説明

衛星通信システム、及び通信中継衛星

【課題】 地上局と低軌道上の通信中継衛星との間で短波通信を行ない、通信中継衛星にデータ中継機能を持たせることにより、全軌道上での観測衛星と地上局との広域な衛星通信が可能となる。
【解決手段】 短波送受信機を有した地上局と、上記地上局の短波送受信機との間で短波通信を行う短波送受信機と、短波よりも波長の短い周波数で動作するマイクロ波送受信機とを有した通信中継衛星と、上記通信中継衛星のマイクロ波送受信機との間で通信する、短波よりも波長の短い周波数で動作するマイクロ波送受信機を有し、上記通信中継衛星よりも高い軌道に位置する高軌道衛星と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星通信システム、及び通信中継衛星に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、衛星と地上局(または地球局)との衛星通信は、Ku、Ka、X、Sバンドなどの電波を利用して、データの送受信が行われている。地上局の上空を衛星が通過する際に衛星が地上局と直接交信(以下、直接通信)を行うか、静止軌道上に配置されたデータ中継衛星を介して間接的に衛星と地上局の間で衛星通信が行なわれる。
【0003】
直接通信の場合、地上局のアンテナは通信が可能となる可視領域が存在するため、観測衛星のような周回軌道衛星が地上局と直接通信できる時間帯は限られる。この可視時間は、1000kmまでの低軌道においては高度にほぼ比例し、現行の観測衛星では地上局の直上を通過する場合、5〜15分程度である。
【0004】
地上局ひとつ当たりの通信可能回数は、一般的な観測衛星に使用される極周回軌道の場合、日本の緯度近傍の地上局ならば1日あたり約2回程度である。高緯度に位置する地上局や海外にある地上局を複数利用して、1周回あたり1回の通信を実施可能にする観測衛星も多い。低軌道の観測衛星において1周回に要する時間は、高度によって多少の違いはあるが、90分強〜100分弱程度である。
【0005】
可視領域の存在のため現在の観測衛星では、地上局側から衛星側に送る指令であるコマンドの送信は、すべて定められた時間帯、例えば衛星が可視領域にある時間帯、に行うよう計画して、運用を行っている。言い換えると、緊急で通信を行いたい場合でも、次の可視領域に衛星が到達するまでは、直接通信が実施できない。
【0006】
直接通信以外にも、上述したように、静止もしくは準静止軌道に配備されたデータ中継衛星を経由した通信がある(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかし、特許文献1のように、いずれにせよ周回軌道上の半分程度が、通信の不可能な領域(以下、不可視領域)になる。しかも、観測衛星側にも天頂方向にアンテナを新規に設置しなければならないため、既存の地上局と直接通信を行なっている観測衛星には適用できない。加えて、データ中継衛星を利用する場合は、その伝送距離が長距離になる、データ中継衛星のトランスポンダを経由する、電波の使用バンドが高周波であるため雨天等の影響を受けやすくなる、直接通信と比較して通信距離が長くなるため使用電力が大きくなるなど、データ伝送の信頼性の低下や衛星の太陽電池パドルの大型化等の課題を生じる。さらに言えば、こうしたデータ中継衛星の数は限られており、必ずしもユーザが欲する時に使用できるとは限らないという条件的制約も加わることとなる。
【0008】
いずれのケースでも可視という観点で、通信不可能な領域が生じていた。
【0009】
一方、地球の裏側でも通信可能な手段として、短波が利用されている。短波は電離層及び地表面で反射する性質を持つため、理論的には地球の裏側まで伝播でき、実際にアマチュア無線機によって地球の反対側の放送を受信できるケースもある。しかし、衛星通信に短波を利用する場合を想定すると、衛星の軌道高度が通常は500km以上のものが多いため、電離層に阻まれて短波による通信が行なえないこととなる。
【0010】
また、短波のような長波長の通信手段は通信速度が遅く、衛星と地上局との直接通信で扱うデータ量に対して、データ伝送に要する時間が長く、非現実的であるため、いままで利用されてこなかった。
【0011】
ところで、近年では衛星側の自律化・自動化などの技術が発達(例えば、特許文献2、3、4参照)してきたため、特に衛星側にコマンドを送る場合に簡潔なコマンドのみで衛星側が自律的に判断して一連の動作を遂行できるようになってきている。そのためコマンドのデータ量が削減され、コマンド通信時間は大きく短縮できるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平4-79429号公報
【特許文献2】特開2000-109000号公報
【特許文献3】特開2006-76350号公報
【特許文献4】特公平4-23880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の衛星通信技術では、前述のとおり早急に衛星と地上局間で通信を行いたい場合であっても、次の可視領域に衛星が到達するまでは通信を実施することができないという課題がある。また、不可視領域で衛星の処理するコマンドは、実行時刻をあらかじめ設定して登録するストアードコマンドを用いて実行されるが、予想外の緊急時には対応できないという課題がある。
【0014】
例えば、ある地域で災害が発生し、観測衛星の観測計画を災害地域の観測に変更したい場合でも、次の可視領域に入るまでは計画変更用のコマンド(ストアードコマンド)を送れない。そのために、次の可視領域までの間に災害地域を通過してしまい、観測機会を逃してしまうケースが考えられる。こうしたできるだけ早く衛星の観測した情報を入手したいケースに対応させるためには、従来の衛星の通信形態では対応できない場合が多い。
【0015】
また、衛星が故障の危機に陥った場合でも、その衛星からの情報が入手できるのは次の可視領域に入ってからである。これにより対応が遅れ、衛星に致命的なリスクを与える危険性もある。
【0016】
また、静止もしくは準静止軌道に配備されたデータ中継衛星を経由して観測衛星と地上局間で通信を行えば、可視領域をある程度広げることが可能であるが、そのためには観測衛星側にデータ中継衛星との通信用のアンテナ機構を新規に設置しなければならない。このため、アンテナ機構のない軌道上の衛星には適用できないという課題や、不可視領域も軌道の半分程残るという課題が残存する。
【0017】
この発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、地上局から不可視の位置であっても、他の衛星と地上局間の通信を、中継によってより早く実施することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明による衛星通信システムは、短波送受信機を有した地上局と、上記地上局の短波送受信機との間で短波通信を行う短波送受信機と、短波よりも波長の短い周波数で動作するマイクロ波送受信機とを有した通信中継衛星と、上記通信中継衛星のマイクロ波送受信機との間で通信する、短波よりも波長の短い周波数で動作するマイクロ波送受信機を有し、上記通信中継衛星よりも高い軌道に位置する高軌道衛星と、を備えたものである。
【0019】
また、この発明による通信中継衛星は、地上局との間で短波通信を行う短波送受信機と、短波よりも波長の短い周波数で動作するマイクロ波送受信機を有した他の衛星との間で通信を行う、短波よりも波長の短い周波数で動作するマイクロ波送受信機を備えたものである。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、地上局と低軌道上の通信中継衛星との間で短波通信を行なうことにより、全軌道上での衛星通信が可能となる衛星システムを提供することができる。また、通信中継衛星にデータ中継機能を持たせることにより、全軌道上での観測衛星と地上局との通信をより確実に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態1による衛星通信システムの概要構成を示す図である。
【図2】実施の形態1による衛星通信システムの構成例を示す図である。
【図3】実施の形態1による地上局の通信フローチャートを示す図である。
【図4】実施の形態1による衛星情報テーブルを示す図である。
【図5】実施の形態1による通信中継衛星の通信フローチャートを示す図である。
【図6】実施の形態1による衛星通信システムの構成例を示す図である。
【図7】実施の形態1による通信中継衛星の通信フローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
実施の形態1.
図1は、この発明に係る実施の形態1による衛星通信システムの概要構成を示す図である。図1において、実施の形態1の衛星通信システムは、少なくとも1局以上の地上局1と、少なくとも1機以上の通信中継衛星2と、少なくとも1機以上の観測衛星3を備えて構成される。
【0023】
図1において、地上局1は、地球10の上(例えば日本の陸地)に設置される。通信中継衛星2(超低高度衛星)は、地球10と電離層11の間の例えば高度200〜220kmの超低高度軌道上において、地球を周回する単機もしくは複数機(図1の例では3機)が配置される。ここで、電離層11は例えば高度220km以遠のF層である。観測衛星3は、通信中継衛星2のさらに高い高度の軌道における、電離層を超えた高度の宇宙環境において、地球を周回するように1機以上が配置されている。
【0024】
なお、通信中継衛星2は、必ずしも複数機を用意する必要はない。ただし、通信中継衛星2の単機と比べ複数機のほうが、通信カバー範囲の拡大、観測衛星3との通信可能機会の増加が見込まれる。また、観測衛星3は、電離層を超えた高度において地球を周回する衛星であれば、例えば通信衛星のように観測以外の目的の衛星であってもよい。
【0025】
図1に示すように、通信中継衛星2は、地上局1との間で衛星通信を行う。また、通信中継衛星2は、観測衛星3との間で衛星通信を行い、データを送信もしくは受信する。地上局1と通信中継衛星2の衛星通信は、周波数3MHz〜30MHz帯の短波4を通信媒体(キャリア)に用いて行う。短波4は、電離層11及び地球10の表面で多重反射する性質を持ち、電離層11より低高度の領域では遠距離通信が可能な電波である。地上局1または通信中継衛星2から発信された短波4は、複数の通信中継衛星2で中継することで、地球10と電離層11の間の全域に伝播する。この短波4を利用した短波通信によって、観測衛星3と通信する通信中継衛星2に対して、地上局1からデータを送信することが可能となる。同様にして、観測衛星3と通信する通信中継衛星2から、短波4を利用して地上局1へデータを送信することが可能となる。このため、通信中継衛星2を地上局1と観測衛星3との間の通信中継基地局として利用することができる。
【0026】
観測衛星3が通信中継衛星2の上空の可視領域に来たら、観測衛星3と通信中継衛星2の間でデータの送受信を開始する。通信中継衛星2と観測衛星3の通信では、従来の地上局1と観測衛星3の間で利用されてきたSバンドの通信方法を用いる。また、観測衛星3と通信中継衛星2の間で送受信されたデータは、従来同様にSバンドの通信方法によって地上局1に伝送されてもよい。そのため、通信中継衛星2には、図2にて後述する、観測衛星3との通信用のSバンド送受信機2hと、地上局1との通信用のSバンド送受信機2bを設ける。
なお、通信中継衛星2と観測衛星3の通信においては、短波よりも波長の短い、Sバンド以外のマイクロ波またはミリ波帯の周波数として、例えば、Lバンド、Cバンド、Xバンド、Kuバンド、Kバンド、Kaバンド、Vバンド等を用いてもよい。以下の説明では、Sバンドを用いた例について説明するが、これは短波よりも波長の短い、Sバンド以外のマイクロ波またはミリ波帯の周波数で動作するマイクロ波送受信機またはマイクロ波変復調機を備えた通信中継衛星2と観測衛星3であっても、電離層を超えた高度の軌道上で、電離層を透過して通信を行うものであれば、同様に適用可能である。
【0027】
通信中継衛星2は、通信中継基地局として利用しない期間では、通信中継衛星2に搭載される図示しないGPS受信機の受信情報を、定期的に地上局1もしくは他の通信中継衛星2へ発信する。地上局1は、各通信中継衛星2または観測衛星3の予め設定された軌道情報を一括管理する。また、地上局1は、通信中継衛星2のGPS受信機の受信情報に基づいて各通信中継衛星2の位置を測定し、各通信中継衛星2の位置を一括管理する。これによって、地上局1は、相互通信を行わせる通信中継衛星2または観測衛星3などの統制を容易に行うことができる。なお、GPS受信機は従来の衛星でも搭載されてきた一般的な機器であり、搭載や機能の実現に特別な技術や検討は必要としないので、ここでは詳細な説明を省く。
【0028】
このように構成された衛星通信システムにおいては、地上局1と通信中継衛星2の間の短波の通信速度を考慮すると、前述したようにデータ量が大きく削減された通信中継衛星2に対するコマンドの送信に利用されると、特に効果が高い。
【0029】
次に、衛星通信システムを構成する、地上局1、通信中継衛星2、及び観測衛星3の構成及び動作についてより詳しく説明する。図2は実施の形態1による衛星通信システムの構成例を示す図である。図3は実施の形態1による地上局の通信フローチャートを示す図である。図4は実施の形態1による衛星情報テーブルを示す図である。図5は実施の形態1による通信中継衛星の通信フローチャートを示す図である。図6は実施の形態1による衛星通信システムの構成例を示す図である。図7は実施の形態1による通信中継衛星の通信フローチャートを示す図である。
【0030】
最初に、地上局1から通信中継衛星2を経由して観測衛星3へとコマンドを送信する場合において、地上局1から通信中継衛星2までのデータ送信の動作及び構成を、図2、図3、図4を用いて説明する。図2は、地上局1から発信するコマンドを、観測衛星3と交信を行う通信中継衛星2まで伝送する場合の概念を例示している。
【0031】
図2に示すように、地上局1は、衛星情報管理システム1aと、短波変復調器1bと、短波送受信機1cと、Sバンド送受信機1dと、Sバンド変復調器1eと、ユーザーインターフェイス1fを備えている。
通信中継衛星2は、制御装置2aと、マイクロ波送受信機であるSバンド送受信機2bと、増幅器2cと、短波送受信機2dと、短波判別器2eと、短波変復調器2fと、マイクロ波変復調器であるSバンド変復調器2gと、マイクロ波送受信機であるSバンド送受信機2hを備えている。Sバンド送受信機2hは、地上局1の送受信機1dと同様の構成である。Sバンド送受信機2bを構成するアンテナの配置される位置は、通信中継衛星2における地球を向く方向(地上局側)の面である。Sバンド送受信機2hを構成するアンテナの配置される位置は、通信中継衛星2における天頂方向(高高度側)の面である。短波送受信機2dを構成するアンテナは、通信中継衛星2の側面(衛星の移動方向に垂直または平行な面、または地球を向く面)に設けられている。
なお、図2に示したSバンド送受信機1d、2b、2hとSバンド変復調器1e、2gは、この実施の形態1による一態様例を示すものであり、上述したように電離層を透過する短波帯域以上の通信帯域の送受信装置を用いても良い。これは、以降で説明するSバンド通信に関する機器及びシステムについても同様である。
【0032】
地上局1において、Sバンド送受信機1eは、Sバンド送受信機1dと衛星情報管理システム1aに接続されている。短波変復調器1bは、短波送受信機1cと衛星情報管理システム1aに接続されている。衛星情報管理システム1aは、キーボードやマウスなどの入力デバイスを介してオペレータが情報を入力するとともに、液晶ディスプレイや表示灯などの表示デバイスを介してオペレータに対して表示情報を出力して情報の提供を行うための、入出力用のユーザーインターフェイス1fに接続される。
【0033】
通信中継衛星2において、Sバンド送受信機2hは、Sバンド送受信機2b、Sバンド送受信機2gに接続されている。Sバンド送受信機2gは、制御装置2aに接続されている。短波送受信機2dは、増幅器2c、短波判別器2eに接続されている。増幅器2cは制御装置2aにも接続されている。短波変復調器2fは、制御装置2a、短波判別器2eに接続されている。制御装置2aは、信号の暗号化処理または復号化処理を行う。通信中継衛星2の短波送受信機2dは、地上局1の短波送受信機1cとの間で短波4を利用した衛星通信を行う。また、通信中継衛星2の短波送受信機2dは、他の通信中継衛星2の短波送受信機2dとの間で短波4を利用した衛星間通信を行うこともできる。
【0034】
地上局1は、図3のフローチャートに従い動作する。以下、地上局1の動作について図2、図3を用いて説明する。
まず、ステップg1において、地上局1のユーザーインターフェイス1fを介して、オペレータが観測衛星3に送信したいコマンドを入力し、オペレータが地上局1に対して観測衛星3に送信するためのコマンドの送信要請を行う。ユーザーインターフェイス1fを介したコマンドの入力方式やインターフェイスのデータフォーマット様式は、例えば特許文献4に示すような従来の人工衛星のコマンド伝送方式を用いればよい。
【0035】
次に、ステップg2において、ユーザーインターフェイス1fからコマンドの送信要請を受けた衛星情報管理システム1aは、上記コマンドの送信対象とする観測衛星3と最も近い通信中継衛星2を選別し、当該コマンドを複数纏めて通信中継衛星2に送信するストアードコマンドを発行する。
ここでのストアードコマンドとは、通信中継衛星2におけるコマンドの実行時刻になると、通信中継衛星2が観測衛星3へ入力する一連の複数のコマンドと当該コマンド毎の各実行時刻とを対応付けて観測衛星3に送信するために、通信中継衛星2に対して指示するコマンド群である。また、通信中継衛星2が観測衛星3にストアードコマンドを送信する実行時刻は、観測衛星3が選別された通信中継衛星2の可視領域に入るタイミングを算出して指定する。
【0036】
地上局1が送信相手として指定する通信中継衛星2の選別と、通信中継衛星2におけるストアードコマンドの実行時刻の算出のため、衛星情報管理システム1aは図4に示すような衛星情報テーブルと、観測衛星3の軌道情報を有する。この衛星情報テーブルは、衛星が通信中継衛星2か否かを示す衛星の種類を示す情報と、通信中継衛星2がGPS衛星から受信したGPS情報から構成される。この衛星情報テーブルは、通信中継衛星2を含む各衛星と地上局1との衛星通信によって得られたデータに基づいて、各衛星のGPS受信機から得られるGPS情報を用いて生成される。GPS情報は、例えば通信中継衛星2の有するGPS受信機がGPS衛星から受信したGPS信号の受信時刻の情報を示すGPS情報1と、当該GPS信号に基づいて測位される自己の位置座標を示すGPS情報2と、当該GPS信号に基づいて計測される自己の移動速度を示すGPS情報3から構成される。GPS情報は、例えば通信中継衛星2が通信中継を行ってない時に地上局1に向けて定期的に配信される。また、衛星情報管理システム1aは、軌道情報に基づいて、観測衛星3の現在の位置、移動速度と、所定時間後の予想位置、移動速度を求める。
【0037】
衛星情報管理システム1aは、衛星情報テーブルから得られる各通信中継衛星2の位置と観測衛星3の軌道情報に基づいて、T時間経過した後の、衛星の種類が通信中継衛星2である衛星と観測衛星3との距離Lを求め、求めた距離が通信可能な距離L0以内となる時間Tが最短となる通信中継衛星2を、最も早く観測衛星3と通信可能になる衛星として判断する。また、観測衛星3の軌道情報と、通信中継衛星2の位置、速度の情報に基づいて、通信中継衛星2と観測衛星3の交信開始のタイミングを決定する。
【0038】
なお、通信中継衛星2と観測衛星3の交信開始のタイミングは、地上局1が発信するストアードコマンドによる指定に限らず、通信中継衛星2が図4に示す衛星情報テーブルを有することで、自ら算出して決定してもよい。この場合は通信中継衛星2に対する地上局1からのコマンドは、自律化コマンドになる。もちろん、これら以外の方法を用いて交信開始のタイミングを決定してもよい。
【0039】
衛星情報管理システム1aは、暗号化及び複号化の処理機能を有する。衛星情報管理システム1aは、ストアードコマンドを含む発行するコマンドを暗号化し、短波変復調器1bへ渡す。
【0040】
その後、ステップg3において、短波変復調器1bは、衛星情報管理システム1aから渡される暗号化された情報を、短波通信用に変調して短波送受信機1cに伝送する。
【0041】
次に、ステップg4において、短波送受信機1cは、短波変復調器1bから伝送される短波信号を、短波通信4aによって通信中継衛星2へ送信する。
【0042】
続いて、通信中継衛星2は、短波通信4aによって短波送受信機1cから送信された短波信号を受信すると、図5に示すフローチャートに従って動作する。以下、通信中継衛星2の動作について、図2、図5を用いて説明する。
【0043】
まず、ステップf1において、短波送受信機2dは、短波通信4aによって短波送受信機1cから伝送される短波信号を受信し、短波判別器2eへ伝える。
【0044】
ステップf2において、短波判別器2eは、短波送受信機1cから伝送された短波信号について、自己の衛星向けの信号か否かを判別する判定処理を行う。例えば、地上局1の短波送受信機1cは、通信対象となる通信中継衛星2毎に送信する短波の波長を変える。短波判別器2eは、短波送受信機1cから伝送された短波信号の波長を識別し、予め設定された短波信号の波長に対応付けされた通信中継衛星2の情報を参照して、識別された短波の波長に基づいて対応する通信中継衛星2が自己であるか否かを判別することで、自己の通信中継衛星2に向けた信号であることを判定する。
【0045】
その後、ステップf3において、短波判別器2eは、ステップf2の判定結果に従い、短波送受信機1cから受信した信号が自己向けか否かによって次の処理動作を変える分岐処理を行う。
ここで、ステップf2の判定の結果、自己の通信中継衛星2に向けた信号でなかった場合(NOの場合)、ステップf4、f5に分岐して処理が継続される。
すなわち、ステップf4にて、短波信号は短波判別器2eから増幅器2へ伝送され、増幅器2cで増幅される。
次に、ステップf5にて、増幅器2cで増幅された信号は短波送受信機2dへ伝送され、短波通信4bによって再度隣なりの通信中継衛星2の短波送受信機2dへ送信される。この場合、通信中継衛星2は受信した短波のレベルを増幅器2cにて増幅して発信し直すことで、トランスポンダとしての役割を果たす。
【0046】
上記のように、ステップf1→ステップf2→ステップf3→ステップf4→ステップf5を繰り返すことで、短波信号の最終的な送信目標となる通信中継衛星2に辿り着くまでの間、通信中継衛星2が短波信号を順次中継して、遠距離に位置した送信目標となる通信中継衛星2まで短波信号の伝送が行われる。
【0047】
一方、ステップf2の判定の結果、自己の通信中継衛星2に向けた信号であった場合(YESの場合)、ステップf6、f7に分岐して処理が継続される。
例えば、図2に示すように短波信号の目標となる通信中継衛星2に短波通信4bが届くと、図5の分岐処理のステップf3にてステップf6へ分岐して動作処理が行われる。
すなわち、通信中継衛星2の短波受信機2dで受信した短波信号は、短波判別器2eから短波複調器2fへ伝送され、短波複調器2fにて復調される。
短波複調器2fにて復調された信号は、ステップf3にて制御装置2aへ伝送される。制御装置2aは、信号の復号化処理を実行し、ここで復号化された信号はストアードコマンドとして受領される。
【0048】
次に、地上局1から通信中継衛星2を経由して観測衛星3へとコマンドを送信する場合において、通信中継衛星2から観測衛星3までのデータ伝送の動作及び構成を、図6、図7を用いて説明する。
【0049】
図6において、観測衛星3は、マイクロ波送受信機であるSバンド送受信機3aと、マイクロ波変復調器であるSバンド変復調器3bと、衛星システム3cを備えて構成される。Sバンド送受信機3aはSバンド変復調器3bに接続される。Sバンド変復調器3bは衛星システム3cに接続される。通信中継衛星2は図2と同じ構成である。通信中継衛星2のSバンド送受信機2hと観測衛星3のSバンド送受信機3aは、Sバンド通信5による衛星間通信を行う。
【0050】
図7において、通信中継衛星2の制御装置2aは、ステップf7に示すストアードコマンドの実行時刻が来ると、図7のステップf8に従い自律化コマンドを実行する。ここで実行される自律化コマンドは、例えば通信中継衛星2から観測衛星3に対して入力したコマンドの送信を実施するための送信コマンドであるとする。地上局1から送信されるストアードコマンドにより、通信中継衛星2の制御装置2aに対し自律化コマンドの実行時刻と観測衛星3に送りたい送信コマンドだけを指定すれば、後は制御装置2aが自律的にコマンド送信を実行する。
【0051】
制御装置2aは、処理するストアードコマンド及び自律化コマンドにおいて、例えば観測衛星3に送る送信コマンドを暗号化して、Sバンド変復調器2gへ信号を送る。
【0052】
その後、図7のステップf9において、Sバンド変復調器2gはSバンド通信用に変調された信号を生成する。ステップS10において、Sバンド変復調器2gによりSバンド通信用に変調されたSバンド信号は、Sバンド送受信機2hに入力される。Sバンド送受信機2hは、Sバンド信号を増幅し、Sバンド通信5によってSバンド信号を観測衛星3のSバンド送受信機3aへ伝送する。
【0053】
観測衛星3のSバンド送受信機3aがSバンド通信5によるSバンド信号を受信した後の動作は、従来の観測衛星の動作と同様であるため、現行の軌道上の観測衛星に対しても本実施の形態による衛星通信システムは効果を発揮する。以下、観測衛星3の動作の流れを簡単に説明する。
【0054】
Sバンド送受信機3aにて受信されたSバンド信号は、Sバンド変復調器3bにて復調され、衛星システム3cに伝送される。衛星システム3cにて信号が復号化されることで、最終的に観測衛星3は、通信中継衛星2を経由して地上局1から送られてきたコマンドを受け取ることができる。
【0055】
このようにして、地上局1から発信された情報を、通信中継衛星2で中継して観測衛星3まで伝送することができる。
【0056】
次に、観測衛星3から地上局1へ情報を送る場合の動作及び構成を、図2及び図6を用いて説明する。ここでは、観測衛星から地上局へ送る情報を、観測衛星3のテレメトリ情報とする。
【0057】
テレメトリ情報は、ストアードコマンドや送信コマンドなどの前述のコマンドと比較してデータ量が大きいため、短波による通信は現実的ではない。そのため、例えば従来のSバンド通信を用いて情報の伝送を行う。ただし、テレメトリ情報の中から一部の重要なテレメトリを抽出して、優先的に短波で送ってもよい。制御装置2aは、地上局1から伝送されるストアードコマンドまたは他のコマンドによって、短波によるテレメトリ情報の送信を行うか否かが予め設定される。
【0058】
まず、図6のSバンド通信5によって、観測衛星3のSバンド送受信機3aから通信中継衛星2のSバンド送受信機2hにテレメトリ情報を送る。通信中継衛星2のSバンド送受信機2hはSバンド通信5により送られてくるSバンド信号を受信すると、受信した信号の有するテレメトリ情報の含まれた信号を、直接地上局1側との通信用のSバンド送受信機2bに伝送する。
【0059】
ただし、優先度の高いテレメトリ情報については、一度制御装置2aに伝送され、増幅器2c及び短波送受信機2dを経由して、短波通信4aによって地上局1の短波送受信機1cに伝送される。制御装置2aは、図示しない記憶装置に予めテレメトリ情報の優先順位が登録されている。制御装置2aは、この登録された優先順位に基づいて、Sバンド通信6によって送るテレメトリ情報と短波通信4aで送るテレメトリ情報とを分別する。例えば、優先順位が上位から所定の順位以内のものについては、Sバンド通信6によって送るテレメトリ情報として判断し、それより優先順位の低いものを短波通信4aで送るテレメトリ情報として判断する。
【0060】
その後、観測衛星3からテレメトリ情報を含む信号を受けた通信中継衛星2が地上局の可視領域に到達したら、図2のように、Sバンド通信6によって地上局1へテレメトリ情報の含まれた信号を送信する。地上局1のSバンド送受信機1dがテレメトリ情報を含む信号を受信すると、Sバンド変復調器1eはSバンド送受信機1dの受け取った受信信号を復調する。Sバンド変復調器1eは、復調したテレメトリ情報の含まれたデータを衛星情報管理システム1aに伝送する。かくして、観測衛星3から送信されるテレメトリ情報が地上局1に伝送されることとなる。
【0061】
なお、短波通信4aによって地上局1へテレメトリ情報の含まれた信号を送信する場合は、図2のように、短波通信4aによって地上局1へテレメトリ情報の含まれた信号を送信する。地上局1の短波送受信機1cがテレメトリ情報を含む信号を受信すると、短波変復調器1bは、短波送受信機1cの受け取った受信信号を復調する。短波変復調器1bは、復調したテレメトリ情報の含まれたデータを衛星情報管理システム1aに伝送する。かくして、観測衛星3から送信されるテレメトリ情報が短波通信によって地上局1に伝送されることとなる。
また、通信中継衛星2と地上局1のSバンド通信においては、短波よりも波長の短い周波数の、Sバンド以外のマイクロ波またはミリ波帯の周波数で動作するマイクロ波送受信機やマイクロ波変復調器を用いて、例えば、Lバンド、Cバンド、Xバンド、Kuバンド、Kバンド、Kaバンド、Vバンド等の電離層を透過する波長帯域のマイクロ波またはミリ波を用いて通信を行ってもよい。
【0062】
以上説明した通り、実施の形態1による衛星通信システムは、短波送受信機を有した地上局と、上記地上局の短波送受信機との間で短波通信を行う短波送受信機と、短波よりも波長の短い周波数で動作するマイクロ波送受信機とを有した通信中継衛星と、上記通信中継衛星のマイクロ波送受信機との間で通信する、短波よりも波長の短い周波数で動作するマイクロ波送受信機を有し、上記通信中継衛星よりも高い軌道に位置する高軌道衛星と、を備えたことを特徴とする。
【0063】
また、通信中継衛星は、地上局との間で短波通信を行う短波送受信機と、短波よりも波長の短い周波数で動作するマイクロ波送受信機を有した他の衛星との間で通信を行う、短波よりも波長の短い周波数で動作するマイクロ波送受信機を備えている。
【0064】
また、上記通信中継衛星のマイクロ波送受信機、及び上記観測衛星のマイクロ波送受信機は、電離層を透過する波長帯域のマイクロ波またはミリ波で通信を行う。
【0065】
また、上記高軌道衛星は、電離層以遠の軌道上の観測衛星である。
【0066】
また、上記地上局は、指定時刻と送信コマンドと上記高軌道衛星に対するコマンドが設定されたストアードコマンドを送信し、上記通信中継衛星は、上記地上局から受けるストアードコマンドに設定された指定時刻に至ると上記送信コマンドに基づいて高軌道衛星に対するコマンドの送信を行う。
【0067】
また、上記地上局は、上記通信中継衛星の位置情報に基づいて、上記高軌道衛星との通信が最も早く通信可能となる通信中継衛星を選択する。
【0068】
また、上記通信中継衛星は、上記短波送受信機で受信した短波信号が自己に対応した信号であるか否かを判別し、自己に対応した信号である場合は受信した短波信号を復調し、自己に対応した信号でない場合は他の通信中継衛星に向けて受信した短波信号を上記短波送受信機に再送信する短波判別器を備える。
【0069】
これによって、地上局1と超低高度軌道上の通信中継衛星2(超低高度衛星)との間で短波通信を行なうことにより、全軌道上での衛星通信が可能となる衛星システムを提供できる。
【0070】
また、通信中継衛星2(超低高度衛星)に短波通信のデータ中継機能を持たせることにより、全軌道上での観測衛星3と地上局1との通信をより確実に実施することができる広域な衛星通信システムを提供することができる。
【0071】
また、全軌道上において地上局1と短波通信を行える通信中継衛星2(超低高度衛星)を通信の中継基地に用いることにより、電離層以遠に存在する超低高度より高い高度の全ての軌道上にある観測衛星3の周回軌道衛星に対して、コマンド送信によるデータ送信が可能となる。
【0072】
また、通信中継衛星2(超低高度衛星)と観測衛星3との通信では、観測衛星3側は従来から地上局1と通信を行うSバンド通信用のアンテナを用いるため、新規に特殊なアンテナを設置する必要もなく、既存の観測衛星3に対しても広域な衛星通信システムを提供することができる。
【0073】
さらに、通信中継衛星2(超低高度衛星)はより高い軌道にある観測衛星3との間のデータ中継衛星として利用できるため、常に地上局1との衛星通信を可能とする衛星通信システムを構成することが可能となる。
【符号の説明】
【0074】
1 地上局、2 通信中継衛星、2a 制御装置、2b Sバンド送受信機(マイクロ波送受信機)、2c 増幅器、2d 短波送受信機、2e 短波判別器、2f 短波変復調器、2g Sバンド変復調器(マイクロ波変復調器)、2h Sバンド送受信機(マイクロ波送受信機)、3 観測衛星、3a Sバンド送受信機(マイクロ波送受信機)、3b Sバンド変復調器(マイクロ波変復調器)、3c 衛星システム、4 短波、4a 短波通信、4b 短波通信、5 Sバンド通信、6 Sバンド通信。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短波送受信機を有した地上局と、
上記地上局の短波送受信機との間で短波通信を行う短波送受信機と、短波よりも波長の短い周波数で動作するマイクロ波送受信機とを有した通信中継衛星と、
上記通信中継衛星のマイクロ波送受信機との間で通信する、短波よりも波長の短い周波数で動作するマイクロ波送受信機を有し、上記通信中継衛星よりも高い軌道に位置する高軌道衛星と、
を備えた衛星通信システム。
【請求項2】
上記通信中継衛星のマイクロ波送受信機、及び上記観測衛星のマイクロ波送受信機は、電離層を透過する波長帯域のマイクロ波で通信を行う請求項1記載の衛星通信システム。
【請求項3】
上記高軌道衛星は、電離層以遠の軌道上の観測衛星である請求項1記載の衛星通信システム。
【請求項4】
上記地上局は、指定時刻と送信コマンドと上記高軌道衛星に対するコマンドが設定されたストアードコマンドを送信し、
上記通信中継衛星は、上記地上局から受けるストアードコマンドに設定された指定時刻に至ると上記送信コマンドに基づいて高軌道衛星に対するコマンドの送信を行う請求項1記載の衛星通信システム。
【請求項5】
上記地上局は、上記通信中継衛星の位置情報に基づいて、上記高軌道衛星との通信が最も早く通信可能となる通信中継衛星を選択する請求項1記載の衛星通信システム。
【請求項6】
地上局との間で短波通信を行う短波送受信機と、短波よりも波長の短い周波数で動作するマイクロ波送受信機を有した他の衛星との間で通信を行う、短波よりも波長の短い周波数で動作するマイクロ波送受信機を備えた通信中継衛星。
【請求項7】
上記通信中継衛星のマイクロ波送受信機、及び上記観測衛星のマイクロ波送受信機は、電離層を透過する波長帯域のマイクロ波で通信を行う請求項6記載の衛星通信システム。
【請求項8】
上記短波送受信機で受信した短波信号が自己に対応した信号であるか否かを判別し、自己に対応した信号である場合は受信した短波信号を復調し、自己に対応した信号でない場合は他の通信中継衛星に向けて受信した短波信号を上記短波送受信機に再送信する短波判別器を備えた請求項6記載の通信中継衛星。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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