要素であることから、当業者はクラスIIIのSLRPが血管新生を阻害することを理解するであろう。更に、オプチシンがCAMアッセイにおいて血管新生を阻害し、従ってオプチシンのin vivoでの抗血管新生作用の証拠を提供している。
クラスIIIのSLRPであるオプチシンは、複数のメカニズムを介して、血管新生に関与する過程を阻害する。オプチシンは、増殖因子FGF-1、FGF-2、VEGF164及びVEGF120の血管新生促進作用を阻害する。VEGF164及びFGF-2の場合、オプチシンは、増殖因子に結合すること並びに増殖因子とそれらの受容体との間の相互作用を阻害することにより、直接作用する。しかしながら、オプチシンは、オプチシンが結合しない増殖因子(FGF-1及びを含む)の刺激作用の阻害に有効であるように、他のメカニズムを介しても血管新生を阻害する。オプチシンが血管新生を阻害するのに介する他のメカニズムは、VEGF-R1及びFGF-R2による増殖因子受容体との直接的相互作用を介することによって、前記受容体に媒介される生物学的活性を低下させるもの、並びに、血管新生に関与するインテグリン類(αVβ3及びα5β1を含む)との相互作用によって、インテグリン-リガンド結合及び/又は外部から内部へのシグナル伝達に影響を及ぼして、増殖因子受容体を介するシグナル伝達を間接的に抑制するものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】成熟型のヒトオプチシン、ウシオプチシン、ヒトエピフィカン及びヒトミメカンの完全長アミノ酸配列を示し、またヒトのクラスIIIのSLRP類のロイシンリッチリピート領域間のアミノ酸アラインメントも図示する。
【図2】パネル2aでは、メタロプロテイナーゼMMP2又はMMP9を用いた消化によって遊離されるウシオプチシンNH末端断片のアミノ酸配列を、パネル2bでは、ヒトオプチシン及びウシオプチシンの好ましい断片のアミノ酸配列を、パネル2cでは、異なる種由来のオプチシンNH末端配列間のアミノ酸アラインメントを示す。
【図3】実施例1において、クラスIIIのSLRPであるオプチシンが塩基性繊維芽細胞増殖因子(FGF-2)により誘導された血管内皮細胞増殖を阻害することを示すグラフを表す。
【図4】酸性又は塩基性のFGFにより誘導された内皮細胞増殖に対するオプチシンの作用を、図表を用いて示す。
【図5】実施例1において、クラスIIIのSLRPであるオプチシンが血管内皮増殖因子(VEGF)により誘導された血管内皮細胞増殖を阻害することを示すグラフを表す。
【図6】VEGF164又はVEGF120により誘導された内皮細胞増殖に対するオプチシンの作用を、図表を用いて示す。
【図7】実施例2において、クラスIIIのSLRPであるオプチシンがFGF-2により誘導されるBAECの芽/管形成を阻害することを示す代表的な写真を示す。
【図8】実施例2における、クラスIIIのSLRPであるオプチシンの血管内皮細胞の芽/管形成を阻害する能力を研究する実験の結果を示す。
【図9】実施例3における、クラスIIIのSLRPであるオプチシンの内皮細胞遊走を阻害する能力を研究する実験の結果を示す。
【図10】実施例4において、クラスIIIのSLRPであるオプチシンの存在がVEGF164又はFGF-2刺激された細胞でのERK-1/2リン酸化を低下させることを示す。
【図11】実施例5のヒヨコ漿尿膜(CAM)アッセイにおいて、クラスIIIのSLRPであるオプチシンがFGF-2誘導性血管形成を阻害できることを示す。
【図12】実施例6における、クラスIIIのSLRPであるオプチシンの細胞拡散に対する作用を示す。
【図13】実施例6における、クラスIIIのSLRPであるオプチシン及び機能遮断インテグリン抗体の細胞拡散に対する作用を示す。
【図14】クラスIIIのSLRPであるオプチシンの血管新生増殖因子受容体に対する結合を示す。
【図15】クラスIIIのSLRPであるオプチシンの血管新生増殖因子に対する結合を示す。
【図16】実施例7において、クラスIIIのSLRPであるオプチシンが、血管新生増殖因子の血管新生増殖因子受容体に対する結合を阻害できることを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たな血管形成を減少させるための医薬品、並びに過剰な血管形成によって特徴付けられる病気を治療及び/又は予防するための医薬品に関する。更に本発明は、単球及び/又はマクロファージの過剰な活性及び/又は遊走によって特徴付けられる病気を予防及び/又は治療するための医薬品を提供する。
【背景技術】
【0002】
新たな血管の形成は、主に血管新生(angiogenesis)(既存の血管から生長する出芽)及びin situ血管発生(vasculogenesis)(前駆細胞の血管網への分化)の結果として起こる。多くの場合において、新たな血管形成は、発生又は損傷した組織に酸素及び栄養を供給するのに重要な役割を果たしているが、新たな血管形成に関連する数多くの病理状態も存在する。
新たな血管形成に関連する疾患の例としては、癌(新たな血管の発生が腫瘍の成長及び転移に付随する)、血管増殖性網膜症、例えば増殖性糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、鎌状赤血球網膜症、‘湿潤型(wet)’黄斑変性症及び他の形態の脈絡膜新生血管、乾癬、並びに関節炎のような多数の炎症性症状が挙げられる。
眼が病理的な新生血管(vascularisation)の増加を受ける血管増殖性網膜症は、西側諸国では視力障害及び失明の主要原因のひとつを構成している。増殖性糖尿病性網膜症は、硝子体出血、網膜剥離、血管新生緑内障、また結果として生じる視覚障害によって特徴付けられる。
単球及び/又はマクロファージの過剰な活性及び/又は遊走は、病理的な血管新生の過程の一部であり、それに加えて数多くの炎症性症状に関連している。そのような症状の例としては、敗血性ショック、糸球体腎炎、炎症性腸疾患及び慢性関節リウマチが挙げられる。単球/マクロファージ系統の細胞の過剰な活性及び/又は遊走は、そのような病気に関連する悪影響の多くを引き起こす。例えば、慢性関節リウマチでは、マクロファージの活性が、疾患に付随する関節組織及び骨の破壊に対して主要な寄与者となる。
新たな血管形成が望ましくないと考えられ得る事情の数に起因して、血管形成を阻害し得る新たな作用物質の必要性が依然として存在している。
また、単球及び/又はマクロファージの過剰な活性及び/又は遊走に関連する病状を予防及び/又は治療できる作用物質の必要性も、依然として存在している。
【発明の開示】
【0003】
本発明の第一の観点によると、血管形成を阻害するための医薬の製造における、クラスIIIのスモールロイシンリッチリピートタンパク質/プロテオグリカン(クラスIIIのSLRP)の活性を促進する作用物質の使用が提供される。
本発明の第二の観点によると、単球及び/又はマクロファージの過剰な活性及び/又は遊走によって特徴付けられる病状を予防及び/又は治療するための医薬の製造における、クラスIIIのスモールロイシンリッチリピートタンパク質/プロテオグリカン(クラスIIIのSLRP)の活性を促進する作用物質の使用が提供される。
本出願で用いられる「クラスIIIのSLRPの活性を促進する作用物質」という用語は、クラスIIIのSLRPそれ自体、クラスIIIのSLRPの生物学的に活性な断片、クラスIIIのSLRPの誘導体、及びクラスIIIのSLRPの活性を模倣する作用物質をも包含する。
「単球及び/又はマクロファージ」に対する参照は、文脈がそうでないと指示する箇所を除いて、単球/マクロファージの細胞系統に由来する全ての種類の細胞を包含するものと解釈されるべきである。
本発明者らは、オプチシン(opticin)(硝子体液中の原繊維に関連して最初に同定されたクラスIIIのSLRPであり、オキュログリカン(oculoglycan)としても知られている)、エピフィカン(epiphycan)、ミメカン(mimecan)(オステオグリシン(osteoglycin)としても知られている)などのクラスIIIのスモールロイシンリッチリピートタンパク質/プロテオグリカン(SLRP)ファミリーが新たな血管形成を阻害できるということを発見した。
オプチシン(ヒト及びウシの両方の形態)、エピフィカン及びミメカンのアミノ酸配列が図1に示されている。この図は、アミノ酸配列のアラインメントも示しており、クラスIIIのSLRPファミリーの異なるメンバー間の高度な類似性を図示している。
図2は、マトリックスメタロプロテイナーゼ2又は9(MMP-2又はMMP-9)によるクラスIIIのSLRPであるオプチシンの切断によって放出された、生物学的に活性な断片を(パネル2aで)図示している。パネル2bは、抗血管新生活性と単球/マクロファージに作用する能力とにとって好ましい、ヒト及びウシのオプチシンのNH末端領域内に由来するペプチド配列を示している。これらの配列は種間で高度に保存されており、この高度な保存は、前記配列の生物学的な機能を示している。図2のパネル2cは、異なる種(ウシ、イヌ、ヒト及びマウス)に由来するオプチシンのNH末端領域のアミノ酸残基のアラインメントを図示している。
【0004】
新たな血管形成に対する作用に加えて、本発明者らは、クラスIIIのSLRPが単球及びマクロファージの活性及び遊走を阻害することも見出した。これら両方の知見を確立するために行った研究は、実施例及び添付図面においてより詳細に説明されている。
クラスIIIのSLRP、クラスIIIのSLRPの改変型、及びこれらの生物学的に活性な断片は、in vitro及びin vivoで新たな血管形成を阻害することができる。どのような仮説によっても拘束されることを望まないが、クラスIIIのSLRPが、酸性繊維芽細胞増殖因子(aFGF又はFGF-1)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF又はFGF-2)及び血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などの血管新生増殖因子に応答して、培養された血管内皮細胞の増殖及び再構成(re-arrangement)を阻害すると考えられる。これらの因子は、新たな血管形成を刺激できる増殖因子の中でも最もよく知られ且つ最も強力なものである。
本発明者らはクラスIIIのSLRPがVEGF165及びFGF-2などの増殖因子に結合できることを示しており、その結合が結合された増殖因子を隔離し、従って結合された増殖因子と対応する受容体(VEGF-R2及びFGF-R1など)との相互作用が阻害され得ると考えられる。そのうえ、本発明者らはオプチシンなどのクラスIIIのSLRPが増殖因子受容体それ自体に結合できることを示しており、その結合と、結果生じる前記受容体由来の細胞内シグナル伝達の減少とは、クラスIIIのSLRP分子の抗血管新生作用に対して更に寄与し得ると考えられる。
VEGF-R1及びFGF-R2は血管新生において重要な受容体であり、更に、他の重要な生物学的活性を媒介する。特に、VEGF-R1は単球及びマクロファージの細胞遊走を調節することが知られている。クラスIIIのSLRPのVEGF-R1への結合は、単球/マクロファージの活性及び/又は遊走を阻害するこのような作用物質の能力を担うことができ、従って本発明の第二の観点の使用に適する作用物質を表すと考えられる。
先の段落で考察した結果を考慮すると、本発明に従って用いられる作用物質が、血管新生増殖因子又はそれらの受容体に結合する能力と、血管新生増殖因子受容体によって行われる細胞内シグナル伝達を阻害する能力とについて選択され得ることを、当業者は理解するであろう。
【0005】
更に、クラスIIIのSLRPは、α4β1、αvβ3及びα5β1などのインテグリン類との相互作用によっても新たな血管形成を阻害できると考えられる。この相互作用が内皮接着を阻害し、従って、新たな血管形成に必要な細胞の拡散(spreading)及び遊走が妨げられる。例えば、本発明者らは、クラスIIIのSLRPであるオプチシンが、α4β1インテグリンの潜在的な認識部位を表すLDV(ロイシン-アスパラギン酸-バリン)モチーフを含むことを見出した。
本発明者らは、クラスIIIのSLRPが多種多様な組織由来の培養された血管内皮細胞において血管新生を阻害できることを見出した。クラスIIIのSLRPは、血管内皮細胞の増殖、遊走及び芽形成を減少させ、またニワトリ漿尿膜(CAM)アッセイで示されるように新たな血管形成を減少させた。このような、クラスIIIのSLRPのin vitroでの抗新血管形成特性の明らかな証拠を表す結果を全体として見ると、本発明の作用物質は様々な組織においてin vivoで血管形成を阻害できるということの明らかな徴候が提供される。
疾患及び他の有害な症状に関連する新たな血管形成を予防することに加えて、本発明の作用物質が正常な生物学的機能に関連する新たな血管形成を阻害するのに有利であり得る、ある種の状況が存在し得る。そのような新たな血管形成の阻害は、一例を挙げると、特定の正常な生物学的過程に関連して細胞が利用できる酸素、血液由来の栄養及び増殖因子を減少させるのに役立ち、従って、対象とする過程の速度を減速することができる。
過剰な血管形成によって特徴付けられる病状を予防及び/又は治療することにおいて、また、単球及び/マクロファージの過剰な活性及び/又は遊走によって特徴付けられる病状を予防及び/又は治療することにおいて、本発明の作用物質が使用できることは理解されるであろう。
【0006】
過剰な血管形成によって特徴付けられる病状の例としては、癌(新たな血管形成が腫瘍の成長に関連している)、血管増殖性網膜症、例えば増殖性糖尿病性網膜症、‘湿潤型’黄斑変性症及び他の脈絡膜新生血管、一次硝子体過形成遺残(PPHV)、乾癬並びに創傷治癒が挙げられる。眼における新たな血管の病理的な発生に関係する他の病状としては、網膜下新生血管、虹彩新生血管(緑内障をもたらし得る)、ルベオーシス、角膜新生血管及び網膜新生血管が挙げられる。
血管増殖性網膜症(VPR)は、網膜毛細血管の閉鎖及び非灌流(non-perfusion)によって発生し、結果として網膜の低酸素症及び虚血を生じる。この低酸素症及び虚血は、網膜前方の新生血管及び繊維症を引き起こす血管新生増殖因子の産生を誘導し、その結果としてVPR(例えば、硝子体出血、網膜剥離、血管新生緑内障、及びこれらの結果として起こる視覚障害が挙げられる)の病理的特徴の発生につながると考えられている。
単球及び/又はマクロファージの過剰な活性及び/又は遊走によって特徴付けられる病状としては、広範な炎症性症状(例えば、ブドウ膜炎及び関節炎)が挙げられる。そのような炎症性症状の多く、例えば関節炎などは、過剰な血管形成によっても特徴付けられ、よって前記症状は、本発明の第一及び第二の観点に従って製造される医薬を用いる治療に特に適している。単球/マクロファージの細胞は、新たな血管形成を刺激し且つ更なる新生血管の部位に対するマーカーとして働くため、病理的な血管新生が単球/マクロファージの活性に関連していることも知られている。
【0007】
本発明の第一又は第二の観点に従って用いられる作用物質は、in vivoでクラスIIIのSLRPの作用を模倣する化合物又は組成物のいずれであってもよい。しかしながら、作用物質は以下のどれかであるのが好ましい:
(a)オプチシン(オキュログリカンとしても知られている);又は
(b)エピフィカン;又は
(c)ミメカン(オステオグリシンとしても知られている);又は
(d)前記(a)〜(c)のいずれかのエレメントを含むキメラ分子;又は
(e)前記(a)〜(d)のいずれかの改変型;又は
(f)前記(a)〜(e)のいずれかの生物学的に活性な断片若しくは誘導体。
本発明の使用に適する作用物質がクラスIIIのSLRPの活性を模倣できる分子を包含することは、理解されるであろう。そのような分子は、クラスIIIのSLRPの結合活性を複製できる(例えば、増殖因子及び/又はそれらの受容体に対する結合を複製できる)ものであってもよい。好ましい分子は、例えば、クラスIIIのSLRPの生物学的機能を達成するのに重要である部分の高次構造を複製することができる。クラスIIIのSLRPの活性を模倣し得る適切な作用物質は、小型の可溶性分子を含み得る。
本発明の使用に適する合成又は天然の作用物質の結合特性は、その作用物質が置かれる使用目的に従って改変されて、改良された作用物質が生成されてもよい。一例を挙げると、本発明の第一の観点に従って用いられる作用物質は、VEGF及びFGF-2などの血管新生増殖因子に結合する活性を増強するために改変されてもよい。同様に、本発明の第二の観点に従って用いられる作用物質が改変されて、VEGF-R1などの受容体に結合する活性を増強されてもよい。
【0008】
本発明の作用物質は、好ましくは、ヒトのクラスIIIのSLRP又はその断片若しくは誘導体である。最も好ましい作用物質は、ヒトオプチシン又はその断片若しくは誘導体である。
該作用物質がヒトのものでないクラスIIIのSLRP又はその断片若しくは誘導体である場合、その作用物質は、作用物質が投与されるヒト患者において良好な耐容性を示すものであるのが好ましい。適切な非ヒト由来の作用物質は、ヒト患者による作用物質の拒絶に寄与する可能性があるエピトープをほとんど含まないものが選択され得るか、又は例えば改変によって「ヒト化」されて、対応するヒトのクラスIIIのSLRP配列の一部を含み得る。そのようなヒトのものでないクラスIIIのSLRPに由来する作用物質の好ましい例は、ウシオプチシンなどのウシのクラスIIIのSLRPに由来するものである。
クラスIIIのSLRPは、天然に存在する供給源から単離されたものであってもよい。一例として、クラスIIIのSLRPであるオプチシンは眼の硝子体液中に豊富に存在し、従って、この組織から濃縮及び単離されてもよい。あるいは、クラスIIIのSLRP及びそれらの誘導体が、組換えDNA技術を用いて産生されてもよい。好ましくは、本発明の作用物質が組換え型のクラスIIIのSLRP又はその断片若しくは誘導体であり得る。組換え型のクラスIIIのSLRP及びそれらの誘導体は、多数の代替供給源から産生されてもよく、一例としては、オプチシンのようなクラスIIIのSLRPのウシ組換え体が挙げられる。より好ましくは、そのような作用物質が、ヒトのクラスIIIのSLRP又はその断片若しくは誘導体の組換え体を含む。最も好ましくは、本発明の作用物質が組換え型ヒトオプチシン又はその断片若しくは誘導体である。
【0009】
本発明に従って使用される「クラスIIIのSLRPの生物学的に活性な断片」という用語は、in vivo又はin vitroいずれかのアッセイによって評価される場合にSLRPの活性を(血管形成を阻害する能力と、単球又はマクロファージの遊走及び/又は活性を妨げる及び/又は減少させる能力との両方の点に関して)複製し得る断片を包含する。
クラスIIIのSLRPであるオプチシンは、アミノ末端(NH)ドメインに連結しているロイシンリッチリピート(LRR)が非共有結合的に連結することによって形成されているホモダイマーを含む。LRRドメイン及びNHドメインは互いに酵素的に切断することができ、そのような酵素的に切断されたクラスIIIのSLRPの断片は、本発明の第一及び第二の観点の使用に好ましい作用物質を表す。オプチシンのようなクラスIIIのSLRPの好ましい酵素的切断は、マトリックスメタロプロテイナーゼMMP-2又はMMP-9を用いて行われてもよい。一例として、ウシオプチシンのMMP-2切断又はMMP-9切断によって得られるNH末端断片のアミノ酸配列が、図2に示されている。当業者は、同様の切断生成物がヒトのクラスIIIのSLRPの酵素処理で生成され得ることを、理解するであろう。
酵素的に切断したクラスIIIのSLRPのNHドメイン断片は、可溶性であり、本発明の使用に適する好ましい作用物質を表す。NHドメインは、好ましくはオプチシンのNHドメインであり得る。
【0010】
あるいは、酵素的消化以外の手段によって得られるクラスIIIのSLRPのN末端断片も、本発明の作用物質として使用され得る。N末端断片とは、クラスIIIのSLRPのN末端に位置する65アミノ酸のうちの少なくとも連続する7アミノ酸残基、好ましくは少なくとも連続する12アミノ酸残基、より好ましくは少なくとも連続する24アミノ酸残基を含む断片のいずれをも意味する。
本発明の使用に適する好ましいN末端断片は、オプチシンのヒト型形態及びウシ型形態から抜粋される次のアミノ酸配列:
ヒトオプチシン由来: DNYGEVIDLSNYEELTDYGDQLPE
ウシオプチシン由来: DNYDEVIDPSNYDELIDYGDQLPQ
の一つを含んでいてもよい。
上記配列は種間で高度に保存されており、クラスIIIのSLRPの生物学的活性を媒介することにおけるこれらアミノ酸残基の重要性を示している。
酵素的切断によって得られるもの以外のクラスIIIのSLRPの断片は、例えば、本技術分野で既知の適切なペプチド合成方法論のいずれかによって生成され得る。そのような合成された断片の構成成分のアミノ酸は、クラスIIIのSLRP配列の好ましい一部分を含むように選択されてもよい。そのような合成された断片の可能な配列はクラスIIIのSLRP内の酵素切断部位に制約されないことから、クラスIIIのSLRPの酵素的に得られたのでない断片の可能な範囲が、酵素消化によって得られ得る断片の可能な範囲よりも大きいことは、当業者に理解されるであろう。
【0011】
クラスIIIのSLRPのLRR領域も本発明の使用に適する作用物質を表すことは、理解されるであろう。LRR領域は、適切には、クラスIIIのSLRPのLRR領域を含む断片の形態で利用され得る。そのような断片は、適切なクラスIIIのSLRPのC末端部分に由来する更なるアミノ酸残基を更に含んでいてもよい。これらの断片は、上で考察されるのと同様に、酵素的に又は他の手段によって得ることができる。
好ましくは、LRRドメインがオプチシンのLRRであるが、エピフィカン及びミメカンのLRRドメインがグリコシル化されており且つ比較的高い可溶性を有することも知られていることから、エピフィカン及びミメカンのLRRドメインも同様に本発明の使用に適切な作用物質を表す。個々のクラスIIIのSLRPのLRR領域は、図1に示す配列アラインメントデータに図示されているように互いに高度の類似性を共有しており、従って、特定のクラスIIIのSLRPのLRR領域に関連する生物学的活性がこのファミリーの他のメンバーに共通していると予測できることを、当業者は認識するであろう。
血管形成を阻害する本発明の作用物質の能力は、当業者に周知のモデルで容易に試験することができる。そのようなアッセイの例としては、ヒヨコ漿尿膜モデル及び培養内皮細胞モデル類(この場合、血管新生及び/又は血管発生は、内皮細胞の増殖、遊走及び/又は血管に似た血管内皮細胞“細管”の形成によって示され得る)が挙げられる。
単球及び/又はマクロファージの活性及び/又は遊走を阻害する本発明の作用物質の能力は、当業者に周知のアッセイを用いて評価され得る。前記能力を調べるのに適するアッセイの例としては、ボイデン(Boyden)チャンバーアッセイなどが挙げられる。
【0012】
クラスIIIのSLRPの誘導体又はそれらの断片は、クラスIIIのSLRPのin vivoの半減期を増加させた又は減少させたクラスIIIのSLRPの誘導体を含み得る。半減期を増加させたクラスIIIのSLRP又はクラスIIIのSLRPの断片の誘導体の例としては、アミノ酸の欠失及び/又は置換によって酵素切断モチーフが除去された改変クラスIIIのSLRP、クラスIIIのSLRPのペプチド誘導体、クラスIIIのSLRPのD-アミノ酸誘導体、並びにペプチド-ペプトイド混成体が挙げられる。
天然のクラスIIIのSLRP、改変型のクラスIIIのSLRP又はそれらの断片などの作用物質は、幾つかの手段(例えば、生物学的な系でのプロテアーゼ活性)によって分解されてもよい。そのような分解は、クラスIIIのSLRP(又はそれらの断片)の生体利用効率を制限し、よって、新たな血管形成を阻害する又は単球/マクロファージの活性及び/又は遊走を妨げるクラスIIIのSLRPの能力を制限することができる。生物学的状況において安定性を高めたペプチド誘導体を設計及び生成できる充分に確立された手法が、数多く存在する。このようなペプチド誘導体は、プロテアーゼ媒介性の分解に対する抵抗性の増加の結果として、改善された生体利用効率を有し得る。
好ましくは、本発明の使用に適するペプチド誘導体又はペプチドアナログは、それらの起源のペプチド(又は糖タンパク質)よりも、よりプロテアーゼ抵抗性である。プロテアーゼ抵抗性が与えられ得る適切な方法としては、クラスIIIのSLRPに存在するセリン又はトレオニンの保護、置換又は改変が挙げられる。ペプチド誘導体及びその起源のペプチド(又は糖タンパク質)のプロテアーゼ抵抗性は、周知のタンパク質分解アッセイを用いて評価され得る。そして、ペプチド誘導体及びペプチド(又は糖タンパク質若しくはプロテオグリカン)について、プロテアーゼ抵抗性の相対値が比較されてもよい。
【0013】
本発明の作用物質のペプトイド誘導体は、クラスIIIのSLRPの構造の知識から容易に設計され得る。充分に確立されたプロトコールに従い、商業的に入手可能なソフトウエアが用いて、ペプトイド誘導体が作成されてもよい。
レトロペプトイド(全てのアミノ酸が、逆の順序でペプトイド残基によって置き換えられている)も、高親和性の結合性タンパク質を模倣することができる。レトロペプトイドは、ペプチド又は1つのペプトイド残基を含むペプトイド-ペプチド混成体と比べて、リガンド結合溝で逆方向に結合することが予測される。結果として、ペプトイド残基の側鎖は、本来のペプチドの側鎖と同じ方向を向くことができる。
本発明の使用に適するクラスIIIのSLRPの改変型の更なる態様は、D-アミノ酸を含む。この場合のアミノ酸残基の順序は、天然のクラスIIIのSLRPに認められるものと比較して、逆転している。
本発明の使用に適するクラスIIIのSLRPの誘導体が、対応する天然のクラスIIIのSLRPのものと比べてアミノ酸配列を変更されたクラスIIIのSLRPの改変型又はそれらの断片も含むことは、理解されるであろう。このようなクラスIIIのSLRPの改変型又は変異型は、天然の分子に存在する1又は2以上のアミノ酸残基を付加、除去又は置換することによって生成することができる。そのような付加、除去又は置換によって変種を生成し得る適切な方法は、当業者に周知であり、また数多くの刊行物の主題であり、それらの刊行物は用いることができる実験プロトコールの詳細を提供する。行われるアミノ酸置換の性質は、達成されることが所望される作用に関連して、決定することができる。
例えば、上で考察するように、クラスIIIのSLRPの改変型が酵素切断部位を取り除くように設計されてもよく、それによって酵素分解を減少させてin vivoの半減期を増加させることができる。様々なタンパク質分解酵素によって消化されるアミノ酸モチーフに関する公的に利用可能な情報が大量に存在しており、当業者であれば、そのようなモチーフの存在を天然のクラスIIIのSLRP分子内で認識することができるであろう。次いで、切断部位を中断するためにアミノ酸が付加、除去又は置換されたクラスIIIのSLRPの改変版を生成することは、簡単なことである。
【0014】
クラスIIIのSLRPの改変型は、局所的な環境と有利に相互作用して所望の作用を達成することができるアミノ酸配列を含むように生成することもできる。一例を挙げると、改変型のクラスIIIのSLRPの細胞外マトリックス(ECM)への結合を促進するためにアミノ酸配列が導入されてもよく、それによって、改変型のクラスIIIのSLRPの活性に影響を及ぼされることが望まれる細胞の近くに、利用可能な改変型のクラスIIIのSLRPの蓄積を提供してもよい。一例を挙げると、当業者は、新たな血管の発生と関連しているECM構成成分に対して改変分子の接着を促進するアミノ酸配列を含むように、クラスIIIのSLRPを改変することができる。
アミノ酸の付加又は置換によるクラスIIIのSLRPの好ましい改変は、変異型の三次構造が、その変異型の起源である天然のクラスIIIのSLRPの三次構造から著しく変更されてはいないような、保存的改変であってもよい。保存的な付加又は置換を用いた改変ペプチドの生成において、当業者を助ける豊富な情報が科学文献に存在しており、そのような保存的改変を達成するのに適切なアミノ酸残基の選択は、一部の熟練した技術者の発明力の施用を必要としない。
好ましくは、クラスIIIのSLRPの変異型が、その変異型の起源である天然のクラスIII SLRの対応する部分と少なくとも50%のアミノ酸配列同一性を共有し得る。より好ましくは、同一性の程度が少なくとも60%又は70%であってもよく、最も好ましくは、前記変異型がその変異型の起源である天然のペプチドの配列の対応する部分と少なくとも80%、90%又は95%の相同性を共有し得る。クラスIIIのSLRPの変異型と天然分子とのアミノ酸配列の類似性は、自由に利用可能な比較ソフトウエアを用いて容易に決定することができる。
【0015】
本発明の作用物質が単剤治療に使用できること(すなわち、本発明の作用物質の、新たな血管形成を減少させるため又は単球及び/若しくはマクロファージの過剰な活性及び/若しくは遊走によって特徴付けられる病状を縮小するための、単独での使用)は、理解されるであろう。
あるいは、本発明の作用物質が、補助剤として、又は血管形成又は単球及び/若しくはマクロファージの過剰な活性及び/若しくは遊走を阻害できる既知の治療法と併せて、用いることができる。血管新生促進(pro-angiogenic)経路(特に、腫瘍の転移に関係するもの)の重複性は、最適な治療効果を提供するために複数の経路を遮断することを必要とし得ることが一般に考えられることから、本発明の作用物質の他の治療法と併せての使用が好まれ得る。
本発明の作用物質は、インテグリンの機能を阻害し得る物質と併せて用いることができる。そのような物質としては、インテグリンに結合し得る中和抗体が挙げられ得る。好ましくは、機能を阻害されるインテグリンが、α4、α5、αV、β1及びβ3を含む群から選択され得る。
【0016】
本発明者によって行われた研究により、クラスIIIのSLRP及びそれらの誘導体の医療用途が初めて示される。従って、本発明の第三の観点によると、クラスIIIのSLRPの医薬としての使用が提供される。
クラスIIIのSLRPは、好ましくは以下の(a)〜(f)を含む群から選択され得る:
(a) オプチシン(オキュログリカン);
(b) エピフィカン;
(c) ミメカン(オステオグリシンとしても知られる);
(d) 前記(a)〜(c)のいずれかのエレメントを含むキメラ分子;
(e) 前記(a)〜(d)のいずれかの改変型;及び
(f) 前記(a)〜(e)のいずれかの生物学的に活性な断片又は誘導体。
本発明の作用物質は、複数の異なる形態を有する組成物中に組み込まれてもよく、前記形態は、特に前記組成物が使用される方法に依存する。従って、例えば、前記組成物は、散剤、錠剤、カプセル剤、液剤、軟膏剤、クリーム、ゲル、ヒドロゲル、エアロゾル、スプレー、ミセル、経皮パッチ若しくはリポソームの形態であってもよく、又はヒト若しくは動物へ投与できるその他適切ないずれかの形態であってもよい。本発明の組成物のビヒクルが、そのビヒクルを投与される対象者に充分に耐用性のあるものとすべきことは、理解されるであろう。
【0017】
本発明の作用物質を含む組成物は、複数の方法で使用できる。一例を挙げると、全身投与が必要とされ得る場合、そのような化合物が、例えば錠剤、カプセル剤又は液剤の形態で経口的に摂取され得る組成物中に含まれ得る。あるいは、該組成物が血流内への注射によって投与されてもよい。注射は、静脈内注射(瞬時投与若しくは注入)であってもよく、又は皮下注射(瞬時投与若しくは注入)であってもよい。該組成物が、吸入によって(例えば、鼻腔内へ)投与されてもよい。
本発明の作用物質を含む組成物は、眼における血管形成を調節するのに用いることができる。そのような組成物は、眼それ自体への注射(例えば、硝子体内注射)又は眼の周囲への注射(例えば、眼窩周囲注射)のいずれかに調剤され得る。あるいは、該化合物が眼の局所使用又は灌注のために、例えば目薬の形態に調剤されてもよい。注射又は局所使用に適切な組成物の製剤形態は、当業者には周知であろう。
イオン浸透療法は、本発明の作用物質を所望の組織に送達し得る別の経路を表している。眼のイオン浸透療法(例えば、Iomed, Inc.によって製造されているOcuPhorシステムを用いるような)は、作用物質が眼の内部に非侵襲的に導入され得るような方法を提供することができる。
【0018】
作用物質は、緩慢放出デバイス内又は遅延放出デバイス内に組み込まれていてもよい。そのようなデバイスは、例えば、皮膚上若しくは皮膚下に又は他の組織に(例えば、眼内に、特には眼の硝子体液内に;又は眼の近傍に)挿入されてもよく、また該化合物が数週間にわたって又は数ヶ月間かけて放出されてもよい。そのようなデバイスは、本発明の作用物質を用いる長期的な治療が必要とされる場合、また頻繁な投与が通常必要とされる場合に(例えば、少なくとも毎日の注射が必要とされる場合)、特に有利であり得る。
必要とされる作用物質の量は、生物学的活性、並びに投与の様式、使用される作用物質の物理化学的特性及び作用物質が単剤治療として使用されるのか又は併用療法に使用されるのかに順番に依存する生体利用効率によって決定されることは、理解されるであろう。投与の頻度も、上述する要因、特に治療を受ける対象者体内での作用物質の半減期によって、影響されるであろう。
投与される最適投薬量は、当業者により決定することができ、使用される特定の作用物質、製剤の力価、投与の様式及び疾患症状の進行に伴って変動するであろう。治療を受ける特定の対象者に依存する付加的な要因(例えば対象者の年齢、体重、性別、食餌及び投与時間が挙げられる)は、結果として投薬量を調整する必要があるであろう。
医薬業界により通常使用されているような既知の手法(例えば、生体内実験、臨床試験など)は、本発明の作用物質の具体的な製剤形態と適確な治療計画(例えば、該化合物の1日量及び投与の頻度など)とを確立するために用いることができる。
【0019】
一般的には、本発明の作用物質は、使用される具体的な作用物質に依存して、体重の0.01 μg/kg〜1.0 g/kgの1日量で、血管新生を阻害するのに使用され得る。より好ましくは、1日量が体重の0.01 mg/kg〜100 mg/kgである。
1日量は、単回投与として与えられてもよい(例えば、毎日1回の注射又は目薬の使用)。あるいは、使用される作用物質が、1日のうちに2又は3回以上の投与を必要としてもよい。一例として、本発明の作用物質は、10 μg〜500 mgの用量で毎日2回(又は症状の重度に依存して3回以上)目薬の形態で投与されてもよい。治療を受ける患者は、起床のときに第一の用量を服用して、次に第二の用量を夜に(2回投与計画の場合)又は服用後3〜4時間おきに間隔をあけて服用してもよい。あるいは、緩慢放出デバイスを使用して、反復する用量を投与する必要なしに、患者に最適用量を提供してもよい。
本発明の第三の観点によるこの発明は、治療上有効な量の本発明の第一又は第二の観点の作用物質を含む医薬組成物を提供し、前記医薬組成物は医薬として許容されるビヒクルを含んでもよい。ある態様では、本発明の作用物質の量は約0.01 mg〜約800 mgである。別の態様では、本発明の作用物質の量は約0.01 mg〜約500 mgである。また別の態様では、本発明の作用物質の量は約0.01 mg〜約250 mgである。また別の態様では、本発明の作用物質の量は約0.1 mg〜約100 mgである。また別の態様では、本発明の作用物質の量は約0.1 mg〜約20 mgである。
オプチシン1〜25 μg/mLの投与は、血管形成を阻害するために特に有効であることが見出された(実施例を参照)。オプチシンは1〜10 μg/mLの濃度で投与されてもよく、好ましくはオプチシンが1〜25 μg/mLの濃度で投与され得る。
オプチシン以外のクラスIIIのSLRPの好ましい用量は、実施例で使用するのと同様な方法を用いて決定できることは理解されるであろうが、そのような化合物は1〜25 μg/mLの濃度での投与が治療上の効果を達成し得ることが予見される。
【0020】
この発明は、治療上有効な量の本発明の作用物質と医薬として許容されるビヒクルとを混合することを含む、医薬組成物を製造する方法を提供する。「治療上有効な量」とは、本発明の第一の観点の作用物質の、対象者に投与された場合に血管新生を阻害する、いずれもの量である。「対象者」は、脊椎動物、哺乳動物、家畜又は人間である。
本明細書で参照される「医薬として許容されるビヒクル」とは、当業者に公知で、医薬組成物を調剤するのに有用な、いずれもの生理学上のビヒクルである。
好ましい態様では、医薬上のビヒクルが液体であり、医薬組成物が液剤の形態である。別の態様では、医薬上のビヒクルが固体であり、医薬組成物が散剤又は錠剤の形態である。更なる態様では、医薬上のビヒクルがゲルであり、医薬組成物がクリーム剤などの形態であり得る。
固体ビヒクルは、香味剤、滑沢剤、安定剤、懸濁剤、増量剤、滑剤(glidant)、圧縮助剤、結合剤又は錠剤崩壊剤としても役立ち得る1又は2以上の物質を含むこともでき、またカプセル化材料であってもよい。散剤では、ビヒクルは、細かく分かれた活性な作用物質と混合されている細かく分かれた固体である。錠剤では、活性な作用物質が、必要な圧縮特性を有するビヒクルと適切な割合で混合されて、所望の形状及びサイズに成形される。散剤及び錠剤は、好ましくは99%まで活性な作用物質を含む。適切な固体ビヒクルとしては、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖類、ラクトース、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリジン、低融点ワックス及びイオン交換樹脂が挙げられる。
【0021】
液体ビヒクルは、液剤、懸濁剤、乳濁剤、シロップ剤、エリキシル剤及び加圧組成物に使用される。活性な作用物質は、水、有機溶媒、それらの混合物、又は医薬として許容される油類若しくは油脂類のような医薬として許容される液体ビヒクル中に、溶解されても又は懸濁されてもよい。液体ビヒクルは、可溶化剤、乳化剤、緩衝剤、保存剤、甘味料、香味剤、懸濁剤、増粘剤、着色剤、粘度調整剤、安定剤又は浸透圧調整剤などの他の適切な医薬添加剤を含んでいてもよい。経口投与及び非経口投与に適する液体ビヒクルの例としては、水(部分的に上述する添加剤、例えばセルロース誘導体を含み、好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム溶液)、アルコール類(一価アルコール類及び多価アルコール類、例えばグリコール類を含む)及びそれらの誘導体、並びに油類(例えば、分留したココナツ油及びラッカセイ油)が挙げられる。非経口投与については、ビヒクルは、オレイン酸エチル及びミリスチン酸イソプロピルのような油性エステルであってもよい。無菌液体ビヒクルは、非経口投与用の無菌液剤形態の組成物に有用である。加圧組成物用の液体ビヒクルは、ハロゲン化炭化水素又は他の医薬として許容される推進体であってもよい。
無菌の溶液又は懸濁液である液状医薬組成物は、例えば、筋肉内、くも膜下腔内、硬膜外、腹腔内、皮下及び特に眼内の注射に利用され得る。無菌溶液は、静脈内に投与されてもよく、又は眼を灌注するために使用されてもよい。本発明の化合物は、投与時に滅菌水,生理食塩水又は他の適切な無菌注射用媒体を用いて溶解又は懸濁され得る、無菌固形組成物として調製されてもよい。ビヒクルは、必要且つ不活性な、結合剤、懸濁剤、滑沢剤、香味剤、甘味料、保存料、色素及びコーティング剤を含むように意図される。
【0022】
本発明の作用物質は、他の溶質類又は懸濁剤(例えば、溶液をイオン性にするのに十分な生理食塩水又はグルコース)、胆汁酸塩、アカシア、ゼラチン、ソルビタンモノオレエート、ポリソルベート80(エチレンオキシドと共重合されたソルビトールのオレイン酸エステル類及びその無水物)などを含む無菌の溶液又は懸濁液の形態で経口的に投与されてもよい。
本発明の作用物質は、液体又は固体いずれかの組成物の形態で経口的に投与されてもよい。経口投与に適する組成物としては、ピル、カプセル剤、顆粒剤、錠剤及び散剤などの固体形態、並びに溶液、シロップ剤、エリキシル剤及び懸濁剤などの液体形態が挙げられる。非経口投与に有用な形態としては、無菌の溶液、乳濁液及び懸濁液が挙げられる。
本発明の使用に適する作用物質がクラスIIIのSLRP(及びそれらの誘導体)をコードする作用物質をも包含することは、当業者には理解されるであろう。例えば、考えられる作用物質は、クラスIIIのSLRPをコードする核酸分子を含む。このような核酸は、例えば、E1/E3を除去したAd5ゲノムを含むプラスミド中、すなわちアデノウイルスベクター(アデノウイルス)に挿入したオプチシンのcDNAといった、適切なベクター中で投与されるのが好ましい。このようなベクター類は、遺伝子治療での用途に適切な作用物質を提供し得る。
【0023】
新たな血管形成が阻害できる並びに/又は、単球/マクロファージの活性化及び/若しくは遊走が阻害できる便利な方法は、遺伝子治療によって、本発明の前記のような作用物質をその活性が必要とされる部位に治療上有効な量で提供することであってもよい。
本発明の第四の観点によると、遺伝子治療技術での使用のために送達システムが提供され、その送達システムは本発明の作用物質をコードするDNA分子を含み、前記DNA分子が転写されて、選択された作用物質の発現をもたらすことができる。
本発明の第五の観点によると、血管形成の阻害に用いる医薬の製造に用いる、上記段落で規定される送達システムの使用が提供される。
本発明の第六の観点によると、血管形成を阻害する方法が提供され、その方法は、治療を必要とする患者に対して、本発明の第四の観点に規定される送達システムを治療上有効な量で投与することを含む。
遺伝コードの縮重のため、本発明の使用に適する作用物質をコードする核酸配列は、コードされている生成物の配列に実質的に影響することなく変動又は変化されて、機能的変種を提供し得る。本発明の使用に適する作用物質は、血管形成を阻害する能力、単球及び/又はマクロファージの活性及び/又は遊走を妨げる能力を保持するべきである。
【0024】
本発明の作用物質(クラスIIIのSLRP、それらの断片及び誘導体を含む)をコードする適切なヌクレオチドは、例えばサイレント変化の生成のように、配列内では同じアミノ酸をコードする別個のコドンの置換によって変更された配列を有するヌクレオチドを含む。他の適切な変種は、相同なヌクレオチド配列を有するが、その配列の全部又は一部が種々のコドンの置換によって変更されているものであり、前記コドンは、置換するアミノ酸に類似する生物物理的特性の側鎖を有するアミノ酸をコードして、保存的変化を生成する。例えば、小型で非極性の疎水性アミノ酸としては、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン及びメチオニンが挙げられる。大型で非極性の疎水性アミノ酸としては、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンが挙げられる。有極性の中性アミノ酸としては、セリン、トレオニン、システイン、アスパラギン及びグルタミンが挙げられる。正電荷を有する(塩基性)アミノ酸としては、リジン、アルギニン及びヒスチジンが挙げられる。負電荷を有する(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられる。
本発明の送達システムは、血管形成を阻害すること又は単球及び/若しくはマクロファージの遊走及び/若しくは活性を阻害することが望まれる部位で、通常の送達システムに可能である最長期間よりも長い期間にわたって、本発明の作用物質レベルの持続を達成するのに非常に適する。例えば、血管形成を阻害するのに適する本発明の作用物質は、新生血管の部位で連続的に発現されることができ、前記新生血管は、本発明の第五の観点で開示されるDNA分子でトランスフォームされた細胞によって阻害される。従って、本発明の作用物質がin vivoで非常に短い半減期を有していても、前記作用物質の治療上有効な量で処置された組織から、連続的に発現され得る。
【0025】
さらに、本発明の送達システムは、軟膏剤又はクリーム剤で必要とされるか、あるいは本発明に従って使用され得るような通常の医薬的ビヒクルを使用する必要なく、DNA分子を(また、それにより、本発明の作用物質を)提供するのに使用できる。
本発明の送達システムは、DNA分子が発現されて(送達システムが患者に投与されるときに)、血管形成を阻害する活性並びに/又は、単球及び/若しくはマクロファージの活性及び/若しくは遊走を妨げる活性を直接的又は間接的に有する本発明の作用物質を生成するものである。「直接的に」とは、遺伝子発現の産物それ自体が、必要な活性を有することを意味する。「間接的に」とは、遺伝子発現の産物が、少なくとも一つの更なる反応を受けて又は媒介して(例えば、酵素として)、必要な活性を有する活性な作用物質を提供することを意味する。
DNA分子は、適切なベクター内に収容されて、組換えベクターを形成し得る。ベクターは、例えばプラスミド、コスミド又はファージであってもよい。このような組換えベクターは、本発明の送達システムにおいて、該DNA分子を用いて細胞を形質転換するのに非常に有用である。
組換えベクターは、他の機能的エレメントを含んでいてもよい。一例を挙げると、組換えベクターは、ベクターが細胞の核内で自立的に複製するように設計され得る。この場合、組換えベクター中にDNAの複製を誘導するエレメントが必要とされてもよい。あるいは、組換えベクターが、ベクター及び組換えDNA分子が細胞のゲノム中に組み込まれるように設計され得る。この場合、DNA配列は、標的化した組込みに有利に働く(例えば、相同組換えによって)ものであることが望ましい。組換えベクターは、クローニング過程で選択マーカーとして使用され得る遺伝子をコードするDNAを有していてもよい。
【0026】
組換えベクターは、必要に応じて、遺伝子の発現を制御するプロモーター又はレギュレーターを更に含んでいてもよい。
DNA分子は、治療される対象者の細胞のDNAに組み込まれるものであってもよい(が、組み込まれることが必須ではない)。未分化細胞は、遺伝的に改変された娘細胞の産生をもたらすように、安定に形質転換され得る。このような場合は、例えば特異的な転写因子若しくは遺伝子アクチベータを用いて、又は、より好ましくは新たな血管形成の部位で特異的に認められるシグナルに応答して遺伝子を転写する誘導性プロモーターを用いて、対象者における発現の調節が必要とされてもよい。あるいは、送達システムが、治療される対象者の分化した細胞の不安定な又は一過性のトランスフォーメーションに有利に働くように設計されてもよい。この例では、トランスフォームした細胞が死んだ場合又はタンパク質の発現を停止した場合に(理想的には、必要な血管形成阻害がもたらされた場合に)該DNA分子の発現が停止するであろうことから、発現の調節は重要性が低くてもよい。
送達システムは、DNA分子をベクター中に組み込むことなく対象者に提供することができる。一例を挙げると、DNA分子は、リポソーム内又はウイルス粒子内に組み込まれていてもよい。あるいは、「裸の」DNA分子が、適切な手段、例えば直接的エンドサイトーシス取り込みによって、対象者の細胞に挿入されてもよい。
【0027】
DNA分子は、トランスフェクション、インフェクション、マイクロインジェクション、細胞融合、プロトプラスト融合又は弾道衝撃(ballistic bombardment)によって、治療される対象者の細胞に移動させられてもよい。例えば、コーティングした金粒子を用いる弾道トランスフェクション、DNA分子を含むリポソーム、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス)、及びプラスミドDNAの使用により直接的DNA取り込み(例えば、エンドサイトーシス)を提供する手段によって、血管形成が阻害される部位に、直接的に(例えば、局所的に又は注射によって)移動させられ得る。
DNA分子から発現される本発明の作用物質は、クラスIIIのSLRPであってもよく、又はその生物学的に活性な断片若しくは誘導体であってもよい。
本発明の方法は、血管形成又はマクロファージ及び/若しくは単球の活性及び/若しくは遊走を阻害できる本発明の作用物質の、細胞内発現の増加を誘導することによっても実現し得る。このような本発明の作用物質の治療的発現は、前記作用物質の天然に存在する発現(例えば、天然に存在するクラスIIIのSLRPの天然の発現)を増加させることによって達成されてもよく、前記作用物質の自然でない発現の誘導(例えば、クラスIIIのSLRPを天然に発現しない細胞による、クラスIIIのSLRP発現の誘導)によって達成されてもよく、又は前記作用物質の過剰発現の誘導によって達成されてもよい。オプチシンなどのクラスIIIのSLRPの内因性発現の増加は、オプチシンをコードする遺伝子の転写を増加し得る薬剤の投与によって容易に達成できることが理解されるであろう。
【0028】
本発明の第七の観点によると、血管形成を阻害する能力について被検化合物をスクリーニングする方法が提供され、その方法は、
(i) 被検化合物の非存在下で、クラスIIIのSLRPとクラスIIIのSLRPの基質との間の結合の度合いを評価する工程;
(ii) 被検化合物の存在下で、クラスIIIのSLRPとクラスIIIのSLRPの基質との間の結合の度合いを評価する工程;
(iii) 工程(i)で生じる結合の度合いを、工程(ii)で生じる結合の度合いと比較する工程;を含み、
ここで、工程(ii)で生じる結合の度合いが工程(i)で生じる結合の度合いよりも弱い場合は、被検化合物は血管形成を阻害することができる。
本発明の第八の観点によると、単球及び/又はマクロファージの活性及び/又は遊走を阻害する能力について被検化合物をスクリーニングする方法が提供され、その方法は、
(i) 被検化合物の非存在下で、クラスIIIのSLRPとクラスIIIのSLRPの基質との間の結合の度合いを評価する工程;
(ii) 被検化合物の存在下で、クラスIIIのSLRPとクラスIIIのSLRPの基質との間の結合の度合いを評価する工程;
(iii) 工程(i)で生じる結合の度合いを、工程(ii)で生じる結合の度合いと比較する工程;
を含み、
ここで、工程(ii)で生じる結合の度合いが工程(i)で生じる結合の度合いよりも弱い場合は、被検化合物は単球及び/又はマクロファージの活性及び/又は遊走を阻害することができる。
【0029】
基質は、ヘパリン若しくはヘパラン硫酸であってもよく、又は増殖因子、特にVEGF、FGFなどの血管新生増殖因子であってもよい。あるいは、基質は、クラスIIIのSLRPに結合される細胞受容体であってもよい。そのような受容体の例は、VEGF及びFGFに対する細胞受容体も含む。
オプチシンなどのクラスIIIのSLRPと同様の細胞受容体結合プロフィールを有する他の作用物質が、クラスIIIのSLRPに示されるものに類似する生物学的作用を有すると予測できることは、理解されるであろう。従って、本発明の更なる観点では、クラスIIIのSLRPと実質的に同じ受容体結合プロフィールを有する作用物質の、血管形成を阻害するための薬物の製造における使用を提供する。クラスIIIのSLRPと実質的に同じ受容体結合プロフィールを有する作用物質は、単球及び/又はマクロファージの過剰な活性及び/又は遊走によって特徴付けられる病状の予防及び/又は治療のための薬物の製造にも用いられ得る。
これら分子の生物学的ふるまいを媒介することにおけるクラスIIIのSLRPの受容体結合プロフィールの重要性の認識が、クラスIIIのSLRP活性を模倣できる(すなわち、血管形成又は単球及び/若しくはマクロファージの遊走及び/若しくは活性化を阻害することによって)作用物質を同定し得る方法を提供することは、理解されるであろう。
従って、本発明は、クラスIIIのSLRP活性を模倣できる被検化合物をスクリーニングする方法を提供し、その方法は、被検化合物の受容体結合プロフィールをクラスIIIのSLRPの受容体結合プロフィールと比較することを含み、ここでクラスIIIのSLRPと実質的に同じ受容体結合プロフィールを有することは、被検化合物がクラスIIIのSLRP活性を模倣できることを示す。
クラスIIIのSLRPに特有の受容体結合プロフィールは、当業者に周知の実験方法及びプロトコールを用いて、容易に決定することができる。
本発明は、次の実施例で、付属の図面に関連して、更に詳しく説明されるであろう。
【0030】
(実施例1:血管内皮細胞増殖に対するオプチシンの作用)
増殖因子及び組換え型オプチシンの存在下で、ウシ大動脈内皮細胞(BAEC)を用いて増殖アッセイを行った(その方法は、Slevin M, Kumar S, Gaffney J., "Angiogenic oligosaccharides of hyaluronan induce multiple signaling pathways affesting vascular endothelial cell mitogenic and wound healing responses." J. Biol. Chem. 2002. 277:41046-59に記載されている)。pCEP-Puベクターを用いて、ヒト胚性腎細胞で組換え型オプチシンの完全長を作製した(Le Goff et al., "Characterization of opticin and evidence of stable dimerisation in solution." J. Biol. Chem. 2003. 278:45280-7)。イオン交換及びレクチン親和性のクロマトグラフィの組合せを用いて、ならし培地からオプチシンを精製した。増殖アッセイのために、BSECを、6ウェルプレートに2×104/mLの濃度にて三連で播種した。接着の後、2.5%ウシ胎児血清を含む低血清培地中で培養した。幾つかのウェルでは、FGF-2、FGF-1(両方とも25 ng/mLにて)又はVEFGアイソフォーム(10 ng/mLにて)を含む増殖因子を添加する前に、細胞をオプチシン0.1〜10 μg/mLで1時間プレインキュベートした。続いて、これらの細胞を更に72時間インキュベートした。72時間後に、細胞を洗滌し、トリプシンを用いて細胞を剥がし、クールター計数器で計数した。
対照実験により、オプチシンは、これらの実験に用いた濃度では細胞への毒性が無いことが示された(データは示さず)。平均値は図3〜6に示されており、種々の血管新生促進増殖因子によって誘導された内皮細胞の増殖に対するオプチシンの作用を示している。
【0031】
図3:1はコントロール(すなわち、増殖因子もオプチシンも添加していない細胞)、2はコントロールにオプチシン10 μg/mLを添加したもの、3はFGF-2のみ、4はFGF-2にオプチシン0.1 μg/mLを添加したもの、5はFGF-2にオプチシン1 μg/mLを添加したもの、6はFGF-2にオプチシン10 μg/mLを添加したもの、7はFGF-2にオプチシン25 μg/mLを添加したものとした。オプチシンの濃度が増すにつれて、FGF-2誘導性細胞増殖がベースライン(コントロール)のレベルに向かって減少した。FGF-2のみの場合と比較して、オプチシンは1〜25 μg/mLの濃度でBAEC増殖の有意な低下を引き起こした。オプチシンは、25 μg/mLで95%を超えてFGF-2誘導性BAEC増殖を阻害した。
図4:FGF-2及びFGF-1によって誘導したBAEC増殖に対する、オプチシン10 μg/mLの作用を比較した。オプチシンの存在は、両方の増殖因子により誘導された増殖レベルをコントロールレベル近くまで低下させた。従って、オプチシンはFGF-1及びFGF-2の両方の誘導性増殖を阻害するのに同様に有効であることが示された。
図5:1はコントロール、2はVEGF、3はVEGFにオプチシン1 μg/mLを添加したもの、4はVEGFにオプチシン10 μg/mLを添加したものとした。オプチシンの濃度が増すにつれて、VEGF誘導性細胞増殖がベースライン(コントロール)レベルに向かって減少した。VEGFのみのものと比較して、オプチシンは1 μg/mL及び10 μg/mLの両濃度でBAEC増殖を有意に低下させ、またオプチシン10 μg/mLは90%を超えて増殖を阻害した。
図6:VEGF164及びVEGF120によって誘導されたBAEC増殖に対するオプチシン10 μg/mLの作用を比較した。オプチシンの存在は、両方の増殖因子によって誘導された増殖レベルをコントロールレベル近くまで低下させた。従って、オプチシンはVEGF120及びVEGF164の誘導性増殖を阻害するのに同様に有効であることが示された。
内皮細胞増殖の抑制により、本発明の作用物質が血管形成を阻害する効力を有することが示されることは、理解されるであろう。
【0032】
(実施例2:FGF-2及びVEGFによって誘導されたウシ大動脈内皮細胞(BAEC)の芽形成に対するオプチシンの作用)
オプチシンの存在下、0.1%ゼラチン/PBSでコーティングされているプレート上において、コンフレントなBAECが“管様”毛細血管の“芽”を形成する能力について調べた(Canfield AE and Schor AM., "Evidence that tenascin and thrombospondin-1 modulate sprouting of endothelial cells." J Cell Sci., 1995. 108:797-809に記載されている方法に基づいて)。このような出芽能力は、新たな血管形成のin vitroモデルを提供する。
手短にいうと、ちょうどコンフレントなBAECを収容している6ウェルプレートの三連の被覆ウェルに、2.5%FCS-DMEMを入れ、オプチシンで1時間処理し(0.1〜10 μg/mL)、FGF-2(25 ng/mL)又はVEGF(10 ng/mL)を添加してから、12日間インキュベートした。コントロールのウェルは、ビヒクルのみ(PBS)で処理した。実験の最後に、各ウェルから5つずつランダムな領域を位相差顕微鏡で写真撮影し(図7)、芽で覆われた面積を画像解析によって決定した。
図8:芽で覆われた平均面積のグラフ表示を示している。“コントロール”の値は、マイトジェン又はオプチシンを添加せず、12日後、出芽している細胞による被覆度の%を表している。“オプチシン”と表示した棒グラフは、芽形成に対するオプチシン単独での作用を示しており、コントロールと比べて有意な相違は示されなかった。増殖因子単独と比較して、芽形成の有意な減少が存在した棒グラフには、アスタリスクで標識した。オプチシンは10 μg/mLで、FGF-2誘導性細胞出芽を73%、VEGF誘導性出芽を70%減少させ、これによって、クラスIIIのSLRPであるオプチシンの新たな血管形成の減少における有効性が示された。
【0033】
(実施例3:FGF-2及びVEGFによって誘導されたウシ大動脈内皮細胞(BAEC)の遊走に対するオプチシンの作用)
使用した細胞層創傷アッセイ(cell-layer wounding assay)は、文献(Slevin M, Kumar S, Gaffney J., "Angiogenic oligosaccharides of hyaluronan induce multiple signaling pathways affecting vascular endothelial cell mitogenic and wound healing responses." J. Biol. Chem., 2002. 277:41046-59)に記載されている。BAECをプラスチックカバーグラス上でコンフレントになるまで培養し、次に5%FCSを含む培養液に入れた。更に24時間後、そのカバーグラスをPBS中で洗滌し、次にカミソリの刃を用いて細胞の層に傷をつけた。ウェルの幾つかにオプチシン(0.1〜10 μg/mL)を添加して、更に1時間インキュベートしておいた。次に、被検ウェルにFGF-2(25 ng/mL)又はVEGF(10 ng/mL)を添加し、そのプレートを37℃で24時間インキュベートした。インキュベーションの後、カバーグラスをPBS中でリンスし、100%エタノール中で固定した。裸になった領域への細胞の遊走は、コンピュータ画像解析システムを用いて定量化した。その面積を換算して、全く同じに処理した3つのカバーグラスから平均の%被覆度を得た。
図9:裸になった領域のBAECによる再被覆を図解する。“コントロール”の値は、マイトジェンもオプチシンも添加せずに24時間インキュベーションした後、細胞によって覆われた平均面積を表している。“オプチシン”と表示した棒グラフは、オプチシンのみの添加は、コントロールの未処理細胞の場合と比較して、細胞遊走に対する有意な作用を持たないことを示している。
“VEGF”及び“FGF-2”と表示した棒グラフは、これらの因子の(それぞれ、10 ng/mL及び25 ng/mLの濃度で添加した)細胞遊走に対する作用を示している。
“VEGF+オプチシン”及び“FGF-2+オプチシン”と表示した棒グラフは、増殖因子誘導性細胞遊走に対して、添加したオプチシン10 μg/mLの効果を示している。クラスIIIのSLRPであるオプチシンは、VEGF誘導性細胞遊走を53%、FGF-2誘導性細胞遊走を86%減少させた。この内皮細胞遊走の減少により、クラスIIIのSLRPの血管形成を阻害する能力が示された。
上述の結果を考慮すると、オプチシンのようなクラスIIIのSLRPは、様々な状況で内皮細胞の遊走を妨げることに使用できることが理解されるであろう。
【0034】
(実施例4:VEGF164及びFGF-2誘導性ERKリン酸化に対するオプチシンの作用)
MARK経路は血管内皮細胞の増殖及び遊走で重要な役割を果たすことから、ここでMARK経路を経由するシグナル伝達に対するオプチシンの作用について調べた。6ウェルプレートで48時間SPMの状態で培養したセミコンフレントなBAECを、10 μg/mLの濃度のオプチシンと1時間プレインキュベートしてから、FGF-2(25 ng/mL)又はVEGF164(10 ng/mL)のどちらかを添加した。5〜20分間のインキュベーションの後、全ての細胞上清を、放射性免疫沈降(RIPA)緩衝液(10 mM Tris-HCl(pH 7.5)、50 mM NaCl、0.5% w/vデオキシコール酸ナトリウム、0.5% v/v ノニデット(Nonidet)P40、0.1% w/v SDS、1 mM Na3VO4及び0.5% w/v アプロチニンを含む(Vainnika et al, 1994))に収集した。次に、この試料を遠心分離して(10,000 g、4℃で15分間)不溶性の細胞片を取り除き、使用するまで−70℃にて保存した。この細胞上清のタンパク質濃度をブラッドフォード(Bradford)アッセイ(Bio-Rad, California, USA)の変法を用いて決定し、等量のタンパク質(15 μg)を2×レムリ(Laemmli)サンプルバッファーと混合して、ボルテックスミキサーにかけて、水浴中で15分間煮沸した。製造元の指示に従って4〜12% Bis-Trisグラジエントゲル(Invitrogen)とMESシステムを用いて、SDS-PAGEを行った。次に、サンプルに、リン酸化ERK-1及び2、全ERK-1及び2並びにα-アクチンを認識する抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った。
図10:ウエスタンブロットにより、オプチシンでのBAECのプレインキュベーションがVEGF164及びFGF-2処理した細胞におけるERK1/2のリン酸化を誘導するVEGF164及びFGF-2両方の能力を低下させたことが実証された。全ERK-2及びα-アクチンを認識する抗体のプロービングによって、ゲルのレーンが同様に装填されたことを確かめた。
【0035】
(実施例5:ニワトリ漿尿膜(CAM)アッセイ)
一般に認められているプロトコールに従って、CAMアッセイを行った。手短に言うと、オプチシン1 μgの存在下又は非存在下のいずれかで血管新生増殖因子FGF-2を含むペレットを、8日目の卵の漿尿膜と接触させておいた。2日後、ペレットへ向かって成長している血管の数を数えて、存在する血管の数を分析した。
図11:標本画像は、FGF-2のみを含むペレットと比較して、より少ない数の新たな血管がFGF-2及びオプチシンを含むペレットに向かって成長していることを明らかに示している。このことにより、SLRPのクラスIIIのオプチシンは、新たな血管形成あるいは血管新生増殖因子の活性化に応答してin vivoで起こる他の事象を劇的に減少できることが明らかに証明された。
【0036】
(実施例6:血管新生に関与するインテグリンと相互作用するオプチシン)
多種多様なインテグリンを発現するA375-SMヒトメラノーマ細胞を用いて、細胞拡散(cell-spreading)アッセイを行った。この細胞を、組換え型ウシオプチシン又はBSA(ネガティブコントロール)、VCAM及び50 K、すなわち50 kDaフィブロネクチン断片(ポジティブコントロール)を含む対照物質に接した状態で蒔いた。その細胞を1時間拡散させておき、この時間のあいだBSAと接した状態での拡散は5%未満であった。これにより、この時間枠内で内因的に生じたリガンド上への拡散は検出されなかったことが示された。
図12:異なる濃度のオプチシンと接した状態での細胞拡散は用量応答性効果(dose-response effect)を示し、100 μg/mLの濃度にてオプチシンが被覆された場合の細胞拡散は約30%の最大拡散に達した。用量作用曲線を用いて(下記参照)、阻害アッセイのためのリガンドの最適被覆濃度(すなわち、オプチシンは35 μg/mL、VCAMは10 μg/mL及び50 Kは10 μg/mL)を決定した。
図13:インテグリンの機能遮断抗体に関連して、細胞拡散アッセイを行った。グラフは、種々の抗体の組合せに対してプロットした細胞拡散率を示している。H120は、ネガティブコントロールとして使用した無関係な抗体である。α4、α5及びαV抗体又はβ1及びβ3抗体を含む抗体の組合せはほぼ完全に拡散を阻害し、これらの結果を一まとめにして考えると、オプチシンはα4β1、α5β1、αVβ3と相互作用することが示唆できる。血管新生の間にα5β1及びαVβ3のインテグリンは血管内皮細胞によって発現されており、血管新生過程で重要な役割を果たす。いずれの仮説によっても拘束されることを望まないが、オプチシンのようなクラスIIIのSLRPのこれら血管新生インテグリンとの相互作用は、血管新生出芽に必要な細胞接着、拡散及び遊走を防止するのに役立ち、従って、新たな血管形成を妨げ得ると考えられている。加えて、オプチシンのこれらインテグリン類との相互作用は、インテグリン類を介して外部から内部へのシグナル伝達をもたらし、VEGF及びFGFの受容体を含む増殖因子受容体を介するシグナル伝達のダウンレギュレーションにつながると考えられている。
【0037】
(実施例7:FGF-1、FGF-2、VEGF164、VEGF120及びそれらの受容体に対するオプチシンの結合を分析する固相結合アッセイ)
受容体の可溶型細胞外ドメインは、R&D Systems Europe Ltdから入手した。
i) オプチシン結合アッセイ
手短に言うと、増殖因子受容体(FGF-R1、FGF-R2、VEGF-R1及びVEGF-R2(図14参照))並びに増殖因子(FGF-1、FGF-2、VEGF164及びVEGF120(図15参照))を2 μg/mLにて96ウェルプレート上を被覆した。次に、そのウェルを1%BSAでブロッキングした。PBS中で種々の濃度にてオプチシンをウェルに添加し、2時間インキュベートした。オプチシン特異的な抗体を用いて、結合したオプチシンを検出した。
図14:オプチシンは、VEGF-R1及びFGF-R2には用量作用依存的な様式で(in dose-response dependent manner)結合したが、VEGF-R2又はFGF-R1には結合しなかった。VEGF-R1については、見かけ上のKd(解離定数)21 nMが得られたが、FGF-R2については飽和に到達しなかったため、Kdを導くのが不可能であった。
オプチシンのVEGF-R1及びFGF-R2に対して結合する能力は、病理的な血管新生並びに単球及び/又はマクロファージの活性及び/又は遊走の両方に関係することから、その結合がオプチシンの活性を媒介するのに重要であることが示唆される。そのような受容体に対するオプチシンの結合は、生物学的に活性なリガンドの結合を妨げ、よって、それらリガンドが誘導し得る活性及び/又は遊走のレベルを低下させ得る。
図15:オプチシンは、FGF-2及びVEGF164には用量作用依存的な様式で結合したが、FGF-1又はVEGF120には結合しなかった。FGF-2については34 nM、VEGF164については42 nMの見かけ上の解離定数(Kd)が導かれた。
【0038】
ii) 競合アッセイ
オプチシンは固相実験でVEGF-R2及びFGF-R1に結合しなかったため、この各受容体とVEGF164及びFGF-2それぞれとの間の相互作用をオプチシンが阻害するかどうかを調べた。2 μg/mLの(A)FGF-R1又は(B)VEGF-R2を用いてウェルをコーティングし、次いで1%BSAでブロッキングした後、ウェルを種々の濃度のオプチシンと混合した0.2 μg/mLの(A)FGF-2又は(B)VEGF164とインキュベートして、競合アッセイを行った。受容体に結合している増殖因子を、特異的な抗体を用いて検出した。
図16:オプチシンは、FGF-2とFGF-R1との間の相互作用(A)及びVEGF164とVEGF-R2との間の相互作用(B)を用量依存的な様式で阻害した。従って、両方の場合で、増殖因子に対するオプチシンの結合が増殖因子とその受容体との間の相互作用を阻害した。
【0039】
iii) 結論
これらの結果は、クラスIIIのSLRPが内皮細胞の増殖、遊走及び芽形成を阻害できることを示している。内皮細胞の増殖、遊走及び芽形成は全て血管新生過程の必須要素であることから、当業者はクラスIIIのSLRPが血管新生を阻害することを理解するであろう。更に、オプチシンがCAMアッセイにおいて血管新生を阻害し、従ってオプチシンのin vivoでの抗血管新生作用の証拠を提供している。
クラスIIIのSLRPであるオプチシンは、複数のメカニズムを介して、血管新生に関与する過程を阻害する。オプチシンは、増殖因子FGF-1、FGF-2、VEGF164及びVEGF120の血管新生促進作用を阻害する。VEGF164及びFGF-2の場合、オプチシンは、増殖因子に結合すること並びに増殖因子とそれらの受容体との間の相互作用を阻害することにより、直接作用する。しかしながら、オプチシンは、オプチシンが結合しない増殖因子(FGF-1及びを含む)の刺激作用の阻害に有効であるように、他のメカニズムを介しても血管新生を阻害する。オプチシンが血管新生を阻害するのに介する他のメカニズムは、VEGF-R1及びFGF-R2による増殖因子受容体との直接的相互作用を介することによって、前記受容体に媒介される生物学的活性を低下させるもの、並びに、血管新生に関与するインテグリン類(αVβ3及びα5β1を含む)との相互作用によって、インテグリン-リガンド結合及び/又は外部から内部へのシグナル伝達に影響を及ぼして、増殖因子受容体を介するシグナル伝達を間接的に抑制するものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】成熟型のヒトオプチシン、ウシオプチシン、ヒトエピフィカン及びヒトミメカンの完全長アミノ酸配列を示し、またヒトのクラスIIIのSLRP類のロイシンリッチリピート領域間のアミノ酸アラインメントも図示する。
【図2】パネル2aでは、メタロプロテイナーゼMMP2又はMMP9を用いた消化によって遊離されるウシオプチシンNH末端断片のアミノ酸配列を、パネル2bでは、ヒトオプチシン及びウシオプチシンの好ましい断片のアミノ酸配列を、パネル2cでは、異なる種由来のオプチシンNH末端配列間のアミノ酸アラインメントを示す。
【図3】実施例1において、クラスIIIのSLRPであるオプチシンが塩基性繊維芽細胞増殖因子(FGF-2)により誘導された血管内皮細胞増殖を阻害することを示すグラフを表す。
【図4】酸性又は塩基性のFGFにより誘導された内皮細胞増殖に対するオプチシンの作用を、図表を用いて示す。
【図5】実施例1において、クラスIIIのSLRPであるオプチシンが血管内皮増殖因子(VEGF)により誘導された血管内皮細胞増殖を阻害することを示すグラフを表す。
【図6】VEGF164又はVEGF120により誘導された内皮細胞増殖に対するオプチシンの作用を、図表を用いて示す。
【図7】実施例2において、クラスIIIのSLRPであるオプチシンがFGF-2により誘導されるBAECの芽/管形成を阻害することを示す代表的な写真を示す。
【図8】実施例2における、クラスIIIのSLRPであるオプチシンの血管内皮細胞の芽/管形成を阻害する能力を研究する実験の結果を示す。
【図9】実施例3における、クラスIIIのSLRPであるオプチシンの内皮細胞遊走を阻害する能力を研究する実験の結果を示す。
【図10】実施例4において、クラスIIIのSLRPであるオプチシンの存在がVEGF164又はFGF-2刺激された細胞でのERK-1/2リン酸化を低下させることを示す。
【図11】実施例5のヒヨコ漿尿膜(CAM)アッセイにおいて、クラスIIIのSLRPであるオプチシンがFGF-2誘導性血管形成を阻害できることを示す。
【図12】実施例6における、クラスIIIのSLRPであるオプチシンの細胞拡散に対する作用を示す。
【図13】実施例6における、クラスIIIのSLRPであるオプチシン及び機能遮断インテグリン抗体の細胞拡散に対する作用を示す。
【図14】クラスIIIのSLRPであるオプチシンの血管新生増殖因子受容体に対する結合を示す。
【図15】クラスIIIのSLRPであるオプチシンの血管新生増殖因子に対する結合を示す。
【図16】実施例7において、クラスIIIのSLRPであるオプチシンが、血管新生増殖因子の血管新生増殖因子受容体に対する結合を阻害できることを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラスIIIのSLRPの活性を促進する作用物質の、血管形成を阻害するための医薬品の製造における使用。
【請求項2】
作用物質がクラスIIIのSLRPである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
作用物質が以下の(a)〜(f)を含む群より選択される、請求項1又は2に記載の使用:
(a)オプチシン;
(b)エピフィカン;
(c)オステオグリシンとしても知られる、ミメカン;
(d)前記(a)〜(c)のいずれかのエレメントを含むキメラ分子;
(e)前記(a)〜(d)のいずれかの改変型;及び
(f)前記(a)〜(e)のいずれかの生物学的に活性な断片若しくは誘導体。
【請求項4】
生物学的に活性な断片がN末端断片である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
生物学的に活性な断片がロイシンリッチリピート断片である、請求項3に記載の使用。
【請求項6】
誘導体が増加したin vivoでの半減期を有する、請求項3に記載の使用。
【請求項7】
誘導体がペプトイド誘導体である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
誘導体がD-アミノ酸誘導体である、請求項6に記載の使用。
【請求項9】
誘導体がペプチド-ペプトイド混成誘導体である、請求項6に記載の使用。
【請求項10】
過剰な血管形成によって特徴付けられる病気を治療及び/又は予防するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
病気が癌、乾癬及び創傷治癒を含む群より選択される、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
病気が眼の血管増殖性網膜症である、請求項10に記載の使用。
【請求項13】
血管増殖性網膜症が、増殖性糖尿病性網膜症、‘湿潤型’黄斑変性、又はいずれか他の脈絡膜新生血管若しくは一次硝子体過形成遺残の形成である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
病気が炎症性の病気である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
炎症性の病気がブドウ膜炎及び/又は関節炎である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
クラスIIIのSLRPの活性を促進する作用物質の、単球及び/又はマクロファージの過剰な活性及び/又は遊走によって特徴付けられる病気を予防及び/又は治療するための医薬品の製造における使用。
【請求項17】
作用物質が請求項2〜9のいずれか1項に規定される作用物質である、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
クラスIIIのSLRP、クラスIIIのSLRPの改変型、又はそれらの生物学的に活性な断片若しくは誘導体の、医薬としての使用。
【請求項19】
クラスIIIのSLRPがオプチシンである、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
クラスIIIのSLRPがエピフィカンである、請求項18に記載の使用。
【請求項21】
クラスIIIのSLRPがミメカンである、請求項18に記載の使用。
【請求項1】
クラスIIIのSLRPの活性を促進する作用物質の、血管形成を阻害するための医薬品の製造における使用。
【請求項2】
作用物質がクラスIIIのSLRPである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
作用物質が以下の(a)〜(f)を含む群より選択される、請求項1又は2に記載の使用:
(a)オプチシン;
(b)エピフィカン;
(c)オステオグリシンとしても知られる、ミメカン;
(d)前記(a)〜(c)のいずれかのエレメントを含むキメラ分子;
(e)前記(a)〜(d)のいずれかの改変型;及び
(f)前記(a)〜(e)のいずれかの生物学的に活性な断片若しくは誘導体。
【請求項4】
生物学的に活性な断片がN末端断片である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
生物学的に活性な断片がロイシンリッチリピート断片である、請求項3に記載の使用。
【請求項6】
誘導体が増加したin vivoでの半減期を有する、請求項3に記載の使用。
【請求項7】
誘導体がペプトイド誘導体である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
誘導体がD-アミノ酸誘導体である、請求項6に記載の使用。
【請求項9】
誘導体がペプチド-ペプトイド混成誘導体である、請求項6に記載の使用。
【請求項10】
過剰な血管形成によって特徴付けられる病気を治療及び/又は予防するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
病気が癌、乾癬及び創傷治癒を含む群より選択される、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
病気が眼の血管増殖性網膜症である、請求項10に記載の使用。
【請求項13】
血管増殖性網膜症が、増殖性糖尿病性網膜症、‘湿潤型’黄斑変性、又はいずれか他の脈絡膜新生血管若しくは一次硝子体過形成遺残の形成である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
病気が炎症性の病気である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
炎症性の病気がブドウ膜炎及び/又は関節炎である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
クラスIIIのSLRPの活性を促進する作用物質の、単球及び/又はマクロファージの過剰な活性及び/又は遊走によって特徴付けられる病気を予防及び/又は治療するための医薬品の製造における使用。
【請求項17】
作用物質が請求項2〜9のいずれか1項に規定される作用物質である、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
クラスIIIのSLRP、クラスIIIのSLRPの改変型、又はそれらの生物学的に活性な断片若しくは誘導体の、医薬としての使用。
【請求項19】
クラスIIIのSLRPがオプチシンである、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
クラスIIIのSLRPがエピフィカンである、請求項18に記載の使用。
【請求項21】
クラスIIIのSLRPがミメカンである、請求項18に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2007−502855(P2007−502855A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530541(P2006−530541)
【出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002269
【国際公開番号】WO2004/105784
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(502159538)ザ ユニヴァーシティー オブ マンチェスター (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002269
【国際公開番号】WO2004/105784
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(502159538)ザ ユニヴァーシティー オブ マンチェスター (1)
【Fターム(参考)】
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