血管径測定装置
【課題】正確な血管の径を測定できる血管径測定装置を提供する。
【解決手段】3つの超音波アレイ11から超音波が発信されてから血管で反射して超音波アレイ11に到達するまでの到達時間に基づいて血管の外径及び内径を算出する制御回路とを備える。制御回路は、超音波が血管の中心を通過するように超音波の発信角度を制御する信号遅延回路と、血管で反射されて、最も早く超音波アレイ11に到達する第1反射波の第1到達時間、及び第1到達時間から所定時間経過後に超音波アレイ11に到達した第2反射波の第2到達時間を測定する受信計測部と、3つの第1反射波の第1到達時間に基づいて血管の外径Rを算出する外径算出部と、3つの第2反射波の第2到達時間に基づいて血管の内径rを算出する内径算出部とを備える。
【解決手段】3つの超音波アレイ11から超音波が発信されてから血管で反射して超音波アレイ11に到達するまでの到達時間に基づいて血管の外径及び内径を算出する制御回路とを備える。制御回路は、超音波が血管の中心を通過するように超音波の発信角度を制御する信号遅延回路と、血管で反射されて、最も早く超音波アレイ11に到達する第1反射波の第1到達時間、及び第1到達時間から所定時間経過後に超音波アレイ11に到達した第2反射波の第2到達時間を測定する受信計測部と、3つの第1反射波の第1到達時間に基づいて血管の外径Rを算出する外径算出部と、3つの第2反射波の第2到達時間に基づいて血管の内径rを算出する内径算出部とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて生体内の血管の径を測定する血管径測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波を用いて生体内の血管の径を測定する測定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1の測定装置では、血管の軸方向と交差する方向に第1アレイ及び第2アレイが設けられた超音波プローブを備える。各アレイは、それぞれ複数の超音波素子を有する。そして、各アレイにおいて、複数の超音波素子は、超音波を互いに平行となるように血管に発信し、血管で反射された超音波を受信している。これにより、超音波の発信から受信までの時間を計測して、この時間に基づいて血管の径を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4441664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、超音波素子から超音波が血管の壁面に対して直交方向に発信される場合には、血管の壁面で反射される超音波の強度は低下することがなく、超音波素子は反射された超音波を正確に受信できる。しかしながら、特許文献1のような測定装置では、超音波が互いに平行となるように血管の壁面に発信されるため、血管の中心を通る超音波以外は、血管の壁面に対して直交せずに発信されることとなる。このため、血管の壁面に対して直交せずに発信された超音波は、血管の壁面で反射される超音波の強度が低下し、超音波素子は反射された超音波を正確に受信できない。これにより、正確な血管の径を測定できないおそれがある。
また、血管壁の肉厚部分が薄い場合や血管が収縮している場合には、反射された超音波が血管の内壁または外壁のいずれで反射されたものか判別できないため、正確な血管の径を算出できないおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、正確な血管の径を測定できる血管径測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の血管径測定装置は、生体に接触するプローブに設けられた少なくとも3つの超音波アレイと、前記超音波アレイから超音波が発信されてから前記生体内の血管で反射して前記超音波アレイに到達するまでの到達時間に基づいて前記血管の外径及び内径を算出する制御回路とを備え、前記超音波アレイは、複数の超音波素子が走査方向に沿って一方向に配設されたライン状アレイ構造を有し、前記制御回路は、前記各超音波素子から超音波を発信するタイミングを遅延させることで、前記超音波アレイから発信される超音波が前記血管の中心を通過するように超音波の発信角度を制御する発信角度制御部と、前記各超音波アレイから発信された超音波が前記血管で反射されて、最も早く前記超音波アレイに到達する第1反射波の第1到達時間を測定する第1反射波測定部と、前記第1到達時間を基準として設定される所定時間の範囲内に前記超音波アレイに到達した第2反射波の第2到達時間を測定する第2反射波測定部と、前記各超音波アレイに到達する少なくとも3つの前記第1反射波の前記第1到達時間に基づいて前記血管の外径を算出する外径算出部と、前記各超音波アレイに到達する少なくとも3つの前記第2反射波の前記第2到達時間に基づいて前記血管の内径を算出する内径算出部とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、超音波が血管の中心を通過するように、超音波の発信角度を制御する発信角度制御部を備えるので、血管の壁面に対して直交する方向に確実に超音波を発信させることができ、前述した従来のような反射波の強度の低下を防止することができ、確実に反射波を受信できる。
また、超音波の発信後、受信するまでの時間が最短となる第1反射波の第1到達時間を測定する第1反射波測定部、及び第1到達時間を基準として設定される所定時間の範囲内に超音波アレイに到達した第2反射波の第2到達時間を測定する第2反射波測定部を備える。ここで、第1反射波は、超音波アレイから最も近い位置の血管の外壁で反射した超音波である。そして、「所定時間の範囲内に超音波アレイに到達した第2反射波」とは、第1反射波の次に血管の内壁で反射する反射波を受信すると予測される時間を経過した後から超音波アレイから最も遠い血管の外壁で反射した反射波を受信すると予測される時間までの範囲内に超音波アレイに到達した反射波である。
これによれば、例えば、第1反射波の次に血管の内壁で反射する反射波、及び超音波アレイから最も遠い血管の外壁で反射した反射波を受信することを除くことができ、第1反射波、及び所定時間後に到達した第2反射波を確実に区別して受信することが可能となる。従って、超音波の血管での所望の反射位置をより正確に検出することができる。
そして、外径算出部は、第1反射波の第1到達時間から検出された少なくとも3つの反射位置の座標に基づいて、血管の外径を正確に算出できる。また、内径算出部は、第2反射波の第2到達時間から検出された少なくとも3つの反射位置の座標に基づいて、血管の内径を正確に算出できる。
【0008】
本発明の血管径測定装置では、前記制御回路は、少なくとも2つの前記超音波アレイから前記発信角度制御部により制御されて超音波の発信角度毎に発信された各超音波のうち、前記血管で反射されて最も遅く前記超音波アレイに到達する少なくとも2つの反射波の最遅到達時間、及び前記最遅到達時間となるように発信された各超音波の各発信角度に基づいて、前記血管の中心位置を推定する中心位置推定部を備えることが好ましい。
【0009】
本発明によれば、中心位置推定部は、少なくとも2つの超音波アレイから発信された超音波が最も遅く超音波アレイに到達する少なくとも2つの反射波の最遅到達時間、及びこの際の各超音波の各発信角度に基づいて、血管の中心位置を推定するので、3つの超音波アレイを用いて中心位置を推定する場合と比べると、処理速度を向上させることができる。
【0010】
本発明の血管径測定装置では、前記第2反射波測定部は、前記第1反射波から前記第2反射波までの間に反射波の未振幅期間が少なくとも1つあるか否かを判定することが好ましい。
【0011】
本発明によれば、第2反射波測定部は第1反射波から第2反射波までの間に未振幅期間が少なくとも1つあるか否かを判定するので、例えば、第1反射波と第2反射波とが連続しているような反射波を検出することができる。これによれば、第2反射波測定部は、反射波が連続していることを検出すると、未振幅期間を検出するまで、超音波を発信して反射波を測定するようにすれば、第1反射波の反射位置、及び第2反射波の反射位置を明確に特定することができ、血管の径の正確な測定をすることができる。
【0012】
本発明の血管径測定装置では、前記外径算出部は、前記第1反射波の前記血管における少なくとも3点の反射位置の座標に基づいて、前記血管の外径を算出するとともに前記血管の中心座標を算出し、前記内径算出部は、前記第2反射波の前記血管における少なくとも3点の反射位置の座標に基づいて、前記血管の内径を算出するとともに前記血管の中心座標を算出し、前記制御回路は、前記各中心座標のずれ量が所定の閾値を超えているか否かを判定し、前記閾値を超えている場合には、警告を出力する警告出力部を備えることが好ましい。
【0013】
ところで、血管が収縮したり、またプローブを生体に密着しすぎて血管の形状が円形状となっていない場合には、外径算出部で算出した中心座標と、内径算出部で算出した中心座標とが異なるおそれがある。
そこで、本発明によれば、各中心座標のずれ量を所定の閾値と比較する警告出力部を備え、この警告出力部は、ずれ量が閾値を超えている場合には警告を出力する。これによれば、例えば、利用者が警告を受けた後に、プローブを検査対象位置に再度取り付け直しなどしてから再測定して、各中心座標のずれ量が閾値より小さくなるまで行うことで、より正確な血管の中心座標を求めることができ、正確な血管の径の測定が可能となる。
【0014】
本発明の血管径測定装置では、前記制御回路は、少なくとも2つの前記超音波アレイから前記発信角度制御部により制御されて超音波の発信角度毎に発信された各超音波のうち、前記血管で反射されて最も遅く前記超音波アレイに到達する少なくとも2つの反射波の最遅到達時間、及び前記最遅到達時間となるように発信された超音波の発信角度に基づいて、前記血管の中心位置を推定する中心位置推定部と、前記中心位置推定部で推定された前記血管の中心推定位置と、前記外径算出部及び前記内径算出部で算出される中心座標とのずれ量が前記閾値を超えているか否かを判定し、前記閾値を超えている場合には、警告を出力する警告出力部とを備えることが好ましい。
【0015】
本発明によれば、警告出力部は、推定された血管の中心推定位置と、外径算出部及び内径算出部で算出される中心座標とのずれ量を比較し、ずれ量が閾値を超えている場合には警告を出力する。この場合には前述と同様に、プローブを取り付け直して、再測定することで、より正確な血管の中心座標を求めることができ、正確な血管の径の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る本実施形態の血管径測定装置の外観を示す図。
【図2】前記実施形態のプローブの概略構成を示す平面図。
【図3】前記実施形態の超音波アレイを拡大した拡大平面図、及びその断面図。
【図4】前記実施形態の各超音波素子に入力する駆動信号を、△tだけ順に遅延させて、入力した際の超音波の発信角度を示す図。
【図5】前記実施形態の超音波アレイのスキャンエリアを示す図。
【図6】前記実施形態の血管径測定装置の概略構成を示すブロック図。
【図7】前記実施形態の超音波アレイから発信された超音波の反射波を示す図。
【図8】前記実施形態の各超音波アレイから血管の中心位置を通る超音波を模式的に示す図。
【図9】前記実施形態の測定制御部の概略構成を示すブロック図。
【図10】前記実施形態の血管径測定装置の測定処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する
【0018】
[1.血管径測定装置の概略構成]
図1は、本実施形態の血管径測定装置1の外観を示す図である。
血管径測定装置1は、図1に示すように、装置本体2と、装置本体2を人体などの生体に装着するためのバンド3とを備える。そして、この血管径測定装置1は、装置本体2の裏面に対して生体を接触させた状態で、バンド3を締めることで生体に装着されて、生体内の血管の外径及び内径を測定する。
【0019】
[2.装置本体の構成]
装置本体2は、図1に示すように、直方体状の筐体21を備え、装置本体2の裏面側には、センサー窓22が形成され、このセンサー窓22には、生体に密着されるプローブ23が設けられている。また、装置本体2には、プローブ23の他、制御回路4(図6参照)が設けられている。
プローブ23は、上述したように、血管径測定装置1により生体内の血管の外径及び内径を測定する際に、生体に密着される。
また、装置本体2の表面側には、特に図示を省略したが、血管径測定装置1を操作する操作部や測定結果を表示する表示部などが設けられている。
【0020】
[2−1.プローブの構成]
図2は、本実施形態のプローブ23の概略構成を示す平面図である。
プローブ23は、図2に示すように、シリコン(Si)などで形成された矩形状の基板10を備える。この基板10には、平面中心位置を通って、基板10の長辺(バンド3の基端側が取り付けられていない側の辺)に沿う方向に3つの超音波アレイ11(11A,11B,11C)が設けられる。この超音波アレイ11は、複数の超音波素子12を備え、これら複数の超音波素子12を走査方向Aに沿う一方向に配設したライン状アレイ構造(1次元アレイ構造)を有している。そして、血管径の測定の際、プローブ23は、各超音波素子12の配設方向が血管の軸方向に直交するように生体に密着される。
【0021】
図3は、超音波アレイ11を拡大した拡大平面図(図3(A))、及び拡大断面図(図3(B))である。
超音波アレイ11を構成する超音波素子12は、ダイアフラム13と、ダイアフラム13上に形成される圧電体14とを備える。なお、ダイアフラム13及び圧電体14の構成の説明については後述する。
ここで、基板10には、長辺に沿う方向に平面視円形状の複数の開口部101が形成される。また、基板10には、支持膜15が積層されて、開口部101が支持膜15により閉塞されている。
【0022】
支持膜15は、例えばSiO2膜とZrO2層との2層構造により構成される。ここで、SiO2層は、基板10がSi基板である場合、基板表面を熱酸化処理することで成膜することができる。また、ZrO2層は、SiO2層上に例えばスパッタリングなどの手法により成膜される。
【0023】
ダイアフラム13は、支持膜15のうち、開口部101を閉塞する領域により構成される。そして、ダイアフラム13は、開口部101から、超音波素子12の超音波出力方向(図3(B)中、紙面下方向)の空間に対して露出している。
【0024】
圧電体14は、支持膜15の上層に積層される下部電極141と、下部電極141上に形成される圧電膜142と、圧電膜142上に形成される上部電極143とを備える。
下部電極141には、図3(A)に示すように、支持膜15上で走査方向Aに対して直交する方向に沿って延出する下部電極線141Aが接続されている。この下部電極線141Aは、各超音波素子12に対して、それぞれ独立して設けられている。
上部電極143には、支持膜15上の走査方向Aに沿って延出する上部電極線143Aが接続されている。この上部電極線143Aは、1つの超音波アレイ11において共通電極線となる。すなわち、上部電極線143Aは、図3に示すように、隣り合う超音波素子12の上部電極143に接続されており、端部において、例えばGNDに接続されている。これにより、各超音波素子12の上部電極143がアースされることになる。
【0025】
圧電膜142は、例えばPZT(ジルコン酸チタン酸鉛:lead zirconate titanate)を膜状に成膜することで形成される。なお、本実施形態では、圧電膜142としてPZTを用いるが、電圧を印加することで、面内方向に収縮することが可能な素材であれば、いかなる素材を用いてもよく、例えばチタン酸鉛(PbTiO3)、ジルコン酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb、La)TiO3)などを用いてもよい。
【0026】
このような超音波素子12では、下部電極141と、上部電極143とに電圧を印加することで、圧電膜142が面内方向に伸縮する。このとき、圧電膜142の一方の面は、下部電極141を介して支持膜15に接合されるが、他方の面には、上部電極143が形成されるものの、この上部電極143上には他の層が積層形成されないため、圧電膜142の支持膜15側が伸縮しにくく、上部電極143側が伸縮し易くなる。このため、圧電膜142に電圧を印加すると、開口部101側に凸となる撓みが生じ、ダイアフラム13を撓ませる。したがって、圧電膜142に交流電圧を印加することで、ダイアフラム13が膜厚方向に対して振動し、このダイアフラム13の振動により超音波が発信される。
また、超音波素子12で超音波を受信する場合、超音波がダイアフラム13に入力されると、ダイアフラム13が膜厚方向に振動する。超音波素子12では、このダイアフラム13の振動により、圧電膜142の下部電極141側の面と上部電極143側の面とで電位差が発生し、上部電極143および下部電極141から圧電膜142の変位量に応じた受信信号(電流)が出力される。
【0027】
図4は、各超音波素子12A〜12Dに入力する駆動信号を、△tだけ順に遅延させて、入力した際の超音波の発信方向(発信角度)を示す図である。
本実施形態における超音波素子12が走査方向Aに沿って複数配置される超音波アレイ11では、各超音波素子12から超音波を発信させるタイミングを遅延させてずらすことで、所望の方向に超音波の平面波を発信することが可能となる。
各超音波素子12から超音波を発信させると、これらの超音波が互いに強めあう合成波面Wが形成されて伝搬される。ここで、図4に示すように、配設間隔がdに設定された各超音波素子12A〜12Dへ入力する駆動信号を△tだけ遅延させると、先に駆動信号が入力された超音波素子12から発信される超音波の波面と、後に駆動信号が入力された超音波素子12から発信される波面とで、位相が異なるため、合成波面Wが走査方向Aに対して傾斜して伝搬される。
【0028】
この時、合成波面Wの伝搬方向と、走査方向Aに直交する方向との発信角度をθs、音速をcとすると、次式(1)の関係が成立する
【0029】
【数1】
【0030】
図5は、1つの超音波アレイ11のスキャンエリアSareaを示す図である。
超音波アレイ11は、上述のように、各超音波素子12に入力する駆動信号のタイミングを遅延させることで、超音波の発信角度を変化させることができる。ここで、超音波アレイ11は、ライン状アレイ構造(1次元アレイ構造)を有しているため、超音波の発信角度は、図5に示すように、走査方向Aを通り、基板10に対して直交するスキャン面Sに制限され、スキャン面Sに対して交差する方向に発信角度を変化させることはできない。これにより、超音波アレイ11のスキャンエリアSareaは、走査方向Aを通り、基板10に対して直交するスキャン面S内に形成される。そして、血管がスキャンエリアSareaを通過するように、プローブ23を生体に密着させておけば、超音波アレイ11からスキャンエリアSareaに超音波を発信させて、血管で反射された超音波を受信することで、血管とスキャンエリアSareaとの交点を検出することが可能となる。
【0031】
[2−2.制御回路の構成]
図6は、本実施形態の血管径測定装置1の概略構成を示すブロック図である。
制御回路4は、超音波アレイ切替回路41と、受発信切替回路42と、超音波モード切替制御部43と、超音波信号発信回路44と、信号遅延回路45(発信角度制御部)と、受信計測部46(第1反射波測定部、第2反射波測定部)と、遅延時間計算部47と、記憶部48と、測定制御部49とを備える。
【0032】
超音波アレイ切替回路41は、プローブ23に設けられる3つの超音波アレイ11のうち、駆動させる超音波アレイ11を切り替えるスイッチング回路である。
本実施形態の血管径測定装置1では、1つの超音波アレイ11から超音波の受発信が実施されている間、他の超音波アレイ11への駆動信号の出力、および他の超音波アレイ11からの受信信号の受信は実施しない。これにより、駆動対象となった超音波アレイ11では、他の超音波アレイ11から発信された超音波を受信してしまい、ノイズが検出される不都合や、駆動対象以外の超音波アレイ11から受信信号が検出されてしまう不都合を回避できる。
この超音波アレイ切替回路41は、例えば、各超音波アレイ11の下部電極線141Aおよび上部電極線143Aに接続される端子群を備え、測定制御部49から入力されるアレイを選択する旨の切替制御信号に基づいて、切替制御信号に基づいた超音波アレイ11に対応した端子群と、受発信切替回路42とを接続する。また、駆動させない超音波アレイ11に対応した端子群は、例えば、下部電極線141Aおよび上部電極線143Aの双方をGNDに接続するなどすることで、駆動させない構成としてもよい。
【0033】
受発信切替回路42は、超音波モード切替制御部43から入力されるモード切替信号に基づいて、接続状態を切り替えるスイッチング回路である。
具体的には、超音波モード切替制御部43から超音波発信モードに切り替える旨の制御信号が入力された場合、受発信切替回路42は、信号遅延回路45から入力された駆動信号を、超音波アレイ切替回路41に出力可能な接続状態に切り替わる。一方、受発信切替回路42は、超音波モード切替制御部43から超音波受信モードに切り替える旨の制御信号が入力された場合、超音波アレイ切替回路41から入力される受信信号を受信計測部46に出力可能な接続状態に切り替わる。
【0034】
超音波モード切替制御部43は、超音波アレイ11から超音波を発信させる超音波発信モードと、超音波アレイ11にて超音波を受信させる超音波受信モードとを切り替える。
具体的には、超音波モード切替制御部43は、測定制御部49から血管の径の測定を開始する旨の制御信号が入力されると、まず、超音波発信モードに切り替える処理を実施する。この処理では、超音波モード切替制御部43は、受発信切替回路42に、発信モードに切り替える旨の制御信号を出力し、超音波信号発信回路44から駆動信号を出力させる旨の制御信号を出力する。
また、超音波モード切替制御部43は、図示しない計時部(タイマー)により計測される時間を認識し、超音波発信モードから所定の発信時間経過後に、超音波受信モードに切り替える処理を実施する。ここで発信時間は、超音波アレイ11から例えば1〜2周波数のバースト波が発信される時間程度に設定されていればよい。受信モードでは、超音波モード切替制御部43は、受発信切替回路42に受信モードに切り替える旨の制御信号を出力して、受発信切替回路42を、超音波アレイ11から入力される受信信号を受信計測部46に入力可能な接続状態にスイッチングさせる。
なお、超音波モード切替制御部43は、上記処理を例えば予め設定された回数実施する。この回数は、超音波の発信角度の設定数により適宜設定される回数であり、例えば、図5に示すように、超音波の発信角度を5段階に切り替えて血管の中心位置を推定する場合、5回上記の処理を繰り返す。
【0035】
超音波信号発信回路44は、発信モードにおいて、超音波モード切替制御部43から駆動信号を出力させる旨の制御信号が入力されると、超音波アレイ11の超音波素子12を駆動させるための駆動信号(駆動電圧)を信号遅延回路45に出力する。
【0036】
信号遅延回路45は、超音波信号発信回路44から、各超音波素子12に対する駆動信号が入力されると、その駆動信号を遅延させて受発信切替回路42に出力する。
ここで、信号遅延回路45は、遅延時間計算部47から入力される遅延設定信号に基づいて、各超音波素子12を駆動させるための駆動信号を△tずつ遅延させた遅延済駆動信号を受発信切替回路42に出力する。
【0037】
図7は、超音波アレイ11から発信された超音波の反射波を示す図である。
図8は、各超音波アレイ11から血管の中心位置を通る超音波を模式的に示す図である。
受信計測部46は、計時部にて計測される時間を監視し、超音波が受信されまでの時間を計測する。
具体的には、受信計測部46は、超音波モード切替制御部43が発信モードに切り替える処理を実施したタイミング、すなわち、超音波モード切替制御部43により計時部でカウントされる時間がリセットされてからの時間を監視する。そして、受信計測部46は、超音波モード切替制御部43が受信モードに切り替える処理を実施し、超音波アレイ11で受信された反射超音波に応じた受信信号が受発信切替回路42から受信計測部46に入力されると、その入力されたタイミングでの時間(TOFデータ:Time Of Flightデータ)を取得し、TOFデータを測定制御部49に入力する。
【0038】
受信計測部46は、2つの超音波アレイ11から発信角度毎(例えば、図5に示す発信角度θ1〜θ5)に発信されて血管で反射した反射波の受信信号のうち、入力が最後に終了した受信信号の2つのTOFデータを取得する。この受信計測部46への入力が最後に終了した受信信号は、超音波アレイ11から最も遠い反射位置での反射波の受信信号である。
また、受信計測部46は、図7に示すように、この受信信号における発信角度で発信された超音波の反射波の第1波(本発明に係る第1反射波)の受信信号が入力された時点t1(本発明に係る第1到達時間)、及び反射波の第3波(本発明に係る第2反射波)の受信信号が入力された時点t3(本発明に係る第2到達時間)のTOFデータを取得する。加えて、後述する中心位置推定部491で算出される残りの超音波アレイ11からの発信角度θsに基づいて発信された超音波の反射波の第1波及び第3波のTOFデータを取得する。
【0039】
ここで、受信計測部46は、受信信号を受信するパターンとしては、図7に示す波形1〜波形4のパターンがある。図7では、図示の都合上、血管が円形状となっているものを示している。
例えば、波形1では、血管の内壁及び外壁での反射波が理想的に取得できているのに対し、波形2では、血管が収縮するなどにより楕円形状等に変形したことが原因で、第3波と第4波とが連続した反射波となっている。また、波形3では、血管の肉厚部分が極めて薄いことなどが原因で、第1波及び第2波が連続し、第3波及び第4波が連続した反射波となっている。波形4では、波形2や波形3の場合に比べて血管がかなり収縮し、血管の肉厚部分が極めて薄くなっていることが原因で、第1波から第4波が連続した反射波となっている。
このため、受信計測部46は、特に、波形1及び波形2のパターンにおいて、第3波の受信信号を第2波及び第4波の受信信号と区別して受信する必要がある。そこで、第3波の反射波の受信信号が入力された時点t3が以下の式(2)の所定時間Tの範囲内の条件を満たしていれば、第2波及び第4波の受信信号を受信することがなく、第3波の受信信号のみを受信することが可能となる。
【0040】
【数2】
【0041】
ここで、Rは血管の外径、cは音速である。また、Lは血管の肉厚寸法であり、血管の内径をrとすると、L=(R−r)/2で求められる。一般的に、内径rは1(mm)、外径Rは3(mm)であるため、肉厚寸法Lは1(mm)である。そして、音速cは1530(m/s)であるので、これらを上述の式(2)へ代入すると、1300(ns)<T<3920(ns)の関係が成り立つ。
【0042】
また、受信計測部46は、図7に示す第1波の受信信号を受信してから、第3波の受信信号までの間に未振幅期間が1つあるか否かを検出する。すなわち、受信計測部46は、第1波の受信信号を受信して、第3波の受信信号を受信するまで間における未振幅期間の有無を検出して、未振幅期間が少なくとも1つあればノイズ等の影響が無いと判断する。一方、受信計測部46は、未振幅期間が無い場合には、ノイズ等の影響が有る判断して、測定制御部49に再測定信号を入力し、測定制御部49から超音波モード切替制御部43に制御信号を入力させる。
例えば、図7の波形1のパターンでは、第1波の受信信号を受信してから未振幅期間を経て第2波、さらに未振幅期間を経て第3波、さらに未振幅期間を経て第4波の受信信号を受信するので、未振幅期間が3箇所ある。また、図7の波形2のパターンでは、第1波の受信信号を受信してから未振幅期間を経て第2波、さらに未振幅期間を経て第3波の受信信号を受信するので、未振幅期間が2箇所ある。図7の波形3のパターンでは、第1波の受信信号を受信してから未振幅期間を経て第3波の受信信号を受信するので、未振幅期間が1箇所ある。ところが、図7の波形4のパターンでは、第1波の受信信号を受信してから、反射波が連続しており、受信信号を受信し続けるため、未振幅期間が存在せず、ノイズの影響が有ると判断する。
【0043】
遅延時間計算部47は、測定制御部49から入力される発信角度データに基づいて、各超音波素子12の駆動遅延時間を算出する。
ここで、この発信角度データは、記憶部48に予め記憶されているデータであり、例えば、本実施形態では、図5に示すように、θs=θ1〜θ5の5つの発信角度データが予め記憶されている構成を例示する。なお、6個以上の発信角度データが記憶され、より細かく発信角度を変化可能な構成などとしてもよい。
そして、遅延時間計算部47は、入力された発信角度データθsと、予め設定されている超音波素子12の素子ピッチdと、音速cとを用いて、上記式(1)に基づいて、遅延時間△tを算出し、遅延設定信号として信号遅延回路45に出力する。
【0044】
記憶部48は、例えばメモリーやハードディスクなどの記録媒体を備えて構成され、受信計測部46や遅延時間計算部47や測定制御部49での処理に必要な各種データ及びプログラムを適宜読み出し可能に記憶する。
具体的には、各種データとして、プローブ23における超音波アレイ11の位置データ、発信角度データθs、TOFデータなどが挙げられる。また、各種プログラムとして、詳しくは後述するが、測定制御部49にて実行され、TOFデータに基づいて血管の中心位置を推定する中心位置推定プログラム、TOFデータに基づいて血管の反射位置の6点の座標位置を算出する反射位置座標算出プログラム、反射位置の3点の座標位置から血管の外径及び血管の中心座標を算出する外径算出プログラム、反射位置の3点の座標位置から血管の内径及び血管の中心座標を算出する内径算出プログラム、2つの血管の中心座標を比較して警告を報知する警告出力プログラムなどが挙げられる。
【0045】
図9は、測定制御部49の概略構成を示すブロック図である。
測定制御部49は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等を備えて構成され、記憶部48に記憶されたプログラムを実行する。すなわち、測定制御部49は、記憶部48に記憶されたプログラム及びデータを処理することにより、各種機能を実現する。このような測定制御部49は、血管の径を測定する際には、当該プログラムを処理することにより、図9に示すように、中心位置推定部491、反射位置座標算出部492と、外径算出部493と、内径算出部494と、警告出力部495とを機能として実現する。
【0046】
中心位置推定部491は、入力された超音波アレイ11から最も遠い反射位置での反射波の2つのTOFデータ、及び最も近い反射位置での反射波の2つのTOFデータに基づいて、発信角度データθsを参照して、血管の中心位置を推定し、これを中心推定位置とする。
そして、中心位置推定部491は、既に駆動された2つの超音波アレイ11以外の残りの超音波アレイ11から中心推定位置に対して、超音波を発信するように発信角度θsを算出して、この発信角度データθsを遅延時間計算部47に入力する。
【0047】
反射位置座標算出部492は、入力された第1波及び第3波のTOFデータに基づいて、超音波アレイ11から反射位置の6点(図8のA1、A2、B1、B2、C1、C2)までの距離を算出する。そして、記憶部48に記憶された発信角度データに基づいて、超音波アレイ11Bの位置を原点とし、超音波アレイ11の配設間隔をPとして、6点の座標位置を以下の式(3)〜(8)を用いて算出する。
【0048】
【数3】
【0049】
外径算出部493は、6点の反射位置のうち、A1,B1,C1の座標位置に基づいて、以下の式(9)を用いて血管の外径Rを算出するとともに、中心座標O(x,y)を算出する。
【0050】
【数4】
【0051】
内径算出部494は、6点の反射位置のうち、A2,B2,C2の座標位置に基づいて、以下の式(10)を用いて血管の内径rを算出するとともに、中心座標O(x,y)を算出する。
【0052】
【数5】
【0053】
警告出力部495は、外径算出部493及び内径算出部494で算出された2つの中心座標のずれ量を所定の閾値と比較する。そして、警告出力部495は、ずれ量が閾値を超えている場合には利用者にプローブ23を再度、検査対象位置に付け直す旨の警告を装置本体2の図示しない表示部に報知する。
また、警告出力部495は、外径算出部493及び内径算出部494で算出された2つの中心座標と、中心位置推定部491で推定された血管の中心推定位置とのずれ量を比較する。そして、ずれ量が閾値を超えている場合には、利用者にプローブ23を再度、検査対象位置に付け直す旨の警告を装置本体2の図示しない表示部に報知する。
【0054】
[3.血管径測定装置の測定処理]
次に、血管径測定装置1の測定処理について、図10に示すフローチャートを参照して説明する。
まず、血管径測定装置1のプローブ23を生体の例えば腕等の検査対象位置に密着させて、バンドを締め付けて装置本体2を検査対象位置に固定する。
そして、利用者が図示しない操作部を操作することで入力信号が入力されると、血管径測定装置1は、血管の径の測定を開始する。
【0055】
次に、測定制御部49は、2つの超音波アレイ11を駆動可能に切り替える処理を実施する。ここでは、測定制御部49は、2つの超音波アレイ11を駆動可能に切り替える旨の切替制御信号を超音波アレイ切替回路41に出力する。
【0056】
そして、測定制御部49は、超音波発信モードにおける各種処理を実施する(ステップS1)。
この超音波発信モードでは、測定制御部49は、記憶部48から発信角度データθsを読み込み、遅延時間計算部47に出力する。ここでは、まず、発信角度データθ1を読み込み、遅延時間計算部47に出力する。これにより、遅延時間計算部47は、式(1)に基づいて、遅延時間△tを算出し、遅延設定信号として信号遅延回路45に出力する。
【0057】
また、測定制御部49は、超音波モード切替制御部43に測定制御部49から超音波発信モードに切り替える旨の制御信号を入力すると、超音波信号発信回路44は、2つの超音波アレイ11の各超音波素子12に出力するための駆動信号(駆動パルス)が信号遅延回路45に出力される。この信号遅延回路45では、上記のように、遅延時間計算部47から遅延設定信号が入力されている。このため、各駆動信号は、遅延設定信号に基づいた遅延時間だけ遅延させて受発信切替回路42に出力される。
そして、受発信切替回路42は、信号遅延回路45から入力される駆動信号を超音波アレイ切替回路41に出力する。
【0058】
また、受発信切替回路42は、上記のように、超音波モード切替制御部43から入力される制御信号により、信号遅延回路45から入力される駆動信号を超音波アレイ切替回路41に出力する状態にスイッチングされている。このため、信号遅延回路45から出力された遅延済駆動信号は、超音波アレイ切替回路41を介して、2つの超音波アレイ11の各超音波素子12に出力される。
以上により、2つの超音波アレイ11から、発信角度データθ1に対応した発信角度で超音波が出力される。以上の処理を発信角度データθ2〜θ5についても行うことで、2つの超音波アレイ11から各発信角度データθ1〜θ5に対応した発信角度で超音波が出力される。
【0059】
また、受信計測部46は、超音波モード切替制御部43が受信モードに切り替える処理を実施し、超音波アレイ11で受信された反射超音波に応じた受信信号が受発信切替回路42から受信計測部46に入力されると、その入力されたタイミングでの時間を取得する。そして、超音波モード切替制御部43は、例えば1〜2周期のバースト波が出力される時間後に、超音波受信モードの各種処理を実施する(ステップS2)。
【0060】
ステップS2の超音波受信モードでは、超音波モード切替制御部43は、受発信切替回路42に超音波アレイ切替回路41から入力される受信信号を受信計測部46に出力する旨の制御信号を出力する。
これにより、超音波アレイ11で超音波が受信されて、受信信号が超音波アレイ切替回路41から受発信切替回路42に入力されると、この受信信号は受信計測部46に出力される。
受信計測部46は、計時部にてカウントされる時間を監視し、超音波が発信されたタイミングから、受信信号が入力されるタイミングまでの時間であるTOFデータを取得し測定制御部49に出力する。そして、測定制御部49は、入力されたTOFデータを適宜読み出し可能に記憶部48に記憶する。
ここでの記憶部48に記憶されるTOFデータは、上述したように、2つの超音波アレイ11から発信角度毎(例えば、図5に示す発信角度θ1〜θ5)に発信されて血管で反射した反射波の受信信号のうち、入力が最後に終了した受信信号の2つのTOFデータ、及び最も早く反射した反射波の受信信号の2つのTOFデータである。
【0061】
次に、測定制御部49の中心位置推定部491は、記憶部48からTOFデータ等を読み出し、血管の中心位置を推定し、これを中心推定位置とする(ステップS3)。そして、中心位置推定部491は、既に駆動された2つの超音波アレイ11以外の残りの超音波アレイ11から中心推定位置に対して、超音波を発信するように発信角度θsを算出して、この発信角度データθsを遅延時間計算部47に入力する。
この後、残りの超音波アレイ11は、この算出された発信角度θsで超音波を発信して、受信計測部46は、超音波の反射波の第1波及び第3波のTOFデータを取得して、測定制御部49に入力する。そして、測定制御部49は、入力されたTOFデータを適宜読み出し可能に記憶部48に記憶する。
【0062】
受信計測部46は、反射波のうち、第1波の受信信号を受信してから、第3波の受信信号までの間に未振幅期間があるか否かを検出する(ステップS4)。未振幅期間が少なくとも1つあればノイズ等の影響が無いと判断し、次のステップS5の処理を実行する。
一方、受信計測部46は、未振幅期間が無い場合(受信信号を受信し続けるなどの場合)には、ノイズ等の影響が有る判断して、ステップS1に戻り、測定制御部49は、超音波発信モードにおける各種処理を実施する。なお、ステップS1からステップS4の処理を所定回数行っても、未振幅期間が無いと判定されれば、測定制御部49は利用者にプローブ23を取り付け直す旨のエラーを出力する処理をする。
【0063】
次に、測定制御部49の反射位置座標算出部492は、反射位置の座標位置を算出する処理を実施する(ステップS5)。
反射位置座標算出部492は、記憶部48からTOFデータ等を読み出し、図8に示す6点の反射位置A1,A2,B1,B2,C1,C2の座標位置を上述の式(3)〜(8)を用いて算出する。
【0064】
そして、外径算出部493は、ステップS5で算出した反射位置A1,B1,C1の座標位置、及び上述の式(9)を用いて、血管の外径R及び血管の中心座標O(x,y)を算出する(ステップS6)。
さらに、内径算出部494は、ステップS5で算出した反射位置A2,B2,C2の座標位置、及び上述の式(10)を用いて、血管の内径r及び血管の中心座標O(x,y)を算出する(ステップS7)。
【0065】
次に、警告出力部495は、ステップS6、S7で算出した各中心座標Oのずれ量を所定の閾値と比較する(ステップS8)。そして、各中心座標Oのずれ量が所定の閾値よりも大きい場合には利用者にプローブ23を再度、検査対象位置に付け直す旨の警告を報知し(ステップS9)、ステップS1に戻り再測定を開始する。
一方、各中心座標Oのずれ量が所定の閾値より小さい場合には、各中心座標Oと推定中心位置とのずれ量を所定の閾値と比較する(ステップS10)。そして、ずれ量が閾値より小さい場合には血管の径の測定処理を終了する。ところが、当該ずれ量が閾値より大きい場合には、警告出力部495は、ステップS9の警告を報知し、ステップS1に戻り再測定を開始する。
【0066】
[4.本実施形態の作用効果]
本実施形態では、超音波が血管の中心Oを通過するように、超音波の発信角度を制御する信号遅延回路45を備えるので、血管の壁面に対して直交する方向に確実に超音波を発信させることができ、前述した従来のような反射波の強度の低下を防止することができ、確実に反射波を受信できる。
また、超音波の発信後、受信するまでの時間が最短となる第1波から、上記式(2)の所定時間Tの範囲内で到達した反射波を第3波として測定する受信計測部46を備える。すなわち、受信計測部46を備えることで、第1波の次に血管の内壁で反射する第2波及び第4波を除くことができ、第1波、及び所定時間Tの範囲内で受信した第3波を確実に区別して受信することが可能となる。これによれば、第3波の受信信号のTOFデータを正確に取得でき、超音波の血管での反射位置A2,B2,C2の座標を上記式(4)、(6)、(8)を用いて正確に求めることができる。従って、外径算出部493及び内径算出部494により、上記式(9)、(10)を用いて、より正確な血管の外径R、内径r、及び中心座標Oを算出できる。
【0067】
さらに、受信計測部46は第1波から第3波までの間に未振幅期間が少なくとも1つあるか否かを判定するので、例えば、第1波から第3波が連続しているような反射波を検出することができる。従って、反射波が連続波となっている場合には、再測定することで、第1波の反射位置、及び第3波の反射位置を確実に特定することができ、血管の径の正確な測定をすることができる。
また、外径算出部493及び内径算出部494により算出した各中心座標Oのずれ量を所定の閾値と比較する警告出力部495を備え、この警告出力部495は、ずれ量が閾値を超えている場合にはプローブ23を再度取り付け直す旨の警告を出力する。これによれば、利用者がプローブ23を検査対象位置に再度取り付け直した後に、再測定して、各中心座標Oのずれ量が閾値より小さくなることで、より正確な血管の中心座標Oを求めることができ、正確な血管の径の測定が可能となる。
さらに、警告出力部495は、中心位置推定部491により推定された血管の中心推定位置と、外径算出部493及び内径算出部494で算出された中心座標Oとのずれ量を比較し、ずれ量が閾値を超えている場合にはプローブ23を再度取り付け直す旨の警告を出力する。そして、再測定することで、より正確な血管の中心座標を求めることができ、正確な血管の径の測定が可能となる。
【0068】
[実施形態の変形]
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、2つの超音波アレイ11からは発信される超音波の2つの反射波に基づいて、血管の中心位置を推定していたが、3つの超音波アレイ11から発信される超音波の反射波から3つの反射波に基づいて、血管の中心位置を推定してもよい。この場合には、2つの超音波アレイ11を用いて、血管の中心位置を推定する場合に比べて、中心位置を推定する精度をより向上できる。
【0069】
前記実施形態では、3つの超音波アレイ11を用いた血管径測定装置1を例示したが、これに限定されず、4つ以上の超音波アレイ11を用いてもよい。
前記実施形態では、開口部101として平面視円形状のものを例示したが、これに限定されず、ダイアフラム13の撓みバランスや、圧電体14によるダイアフラム13の振動安定性に応じて、例えば矩形状などその他の形状に形成されてもよい。すなわち、ダイアフラム13の振動時の応力バランスなどを考慮して、超音波素子12の形状を自由に設計することができる。
【0070】
前記実施形態では、各超音波アレイ11は、各超音波素子12により超音波の発信および受信の双方を実施し、超音波モード切替制御部43により、超音波発信モードと、超音波受信モードとを切り替える例を示したが、これに限定されず、受信専用の超音波素子及び発信専用の超音波素子を並設する構成としてもよい。
【0071】
前記実施形態において、遅延時間計算部47が、測定制御部49から発信角度データを受け取ることで、各超音波素子12に入力する駆動信号の遅延時間を演算する装置である例、すなわち、遅延時間計算部47がハードウェアとして構成される例を示したが、これに限定されない。例えば、記憶部48に遅延時間計算プログラムが記憶され、測定制御部49によりこの遅延時間計算プログラムが読み出されて実行されることで、各駆動信号に遅延時間を演算する構成としてもよい。
また、前記実施形態では、中心位置推定部491、反射位置座標算出部492、外径算出部493、内径算出部494、及び警告出力部495として、測定制御部49が各種プログラムを読み出し実行することで機能する例を示したが、例えば、中心位置推定部491、反射位置座標算出部492、外径算出部493、内径算出部494、及び警告出力部495が、例えばICなどの集積回路により、ハードウェアとして構成されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…血管径測定装置、4…制御回路、11…超音波アレイ、12…超音波素子、23…プローブ、45…信号遅延回路(発信角度制御部)、46…受信計測部(第1反射波測定部、第2反射波測定部)、491…中心位置推定部、493…外径算出部、494…内径算出部、495…警告出力部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて生体内の血管の径を測定する血管径測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波を用いて生体内の血管の径を測定する測定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1の測定装置では、血管の軸方向と交差する方向に第1アレイ及び第2アレイが設けられた超音波プローブを備える。各アレイは、それぞれ複数の超音波素子を有する。そして、各アレイにおいて、複数の超音波素子は、超音波を互いに平行となるように血管に発信し、血管で反射された超音波を受信している。これにより、超音波の発信から受信までの時間を計測して、この時間に基づいて血管の径を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4441664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、超音波素子から超音波が血管の壁面に対して直交方向に発信される場合には、血管の壁面で反射される超音波の強度は低下することがなく、超音波素子は反射された超音波を正確に受信できる。しかしながら、特許文献1のような測定装置では、超音波が互いに平行となるように血管の壁面に発信されるため、血管の中心を通る超音波以外は、血管の壁面に対して直交せずに発信されることとなる。このため、血管の壁面に対して直交せずに発信された超音波は、血管の壁面で反射される超音波の強度が低下し、超音波素子は反射された超音波を正確に受信できない。これにより、正確な血管の径を測定できないおそれがある。
また、血管壁の肉厚部分が薄い場合や血管が収縮している場合には、反射された超音波が血管の内壁または外壁のいずれで反射されたものか判別できないため、正確な血管の径を算出できないおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、正確な血管の径を測定できる血管径測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の血管径測定装置は、生体に接触するプローブに設けられた少なくとも3つの超音波アレイと、前記超音波アレイから超音波が発信されてから前記生体内の血管で反射して前記超音波アレイに到達するまでの到達時間に基づいて前記血管の外径及び内径を算出する制御回路とを備え、前記超音波アレイは、複数の超音波素子が走査方向に沿って一方向に配設されたライン状アレイ構造を有し、前記制御回路は、前記各超音波素子から超音波を発信するタイミングを遅延させることで、前記超音波アレイから発信される超音波が前記血管の中心を通過するように超音波の発信角度を制御する発信角度制御部と、前記各超音波アレイから発信された超音波が前記血管で反射されて、最も早く前記超音波アレイに到達する第1反射波の第1到達時間を測定する第1反射波測定部と、前記第1到達時間を基準として設定される所定時間の範囲内に前記超音波アレイに到達した第2反射波の第2到達時間を測定する第2反射波測定部と、前記各超音波アレイに到達する少なくとも3つの前記第1反射波の前記第1到達時間に基づいて前記血管の外径を算出する外径算出部と、前記各超音波アレイに到達する少なくとも3つの前記第2反射波の前記第2到達時間に基づいて前記血管の内径を算出する内径算出部とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、超音波が血管の中心を通過するように、超音波の発信角度を制御する発信角度制御部を備えるので、血管の壁面に対して直交する方向に確実に超音波を発信させることができ、前述した従来のような反射波の強度の低下を防止することができ、確実に反射波を受信できる。
また、超音波の発信後、受信するまでの時間が最短となる第1反射波の第1到達時間を測定する第1反射波測定部、及び第1到達時間を基準として設定される所定時間の範囲内に超音波アレイに到達した第2反射波の第2到達時間を測定する第2反射波測定部を備える。ここで、第1反射波は、超音波アレイから最も近い位置の血管の外壁で反射した超音波である。そして、「所定時間の範囲内に超音波アレイに到達した第2反射波」とは、第1反射波の次に血管の内壁で反射する反射波を受信すると予測される時間を経過した後から超音波アレイから最も遠い血管の外壁で反射した反射波を受信すると予測される時間までの範囲内に超音波アレイに到達した反射波である。
これによれば、例えば、第1反射波の次に血管の内壁で反射する反射波、及び超音波アレイから最も遠い血管の外壁で反射した反射波を受信することを除くことができ、第1反射波、及び所定時間後に到達した第2反射波を確実に区別して受信することが可能となる。従って、超音波の血管での所望の反射位置をより正確に検出することができる。
そして、外径算出部は、第1反射波の第1到達時間から検出された少なくとも3つの反射位置の座標に基づいて、血管の外径を正確に算出できる。また、内径算出部は、第2反射波の第2到達時間から検出された少なくとも3つの反射位置の座標に基づいて、血管の内径を正確に算出できる。
【0008】
本発明の血管径測定装置では、前記制御回路は、少なくとも2つの前記超音波アレイから前記発信角度制御部により制御されて超音波の発信角度毎に発信された各超音波のうち、前記血管で反射されて最も遅く前記超音波アレイに到達する少なくとも2つの反射波の最遅到達時間、及び前記最遅到達時間となるように発信された各超音波の各発信角度に基づいて、前記血管の中心位置を推定する中心位置推定部を備えることが好ましい。
【0009】
本発明によれば、中心位置推定部は、少なくとも2つの超音波アレイから発信された超音波が最も遅く超音波アレイに到達する少なくとも2つの反射波の最遅到達時間、及びこの際の各超音波の各発信角度に基づいて、血管の中心位置を推定するので、3つの超音波アレイを用いて中心位置を推定する場合と比べると、処理速度を向上させることができる。
【0010】
本発明の血管径測定装置では、前記第2反射波測定部は、前記第1反射波から前記第2反射波までの間に反射波の未振幅期間が少なくとも1つあるか否かを判定することが好ましい。
【0011】
本発明によれば、第2反射波測定部は第1反射波から第2反射波までの間に未振幅期間が少なくとも1つあるか否かを判定するので、例えば、第1反射波と第2反射波とが連続しているような反射波を検出することができる。これによれば、第2反射波測定部は、反射波が連続していることを検出すると、未振幅期間を検出するまで、超音波を発信して反射波を測定するようにすれば、第1反射波の反射位置、及び第2反射波の反射位置を明確に特定することができ、血管の径の正確な測定をすることができる。
【0012】
本発明の血管径測定装置では、前記外径算出部は、前記第1反射波の前記血管における少なくとも3点の反射位置の座標に基づいて、前記血管の外径を算出するとともに前記血管の中心座標を算出し、前記内径算出部は、前記第2反射波の前記血管における少なくとも3点の反射位置の座標に基づいて、前記血管の内径を算出するとともに前記血管の中心座標を算出し、前記制御回路は、前記各中心座標のずれ量が所定の閾値を超えているか否かを判定し、前記閾値を超えている場合には、警告を出力する警告出力部を備えることが好ましい。
【0013】
ところで、血管が収縮したり、またプローブを生体に密着しすぎて血管の形状が円形状となっていない場合には、外径算出部で算出した中心座標と、内径算出部で算出した中心座標とが異なるおそれがある。
そこで、本発明によれば、各中心座標のずれ量を所定の閾値と比較する警告出力部を備え、この警告出力部は、ずれ量が閾値を超えている場合には警告を出力する。これによれば、例えば、利用者が警告を受けた後に、プローブを検査対象位置に再度取り付け直しなどしてから再測定して、各中心座標のずれ量が閾値より小さくなるまで行うことで、より正確な血管の中心座標を求めることができ、正確な血管の径の測定が可能となる。
【0014】
本発明の血管径測定装置では、前記制御回路は、少なくとも2つの前記超音波アレイから前記発信角度制御部により制御されて超音波の発信角度毎に発信された各超音波のうち、前記血管で反射されて最も遅く前記超音波アレイに到達する少なくとも2つの反射波の最遅到達時間、及び前記最遅到達時間となるように発信された超音波の発信角度に基づいて、前記血管の中心位置を推定する中心位置推定部と、前記中心位置推定部で推定された前記血管の中心推定位置と、前記外径算出部及び前記内径算出部で算出される中心座標とのずれ量が前記閾値を超えているか否かを判定し、前記閾値を超えている場合には、警告を出力する警告出力部とを備えることが好ましい。
【0015】
本発明によれば、警告出力部は、推定された血管の中心推定位置と、外径算出部及び内径算出部で算出される中心座標とのずれ量を比較し、ずれ量が閾値を超えている場合には警告を出力する。この場合には前述と同様に、プローブを取り付け直して、再測定することで、より正確な血管の中心座標を求めることができ、正確な血管の径の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る本実施形態の血管径測定装置の外観を示す図。
【図2】前記実施形態のプローブの概略構成を示す平面図。
【図3】前記実施形態の超音波アレイを拡大した拡大平面図、及びその断面図。
【図4】前記実施形態の各超音波素子に入力する駆動信号を、△tだけ順に遅延させて、入力した際の超音波の発信角度を示す図。
【図5】前記実施形態の超音波アレイのスキャンエリアを示す図。
【図6】前記実施形態の血管径測定装置の概略構成を示すブロック図。
【図7】前記実施形態の超音波アレイから発信された超音波の反射波を示す図。
【図8】前記実施形態の各超音波アレイから血管の中心位置を通る超音波を模式的に示す図。
【図9】前記実施形態の測定制御部の概略構成を示すブロック図。
【図10】前記実施形態の血管径測定装置の測定処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する
【0018】
[1.血管径測定装置の概略構成]
図1は、本実施形態の血管径測定装置1の外観を示す図である。
血管径測定装置1は、図1に示すように、装置本体2と、装置本体2を人体などの生体に装着するためのバンド3とを備える。そして、この血管径測定装置1は、装置本体2の裏面に対して生体を接触させた状態で、バンド3を締めることで生体に装着されて、生体内の血管の外径及び内径を測定する。
【0019】
[2.装置本体の構成]
装置本体2は、図1に示すように、直方体状の筐体21を備え、装置本体2の裏面側には、センサー窓22が形成され、このセンサー窓22には、生体に密着されるプローブ23が設けられている。また、装置本体2には、プローブ23の他、制御回路4(図6参照)が設けられている。
プローブ23は、上述したように、血管径測定装置1により生体内の血管の外径及び内径を測定する際に、生体に密着される。
また、装置本体2の表面側には、特に図示を省略したが、血管径測定装置1を操作する操作部や測定結果を表示する表示部などが設けられている。
【0020】
[2−1.プローブの構成]
図2は、本実施形態のプローブ23の概略構成を示す平面図である。
プローブ23は、図2に示すように、シリコン(Si)などで形成された矩形状の基板10を備える。この基板10には、平面中心位置を通って、基板10の長辺(バンド3の基端側が取り付けられていない側の辺)に沿う方向に3つの超音波アレイ11(11A,11B,11C)が設けられる。この超音波アレイ11は、複数の超音波素子12を備え、これら複数の超音波素子12を走査方向Aに沿う一方向に配設したライン状アレイ構造(1次元アレイ構造)を有している。そして、血管径の測定の際、プローブ23は、各超音波素子12の配設方向が血管の軸方向に直交するように生体に密着される。
【0021】
図3は、超音波アレイ11を拡大した拡大平面図(図3(A))、及び拡大断面図(図3(B))である。
超音波アレイ11を構成する超音波素子12は、ダイアフラム13と、ダイアフラム13上に形成される圧電体14とを備える。なお、ダイアフラム13及び圧電体14の構成の説明については後述する。
ここで、基板10には、長辺に沿う方向に平面視円形状の複数の開口部101が形成される。また、基板10には、支持膜15が積層されて、開口部101が支持膜15により閉塞されている。
【0022】
支持膜15は、例えばSiO2膜とZrO2層との2層構造により構成される。ここで、SiO2層は、基板10がSi基板である場合、基板表面を熱酸化処理することで成膜することができる。また、ZrO2層は、SiO2層上に例えばスパッタリングなどの手法により成膜される。
【0023】
ダイアフラム13は、支持膜15のうち、開口部101を閉塞する領域により構成される。そして、ダイアフラム13は、開口部101から、超音波素子12の超音波出力方向(図3(B)中、紙面下方向)の空間に対して露出している。
【0024】
圧電体14は、支持膜15の上層に積層される下部電極141と、下部電極141上に形成される圧電膜142と、圧電膜142上に形成される上部電極143とを備える。
下部電極141には、図3(A)に示すように、支持膜15上で走査方向Aに対して直交する方向に沿って延出する下部電極線141Aが接続されている。この下部電極線141Aは、各超音波素子12に対して、それぞれ独立して設けられている。
上部電極143には、支持膜15上の走査方向Aに沿って延出する上部電極線143Aが接続されている。この上部電極線143Aは、1つの超音波アレイ11において共通電極線となる。すなわち、上部電極線143Aは、図3に示すように、隣り合う超音波素子12の上部電極143に接続されており、端部において、例えばGNDに接続されている。これにより、各超音波素子12の上部電極143がアースされることになる。
【0025】
圧電膜142は、例えばPZT(ジルコン酸チタン酸鉛:lead zirconate titanate)を膜状に成膜することで形成される。なお、本実施形態では、圧電膜142としてPZTを用いるが、電圧を印加することで、面内方向に収縮することが可能な素材であれば、いかなる素材を用いてもよく、例えばチタン酸鉛(PbTiO3)、ジルコン酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb、La)TiO3)などを用いてもよい。
【0026】
このような超音波素子12では、下部電極141と、上部電極143とに電圧を印加することで、圧電膜142が面内方向に伸縮する。このとき、圧電膜142の一方の面は、下部電極141を介して支持膜15に接合されるが、他方の面には、上部電極143が形成されるものの、この上部電極143上には他の層が積層形成されないため、圧電膜142の支持膜15側が伸縮しにくく、上部電極143側が伸縮し易くなる。このため、圧電膜142に電圧を印加すると、開口部101側に凸となる撓みが生じ、ダイアフラム13を撓ませる。したがって、圧電膜142に交流電圧を印加することで、ダイアフラム13が膜厚方向に対して振動し、このダイアフラム13の振動により超音波が発信される。
また、超音波素子12で超音波を受信する場合、超音波がダイアフラム13に入力されると、ダイアフラム13が膜厚方向に振動する。超音波素子12では、このダイアフラム13の振動により、圧電膜142の下部電極141側の面と上部電極143側の面とで電位差が発生し、上部電極143および下部電極141から圧電膜142の変位量に応じた受信信号(電流)が出力される。
【0027】
図4は、各超音波素子12A〜12Dに入力する駆動信号を、△tだけ順に遅延させて、入力した際の超音波の発信方向(発信角度)を示す図である。
本実施形態における超音波素子12が走査方向Aに沿って複数配置される超音波アレイ11では、各超音波素子12から超音波を発信させるタイミングを遅延させてずらすことで、所望の方向に超音波の平面波を発信することが可能となる。
各超音波素子12から超音波を発信させると、これらの超音波が互いに強めあう合成波面Wが形成されて伝搬される。ここで、図4に示すように、配設間隔がdに設定された各超音波素子12A〜12Dへ入力する駆動信号を△tだけ遅延させると、先に駆動信号が入力された超音波素子12から発信される超音波の波面と、後に駆動信号が入力された超音波素子12から発信される波面とで、位相が異なるため、合成波面Wが走査方向Aに対して傾斜して伝搬される。
【0028】
この時、合成波面Wの伝搬方向と、走査方向Aに直交する方向との発信角度をθs、音速をcとすると、次式(1)の関係が成立する
【0029】
【数1】
【0030】
図5は、1つの超音波アレイ11のスキャンエリアSareaを示す図である。
超音波アレイ11は、上述のように、各超音波素子12に入力する駆動信号のタイミングを遅延させることで、超音波の発信角度を変化させることができる。ここで、超音波アレイ11は、ライン状アレイ構造(1次元アレイ構造)を有しているため、超音波の発信角度は、図5に示すように、走査方向Aを通り、基板10に対して直交するスキャン面Sに制限され、スキャン面Sに対して交差する方向に発信角度を変化させることはできない。これにより、超音波アレイ11のスキャンエリアSareaは、走査方向Aを通り、基板10に対して直交するスキャン面S内に形成される。そして、血管がスキャンエリアSareaを通過するように、プローブ23を生体に密着させておけば、超音波アレイ11からスキャンエリアSareaに超音波を発信させて、血管で反射された超音波を受信することで、血管とスキャンエリアSareaとの交点を検出することが可能となる。
【0031】
[2−2.制御回路の構成]
図6は、本実施形態の血管径測定装置1の概略構成を示すブロック図である。
制御回路4は、超音波アレイ切替回路41と、受発信切替回路42と、超音波モード切替制御部43と、超音波信号発信回路44と、信号遅延回路45(発信角度制御部)と、受信計測部46(第1反射波測定部、第2反射波測定部)と、遅延時間計算部47と、記憶部48と、測定制御部49とを備える。
【0032】
超音波アレイ切替回路41は、プローブ23に設けられる3つの超音波アレイ11のうち、駆動させる超音波アレイ11を切り替えるスイッチング回路である。
本実施形態の血管径測定装置1では、1つの超音波アレイ11から超音波の受発信が実施されている間、他の超音波アレイ11への駆動信号の出力、および他の超音波アレイ11からの受信信号の受信は実施しない。これにより、駆動対象となった超音波アレイ11では、他の超音波アレイ11から発信された超音波を受信してしまい、ノイズが検出される不都合や、駆動対象以外の超音波アレイ11から受信信号が検出されてしまう不都合を回避できる。
この超音波アレイ切替回路41は、例えば、各超音波アレイ11の下部電極線141Aおよび上部電極線143Aに接続される端子群を備え、測定制御部49から入力されるアレイを選択する旨の切替制御信号に基づいて、切替制御信号に基づいた超音波アレイ11に対応した端子群と、受発信切替回路42とを接続する。また、駆動させない超音波アレイ11に対応した端子群は、例えば、下部電極線141Aおよび上部電極線143Aの双方をGNDに接続するなどすることで、駆動させない構成としてもよい。
【0033】
受発信切替回路42は、超音波モード切替制御部43から入力されるモード切替信号に基づいて、接続状態を切り替えるスイッチング回路である。
具体的には、超音波モード切替制御部43から超音波発信モードに切り替える旨の制御信号が入力された場合、受発信切替回路42は、信号遅延回路45から入力された駆動信号を、超音波アレイ切替回路41に出力可能な接続状態に切り替わる。一方、受発信切替回路42は、超音波モード切替制御部43から超音波受信モードに切り替える旨の制御信号が入力された場合、超音波アレイ切替回路41から入力される受信信号を受信計測部46に出力可能な接続状態に切り替わる。
【0034】
超音波モード切替制御部43は、超音波アレイ11から超音波を発信させる超音波発信モードと、超音波アレイ11にて超音波を受信させる超音波受信モードとを切り替える。
具体的には、超音波モード切替制御部43は、測定制御部49から血管の径の測定を開始する旨の制御信号が入力されると、まず、超音波発信モードに切り替える処理を実施する。この処理では、超音波モード切替制御部43は、受発信切替回路42に、発信モードに切り替える旨の制御信号を出力し、超音波信号発信回路44から駆動信号を出力させる旨の制御信号を出力する。
また、超音波モード切替制御部43は、図示しない計時部(タイマー)により計測される時間を認識し、超音波発信モードから所定の発信時間経過後に、超音波受信モードに切り替える処理を実施する。ここで発信時間は、超音波アレイ11から例えば1〜2周波数のバースト波が発信される時間程度に設定されていればよい。受信モードでは、超音波モード切替制御部43は、受発信切替回路42に受信モードに切り替える旨の制御信号を出力して、受発信切替回路42を、超音波アレイ11から入力される受信信号を受信計測部46に入力可能な接続状態にスイッチングさせる。
なお、超音波モード切替制御部43は、上記処理を例えば予め設定された回数実施する。この回数は、超音波の発信角度の設定数により適宜設定される回数であり、例えば、図5に示すように、超音波の発信角度を5段階に切り替えて血管の中心位置を推定する場合、5回上記の処理を繰り返す。
【0035】
超音波信号発信回路44は、発信モードにおいて、超音波モード切替制御部43から駆動信号を出力させる旨の制御信号が入力されると、超音波アレイ11の超音波素子12を駆動させるための駆動信号(駆動電圧)を信号遅延回路45に出力する。
【0036】
信号遅延回路45は、超音波信号発信回路44から、各超音波素子12に対する駆動信号が入力されると、その駆動信号を遅延させて受発信切替回路42に出力する。
ここで、信号遅延回路45は、遅延時間計算部47から入力される遅延設定信号に基づいて、各超音波素子12を駆動させるための駆動信号を△tずつ遅延させた遅延済駆動信号を受発信切替回路42に出力する。
【0037】
図7は、超音波アレイ11から発信された超音波の反射波を示す図である。
図8は、各超音波アレイ11から血管の中心位置を通る超音波を模式的に示す図である。
受信計測部46は、計時部にて計測される時間を監視し、超音波が受信されまでの時間を計測する。
具体的には、受信計測部46は、超音波モード切替制御部43が発信モードに切り替える処理を実施したタイミング、すなわち、超音波モード切替制御部43により計時部でカウントされる時間がリセットされてからの時間を監視する。そして、受信計測部46は、超音波モード切替制御部43が受信モードに切り替える処理を実施し、超音波アレイ11で受信された反射超音波に応じた受信信号が受発信切替回路42から受信計測部46に入力されると、その入力されたタイミングでの時間(TOFデータ:Time Of Flightデータ)を取得し、TOFデータを測定制御部49に入力する。
【0038】
受信計測部46は、2つの超音波アレイ11から発信角度毎(例えば、図5に示す発信角度θ1〜θ5)に発信されて血管で反射した反射波の受信信号のうち、入力が最後に終了した受信信号の2つのTOFデータを取得する。この受信計測部46への入力が最後に終了した受信信号は、超音波アレイ11から最も遠い反射位置での反射波の受信信号である。
また、受信計測部46は、図7に示すように、この受信信号における発信角度で発信された超音波の反射波の第1波(本発明に係る第1反射波)の受信信号が入力された時点t1(本発明に係る第1到達時間)、及び反射波の第3波(本発明に係る第2反射波)の受信信号が入力された時点t3(本発明に係る第2到達時間)のTOFデータを取得する。加えて、後述する中心位置推定部491で算出される残りの超音波アレイ11からの発信角度θsに基づいて発信された超音波の反射波の第1波及び第3波のTOFデータを取得する。
【0039】
ここで、受信計測部46は、受信信号を受信するパターンとしては、図7に示す波形1〜波形4のパターンがある。図7では、図示の都合上、血管が円形状となっているものを示している。
例えば、波形1では、血管の内壁及び外壁での反射波が理想的に取得できているのに対し、波形2では、血管が収縮するなどにより楕円形状等に変形したことが原因で、第3波と第4波とが連続した反射波となっている。また、波形3では、血管の肉厚部分が極めて薄いことなどが原因で、第1波及び第2波が連続し、第3波及び第4波が連続した反射波となっている。波形4では、波形2や波形3の場合に比べて血管がかなり収縮し、血管の肉厚部分が極めて薄くなっていることが原因で、第1波から第4波が連続した反射波となっている。
このため、受信計測部46は、特に、波形1及び波形2のパターンにおいて、第3波の受信信号を第2波及び第4波の受信信号と区別して受信する必要がある。そこで、第3波の反射波の受信信号が入力された時点t3が以下の式(2)の所定時間Tの範囲内の条件を満たしていれば、第2波及び第4波の受信信号を受信することがなく、第3波の受信信号のみを受信することが可能となる。
【0040】
【数2】
【0041】
ここで、Rは血管の外径、cは音速である。また、Lは血管の肉厚寸法であり、血管の内径をrとすると、L=(R−r)/2で求められる。一般的に、内径rは1(mm)、外径Rは3(mm)であるため、肉厚寸法Lは1(mm)である。そして、音速cは1530(m/s)であるので、これらを上述の式(2)へ代入すると、1300(ns)<T<3920(ns)の関係が成り立つ。
【0042】
また、受信計測部46は、図7に示す第1波の受信信号を受信してから、第3波の受信信号までの間に未振幅期間が1つあるか否かを検出する。すなわち、受信計測部46は、第1波の受信信号を受信して、第3波の受信信号を受信するまで間における未振幅期間の有無を検出して、未振幅期間が少なくとも1つあればノイズ等の影響が無いと判断する。一方、受信計測部46は、未振幅期間が無い場合には、ノイズ等の影響が有る判断して、測定制御部49に再測定信号を入力し、測定制御部49から超音波モード切替制御部43に制御信号を入力させる。
例えば、図7の波形1のパターンでは、第1波の受信信号を受信してから未振幅期間を経て第2波、さらに未振幅期間を経て第3波、さらに未振幅期間を経て第4波の受信信号を受信するので、未振幅期間が3箇所ある。また、図7の波形2のパターンでは、第1波の受信信号を受信してから未振幅期間を経て第2波、さらに未振幅期間を経て第3波の受信信号を受信するので、未振幅期間が2箇所ある。図7の波形3のパターンでは、第1波の受信信号を受信してから未振幅期間を経て第3波の受信信号を受信するので、未振幅期間が1箇所ある。ところが、図7の波形4のパターンでは、第1波の受信信号を受信してから、反射波が連続しており、受信信号を受信し続けるため、未振幅期間が存在せず、ノイズの影響が有ると判断する。
【0043】
遅延時間計算部47は、測定制御部49から入力される発信角度データに基づいて、各超音波素子12の駆動遅延時間を算出する。
ここで、この発信角度データは、記憶部48に予め記憶されているデータであり、例えば、本実施形態では、図5に示すように、θs=θ1〜θ5の5つの発信角度データが予め記憶されている構成を例示する。なお、6個以上の発信角度データが記憶され、より細かく発信角度を変化可能な構成などとしてもよい。
そして、遅延時間計算部47は、入力された発信角度データθsと、予め設定されている超音波素子12の素子ピッチdと、音速cとを用いて、上記式(1)に基づいて、遅延時間△tを算出し、遅延設定信号として信号遅延回路45に出力する。
【0044】
記憶部48は、例えばメモリーやハードディスクなどの記録媒体を備えて構成され、受信計測部46や遅延時間計算部47や測定制御部49での処理に必要な各種データ及びプログラムを適宜読み出し可能に記憶する。
具体的には、各種データとして、プローブ23における超音波アレイ11の位置データ、発信角度データθs、TOFデータなどが挙げられる。また、各種プログラムとして、詳しくは後述するが、測定制御部49にて実行され、TOFデータに基づいて血管の中心位置を推定する中心位置推定プログラム、TOFデータに基づいて血管の反射位置の6点の座標位置を算出する反射位置座標算出プログラム、反射位置の3点の座標位置から血管の外径及び血管の中心座標を算出する外径算出プログラム、反射位置の3点の座標位置から血管の内径及び血管の中心座標を算出する内径算出プログラム、2つの血管の中心座標を比較して警告を報知する警告出力プログラムなどが挙げられる。
【0045】
図9は、測定制御部49の概略構成を示すブロック図である。
測定制御部49は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等を備えて構成され、記憶部48に記憶されたプログラムを実行する。すなわち、測定制御部49は、記憶部48に記憶されたプログラム及びデータを処理することにより、各種機能を実現する。このような測定制御部49は、血管の径を測定する際には、当該プログラムを処理することにより、図9に示すように、中心位置推定部491、反射位置座標算出部492と、外径算出部493と、内径算出部494と、警告出力部495とを機能として実現する。
【0046】
中心位置推定部491は、入力された超音波アレイ11から最も遠い反射位置での反射波の2つのTOFデータ、及び最も近い反射位置での反射波の2つのTOFデータに基づいて、発信角度データθsを参照して、血管の中心位置を推定し、これを中心推定位置とする。
そして、中心位置推定部491は、既に駆動された2つの超音波アレイ11以外の残りの超音波アレイ11から中心推定位置に対して、超音波を発信するように発信角度θsを算出して、この発信角度データθsを遅延時間計算部47に入力する。
【0047】
反射位置座標算出部492は、入力された第1波及び第3波のTOFデータに基づいて、超音波アレイ11から反射位置の6点(図8のA1、A2、B1、B2、C1、C2)までの距離を算出する。そして、記憶部48に記憶された発信角度データに基づいて、超音波アレイ11Bの位置を原点とし、超音波アレイ11の配設間隔をPとして、6点の座標位置を以下の式(3)〜(8)を用いて算出する。
【0048】
【数3】
【0049】
外径算出部493は、6点の反射位置のうち、A1,B1,C1の座標位置に基づいて、以下の式(9)を用いて血管の外径Rを算出するとともに、中心座標O(x,y)を算出する。
【0050】
【数4】
【0051】
内径算出部494は、6点の反射位置のうち、A2,B2,C2の座標位置に基づいて、以下の式(10)を用いて血管の内径rを算出するとともに、中心座標O(x,y)を算出する。
【0052】
【数5】
【0053】
警告出力部495は、外径算出部493及び内径算出部494で算出された2つの中心座標のずれ量を所定の閾値と比較する。そして、警告出力部495は、ずれ量が閾値を超えている場合には利用者にプローブ23を再度、検査対象位置に付け直す旨の警告を装置本体2の図示しない表示部に報知する。
また、警告出力部495は、外径算出部493及び内径算出部494で算出された2つの中心座標と、中心位置推定部491で推定された血管の中心推定位置とのずれ量を比較する。そして、ずれ量が閾値を超えている場合には、利用者にプローブ23を再度、検査対象位置に付け直す旨の警告を装置本体2の図示しない表示部に報知する。
【0054】
[3.血管径測定装置の測定処理]
次に、血管径測定装置1の測定処理について、図10に示すフローチャートを参照して説明する。
まず、血管径測定装置1のプローブ23を生体の例えば腕等の検査対象位置に密着させて、バンドを締め付けて装置本体2を検査対象位置に固定する。
そして、利用者が図示しない操作部を操作することで入力信号が入力されると、血管径測定装置1は、血管の径の測定を開始する。
【0055】
次に、測定制御部49は、2つの超音波アレイ11を駆動可能に切り替える処理を実施する。ここでは、測定制御部49は、2つの超音波アレイ11を駆動可能に切り替える旨の切替制御信号を超音波アレイ切替回路41に出力する。
【0056】
そして、測定制御部49は、超音波発信モードにおける各種処理を実施する(ステップS1)。
この超音波発信モードでは、測定制御部49は、記憶部48から発信角度データθsを読み込み、遅延時間計算部47に出力する。ここでは、まず、発信角度データθ1を読み込み、遅延時間計算部47に出力する。これにより、遅延時間計算部47は、式(1)に基づいて、遅延時間△tを算出し、遅延設定信号として信号遅延回路45に出力する。
【0057】
また、測定制御部49は、超音波モード切替制御部43に測定制御部49から超音波発信モードに切り替える旨の制御信号を入力すると、超音波信号発信回路44は、2つの超音波アレイ11の各超音波素子12に出力するための駆動信号(駆動パルス)が信号遅延回路45に出力される。この信号遅延回路45では、上記のように、遅延時間計算部47から遅延設定信号が入力されている。このため、各駆動信号は、遅延設定信号に基づいた遅延時間だけ遅延させて受発信切替回路42に出力される。
そして、受発信切替回路42は、信号遅延回路45から入力される駆動信号を超音波アレイ切替回路41に出力する。
【0058】
また、受発信切替回路42は、上記のように、超音波モード切替制御部43から入力される制御信号により、信号遅延回路45から入力される駆動信号を超音波アレイ切替回路41に出力する状態にスイッチングされている。このため、信号遅延回路45から出力された遅延済駆動信号は、超音波アレイ切替回路41を介して、2つの超音波アレイ11の各超音波素子12に出力される。
以上により、2つの超音波アレイ11から、発信角度データθ1に対応した発信角度で超音波が出力される。以上の処理を発信角度データθ2〜θ5についても行うことで、2つの超音波アレイ11から各発信角度データθ1〜θ5に対応した発信角度で超音波が出力される。
【0059】
また、受信計測部46は、超音波モード切替制御部43が受信モードに切り替える処理を実施し、超音波アレイ11で受信された反射超音波に応じた受信信号が受発信切替回路42から受信計測部46に入力されると、その入力されたタイミングでの時間を取得する。そして、超音波モード切替制御部43は、例えば1〜2周期のバースト波が出力される時間後に、超音波受信モードの各種処理を実施する(ステップS2)。
【0060】
ステップS2の超音波受信モードでは、超音波モード切替制御部43は、受発信切替回路42に超音波アレイ切替回路41から入力される受信信号を受信計測部46に出力する旨の制御信号を出力する。
これにより、超音波アレイ11で超音波が受信されて、受信信号が超音波アレイ切替回路41から受発信切替回路42に入力されると、この受信信号は受信計測部46に出力される。
受信計測部46は、計時部にてカウントされる時間を監視し、超音波が発信されたタイミングから、受信信号が入力されるタイミングまでの時間であるTOFデータを取得し測定制御部49に出力する。そして、測定制御部49は、入力されたTOFデータを適宜読み出し可能に記憶部48に記憶する。
ここでの記憶部48に記憶されるTOFデータは、上述したように、2つの超音波アレイ11から発信角度毎(例えば、図5に示す発信角度θ1〜θ5)に発信されて血管で反射した反射波の受信信号のうち、入力が最後に終了した受信信号の2つのTOFデータ、及び最も早く反射した反射波の受信信号の2つのTOFデータである。
【0061】
次に、測定制御部49の中心位置推定部491は、記憶部48からTOFデータ等を読み出し、血管の中心位置を推定し、これを中心推定位置とする(ステップS3)。そして、中心位置推定部491は、既に駆動された2つの超音波アレイ11以外の残りの超音波アレイ11から中心推定位置に対して、超音波を発信するように発信角度θsを算出して、この発信角度データθsを遅延時間計算部47に入力する。
この後、残りの超音波アレイ11は、この算出された発信角度θsで超音波を発信して、受信計測部46は、超音波の反射波の第1波及び第3波のTOFデータを取得して、測定制御部49に入力する。そして、測定制御部49は、入力されたTOFデータを適宜読み出し可能に記憶部48に記憶する。
【0062】
受信計測部46は、反射波のうち、第1波の受信信号を受信してから、第3波の受信信号までの間に未振幅期間があるか否かを検出する(ステップS4)。未振幅期間が少なくとも1つあればノイズ等の影響が無いと判断し、次のステップS5の処理を実行する。
一方、受信計測部46は、未振幅期間が無い場合(受信信号を受信し続けるなどの場合)には、ノイズ等の影響が有る判断して、ステップS1に戻り、測定制御部49は、超音波発信モードにおける各種処理を実施する。なお、ステップS1からステップS4の処理を所定回数行っても、未振幅期間が無いと判定されれば、測定制御部49は利用者にプローブ23を取り付け直す旨のエラーを出力する処理をする。
【0063】
次に、測定制御部49の反射位置座標算出部492は、反射位置の座標位置を算出する処理を実施する(ステップS5)。
反射位置座標算出部492は、記憶部48からTOFデータ等を読み出し、図8に示す6点の反射位置A1,A2,B1,B2,C1,C2の座標位置を上述の式(3)〜(8)を用いて算出する。
【0064】
そして、外径算出部493は、ステップS5で算出した反射位置A1,B1,C1の座標位置、及び上述の式(9)を用いて、血管の外径R及び血管の中心座標O(x,y)を算出する(ステップS6)。
さらに、内径算出部494は、ステップS5で算出した反射位置A2,B2,C2の座標位置、及び上述の式(10)を用いて、血管の内径r及び血管の中心座標O(x,y)を算出する(ステップS7)。
【0065】
次に、警告出力部495は、ステップS6、S7で算出した各中心座標Oのずれ量を所定の閾値と比較する(ステップS8)。そして、各中心座標Oのずれ量が所定の閾値よりも大きい場合には利用者にプローブ23を再度、検査対象位置に付け直す旨の警告を報知し(ステップS9)、ステップS1に戻り再測定を開始する。
一方、各中心座標Oのずれ量が所定の閾値より小さい場合には、各中心座標Oと推定中心位置とのずれ量を所定の閾値と比較する(ステップS10)。そして、ずれ量が閾値より小さい場合には血管の径の測定処理を終了する。ところが、当該ずれ量が閾値より大きい場合には、警告出力部495は、ステップS9の警告を報知し、ステップS1に戻り再測定を開始する。
【0066】
[4.本実施形態の作用効果]
本実施形態では、超音波が血管の中心Oを通過するように、超音波の発信角度を制御する信号遅延回路45を備えるので、血管の壁面に対して直交する方向に確実に超音波を発信させることができ、前述した従来のような反射波の強度の低下を防止することができ、確実に反射波を受信できる。
また、超音波の発信後、受信するまでの時間が最短となる第1波から、上記式(2)の所定時間Tの範囲内で到達した反射波を第3波として測定する受信計測部46を備える。すなわち、受信計測部46を備えることで、第1波の次に血管の内壁で反射する第2波及び第4波を除くことができ、第1波、及び所定時間Tの範囲内で受信した第3波を確実に区別して受信することが可能となる。これによれば、第3波の受信信号のTOFデータを正確に取得でき、超音波の血管での反射位置A2,B2,C2の座標を上記式(4)、(6)、(8)を用いて正確に求めることができる。従って、外径算出部493及び内径算出部494により、上記式(9)、(10)を用いて、より正確な血管の外径R、内径r、及び中心座標Oを算出できる。
【0067】
さらに、受信計測部46は第1波から第3波までの間に未振幅期間が少なくとも1つあるか否かを判定するので、例えば、第1波から第3波が連続しているような反射波を検出することができる。従って、反射波が連続波となっている場合には、再測定することで、第1波の反射位置、及び第3波の反射位置を確実に特定することができ、血管の径の正確な測定をすることができる。
また、外径算出部493及び内径算出部494により算出した各中心座標Oのずれ量を所定の閾値と比較する警告出力部495を備え、この警告出力部495は、ずれ量が閾値を超えている場合にはプローブ23を再度取り付け直す旨の警告を出力する。これによれば、利用者がプローブ23を検査対象位置に再度取り付け直した後に、再測定して、各中心座標Oのずれ量が閾値より小さくなることで、より正確な血管の中心座標Oを求めることができ、正確な血管の径の測定が可能となる。
さらに、警告出力部495は、中心位置推定部491により推定された血管の中心推定位置と、外径算出部493及び内径算出部494で算出された中心座標Oとのずれ量を比較し、ずれ量が閾値を超えている場合にはプローブ23を再度取り付け直す旨の警告を出力する。そして、再測定することで、より正確な血管の中心座標を求めることができ、正確な血管の径の測定が可能となる。
【0068】
[実施形態の変形]
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、2つの超音波アレイ11からは発信される超音波の2つの反射波に基づいて、血管の中心位置を推定していたが、3つの超音波アレイ11から発信される超音波の反射波から3つの反射波に基づいて、血管の中心位置を推定してもよい。この場合には、2つの超音波アレイ11を用いて、血管の中心位置を推定する場合に比べて、中心位置を推定する精度をより向上できる。
【0069】
前記実施形態では、3つの超音波アレイ11を用いた血管径測定装置1を例示したが、これに限定されず、4つ以上の超音波アレイ11を用いてもよい。
前記実施形態では、開口部101として平面視円形状のものを例示したが、これに限定されず、ダイアフラム13の撓みバランスや、圧電体14によるダイアフラム13の振動安定性に応じて、例えば矩形状などその他の形状に形成されてもよい。すなわち、ダイアフラム13の振動時の応力バランスなどを考慮して、超音波素子12の形状を自由に設計することができる。
【0070】
前記実施形態では、各超音波アレイ11は、各超音波素子12により超音波の発信および受信の双方を実施し、超音波モード切替制御部43により、超音波発信モードと、超音波受信モードとを切り替える例を示したが、これに限定されず、受信専用の超音波素子及び発信専用の超音波素子を並設する構成としてもよい。
【0071】
前記実施形態において、遅延時間計算部47が、測定制御部49から発信角度データを受け取ることで、各超音波素子12に入力する駆動信号の遅延時間を演算する装置である例、すなわち、遅延時間計算部47がハードウェアとして構成される例を示したが、これに限定されない。例えば、記憶部48に遅延時間計算プログラムが記憶され、測定制御部49によりこの遅延時間計算プログラムが読み出されて実行されることで、各駆動信号に遅延時間を演算する構成としてもよい。
また、前記実施形態では、中心位置推定部491、反射位置座標算出部492、外径算出部493、内径算出部494、及び警告出力部495として、測定制御部49が各種プログラムを読み出し実行することで機能する例を示したが、例えば、中心位置推定部491、反射位置座標算出部492、外径算出部493、内径算出部494、及び警告出力部495が、例えばICなどの集積回路により、ハードウェアとして構成されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…血管径測定装置、4…制御回路、11…超音波アレイ、12…超音波素子、23…プローブ、45…信号遅延回路(発信角度制御部)、46…受信計測部(第1反射波測定部、第2反射波測定部)、491…中心位置推定部、493…外径算出部、494…内径算出部、495…警告出力部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に接触するプローブに設けられた少なくとも3つの超音波アレイと、
前記超音波アレイから超音波が発信されてから前記生体内の血管で反射して前記超音波アレイに到達するまでの到達時間に基づいて前記血管の外径及び内径を算出する制御回路とを備え、
前記超音波アレイは、複数の超音波素子が走査方向に沿って一方向に配設されたライン状アレイ構造を有し、
前記制御回路は、
前記各超音波素子から超音波を発信するタイミングを遅延させることで、前記超音波アレイから発信される超音波が前記血管の中心を通過するように超音波の発信角度を制御する発信角度制御部と、
前記各超音波アレイから発信された超音波が前記血管で反射されて、最も早く前記超音波アレイに到達する第1反射波の第1到達時間を測定する第1反射波測定部と、
前記第1到達時間を基準として設定される所定時間の範囲内に前記超音波アレイに到達した第2反射波の第2到達時間を測定する第2反射波測定部と、
前記各超音波アレイに到達する少なくとも3つの前記第1反射波の前記第1到達時間に基づいて前記血管の外径を算出する外径算出部と、
前記各超音波アレイに到達する少なくとも3つの前記第2反射波の前記第2到達時間に基づいて前記血管の内径を算出する内径算出部とを備える
ことを特徴とする血管径測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の血管径測定装置において、
前記制御回路は、
少なくとも2つの前記超音波アレイから前記発信角度制御部により制御されて超音波の発信角度毎に発信された各超音波のうち、前記血管で反射されて最も遅く前記超音波アレイに到達する少なくとも2つの反射波の最遅到達時間、及び前記最遅到達時間となるように発信された各超音波の各発信角度に基づいて、前記血管の中心位置を推定する中心位置推定部を備える
ことを特徴とする血管径測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の血管径測定装置において、
前記第2反射波測定部は、前記第1反射波から前記第2反射波までの間に反射波の未振幅期間が少なくとも1つあるか否かを判定する
ことを特徴とする血管径測定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の血管径測定装置において、
前記外径算出部は、前記第1反射波の前記血管における少なくとも3点の反射位置の座標に基づいて、前記血管の外径を算出するとともに前記血管の中心座標を算出し、
前記内径算出部は、前記第2反射波の前記血管における少なくとも3点の反射位置の座標に基づいて、前記血管の内径を算出するとともに前記血管の中心座標を算出し、
前記制御回路は、前記各中心座標のずれ量が所定の閾値を超えているか否かを判定し、前記閾値を超えている場合には、警告を出力する警告出力部を備える
ことを特徴とする血管径測定装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の血管径測定装置において、
前記制御回路は、
少なくとも2つの前記超音波アレイから前記発信角度制御部により制御されて超音波の発信角度毎に発信された各超音波のうち、前記血管で反射されて最も遅く前記超音波アレイに到達する少なくとも2つの反射波の最遅到達時間、及び前記最遅到達時間となるように発信された超音波の発信角度に基づいて、前記血管の中心位置を推定する中心位置推定部と、
前記中心位置推定部で推定された前記血管の中心推定位置と、前記外径算出部及び前記内径算出部で算出される中心座標とのずれ量が前記閾値を超えているか否かを判定し、前記閾値を超えている場合には、警告を出力する警告出力部とを備える
ことを特徴とする血管径測定装置。
【請求項1】
生体に接触するプローブに設けられた少なくとも3つの超音波アレイと、
前記超音波アレイから超音波が発信されてから前記生体内の血管で反射して前記超音波アレイに到達するまでの到達時間に基づいて前記血管の外径及び内径を算出する制御回路とを備え、
前記超音波アレイは、複数の超音波素子が走査方向に沿って一方向に配設されたライン状アレイ構造を有し、
前記制御回路は、
前記各超音波素子から超音波を発信するタイミングを遅延させることで、前記超音波アレイから発信される超音波が前記血管の中心を通過するように超音波の発信角度を制御する発信角度制御部と、
前記各超音波アレイから発信された超音波が前記血管で反射されて、最も早く前記超音波アレイに到達する第1反射波の第1到達時間を測定する第1反射波測定部と、
前記第1到達時間を基準として設定される所定時間の範囲内に前記超音波アレイに到達した第2反射波の第2到達時間を測定する第2反射波測定部と、
前記各超音波アレイに到達する少なくとも3つの前記第1反射波の前記第1到達時間に基づいて前記血管の外径を算出する外径算出部と、
前記各超音波アレイに到達する少なくとも3つの前記第2反射波の前記第2到達時間に基づいて前記血管の内径を算出する内径算出部とを備える
ことを特徴とする血管径測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の血管径測定装置において、
前記制御回路は、
少なくとも2つの前記超音波アレイから前記発信角度制御部により制御されて超音波の発信角度毎に発信された各超音波のうち、前記血管で反射されて最も遅く前記超音波アレイに到達する少なくとも2つの反射波の最遅到達時間、及び前記最遅到達時間となるように発信された各超音波の各発信角度に基づいて、前記血管の中心位置を推定する中心位置推定部を備える
ことを特徴とする血管径測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の血管径測定装置において、
前記第2反射波測定部は、前記第1反射波から前記第2反射波までの間に反射波の未振幅期間が少なくとも1つあるか否かを判定する
ことを特徴とする血管径測定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の血管径測定装置において、
前記外径算出部は、前記第1反射波の前記血管における少なくとも3点の反射位置の座標に基づいて、前記血管の外径を算出するとともに前記血管の中心座標を算出し、
前記内径算出部は、前記第2反射波の前記血管における少なくとも3点の反射位置の座標に基づいて、前記血管の内径を算出するとともに前記血管の中心座標を算出し、
前記制御回路は、前記各中心座標のずれ量が所定の閾値を超えているか否かを判定し、前記閾値を超えている場合には、警告を出力する警告出力部を備える
ことを特徴とする血管径測定装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の血管径測定装置において、
前記制御回路は、
少なくとも2つの前記超音波アレイから前記発信角度制御部により制御されて超音波の発信角度毎に発信された各超音波のうち、前記血管で反射されて最も遅く前記超音波アレイに到達する少なくとも2つの反射波の最遅到達時間、及び前記最遅到達時間となるように発信された超音波の発信角度に基づいて、前記血管の中心位置を推定する中心位置推定部と、
前記中心位置推定部で推定された前記血管の中心推定位置と、前記外径算出部及び前記内径算出部で算出される中心座標とのずれ量が前記閾値を超えているか否かを判定し、前記閾値を超えている場合には、警告を出力する警告出力部とを備える
ことを特徴とする血管径測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−85789(P2012−85789A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234551(P2010−234551)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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