血管硬さ評価システム及び血管硬さ評価方法
【課題】血管の硬さを適切に評価可能な血管硬さ評価システム及び血管硬さ評価方法を提供する。
【解決手段】温度調整器10によって一定温度に調整された待機室からこれよりも高い一定温度に調整された血圧測定室に移動すると同時に、血圧計2を用いて被測定者の血圧を繰り返し測定する。算出部8は、血圧計2によって測定された血圧データから、測定時点ごとの直前の測定時点との間で差分Psiを算出し、測定開始時の血圧P0に対する差分Psiの絶対値の加算値Aの比率Rを算出する。また、算出部8は、差分Psiを直前の測定時点での差分Psi-1と比較して、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1と、Psi-1<0からPsi≧に変化した回数N2と、を算出し、回数N1及びN2のうち大きい方を振動回数Nとして算出する。
【解決手段】温度調整器10によって一定温度に調整された待機室からこれよりも高い一定温度に調整された血圧測定室に移動すると同時に、血圧計2を用いて被測定者の血圧を繰り返し測定する。算出部8は、血圧計2によって測定された血圧データから、測定時点ごとの直前の測定時点との間で差分Psiを算出し、測定開始時の血圧P0に対する差分Psiの絶対値の加算値Aの比率Rを算出する。また、算出部8は、差分Psiを直前の測定時点での差分Psi-1と比較して、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1と、Psi-1<0からPsi≧に変化した回数N2と、を算出し、回数N1及びN2のうち大きい方を振動回数Nとして算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管の硬さを評価する血管硬さ評価システム及び血管硬さ評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液循環の管理は、健康を管理する上で重要である。血液循環における危険因子として血圧が測定されており、血圧測定においてオシロメトリック法を用いた血圧計が使用されている。
【0003】
オシロメトリック法では、空気袋を内包する腕帯(カフ)を測定対象となる生体の測定部位に巻き付け、カフを加圧して血流を一旦止めた後減圧し、カフの内圧変化に基づいて血圧を測定している。カフの減圧過程において、血流が再開すると血管の脈動に伴って血管容積が変化(伸縮)するため、血管容積の変化を測定カフの内圧変化として測定することができ、予め定められた測定間隔でカフの内圧変化を測定することにより、各測定時点での血圧が算出される。
【0004】
また、他の危険因子として血管の硬さが評価されている。例えば、特許文献1には、心臓から駆出された脈波の伝播する速度(以下、PWV:pulse wave velocity)を調べることによって動脈硬化度を判定する装置が開示されている。動脈硬化が進むほど脈波伝播速度が大きくなることを利用して、PWVを、動脈硬化度を判定するための指標として用いている。
【0005】
かかるPWVは、上腕および下肢等の少なくとも2箇所以上にカフ等を装着して同時に脈波を測定することにより、それぞれの脈波の出現時間差と、カフ等を装着した2点間の動脈の長さと、を用いて算出される。PWVは測定部位によって値が異なり、例えば、測定部位が上腕と足首とである上腕−下腿動脈間脈波伝達速度(baPWV)、頚動脈と大腿動脈とである頸動脈−大腿動脈間脈波伝達速度(cfPWV)が挙げられる。
【0006】
しかし、このように2箇所以上にカフを装着してPWVを測定することは、煩雑である。そこで、血管の硬さを、血圧測定データから評価することが提案されている。
【0007】
例えば、特許文献2には、血圧測定データの振幅の包絡線を含むパターン部分を多角形の概形パターンに整合させることにより、血管の硬さ等の循環動態指標を導き出すことが開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、カフにより検知された脈波の振幅に基づいて動脈壁の硬さの評価を行うことが開示されている。
【0009】
また、特許文献4には、測定部位の中枢側と末端側とを圧迫し、中枢側の内圧変化から駆出波と反射波との間の時間差を算出し、動脈硬化度の判定を行うための指標とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−316821号公報
【特許文献2】特開2005−323853号公報
【特許文献3】特開2008−228934号公報
【特許文献4】特開2009−119067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献2では、血圧測定データを多角形のパターンと比較しており、また特許文献3でも、血管の内外圧差と血管径との関係を圧径特性曲線として表しており、さらに特許文献4でも、駆出波と反射波との時間差を算出しており、いずれも測定時点ごとの血圧の変動から血管硬さを評価するものではない。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑み、血管の硬さを適切に評価可能な血管硬さ評価システム及び血管硬さ評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、血管の環境温度を所定温度に変化させる温度調整手段と、前記血管を加圧した後減圧して経時的に血圧を測定する血圧測定手段と、該血圧測定手段で測定された前記血圧における測定時点ごとの直前の測定時点からの変動量に基づいて血管硬さの指標を算出する算出手段と、を備えた血管硬さ評価システムである。
【0014】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価システムにおいて、前記血圧測定手段が、前記血管の加圧及び減圧を所定間隔で繰り返して経時的に前記血圧を測定することを特徴としている。
【0015】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価システムにおいて、前記温度調整手段は、前記環境温度を前記所定温度に上昇させることを特徴としている。
【0016】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価システムにおいて、前記算出手段が、前記測定時点ごとに順次、直前の測定時点との間で前記血圧の差分を算出し、算出された前記差分の絶対値の和に基づいて前記指標を算出すること特徴としている。
【0017】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価システムにおいて、前記算出手段が、前記測定時点において、前記差分が直前の測定時点と比較して0以上から0未満に変化した第1の回数と、0未満から0以上に変化した第2の回数と、に基づいて前記指標を算出することを特徴としている。
【0018】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価システムにおいて、前記温度調整手段が、前記所定温度を一定温度に維持し、前記一定温度に維持された前記環境温度下で前記血圧が前記血圧測定手段により測定されることを特徴としている。
【0019】
また本発明は、所定温度に変化させた血管の環境温度で、前記血管を加圧した後減圧して経時的に血圧を測定し、測定された前記血圧における測定時点ごとの直前の測定時点からの変動量に基づいて血管硬さの指標を算出する血管硬さ評価方法である。
【0020】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価方法において、前記血管の加圧及び減圧を所定間隔で繰り返して経時的に前記血圧を測定することを特徴としている。
【0021】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価方法において、前記環境温度を前記所定温度に上昇させることを特徴としている。
【0022】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価方法において、前記測定時点ごとに順次、直前の測定時点との間で前記血圧の差分を算出し、算出された前記差分の絶対値の和に基づいて前記指標を算出することを特徴としている。
【0023】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価方法において、前記測定時点において、前記差分が直前の測定時点と比較して0以上から0未満に変化した第1の回数と、0未満から0以上に変化した第2の回数と、に基づいて前記指標を算出することを特徴としている。
【0024】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価方法において、前記所定温度を一定温度に維持し、前記一定温度に維持された前記環境温度下で前記血圧を測定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
本発明の第1の構成によれば、血管の環境温度を所定温度に上昇させる温度調整手段と、血管を加圧した後減圧して経時的に血圧を測定する血圧測定手段と、該血圧測定手段で測定された血圧における測定時点ごとの直前の測定時点からの変動量に基づいて血管硬さの指標を算出する算出手段と、を備える血管硬さ評価システムとすることによって、環境温度の変化開始と共に血圧の測定を開始することができる。これにより、血圧測定開始からの血管の内径が変化する過渡状態を捉えて血管硬さの指標を算出できるため、血管硬さを適切に評価することが可能となる。
【0026】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成の血管硬さ評価システムにおいて、血圧測定手段が、血管の加圧及び減圧を所定間隔で繰り返して経時的に血圧を測定することによって、血管硬さをより適切に評価することができる。
【0027】
また、本発明の第3の構成によれば、上記第1または2の構成の血管硬さ評価システムにおいて、温度調整手段が、環境温度を所定温度に上昇させることによって、血管が拡がる過渡状態を捉えて血管硬さの指標を算出できるため、血管硬さをより適切に評価することが可能となる。
【0028】
また、本発明の第4の構成によれば、上記第1〜第3のいずれかの構成の血管硬さ評価システムにおいて、算出手段が、測定時点ごとに順次、直前の測定時点との間で血圧の差分を算出し、算出された差分の絶対値の和に基づいて指標を算出することによって、血管の振動の大きさを数値として把握できるため、血管硬さをより詳細に評価することができる。
【0029】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第4の構成の血管硬さシステムにおいて、算出手段が、測定時点において、差分が直前の測定時点と比較して0以上から0未満に変化した第1の回数と、0未満から0以上に変化した第2の回数と、に基づいて指標を算出することによって、血管の振動の頻度を数値として把握できるため、血管の硬さをより詳細に評価することができる。
【0030】
また、本発明の第6の構成によれば、上記第1〜第5のいずれかの構成の血管硬さ評価システムにおいて、温度調整手段が、所定温度を一定温度に維持し、一定温度に維持された環境温度下で血圧測定手段により血圧を測定することによって、血管硬さ評価に対する環境温度のバラツキの影響を回避することができる。
【0031】
また、本発明の第7の構成によれば、所定温度に変化させた血管の環境温度で、血管を加圧した後減圧して経時的に血圧を測定し、測定された血圧における測定時点ごとの直前の測定時点からの血圧の変動量に基づいて血管硬さの指標を算出する血管硬さ評価方法とすることによって、環境温度の変化開始と共に血圧の測定を開始することができる。これにより、血圧測定開始から血管の内径が変化する過渡状態を捉えて血管硬さの指標を算出できるため、血管硬さをより適切に評価することが可能となる。
【0032】
また、本発明の第8の構成によれば、上記第7の構成の血管硬さ評価方法において、血管の加圧及び減圧を所定間隔で繰り返して経時的に血圧を測定することによって、血管硬さをより適切に評価することができる。
【0033】
また、本発明の第9の構成によれば、上記第7または第8の構成の血管硬さ評価方法において、環境温度を所定温度に上昇させることによって、環境温度の上昇開始と共に血圧の測定を開始することができる。これにより、血圧測定開始から血管が拡がる過渡状態を捉えて血管硬さの指標を算出できるため、血管硬さをより適切に評価することが可能となる。
【0034】
また、本発明の第10の構成によれば、上記第7〜第9のいずれかの構成の血管硬さ評価方法において、測定時点ごとに順次、直前の測定時点の血圧との差分を算出し、算出された差分の絶対値の和に基づいて指標を算出することによって、血管の振動の大きさを数値として把握できるため、より詳細に血管硬さを評価することができる。
【0035】
また、本発明の第11の構成によれば、上記第10の構成の血管硬さ評価方法において、測定時点において、差分が直前の測定時点と比較して0以上から0未満に変化した第1の回数と、0未満から0以上に変化した第2の回数と、に基づいて指標を算出することによって、血管の振動の頻度を数値として把握できるため、血管硬さをより詳細に評価することができる。
【0036】
また、本発明の第12の構成によれば、上記第7〜第11のいずれかの構成の血管硬さ評価方法において、所定温度を一定温度に維持し、一定温度に維持された前記環境温度下で前記血圧を測定することによって、血管硬さ評価に対する環境温度のバラツキの影響を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態に係る血管硬さ評価システムの構成を示す概略図
【図2】時間と血圧との関係を模式的に示す図
【図3】時間と血圧との関係を模式的に示す図
【図4】時間と血圧との関係を模式的に示す図
【図5】温度調整器の熱源の温度変化例を模式的に示す図であって、図5(a)は、ステップ変化を示す図であり、図5(b)は、エキスポネンシャル変化を示す図であり、図5(c)は、矩形変化を示す図
【図6】サンプルNo.1における時間と最大血圧との関係を示すグラフ
【図7】サンプルNo.1における時間と最小血圧との関係を示すグラフ
【図8】サンプルNo.2における時間と最大血圧との関係を示すグラフ
【図9】サンプルNo.2における時間と最小血圧との関係を示すグラフ
【図10】サンプルNo.3における時間と最大血圧との関係を示すグラフ
【図11】サンプルNo.3における時間と最小血圧との関係を示すグラフ
【図12】サンプルNo.1〜No.3について最大血圧の振動回数Nと比率Rとの関係を示すグラフ
【図13】サンプルNo.1〜No.3について最小血圧の振動回数Nと比率Rとの関係を示すグラフ
【図14】サンプルNo.4における時間と最大血圧との関係を示すグラフ
【図15】サンプルNo.4における時間と最小血圧との関係を示すグラフ
【図16】サンプルNo.3及びNo.4について最大血圧の振動回数Nと比率Rとの関係を示すグラフ
【図17】サンプルNo.3及びNo.4について最小血圧の振動回数Nと比率Rとの関係を示すグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る血管硬さ評価システムの構成を示す概略図である。
【0039】
図1に示すように、血管硬さ評価システム1は、血圧計(血圧測定手段)2、記憶部7、算出部(算出手段)8、表示部9、温度調整器(温度調整手段)10を備えており、後述する血管硬さの指標を算出することができる。ここで、血管硬さの指標とは、血管の硬さの程度、換言すれば血管の柔らかさの程度、を評価するために用いられることが可能な数値をいう。また、血管の環境温度は、温度調整器10によって調整される。ここで、血管の環境温度とは、血圧測定部位の周囲の温度、血管を取り囲む体内の温度等、血管の内径に影響を与え得る温度をいい、以下、単に環境温度という場合がある。
【0040】
血圧計2は、カフ3、ポンプ4、圧力センサ5及び制御部6を有しており、オシロメトリック法により被測定者の血圧を測定する。
【0041】
カフ3は、被測定者の例えば上腕等の測定部位に巻き付けられる。ポンプ4は、カフ3に空気を送り込むことにより予め設定された目標圧力までこれを加圧し、空気を抜くことにより予め設定された速度でこれを減圧する。圧力センサ5は、予め設定された測定間隔で及び測定時間(測定開始から測定終了までの時間)でカフ3の内圧を測定する。各測定時点で測定された内圧データは、制御部6に送信される。
【0042】
制御部6は、RAM、ROM及びCPU等を有しており、ポンプ4によりカフ3を目標圧力まで加圧させた後、予め設定された減圧速度で減圧させ、これを繰り返して圧力センサ5により予め設定された測定間隔及び測定時間でカフ3の内圧を測定させ、圧力センサ5から内圧データを受信すると、各測定時点での最大血圧及び最小血圧を算出する。
【0043】
かかる制御部6には、ポンプ4によるカフ3の目標圧力や減圧速度、圧力センサ5による測定間隔及び測定時間に関するパラメータ等が記憶されている。また、制御部6は、算出結果を、最大血圧及び最小血圧の時間的変化(血圧測定データ)として、算出部8及び表示部9に送信する。
【0044】
なお、カフ3による測定部位は特に限定されるものではなく、血管(動脈)を圧迫して血圧測定が可能であれば、被測定者の四肢等、身体において測定したい部位に巻き付けることができる。また、被測定者の身体において1箇所に巻き付ければよいが、複数個所に巻き付けることもでき、これにより、複数の測定部位での血管硬さの評価が可能となる。
【0045】
また、カフ3の加圧時の目標圧力や減圧時の速度は、後述する血管硬さの指標を算出可能であれば特に限定されず、被測定者の個体差等を考慮して予備実験等により適宜設定することができる。また、圧力センサ5による測定間隔及び測定時間は、後述する血管硬さの指標を算出可能であれば、特に限定されるものではなく、被測定者の個体差等を考慮して予備実験等により適宜設定することができる。また、制御部6は、最大血圧及び最小血圧の時間的変化の他、平均血圧や脈拍等も算出することができる。
【0046】
記憶部7は、例えばROM及びRAMであり、温度調整器10の設定温度や温度変化(ここでは上昇)パラメータ、各測定時点での血圧測定データの直前の測定時点との差分から血管硬さの指標を算出するためのパラメータ等が記憶されている。また、血圧計2により測定された血圧測定データや算出された指標を記憶することもできる。
【0047】
算出部8は、例えばCPUであり、記憶部7に記憶されたパラメータを読み込むことにより、血圧計2によって測定された血圧測定データを解析して、血管硬さの指標を算出する機能を有している。すなわち、血圧測定データの各測定時点での血圧と直前の測定時点での血圧との差分(変動量)を算出する機能、算出された差分の絶対値の和(加算値)を算出する機能、かかる加算値の、測定開始時の血圧に対する比率(指標)を算出する機能を有している。
【0048】
また、算出部8は、上記差分が直前の測定時点と比較して0以上から0未満に変化した回数(第1の回数)、及び0未満から0以上に変化した回数(第2の回数)を算出(計数)する機能、算出されたこれらの回数のうち大きい方を振動回数(指標)として算出する機能、算出された差分や指標を記憶部7に記憶させる機能、上記血圧測定データ、比率及び振動回数を表示部9に表示させる機能を有している。
【0049】
なお、これら記憶部7及び算出部8は、血圧計2とは別途、コンピュータ等に設けることもできるが、その他、血圧計2内の制御部6と一体にすることもできる。かかる場合、例えば制御部6に上記した血圧測定用のパラメータと共に血管硬さの指標を算出するためのパラメータを記憶し、制御部6により、圧力センサ5から得られた内圧データに基づいて血圧測定データを算出すると共に血管硬さの指標を算出することができる。
【0050】
表示部9は、血圧計2による血圧測定及び算出部8による解析を開始するためのスタートボタンを有している。また、表示部9には、血圧計2で測定された血圧測定データや、算出部8で算出された上記比率や振動回数等の血管硬さの指標が表示される。
【0051】
温度調整器10は、例えば血圧測定室の室内の温度と、これとドアを隔てて隣接する待機室の温度と、をそれぞれ一定温度に調整すると共に該一定温度に維持することができ、しかも、血圧測定室の温度を待機室の温度よりも例えば高く設定することができる。これにより、環境温度の低い待機室から環境温度の高い血圧測定室へと被測定者が移動すると、移動した瞬間から血管が拡がり始める。なお、温度調整の詳細については後述する。
【0052】
次に、血管硬さの指標の算出について説明する。図2、図3及び図4は、時間と血圧との関係を模式的に示す図である。上記の通り、被測定者が待機室から血圧測定室に移動したと同時に血圧計2を用い、被測定者の血圧を繰り返し測定すると、測定開始から例えば図2に示すように時間tの経過と共に血圧Pが上下に振幅(増減)しながら減衰する。カフ3の減圧後、血管を血液が流れる際、血管容積(断面積)が拡大及び収縮を繰り返しながら定常状態に近づくため、最大血圧及び最小血圧は共に、時間推移と共に(経時的に)振動しながら減衰し、定常状態に近づく。
【0053】
すなわち、図2に示すように、時間tに対する血圧Pの変動(血圧測定データの時間的変化)が、概ね減衰振動形を示す。また、血管容積は、血管が硬いほど拡大及び収縮し難く、血管が柔らかいほど拡大及び収縮し易い。従って、例えばかかる減衰振動の振幅の大きさ及び振動の頻度は、血管の振動の大きさ及び頻度を示すことができ、血管が柔らかいほど、減衰振動の振幅が大きく、振動の頻度も大きくなり、血管が硬いほど、減衰振動の振幅が小さく、振動の頻度も小さくなる。
【0054】
また、血圧測定部位の周囲等の環境温度が高いほど血管は柔らかくなって血管の内径が大きくなり、環境温度が低いほど血管が硬くなって血管の内径が小さくなる。従って、環境温度を上昇または下降させると同時に血圧測定を開始することによって、血管が拡大及び収縮する程度が変化して行く過渡状態、すなわち血管の振動し易さが変化して行く過程において、血管の振動の振幅及び頻度を把握することが可能となる。
【0055】
また、環境温度が上昇すると、血管は拡大及び収縮し易くなって行き、所定温度に維持されると最終的に定常状態となる。従って、環境温度を上昇させると同時に血圧測定を開始することによって、血管が拡大及び収縮し易くなって行く過渡状態、すなわち血管が振動し易くなって行く過程において、血管の振動の振幅及び頻度を把握することが可能となる。これにより、かかる振幅や頻度を算出し易くなる。
【0056】
よって、環境温度を変化させると共に血圧測定を開始し、得られた血圧測定データを解析し、該血圧測定データの振幅の大きさや振動の頻度を血管硬さの指標として算出することにより、適切に血管硬さを評価することが可能となる。また、環境温度を上昇させると共に血圧測定を開始し、該血圧測定データの振幅の大きさや振動の頻度を血管硬さの指標として算出することにより、より適切に血管硬さを評価することが可能となる。
【0057】
血圧測定データの解析としては、例えば以下のように減衰振動の振幅の大きさや振動の頻度を算出する方法が挙げられる。図2示すように、血圧測定データとして、時間推移と共に血圧P0、P1、P2、P3、及びP4が得られたとする。このとき、各測定時点において直前の血圧に対する差分(変動量)Psiを、Psi=Pi−Pi-1(ただし、この式においてiは1以上の整数)として算出する。すなわち、Ps1=P1−P0、Ps2=P2−P1、Ps3=P3−P2、Ps4=P4−P3、として算出する。
【0058】
これら4つの差分Ps1〜Ps4の絶対値の和を加算値Aとして、A=|Ps1|+|Ps2|+|Ps3|+|Ps4|により算出した後、加算値Aを測定開始時の血圧P0で除することによって、AのP0に対する比率(指標)Rを、R=A/P0により、算出する。かかる比率Rは減衰振動の振幅の大きさを表すため、比率Rが小さいほど血管が硬く、大きいほど血管が柔らかいと評価することができる。
【0059】
また、差分Ps1〜Ps4において、直前の測定時点と比較して、すなわち、Ps2をPs1、Ps3をPs2、Ps4をPs3と比較して、0以上から0未満に変化した回数(第1の回数)N1、及び0未満から0以上に変化した回数(第2の回数)N2を算出する。かかるN1及びN2のうち、大きい方の数値を、振動回数(指標)Nとして算出する。
【0060】
そして、振動回数Nは減衰振動において振動の頻度を表すため、振動回数Nが小さいほど血管が硬く、大きいほど血管が柔らかいと評価することができる。なお、振動回数Nが同じであれば、上記した様に、比率Rが小さいほど血管が硬く、比率Rが大きいほど血管が柔らかいと評価することができる。
【0061】
なお、血圧計2により、血圧測定データとして最大血圧の時間的変化と、最小血圧の時間的変化と、を得ることができるが、いずれのデータを用いても良く、特に限定されるものではない。最大血圧及び最小血圧のいずれか一方のデータを用いるか、或いは両方のデータ用いるか等は、予備実験等によって適宜設定することができる。また、上記のように、カフ3を減圧した後、再度カフ3を加圧して血圧測定を繰り返し、各加圧及び減圧によって得られる血圧測定データから、比率R及び振動回数Nを算出することができる。
【0062】
また、比率R及び振動回数Nを、血圧計2による1回の測定で得られた血圧測定データごとに算出することにより、比率R及び振動回数Nを相対的に比較することが可能となる。これにより、一の血圧測定データから算出された比率R及び振動回数Nと、他の血圧測定データから算出された比率R及び振動回数Nと、の間で相対的な血管硬さの評価が可能となる。
【0063】
さらに、例えば、被測定者に対して上記した上腕−下腿動脈間脈波伝播速度baPWV(cm/s)の測定と、血圧計2による血圧測定とを行い、得られたbaPWV及び、比率R及び振動回数Nのデータを蓄積することによって、baPWVと、比率R及び振動回数Nと、の相関関係を調べることができる。これにより、健常者の平均的な血管硬さよりも硬いか否かを、比率R及び振動回数Nを用いて直接評価することも可能となる。
【0064】
また、例えば、同一の被測定者に対してbaPWVと、比率R及び振動回数Nと、を一旦測定しておけば、その後は、血圧測定データのみを測定し、該血圧測定データに基づいて比率R及び振動回数Nの経過を観察することにより、血管硬さの変化を調べることも可能となる。
【0065】
また、上記では、実測値としての血圧P0、P1、P2、P3、及びP4を用いたが、かかる実測値を用いる代わりに、血圧測定データから減衰振動形の近似曲線を算出し、かかる近似曲線のt=0での値及び極値を用いて、比率R及び振動回数Nを算出することもできる。
【0066】
例えば、図2を用いて説明すると、時間tと圧力Pとの関係を表す曲線が近似曲線に相当し、P0が、t=0での値に相当する。また、P1、P2、P3、及びP4が、近似曲線の各極値に相当し、P1〜P4のうち、P2、P4は極大値、P1、P3は極小値に相当する。そして、このように算出したP0〜P4から、上記と同様に、差分Psiを算出することができる。
【0067】
また、上記では、P0、P1、P2、P3、及びP4は、時間軸(すなわち血圧=0)に対する血圧測定データの変動(振動)を示すこととし、時間軸を中心とする血圧の変動から比率R及び振動回数Nを算出することとした。しかし、その他例えば、図3に示すように、予め設定された血圧Pb(時間軸と平行な直線)に対するt=0のときの値の差Δ
P0、血圧Pbに対する各極値の差ΔP1、ΔP2、ΔP3、及びΔP4を算出し、これ
らΔP0〜ΔP4から差分ΔPsiを、ΔPsi=ΔPi−ΔPi-1(ただし、この式に
おいてiは1以上の整数)により算出することによって、上記比率R及び振動回数Nを算出することもできる。
【0068】
一方、固体差によって、被測定者の中には、血圧測定時にカフ3の加圧及び減圧後、血管の収縮及び拡大が殆ど行われず、例えば図4に示すように、血圧測定データが、時間推移と共に殆ど振動することなく、指数関数的に減衰する場合がある(指数関数減衰形)。この場合、上記した比率R及び振動回数Nを算出することは困難となる。
【0069】
そこで、かかる場合には、得られた血圧測定データから指数関数減衰形の近似曲線を算出し、予め設定された時間t1における傾きdΔP/dtを算出することができる。そし
て、かかる傾きdΔP/dtを血管硬さの指標とし、傾きdΔP/dtの絶対値が小さい
ほど血管が硬く、大きいほど血管が柔らかいと評価することができる。なお、時間t1は、予備実験等によって適宜設定することができる。
【0070】
このように、血圧測定データは、被測定者の固体差によって変動する。従って、例えば、算出部8が、血圧測定データが経時的に振動している(減衰振動形)か否かを判断し、振動している場合には(減衰振動形)、上記した様に差分Psiから比率R及び振動回数Nを算出し、振動していない場合には(指数関数減衰形)、上記した様に傾きdΔP/d
tを算出することにより、血管硬さの指標とすることもできる。
【0071】
なお、血圧測定データの測定間隔は、血圧測定データが上記した減衰振動形か指数関数減衰形か否かを判断でき、減衰振動形の場合には血圧測定データから上記した比率R及び振動回数Nを算出でき、指数関数減衰形の場合には血圧測定データから上記傾きdΔP/
dtを算出できるように、適宜設定することができる。例えば予備実験等により、測定間隔を1分、あるいは2分、3分といったように分単位で設定することができる。
【0072】
また、血管壁の硬さは、環境温度によって影響を受けるため、血圧測定データの挙動は、環境温度によって異なる。従って、血管硬さを適切に評価するという観点から、環境温度を一定にした状態で血圧計2により被測定者の血圧測定データを取得することが好ましい。例えば、上記した通り、血圧測定室の温度を、一定温度に維持された待機室よりも高い一定温度に維持することにより、環境温度のバラツキの影響を受けることなく血管硬さを評価することが可能となる。
【0073】
例えば、年間を通じて環境温度の上昇を一定(上記の待機室及び血圧測定室の温度を一定)にすることにより、季節間での環境温度の相違等の影響を受けることなく、血管硬さの指標を算出することが可能となる。また、例えば季節ごとに環境温度の上昇を一定に設定することにより、設定された季節内においては環境温度の相違等の影響を受けることなく血管硬さの指標を算出することが可能となる。なお、環境温度は、季節の他、測定場所や建物構造等に応じて適宜設定することができる。
【0074】
例えば、冬に血管硬さを評価する場合には、待機室及び血圧測定室の室内温度を室外温度よりも高くすることが好ましく、夏に血管硬さを評価する場合には、待機室及び血圧測定室の室内温度を室外温度よりも低くすることが好ましい。室内の温度を上昇させて待機室及び血圧測定室内を一定温度とする場合には、例えば温度調整器10として熱源を有する加温器を用いることができる。
【0075】
かかる温度調整器10として、ストーブ、ヒータやエアコンディショナーを用いることができる。上記した待機室及び血圧測定室を用いる場合には、待機室及び血圧測定室にそれぞれ温度調整器10を設け、一定温度に調整することができる。この場合には、待機室の一定温度をT1、血圧測定室の一定温度をT1よりも高いT2(所定温度)とするとき、環境温度は、例えば時間tに対して、図5(a)に示すようなステップ的な変化を示す。
【0076】
なお、熱源による温度上昇方法は特に限定されず、その他、温度調整器10として例えばストーブを用い、血圧測定室内を、図5(b)に示すようなエキスポネンシャル的な変化で温度T1からT2に上昇させることもできる。この場合には、環境温度を上昇させると同時に血圧測定を開始し、環境温度が温度T2になるまでの間に血圧測定を行うことができる。
【0077】
また、その他、環境温度を図5(c)に示すような矩形的(パルス的)な変化を用いて、温度T1からT2に上昇させることができる。この場合、環境温度の上昇と共に血圧測定を開始し、血圧測定途中で環境温度が下降することになる。例えば熱湯等の熱い飲料水を飲むと同時に血圧測定を開始することができ、これにより、血管を取り囲む体内の温度が上昇して下降するまでの間に血圧を測定することができる。
【0078】
また、上記した温度T1を例えば14℃とし、温度T2を、例えば19℃とすることができるが、かかる温度T1及びT2は、血圧測定データから血管硬さの指標を算出可能であれば特に限定されず、予備実験等により適宜設定することができる。
【0079】
なお、その他例えば、環境温度を上昇させるためのパラメータを記憶部7に記憶し、表示部9で設定温度を入力することにより、算出部8が記憶部7に記憶されたパラメータを読み込んで温度調整器10を作動させるようにすることもできる。
【0080】
上記した通り、温度調整器10により血管の環境温度を所定温度(例えば上記の温度T2)に変化させ、血圧計2により血管を加圧した後減圧して経時的に血圧を測定し、算出部8により、血圧計2によって測定された血圧における測定時点ごとの直前の測定時点からの変動量に基づいて血管硬さの指標を算出することとしたため、環境温度の変化開始と共に血圧の測定を開始することができる。これにより、血圧測定開始からの血管の内径が変化する過渡状態を捉えて血管硬さの指標を算出できるため、血管硬さを適切に評価することが可能となる。
【0081】
また、ここでは、血管の加圧及び減圧を所定間隔で繰り返して経時的に血圧を測定することとし、このようにして得られた血圧測定データから算出部8により血管硬さの指標を算出することとしたため、血管硬さをより適切に評価することができる。また、上記では、1回の加圧及び減圧について1つの測定時点における最大血圧及び最小血圧を測定し、血管硬さを算出したが、血圧測定データから血管硬さの指標を算出可能であれば、血圧の測定方法や測定時点等は特に限定されるものではない。
【0082】
また、ここでは、環境温度を所定温度(例えば上記の温度T2)に上昇させることとしたため、血管が拡がる(血管の内径が大きくなる)過渡状態を捉えて血管硬さの指標を算出できる。これにより、血管硬さをより適切に評価することが可能となる。
【0083】
また、ここでは、算出部8により、測定時点ごとに順次、直前の測定時点の血圧との差分Psiを算出し、算出された差分Psiの絶対値の和(加算値A)に基づいて血管硬さの指標(比率R)を算出することとしたため、血管の振動の大きさを数値として把握できる。これにより、より詳細に血管硬さを評価することができる。
【0084】
なお、ここでは、加算値Aを測定開始時の血圧P0で除することによって比率Rを算出することとしたが、血管の振動の大きさを算出可能であれば、その他、加算値Aを、測定時点のうち最大値を示す血圧等で除すること等によって比率Rを算出することも可能である。
【0085】
また、ここでは、算出部8により、測定時点において、差分Psiが直前の測定時点と比較して0以上から0未満に変化した回数N1と、0未満から0以上に変化した回数N2と、に基づいて血管硬さの指標(振動回数N)を算出することとしたため、血管の振動の頻度を数値として把握できる。これにより、血管硬さをより詳細に評価することができる。なお、ここでは、回数N1、N2のうち大きい方を、振動回数Nと算出することとしたが、血管の振動の頻度を算出可能であれば、回数N1、N2のいずれか一方のみを算出すること等も可能である。
【0086】
なお、上記の通り、ここでは血管硬さの指標として、比率R及び振動回数Nを算出したが、測定時点ごとの直前の測定時点からの変動量に基づいて血管硬さを評価可能であれば、血圧計2による血圧測定データから、その他の因子を血管硬さの指標とすることもできる。その他例えば、血圧測定データに基づいて離散フーリエ変換等により、血管硬さの指標を算出すること等もできる。
【0087】
また、ここでは、温度調整器10が、所定温度(例えば上記した温度T2)を一定温度に維持し、一定温度に維持された環境温度下で血圧計2により血圧を測定することとしたため、血管硬さの評価に対する環境温度のバラツキの影響を回避することができる。なお、上記した通り、環境温度の上昇方法は、これに限定されるものではない。
【0088】
すなわち、例えば上記したエキスポネンシャル的な温度上昇においても時間と温度上昇との関係を一定にすることにより、矩形的な温度変化においても時間と温度変化との関係を一定にすることにより、血管硬さの評価に対する環境温度のバラツキの影響を回避することができる。
【0089】
その他本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば上記実施形態では、環境温度を上昇させると同時に血圧を測定することとしたが、その他、環境温度を下降させると同時に血圧を測定することもできる。この場合には、血管の内径が小さくなる過渡状態を捉えて血管硬さの指標を算出することができる。
【0090】
例えば、ステップ的に環境温度を下降させると同時に血圧測定開始を開始することができ、この場合には、例えば上記した血圧測定室の温度を待機室よりも低い温度に設定することができる。また、エキスポネンシャル的に環境温度を下降させることもでき、この場合には、例えば温度調整器10として冷却器を用いることができる。
【0091】
なお、環境温度を上昇及び下降させる場合には、例えば加温及び冷却機能を有するエアコンディショナーを用いることもできる。また、矩形的に環境温度を下降させることもでき、この場合には、例えば冷水等の冷たい飲料水を飲むと同時に血圧測定を開始することができる。
【0092】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に特に限定されるものではない。
【実施例1】
【0093】
<血圧測定データの取得>
温度調整器10としてエアコンディショナーを用い、14℃に設定された待機室から19℃に設定された血圧測定室に移動すると同時に、図1に示す血管硬さ評価システム1の血圧計2により加圧及び減圧を繰り返し、かかる加圧及び減圧ごとに被測定者の血圧を測定して、3つの血圧測定データ(サンプル)No.1、No.2及びNo.3を得た。
【0094】
このときの、サンプルNo.1における最初のカフ3の減圧開始から経過した時間t(分)、各測定時点での最大血圧Pmax(mmHg)、各測定時点での最小血圧Pmin(mmHg)、及び各測定時点のt=0からの順を示す測定番号(i)を、表1に示す。また、時間と最大血圧との関係を示すグラフを図6に、時間と最小血圧との関係を示すグラフを図7に示す。
【表1】
【0095】
また、サンプルNo.2におけるカフ3の最初の減圧開始から経過した時間t(分)、各測定時点での最大血圧Pmax(mmHg)、各測定時点での最小血圧Pmin(mmHg)、及び各測定時点のt=0からの順を示す測定番号(i)を、表2に示す。また、時間と最大血圧との関係を示すグラフを図8に、時間と最小血圧との関係を示すグラフを図9に示す。
【表2】
【0096】
また、サンプルNo.3におけるカフ3の最初の減圧開始から経過した時間t(分)、各測定時点での最大血圧Pmax(mmHg)、各測定時点での最小血圧Pmin(mmHg)、及びt=0からの順を示す測定番号(i)を、表3に示す。また、時間と最大血圧との関係を示すグラフを図10に、時間と最小血圧を示すグラフを図11に示す。
【表3】
【0097】
<サンプルNo.1における血圧測定データの解析及び血管硬さ性の指標の算出>
次に、表1及び図6で得られた最大血圧の測定データから、図1に示す算出部8により、測定番号(i)=1〜4の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1、Ps2、Ps3及びPs4)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表4に示す。
【表4】
【0098】
表4より、Ps1〜Ps4のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=0であり、Psi-1<0からPsi≧0と変化した回数N2は、N2=1であるため、振動回数Nは、N1及びN2のうち大きい方をとって、N=1と算出される。また、Ps1〜Ps4の絶対値の和である加算値Aは、A=23と算出されるため、測定開始時の血圧P0に対する加算値Aの比率Rは、R=23/137=0.17と算出される(表10参照)。
【0099】
一方、最小血圧についても同様にして、表1及び図7で得られた最小血圧の測定データから、測定番号(i)=1〜4の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps4)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表5に示す。
【表5】
【0100】
表5より、Ps1〜Ps4のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=1であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=1であるため、振動回数Nは、N=1と算出される。また、Ps1〜Ps4から加算値Aは、A=16と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=16/85=0.19と算出される(表11参照)。
【0101】
<サンプルNo.2における血圧測定データの解析及び血管硬さの指標の算出>
次に、表2及び図8で得られた最大血圧の測定データから、上記サンプルNo.1と同様にして、測定番号(i)=1〜4の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps4)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表6に示す。
【表6】
【0102】
表6より、Ps1〜Ps4のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=1であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=2であるため、振動回数Nは、N=2と算出される。また、Ps1〜Ps4から加算値Aは、A=34と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=34/141=0.24と算出される(表10参照)。
【0103】
一方、最小血圧についても同様にして、表2及び図9で得られた最小血圧の測定データから、測定番号(i)=1〜4の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps4)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表7に示す。
【表7】
【0104】
表7より、Ps1〜Ps4のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=1であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=2であるため、振動回数Nは、N=2と算出される。また、Ps1〜Ps4から加算値Aは、A=20と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=20/88=0.23と算出される(表11参照)。
【0105】
<サンプルNo.3における血圧測定データの解析及び血管硬さの指標の算出>
次に、表3及び図10で得られた最大血圧の測定データから、上記したサンプルNo.1及びNo.2と測定回数を一致させるべく、測定番号(i)=1〜4の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps4)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表8に示す。
【表8】
【0106】
表8より、Ps1〜Ps4のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=2であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=1であるため、振動回数Nは、N=2と算出される。また、Ps1〜Ps4から加算値Aは、A=47と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=47/136=0.35と算出される(表10参照)。
【0107】
一方、最小血圧についても同様にして、表3及び図11で得られた最小血圧の測定データから、上記と同様の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps4)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表9に示す。
【表9】
【0108】
表9より、Ps1〜Ps4のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=2であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=1であるため、振動回数Nは、N=2と算出される。また、Ps1〜Ps4から加算値Aは、A=32と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=32/82=0.39と算出される(表11参照)。
【0109】
<サンプルNo.1〜No.3における血管硬さの評価>
サンプルNo.1〜No.3の最大血圧について、上記より算出された加算値A、血圧P0、比率R及び振動回数Nを表10に示し、振動回数Nと比率Rとの関係を図12に示す。
【表10】
【0110】
表10及び図12に示すように、サンプルNo.1〜No.3について、最大血圧の測定データから比率R及び振動回数Nを算出した結果、サンプルNo.2及びサンプルNo.3は、サンプルNo.1に比べて比率Rが大きく、振動回数Nも大きかった。この結果、サンプルNo.2及びサンプルNo.3の方が、サンプルNo.1よりも血管が柔らかい、換言すれば、サンプルNo.1の方が、サンプルNo.2及びサンプルNo.3よりも血管が硬いと評価できる。
【0111】
また、サンプルNo.2とサンプルNo.3とでは、共に振動回数Nは同じであるが、サンプルNo.3の方がサンプルNo.2よりも、比率Rが大きいため、サンプルNo.3の方がサンプルNo.2よりも血管が柔らかいと評価できる。
【0112】
次に、サンプルNo.1〜No.3の最小血圧について、上記より算出された加算値A、血圧P0、比率R及び振動回数Nを表11に示し、振動回数Nと比率Rとの関係を図13に示す。
【表11】
【0113】
表11及び図13に示すように、サンプルNo.1〜No.3について、最小血圧の測定データから比率R及び振動回数Nを算出した結果、サンプルNo.2及びサンプルNo.3は、サンプルNo.1に比べて比率Rが大きく、振動回数Nも大きかった。この結果、サンプルNo.2及びサンプルNo.3の方が、サンプルNo.1よりも血管が柔らかいと評価できる。
【0114】
また、サンプルNo.2とサンプルNo.3とでは、共に振動回数Nは同じであるが、サンプルNo.3の方がサンプルNo.2よりも、比率Rが大きいため、サンプルNo.3の方がサンプルNo.2よりも血管が柔らかいと評価できる。
【0115】
以上の結果、サンプルNo1〜サンプルNo.3では、サンプルNo.3、サンプルNo.2、サンプルNo.1の順に、血管が柔らかいと相対的に評価できることがわかった。また、最大血圧及び最小血圧の測定データのいずれを用いて血管硬さの指標を算出しても、血管硬さを評価し得ることがわかった。
【実施例2】
【0116】
<血圧測定データの取得>
実施例1と同様に、14℃に設定された待機室から19℃に設定された血圧測定室に移動すると同時に血圧計2により加圧及び減圧を繰り返して被測定者の血圧を測定して、血圧測定データ(サンプル)No.4を得た。
【0117】
このときの、サンプルNo.4における最初のカフ3の減圧開始から経過した時間t(分)、各測定時点での最大血圧Pmax(mmHg)、各測定時点での最小血圧Pmin(mmHg)、及び各測定時点のt=0からの順を示す測定番号(i)を、表12に示す。また、時間と最大血圧との関係を示すグラフを図14に、時間と最小血圧との関係を示すグラフを図15に示す。なお、本実施例では、サンプルNo.4を、実施例1のサンプルNo.3と比較することとした。
【表12】
【0118】
<サンプルNo.3における血圧測定データの解析及び血管硬さの指標の算出>
次に、前述の表3及び図10で得られた最大血圧の測定データから、測定番号(i)=1〜6の各測定時点において、実施例1と同様に、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1、Ps2、Ps3、Ps4、Ps5及びPs6)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表13に示す。
【表13】
【0119】
表13より、Ps1〜Ps6のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=2であり、Psi-1<0からPsi≧に変化した回数N2は、N2=2であるため、振動回数Nは、N=2と算出される。また、Ps1〜Ps6から加算値Aは、A=56と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=56/136=0.41と算出される(表17参照)。
【0120】
一方、最小血圧についても同様にして、表3及び図11で得られた最小血圧の測定データから、測定番号(i)=1〜6の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps6)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表14に示す。
【表14】
【0121】
表14より、Ps1〜Ps6のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=2であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=2であるため、振動回数Nは、N=2と算出される。また、P1〜P6から加算値Aは、A=42と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=42/82=0.51と算出される(表18参照)。
【0122】
<サンプルNo.4における血圧測定データの解析及び血管硬さの指標の算出>
次に、上記した表12及び図14で得られた最大血圧の測定データから、測定番号(i)=1〜6の各測定時点において、上記と同様にして、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps6)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表15に示す。
【表15】
【0123】
表15より、Ps1〜Ps6のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=1であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=2であるため、振動回数Nは、N=2と算出される。また、Ps1〜Ps6から加算値Aは、A=34と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=34/125=0.27と算出される(表17参照)。
【0124】
一方、最小血圧についても同様にして、表12及び図15で得られた最小血圧の測定データから、測定番号(i)=1〜6の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps6)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表16に示す。
【表16】
【0125】
表16より、Ps1〜Ps6のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=1であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=1であるため、振動回数Nは、N=1と算出される。また、Ps1〜Ps6から加算値Aは、A=11と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=11/74=0.15と算出される(表18参照)。
【0126】
<サンプルNo.3及びNo.4における血管硬さの評価>
サンプルNo.1〜No.3の最大血圧について、上記より算出された加算値A、血圧P0、比率R及び振動回数Nを表17に示し、振動回数Nと比率Rとの関係を図16に示す。
【表17】
【0127】
表17及び図16に示すように、サンプルNo.3及びNo.4について、最大血圧の測定データから比率R及び振動回数Nを算出した結果、サンプルNo.3は、サンプルNo.4と比較して、振動回数Nは同じであるが、比率Rが大きかった。この結果、サンプルNo.3の方が、サンプルNo.4よりも血管が柔らかいと評価できる。
【0128】
次に、サンプルNo.1〜No.3の最小血圧について、上記より算出された加算値A、血圧P0、比率R及び振動回数Nを表18に示し、振動回数Nと比率Rとの関係を図17に示す。
【表18】
【0129】
表18及び図17に示すように、サンプルNo.3及びNo.4について、最小血圧の測定データから比率R及び振動回数Nを算出した結果、サンプルNo.3は、サンプルNo.4と比較して、比率Rが大きく、振動回数Nも大きかった。この結果、サンプルNo.3の方が、サンプルNo.4よりも血管が柔らかいと評価できる。
【0130】
以上の結果、サンプルNo3及びサンプルNo.4では、サンプルNo.3、サンプルNo.4の順に、血管が柔らかいと相対的に評価できることがわかった。また、時間に対する最大血圧及び最小血圧の測定データのいずれを用いて血管硬さの指標を算出しても、血管硬さを評価できることがわかった。
【実施例3】
【0131】
<血圧測定データの取得>
本実施例では、実施例2のサンプルNo.4について、実施例2よりも測定間隔を短くして、血圧測定データを得た。
【0132】
このときの、サンプルNo.4におけるカフ3の減圧開始から経過した時間t(分)、各測定時点での最大血圧Pmax(mmHg)、各測定時点での最小血圧Pmin(mmHg)、及び各測定時点のt=0からの順を示す測定番号(i)を、表19に示す。
【表19】
【0133】
<サンプルNo.4における血圧測定データの解析及び血管硬さの指標の算出>
表19で得られた最大血圧の測定データから、実施例1及び実施例2と同様に、測定番号(i)=1〜12の各測定時点において、直前の測定時点との血圧の差分Psi(Ps1、Ps2、Ps3、・・・Ps11及びPs12)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表20に示す。
【表20】
【0134】
表20より、Ps1〜Ps12のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=4であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=4であるため、振動回数Nは、N=4と算出される。また、Ps1〜Ps12から加算値Aは、A=54と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=54/125=0.43と算出される(表22参照)。
【0135】
一方、最小血圧についても同様にして、表19で得られた最小血圧の測定データから、測定番号(i)=1〜12の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps12)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表21に示す。
【表21】
【0136】
表21より、Ps1〜Ps12のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=4であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=4であるため、振動回数Nは、N=4と算出される。また、Ps1〜Ps12から加算値Aは、A=53と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=53/74=0.72と算出される(表23参照)。
【0137】
サンプルNo.4の最大血圧について、上記より算出された加算値A、血圧P0、比率R及び振動回数Nを表22に示し、サンプルNo.4の最小血圧について、上記より算出された加算値A、血圧P0、比率R及び振動回数Nを表23に示す。
【表22】
【0138】
【表23】
【0139】
表22、表23に示すように、測定時点を増加させることによって、より詳細に比率R及び振動回数Nを算出することができる。これにより、血管硬さを、より詳細に評価することが可能になると推察される。また、かかるサンプルNo.4と同様の測定間隔及び測定時間で、上記したサンプルNo.1〜No.3について比率R及び振動回数Nを算出することによって、No.1〜No.4についてより詳細な血管硬さの評価が可能になると推察される。
【0140】
また、サンプルNo.4と同様の測定間隔及び測定時間で、新たな血圧測定データを取得することによって、サンプルNo.4と新たに得られたサンプルとの間で、より詳細に血管硬さの評価が可能になると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明によれば、血管硬さを適切に評価することができる。
【符号の説明】
【0142】
1 血管硬さ評価システム
2 血圧計(血圧測定手段)
3 カフ
4 ポンプ
5 圧力センサ
6 制御部
7 記憶部
8 算出部(算出手段)
9 表示部
10 温度調整器(温度調整手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管の硬さを評価する血管硬さ評価システム及び血管硬さ評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液循環の管理は、健康を管理する上で重要である。血液循環における危険因子として血圧が測定されており、血圧測定においてオシロメトリック法を用いた血圧計が使用されている。
【0003】
オシロメトリック法では、空気袋を内包する腕帯(カフ)を測定対象となる生体の測定部位に巻き付け、カフを加圧して血流を一旦止めた後減圧し、カフの内圧変化に基づいて血圧を測定している。カフの減圧過程において、血流が再開すると血管の脈動に伴って血管容積が変化(伸縮)するため、血管容積の変化を測定カフの内圧変化として測定することができ、予め定められた測定間隔でカフの内圧変化を測定することにより、各測定時点での血圧が算出される。
【0004】
また、他の危険因子として血管の硬さが評価されている。例えば、特許文献1には、心臓から駆出された脈波の伝播する速度(以下、PWV:pulse wave velocity)を調べることによって動脈硬化度を判定する装置が開示されている。動脈硬化が進むほど脈波伝播速度が大きくなることを利用して、PWVを、動脈硬化度を判定するための指標として用いている。
【0005】
かかるPWVは、上腕および下肢等の少なくとも2箇所以上にカフ等を装着して同時に脈波を測定することにより、それぞれの脈波の出現時間差と、カフ等を装着した2点間の動脈の長さと、を用いて算出される。PWVは測定部位によって値が異なり、例えば、測定部位が上腕と足首とである上腕−下腿動脈間脈波伝達速度(baPWV)、頚動脈と大腿動脈とである頸動脈−大腿動脈間脈波伝達速度(cfPWV)が挙げられる。
【0006】
しかし、このように2箇所以上にカフを装着してPWVを測定することは、煩雑である。そこで、血管の硬さを、血圧測定データから評価することが提案されている。
【0007】
例えば、特許文献2には、血圧測定データの振幅の包絡線を含むパターン部分を多角形の概形パターンに整合させることにより、血管の硬さ等の循環動態指標を導き出すことが開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、カフにより検知された脈波の振幅に基づいて動脈壁の硬さの評価を行うことが開示されている。
【0009】
また、特許文献4には、測定部位の中枢側と末端側とを圧迫し、中枢側の内圧変化から駆出波と反射波との間の時間差を算出し、動脈硬化度の判定を行うための指標とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−316821号公報
【特許文献2】特開2005−323853号公報
【特許文献3】特開2008−228934号公報
【特許文献4】特開2009−119067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献2では、血圧測定データを多角形のパターンと比較しており、また特許文献3でも、血管の内外圧差と血管径との関係を圧径特性曲線として表しており、さらに特許文献4でも、駆出波と反射波との時間差を算出しており、いずれも測定時点ごとの血圧の変動から血管硬さを評価するものではない。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑み、血管の硬さを適切に評価可能な血管硬さ評価システム及び血管硬さ評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、血管の環境温度を所定温度に変化させる温度調整手段と、前記血管を加圧した後減圧して経時的に血圧を測定する血圧測定手段と、該血圧測定手段で測定された前記血圧における測定時点ごとの直前の測定時点からの変動量に基づいて血管硬さの指標を算出する算出手段と、を備えた血管硬さ評価システムである。
【0014】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価システムにおいて、前記血圧測定手段が、前記血管の加圧及び減圧を所定間隔で繰り返して経時的に前記血圧を測定することを特徴としている。
【0015】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価システムにおいて、前記温度調整手段は、前記環境温度を前記所定温度に上昇させることを特徴としている。
【0016】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価システムにおいて、前記算出手段が、前記測定時点ごとに順次、直前の測定時点との間で前記血圧の差分を算出し、算出された前記差分の絶対値の和に基づいて前記指標を算出すること特徴としている。
【0017】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価システムにおいて、前記算出手段が、前記測定時点において、前記差分が直前の測定時点と比較して0以上から0未満に変化した第1の回数と、0未満から0以上に変化した第2の回数と、に基づいて前記指標を算出することを特徴としている。
【0018】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価システムにおいて、前記温度調整手段が、前記所定温度を一定温度に維持し、前記一定温度に維持された前記環境温度下で前記血圧が前記血圧測定手段により測定されることを特徴としている。
【0019】
また本発明は、所定温度に変化させた血管の環境温度で、前記血管を加圧した後減圧して経時的に血圧を測定し、測定された前記血圧における測定時点ごとの直前の測定時点からの変動量に基づいて血管硬さの指標を算出する血管硬さ評価方法である。
【0020】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価方法において、前記血管の加圧及び減圧を所定間隔で繰り返して経時的に前記血圧を測定することを特徴としている。
【0021】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価方法において、前記環境温度を前記所定温度に上昇させることを特徴としている。
【0022】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価方法において、前記測定時点ごとに順次、直前の測定時点との間で前記血圧の差分を算出し、算出された前記差分の絶対値の和に基づいて前記指標を算出することを特徴としている。
【0023】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価方法において、前記測定時点において、前記差分が直前の測定時点と比較して0以上から0未満に変化した第1の回数と、0未満から0以上に変化した第2の回数と、に基づいて前記指標を算出することを特徴としている。
【0024】
また本発明は、上記構成の血管硬さ評価方法において、前記所定温度を一定温度に維持し、前記一定温度に維持された前記環境温度下で前記血圧を測定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
本発明の第1の構成によれば、血管の環境温度を所定温度に上昇させる温度調整手段と、血管を加圧した後減圧して経時的に血圧を測定する血圧測定手段と、該血圧測定手段で測定された血圧における測定時点ごとの直前の測定時点からの変動量に基づいて血管硬さの指標を算出する算出手段と、を備える血管硬さ評価システムとすることによって、環境温度の変化開始と共に血圧の測定を開始することができる。これにより、血圧測定開始からの血管の内径が変化する過渡状態を捉えて血管硬さの指標を算出できるため、血管硬さを適切に評価することが可能となる。
【0026】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成の血管硬さ評価システムにおいて、血圧測定手段が、血管の加圧及び減圧を所定間隔で繰り返して経時的に血圧を測定することによって、血管硬さをより適切に評価することができる。
【0027】
また、本発明の第3の構成によれば、上記第1または2の構成の血管硬さ評価システムにおいて、温度調整手段が、環境温度を所定温度に上昇させることによって、血管が拡がる過渡状態を捉えて血管硬さの指標を算出できるため、血管硬さをより適切に評価することが可能となる。
【0028】
また、本発明の第4の構成によれば、上記第1〜第3のいずれかの構成の血管硬さ評価システムにおいて、算出手段が、測定時点ごとに順次、直前の測定時点との間で血圧の差分を算出し、算出された差分の絶対値の和に基づいて指標を算出することによって、血管の振動の大きさを数値として把握できるため、血管硬さをより詳細に評価することができる。
【0029】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第4の構成の血管硬さシステムにおいて、算出手段が、測定時点において、差分が直前の測定時点と比較して0以上から0未満に変化した第1の回数と、0未満から0以上に変化した第2の回数と、に基づいて指標を算出することによって、血管の振動の頻度を数値として把握できるため、血管の硬さをより詳細に評価することができる。
【0030】
また、本発明の第6の構成によれば、上記第1〜第5のいずれかの構成の血管硬さ評価システムにおいて、温度調整手段が、所定温度を一定温度に維持し、一定温度に維持された環境温度下で血圧測定手段により血圧を測定することによって、血管硬さ評価に対する環境温度のバラツキの影響を回避することができる。
【0031】
また、本発明の第7の構成によれば、所定温度に変化させた血管の環境温度で、血管を加圧した後減圧して経時的に血圧を測定し、測定された血圧における測定時点ごとの直前の測定時点からの血圧の変動量に基づいて血管硬さの指標を算出する血管硬さ評価方法とすることによって、環境温度の変化開始と共に血圧の測定を開始することができる。これにより、血圧測定開始から血管の内径が変化する過渡状態を捉えて血管硬さの指標を算出できるため、血管硬さをより適切に評価することが可能となる。
【0032】
また、本発明の第8の構成によれば、上記第7の構成の血管硬さ評価方法において、血管の加圧及び減圧を所定間隔で繰り返して経時的に血圧を測定することによって、血管硬さをより適切に評価することができる。
【0033】
また、本発明の第9の構成によれば、上記第7または第8の構成の血管硬さ評価方法において、環境温度を所定温度に上昇させることによって、環境温度の上昇開始と共に血圧の測定を開始することができる。これにより、血圧測定開始から血管が拡がる過渡状態を捉えて血管硬さの指標を算出できるため、血管硬さをより適切に評価することが可能となる。
【0034】
また、本発明の第10の構成によれば、上記第7〜第9のいずれかの構成の血管硬さ評価方法において、測定時点ごとに順次、直前の測定時点の血圧との差分を算出し、算出された差分の絶対値の和に基づいて指標を算出することによって、血管の振動の大きさを数値として把握できるため、より詳細に血管硬さを評価することができる。
【0035】
また、本発明の第11の構成によれば、上記第10の構成の血管硬さ評価方法において、測定時点において、差分が直前の測定時点と比較して0以上から0未満に変化した第1の回数と、0未満から0以上に変化した第2の回数と、に基づいて指標を算出することによって、血管の振動の頻度を数値として把握できるため、血管硬さをより詳細に評価することができる。
【0036】
また、本発明の第12の構成によれば、上記第7〜第11のいずれかの構成の血管硬さ評価方法において、所定温度を一定温度に維持し、一定温度に維持された前記環境温度下で前記血圧を測定することによって、血管硬さ評価に対する環境温度のバラツキの影響を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態に係る血管硬さ評価システムの構成を示す概略図
【図2】時間と血圧との関係を模式的に示す図
【図3】時間と血圧との関係を模式的に示す図
【図4】時間と血圧との関係を模式的に示す図
【図5】温度調整器の熱源の温度変化例を模式的に示す図であって、図5(a)は、ステップ変化を示す図であり、図5(b)は、エキスポネンシャル変化を示す図であり、図5(c)は、矩形変化を示す図
【図6】サンプルNo.1における時間と最大血圧との関係を示すグラフ
【図7】サンプルNo.1における時間と最小血圧との関係を示すグラフ
【図8】サンプルNo.2における時間と最大血圧との関係を示すグラフ
【図9】サンプルNo.2における時間と最小血圧との関係を示すグラフ
【図10】サンプルNo.3における時間と最大血圧との関係を示すグラフ
【図11】サンプルNo.3における時間と最小血圧との関係を示すグラフ
【図12】サンプルNo.1〜No.3について最大血圧の振動回数Nと比率Rとの関係を示すグラフ
【図13】サンプルNo.1〜No.3について最小血圧の振動回数Nと比率Rとの関係を示すグラフ
【図14】サンプルNo.4における時間と最大血圧との関係を示すグラフ
【図15】サンプルNo.4における時間と最小血圧との関係を示すグラフ
【図16】サンプルNo.3及びNo.4について最大血圧の振動回数Nと比率Rとの関係を示すグラフ
【図17】サンプルNo.3及びNo.4について最小血圧の振動回数Nと比率Rとの関係を示すグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る血管硬さ評価システムの構成を示す概略図である。
【0039】
図1に示すように、血管硬さ評価システム1は、血圧計(血圧測定手段)2、記憶部7、算出部(算出手段)8、表示部9、温度調整器(温度調整手段)10を備えており、後述する血管硬さの指標を算出することができる。ここで、血管硬さの指標とは、血管の硬さの程度、換言すれば血管の柔らかさの程度、を評価するために用いられることが可能な数値をいう。また、血管の環境温度は、温度調整器10によって調整される。ここで、血管の環境温度とは、血圧測定部位の周囲の温度、血管を取り囲む体内の温度等、血管の内径に影響を与え得る温度をいい、以下、単に環境温度という場合がある。
【0040】
血圧計2は、カフ3、ポンプ4、圧力センサ5及び制御部6を有しており、オシロメトリック法により被測定者の血圧を測定する。
【0041】
カフ3は、被測定者の例えば上腕等の測定部位に巻き付けられる。ポンプ4は、カフ3に空気を送り込むことにより予め設定された目標圧力までこれを加圧し、空気を抜くことにより予め設定された速度でこれを減圧する。圧力センサ5は、予め設定された測定間隔で及び測定時間(測定開始から測定終了までの時間)でカフ3の内圧を測定する。各測定時点で測定された内圧データは、制御部6に送信される。
【0042】
制御部6は、RAM、ROM及びCPU等を有しており、ポンプ4によりカフ3を目標圧力まで加圧させた後、予め設定された減圧速度で減圧させ、これを繰り返して圧力センサ5により予め設定された測定間隔及び測定時間でカフ3の内圧を測定させ、圧力センサ5から内圧データを受信すると、各測定時点での最大血圧及び最小血圧を算出する。
【0043】
かかる制御部6には、ポンプ4によるカフ3の目標圧力や減圧速度、圧力センサ5による測定間隔及び測定時間に関するパラメータ等が記憶されている。また、制御部6は、算出結果を、最大血圧及び最小血圧の時間的変化(血圧測定データ)として、算出部8及び表示部9に送信する。
【0044】
なお、カフ3による測定部位は特に限定されるものではなく、血管(動脈)を圧迫して血圧測定が可能であれば、被測定者の四肢等、身体において測定したい部位に巻き付けることができる。また、被測定者の身体において1箇所に巻き付ければよいが、複数個所に巻き付けることもでき、これにより、複数の測定部位での血管硬さの評価が可能となる。
【0045】
また、カフ3の加圧時の目標圧力や減圧時の速度は、後述する血管硬さの指標を算出可能であれば特に限定されず、被測定者の個体差等を考慮して予備実験等により適宜設定することができる。また、圧力センサ5による測定間隔及び測定時間は、後述する血管硬さの指標を算出可能であれば、特に限定されるものではなく、被測定者の個体差等を考慮して予備実験等により適宜設定することができる。また、制御部6は、最大血圧及び最小血圧の時間的変化の他、平均血圧や脈拍等も算出することができる。
【0046】
記憶部7は、例えばROM及びRAMであり、温度調整器10の設定温度や温度変化(ここでは上昇)パラメータ、各測定時点での血圧測定データの直前の測定時点との差分から血管硬さの指標を算出するためのパラメータ等が記憶されている。また、血圧計2により測定された血圧測定データや算出された指標を記憶することもできる。
【0047】
算出部8は、例えばCPUであり、記憶部7に記憶されたパラメータを読み込むことにより、血圧計2によって測定された血圧測定データを解析して、血管硬さの指標を算出する機能を有している。すなわち、血圧測定データの各測定時点での血圧と直前の測定時点での血圧との差分(変動量)を算出する機能、算出された差分の絶対値の和(加算値)を算出する機能、かかる加算値の、測定開始時の血圧に対する比率(指標)を算出する機能を有している。
【0048】
また、算出部8は、上記差分が直前の測定時点と比較して0以上から0未満に変化した回数(第1の回数)、及び0未満から0以上に変化した回数(第2の回数)を算出(計数)する機能、算出されたこれらの回数のうち大きい方を振動回数(指標)として算出する機能、算出された差分や指標を記憶部7に記憶させる機能、上記血圧測定データ、比率及び振動回数を表示部9に表示させる機能を有している。
【0049】
なお、これら記憶部7及び算出部8は、血圧計2とは別途、コンピュータ等に設けることもできるが、その他、血圧計2内の制御部6と一体にすることもできる。かかる場合、例えば制御部6に上記した血圧測定用のパラメータと共に血管硬さの指標を算出するためのパラメータを記憶し、制御部6により、圧力センサ5から得られた内圧データに基づいて血圧測定データを算出すると共に血管硬さの指標を算出することができる。
【0050】
表示部9は、血圧計2による血圧測定及び算出部8による解析を開始するためのスタートボタンを有している。また、表示部9には、血圧計2で測定された血圧測定データや、算出部8で算出された上記比率や振動回数等の血管硬さの指標が表示される。
【0051】
温度調整器10は、例えば血圧測定室の室内の温度と、これとドアを隔てて隣接する待機室の温度と、をそれぞれ一定温度に調整すると共に該一定温度に維持することができ、しかも、血圧測定室の温度を待機室の温度よりも例えば高く設定することができる。これにより、環境温度の低い待機室から環境温度の高い血圧測定室へと被測定者が移動すると、移動した瞬間から血管が拡がり始める。なお、温度調整の詳細については後述する。
【0052】
次に、血管硬さの指標の算出について説明する。図2、図3及び図4は、時間と血圧との関係を模式的に示す図である。上記の通り、被測定者が待機室から血圧測定室に移動したと同時に血圧計2を用い、被測定者の血圧を繰り返し測定すると、測定開始から例えば図2に示すように時間tの経過と共に血圧Pが上下に振幅(増減)しながら減衰する。カフ3の減圧後、血管を血液が流れる際、血管容積(断面積)が拡大及び収縮を繰り返しながら定常状態に近づくため、最大血圧及び最小血圧は共に、時間推移と共に(経時的に)振動しながら減衰し、定常状態に近づく。
【0053】
すなわち、図2に示すように、時間tに対する血圧Pの変動(血圧測定データの時間的変化)が、概ね減衰振動形を示す。また、血管容積は、血管が硬いほど拡大及び収縮し難く、血管が柔らかいほど拡大及び収縮し易い。従って、例えばかかる減衰振動の振幅の大きさ及び振動の頻度は、血管の振動の大きさ及び頻度を示すことができ、血管が柔らかいほど、減衰振動の振幅が大きく、振動の頻度も大きくなり、血管が硬いほど、減衰振動の振幅が小さく、振動の頻度も小さくなる。
【0054】
また、血圧測定部位の周囲等の環境温度が高いほど血管は柔らかくなって血管の内径が大きくなり、環境温度が低いほど血管が硬くなって血管の内径が小さくなる。従って、環境温度を上昇または下降させると同時に血圧測定を開始することによって、血管が拡大及び収縮する程度が変化して行く過渡状態、すなわち血管の振動し易さが変化して行く過程において、血管の振動の振幅及び頻度を把握することが可能となる。
【0055】
また、環境温度が上昇すると、血管は拡大及び収縮し易くなって行き、所定温度に維持されると最終的に定常状態となる。従って、環境温度を上昇させると同時に血圧測定を開始することによって、血管が拡大及び収縮し易くなって行く過渡状態、すなわち血管が振動し易くなって行く過程において、血管の振動の振幅及び頻度を把握することが可能となる。これにより、かかる振幅や頻度を算出し易くなる。
【0056】
よって、環境温度を変化させると共に血圧測定を開始し、得られた血圧測定データを解析し、該血圧測定データの振幅の大きさや振動の頻度を血管硬さの指標として算出することにより、適切に血管硬さを評価することが可能となる。また、環境温度を上昇させると共に血圧測定を開始し、該血圧測定データの振幅の大きさや振動の頻度を血管硬さの指標として算出することにより、より適切に血管硬さを評価することが可能となる。
【0057】
血圧測定データの解析としては、例えば以下のように減衰振動の振幅の大きさや振動の頻度を算出する方法が挙げられる。図2示すように、血圧測定データとして、時間推移と共に血圧P0、P1、P2、P3、及びP4が得られたとする。このとき、各測定時点において直前の血圧に対する差分(変動量)Psiを、Psi=Pi−Pi-1(ただし、この式においてiは1以上の整数)として算出する。すなわち、Ps1=P1−P0、Ps2=P2−P1、Ps3=P3−P2、Ps4=P4−P3、として算出する。
【0058】
これら4つの差分Ps1〜Ps4の絶対値の和を加算値Aとして、A=|Ps1|+|Ps2|+|Ps3|+|Ps4|により算出した後、加算値Aを測定開始時の血圧P0で除することによって、AのP0に対する比率(指標)Rを、R=A/P0により、算出する。かかる比率Rは減衰振動の振幅の大きさを表すため、比率Rが小さいほど血管が硬く、大きいほど血管が柔らかいと評価することができる。
【0059】
また、差分Ps1〜Ps4において、直前の測定時点と比較して、すなわち、Ps2をPs1、Ps3をPs2、Ps4をPs3と比較して、0以上から0未満に変化した回数(第1の回数)N1、及び0未満から0以上に変化した回数(第2の回数)N2を算出する。かかるN1及びN2のうち、大きい方の数値を、振動回数(指標)Nとして算出する。
【0060】
そして、振動回数Nは減衰振動において振動の頻度を表すため、振動回数Nが小さいほど血管が硬く、大きいほど血管が柔らかいと評価することができる。なお、振動回数Nが同じであれば、上記した様に、比率Rが小さいほど血管が硬く、比率Rが大きいほど血管が柔らかいと評価することができる。
【0061】
なお、血圧計2により、血圧測定データとして最大血圧の時間的変化と、最小血圧の時間的変化と、を得ることができるが、いずれのデータを用いても良く、特に限定されるものではない。最大血圧及び最小血圧のいずれか一方のデータを用いるか、或いは両方のデータ用いるか等は、予備実験等によって適宜設定することができる。また、上記のように、カフ3を減圧した後、再度カフ3を加圧して血圧測定を繰り返し、各加圧及び減圧によって得られる血圧測定データから、比率R及び振動回数Nを算出することができる。
【0062】
また、比率R及び振動回数Nを、血圧計2による1回の測定で得られた血圧測定データごとに算出することにより、比率R及び振動回数Nを相対的に比較することが可能となる。これにより、一の血圧測定データから算出された比率R及び振動回数Nと、他の血圧測定データから算出された比率R及び振動回数Nと、の間で相対的な血管硬さの評価が可能となる。
【0063】
さらに、例えば、被測定者に対して上記した上腕−下腿動脈間脈波伝播速度baPWV(cm/s)の測定と、血圧計2による血圧測定とを行い、得られたbaPWV及び、比率R及び振動回数Nのデータを蓄積することによって、baPWVと、比率R及び振動回数Nと、の相関関係を調べることができる。これにより、健常者の平均的な血管硬さよりも硬いか否かを、比率R及び振動回数Nを用いて直接評価することも可能となる。
【0064】
また、例えば、同一の被測定者に対してbaPWVと、比率R及び振動回数Nと、を一旦測定しておけば、その後は、血圧測定データのみを測定し、該血圧測定データに基づいて比率R及び振動回数Nの経過を観察することにより、血管硬さの変化を調べることも可能となる。
【0065】
また、上記では、実測値としての血圧P0、P1、P2、P3、及びP4を用いたが、かかる実測値を用いる代わりに、血圧測定データから減衰振動形の近似曲線を算出し、かかる近似曲線のt=0での値及び極値を用いて、比率R及び振動回数Nを算出することもできる。
【0066】
例えば、図2を用いて説明すると、時間tと圧力Pとの関係を表す曲線が近似曲線に相当し、P0が、t=0での値に相当する。また、P1、P2、P3、及びP4が、近似曲線の各極値に相当し、P1〜P4のうち、P2、P4は極大値、P1、P3は極小値に相当する。そして、このように算出したP0〜P4から、上記と同様に、差分Psiを算出することができる。
【0067】
また、上記では、P0、P1、P2、P3、及びP4は、時間軸(すなわち血圧=0)に対する血圧測定データの変動(振動)を示すこととし、時間軸を中心とする血圧の変動から比率R及び振動回数Nを算出することとした。しかし、その他例えば、図3に示すように、予め設定された血圧Pb(時間軸と平行な直線)に対するt=0のときの値の差Δ
P0、血圧Pbに対する各極値の差ΔP1、ΔP2、ΔP3、及びΔP4を算出し、これ
らΔP0〜ΔP4から差分ΔPsiを、ΔPsi=ΔPi−ΔPi-1(ただし、この式に
おいてiは1以上の整数)により算出することによって、上記比率R及び振動回数Nを算出することもできる。
【0068】
一方、固体差によって、被測定者の中には、血圧測定時にカフ3の加圧及び減圧後、血管の収縮及び拡大が殆ど行われず、例えば図4に示すように、血圧測定データが、時間推移と共に殆ど振動することなく、指数関数的に減衰する場合がある(指数関数減衰形)。この場合、上記した比率R及び振動回数Nを算出することは困難となる。
【0069】
そこで、かかる場合には、得られた血圧測定データから指数関数減衰形の近似曲線を算出し、予め設定された時間t1における傾きdΔP/dtを算出することができる。そし
て、かかる傾きdΔP/dtを血管硬さの指標とし、傾きdΔP/dtの絶対値が小さい
ほど血管が硬く、大きいほど血管が柔らかいと評価することができる。なお、時間t1は、予備実験等によって適宜設定することができる。
【0070】
このように、血圧測定データは、被測定者の固体差によって変動する。従って、例えば、算出部8が、血圧測定データが経時的に振動している(減衰振動形)か否かを判断し、振動している場合には(減衰振動形)、上記した様に差分Psiから比率R及び振動回数Nを算出し、振動していない場合には(指数関数減衰形)、上記した様に傾きdΔP/d
tを算出することにより、血管硬さの指標とすることもできる。
【0071】
なお、血圧測定データの測定間隔は、血圧測定データが上記した減衰振動形か指数関数減衰形か否かを判断でき、減衰振動形の場合には血圧測定データから上記した比率R及び振動回数Nを算出でき、指数関数減衰形の場合には血圧測定データから上記傾きdΔP/
dtを算出できるように、適宜設定することができる。例えば予備実験等により、測定間隔を1分、あるいは2分、3分といったように分単位で設定することができる。
【0072】
また、血管壁の硬さは、環境温度によって影響を受けるため、血圧測定データの挙動は、環境温度によって異なる。従って、血管硬さを適切に評価するという観点から、環境温度を一定にした状態で血圧計2により被測定者の血圧測定データを取得することが好ましい。例えば、上記した通り、血圧測定室の温度を、一定温度に維持された待機室よりも高い一定温度に維持することにより、環境温度のバラツキの影響を受けることなく血管硬さを評価することが可能となる。
【0073】
例えば、年間を通じて環境温度の上昇を一定(上記の待機室及び血圧測定室の温度を一定)にすることにより、季節間での環境温度の相違等の影響を受けることなく、血管硬さの指標を算出することが可能となる。また、例えば季節ごとに環境温度の上昇を一定に設定することにより、設定された季節内においては環境温度の相違等の影響を受けることなく血管硬さの指標を算出することが可能となる。なお、環境温度は、季節の他、測定場所や建物構造等に応じて適宜設定することができる。
【0074】
例えば、冬に血管硬さを評価する場合には、待機室及び血圧測定室の室内温度を室外温度よりも高くすることが好ましく、夏に血管硬さを評価する場合には、待機室及び血圧測定室の室内温度を室外温度よりも低くすることが好ましい。室内の温度を上昇させて待機室及び血圧測定室内を一定温度とする場合には、例えば温度調整器10として熱源を有する加温器を用いることができる。
【0075】
かかる温度調整器10として、ストーブ、ヒータやエアコンディショナーを用いることができる。上記した待機室及び血圧測定室を用いる場合には、待機室及び血圧測定室にそれぞれ温度調整器10を設け、一定温度に調整することができる。この場合には、待機室の一定温度をT1、血圧測定室の一定温度をT1よりも高いT2(所定温度)とするとき、環境温度は、例えば時間tに対して、図5(a)に示すようなステップ的な変化を示す。
【0076】
なお、熱源による温度上昇方法は特に限定されず、その他、温度調整器10として例えばストーブを用い、血圧測定室内を、図5(b)に示すようなエキスポネンシャル的な変化で温度T1からT2に上昇させることもできる。この場合には、環境温度を上昇させると同時に血圧測定を開始し、環境温度が温度T2になるまでの間に血圧測定を行うことができる。
【0077】
また、その他、環境温度を図5(c)に示すような矩形的(パルス的)な変化を用いて、温度T1からT2に上昇させることができる。この場合、環境温度の上昇と共に血圧測定を開始し、血圧測定途中で環境温度が下降することになる。例えば熱湯等の熱い飲料水を飲むと同時に血圧測定を開始することができ、これにより、血管を取り囲む体内の温度が上昇して下降するまでの間に血圧を測定することができる。
【0078】
また、上記した温度T1を例えば14℃とし、温度T2を、例えば19℃とすることができるが、かかる温度T1及びT2は、血圧測定データから血管硬さの指標を算出可能であれば特に限定されず、予備実験等により適宜設定することができる。
【0079】
なお、その他例えば、環境温度を上昇させるためのパラメータを記憶部7に記憶し、表示部9で設定温度を入力することにより、算出部8が記憶部7に記憶されたパラメータを読み込んで温度調整器10を作動させるようにすることもできる。
【0080】
上記した通り、温度調整器10により血管の環境温度を所定温度(例えば上記の温度T2)に変化させ、血圧計2により血管を加圧した後減圧して経時的に血圧を測定し、算出部8により、血圧計2によって測定された血圧における測定時点ごとの直前の測定時点からの変動量に基づいて血管硬さの指標を算出することとしたため、環境温度の変化開始と共に血圧の測定を開始することができる。これにより、血圧測定開始からの血管の内径が変化する過渡状態を捉えて血管硬さの指標を算出できるため、血管硬さを適切に評価することが可能となる。
【0081】
また、ここでは、血管の加圧及び減圧を所定間隔で繰り返して経時的に血圧を測定することとし、このようにして得られた血圧測定データから算出部8により血管硬さの指標を算出することとしたため、血管硬さをより適切に評価することができる。また、上記では、1回の加圧及び減圧について1つの測定時点における最大血圧及び最小血圧を測定し、血管硬さを算出したが、血圧測定データから血管硬さの指標を算出可能であれば、血圧の測定方法や測定時点等は特に限定されるものではない。
【0082】
また、ここでは、環境温度を所定温度(例えば上記の温度T2)に上昇させることとしたため、血管が拡がる(血管の内径が大きくなる)過渡状態を捉えて血管硬さの指標を算出できる。これにより、血管硬さをより適切に評価することが可能となる。
【0083】
また、ここでは、算出部8により、測定時点ごとに順次、直前の測定時点の血圧との差分Psiを算出し、算出された差分Psiの絶対値の和(加算値A)に基づいて血管硬さの指標(比率R)を算出することとしたため、血管の振動の大きさを数値として把握できる。これにより、より詳細に血管硬さを評価することができる。
【0084】
なお、ここでは、加算値Aを測定開始時の血圧P0で除することによって比率Rを算出することとしたが、血管の振動の大きさを算出可能であれば、その他、加算値Aを、測定時点のうち最大値を示す血圧等で除すること等によって比率Rを算出することも可能である。
【0085】
また、ここでは、算出部8により、測定時点において、差分Psiが直前の測定時点と比較して0以上から0未満に変化した回数N1と、0未満から0以上に変化した回数N2と、に基づいて血管硬さの指標(振動回数N)を算出することとしたため、血管の振動の頻度を数値として把握できる。これにより、血管硬さをより詳細に評価することができる。なお、ここでは、回数N1、N2のうち大きい方を、振動回数Nと算出することとしたが、血管の振動の頻度を算出可能であれば、回数N1、N2のいずれか一方のみを算出すること等も可能である。
【0086】
なお、上記の通り、ここでは血管硬さの指標として、比率R及び振動回数Nを算出したが、測定時点ごとの直前の測定時点からの変動量に基づいて血管硬さを評価可能であれば、血圧計2による血圧測定データから、その他の因子を血管硬さの指標とすることもできる。その他例えば、血圧測定データに基づいて離散フーリエ変換等により、血管硬さの指標を算出すること等もできる。
【0087】
また、ここでは、温度調整器10が、所定温度(例えば上記した温度T2)を一定温度に維持し、一定温度に維持された環境温度下で血圧計2により血圧を測定することとしたため、血管硬さの評価に対する環境温度のバラツキの影響を回避することができる。なお、上記した通り、環境温度の上昇方法は、これに限定されるものではない。
【0088】
すなわち、例えば上記したエキスポネンシャル的な温度上昇においても時間と温度上昇との関係を一定にすることにより、矩形的な温度変化においても時間と温度変化との関係を一定にすることにより、血管硬さの評価に対する環境温度のバラツキの影響を回避することができる。
【0089】
その他本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば上記実施形態では、環境温度を上昇させると同時に血圧を測定することとしたが、その他、環境温度を下降させると同時に血圧を測定することもできる。この場合には、血管の内径が小さくなる過渡状態を捉えて血管硬さの指標を算出することができる。
【0090】
例えば、ステップ的に環境温度を下降させると同時に血圧測定開始を開始することができ、この場合には、例えば上記した血圧測定室の温度を待機室よりも低い温度に設定することができる。また、エキスポネンシャル的に環境温度を下降させることもでき、この場合には、例えば温度調整器10として冷却器を用いることができる。
【0091】
なお、環境温度を上昇及び下降させる場合には、例えば加温及び冷却機能を有するエアコンディショナーを用いることもできる。また、矩形的に環境温度を下降させることもでき、この場合には、例えば冷水等の冷たい飲料水を飲むと同時に血圧測定を開始することができる。
【0092】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に特に限定されるものではない。
【実施例1】
【0093】
<血圧測定データの取得>
温度調整器10としてエアコンディショナーを用い、14℃に設定された待機室から19℃に設定された血圧測定室に移動すると同時に、図1に示す血管硬さ評価システム1の血圧計2により加圧及び減圧を繰り返し、かかる加圧及び減圧ごとに被測定者の血圧を測定して、3つの血圧測定データ(サンプル)No.1、No.2及びNo.3を得た。
【0094】
このときの、サンプルNo.1における最初のカフ3の減圧開始から経過した時間t(分)、各測定時点での最大血圧Pmax(mmHg)、各測定時点での最小血圧Pmin(mmHg)、及び各測定時点のt=0からの順を示す測定番号(i)を、表1に示す。また、時間と最大血圧との関係を示すグラフを図6に、時間と最小血圧との関係を示すグラフを図7に示す。
【表1】
【0095】
また、サンプルNo.2におけるカフ3の最初の減圧開始から経過した時間t(分)、各測定時点での最大血圧Pmax(mmHg)、各測定時点での最小血圧Pmin(mmHg)、及び各測定時点のt=0からの順を示す測定番号(i)を、表2に示す。また、時間と最大血圧との関係を示すグラフを図8に、時間と最小血圧との関係を示すグラフを図9に示す。
【表2】
【0096】
また、サンプルNo.3におけるカフ3の最初の減圧開始から経過した時間t(分)、各測定時点での最大血圧Pmax(mmHg)、各測定時点での最小血圧Pmin(mmHg)、及びt=0からの順を示す測定番号(i)を、表3に示す。また、時間と最大血圧との関係を示すグラフを図10に、時間と最小血圧を示すグラフを図11に示す。
【表3】
【0097】
<サンプルNo.1における血圧測定データの解析及び血管硬さ性の指標の算出>
次に、表1及び図6で得られた最大血圧の測定データから、図1に示す算出部8により、測定番号(i)=1〜4の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1、Ps2、Ps3及びPs4)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表4に示す。
【表4】
【0098】
表4より、Ps1〜Ps4のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=0であり、Psi-1<0からPsi≧0と変化した回数N2は、N2=1であるため、振動回数Nは、N1及びN2のうち大きい方をとって、N=1と算出される。また、Ps1〜Ps4の絶対値の和である加算値Aは、A=23と算出されるため、測定開始時の血圧P0に対する加算値Aの比率Rは、R=23/137=0.17と算出される(表10参照)。
【0099】
一方、最小血圧についても同様にして、表1及び図7で得られた最小血圧の測定データから、測定番号(i)=1〜4の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps4)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表5に示す。
【表5】
【0100】
表5より、Ps1〜Ps4のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=1であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=1であるため、振動回数Nは、N=1と算出される。また、Ps1〜Ps4から加算値Aは、A=16と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=16/85=0.19と算出される(表11参照)。
【0101】
<サンプルNo.2における血圧測定データの解析及び血管硬さの指標の算出>
次に、表2及び図8で得られた最大血圧の測定データから、上記サンプルNo.1と同様にして、測定番号(i)=1〜4の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps4)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表6に示す。
【表6】
【0102】
表6より、Ps1〜Ps4のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=1であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=2であるため、振動回数Nは、N=2と算出される。また、Ps1〜Ps4から加算値Aは、A=34と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=34/141=0.24と算出される(表10参照)。
【0103】
一方、最小血圧についても同様にして、表2及び図9で得られた最小血圧の測定データから、測定番号(i)=1〜4の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps4)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表7に示す。
【表7】
【0104】
表7より、Ps1〜Ps4のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=1であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=2であるため、振動回数Nは、N=2と算出される。また、Ps1〜Ps4から加算値Aは、A=20と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=20/88=0.23と算出される(表11参照)。
【0105】
<サンプルNo.3における血圧測定データの解析及び血管硬さの指標の算出>
次に、表3及び図10で得られた最大血圧の測定データから、上記したサンプルNo.1及びNo.2と測定回数を一致させるべく、測定番号(i)=1〜4の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps4)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表8に示す。
【表8】
【0106】
表8より、Ps1〜Ps4のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=2であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=1であるため、振動回数Nは、N=2と算出される。また、Ps1〜Ps4から加算値Aは、A=47と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=47/136=0.35と算出される(表10参照)。
【0107】
一方、最小血圧についても同様にして、表3及び図11で得られた最小血圧の測定データから、上記と同様の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps4)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表9に示す。
【表9】
【0108】
表9より、Ps1〜Ps4のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=2であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=1であるため、振動回数Nは、N=2と算出される。また、Ps1〜Ps4から加算値Aは、A=32と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=32/82=0.39と算出される(表11参照)。
【0109】
<サンプルNo.1〜No.3における血管硬さの評価>
サンプルNo.1〜No.3の最大血圧について、上記より算出された加算値A、血圧P0、比率R及び振動回数Nを表10に示し、振動回数Nと比率Rとの関係を図12に示す。
【表10】
【0110】
表10及び図12に示すように、サンプルNo.1〜No.3について、最大血圧の測定データから比率R及び振動回数Nを算出した結果、サンプルNo.2及びサンプルNo.3は、サンプルNo.1に比べて比率Rが大きく、振動回数Nも大きかった。この結果、サンプルNo.2及びサンプルNo.3の方が、サンプルNo.1よりも血管が柔らかい、換言すれば、サンプルNo.1の方が、サンプルNo.2及びサンプルNo.3よりも血管が硬いと評価できる。
【0111】
また、サンプルNo.2とサンプルNo.3とでは、共に振動回数Nは同じであるが、サンプルNo.3の方がサンプルNo.2よりも、比率Rが大きいため、サンプルNo.3の方がサンプルNo.2よりも血管が柔らかいと評価できる。
【0112】
次に、サンプルNo.1〜No.3の最小血圧について、上記より算出された加算値A、血圧P0、比率R及び振動回数Nを表11に示し、振動回数Nと比率Rとの関係を図13に示す。
【表11】
【0113】
表11及び図13に示すように、サンプルNo.1〜No.3について、最小血圧の測定データから比率R及び振動回数Nを算出した結果、サンプルNo.2及びサンプルNo.3は、サンプルNo.1に比べて比率Rが大きく、振動回数Nも大きかった。この結果、サンプルNo.2及びサンプルNo.3の方が、サンプルNo.1よりも血管が柔らかいと評価できる。
【0114】
また、サンプルNo.2とサンプルNo.3とでは、共に振動回数Nは同じであるが、サンプルNo.3の方がサンプルNo.2よりも、比率Rが大きいため、サンプルNo.3の方がサンプルNo.2よりも血管が柔らかいと評価できる。
【0115】
以上の結果、サンプルNo1〜サンプルNo.3では、サンプルNo.3、サンプルNo.2、サンプルNo.1の順に、血管が柔らかいと相対的に評価できることがわかった。また、最大血圧及び最小血圧の測定データのいずれを用いて血管硬さの指標を算出しても、血管硬さを評価し得ることがわかった。
【実施例2】
【0116】
<血圧測定データの取得>
実施例1と同様に、14℃に設定された待機室から19℃に設定された血圧測定室に移動すると同時に血圧計2により加圧及び減圧を繰り返して被測定者の血圧を測定して、血圧測定データ(サンプル)No.4を得た。
【0117】
このときの、サンプルNo.4における最初のカフ3の減圧開始から経過した時間t(分)、各測定時点での最大血圧Pmax(mmHg)、各測定時点での最小血圧Pmin(mmHg)、及び各測定時点のt=0からの順を示す測定番号(i)を、表12に示す。また、時間と最大血圧との関係を示すグラフを図14に、時間と最小血圧との関係を示すグラフを図15に示す。なお、本実施例では、サンプルNo.4を、実施例1のサンプルNo.3と比較することとした。
【表12】
【0118】
<サンプルNo.3における血圧測定データの解析及び血管硬さの指標の算出>
次に、前述の表3及び図10で得られた最大血圧の測定データから、測定番号(i)=1〜6の各測定時点において、実施例1と同様に、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1、Ps2、Ps3、Ps4、Ps5及びPs6)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表13に示す。
【表13】
【0119】
表13より、Ps1〜Ps6のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=2であり、Psi-1<0からPsi≧に変化した回数N2は、N2=2であるため、振動回数Nは、N=2と算出される。また、Ps1〜Ps6から加算値Aは、A=56と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=56/136=0.41と算出される(表17参照)。
【0120】
一方、最小血圧についても同様にして、表3及び図11で得られた最小血圧の測定データから、測定番号(i)=1〜6の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps6)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表14に示す。
【表14】
【0121】
表14より、Ps1〜Ps6のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=2であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=2であるため、振動回数Nは、N=2と算出される。また、P1〜P6から加算値Aは、A=42と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=42/82=0.51と算出される(表18参照)。
【0122】
<サンプルNo.4における血圧測定データの解析及び血管硬さの指標の算出>
次に、上記した表12及び図14で得られた最大血圧の測定データから、測定番号(i)=1〜6の各測定時点において、上記と同様にして、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps6)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表15に示す。
【表15】
【0123】
表15より、Ps1〜Ps6のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=1であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=2であるため、振動回数Nは、N=2と算出される。また、Ps1〜Ps6から加算値Aは、A=34と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=34/125=0.27と算出される(表17参照)。
【0124】
一方、最小血圧についても同様にして、表12及び図15で得られた最小血圧の測定データから、測定番号(i)=1〜6の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps6)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表16に示す。
【表16】
【0125】
表16より、Ps1〜Ps6のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=1であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=1であるため、振動回数Nは、N=1と算出される。また、Ps1〜Ps6から加算値Aは、A=11と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=11/74=0.15と算出される(表18参照)。
【0126】
<サンプルNo.3及びNo.4における血管硬さの評価>
サンプルNo.1〜No.3の最大血圧について、上記より算出された加算値A、血圧P0、比率R及び振動回数Nを表17に示し、振動回数Nと比率Rとの関係を図16に示す。
【表17】
【0127】
表17及び図16に示すように、サンプルNo.3及びNo.4について、最大血圧の測定データから比率R及び振動回数Nを算出した結果、サンプルNo.3は、サンプルNo.4と比較して、振動回数Nは同じであるが、比率Rが大きかった。この結果、サンプルNo.3の方が、サンプルNo.4よりも血管が柔らかいと評価できる。
【0128】
次に、サンプルNo.1〜No.3の最小血圧について、上記より算出された加算値A、血圧P0、比率R及び振動回数Nを表18に示し、振動回数Nと比率Rとの関係を図17に示す。
【表18】
【0129】
表18及び図17に示すように、サンプルNo.3及びNo.4について、最小血圧の測定データから比率R及び振動回数Nを算出した結果、サンプルNo.3は、サンプルNo.4と比較して、比率Rが大きく、振動回数Nも大きかった。この結果、サンプルNo.3の方が、サンプルNo.4よりも血管が柔らかいと評価できる。
【0130】
以上の結果、サンプルNo3及びサンプルNo.4では、サンプルNo.3、サンプルNo.4の順に、血管が柔らかいと相対的に評価できることがわかった。また、時間に対する最大血圧及び最小血圧の測定データのいずれを用いて血管硬さの指標を算出しても、血管硬さを評価できることがわかった。
【実施例3】
【0131】
<血圧測定データの取得>
本実施例では、実施例2のサンプルNo.4について、実施例2よりも測定間隔を短くして、血圧測定データを得た。
【0132】
このときの、サンプルNo.4におけるカフ3の減圧開始から経過した時間t(分)、各測定時点での最大血圧Pmax(mmHg)、各測定時点での最小血圧Pmin(mmHg)、及び各測定時点のt=0からの順を示す測定番号(i)を、表19に示す。
【表19】
【0133】
<サンプルNo.4における血圧測定データの解析及び血管硬さの指標の算出>
表19で得られた最大血圧の測定データから、実施例1及び実施例2と同様に、測定番号(i)=1〜12の各測定時点において、直前の測定時点との血圧の差分Psi(Ps1、Ps2、Ps3、・・・Ps11及びPs12)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表20に示す。
【表20】
【0134】
表20より、Ps1〜Ps12のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=4であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=4であるため、振動回数Nは、N=4と算出される。また、Ps1〜Ps12から加算値Aは、A=54と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=54/125=0.43と算出される(表22参照)。
【0135】
一方、最小血圧についても同様にして、表19で得られた最小血圧の測定データから、測定番号(i)=1〜12の各測定時点において、直前の測定時点との間で血圧の差分Psi(Ps1〜Ps12)を、Psi=Pi−Pi-1により、算出した。結果を表21に示す。
【表21】
【0136】
表21より、Ps1〜Ps12のうち、Psi-1≧0からPsi<0に変化した回数N1は、N1=4であり、Psi-1<0からPsi≧0に変化した回数N2は、N2=4であるため、振動回数Nは、N=4と算出される。また、Ps1〜Ps12から加算値Aは、A=53と算出されるため、P0に対するAの比率Rは、R=53/74=0.72と算出される(表23参照)。
【0137】
サンプルNo.4の最大血圧について、上記より算出された加算値A、血圧P0、比率R及び振動回数Nを表22に示し、サンプルNo.4の最小血圧について、上記より算出された加算値A、血圧P0、比率R及び振動回数Nを表23に示す。
【表22】
【0138】
【表23】
【0139】
表22、表23に示すように、測定時点を増加させることによって、より詳細に比率R及び振動回数Nを算出することができる。これにより、血管硬さを、より詳細に評価することが可能になると推察される。また、かかるサンプルNo.4と同様の測定間隔及び測定時間で、上記したサンプルNo.1〜No.3について比率R及び振動回数Nを算出することによって、No.1〜No.4についてより詳細な血管硬さの評価が可能になると推察される。
【0140】
また、サンプルNo.4と同様の測定間隔及び測定時間で、新たな血圧測定データを取得することによって、サンプルNo.4と新たに得られたサンプルとの間で、より詳細に血管硬さの評価が可能になると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明によれば、血管硬さを適切に評価することができる。
【符号の説明】
【0142】
1 血管硬さ評価システム
2 血圧計(血圧測定手段)
3 カフ
4 ポンプ
5 圧力センサ
6 制御部
7 記憶部
8 算出部(算出手段)
9 表示部
10 温度調整器(温度調整手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管の環境温度を所定温度に変化させる温度調整手段と、
前記血管を加圧した後減圧して経時的に血圧を測定する血圧測定手段と、
該血圧測定手段で測定された前記血圧における測定時点ごとの直前の測定時点からの変動量に基づいて血管硬さの指標を算出する算出手段と、を備える血管硬さ評価システム。
【請求項2】
前記血圧測定手段が、前記血管の加圧及び減圧を所定間隔で繰り返して経時的に前記血圧を測定することを特徴とする請求項1に記載の血管硬さ評価システム。
【請求項3】
前記温度調整手段は、前記環境温度を前記所定温度に上昇させることを特徴とする請求項1または2に記載の血管硬さ評価システム。
【請求項4】
前記算出手段が、前記測定時点ごとに順次、直前の測定時点との間で前記血圧の差分を算出し、算出された前記差分の絶対値の和に基づいて前記指標を算出すること特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の血管硬さ評価システム。
【請求項5】
前記算出手段が、前記測定時点において、前記差分が直前の測定時点と比較して0以上から0未満に変化した第1の回数と、0未満から0以上に変化した第2の回数と、に基づいて前記指標を算出することを特徴とする請求項4に記載の血管硬さ評価システム。
【請求項6】
前記温度調整手段が、前記所定温度を一定温度に維持し、
前記一定温度に維持された前記環境温度下で前記血圧が前記血圧測定手段により測定されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の血管硬さ評価システム。
【請求項7】
所定温度に変化させた血管の環境温度で、前記血管を加圧した後減圧して経時的に血圧を測定し、測定された前記血圧における測定時点ごとの直前の測定時点からの変動量に基づいて血管硬さの指標を算出する血管硬さ評価方法。
【請求項8】
前記血管の加圧及び減圧を所定間隔で繰り返して経時的に前記血圧を測定することを特徴とする請求項7に記載の血管硬さ評価方法。
【請求項9】
前記環境温度を前記所定温度に上昇させることを特徴とする請求項7または8に記載の血管硬さ評価方法。
【請求項10】
前記測定時点ごとに順次、直前の測定時点との間で前記血圧の差分を算出し、算出された前記差分の絶対値の和に基づいて前記指標を算出することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の血管硬さ評価方法。
【請求項11】
前記測定時点において、前記差分が直前の測定時点と比較して0以上から0未満に変化した第1の回数と、0未満から0以上に変化した第2の回数と、に基づいて前記指標を算出することを特徴とする請求項10に記載の血管硬さ評価方法。
【請求項12】
前記所定温度を一定温度に維持し、前記一定温度に維持された前記環境温度下で前記血圧を測定することを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載の血管硬さ評価方法。
【請求項1】
血管の環境温度を所定温度に変化させる温度調整手段と、
前記血管を加圧した後減圧して経時的に血圧を測定する血圧測定手段と、
該血圧測定手段で測定された前記血圧における測定時点ごとの直前の測定時点からの変動量に基づいて血管硬さの指標を算出する算出手段と、を備える血管硬さ評価システム。
【請求項2】
前記血圧測定手段が、前記血管の加圧及び減圧を所定間隔で繰り返して経時的に前記血圧を測定することを特徴とする請求項1に記載の血管硬さ評価システム。
【請求項3】
前記温度調整手段は、前記環境温度を前記所定温度に上昇させることを特徴とする請求項1または2に記載の血管硬さ評価システム。
【請求項4】
前記算出手段が、前記測定時点ごとに順次、直前の測定時点との間で前記血圧の差分を算出し、算出された前記差分の絶対値の和に基づいて前記指標を算出すること特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の血管硬さ評価システム。
【請求項5】
前記算出手段が、前記測定時点において、前記差分が直前の測定時点と比較して0以上から0未満に変化した第1の回数と、0未満から0以上に変化した第2の回数と、に基づいて前記指標を算出することを特徴とする請求項4に記載の血管硬さ評価システム。
【請求項6】
前記温度調整手段が、前記所定温度を一定温度に維持し、
前記一定温度に維持された前記環境温度下で前記血圧が前記血圧測定手段により測定されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の血管硬さ評価システム。
【請求項7】
所定温度に変化させた血管の環境温度で、前記血管を加圧した後減圧して経時的に血圧を測定し、測定された前記血圧における測定時点ごとの直前の測定時点からの変動量に基づいて血管硬さの指標を算出する血管硬さ評価方法。
【請求項8】
前記血管の加圧及び減圧を所定間隔で繰り返して経時的に前記血圧を測定することを特徴とする請求項7に記載の血管硬さ評価方法。
【請求項9】
前記環境温度を前記所定温度に上昇させることを特徴とする請求項7または8に記載の血管硬さ評価方法。
【請求項10】
前記測定時点ごとに順次、直前の測定時点との間で前記血圧の差分を算出し、算出された前記差分の絶対値の和に基づいて前記指標を算出することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の血管硬さ評価方法。
【請求項11】
前記測定時点において、前記差分が直前の測定時点と比較して0以上から0未満に変化した第1の回数と、0未満から0以上に変化した第2の回数と、に基づいて前記指標を算出することを特徴とする請求項10に記載の血管硬さ評価方法。
【請求項12】
前記所定温度を一定温度に維持し、前記一定温度に維持された前記環境温度下で前記血圧を測定することを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載の血管硬さ評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
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【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−224080(P2011−224080A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95134(P2010−95134)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000182373)酒井医療株式会社 (46)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000182373)酒井医療株式会社 (46)
【Fターム(参考)】
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