説明

衛星運用計画装置

【課題】 従来は、衛星の観測データをダウンリンクするために地上局を割り当てる際、地上局や衛星毎に優先度を設定しており、優先度にもとづき割り当て計画を行っていた。しかし、衛星の機数が増加するにつれて、優先度の低い衛星では割り当て回数が減り、観測データをダウンリンクする機会が減少する、可視時間に関わらず優先度に基づき割り当てを行うため、観測データを最大限ダウンリンクする観点からは最適な割り当てにならない、という問題があった。
【解決手段】 冷却温度及び冷却係数により最適解の近似精度及び計算時間を調整するメタヒューリスティクスな手法を用いて、衛星毎の地上局の割り当てを求める最適化計算を行うことにより、複数の衛星の観測データのダウンリンク量を最適化することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人工衛星の運用管制を行うための地上局を割り当てる計画を生成する衛星運用計画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星(以下、衛星)の運用管制を行う際、地上局から衛星へのコマンドのアップリンクや衛星から地上局へのデータのダウンリンクを行うために、衛星通信を行う地上局が衛星毎に割り当てられる。従来、衛星の観測データをダウンリンクするために地上局を割り当てる際、運用計画立案者は地上局や衛星ごとに優先度を設定して、優先度にもとづき地上局の割り当て計画を立案していた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、複数の衛星や複数の地上局が存在する場合、優先度にもとづくその割り当て方には何通りもの数が存在し、割り当て方によっては特定の衛星に地上局の割り当てが偏ってしまい、地上局の割り当てが少ない衛星ではデータをダウンリンクしきれず、全体としてデータのダウンリンク量が少なくなってしまう。そこで、例えば線形計画法やメタヒューリスティクスと呼ばれる最適化計算を用いることで、地上局の割り当てを最適化することが求められている(メタヒューリスティクスの計算方法については非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−23300号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】久保、ペドロソ著、「メタヒューリスティクスの数理」、共立出版(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の衛星と地上局の割り当て方法では、衛星の機数が増加するにつれて、優先度の低い衛星では割り当て回数が減ってしまい、観測データをダウンリンクする機会が減少してしまう、あるいは可視時間の偏りに関わらず優先度に基づき割り当てを行うため、観測データを最大限ダウンリンクする観点からは最適な割り当てではない、という課題があった。
【0007】
この発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、衛星毎の地上局の割り当てを最適化することにより、特定の衛星による可視時間の偏りをなくして、衛星の観測データのダウンリンク量をより多くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による衛星運用計画装置は、衛星毎に通信を割り当てる地上局及び当該地上局と通信を行う可視時間を識別するための可視番号を設定し、衛星毎に割り当てる地上局の可視数分だけ可視番号を第1の最適候補解として選択する処理を行う候補解演算部と、上記候補解演算部にて算出された第1の最適候補解の中から、同一可視時間に1つの衛星が1つの地上局と通信を行う条件下で、任意に選択した衛星と当該衛星に割り当てる地上局との可視番号を変更して第2の最適候補解を求め、上記第1の最適候補解の可視番号に対応する可視時間の合計と第2の最適候補解に対応する可視時間の可視時間の合計の差分と、繰り返しの更新回数に応じて低下する冷却温度との比で求まる負性係数に依存する採用確率が、所定値を超えた場合に最適解を更新し、当該採用確率が所定値以下となった場合に、最適解の最大更新回数を超えるかもしくはN回連続して第1の最適候補解が更新されなくなるまで、上記候補解演算部にて第1の最適候補解の選択処理を再び繰り返し、衛星に対する地上局の可視時間の割り当てを最適化する最適化計算部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、衛星毎の地上局の割り当てに対して最適化計算を行うことにより、特定の衛星による可視時間の偏りを無くし、衛星の観測データのダウンリンク量をより多くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態1による衛星運用計画装置の構成を示す図である。
【図2】実施の形態1による割り当て装置の構成を示す図である。
【図3】実施の形態1による割り当て装置における処理フローを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
以下、本発明に係る実施の形態1について図面を用いて説明する。図1は実施の形態1による衛星運用計画装置の構成を示す図である。図2は実施の形態1による地上局割り当て装置1の構成を示す図である。
【0012】
図1において、衛星運用計画装置100は、地上局割り当て装置1と、入力部11と、出力部12を備えて構成される。複数の地上局60は、ケーブルまたは無線を媒体とする通信回線を通じて衛星運用計画装置100に接続される。複数の衛星50は、衛星通信回線を通じて通信の割り当てをなされた地上局60に接続され、コマンド受信や観測データ送信などのデータ通信処理を行う。衛星運用計画装置100は、運用計画立案者が入力部11から情報入力して、衛星50の運用管制と、衛星50と通信を行うように割り当てられた地上局60の運用管制とを行うための運用計画を生成し、生成した運用計画を地上局60に送信する。地上局60は、衛星運用計画装置100から受信した運用計画に基づいて地上局60を運用し、衛星50の運用管制を行うとともに、衛星50との間でコマンド送信や観測データ受信などのデータ通信処理を行う。地上局割り当て装置1は、入力部11からの入力データについて、各衛星50の通信相手となる特定の地上局60を特定の通信時間に割り当てる処理を行い、地上局60の割り当て結果を出力部12に出力する。また、衛星運用計画装置100は、出力部12を介して地上局60が衛星50から受信した観測データの出力処理を行う。
【0013】
図2において、地上局割り当て装置1は、候補解演算部4と、最適化計算部5を備えて構成される。地上局割り当て装置1は、入力部11から割り当て要求2と可視情報3を含む入力データが入力されると、メタヒューリスティクス(非特許文献1参照)のアニーリング法を用いて、候補解演算部4及び最適化計算部5にて割り当て処理を行い、処理結果を地上局割り当て結果6として出力し、出力部12を介して運用計画立案者に結果表示する。運用計画立案者は、表示された地上局割り当て結果6に基づいて、衛星50を地上局50に割り当てた場合の衛星50及び地上局50の運用計画を立案する。
【0014】
次に、地上局割り当て装置1の候補解演算部4、最適化計算部5による割り当て処理について図面を用いて説明する。図3は、実施の形態1による地上局割り当て装置1の処理フローを説明するための図である。候補解演算部4は、ステップS1からステップS3の処理を行い、最適化計算部5は、ステップS4からステップS7の処理を行う。
【0015】
図3において、まず、ステップS1の初期設定において、一定期間における、各衛星50の地上局60毎の可視情報3を取得する。可視情報3としては、衛星50の地上局60との通信の開始時刻、終了時刻、及び衛星50から可視となる(衛星通信回線が接続され、通信可能となる)地上局60の所要とする可視時間が与えられる。これらの可視情報3には、衛星毎の可視となる全ての地上局について可視時間及び可視の識別のための可視番号を付与し、候補解の集合とする。また、ある期間において、各衛星50に割り当てたい可視情報の数(可視数)を割り当て要求2として設定する。
【0016】
次に、候補解の集合の中から、各衛星50に割り当てたい可視数だけ可視毎にランダムに可視番号を選択し、その選択した組み合わせを最適候補解の初期値(第1の最適候補解)とする。
さらに、最適候補解から目的関数foptを計算しておく。目的関数は、例えばi番目(1≦i≦全衛星機数)の衛星50に対して割り当てた、j番目の可視情報(1≦j≦割り当てたい可視数。jは衛星iに対して割り当てた可視)の可視時間を、次式(1)により合計して求めた合計可視時間によって与える。
【0017】
【数1】

【0018】
ここで、例えば地上局がA、B、Cの3局あり、衛星iの可視はそれぞれA局が3可視、B局が2可視、C局が4可視あるとすると、衛星iの最適候補解の初期値としては、次の例のように可視番号の割り当てが行われる。
(例)可視番号1は衛星iの地上局Aに対する可視A−1、可視番号2は衛星iの地上局Aに対する可視A−2、可視番号3は衛星iの地上局Aに対する可視A−3、可視番号4は衛星iの地上局Bに対する可視B−1、可視番号5は衛星iの地上局Bに対する可視B−2、可視番号6は衛星iの地上局Cに対する可視C−1、可視番号7は衛星iの地上局Cに対する可視C−2、可視番号8は衛星iの地上局Cに対する可視C−3、可視番号9は衛星iの地上局Cに対する可視C−4とする。このとき、例えばある期間(例えば1日)に割り当てたい可視数が3であるとし、1番目の可視の可視番号が4であるとすると、その衛星iの可視は可視B−1となる。
【0019】
次に、ステップS2において、最適候補解の探索を行う。
最適候補解の内、各衛星50におけるいずれか1つの可視の可視番号を、候補解の集合からランダムに選択した可視番号と入れ替え、新しい候補解(第2の最適候補解)とする。
【0020】
次に、ステップS3において、新しい候補解について、制約条件のチェックを行う。
制約条件として、1つの地上局60に対して、「可視時間が重複する衛星50はどちらか一方のみ割り当てが可能になる」ように、可視干渉を避ける制約を設ける。すなわち、1つの地上局60が、同一の可視時間に2つ以上の衛星50との間で通信を行うことがないように(同一可視時間に1つの衛星が1つの地上局と通信を行うように)制約される。
また、1つの衛星50に対して、「可視時間が重複する地上局60はどちらか一方のみ割り当てが可能になる」ように、可視干渉を避ける制約を設ける。すなわち、1つの衛星50が、同一の可視時間に2つ以上の地上局60との間で通信を行うことがないように(同一可視時間に1つの衛星が1つの地上局と通信を行うように)制約される。
これらの制約条件を満たさない場合、改めてステップS2に戻り候補解の選択を行う。
【0021】
一方、上記制約条件を満たす場合、ステップS4にて、新しい候補解について、式(1)に示した目的関数を計算する。目的関数は新しい候補解の合計可視時間とする。
【0022】
ここで、新しい候補解(第2の最適候補解)の目的関数が現在の最適候補解(第1の最適候補解)の目的関数よりも大きくなる場合、ステップS5に移行して、新しい候補解を最適候補解として、最適候補解を更新する。
【0023】
また、新しい候補解の目的関数が最適候補解の目的関数よりも小さくなる場合、ステップS6にて、更新回数に応じた採用確率Aを計算する。採用確率Aは次式(2)により求める。
【0024】
【数2】

【0025】
ここで、foptは最適候補解(第1の最適候補解)の目的関数の値、fopt_trialは新しい候補解(第2の最適候補解)の目的関数の値、Tは冷却温度と呼ばれる値である。
【0026】
求めた採用確率Aが所定の確率を超えた場合、新しい候補解(第2の最適候補解)を最適候補解として、ステップS5に移行して最適候補解を更新する。これは局所最適解に陥ることを避けるため、一時的に改悪を許すためである。求めた採用確率Aが所定の確率を超えない場合は、改めてステップS2に戻り候補解の選択を行う。
【0027】
次に、ステップS5では、最適候補解が更新される度に、冷却温度の更新を行う。冷却温度の更新は、次式(3)により求める。
【0028】
【数3】

【0029】
ここで、Toldは更新前の冷却温度、Tnewは更新後の冷却温度である。λは冷却係数と呼ばれる値で1よりも小さい値である。
【0030】
最適候補解が更新されるにつれて、冷却温度は幾何級数的に小さくなっていく。このため、最適候補解が更新されるにつれて採用確率Aは小さくなっていき、改悪となる最適候補解の更新は行われなくなる。
【0031】
上記のステップを繰り返し行うことにより、目的関数が最大となる解の探索を行う。ステップS7にて、終了条件を満たしたところで繰り返しを終了する。
ここでの終了条件は、最大更新回数を超えた場合、またはN回連続して最適候補解が更新されなかった場合である。
【0032】
地上局割り当て装置1では以上の処理を行い、最終的に得られた最適候補解を最適解として、衛星50毎に地上局60の割り当てを行う。これにより、衛星50毎に可視時間を最大とする地上局60の割り当てが可能となり、衛星50から地上局60への観測データのダウンリンク量を最大化することが可能となる。また、地上局割り当て装置1の最適化計算部5は、冷却温度及び冷却係数により最適解の近似精度及び計算時間を調整するメタヒューリスティクスな手法を用いて最適化計算を行うので、一時的に改悪を許すことで局所最適解に陥ることを防ぐことができ、任意の計算時間で最適化を終了することが可能となる。
【0033】
以上説明したとおり、実施の形態1による衛星運用計画装置は、衛星毎に通信を割り当てる地上局及び当該地上局と通信を行う可視時間を識別するための可視番号を設定し、衛星毎に割り当てる地上局の可視数分だけ可視番号を第1の最適候補解として選択する処理を行う候補解演算部と、上記候補解演算部にて算出された第1の最適候補解の中から、同一可視時間に1つの衛星が1つの地上局と通信を行う条件下で、任意に選択した衛星と当該衛星に割り当てる地上局との可視番号を変更して第2の最適候補解を求め、上記第1の最適候補解の可視番号に対応する可視時間の合計と第2の最適候補解に対応する可視時間の可視時間の合計の差分と、繰り返しの更新回数に応じて低下する冷却温度との比で求まる負性係数に依存する採用確率が、所定値を超えた場合に最適解を更新し、当該採用確率が所定値以下となった場合に、最適解の最大更新回数を超えるかもしくはN回連続して第1の最適候補解が更新されなくなるまで、上記候補解演算部にて第1の最適候補解の選択処理を再び繰り返し、衛星に対する地上局の可視時間の割り当てを最適化する最適化計算部と、を備えたことを特徴とする。これによって、衛星毎の地上局の割り当てに対して最適化計算を行うことにより、特定の衛星による可視時間の偏りを無くし、衛星の観測データのダウンリンク量をより多くして最適化することが可能となる。
【符号の説明】
【0034】
1 地上局割り当て装置、4 候補解演算部、5 最適化計算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星毎に通信を割り当てる地上局及び当該地上局と通信を行う可視時間を識別するための可視番号を設定し、衛星毎に割り当てる地上局の可視数分だけ可視番号を第1の最適候補解として選択する処理を行う候補解演算部と、
上記候補解演算部にて算出された第1の最適候補解の中から、同一可視時間に1つの衛星が1つの地上局と通信を行う条件下で、任意に選択した衛星と当該衛星に割り当てる地上局との可視番号を変更して第2の最適候補解を求め、上記第1の最適候補解の可視番号に対応する可視時間の合計と第2の最適候補解に対応する可視時間の可視時間の合計の差分と、繰り返しの更新回数に応じて低下する冷却温度との比で求まる負性係数に依存する採用確率が、所定値を超えた場合に最適解を更新し、当該採用確率が所定値以下となった場合に、最適解の最大更新回数を超えるかもしくはN回連続して第1の最適候補解が更新されなくなるまで、上記候補解演算部にて第1の最適候補解の選択処理を再び繰り返し、衛星に対する地上局の可視時間の割り当てを最適化する最適化計算部と、
を備えた衛星運用計画装置。
【請求項2】
上記採用確率は、
【数1】

optは第1の最適候補解の可視時間の合計時間、fopt_trialは第2の最適候補解の可視時間の合計時間、Tは冷却温度、Aは採用確率、で与えられ、
上記冷却温度Tは、
【数2】

oldは更新前の冷却温度T、Tnewは更新後の冷却温度T、λは1よりも小さい係数、
で与えられることを特徴とする請求項1記載の衛星運用計画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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