説明

衝撃吸収部材

【課題】 衝突時の衝撃吸収性を向上させることができる衝撃吸収部材を提供する。
【解決手段】 衝撃吸収部材1の横断面は、縦横両方向に対して矩形状の凸部2が複数形成された凹凸形状をなしている。衝撃吸収部材1の横断面(以下、部材横断面)を形成する稜線3は、全て直線で形成されている。部材横断面を形成する稜線3の各外辺(外側の辺)3a及び各内辺(内側の辺)3bの長さは、全て実質的に等しくなっている。また、部材横断面を形成する稜線3における凸部2の両側の角部(凸状角部)4の角度は、全て90度となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両の衝突時に車両に入力される衝撃荷重を吸収するための衝撃吸収部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の衝撃吸収部材としては、例えば特許文献1に記載されているように、扁平な略八角形の部材横断面を有し、互いに対向する2つの長辺部の一部に台形状の溝部が設けられているクラッシュボックスが知られている。
【特許文献1】特許第3912422号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術の衝撃吸収部材においては、部材横断面を形成する稜線の各辺の長さや形状が一定ではないため、衝突により衝撃荷重を受けたときの圧潰状況が各面で異なり、各面同士の圧潰干渉が生じる。従って、安定した荷重特性が得られなくなるため、衝撃吸収性の悪化につながる。
【0004】
本発明の目的は、衝突時の衝撃吸収性を向上させることができる衝撃吸収部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、衝突時に発生する衝撃荷重を吸収するための衝撃吸収部材において、凹凸状に形成された部材横断面を有し、部材横断面を形成する稜線が全て直線で形成されていると共に、稜線の各辺の長さが全て実質的に等しいことを特徴とするものである。
【0006】
このような本発明の衝撃吸収部材においては、部材横断面を形成する稜線を全て直線で形成することに加え、当該稜線の各辺の長さを全て実質的に等しくすることにより、衝突により衝撃荷重を受けたときの圧潰挙動が各面で等しくなるため、各面同士の圧潰干渉の発生が防止されるようになる。また、部材横断面の形状を凹凸状とすることにより、部材横断面を形成する稜線の各辺の長さが短くなるため、1回の圧潰による座屈波長が短くなる。以上により、衝撃吸収部材の荷重特性の安定性が良くなるため、衝突時における衝撃吸収部材の衝撃吸収性を向上させることができる。
【0007】
好ましくは、稜線の凸状角部の角度が90度以下である。この場合には、衝撃吸収部材の圧潰荷重が十分高くなるため、衝撃吸収部材の荷重特性の安定性が更に良くなる。これにより、衝突時における衝撃吸収部材の衝撃吸収性を一層向上させることができる。
【0008】
また、好ましくは、部材横断面が全体にわたって凹凸状に形成されている。この場合には、衝撃吸収部材の局部剛性が強くなるため、衝撃吸収部材が折れにくくなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の衝撃吸収部材によれば、衝突時の衝撃吸収性を向上させ、衝撃エネルギーの吸収を効率良く行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係わる衝撃吸収部材の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明に係わる衝撃吸収部材の一実施形態を示す斜視図(一部断面を含む)であり、図2は、図1に示した衝撃吸収部材の横断面図である。同図において、本実施形態の衝撃吸収部材1は、車両の衝突時に車両に生じる衝撃荷重を吸収するための部材であり、例えば車両の前部に設けられたバンパーのクラッシュボックスとして使用されるものである。この場合、衝撃吸収部材1は、車両のフロントサイドメンバの前端面に接合されることになる。
【0012】
衝撃吸収部材1は、両端が開放された中空部材であり、鉄やアルミニウム等で形成されている。衝撃吸収部材1は、例えば押し出し加工により一体成形したり、複数枚の平板を溶接して作ることができる。
【0013】
衝撃吸収部材1の横断面(衝撃吸収部材1の長手方向に直交する断面)の形状は、略ダブル十字形となっている。つまり、衝撃吸収部材1の横断面は、縦横両方向に対して矩形状の凸部2が複数形成された凹凸形状をなしている。このように衝撃吸収部材1の横断面の形状を全体にわたって凹凸状とすることにより、衝撃吸収部材1の局部剛性が高くなり、衝撃吸収部材1が折れにくくなる。
【0014】
衝撃吸収部材1の横断面(以下、部材横断面ということがある)を形成する稜線3は、全て直線で形成されている。ここでいう「直線」とは、見た目上で直線ということであり、例えば肉眼では分からない微小な凹凸や曲線については直線とみなすこととする。
【0015】
部材横断面を形成する稜線3の各外辺(外側の辺)3a及び各内辺(内側の辺)3bの長さは、全て実質的に等しくなっている。ここでいう「実質的に等しい」とは、必ずしも完全に等しいものだけに限られるものではなく、僅かな誤差(例えば数mm程度の誤差)でしかないものも含んでいる。
【0016】
また、部材横断面を形成する稜線3における凸部2の両側の角部(凸状角部)4の角度は、全て90度となっている。
【0017】
車両の衝突時には車両に衝撃荷重が入力されるが、その衝撃荷重を衝撃吸収部材1が軸方向の圧潰荷重(軸圧縮荷重)として受け、その軸圧縮荷重により衝撃吸収部材1が座屈変形することで、衝撃エネルギーが緩和されることになる。
【0018】
このとき、衝撃吸収部材1に求められる性能としては、限られたスペース及び荷重上限内で可能な限り衝撃吸収量を稼ぐことが重要である。そのためには、衝撃吸収部材1において質量効率の良い圧潰荷重を得ることにより、衝撃吸収部材1の荷重特性(図3及び図4参照)を向上させる必要がある。
【0019】
質量効率の良い圧潰荷重を得るためには、第1に、圧潰荷重の波形における山谷のレベル差を小さくすることで、平均圧潰荷重を高くする必要がある。例えば図3に示す荷重特性では、圧潰荷重Aの波形(破線参照)及び圧潰荷重Bの波形(実線参照)の山(荷重ピーク)の大きさが一定であるが、圧潰荷重Aの波形における山谷のレベル差が圧潰荷重Bの波形における山谷のレベル差よりも小さいため、圧潰荷重Aの平均値Aaveが圧潰荷重Bの平均値Baveよりも高くなる。
【0020】
第2に、衝撃吸収部材1全体にわたって軸圧潰(軸圧縮)を安定して起こす必要がある。具体的には、図3に示すように、圧潰荷重の波形における山(荷重ピーク)の大きさがほぼ一定になるようにし、更に圧潰荷重の波形における波長(座屈波長)がほぼ一定になるようにする。例えば図4に示すように、衝撃吸収部材1の圧潰途中から、圧潰荷重の波形における荷重ピーク及び座屈波長が不安定になると、これに伴って平均圧潰荷重も下がるため、質量効率が悪くなってしまう。
【0021】
また、衝撃吸収部材1の圧潰荷重は、部材横断面を形成する稜線3の凸状角部4の角度に応じて変化する。
【0022】
ここで、図5に示すように、断面山形状の板材6の折れ角θを90〜150度の範囲内で変えた時の破壊荷重をCAE解析により評価した。その評価結果を図6に示す。図6から分かるように、板材6の折れ角θが小さくなるほど破壊荷重が上がるようになる。これにより、衝撃吸収部材1の横断面を形成する稜線3の凸状角部4の角度が小さくなるほど、衝撃吸収部材1の圧潰荷重が高くなると言える。
【0023】
ところで、衝撃吸収部材に曲面部が存在している、つまり衝撃吸収部材の横断面を形成する稜線に曲線部分が含まれていると、以下の不具合が生じる。即ち、曲面部での圧潰荷重は、平面部での圧潰荷重よりも低くなる。このため、曲面部では、平面部に比し、狙いの圧潰荷重を出すための質量がかかることになり、質量効率が悪化する。また、衝撃吸収部材に平面部と曲面部とが混在していると、平面部及び曲面部での圧潰状況が異なるため、それらの圧潰干渉が生じ、圧潰荷重の波形における山谷間の距離が長くなってしまう。さらに、軸圧潰以外の入力(曲げ等)に対しては、曲面部の局部剛性が平面部の局部剛性に比べて弱くなってしまう。
【0024】
また、衝撃吸収部材の横断面を形成する稜線の各辺の長さが異なっていても、圧潰状況の違いによる圧潰干渉が生じるため、上記と同様に圧潰荷重の波形における山谷間の距離が長くなるという問題が発生する。
【0025】
これに対し、本実施形態の衝撃吸収部材1においては、部材横断面を形成する稜線3の各辺3a,3bが全て直線で形成されており、しかも各辺3aの長さが全て実質的に等しくなり、各辺3bの長さが全て実質的に等しくなっている。このため、衝撃吸収部材1の各面での軸圧潰挙動が等しくなるため、各面同士の圧潰干渉の発生が防止される。従って、圧潰荷重の波形における山谷間の距離が短くなるため、平均圧潰荷重が高くなる。また、圧潰荷重の波形における座屈波長が一定になりやすくなるため、軸圧潰が安定して起きるようになる。
【0026】
また、衝撃吸収部材1の横断面形状は全体的に凹凸状となっているので、衝撃吸収部材1の横断面を形成する稜線3の一辺長が短くなる。このため、限られた断面サイズ(図2の破線参照)内において稜線3の線長全体が増えることになるため、平均圧潰荷重が高くなる。また、部材横断面を形成する稜線3の一辺長が短くなることで、一回の圧潰挙動がコンパクトになるため、圧潰荷重の波形における座屈波長が短くなり、この点でも軸圧潰が安定して起きるようになる。
【0027】
また、衝撃吸収部材1の横断面を形成する稜線3の凸状角部4の角度が全て90度となっているため、衝撃吸収部材1の圧潰荷重自体が高くなり、結果的に平均圧潰荷重が高くなる。
【0028】
このように衝撃吸収部材1の平均圧潰荷重が高くなると共に、衝撃吸収部材1の軸圧潰が安定して起きるようになるので、質量効率の良い十分な圧潰荷重を得ることができる。これにより、車両の衝突時に衝撃吸収部材1に必要な衝撃吸収能力を向上させることが可能となる。
【0029】
図7は、図1に示した衝撃吸収部材1の変形例を示す斜視図(一部断面を含む)である。本変形例における衝撃吸収部材11の横断面の形状は、スター形となっている。つまり、衝撃吸収部材11の横断面は、四方に対して山形状の凸部12が複数形成された凹凸形状をなしている。
【0030】
衝撃吸収部材11の横断面(以下、部材横断面ということがある)を形成する稜線13は、全て直線で形成されている。また、部材横断面を形成する稜線13の各外辺13a及び各内辺13bの長さは、全て実質的に等しくなっている。さらに、部材横断面を形成する稜線13の凸状角部14の角度は、全て鋭角となっている。
【0031】
このように部材横断面を形成する稜線13が全て直線で形成されており、しかも稜線13の各辺13a,13bの長さが全て実質的に等しくなっているため、衝撃吸収部材11の各面での軸圧潰挙動が等しくなり、各面同士の圧潰干渉の発生が防止される。従って、圧潰荷重の波形における山谷間の距離が短くなるため、平均圧潰荷重が高くなり、軸圧潰が安定して起きるようになる。
【0032】
また、衝撃吸収部材11の横断面が全体的に凹凸形状をなしているので、部材横断面を形成する稜線13の一辺長が短くなる。このため、圧潰荷重の波形における座屈波長が短くなると共に、衝撃吸収部材11の局部剛性が高くなる。
【0033】
さらに、部材横断面を形成する稜線13の凸状角部14の角度が全て鋭角となっているため、衝撃吸収部材11の圧潰荷重が十分高くなる。
【0034】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、衝撃吸収部材の横断面形状は、上記の略ダブル十字形及びスター形に限られず、種々変形可能である。このとき、衝撃吸収部材の横断面を形成する稜線の少なくとも一部において凸状角部の角度が90度以下であるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係わる衝撃吸収部材の一実施形態を示す斜視図(一部断面を含む)である。
【図2】図1に示した衝撃吸収部材の横断面図である。
【図3】衝撃吸収部材の荷重特性の一例を示すグラフである。
【図4】衝撃吸収部材の荷重特性の他の例を示すグラフである。
【図5】断面山形状の板材の折れ角を変えた時の破壊荷重の評価方法を示す図である。
【図6】図5に示した評価方法により破壊荷重を評価した結果を示すグラフである。
【図7】図1に示した衝撃吸収部材の変形例を示す斜視図(一部断面を含む)である。
【符号の説明】
【0036】
1…衝撃吸収部材、3…稜線、3a…外辺、3b…内辺、4…凸状角部、11…衝撃吸収部材、13…稜線、13a…外辺、13b…内辺、14…凸状角部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝突時に発生する衝撃荷重を吸収するための衝撃吸収部材において、
凹凸状に形成された部材横断面を有し、
前記部材横断面を形成する稜線が全て直線で形成されていると共に、前記稜線の各辺の長さが全て実質的に等しいことを特徴とする衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記稜線の凸状角部の角度が90度以下であることを特徴とする請求項1記載の衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記部材横断面が全体にわたって凹凸状に形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の衝撃吸収部材。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−168115(P2009−168115A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6066(P2008−6066)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】