衛星通信システムの地球局装置および地球局装置制御方法
【課題】従来の送信機数に応じた位相変動検出手段、受信機数に応じた位相差およびS/N検出手段を不要とし、簡単な構成および制御方法により通信性能を向上させることができる衛星通信システムの地球局装置および地球局装置制御方法を提供する。
【解決手段】受信系の振幅位相設定手段は、予め複数の受信手段の雑音電力を個別に測定して、当該雑音電力が一定になる重みを用いて受信信号の振幅を調整し、かつ、各移相器に対して移相量を変えながら電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて受信信号の位相を補償する構成であり、送信系の位相設定手段は、移相器の移相量を変えながら、電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて送信信号の位相を補償する。
【解決手段】受信系の振幅位相設定手段は、予め複数の受信手段の雑音電力を個別に測定して、当該雑音電力が一定になる重みを用いて受信信号の振幅を調整し、かつ、各移相器に対して移相量を変えながら電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて受信信号の位相を補償する構成であり、送信系の位相設定手段は、移相器の移相量を変えながら、電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて送信信号の位相を補償する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信性能(EIRP:アンテナ利得と送信電力の積、G/T:アンテナ利得Gと雑音指数を温度変換した値Tの比)の低い送受信機を複数用いて、これらを適切に連係動作させることにより通信性能を向上させ、広帯域・大容量の伝送信号の送受信を可能とする衛星通信システムの地球局装置および地球局装置制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星通信システムにおいて、複数のユーザが接続する基地局やリッチ・コンテンツ等の送受信を希望するユーザ局のように、広帯域・大容量の信号を伝送することが求められる場合、これを実現するためには通信性能(EIRP,G/T)の高い地球局装置が必要となる。
【0003】
従来の衛星通信システムにおいて所定の信号を伝送するためには、回線設計に応じたEIRPおよびG/Tが必要である。必要とされるEIRPは、変調方式を固定した場合は、通信容量に比例して増大する。また、多値化を行うことで1Hz当たりの伝送ビット数を向上させて周波数を減らすことができるが、反面より多くのEIRPが必要となる。また、一方の地球局のEIRPが高ければ、通信の相手方となる地球局のG/T は低くてもよく、これと反対の関係も成り立つため、地球局の性能を向上させることが求められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】須崎他,「船上地球局用分散アレーアンテナの位相変動補償法および実験的検証」,電子情報通信学会,衛星通信研究会,SAT2011-3 ,pp.11-16
【非特許文献2】オーム社発行,斎藤他著,移動通信ハンドブック,平成7年第一版発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
EIRPの向上には、アンテナ利得の向上または送信出力の増大のいずれか、もしくは両方が必要である。アンテナ利得の向上には、アンテナの開口面積の増大が必要である。一方、送信出力の増大に関しては、年々、最大出力電力が向上しているものの限界がある。さらに、送信出力の増大については、送信機を構成するコンポーネントに、耐電力性が求められる。一方、G/Tの向上には、アンテナ利得の向上または受信機の低雑音化のいずれか、もしくは両方が必要である。アンテナ利得に関しては前述の通りであり、受信機の低雑音化に関しては、これ以上の低雑音化が見込めないのが現状である。以上の理由により、例えば、既設地球局の通信性能を後から向上させる場合、送受信機ともに大幅な改修が必要となる。
【0006】
そこで、地球局の通信性能を柔軟に向上させる手法として、非特許文献1に記載されるように、複数の送受信機を用いて通信性能を向上させるアプローチが報告されている。この技術では、図8(a) のように、送信系の信号分配器81および位相設定手段82において、複数の送信機83から同一の変調信号を出力し、受信信号が同相となるように位相を調整することで、通信性能を向上させている。また、図8(b) のように、受信系の振幅・位相設定手段85および信号合成器86おいて、各受信機84における受信信号の振幅と位相を調整して、合成S/Nが最大となる制御を行っている。この技術によると、送受信機の通信性能が同じと仮定した場合、装置数Nに対し、EIRPはN2 倍、G/TはN倍となる。
【0007】
本報告における検討では、移動局への適用を想定しているため、移動に伴う経路長変動(位相変動)と、移動によらず発生する送受信機が備えるRF機器で発生する位相変動補償方法が言及されているが、これを固定局へ適用する場合には、送受信機が備えるRF機器に起因する位相変動補償のみを適用すればよい。図9は、送受信機が備えるRF機器に位相変動がある場合に、同一の信号入力に対する出力信号の位相変動をプロットしたものである。この結果により、送受信機が備えるRF機器の位相変動は、秒オーダの比較的ゆっくりとした位相変動であるといえる。
【0008】
非特許文献1では、送信機にて発生した位相変動補償について、移動に伴う経路長変動とRF機器に起因する位相変動の影響とを分離するために、図10に示すように、各送信機出力信号を位相変動検出手段87にフィードバックして位相変動量を検出し、これを補償する制御を行っている。受信系においては最大比合成を適用しているが、これを実現するためには非特許文献2に記載されるように、位相差およびS/N検出手段88で各受信機における受信信号間の相対位相差および信号対雑音電力比(S/N)を観測し、最大比合成となる振幅設定および同相合成を実現する位相量の決定を行わなければならない。すなわち、従来の手法を用いて複数の送受信機を連係動作させて通信性能を向上させるには、送信機数に応じた位相変動検出手段、受信機数に応じた位相差およびS/N検出手段が必要となるため、送受信機数が増えるに従い、地球局装置の構成および制御が複雑になる問題がある。
【0009】
本発明は、従来の送信機数に応じた位相変動検出手段、受信機数に応じた位相差およびS/N検出手段を不要とし、簡単な構成および制御方法により通信性能を向上させることができる衛星通信システムの地球局装置および地球局装置制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、変調器から入力された送信信号を複製して分配する信号分配手段と、複数の移相器により構成され、信号分配手段が分配した各送信信号の位相を補償して出力する位相設定手段と、位相設定手段から出力される各送信信号を無線信号として送信する複数の送信手段とを含む送信系と、中継手段を介して中継された無線信号を受信する複数の受信手段と、複数の振幅調整手段および複数の移相器により構成され、受信手段が受信した信号の振幅を調整し、位相を補償して出力する振幅位相設定手段と、振幅位相設定手段の出力を合成して復調器に出力する信号合成手段と、信号合成手段が合成した信号の受信電力を測定して出力する電力検出手段とを含む受信系とを備えた衛星通信システムの地球局装置において、振幅位相設定手段は、予め複数の受信手段の雑音電力を個別に測定して、当該雑音電力が一定になる重みを用いて受信信号の振幅を調整し、かつ、各移相器に対して移相量を変えながら電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて受信信号の位相を補償する構成であり、位相設定手段は、移相器の移相量を変えながら、電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて送信信号の位相を補償する構成である。
【0011】
第1の発明の衛星通信システムの地球局装置において、位相設定手段は、初回の移相器の移相量を90度に設定する。
【0012】
第1の発明の衛星通信システムの地球局装置において、振幅位相設定手段は、位相設定手段の移相量を1回変えるごとに、複数回移相量を変える。
【0013】
第1の発明の衛星通信システムの地球局装置において、振幅位相設定手段は、雑音電力を測定した後に、電力測定手段から出力された個々の受信機ごとの受信電力から信号対雑音比をそれぞれ取得して、当該信号対雑音比を用いて算出した最大比合成の重み係数を各振幅調整手段に設定する。
【0014】
第2の発明は、変調器から入力された送信信号を複製して分配する信号分配手段と、複数の移相器により構成され、信号分配手段が分配した各送信信号の位相を補償して出力する位相設定手段と、位相設定手段から出力される各送信信号を無線信号として送信する複数の送信手段とを含む送信系と、中継手段を介して中継された無線信号を受信する複数の受信手段と、複数の振幅調整手段および複数の移相器により構成され、受信手段が受信した信号の振幅を調整し、位相を補償して出力する振幅位相設定手段と、振幅位相設定手段の出力を合成して復調器に出力する信号合成手段と、信号合成手段が合成した信号の受信電力を測定して出力する電力検出手段とを含む受信系とを備えた衛星通信システムの地球局装置制御方法において、振幅位相設定手段は、予め複数の受信手段の雑音電力を個別に測定して、当該雑音電力が一定になる重みを用いて受信信号の振幅を調整し、かつ、各移相器に対して移相量を変えながら電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて受信信号の位相を補償し、位相設定手段は、移相器の移相量を変えながら、電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて送信信号の位相を補償する。
【0015】
第2の発明の衛星通信システムの地球局装置制御方法において、位相設定手段は、初回の移相器の移相量を90度に設定する。
【0016】
第2の発明の衛星通信システムの地球局装置制御方法において、振幅位相設定手段は、位相設定手段の移相量を1回変えるごとに、複数回移相量を変える。
【0017】
第2の発明の衛星通信システムの地球局装置制御方法において、振幅位相設定手段は、雑音電力を測定した後に、電力測定手段から出力された個々の受信機ごとの受信電力から信号対雑音比をそれぞれ取得して、当該信号対雑音比を用いて算出した最大比合成の重み係数を各振幅調整手段に設定する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の衛星通信システムの地球局装置は、複数の送信手段および受信手段を備え、受信信号のみのモニタにより、変復調装置から各送信手段および受信手段への振幅位相を制御することで、従来の信号フィードバックや複雑な構成を不要とし、通信性能(EIRPおよびG/T)を向上させることができる。さらに、信号合成手段における電力のモニタにより、送受信手段で個別に発生するRF系の特性変動に対しても、これを補償し、特性を維持することができる。
【0019】
また、送信手段および受信手段の位相制御値更新のための所要時間差を利用して、最適な設定値を実現するまでの時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の衛星通信システムの地球局装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明の地球局装置を適用する衛星通信システムの構成例を示す図である。
【図3】ステップトラック制御の更新回数に対する合成EIRPを示す図である。
【図4】受信機単体、同相状態での合成受信スペクトラムを示す図である。
【図5】2つの送信機の位相差に対する合成EIRPを示す図である。
【図6】送信系と受信系のステップトラック制御の関係を示す図である。
【図7】2つの受信機のG/T差に対する雑音電力規格化時と最大比合成時の合成S/Nを示す図である。
【図8】複数の送受信機を用いて通信性能を向上させる構成例を示す図である。
【図9】送受信機が備えるRF機器の位相変動量を示す図である。
【図10】位相変動補償の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の衛星通信システムの地球局装置の構成例を示す。ここでは、汎用の変復調装置の入出力信号に対して、n個(nは2以上の整数)の送受信機を用いて通信性能を向上させる地球局装置の構成例を示す。
【0022】
図1において、本発明の地球局装置は、汎用の変復調装置10に対し、送信機11−1〜11−n、受信機12−1〜12−n、信号分配器13、可変移相器pt1 〜ptn で構成される位相設定手段14、可変移相器pr1 〜prn および可変減衰器a1〜an(または可変利得増幅器)で構成される振幅・位相設定手段15、信号合成手段16、信号合成手段16の出力から所望の信号の信号電力を検出する電力検出手段17、位相設定手段14および振幅・位相設定手段15における制御値を与える制御手段18で構成される。
【0023】
信号分配器13は、変復調装置10の変調器から入力された信号を複製(または、分波)して位相設定手段14に出力する。位相設定手段14は、入力された信号の位相を補償し、送信機11−1〜11−nを介して送信する。一方、振幅・位相設定手段15は、受信機12−1〜12−nから入力する受信信号の振幅を調整し、位相を補償して信号合成手段16へ出力する。信号合成手段16は、入力された信号を合成して変復調装置10の復調器に入力し、復調する。
【0024】
本発明では、各送信機11−1〜11−nの送信信号が中継手段3の備えるアンテナで同相に合成されるように、位相設定手段14の可変移相器pt1 〜ptn の位相を決定し、かつ中継手段20で折り返して、各受信機12−1〜12−nが受信した信号が信号合成手段16で同相合成されるように振幅・位相設定手段15の可変移相器pr1 〜prn の位相を決定する。さらに、信号合成手段16の出力のS/Nが向上するように、振幅・位相設定手段15の可変減衰器a1〜anによって重み付けを行う。可変移相器pt1 〜ptn 、pr1 〜prn および可変減衰器a1〜anの調整方法については後述する。
【0025】
図2は、本発明の地球局装置を適用する衛星通信システムの構成例を示す。
図2において、衛星通信システムは、回線制御等を行う基地局1と、少なくとも1つのユーザ局2−1〜2−m(mは1以上の整数)と、中継手段3から構成される。基地局1ではユーザ局2−1〜2−mの制御のために、通信信号のみならず制御信号も送出し、制御信号は常に特定の周波数チャネル(制御信号帯域)を用いて送出される。
【0026】
はじめに、本発明の地球局装置を基地局1に適用した場合の各受信信号の振幅位相設定値の最適化方法の例について説明する。
【0027】
振幅・位相設定手段15の可変減衰器a1〜anは、受信機の利得およびG/Tのばらつきを調整する。受信機12−1〜12−nの可変減衰器a1〜anの制御値を決定するため、全送信機11−1〜11−nの送信を停止、もしくは電波暗室等にて、受信機12−1〜12−nそれぞれにおける制御信号帯域における雑音電力を電力検出手段(図示せず)において予め測定する。測定した雑音電力に基づいて、受信機12−1〜12−nの雑音電力が一定になるように可変減衰器a1〜anの設定値を決定する(雑音電力規格化)。あるいは、ここで決定した受信機12−1〜12−nの可変減衰器a1〜anの設定値に対して、受信機12−1〜12−nのG/Tに比例した雑音電力となるように可変減衰器a1〜anの設定値を調整してもよい(最大比合成)。
【0028】
振幅・位相設定手段15の可変移相器pr1 〜prn は、受信信号の位相の変動を補償する。このとき、補償の目標は、送信信号が空間合成されて同相の受信信号が得られることである。位相設定手段14の可変移相器pt2 〜ptn および振幅・位相設定手段15の可変移相器pr2 〜prn の制御値を決定するために、基地局1が制御信号を送信し、中継手段3を介して中継された当該制御信号により、制御信号帯域における信号電力を観測する。その後、位相設定手段14の可変移相器pt2 の制御位相を、+θおよび−θだけ(θは任意の角度)順次シフトさせ、それぞれの受信レベルが大きくなる方を選択する。このとき、位相シフトさせない状況での受信レベルが大きい場合は位相シフトさせない状態を維持してもよい。なお、ここでの一連の手順を可変移相器pt2 におけるステップトラック制御と呼ぶこととする。
【0029】
その後、振幅・位相設定手段15の可変移相器pr2 について同様の手順を行う。以降、k=3〜nにおいて、可変移相器ptk および可変移相器prk のステップトラック制御を実施する。その後、これらを繰り返し実施することで、同相合成を実現・維持することができる。なお、ステップトラック制御を行う対象の可変移相器ptk および可変移相器prk の選択順序は、上記によらず任意に選んでもよい。
【0030】
ユーザ局2−1〜2−mの各受信系の可変減衰器a1〜anおよび可変移相器pr2 〜prn の制御値の決定方法は、基地局1と同様である。送信系の可変移相器pt2 〜ptn の制御値の決定については、自局からの通信信号を送信し、自局から送信信号の折り返し信号帯域における信号電力を観測し、基地局1と同様に可変移相器ptk および可変移相器prk のステップトラック制御を繰り返し実施することで、同相合成を実現・維持することができる。
【0031】
本発明の有効性について、ほぼ同一のEIRPおよびG/Tを有する2つの送信機および受信機を用いて実験的に検証した例について説明する。
【0032】
図3は、ステップトラック制御の更新回数に対する合成EIRPを示す。ここでは、送信器11−2に対応する可変移相器pt2 のステップトラック制御の更新回数に対する送信機11−1のEIRPを基準とした合成EIRPを示す。更新回数が増えるに従い位相差が小さくなり、合成EIRPが6dBに到達していることが確認できる。次に、受信機の合成に関して結果を示す。不要な信号等がない状況で、各受信機の受信雑音電力が同一になるように可変減衰器a2を調整した後、信号の受信レベルが最大となるように、可変移相器pr2 のステップトラック制御を実施した。受信機単体および同相状態での合成受信スペクトラムを図4に示す。図4(a),(b) は各受信機単体の受信スペクトラムであり、図4(c) は同相状態での合成受信スペクトラムである。この結果、S/Nがほぼ3dB改善していることが確認できる。
【0033】
以上が、本発明の基本的な実施例である。以下、同相合成を実現するまでの時間短縮等についての実施例について説明する。
【0034】
実施例1は、ステップトラック制御における位相シフト量の更新回数に応じて、位相シフト量を変化させる方法である。
【0035】
図5は、2つの送信機の位相差に対する合成EIRPを示す。
ここでは、送信機11−1および送信機11−2のEIRPの振幅比をΔα、位相差をΔφとすると、送信機11−1のEIRPを1とした時の合成EIRPは、
合成EIRP=1+(Δα)2+2Δαcos(Δφ)
と表せる。すなわち、合成EIRPは、位相差Δφの絶対値が90度以上にならない限り、1より大きくなることを示している。例えば、初回の位相シフト量θを±90度とすると、1回の更新で|Δφ|≦90度が満たされる可能性が高まるため、合成の効果が早期に得られることになる。また、各送信機11−kの更新回数に応じて、θを次第に小さくなるように定めてもよい。
【0036】
実施例2は、1回のステップトラック制御の最低所要時間が、送信系と受信系において大きく異なる点に着目する。送信系のステップトラック制御に関しては、位相シフトを行い、これが受信電力に反映されるには、地球局−衛星局間の伝搬遅延(静止衛星では 250ms)以上を要する。一方、受信系に関しては、伝搬遅延の影響がないため、即時に受信電力に反映する。そのため、図6に示すように、送信系の可変移相器ptk の設定量を変えた後に、受信系の可変移相器prk のステップトラック制御を1回もしくは複数回行うことが可能であり、収束時間を短縮できる。なお、受信側のステップトラック制御の結果、受信レベルが増大するため、これを考慮して送信系の可変移相器ptk の設定値の判断を行ってもよい。
【0037】
次に、受信側の性能向上に関する実施例について説明する。
図7は、2つの受信機のG/T差に対する雑音電力規格化時と最大比合成時の合成S/Nを示す(受信機12−1でのS/N=10dB)。これより受信機の性能に大きな差があると、雑音電力規格化の場合はS/Nが劣化するため、最大比合成を実施することが望ましいといえる。しかし、最大比合成を実施するためには各受信機のG/Tが必要である。
【0038】
ここで、各受信機の特性が未知であっても、最大比合成を実現するための手順の一例を示す。まず、個々の受信機単体の制御信号帯域の雑音電力を測定した後に、制御信号を送信し、受信機ごとに制御信号の受信レベルを電力測定手段で測定することで、個々の受信機単体のS/Nを観測する。全ての受信機単体でのS/Nを測定することで、受信機間の相対的なG/Tが推定できるため、最大比合成に近い合成特性が実現できる。このようにして得られた各受信機のS/Nにより最大比合成の重み付けを算出し、各減衰器に割り当てる。
【符号の説明】
【0039】
1 基地局
2 ユーザ局
3 中継手段
10 変復調装置
11 送信機
12 受信機
13 信号分配器
14 位相設定手段
15 振幅・位相設定手段
16 信号合成器
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信性能(EIRP:アンテナ利得と送信電力の積、G/T:アンテナ利得Gと雑音指数を温度変換した値Tの比)の低い送受信機を複数用いて、これらを適切に連係動作させることにより通信性能を向上させ、広帯域・大容量の伝送信号の送受信を可能とする衛星通信システムの地球局装置および地球局装置制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星通信システムにおいて、複数のユーザが接続する基地局やリッチ・コンテンツ等の送受信を希望するユーザ局のように、広帯域・大容量の信号を伝送することが求められる場合、これを実現するためには通信性能(EIRP,G/T)の高い地球局装置が必要となる。
【0003】
従来の衛星通信システムにおいて所定の信号を伝送するためには、回線設計に応じたEIRPおよびG/Tが必要である。必要とされるEIRPは、変調方式を固定した場合は、通信容量に比例して増大する。また、多値化を行うことで1Hz当たりの伝送ビット数を向上させて周波数を減らすことができるが、反面より多くのEIRPが必要となる。また、一方の地球局のEIRPが高ければ、通信の相手方となる地球局のG/T は低くてもよく、これと反対の関係も成り立つため、地球局の性能を向上させることが求められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】須崎他,「船上地球局用分散アレーアンテナの位相変動補償法および実験的検証」,電子情報通信学会,衛星通信研究会,SAT2011-3 ,pp.11-16
【非特許文献2】オーム社発行,斎藤他著,移動通信ハンドブック,平成7年第一版発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
EIRPの向上には、アンテナ利得の向上または送信出力の増大のいずれか、もしくは両方が必要である。アンテナ利得の向上には、アンテナの開口面積の増大が必要である。一方、送信出力の増大に関しては、年々、最大出力電力が向上しているものの限界がある。さらに、送信出力の増大については、送信機を構成するコンポーネントに、耐電力性が求められる。一方、G/Tの向上には、アンテナ利得の向上または受信機の低雑音化のいずれか、もしくは両方が必要である。アンテナ利得に関しては前述の通りであり、受信機の低雑音化に関しては、これ以上の低雑音化が見込めないのが現状である。以上の理由により、例えば、既設地球局の通信性能を後から向上させる場合、送受信機ともに大幅な改修が必要となる。
【0006】
そこで、地球局の通信性能を柔軟に向上させる手法として、非特許文献1に記載されるように、複数の送受信機を用いて通信性能を向上させるアプローチが報告されている。この技術では、図8(a) のように、送信系の信号分配器81および位相設定手段82において、複数の送信機83から同一の変調信号を出力し、受信信号が同相となるように位相を調整することで、通信性能を向上させている。また、図8(b) のように、受信系の振幅・位相設定手段85および信号合成器86おいて、各受信機84における受信信号の振幅と位相を調整して、合成S/Nが最大となる制御を行っている。この技術によると、送受信機の通信性能が同じと仮定した場合、装置数Nに対し、EIRPはN2 倍、G/TはN倍となる。
【0007】
本報告における検討では、移動局への適用を想定しているため、移動に伴う経路長変動(位相変動)と、移動によらず発生する送受信機が備えるRF機器で発生する位相変動補償方法が言及されているが、これを固定局へ適用する場合には、送受信機が備えるRF機器に起因する位相変動補償のみを適用すればよい。図9は、送受信機が備えるRF機器に位相変動がある場合に、同一の信号入力に対する出力信号の位相変動をプロットしたものである。この結果により、送受信機が備えるRF機器の位相変動は、秒オーダの比較的ゆっくりとした位相変動であるといえる。
【0008】
非特許文献1では、送信機にて発生した位相変動補償について、移動に伴う経路長変動とRF機器に起因する位相変動の影響とを分離するために、図10に示すように、各送信機出力信号を位相変動検出手段87にフィードバックして位相変動量を検出し、これを補償する制御を行っている。受信系においては最大比合成を適用しているが、これを実現するためには非特許文献2に記載されるように、位相差およびS/N検出手段88で各受信機における受信信号間の相対位相差および信号対雑音電力比(S/N)を観測し、最大比合成となる振幅設定および同相合成を実現する位相量の決定を行わなければならない。すなわち、従来の手法を用いて複数の送受信機を連係動作させて通信性能を向上させるには、送信機数に応じた位相変動検出手段、受信機数に応じた位相差およびS/N検出手段が必要となるため、送受信機数が増えるに従い、地球局装置の構成および制御が複雑になる問題がある。
【0009】
本発明は、従来の送信機数に応じた位相変動検出手段、受信機数に応じた位相差およびS/N検出手段を不要とし、簡単な構成および制御方法により通信性能を向上させることができる衛星通信システムの地球局装置および地球局装置制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、変調器から入力された送信信号を複製して分配する信号分配手段と、複数の移相器により構成され、信号分配手段が分配した各送信信号の位相を補償して出力する位相設定手段と、位相設定手段から出力される各送信信号を無線信号として送信する複数の送信手段とを含む送信系と、中継手段を介して中継された無線信号を受信する複数の受信手段と、複数の振幅調整手段および複数の移相器により構成され、受信手段が受信した信号の振幅を調整し、位相を補償して出力する振幅位相設定手段と、振幅位相設定手段の出力を合成して復調器に出力する信号合成手段と、信号合成手段が合成した信号の受信電力を測定して出力する電力検出手段とを含む受信系とを備えた衛星通信システムの地球局装置において、振幅位相設定手段は、予め複数の受信手段の雑音電力を個別に測定して、当該雑音電力が一定になる重みを用いて受信信号の振幅を調整し、かつ、各移相器に対して移相量を変えながら電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて受信信号の位相を補償する構成であり、位相設定手段は、移相器の移相量を変えながら、電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて送信信号の位相を補償する構成である。
【0011】
第1の発明の衛星通信システムの地球局装置において、位相設定手段は、初回の移相器の移相量を90度に設定する。
【0012】
第1の発明の衛星通信システムの地球局装置において、振幅位相設定手段は、位相設定手段の移相量を1回変えるごとに、複数回移相量を変える。
【0013】
第1の発明の衛星通信システムの地球局装置において、振幅位相設定手段は、雑音電力を測定した後に、電力測定手段から出力された個々の受信機ごとの受信電力から信号対雑音比をそれぞれ取得して、当該信号対雑音比を用いて算出した最大比合成の重み係数を各振幅調整手段に設定する。
【0014】
第2の発明は、変調器から入力された送信信号を複製して分配する信号分配手段と、複数の移相器により構成され、信号分配手段が分配した各送信信号の位相を補償して出力する位相設定手段と、位相設定手段から出力される各送信信号を無線信号として送信する複数の送信手段とを含む送信系と、中継手段を介して中継された無線信号を受信する複数の受信手段と、複数の振幅調整手段および複数の移相器により構成され、受信手段が受信した信号の振幅を調整し、位相を補償して出力する振幅位相設定手段と、振幅位相設定手段の出力を合成して復調器に出力する信号合成手段と、信号合成手段が合成した信号の受信電力を測定して出力する電力検出手段とを含む受信系とを備えた衛星通信システムの地球局装置制御方法において、振幅位相設定手段は、予め複数の受信手段の雑音電力を個別に測定して、当該雑音電力が一定になる重みを用いて受信信号の振幅を調整し、かつ、各移相器に対して移相量を変えながら電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて受信信号の位相を補償し、位相設定手段は、移相器の移相量を変えながら、電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて送信信号の位相を補償する。
【0015】
第2の発明の衛星通信システムの地球局装置制御方法において、位相設定手段は、初回の移相器の移相量を90度に設定する。
【0016】
第2の発明の衛星通信システムの地球局装置制御方法において、振幅位相設定手段は、位相設定手段の移相量を1回変えるごとに、複数回移相量を変える。
【0017】
第2の発明の衛星通信システムの地球局装置制御方法において、振幅位相設定手段は、雑音電力を測定した後に、電力測定手段から出力された個々の受信機ごとの受信電力から信号対雑音比をそれぞれ取得して、当該信号対雑音比を用いて算出した最大比合成の重み係数を各振幅調整手段に設定する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の衛星通信システムの地球局装置は、複数の送信手段および受信手段を備え、受信信号のみのモニタにより、変復調装置から各送信手段および受信手段への振幅位相を制御することで、従来の信号フィードバックや複雑な構成を不要とし、通信性能(EIRPおよびG/T)を向上させることができる。さらに、信号合成手段における電力のモニタにより、送受信手段で個別に発生するRF系の特性変動に対しても、これを補償し、特性を維持することができる。
【0019】
また、送信手段および受信手段の位相制御値更新のための所要時間差を利用して、最適な設定値を実現するまでの時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の衛星通信システムの地球局装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明の地球局装置を適用する衛星通信システムの構成例を示す図である。
【図3】ステップトラック制御の更新回数に対する合成EIRPを示す図である。
【図4】受信機単体、同相状態での合成受信スペクトラムを示す図である。
【図5】2つの送信機の位相差に対する合成EIRPを示す図である。
【図6】送信系と受信系のステップトラック制御の関係を示す図である。
【図7】2つの受信機のG/T差に対する雑音電力規格化時と最大比合成時の合成S/Nを示す図である。
【図8】複数の送受信機を用いて通信性能を向上させる構成例を示す図である。
【図9】送受信機が備えるRF機器の位相変動量を示す図である。
【図10】位相変動補償の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の衛星通信システムの地球局装置の構成例を示す。ここでは、汎用の変復調装置の入出力信号に対して、n個(nは2以上の整数)の送受信機を用いて通信性能を向上させる地球局装置の構成例を示す。
【0022】
図1において、本発明の地球局装置は、汎用の変復調装置10に対し、送信機11−1〜11−n、受信機12−1〜12−n、信号分配器13、可変移相器pt1 〜ptn で構成される位相設定手段14、可変移相器pr1 〜prn および可変減衰器a1〜an(または可変利得増幅器)で構成される振幅・位相設定手段15、信号合成手段16、信号合成手段16の出力から所望の信号の信号電力を検出する電力検出手段17、位相設定手段14および振幅・位相設定手段15における制御値を与える制御手段18で構成される。
【0023】
信号分配器13は、変復調装置10の変調器から入力された信号を複製(または、分波)して位相設定手段14に出力する。位相設定手段14は、入力された信号の位相を補償し、送信機11−1〜11−nを介して送信する。一方、振幅・位相設定手段15は、受信機12−1〜12−nから入力する受信信号の振幅を調整し、位相を補償して信号合成手段16へ出力する。信号合成手段16は、入力された信号を合成して変復調装置10の復調器に入力し、復調する。
【0024】
本発明では、各送信機11−1〜11−nの送信信号が中継手段3の備えるアンテナで同相に合成されるように、位相設定手段14の可変移相器pt1 〜ptn の位相を決定し、かつ中継手段20で折り返して、各受信機12−1〜12−nが受信した信号が信号合成手段16で同相合成されるように振幅・位相設定手段15の可変移相器pr1 〜prn の位相を決定する。さらに、信号合成手段16の出力のS/Nが向上するように、振幅・位相設定手段15の可変減衰器a1〜anによって重み付けを行う。可変移相器pt1 〜ptn 、pr1 〜prn および可変減衰器a1〜anの調整方法については後述する。
【0025】
図2は、本発明の地球局装置を適用する衛星通信システムの構成例を示す。
図2において、衛星通信システムは、回線制御等を行う基地局1と、少なくとも1つのユーザ局2−1〜2−m(mは1以上の整数)と、中継手段3から構成される。基地局1ではユーザ局2−1〜2−mの制御のために、通信信号のみならず制御信号も送出し、制御信号は常に特定の周波数チャネル(制御信号帯域)を用いて送出される。
【0026】
はじめに、本発明の地球局装置を基地局1に適用した場合の各受信信号の振幅位相設定値の最適化方法の例について説明する。
【0027】
振幅・位相設定手段15の可変減衰器a1〜anは、受信機の利得およびG/Tのばらつきを調整する。受信機12−1〜12−nの可変減衰器a1〜anの制御値を決定するため、全送信機11−1〜11−nの送信を停止、もしくは電波暗室等にて、受信機12−1〜12−nそれぞれにおける制御信号帯域における雑音電力を電力検出手段(図示せず)において予め測定する。測定した雑音電力に基づいて、受信機12−1〜12−nの雑音電力が一定になるように可変減衰器a1〜anの設定値を決定する(雑音電力規格化)。あるいは、ここで決定した受信機12−1〜12−nの可変減衰器a1〜anの設定値に対して、受信機12−1〜12−nのG/Tに比例した雑音電力となるように可変減衰器a1〜anの設定値を調整してもよい(最大比合成)。
【0028】
振幅・位相設定手段15の可変移相器pr1 〜prn は、受信信号の位相の変動を補償する。このとき、補償の目標は、送信信号が空間合成されて同相の受信信号が得られることである。位相設定手段14の可変移相器pt2 〜ptn および振幅・位相設定手段15の可変移相器pr2 〜prn の制御値を決定するために、基地局1が制御信号を送信し、中継手段3を介して中継された当該制御信号により、制御信号帯域における信号電力を観測する。その後、位相設定手段14の可変移相器pt2 の制御位相を、+θおよび−θだけ(θは任意の角度)順次シフトさせ、それぞれの受信レベルが大きくなる方を選択する。このとき、位相シフトさせない状況での受信レベルが大きい場合は位相シフトさせない状態を維持してもよい。なお、ここでの一連の手順を可変移相器pt2 におけるステップトラック制御と呼ぶこととする。
【0029】
その後、振幅・位相設定手段15の可変移相器pr2 について同様の手順を行う。以降、k=3〜nにおいて、可変移相器ptk および可変移相器prk のステップトラック制御を実施する。その後、これらを繰り返し実施することで、同相合成を実現・維持することができる。なお、ステップトラック制御を行う対象の可変移相器ptk および可変移相器prk の選択順序は、上記によらず任意に選んでもよい。
【0030】
ユーザ局2−1〜2−mの各受信系の可変減衰器a1〜anおよび可変移相器pr2 〜prn の制御値の決定方法は、基地局1と同様である。送信系の可変移相器pt2 〜ptn の制御値の決定については、自局からの通信信号を送信し、自局から送信信号の折り返し信号帯域における信号電力を観測し、基地局1と同様に可変移相器ptk および可変移相器prk のステップトラック制御を繰り返し実施することで、同相合成を実現・維持することができる。
【0031】
本発明の有効性について、ほぼ同一のEIRPおよびG/Tを有する2つの送信機および受信機を用いて実験的に検証した例について説明する。
【0032】
図3は、ステップトラック制御の更新回数に対する合成EIRPを示す。ここでは、送信器11−2に対応する可変移相器pt2 のステップトラック制御の更新回数に対する送信機11−1のEIRPを基準とした合成EIRPを示す。更新回数が増えるに従い位相差が小さくなり、合成EIRPが6dBに到達していることが確認できる。次に、受信機の合成に関して結果を示す。不要な信号等がない状況で、各受信機の受信雑音電力が同一になるように可変減衰器a2を調整した後、信号の受信レベルが最大となるように、可変移相器pr2 のステップトラック制御を実施した。受信機単体および同相状態での合成受信スペクトラムを図4に示す。図4(a),(b) は各受信機単体の受信スペクトラムであり、図4(c) は同相状態での合成受信スペクトラムである。この結果、S/Nがほぼ3dB改善していることが確認できる。
【0033】
以上が、本発明の基本的な実施例である。以下、同相合成を実現するまでの時間短縮等についての実施例について説明する。
【0034】
実施例1は、ステップトラック制御における位相シフト量の更新回数に応じて、位相シフト量を変化させる方法である。
【0035】
図5は、2つの送信機の位相差に対する合成EIRPを示す。
ここでは、送信機11−1および送信機11−2のEIRPの振幅比をΔα、位相差をΔφとすると、送信機11−1のEIRPを1とした時の合成EIRPは、
合成EIRP=1+(Δα)2+2Δαcos(Δφ)
と表せる。すなわち、合成EIRPは、位相差Δφの絶対値が90度以上にならない限り、1より大きくなることを示している。例えば、初回の位相シフト量θを±90度とすると、1回の更新で|Δφ|≦90度が満たされる可能性が高まるため、合成の効果が早期に得られることになる。また、各送信機11−kの更新回数に応じて、θを次第に小さくなるように定めてもよい。
【0036】
実施例2は、1回のステップトラック制御の最低所要時間が、送信系と受信系において大きく異なる点に着目する。送信系のステップトラック制御に関しては、位相シフトを行い、これが受信電力に反映されるには、地球局−衛星局間の伝搬遅延(静止衛星では 250ms)以上を要する。一方、受信系に関しては、伝搬遅延の影響がないため、即時に受信電力に反映する。そのため、図6に示すように、送信系の可変移相器ptk の設定量を変えた後に、受信系の可変移相器prk のステップトラック制御を1回もしくは複数回行うことが可能であり、収束時間を短縮できる。なお、受信側のステップトラック制御の結果、受信レベルが増大するため、これを考慮して送信系の可変移相器ptk の設定値の判断を行ってもよい。
【0037】
次に、受信側の性能向上に関する実施例について説明する。
図7は、2つの受信機のG/T差に対する雑音電力規格化時と最大比合成時の合成S/Nを示す(受信機12−1でのS/N=10dB)。これより受信機の性能に大きな差があると、雑音電力規格化の場合はS/Nが劣化するため、最大比合成を実施することが望ましいといえる。しかし、最大比合成を実施するためには各受信機のG/Tが必要である。
【0038】
ここで、各受信機の特性が未知であっても、最大比合成を実現するための手順の一例を示す。まず、個々の受信機単体の制御信号帯域の雑音電力を測定した後に、制御信号を送信し、受信機ごとに制御信号の受信レベルを電力測定手段で測定することで、個々の受信機単体のS/Nを観測する。全ての受信機単体でのS/Nを測定することで、受信機間の相対的なG/Tが推定できるため、最大比合成に近い合成特性が実現できる。このようにして得られた各受信機のS/Nにより最大比合成の重み付けを算出し、各減衰器に割り当てる。
【符号の説明】
【0039】
1 基地局
2 ユーザ局
3 中継手段
10 変復調装置
11 送信機
12 受信機
13 信号分配器
14 位相設定手段
15 振幅・位相設定手段
16 信号合成器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変調器から入力された送信信号を複製して分配する信号分配手段と、複数の移相器により構成され、前記信号分配手段が分配した各送信信号の位相を補償して出力する位相設定手段と、前記位相設定手段から出力される各送信信号を無線信号として送信する複数の送信手段とを含む送信系と、
中継手段を介して中継された前記無線信号を受信する複数の受信手段と、複数の振幅調整手段および複数の移相器により構成され、前記受信手段が受信した信号の振幅を調整し、位相を補償して出力する振幅位相設定手段と、前記振幅位相設定手段の出力を合成して復調器に出力する信号合成手段と、前記信号合成手段が合成した信号の受信電力を測定して出力する電力検出手段とを含む受信系と
を備えた衛星通信システムの地球局装置において、
前記振幅位相設定手段は、予め前記複数の受信手段の雑音電力を個別に測定して、当該雑音電力が一定になる重みを用いて受信信号の振幅を調整し、かつ、各移相器に対して移相量を変えながら前記電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて受信信号の位相を補償する構成であり、
前記位相設定手段は、移相器の移相量を変えながら、前記電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて送信信号の位相を補償する構成である
ことを特徴とする衛星通信システムの地球局装置。
【請求項2】
請求項1に記載の衛星通信システムの地球局装置において、
前記位相設定手段は、初回の移相器の移相量を90度に設定する
ことを特徴とする衛星通信システムの地球局装置。
【請求項3】
請求項1に記載の衛星通信システムの地球局装置において、
前記振幅位相設定手段は、前記位相設定手段の移相量を1回変えるごとに、複数回移相量を変える
ことを特徴とする衛星通信システムの地球局装置。
【請求項4】
請求項1に記載の衛星通信システムの地球局装置において、
前記振幅位相設定手段は、雑音電力を測定した後に、前記電力測定手段から出力された個々の受信機ごとの受信電力から信号対雑音比をそれぞれ取得して、当該信号対雑音比を用いて算出した最大比合成の重み係数を各振幅調整手段に設定する
ことを特徴とする衛星通信システムの地球局装置。
【請求項5】
変調器から入力された送信信号を複製して分配する信号分配手段と、複数の移相器により構成され、前記信号分配手段が分配した各送信信号の位相を補償して出力する位相設定手段と、前記位相設定手段から出力される各送信信号を無線信号として送信する複数の送信手段とを含む送信系と、
中継手段を介して中継された前記無線信号を受信する複数の受信手段と、複数の振幅調整手段および複数の移相器により構成され、前記受信手段が受信した信号の振幅を調整し、位相を補償して出力する振幅位相設定手段と、前記振幅位相設定手段の出力を合成して復調器に出力する信号合成手段と、前記信号合成手段が合成した信号の受信電力を測定して出力する電力検出手段とを含む受信系と
を備えた衛星通信システムの地球局装置制御方法において、
前記振幅位相設定手段は、予め前記複数の受信手段の雑音電力を個別に測定して、当該雑音電力が一定になる重みを用いて受信信号の振幅を調整し、かつ、各移相器に対して移相量を変えながら前記電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて受信信号の位相を補償し、
前記位相設定手段は、移相器の移相量を変えながら、前記電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて送信信号の位相を補償する
ことを特徴とする衛星通信システムの地球局装置制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の衛星通信システムの地球局装置制御方法において、
前記位相設定手段は、初回の移相器の移相量を90度に設定する
ことを特徴とする衛星通信システムの地球局装置制御方法。
【請求項7】
請求項5に記載の衛星通信システムの地球局装置制御方法において、
前記振幅位相設定手段は、前記位相設定手段の移相量を1回変えるごとに、複数回移相量を変える
ことを特徴とする衛星通信システムの地球局装置制御方法。
【請求項8】
請求項5に記載の衛星通信システムの地球局装置制御方法において、
前記振幅位相設定手段は、雑音電力を測定した後に、前記電力測定手段から出力された個々の受信機ごとの受信電力から信号対雑音比をそれぞれ取得して、当該信号対雑音比を用いて算出した最大比合成の重み係数を各振幅調整手段に設定する
ことを特徴とする衛星通信システムの地球局装置制御方法。
【請求項1】
変調器から入力された送信信号を複製して分配する信号分配手段と、複数の移相器により構成され、前記信号分配手段が分配した各送信信号の位相を補償して出力する位相設定手段と、前記位相設定手段から出力される各送信信号を無線信号として送信する複数の送信手段とを含む送信系と、
中継手段を介して中継された前記無線信号を受信する複数の受信手段と、複数の振幅調整手段および複数の移相器により構成され、前記受信手段が受信した信号の振幅を調整し、位相を補償して出力する振幅位相設定手段と、前記振幅位相設定手段の出力を合成して復調器に出力する信号合成手段と、前記信号合成手段が合成した信号の受信電力を測定して出力する電力検出手段とを含む受信系と
を備えた衛星通信システムの地球局装置において、
前記振幅位相設定手段は、予め前記複数の受信手段の雑音電力を個別に測定して、当該雑音電力が一定になる重みを用いて受信信号の振幅を調整し、かつ、各移相器に対して移相量を変えながら前記電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて受信信号の位相を補償する構成であり、
前記位相設定手段は、移相器の移相量を変えながら、前記電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて送信信号の位相を補償する構成である
ことを特徴とする衛星通信システムの地球局装置。
【請求項2】
請求項1に記載の衛星通信システムの地球局装置において、
前記位相設定手段は、初回の移相器の移相量を90度に設定する
ことを特徴とする衛星通信システムの地球局装置。
【請求項3】
請求項1に記載の衛星通信システムの地球局装置において、
前記振幅位相設定手段は、前記位相設定手段の移相量を1回変えるごとに、複数回移相量を変える
ことを特徴とする衛星通信システムの地球局装置。
【請求項4】
請求項1に記載の衛星通信システムの地球局装置において、
前記振幅位相設定手段は、雑音電力を測定した後に、前記電力測定手段から出力された個々の受信機ごとの受信電力から信号対雑音比をそれぞれ取得して、当該信号対雑音比を用いて算出した最大比合成の重み係数を各振幅調整手段に設定する
ことを特徴とする衛星通信システムの地球局装置。
【請求項5】
変調器から入力された送信信号を複製して分配する信号分配手段と、複数の移相器により構成され、前記信号分配手段が分配した各送信信号の位相を補償して出力する位相設定手段と、前記位相設定手段から出力される各送信信号を無線信号として送信する複数の送信手段とを含む送信系と、
中継手段を介して中継された前記無線信号を受信する複数の受信手段と、複数の振幅調整手段および複数の移相器により構成され、前記受信手段が受信した信号の振幅を調整し、位相を補償して出力する振幅位相設定手段と、前記振幅位相設定手段の出力を合成して復調器に出力する信号合成手段と、前記信号合成手段が合成した信号の受信電力を測定して出力する電力検出手段とを含む受信系と
を備えた衛星通信システムの地球局装置制御方法において、
前記振幅位相設定手段は、予め前記複数の受信手段の雑音電力を個別に測定して、当該雑音電力が一定になる重みを用いて受信信号の振幅を調整し、かつ、各移相器に対して移相量を変えながら前記電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて受信信号の位相を補償し、
前記位相設定手段は、移相器の移相量を変えながら、前記電力検出手段の出力する受信電力が最大となる移相量を移相器ごとに順次特定し、特定した移相量を用いて送信信号の位相を補償する
ことを特徴とする衛星通信システムの地球局装置制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の衛星通信システムの地球局装置制御方法において、
前記位相設定手段は、初回の移相器の移相量を90度に設定する
ことを特徴とする衛星通信システムの地球局装置制御方法。
【請求項7】
請求項5に記載の衛星通信システムの地球局装置制御方法において、
前記振幅位相設定手段は、前記位相設定手段の移相量を1回変えるごとに、複数回移相量を変える
ことを特徴とする衛星通信システムの地球局装置制御方法。
【請求項8】
請求項5に記載の衛星通信システムの地球局装置制御方法において、
前記振幅位相設定手段は、雑音電力を測定した後に、前記電力測定手段から出力された個々の受信機ごとの受信電力から信号対雑音比をそれぞれ取得して、当該信号対雑音比を用いて算出した最大比合成の重み係数を各振幅調整手段に設定する
ことを特徴とする衛星通信システムの地球局装置制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−27004(P2013−27004A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162985(P2011−162985)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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