説明

血糖上昇抑制剤

【課題】血糖上昇抑制剤を提供すること。
【解決手段】難消化性成分の含有量が30〜60重量%の酸添加焙焼デキストリンを、酸の存在下に加水分解して得られる難消化性水飴及び/又は粉飴を有効成分とする血糖上昇抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸添加焙焼デキストリンを酸の存在下に加水分解して得られる難消化性水飴及び/又は粉飴を食品に添加、または食品成分の一部と置換することにより食品に生理作用を付与する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年日本においても生活水準の向上に伴い、食生活も変化し欧米の水準に近付いてきた。この結果として平均寿命が延長し、急速な高齢化現象が起きたことから疾病構造が変化して成人病が著しく増加したために、健康志向が飛躍的に増大している。この中で生体調節機能を有する食品素材の例として、食物繊維やオリゴ糖が便秘の改善を中心とした生体調節機能を有するところから、食品の機能を高める素材として注目を集めている。
これらの食物繊維やオリゴ糖のような難消化性の物質は、消化管内で種々の挙動を示し、生体に対して生理効果を発現する。まず、上部消化管において、水溶性の食物繊維は食物の移動速度の低下をもたらし、栄養素の吸収遅延が起こる。
例えば、糖の吸収遅延は血糖値の上昇を抑制し、それに伴いインシュリン節約などの効果を発現する。また、胆汁酸の排泄を促進することにより、体内のステロールグループが減少し、血清中のコレステロールが低下するなどの効果も現れる。その他、体内の内分泌系を介しての生理効果も報告されている。
【0003】
また、これらの難消化性物質の特徴は、小腸までの消化吸収を免れ、大腸へ達することである。大腸へ達したオリゴ糖や食物繊維の一部は、腸内細菌により資化されて短鎖脂肪酸、腸ガス、ビタミンなどを産生する。短鎖脂肪酸による腸内環境の酸性化は整腸作用をもたらし、また吸収された短鎖脂肪酸は代謝されエネルギーになると同時にコレステロール合成を阻害することも報告されている。
難消化性物質として、澱粉を原料として製造される難消化性デキストリン(食物繊維含有デキストリン)が知られており、水溶性であることから広範囲の食品に使用することができる。
特開平2−145169号には、焙焼デキストリンにα−アミラーゼを作用させて難消化性デキストリンを製造する方法が記載されている。
【0004】
特開平2−154664号には、焙焼デキストリンにα−アミラーゼにつづいて、グルコアミラーゼを作用させ、クロマト分画で食物繊維分を採取して食物繊維高含有デキストリンを製造する方法、クロマト分画前にトランスグルコシダーゼを作用させて食物繊維を増加させる方法などが記載されている。
特開平6−166622号には、難消化性デキストリンを砂糖などの食品に添加することによって、食品に肥満、耐糖能障害を予防する作用を付与する方法が記載されている。
これらの難消化性デキストリンは低甘味であり、吸湿性が低く、濃厚感を付与することができるが、一方では甘味が低いために他の甘味料との併用が必要な場合がある。この場合には、pHが中性の食品の製造中や保存中に褐変が起こり易く、また煮詰め時の焦げ付きも起こり易いなどの欠点を有している。
【0005】
そこで前記の水溶性食物繊維が有する欠点を改善し、単に低エネルギーだけでなくその保有する生理効果を有し、煮詰めができて広範囲の食品に使用できる難消化性物質は開発・商品化されていないために、各種の食品業界からその出現が切望されている。
焙焼デキストリンの酸加水分解に関しては、特開平4−135495号に無機酸添加焙焼デキストリンの水溶液をそのままか、または更に無機酸または有機酸を添加して加圧加熱、中和してグルコースの生成量が約10%の酸加水分解物を得て、これに糖化型アミラーゼを作用させて難消化性多糖類と消化性糖類に糖化し、次に難消化性多糖類を分離する方法が記載されている。特開平4−135495号にはさらに、この難消化性多糖類が低粘性で低カロリーであるため、摂取カロリーや糖類の摂取を制限する人の食餌療法に用いられること、食物繊維として健康維持のための食品素材として利用されることが記載されているが、難消化性成分とDE、分子量との相関や健康維持のための生理作用の詳細については何も記載されていない。
【0006】
また特開平7−170938号には、焙焼デキストリンを酸加水分解して、そのDEと難消化性成分の平均分子量が特定の条件を満たしたときに、酸加水分解前にはほとんど見られなかったビフィズス菌選択増殖活性が強く発現することが記載されている。しかし酸加水分解前の焙焼デキストリンが有する脂質代謝の改善作用や、血糖上昇を抑制する作用が酸加水分解によって、どの様に変化するかについては、全く記載されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、脂質代謝の改善作用と血糖上昇の抑制作用などの生理作用を有する食品を開発することである。さらに詳細には、本発明の目的は、低エネルギーであることに加えて各種の生理効果を有し、且つ適度の甘味と粘性を有し、煮詰めができ、さらに他の吸湿性が高くて保形性が悪い糖アルコール類と混合してこれらの欠点を改善することができる難消化性水飴及び/又は粉飴を得ることである。
本発明の他の目的は、上記難消化性水飴及び/又は粉飴を食品に添加して、食品に生理作用を付与する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは難消化性成分を30〜60重量%含有する焙焼デキストリンの酸加水分解物を食品の構成成分の一部とすることによって、食品に脂質代謝の改善作用および、砂糖などと一緒に摂取したときに、血糖の上昇を抑制する作用を付与することができるとの知見を得て本発明を完成したのである。
本発明は、難消化性成分の含有量が30〜60重量%の酸添加焙焼デキストリンを、酸の存在下に加水分解して得られる難消化性水飴及び/又は粉飴を食品に添加または食品の構成成分の一部と置換することを特徴とする、食品に生理作用を付与する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、食品にその食品本来の性質、特徴を損なうことなく生理作用を付与出来るので、得られる食品は極めて優れた健康食品となるという効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
澱粉などの糖質は、生体内の酵素で分解されてできた単糖だけが、上部消化管で吸収され、二糖類以上の糖は吸収されずに大腸に達する。従って、本発明の難消化性水飴及び/又は粉飴を含有する食品では、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼで加水分解した後のグルコース以外の部分が、難消化性成分として、上部消化管で吸収されずに大腸まで達し、そこで生理作用を発揮するので、ある程度の難消化性成分の含量が必要である。
本発明の基本的な特徴は、澱粉に酸、好ましくは無機酸を添加し、低水分状態で加熱して生成する焙焼デキストリンを原料として用い、その水溶液に無機酸または有機酸を添加し、加圧加熱して加水分解せしめるという方法で製造された難消化性水飴及び/又は粉飴を使用することにある。この原料焙焼デキストリン中の難消化性成分の含有量は30〜60重量%である。すなわちこの原料焙焼デキストリンをα−アミラーゼ、グルコアミラーゼで加水分解した後の難消化性成分の含有量は、30〜60重量%である。得られた難消化性水飴及び/又は粉飴のDEは、好ましくは20〜50、さらに好ましくは30〜50であり、難消化性水飴及び/又は粉飴中の難消化性成分の含有量は、好ましくは26〜50重量%である。本発明は、この難消化性水飴及び/又は粉飴が、生理作用を有するという発見に基づくものである。
【0011】
本発明に使用される焙焼デキストリンの原料である澱粉としては、特に限定されないが、例えばコーン(とうもろこし)、ワキシー・コーン(もちとうもろこし)、馬鈴薯、甘藷、タピオカ、小麦、大麦、米、等の澱粉が使用できる。
以下上記方法について更に詳細に説明する。
澱粉に対して鉱酸(例えば、塩酸、硝酸、硫酸)、好ましくは塩酸を澱粉100重量部に対して、例えば、1重量%の塩酸水溶液として3〜10重量%添加、加熱処理して、中間物質である焙焼デキストリンを得る。この加熱処理の前に澱粉と鉱酸の水溶液を均一に混合するために、適当なミキサー中で攪拌、熟成させてから、好ましくは100℃〜120℃程度で予備乾燥して、混合物中の水分を5重量%程度まで減少させることが好ましい。加熱処理は従来技術の加酸焙焼デキストリン(白色デキストリン、黄色デキストリン)の加熱条件とは異なり、例えば、140〜200℃で10分〜120分、好ましくは20分〜120分が適当である。加熱処理の温度は高い方が目的生成物中の難消化性成分の含量が増加するが、180℃付近から着色物質が増加するので、より好ましくは150℃前後である。
【0012】
加熱装置を選択することによって高温短時間の反応を行うことも可能であるので、例えばエクストルーダーのようにごく短時間に均一な反応を行うことができる装置を用いれば、効率的に加熱処理することができる。また、粉末状態での反応であるから大規模生産の場合は、加熱条件を変更する必要もあるので、加熱処理後の製品の品質を検討した上で、適宜加熱条件を変更することが望ましい。
このようにして得られた焙焼デキストリンは水に易溶性であるので、水を加えて攪拌すると水溶液が得られる。この水溶液をそのままか、または酸、特に塩酸や蓚酸等を加えて、pHを1.6〜2.0に調整し、120〜140℃で15〜、30分間加圧加熱を行って加水分解させる。このようにして得られた酸加水分解物は、中和後、常法に従って脱色、脱塩、濃縮して難消化性水飴とするか、またはスプレードライして難消化性粉飴とすることができる。
【0013】
本発明において、後記する測定方法によって求められる出発原料の焙焼デキストリン中の難消化性成分の含量は酸の添加量、焙焼時間により変化するが、難消化性成分が60重量%以上のものについては得られた難消化性水飴及び/又は粉飴の着色やこげがはなはだしくなり、製品の品質が低下して食品用として不適当である。また、本発明の効果を発現させるためには、難消化性水飴及び/又は粉飴の1日当りの摂取量は、難消化性成分換算で約4g以上であることが望ましい。従って焙焼デキストリン中の難消化性成分の含量が30重量%以下のものでは、大腸に達する難消化性成分の量が少なく、かなり大量に摂取することが必要となるため、コストが高くなり、添加できる食品が限定される。従って本発明において生理作用を発揮するのは原料焙焼デキストリン中の難消化性成分の含量が30〜60重量%の範囲内のものである。
【0014】
次に焙焼デキストリンを酸加水分解することによって、難消化性成分の含量が低下するが酸加水分解後の含量が26〜50重量%の範囲内であることが好ましい。また酸加水分解によって後記するDEの値が上昇するが、このDEは好ましくは約20〜50の範囲内、さらに好ましくは約30〜50の範囲内のものが生理作用を強く発揮する。さらに酸加水分解物中の難消化性成分の平均分子量が600〜1200であるときに生理作用を強く発揮する。
この難消化性水飴及び/又は粉飴を食品に添加するか、または食品の成分の1部と置換することによって、食品に脂質代謝の改善作用および、砂糖などと一緒に摂取したときに、血糖の上昇を抑制する作用を付与することができる。その添加量または置換量は、その食品の1食分あたり難消化性成分換算で約4g以上であることが好ましい。ただし難消化性成分が生理作用に及ぼす影響は個人差があることから、効果を見ながら適宜増減するのが良い。
【0015】
本発明に用いられる難消化性水飴及び/又は粉飴は殆ど全ての食品に使用することができる。この明細書において「食品」とは、ヒトの食品のみならず、哺乳動物、鳥類、魚類、特に家畜、家禽等の飼料、ペットフードなどを総称するものである。
本発明の難消化性水飴及び/又は粉飴は、澱粉を原料とした水溶性のものであり、食物繊維を含有し、低カロリー増量剤としても食品に使用できることから、従来デキストリンやマルトデキストリン、水飴、還元水飴、還元麦芽糖水飴などが使用できる食品の全てに対して、これを添加し又はその一部を置換することができる。
本発明の難消化性水飴及び/又は粉飴を使用して、食品本来の特徴を変化させることなく、生理作用を付与できる食品として好ましいものは、飲料類、デザート類、菓子類、米菓、冷菓、ジャム、畜肉製品、水産練製品であり、中でも果汁飲料、炭酸飲料、乳飲料、乳酸飲料、プリン、ゼリー、キャンディー、ビスケット、ケーキ、カステラ、アイスクリーム、シャーベット、ジャム、畜肉製品、水産練製品が最も好ましい食品である。
【0016】
次に本発明に使用される各定量法及び試験法を詳細に記す。なお表中に%とあるのは重量%である。
〔定量法〕
難消化性成分含量 :プロスキーらの方法により加水分解を行い高速液体クロマトグラフィー( 日立D-2000, カラムMCIGEL-CK08EC)により測定した。
グルコース量 :ピラノースオキシダーゼ法により測定した。
分子量 :高速液体クロマトグラフィー法により測定した。
構造 :箱守らの方法によりメチル化を行いGC分析を行った。
DE :ウィルシュテッター・シューデル法により測定した。
糖組成 :高速液体クロマトグラフィー(日立 D-2000 ,カラムMCIGEL-CK04SS)により測定した。
消化性試験1 :小腸粘膜酵素法により測定した。
消化性試験2 :プロスキー法により測定した。
甘味度 :官能検査法により測定した。
浸透圧 :10重量%溶液をOSMOTRON−10型により測定した。
氷点降下度 :10重量%溶液をOSMOTRON−10型により測定した。
粘性 :30重量%濃度でBM型粘度計により測定した。
褐変反応 :10%重量溶液に1重量%のグリシンを加え、pH4.5及び6.5で100℃で、30分、60分、150分間加熱して光電比色計で吸光度を測定した。
水分 :フィルム法により測定した。
見掛比重 :ホイッピング時の100ml容重量を測定した。
容積 :菜種で測定した。
硬度 :レオメーターで測定した。
弾力性 :レオメーターで測定した。
ゲル硬度 :レオメーターで測定した。
付着性 :レオメーターで測定した。
離水率 :試料をロートのグラスウール上に置き、落下する液量から算出した。
吸湿率 :製造時の水分で保存後の水分増加量(重量%)を除して、100を乗じて算出した。
嗜好性 :下記の採点法で測定し、結果を危険率5%で有意差検定を行った。
非常に良い +4
かなり良い +3
良い +2
やや良い +1
基準(対照区) 0
やや劣る −1
劣る −2
かなり劣る −3
非常に劣る −4
【0017】
(参考例1)
コーンスターチ20kgに500ppmの塩酸を添加して、水分15%に予備乾燥後、140℃で60分間加熱し、白度65、難消化性画分含量53%の焙焼デキストリンを得た。さらに、この焙焼デキストリン15kgを水に溶解し30%溶液とし、その約50Kgに塩酸を添加してpH1.8としたのち2.0Kg/cm2 の加圧加熱条件下で加水分解しDE35の分解物を得た。中和後、活性炭による脱色、イオン交換樹脂による脱塩を行い、濃縮してスプレー乾燥を行い難消化性粉飴約12Kgを得た。
【0018】
(比較例1)
残りの約15Kgの焙焼デキストリン水溶液を水酸化ナトリウムでpH6.0に調整し、α−アミラーゼ(ターマミル50L:商品名、ノボ・ノルディスク・バイオインダストリー社製造)を固形分に対して0.2重量%添加して、85℃に昇温して1時間加水分解を行った。次に2.0Kg/cm2 の加圧加熱条件下で5分間加熱してα−アミラーゼを失活させ、同様に精製、濃縮してスプレー乾燥を行い難消化性デキストリン約3.5Kgを得た。
【0019】
(実験例1)
比較例1の難消化性デキストリンと参考例1の難消化性粉飴について、DE、難消化性成分、各種のグルコシド結合の含量、及び小腸粘膜酵素とプロスキー法による消化後に生成グルコース量、難消化性成分、各種のグルコシド結合の含量を測定した。
この結果を表1に示す。
【0020】
(表1)
〔難消化性デキストリンとその酸加水分解後の構造と消化性の変化〕
難消化性 難消化性 消化性試験
項目/試料 デキストリン 粉飴 小腸粘膜酵素 プロスキー法
DE 3.0 30.5
生成グルコース(%) − − 58.6 58.3
難消化性成分(%) 53.0 − 47.3 47.5
グルコシド結合(%)
Terminal 27.5 34.5 67.4 69.5
1 →4 38.3 46.2 13.0 11.8
1 →6 7.8 5.3 7.7 5.9
1 →4,1 →6 10.4 4.9 3.3 4.0
1 →3 6.3 4.3 6.0 5.5
1 →4,1 →3 1.8 0.8 0.6 0.5
1 →2,1 →4 2.7 1.3 0.9 0.8
その他の結合 5.1 2.7 1.1 2.0
【0021】
(実験例2)
難消化性水飴及び/又は粉飴がラットの糖質代謝に及ぼす影響を検討する目的で、生後8週齢のSD系雄性ラットを対象にして、参考例1の難消化性粉飴の単回経口投与を行い、投与後120分間にわたり血糖値の変化を測定した。その結果を図1及び図2に示す。
ショ糖1.5g/Kg投与時の血糖頂値は負荷後30分にみられ、160.4±1.6mg/dlに達したのに対し、難消化性粉飴0.15g/Kg投与時の頂値は91.0±2.8mg/dlであった。また、ショ糖に難消化性粉飴を0.0375〜0.15g/Kg添加して投与したとき、ショ糖単独時(血糖曲線下面積=100.3±4.0mg/120分)に比較して、用量依存的に血糖値は低下して前者の57〜76%を示し、低下の程度は既に耐糖能改善効果が知られている難消化性デキストリンの2倍の効果であった。
【0022】
(実験例3)
難消化性水飴及び/又は粉飴がラットの脂質代謝に及ぼす影響を検討する目的で、生後3週齢のSD系雄性ラットを高ショ糖飼料(ショ糖64.5%、カゼイン25%、コーン油5%、MM−2ミネラル混合4%、Harperビタミン混合1%、塩化コリン0.2%、ビタミンE0.05%からなる粉末飼料)で2週間馴化飼育後、無作為に6群に分けた。第1群(10匹)は一夜絶食後、体重、体脂肪率(インピーダンス法)を測定した。第2群(コントロール:12匹)は高ショ糖飼料をそのまま、第3群(12匹)は高ショ糖飼料に糖質、脂質代謝の改善効果が知られている比較例1の難消化性デキストリンを5%添加したもの、第4群及び第5群(各12匹)は高ショ糖飼料に参考例1の難消化性粉飴を2.5%及び5%添加した飼料で、それぞれ4週間飼育した。第2〜5群は飼育期間終了後、一夜絶食後に体重と体脂肪率及び血清成分を測定した。結果を表2に示す。ただし、数値に下線をつけたものはコントロールに対して危険率5%で有意差があることを示す。
【0023】
この結果、本実験条件下において、難消化性デキストリンと難消化性粉飴ともに糖質及び脂質代謝の改善効果が認められ、体脂肪率、総コレステロール値、中性脂肪値及びトリグリセライドはコントロール群に比較して有意に低値を示した。難消化性粉飴では、低下の程度は用量に依存して増加した。
【0024】
(表2)
飼育期間 0週間 4週間
区分 コントロール 難消化性 難消化性粉飴
デキストリン 5% 2.5% 5%
体重増加 370.1±8.4 363.3±10.2 389.9±12.9 387.3±4.9
飼料効率 0.35±0.01 0.33±0.01 0.36±0.01 0.35±0.1
体脂肪率(%) 21.7±0.3 30.0±1.1 23.6±0.6 25.4±1.0 23.7±0.7
総コレステロール(mg/dl)
87.3±4.4 105.0±4.5 89.9±3.3 96.3±2.4 90.2±3.1
HDL コレステロール (mg/dl)
52.3±2.8 83.2±4.5 72.3±4.3 81.2±4.0 79.9±4.7
HDL/総コレステロール (%)
60.1±1.7 76.8±1.2 76.4±3.0 81.9±2.0 83.9±2.1
トリグリセライド(mg/dl)
34.2±4.6 88.0±4.8 56.0±6.0 65.6±9.0 54.2±5.7
【0025】
(実験例4)
参考例1の難消化性粉飴と他の糖質の基本的な物性を比較測定した結果を図3〜図8に示す。
図3〜8から明らかなように難消化性水飴及び/又は粉飴は、前記生理作用の有無を除けば、従来の水飴及び/又は粉飴とほぼ同じ物性を有するので、従来の水飴や粉飴等と同じ用途に同じ様に使用することが出来るものである。
【0026】
(参考例2)
市販のコーンスターチに500ppmの塩酸を添加し、均一に混合後、150℃で60分間加熱して難消化性成分が53.2%の焙焼デキストリンを得た。この焙焼デキストリンを水に溶解して30%の溶液とし、10%塩酸水溶液を加えてpHを1.8に調整した。溶液をオートクレーブに移して121℃で30分間加熱して加水分解物を得た。この加水分解物を活性炭脱色、濾過に続いてイオン交換樹脂で脱塩処理後、濃度70%に濃縮してDE36.9で難消化性成分の含量が固形分当り46.2%の難消化性水飴を得た。
【実施例】
【0027】
次に参考例2で製造した難消化性水飴を用いて、食品に生理作用を付与する方法を、実施例によって詳細に説明する。実施例中に試料とあるのは難消化性水飴、難消化性デキストリン及び市販水飴の総称である。
【0028】
(実施例1)
表3の配合で水に糖及び他の原料を分散し、加熱溶解して一旦沸騰させ、赤生餡を2回に分けて加え、その都度沸騰させて所定の重量まで煮詰めて練り餡を製造した。
【0029】
(表3)
対 照 区 試 験 区
原料名 重量(g) % 重量(g) %
赤生餡 500 41.7 500 41.7
グラニュー糖 380 31.7 380 31.7
市販水飴 27 2.3 − −
難消化性水飴 − − 29 2.4
水 293 24.3 291 24.2
合計 1200 100 1200 100
製品の分析値、保湿性と対照区に対する嗜好性の差異を表4に示す。
【0030】
(表4)
項目 対 照 区 試 験 区
製品の状態
水分 33.9 33.8
pH 7.4 7.4
硬度 120 117
付着性 51 53
製品の保湿性
水分 3日後 33.5 33.4
6日後 33.1 33.1
10日後 32.7 32.4
水分減少率 3日後 1.2 1.2
6日後 2.4 2.1
10日後 3.5 4.1
製品の嗜好性
口当り − 有意差なし
口どけ − 有意差なし
香り − 有意差なし
甘味 − 有意差なし
うまみ − 有意差なし
あと味 − 有意差なし
製造操作、製品状態、保湿性及び嗜好性に対して難消化性水飴と市販水飴との間に差異は認められなかった。
【0031】
(実施例2)
表5の配合で粉末寒天に加水し、加熱溶解した後、糖、試料を加えて溶解して沸騰させ、赤生餡を加えて所定の重量まで煮詰め、羊羹船に流して冷却、凝固させて練羊羹を製造した。
【0032】
(表5)
対 照 区 試 験 区
原料名 重量(g) % 重量(g) %
赤生餡 400 33.1 400 33.1
グラニュー糖 475 39.3 475 39.3
粉末寒天 6 0.5 6 0.5
市販水飴 33 2.7 − −
難消化性水飴 − − 36 3.0
水 296 24.4 293 24.2
合計 1210 100 1210 100
製品の分析値、保湿性と対照区に対する嗜好性の差異を表6に示す。
【0033】
(表6)
項目 対 照 区 試 験 区
製品の状態
水分 33.9 33.8
pH 7.4 7.4
硬度 120 117
付着性 51 53
製品の保湿性
水分 3日後 33.5 33.4
6日後 33.1 33.1
10日後 32.7 32.4
晶出性 両者とも2日目より切口に晶出したが、
両者間に大差はなかった
製品の嗜好性
口当り − 有意差なし
口どけ − 有意差なし
香り − 有意差なし
甘味 − 有意差なし
うまみ − 有意差なし
あと味 − 有意差なし
製造操作、製品状態、保湿性及び嗜好性に対して難消化性水飴と市販水飴との間に差異は認められなかった。
【0034】
(実施例3)
表7の配合でシュガーバッター法で生地を調製し、パウンド型に生地を250g宛分注して165℃±5℃で30分間焙焼してバターケーキを製造した。


【0035】
(表7)
対 照 区 試 験 区
原料名 重量(g) % 重量(g) %
上白糖 475 26.3 475 26.2
小麦粉(薄力) 400 22.1 400 22.1
小麦粉(強力) 100 5.5 100 5.5
全卵 500 27.7 500 27.6
無塩マーガリン 300 16.6 300 16.6
市販水飴 33 1.8 − −
難消化性水飴 − − 36 2.0
合計 1808 100 1811 100
生地の状態、製品の分析値と対照区に対する嗜好性の差異を表8に示す。
【0036】
(表8)
項目 対 照 区 試 験 区
生地の状態
見掛比重 0.851 0.848
安定性 96.8 97.1
製品の状態
水分(%) 26.0 25.9
容積(ml/100g) 254 258
硬度(g) 570 566
弾力性(%) 90.8 91.2
製品の嗜好性
口当り − 有意差なし
口どけ − 有意差なし
香り − 有意差なし
甘味 − 有意差なし
うまみ − 有意差なし
あと味 − 有意差なし
製造操作、製品状態、保湿性及び嗜好性に対して難消化性水飴と市販水飴との間に差異は認められなかった。
【0037】
(実施例4)
表9の配合で1)牛乳にグラニュー糖、試料を加え加熱沸騰させて室温まで冷却しておく。2)卵黄をほぐし、擦りまぜながら1)を加えてよく混合する。予めほぐし、充分クリーミングした無塩マーガリンに2)を徐々に加えてさらにクリーミングし、最後にラム酒を混合してバタークリームを製造した。
【0038】
(表9)
対 照 区 試 験 区
原料名 重量(g) % 重量(g) %
グラニュー糖 190 20.5 190 20.5
卵黄 120 12.9 120 12.9
無塩マーガリン 400 43.1 400 43.1
牛乳 200 21.6 200 21.5
ラム酒 5 0.5 5 0.5
市販水飴 13 1.4 − −
難消化性水飴 − − 14 1.5
合計 928 100 929 100
製品の分析値と対照区に対する嗜好性の差異を表10に示す。
【0039】
(表10)
項目 対 照 区 試 験 区
製品の状態
見掛比重 0.57 0.56
水分(%) 29.2 29.3
硬度(g) 521 524
付着性(g) 286 253
離水率(%) 0.0 0.0
製品の嗜好性
口当り − 有意差なし
口どけ − 有意差なし
香り − 有意差なし
甘味 − 有意差なし
うまみ − 有意差なし
あと味 − 有意差なし
製造操作、製品状態、保湿性及び嗜好性に対して難消化性水飴と市販水飴との間に差異は認められなかった。
【0040】
(実施例5)
表11の配合でシュガーバッター法によって絞り生地を調製し、絞り袋、口金を用いて成型し、160℃で10分間焙焼してクッキーを製造した。難消化性デキストリンを用いた対照区2では、難消化性デキストリンが殆ど甘味がないので、市販水飴を甘味源として用いた。
【0041】
(表11)
対 照 区 1 試 験 区 対 照 区 2
原料名 重量(g) % 重量(g) % 重量(g) %
上白糖 228 24.1 228 24.1 211 22.3
小麦粉(薄力) 300 31.7 300 31.7 300 31.8
全卵 150 15.9 150 15.9 150 15.9
無塩マーガリン 180 19.0 180 19.0 180 19.0
ベーキングパウダー 3 0.3 3 0.3 3 0.3
市販水飴 16 1.7 − − 16 1.7
難消化性水飴 − − 17 1.8 − −
難消化性デキストリン− − − − 17 1.8
水 68 7.3 67 7.2 68 7.2
合計 945 100 945 100 945 100
製品の分析値と対照区に対する嗜好性の差異を表12に示す。
【0042】
(表12)
項目 対 照 区 1 試 験 区 対 照 区 2
製品の状態
水分(%) 2.09 2.11 2.30
比容積(ml/100g) 179 183 167
硬度(g) 155 160 171
水分(%、7日後) 3.65 3.54 4.15
吸湿率(%、7日後) 74.6 67.8 80.4
製品の嗜好性
口当り − 有意差なし 劣る
口どけ − 有意差なし 有意差なし
香り − 有意差なし 有意差なし
甘味 − 有意差なし 有意差なし
うまみ − 有意差なし 有意差なし
あと味 − 有意差なし 有意差なし
製造操作、製品状態、保湿性及び嗜好性に対して難消化性水飴と市販水飴との間に差異は認められなかったが、難消化性デキストリンを添加したものは、比容積が低下して硬度が増加していることから明らかなように、製品の組織がしまる傾向であり、このために口あたりと口どけが劣る傾向を示した。また、貯蔵による吸湿がやや増加した。従って、難消化性デキストリンよりも難消化性水飴の方が優れた結果を与えることが認められた。
【0043】
(実施例6)
表13の配合で1)牛乳に上白糖、試料を加えて加熱沸騰させてから、40℃以下に冷却する。2)全卵をほぐし、1)を徐々に加えながら分散し、裏ごししてカップに分注し、蒸し器で8分間蒸してカスタードプディングを製造した。
【0044】
(表13)
対 照 区 試 験 区
原料名 重量(g) % 重量(g) %
上白糖 171 16.2 171 16.2
全卵 335 31.8 335 31.8
牛乳 500 47.5 500 47.5
市販水飴 12 1.1 − −
難消化性水飴 − − 13 1.2
水 35 3.4 34 3.3
合計 1053 100 1053 100
製品の分析値と対照区に対する嗜好性の差異を表14に示す。
【0045】
(表14)
項目 対 照 区 試 験 区
製品の状態
水分(%) 66.9 29.3
ゲル強度(g) 125 524
付着性(g) 51 253
離水率(%) 1日後 3.8 4.1
3日後 8.2 8.9
5日後 10.9 11.3
7日後 11.9 12.2
製品の嗜好性
口当り − 有意差なし
口どけ − 有意差なし
香り − 有意差なし
甘味 − 有意差なし
うまみ − 有意差なし
あと味 − 有意差なし
製造操作、製品状態、保湿性及び嗜好性に対して難消化性水飴と市販水飴との間に差異は認められなかった。
【0046】
(実施例7)
表15の配合でゼラチンに加水し、加熱溶解させてグラニュー糖、試料を加えて溶解沸騰させた後、カップに分注して冷却凝固させてワインゼリーを製造した。
【0047】
(表15)
対 照 区 試 験 区
原料名 重量(g) % 重量(g) %
グラニュー糖 119 10.2 119 10.2
ゼラチン 45 3.8 45 3.8
白ワイン 200 17.1 200 17.1
市販水飴 8 0.7 − −
難消化性水飴 − − 9 0.8
水 798 68.2 797 68.1
合計 1170 100 1170 100
製品の分析値と対照区に対する嗜好性の差異を表16に示す。
【0048】
(表16)
項目 対 照 区 試 験 区
製品の状態
水分(%) 84.6 84.2
ゲル強度(g) 388 378
付着性(g) 46 45
離水率(%) 1日後 0.0 0.0
3日後 0.0 0.0
5日後 2.8 3.0
7日後 3.9 4.1
製品の嗜好性
口当り − 有意差なし
口どけ − 有意差なし
香り − 有意差なし
甘味 − 有意差なし
うまみ − 有意差なし
あと味 − 有意差なし
製造操作、製品状態、保湿性及び嗜好性に対して難消化性水飴と市販水飴との間に差異は認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】ラットに、参考例1の難消化性粉飴及び/又はショ糖を経口投与した際の、血糖値の変化を示すグラフである。
【図2】ラットに、参考例1の難消化性粉飴及び/又はショ糖を経口投与した際の、血糖曲線下面積を示すグラフである。
【図3】参考例1の難消化性粉飴、市販水飴、ショ糖、グルコース及びマルトースの相対的な甘味度を示すグラフである。
【図4】参考例1の難消化性粉飴、市販水飴及びショ糖水溶液の浸透圧を示すグラフである。
【図5】参考例1の難消化性粉飴、市販水飴及びショ糖水溶液の氷点降下度を示すグラフである。
【図6】参考例1の難消化性粉飴、市販水飴及びショ糖水溶液の粘度を示すグラフである。
【図7】参考例1の難消化性粉飴、市販水飴及びグルコースの褐変反応(pH4.5)の結果を示すグラフである。
【図8】参考例1の難消化性粉飴、市販水飴及びグルコースの褐変反応(pH6.5)の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難消化性成分の含有量が30〜60重量%の酸添加焙焼デキストリンを、酸の存在下に加水分解して得られる難消化性水飴及び/又は粉飴を有効成分とする血糖上昇抑制剤。
【請求項2】
難消化性水飴及び/又は粉飴中の難消化性成分の含有量が26〜50重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の血糖上昇抑制剤。
【請求項3】
難消化性水飴及び/又は粉飴のDEが20〜50であることを特徴とする、請求項2に記載の血糖上昇抑制剤。
【請求項4】
難消化性水飴及び/又は粉飴のDEが30〜50であることを特徴とする、請求項2に記載の血糖上昇抑制剤。
【請求項5】
難消化性水飴及び/又は粉飴中の難消化性成分の平均分子量が600〜1200であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の血糖上昇抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−246542(P2007−246542A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158832(P2007−158832)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【分割の表示】特願平9−280464の分割
【原出願日】平成9年10月14日(1997.10.14)
【出願人】(000188227)松谷化学工業株式会社 (102)
【Fターム(参考)】