説明

血管新生及び/または既存細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達の調節に関する方法

【課題】コロニー刺激因子(CSF)の生物活性を阻害して血管新生及び/または既存細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達を抑制する薬剤から、腫瘍を治療する医薬組成物を製造すること。
【解決手段】器官、組織または細胞をコロニー刺激因子(CSF)またはCSFをコードする核酸分子と接触させることを含む血管新生及び/または既存細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達の増強に関する方法が提供される。さらに、血管新生及び/または既存細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達を増強する医薬組成物の製造へのCSFまたはCSFをコードする核酸分子の使用が記載される。また、CSFの生物活性を阻害して血管新生及び/または既存細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達を抑制する物質に器官、組織または細胞を接触させることを含む腫瘍の治療方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に血管新生及び/または既存細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達の調節に関するものである。特に、本発明は器官、組織または細胞とコロニー刺激因子(CSF)及び/またはCSFをコードする核酸分子との接触を含む血管新生及び/または既存細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達を増強する方法を提供する。本発明は、CSFまたはCSFをコードする核酸分子を、血管新生及び/または既存細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達を増強する医薬組成物の製造に使用することにも関係する。さらに、本発明は、器官、組織または細胞とCSFの生物活性を阻害して血管新生及び/または既存細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達を抑制する薬剤との接触を含む腫瘍の治療方法に関係する。本発明は、さらにCSFの生物活性を阻害して血管新生及び/または既存細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達を抑制する物質を腫瘍治療用医薬組成物の製造に使用することを含む。
【背景技術】
【0002】
この明細書全般にわたって幾つかの文書が引用されている。ここで引用される各文書(製造会社の明細、使用説明書などを含む)は参考文献の中に入れている。しかし、すべての引用文書が確かに本発明の先行技術であるという承認はない。
【0003】
動脈閉塞患者の治療において、最新の治療戦略の多くは、影響を改良することをねらっている。治療に有効な唯一の方法は、血管形成術(風船拡張法)またはバイパス手術である。前者は再狭窄の高いリスクを持つため、虚血性心疾患のようなある種の動脈閉塞疾患にのみ施される。後者は健康な組織を冒すため、ある種の動脈閉塞疾患に制限される。血管新生及び/または側枝発達を増強するための確立された治療法はない。
【0004】
成人における血管の発達は、二つの異なるメカニズム、すなわち毛細血管の出芽(血管新生)及びin situにおける既存細動脈網の側枝動脈への拡大を経由して進む(Schaper, J. Collateral Circulation-Heart, Brain, Kidney, Limbs. Boston, Dordrecht, London: Kluwer Academic Publishers; 1993)。最近の研究によって、主要な成分として血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が血管を新生するメカニズムが解明された(Tuder, J. Clin. Invest. 95 (1995), 1798-1807; Plate, Nature 359 (1992), 845-848; Feirara, Endocrine Reviews 13 (1992), 18-42; Klagsbrun, Annu. Rev. Physiol, 53 (1991), 217-238; Leung, Science 246 (1990), 1306-1309)。この特定の内皮細胞分裂刺激因子は、酸素圧低下によって制御されており、大腿動脈を切除したウサギの後肢に注入すると血管の発達を促進することができる(Takeshita, J. Clin. Invest. 93 (1994), 662-670; Bauters, Am. J. Physiol. 267 (1994), H1263-H1271)。しかし、これらの研究は、血管新生と呼ばれるメカニズムである毛細血管の発達と真の側枝動脈の発達とを区別していなかった。VEGFは内皮細胞の増殖を刺激するにすぎないが、側枝動脈の発達は内皮細胞及び平滑筋細胞の増殖を必要とし、著しい再構築の過程が起きる(Schaper, J. Collateral Circulation-Heart, Brain, Kidney, Limbs. Boston, Dordrecht, London: Kluwer Academic Publishers, 1993; Jakeman, J. Clin. Invest. 89 (1992), 244-253; Peters, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993), 8915-8919; Millauer, Cell 72 (1993), 835-846; Pasyk, Am. J. Physiol. 242 (1982), H1031-H1037)。さらに、毛細血管の出芽は、例えば子豚の心臓や急速に増殖している腫瘍など主に虚血領域で観察される(Schaper, J. Collateral Circulation-Heart, Brain, Kidney, Limbs. Boston, Dordrecht, London: Kluwer Academic Publishers, 1993; Plate, Nature 359 (1992), 845-848; Bates, Curr. Opin. Genet. Dev. 6 (1998), 12-19; Bates, Curr. Opin. Genet. Dev. 6 (1996), 12-19; Gorge, Basic Res. Cardiol. 84 (1989), 524-535)。しかし、真の側枝動脈の発達は、一時的なもので、大部分の研究モデルにおける虚血からは特に離れている(Schaper, J. Collateral Circulation-Heart, Brain, Kidney, Limbs. Boston, Dordrecht, London: Kluwer Academic Publishers, 1993; Paskins-Huriburt, Circ. Res. 70 (1992), 546-553)。それゆえ、側枝動脈の発達を説明するためには、血管新生のメカニズムとして他のまたは追加のメカニズムが必要である。以前の研究から、これらの側枝動脈は既存細動脈網から発達することが知られている(Schaper, J. Collateral Circulation-Heart, Brain, Kidney, Limbs. Boston, Dordrecht, London: Kluwer Academic Publishers, 1993)。
【0005】
しかし、VEGFや他の増殖因子などの因子が、現在動脈閉塞後の血管新生の発達を刺激するために用いられているが、既存細動脈網の側枝動脈への発達をそのような因子が調節できるとは考えられない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の技術的問題は、血管新生及び/または既存細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達の調節を行う医薬組成物及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この技術的問題は、請求項で特徴付けられた実施態様を提供することにより解決する。
したがって、本発明は器官、組織または細胞とコロニー刺激因子(CSF)及び/またはCSFをコードする核酸分子との接触を含む血管新生及び/または既存細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達を増強する方法に関するものである。本発明の中で「血管新生」という用語は、Sasayamaの総説(Circulation Res. 85 (1992), 1197-1204)を参照している。本発明において、既存細動脈網から側枝動脈の発達は、また「動脈形成」と呼ばれる。特に、「動脈形成」は、虚血性組織、腫瘍または炎症部位に血液を供給する既存細動脈網から内皮細胞及び平滑筋細胞を増殖させることによりその場で動脈を発達させることである。これらの血管はほとんどが冒された組織の外側で発達するが、虚血領域、腫瘍または炎症部位への栄養輸送にとっては、疾患組織において血管新生過程で形成される毛細血管の出芽よりもより重要である。
【0008】
本発明の中で「コロニー刺激因子(CSF)」という用語は、マクロファージに作用し、内在し新しく補充されるマクロファージのエフェクター機能の直接的な活性化、増殖及び/または増強により側枝動脈の発達を促進することができるタンパク質及びペプチドに適用する。あらゆるCSFまたは機能的にCSFと同等な、側枝動脈の発達を促進できる物質が本発明に用いられる。本発明で使われるCSFの作用は、上記の特異性に限られるわけではなく、例えば好酸球、白血球の亜集団及び/または幹細胞にも作用する可能性がある。好都合なことに、CSFは抗アテローム発生作用を持つ。
【0009】
本発明によれば、驚くべきことに、局所的に適用された顆粒球-マクロファージ‐コロニー刺激因子(GM-CSF)が側枝動脈の発達を有意に増加させることが発見された。これらの結果は、側枝動脈のコンダクタンスの顕著な増加に基づくものである。圧力流量関係からコンダクタンスを計算するステーサム(Statham)圧力変換装置、蛍光微小球及びFACS解析を用いて最大血管拡張下で末梢血圧及び側枝動脈の流量を測定した。さらに、死後の脈管撮影像が無処置動物に比べ側枝動脈の数が極めて高いことが明らかになった。発明者が知る限り、これは抗アテローム作用を持ち、広く臨床的に確立されたコロニー刺激因子が、生体内で既存細動脈から血管新生及び/または側枝動脈の発達及び/または他の動脈の発達を著しく増強することができるという最初の報告である。以上のことから、本発明のとおりに用いられるCSFはアテローム性動脈硬化症の治療に特に適している。
【0010】
本発明の範囲内で行われた実験により、GM-CSFの局所注入でマクロファージへの増殖効果によって血管の発達が増強されたため、大腿動脈閉塞後の側枝及び末梢コンダクタンスの両者が増加することが実証された。したがって、CSF類またはCSF類をコードする核酸分子を、幾つかの閉塞疾患の治療に必要なマクロファージを活性化及び増殖し次に既存細動脈網からの動脈の発達に加え、血管新生及び/または側枝動脈の発達に用いることが可能である。
【0011】
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)及び顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)は、造血前駆細胞の生存、増殖及び分化に必要な糖タンパク性(glycoprotidic)増殖因子ファミリーに属している。それゆえ、この物質は臨床的に血液癌の患者を治療するために用いられてきた。これらのCSF分子の作用は造血細胞に限られると考えられていた(Demetri, Semin. Oncol. 19 (1992), 362-385; Liescheke, N. Engl. J. Med. 327 (1992), 28-35/Comments 99-106)。さらに、幾つかの研究がこれらのコロニー刺激因子が脂質代謝においても主要な役割を果たしていることを実証した。
【0012】
最近の実験により、局所組織のマクロファージの生存(Selgas, Kidney International 50 (1996), 2070-2078; Lopez, J. Clin. Invest. 78 (1986), 1220-1228; Elschen, J. Immunol. Meth. 147 (1991), 3408-3412; Vincent, Exp. Hematol. 20 (1992), 17-23; Mangan, J. Immunol. 147 (1991), 3408-3412)、活性化、増殖(Hoedemakers, Hepatology 13 (1994), 666-674; Matsushima, Japanese Journal of Clinical Hematology 36(1995), 406-409)、分化(Munn, Cancer Immunology, Immunotherapy 41 (1995), 46-52)、及び遊走(Bussolini, Nature 337(1989), 471-473)のように、GM-CSFがマクロファージ及び顆粒球のエフェクター機能の多くを直接的に促進することが示された。
【0013】
本発明の方法及び使用に用いるCSFは、これまで論文に記載されている様々な方法で入手できる。例えば、Gaertner, Bioconjugate Chemistry 3 (1992), 262-268; Dexter, European Journal of Cancer 30A (1994), 15-9; Rohde, Developments in Biological Standardization 83 (1994), 121-127; Lu, Protein Expression & Purification 4 (1993), 465-472; Ito, 蛋白質・核酸・酵素35, 2620-2631を参照。組み換えDNA技術を利用して、機能領域または前記CSFと機能的に同等なタンパク質を含むコロニー刺激因子(CSF)の様々な誘導体が調製できる可能性がある。この明細の中で「CSFと機能的に同等」または「CSFの機能領域」とは、前記マクロファージまたは顆粒球エフェクター機能の少なくとも一つを促進する生物学的特性を持つCSFの一次構造の一部または全部を持つタンパク質を意味する。前記タンパク質の機能領域または機能的に同等なタンパク質とは、例えばDNAの部位特異的変異によるアミノ酸配列におけるアミノ酸の欠失、置換、挿入、付加及び/または交換によるCSFの誘導体であってもよい。組み換えDNA技術は、当業技術者には良く知られており、例えばSambrookらに記述されている(Molecular Cloning; A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor NY (1989))。修飾CSFが例えばYamasaki, Journal of Biochemistry 115 (1994), 814-819に記載されている。
【0014】
CSFまたはその機能領域またはCSFと機能的に同等なタンパク質は、以前の論文に記載されているアミノ酸及びDNA配列を用いて、通例の化学合成または組み換え技術によって製造されてもよい。例えば、EP-A-0 177 568; Han, Source Gene 175 (1996), 101-104; Kothari, Bllod Cells, Molecular & Diseases 21 (1995), 192-200; Holloway, European Journal of Cancer 30A (1994), 2-6参照。
例えば、調節配列の制御下で発現するCSFまたはその機能領域またはCSFと機能的に同等なタンパク質をコードするDNA配列で形質転換された適切な細胞または細胞系を培養して生産されてもよい。組み換えタンパク質の生産に適切な技術は、例えば前記Sambrookなどに記載されている。化学合成による本発明の方法及び使用に有用な前記CSF及びタンパク質作製法も当業技術者に知られている。
【0015】
他方、本発明は、既存細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の血管新生及び/または発達を増強する医薬組成物の製造へのコロニー刺激因子(CSF)または前記CSFをコードする核酸分子の使用に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】GM-CSFを投与した動物の右肢全体の血管造影図である。
【図2A】GM-CSFを投与した動物の右肢全体の血管造影図である。
【図2B】GM-CSFを投与した動物の側枝血行(大腿骨を除く)の血管造影図である。
【図3】GM-CSFを投与した動物の側枝血行(大腿骨を除く)の血管造影図である。
【図4】PBSを投与した動物の右肢全体の血管造影図である。
【図5】PBSを投与した動物の側枝血行(大腿骨を除く)の血管造影図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
医薬組成物は、少なくとも一つの前記CSF及び任意に製剤に使用できる担体または補形剤(exipient)を含有する。適切な薬剤の担体の例は製薬工業で良く知られており、リン酸緩衝生理溶液、水、オイル/水エマルジョンなどのエマルジョン、様々なタイプの保湿剤、滅菌溶液などが挙げられる。そのような担体を含む組成物は、従来の方法により製剤化される。医薬組成物は患者に適切な用量で投与することができる。投薬計画は患者の状態、病気の重篤度や他の臨床要因を考慮して、担当医によって決定されてもよい。適切な組成物の投与は、異なる投与経路、例えば静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局部または皮内投与によって行われてもよい。投薬計画は担当医及び他の臨床的要因によって決定される。医学の分野で良く知られているように、投薬量は、患者の大きさ、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性、投与時間及び経路、一般状態及び同時に投与される他の薬剤など多くの要因に依存する。一般的に薬剤成分の通常の投与計画では、1日あたり1 μgから10 mg単位の範囲でなければならない。連続的に注入する場合も、1日あたり、kg体重あたり1 μgから10 mg単位の範囲でなければならない。定期的な評価によって進行状況をモニターすることができる。投与量は変動するが、DNAの静脈内投与における好ましい投与量は、DNA分子の約106から1012コピーである。本発明の成分は、局所的または全身的に投与されてもよい。一般的に非経口的、例えば静脈内に投与されるが、例えば標的部位の内側または外側への輸送により、または動脈内の部位にカテーテルにより、DNAを標的部位に直接投与してもよい。
【0018】
好ましい実施態様において、本発明の方法及び使用に用いられる前記CSFは、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、マクロファージ刺激因子(M-CSF)、コロニー刺激因子(CSF-1)、これらの機能的同等物質または機能的誘導体からなる群から選択される。
【0019】
好ましい実施態様において、本発明の方法及び使用は、血管疾患または心筋梗塞または発作または側枝動脈や動脈から血液供給の増加が必要とされるあらゆる疾患によって起きる病気に使われてもよい。
【0020】
特に好ましい実施態様において、本発明の方法及び使用は、アテローム性動脈硬化症、冠状動脈疾患、脳梗塞疾患、末梢閉塞疾患、内臓閉塞疾患、腎臓閉塞疾患、腸間動脈不全または眼または血管網の閉塞または血管壁のアテロームが血管障害を起こすあらゆる疾患を持つ患者に適用できるよう設計されている。
【0021】
さらに好ましい実施態様において、本発明の方法及び使用は、動脈を損傷または破壊する薬剤投与または放射線照射または外科手術の間または後に患者に適用されるよう設計されている。
【0022】
好ましい実施態様において、本発明の方法及び使用に用いるCSFは、組み換えCSFである。本発明の方法及び使用に用いるCSFをコードしているDNA配列は以前の論文に記載されている。例えば、Holloway, European Journal of Cancer 30A (1994), 2-6または引用文献参照。さらに、CSFのDNA及びアミノ酸配列はジーンバンクのデータベースを利用できる。上述のように、組み換えタンパク質の生産は当業技術者には良く知られている。例えば、前記Sambrook参照。
【0023】
さらに好ましい実施態様において、本発明の方法及び使用は増殖因子、できれば線維芽細胞増殖因子または内皮細胞増殖因子(VEGF)と結合して適用するよう設計されている。この実施態様は、毛細血管の発達(血管新生)及び既存細動脈の真性側枝動脈への拡大の両者を増強するのに特に適している。GM-CSFのようなCSF及びVEGFのような増殖因子を含む医薬組成物を、末梢血管疾患または冠状動脈疾患の治療に用いてもよい。
【0024】
別の好ましい実施態様において、本発明の方法は、(a) 患者から細胞、組織または器官を得ること、(b) CSFをコードし、生体内でCSFを発現し得る核酸分子を前記細胞、組織または器官に導入すること、及び(c) ステップ(b)で得られた細胞、組織または器官を同一患者または異なる患者に再導入すること、を含む。
【0025】
CSF及びCSFをコードする核酸分子は単独または併用のいずれか、及び任意に調合可能な担体または補形剤(exipient)とともに投与されることが本発明に包含される。前記核酸分子は細胞のゲノムに安定的に組み込まれてもよく、または染色体外因子として維持されてもよい。例えば、Calos, Trends Genet. 12 (1996), 463-466。他方、先の論文に記載があるウイルスベクターをある種の細胞、組織または器官にトランスフェクトするために用いてもよい。
【0026】
CSFをコードする核酸分子から成る本発明の薬剤成分を遺伝子治療に用いることができる。適切な遺伝子輸送システムは、リポソーム、受容体仲介輸送システム、裸DNA及びヘルペスウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、及び他のアデノ関連ウイルスを含んでいていもよい。核酸分子は、Williams (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88 (1991), 2726-2729)が記載しているような微粒子銃(biolistic)輸送システムによって遺伝子治療を行う体内の特定の部位に輸送される。
【0027】
核酸分子で細胞をトランスフェクトする標準的な方法は、分子生物学分野の当業技術者には良く知られている。例えば、WO 94/29469参照。ここで述べた疾患の進行を防止または低下させるために行う遺伝子治療は、CSFをコードする核酸分子を患者に直接投与するか、または生体外において前記核酸分子で細胞をトランスフェクトした後形質転換細胞を患者に注入することによって行われてもよい。生殖細胞への遺伝子導入に関する研究は、生殖生物学において急速に進展している分野の一つである。生体外または生体内の技術による治療に用いる遺伝子の細胞への導入に基づく遺伝子治療は、遺伝子導入の最も重要な応用の一つである。試験管内または生体内遺伝子治療に用いる適切なベクター及び方法は文献に記載されており、当業技術者によく知られている。例えば、Giordano, Nature Medicine 2 (1996), 534-539; Schaper, Circ. Res. 79 (1996), 911-919; Anderson, Science 256 (1992), 808-813; Isner, Lancet 348 (1996), 370-374; Muhlhauser, Circ. Res. 77 (1995), 1077-1086; Wang, Nature Medicine 2 (1996), 714-716; WO 94/29469; WO 97/00957またはSchaper, Current Opinion in Biotechnology 7 (1996), 635-640及びここでの引用文献。本発明の製剤成分を構成する核酸分子は、細胞に直接導入するか、または前記核酸分子を持つリポソームまたはウイルスベクター(例えば、アデノウイルスやレトロウイルス)で導入するよう設計されていてもよい。前記細胞は、生殖細胞、胚細胞、または卵細胞またはそれらの由来細胞であることが好ましい。
【0028】
導入されたCSFをコードする核酸分子は、前記細胞に導入後、前記CSFを発現し、望ましくは前記細胞の生存期間中この状態を維持することが、理解されておく必要がある。例えば、前記CSFを安定して発現する細胞系は、当業技術者によく知られている方法にしたがって作出されてもよい。ウイルスの複製起点を持つ発現ベクターを用いるよりも、本発明の組み換えDNA分子またはベクター及び同一または別のベクター上に存在する選択マーカーで宿主細胞を形質転換することができる。外来DNAの導入後、作出した細胞を1日ないし2日間富化培地で増殖させ、次に選択培地に移す。組み換えプラスミド上の選択マーカーが選択に抵抗性を与え、染色体にプラスミドを安定して組み込んだ細胞が選択され、増殖してフォーカスを形成する。フォーカスは順次クローニングされ、細胞系が作出される。この方法は、CSFを発現する細胞系を作出するために有利に用いられてもよい。
そのような細胞は、本発明の製剤成分、方法及び使用にしたがって投与されてもよい。
【0029】
例えば、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(Wigler, Cell 11 (1977), 233)、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシル転移酵素(Szybalska, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 48 (1962), 2026)、及びアデニンホスホリボシル転移酵素(Lowy, Cell 22 (1980), 817)が、それぞれtk-、hgprt-またはaprt-細胞で用いられるように、幾つかの選択系が用いられてもよいが、これらに限定されるわけではない。また、メトトレキサートに抵抗性を与えるdhfr(Wigler, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77 (1980), 3567; O'Hare, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78 (1981), 1527)、ミコフェノリック酸に抵抗性を与えるgpt(Mulligan, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78 (1981), 2072)、アミノグリコシドG-418(Colberre-Garapin, J. Mol. Biol. 150 (1981), 1)、ヒグロマイシンに抵抗性を与えるhygro(Santerre, Gene 30 (1984), 147)またはピュロマイシン(pat、ピュロマイシンN-アセチル転移酵素)のように、代謝拮抗物質耐性も選択の基礎として用いることができる。例えば、細胞がトリプトファンの代わりにインドールを利用できるようにするtrpB、細胞がヒスチジンの代わりにヒスチノールを利用できるようにするhisD(Hartman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85 (1988), 8047)及びオルニチン脱炭酸酵素阻害剤、2-(ジフルオロメチル)-DL-オルニチン、DFMOに抵抗性を与えるODC(オルニチン脱炭酸酵素)(McConlogue, 1987, In: Current Communication in Molecular Biology, Cold Spring Harbor Laboratory ed.)など追加される選択遺伝子が記述されている。
【0030】
したがって、好ましい実施態様において、本発明の医薬組成物を構成する核酸分子が、例えば前記核酸分子の直接的導入または前記核酸分子を持つプラスミド、リポソーム・プラスミド、またはウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)によって生体内でCSFが発現するように設計されている。
【0031】
本発明の方法及び使用の好ましい実施態様において、CSF誘導体または機能的に同等な物質は抗体、(ポリ)ペプチド、核酸、低分子有機化合物、リガンド、ホルモン、PNAまたは擬ペプチドである。
【0032】
本発明で用いられるCSFは、例えば文献に記載の従来の方法によって修飾できることが理解される。例えば、上述のCSF生物活性、すなわち側枝動脈の発達を促進する能力を残しているフラグメントを用いることができる。このことはさらにキメラタンパク質及びペプチドの構築を可能とし、前記構築において、他の機能的なアミノ酸配列を、例えば化学的手段によってCSFに連結するか、または技術的に良く知られている組み換えDNA技術によってCSFに融合してもよい。さらに、特定のコンピュータープログラムを使って、CSFまたはそれらの受容体の構造的モチーフに関するシュミレーション及び再設計を行うことができる(Olszewski, Ptoteins 25 (1996), 286-299; Hoffman, Comput. Appl. Biosci. 11 (1995), 675-679)。コンピューターによるタンパク質高次構造の構築が、受容体及びタンパク質モデルの立体構造及びエネルギー解析に用いられる(Monge, J. ol. Biol. 247 (1995), 995-1012; Renouf, Adv. Exp. Med. Biol. 376 (1995), 37-45)。特に、特定のプログラムを使って、コンピューターによる相補的なペプチド配列の検索によってCSF及びその受容体の活性部位を同定することができる(Fassina, Immunomethods 5 (1994), 114-120)。さらに、タンパク質及びペプチドを設計するための特定のコンピューターシステムが、先の論文、例えばBerry, Biochem. Soc. Trans. 22 (1994), 1033-1036; Wodak, Ann. N.Y. Acad. Sci. 501 (1987), 1-13; Pabo, Biochemistry 25 (1986), 5987-5991に記述されている。上記コンピューター解析から得られた結果は、例えばCSFまたはそれらのフラグメントの擬ペプチドの調製に用いることができる。そのようなタンパク質本来のアミノ酸配列の擬ペプチドアナログは、親タンパク質またはペプチドをきわめて効果的に模造している(Benkirane, J. Biol. Chem. 271 (1996), 33218-33224)。例えば、簡単に利用できるアキラルのΩ-アミノ酸残基をCSFタンパク質またはそれらのフラグメントへ組み込むことで、脂肪族鎖のポリメチレン単位によるアミド結合の置換を生じ、それによって擬ペプチドを構築する便利な戦略を提供する(Banerjee, Biopolymer 39 (1996), 769-777)。他の系において低分子ペプチドホルモンの過度活性化擬ペプチドアナログが先の論文に記されている(Zhang, Biochem. Biophys. Res. Commun. 224 (1996), 327-331)。例えば先の論文に記載の方法にしたがって、連続的なアミドアルキル化による擬ペプチド組み合わせライブラリーの合成及び生成化合物の検定により、適当なCSF擬ペプチドが同定されてもよい。擬ペプチド組み合わせライブラリーの作製と利用については、例えばOsresh, Methods in Enzymology 267 (1996), 220-234及びDomer, Bloorg. Med. Chem. 4 (1996), 709-715など先の論文に記されている。さらに、例えばCSF受容体に結合するとCSFの生物活性を擬態する抗体またはそれらのフラグメントを用いてもよい。さらに、CSFまたはその受容体の三次元または結晶構造を、CSF生物活性の擬ペプチド阻害剤の設計に使うことができる(Rose, Biochemistry 35 (1996), 12933-12944; Rutenber, Bioorg. Med. Chem. 4 (1996), 1545-1558)。
【0033】
上述したように、血管新生及び既存細動脈網から動脈の発達は、腫瘍への栄養輸送に必須である。したがって、腫瘍へ向かう前記血管の発達が抑制されれば、腫瘍増殖の抑制及び/または阻害が予想される。
したがって、本発明はまた、CSFの生物活性の抑制を介し、血管新生及び/または既存細動脈網から動脈の発達を抑制する因子と器官、組織または細胞との接触を含む腫瘍治療の方法に関する。
【0034】
腫瘍のマクロファージは、増殖のために特定の増殖因子、例えばM-CSF/CSF-1を細胞周期のG1期を通して必要とする。細胞が一度S期に入れば、マクロファージはM-CSF/CSF-1非存在下で細胞分裂を完了する。G1期の間に、サイクリンD(細胞周期調節因子でサイクリン依存性キナーゼ (cdk 4)とともに細胞のM期への移行を促進する(Alberts, Biology of the Cell (1989), 第二版)がM-CSF/CSF-1の刺激によって誘導される。マクロファージにおいてS期に移行する時期を決定するために、サイクリンDの酵素活性は最近報告された阻害タンパク質によって負の制御を受ける(Matsushima, Japanese Journal of Clinical Hematology 36 (1995), 406-409)。
【0035】
CSF依存性マクロファージの中で、組織特異的マクロファージ(雌の生殖器)
ばかりでなく単球が、さらに分化するためにCSF-1に依存していると思われることが示された(Maito, Mol. Reprod. Dev. 46 (1997), 85-91)。これ以外にGM-CSF/M-CSFがマクロファージの生存に必須である。したがって、本発明によりCSFが血管新生及び/または側枝動脈の発達を促進することが実証されたため、これらの因子の除去は血管新生及び/または側枝動脈の阻害または減少を生じ、ひいては腫瘍の増殖を抑制するに違いない。血管新生及び/または細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達を抑制する因子は、ペプチド、タンパク質、核酸、抗体、低分子有機化合物、ホルモン、神経伝達物質、擬ペプチドまたはPNAであってもよい(Milner, Nature Medicine 1 (1995), 879-880; Hupp, Cell 83 (1995), 237-245; Gibbs, Cell 79 (1994), 193-198)。そのような化合物の作製及び使用にあたって、当業技術者は当業技術分野で知られている方法、例えば上で参照した方法を用いることができる。
【0036】
本発明はさらにCSFの生物活性の阻害を介して血管新生及び/または細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達を抑制する因子を腫瘍の治療に用いる医薬組成物の調製に使用することに関する。
【0037】
好ましい実施態様において、上述の本発明の方法及び使用に用いる薬剤は、CSFの生物活性を阻害し、及び/またはマクロファージにおいてCSF受容体を介して誘発されるMAPK及び/またはJNK/SAPKを含む細胞内シグナルまたはシグナル・カスケードを阻害する。様々なCSFの受容体が、例えば、ケモカイン受容体など先の論文に記載されている。Immunology Today (1996), Suppl S: 26-27; Bendel, Leukemia & Lymphoma 25 (1997), 257-270; Perentesis, Leukemia & Lymphoma 25 (1997), 247-256; Bishay, Scandinavian Journal of Immunology 43 (1996), 531-536; Kluck, Annals of Hematology 66 (1993), 15-20; Raivich, Journal of Neuroscience Research 30 (1991), 682-686 or in Wong, Cellular Immunology 123 (1989), 445-455。
【0038】
別の好ましい実施態様において、前記受容体はCSF受容体である。側枝動脈にシグナルを伝達する前記受容体または特定のドメインは、ここに記載する方法によって阻害または調節されてもよい。
【0039】
好ましい実施態様において、本発明の方法及び使用に用いる薬剤は、抗体、(ポリ)ペプチド、核酸、低分子有機化合物、リガンド、ホルモン、PNAまたは擬ペプチドである。
【0040】
CSFをコードする遺伝子及び/またはそれらの調節配列に特異的にハイブリダイズする核酸分子は、例えばアンチセンスまたは三重ラセン効果による前記遺伝子発現の抑制に用いられたり、またはCSFをコードする遺伝子のmRNA前駆体を特異的に切断する特定のリボザイム(例えば、EP-B1 0 291 533, EP-A1 0 321 201, EP-A2 0 360 257参照)の構築に用いられてもよい。CSFをコードする核酸及びアミノ酸配列は、例えば、Han, Source Gene 175 (1996), 101-104; Kothari, Blood Cells, Molecules & Diseases 21 (1995), 199-200またはHolloway, European Journal of Cancer 30A (1994), 2-6などの文献に記載されている。特定の標的部位及びそれに対応するリボザイムは、例えばSteinecke, Ribozymes, Methods in Cell Biology 50, Galbraith et al. eds Academic Press. Inc. (1995), 449-460に記載の方法で選択することができる。
【0041】
核酸はDNAまたはRNAまたはそれらのハイブリッドを含む。前記核酸は、さらに例えばオリゴヌクレオチドアンチセンス法によく使われるチオエステル結合及び/または核酸アナログを有していてもよい。前記修飾は細胞内のエンド及び/またはエクソヌクレアーゼから核酸を保護するのに有用であってもよい。さらに、いわゆる「ペプチド核酸 (PNA)」技術を、CSFをコードする遺伝子の発現を抑制するために使用することができる。例えば、PNAの様々な一本鎖RNA及びDNAはもちろん相補的な核酸分子への結合は、例えば熱変性及びBIAコア表面相互作用技術(Jensen, Biochemistry 36 (1997), 5072-5077)を用いて体系的に観察できる。PNAは、例えばKoch, J. Pept. Res. 49 (1997), 80-88; Finn, Nucleic Acids Rsearch 24 (1996), 3357-3363などの文献に記載の方法で合成できる。CSFの生物活性を阻害し得る薬剤を設計するために、CSF及びそれらの受容体の構造的モチーフに関して上述の方法でシュミレーション及びコンピューターによる再設計を行える。
【0042】
さらに、CSFまたはそれらの受容体、またはそのようなCSFまたは受容体の特定のフラグメントまたはエピトープといった部分構造を特異的に認識し、それによりCSFまたは CSF受容体を不活化する抗体が用いられてもよい。これらの抗体は、Fab、FvまたはscFvフラグメントなどのような抗体フラグメントはもちろんモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体または合成抗体でもよい。抗体またはそれらのフラグメントは、Harlow and Lane "Antibodies, A Laboratory Manual", CSH Press, Cold Spring Harbor, 1988またはEP-B1 0 451 216及びここに引用した参考文献に記載の方法によって得られる。例えば、BIAコアシステムで使われる表面プラスモン共鳴を、CSFまたはその受容体のエピトープに結合するファージ抗体の効率を向上させるために用いることができる(Schier, Human Antibodies Hybridomas 7 (1996), 97-105; Malmborg, J. Immunol. Methods 183 (1995), 7-13)。
【0043】
本発明に用いるCSF及びその受容体の生物活性を阻害し得るペプチド、タンパク質、核酸、抗体、低分子有機化合物、リガンド、ホルモン、擬ペプチド、PNA及び類似物を含む阻害剤は、例えばEP-A-0 403 506 または添付例に記載のように論文に知られる方法によって同定されてもよい。
【0044】
好ましい実施態様において、CSF及びその受容体との相互作用を阻害する薬剤は、(1) 抗CSF抗体及び抗CSF受容体抗体;及び/または(2) CSFタンパク質の非刺激体及びCSF受容体の可溶化体から成る群から選択される。
そのようなCSF及びCSF受容体の不活化体及び可溶化体はもちろんそれらに対する抗体は、Kogut, Inflammation 21 (1997)またはShimamura, Journal of Histohemistry & Cytochemistry 38 (1990), 283-286に記されており、例えば上記論文の方法にしたがって得ることができる。
【0045】
本発明の好ましい実施態様において、薬剤は腫瘍と繋がる既存細動脈を取り囲む血管細胞または細胞で発現するよう設計されている。
【0046】
好ましい実施態様において、本発明の方法及び使用は、血管腫瘍、好ましくは結腸癌、肉腫、乳癌、頭部/頚部の癌、中皮腫、膠芽腫、リンパ腫及び骨髄腫の部類の中から選択される腫瘍の治療に適用される。
【0047】
好ましい実施態様においてに、本発明の使用における医薬組成物は、動脈内、静脈内、腹腔内または皮下の経路でカテーテルにより投与されるよう設計されている。本発明の実施例においては、CSFタンパク質が浸透ミニポンプで局所的に投与された。
【0048】
これら及び他の実施態様は、本発明の解説及び実施例によって記載されるかまたは明らかにされるとともに包含されている。本発明に従う方法、使用及び化合物のいずれかに関する文献は、例えば電子デバイスを使って公開ライブラリーから検索できる。
例えばインターネットでhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/PubMed/medline.htmlにアクセスして公開データベース「メドライン」が利用できる。さらに当業技術者にはhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/、http://www.infobiogen.fr/、http://www.fml.ch/biology/research-tools.html、http://www.tigr.org/などのデータベース及びアドレスが知られており、また例えばhttp://www.lycos.comを使って情報を得ることができる。回顧的検索及び最新の知見に有用なバイオテクノロジー分野における特許情報の概観及び関連情報の調査は、Berks, TIBTECH 12 (1994), 352-364で行なうことができる。
【0049】
本発明の使用及び方法は、血管新生の調節及び/または既存細動脈から側枝動脈及び/または他の動脈の発達に関連または依存するこれまで不明のあらゆる種類の病気を治療するために用いることができる。本発明の方法及び使用は、動物の治療も包含するものであるが、ヒトに用いることが望ましい。
【実施例】
【0050】
(発明を実施するための最良の形態)
(実施例1: 動物の大腿動脈閉塞及び薬剤の局所輸送)
本研究はドイツの動物愛護法第8章に従い、ヘッセン州(Regierungsprasidium Darmstadt)の許可の下で行われた。それは米国国立衛生研究所によって公表されている実験動物の管理と利用に関するガイド(1985年に改定されたNIH公表番号85-23)を承認している。
【0051】
6羽のウサギの右大腿動脈を7日間閉塞した。これらのウサギを、浸透ミニポンプで局所的にGM-CSF(Novartis, Nuernberg, Germany)(2ML-2, Alza Corp; 2 MlのPBSに3 μg溶解させ、10 μL/時間の速度で)を投与する群またはPBSを投与する群に無作為に分けた。浸透ミニポンプを最初に埋め込む際に、動物はケタミン塩酸塩(40ないし80 mg/kg体重)及びキシラジン(8ないし9 mg/kg体重)を筋注して麻酔をかけた。必要に応じて麻酔剤(致死量の10%ないし20%)を静脈内に追加投与した。手術は滅菌条件下で実施した。大腿動脈を露出させ、ポリエチレンカテーテル(内径1 mm、外径1.5 mm)を大腿動脈の分岐点の末梢部にを挿入した。右下腹部の皮下に埋め込んだ浸透ミニポンプ(2ML-2, Alza Corp.)にカテーテルを繋いだ。その後、動物に特別に誂えたボディースーツを着せ、自由に動けるが装置が外れないようにした。ウサギは水及び餌を自由摂取させて個別飼いし移動性を確保した。GM-CSFを投与したウサギの体重及び体温は、対照のウサギと特に変わりはなかった。血清の総タンパク、アルブミン、グルタミンオキサル酢酸トランスアミナーゼ及びグルタミンピルビックトランスアミナーゼはGM-CSF投与による有意な変化を示さなかった。
【0052】
埋め込み7日後に、気管切開及び人工換気を行うため動物を再びケタミン塩酸塩及びキシラジンを筋注して麻酔した。フェノバルビタール(12 mg/kg体重/時間)で麻酔を深めた。連続的な圧力測定のために頚動脈にカニューレを挿入した。動脈伏在静脈マグナ(ヒトの前脛動脈及びウサギの下肢に血液を供給する主動脈)を足首のすぐ上で露出させ、滅菌したポリエチレン製のヘパリン化チューブ(内径0.58 mm、外径0.96 mm)を挿入した。末梢血圧(PP)を測定するためにそれらをStatham P23DC圧力変換器(Statham, Spectramed)に接続した。ヘパリン5000単位でヘパリン化した後、左大腿動脈を露出させ、参考サンプルの微小球用に滅菌したポリエチレン製カテーテル(内径1 mm、外径1.5 mm)を挿入した。腹部大動脈にカニューレを挿入した後、側路を取り付け頚動脈から腹部大動脈のカニューレを通って左右の肢に向かう酸素を飽和した血流を確保した。両後肢に向かう総血流量を測定するために流量プローブを入れた。
【0053】
(実施例2: 生体外での圧力−流量関係)
20 ml/分の流速でパパベリン(Sigma)を側路に注入して最大血管拡張を行った。末梢及び中心血圧を安定化させた後、4つの異なる圧力で両肢を潅流した。
各圧力勾配は微小球と連結した。頚動脈と腹部大動脈の間にある上記側路に装着したローラーポンプで生体内に5つの異なる潅流圧(30、40、50、60、80 mmHg)を作った。Statham圧力変換器を使って最大血管拡張下で末梢血圧及び流量を測定した。各圧力レベルで異なる蛍光色(濃赤色、緋色、青緑、赤または青)を持つ微小球を頚動脈−腹部大動脈側路に装着したミキシングチャンバーに注入した。四頭筋、内転長筋、内転大筋、ヒ腹筋、ヒラメ筋及びヒ骨筋を肢から切り離した。各筋肉を中心部から末端まで3つの連続したサンプルに分けた。筋肉全部とその後の各サンプルの重量を量り、小片にカットした。次に筋肉のサンプルを12 mm x 75 mmのポリエチレンチューブ(Becton Dickinson & Co., Lincoln Park, NJ)に入れ、3 mlのSDS溶液(SDS溶液 (Boehringer Mannheim Corp.): 50 mM pH8のトリス緩衝液中に1%SDS (Boehringer Mannheim Corp.), 0.5%アジ化ナトリウム (Sigma Chemical Company, St. Louis, MO)及び0.8% Tween-80 (Fisher Scientific, Fairlawn, NJ)を含有)、30 μlのプロテナーゼK溶液 (Boehringer Mannheim Corp.)及び内部標準として1 mlの微小球(13.7 μm、Fluorescein Kit, Flow Cytometry Standards, Corp. San Juan, P.R.)を添加した。各チューブの蓋を閉め、振とう水槽に24-48時間保持した。続けてサンプルを1000 gで45分間遠心し、上清を除きペレットを1 mlのPBS (pH 7.4)に再懸濁した。FACS解析を行う前に、プローブを激しく振った。第二レーザー及び第4の蛍光を検出するフローサイトメーター(FACS-Calibur)を用いて、微小球を計数した。サンプル中の微小球数(ms)、個々の参考サンプル中の微小球数(mrs)、サンプル中の内部標準(ISs)、参考サンプルの内部標準(ISrs)、参考サンプルの重量(W)及び参考サンプルが消滅する時間から、以下の公式を使って各サンプルの流量を計算した。
【0054】
【数1】

【0055】
ms= 微小球サンプルISrs= 内部標準参考サンプルISs= 内部標準サンプルmrs= 微小球参考サンプルW=重量T=時間
【0056】
今回のモデルで、典型的ならせん状に形成された大腿動脈閉塞後に発達した側枝動脈が、末端の内転筋領域及び下肢に血液を供給する。全身血圧(SP)及び末梢血圧(PP)を測定した。様々な圧力は大気圧(AP)(今回の場合はゼロ)と同じであった。動脈の抵抗は側枝及び末梢抵抗よりも遥かに低いので、無視できる。SPは側枝動脈の幹領域での血圧を表している。PPは再入領域での圧力で、下肢における循環の上部の圧力と同一である:APは末梢循環の静脈末端での圧力である。側枝流量は、末端の内転筋組織への流量と下肢組織への流量の合計と等しい。側枝抵抗は、末端の内転筋と下肢に行く流量によって割ったSPとPP間の圧力差として定義した。末梢抵抗は、下肢への流量によって割ったPPと定義し、体積コンダクタンスは超音波の流体プローブを使って記録した流量の体積で割ったSPとして定義した。これらの抵抗の逆数は側枝、末梢及び体積コンダクタンスを表す。陽圧妨害が最大血管拡張の時に観察されるため、すべてのコンダクタンスは圧力−流量関係の勾配から算出した。データは平均±標準偏差で記す。データ間の有意差は群間比較ではStudentのt-検定を使って評価し、不等分散にはMann-Whithneyの階級和検定で評価した。P≦0.05の値は統計学的に有意とみなした。GM-CSFを投与した動物は投与しなかった動物に比べ、閉塞1週間後の側枝コンダクタンスが有意に高かった。
【0057】
【表1】

【0058】
(実施例3: 死後の血管造影図)
37℃の水槽で保温したKrebs-Henseleit緩衝生理食塩液を用いて80 mmHgの圧力で1分間肢を潅流した後、Fulton(Fulton: The Coronary Arteries, Thomas Books, 1965)によって開発された処方にしたがいビスマス及びゼラチンを基本にした対照メディウム(80 mmHgで8ないし10分間)を用いて潅流した。続いて、肢を粉砕した氷の中に45分間つけて対照メディウムをゲル化させた。一面を覆ったStructurix D7DWフィルム(AGFA)を使いBalteau放射線撮影装置(Machlett Laboratories)で二つの違った角度から脈管撮影像を撮った。得られた立体写真により側枝動脈の発達を三次元的に解析した。
【0059】
さらに定量的に解析する上で側枝の血管と筋肉の血管とを区別するため、側枝動脈に関するLonglandの定義を適用した(Longland et al. 1954 "Description of collateral arteries" Veriag, Thomas)。3倍に拡大した我々の脈管撮影像の立体写真で幹、中間帯及び再入口が同定された。側枝動脈は二つの群に分けられ、一つは幹が外側の大腿動脈から分岐する血管からなっていた。二つ目の群は深在の大腿動脈に起源を持つ。それぞれの中間帯はほとんど同じ長さであるため、それらを測定してもなんら新しい情報は得られなかった。第一の群から側枝動脈の再入は通常下行性大腿動脈に、第二の群は尾側の大腿動脈に降りていく。側枝動脈のわずか10%が、例えば腸骨外動脈または腸骨内動脈などの他の血管に由来するに過ぎない。
【0060】
二度数えられた血管がないことを確認した後、側枝血管をマークした。さらに3倍に拡大して0.1 mmの精度で血管の直径を測定した。死後の脈管撮影像が、主に内転長筋、大内転筋及び内転筋に深在する大腿動脈と短い動脈伏在静脈及び四頭筋の外側の大腿回旋動脈と膝動脈を繋ぐらせん状の側枝動脈を示した。GM-CSFを投与した動物の後肢から撮った脈管撮影像は、これら側枝血管の直径及び密度の著しい増加を示している(表2、図1から5)。
【0061】
【表2】

【0062】
本発明にしたがって実施した実験の結果は、マクロファージの活性化、増殖、遊走及び生存へのCSFの直接的な作用によって、二次的には局所的に投与されたCSFに反応して放出された化学誘因物質によって仲介されるマクロファージの補充が原因で、CSFが血管新生及び/または既存細動脈網から側枝動脈の発達及び/または動脈の発達を仲介することができることを示している。それゆえ、本発明は血管新生及び/または側枝動脈の発達に依存する疾患の治療に新しい手段と方法を提供する。
【0063】
本発明は、本発明の個々の態様の例証である特定の例の範囲に限定されるものではない。あらゆるタンパク質、核酸分子または機能的に同等な化合物は本発明の範囲内にある。実際、ここで示され記載されている変更に加え、本発明の様々な変更が、上述の記載内容及び添付図から当業技術者に明らかである。前記変更は添付の請求項の範囲内にある。したがって、本発明の提供例を詳細に記述したが、本発明の精神とねらいから離れずに、添付される請求項によって定義される本発明は多くの明らかなバリエーションが可能であるため、上述した特定の例に限定されるものではないことを理解する必要がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
器官、組織または細胞とコロニー刺激因子(CSF)及び/またはCSFをコードする核酸分子との接触を含む、血管新生及び/または既存細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達を増強する方法。
【請求項2】
血管新生及び/または既存細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達を増強するための医薬組成物製造へのコロニー刺激因子(CSF)
及び/またはCSFをコードする核酸分子の使用。
【請求項3】
前記CSFが顆粒球-マクロファージ・コロニー刺激因子(G-CSF)、マクロファージ・コロニー刺激因子(M-CSF)、コロニー刺激因子(CSF-1)、それらと機能的に同等な物質及び誘導体から成る群から選択される請求項1に記載の方法または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記の方法または前記医薬組成物が、血管の病気または心筋梗塞または発作を患う患者に適用するように設計されている請求項1または3に記載の方法または請求項2または3に記載の使用。
【請求項5】
前記血管疾患が、アテローム性動脈硬化症及び/または高脂血症、冠状動脈疾患、脳梗塞疾患、末梢閉塞疾患、内臓閉塞疾患、腎臓閉塞疾患、腸間動脈不全または眼または血管網の閉塞である請求項4に記載の方法または使用。
【請求項6】
前記の方法または前記の医薬組成物が動脈を損傷または破壊する薬剤投与または放射線照射または外科手術の間または後の患者に適用するように設計されている請求項1または3に記載の方法または請求項2または3に記載の使用。
【請求項7】
CSFが組み換え体CSFである請求項1または3から6のいずれか一項に記載の方法または請求項2から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
器官、組織または細胞と増殖因子の接触を含む請求項1または3から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
医薬組成物が増殖因子と配合されて投与されるように設計されている請求項1から7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
(a)患者から細胞、組織または器官を得ること、 (b)前記細胞、組織または器官にCSFをコードしCSFを生体内で発現し得る核酸分子を導入すること、及び (c)ステップ(b)で得られた細胞、組織または器官を同一または異なる患者に再導入することを含む請求項1または3から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
CSF誘導体または機能的に同等な物質が抗体、(ポリ)ペプチド、核酸、低分子有機化合物、リガンド、ホルモン、PNAまたは擬ペプチドである請求項1、2から8、または10のいずれか一項に記載の方法または請求項2から7または9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
器官、組織または細胞と請求項1から11のいずれか一項に定義するCSFの生物活性を阻害して血管新生及び/または既存細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達を抑制する薬剤との接触を含む腫瘍の治療方法。
【請求項13】
腫瘍治療用医薬組成物の製造への、請求項1から11のいずれか一項に定義するCSFの生物活性を阻害して既存細動脈網から側枝動脈及び/または他の動脈の発達を抑制する薬剤の使用。
【請求項14】
該薬剤がCSFの生物活性を阻害し、及び/またはCSF受容体を介してマクロファージで誘発されるMAPK及び/またはJNK/SAPKを含む細胞内シグナルまたはシグナルカスケードを阻害する請求項12に記載の方法または請求項13に記載の使用。
【請求項15】
該薬剤がCSFと該受容体との相互作用を阻害する請求項14に記載の方法または使用。
【請求項16】
該受容体がCSF受容体である請求項15に記載の方法または使用。
【請求項17】
該薬剤が請求項11で定義する物質の部類から誘導されるものである請求項12、14または15のいずれか一項に記載の方法または請求項13から15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
該薬剤が腫瘍への既存細動脈周囲の血管細胞または細胞で発現するように設計されている請求項17に記載の方法または使用。
【請求項19】
CSFとの相互作用を阻害する薬剤が、(i) 抗CSF抗体または抗CSF受容体抗体;及び/または、(ii) CSFの非刺激型またはCSF受容体の可溶化体である請求項16から18のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項20】
腫瘍が血管腫瘍である請求項12または14から19のいずれか一項に記載の方法または請求項13から19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
腫瘍が結腸癌、肉腫、乳癌、頭部/頚部癌、中皮腫、膠芽腫、リンパ腫及び髄膜腫から成る群から選択される請求項20に記載の方法または使用。
【請求項22】
医薬組成物が冠状動脈内、筋肉内、動脈内、静脈内、腹腔内または皮下の経路で投与するよう設計されている請求項2から7、9、または13から20のいずれか一項に記載の使用。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−132744(P2009−132744A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74353(P2009−74353)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【分割の表示】特願2000−514667(P2000−514667)の分割
【原出願日】平成10年10月1日(1998.10.1)
【出願人】(500143287)マックス プランク ゲゼルシャフト ツール フェルデルング デル ヴィーセンシャフテン エーファウ (2)
【Fターム(参考)】