衝撃吸収式ステアリング装置
【課題】 簡素な構造で、運転条件に拘わらず衝撃吸収を可能とする衝撃吸収式ステアリング装置を提供する。
【解決手段】 2枚の吸収プレート12A,12Bを互いに重なり合わせて1つのエネルギー吸収部材を構成した。そして、運転者の体重が基準体重値以上である場合、制御ピン13を制御し衝突時に2枚の吸収プレート12A,12Bを使って引き扱くようにして扱き荷重を大きくした。また、運転者の体重が基準体重値未満である場合、制御ピン13を制御し1枚の吸収プレート12Aのみを使って引き扱くようにして扱き荷重を小さくした。
【解決手段】 2枚の吸収プレート12A,12Bを互いに重なり合わせて1つのエネルギー吸収部材を構成した。そして、運転者の体重が基準体重値以上である場合、制御ピン13を制御し衝突時に2枚の吸収プレート12A,12Bを使って引き扱くようにして扱き荷重を大きくした。また、運転者の体重が基準体重値未満である場合、制御ピン13を制御し1枚の吸収プレート12Aのみを使って引き扱くようにして扱き荷重を小さくした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃吸収式ステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車が他の自動車や建造物等に衝突した際に、その衝突の慣性により運転者がステアリングホイールに衝突した時の衝撃エネルギーを吸収するエネルギー吸収装置を備えた衝撃吸収式ステアリング装置がある。
【0003】
この種の衝撃吸収式ステアリング装置は、一般的に、ステアリングコラムを車体に対して衝撃によって車体前方へ移動可能に支持するとともに、その移動時にステアリングコラムの移動を制限することで衝突エネルギーを吸収するようになっている。
【0004】
ところで、運転条件、例えば運転者が異なると、その時々で運転者の体重が異なるため、ステアリングコラムに加わる荷重が変化し、十分に衝撃エネルギーを吸収できない虞がある。このため、運転条件によって衝突エネルギーの吸収量を制御可能とした衝撃吸収式ステアリング装置がある(特許文献1)。この装置は、支持ピンの回動角度を変更して、支持ピンがエネルギー吸収プレートの変形量を制御し、エネルギー吸収量を調整可能としている。
【特許文献1】特開2002−362381号公報(第4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のステアリング装置では、支持ピンの回動角度制御はモータによって行われているが、このモータは、同支持ピンがエネルギー吸収プレートを扱くときの反力に打ち勝つように高トルクである必要がある。このため、モータが大型化になり、また高価なものとなってしまうという問題があった。また、支持ピンの回動角度を規制するための機構が別途必要になり、それによりさらにステアリング装置が大型化されてしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡素な構造で、運転条件に拘わらず衝撃吸収を可能とする衝撃吸収式ステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、ステアリングコラムを車体と脱離可能に支持する支持部材と、前記ステアリングコラムを車体前方へ相対移動可能に支持するとともに、その移動時に前記ステアリングコラムの移動を制限して同ステアリングコラムに加わる衝突エネルギーを吸収するエネルギー吸収装置とを備えた衝撃吸収式ステアリング装置において、前記エネルギー吸収装置は、前記ステアリングコラムに支持された支持ピンと、前記支持ピンに沿って配置され、その一端に前記車体と連結する連結部が形成され、前記支持部材と相対移動に伴って前記支持ピンに引き抜き荷重をかける複数の吸収部材と、複数の吸収部材の各々の前記連結部と係合し、その吸収部材を前記車体と連結させる連結手段と、運転条件に応じて、前記複数の吸収部材の各々の連結部のうちの所定の吸収部材の連結部を前記車体と連結させるように前記連結手段を制御する制御手段とを備えていることを要旨とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、前
記支持ピンは、前記支持部材の左右両側に設けられ、前記複数の吸収部材は、それぞれの支持ピンに対して設けられていることを要旨とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、前記複数の吸収部材は、それぞれ帯状のプレートであって、各プレートは積層されて配置され、前記連結部は、前記帯状のプレートに形成された孔であって、各プレートはその孔が互いに連通するように積層されて配置され、前記連結手段は、前記連通した孔に貫挿される制御ピンであって、前記連通した孔との係合によって、前記プレートを前記車体に連結させることを要旨とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、前記複数のプレートの1つは、連結ボルトを介して前記車体と連結され、他のプレートは、前記連結ボルトで連結された前記プレートに設けたカシメ片にてカシメ固定されていることを要旨とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1又は2に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、前記車体には前記運転条件を検知する検知手段を設け、前記制御手段は、前記検知手段によって検知された検知結果に基づいて前記連結手段を制御するようにしたことを要旨とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、前記運転条件は、前記車体を運転する運転者の体重であって、前記検知手段は、前記運転者の体重を検知することを要旨とする。
(作用)
請求項1に記載の発明によれば、制御装置は運転条件によって複数の吸収部材のうち、所定の吸収部材を車体に連結させる。従って、例えば、運転条件が運転者の体重である場合、制御装置は運転者の体重が重いときは多数の吸収部材を車体と連結させ、運転者の体重が軽いときは1つまたは少数の吸収部材を車体と連結させる。そして、吸収部材が多く連結されている場合、支持ピンは、吸収部材が少なく連結されている場合に比べて、より大きな扱き荷重で扱かれるので、運転者の体重が重い場合は、ステアリング装置はその衝突エネルギーを十分に吸収することが可能となる。また、運転者の体重が軽い場合は、ステアリング装置は緩やかにその衝突エネルギーを吸収することが可能となる。
【0013】
従って、比較的簡素な構成で運転条件によって衝突エネルギーの吸収量を制御可能とした衝撃吸収式ステアリング装置を提供することができる。
請求項2に記載の発明によれば、支持部材の両側に支持ピン及び複数の吸収部材を設けたので、衝突時の支持ピンによる引き抜き荷重の左右のバランスが良くなる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、各制御ピンを各プレートに形成された孔に貫挿させることで各プレートを車体に連結させ、支持ピンの引き抜き荷重を制御することが可能となる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、複数の吸収部材は一体に支持される。
請求項5に記載の発明によれば、制御装置は検知手段によって検出された値に基づいて複数の吸収部材のうち、所定の吸収部材を車体に連結させる。従って、例えば、検知手段が運転者の体重を検知するものである場合では、制御装置はその運転者の体重に基づいて複数の吸収部材のうちの所定の吸収部材を車体に連結させることができる。
【0016】
請求項6に記載の発明によれば、運転者の体重によって複数の吸収部材のうち、所定の吸収部材を車体に連結される。従って、エネルギー吸収プレートによる衝突エネルギーの
吸収量は、運転者の体重に応じて制御される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本発明を適用した衝撃吸収式ステアリング装置(以下、単に「ステアリング装置」という)の要部側面図である。
図1に示すように、ステアリング装置1は、ステアリングコラム装置2と、そのステアリングコラム装置2内を挿通するステアリングシャフト3とを備えている。
【0019】
ステアリングコラム装置2は、コラムカバーK内に収納され、軸受け4,5により、ステアリングシャフト3を回転自在に支持している。ステアリングシャフト3の車体前方側には、図示しないステアリングリンク機構が連結される一方、車体後方側にはステアリングホイールSWが取着されている。
【0020】
また、ステアリングコラム装置2は、その略中央部に設けられたコラムハウジング2aに一体に固定された第1支持部材6がボルトG1を介して車体8側に支持されている。また、コラムハウジング2aの車体後方にはボルトG2を介して第2支持部材7が車体8に固定されている。これにより、ステアリングコラム装置2は、第2支持部材7によって車体8側に支持されている。
【0021】
第1支持部材6は、ステアリングシャフト3の長手方向に沿って車体前方に向かって所定の荷重が加えられたとき、車体8から離脱するようになっている。また、第2支持部材7は、ステアリングシャフト3の長手方向に沿って車体前方に向かって所定の荷重が加えられたとき、コラムハウジング2aから離脱するようになっている。この結果、ステアリングコラム装置2は、ステアリングシャフト3の長手方向に沿って車体前方に向かって所定の荷重が加えられたとき、車体前方へブレイクアウエイされる。
【0022】
また、コラムハウジング2aには、エネルギー吸収装置9が設けられている。エネルギー吸収装置9は、ステアリングコラム装置2が車体前方へ離脱した際に、ステアリングコラム装置2の前方への移動を制限することで運転者HがステアリングホイールSWから受ける衝撃を吸収する機能を備えている。
【0023】
ステアリング装置1は、運転席Sに運転者Hの体重を検出する検知手段としてのセンサRが内蔵されている。センサRから出力された検知信号DGは、図示しない配線を介して車体8内に装備されたコントローラ10に出力されるようになっている。
【0024】
コントローラ10は、その内部にメモリ10a、CPU10b、入出力回路10cを内蔵している。メモリ10aには、予め設定された基準体重値が記憶されている。コントローラ10は、入出力回路10cを介して検知信号DGを入力する。
【0025】
CPU10bは、検知信号DGにより運転者Hの体重を検出し、その運転者Hの体重が基準体重値以上であるか否かを判断する。CPU10bは、その判断結果に応じた駆動電流SGを入出力回路10cを介してステアリングコラム装置2に出力する。本実施形態では、CPU10bは、運転者Hの体重が基準体重値未満のとき駆動電流SGを出力し、運転者Hの体重がその基準体重値以上のとき駆動電流SGを出力しないようになっている。具体的には、例えば本実施形態においては、CPU10bは、運転者Hの体重が80Kg未満であると判断した場合、駆動電流SGをステアリングコラム装置2に出力し、また運転者Hの体重が80Kg以上であると判断した場合は、駆動電流SGを出力しないように
なっている。
【0026】
また、ステアリング装置1は、チルト機構C1を備え、そのチルト制御用モータCM1(図3参照)が駆動することによりステアリング装置1のチルト量が制御されるようになっている。また、テレスコ機構C2を備え、そのテレスコ制御用モータCM2が駆動することによりステアリング装置1のテレスコ量が制御されるようになっている。
【0027】
次に、エネルギー吸収装置9の詳細について図2〜図7に従って説明する。
図2は、本発明のステアリング装置1の側面図であり、図3は、同ステアリング装置1の平面図である。
【0028】
図3に示すように、エネルギー吸収装置9は、本実施形態においては、コラムハウジング2aの両側に設けられている。図2及び図3に示すように、各エネルギー吸収装置9は、支持ピンとしてのエネルギー吸収ピン11(以下、「EAピン」という)、エネルギー吸収部材12、連結手段としての制御ピン13及び制御手段としてのピン制御装置14を備えている。
【0029】
図3に示すように、コラムハウジング2aには、ステアリングシャフト3の長手方向と直交する線Ko上に左右一対の凹部Bが形成されている。各凹部B内には、前記線Koに沿って円筒状のEAピン11が圧入されている。
【0030】
また、図2及び図3に示すように、コラムハウジング2aの各凹部Bより車体後方側(ステアリングホイール側)の側面には、図7及び図8に示すように、車体後方側に向かうに従ってその厚みが薄くなる肉薄部7aがそれぞれ形成されている。図3に示すように、左右一対の肉薄部7aには、車体後方側に向かって開口されたU字状の溝Hoがそれぞれ切り欠き形成されている。
【0031】
エネルギー吸収部材12は、図2及び3に示すように、各凹部Bに沿って配置されている。図4(a),(b)に示すように、エネルギー吸収部材12は、2枚の吸収プレート12A,12Bが互いに積層されて配置されている。第1吸収プレート12Aは、第2吸収プレート12Bより上側(車体8側)に配置されている。また、本実施形態においては、第1吸収プレート12Aの厚みt1は、第2吸収プレート12Bの厚みt2と等しい。
【0032】
第1吸収プレート12Aは、略四角形状を成した基部15aとその基部15aから車両前方側に延びる帯状の帯体15bとから構成されている。基部15aの略中央には第1孔H1aが形成されている。帯体15bの基部15a寄りには、第2孔H1bが形成されている。第2孔H1bは、第1孔H1aから距離Loだけ離間した位置に形成されている。また、第1吸収プレート12Aは、その帯体15bの基部15a側に、左右一対のカシメ片18が形成されている。
【0033】
第2吸収プレート12Bは、第1吸収プレート12Aと同様に、略四角形状を成した基部17aとその基部17aから延びる帯状の帯体17bとから構成されている。第2吸収プレート12Bの帯体17bの幅bは、本実施形態においては、第1吸収プレート12Aの帯体15bの幅aよりも狭く均一に形成されている。また、第2吸収プレート12Bの基部17aの幅は、第1吸収プレート12Aの帯体15bの幅aに等しくなるように形成されている。さらに、第2吸収プレート12Bの基部17aの略中央には、第2孔H1bの同じ内径の孔H2が形成されている。
【0034】
第2吸収プレート12Bは、第1吸収プレート12Aに対して、図5に示すように、カシメ片18によって、第2吸収プレート12Bの基部17aが第1吸収プレート12Aの
帯体15bに重なり合った状態でカシメ固定される。また、このとき、第1吸収プレート12Aの帯体15bに形成された孔H1bが、第2吸収プレート12Bの基部17aに形成された孔H2に一致するように固定されている。従って、第2吸収プレート12Bの基部17aは、第1吸収プレート12Aの基部15aより車体前方側に距離Loだけずれて配置されている。
【0035】
また、カシメ片18は、十分に弱い荷重で第2吸収プレート12Bの基部17aを固定するようになっている。これにより、互いの吸収プレート12A,12B間に所定以上の外力が加わった場合は、2枚の吸収プレート12A,12Bは分離される。
【0036】
また、図4(b)に示すように、第1及び第2吸収プレート12A,12Bの各帯体15b,17bの一部には、U字状に成形された屈曲部19a,19bを備えている。第1吸収プレート12Aの屈曲部19aは、孔H1bより車体前方側に、また、第2吸収プレート12Bの屈曲部19bは、孔H2より車体前方側にそれぞれ形成されている。
【0037】
そして、このように構成された各吸収プレート12A,12Bは、図2及び図3に示すように、カシメ片18によって互いに固定された状態で、その各屈曲部19a,19bが凹部B内に固着されたEAピン11の下側を潜って同EAピン11を嵌合するように配置される。このとき、第1及び第2吸収プレート12A,12Bの各基部15a,17aは第2支持部材7上に配置されている。
【0038】
コラムハウジング2aの肉薄部7aには、第2支持部材7が取り付けられている。
図7は、エネルギー吸収装置9の要部を説明するための図であって、図3中A−Aでの断面図である。図7に示すように、第2支持部材7は、車体前方側に開口したコの字状を成し、その開口した側から肉薄部7aに嵌入されている。
【0039】
また、第2支持部材7の上壁面20上には、第1上壁面20aとその第1上壁面20aより段差Toだけ低い第2上壁面20bとが形成され、第2上壁面20bが車体前方側に配置されている。この段差Toは、第2吸収プレート12Bの厚さt2とカシメ片19の厚さとの和よりも高くなるように形成されている。
【0040】
また、第1上壁面20aと同第1上壁面20aに対向する下壁面21には、図7中Z矢印方向(鉛直方向)に貫通する上下一対の第1貫通孔Saがそれぞれ形成されている。また、第2上壁面20bと同第2上壁面20bに対向する下壁面21には、図7中Z矢印方向(鉛直方向)に貫通する上下一対の第2貫通孔Sbがそれぞれ形成されている。第1貫通孔Saと第2貫通孔Sbは、ステアリングシャフト3の長手方向に沿って前記距離Loだけ隔てて形成されている。従って、第1上壁面20aと車体8との間に第1吸収プレート12Aの基部15aを挟持するようにして配置すると、その第1吸収プレート12Aの帯体15bと第2上壁面20bとの間隙にカシメ片18を含む第2吸収プレート12Bの基部17aの部分が配置される。
【0041】
また、上下一対の第1貫通孔Saと第1吸収プレート12Aに形成された第1孔H1aを一致させると、上下一対の第2貫通孔Sbは、第2吸収プレート12Bに形成された孔H2及び第1吸収プレート12Aに形成された孔H1bと一致することとなる。
【0042】
上下一対の第1貫通孔Saには、ボルトG2が貫挿され、上下一対の第2貫通孔Sbには、ピン制御装置14の制御ピン13が貫挿される。そして、ボルトG2及び制御ピン13を貫挿した第2支持部材7を肉薄部7aに嵌入した状態では、ボルトG2及び制御ピン13は、図3に示すように、肉薄部7aに形成された溝Ho内に配置されるようになっている。そして、図3に示す状態で、ボルトG2は、車体8に対して螺着される。
【0043】
ピン制御装置14は、連結体の下壁面21に固着されている。ピン制御装置14は、上下動可能な制御ピン13を備え、その制御ピン13は上下一対の第2貫通孔Sbを貫通し第2上壁面20bから突出している。そして、制御ピン13が図7に示す位置に上動すると、制御ピン13は第1及び第2吸収プレート12A,12Bに形成された孔H1b,H2に同時に係合する。また、図7に示す位置から図9に示す位置まで制御ピン13が下方向に移動すると、制御ピン13は第1及び第2吸収プレート12A,12Bに形成された孔H1b,H2から同時に引き抜かれる。従って、制御ピン13が図7に示す位置にあるとき、第1及び第2吸収プレート12A,12Bの両方が、制御ピン13、連結体C及びボルトG2を介して車体8に連結され、制御ピン13が図9の位置にあるとき、第2吸収プレート12Bは連結されず第1吸収プレート12Aのみが車体8に対してボルトG2によって連結固定される。
【0044】
図6は、制御ピン13の断面図である。図6に示すように、制御ピン13には、その先端部に環状溝25が形成されている。この環状溝25の幅Iは、第1吸収プレート12Aの厚みt1と第2吸収プレート12Bの厚みt2の和と同じがそれ以上になるように形成されている。これにより、制御ピン13が図7に示す位置に移動した状態において、環状溝25と孔H1b,H2が嵌合し、振動等によって制御ピン13が第1及び第2吸収プレート12A,12Bに形成された孔H1b,H2から抜け落ちるのを防止することができる。
【0045】
図7に示すように、ピン制御装置14は、図示しない配線を介してコントローラ10(図1参照)に電気的に接続されている。ピン制御装置14は、その内部に図示しない電磁ソレノイドが内蔵されている。そして、ピン制御装置14は、コントローラ10から駆動電流SGが供給されるとソレノイドが励磁状態し、制御ピン13を図9に示す位置まで下動させる。また、コントローラ10から駆動電流SGが供給されないとソレノイドが非励磁状態になり、制御ピン13を図7に示す位置まで上動させる。
【0046】
従って、本実施形態では、運転者Hの体重が80Kg未満の場合、コントローラ10から駆動電流SGが供給され制御ピン13は下方向に退避する。この結果、エネルギー吸収部材12は、第1吸収プレート12AのみがボルトG2により車体8に連結固定される。また、運転者Hの体重が80Kg以上の場合、コントローラ10から駆動電流SGが供給されないので制御ピン13は上方向に移動する。この結果、エネルギー吸収部材12は、第1及び第2吸収プレート12A,12Bがともに制御ピン13、連結体C及びボルトG2を介して車体8に連結される。
【0047】
次に、上記のように構成したステアリング装置1の作用について図7〜図10に従って説明する。
図7は、運転者Hが運転席Sに座る前の状態のEAピン11とエネルギー吸収部材12との関係を示すための図である。この状態では、コントローラ10から駆動電流SGが出力されないので、ピン制御装置14のソレノイドは非励磁状態である。従って、制御ピン13は、上方向に突出し第1及び第2吸収プレート12A,12Bの孔H1b,H2に係合している。この結果、第1及び第2吸収プレート12A,12Bはともに車体8と連結されている。
【0048】
そして、コントローラ10が、運転者Hの体重が80Kg以上であると判断した場合、コントローラ10は駆動電流SGを出力しない。従って、ピン制御装置14のソレノイドは非励磁状態となり、図7に示すように、制御ピン13は上方向に突出した状態を維持する。この結果、第1及び第2吸収プレート12A,12Bはともに車体8と連結されている。
【0049】
そして、この状態において、衝突等してステアリングコラム装置2が車体8から離脱して車体前方側へブレイクアウエイされると、図8に示すように、EAピン11に対して第1及び第2吸収プレート12A,12Bがともに引き扱かれながら相対移動する。即ち、EAピン11は、2枚の第1及び第2吸収プレート12A,12Bをともに引き扱くことになる。この結果、EAピン11の扱き荷重が大きくなる。
【0050】
従って、運転者Hの体重が80Kg以上である場合においては、ステアリングコラム装置2がブレイクアウエイする際に同ステアリングコラム装置2に加わる荷重が比較的大きくなるが、運転者Hの体重が重い場合でも、運転者Hに加わる衝撃をステアリング装置1は十分に吸収することが可能となる。
【0051】
また、コントローラ10が、運転者Hの体重が80Kg未満であると判断した場合、コントローラ10は駆動電流SGを出力する。すると、ピン制御装置14のソレノイドが励磁され、図9に示すように、制御ピン13が下降し、第1吸収プレート12Aのみが車体8と連結されている。
【0052】
そして、この状態において、衝突等してステアリングコラム装置2が車体8から離脱して車体前方側へブレイクアウエイされると、図10に示すように、第2吸収プレート12Bはカシメ片18から離脱しステアリングコラム装置2とともに車体前方に移動する。そして、第1吸収プレート12AのみがEAピン11に対して引き扱ながら相対移動する。この結果、EAピン11の扱き荷重が小さくなる。
【0053】
すなわち、EAピン11の扱き荷重はエネルギー吸収プレートの厚み及び幅に依存し、エネルギー吸収プレートの厚み及び幅が大きくなると扱き荷重は大きくなるが、本実施形態では、第1吸収プレート12Aと第2吸収プレート12Bとは同じ厚みであり、且つ第2吸収プレート12Bの幅は第1吸収プレート12Aの幅より狭い。
【0054】
従って、運転者Hの体重が80Kg未満である場合においては、ステアリングコラム装置2がブレイクアウエイする際に同ステアリングコラム装置2に加わる荷重が比較的小さくなるが、運転者Hの体重が軽い場合でも、運転者Hに加わる衝撃をステアリング装置1は緩やかに吸収することが可能となる。
【0055】
この構成では、例えば、衝突時何らかの原因によって途中で駆動電流SGが供給されなくなった場合、制御ピン13は上動する。このとき、既に吸収プレート12A,12Bは互いに離脱しているため、第1吸収プレート12Aの孔H1bのみ係合可能なため、大きい荷重で扱かれることはなく安全方向に作用する。
【0056】
次に、上記したように構成した実施形態の効果を以下に記載する。
(1)本実施形態によれば、2枚の吸収プレート12A,12Bを互いに重なり合わせて1つのエネルギー吸収部材12を構成した。そして、運転者Hの体重が基準体重値以上である場合、制御ピン13を制御し2枚の吸収プレート12A,12Bをともに引き扱くようにして扱き荷重を大きくした。また、運転者Hの体重が基準体重値未満である場合、制御ピン13を制御し1枚の吸収プレート12Aのみを引き扱くようにして扱き荷重を小さくした。
【0057】
従って、運転者Hの体重に応じて制御ピン13を駆動制御するだけでEAピン11の引く抜き荷重を制御することができるので、エネルギー吸収装置9の構成を簡素にすることができる。
(2)本実施形態によれば、ピン制御装置14は、制御ピン13をソレノイドで駆動制御
した。従って、ピン制御装置14の電気的構成を簡素なものにすることができるので、ピン制御装置14自体の大きさを小型化することが可能となる。また、ピン制御装置14は安価なものにできる。この結果、ステアリング装置のコスト高を抑制することができる。(3)本実施形態によれば、チルト機構C1及びテレスコ機構C2を備えたステアリング装置1であり、そのチルト機構C1及びテレスコ機構C2を備えたステアリング装置1においてそのエネルギー吸収装置9を小型化することができる。
(4)本実施形態によれば、コラムハウジング2aの両側にそれぞれEAピン11及び2枚の第1及び第2吸収プレート12A,12Bを設けたので、衝突時のEAピン11による引き抜き荷重の左右のバランスが良くなる。尚、コラムハウジング2aの中央に1つのEAピン11及び2枚の第1及び第2吸収プレート12A,12Bを設けて機能させるようにしてもよい。
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態を図11に従って説明する。この第2実施形態においては、前記第1実施形態と同じ構成部材については符号を同じにし、その詳細な説明を省略する。図11は、本発明の第2実施形態に係る制御ピン13とエネルギー吸収部材12との関係を示すための図である。
【0058】
図11に示すように、第2実施形態におけるピン制御装置14は車体8側に組み込まれている。そして、制御ピン13は、本実施形態においては、車体8側から連結体Cの第2上壁面20b側に向かって挿入され、第2上壁面20bに当接するようになっている。また、本実施形態のピン制御装置14は、ソレノイドが励磁されたとき、制御ピン13を上方向(図11中Z矢印方向)に移動させ、ソレノイド14aが非励磁にされたとき、制御ピン13を下方向(図11中反Z矢印方向)に移動させるようになっている。
(第3実施形態)
次に、本発明を具体化した第3実施形態を図12に従って説明する。この第3実施形態においては、前記第1実施形態と同じ構成部材については符号を等しくし、その詳細な説明を省略する。図12は、本発明の第3実施形態に係る制御ピン13とエネルギー吸収部材12との関係を示すための図である。
【0059】
図12に示すように、第3実施形態においては、エネルギー吸収部材12は3枚の吸収プレート12A,12B,12Cから構成されている。そして、第1吸収プレート12Aは、その第1孔H1a、第2孔H1bに加えて第2孔H1bより車体前方側に第3孔H1cが形成されている。また、第2吸収プレート12Bは、孔H2に加えて孔H2より車体前方側に孔H2aが形成されている。さらに、第3吸収プレート12Cには、その基部に孔H3が形成されている。そして、3枚の吸収プレート12A,12B,12Cが互いに重なり合った状態では、図12に示すように、第2吸収プレート12Bの孔H2aに対向する位置に第3吸収プレート12Cの孔H3が配置されるようになっている。
【0060】
また、第2支持部材7の下壁面21上には、第2吸収プレート12Bの孔H2a及び第3吸収プレート12Cの孔H3に連通する制御ピン26の上下動を制御する第2のピン制御装置27が固着されている。この第2のピン制御装置27は、コントローラ10に接続され、運転者Hの体重に応じた駆動電流SGが入力されるようになっている。
【0061】
このように構成することで、例えば、衝突時に2つの制御ピン13,26を同時に突出させることで、3枚の吸収プレート12A,12B,12CをEAピン11によって同時に引き扱かせることが可能となる。この結果、より大きな扱き荷重が必要な場合には有効である。つまり、2つの制御ピン13,26を制御することで、引き扱く吸収プレートの枚数を変更することで扱き荷重をより多様に変更させることができる。
【0062】
尚、発明の実施形態は、上記各実施形態に限定されるものではなく、以下のように実施
してもよい。
・上記実施形態では、EAピン11及びエネルギー吸収部材12をコラムハウジング2aの両側(左右一対)に設け、その各エネルギー吸収部材12は、2枚の第1及び第2吸収プレート12A,12Bが互いに積層されることで構成されるようにした。これを、EAピン11及びエネルギー吸収部材12をコラムハウジング2aの両側(左右一対)に設け、その各エネルギー吸収部材12を1枚の吸収プレートで構成されるようにしてもよい。この場合、運転者Hの体重によってそのどちらか一方のエネルギー吸収部材12だけで扱くようにする。このようにすることでも、運転者Hの体重によってその扱き荷重を制御できるステアリング装置を提供することができる。
【0063】
・上記実施形態では、運転条件として運転者Hの体重に応じて制御ピン13を上下動させ、引き扱く吸収プレートの枚数を制御するようにしたが、シートベルトベルト装着の有無によって引き扱く吸収プレートの枚数を制御するようにしてもよい。また、車内にカメラを設け、そのカメラにより運転者の体格を判断し、その結果に基づいて引き扱く吸収プレートの枚数を制御するようにしてもよい。また、走行速度により引き扱く吸収プレートの枚数を制御するようにしてもよい。
【0064】
・上記実施形態では、ステアリング装置1は、チルト機構C1及びテレスコ機構C2が設けられていたが、チルト機構C1及びテレスコ機構C2が設けられていないか、またはそのどちらか一方のみを設けたステアリング装置に適用してもよい。
【0065】
・上記実施形態では、第2吸収プレート12Bの帯体17bは、その幅が均一であったが、これを図13に示すように、徐々に変化しているものであってもよい。このようにすることで、ステアリングコラム装置2に加わる荷重をそのステアリングコラム装置2の衝突時の移動距離に応じて変動させることができる。
【0066】
また、図14に示すように、第1吸収プレート12Aの帯体15bの一部に孔Roを設けることによっても上記と同様に、その扱き荷重を衝突時の移動距離に応じて変動させることができる。
【0067】
次に、上記各実施形態から把握される技術的思想を以下に記載する。
(イ)ステアリングコラムを車体と脱離可能に支持する支持部材と、前記ステアリングコラムを車体前方へ相対移動可能に支持するとともに、その移動時に前記ステアリングコラムの移動を制限して同ステアリングコラムに加わる衝突エネルギーを吸収するエネルギー吸収装置とを備えた衝撃吸収式ステアリング装置において、前記エネルギー吸収装置は、前記ステアリングコラムに支持された左右一対の支持ピンと、前記左右一対の支持ピンに沿ってそれぞれ配置され、その一端に前記車体と連結する連結部が形成され、前記支持部材と相対移動に伴って前記支持ピンに引き抜き荷重をかける吸収部材と、前記支持ピンに対して設けられた吸収部材の前記連結部と係合し、その吸収部材を前記車体と連結させる連結手段と、運転条件に応じて、前記いずれか一方の吸収部材の連結部を前記車体と連結させるように前記連結手段を制御する制御手段とを備えていることを特徴とする衝撃吸収式ステアリング装置。
【0068】
これによれば、運転条件に応じて、支持部材に支持された左右一対の吸収部材(プレート)のうち、どちらか一方の吸収部材のみを車体と連結させるか、両方の吸収部材を車体と連結させるかで、ステアリングコラムに加わる衝突エネルギーを吸収量を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明を適用した衝撃吸収式ステアリング装置の要部側面図である。
【図2】本発明のステアリング装置の側面図である。
【図3】ステアリング装置の平面図である。
【図4】(a),(b)ともに、エネルギー吸収装置を説明するための図である。
【図5】エネルギー吸収装置の断面図である。
【図6】ピンの断面図である。
【図7】第1実施形態のステアリング装置の作用を説明するための図である。
【図8】同じく、第1実施形態のステアリング装置の作用を説明するための図である。
【図9】同じく、第1実施形態のステアリング装置1の作用を説明するための図である。
【図10】同じく、第1実施形態のステアリング装置1の作用を説明するための図である。
【図11】第2実施形態のステアリング装置1の作用を説明するための図である。
【図12】第3実施形態のステアリング装置1の作用を説明するための図である。
【図13】エネルギー吸収装置の別例を説明するための図である。
【図14】エネルギー吸収装置の別例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0070】
H1b,H2…連結部としての孔、1…衝撃吸収式ステアリング装置、2a…ステアリングコラム、7…支持部材、8…車体、9…エネルギー吸収装置、11…支持ピンとしてのエネルギー吸収ピン(EAピン)、12A,12B…吸収部材またはプレートとしての第1吸収プレート12A及び第2吸収プレート12B、13…連結手段としてのピン、14…制御手段としてのピン制御装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃吸収式ステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車が他の自動車や建造物等に衝突した際に、その衝突の慣性により運転者がステアリングホイールに衝突した時の衝撃エネルギーを吸収するエネルギー吸収装置を備えた衝撃吸収式ステアリング装置がある。
【0003】
この種の衝撃吸収式ステアリング装置は、一般的に、ステアリングコラムを車体に対して衝撃によって車体前方へ移動可能に支持するとともに、その移動時にステアリングコラムの移動を制限することで衝突エネルギーを吸収するようになっている。
【0004】
ところで、運転条件、例えば運転者が異なると、その時々で運転者の体重が異なるため、ステアリングコラムに加わる荷重が変化し、十分に衝撃エネルギーを吸収できない虞がある。このため、運転条件によって衝突エネルギーの吸収量を制御可能とした衝撃吸収式ステアリング装置がある(特許文献1)。この装置は、支持ピンの回動角度を変更して、支持ピンがエネルギー吸収プレートの変形量を制御し、エネルギー吸収量を調整可能としている。
【特許文献1】特開2002−362381号公報(第4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のステアリング装置では、支持ピンの回動角度制御はモータによって行われているが、このモータは、同支持ピンがエネルギー吸収プレートを扱くときの反力に打ち勝つように高トルクである必要がある。このため、モータが大型化になり、また高価なものとなってしまうという問題があった。また、支持ピンの回動角度を規制するための機構が別途必要になり、それによりさらにステアリング装置が大型化されてしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡素な構造で、運転条件に拘わらず衝撃吸収を可能とする衝撃吸収式ステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、ステアリングコラムを車体と脱離可能に支持する支持部材と、前記ステアリングコラムを車体前方へ相対移動可能に支持するとともに、その移動時に前記ステアリングコラムの移動を制限して同ステアリングコラムに加わる衝突エネルギーを吸収するエネルギー吸収装置とを備えた衝撃吸収式ステアリング装置において、前記エネルギー吸収装置は、前記ステアリングコラムに支持された支持ピンと、前記支持ピンに沿って配置され、その一端に前記車体と連結する連結部が形成され、前記支持部材と相対移動に伴って前記支持ピンに引き抜き荷重をかける複数の吸収部材と、複数の吸収部材の各々の前記連結部と係合し、その吸収部材を前記車体と連結させる連結手段と、運転条件に応じて、前記複数の吸収部材の各々の連結部のうちの所定の吸収部材の連結部を前記車体と連結させるように前記連結手段を制御する制御手段とを備えていることを要旨とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、前
記支持ピンは、前記支持部材の左右両側に設けられ、前記複数の吸収部材は、それぞれの支持ピンに対して設けられていることを要旨とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、前記複数の吸収部材は、それぞれ帯状のプレートであって、各プレートは積層されて配置され、前記連結部は、前記帯状のプレートに形成された孔であって、各プレートはその孔が互いに連通するように積層されて配置され、前記連結手段は、前記連通した孔に貫挿される制御ピンであって、前記連通した孔との係合によって、前記プレートを前記車体に連結させることを要旨とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、前記複数のプレートの1つは、連結ボルトを介して前記車体と連結され、他のプレートは、前記連結ボルトで連結された前記プレートに設けたカシメ片にてカシメ固定されていることを要旨とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1又は2に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、前記車体には前記運転条件を検知する検知手段を設け、前記制御手段は、前記検知手段によって検知された検知結果に基づいて前記連結手段を制御するようにしたことを要旨とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、前記運転条件は、前記車体を運転する運転者の体重であって、前記検知手段は、前記運転者の体重を検知することを要旨とする。
(作用)
請求項1に記載の発明によれば、制御装置は運転条件によって複数の吸収部材のうち、所定の吸収部材を車体に連結させる。従って、例えば、運転条件が運転者の体重である場合、制御装置は運転者の体重が重いときは多数の吸収部材を車体と連結させ、運転者の体重が軽いときは1つまたは少数の吸収部材を車体と連結させる。そして、吸収部材が多く連結されている場合、支持ピンは、吸収部材が少なく連結されている場合に比べて、より大きな扱き荷重で扱かれるので、運転者の体重が重い場合は、ステアリング装置はその衝突エネルギーを十分に吸収することが可能となる。また、運転者の体重が軽い場合は、ステアリング装置は緩やかにその衝突エネルギーを吸収することが可能となる。
【0013】
従って、比較的簡素な構成で運転条件によって衝突エネルギーの吸収量を制御可能とした衝撃吸収式ステアリング装置を提供することができる。
請求項2に記載の発明によれば、支持部材の両側に支持ピン及び複数の吸収部材を設けたので、衝突時の支持ピンによる引き抜き荷重の左右のバランスが良くなる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、各制御ピンを各プレートに形成された孔に貫挿させることで各プレートを車体に連結させ、支持ピンの引き抜き荷重を制御することが可能となる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、複数の吸収部材は一体に支持される。
請求項5に記載の発明によれば、制御装置は検知手段によって検出された値に基づいて複数の吸収部材のうち、所定の吸収部材を車体に連結させる。従って、例えば、検知手段が運転者の体重を検知するものである場合では、制御装置はその運転者の体重に基づいて複数の吸収部材のうちの所定の吸収部材を車体に連結させることができる。
【0016】
請求項6に記載の発明によれば、運転者の体重によって複数の吸収部材のうち、所定の吸収部材を車体に連結される。従って、エネルギー吸収プレートによる衝突エネルギーの
吸収量は、運転者の体重に応じて制御される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本発明を適用した衝撃吸収式ステアリング装置(以下、単に「ステアリング装置」という)の要部側面図である。
図1に示すように、ステアリング装置1は、ステアリングコラム装置2と、そのステアリングコラム装置2内を挿通するステアリングシャフト3とを備えている。
【0019】
ステアリングコラム装置2は、コラムカバーK内に収納され、軸受け4,5により、ステアリングシャフト3を回転自在に支持している。ステアリングシャフト3の車体前方側には、図示しないステアリングリンク機構が連結される一方、車体後方側にはステアリングホイールSWが取着されている。
【0020】
また、ステアリングコラム装置2は、その略中央部に設けられたコラムハウジング2aに一体に固定された第1支持部材6がボルトG1を介して車体8側に支持されている。また、コラムハウジング2aの車体後方にはボルトG2を介して第2支持部材7が車体8に固定されている。これにより、ステアリングコラム装置2は、第2支持部材7によって車体8側に支持されている。
【0021】
第1支持部材6は、ステアリングシャフト3の長手方向に沿って車体前方に向かって所定の荷重が加えられたとき、車体8から離脱するようになっている。また、第2支持部材7は、ステアリングシャフト3の長手方向に沿って車体前方に向かって所定の荷重が加えられたとき、コラムハウジング2aから離脱するようになっている。この結果、ステアリングコラム装置2は、ステアリングシャフト3の長手方向に沿って車体前方に向かって所定の荷重が加えられたとき、車体前方へブレイクアウエイされる。
【0022】
また、コラムハウジング2aには、エネルギー吸収装置9が設けられている。エネルギー吸収装置9は、ステアリングコラム装置2が車体前方へ離脱した際に、ステアリングコラム装置2の前方への移動を制限することで運転者HがステアリングホイールSWから受ける衝撃を吸収する機能を備えている。
【0023】
ステアリング装置1は、運転席Sに運転者Hの体重を検出する検知手段としてのセンサRが内蔵されている。センサRから出力された検知信号DGは、図示しない配線を介して車体8内に装備されたコントローラ10に出力されるようになっている。
【0024】
コントローラ10は、その内部にメモリ10a、CPU10b、入出力回路10cを内蔵している。メモリ10aには、予め設定された基準体重値が記憶されている。コントローラ10は、入出力回路10cを介して検知信号DGを入力する。
【0025】
CPU10bは、検知信号DGにより運転者Hの体重を検出し、その運転者Hの体重が基準体重値以上であるか否かを判断する。CPU10bは、その判断結果に応じた駆動電流SGを入出力回路10cを介してステアリングコラム装置2に出力する。本実施形態では、CPU10bは、運転者Hの体重が基準体重値未満のとき駆動電流SGを出力し、運転者Hの体重がその基準体重値以上のとき駆動電流SGを出力しないようになっている。具体的には、例えば本実施形態においては、CPU10bは、運転者Hの体重が80Kg未満であると判断した場合、駆動電流SGをステアリングコラム装置2に出力し、また運転者Hの体重が80Kg以上であると判断した場合は、駆動電流SGを出力しないように
なっている。
【0026】
また、ステアリング装置1は、チルト機構C1を備え、そのチルト制御用モータCM1(図3参照)が駆動することによりステアリング装置1のチルト量が制御されるようになっている。また、テレスコ機構C2を備え、そのテレスコ制御用モータCM2が駆動することによりステアリング装置1のテレスコ量が制御されるようになっている。
【0027】
次に、エネルギー吸収装置9の詳細について図2〜図7に従って説明する。
図2は、本発明のステアリング装置1の側面図であり、図3は、同ステアリング装置1の平面図である。
【0028】
図3に示すように、エネルギー吸収装置9は、本実施形態においては、コラムハウジング2aの両側に設けられている。図2及び図3に示すように、各エネルギー吸収装置9は、支持ピンとしてのエネルギー吸収ピン11(以下、「EAピン」という)、エネルギー吸収部材12、連結手段としての制御ピン13及び制御手段としてのピン制御装置14を備えている。
【0029】
図3に示すように、コラムハウジング2aには、ステアリングシャフト3の長手方向と直交する線Ko上に左右一対の凹部Bが形成されている。各凹部B内には、前記線Koに沿って円筒状のEAピン11が圧入されている。
【0030】
また、図2及び図3に示すように、コラムハウジング2aの各凹部Bより車体後方側(ステアリングホイール側)の側面には、図7及び図8に示すように、車体後方側に向かうに従ってその厚みが薄くなる肉薄部7aがそれぞれ形成されている。図3に示すように、左右一対の肉薄部7aには、車体後方側に向かって開口されたU字状の溝Hoがそれぞれ切り欠き形成されている。
【0031】
エネルギー吸収部材12は、図2及び3に示すように、各凹部Bに沿って配置されている。図4(a),(b)に示すように、エネルギー吸収部材12は、2枚の吸収プレート12A,12Bが互いに積層されて配置されている。第1吸収プレート12Aは、第2吸収プレート12Bより上側(車体8側)に配置されている。また、本実施形態においては、第1吸収プレート12Aの厚みt1は、第2吸収プレート12Bの厚みt2と等しい。
【0032】
第1吸収プレート12Aは、略四角形状を成した基部15aとその基部15aから車両前方側に延びる帯状の帯体15bとから構成されている。基部15aの略中央には第1孔H1aが形成されている。帯体15bの基部15a寄りには、第2孔H1bが形成されている。第2孔H1bは、第1孔H1aから距離Loだけ離間した位置に形成されている。また、第1吸収プレート12Aは、その帯体15bの基部15a側に、左右一対のカシメ片18が形成されている。
【0033】
第2吸収プレート12Bは、第1吸収プレート12Aと同様に、略四角形状を成した基部17aとその基部17aから延びる帯状の帯体17bとから構成されている。第2吸収プレート12Bの帯体17bの幅bは、本実施形態においては、第1吸収プレート12Aの帯体15bの幅aよりも狭く均一に形成されている。また、第2吸収プレート12Bの基部17aの幅は、第1吸収プレート12Aの帯体15bの幅aに等しくなるように形成されている。さらに、第2吸収プレート12Bの基部17aの略中央には、第2孔H1bの同じ内径の孔H2が形成されている。
【0034】
第2吸収プレート12Bは、第1吸収プレート12Aに対して、図5に示すように、カシメ片18によって、第2吸収プレート12Bの基部17aが第1吸収プレート12Aの
帯体15bに重なり合った状態でカシメ固定される。また、このとき、第1吸収プレート12Aの帯体15bに形成された孔H1bが、第2吸収プレート12Bの基部17aに形成された孔H2に一致するように固定されている。従って、第2吸収プレート12Bの基部17aは、第1吸収プレート12Aの基部15aより車体前方側に距離Loだけずれて配置されている。
【0035】
また、カシメ片18は、十分に弱い荷重で第2吸収プレート12Bの基部17aを固定するようになっている。これにより、互いの吸収プレート12A,12B間に所定以上の外力が加わった場合は、2枚の吸収プレート12A,12Bは分離される。
【0036】
また、図4(b)に示すように、第1及び第2吸収プレート12A,12Bの各帯体15b,17bの一部には、U字状に成形された屈曲部19a,19bを備えている。第1吸収プレート12Aの屈曲部19aは、孔H1bより車体前方側に、また、第2吸収プレート12Bの屈曲部19bは、孔H2より車体前方側にそれぞれ形成されている。
【0037】
そして、このように構成された各吸収プレート12A,12Bは、図2及び図3に示すように、カシメ片18によって互いに固定された状態で、その各屈曲部19a,19bが凹部B内に固着されたEAピン11の下側を潜って同EAピン11を嵌合するように配置される。このとき、第1及び第2吸収プレート12A,12Bの各基部15a,17aは第2支持部材7上に配置されている。
【0038】
コラムハウジング2aの肉薄部7aには、第2支持部材7が取り付けられている。
図7は、エネルギー吸収装置9の要部を説明するための図であって、図3中A−Aでの断面図である。図7に示すように、第2支持部材7は、車体前方側に開口したコの字状を成し、その開口した側から肉薄部7aに嵌入されている。
【0039】
また、第2支持部材7の上壁面20上には、第1上壁面20aとその第1上壁面20aより段差Toだけ低い第2上壁面20bとが形成され、第2上壁面20bが車体前方側に配置されている。この段差Toは、第2吸収プレート12Bの厚さt2とカシメ片19の厚さとの和よりも高くなるように形成されている。
【0040】
また、第1上壁面20aと同第1上壁面20aに対向する下壁面21には、図7中Z矢印方向(鉛直方向)に貫通する上下一対の第1貫通孔Saがそれぞれ形成されている。また、第2上壁面20bと同第2上壁面20bに対向する下壁面21には、図7中Z矢印方向(鉛直方向)に貫通する上下一対の第2貫通孔Sbがそれぞれ形成されている。第1貫通孔Saと第2貫通孔Sbは、ステアリングシャフト3の長手方向に沿って前記距離Loだけ隔てて形成されている。従って、第1上壁面20aと車体8との間に第1吸収プレート12Aの基部15aを挟持するようにして配置すると、その第1吸収プレート12Aの帯体15bと第2上壁面20bとの間隙にカシメ片18を含む第2吸収プレート12Bの基部17aの部分が配置される。
【0041】
また、上下一対の第1貫通孔Saと第1吸収プレート12Aに形成された第1孔H1aを一致させると、上下一対の第2貫通孔Sbは、第2吸収プレート12Bに形成された孔H2及び第1吸収プレート12Aに形成された孔H1bと一致することとなる。
【0042】
上下一対の第1貫通孔Saには、ボルトG2が貫挿され、上下一対の第2貫通孔Sbには、ピン制御装置14の制御ピン13が貫挿される。そして、ボルトG2及び制御ピン13を貫挿した第2支持部材7を肉薄部7aに嵌入した状態では、ボルトG2及び制御ピン13は、図3に示すように、肉薄部7aに形成された溝Ho内に配置されるようになっている。そして、図3に示す状態で、ボルトG2は、車体8に対して螺着される。
【0043】
ピン制御装置14は、連結体の下壁面21に固着されている。ピン制御装置14は、上下動可能な制御ピン13を備え、その制御ピン13は上下一対の第2貫通孔Sbを貫通し第2上壁面20bから突出している。そして、制御ピン13が図7に示す位置に上動すると、制御ピン13は第1及び第2吸収プレート12A,12Bに形成された孔H1b,H2に同時に係合する。また、図7に示す位置から図9に示す位置まで制御ピン13が下方向に移動すると、制御ピン13は第1及び第2吸収プレート12A,12Bに形成された孔H1b,H2から同時に引き抜かれる。従って、制御ピン13が図7に示す位置にあるとき、第1及び第2吸収プレート12A,12Bの両方が、制御ピン13、連結体C及びボルトG2を介して車体8に連結され、制御ピン13が図9の位置にあるとき、第2吸収プレート12Bは連結されず第1吸収プレート12Aのみが車体8に対してボルトG2によって連結固定される。
【0044】
図6は、制御ピン13の断面図である。図6に示すように、制御ピン13には、その先端部に環状溝25が形成されている。この環状溝25の幅Iは、第1吸収プレート12Aの厚みt1と第2吸収プレート12Bの厚みt2の和と同じがそれ以上になるように形成されている。これにより、制御ピン13が図7に示す位置に移動した状態において、環状溝25と孔H1b,H2が嵌合し、振動等によって制御ピン13が第1及び第2吸収プレート12A,12Bに形成された孔H1b,H2から抜け落ちるのを防止することができる。
【0045】
図7に示すように、ピン制御装置14は、図示しない配線を介してコントローラ10(図1参照)に電気的に接続されている。ピン制御装置14は、その内部に図示しない電磁ソレノイドが内蔵されている。そして、ピン制御装置14は、コントローラ10から駆動電流SGが供給されるとソレノイドが励磁状態し、制御ピン13を図9に示す位置まで下動させる。また、コントローラ10から駆動電流SGが供給されないとソレノイドが非励磁状態になり、制御ピン13を図7に示す位置まで上動させる。
【0046】
従って、本実施形態では、運転者Hの体重が80Kg未満の場合、コントローラ10から駆動電流SGが供給され制御ピン13は下方向に退避する。この結果、エネルギー吸収部材12は、第1吸収プレート12AのみがボルトG2により車体8に連結固定される。また、運転者Hの体重が80Kg以上の場合、コントローラ10から駆動電流SGが供給されないので制御ピン13は上方向に移動する。この結果、エネルギー吸収部材12は、第1及び第2吸収プレート12A,12Bがともに制御ピン13、連結体C及びボルトG2を介して車体8に連結される。
【0047】
次に、上記のように構成したステアリング装置1の作用について図7〜図10に従って説明する。
図7は、運転者Hが運転席Sに座る前の状態のEAピン11とエネルギー吸収部材12との関係を示すための図である。この状態では、コントローラ10から駆動電流SGが出力されないので、ピン制御装置14のソレノイドは非励磁状態である。従って、制御ピン13は、上方向に突出し第1及び第2吸収プレート12A,12Bの孔H1b,H2に係合している。この結果、第1及び第2吸収プレート12A,12Bはともに車体8と連結されている。
【0048】
そして、コントローラ10が、運転者Hの体重が80Kg以上であると判断した場合、コントローラ10は駆動電流SGを出力しない。従って、ピン制御装置14のソレノイドは非励磁状態となり、図7に示すように、制御ピン13は上方向に突出した状態を維持する。この結果、第1及び第2吸収プレート12A,12Bはともに車体8と連結されている。
【0049】
そして、この状態において、衝突等してステアリングコラム装置2が車体8から離脱して車体前方側へブレイクアウエイされると、図8に示すように、EAピン11に対して第1及び第2吸収プレート12A,12Bがともに引き扱かれながら相対移動する。即ち、EAピン11は、2枚の第1及び第2吸収プレート12A,12Bをともに引き扱くことになる。この結果、EAピン11の扱き荷重が大きくなる。
【0050】
従って、運転者Hの体重が80Kg以上である場合においては、ステアリングコラム装置2がブレイクアウエイする際に同ステアリングコラム装置2に加わる荷重が比較的大きくなるが、運転者Hの体重が重い場合でも、運転者Hに加わる衝撃をステアリング装置1は十分に吸収することが可能となる。
【0051】
また、コントローラ10が、運転者Hの体重が80Kg未満であると判断した場合、コントローラ10は駆動電流SGを出力する。すると、ピン制御装置14のソレノイドが励磁され、図9に示すように、制御ピン13が下降し、第1吸収プレート12Aのみが車体8と連結されている。
【0052】
そして、この状態において、衝突等してステアリングコラム装置2が車体8から離脱して車体前方側へブレイクアウエイされると、図10に示すように、第2吸収プレート12Bはカシメ片18から離脱しステアリングコラム装置2とともに車体前方に移動する。そして、第1吸収プレート12AのみがEAピン11に対して引き扱ながら相対移動する。この結果、EAピン11の扱き荷重が小さくなる。
【0053】
すなわち、EAピン11の扱き荷重はエネルギー吸収プレートの厚み及び幅に依存し、エネルギー吸収プレートの厚み及び幅が大きくなると扱き荷重は大きくなるが、本実施形態では、第1吸収プレート12Aと第2吸収プレート12Bとは同じ厚みであり、且つ第2吸収プレート12Bの幅は第1吸収プレート12Aの幅より狭い。
【0054】
従って、運転者Hの体重が80Kg未満である場合においては、ステアリングコラム装置2がブレイクアウエイする際に同ステアリングコラム装置2に加わる荷重が比較的小さくなるが、運転者Hの体重が軽い場合でも、運転者Hに加わる衝撃をステアリング装置1は緩やかに吸収することが可能となる。
【0055】
この構成では、例えば、衝突時何らかの原因によって途中で駆動電流SGが供給されなくなった場合、制御ピン13は上動する。このとき、既に吸収プレート12A,12Bは互いに離脱しているため、第1吸収プレート12Aの孔H1bのみ係合可能なため、大きい荷重で扱かれることはなく安全方向に作用する。
【0056】
次に、上記したように構成した実施形態の効果を以下に記載する。
(1)本実施形態によれば、2枚の吸収プレート12A,12Bを互いに重なり合わせて1つのエネルギー吸収部材12を構成した。そして、運転者Hの体重が基準体重値以上である場合、制御ピン13を制御し2枚の吸収プレート12A,12Bをともに引き扱くようにして扱き荷重を大きくした。また、運転者Hの体重が基準体重値未満である場合、制御ピン13を制御し1枚の吸収プレート12Aのみを引き扱くようにして扱き荷重を小さくした。
【0057】
従って、運転者Hの体重に応じて制御ピン13を駆動制御するだけでEAピン11の引く抜き荷重を制御することができるので、エネルギー吸収装置9の構成を簡素にすることができる。
(2)本実施形態によれば、ピン制御装置14は、制御ピン13をソレノイドで駆動制御
した。従って、ピン制御装置14の電気的構成を簡素なものにすることができるので、ピン制御装置14自体の大きさを小型化することが可能となる。また、ピン制御装置14は安価なものにできる。この結果、ステアリング装置のコスト高を抑制することができる。(3)本実施形態によれば、チルト機構C1及びテレスコ機構C2を備えたステアリング装置1であり、そのチルト機構C1及びテレスコ機構C2を備えたステアリング装置1においてそのエネルギー吸収装置9を小型化することができる。
(4)本実施形態によれば、コラムハウジング2aの両側にそれぞれEAピン11及び2枚の第1及び第2吸収プレート12A,12Bを設けたので、衝突時のEAピン11による引き抜き荷重の左右のバランスが良くなる。尚、コラムハウジング2aの中央に1つのEAピン11及び2枚の第1及び第2吸収プレート12A,12Bを設けて機能させるようにしてもよい。
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態を図11に従って説明する。この第2実施形態においては、前記第1実施形態と同じ構成部材については符号を同じにし、その詳細な説明を省略する。図11は、本発明の第2実施形態に係る制御ピン13とエネルギー吸収部材12との関係を示すための図である。
【0058】
図11に示すように、第2実施形態におけるピン制御装置14は車体8側に組み込まれている。そして、制御ピン13は、本実施形態においては、車体8側から連結体Cの第2上壁面20b側に向かって挿入され、第2上壁面20bに当接するようになっている。また、本実施形態のピン制御装置14は、ソレノイドが励磁されたとき、制御ピン13を上方向(図11中Z矢印方向)に移動させ、ソレノイド14aが非励磁にされたとき、制御ピン13を下方向(図11中反Z矢印方向)に移動させるようになっている。
(第3実施形態)
次に、本発明を具体化した第3実施形態を図12に従って説明する。この第3実施形態においては、前記第1実施形態と同じ構成部材については符号を等しくし、その詳細な説明を省略する。図12は、本発明の第3実施形態に係る制御ピン13とエネルギー吸収部材12との関係を示すための図である。
【0059】
図12に示すように、第3実施形態においては、エネルギー吸収部材12は3枚の吸収プレート12A,12B,12Cから構成されている。そして、第1吸収プレート12Aは、その第1孔H1a、第2孔H1bに加えて第2孔H1bより車体前方側に第3孔H1cが形成されている。また、第2吸収プレート12Bは、孔H2に加えて孔H2より車体前方側に孔H2aが形成されている。さらに、第3吸収プレート12Cには、その基部に孔H3が形成されている。そして、3枚の吸収プレート12A,12B,12Cが互いに重なり合った状態では、図12に示すように、第2吸収プレート12Bの孔H2aに対向する位置に第3吸収プレート12Cの孔H3が配置されるようになっている。
【0060】
また、第2支持部材7の下壁面21上には、第2吸収プレート12Bの孔H2a及び第3吸収プレート12Cの孔H3に連通する制御ピン26の上下動を制御する第2のピン制御装置27が固着されている。この第2のピン制御装置27は、コントローラ10に接続され、運転者Hの体重に応じた駆動電流SGが入力されるようになっている。
【0061】
このように構成することで、例えば、衝突時に2つの制御ピン13,26を同時に突出させることで、3枚の吸収プレート12A,12B,12CをEAピン11によって同時に引き扱かせることが可能となる。この結果、より大きな扱き荷重が必要な場合には有効である。つまり、2つの制御ピン13,26を制御することで、引き扱く吸収プレートの枚数を変更することで扱き荷重をより多様に変更させることができる。
【0062】
尚、発明の実施形態は、上記各実施形態に限定されるものではなく、以下のように実施
してもよい。
・上記実施形態では、EAピン11及びエネルギー吸収部材12をコラムハウジング2aの両側(左右一対)に設け、その各エネルギー吸収部材12は、2枚の第1及び第2吸収プレート12A,12Bが互いに積層されることで構成されるようにした。これを、EAピン11及びエネルギー吸収部材12をコラムハウジング2aの両側(左右一対)に設け、その各エネルギー吸収部材12を1枚の吸収プレートで構成されるようにしてもよい。この場合、運転者Hの体重によってそのどちらか一方のエネルギー吸収部材12だけで扱くようにする。このようにすることでも、運転者Hの体重によってその扱き荷重を制御できるステアリング装置を提供することができる。
【0063】
・上記実施形態では、運転条件として運転者Hの体重に応じて制御ピン13を上下動させ、引き扱く吸収プレートの枚数を制御するようにしたが、シートベルトベルト装着の有無によって引き扱く吸収プレートの枚数を制御するようにしてもよい。また、車内にカメラを設け、そのカメラにより運転者の体格を判断し、その結果に基づいて引き扱く吸収プレートの枚数を制御するようにしてもよい。また、走行速度により引き扱く吸収プレートの枚数を制御するようにしてもよい。
【0064】
・上記実施形態では、ステアリング装置1は、チルト機構C1及びテレスコ機構C2が設けられていたが、チルト機構C1及びテレスコ機構C2が設けられていないか、またはそのどちらか一方のみを設けたステアリング装置に適用してもよい。
【0065】
・上記実施形態では、第2吸収プレート12Bの帯体17bは、その幅が均一であったが、これを図13に示すように、徐々に変化しているものであってもよい。このようにすることで、ステアリングコラム装置2に加わる荷重をそのステアリングコラム装置2の衝突時の移動距離に応じて変動させることができる。
【0066】
また、図14に示すように、第1吸収プレート12Aの帯体15bの一部に孔Roを設けることによっても上記と同様に、その扱き荷重を衝突時の移動距離に応じて変動させることができる。
【0067】
次に、上記各実施形態から把握される技術的思想を以下に記載する。
(イ)ステアリングコラムを車体と脱離可能に支持する支持部材と、前記ステアリングコラムを車体前方へ相対移動可能に支持するとともに、その移動時に前記ステアリングコラムの移動を制限して同ステアリングコラムに加わる衝突エネルギーを吸収するエネルギー吸収装置とを備えた衝撃吸収式ステアリング装置において、前記エネルギー吸収装置は、前記ステアリングコラムに支持された左右一対の支持ピンと、前記左右一対の支持ピンに沿ってそれぞれ配置され、その一端に前記車体と連結する連結部が形成され、前記支持部材と相対移動に伴って前記支持ピンに引き抜き荷重をかける吸収部材と、前記支持ピンに対して設けられた吸収部材の前記連結部と係合し、その吸収部材を前記車体と連結させる連結手段と、運転条件に応じて、前記いずれか一方の吸収部材の連結部を前記車体と連結させるように前記連結手段を制御する制御手段とを備えていることを特徴とする衝撃吸収式ステアリング装置。
【0068】
これによれば、運転条件に応じて、支持部材に支持された左右一対の吸収部材(プレート)のうち、どちらか一方の吸収部材のみを車体と連結させるか、両方の吸収部材を車体と連結させるかで、ステアリングコラムに加わる衝突エネルギーを吸収量を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明を適用した衝撃吸収式ステアリング装置の要部側面図である。
【図2】本発明のステアリング装置の側面図である。
【図3】ステアリング装置の平面図である。
【図4】(a),(b)ともに、エネルギー吸収装置を説明するための図である。
【図5】エネルギー吸収装置の断面図である。
【図6】ピンの断面図である。
【図7】第1実施形態のステアリング装置の作用を説明するための図である。
【図8】同じく、第1実施形態のステアリング装置の作用を説明するための図である。
【図9】同じく、第1実施形態のステアリング装置1の作用を説明するための図である。
【図10】同じく、第1実施形態のステアリング装置1の作用を説明するための図である。
【図11】第2実施形態のステアリング装置1の作用を説明するための図である。
【図12】第3実施形態のステアリング装置1の作用を説明するための図である。
【図13】エネルギー吸収装置の別例を説明するための図である。
【図14】エネルギー吸収装置の別例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0070】
H1b,H2…連結部としての孔、1…衝撃吸収式ステアリング装置、2a…ステアリングコラム、7…支持部材、8…車体、9…エネルギー吸収装置、11…支持ピンとしてのエネルギー吸収ピン(EAピン)、12A,12B…吸収部材またはプレートとしての第1吸収プレート12A及び第2吸収プレート12B、13…連結手段としてのピン、14…制御手段としてのピン制御装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングコラムを車体と脱離可能に支持する支持部材と、
前記ステアリングコラムを車体前方へ相対移動可能に支持するとともに、その移動時に前記ステアリングコラムの移動を制限して同ステアリングコラムに加わる衝突エネルギーを吸収するエネルギー吸収装置と
を備えた衝撃吸収式ステアリング装置において、
前記エネルギー吸収装置は、
前記ステアリングコラムに支持された支持ピンと、
前記支持ピンに沿って配置され、その一端に前記車体と連結する連結部が形成され、前記支持部材と相対移動に伴って前記支持ピンに引き抜き荷重をかける複数の吸収部材と、
複数の吸収部材の各々の前記連結部と係合し、その吸収部材を前記車体と連結させる連結手段と、
運転条件に応じて、前記複数の吸収部材の各々の連結部のうちの所定の吸収部材の連結部を前記車体と連結させるように前記連結手段を制御する制御手段と、
を備えていることを特徴とする衝撃吸収式ステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、
前記支持ピンは、前記支持部材の左右両側に設けられ、前記複数の吸収部材は、それぞれの支持ピンに対して設けられていることを特徴とする衝撃吸収式ステアリング装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、
前記複数の吸収部材は、それぞれ帯状のプレートであって、各プレートは積層されて配置され、前記連結部は、前記帯状のプレートに形成された孔であって、各プレートはその孔が互いに連通するように積層されて配置され、
前記連結手段は、前記連通した孔に貫挿される制御ピンであって、前記連通した孔との係合によって、前記プレートを前記車体に連結させることを特徴とする衝撃吸収式ステアリング装置。
【請求項4】
請求項3に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、
前記複数のプレートの1つは、連結ボルトを介して前記車体と連結され、他のプレートは、前記連結ボルトで連結された前記プレートに設けたカシメ片にてカシメ固定されていることを特徴とする衝撃吸収式ステアリング装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、
前記車体には前記運転条件を検知する検知手段を設け、
前記制御手段は、前記検知手段によって検知された検知結果に基づいて前記連結手段を制御するようにしたことを特徴とする衝撃吸収式ステアリング装置。
【請求項6】
請求項5に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、
前記運転条件は、前記車体を運転する運転者の体重であって、
前記検知手段は、前記運転者の体重を検知することを特徴とする衝撃吸収式ステアリング装置。
【請求項1】
ステアリングコラムを車体と脱離可能に支持する支持部材と、
前記ステアリングコラムを車体前方へ相対移動可能に支持するとともに、その移動時に前記ステアリングコラムの移動を制限して同ステアリングコラムに加わる衝突エネルギーを吸収するエネルギー吸収装置と
を備えた衝撃吸収式ステアリング装置において、
前記エネルギー吸収装置は、
前記ステアリングコラムに支持された支持ピンと、
前記支持ピンに沿って配置され、その一端に前記車体と連結する連結部が形成され、前記支持部材と相対移動に伴って前記支持ピンに引き抜き荷重をかける複数の吸収部材と、
複数の吸収部材の各々の前記連結部と係合し、その吸収部材を前記車体と連結させる連結手段と、
運転条件に応じて、前記複数の吸収部材の各々の連結部のうちの所定の吸収部材の連結部を前記車体と連結させるように前記連結手段を制御する制御手段と、
を備えていることを特徴とする衝撃吸収式ステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、
前記支持ピンは、前記支持部材の左右両側に設けられ、前記複数の吸収部材は、それぞれの支持ピンに対して設けられていることを特徴とする衝撃吸収式ステアリング装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、
前記複数の吸収部材は、それぞれ帯状のプレートであって、各プレートは積層されて配置され、前記連結部は、前記帯状のプレートに形成された孔であって、各プレートはその孔が互いに連通するように積層されて配置され、
前記連結手段は、前記連通した孔に貫挿される制御ピンであって、前記連通した孔との係合によって、前記プレートを前記車体に連結させることを特徴とする衝撃吸収式ステアリング装置。
【請求項4】
請求項3に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、
前記複数のプレートの1つは、連結ボルトを介して前記車体と連結され、他のプレートは、前記連結ボルトで連結された前記プレートに設けたカシメ片にてカシメ固定されていることを特徴とする衝撃吸収式ステアリング装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、
前記車体には前記運転条件を検知する検知手段を設け、
前記制御手段は、前記検知手段によって検知された検知結果に基づいて前記連結手段を制御するようにしたことを特徴とする衝撃吸収式ステアリング装置。
【請求項6】
請求項5に記載の衝撃吸収式ステアリング装置において、
前記運転条件は、前記車体を運転する運転者の体重であって、
前記検知手段は、前記運転者の体重を検知することを特徴とする衝撃吸収式ステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−8029(P2006−8029A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190401(P2004−190401)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
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