説明

術後痛の術前治療

本明細書に記載された手術を受ける患者における術後痛を治療する方法。前記方法は、ブプレノルフィン含有経皮剤形の術前投与に基づいている。前記剤形は、例えば手術1日〜4日前に、前記患者に投与することができる。本発明の代替実施形態は、術後痛を治療するための後続の経皮剤形を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年7月25日出願の米国特許出願第60/490,363号に対する優先権を主張する。この先行出願は、参照として本明細書に組み込まれている。
本発明は、術後痛の治療に関する。特に本発明は、簡単な手術治療から回復しつつある患者が経験する痛みを寛解又は除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
痛みは、3つの群に分類することができる。(1)急性痛;(2)疾病末期患者における継続的な痛み;及び(3)他の形態の慢性痛。急性痛においては、限定された期間の特定の侵害刺激が確認できる。急性痛は、外傷又は手術などの通常確認できる原因を有する明瞭な発症を特徴とすることが多い。
【0003】
小さな非観血的手術によって生じる痛みは、術時又は術後のいずれかにおける鎮痛剤の投与によって、日常的に治療される。鎮痛剤が、有効血中濃度及びそれらの標的効果に達する経過時間のため、患者は、この時期に痛みを経験することがあり得る。
【0004】
この十年来、術後の痛みを軽減するための方法は、多くの注目を集めてきた。急性術後痛管理は、術後期における筋肉内オピオイドの伝統的方法以外に、多くの他の治療療法を含むようになった。治療療法における変化としては、鎮痛剤投与の他の経路、新たな鎮痛剤、及び鎮痛を生じさせる別の方法の導入が挙げられる。
【0005】
痛みのコントロール、早期の(pre-emptive)又は術前の鎮痛における最近の開発が、保健医療専門家の間で支持を得てきている(Criado、Lab Anim 2000,34(3):252-9)。早期鎮痛において、鎮痛剤は、これらの薬剤の効能を高めるために術前に投与される。術前の局所麻酔薬の投与(局所、部位、脊椎又は硬膜外)、又はNSAID類もしくはオピエート類の投与は、術後痛の減少及び/又は鎮痛の必要性の減少をもたらすことが、報告により示唆されている。鎮痛剤の術前投与は、感覚過敏を予防又は減少させ、手術創に応答したプロスタグランジンの合成を減少させることにより、炎症と痛みを抑制できる(Desjardins et al.,Anesth Analg 2001,93(3):721-7)。このような治療は、不安を減らし、存在する場合の術前痛を軽減できる。
【0006】
例えば、埋状第三大臼歯の除去を受けている歯科外来患者の試験において、非ステロイド抗炎症薬のイブプロフェンによる前治療は、標準的療法に比較して、副作用の増加なしで、術後痛の抑制を示した(Dionne et al., J Clin Pharmacol 1983, 23(1):37-43)。従来の筋肉内注射として、又は入手できる坐剤としてのいずれかで、術前投与されたジクロフェナクの術後鎮痛効力が、同日手術において、ヘルニア縫合を受けている成人男性患者において試験された(Pereira et al., Int J Clin Pharmacol Res 1999,19(2):47-51)。双方の薬剤とも術後鎮痛をもたらし、座剤を投与された患者は、より早く退院したことがこの予備試験により証明された。
【0007】
術後痛減少における術前鎮痛の効能が試験された他の病態としては、小児における扁桃摘出及び若年患者における虫垂切除が挙げられる。扁桃摘出時には、ケトプロフェンが用いられ(Kokki et al.,Paediatr Anaesth 2002,12(2):162-7)、一方、静脈内ケタミンが、虫垂切除に用いられた(Kakinohana et al., Masui 2000, 49(10):1092-6)。術前又は術間に投与されたブプレノルフィン坐剤は、術後痛のコントロールに有用であることが判明している(Akatsuka et al.,Masui 1996,45(3):298-303)。
【0008】
ブプレノルフィンは、若年及び高齢患者において、静脈内、硬膜外、鞘内又は舌下等、多くの異なった投与経路で送達された場合、広範囲の患者において、痛みの制御に有効であることが示されているμ−オピオイド受容体の強力な部分的アゴニストである(Inagaki et al., Anesth Analg 1996, 83:530-536;Brema et al.,In t J Clin Pharmacol Res 1996, 16:109-116;Capogna et al., Anaesthesia 1988, 43:128-130;Adrianensen et al., Acta Anaesthesiol Belg 1985, 36:33-40;Tauzin-Fin et al., Eur J Anaesthesiol 1998, 15:147-152;Nasar et al., Curr Med Res Opin 1986, 10:251-255)。文献に報告されたブプレノルフィンの経皮製剤には、幾つかの種類がある。例えば、Hille らの米国特許第5,240,711号明細書、Hidaka らの米国特許第5,225,199号明細書、Sharma らの米国特許第5,069,909号明細書、Chien らの米国特許第4,806,341号明細書;Drustらの米国特許第5,026,556号明細書;Kochinkeらの米国特許第5,613,958号明細書;Reder らの米国特許第5,968,547号明細書を参照されたい。ローマン・セラピー−システム社(Lohmann Therapie-Systeme GmbH & Co.)によって製造されているブプレノルフィンの経皮送達システムは、現在、商標名TRANTEC(登録商標)として、ヨーロッパ連合において販売されている。これらのパッチは、20mg、30mg及び40mgのブプレノルフィンを含有し、各々35、52.5及び70μg/時間の近似送達率又は「フラックス」率を有する。フェンタニルをオピオイド鎮痛剤とする経皮送達システムとしては、例えばDuragesicが挙げられる。Duragesicパッチは、48時間から72時間(2日から3日)まで、十分な鎮痛を提供するらしい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
当業界におけるこれらの進歩にも係らず、鎮痛剤の副作用の減少又は除去において、それらの有効量を投与する態様が限定されているため、早期鎮痛の完全な利益は認められていない。このような限定は、例えば:痛み軽減の提供が短時間のみであること;作用が遅く痛みの軽減が不十分なこと;オピオイドの遮断;炎症及び硬直に対する不十分な治療作用;又は望ましくない生物学的副作用により最適な痛みの治療をもたらしえない。従って、鎮痛剤を術前投与された患者の術後痛治療法改善は依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、術後痛に対する効果的な鎮痛又は痛みの軽減を可能にするブプレノルフィンの特定の投与計画を提供する。
【0011】
したがって、本発明は、手術12時間〜96時間前に第1のブプレノルフィン含有剤形を投与することを含む、患者における術後痛を治療する方法を提供する。他の実施形態において、術後に第2のブプレノルフィン含有経皮剤形を投与し、この第2の剤形は、第1の剤形と同一か、又は第1の剤形よりも高い用量の剤形を含む。
【0012】
特定の実施形態において、本発明は、第2の投与時期後に少なくとも1回、第3のブプレノルフィン含有経皮剤形を投与することをさらに含む。
【0013】
ある特定の実施形態において、前記方法は、所望の術後投与量レベルを達成するために、(1)5日以内の第1の投与時期、手術12時間〜96時間前に第1のブプレノルフィン含有経皮剤形を患者に投与すること;(2)第2のブプレノルフィン含有経皮剤形が、第1の剤形と同一用量のブプレノルフィンか、又は第1の剤形よりも高用量のブプレノルフィンを含み、5日以内の第2の投与時期に第2の前記剤形を患者に投与すること;及び(3)第3の投与時期に第3のブプレノルフィン含有経皮剤形を患者に投与すること、を含み、第3の剤形が、第2の剤形よりも高用量のブプレノルフィンを含み、第3の剤形が、術後痛のコントロールのために所望の投与量レベルである、ブプレノルフィンパッチの迅速な用量増大を含む。
【0014】
好ましい一実施形態において、前記方法は、手術4日前〜10日前に開始される。他の実施形態において、第1の剤形は、少なくとも5mgのブプレノルフィンである。他の実施形態において、第2の剤形は、10mgのブプレノルフィンを含む。また、さらなる実施形態において、第2の剤形は、20mgのブプレノルフィンを含む。さらに他の実施形態において、第2の剤形は、30mg又は40mgのブプレノルフィンを含む。
【0015】
また、本発明は、簡単な手術を受けている患者における術後痛を治療する方法を提供する。一実施形態において、簡単な手術は、関節鏡視下手術、塊の切除術、又はヘルニア修復であり得る。他の実施形態において、前記手術は、脊椎固定術、縮窄修復などの胸腔内手術、又は経腹部手術などの骨盤手術であり得る。
【0016】
本発明の経皮投与は、皮膚パッチ、局所ゲル、ローション、軟膏、経粘膜システム、経粘膜デバイス、及びイオン泳動送達システムよりなる群から選択される経皮システムによりなされ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、手術前の患者にブプレノルフィン経皮パッチを適用することにより、簡単な手術の後の患者に、術後の効果的な痛みのコントロールを、より速やかに達成する方法を提供する。本発明の方法は、有効用量へのより速やかな滴定を可能にしつつ、有害事象、例えば、悪心などの発生を増加させないという点で、オピオイドに関する先行技術の投与計画より優れて重要な利点を生む。前記方法は、少なくとも1回のブプレノルフィン増分用量を伴う一連の経皮剤形を、患者に投与することを含む、ブプレノルフィンの鎮痛有効量を患者に投与することを含む。本発明は、副作用を誘導することなく、又は少なくとも副作用を最少化して、有効な鎮痛を得るために、従来の7日間からの経皮的ブプレノルフィン用量を、速やかに増大させることが可能であるという発見に部分的に基づいている。先行研究により、7日間の経皮ブプレノルフィン剤形は、有効な痛み療法をもたらす血中濃度への滴定を遅らせることがあり得、また、即時的な有効量の適用は、有害事象、特に悪心をもたらし得ることが示されている。
【0018】
また、限定はしないが、BTDS5、10及び/又は20などの好ましい経皮送達システムによって提供されるブプレノルフィンの濃度は、オピオイド遮断を誘導せず、そのため、他のオピオイド薬と関連させたブプレノルフィンの経皮送達が可能となる。したがって、ブプレノルフィンの経皮送達の利用は、急性期における補助的痛み療法として、また、術後期のそれ以外の、より最終的療法として特に有利であり得る。
【0019】
したがって、痛みの急性期の間、患者は、痛みをさらに減少させるために、追加の薬物を受けることができる。このような薬物としては、限定はしないが、非経口、経口又は経直腸のオピオイド、ミューアゴニスト及び部分的又は混合アゴニスト/アンタゴニストオピオイドが挙げられる。本明細書に用いられるこのようなオピオイドとしては、限定はしないが、ブプレノルフィン、モルヒネ、ヒドロモルフィン、オキシコドン、トラマドール、オキシモルフォン、ジヒドロコデイン及びヒドロコドンが挙げられる。さらに、オピオイドを補足するために、非ステロイド抗炎症薬(イブプロフェン及びアスピリンなどのNSAIDS)及びアセトアミノフェンを投与することができる。本発明は、既存の薬物と置き換え、それによって、他のタイプの薬物の必要性を減らすために使用できる。
【0020】
したがって、本発明は、ブプレノルフィンを経皮投与する、より効果的な方法を提供し、薬物療法による患者のコンプライアンスの程度及び治療効能を高める。特に副作用の減少及び合併症の最少化が、主要な治療効果:痛みのコントロールを減少させることはない。実際、本発明は、痛みのコントロールの効能増大及び早期又は術前の鎮痛に通常伴う有害事象の減少を有利にもたらす。
【0021】
前記方法は、患者に単独の経皮剤形を投与することを含む投与計画において、ブプレノルフィンの鎮痛有効量を患者に投与することを含む。本発明の経皮投与計画は、5mg、10mg、20mg、30mg又は40mgのブプレノルフィン経皮パッチであり得る。
【0022】
あるいは、本発明の投与計画は、簡単な手術の24時間前から96時間前に、少なくとも1回のブプレノルフィン用量を投与することを含む一連の経皮剤形の投与によって説明できる。この治療法は、手術の最低12時間前における、また患者が既に痛みの治療を受けている場合は、ことによると最長7日までの経皮剤形の適用に当てはまる。さらに、術後痛がコントロールされていない場合、最初のパッチ装着の2日後から7日後に、それが除去され、同一の用量又はより高用量の他のパッチに取り替えられる。
【0023】
本明細書に用いられる「BTDS]は、「ブプレノルフィン経皮システム」を意味し、Xがゼロ超の数である「BTDSX」は、Xミリグラムのブプレノルフィンを含有する経皮剤形を意味する。したがって、「BTDS5」は、5mgのブプレノルフィンを含有する。下記で検討されるように、本発明は、所望の用量系を含有するキットを提供する。BTDSは、好ましくは塩基又は塩の形態、より好ましくは、塩基の形態におけるブプレノルフィンを含有する。
【0024】
本発明の方法は、術後痛治療を必要とする任意の患者に投与できる。前記患者は、簡単な手術を受けている患者に分類できるが、必ずしもそうとは限らない。本明細書に用いられる「簡単な手術」とは、主要な体腔への進入を必要としない手術をいう。簡単な手術としては、限定はしないが、ヘルニア修復、塊の切除術及び関節鏡視下手術が挙げられる。
【0025】
本明細書に用いられる「既定の日数」という用語は、患者に前記薬物の剤形が投与される予め決められた期間をいう。前記薬物は、オピオイドであることが好ましく、オピオイドは、ブプレノルフィンであることがより好ましい。既定の日数は、個人の間で変化し得、本出願内で検討された指針を用いて通常の当業者によって決定できる。さらなる一実施形態において、好ましい日数は、1日〜3日である。
【0026】
「有害事象」(AE)又は「有害経験」という用語は、本明細書において、薬剤製品を投与された患者又は臨床検査対象における、本治療と必ずしも因果関係を有さない任意の有害な医療上の出来事を意味する。重篤な有害事象(経験)又は有害反応は、いずれかの用量において、死をもたらすか、致命的か、入院患者の入院又は現在の入院の延長を要する、永久的な、又は重大な能力障害/無能力をもたらすか、又は先天性異常/出生時欠陥である任意の医療的出来事である(Guideline for Industry-Clinical Safety Data Management: Definitions and Standards for Expedited reporting.ICH-E2A, 1995, March World Wide Web(www.)address fda.gov/MedWatch/report/iche2a.pdf, p.5-7)。治療療法における代表的な有害事象としては、限定はしないが、呼吸抑制、胆嚢炎、腹痛、めまい、起立性低血圧及び悪心が挙げられる。
【0027】
鎮痛剤の「鎮痛的有効」量とは、患者によって経験されている痛みのレベルを低下させる能力を有する薬剤量を意味する。患者によって経験されている痛みのレベルは、目視アナログ尺度(VAS)又はリッカート型尺度の使用によって評価できる。VASは、線の一端が無痛を表し、線の他端が考えられる最悪の痛みを表す直線である。患者は、各時点で、彼らの痛みがあると考えられる所で線上に印を付けるように求められ、無痛からその印までの長さを全尺の長さと関係づけることができる。リッカート型尺度は、記載事項との一致又は不一致に基づき、通常は、1から5までの範囲の評点尺度である。同様のタイプであるが、11点尺度(0から10の範囲)に基づく尺度もまた用いることができる。治療時に患者が経験する痛みのレベルの変化、例えば、患者又は患者集団が、痛みの療法開始の前後に経験する痛みのレベルの減少を視覚化するために、このような痛みの尺度を適用できる。
【0028】
ブプレノルフィン
本発明は、ブプレノルフィン又は製薬的に許容できるその塩、エーテル誘導体、エステル誘導体、酸誘導体、鏡像異性体、ジアステレオマー、ラセミ体、多形体又は溶媒和物に関する。特定のいずれの理論にも拘束されないが、当業界においてブプレノルフィンは薬理学的に、中枢神経系(「CNS」)及び末梢組織においてμオピオイド受容体における部分的アゴニストであると考えられている。ブプレノルフィンは、鎮痛など、その作用の多くをμ完全オピオイドアゴニストと共有している。部分的アゴニストは、一般に受容体に対する親和性を有する化合物を含むが、完全アゴニストとは違って、たとえ、高比率の受容体が、その化合物によって占有されているとしても、低い程度の薬理学的効果を誘導するだけである。鎮痛に対する「天井効果」(すなわち、用量を増加してもさらなる鎮痛なし)は、多くの動物モデルにおけるブプレノルフィンに関して十分に文書化されている。それは、高親油性であり、オピオイド受容体から徐々に解離する。さらにブプレノルフィンは、高親和性でμ受容体及びκ1受容体と結合し、また低親和性でδ受容体と結合すると考えられている。κ受容体における固有のアゴニスト活性は限定されているようであり、ブプレノルフィンは、κ受容体におけるアンタゴニスト活性を有していることが大多数の証拠により示唆されている。κアゴニズムの欠如が、アゴニスト/アンタゴニスト薬に見られることの多い不快作用、及び精神異常発現反応が、ブプレノルフィンには無いことの原因となっている。ブプレノルフィンのオピオイドアンタゴニスト作用は、δオピオイド受容体との相互作用により媒介され得ることが、他の試験により示唆されている。
【0029】
ブプレノルフィンは、μ受容体と徐々に結合し、また徐々にそれから解離することは当業界に知られている。μ受容体に対するブプレノルフィンの高親和性ならびにそれと徐々に結合し、またそこから徐々に解離することから、この受容体が、鎮痛持続時間の延長及び、その薬物に見られる限定された身体的依存可能性の原因の一部となっている可能性があると考えられている。ブプレノルフィンが投与された他のオピオイドのμアゴニスト作用を遮断できるという事実もまた、高親和性結合により説明できる。
【0030】
他のオピオイドアゴニストのように、ブプレノルフィンは、用量関連の鎮痛を生じる。正確なメカニズムは十分説明されていないが、中枢神経系におけるμオピオイド受容体、また、ことによると、κオピオイド受容体に対するブプレノルフィンの高親和性のため鎮痛が生じるようだ。またその薬物は、痛みの閾値(侵害刺激に対する求心性神経末端の閾値)を変化させ得る。重量に基づいた非経口ブプレノルフィンの鎮痛効力は、非経口モルヒネの約25倍から約50倍、ペンタゾシンの約200倍、及びメペリジンの約600倍のようだ。
【0031】
塩及び誘導体
前記活性化合物の種々の製薬的に許容できる塩、エーテル誘導体、エステル誘導体、酸誘導体及び水溶性変更誘導体の使用もまた、本発明に包含される。本発明は、前記化合物の全ての活性な個々の鏡像異性体、ジアステレオマー、ラセミ体、及び他の異性体の使用をさらに含む。また、本発明は、この化合物の全ての多形体ならびに水和物及び有機溶媒によって形成されたものなどの溶媒和物の使用も含む。このような異性体、多形体及び溶媒和物は、位置特異的及び/又はエナンチオ選択的な合成及び分割によるなど、当業界で公知の方法により調製できる。
【0032】
前記化合物の好適な塩類としては、限定はしないが、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、炭酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンセンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、サリチル酸、p−アミノサリチル酸、2−フェノキシ安息香酸及び2−アセトキシ安息香酸によって作製されたものなどの酸付加塩類;サッカリンによって作製された塩類;ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩類;カルシウム塩やマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩類;及び四級アンモニウム塩などの有機又は無機リガンドにより作製された塩類が挙げられる。
【0033】
さらなる好適な塩類としては、限定はしないが、前記化合物の酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、酒石酸水素塩、硼酸塩、臭化物、エデト酸カルシウム塩、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物、クラブラン酸塩、クエン酸塩、二塩化水素化物、エデト酸塩、エジシレート、エストレート、エシレート、フマル酸塩、グルセプテート、グルコナート、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニレート、ヘキシルレゾルシネート、ヒドラバミン、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物、イソチオネート、乳酸塩、ラクトビオネート、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、臭化メチル、硝酸メチル、硫酸メチル、ムチン酸塩(mucate)、ナプシレート、硝酸塩、N−メチルグルカミンアンモニウム塩、オレイン酸、パモエート(エンボネート)、パルミチン酸塩、パントテン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、硫酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクレート、トシル酸塩、トリエチオジド、及び吉草酸塩が挙げられる。
【0034】
本発明は、前記化合物のプロドラッグを含む。プロドラッグとしては、限定はしないが、インビボで容易にブプレノルフィンに変換できるブプレノルフィンの官能基誘導体が挙げられる。好適なプロドラッグ誘導体を選択及び調製する従来の方法は、例えば、「Design of Prodrugs, ed. H.Bundgaard, Elsevier, 1985」に記載されている。
【0035】
経皮剤形
経皮剤形は、限定はしないが、例えば、オピオイド鎮痛剤などの鎮痛剤を含む多くの種々の治療的に有効な薬剤の送達に便利な剤形である。典型的なオピオイド鎮痛剤としては、限定はしないが、フェンタニル、ブプレノルフィン、エトルフィン及び他の高力価麻薬が挙げられる。経皮剤形は、活性剤の定時放出及び持続放出のために特に有用である。
【0036】
経皮剤形は、経皮投与物品と経皮投与組成物とに分類できる。最も一般的な経皮投与物品は、液体貯留層又は接着剤内薬物基質システムのいずれかを用いる拡散駆動経皮システム(経皮パッチ)である。経皮投与組成物としては、限定はしないが、局所ゲル、ローション、軟膏、経粘膜システム及び経粘膜デバイス、ならびにイオン泳動的(電気的拡散)送達システムが挙げられる。経皮剤形は、経皮パッチであることが好ましい。
【0037】
本発明により用いられる経皮パッチ剤形は、ブプレノルフィンに不浸透性の製薬的に許容できる材料から作製された下地層を含むことが好ましい。下地層は、ブプレノルフィンの保護カバーとして働き、また支持機能も提供することが好ましい。下地層を作製するための好適な材料の例としては、高密度及び低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリ(エチレンフタレート)などのポリエステルの薄膜、金属箔、このような好適なポリマー薄膜の金属箔積層、貯留層の成分が、それらの物理的性質のために布に浸透し得ない場合は織物等がある。下地層に用いられる材料は、アルミニウム箔などの金属箔を有するこのようなポリマー薄膜の積層であることが好ましい。下地層は、所望の保護的及び支持的機能を提供するための任意の適切な厚さであり得る。好適な厚さは、約10ミクロンから約200ミクロンとなる。望ましい材料及び厚さは、当業者に明らかであろう。
【0038】
さらなる実施形態において、本発明により用いられる経皮剤形は、生物学的に許容できるポリマー基質層を含有する。一般に、ポリマー基質を形成するために用いられるポリマーは、薬剤が制御された速度で通過できる薄壁又はコーティングを形成する能力のあるものである。ポリマー基質に含めるための例示的材料の非限定的リストとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレンコポリマー類、エチレン/エチルアクリレートコポリマー類、エチレンビニルアセテートコポリマー類、シリコーン類、ゴム、ゴム様合成ホモ−、コ−又はブロックポリマー類、ポリアクリル酸エステル類及びそれらのコポリマー類、ポリウレタン類、ポリイソブチレン、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−ビニルアセテートコポリマー、ポリメタクリレートポリマー(ヒドロゲル)、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(エチレンテレフタレート)、エチレン−ビニルアルコールコポリマー、エチレン−ビニルオキシエタノールコポリマー、ポリシロキサン−ポリメタクリレートコポリマー類などのシリコーンコポリマー類を含むシリコーン類、セルロースポリマー類(例えば、エチルセルロース、及びセルロースエステル類)、ポリカーボネート類、ポリテトラフルオロエチレン及びそれらの混合物が挙げられる。ポリマー基質層に含めるための例示的材料としては、一般的なポリジメチルシロキサン構造のシリコーンエラストマー(例えば、シリコーンポリマー)がある。好ましいシリコーンポリマーは架橋し、製薬的、又は生物学的に許容できる。ポリマー基質層に含めるための他の好ましい材料としては、好適な過酸化物触媒を用いて架橋できるジメチル及び/又はジメチルビニルシロキサン単位を有する架橋可能なコポリマーであるシリコーンポリマーが挙げられる。スチレン及び1,3−ジエン類に基づくブロックコポリマー(特に、スチレン−ブタジエン−ブロックコポリマー類の線状のスチレン−イソプレン−ブロックコポリマー類)からなるポリマー、ポリイソブチレン類、アクリレート及び/又はメタクリレートに基づくポリマーもまた好ましい。
【0039】
ポリマー基質層は、製薬的に許容できる架橋剤を任意に含んでもよい。好適な架橋剤としては、例えば、テトラプロポキシシランが挙げられる。本発明の方法による好ましい経皮送達システムは、所望の投与期間の間、患者の皮膚に前記剤形を付着させるための接着層を含む。前記剤形の接着層が、所望の期間の間、接着を提供することができない場合は、例えば、接着テープ、例えば外科用テープにより、前記剤形と患者の皮膚とを接着させることにより、前記剤形と皮膚との間の接触を維持することが可能である。
【0040】
前記接着層は、前記剤形に製薬的に適合性であり、好ましくは、低アレルギー性のポリアクリル系接着ポリマー、アクリレートコポリマー(例えば、ポリアクリレート)及びポリイソブチレン接着ポリマーなどの当業界に公知の任意の接着剤の使用を含むことが好ましい。本発明の代替実施形態において、接着剤は低アレルギー性で感圧性の接触接着剤である。
【0041】
本発明により用いることのできる経皮剤形は、任意に浸透増強剤を含むことができる。浸透増強剤は、患者の皮膚又は粘膜を通し、また患者の血流内へのブプレノルフィンの浸透及び/又は吸収を促進する化合物である。浸透増強剤の非限定的リストとしては、ポリエチレングリコール類、界面活性剤などが挙げられる。
【0042】
あるいは、ブプレノルフィンの浸透は、患者の所望の部位への適用後、例えば、閉鎖包帯による剤形の閉鎖により増強できる。また、浸透は、例えば、毛刈り、剃り又は脱毛剤の使用により、適用部位から毛を除去することによっても増強できる。他に浸透を増強するものは熱である。経皮剤形が、皮膚又は粘膜上に適用されている時間の少なくとも一部の間、とりわけ赤外線ランプなどの放熱体を使用することにより、適用部位に浸透が増強され得ると考えられる。イオン泳動的手段の使用などのブプレノルフィンの浸透を増強させる他の手段もまた、本発明の範囲内にあると考えられている。
【0043】
本発明により使用できる好ましい経皮剤形は、例えばポリエステルから作製された非浸透性下地層;例えばポリアクリレートから作製された接着層、及びブプレノルフィンならびに軟化剤、浸透性増強剤、粘稠剤などの他の望ましい補助薬剤を含有する基質を含む。
【0044】
活性剤のブプレノルフィンは、薬物貯留層中のデバイス、薬物基質又は薬物/接着層に含まれ得る。パッチのこの面積及び単位面積当たりの活性剤量は、通常の当業者が容易に決定できる限界用量を決定する。
【0045】
一定の好ましい経皮送達システムは、貯留層又は基質中に軟化剤も含む。好適な軟化剤としては、ドデカノール、ウンデカノール、オクタノールなどの高級アルコール類、また、アルコール成分が、ポリエトキシレート化アルコールであり得るカルボン酸のエステル類、ジ−n−ブチルアジアペートなどのジカルボン酸のジエステル類及びトリグリセリド類、特にカプリル酸/カプリン酸又はココナツ油の中鎖トリグリセリド類が挙げられる。好適な軟化剤のさらなる例は、多価アルコール類、例えば、レブリン酸、コプリル酸(coprylic acid)類、グリセロール及びポリエチレングリコール類によってエーテル化もされ得る1,2−プロパンジオールである。
【0046】
ブプレノルフィンの溶媒もまた、本発明の経皮送達システムに含まれ得る。溶媒は、ブプレノルフィンを十分な程度溶解し、それによって完全な塩形成を避けることが好ましい。好適な溶媒の非限定的リストとしては、少なくとも1つの酸性基を有するものが挙げられる。特に好適なものは、モノメチルグルタレート及びモノメチルアジペートなどのジカルボン酸のモノエステル類である。
【0047】
貯留層又は基質中に含まれ得る他の製薬的に許容できる成分としては、溶媒、例えば、イソプロパノールなどのアルコール類、上記に記載したような浸透増強剤;及びセルロース誘導体、ガーゴムなどの天然又は合成ゴム類などの粘稠剤が挙げられる。
【0048】
代替の実施形態において、経皮剤形は、取り外しできる保護層又は保護放出層を含む。取り外しできる保護層は、適用前に取り外され、それが、例えば、シリコーン処理によって取り外しできるようになるという条件で、上記の下地層に用いられた材料から構成され得る。他の取り外しできる保護層は、例えば、ポリレトラ−フルオロエチレン、処理紙、アロフェン、ポリ塩化ビニルなどである。一般に、取り外しできる保護層は、接着層に接着しており、所望の適用時まで、接着層の完全性を保持する簡便な手段を提供する。
【0049】
デバイスが、活性剤、例えばブプレノルフィンを、所望の期間及び所望のフラックス率及び/又は所望の送達速度、すなわち、個体の皮膚を通して、経皮剤形の活性剤が浸透する速度で送達するという条件で、本発明に用いられる経皮剤形の組成及び用いられるデバイスのタイプは、本発明の方法では重要ではないと考えられる。
【0050】
本発明により使用するための一定の好ましい経皮剤形は、参照として本明細書に組み込まれているHilleらの米国特許第5,240,711号明細書;(Lohmann Therapie-Systeme GmbH & Co.に譲渡)に記載されている。このようなブプレノルフィン経皮送達システムは、ブプレノルフィンを含有する非浸透性の下地層及び任意に、感圧性接着剤を組み合わせた浸透性増強剤を有する積層複合体であり得る。米国特許第5,240,711号明細書による好ましい経皮剤形は、(i)ブプレノルフィンに非浸透性であるポリエステルの下地層;(ii)ポリアクリレート接着層;(iii)分離ポリエステル層;及び(iv)ブプレノルフィン又はその塩、ブプレノルフィンの溶媒、軟化剤及びポリアクリレート接着剤を含有する基質を含む。ブプレノルフィンの溶媒は、最終製剤に存在しても、又は存在しなくてもよい。そこに記載されている経皮送達デバイスは、活性物質に非浸透性である下地層、感圧性接着剤貯留層及び任意に取り外しできる保護層を含む。基質は、約10重量%から約95重量%のポリマー材料、約0.1重量%から約40重量%の軟化剤、及び約0.1重量%から約30重量%のブプレノルフィンを含むことが好ましい。ブプレノルフィン塩基又は製薬的に許容できるその塩の溶媒は、約0.1重量%から約30重量%含まれ得る。
【0051】
本発明の剤形は、また、1種以上の不活化剤も含み得る。「不活化剤」という用語は、経皮剤形の悪用の可能性を減少させるために、活性剤を不活化又は架橋する化合物をいう。不活化剤の非限定的例としては、限定せずに、重合化剤、光開始剤及びホルマリンが挙げられる。架橋剤又は重合化剤の例としては、ジイソシアネート類、過酸化物、ジイミド類、ジオール類、トリオール類、エポキシド類、シアノアクリレート類及びUV活性化モノマー類が挙げられる。
【0052】
任意の適切な添加剤、不活化剤及び当業界で公知の剤形を、本発明の方法と組み合わせて使用できる。
【0053】
局所用製剤は典型的に、懸濁剤及び任意に、消泡剤を含有する。このような局所用製剤は、液体灌注、アルコール性溶液、局所用クレンザー、クレンジングクリーム、スキンゲル、スキンローション及びクリーム製剤又はゲル製剤におけるシャンプー(限定はしないが、水性溶液及び懸濁液を含む)であり得る。
【0054】
あるいは、ブプレノルフィンは、リポソーム送達システムの形態で投与できる。例えば、小型の単層ベシクル、大型の単層ベシクル及び/又は多層ベシクルが、経皮物品又は経皮組成物に含まれ得る。リポソームは、コレステロール、ステアリルアミン又はホスファチジルコリンなどの種々のリン脂質から形成できる。
【0055】
経皮剤形は、当業界で公知の任意の方法によって製剤化でき、提案されたとおり投与できる。このような製剤は、米国特許第4,806,341号明細書;米国特許第5,240,711号明細書;及び米国特許第5,968,547号明細書に記載されている。
【0056】
投与
本発明の単位剤形は、術後痛を患った患者、好ましくはヒト患者に投与される。一代替実施形態において、患者は、簡単な手術を受けることが予定されている。本発明の単位剤形は、速やかに最適活性に到達しつつ、何らかの可能性のある毒性を低下させるために、規定された投与計画において投与できる。例えば、前記方法は、ブプレノルフィンの累進的に高くなる用量の一連の経皮剤形を含む投与計画においてブプレノルフィンの鎮痛有効量を、患者に投与することを含む。投与計画は、
(a)簡単な手術前の第1の投与時期に第1のブプレノルフィン含有経皮剤形;及び
(b)手術後、第2の投与時期に第1の剤形と同一か、又はそれより高用量のブプレノルフィンを含む第2のブプレノルフィン含有経皮剤形、のステップを含むことが好ましい。
【0057】
さらなる一実施形態において、術後の第3の投与時期に、第2の剤形と同一か、又はそれより高用量のブプレノルフィンを含む第3のブプレノルフィン含有経皮剤形を投与できる。
【0058】
他の実施形態において、本発明は、限定はしないが、脊椎固定術、胸腔内手術(すなわち、縮窄修復)又は骨盤手術(すなわち、経腹部子宮摘出術)を含む広範囲な整形外科手術などの、より重度の外傷性手術において使用できる。
【0059】
本発明の投与計画は、術前の投与時期を含む。投与期間は、一連の経皮剤形のうちの1つが、患者に投与される期間であり、投与計画は、一連の経皮剤形各々の投与のための別々の投与期間から構成されることになる。したがって、例えば、一連の経皮剤形は、術前、少なくとも1日間患者に装着してもよいし、他の実施形態において、術前の連続3日間装着されてもよい。前記パッチは、例えば、第5肋間隙における腋窩中央線に配置できる。取り外した際、次に第2の剤形がさらに連続3〜7日間、患者によって装着することができ、その後、痛みが続く場合は、第3の剤形がさらに7日間、患者によって装着することができる。さらなる一実施形態において、投与計画の合計治療期間は、術前日を含めて7日である。次いで、この用量は、期限を決めずに維持できる。用量増加が必要な場合は、適切な間隔、例えば、3〜7日ごとに用量を増加できる。
【0060】
特定の一実施形態において、第1の剤形は、5mgまでのブプレノルフィンを含み、第1の投与期間は、少なくとも3日で;第2の剤形は、10mgまでのブプレノルフィンを含み、第2の投与期間は、少なくとも3日で;第3の剤形は、20mgまでのブプレノルフィンを含み、第3の投与期間は、2〜3日である。
【0061】
他の実施形態において、後続の用量を投与できる。例えば、目標の鎮痛レベルが、第3の投与期間によって達成される場合、第3の剤形の新鮮な代替剤形を、期間を延長して繰り返して投与することができ、パッチは、2日おきから毎週、頻度を増やして交換する。目標の鎮痛レベルが、第3の投与期間によって達成されない場合、増分増加のブプレノルフィン濃度を含む後続の剤形を30mgのブプレノルフィン及び40mgのブプレノルフィンの装填から出発して、引き続き適用できる。
【0062】
本発明の方法では、患者におけるブプレノルフィンの血漿中濃度の速やかな増加を達成するようにブプレノルフィンを投与することが好ましく、悪心又は他の有害事象を誘導しないままであることがより好ましい。さらなる一実施形態において、本発明の方法により達成される血漿プロフィルは、以下に記載されるとおりであり得、手術開始時の平均血漿中ブプレノルフィン濃度は、患者の必要性に依って、400pg/ml〜2000pg/ml(2ng/ml)、又はこれ以上である。
【0063】
ブプレノルフィンの用量は、基礎疾患の状態、個々人の病態、体重、性別及び年齢ならびに投与様式などの種々の因子によって変化し得る。用量の予め規定された間隔又は用法は、患者の種、年齢、体重、性別、医学的状態;治療すべき状態の重症度;選択された経皮送達システム;患者の腎臓及び肝臓の機能;及び用いられるブプレノルフィンの具体的形態などの種々の因子によって選択される。通常の医師又は獣医師は、本開示を考慮して病態の進行を防止、逆転又は阻止するために必要とされる薬物の有効量を、容易に決定及び処方することができるであろう。毒性なしで有効性を生じる範囲内の薬物の濃度達成における最適精度には、標的部位に対する薬物の使用可能性の動態学に基づく療法が必要である。これは、薬物の吸収、分散、代謝及び排泄に対する考慮を含む。
【0064】
本発明の組成物又は剤形は、経皮剤形として投与される場合、通常の当業者によって決定される任意の身体部分に提供できる。例えば、前記組成物又は剤形は、患者の腕、脚部又は胸部に提供できる。児童用の好ましい実施形態において、前記経皮単位の取り外しを防ぐために、背中に配置することが好ましい。各回、同じ場所に反復用量を投与しても、又はしなくてもよい。
【0065】
一般に局所製剤は、その局所製剤の全100重量%を基準にして、約0.01重量%から約100重量%、好ましくは約3重量%から約80重量%の前記化合物を含有する。一般に経皮製剤は、その剤形におけるブプレノルフィン製剤の全100重量%を基準にして、約0.01重量%から約100重量%、好ましくは約3重量%から約50重量%の前記化合物を含有する。
【0066】
本発明の方法に用いられる剤形は、単独で投与してもよいし、又は他の活性剤と組み合わせて投与してもよい。別個の剤形である2種以上の活性剤との併用治療の場合、活性剤を同時に投与してもよいし、それらの各々に時差をつけて別々に投与してもよい。所望の効果を達成するために、上記のように他の活性剤と併用する場合は、投与量を調整できる。あるいは、これらの種々の活性剤の単位剤形を独立に最適化してから、各活性剤が単独で使用される場合に考えられるよりも症状がより減少する相乗的結果を達成させるために組み合わせることができる。
【0067】
例示的一実施形態において、手術前夜の麻酔前来診時に、麻酔医は、患者を評価し、BTDSの適切な医療を考慮する。患者はその夜、BTDS5が投与される。翌日、BTDS5を装着したまま患者は手術室へ行き、安定した麻酔下で良好な治療を受ける。術後、患者は、患者コントロールの静脈内ミュー−アゴニストオピアートにより管理される。患者が1日当たり3回以上の救急オピアート投与を必要とする場合、3日おきのBTDSを基本にして増加させる。患者が経口薬を服用できる場合は、BTDSを患者に付けたまま、それに加えて非ステロイド抗炎症薬(イブプロフェンなどのNSAID)及び短時間作用の経口ミュー−アゴニストオピアート(オキシコドンなど)が投与される。患者がもはや救急医療を必要とせず、また痛みが予想されないなど、治癒が達成されたと医師が感じた場合、BTDSは取り外される。
【0068】
キット
また、本発明は、本発明を実践するための成分を、キット形態で便利に提供できる一実施形態を提供する。その最も単純な実施形態において、本発明のキットは、投薬量が患者の必要性にしたがって設定される設定投薬量でのブプレノルフィンパッチの設定数を提供する。各キットは、適用に関する使用説明書を備えたスターターキット及びBTDS5mg、10mg、20mg、30mg又は40mgから選択される適切な投与計画を含む。
【0069】
さらなる一実施形態において、所望の術前用量レベルに達するために、前記キットは、速やかな用量増加のための投与計画を含む。この用量増加はやはり、BTDS5mg、10mg、20mg、30mg又は40mgから選択される適切な投与計画を含む。パッチの適用法、セットの保存及び治療法の詳細についての説明書もまた含まれる。
【0070】
本発明のキットは、包装及びその使用、例えば、いつ予防治療を開始するか、またいつ高用量のパッチ又は剤形に切り換えるかなどの包装又は添付文書についての説明書を含むことが好ましい。キット内のブプレノルフィンパッチは、患者のために符号化してもよい(すなわち、色、日の数値又は用量の数値など)。例えば、前記説明書は、下痢又は他の胃腸の病態又は傷害を治療又は予防するための、投与計画の使用を記載できる。
【0071】
さらなる一実施形態において、前記キットは、使用したブプレノルフィンパッチを廃棄するための廃棄用の容器又はデバイスを含む。パッチ内の薬物悪用の可能性を防ぐか、又は制限するために任意のこのような容器又はデバイスを使用できる。本明細書に使用される用語の容器は、最も広い意味を有する。すなわち、材料を保持する任意のものが認められる。
【0072】
本発明の範囲は、本明細書に記載された特定の実施形態による範囲に限定されない。実際、先の説明及び添付の図面から本明細書に記載されたものに加えて、本発明の種々の修飾は、当業者にとって明らかとなろう。このような修飾は、添付の特許請求の範囲内に入ることが意図されている。また、数値は近似のものであり、説明のために提供されていることを理解する必要がある。
【0073】
本出願をとおして、特許、特許出願、刊行物、手法などが引用されており、それらの開示は参照として、それらの全体が本明細書に組み込まれている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
術後痛の治療を必要とする患者に術後痛を治療する方法であって、手術前にブプレノルフィン含有経皮剤形を前記患者に投与することを含む方法。
【請求項2】
前記ブプレノルフィン含有経皮剤形が、手術12〜96時間前に適用される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
術後第2の投与時期に第2のブプレノルフィン含有経皮剤形の投与をさらに含み、前記第2の剤形が、前記第1の剤形と同一用量のブプレノルフィンか、又は前記第1の剤形よりも高用量のブプレノルフィンを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
所望の鎮痛を得るために、患者により必要とされる所与の時期に、後続の剤形の延長後続投与時期をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、所望の術前用量レベルを達成するために、ブプレノルフィンパッチの迅速な投与量増大をさらに含み、前記方法が、
(a)5日以内の第1の投与時期に第1のブプレノルフィン含有経皮剤形を患者に投与すること;
(b)第2のブプレノルフィン含有経皮剤形が、前記第1の剤形と同一用量のブプレノルフィンか、又は前記第1の剤形よりも高用量のブプレノルフィンを含み、5日以内の第2の投与時期に第2の前記剤形を患者に投与すること;及び
(c)第3の投与時期に第3のブプレノルフィン含有経皮剤形を患者に投与すること、前記第3の剤形が、前記第2の剤形よりも高用量のブプレノルフィンを含み、前記第3の剤形が、術後痛のコントロールのために所望の投与量レベルであること、を含む方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、手術4〜10日前に開始される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記剤形が、少なくとも5mgのブプレノルフィンを含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の剤形が、10mgのブプレノルフィンを含む請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の剤形が、20mgのブプレノルフィンを含む請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の剤形が、30mgのブプレノルフィンを含む請求項3に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の剤形が、40mgのブプレノルフィンを含む請求項3に記載の方法。
【請求項12】
前記手術が、簡単な手術である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記簡単な手術が、関節鏡視下手術である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記簡単な手術が、塊の切除術である請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記簡単な手術が、ヘルニア修復である請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記手術が、脊椎固定術である請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記手術が、胸腔内手術である請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記胸腔内手術が、縮窄修復である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記手術が、骨盤手術である請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記手術が、経腹部子宮摘出術である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記経皮投与が、局所ゲル、ローション、軟膏、経粘膜システム、経粘膜デバイス、及びイオン泳動送達システムよりなる群から選択される経皮システムにより生じる請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2007−500133(P2007−500133A)
【公表日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521306(P2006−521306)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/024009
【国際公開番号】WO2005/011578
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(599108792)ユーロ−セルティーク エス.エイ. (134)
【Fターム(参考)】