説明

衛生マスク

【課題】より実用的な衛生マスクを提供する。
【解決手段】覆い部10は、横方向に延びる箱ヒダ26および車ヒダ28,30を含むヒダ形成部24を含むとともに、横長の長方形50の両下角部を左右対称に削除した形状を有する。覆い部10の下端縁54の長さは、長方形50の長さの70%とされ、切除部52の高さは長方形50の高さの50%とされ、覆い部10の両下角部の縁は外向きに凸で、一つの円の円弧状を成す単円弧縁56とされている。2つの耳掛部12をそれぞれ耳に掛け、ヒダ26,28,30を上下方向に伸ばして膨出部を形成し、装着者の鼻,口およびその周辺を覆うが、側縁部38および下縁部86が顔に寄せられてだぶつきが少なく、フィット性に優れ、膨出部内への埃等の侵入が良好に防止される。また、側縁部38の下部の顔の外へのはみ出しや下縁部86の顎の下方への延出しが少なく、装着者の顔が小さく見え、美観に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、花粉,ほこり等の吸引防止、風邪の感染防止等の目的で使用される衛生マスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
衛生マスクには、例えば、下記の特許文献1に記載されているように、口と鼻とを覆う覆い部と、耳に掛けられる2つの耳掛部とを含み、覆い部が横方向に延びる複数のヒダが形成されたヒダ形成部を含むものがある。特許文献1に記載の衛生マスクは、覆い部が横長の長方形状を成し、ヒダ形成部は、1つの箱ヒダと、その箱ヒダの上下両側にそれぞれ、1つずつ形成された2つの車ヒダとを含む。本明細書においてヒダは、互いに隣接する山折り部と谷折り部とを1つずつ含み、山折り部を形成する2つの側壁の一方と、谷折り部を形成する2つの側壁の一方とが共通であって、3つの側壁を含むものであり、箱ヒダは向きが逆である2つのヒダが互いに隣接して形成されたものである。車ヒダは、通常、同じ方向に連続して並ぶ複数のヒダを含むものであるが、本明細書においては、1つのみのヒダは限界的な車ヒダと考えることとする。ヒダ形成部の側縁部は、3つのヒダの各両端部においてヒダの側壁同士が溶着されて伸びない側縁部とされている。また、覆い部の上縁部には塑性変形可能なストリップが埋め込まれている。
【0003】
この衛生マスクは、装着時には、箱ヒダおよび車ヒダがそれぞれ伸ばされ、ヒダ形成部が側縁部から中央部に向かうにつれて多く伸ばされて上下方向に広がらされるとともに、前方へ膨らまされ、口,鼻およびそれらの周辺部を覆う広い空間が形成される。また、ストリップが鼻の表面に沿って変形させられて鼻に引っ掛かるようにされ、上縁部の下方へのずれが防止されるとともに、上縁部と鼻との隙間から息が上方へ漏れることが抑制される。さらに、覆い部の下縁部は顎の先端部を覆うようにされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3126242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の衛生マスクには、未だ改善の余地がある。例えば、覆い部の側縁部がだぶついて、顔からの離れが大きく、使用中にものに引っ掛かり易く、また、顔と覆い部との間の隙間から埃や花粉等が侵入し易い。さらに、覆い部の側縁部および下縁部の顔へのフィット性が悪く、顔から外へはみ出して顔を大きく見せ、特に装着者が女性である場合に装着に抵抗を感じさせることがあるというように改良の余地があるのである。
本発明は、そういった実情に鑑みて為されたものであり、より実用的な衛生マスクを得ることを課題として為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は、通気性を有する素材から成り、口と鼻とを覆う覆い部と、その覆い部の両側部から延び出して耳に掛けられる2つの耳掛部とを含む衛生マスクの覆い部を、四角形の素材に横方向に延びる複数のヒダが形成されるとともに各ヒダの両端部においてヒダの側壁同士が接合されて伸びない側縁部とされたヒダ形成部を含み、全体として、横長の長方形の両下角部が左右対称に切除されることにより、直線的に延びる下端縁の長さが上記長方形の長さの80%以下とされた形状を有するものとすることにより解決される。
【0007】
上記長方形の両下角部に相当する部分を、便宜上、切除部と称することとするが、必ずしも実際に切除された部分である必要はない。製造の容易さの観点からは、ヒダ形成部が形成された後に、実際に切除されることが望ましいが、その場合でも、複数の覆い部となるべき部分を備えた素材が製造され、上記「伸びない側縁部」に相当する部分が形成された後に、覆い部全体の形状が打抜き加工により一挙に形成され、それに伴って両下角部も切除されるようにすることが可能である。あるいは、ヒダ形成部が形成される前に所定の形状とされた素材が準備され、ヒダ形成部が形成されるにつれて上記形状となるようにされてもよい。要するに、覆い部は、結果として、長方形の両下角部が切除されたとみなし得る形状を有していればよいのである。
上記切除部は、小さ過ぎれば本発明の効果が得られず、直線的に延びる下端縁の長さが長方形の長さの80%以下とされれば本発明の効果が得られ、75%以下、70%以下とされることが望ましい。反面、切除部が大き過ぎることも望ましくない。覆い部の下端には直線的に伸びる下端縁が存在する方が、使用者の顎に良好にフィットし、あるいは縁部の処理が容易となるのである。したがって、直線的に延びる下端縁の長さが長方形の長さの30%以上とされることが望ましく、40%以上,50%以上とされることがさらに望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る衛生マスクが装着される際には、2つの耳掛部がそれぞれ耳に掛けられ、複数のヒダがそれぞれ伸ばされて上下方向に広げられ、中央部が前方へ丸く膨出させられるとともに、覆い部の下縁部が顎の先端部を覆うようにされる。それにより、鼻および口が覆い部によって覆われるとともに十分な呼吸空間が形成される。
本衛生マスクは、覆い部の下端縁の長さが横長の長方形の長さより短くされており、顔にフィットし易い。人間の顔の幅は顎の先端部が最も狭いのが普通であり、覆い部の下端縁の長さが長方形の長さと同じであれば、顎の先端側ほど、覆い部の幅と顔の幅との差が大きくなって覆い部がだぶつき、側縁部や下縁部が顔から離れるのに対し、覆い部の下端縁の長さが短くされることにより、上記差が低減され、覆い部が顔に沿い易くなると考えられる。そのため、衛生マスクの使用中に側縁部がものに引っ掛かることが少なくなり、また、側縁部および下縁部と顔との間から埃や花粉等が侵入することが良好に防止される。さらに、覆い部の側縁部や下縁部の顔からのはみ出しが低減され、装着者の顔が小さく見え、美観に優れている。
【発明の態様】
【0009】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施形態の記載,従来技術等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0010】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(4)項が請求項4に、(7)項が請求項5に、(8)項が請求項6に、(12)項が請求項7にそれぞれ相当する。
【0011】
(1)通気性を有する素材から成り、口と鼻とを覆う覆い部と、その覆い部の両側部から延び出して耳に掛けられる2つの耳掛部とを含む衛生マスクであって、
前記覆い部が、四角形の素材に横方向に延びる複数のヒダが形成されるとともに各ヒダの両端部においてヒダの側壁同士が接合されて伸びない側縁部とされたヒダ形成部を含み、全体として、横長の長方形の両下角部が左右対称に切除されることにより、直線的に延びる下端縁の長さが前記長方形の長さの80%以下とされた形状を有することを特徴とする衛生マスク。
(2)前記横長の長方形の両下角部が左右対称に切除されたとみなし得る切除部の高さが、前記長方形の高さの20%以上である(1)項に記載の衛生マスク。
切除部の高さは、長方形の高さの20%以上とされることが望ましく、25%以上,30%以上とされることがさらに望ましい。
長方形の両下角部を切除する場合、長方形は、直角を挟んだ両辺が切除され、それぞれの切除量によって覆い部の両下角部の形状が変わる。したがって、覆い部の下端縁の長さが規定されるのに加えて、切除部の高さが規定されれば、覆い部の両下角部の形状を、下端縁を短くすることによる効果をより有効に得られる形状とすることができる。
(3)通気性を有する素材から成り、口と鼻とを覆う覆い部と、その覆い部の両側部から延び出して耳に掛けられる2つの耳掛部とを含む衛生マスクであって、
前記覆い部が、四角形の素材に横方向に延びる複数のヒダが形成されるとともに各ヒダの両端部においてヒダの側壁同士が接合されて伸びない側縁部とされたヒダ形成部を含むとともに、全体として、横長の長方形の両下角部が左右対称に切除されることにより、その長方形の高さの20%以上の高さの切除部が形成された形状を有することを特徴とする衛生マスク。
長方形の両下角部の切除により、覆い部の下端縁は長方形の長さより短くなって、それによる効果を得ることができ、切除部の高さの規定により、覆い部の両下角部の形状を、衛生マスクのフィット性の向上等に適した形状とすることができる。
(4)前記切除部が、直角三角形をなし、前記覆い部が、その直角三角形の斜辺に対応する傾斜縁を有する(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の衛生マスク。
傾斜縁は一直線状を成し、シャープな形状の覆い部を有する衛生マスクが得られる。また、下記の(5)項ないし(7)項の記載の衛生マスクに比較して製造が容易である。
(5)前記覆い部の側端縁と下端縁との少なくとも一方と、前記傾斜縁とが交差する部分に丸味が付けられた(4)項に記載の衛生マスク。
丸味付けにより、衛生マスクがまろやかな感じとなり、使用中の見映えが良くなる。
(6)前記覆い部の側端縁と前記傾斜縁との交差する部分に付けられた丸味の曲率半径が10mm以上である(5)項に記載の衛生マスク。
衛生マスクの使用中における見映えを良くする観点から、上記曲率半径は15mm以上であることが望ましく、20mm以上,25mm以上であることがさらに望ましい。
(7)前記長方形の両下角部の切除により、前記覆い部の両下角部の縁が外向きに凸の曲線を描く状態とされた(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の衛生マスク。
上記「外向きに凸の曲線」は、曲率半径が一定の円弧とされても、互いに曲率半径を異にする複数種類の円弧の組合わせとされても、曲率半径が徐々に変化する凸曲線とされてもよい。また、「外向きに凸の曲線」は、覆い部の側端縁と下端縁との少なくとも一方に接する状態とされても、交差する状態とされてもよい。
覆い部の両下角部の縁を曲線にすれば、柔らかい印象の衛生マスクが得られる。
覆い部の両下角部の縁は、内向きに凸の曲線を描く状態とされてもよいが、外向きに凸の曲線を描く状態とされた方が、覆い部の面積が大きく、装着者の口や鼻を覆いつつ、十分な呼吸空間を確保することができる。
(8)前記覆い部の上角部に丸味が付けられた(1)項ないし(7)項のいずれかに記載の衛生マスク。
覆い部の上角部に丸味が付けられれば、衛生マスクがまろやかな感じとなり、使用中の見映えが良くなる。その丸味部の覆い部の上端縁に隣接する部分の曲率半径が5mm以上とされることが望ましく、8mm以上、10mm以上とされることがさらに望ましい。
(9)前記複数のヒダが箱ヒダを含む(1)項ないし(8)項のいずれかに記載の衛生マスク。
箱ヒダは1つ設けられてもよく、複数設けられてもよい。
衛生マスク装着時には箱ヒダの2つのヒダがそれぞれ、上方向と下方向とに開き、ヒダ形成部に上下方向の広がりが得られる。
(10)前記複数のヒダが車ヒダを含む(1)項ないし(9)項のいずれかに記載の衛生マスク。
車ヒダは、通常、同じ方向に連続して並ぶ複数のヒダを含むものであり、複数のヒダが、その並び方向に伸び、ヒダ形成部がヒダの並び方向へ広がる。また、車ヒダはヒダの方向が同じであり、ヒダ形成部の形成が容易である。ただし、本明細書においては、ヒダが1つの場合も、限界的な車ヒダと考えることは前述の通りである。
(11)前記複数のヒダが1つの箱ヒダと、その箱ヒダの上と下との少なくとも一方に形成された車ヒダとの両方を含むことを特徴とする(1)項ないし(8)項のいずれかに記載の衛生マスク。
なお、箱ヒダの片側のヒダとその片側のヒダに隣接する同じ向きのヒダとが車ヒダを構成すると考えることもできる。
(12)前記通気性を有する素材が、それぞれ通気性を有する複数枚のシートが重ね合わされたものであり、それら複数枚のシートのうち、少なくとも前記覆い部の上端縁と下端縁との少なくとも一方において切断縁を有するものが、カバーシートにより覆われ、そのカバーシートが他のシートと接合される縁処理が施された(1)項ないし(11)項のいずれかに記載の衛生マスク。
カバーシートによって覆われることにより、シートの切断縁が隠されて見映えの良い衛生マスクが得られる。
(13)前記複数枚のシートのうちの最も外側または内側のものが、他のシートの切断縁を覆う状態に折り返され、前記カバーシートとして機能するようにされた(12)項に記載の衛生マスク。
折り返されるシートが最も内側のシートであれば、外側へ折り返されることとなり、そのシートの切り端が覆い部の外側にあって装着者に当たらず、装着感がよい。折り返されるシートが最も外側のシートであれば、内側へ折り返されることとなり、そのシートの切り端が覆い部の内側に位置することとなり、見映えがよい。前者の場合、最も内側のシートについては、その切れ端が覆い部の表面側に現れることとなるため、そのシートは薄いものであるほど見映えが良い衛生マスクが得られ、複数枚のシートのうちで最も薄いものとされることが望ましい。
(14)前記カバーシートが前記複数枚のシートとは別のシートであり、前記複数枚のシートの、前記覆い部の上端縁と下端縁との前記少なくとも一方を覆う状態に被せられた(12)項または(13)項に記載の衛生マスク。
本項が(12)項に従属する態様は、前記覆い部の上端縁と下端縁との前記少なくとも一方において、前記複数枚のシートのすべてが切断縁を有し、それら切断縁のすべてがカバーシートにより覆われた態様を含む。本項が(13)項に従属する態様は、上端縁と下端縁との一方が(13)項の態様とされ、他方が本項の態様とされる態様や、複数枚のシートのうちの最も外側または内側のものが、他のシートの切断縁を覆う状態に折り返され、前記カバーシートとして機能するようにされるとともに、その上からさらに別のカバーシートで覆われる態様を含む。
カバーシートも、その覆い部の表面側の縁が見えるため、薄いものとされることが見映えを良くする上で望ましい。
(15)前記覆い部の上縁部に、塑性変形が可能な材料から成る長手形状の塑性変形部材が取り付けられた(1)項ないし(14)項のいずれかに記載の衛生マスク。
装着者は自身の顔の形状に合わせて塑性変形部材を変形させる。塑性変形部材は、一旦、変形させられれば変形させられた状態に保たれ、衛生マスクの下方へのずれが防止され、また、鼻脇の隙間が良好に塞がれる。
(16)前記上縁部が、筒状部を備え、その筒状部内に前記塑性変形部材が挿入されて取り付けられた(15)項に記載の衛生マスク。
塑性変形部材が直接、装着者の顔に当たることがなく、素材を介して当たり、ずれが防止されつつ装着感の良い衛生マスクが得られる。
(17)前記通気性のある素材が、それぞれ熱可塑性合成繊維から成る複数枚の不織布が重ね合わされたものであり、前記伸びない側縁部が、前記複数のヒダの側壁同士が加圧および加熱により溶着されて形成されたものである(1)項ないし(16)項のいずれかに記載の衛生マスク。
不織布は、通気性はあるが、埃や花粉等は通さず、また、成形も容易であり、衛生マスクの素材に適している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態である衛生マスクを示す正面図である。
【図2】上記衛生マスクを示す背面図である。
【図3】上記衛生マスクを横方向に直角な方向において断面にして示す斜視図である。
【図4】上記衛生マスクが装着者により装着された状態を示す正面図である。
【図5】上記衛生マスクが装着者により装着された状態を示す側面図である。
【図6】別の実施形態である衛生マスクの覆い部を長方形と共に概略的に示す正面図である。
【図7】さらに別の実施形態である衛生マスクの覆い部を長方形と共に概略的に示す正面図である。
【図8】さらに別の実施形態である衛生マスクの覆い部を長方形と共に概略的に示す正面図である。
【図9】さらに別の実施形態である衛生マスクの覆い部を長方形と共に概略的に示す正面図である。
【図10】さらに別の実施形態である衛生マスクの覆い部を長方形と共に概略的に示す正面図である。
【図11】従来の衛生マスクを示す正面図である。
【図12】従来の衛生マスクが装着者により装着された状態を示す正面図である。
【図13】従来の衛生マスクが装着者により装着された状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、請求可能発明のいくつかの実施形態を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施形態の他、上記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更を施した態様で実施することができる。
【0014】
図1ないし図3に、請求可能発明の一実施形態としての衛生マスクを示す。本衛生マスクは、図1に示すように、装着者の口,鼻およびそれらの周辺を覆う覆い部10と、その覆い部10の両側部から延び出して耳に掛けられる2つの耳掛部12とを含む。覆い部10は、それぞれ通気性を有するシートが複数枚、本衛生マスクでは、図3に示すように、3枚のシート14,16,18が重ね合わされて通気性を有する素材から成る。シート14,16,18は、本衛生マスクでは、熱可塑性合成繊維から成る不織布である。また、本衛生マスクにおいては、これらシート14,16,18のうち、外側および真中の各シート14,16は、内側のシート18より薄いものとされている。
【0015】
覆い部10は、図1ないし図3に示すように、ヒダ形成部24を含む。なお、図3は衛生マスクを断面にして示す図であるが、図面が煩雑になることを避けるために切断面に施す平行斜線の図示は省略されている。ヒダ形成部24は、図1および図2に示すように、覆い部10の高さ方向の中央部分に設けられ、横方向に延びる複数のヒダ、本衛生マスクでは1つの箱ヒダ26および2つの車ヒダ28,30を含む。箱ヒダ26は、図3に示すように、互いに隣接する上向きのヒダ32および下向きのヒダ34を含む。箱ヒダ26のヒダ32,34および車ヒダ28,30はそれぞれ、山折り部と谷折り部とを1つずつ含み、図3に各ヒダの符号にa,b,cを付して示すように、側壁を3つずつ含む。上向きのヒダは谷折り部が上方へ開かれたヒダであり、下向きのヒダは谷折り部が下方へ開かれたヒダである。
【0016】
本車ヒダ28は、ヒダ32の上側に隣接して、ヒダ32と同じ向きに形成され、車ヒダ30は、ヒダ34の下側に隣接して、ヒダ34と同じ向きに形成されており、ヒダ形成部24には、上向きのヒダおよび下向きのヒダが上下対称に形成されている。車ヒダ28,30はそれぞれ、ヒダ1つのみの限界的な車ヒダと考えることもでき、隣接する箱ヒダ26のヒダ32,34と共に車ヒダを形成すると考えることもできる。
【0017】
箱ヒダ26のヒダ32,34および車ヒダ28,30はそれぞれ、各両端部において3つの側壁同士が加圧および加熱により溶着され、図1に示すように、上下方向に連続し、伸びない側縁部38とされている。なお、図3では、図示の都合上、ヒダ28,30,32,34のうち、隣接するヒダの間に隙間があるように示されているが、実際にはヒダ28,30,32,34は隣接するヒダ同士が重ならず、間に隙間もないように形成される。形成の都合上、隣接するヒダの一部が僅かに重なったり、隙間が生じることはある。
【0018】
覆い部10は、全体として、図1および図2に二点鎖線で示すように、覆い部10に外接する横長の長方形50を仮想した場合、その長方形50の両下角部が左右対称に切除された形状を有する。この2つの仮想の切除部52はそれぞれ、長方形50の直角な角を1つ含む2辺を有し、それら2辺のうち、縦方向の1辺は、長方形50の高さの50%とされ、横方向の1辺は、長方形の長さの15%とされている。したがって、覆い部10の一直線状に延びる下端縁54の長さが長方形50の長さの70%となっている。また、切除部52の直角な角に対向する縁は、直角な角側に凸の曲線の一種である曲率半径が55mmの円弧とされており、その結果、覆い部10の両下角部の縁は、外向きに凸の曲線状縁ないし湾曲縁の一種としての単円弧縁56となっている。
【0019】
また、単円弧縁56は、覆い部10の下端縁54と交差させられ、側端縁60には接する状態とされ、単円弧縁56と側端縁60とは滑らかにつながっている。さらに、覆い部10の両上角部にそれぞれ丸味70が付けられている。この丸味70は複数、例えば、2つの曲率半径を持っており、その覆い部10の上端縁68に隣接する部分の曲率半径は10mmとされ、側端縁60に隣接する部分の曲率半径は30mmとされている。上記ヒダ28,30,32,34の両端部の溶着は、側端縁60と単円弧縁56とに沿った曲線を描くように行われている。
【0020】
覆い部10を形成する素材を構成する3枚のシート14,16,18はそれぞれ、図3に示すように、覆い部10の上端縁において切断縁を有し、それら切断縁にシート14,16,18とは別のカバーシート76が被せられ、接合されて縁処理が施されている。カバーシート76は、シート14等と同様に、熱可塑性合成繊維から成る不織布から成り、本衛生マスクでは、最も外側のシート14と同じ薄さのものとされている。カバーシート76はシート14,16,18に、それらの切断縁を、覆い部10の横方向の全体にわたって覆う状態に被せられるとともに、上下方向に隔たった2箇所においてそれぞれ覆い部10の横方向に沿って加圧および加熱により溶着され、シート14,16,18に接合され、シート14,16,18と共に覆い部10のヒダのない上縁部78を構成している。覆い部10の両上角部には、カバーシート76も含めて前記丸味70が付けられている。
【0021】
カバーシート76が被せられることにより、シート14,16,18のうち、最も外側のシート14とカバーシート76との間に、覆い部10の上端縁68に沿って横方向に延び、横方向に貫通する筒状部80が形成され、ストリップ82が挿入されている。ストリップ82は、幅が狭く、薄い長手形状の板状を成し、本衛生マスクでは、添加物が添加されたポリエチレンにより形成され、塑性変形可能な公知の材料から成る長手形状の塑性変形部材であり、筒状部80に挿入されて覆い部10の横方向に延びる状態で設けられている。筒状部80の長手方向の両側部分はそれぞれ、加圧および加熱により溶着されて筒状部80の両端開口が閉じられ、ストリップ82の長手方向のずれおよび筒状部80からの脱落が防止されて、覆い部10の横方向の中央部に位置するようにされている。
【0022】
また、3枚のシート14,16,18のうち、最も外側および真中のシート14,16は、覆い部10の下端縁54においても切断縁を有するが、最も内側のシート18はシート14,16より上下方向の寸法が長くされ、その下部が、図3に示すように、シート14,16の切断縁を覆う状態で折り返されてカバーシートとして機能するようにされ、縁処理が施されている。このシート18の折返し部84は、最も外側のシート14の上に重ねられ、シート14,16の下端部およびシート18の折り返されていない部分に覆い部10の横方向に沿って加圧および加熱により溶着され、接合されて、それらと共に覆い部10のヒダのない下縁部86を構成している。覆い部10の両下角部の縁は、シート18の折返し部84も含めて前記単円弧縁56となっている。
【0023】
前記2つの耳掛部12は、覆い部10とは別体とされ、本衛生マスクでは、熱可塑性合成樹脂材料により伸縮性の良い紐状に形成されている。これら耳掛部12はそれぞれ、図1および図2に示すように、一端部は覆い部10の上縁部78であって、ストリップ82が封入された部分の横方向の一端部に加圧および加熱による溶着により接合され、他端部は覆い部10の下縁部86であって、前記折返し部84のシート14,16,18に溶着された部分より端側の部分の横方向の一端部に加圧および加熱により溶着され、接合されている。それにより、耳掛部12が覆い部10に取り付けられるとともに、折返し部84の、覆い部10に溶着された部分より端側の部分が覆い部10に接合され、ひらつくことが防止される。また、覆い部10は、前述のように、長方形50の両下角部が左右対称に切除された形状を有するため、耳掛部12の、覆い部10の下部への接合端部は、覆い部10の上部への接合端部より、覆い部10の横方向の中央側に位置させられている。
【0024】
人が本衛生マスクを装着する場合には、2つの耳掛部12をそれぞれ耳に掛け、図4および図5に示すように、箱ヒダ26のヒダ32,34および車ヒダ28,30をそれぞれ伸ばし、ヒダ形成部24を側縁部38から中央部に向かうにつれて多く伸ばして上下方向に広げ、中央部を前方へ丸く膨出させ、覆い部10のストリップ82が設けられた部分から覆い部10の下端に至る膨出部90を形成するとともに、覆い部10の下縁部86により顎を覆う。この膨出部90の内面により、鼻,口およびそれらの周辺を、それらから離れて覆うのに十分な呼吸空間が形成される。また、装着者はストリップ82を鼻の表面に沿って変形させ、鼻に引っ掛かるようにし、覆い部10の上縁部78の下方へのずれを防止するとともに、上縁部78と鼻脇との隙間から息が上方へ漏れることを抑制する。
なお、この衛生マスクの装着手順は1例であり、装着者は任意の順序で衛生マスクを装着することができる。
【0025】
このように装着される本衛生マスクは、従来の衛生マスクと比較してフィット性や美観に優れている。
従来の衛生マスクは、図11に例示するように、覆い部250が横長の長方形状を成すことを除いて、本実施形態の衛生マスクと同様に構成されている。覆い部250は、通気性を有する3枚のシートが重ね合わされた素材から成り、ヒダ形成部252は、1つの箱ヒダ254と、その箱ヒダ254の上下両側にそれぞれ、1つずつ形成された2つの車ヒダ256,258とを含み、ヒダ254,256,258の両端部は、ヒダの側壁同士が溶着されて伸びない側縁部260とされている。また、3枚のシートの覆い部250の上端縁側の切断縁には別のカバーシート264が被せられ、溶着されるとともに、ストリップ266が埋め込まれている。覆い部250の下縁部267については、3枚のシートのうち、最も内側のシートが外側へ折り返され、他の2枚のシートの切断縁を覆うとともに、その折返し部268が3枚のシートに横方向の全体にわたって溶着されている。さらに、覆い部250の両側縁部260のそれぞれ、上端部と下端部とに耳掛部270の両端部が溶着により接合されている。
【0026】
従来の衛生マスクは、装着時には、図12および図13に示すように、箱ヒダ254および車ヒダ256,258がそれぞれ伸ばされ、上下方向に広がらされるとともに、前方へ膨らまされて膨出部272が形成され、口,鼻およびそれらの周辺部を覆う。また、ストリップ266が鼻の表面に沿って変形させられて鼻に引っ掛かるようにされ、覆い部250の下縁部267は顎の先端部を覆うようにされる。
【0027】
しかしながら、従来の衛生マスクは、図12に示すように、装着状態において覆い部250の両下角部が正面から見え、図12および図13に示すように、両側縁部260が折れ曲がって顔から離れ、また、図13に示すように、覆い部250の下縁部267が顎から離れてしまうことから明らかなように、だぶつきが多く、フィット性が悪い。そのため、顔と覆い部との間の隙間が大きく、花粉等が侵入し易く、また、覆い部250が顔の外側へはみ出して装着者の顔を大きく見せる。
【0028】
それに対し、本実施形態の衛生マスクは、図4および図5に装着状態を示すように、従来の衛生マスクと比較して、覆い部10の側縁部38の折れ曲がりが少なく、その全体が装着者の頬側に寄せられ、また、覆い部10の下縁部86が装着者の顎の下側に接触させられており、フィット性が良い。これは、本衛生マスクは、覆い部10の下端縁54の長さが長方形の長さの70%とされるとともに、切除部52の高さが長方形の高さの50%とされることにより、覆い部が長方形とされる場合に比較して、下部の面積が装着者の顔を覆うに足る範囲で小さくされ、だぶつきが生じ難いことによると考えられる。また、耳掛部12の覆い部10の下側の端部が上側の端部より、覆い部10の横方向の中央側に位置させられており、耳との距離が、覆い部が長方形状とされる場合より長く、装着者が衛生マスクを掛けたとき、伸縮性を有する耳掛部12により、側縁部38の下部が耳側へ引き寄せられ、側縁部38および下縁部86が頬および顎に沿わされることにもよると考えられる。いずれにしても本衛生マスクはフィット性が良く、側縁部38の物への引っ掛かりや、膨出部90内への埃や花粉等の侵入が良好に防止され、また、側縁部38の下部の顔の外へのはみ出しや、下縁部86の顎の下方への延出しが少なく、装着者の顔が小さく見え、美観に優れている。
【0029】
さらに、ストリップ82は、互いに重ねられた3枚のシート14,16,18と、それらシート14,16,18の上に被せられたカバーシート76との間に挿入され、3枚のシート14,16,18および1枚のカバーシート76を介してストリップ82が顔に当たるため、当たりが特に柔かい。
【0030】
覆い部は、その両下角部にそれぞれ、直角三角形の斜辺に対応する傾斜縁を有するものとしてもよい。その実施形態を図6に基づいて説明する。
本衛生マスクについては、図6に覆い部100を輪郭のみによって示すように、横長の長方形102の両下角部の左右対称の切除により得られると仮想される切除部104が直角三角形をなし、覆い部100の両下角部の縁は一直線状の傾斜縁106とされている。この切除部104は、直角を挟む2辺のうち、横方向の1辺の方が縦方向の1辺より長くされている。これら2辺のうち、縦方向の1辺は、例えば、長方形102の高さの20%とされ、横方向の1辺は、例えば、長方形102の長さの15%とされ、覆い部100の下端縁の長さは長方形102の長さの70%となっている。
【0031】
また、切除部が直角三角形を成す場合、図7に示す切除部120のように、直角を挟む2辺のうち、縦方向の1辺の方が横方向の1辺より長くされてもよい。図7において符号122は覆い部を示し、符号124は長方形を示し、符号126は傾斜縁を示す。切除部120の直角を挟む2辺のうち、縦方向の1辺は、例えば、長方形124の高さの50%とされ、横方向の1辺は、例えば、長方形124の長さの10%とされ、覆い部122の下端縁の長さは長方形124の長さの80%となっている。切除部の形状を直角二等辺三角形とすることも可能である。
【0032】
さらに、図8に示すように、長方形140の両下角部の左右対称の切除により得られると仮想される切除部142が直角三角形を成し、覆い部144の両下角部の縁が一直線状の傾斜縁146とされる場合、覆い部144の側端縁148および下端縁150の各々と傾斜縁146とが交差する部分にそれぞれ、丸味152,154が付けられてもよい。例えば、丸味152は曲率半径が20mmとされ、丸味154は10mmとされる。覆い部144の左右の上角部にそれぞれ丸味が付けられてもよい。
【0033】
さらに付言すれば、覆い部の両下角部の縁が外向きに凸の曲線を描く状態とされる場合、その曲線は、図9に例示するように、互いに曲率半径を異にする複数種類、例えば、3種類の円弧170,172,174が組み合わされた複円弧縁176とされてもよい。図9において符号178は覆い部を示す。
なお、覆い部の両下角部の外向きに凸の曲線を描く縁は、曲率半径が連続的に滑らかに変化させられた凸曲線とされてもよい。
【0034】
さらにまた、図10に示す覆い部190のように、両下角部に加えて、両上角部についても、長方形192の両上角部が左右対称に切除された形状とされてもよい。4つの角部の各縁194はそれぞれ、例えば、外向きに凸の曲線を描く状態とされる。覆い部190の上端縁の長さ,長方形192の両上角部の切除部196の寸法,形状,覆い部190の両上角部の縁の形状等は、覆い部が長方形の両下角部が左右対称に切除された形状を有するものとされる場合と同様に設定することができる。
【0035】
また、覆い部の上角部に丸味が付けられる場合、その丸味は、1つの曲率半径を有する一円弧状の丸味とされてもよい。
【符号の説明】
【0036】
10:覆い部 12:耳掛部 14,16,18:シート 24:ヒダ形成部 26:箱ヒダ 28,30:車ヒダ 38:側縁部 50:長方形 52:切除部 54:下端縁 56:単円弧縁 60:側端縁 68:上端縁 70:丸味 76:カバーシート 80:筒状部 82:ストリップ 100:覆い部 102:長方形 104:切除部 106:傾斜縁 120:切除部 122:覆い部 124:長方形 126:傾斜縁 140:長方形 142:切除部 144:覆い部 146:傾斜縁 148:側端縁 150:下端縁 152,154:丸味 170,172,174:円弧 176:複円弧縁 178,190:覆い部 192:長方形 196:切除部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性を有する素材から成り、口と鼻とを覆う覆い部と、その覆い部の両側部から延び出して耳に掛けられる2つの耳掛部とを含む衛生マスクであって、
前記覆い部が、四角形の素材に横方向に延びる複数のヒダが形成されるとともに各ヒダの両端部においてヒダの側壁同士が接合されて伸びない側縁部とされたヒダ形成部を含み、全体として、横長の長方形の両下角部が左右対称に切除されることにより、直線的に延びる下端縁の長さが前記長方形の長さの80%以下とされた形状を有することを特徴とする衛生マスク。
【請求項2】
前記横長の長方形の両下角部が左右対称に切除されたとみなし得る切除部の高さが、前記長方形の高さの20%以上である請求項1に記載の衛生マスク。
【請求項3】
通気性を有する素材から成り、口と鼻とを覆う覆い部と、その覆い部の両側部から延び出して耳に掛けられる2つの耳掛部とを含む衛生マスクであって、
前記覆い部が、四角形の素材に横方向に延びる複数のヒダが形成されるとともに各ヒダの両端部においてヒダの側壁同士が接合されて伸びない側縁部とされたヒダ形成部を含むとともに、全体として、横長の長方形の両下角部が左右対称に切除されることにより、その長方形の高さの20%以上の高さの切除部が形成された形状を有することを特徴とする衛生マスク。
【請求項4】
前記切除部が、直角三角形をなし、前記覆い部が、その直角三角形の斜辺に対応する傾斜縁を有する請求項1ないし3のいずれかに記載の衛生マスク。
【請求項5】
前記長方形の両下角部の切除により、前記覆い部の両下角部の縁が外向きに凸の曲線を描く状態とされた請求項1ないし3のいずれかに記載の衛生マスク。
【請求項6】
前記覆い部の上角部に丸味が付けられた請求項1ないし5のいずれかに記載の衛生マスク。
【請求項7】
前記通気性を有する素材が、それぞれ通気性を有する複数枚のシートが重ね合わされたものであり、それら複数枚のシートのうち、少なくとも前記覆い部の上端縁と下端縁との少なくとも一方において切断縁を有するものが、カバーシートにより覆われ、そのカバーシートが他のシートと接合される縁処理が施された請求項1ないし6のいずれかに記載の衛生マスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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