説明

衝撃吸収用発泡体

【課題】衝撃吸収性と良好な耐候性を備え、スポーツ用ボールや筆記具のグリップあるいは釣り竿のグリップ等の構成部材として好適な衝撃吸収用発泡体を提供する。
【解決手段】ガラス転移温度10〜20℃の水添スチレン−ブタジエン系樹脂をメインポリマーとして50重量%以上含むポリマー、発泡剤、架橋剤、助剤からる混合物を、発泡倍率5〜12倍に架橋発泡させて、反発弾性率が20%以下、サンシャインウェザオメータによる100時間後の伸びの保持率が90%以上の衝撃吸収用発泡体とした。ポリマーには、ガラス転移温度10〜20℃の水添スチレン−ブタジエン系樹脂からなるメインポリマーと共に低密度ポリエチレンを含ませて衝撃吸収用発泡体の硬度を調整してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衝撃吸収用発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールなどのスポーツ用品、筆記具などの文房具用品、釣り竿などの趣味用品、その他の製品には、構成部材として衝撃吸収用発泡体が使用されることが多い。
【0003】
また、低反発弾性を有する衝撃吸収用発泡体として、芳香族ビニルブロックと、ビニル結合を有するジエンブロックとを備えるブロック共重合体を含む樹脂成分、発泡剤、酸化防止剤及び有機酸化物を含有する樹脂組成物を発泡硬化させたものが提案されている。
【0004】
しかし、樹脂成分に芳香族ビニルブロックと、ビニル結合を有するジエンブロックとを備えるブロック共重合体を含む衝撃吸収用発泡体は、分子構造中に二重結合を含んでいることから耐久性、耐候性に劣り、屋外での使用や、窓際での長期使用などには好ましくなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2002−317067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、衝撃吸収性と良好な耐候性を備え、ボールや筆記具のグリップあるいは釣り竿のグリップ等の構成部材として好適な衝撃吸収用発泡体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、ガラス転移温度10〜20℃の水添スチレン−ブタジエン系樹脂を50重量%以上含むポリマーを、発泡倍率5〜12倍に架橋発泡させてなる衝撃吸収用発泡体よりなる。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1において、前記衝撃吸収用発泡体の反発弾性率が20%以下、サンシャインウェザオメータによる100時間後の伸びの保持率が90%以上であることを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2において、前記ポリマーに低密度ポリエチレンを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリマー中に50重量%以上含まれるメインポリマーがガラス転移温度10〜20℃であるため、衝撃吸収用発泡体は常温において反発弾性率が最適なものとなる。また、ポリマー中に50重量%以上含まれるメインポリマーが水添スチレン−ブタジエン系樹脂からなって二重結合を含まないため、衝撃吸収用発泡体は耐候性が良好なものとなる。さらに、発泡倍率を5〜12倍としたことにより、衝撃吸収用発泡体は軽量性を損なうことなく良好な衝撃吸収性を得ることができたのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明の実施形態について説明する。本発明における衝撃吸収用発泡体は、ガラス転移温度10〜20℃の水添スチレン−ブタジエン系樹脂を50重量%以上含むポリマーを、発泡倍率5〜12倍に架橋発泡させたものからなる。
【0012】
本発明において使用されるポリマーは、メインポリマーとしてガラス転移温度10〜20℃の水添スチレン−ブタジエン系樹脂を50重量%以上含むものである。50重量%未満の場合、反発弾性率が高くなって衝撃吸収性に劣るようになる。また、ガラス転移温度を10〜20℃としたことにより、常温において反発弾性率が最適なものとなる。なお、水添スチレン−ブタジエン系樹脂は、スチレン−ブタジエン系樹脂におけるブタジエンの二重結合[−CH=CH−]が、水添によって[−CH−CH−]とされたものである。このように、本発明の衝撃吸収用発泡体は、二重結合を含まないメインポリマーを用いるため、良好な耐候性を得ることができる。
【0013】
前記ポリマーは、低密度ポリエチレン(LDPE)を50重量%未満混合して、衝撃吸収用発泡体の硬度・反発弾性率を調整することができる。低密度ポリエチレンは耐候性に優れるため、前記ガラス転移温度10〜20℃の水添スチレン−ブタジエン系樹脂からなるメインポリマーによる耐候性の向上を損なうおそれがなく、好ましいものである。また、低密度ポリエチレンの単体は、前記メインポリマーとして使用される水添スチレン−ブタジエン系樹脂よりも硬い物性を示すため、衝撃吸収用発泡体の硬度を増すには低密度ポリエチレンを添加するのが好ましい。例えば、フットサルボール用のボールにおいては、ボールを2mの高さから落下させたとき、最初のバウンドが50cm以上、65cm以下の範囲で跳ね返るものでなければならないと規定されている。この規定に準拠するため、ボールの製造メーカはボール全体の構造を考えて製造するので、ボールの構成部材においても、おのずと制限を受ける。したがって、ボールの構成部材の物性については、製造メーカが独自に決定できるとはいえ、このボールに使用される衝撃吸収用発泡体の硬度は、35度(JIS K 7312に準拠したアスカーゴム硬度計C型(高分子計器株式会社製))とされる。そのため、発泡体の組成としては、水添スチレン−ブタジエン系樹脂に加え、低密度ポリエチレンを併用するほうが、好ましい。
【0014】
また、前記ポリマーには、低密度ポリエチレンに代えて、あるいは低密度ポリエチレンと共にエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を混入してもよい。エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂は耐候性に優れるため、前記メインポリマーによる耐候性の向上を損なうおそれがない。その反面、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂は、反発弾性率を高める作用があるため、衝撃吸収用発泡体の用途によっては好ましくない場合がある。なお、酢酸ビニル基の含量が5%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂であれば、前記反発弾性率の著しい向上を防ぐことができる。
【0015】
前記ポリマーに発泡剤、架橋剤、適宜の助剤を添加してニーダーやロールで混練し、得られた混練物を金型に所要量投入し、加熱プレスして架橋・発泡させることにより、衝撃吸収用発泡体とされる。なお、発泡は一段発泡あるいは二段発泡の何れであってもよい。
【0016】
発泡剤としては、加熱により分解してガスを発生するものが用いられ、特に制限されるものではない。例えばアゾジカルボンアミド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジアゾアミノベンゼン、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ベンゼン−1,3−スルホニルヒドラジド、ジフェニルオキシド−4,4’−ジスルフォニルヒドラジド、4,4’−オキシビスベンゼンスルフォニルヒドラジド、パラトルエンスルフォニルヒドラジド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’−ジニトロソ−N,N’−ジメチルフタルアミド、テレフタルアジド、p−t−ブチルベンズアジド、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム等の一種又は二種以上が用いられる。特にアゾジカルボンアミド、4,4’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジドが好適である。発泡剤の添加量としては、通常、ポリマー100重量部に対して、2〜10重量部程度とされる。2重量部未満の場合は発生するガス量が少なく、発泡倍率が稼げず5倍以下の発泡倍率となる。一方、10重量部を超えると発泡倍率が高すぎ、12倍より高い発泡倍率となる。そのため、何れの場合も、所望の硬度、衝撃吸収性が得られなくなる。
【0017】
架橋剤としては、従来、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡体の発泡に使用されている公知のものを使用することができる。例えば、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス−ターシャリーブチルパーオキシヘキサン、1,3−ビス−ターシャリーパーオキシ−イソプロピルベンゼンなどの有機過酸化物等を挙げることができる。前記架橋剤の配合量は、架橋剤の種類によっても異なるが、ポリマー100重量部に対して0.3〜2.5重量部とされる。架橋剤が0.3重量部より少ないと架橋が充分に行われず、成形に適した粘度にならないため、発泡がし難いだけでなく、発泡できたとしても歪みやすく、耐久性の低いものとなる。一方、架橋剤が2.5重量部よりも多いと、架橋度が増すことから樹脂の強度が高くなり、成形時に伸び難くなり、発泡させづらくなる。また、発泡したとしても、内部に大きなホールが形成されやすい。
【0018】
適宜添加される助剤としては、発泡助剤等がある。発泡助剤には、酸化亜鉛、酸化鉛等の金属酸化物、低級又は高級脂肪酸あるいはそれらの金属塩、尿素及びその誘導体等が挙げられる。さらに、顔料等の添加剤が前記ポリマーに添加される場合もある。
【0019】
衝撃吸収用発泡体の発泡倍率は、5〜12倍が好ましい。発泡倍率は、JIS K 6767−1999 付属書1に記載された方法で測定した見掛け密度の逆数を取った値である。前記発泡倍率が5倍未満の場合、衝撃吸収用発泡体の密度が高くなることから、物品の構成部材として使用された場合に、裁断等の加工が難しくなると共に物品が重くなり、好ましくない。特に、スポーツ用のボールは、スポーツによっては複数の基準が設けられており、その複数の基準を満たすようにボールの各構成部材を構成する必要があるため、一構成部材としての衝撃吸収用発泡体が重くなると、前記基準を満たすことができなくなったり、他の構成部材に与える影響が大きくなったりする。そのため、軽量な衝撃吸収用発泡体が好ましい。また、筆記具や釣り具のグリップにあっては、重過ぎると使用中に疲れやすくなることから、グリップに用いられる衝撃吸収用発泡体は軽量なものが好ましい。また、本発明の衝撃吸収用発泡体は、独立気泡からなるため、圧縮されても発泡体内の空気が外部に逃げず、圧縮に使われたエネルギーが熱や音として散逸することなく、反発力となって弾性的に作用する。そのため、衝撃吸収用発泡体は、発泡倍率が高くなると、反発弾性率が高くなる。前記発泡倍率が12倍を超えると衝撃吸収用発泡体の反発弾性率が高くなりすぎ、衝撃吸収性に劣るようになる。特に、本発明の衝撃吸収用発泡体は反発弾性率(JIS K 6400準拠)が20%以下のものが好ましく、前記反発弾性率を20%以下とするためにも、前記発泡倍率は12倍以下が好ましい。
【0020】
また、本発明の衝撃吸収用発泡体は、キセノンウェザーメータによる100時間後の伸びの保持率が90%以上であるのが好ましい。保持率が低いことは、衝撃吸収用発泡体の変形量が少なく、耐候性に優れることを意味し、一方、保持率が高いことは、衝撃吸収用発泡体の変形量が大きく、耐候性に劣ることを意味する。前記保持率が90%未満の場合には、本発明において目的とする良好な耐候性が得られなくなる。なお、キセノンウェザーメータによる100時間後の伸びの保持率は、JIS A 1415に準拠し、ブラックパネル63度として処理し、照射前の伸び(JIS K 6767)を100とし、照射後の伸びを比較することにより得る。
【実施例】
【0021】
水添スチレン−ブタジエン系樹脂を品名:SOE−SS 9000(ガラス転移温度10℃)、旭化成株式会社製、低密度ポリエチレンを品名:NUC8505、日本ユニカー株式会社製、発泡剤をアゾジカルボンアミド、品番:ビニホールAC#3、永和化成工業株式会社製、発泡助剤1を酸化亜鉛二種、発泡助剤2をステアリン酸亜鉛、発泡助剤3を尿素、品名:セルペーストK5、永和化成工業株式会社製、架橋剤をジクミルパーオキサイド、品名:DCP40C、化薬アクゾ株式会社製とし、表1に示す量で配合した原料を、1Lニーダーで900g混練し、その後にオープンロールで混練して混練物とした。これにより得られた混練物を、深さ33mm×縦165mm×横165mmの金型に、生地が若干あふれる程度に投入し、145℃×40分間加熱プレスして発泡させ、実施例1〜5と比較例1及び2の衝撃吸収用発泡体を得た。実施例1〜5は、水添スチレン−ブタジエン系樹脂の量と発泡倍率を本発明の範囲内で変化させた例である。それに対して比較例1は、発泡倍率が本発明の範囲を超えた例、比較例2は、水添スチレン−ブタジエン系樹脂の量が本発明の範囲より少ない例である。
【0022】
【表1】

【0023】
また、芳香族ビニルブロックと、ビニル結合を有するジエンブロックとを備えるブロック共重合体を含む樹脂成分、発泡剤、酸化防止剤及び有機酸化物を含有する樹脂組成物を、表2に示す配合で混練して、実施例と同様にして発泡硬化させ、比較例3の衝撃吸収用発泡体を得た。表2において、芳香族ビニルブロックと、ビニル結合を有するジエンブロックとを備えるブロック共重合体は、品名:ハイブラー5127、株式会社クラレ製、EVAは品名:ウルトラセン、東ソー株式会社製、発泡剤はアゾジカルボンアミド、品番:ビニホールAC#3、永和化成工業株式会社製、発泡助剤1は酸化亜鉛二種、発泡助剤2はステアリン酸亜鉛、発泡助剤3は尿素、品名:セルペーストK5、永和化成工業株式会社製、架橋剤は品名:パーカドックス14−40C、化薬アクゾ株式会社製、酸化防止剤は品名:イルガノックス1010である。
【0024】
【表2】

【0025】
実施例1〜5及び比較例1〜3の衝撃吸収用発泡体に対して、反発弾性率(JIS K 6400−3:2004準拠)と、キセノンウェザーメータによる100時間後の伸びの保持率を測定した。測定結果を、表1及び表2に示す。
【0026】
実施例1〜5の衝撃吸収用発泡体は、反発弾性率が6〜17%と低いことから衝撃吸収性に優れ、しかもサンシャインウェザオメータによる100時間後の伸びの保持率が94〜97%と高いことから耐候性に優れることがわかる。それに対して、発泡倍率が13倍と高い比較例1の衝撃吸収用発泡体は、反発弾性率が20%であり、衝撃吸収性に劣っていることがわかる。また、ポリマー中の水添スチレン−ブタジエン系樹脂が40重量%である比較例2の衝撃吸収用発泡体は、反発弾性率が22%であり、衝撃吸収性に劣っていることがわかる。一方、芳香族ビニルブロックと、ビニル結合を有するジエンブロックとを備えるブロック共重合体を含む樹脂成分、発泡剤、酸化防止剤及び有機酸化物を含有する樹脂組成物を発泡硬化させた比較例3の衝撃吸収用発泡体は、反発弾性率が11%であって衝撃吸収性に優れるものの、サンシャインウェザオメータによる100時間後の伸びの保持率が5%と低いことから、耐候性に劣っていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度10〜20℃の水添スチレン−ブタジエン系樹脂を50重量%以上含むポリマーを、発泡倍率5〜12倍に架橋発泡させてなる衝撃吸収用発泡体。
【請求項2】
反発弾性率が20%以下、サンシャインウェザオメータによる100時間後の伸びの保持率が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収用発泡体。
【請求項3】
前記ポリマーに低密度ポリエチレンを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の衝撃吸収用発泡体。

【公開番号】特開2007−169351(P2007−169351A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365754(P2005−365754)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】