説明

血管新生血管に対するタキサンの陽イオン性リポソーム送達

【課題】血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼす方法
の提供。
【解決手段】脂質/DNA複合体又は標的細胞にその成長を阻害もしくは促進することによって影響を及ぼす物質を含む陽イオン性リポソームにより、血管新生内皮細胞への選択的な標的化を行う。血管新生部位の位置は、検出可能な標識を含む陽イオン性リポソームを投与することによって正確に特定しうる。複合体は、血管新生内皮細胞の環境において選択的かつ排他的に活性化されるプロモーターを含むヌクレオチド構築物を含みうる。癌の治療、創傷治癒、及び多様な慢性炎症疾患に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に関する相互参照
本出願は、現在は米国特許第5,837,283号である1997年3月12日に出願された米国特許出願第08/820,337号の継続出願である、1998年7月31日に提出された米国特許出願第09/127,177号の一部継続出願であり、これらはいずれもその全体が参照として本明細書に組み入れられ、本発明者らはこの両方の出願に対して米国成文法(U.S.C.)35 '120の下に優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、リポソーム送達の分野、特に血管に対するタキサンの陽イオン性リポソーム送達の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
本発明は、多様な異なる疾患および異常の治療ならびに診断に適用することができる。本発明は、癌の治療、創傷治癒、および多様な慢性炎症疾患に用いることができるが、それらに限定されない。一般に、これらはそれぞれ、癌様組織の外科的切除、創傷の縫合、および炎症を起こした間接の外科的切除、のような物理的手段によって、現在直接的に治療されている。さらにそれらは化学的手段によっても治療できる。化学療法は癌に適用され、増殖ホルモンは創傷治癒に適用され、そして抗炎症剤が慢性炎症疾患の治療に適用されている。これら、および関連する治療は、一般に、癌様の、損傷した、または炎症を起こした組織を直接治療することを目的としている。本発明が、従来の治療様相とどのように異なるかを理解するために、これらの領域における現在の治療技術に関して、簡単に全般的に述べる。
【0004】
癌の治療
「癌」という用語は、治療、予後および治癒可能性において多様である範囲の疾患を含む。診断および治療に対するアプローチは、腫瘍発生部位、播種の程度、関連部位、患者の生理状態、および予後に依存する。診断がなされれば、通常、腫瘍の「進行段階を分類」するが、これは、外科技法、物理的検査、組織病理学、画像化、および臨床検査値を用いて、疾患の程度を定義し、治癒の確率が高い順に癌患者の集団を群に分けることを含む工程である。そのようなシステムは、患者の治療を計画するため、そして予後を判定するため、の双方において用いられる(ストックデール(Stockdale, F)、1996、「癌患者管理の基本(Principles of Cancer Treatment)」、Scientific American Medicine、第3巻、デール&フェダーマン編(Dale, D.C. and Federman, D.D.)、Scientific American Press, New York)。癌のタイプまたは進行段階によって、3種類の一般的な治療タイプ:手術、放射線療法、および化学療法のいずれを用いるかを決定することができる。積極的な併用様相治療計画を選択することも可能である。そのためには、原発腫瘍の除去に手術を用いることができ、残存細胞を放射線療法または化学療法で治療する(ローゼンバーグ(Rosenberg)、1985、New Engl. J. Med.)。
【0005】
手術は、癌の診断および治療に中心的な役割を果たしている。一般に、外科的アプローチは生検を得るために必要であるが、手術はほとんどの癌患者にとって最終的な治療となりうる。手術はまた、腫瘍塊を減少させ、転移を切除し、差し迫った医学的問題を解決し、緩和およびリハビリテーションを行うために用いられる。癌治療の主な外科技法は、手術野を展開させて腫瘍を直視下で切除することを含むが、現在の技法では内視鏡手段によって何らかの切除を行うことができる。癌の治療における主な懸念は、手術のリスクを考慮しなければならないことである(ストックデール(Stockdale, F.)、前記)。
【0006】
放射線療法は、主要なおよび待期的な癌の治療のいずれにおいても、重要な役割を果たしている。遠隔放射線療法(超高圧放射線療法)および小線源照射療法(組織内および腔内照射)が一般的に用いられている。X線の形での電磁波照射は、一般的な悪性腫瘍を治療するために最も普通に用いられる遠隔放射線療法であるが、一方X線と類似の電磁波を形成するが、ラジウム、コバルト、および他の元素の放射性同位体によって放射されるガンマ線も用いられる。放射線療法は、細胞内でイオン化を生じることによって悪性および正常組織の双方に障害を与える、光子と呼ばれる離散性の大量のエネルギーとして、組織にエネルギーを移入する。イオンの標的は最も一般的にDNAであり;放射線療法は、放射線障害が悪性組織と非悪性組織との間で均一でない、すなわち急速に分裂する細胞は休止期の細胞よりDNA損傷をより受けやすい、という事実を利用している(パス(Pass)、1993、J. Natl. Cancer/ Instit. 85:443〜56)。放射線療法は重要な毒性と共に独自の利益に関連する。放射線は、放射線照射が実施可能な唯一の局所治療法である特定の解剖学的部位(例えば、縦隔)では好ましく、そして腫瘍が広範に広がっている場合も、放射線照射が実施可能な唯一の局所治療となるかも知れない。患者が手術に耐えられないことがわかったとき、または患者の容態によって手術技法ができない場合にも、放射線照射を用いてもよい。放射線治療は組織損傷を伴い、これが初期および後期放射線効果となりうる。初期効果(放射線療法の急性毒性)には、皮膚の紅斑、落屑、食道炎、悪心、脱毛症、および骨髄抑制が含まれ、後期効果には組織の壊死および繊維症が含まれ、通常、これが放射線療法の制限毒性を左右する(ストックデール(Stockdale, F.)、前記)。
【0007】
現在使用されているほぼ全ての化学療法剤が、DNA合成、DNAおよびRNA合成の前駆体の準備、または分裂を妨害し、このように、増殖しつつある細胞を標的としている(ストックデール(Stockdale, F.)、「癌の増殖と化学療法(Cancer growth and chemotherapy)」、前記)。動物腫瘍に関する研究およびヒトの臨床試験から、薬剤を併用すれば、単剤の場合より高い客観的反応率およびより長い生存期間が得られることが示された(フライ(Frei)、1972、Cancer Res. 32:2593〜2607)。併用薬剤療法は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、および抗生物質を含む、多数の薬剤の異なる作用機序および細胞障害能を利用している(デビタら(Devita)、1975」、Cancer 35:98〜110)。患者の生理状態、腫瘍の増殖特徴、腫瘍細胞集団の不均一性、および腫瘍の多剤耐性状態が、化学療法の有効性に影響を及ぼす。一般に、化学療法は標的を絞って投与されないため(尤も、これらの技法は、パスタン(Pastan)、1986、Cell 47:641〜648、によって開発中であるが)、その結果、骨髄抑制、胃腸炎、悪心、脱毛症、肝または肺障害、不妊症のような副作用が起こりうる。
【0008】
創傷治癒
創傷治癒は、異なる多くのタイプの細胞が関与する組織修復および再形成に関する複雑かつ遷延性の工程であり、これには、再生工程のバランスをとるために様々な生化学反応カスケードの精巧に適合させた調節を必要とする。創傷治癒は一般に、3つの相に分けられる:炎症、増殖、および成熟(ワルドルフ(Waldorf)&フュークス(Fewkes)、1995、Adv. Dermatol. 10:77〜96)。工程は、様々なタイプの細胞の創傷領域への遊走、上皮細胞および繊維芽細胞の増殖刺激、新しい血管の形成、細胞外マトリクスの形成を含む。これらの工程が正確に機能するか否かは、様々なサイトカインの生物学的活性化に依存する(ベネット(Bennett)ら、1993、Am J. Surg. 165:728〜37)。栄養、免疫系、酸素、血液量、感染症、免疫抑制、および赤血球細胞の減少が、創傷治癒における全ての影響因子である(ウィットニー(Witney)、1989、Heart Lung 18:466〜474)。
【0009】
創傷治癒の速度と共にその質は通常、最初の損傷のタイプおよび程度に依存する。創傷を治療するためには、それぞれが損傷組織の治癒を指向する一般的な3種類の工程を用いる。創傷の閉鎖は、絆創膏、ステープルまたは電気的焼灼も使用することができるが、最も一般的に縫合によって行う(フィーレス(Wheeless, C. R.)、1996、「フィーレスのオルタエディクス・テキスト(Wheeless' Textbook of orthaediscs)」)(ガレット(Garett)ら、1984、J. Hand. Surg. 9(5):683〜92)。皮膚用絆創膏および様々な縫合はそれぞれ、創傷の一次縫合において、特定の利益および欠点を示す。皮膚用絆創膏は、炎症反応を引き起こすことが少ないが上皮下創傷空間を縫合できない、一方様々な縫合によって引き起こされる炎症反応およびその後の瘢痕形成は、縫合針の大きさ、縫合材料の直径、およびそれがモノフィラメントまたは編まれた縫合糸であるか否か、に依存する(シンプソン(Simpson)、1977、Laryngoscope 87:792〜816)。
【0010】
創傷では、微生物接種の大きさ、微生物の菌力、および宿主の抗微生物防御メカニズムが、感染症を発症するか否かを左右する。このように、抗生物質はまた、創傷の治療において治療的価値を有することができる(エドリッチ(Edlich)、1986、Emergency Medical Clinics of North America 4(3):561〜80)。適当な抗生物質、その投与経路を選択するために、および副作用を防止するためには、各抗生物質の薬理作用を理解しなければならない(シンプソン(Simpson)、前記)。最近の結果は、抗生物質療法によって細胞増殖および分化がより迅速に進行し、このように創傷修復の増強において有用となる可能性があることを示唆している(バロウ(Barrow)ら、1994、Respiration 61:231〜5;メーダー(Maeder)ら、1993、Paraplegia 31:639〜44)。蛋白分解酵素も同様に、汚染した創傷の抗生物質治療の補助として用いられている(ロードヒーバー(Rodeheaver)ら、1978、Am. J. Surg. 136(3):379〜82)。
【0011】
bFGF、EGF、PDGF、およびTGF-βを含む様々なサイトカインを単独または併用して局所投与すると、創傷治癒はかなり加速される可能性がある(モーリン(Moulin)、1995、Eur. J. Cell. Biol. 68:1〜7)。増殖因子は、細胞を創傷部位に誘引し、その増殖を刺激し、細胞外マトリクスの沈着に大きい影響を及ぼす。組換え技術によってこれらのサイトカインの大量生産能が開発されて以来、多くの研究によって、増殖因子は、正常および損傷した治癒モデルにおいて組織修復の全ての局面を増強させることができることが示された(例えば、シュルツ(Schultz)ら、1987、Science 235:350〜2;デュエル(Deuel)ら、1991、Annu. Rev. Med. 42:567〜84)。予備的な臨床試験から、増殖因子による治療によって時に、組織修復の統計学的に有意な改善が得られることが示されたが、これらの結果が臨床的に有意であるかは明確でなく、新しい臨床試験は、特定のタイプの損傷治癒を目的とする標的増殖因子に重点を置かなければならないことが示唆されている(グリーンハル(Greenhalgh)、1996、J. Trauma 41:159〜67)。
【0012】
慢性炎症
天然の、液性、および細胞性免疫メカニズムは全て、慢性炎症疾患の発病に関係している(セイマー(Seymour)ら、1979、J. Oral Pthol. 8:249〜65)。自己免疫疾患はリンパ球機能の異常に起因する。異常なT細胞機能は、細胞性免疫を通じて疾患の原因となることがあり、抗体産生におけるヘルパーT細胞の活性は、自己抗体の形成に関与する可能性がある。自己免疫疾患においてヘルパーT細胞が中心的な役割を果たしていることは、これらの多くの疾患と特定のHLA分子との関連によって支持される。免疫寛容の維持において1つ以上の段階が不全であれば自己免疫が起こりうる(ロビンソン(Robinson)、1996、「免疫寛容と自己免疫(Immunologic Tolerance and Autoimmunity)」、Scientific American Medicine、第2巻、第VI章、Scientific American Press, New York、1〜11頁)。
【0013】
自己免疫疾患ではいくつかのタイプの治療が用いられ、その全てが罹患組織における免疫応答を減弱させることを目的としている。例えば、自己免疫疾患であるリウマチ性関節炎の治療は、非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)またはグルココルチコステロイドのような抗炎症剤、金塩のような寛解誘導剤、および/またはシクロフォスファミドのような免疫抑制剤を使用することができる。炎症工程の際に損傷を受けた関節を置換するために、整形外科手術も用いることができる(ギリランド(Gilliland, B. C.)&マニク(Mannik, M.)、1983、「リウマチ性関節炎(Rheumatoid Arthritis)」、「ハリソンの基本内科(Harrison's principles of internal Medicine)」、McGrow Hill、New York、1977〜1984頁)。最近の研究から、リウマチ性関節炎の治療において、TNF-αの使用のような、罹患組織に向けられた新しい治療の可能性が示唆されている(ブレナン(Brennan)ら、1995、Br. Med. Bull. 51:368〜384)。
【0014】
アレルギーとは、環境中の抗原に対する免疫応答が組織の炎症および臓器の機能不全を引き起こす状態を意味する。自己免疫疾患の場合と同様に、アレルギー疾患においても免疫系のいくつかの成分の相互作用があることが、データから示唆されている。アレルギー疾患の発現の多様性は、異なる免疫イフェクターメカニズムから生じ、これは特異的なパターンの組織損傷を誘発する(ビア(Beer)ら、1996、「アレルギー(Allergy)、Scientific American Medicine、第2巻、VII章、Scientific American Press, New York、1〜29頁)。それぞれのアレルギー疾患の臨床的特徴は、罹患した臓器または組織における免疫が媒介する炎症反応を反映している(例えば、喘息は肺における炎症反応を反映している)。
【0015】
免疫媒介アレルギー疾患を治療するために、いくつかの治療戦略が用いられているが、その全てが炎症を起こした組織における免疫応答を減弱させることを目的としている。例えば、喘息の治療では、治療は、環境のコントロール、薬物療法、およびアレルギン免疫療法を含むことができる(ビア(Beer)ら、1996、「アレルギー(Allergy)」、Scientific American Medicine、第2巻、VII章、Scientific American Press、New York、1〜29頁)。喘息の治療において、原因物質の除去は炎症の予防に最も成功する手段である。しかし、それは可能でないことがしばしばあり、このように薬剤のいくつかのクラスが用いられている。これらの中には、メチルキサンチン(気管支拡張のため)、アドレナリン刺激剤(α-アドレナリン受容体の刺激、気管支拡張剤)、グルココルチコイド(肺の炎症を弱める)、クロモン(肥満細胞をダウンレギュレートする、肺の炎症を弱める)、および抗コリン作動薬(気管支拡張剤)が含まれる(マックファデン(McFadden)ら、「免疫および環境的損傷によって引き起こされた肺疾患(Lung disease caused by immunologic and environmental injury)」、「ハリソンの基本内科(Harrison's Principles of Internal Medicine)」、McGraw Hill, New York,、1512〜1519頁)。疑わしいアレルゲンの抽出物による脱感作または免疫療法も、喘息における炎症を減少させるために示唆されている(マックファデン(McFadden)&オーステン(Austen)、前記;ジャケミン(Jacquemin)&セントレミー(Saint-Remy)、1995、Ther. Immunol. 2:41〜52)。
【0016】
アテローム斑(Atherosclerotic plaque)
アテローム性動脈硬化は、プラーク(plaque)(脂肪組織および線維組織)の層による動脈血管の内腔(内部通路)の進行性狭窄である。虚血性心疾患、心筋梗塞、脳卒中および四肢の壊疽を含む、アテローム性動脈硬化の主要な合併症は、米国における毎年の死亡者数の過半数の原因となっている。
【0017】
動脈は以下の3つの層からなる:内膜、内皮および内部弾性板の内腔側にある結合組織を含む;中膜、平滑筋細胞を含み、さらに弾性動脈の場合は弾性線維、大血管の場合は栄養血管を含む;外膜、血管壁の外層であり、線維芽細胞、小血管および神経からなる結合組織鞘を含む。アテローム性動脈硬化はあらゆる動脈に生じうる。冠状動脈ではこれが心臓発作の原因になることがあり、脳動脈ではこれが脳卒中の原因になることがあり、末梢動脈ではこれが四肢壊死の原因にあることがある。アテローム性動脈硬化は複雑なプロセスであり、その発症様式またはその原因は正確にはわかっていない。しかし、内皮細胞傷害がアテローム硬化性病変の形成における最初の段階と考えられており、これは血行力学的な歪み、高コレステロール血症、高血圧または免疫複合体病によって引き起こされる可能性がある。内皮細胞傷害は、コレステロールおよび脂質の蓄積、内膜肥厚、平滑筋細胞増殖、ならびに結合組織線維の形成を招く。一般に、脂肪性沈着物の蓄積および平滑筋細胞の増殖はプラークの形成を招き、これは最終的には動脈の狭窄および閉塞につながる。
【0018】
ヒトのアテローム硬化性病変の内膜内部における新生血管形成が記載されているが、アテローム性動脈硬化におけるその役割は不明である。モールトン(Moulton)ら(1999)Circulation 99:1726〜1732;イスナー(Isner)(1999)Circulation 99:1653〜1655;デプレ(Depre)ら(1996)Catheterization and Cardiovascular Diagnosis 39:215〜220。
【0019】
アテローム性動脈硬化および関連病態による死亡率からみて、現在の治療は不十分であることが明らかである。アテローム動脈硬化事象の原因となる最も重要な因子は、低比重リポ蛋白質の形態にあるコレステロールの血中濃度が高いことである。現在の治療方法には、コレステロール合成に働く肝酵素系を阻害する薬剤が含まれる。
【0020】
現在の治療法−免疫学
上記の治療レジメの成功の程度は多様である。成功率はほとんどの場合完全とはほど遠く、さらによい治療を開発する研究が続けられている。一つの有望な研究領域は、免疫系に影響を及ぼすことに関する。遺伝子操作および/または化学刺激を用いることによって、生体自身の免疫系が疾患を治療する、例えば抗体が癌細胞を破壊するように、免疫応答を修飾および/または刺激することができる。このタイプの治療は、疾患と闘うために生物学的工程を利用するという点において上記の治療とは異なる。しかし、それでもこの治療は、作製された抗体が癌細胞を直接攻撃することから直接的治療である。
【0021】
本発明は、本発明が癌様の、損傷を受けた、または炎症を起こした細胞に直接影響を及ぼすことを含まない、という点において、通常の治療とは大きく異なる治療のために用いることができる。
【0022】
少なくとも理論的に、血管新生を阻害することによって血管新生に関連した癌または炎症を治療することが可能であることが認識されている。それに関連する現在の考え方に関する典型的な例は、1995年9月28日に公表された国際公開公報第95/25543号において考察されている。この公表された出願は、血管新生内皮細胞の表面上に存在すると思われる抗原と結合する抗体を投与することによって、血管新生を阻害する方法を記述している。詳しく述べると、本出願は、一般に細胞接着事象と呼ばれる細胞−細胞相互作用および細胞−細胞外マトリクス相互作用を媒介すると思われる膜受容体であるαvβ3に結合する抗体を投与することを記述している。この受容体を遮断することによって、治療は血管新生を阻害し、それによって癌および炎症を治療すると期待される。
【発明の概要】
【0023】
薬剤を選択的に血管新生内皮細胞に送達する方法を開示する。本方法は、陽イオン性脂質および血管新生を促進もしくは阻害するおよび/または検出可能な標識を含む化合物を包含する陽イオン性リポソーム(またはポリヌクレオチド/脂質複合体)を、好ましくは循環系に、より好ましくは動脈内に注射することを含む。投与後、陽イオン性リポソームは、血管新生内皮細胞と選択的に会合し、このことは、それらが、対応する休止期の、血管新生を行っていない内皮細胞との会合より2倍以上(好ましくは10倍以上)の比で、血管新生内皮細胞と会合することを意味する。リポソーム(またはポリヌクレオチド/脂質複合体)が血管新生内皮細胞と会合すると、それらは、内皮細胞によって取り込まれ、望ましい作用を発揮する。この物質は、内皮細胞を破壊し、さらに血管新生を促進し、凝固を促進する、および/または適当な手段によって内皮細胞を検出することができるように内皮細胞にタグをつけることができる。血管新生内皮細胞に影響を及ぼす物質は、発現されると血管新生を促進または抑制する蛋白質をコードするDNAのようなヌクレオチド配列であってもよい。ヌクレオチド配列は、好ましくは、そのプロモーターが血管新生内皮細胞における場合に限って活性である、またはある化合物の投与によってそれらの細胞において活性化することができ、それによってプロモーターの活性化によって遺伝子のスイッチを入れるもしくは切ることができるようになる、プロモーターに機能的に結合されたベクターの中に含まれている。
【0024】
本発明の目的は、血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼし、それによって血管新生を阻害または促進する方法を提供することである。
【0025】
本発明のもう一つの目的は、リポソームが血管新生内皮細胞と選択的に会合し、血管新生を行っていない対応する内皮細胞とは会合しないように設計されている、検出可能な標識を含む陽イオン性リポソームを投与することによって、血管新生部位を診断する方法を提供することである。
【0026】
本発明のもう一つの目的は、陽イオン性脂質と、血管新生を阻害もしくは促進するよう特異的に企図され設計された化合物とを含む陽イオン性リポソームを提供することであって、該化合物は、水溶性であっても、水中に容易に分散するものであっても、または脂質に適合性で脂質二重層に取り込まれるものであってもよい。
【0027】
本発明のもう1つの目的は、陽イオン性脂質およびタキサンを含む陽イオン性組成物を提供することである。
【0028】
本発明のもう1つの目的は、陽イオン性脂質と会合したタキサンを血管新生内皮細胞に標的化させる方法を提供することである。
【0029】
本発明のもう一つの目的は、その結果、血管中の血流を妨害または完全に遮断する局所血管内凝血が起こるように、血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼす方法を提供することである。
【0030】
もう一つの目的は、検出可能な標識で細胞を標識し、それによってその後の培養および/または分析において、血管新生内皮細胞を周辺の細胞と区別することができるようになる、血管新生内皮細胞を分析する方法を提供することである。
【0031】
本発明のさらにもう一つの目的は、その化合物が血管新生内皮細胞を破壊し、その後腫瘍細胞を破壊する、腫瘍の血管新生内皮細胞に毒性化合物を送達することによって、望ましくない腫瘍を破壊する方法を提供することである。
【0032】
本発明のもう一つの目的は、血管新生内皮細胞へ陽イオン性脂質/DNA複合体を送達することによって血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼす方法を提供することであって、該DNAが、血管新生内皮細胞に好ましくは独自に会合している環境において選択的に活性化されるプロモーターに結合されている、すなわちプロモーターが、休止期の内皮細胞においては活性化されない方法を提供することである。
【0033】
本発明のさらにもう1つの目的は、血管新生を低下させる物質を含む陽イオン性脂質複合体を送達し、それによってプラーク形成を低下させることによって、血管内のアテローム斑の形成を低下させるための方法を提供することである。
【0034】
本発明の特徴は、本発明の陽イオン性リポソームが、血管新生に関与していない対応する内皮細胞と会合する場合より、はるかに高い選択性で(2倍以上、好ましくは10倍以上)血管新生内皮細胞に選択的に会合することである。
【0035】
本発明の利点は、血管が破壊され、または凝血などによって非機能的となるように、および周囲の組織(腫瘍細胞のような)に対する栄養供給が遮断され、それによって該組織が破壊されるように(例えば固形腫瘍を破壊する)、細胞が影響を受ける(例えば殺される)、内皮細胞に少量の毒性化合物を正確に送達するために本発明の陽イオン性リポソームを用いることができる点である。
【0036】
本発明のもう一つの利点は、本発明の陽イオン性リポソームが、進行中の血管新生に関連した悪性または良性腫瘍に関連した血管新生を阻害するために用いることができる点である。
【0037】
本発明のさらにもう一つの利点は、陽イオン性リポソームを用いて、血管新生を促進する化合物が部位特異的に送達され、それによって創傷治癒が増強される点である。
【0038】
本発明の重要な特徴は、いくつかのクラスの疾患および/または異常を、異常に関係する組織を直接治療することなく治療すること、例えば血管新生を阻害することによって、腫瘍への血管供給を遮断し、いかなる方法においても腫瘍細胞を直接治療することなく腫瘍を殺すことである。
【0039】
本発明のこれらならびに他の目的、利点および特徴は、添付の図面と共に本明細書に提供された開示を読むことによって当業者には明らかとなると思われる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】正常なマウス卵巣の濾胞の血管新生血管における赤色蛍光CM-DiI-標識DDAB:コレステロール-DNA複合体の取り込みを示す蛍光顕微鏡写真である(スケール表示:60μm)。
【図2】RIP1-Tag5マウスにおける膵臓腫瘍の切片の血管新生血管における赤色蛍光CM-DiI-標識DDAB:コレステロール-DNA複合体の取り込みを示す蛍光顕微鏡写真である。血管は蛍光レクチンで緑色に染色される(スケール表示:40μm)。
【図3】正常マウス膵島の血管にはテキサスレッド標識DOTAP:コレステロール-DNA複合体(黄〜オレンジ色)の取り込みがほとんどない、または全くないことを示す低倍率蛍光顕微鏡写真である(スケール表示:150μm)。
【図4】RIP1-Tag2マウスにおける膵臓腫瘍の血管におけるテキサスレッド標識DOTAP:コレステロール-DNA複合体(黄〜オレンジ色)の取り込みを示す低倍率蛍光顕微鏡写真である(スケール表示:150μm)。
【図5】蛍光レクチンで染色した(緑色)正常膵島の血管には、テキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みがほとんどない、または全くないことを示す共焦点顕微鏡写真である(スケール表示:50μm)。
【図6】RIP1-Tag2マウスの膵臓腫瘍におけるテキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みを示す共焦点顕微鏡写真である。リポソームを静脈内注射した後、トマト(Lycopersicon esculentum)レクチンの(緑色)蛍光の環流によって血管を染色した(スケール表示:50μm)。
【図7】RIP1-Tag2マウスの膵臓腫瘍におけるテキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みを示す共焦点顕微鏡写真である。リポソームを静脈内注射した後、トマト(Lycopersicon esculentum)レクチンの(緑色)蛍光の環流によって血管を染色した(スケール表示:50μm)。
【図8】RIP1-Tag2マウスの膵臓腫瘍におけるテキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みを示す共焦点顕微鏡写真である。リポソームを静脈内注射した後、トマト(Lycopersicon esculentum)レクチンの(緑色)蛍光の環流によって、血管を染色した。血管増殖が起こりうる部位は、強い取り込みを示す(スケール表示:50μm)。
【図9】蛍光レクチンで血管を緑色に染色した病原体に感染していないマウスの気管における正常な血管には、テキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みがほとんどないことを示す共焦点顕微鏡写真である。
【図10】マイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)感染症のマウスの気管の血管新生血管におけるテキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みを示す共焦点顕微鏡写真である(スケール表示:50μm)。
【図11】静脈内注射の4時間後、リポソームの蛍光の強度を測定することによって評価した、病原体に感染していないマウス気管およびマイコプラズマ・プルモニスに感染したマウス気管の血管によるテキサスレッド-DOTAP:コレステロールリポソームの取り込み量を示すグラフである。測定は、ツァイスLSM 410共焦点顕微鏡を用いて行った。感染したマウスに、M. プルモニス菌を鼻腔内接種し、4週間後に調べた。星印は統計学的に有意差があることを示す(P<0.05、平均値 "SE、1群あたりのマウス数n=4)。
【図12】M. プルモニスに感染したマウスの気管において、内皮細胞と会合したDOTAP:コレステロールリポソームを示す透過型電子顕微鏡写真である(スケール表示:50μm)。
【図13】M. プルモニスに感染したマウスの気管において、内皮細胞によって取り込まれたDOTAP:コレステロールリポソームを示す透過型電子顕微鏡写真である(スケール表示:80μm)。
【図14】陽イオン性パクリタキセルリポソームの、病原体に感染していないマウス気管(図面A)およびM. プルモニスに感染したマウス気管(図面B)の内皮細胞層との会合を示した蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
好ましい態様の詳細な説明
本方法において使用される血管新生内皮細胞およびリポソームに選択的に影響を及ぼす/標識する本方法を記述する前に、記述の特定のリポソーム、方法、または活性物質は、当然のことながら変更してもよいため、本発明はそれらに制限されないと理解すべきである。同様に、本明細書で用いられる用語は特定の態様のみを記述することを目的としており、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ制限されるため、制限的に解釈されないことも理解すべきである。
【0042】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられるように、単数形「1つの(a, an)」、および「その(the)」とは、本文で明らかにそうでないと述べている場合でなければ複数形を含むことに注意しなければならない。したがって、例えば、「1つのリポソーム(a liposome)」という語は、そのようなリポソームの混合物および多数のリポソームを含み、「1つの物質(an agent)」という語は、多数の物質およびその混合物を含み、そして「その方法(the method)」という語は、本明細書に記述のタイプの1つ以上の方法または段階を含む。
【0043】
本明細書に記述の刊行物は、本出願の出願日より以前の開示のためにのみ提供される。本明細書のいかなる開示も、先行発明に基づいて、本開示がなされた日付を早める権利が本発明者らにはないと自認したと解釈されるべきではない。
【0044】
別途定義していない限り、本明細書における全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記述のものと類似または同等であるいかなる方法および材料も、本発明の実践または試験において用いることができるが、好ましい方法および材料を本明細書に記述する。本明細書に引用した全ての刊行物は、刊行物が引用されている本発明の具体的局面を開示し説明する目的で参照として本明細書に組み入れられる。
【0045】
定義
本明細書において用いられる「治療」、「治療している」、「治療する」等の用語は、一般に、望ましい薬理学的および/または生理学的作用を得ることを意味するよう用いられる。作用は、疾患またはその症状を完全にまたは部分的に予防するという点において予防的であってもよく、ならびに/または、疾患および/もしくは疾患に帰することができる副作用の部分的もしくは完全な安定化または治癒という点において治療的であってもよい。本明細書で用いられる「治療」とは、哺乳動物、特にヒトにおける疾患のいかなる治療にも適用され、以下の段階を含む:
(a)疾患もしくは症状に対して素因を有する可能性があるが、まだそれを有すると診断されていない被験者において疾患もしくは症状が起こることを防止する段階;
(b)疾患の症状を阻害する、すなわちその発症を停止させる段階;または
(c)疾患の症状を軽減する、すなわち疾患もしくは症状の退行を引き起こす段階。
【0046】
本明細書で用いる「薬学的に許容される塩」という用語は、親化合物の望ましい生物活性を保持していて、望ましくない毒性作用は受け継いでいない塩のことを指す。このような塩の例には、(a)例えば塩酸、臭化塩素酸、硫酸、リン酸、硝酸および過塩素酸などの無機酸と生じる酸付加塩、ならびに例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パモ酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、ポリガラクツロン酸などの有機酸と生じる塩、(b)亜鉛、カルシウム、ビスマス、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、銅、コバルト、ニッケル、カドミウムなどの多価金属陽イオンとの塩、ならびに(c)N,N'-ジベンジルエチレンジアミンまたはエチレンジアミンから生成される有機陽イオンと生じる塩、ならびに(d)(a)と(b)または(c)との組み合わせ、例えばタンニン酸亜鉛塩などが非制限的に含まれる。
【0047】
「血管新生」という用語は、新しい血管の発生を含む組織血管形成の工程を指す。血管新生は、以下の3つのメカニズムの一つを通じて起こる:(1)新生血管形成、内皮細胞は、新血管の形成を開始させる既存の血管から遊走する;(2)血管形成、前駆細胞からデノボで血管を生じる;または(3)血管拡張、既存の小血管の直径が広げられて、より大きな血管が形成される(ブラッド(Blood)ら、1990、Biochem. Biophys. Acta. 1032:89〜118)。
【0048】
血管新生は、新生児の成長の正常な工程において、および黄体形成サイクルの際に女性の生殖系において、重要な工程である(モーゼス(Moses)ら、1990、Science 248:1408〜10を参照のこと)。正常な条件下では、既存または新しい血管の新たな形成または再形成を含む全ての工程は、自己制御性の工程であって、特定の細胞タイプの増殖は調節され協調される。
【0049】
血管新生はまた、創傷治癒ならびに、組織の炎症、関節炎、喘息、腫瘍の増殖、糖尿病網膜症、およびその他の条件を含む多くの臨床疾患の病因に関係している。血管新生に関連する臨床発現は、血管新生疾患と呼ばれる(フォークマン(Folkman)ら、1987、Science 235:442〜7)。
【0050】
多くの実験は、正常および病的な状態のいずれの際にも、血液供給が不十分である条件下で、組織が血管新生を促進する血管新生因子を生成することができることを示唆している。これらの因子および化合物は、細胞特異性、およびそれによってそれらが新しい血管の増殖を誘導するメカニズムが異なる。これらの因子は多様なメカニズムを通じて機能する。例えば、それらは、内皮細胞の遊走および増殖を誘導する、またはコラゲナーゼ産生を刺激する可能性がある(クラグスブルン(Klagsbrun)ら、1991、Ann. Rev. Physiol. 53:217〜39)。血管新生活性の直接的定量ができる多くのバイオアッセイ法が存在する(ウィルティング(Wilting)ら、1991、Anal. Embrol. (Berl)183:259〜71)。
【0051】
血管新生阻害剤は、疾患の治療に有用であるかも知れないと提唱されている。例えば、血管新生を阻害すれば腫瘍の増殖を制限する可能性がある。(1)血管新生因子の放出を阻害する、(2)モノクローナル抗体のような手段を用いて血管新生因子を中和する、および(3)血管新生を阻害することが知られている分子である抗血管新生因子を用いて、内皮細胞反応を阻害する(フォークマン(Folkman)ら、1992、Seminars in Cancer Biology 3:89〜96)ことを含む、血管新生を阻害するいくつかの手段が提唱されている。コラゲナーゼ阻害剤、基底膜代謝回転阻害剤、血管抑制性ステロイド、真菌由来阻害剤、血小板第4因子、トロンボスポンジン、ペニシラミンのような関節炎剤、および特にα-インターフェロンなどの、いくつかのそのような内皮細胞阻害因子が報告されている(例えば、フォークマン(Folkman)ら、1992、Seminars in Cancer Biology 3:89〜96;例えば、ステピエン(Stepien)ら、1996、J. Endocrinol. 150:99〜106;メイオン(Maione)ら、1990、Science 247:77〜9を参照のこと)。
【0052】
「内皮細胞」という用語は、循環系の内表面に存在する単純な扁平細胞の単層である、内皮を形成する細胞を意味する。これらの細胞は、通常の条件下では増殖は非常に遅く、細胞分裂は、おそらく1年に1回だけであるが、細胞分裂能を保持している。内皮細胞の増殖は、[3H]チミジンを用いてS期の細胞を標識することによって示すことができる。正常血管では、標識される内皮細胞の比率は、動脈の分岐点で特に高く、ここでは細胞の乱れと摩耗が代謝回転を刺激するように思われる(ゴス(Goss)、1978、The Physiology of Growth、Academic Press、New York, 120〜137頁)。正常な内皮細胞は休止期にある、すなわち分裂せず、そのため、以下に述べるように血管新生内皮細胞と識別することができる。
【0053】
内皮細胞はまた、血管新生において重要な工程である遊走能を有する。内皮細胞は、創傷修復の際のように必要が生じた場合、または腫瘍形成の場合のようにそれらに対する認められた必要性が生じた場合に、インビボで新しい毛細管を形成する。新しい血管の形成は血管新生と命名されており、これには内皮細胞にとって分裂誘発性または化学誘因剤となりうる分子(血管新生因子)が関係する(クラグスブルン(Klagsbrun、前記)。血管新生の間、内皮細胞は既に存在する毛細管から遊走して、新しい血管の形成を開始する、すなわち1つの血管から、その血管が伸長するように細胞が遊走する(スパイデル(Speidel、Am J. Anat. 52:1〜79)。内皮細胞の増殖および遊走はいずれも、インビトロ試験によって示されており;培養されている内皮細胞は増殖して、自発的に毛細血管を形成することができる(フォークマン(Folkman)ら、1980、Nature 288:551〜56)。
【0054】
「血管新生内皮細胞」および「血管新生を行いつつある内皮細胞」などの用語は、(上記のように)血管新生を起こしつつある(上記のような)内皮細胞を意味するために、本明細書において互換的に用いられる。このように、血管新生内皮細胞は、細胞分裂をほぼ1年に1回行う正常な条件をはるかに超えた速度で増殖する内皮細胞である。内皮細胞の正常な増殖らの分化速度は、正常な増殖の2倍、5倍、または10倍以上であるかも知れず、患者の年齢および状態、関係する腫瘍のタイプ、創傷のタイプ等のような要因に応じて大きく変化することがありうる。正常な内皮細胞と血管新生内皮細胞との増殖の程度の差が測定可能で、生物学的に有意であると見なされれば、2つのタイプの細胞は、本発明によって識別される、すなわち血管新生内皮細胞は、陽イオン性リポソームの選択的結合に関して、対応する正常な休止期の内皮細胞と識別することができる。
【0055】
「対応する内皮細胞」、「正常なまたは休止期の内皮細胞」などの用語は、内皮細胞の一部が血管新生を行い、そして内皮細胞の一部が休止期である場合に、(通常の条件下で)同じタイプの組織の中に含まれる正常な休止期の内皮細胞を指すために用いられる。本発明では、血管新生内皮細胞を選択的に標的とし、これは対応する休止期の内皮細胞を標的とする場合より5倍大きい、好ましくは10倍大きい選択性で標的とされる。
【0056】
「脂質」という用語は、脂肪、脂質、水に不溶性である原形質のアルコール・エーテル・可溶性成分を含む、一般用語としてのその従来の意味において用いられる。脂質には、脂肪、脂肪油、精油、ワックス、ステロイド、ステロール、リン脂質、糖脂質、スルホリピッド、アミノリピッド、クロモリピッド(リポクローム)、および脂肪酸が含まれる。この用語は、天然に存在する、および合成的に生成される脂質の双方を含む。本発明に関連して好ましい脂質は、フォスファチジルコリンおよびフォスファチジルエタノールアミン、ならびにスフィンゴミエリンを含むリン脂質である。脂肪酸が存在する場合、それらの長さは炭素数12〜24個で、不飽和結合(二重結合)を6個まで含み、アシルまたはエーテル結合によって骨格に結合している。骨格に1つ以上の脂肪酸が結合している場合、脂肪酸は異なるものであってもよく(非対称)、または例えばリゾレシチンのように1つの脂肪酸鎖のみが存在してもよい。特に、卵黄、ウシの心臓、脳、もしくは肝臓、または大豆から精製したレシチン(フォスファチジルコリン)のように、非イオン性の脂質が天然資源に由来する場合、混合製剤もまた可能である。また興味深いことに、ステロイドおよびステロール、特にコレステロールおよびステロールは3β位で置換される。
【0057】
本明細書において用いられる「陽イオン性脂質」という用語は、陽イオン性である本発明のいかなる脂質(既に定義したように)も含む。脂質は、測定時に利用できる機器によって測定可能な陽性電荷(生理的pHにおいて)を有する場合には陽イオン性であると判定される。陽イオン性脂質上に脂肪酸が存在する場合、それらの長さは炭素数12〜24個で、不飽和結合(二重結合)6個までを含み、アシルまたはエーテル結合のいずれかによって骨格と結合している;骨格に1個の脂肪酸鎖のみが結合していることもあり得る。1つ以上の脂肪酸が骨格に結合している場合、脂肪酸は異なるもの(非対称)であってもよい。混合製剤も可能である。
【0058】
「リポソーム」という用語は脂質二重層によって囲い込まれた任意の分画を含む。リポソームは脂質小胞とも呼ばれる。リポソームを形成するために、脂質分子は、伸長した非極性(疎水性)部分と極性(親水性)部分とを含む。分子の疎水性部分および親水性部分は、好ましくは、伸長した分子構造の2つの両端に存在する。そのような脂質が水中に拡散すると、それらは自発的にラメラと呼ばれる二重膜を形成する。ラメラは、互いに向かい合う非極性(疎水性)表面と水性溶媒に面する極性(親水性)表面とを有する、脂質分子の2つの単層シートから成る。脂質によって形成された膜は、細胞の内容物を囲い込む細胞膜と同様に、水相の部分を囲い込む。このように、リポソームの二重層は細胞膜に蛋白質成分が存在しない細胞膜と類似性を有する。本発明に関連して用いられるようにリポソームという用語は、一般に1〜10μmの直径であって、そのどこかに2〜数100個の同心性の脂質二重層を水相の層と交互に含む多層リポソームを含むが、同様に、単一の脂質層を含み、一般に多層リポソームを超音波処理することによって、または圧力を加えた条件下で既定サイズの孔を有する膜を通じて押し出すことによって、または高圧でホモジナイズすることによって産生される約20〜400ナノメートル(nm)、約50〜約300nm、約300〜約400nm、約100〜約200nmの直径の単層小胞も含む。
【0059】
タキサンを含む好ましいリポソームは、単一の脂質二重層を有し、直径が25〜400nmの範囲にある単層小胞であると考えられる。また、タキサンを含み、直径が約25〜約400nmの範囲にある多層小胞も好ましい。
【0060】
好ましいポリヌクレオチド(DNA、RNAおよび合成ポリヌクレオチド類似体を含む)リポソーム複合体は、好ましいリポソームから調製される。複合体は、陽イオン性脂質1〜50 nmol毎にポリヌクレオチド1μgが存在するように調製される。DNA遺伝子カセットからの発現が望ましい最終産物である場合、陽イオン性脂質に対するポリヌクレオチドの最適な比率は、標準量のDNAを、上記の範囲内の異なる量の陽イオン性リポソームと混合する、一連の製剤を調製することによって経験的に決定される。次にこれらの製剤をインビボで投与して、最も高い発現を生じる製剤を決定することができる。
【0061】
陽イオン性リポソームは、0mV以上のゼータ電位を有するとして機能的に定義することができる。
【0062】
本明細書において用いられる「陽イオン性リポソーム」という用語は、陽イオン性である既に定義したいかなるリポソームも含むものと解釈される。リポソームは生理的pHにおいて存在する場合に陽イオン性であると決定される。リポソーム自身が陽イオン性であると決定される実体である、ということは、インビボの環境においてその生理的pHにおいて測定可能な陽性電荷を有するリポソームが、他の物質に結合するようになるという意味であることに留意されたい。それらの他の物質は、陰性に荷電していてもよく、それによって陽性電荷を有しない構造が形成されてもよい。インビボ環境において存在する本発明のリポソームの電荷および/または構造は、正確には決定されていない。しかし、本発明にしたがって、本発明の陽イオン性リポソームは、それ自身が陽イオン性であるいくつかの脂質を少なくとも用いて生成されると考えられる。リポソームは完全に陽イオン性脂質だけから成る必要はないが、生理的pHにおいて、リポソームが形成されてインビボ環境下に置かれる場合に、リポソームが最初に陽性電荷を有するように陽イオン性脂質の十分量を含まなければならない。
【0063】
「ヌクレオチド配列/陽イオン性脂質複合体」という用語は、少なくとも上記の陽イオン性脂質と混合したRNAまたはDNA配列であってもよく、および中性脂質を含んでもよいヌクレオチド配列の組合せを指す。DNA配列および陽イオン性脂質を組み合わせる場合、それらは古典的なリポソームではない複合体を自発的に形成する。本発明は特に、ヌクレオチド配列が特に血管新生内皮細胞に影響を及ぼすように設計された、特定のヌクレオチド配列/陽イオン性脂質複合体を形成することを目的とする。例えば、ヌクレオチド配列は血管新生内皮細胞を殺す蛋白質をコードするものでもよい。配列は、好ましくは、血管新生内皮細胞の環境内にある場合に限って選択的に活性化される、すなわち対応する休止期の内皮細胞では活性化されない、プロモーターに機能的に結合される。さらに、複合体は血管新生内皮細胞内で遺伝子材料の発現を遮断し、それによって血管新生内皮細胞の機能を重度に破壊する、および/または細胞を殺す、アンチセンス配列である配列を含んでもよい。DNAはプラスミドであっても、直鎖状であってもよい。遺伝子産物が望ましい場合(それ自身がRNA転写物である、または蛋白質に翻訳される)、DNAプロモーター配列と、遺伝子産物をコードするDNA配列とを含む発現カセットが必要である。ホスホジエステル結合以外を有するヌクレオチドは、特にアンチセンスでの用途において用いられる。
【0064】
「会合する」という用語は、リポソームおよび/またはその内容物が内皮細胞に入るために十分な期間、血管新生内皮細胞に十分に近接して存在する、本発明の陽イオン性リポソームの作用を意味する。本発明のリポソームは多様な状況において血管新生内皮細胞に会合してもよいが、最も好ましくは、インビボ条件の場合に血管新生内皮細胞と会合する。このように、リポソームは血管新生内皮細胞との会合前に、血流中に存在する他の分子または物質との接着、結合、または会合によって改変してもよい。リポソームと血管新生内皮細胞との会合には、2つの無関係な分子、すなわちヒト血清アルブミンおよびヒトトランスフェリンのような別の巨大分子間に起こる非特異的相互作用のような多様な力が原因となる可能性がある。これらの分子間力は、(1)静電気的;(2)水素結合;(3)疎水性;および(4)ファン・デル・ワールス力である、4つの一般領域に分類されると考えられる。静電気力は、陽イオン性リポソーム上の反対荷電基と、血管新生内皮細胞上または細胞内に存在する基との間のような、反対荷電イオン基間の引力による。引力(F)は、電荷間の距離(d)の平方に反比例する。水素結合力は、親水基間の可逆的な水素架橋の形成によって提供される。本発明のリポソームは、-COOHのような親水性基を含んでもよく、-OH、-NH2基であってもよい類似の基が内皮細胞の表面上に存在してもよい。これらの力は、これらの基を有する2つの分子の近接した位置に大きく左右される。疎水性の力は、水中の油滴が融合して単一の大きい油滴となる場合と同様に機能する。従って、本発明のリポソーム中に存在する基のように、非極性の疎水基は、水性環境で会合する傾向があり、内皮細胞の表面上に存在する疎水基と会合する傾向がある可能性がある。最後に、ファン・デル・ワールス力は分子間で生じ、外部の電子雲の間の相互作用に依存する。
【0065】
「選択的に会合する」および「選択的に標的化する」等の用語は、本明細書において、血管新生に関係していない対応する正常な内皮細胞と陽イオン性リポソームとの会合より高い程度で、陽イオン性リポソームを血管新生内皮細胞と会合させる、本発明の陽イオン性リポソームの特性を記述するために用いられる。本発明に従って、選択的または好ましい会合は、リポソームが、血管新生を行わない対応する正常な内皮細胞と比較して、血管新生を行う内皮細胞と5倍以上の高い程度で会合することを意味する。より好ましくは、好ましいまたは選択的な会合は、血管新生内皮細胞と対応する正常な内皮細胞との間の選択性が10倍以上であることを示している。
【0066】
「癌」という用語は、不適当な細胞増殖の疾患を意味する。このような混乱は、腫瘍組織の塊が生体臓器の機能を損なう場合に、臨床的に最も明らかとなる。正常組織および悪性組織は、単細胞レベルにおいて、および組織レベルにおいて、類似の増殖特徴を有するため、正常な組織の増殖を記述する考え方を悪性組織にも適用できる。癌は、細胞増殖調節の障害であると共に組織増殖調節が障害された疾患でもある。倍加時間とは、組織または腫瘍の大きさまたは細胞数が倍加するために必要な時間を指す。臨床的に明らかな腫瘍の倍加時間は通常、腫瘍に含まれる細胞の細胞周期時間よりかなり長い。しかし、腫瘍とは異なり、成人における正常な肝臓、心臓、または肺は、細胞生産と細胞死の速度が等しくなる定常状態にあるために、倍加時間を有しない(ストックデール(Stockdale)、1996、「癌の増殖と化学療法(Cancer growth and chemotherapy)」、Scientific American Medicine、第3巻、Scientific American Press, New York、12〜18頁)。腫瘍の増殖特徴は、新しい細胞の産生が細胞死を超えることである;新生物形成事象は、自己再生を行う幹細胞の比率が増加し、且つ成熟へと進行する細胞の比率が対応して減少する傾向がある(マックローチ(McCulloch)ら、1982、Blood 59:601〜608)。それぞれの腫瘍集団に関して倍加時間が存在し、特異的増殖曲線を確立することができる(ストックデール(Stockdale)、前記)。腫瘍の増殖パターンは、腫瘍発生の間、増殖速度は最初は非常に速く、その後大きさが増加するにつれて徐々に低下することを示したゴムペルジアン(gomperzian)曲線によって説明することができる(スティール(Steel)、1977、Growth kinetics of tumors、Oxford University Press, Inc.、New York, 40頁)。
【0067】
発明の全般的局面
添付の図面は、本発明の陽イオン性リポソームが血管新生内皮細胞を標的にする際の高い選択性を視覚的に明らかに示している。本発明の基本的な態様は、薬学的に許容される担体と、ある物質またはDNA/陽イオン複合体を含む陽イオン性リポソームとを含む製剤を投与する(好ましくは血管内に注射する、より好ましくは動脈内に注射する)ことによって、血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼす方法を含む。その物質は、血管新生を阻害する化合物、血管新生を促進する化合物、および/または検出可能な標識であってもよい。注射された製剤中の陽イオン性リポソームは、血管新生血管壁の内側に並ぶ血管新生内皮細胞の中に入る(エンドサイトーシスによって)。陽イオン性リポソームは、リポソームそのものおよび/またはリポソームの内容物が血管新生内皮細胞に入るために十分な時間および方法で、血管新生内皮細胞と会合する。その後、細胞に入る化合物は、血管新生を阻害もしくは促進することができる、または血管新生部位を検出できるようにする標識を単に提供する。血管新生内皮細胞を標的とする選択性は、添付の図面を参考にすることによって最もよく理解することができる。
【0068】
図1は、その上に大きく丸い濾胞(黄色)が存在するマウス卵巣の一部を示す。血管新生は、正常なマウス卵巣内で起こるために、検出可能な標識を含む陽イオン性リポソームは、濾胞(赤〜オレンジ色)の増殖しつつある血管の血管新生内皮細胞と会合する。しかし、図1の中で、標識が血管新生内皮細胞のみと会合しているのか、またはそれが卵巣および濾胞内の組織全体と会合しているか否かを明らかに決定することは不可能である。
【0069】
図2は、検出可能な標識を含む本発明の陽イオン性リポソーム(赤〜オレンジ色)を静脈内注射したマウスの膵臓腫瘍の切片を示す蛍光顕微鏡写真である。血管新生は腫瘍内で容易に起こる。このように、この写真は、本発明の陽イオン性リポソーム(赤〜オレンジ色)が、血管新生内皮細胞(緑色)に特異的に会合していることを示す証拠となる。しかし、これらの結果は、本発明の特異性を歴然と証明するわけではない。
【0070】
図3および図4の比較は、本発明が血管新生部位を特定する能力があることを示している。図3は、マウスの正常な膵臓組織内の血管を示す写真である。正常な内皮細胞では、対応する血管新生内皮細胞と比べて標識量ははるかに少ない。このことは、マウス内の膵臓腫瘍の写真である図4と図3を比較することによって、明らかに示される。図4は、腫瘍領域内の陽イオン性リポソーム内に高度に蓄積された標識(黄〜オレンジ色)が含まれることを明らかに示している。図3と図4とに大きな差があることから、腫瘍部位を明らかにし且つ正確にマークするために本発明を利用できることが示される。しかし、図4では多量の標識が血管新生血管に会合しているため、血管新生内皮細胞を選択的に標的にする陽イオン性リポソームの特異性を十分に認識することはできないかも知れない。
【0071】
図5は、正常なマウス膵島における血管(緑色)の写真である。赤〜オレンジ色の着色が少量であることから、陽イオン性リポソームと、膵臓組織の血管の内側に沿った正常な内皮細胞との会合は限られていることが示される。
【0072】
検出可能な標識を含む陽イオン性リポソームの特異性は、図5を図6と比較することによってより明らかに示される。図6は、マウスの膵臓内の腫瘍の血管新生血管の内皮細胞に標識がかなり高度に蓄積されていることを明らかに示している。
【0073】
陽イオン性リポソームが血管新生内皮細胞を正確に標的化できることは、図7および図8においてはっきりと示される。図7は、蛍光標識が血管のみと会合していること、すなわち、標識は周辺の組織に漏れていない、または移動していないことを明らかに示している。特異性は図8において最も明確に示され、ここでは、血管新生内皮細胞内に検出される、標識された陽イオン性リポソームに明らかに焦点を当てており、標識がそれらの細胞に特異的で、周辺組織に漏れていない、または移動していないことを示している。
【0074】
図9および図10は、上記と同じ作用を、異なる血管新生モデルを用いて示している。図1〜図8は全て、正常または癌様組織のいずれかに対するものであった。図9および図10はそれぞれ、マウス気管の正常組織および炎症組織を示す。より詳しく述べると、図9は、気管の正常な血管、すなわち病原体に感染していないマウスの気管を示す。図10は、感染によって血管新生が起こった気管の血管を示している。図10では、検出可能な高濃度の標識が現れているが、このことは、本発明の陽イオン性リポソームが血管新生内皮細胞に選択的に会合すること−−感染症によって血管新生へと誘導された気管の内皮細胞に特に会合していることを示している。
【0075】
図11は、血管新生内皮細胞と、血管新生を行っていない対応する正常な内皮細胞との会合能における陽イオン性リポソームの特異性の差を示すグラフである。図11に示すように、本発明の陽イオン性リポソーム(この実験に関して)は、血管新生を行っていない対応する内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対する親和性が約10倍大きいことを示した。
【0076】
最後に、図12および図13は、本発明の陽イオン性リポソームが血管新生内皮細胞の中にどのようにして入るかを示している。図12では、陽イオン性リポソームが血管新生内皮細胞の表面に接触している。図13では、陽イオン性リポソームは、血管新生内皮細胞の中にエンドサイトーシスによって入り、細胞中に存在する。
【0077】
図14は、病原体に感染していないマウスおよびマイコプラズマ・プルモニスに感染したマウスの気管におけるパクリタキセルを含むリポソーム製剤の取り込みを示しており、さらに、血管新生を生じていない内皮細胞と比べて、陽イオン性リポソームが血管新生内皮細胞と選好的に会合して取り込まれることを示している。
【0078】
本発明の陽イオン性リポソームの特異性を、言葉で表し、数値によって示したので、当業者は、本発明を利用するために異なる多様な物質を含む、異なる多様な陽イオン性リポソームを作製することができると思われる。しかし、念のため、以下に陽イオン性リポソームおよびその製造方法について説明し、その後に血管新生を阻害または促進する物質について説明する。
【0079】
リポソーム
リポソームは、(上記のような)陽イオン性脂質を含む脂質を(上記のように)水溶液に加えて、数秒から数時間にわたって溶液を攪拌することによって容易に形成することができる。この単純な方法によって、自発的に、直径約1〜10μmの範囲の、大きい多層リポソームまたは小胞が形成される。これらのリポソームは、脂質がその中に存在する水相の層と交互になる2〜数100個の同心性の脂質二重層を含む。血管新生を阻害する、血管新生を促進する、または検出可能な標識を提供する化合物のような物質を水相内に含むことができる。物質は水溶性であってもよく、または少なくとも水中に容易に拡散させることができる。または、そのような物質は脂質二重層内に含まれる。脂質二重層内に含まれる物質は疎水性である。
【0080】
水層の厚さおよびそれによりリポソーム内に捕らえられる水相の総量は、荷電した脂質間の静電気反発力と、二重層間のファン・デル・ワールス引力との全体としてのバランスに依存する。このように、水中の間隙(したがって、捕らえられた水性材料の容積)は、膜における荷電脂質の比率が増加するにつれて、また水相における電解質(荷電イオン)の濃度が減少するにつれて増加する。
【0081】
さまざまな大きさのリポソームを作製することができる。形成される小型のリポソームまたは小胞は単層性であり、大きさが約20〜400ナノメートルの範囲にあり、多層小胞を超音波処理にかけることによって、規定サイズの孔径を有する膜を通した加圧押出によって、または高圧均質化処理によって製造可能である。大きさが直径約0.1〜1μmの範囲にある比較的大きい単層リポソームは、脂質を有機溶媒または界面活性剤中で可溶化し、可溶化剤をそれぞれ蒸発または透析によって除去すると入手しうる。特定の脂質または厳密な脱水-水和条件を必要とする方法による比較的小さい単層リポソームの融合により、細胞と同じ大きさまたはさらに大きい単層容器を得ることができる。
【0082】
本発明の陽イオン性リポソームを形成させるためには、少なくとも若干の陽イオン性脂質を用いてリポソームを生成することが必要である。しかし、本発明の陽イオン性リポソームがすべて陽イオン性脂質から構成される必要はない。例えば、中性脂質を約45%の量で用い、陽イオン性脂質を約55%の量で用いることにより、本発明に関連して有用であって、血管新生内皮細胞を選好的に標的とする陽イオン性脂質が得られると考えられる。
【0083】
本発明の陽イオン性リポソームは、血管新生に影響を及ぼす物質を含み、蛍光団もしくはその他の標識および/または可溶性化合物を水性区画中にさらに含んでもよい。血管新生に影響を及ぼす物質および/または標識を含む陽イオン性リポソームの作製は、例えば、solutions of l,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、コレステロールおよびテキサスレッド(Texas Red)DHPE(N-(5-ジメチルアミノナフタレン-1-スルホニル)-1,2-ジヘキサデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)の溶液を混合し、蒸発乾燥させた後に脂質膜を5%デキストロース中で再水和して多層小胞(MLV)を得る、当技術分野で標準的ないくつかの方法のうち任意のものを用いて行うことができる。これらの小胞をポリカーボネート・膜フィルターを通じて押し出し、単層小胞を得る。リポソームおよび混合すべき物質、例えばプラスミドDNAを5%デキストロース溶液中または他の生理的に許容される賦形剤中で特定の比率で互いに混合する。有用な陽イオン性脂質には、以下のものが含まれる:DDAB、臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウム;メチル硫酸N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム;1,2-ジアシル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン類(ジオレオイル(DOTAP)、ジミリストイル、ジパルミトイル、ジセアロイルを含むが、これに限定されない);1,2-ジアシル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン類(ジオレオイル、ジミリストイル、ジパルミトイル、ジセアロイルを含むが、これに限定されない);DOTMA、塩化N-[1-[2,3-ビス(オレオイルオキシ)]プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム;DOGS、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン;DC-コレステロール、3β-[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール;DOSPA、2,3-ジオレオイルオキシ-N-(2(スペルミンカルボキサミド)-エチル)-N,N-ジメチル-1-プロパンアンモニウムトリフルオロアセテート;1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-エチルフォスフォコリン(ジオレイル(DOEPC)、ジラウロイル、ジミリストイル、ジパルミトイル、ジステアロイル、パルミトイル-オレオイルを含むがこれらに限定されない);β-アラニルコレステロール;CTAB、臭化セチルトリメチルアンモニウム;diC14-アミジン、N-t-ブチル-N'-テトラデシル-3-テトラデシルアミノプロピオンアミジン;14Dea2、塩酸O,O'-ジテトラデカノリル-N-(トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミン;DOSPER、1,3-オレオイルオキシ-2-(6-カルボキシ-スペルミル)-プロピルアミド(1,3-dioleoyloxy-2-(6-carboxy-spermyl)-propylamide);(ヨウ化N,N,N',N'-テトラメチル-N,N'-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2,3-ジオレオイルオキシ-1,4-ブタンジアンモニウム;塩化1-[2-(9(Z)-オクタデセノイルオキシ)エチル]-2-(8(Z)-ヘプタデセニル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリニウム(DOTIM)、塩化1-[2-ヘキサデカノイルオキシ)エチル]-2-ペンタデシル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリニウム(DPTIM)、塩化1-[2-テトラデカノイルオキシ)エチル]-2-トリデシル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウム(DMTIM)のような、塩化1-[2-アシルオキシ)エチル]2-アルキル(アルケニル)-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリニウム誘導体(ソロディン(Solodin)ら、Biochem 43、135737〜13544、1995に記載);臭化1,2-ジオレオイル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウム(DORI)、臭化1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウム(DORIE)、臭化1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシプロピルアンモニウム(DORIE-HP)、臭化1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシブチルアンモニウム(DORIE-HB)、臭化1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシペンチルアンモニウム(DORIE-HPe)、臭化1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシルエチルアンモニウム(DMRIE);臭化1,2-ジパルミチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウム(DPRIE)、臭化1,2-ジステリルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウム(DSRIE)(フェルナー(Felgner)ら、J. Biol. Chem. 269、2550〜2561、1994に記載)のような、4級アミン上にヒドロキシアルキル部分を含む2,3-ジアルキルオキシプロピル4級アンモニウム化合物誘導体。上記の脂質の多くは、例えば、アバンティポラーリピッズ社(Avanti Polar Lipids, Inc.);シグマケミカル社(Sigma Chemical Co.);モレキュラープローブ社(Molecular Probes, Inc.);ノーザンリピッズ社(Northern Lipids, Inc.);ロシュモレキュラーバイオケミカルズ社(Roche Molecular Biochemicals);およびプロメガ社(Promega Corp)などから市販されている。
【0084】
陽イオン性リポソームは、陽イオン性脂質のみから、または他の脂質、特にコレステロール;1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(ジオレオイル(DOPE)、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン;天然の卵黄ホスファチジルコリン(PC)など;合成モノ-およびジアシルホスホコリン(例えば、モノアシルホスファチジルコリン(MOPC))およびホスホエタノールアミンなどの中性脂質との混合物中にて調製する。上記のジアシル誘導体に関する非対称脂肪酸(合成性および天然性の両方)および混合製剤も含めてよい。
【0085】
上記のタイプのリポソームおよび当業者が想起するその他のタイプのリポソームは、血管新生を促進または阻害する、および/または検出可能な標識を含む物質を含むリポソームと共に本発明において用いることができる。本発明のリポソームの一例は、血管新生を阻害する脂溶性または水溶性物質を含む陽イオン性リポソームである。しかし、脂溶性の化合物は、脂質二重層の中に存在してもよい。以下に、血管新生阻害剤についての説明を記述する。しかし、本発明によりその他のものが当業者に想起される、および/または開発されること、そのような血管新生阻害剤は本発明に関連して容易に使用することができることに留意すべきである。
【0086】
血管新生阻害剤
ヘパリンは、血管新生の増強剤であり、ヘパリン拮抗剤は血管新生反応を阻害することができる。ヘパリン結合蛋白質であるプロタミンは、抗血管新生特性を示す(タイラー(Taylor)ら、1982、Nature、297:307-312)が、これをヒトに暴露するとアナフィラキシー反応を引き起こすことが知られているため、臨床的に有用でない。もう一つの抗血管新生剤は、ヘパリン結合蛋白質であるメジャー塩基性蛋白質であるが、これも非常に毒性が強く、このためヒトで使用するには現実的でない。しかし、本発明によって高度に選択的な標的化が得られたため、血管新生を阻害するが、ヒトでの治療応用には毒性が強すぎると思われるこれらおよび他の化合物は、非常に少量で用いることができるため、当然有用となる。
【0087】
血小板第4因子(PF4)は、ヘパリン結合活性および抗血管新生特性の双方を示し、それは他のヘパリン拮抗剤ほど強い毒性を示さないため、臨床的に有用となるかも知れない。米国特許第5,112,946号に開示されたPF4の化学改変体は、PF4の抗血管新生特性を増強する。これらの改変には、その遊離のアミノ基をフルオレセイン・イソチオシアネートで修飾したPF4類似体の産生、蛋白質の構造的組成が特に変化したPF4変異体の産生、および抗血管新生特性を保持するPF4断片の産生が含まれる。特に、PF4のカルボキシル末端に相当するアミノ酸13個の合成ペプチドは、強い抗血管新生(angiostatic)活性を示した。
【0088】
多様なステロイドが、血管新生を阻害することが示されている。この抗血管新生活性は、ヘパリンまたは関連する分子の付加によって増強される(フォークマン(Folkman)ら、1989、Science、243、1490〜3)。テトラヒドロコルチゾンのようないわゆる「抗血管新生(angiostatic)ステロイド」とは、インビボで血管新生の阻害能を有する。特に6α-フルオロ-17,21-ジヒドロキシ-16β-メチル-プレグナ-4,9-(11)-ジエン-3,20-ジオンは、強力な抗血管新生ステロイドとして用いられている。
【0089】
コラーゲン代謝を調節する薬剤は血管新生を阻害することが判明した。アミノ酸プロリンの類似体は特にコラーゲン合成を阻害し、インビボで血管新生を阻害する。特にL-アゼチジン-2-カルボン酸(LACA)、シス-ヒドロキシプロリン(CHP)、D,L-3,4-デヒドロプロリン(DHP)、およびチオプロリン(TP)はそれぞれ、活性が強い順に抗血管新生活性を示す(イングバー(Ingber)ら、1988、Lab. Invest. 59、44〜51)。これらの類似体のそれぞれも、抗血管新生性ステロイドおよびヘパリンの抗血管新生作用を増強する。
【0090】
血小板のα顆粒に存在する糖蛋白質であるヒトトロンボスポンジンは、米国特許第5,192,744号に開示されているように、トリマーまたはモノマーもしくは断片型で血管新生を阻害する。それぞれはグリコシル化型において作用し、非グリコシル化型において作用すると予想される。血管新生阻害特性は、アミノ末端と会合したヘパリン結合ドメインおよびモノマー蛋白質のカルボキシル末端に認められた血小板結合ドメインの欠失後でも存在する。
【0091】
ラミニン活性を示すペプチドは血管新生を阻害し、過剰な血管が組織に形成されることを防止する。そのような活性を有する特殊なペプチドは:1)チロシン・イソロイシン・グリシン・セリン・アルギニン;2)プロリン・アスパルチン(aspartine)・セリン・グリシン・アルギニン;および3)システイン・アスパラギン酸・プロリン・グリシン・チロシン・イソロイシン・グリシン・セリン・アルギニンである。これらのペプチドは、環状型で抗血管新生活性を維持すると予想される。
【0092】
血管新生阻害物質のその他の例には、コラゲナーゼ活性を示す軟骨組織からの抽出物、網膜色素内皮細胞に由来する蛋白質(Arch. Ophthalmol.、103、1870(1985))、培養軟骨細胞から誘導した抗癌因子(タキガワ(Takigawa)ら、1988、Protein, Nucleic Acid and Enzyme、33、1803〜7)、インドメタシンのような抗炎症剤(ピーターソン(Peterson)ら、1986、Anticancer Res.、6:251〜3)、リボヌクレアーゼ阻害剤(シャピロ(Shapiro)ら、1987、PNAS 84:2238〜41)、硫酸多糖類とペプチドグリカンの複合体(例えば、JPA-S63(1988)-119500)、関節炎用の金製剤、ハービマイシンA(JPA-S63(1988)-295509)、METH-1蛋白質およびMETH-2蛋白質(バズクウィッツ(Vazquez)ら、1999、J. Biol. Chem. 274:23349〜23357)、ならびにフマギリンまたはフマギロール誘導体が含まれる。米国特許第5,202,352号に開示されるように、多くのフマギロール誘導体が血管新生阻害特性を有する。上記引用は、血管新生の阻害剤を記述および開示するために参照として組み入れられる。
【0093】
タキサン
本発明はさらに、タキサンを抗血管新生物質(anti-angiogenic agent)として含む陽イオン性リポソームを提供する。このようなリポソームは血管新生を阻害すると思われ、このため、腫瘍、慢性炎症、および血管新生を伴うその他の疾患の治療に有用である。
【0094】
「タキサン」には、パクリタキセルのほかに、必要な活性が認められる限り、すなわち、タキサンを含む陽イオン性脂質製剤と接触していない血管における血管新生と比べて血管新生が少なくとも約2倍、より好ましくは少なくとも約5倍、より好ましくは少なくとも約10倍、さらにより好ましくは少なくとも約50倍、またはそれ以上に阻害される限りにおいて、任意の活性タキサン誘導体またはプロドラッグが含まれる。
【0095】
当業者は、さまざまな既知の方法を用いて、血管新生が阻害されたか否かを容易に決定しうる。このような方法には、血管新生の促進物質(すなわち血管新生誘発物質)である物質に反応した細胞によるインビトロまたはインビボでの合成マトリクスの侵食を用いる方法、例えば漿尿膜アッセイ法、角膜ポケット(cornea pocket)アッセイ法、および内皮細胞増殖の阻害に関するアッセイ法が非制限的に含まれる。このような方法は文献中に詳細に記載されており、これには特にバスケス(Vazquez)ら(1999)J. Biol. Chent 274:23349〜23357;およびベロッティ(Belotti)ら(1996)Chin. Cancer Res. 2:1843〜1849が含まれる。
【0096】
タキサンはリポソームの脂質二重層内に組み入れることもでき、リポソームの水性区画中に存在することもでき、その両方でもよい。したがって、いくつかの態様において、本発明は、陽イオン性脂質およびタキサンを脂質二重層内に含む陽イオン性リポソームを提供する。これらの態様の一部において、陽イオン性リポソームはさらにタキサンを水性区画中に含む。その他の態様において、本発明は、陽イオン性脂質およびタキサンを水性区画中に含む陽イオン性リポソームを提供する。水性区画中に含めうるタキサンには、水溶性タキサン(例えば、親水性誘導体)が含まれる。陽イオン性リポソームの脂質二重層内に組み込みうるタキサンには、疎水性タキサンおよび疎水性タキサン誘導体が含まれる。
【0097】
一般に、本発明の陽イオン性リポソーム製剤におけるタキサンの比率は約20モル%未満である。いくつかの態様において、陽イオン性リポソーム製剤はタキサンを約0.5モル%〜約20モル%の比率で含み、また別の態様では約2モル%〜約10モル%の比率で含む。その他の態様において、タキサンは約1モル%〜約5モル%で存在し、さらに他の態様では約1モル%〜約3モル%で存在する。タキサンが陽イオン性リポソーム中に約0.5モル%〜約20モル%、約2モル%〜約10モル%、約1モル%〜約5モル%、約1モル%〜約3モル%の比率で組み入れられる場合、少なくとも約0.5時間、一般に少なくとも約1時間、一般に少なくとも約2時間、通常は少なくとも約24時間、通常は少なくとも約48時間の期間にわたり、約4EC〜約25ECの間の温度で、タキサンはリポソーム二重層から実質的に区分されない、および/またはタキサン結晶を実質的に形成しない。タキサンがリポソーム二重層から実質的に区分されない限り、および/またはタキサン結晶を実質的に含まない限り、タキサンをさらに高い比率で組み入れてもよい。タキサンを含む陽イオン性リポソームは「タキサン結晶を実質的に含まない」、すなわち、陽イオン性リポソーム中に存在するタキサンのうち結晶の形態にあるのは一般に約10%未満、通常は約5%未満、通常は約2%未満、典型的には約1%未満であり、好ましくは約0.5%未満である。タキサンが脂質二重層から実質的に区分されていない陽イオン性リポソームとは、リポソーム二重層から区分されたタキサンの割合が一般に約20%未満、通常は10%未満、通常は約5%未満、典型的には約1%未満、好ましくは約0.5%未満であるものである。
【0098】
リポソーム-タキサン製剤における陽イオン性脂質の比率は一般に約5モル%を上回り、通常は約10モル%を上回り、より典型的には約20モル%を上回る。いくつかの態様において、陽イオン性脂質はリポソーム-タキサン製剤中に約20モル%〜約99モル%の比率で存在する。他の態様において、陽イオン性脂質は約30モル%〜約80モル%の比率で存在し、また別の態様では約40モル%〜約98モル%、さらに別の態様では約40モル%to約60モル%の比率で存在する。タキサンの送達に用いるのに適したリポソーム組成物は上記のものである。また、タキサンを、脂肪酸、リン脂質などの疎水性有機部分(hydrophobic organic moiety)に結合させて、リポソーム中に組み入れることもできる。このようなタキサン誘導体は記載されており、本発明における使用に適している。例えば、米国特許第5,580,899号を参照されたい。タキソールを含むホスファチジルコリン製剤も記載されている(米国特許第5,683,715号)。
【0099】
タキサンを含む陽イオン性リポソーム製剤は、血管新生を生じている血管内の内皮細胞(すなわち、血管新生内皮細胞)に対する親和性がより高く、それらと選好的に会合して、それらによって取り込まれる、すなわち、血管新生内皮細胞によって(タキサンが細胞内に入るように)取り込まれるタキサン含有性陽イオン性リポソームの量は、非血管新生内皮細胞によって取り込まれる量の少なくとも約2倍、より好ましくは少なくとも約5倍、より好ましくは少なくとも約10倍またはそれ以上である。この比較は一般に個々の細胞に基づいて行われる、すなわち、1個の血管新生内皮細胞および1個の血管新生内皮細胞による取り込みの直接比較を行う。一例としては、血管新生内皮細胞と非血管新生内皮細胞による取り込みの比を決定するためのアッセイ法をエクスビボで行う、例えば、細胞を動物体内インビボで標識し、動物から採取してエクスビボで陽イオン性リポソーム製剤の取り込みに関してアッセイする。適切なアッセイ法の一例を実施例5に提示する。本アッセイ法では、血管新生を誘導することが知られた物質を動物に投与する。内皮細胞を、すべての内皮細胞を表示するために用いる標識からの識別が可能な標識を含む陽イオン性リポソーム/タキサン製剤と接触させる。適当な時間の後に、すべての内皮細胞を蛍光標識で標識する。動物に対する潅流を、内皮細胞の標識前、標識と同時または標識後に行ってもよい。適当な時間(例えば、約1分間〜約2時間)の後に、内皮細胞を動物から採取し、共焦点顕微鏡検査による直接的な可視化により、陽イオン性リポソーム/タキサン製剤に付随する標識を含む内皮細胞の比率を、陽イオン性リポソーム/タキサンに付随する標識を含まない内皮細胞の比率と比較する。このようにして、血管新生内皮細胞および非血管新生内皮細胞による取り込みの直接的な細胞間比較を行うことができる。陽イオン性リポソームが所定の細胞に選好的に取り込まれるか否かは、実施例の項に記載したような標識脂質および蛍光顕微鏡法の使用を含む、任意の既知の方法を用いて決定しうる。全組織のホモジネートにおける取り込みの測定などを含む方法は、非内皮細胞が高い比率で存在するために信号対バックグラウンド比が低くなる可能性があり、このため、血管新生内皮細胞および非血管新生内皮細胞による取り込みの差を正確には反映しない可能性があるため、一般に好ましくない。
【0100】
中性脂質を陽イオン性リポソーム製剤に組み入れることが可能であり、これが存在する場合、その比率は約1モル%〜約80モル%、一般に約2モル%〜約50モル%、通常は約40モル%〜約50モル%でありうる。DOPEを非制限的に含むホスファチジルエタノールアミン;ならびに卵PC、DOPC、およびMOPCを非制限的に含むホスファチジルコリンを非制限的に含む、任意の中性脂質を組み入れることができる。ホスファチジルエタノールアミンとホスファチジルコリンとの混合物を含めることも可能である。
【0101】
タキサンを含む陽イオン性リポソームは検出可能な標識をさらに含んでよく、本明細書で詳細に述べる通り、当技術分野ではそのさまざまなものが知られている。
【0102】
実施例5は、パクリタキセルを含む陽イオン性リポソームの血管新生内皮細胞への標的化を示す実験データを提供している。したがって、いくつかの態様において、本発明は、パクリタキセルを含む陽イオン性リポソームを提供する。これらの態様の一部において、陽イオン性リポソームは1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)を、約20モル%〜約99モル%、約40モル%〜約70モル%、約50モル%〜約60モル%の比率で含む。これらの態様の一部において、陽イオン性リポソームはDOTAP:卵ホスファチジルコリン(PC):ローダミン:DHPE:パクリタキセルを50:47:1:2のモル比で含む。他の態様において、陽イオン性リポソームはDOTAP:卵PC:パクリタキセルを50:48:2のモル比で含む。他の態様において、陽イオン性リポソームはDOTAP:DOPC:パクリタキセルを50:47:3のモル比で含む。他の態様において、陽イオン性リポソームはDOTAP:DOPE:パクリタキセルを50:47:3のモル比で含む。他の態様において、陽イオン性リポソームはDOTAP:MOPC:パクリタキセルを50:47:3のモル比で含む。
【0103】
パクリタキセルは、チューブリンを結合させることにより、微小管構造を安定化するように作用する。分裂中の細胞において、これは異常な紡錘体の形成を招く。さらに、タキサンには抗血管新生活性もあるように思われる(Belottiら(1996)Chin. Cancer Res. 2:1843〜1849;およびKlauberら(1997)Cancer Res. 57:81〜86)。本発明の陽イオン性リポソームは、パクリタキセルを非制限的に含むタキセン;および上記の血管新生阻害物質のうち任意のものを非制限的に含む、血管新生を阻害する任意の物質を含みうる。したがって、いくつかの態様においては、1種類のタキサンおよび1種類または複数の他の抗血管新生物質を含む陽イオン性リポソーム組成物が提供される。
【0104】
パクリタキセルは、高度に誘導体化されたジテルペノイドであり(Waniら(1971)J. Am. Chem. Soc. 93:2325〜2327)、セイヨウイチイ(Taxus brevifoha)(Pacific Yew)の収穫された乾燥樹皮、およびセイヨウイチイの内部寄生菌であるタキソミセス・アンドレナエ(Taxomyces andreanae)(Stierheら(1993)Science 60:214〜216)から得られている。「パクリタキセル」(本明細書では、これにはドセタキセル、タキソール(TAXOLJ)、タキソテール(TAXOTEREJ)(ドキタキセルの製剤)、パクリタキセルの10-デスアセチル類似体、およびパクリタキセルの3'N-デスベンゾイル-3'N-t-ブトキシカルボニル類似体などの類似体、製剤および誘導体などが含まれるものと理解される必要がある)は、当業者に知られた技法を用いて容易に調製しうる(国際公開公報第94/07882号、国際公開公報第94/07881号、国際公開公報第94/07880号、国際公開公報第94/07876号、国際公開公報第93/23555号、国際公開公報第93/10076号;米国特許第5,294,637号;同第5,283,253号;同第5,279,949号;同第5,274,137号;同第5,202,448号;同第5,200,534号;同第5,229,529号;および欧州特許第590,267号も参照のこと)、または例えばシグマケミカル社(Sigma Chemical Co.、St. Louis、Mo.)を含む、種々の販売元から入手しうると思われる(T7402はセイヨウイチイから;またはT-1912はタキサス・ヤンナネンシス(Taxus yannanensis)から)。
【0105】
パクリタキセルは、パクリタキセルの一般的な化学的に入手しうる形態だけでなく、類似体(例えば、上記のタキソテール)およびパクリタキセル結合物(例えば、パクリタキセル-PEG、パクリタキセル-デキストランまたはパクリタキセル-キシロース)も指すことが理解される必要がある。
【0106】
「タキサン」という用語には、親水性誘導体および疎水性誘導体の両方を含む、さまざまな既知の誘導体も含まれる。タキサン誘導体には、国際公開公報第99/18113号に記載されたガラクトース誘導体およびマンノース誘導体;国際公開公報第99/14209号に記載されたピペラジノ誘導体および他の誘導体;国際公開公報第99/09021号、国際公開公報第98/22451号および米国特許第5,869,680号に記載されたタキサン誘導体;国際公開公報第98/28288号に記載された6-チオ誘導体;米国特許第5,821,263号に記載されたスルフェンアミド誘導体;ならびにおよび米国特許第5,415,869号に記載されたタキソール誘導体が非制限的に含まれる。これにはさらに、国際公開公報第98/58927号;国際公開公報第98/13059号;および米国特許第5,824,701号に記載されたパクリタキセルのプロドラッグが非制限的に含まれる。
【0107】
「タキサン」という用語にはさらに、タキサンの薬学的に許容される塩が含まれる。
【0108】
タキサンの混合物を陽イオン性リポソームに組み入れてもよい。さらに、タキサンを含む陽イオン性リポソームは、血管新生を阻害する薬剤(例えば、タキサン以外のもの)および抗癌剤を非制限的に含む、1つまたは複数の追加的な薬学的活性のある化合物をさらに含んでもよい。
【0109】
タキサンは天然の源から単離することもでき、化学合成することもでき、販売元から購入することもできる。化学合成の方法は当技術分野で知られている。例えば、米国特許第5,580,899号を参照のこと。
【0110】
血管新生因子
多くの生体化合物が血管新生を刺激する。アンギオゲニンは、ニワトリのCAMまたはウサギ角膜における強力な血管新生因子であることが示されている。末梢血単球から単離されたアンギオトロフィンは、正常な創傷治癒において何らかの役割を果たすと提唱されているもう一つの血管新生化合物である(Biochemistry 27, 6282(1988))。フィブリンのような、創傷治癒に関連する別の因子も、血管新生を誘導する。
【0111】
血管新生のメディエータのもう一つのクラスは、酸性および塩基性繊維芽細胞増殖因子(FGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGF-α)および血小板由来増殖因子(PDGF)を含む、増殖因子のようなポリペプチド血管新生因子である。これらの分子のそれぞれは、インビボで血管新生を誘導することが示されている。血管新生活性を示す他の類似の分子は、血管内皮増殖因子(VEGF)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)、およびヘパリン結合増殖因子(HBGF)である。
【0112】
ポリペプチド血管新生因子の他にもその他の血管新生因子が記述されている。脂質由来血管新生因子であるプロスタグランジンE1およびE2は、血管新生特性を有する周知の炎症性細胞誘引物質である(J. Natl. Cancer Inst. 69、475〜482(1982))。ニコチンアミドは、ニワトリの角膜またはニワトリのCAMアッセイ法において調べたところ、血管新生反応を引き起こす(Science 236、843〜845(1987))。
【0113】
検出可能な標識
本発明の陽イオン性リポソームを用いて、いかなる種類の検出可能な標識も送達することができる。標識は、リポソームを形成するために用いる脂質に対して溶解性であるか、または、水または水性生理食塩液もしくはデキストロース水溶液のような水溶液に溶解する、もしくは少なくとも拡散する。標識は放射性標識、蛍光標識、組織化学的または免疫組織化学的に検出可能な物質、または検出可能な色素、または磁気共鳴により検出可能な任意の物質であってもよい。標識は適当量存在してもよく、リポソームそのものに、または血管新生を阻害もしくは促進する物質と共に含まれてもよく、または複合体を形成してもよい。
【0114】
投与
患者に投与される血管新生阻害剤または促進剤の量(血管新生を行う内皮細胞を含む循環系を有するいかなる動物であってもよい)は、広範囲の要因に応じて変化すると思われる。例えば、ヒトに対しては、より小さい動物より実質的に大量を投与することが必要であると考えられる。血管新生阻害剤または促進剤の量は、投与すべき物質の効力と共に、患者の体格、年齢、性別、体重および状態に依存する。投与に関してかなりの変動があることが示されているため、当業者は本開示を用いて、最初に極めて少量を投与して、望ましい結果が得られるまで用量を漸増させることによって、適当な投与量を容易に決定することができると思われる。投与量は、上記の要因に基づいて大きく変化するが、一般に、本発明によって、周辺組織、例えば腫瘍細胞そのものを標的とする送達システムと比較して、いかなる物質も実質的により少量を投与することが可能になる。
【0115】
ヌクレオチド配列/陽イオン性脂質複合体
DNAおよびRNA配列を含むヌクレオチド配列を脂質と組み合わせる場合、両者は複合体を形成する。ヌクレオチド配列および脂質の特定量を選択し、特定の脂質を選択することによって、インビトロで互いに凝集しない複合体を形成することが可能である。そのような複合体に形成に関する一般情報は、1993年6月24日に公表され、ヌクレオチド配列/脂質複合体の形成を具体的に開示および説明するために、本明細書に参照として組み入れられる、国際公開公報第93/12240号に記述されている。本発明に関連して、ヌクレオチド配列は、血管新生内皮細胞に影響を及ぼすが、他の細胞、特に他の対応する内皮細胞、すなわち休止期の内皮細胞には影響を及ぼさないように特に設計される。本発明に関連して用いられるDNA配列は、プロモーターに機能的に結合しており、それらのプロモーターは、血管新生内皮細胞の環境下に限ってヌクレオチド配列の発現が得られるように、特に設計される。最初に、プロモーターはその配列が血管新生内皮細胞に送達された後に活性化することができる活性化可能なプロモーターとなりうる。より好ましくは、プロモーターは血管新生内皮細胞の特殊な環境下で活性化されるように設計される。休止期の内皮細胞の環境では起こらないが、血管新生内皮細胞の環境下では、天然に起こる現象が多くある。2つのタイプの細胞の差を利用することによって、プロモーターは、それが血管新生内皮細胞の存在下に限って活性化されるように特に設計される。
【0116】
DNAカセットからの転写は、特異的な遺伝子プロモーターを用いて単一の、または狭い範囲の細胞タイプに制限することができる。内皮細胞は、その遺伝子およびそのプロモーターが解明されているいくつかの蛋白質を選択的に発現する。血管内皮増殖因子(VEGF)受容体flt-1およびflk-1遺伝子プロモーター、フォン・ウィルブランド因子(VWF)遺伝子プロモーター、およびタイ・ファミリー遺伝子プロモーターは、リポーター遺伝子構築物と結合すると、内皮細胞において選択的発現を指向することが示されている。以下の刊行物は、血管新生内皮細胞において活性化されるプロモーターを開示および記述するために引用する。
【0117】
ハトヴァ(Hatva)ら、1996、Am. J. Path. 148:763〜75;ストローン(Strawn)ら、1996、Cancer Res. 56:3540〜5;ミロウア(Millauer)ら、1996、Cancer Res. 56:1615〜20;サト(Sato)ら、1996、Nature 376:70〜4;オザキ(Ozaki)ら、1996、Human Gene Therapy、13:1483〜90;ロニッケ(Ronicke)ら、1996、Circulation Res. 79:277〜85;シマ(Shima)ら、1996、J. Biol. Chem. 271:3877〜8;モリシタ(Morishita)ら、1995、J. Biol. Chem. 270:27948〜53;パターソン(Patterson)ら、1995、J. Biol. Chem. 270:23111〜8;コルホーネン(Korhonen)ら、1995、Blood 86:1828〜35。他の有用な方法には、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(TK)を内皮細胞において発現させ、その後プロドラッグであるガンシクロビルで処置することが含まれる(オカザキ(Okazaki)ら、1996)。
【0118】
または、ヌクレオチド配列は、血管新生内皮細胞内で発現されなければならない配列と結合し、それによってその細胞の生存に必要な、血管新生内皮細胞の天然に存在する配列の発現を遮断するアンチセンス配列であることが可能である。
【0119】
凝血塊形成
リポソームまたはヌクレオチド配列/脂質複合体を用いて実施することのできる本発明のもう一つの局面は、凝血塊の形成を含む。詳しく述べると、本発明のリポソームまたは複合体は、それが血管新生内皮細胞に影響を及ぼし、その結果、血管新生血管において凝血塊を形成するように設計される。凝血塊は残りの血管に対する栄養および酸素の流れを防止し、その結果血管および周辺組織の死が起こる。
【0120】
望ましからぬ腫瘍を除去するために、腫瘍の血管内で凝血塊を形成する基本的な考え方は、腫瘍血管を標的にした抗体を用いて実施されている。本発明は、血栓形成カスケードを促進する薬剤を含む陽イオン性脂質を用いることによって、結果の改善を得ることができた。例えば、本発明の陽イオン性リポソームは、血栓(血液凝固カスケード)の主要な開始受容体である、ヒト組織因子(TF)を含むように構築することができる。
【0121】
腫瘍細胞は血液供給に依存する。腫瘍血管の局所破壊によって、大量の腫瘍細胞の死が起こる。腫瘍血管内皮は血液と直接接している。しかし、腫瘍細胞そのものは血流の外に存在し、ほとんどの場合、循環中に注射された多くの材料に接近しにくい。本発明の他の局面と共にこの局面は、標的とする細胞が、それら自身、形質転換されない血管新生内皮細胞である、すなわち療法に対して抵抗性となる変異を獲得する可能性が低い細胞である、という点において特に良好に作用する。腫瘍細胞はかなりの変異を受け、そのような変異はしばしば細胞を治療に対して抵抗性にする。抗体による標的化を用いて腫瘍の大きさを減少させることに関する結果は、以下のように他の研究者によって示されている:ビュロウズ(Burrows)&ソープ(Thorpe)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:8996〜9000、1993;およびヒュアン(Huang)ら、Science 275:547〜550、1997。
【0122】
本発明に関連して凝血塊形成を行うために、DNA/陽イオン性脂質複合体を形成することが好ましい。複合体は、その蛋白質が血栓(血液凝固)カスケードに対する主要な開始受容体である、ヒト組織因子のような蛋白質をコードするDNAを含む。TFをコードする遺伝子は、好ましくは、血管新生内皮細胞の環境下で活性化され、休止期の内皮細胞の環境では活性化されないプロモーターに機能的に結合している。このように、複合体の陽イオン性脂質は、複合体を血管新生内皮細胞と会合させる。その後、複合体は血管新生内皮細胞内に取り込まれ、複合体のDNAが発現される。発現された蛋白質は血液凝固カスケードを開始させる。血管内に凝血塊が形成されると、周辺の腫瘍細胞に対するさらなる酸素供給および栄養補給が遮断される。その後、腫瘍細胞は死滅する。切断されたヒト組織因子(tTF)のようなヒト組織因子上の変化もまた、凝血を開始させるために用いることができる。tTFをコードする遺伝子材料および他の要因は既知である(上記引用のヒュアンらの引用および本明細書に引用した刊行物を参照のこと)。
【0123】
アテローム斑を縮小させる方法
本発明はさらに、陽イオン性脂質および血管新生を低下させる物質を含む組成物を哺乳動物に投与する段階、ならびに組成物が血管新生内皮細胞に入るような期間および様式で組成物を血管新生血管の血管新生内皮細胞と会合させる段階による、哺乳動物におけるアテローム斑を縮小させる方法であって、物質が血管新生を低下するように作用し、血管新生の低下がアテローム斑形成の低下をもたらすような方法を提供する。血管新生を阻害する物質については、本明細書の他の箇所で詳細に考察している。
【0124】
「アテローム性動脈硬化」という用語は、当技術分野で十分に理解されているものであり、内膜内部に平滑筋細胞および脂質の進行性蓄積が生じる、大型および中程度のサイズの動脈の疾患を意味する。病変(プラーク)は連続的に成長して動脈壁の他の層にも侵入し、内腔を狭窄させる。本明細書で用いる「アテローム斑を縮小させる」という用語は、血管新生阻害物質を含む本発明の陽イオン性リポソームをこのような病変を有する哺乳動物に投与した場合に、抗血管新生物質を含まない陽イオン性リポソームを投与した対照哺乳動物におけるこのようなアテローム斑と比べて、アテローム斑または病変のサイズが少なくとも約10%、より好ましくは少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約50%、さらにより好ましくは少なくとも約75%、さらにより好ましくは少なくとも約90%またはそれ以上縮小することを意味する。いくつかの態様において、アテローム斑は完全に消失する。したがって、個体におけるアテローム斑を縮小させる方法に用いる場合、血管新生を阻害または低下させる物質の「治療的有効量」または「有効量」とは、個体に投与した場合に、物質を投与されていない対照対象において形成されるプラークのサイズと比べて、アテローム斑のサイズを少なくとも約10%、より好ましくは少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約50%、さらにより好ましくは少なくとも約75%、さらにより好ましくは少なくとも約90%またはそれ以上縮小させる量である。
【0125】
アテローム斑が縮小したか否かは、米国特許第5,807,536号に記載されたものを含む任意の既知の方法を用いるX線画像検査;カテーテルを血管内に挿入して、ヨウ素を用いる色素などの造影剤を血管の撮像に用いる血管造影法;および血管内超音波プローブを用いる撮像法によって決定しうる。動物実験では、血管断面をプラークサイズの縮小に関して肉眼的に検査することができる。例えば、モールトン(Moulton)ら(1999)Circulation 99:1726〜1732を参照のこと。
【0126】
いくつかの態様において、本発明の方法は、アテローム性動脈硬化の1つまたは複数の続発症の軽減をもたらす。したがって、本発明は、虚血性心疾患、心筋梗塞、再狭窄、脳卒中および末梢血管障害を非制限的に含む、アテローム性動脈硬化に関連した疾病状態を軽減するための方法を提供する。これらの疾病状態の1つまたは複数が軽減されたか否かは、心電図判定および当技術分野で標準的な他の方法を非制限的に含む、評価のための通常の方法を用いて決定しうる。
【0127】
アテローム斑を縮小させるための本発明の方法は、本発明の方法またはバルーン血管形成術もしくは冠動脈バイパス手術などの別の方法によって除去されたプラークの再発の予防、抑制または確率低下に有用である。したがって、いくつかの態様において、本方法は、患者の循環血管からアテローム斑を除去する段階;ならびに陽イオン性リポソームおよび血管新生を阻害する活性成分を含む組成物の治療的有効量を患者に投与する段階を含む。陽イオン性リポソームおよび血管新生を阻害する活性成分を含む組成物は、患者からプラークを除去する前、除去している間または除去後に投与可能である。
【0128】
本明細書に記載したものを含む既知の任意の血管新生阻害物質と組み合わせた、本明細書で以上に述べた陽イオン性リポソームまたは陽イオン性リポソーム製剤の任意のものを、アテローム斑を縮小させるための方法に用いることができる。血管新生阻害物質-陽イオン性脂質は、薬学的に許容される賦形剤とともに製剤化しうる。薬学的に許容される賦形剤は当技術分野で知られており、例えばレミントン:薬学の理念および実践(Remington:The Science and Practice of Pharmacy)(1995)または最新版(Mack Publishing Co.、Easton、PA)に詳細に記載されている。
【0129】
血管新生の実験モデル
本発明は、齧歯類の血管新生のモデルを用いることによって容易となった。喘息および気管支炎のような慢性炎症疾患は、気道粘膜に組織および血管再形成を誘導する。慢性気道炎症の病因を理解するために、ラットおよびマウスの気管において慢性炎症および組織再形成が起こるモデルを用いた。血管新生は、マイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)感染症の結果として気道粘膜に起こる。このモデルにおいて、マイコプラズマ・プルモニスの菌体は、気管および気管支上皮に持続的な感染症を引き起こす。M.プルモニスに感染したラットの気道粘膜はいくつかの明確な異常を示す:1)上皮および粘膜固有層の肥厚;2)上皮の細胞組成物の変化;3)血管新生;4)血漿漏出に関する炎症メディエータであるサブスタンスPに対する血管新生血管の感受性の増加;5)細静脈と共に毛細管からのサブスタンスPによる血漿漏出;および6)毛細管内皮細胞上のサブスタンスPに対する受容体(NK1受容体)の数の増加。このモデルにおいて、血管新生は慢性炎症によって開始され、血管は炎症メディエータに対してより感受性が高い。
【0130】
レクチンの環流を用いて、血管内の内皮細胞表面を染色した研究によって、M.プルモニス感染症後のラットにおける血管新生の程度が明らかになった。感染したラットの気管粘膜には多くの毛細管様血管が存在し、これらの血管は、炎症メディエータであるサブスタンスPの静脈内注射後に漏出する。
【0131】
マウスでは、M. プルモニスは、接種後6〜9日をピークとする急性の肺感染症を引き起こし、その後気道の持続的感染症を生じる。M. プルモニスによる感染症に対するマウスの反応は、マウスの系統に大きく左右される:例えば、C3H系はC57BL系より死亡率が高く、およびサイトカインである腫瘍壊死因子-αの減少がより大きい。上皮過形成のような、粘膜再形成のいくつかの局面は、M. プルモニスに感染したマウスの気道において記述されている。M. プルモニスの鼻腔内接種によって感染させたC57BL/6マウスでは、気管の血管数は、明らかに新しい毛細管の増殖によって劇的に増加する。この系統では、気管粘膜の血管はもはや平面ではなく、小血管が粘膜平面に対して垂直に増殖する。増加した血管分布領域に多数の明らかな血管芽が認められる。このように、C57BL/6マウスをM. プルモニスに感染させると、内皮の増殖を伴う慢性気道炎症、血管再形成、および血管新生を生じる。対照的に、M. プルモニスの鼻腔内接種によって感染させたC3H/HeNCrマウスでは、気管粘膜における血管内皮細胞の数は増加するが血管数は増加しない。血管分布の増加は、血管の長さまたは数の増加によるものではなく、血管の直径の増加によるものであり、この血管径の増加は、内皮細胞数の倍加によるものである。感染した気管における個々の内皮細胞の大きさは有意に増加していない。M. プルモニスに対する循環中の抗体レベルはマウスの2系統において同程度である。このように、M. プルモニスによるC3H/HeNマウスの感染では、血管再形成および内皮増殖を伴うが、血管数は有意に増加しない慢性気道炎症を生じ、一方C57BL/6マウスでは内皮の増殖および新しい血管を生じる。
【0132】
第二のモデルにおいて、血管新生は、SV40ウイルス腫瘍遺伝子のトランスジェニック発現に起因する腫瘍に起こる。「RIP-Tag」トランスジェニックマウスモデルは、正常組織から腫瘍へのよく特徴付けのなされた進行の際に血管新生内皮細胞の表現型の変化を調べる機会を提供する。「RIP-Tag」トランスジェニックマウスモデルでは、SV-40ウイルス、ラージT抗原(Tag)からの腫瘍遺伝子がラットのインスリンプロモーター(RIP)の領域によって起動される。マウスゲノムの中に挿入すると、この構築物は、膵臓中に散在する約400個の島に局在する、特に膵島β-細胞においてTag発現を誘導する。しかし、これらのマウスにおける膵臓の全ての島はTagを発現するが、膵島は通常約6週齢まで正常に発達する。この後、膵島の約50%が過形成となる。しかし、これらの過形成島の中で、小さい分画(<5%)が約10週までに腫瘍に発展する。この腫瘍発生におけるボトルネックは、島が血管新生の誘導能を獲得する際に克服されると考えられる:従って、腫瘍発生のこの相は「血管新生スイッチ」と呼ばれている。同様の血管新生スイッチはまた、いくつかのヒト腫瘍と同様に、マウス腫瘍発生の他のモデルにおいても存在するように思われる。このように、RIP-Tagモデルは、腫瘍における血管新生の進行を調べるために十分に特徴付けの成された枠組みを提供する。
【実施例】
【0133】
以下の実施例は、陽イオン性リポソームの製造法および該リポソームを使用するための方法について、完全な開示および記述を当業者に提供するために述べるものであって、本発明と見なされる範囲を制限するものと解釈されない。使用した数値(例えば、量、温度等)に関しては正確を期するように努力したが、何らかの実験誤差および逸脱が起こりうる。別途明示していない限り、割合は重量による割合で、分子量は重量平均分子量;温度はセルシウス温度、そして圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。下記のそれぞれの実施例は、実施した多くの実験を表し、その方法および結果について要約していることに留意されたい。必ずしも全ての実験が陽性結果を示したわけではないことを当業者は認識すると思われる。しかし、以下の実施例は得られた結果を正確に伝えていると考えられる。
【0134】
実施例1
正常マウスにおける陽イオン性リポソームの分布
リポソームおよび/またはプラスミドDNAを標識し、標識した複合体の細胞内分布を静脈内注射後の様々な時間に測定した。実験は雌雄の病原体に感染していないマウス(体重20〜25 g)を用いて実施した。
【0135】
陽イオン性の小さい単層小胞リポソームを、陽イオン性脂質DDAB、またはDOTAPおよび中性脂質DOPEまたはコレステロールから調製して、テキサスレッドまたは赤色蛍光カルボシアニン色素DiIまたはCM-DiIで標識し、場合によってはルシフェラーゼまたはβ-ガラクトシダーゼのようなリポーター遺伝子を含むプラスミドDNAと複合体を形成した。内皮細胞は、トマト(Lycopersicon esculentum)の蛍光植物レクチンフルオレセインを用いて標識した。単球/マクロファージは、蛍光ビーズ(デューク、500 nm)を用いて標識した。細胞核はDAPI、YO-PROまたはヘキスト33342色素によって標識した。
【0136】
300μlまでの容量にDNA 10〜60μgを含む蛍光リポソームまたはリポソーム-DNA複合体を、無麻酔のマウスの尾静脈に注射した。実験によっては、500 nm蛍光ビーズを複合体の後に注射した。5分から24時間後、動物をペントバルビタールナトリウムで麻酔して、左心室の中を固定液(1%パラホルムアルデヒドのリン酸緩衝塩類溶液)で環流し、その後蛍光レクチンを環流して血管の内皮表面を標識した。環流後、組織を摘出し、塊としてまたはビブラトーム(Vibratome)もしくは組織チョッパーを用いて切片にして調製した。さらに、標本のいくつかを電子顕微鏡用に処理した。組織をエピ蛍光顕微鏡または共焦点顕微鏡によって調べた。さらに、標本のいくつかを透過型電子顕微鏡によって調べた。
【0137】
結果:注射の5分〜24時間後に調べたマウスにおいて、CM-DiIまたはDiI標識リポソームまたはリポソーム-DNA複合体は、肺に最も豊富に認められた。さらに、それらは肺胞毛細管の内皮細胞に最も多く認められた。肺胞毛細管における蛍光は、両肺の全ての肺葉に均一に分布した。さらに、いくつかのCM-DiIまたはDiI蛍光は、血管内単球/マクロファージに存在した。
【0138】
肺の次に、標識したリポソームまたは複合体が大量に存在したのは肝臓および脾臓であった。これらの臓器では、CM-DiIまたはDiI-蛍光は、蛍光ビーズと共に存在した。肝臓では、CM-DiIまたはDiI-蛍光およびビーズはクッパー細胞に存在した。脾臓では、それらはマクロファージに存在した。
【0139】
卵巣の血管も、CM-DiIもしくはDiI標識リポソームまたは複合体によって強く標識された。詳しく述べると、マウス卵巣の大卵胞および黄体の血管新生血管における内皮細胞は、静脈内注射後にCM-DiIまたはDiI-標識DDAB:コレステロールリポソームまたはリポソーム-DNA複合体を強く取り込むことが認められた。これらの知見は写真によって確認された(図1)。卵巣の他の血管に含まれる標識複合体は比較的少なかった。これらの結果を用いて、血管新生内皮細胞がリポソームおよびリポソーム-DNA複合体を選択的に取り込んだこと、すなわち実験で使用した陽イオン性リポソームは、血管新生を行っていない対応する内皮細胞と比較すると、血管新生を行っている内皮細胞と会合する可能性がはるかに高いと推論した。
【0140】
標識したリポソームまたは複合体は、リンパ節の高内皮細静脈(HEV)および小腸のパイエル板の内皮細胞においても非常に豊富に存在したが、これらのリンパ様臓器の毛細管の内皮細胞にはまばらであった。標識したリポソームまたは複合体は、下垂体前葉、心筋、横隔膜、副腎皮質、および脂肪組織の毛細管内皮細胞にも多量に存在した。
【0141】
標識したリポソームまたは複合体は、膀胱、子宮、およびファロピウス管、の細静脈に接着した単球/マクロファージに大量に存在した。細静脈の中には、標識した単球/マクロファージを多数含むものがあった。さらに、これらの臓器の小動脈、毛細血管、および細静脈の内皮細胞が標識される割合は小さかった。
【0142】
下垂体後葉、腎髄質、小腸絨毛(回腸)、膵臓、および副腎髄質の毛細管内皮細胞に関連して認められた標識リポソームまたは複合体は比較的少なかった。脳、甲状腺、腎皮質、膵島、気管または気管支の内皮細胞には、時折現れる単球/マクロファージを例外として、標識リポソームまたは複合体がほとんど認められなかった。
【0143】
結論:これらの試験において用いられたCM-DiIまたはDiI-標識DDAB:コレステロールリポソームまたはリポソーム-DNA複合体製剤は、主な3つのタイプの細胞を標的とした:内皮細胞、マクロファージおよび単球。リポソームまたは複合体の取り込みは、臓器および血管特異的であった。そのほとんどが肺の毛細管内皮細胞、ならびに肝臓および脾臓のマクロファージによって取り込まれた。卵巣、下垂体前葉、心臓、横隔膜、副腎皮質、および脂肪組織の毛細管内皮細胞もまた標的とされた。卵巣においてリポソームまたは複合体を取り込む血管は血管新生部位であった。さらに、リンパ節のHEVおよび腸のパイエル板が標的とされた。他の臓器の内皮細胞またはマクロファージを標的とすることは少なく、ばらつきが大きかった。脳、甲状腺、腎皮質、気管および気管支の血管は標的とされなかった。
【0144】
さらに実験から、リポソームまたは複合体はほとんどの臓器において血管から漏出しなかったことが示された。それらは血管内皮が不連続である脾臓の血管外細胞に認められたが、他の臓器では滲出は認められなかった。
【0145】
最後に、大卵胞および黄体の血管による陽イオン性リポソームおよびリポソーム-DNA複合体の強い取り込みは、血管新生血管の内皮細胞が選択的な取り込み部位であったことを示している。
【0146】
実施例2
RIP-Tag5マウスにおけるDDAB:コレステロールリポソームまたはリポソーム-DNA複合体の取り込み
実施例1の実験の結果から、卵胞および黄体の血管新生血管が陽イオン性リポソームまたはリポソーム-DNA複合体を強く取り込むことが示された。したがって、腫瘍の血管新生血管の内皮細胞が陽イオン性リポソームまたはリポソーム-DNA複合体を強く取り込むか否かを調べる実験を行った。
【0147】
腫瘍のトランスジェニックRIP-Tag5モデルを用いた。ハナハン(Hanahan)、Nature 315:115〜22、1985;およびハナハン(Hanahan)&フォークマン(Folkman)、Cell 86:353〜64、1996を参照のこと。RIP-Tagと呼ばれるこのモデルにおいて、SV-40ウイルスからの腫瘍遺伝子、ラージT抗原(Tag)は、ラットのインスリンプロモーター(RIP)の領域によって起動される。マウスゲノムに挿入すると、この構築物は、特に膵島のβ細胞におけるT抗原の発現を誘導する。
【0148】
このモデルの一つの重要な属性は、腫瘍発生の様々な段階、したがって血管新生の様々な段階が、それぞれのRIP-Tag5マウスに同時に存在することである。300〜400個の全ての島がT抗原を発現するが、島は最初は正常に発達する。しかし、6週齢では約半数が過形成となり、これらのうち一部が10週までに腫瘍に発展する。腫瘍発生は、血管新生の発現と一致するように思われる。この変換は、「血管新生スイッチ」と呼ばれる(フォークマン(Folkman)ら、Nature 339:58〜61、1989;ハナハン(Hanahan)&フォークマン(Folkman)、Cell 86:353〜64、1996)。同様の血管新生スイッチは、いくつかのヒト腫瘍と共に腫瘍発生に関する他のマウスモデルにも存在するように思われる(ハナハン(Hanahan)&フォークマン(Folkman)、Cell 86:353〜64、1996)。
【0149】
実施例1と同じ方法および材料を使用した。詳しく述べると、CM-DiIまたはDiI標識DDAB:コレステロールリポソームを、腫瘍を有するRIP-Tag5マウス1匹に静脈内注射し、CM-DiIまたはDiI-標識DDAB:コレステロール-DNA複合体を別のRIP-Tag5マウスに静脈内注射した。膵島細胞腫瘍の血管新生血管内におけるリポソームまたは複合体の分布を注射の24時間後に調べ、正常マウスの膵島の血管と比較した。
【0150】
結果:2つの新規知見が得られた:(1)リポソームまたは複合体は内皮から漏出することなく血管新生血管の内皮細胞に取り込まれた、および(2)血管新生血管の内皮細胞では、リポソームまたは複合体のエンドソーム取り込みは、膵島の正常血管の内皮細胞より大きかった(図2は、組織標本の写真である)。
【0151】
結論:この実験から、血管新生腫瘍血管によるDDAB:コレステロールリポソームまたはリポソーム-DNA複合体の選択的取り込みと一貫した結果が得られた。実験を繰り返す前に、(1)リポソーム-DNA複合体の蛍光強度を増加させた、(2)RIP-Tagマウスの腫瘍における陽イオン性リポソームおよびリポソーム-DNA複合体の取り込み部位を特定する方法を改善した;および(3)RIP-Tag5マウスの膵島細胞腫瘍における血管新生血管の構造および機能に対する理解を深めた。
【0152】
実施例3
RIP-Tag2マウスにおけるDOTAP:コレステロールリポソーム-DNA複合体の取り込み
目的:リポソーム-DNA複合体の蛍光強度は、テキサスレッド-DHPEをDiIの代わりに使用することによって増加した。蛍光陽イオン性リポソーム-DNA複合体の取り込み部位を特定するため、RIP-Tag2マウスの膵臓の調製法を改善し;RIP-Tag2マウスの膵島腫瘍細胞における血管新生血管の構造および機能を調べた。これらの改善を行った後、陽イオン性リポソームおよび脂質DNA複合体がどのようにして取り込まれるかを調べるために、実施例2に記述したタイプの実験を行った。
【0153】
方法:テキサスレッド-DHPEで標識した陽イオンDOTAP:コレステロール小単層小胞リポソームを調製した。リポソーム-DNA複合体は、プラスミドDNA 60μgの300μl溶液を用いて、5%グルコース中で総脂質:DNA比が24:1(nmol/μg)となるように調製した。複合体(300μl)を無麻酔のトランスジェニックRIP1-Tag2 C57BL/6マウスおよび無麻酔の正常C57BL/6マウスの尾静脈に注射した。
【0154】
複合体を注射した4時間後、ネンブタール50 mg/kgの腹腔内注射によってマウスを麻酔した。1%パラホルムアルデヒドを下行大動脈を通して環流することによって血管を固定して、緑色蛍光レクチンを環流することによって血管の内表面を染色した(サーストン(Thurston)ら、Am. J. Physiol. 271:H2547〜2562、1996)。組織全体またはビブラトーム切片をベクタシールドの上に載せて、クリプトン・アルゴンレーザーおよび最適化した光電子増倍管を備えたツァイス・アキソフォト(Zeiss Axiophot)蛍光顕微鏡またはツァイスLSM410共焦点顕微鏡を用いて調べた。画像はコダック・エクタクロームフィルム(ASA 400)によって記録するか、またはデジタル共焦点画像ファイルとして記録した。
【0155】
結果:実験により、RIP1-Tag2マウスの膵臓腫瘍における血管新生内皮細胞によるテキサスレッド-標識DOTAP:コレステロール-DNA複合体の強い取り込みが示された。腫瘍血管による取り込みは、正常な膵島の対応する内皮細胞によるこれらの複合体の取り込みをはるかに超えた(図3と図4を比較)。
【0156】
腫瘍は、赤色蛍光リポソーム複合体によってその血管が強く標識されているために、隣接する組織から容易に識別された。腫瘍血管の幾何学構造は多様で、正常な島に典型的なパターンから、正常な島のパターンよりも顕著に大きく、より密度が濃い洞様毛細血管の、密度の高い、蛇行性の融合性のネットワークが示された。後者の場合、血管は黄体の血管に類似していた。腫瘍血管の標識の強さは腫瘍の大きさにほぼ関連していた。最も大きい腫瘍では標識が最も強かった。
【0157】
小から中等度の大きさの腫瘍の血管の中には、太くて短い巣状の動脈瘤様の突起を有するものがあった。これらの部位は、テキサスレッドで標識された点が異常なほど多数存在したために特に顕著で、これはエンドソームであると思われた。これらの部位のテキサスレッド標識は、隣接する血管の標識より大きかった。これらの構造は毛細管芽であると思われた。血管が等しく強く標識されている、密度の濃い、複雑な血管構造を有する大きい腫瘍では、このような構造は認められなかった。
【0158】
腫瘍にテキサスレッド複合体が滲出した証拠はなかった。同様に、テキサスレッド標識複合体は、腫瘍における血管外赤血球集団の内部には認められなかった。腫瘍血管の強い標識は、発達初期段階での卵巣の黄体の標識に類似していた。
【0159】
実施例4
腫瘍および慢性炎症の血管新生血管による陽イオン性リポソーム
およびリポソーム-DNA複合体の取り込み
目的:この知見を血管新生の他のモデルにも広げるために、実施例3に記述したタイプの実験を実施した。これらの実験はまた、陽イオン性リポソームが血管新生血管を標的とするためにはDNAが存在しなければならないのか否かという疑問に答えるために行った。血管新生血管によるDOTAP:コレステロールリポソームまたはリポソーム-DNA複合体の選択的取り込みがあるか否かについて、血管新生に関する4種類の動物モデルを調べた。
【0160】
モデル:RIP1-Tag2腫瘍モデル。トランスジェニックC57BL/6マウスを作製して出生時にPCR解析によって表現型を決定した。マウスモデルについては先に記述した。
【0161】
HPV腫瘍モデル トランスジェニックHPV(ヒト乳頭腫ウイルス)マウスを作製して、出生時にPCR解析によって表現型を決定した。トランスジェニックしていない同腹子を対照とした。このモデルにおいて、ヒト乳頭腫ウイルスからの腫瘍遺伝子は、ケラチン14プロモーター領域によって起動される。マウスゲノムに挿入すると、この構築物は特に上皮細胞にHPV発現を誘導する。トランスジェニックマウスは全て、胸部上部および耳の皮膚に血管新生を伴う形成不全を示し、一部が腫瘍を発症した。
【0162】
マウスのマイコプラズマ・プルモニス感染症モデル この感染症の結果、気道粘膜に血管新生を伴う慢性気道炎症が起こる。麻酔後(87 mg/kgケタミンおよび13 mg/kgキシラジンを腹腔内注射)、病原体に感染していない8週齢の雌雄C3H/HeNまたはC57BL/6マウス(いずれもCharles Riverから)に、マイコプラズマ・プルモニス(株5782C-UAB CT7)の3×104コロニー形成単位を50μlの容量で鼻腔内に接種した。病原体に感染していないマウスを対照として、滅菌したブロスを接種した。感染および対照マウスをバリア条件下で個別にケージに収容した。実験終了時に、M.プルモニスに対する抗体の血清レベルを測定した。感染の1〜8週後にマウスを調べた。
【0163】
ラットのマイコプラズマ・プルモニス感染症モデル マウスの場合と同様に、この感染症は、気道粘膜における血管新生が一つの特徴である慢性気道疾患を生じる。麻酔(40 mg/kgケタミンおよび8mg/kgキシラジンを腹腔内注射する)後、病原体に感染していない8週齢の雄性ウィスター系ラット(チャールス・リバー社より)に5782C4株のマイコプラズマ・プルモニスの容量200μlを3日間連続して毎日鼻腔内接種した。ブロスを接種した病原体に感染していないラットを対照とした。感染および対照ラットをバリア条件下で個別にケージに収容した。実験終了時に、M. プルモニスおよび他の病原体に対する抗体の血清レベルを測定した(Microbaiological Associates、ベセスダ、メリーランド州)。
【0164】
方法:テキサスレッド-DHPEで標識した陽イオンDOTAP:コレステロールリポソームを実施例3に記述のように調製した。リポソームを5%グルコースの容量100μl中に総脂質360 nmolの用量でマウスの尾静脈に注射した。ラットを大腿静脈から感染させた。リポソーム-DNA複合体は、プラスミドDNA 60μgを容量200〜300μlで用いて、5%グルコース中で総脂質:DNA比が24:1となるように調製した。リポソームまたは複合体(200〜300μl)を無麻酔のRIP-Tag2、HPV、またはM. プルモニス感染マウスの尾静脈に注射した。非トランスジェニック、病原体に感染していない動物を対照として用いた。
【0165】
注射の20分または4時間後、ネンブタール50 mg/kgの腹腔内注射によってマウスまたはラットを麻酔した。下行大動脈を通じて1%パラホルムアルデヒドを環流することによって血管を固定し、血管内表面を緑色蛍光レクチンの環流によって染色した(サーストン(Thurston)ら、Am. J. Physiol. 271:H2547〜2562、1996)。組織全体またはビブラトーム切片をベクタシールドの上に載せて、ツァイス蛍光顕微鏡または共焦点顕微鏡によって血管を調べた。
【0166】
蛍光リポソームまたは複合体の取り込み量を共焦点顕微鏡によって定量した。簡単に説明すると、焦点軸に2.5μm離して置いた一連の共焦点画像12個を、20×NA 0.6レンズ(ツァイス社)を用いて、共焦点ピンホールサイズ、光電子増倍管ゲイン、およびレーザー出力を標準の設定にして、フルオレセインおよびテキサスレッドチャンネル中で気管の上部領域について収集した。血管(トマトのフルオレセイン)およびリポソーム(テキサスレッド)をそれぞれ示す一連の画像から投射を得た。共焦点ソフトウェアを用いて、面積およそ200μm2の領域の輪郭を血管画像上に明確に示し、リポソーム画像の対応する領域の平均蛍光を測定した。バックグラウンドの強度は、血管に隣接する選択した領域の蛍光を測定することによって決定した。測定は気管あたり血管25個について、1群あたり気管4個について行った(n=4)。有意差はスチューデントのt検定によって評価した。
【0167】
透過型電子顕微鏡のために調製した組織は先に記述したように処理した(マクドナルド(McDonald)、Am. J. Physiol. 266:L61〜L83、1994)。簡単に説明すると、一次固定液(1%蔗糖、4%PVP、0.05%CaCl2、および0.075%H2O2を加えた3%グルタルアルデヒドの75 mMカコジル酸緩衝液、pH 7.1)を室温で5分環流し、その後二次固定液(0.05%CaCl2、1%蔗糖、および4%PVPを含む、3%グルタルアルデヒドの75 mMカコジル酸緩衝液、pH 7.1)で5分環流した。組織を室温で1時間インサイチューで固定し、その後固定液を除去して二次固定液で4ECで一晩固定した。剃刀の刃で組織の形を整え、組織チョッパーで切片にして、オスミウム(2%OsO4の100 mMカコジル酸緩衝液、pH 7.4、4ECで18時間)で後固定し、H2Oで洗浄(4ECで18時間)して、酢酸ウラニル(水溶液、37ECで48時間)で一括して染色した。次に組織をアセトンによって脱水して、エポキシ樹脂に浸潤させて抱埋した。ウルトラミクロトームで超薄片を切断し、単スロットの標本グリッド上に載せて、ツァイスEM-10電子顕微鏡で調べた。
【0168】
結果:実験によって、テキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソームは、テキサスレッド標識DOTAP:コレステロール-DNA複合体およびDiI-標識DDAB:コレステロール-DNA複合体に関するこれまでの知見と同様に、DNAの非存在下で、RIP1-Tag2マウスの腫瘍の血管新生内皮細胞を選択的に標的とすることが明らかになった。トランスジェニックRIP1-Tag2マウスに関するこの実験およびその後の実験から、過形成の島および腫瘍の血管新生血管による陽イオン性リポソームの取り込みは、対応する正常な血管の取り込みをはるかに超えることが確認された(図5、図6、図7および図8)。過形成の島および小さい腫瘍の血管では、リポソームは巣状領域での場合に限って内皮細胞に取り込まれた(図8)が、より大きい腫瘍では取り込みは比較的全体に広がっていた(図6)。取り込みの局所領域は、新しい血管増殖部位の可能性があると考えられた(図8)。
【0169】
陽イオン性リポソームまたはリポソーム-DNA複合体のこの特性は、血管新生内皮細胞に物質を選択的に送達するために実際に利用できる可能性があるため、腫瘍の血管新生内皮細胞のこの特性が、病的な血管新生の他の部位での内皮細胞と同じであるか否かを調べることが望ましいように思われた。この疑問は、テキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソームの血管新生内皮細胞による取り込みを、その一つの特徴が血管新生である慢性気道炎症を引き起こすマイコプラズマ・プルモニス感染症のマウスの気管において調べる実験において対処した(図9と図10を比較)。慢性炎症領域における血管新生内皮細胞は、陽イオン性リポソームの異常に高い取り込み部位であることが判明した(図10)。詳しく述べると、M. プルモニスに感染したマウス気管の血管は、異常なほど大量の取り込みを示した。血管新生血管の共焦点顕微鏡測定から、感染マウスは対照マウスより取り込み量が20〜30倍多いことが示された(図11)。血管新生血管によっては100倍もの取り込みを示した。M. プルモニスに感染したマウスの血管新生内皮細胞に関する共焦点および電子顕微鏡試験によって、陽イオン性リポソームは最初、エンドソームと会合して(図12)、次にその中に取り込まれる(internalize)ことが示唆された(図13)。
【0170】
同様に、陽イオン性リポソームは、マウスの卵胞および黄体、トランスジェニックHPVマウスの形成不全皮膚、およびM. プルモニス感染症による血管新生を有するラットの気管の血管新生血管によって強く取り込まれた。
【0171】
結論:これらの実験から、陽イオン性リポソームおよびリポソーム-DNA複合体は、腫瘍の血管新生内皮細胞および慢性炎症部位を選択的に標的とすることが確認された。
【0172】
実施例5
慢性炎症における、パクリタキセルを含む陽イオン性リポソームの血管新生血管による取り込み
実施例4に述べた通りに、C3H/HeNマウスをマイコプラズマ・プルモニスに感染させた。病原体に感染していないマウスを対照として用いた。感染マウスおよび対照マウスは遮断環境下にある別々のケージに入れた。感染から7日後に、DOTAP:卵PC:ローダミンDHPE:パクリタキセル(モル比50:47:1:2)から構成される小径単層リポソーム製剤を容量150μlとしてマウスに静脈内注射した(総脂質の10mM溶液(パクリタキセルを含む)150μlの尾静脈注射;マウス1匹当たりのパクリタキセルの総投与量は26μg)。リポソーム注射から20分後に、全身の内皮細胞を染色するためにマウスにフルオレセイン標識トマトレクチンを静脈内注射した。その直後に、実施例4に記載した通りにマウスに血管を通して固定液を潅流した。この方式により、陽イオン性リポソームは赤色蛍光によって同定でき、血管は緑色蛍光によって同定できると考えられる。実施例4の記載の通りに、蛍光パクリタキセルを含むリポソームの取り込み量を組織切片の共焦点顕微鏡検査によって定量化した。
【0173】
結果:病原体に感染していないマウスにおける組織の検査により、パクリタキセルを含む陽イオン性リポソームが感染マウスの気管内にある気道血管の内皮細胞によって盛んに取り込まれたことが示された。図14に示されているように、非感染マウスの気管の血管において観察された取り込みはわずかであった。これらの観察所見により、パクリタキセルを含む陽イオン性リポソームが、パクリタキセルを含まない陽イオン性リポソームと同一の標的化特性を有することが確認された。
【0174】
本発明を、その好ましい態様を参照しながら説明してきたが、当業者には、本発明の真の精神および範囲を逸脱することなく、さまざまな変更を加えうることおよび同等物を代用しうることが理解されるものと考えられる
【0175】
。さらに、特定の状況、材料、物質組成、工程、工程の1つまたは複数の段階を本発明の目的、精神および範囲に適合させるために多くの変更を加えることも可能である。このような変更はすべて本明細書に添付される請求の範囲にあるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼす方法であって、
陽イオン性脂質と血管新生に作用を及ぼす物質とを含む組成物を哺乳動物に投与する段階、および
組成物が血管新生内皮細胞に入るような期間および様式で組成物を血管新生血管の血管新生内皮細胞と会合させる段階
を含む方法。
【請求項2】
組成物が循環系への注射によって投与され、さらに組成物の血中での血管新生内皮細胞に対する親和性が対応する正常内皮細胞と比べて2倍またはそれ以上である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
親和性を個々の血管新生内皮細胞と非血管新生内皮細胞に基づいて測定する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
親和性をエクスビボで測定する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
注射する組成物の血中での血管新生内皮細胞に対する親和性が対応する正常内皮細胞と比べて10倍またはそれ以上であり、さらに組成物が5モル%またはそれ以上の比率で陽イオン性脂質を含み、組成物が動脈内に注射される、請求項2記載の方法。
【請求項6】
物質が血管新生を阻害し、且つタキサンである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
陽イオン性脂質およびタキサンを含む組成物をリポソームと会合させる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
タキサンが、パクリタキセル、ドセタキセル、パクリタキセルの10-デスアセチル類似体、パクリタキセルの3'N-デスベンゾイル-3'N-t-ブトキシカルボニル類似体、タキサンのガラクトース誘導体またはマンノース誘導体、タキサンのピペラジノ誘導体、タキサンの6-チオ誘導体またはスルフェンアミド誘導体、および疎水性部分と結合したタキサンからなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項9】
タキサンがパクリタキセルである、請求項6記載の方法。
【請求項10】
陽イオン性脂質;および
リポソームの脂質二重層内にあるタキサン
を含む陽イオン性リポソームであって、
リポソームがタキサン結晶を実質的に含まず、タキサンが脂質二重層から実質的に区分されない、陽イオン性リポソーム。
【請求項11】
検出可能な標識をさらに含む、請求項10記載の陽イオン性リポソーム。
【請求項12】
リポソームの水性区画中に水溶性タキサンをさらに含む、請求項10記載の陽イオン性リポソーム。
【請求項13】
タキサンが薬学的に許容される誘導体である、請求項10記載の陽イオン性リポソーム。
【請求項14】
タキサンがパクリタキセルである、請求項10記載の陽イオン性リポソーム。
【請求項15】
タキサンがドセタキセルである、請求項10記載の陽イオン性リポソーム。
【請求項16】
リポソームが約20モル%未満の比率でタキサンまたはタキサン誘導体を含み、且つ約20モル%を上回る比率で陽イオン性脂質を含む、請求項10記載の陽イオン性リポソーム。
【請求項17】
リポソームが約2モル%〜約10モル%の比率でタキサンを含み、且つ約40モル%〜約98モル%の比率で陽イオン性脂質を含む、請求項16記載の陽イオン性リポソーム。
【請求項18】
陽イオン性リポソームが中性脂質をさらに含む、請求項10記載の陽イオン性リポソーム。
【請求項19】
リポソームが約2モル%〜約10モル%の比率でタキサンを含み、約40モル%〜約98モル%の比率で陽イオン性脂質を含み、且つ約2モル%〜約50モル%の比率で中性脂質を含む、請求項18記載の陽イオン性リポソーム。
【請求項20】
中性脂質が、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)およびPCとPEとの混合物からなる群より選択される、請求項19記載の陽イオン性リポソーム。
【請求項21】
リポソームが、DOTAP、卵ホスファチジルコリン、およびパクリタキセルを50:48:2のモル比で含む、請求項20記載の陽イオン性リポソーム。
【請求項22】
リポソームが、DOTAP、DOPC、およびパクリタキセルを50:47:3のモル比で含む、請求項20記載の陽イオン性リポソーム。
【請求項23】
リポソームが、DOTAP、DOPE、およびパクリタキセルを50:47:3のモル比で含む、請求項20記載の陽イオン性リポソーム。
【請求項24】
リポソームが、DOTAP、MOPC、およびパクリタキセルを50:47:3のモル比で含む、請求項20記載の陽イオン性リポソーム。
【請求項25】
陽イオン性脂質;および
リポソームの水性区画内にあるタキサン
を含む陽イオン性リポソームであって、
リポソームがタキサン結晶を実質的に含まない、陽イオン性リポソーム。
【請求項26】
アテローム斑を縮小させるための方法であって、
陽イオン性脂質と血管新生を低下させる物質とを含む組成物を哺乳動物に投与する段階、および
組成物が血管新生内皮細胞に入るような期間および様式で組成物を血管新生血管の血管新生内皮細胞と会合させる段階
を含み、血管新生の低下がアテローム斑形成の低下をもたらす方法。
【請求項27】
組成物が循環系への注射によって投与され、さらに組成物の血中での血管新生内皮細胞に対する親和性が対応する正常内皮細胞と比べて2倍またはそれ以上である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
注射する組成物の血中での血管新生内皮細胞に対する親和性が対応する正常内皮細胞と比べて10倍またはそれ以上であり、さらに組成物が5モル%またはそれ以上の比率で陽イオン性脂質を含み、組成物が動脈内に注射される、請求項26記載の方法。
【請求項29】
陽イオン性脂質と血管新生を低下させる物質とを含む組成物をリポソームと会合させる、請求項26記載の方法。
【請求項30】
血管新生を低下させる物質がタキサンである、請求項26記載の方法。
【請求項31】
患者におけるアテローム斑の形成を低下させる方法であって、
患者の循環血管からアテローム斑を除去する段階;ならびに
陽イオン性リポソームおよび血管新生を阻害する活性成分を含む組成物の治療的有効量を患者に投与する段階
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−280667(P2010−280667A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156449(P2010−156449)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【分割の表示】特願2001−521299(P2001−521299)の分割
【原出願日】平成12年9月8日(2000.9.8)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】