説明

衝撃式工具用のインサート、インサートの製造方法、インサートを有する工具

本発明の衝撃式工具用インサートは、界面で基材に接合され且つ或る体積を有する超硬キャップを備え、超硬キャップの平均ヤング率は900GPaを越え、基材は界面付近の基材区域の剛性を高める手段として強化ボルスタ部分を有し、強化ボルスタ部分は、超硬キャップの総計体積より大きい総計体積を有し且つ超硬キャップの平均ヤング率の少なくても60%のヤング率を有し、本発明は更に、本発明の衝撃式工具用インサートを製造する方法と、本発明の衝撃式工具用インサートを使用する方法とに係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃式工具およびカッターに使用される超硬キャップ付きインサートと、該インサートを製造する方法と、該インサートを有する工具、特にピック、衝撃式ドリルビット、回転式ドリルビット等の工具に関するものである。これらの工具は、舗装の処置または掘り崩し、岩石の構成、地盤のボーリングのために、例えば採鉱、トンネル掘削、道路工事、石油およびガスのボーリング工業で使用される。
【背景技術】
【0002】
地盤のボーリングは、多くの工業分野、たとえば鉱業、石油およびガスのボーリング、試掘やトンネルの工事で重要な作業となっている。これらの目的には、極めて様々な方法および様々な異なる種類のビットが使用可能である。地盤ボーリングには、通常、主な2モード、すなわち、せん断カッティングと破砕のいずれか、または両方のモードで岩石を破砕する必要があるが、どちらの方法も、岩石に接触する幾種類かの硬質インサートをドリルビットに取り付けることで実施される。せん断カッティングには、削岩して、岩石をせん断することで、岩石を除去するインサートが必要である。破砕の場合、インサートを用いて岩石に対して反復的に衝撃を与え、岩石を破砕する。衝撃ボーリングは、後者の一例であり、採鉱や建設現場で、例えばボアホールおよびブラストホールのせん孔用に広く使用されている。軟岩石採鉱および舗装の掘り崩しの場合、ピック様衝撃工具またはピックが、岩石、コンクリート、アスファルトを破砕するのに使用できる。
【0003】
多結晶ダイヤモンド(PCD)は、連晶ダイヤモンド粒子のかたまりと、粒子間の間隙とを含んでいる。PCDは、通常、ダイヤモンド粒子の集合体を超高圧および温度に曝露すること生成される。間隙の全部または一部を埋める物質は、充填材または結合剤と呼ばれる。PCDは、通常、ダイヤモンド粒子の連晶を促進させるコバルト等の焼結補助剤を添加して生成される。この焼結補助材は、普通、ダイヤモンド用の溶媒/触媒物質と呼ばれる。これは、ダイヤモンドを或る程度まで溶解し、その再沈降を促進させるからである。したがって、焼結PCD生成物内の間隙は、全部または一部が残存溶媒/触媒物質で充填される。最もよく見られるのは、PCDが、コバルトで結合された炭化タングステン基材上に生成される場合であり、この場合、該基材が、PCDのコバルト溶媒/触媒源となる。PCDは、例えば岩石、金属、セラミクス、複合材料、木材含有材料等の硬質材料または研磨材料の切断、切削、穴開け、掘り崩し用の極めて様々な工具に使用される。例えば、PCDインサートは、石油およびガスの掘削の産業分野で地盤のボーリングに使用されるドリルビットに広く用いられる。
【0004】
非特許文献1には、石油およびガス掘削用のPCDインサートが開示されており、その場合、PCD層は、ダイヤモンドを含浸された、つまり「含浸」(“impreg”)バックアップ成分を含む基材に固定される。線図および写真から明らかなように、ダイヤモンド粒子は粗くかつまばらに分布している。
特許文献1に開示されている削岩ビット用のインサートは、インサートの大部分にわたって延びる円筒形グリップ長さを有する予め結合された炭化タングステン体を含んでいる。該文献には、外側超硬ダイヤモンド層から炭化タングステン体へ移行層を経て弾性率が漸減することで、破損が低減されると説かれている。
特許文献2には、削岩ビット用のインサート、それも、3種類の削岩ビットへの使用に適するように調整された弾性特性および熱膨張特性を有する材料製の頭部を備えた胴部上に多結晶ダイヤモンド表面を含むインサートと、該インサートを有するように製造された3種類の削岩ビットとが開示されている。
【0005】
特許文献3には、或る特定の用途の場合に、WC−Coで結合された出来るだけ高剛性の炭化物基材を得ることで、高弾性率によりPCD層のたわみが最小化され、PCDの破損の可能性が低減されるのが望ましい旨が説明されている。だが、弾性率が高すぎると、インサートはボーリング時に破損しやすくなる。
特許文献4には、基材内部にダイヤモンドのコアを付加したPDC(多結晶ダイヤモンド圧縮体)が開示されているが、基材が著しく浸食された場合には、付加したダイヤモンドが露出するようになっている。また、内部に炭化物コアを有するPDCも開示されており、このコアが、PDCカッタのダイヤモンド区域によって完全に包み込まれ、ダイヤモンド区域での高引張応力が防止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】ヨーロッパ特許第0 235 455号明細書
【特許文献2】米国特許第4,811,801号明細書
【特許文献3】米国特許第5,304,342号明細書
【特許文献4】米国特許第6,258,139号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】デルヴィッチほか著「石油部門v40、およびせん孔技術1992」(1992)p.51−60,米国器械技術協会発行。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
衝撃式工具インサートの超硬材料の厚さを、したがって費用を最小化する一方、高い耐衝撃性を達成する必要がある。このことは、岩石または舗装の掘り崩しまたはボーリングの用途には特に重要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1態様では、衝撃式工具用のインサートを提供する。該インサートは、或る体積を有し、かつ界面のところで基材に結合された超硬キャップを含み、該超硬キャップは、900GPaを、好ましくは960GPaを超える平均ヤング率を有しており、前記基材は、界面に直近の基材区域の剛性を高める手段として強化ボルスタ部分を含み、該強化ボルスタ部分が、超硬キャップの総計体積より大きい総計体積と、超硬キャップの平均ヤング率の少なくとも60%の平均ヤング率とを有している。
強化ボルスタ部分は、界面に隣接して(直近に)配置されている。
【0010】
幾つかの実施例では、強化ボルスタ部分は、超硬キャップより少なくとも3倍、好ましくは5倍、更に好ましくは10倍の大きさの総計体積を有していてよい。
幾つかの実施例では、強化ボルスタ部分は、超硬キャップの平均ヤング率の少なくとも60%、好ましくは70%、より好ましくは80%の、更に好ましくは90%の平均ヤング率を有することができる。1実施例によれば、強化ボルスタ部分の平均ヤング率は、超硬キャップの平均ヤング率の約60%‐80%の範囲である。
1実施例では、強化ボルスタ部分が、通常、粒状または微粒状の超硬材料を含んでいる。好ましくは、強化ボルスタ部分は、ダイヤモンドまたはcBNを含み、より好ましくはダイヤモンドを含んでいる。1実施例では、強化ボルスタ部分はPCDを含むことができる。
1実施例では、強化ボルスタ部分は、炭化タングステンを含むか、または炭化タングステンおよびダイヤモンドを含むことができる。
【0011】
好ましくは、強化ボルスタ部分は、コバルト等の結合金属内に分散した超硬材料粒子を含んでいる。好ましくは、超硬粒子の平均粒径は、少なくとも約15マイクロメートル、より好ましくは少なくとも約20マイクロメートル、更に好ましくは少なくとも約70マイクロメートル、より以上好ましくは約150マイクロメートル、更にそれ以上好ましくは少なくとも約200マイクロメートルである。より粗い超硬粒子の使用は、強化ボルスタ部分の剛性を増す効果を有することができ、それ以外の点はすべて等しい。
強化ボルスタ部分に含まれる超硬粒子の粒径範囲は大きくてよい。例えば、超硬粒子の粒径範囲は、約1‐約500マイクロメートルでよい。強化ボルスタ部分に含まれる超硬粒子の粒径範囲は、2つ以上の粒径分布で形成され、2つ以上の「モード」ピークが、超硬粒子全体の粒径分布内で明瞭になるようにすることができる。モードのうちの少なくとも1モードは、約50マイクロメートルを超える平均粒径分布を有することができる。
【0012】
ダイヤモンドの非結合粒子、つまり自由流動粒子の粒径分布は、レーザ回折法で測定されるが、その場合、粒子は、流体状媒質内に浮遊させられ、レーザビームを懸濁液に当てることによって光学的な回折パターンが得られる。この回折パターンをコンピュータのソフトウエアを用いて解釈し、粒径分布が、円相当径により表現される。実際には、粒子は、球形として処理され、粒径分布は、球相当径の分布として表現される。この目的のためには、マスターサイザーTM装置(英国のマルヴァーン・インスツルメンツ社製)を使用できる。
【0013】
或る量の粒子の多モード粒径分布とは、粒子が、各「モード」に対応する2つ以上のピークを備えた粒径分布を有する意味と理解されたい。多モード多結晶体は、通常、2つ以上の複数粒子源で作られ、各粒子源が含む粒子は、事実上異なる平均粒径を有し、かつ複数粒子源からの粒子が混ざり合っている。混ざり合った粒子の粒径分布の測定により、通常、異なるモードに対応する異なるピークが明らかになる。粒子が一緒に焼結されて多結晶体を形成すると、粒子が互いに圧縮されて破砕されるため、粒径分布は更に変化し、その結果、全体的に粒径が減少する。それにもかかわらず、粒子の多モード性は、通常、焼結物の画像分析により依然として明瞭である。
【0014】
PCD内のダイヤモンド粒子の粒径を測定するために、「円相当径」測定として知られる方法を使用する。この方法では、PCD材料の研磨表面の走査電子顕微鏡(SEM)画像を使用する。倍率およびコントラストは、画像内で少なくとも数百個のダイヤモンド粒子を確認するのに十分でなければならない。ダイヤモンド粒子は、画像内で金属相と区別でき、各ダイヤモンド粒子の円相当径は、従来の画像分析ソフトウエアによって検出できる。これらの円相当粒径の収集分布は、その場合、統計学的に評価される。PCD材料内でのダイヤモンドの平均粒径が参照される場合、常に、その粒径は平均円相当径を意味することを理解されたい。
【0015】
本発明に対するこの観点の一実施例の場合、超硬キャップが、第1界面のところで強化ボルスタ部分に結合され、基材は、その一端に強化ボルスタ部分を含み、他端には支持部分を含んでおり、強化ボルスタ部分は、第2界面のところで支持部分に結合されている。第1界面は非平面状であるのが好ましい。第2界面は事実上平面状であるのが好ましい。支持部分が存在する場合には、その支持部分と強化ボルスタ部分との集成体が、インサートの基材部分と呼ばれる。支持部分が存在しない場合は、基材は、強化ボルスタ部分からのみ構成される。
【0016】
一実施例の場合、強化ボルスタ部分は、合金で結合された金属炭化物または金属と、粒状または微粒状のダイヤモンドとを含み、支持部分は、それが存在する場合のことだが、事実上ダイヤモンドを含まない。言い換えると、ボルスタ部分は、ダイヤモンド増強炭化物(DEC)で構成されている。好ましくは、ダイヤモンド粒子は、強化ボルスタ部分に事実上均等に分散している。強化ボルスタ部分内のダイヤモンド粒子は、少なくとも200マイクロメートルの平均粒径を有することができる。
一実施例では、強化ボルスタ部分は、截頭円錐状、または基材内に全体または一部が埋收されたコア状でよい。
好ましくは、超硬キャップ、強化ボルスタ部分、基材の残部(すなわち支持部分)は、一体形成され、ダイヤモンドが熱力学的に安定する条件下で結合される。
超硬キャップの平均ヤング率は1000GPaを超える値であるのが好ましい。
超硬キャップは多結晶ダイヤモンド(PCD)を含むのが好ましい。
【0017】
一実施例では、超硬キャップはPCDを含み、PCDの少なくとも一部は、事実上、ダイヤモンド用の溶剤/触媒物質を含まなくてよい。この少なくとも一部は、超硬キャップの作業面に隣接し、基材との界面から離れているのが好ましい。一実施例では、この少なくとも一部は多孔性でよい。特定用途、例えば地盤ボーリングや削岩等では、これら実施例で熱安定性およびインサート性能が改善できる。
幾つかの実施例では、強化ボルスタ部分のヤング率は、少なくとも約650GPaまたは少なくとも約675GPaである。幾つかの実施例では、強化ボルスタ部分のヤング率は、最大約900GPaまたは最大約850GPaである。また幾つかの実施例では、強化ボルスタ部分のヤング率は、約650GPa‐約900GPaの範囲、または約675GPa‐約850GPaの範囲である。
【0018】
超硬キャップの平均ヤング率が約1,000GPaを超える実施例では、強化ボルスタ部分は、別の種類、品級(グレード)、ヤング率の超硬材料、例えばPCDまたはPCBNを含むのが好都合である。
好ましくは、強化ボルスタ部分は、高融点金属炭化物粒子を含み、該金属は、W,Ti,Ta,Nb,Mo,Cr,Hf,Zr,Siから選択されるが、より好ましくは、W,Si,Tiから選択され、また該粒子は、好ましくはCoを含む結合金属または結合合金によって互いに結合維持されている。
好ましくは、強化ボルスタ部分は、CO,Fe,Mn,Niから選択された鉄族金属を含み、より好ましくはCoを含んでいる。超硬キャップがダイヤモンドを含む場合、キャップとの界面に直近の強化ボルスタ部分の一部がCoを含むのが最も好ましい。
【0019】
好ましくは、強化ボルスタ部分および支持部分の両方が金属炭化物粒子を含み、該金属は、W,Ti,Ta,Nb,Mo,Cr,Hf,Zr,Siから選択され、より好ましくは、W,Si,Tiから選択され、該粒子は、好ましくはCoを含む結合金属または結合合金によって互いに結合維持されている。強化ボルスタ部分は2種類以上の炭化物を含むことができる。好ましくは強化ボルスタ部分内のCoの平均質量百分率は、支持部分内のそれより低い。
幾つかの実施例では、強化ボルスタ部分は、事実上ダイヤモンドを欠いてもよく、あるいはまたダイヤモンドを含有してもよく、コバルト含有量を最大10重量%、または最大8重量%、または最大6重量%にすることさえ可能である。幾つかの実施例では、結合炭化物の強化ボルスタ部分のコバルト含有量は、少なくとも3重量%、または少なくとも4重量%にできる。
【0020】
好ましくは強化ボルスタ部分は、高融点金属炭化物粒子を含み、該金属は、W、Ti、Ta、Nb、Mo、Cr、Hf、Zr、Siから選択され、より好ましくは、W、Si、Ti、超硬材料から選択され、好ましくは、通常、微粒状または粒状のダイヤモンドから選択される。該粒子は、好ましくはCoを含む結合金属または結合合金によって結合維持されている。強化ボルスタ部分は、2種類以上の炭化物を含むことができる。
幾つかの実施例では、強化ボルスタ部分は、1種類以上の異なる材料または複合材料を含むことができる。より具体的には、異なる種類の2層以上の材料または複合材料を含むことができ、これらの層間の界面は、鮮明または拡散的であり、通常、強化ボルスタ部分と超硬チップまたはキャップとの間の界面と概して一致する部分を有している。
【0021】
一実施例では、強化ボルスタ部分は、基材の支持部分より高い耐摩耗性を有し、かつ露出表面を有している。該露出表面は、インサートの摩耗速度を低減する耐摩耗性表面として機能できる。
一実施例では、強化ボルスタ部分が基材の事実上全体積にわたって延びている。
幾つかの実施例では、強化ボルスタ部分が、1種類以上の異なる種類の材料または複合材料を含むことができ、強化ボルスタ部分と支持部分との間に明瞭な界面が存在するか、または界面が見分けにくいか、徐々に変化するか、拡散的かである。
本発明のこの態様は、ピック・インサートや衝撃式ボーリング・インサートの場合、物質、特に岩石、コンクリート、アスファルト等を反復的衝撃によって掘り崩したり破砕したりする工具に適しており、また、せん断カッタや回転式ドリルビットを使用する工具にも好適である。
【0022】
本発明が特に適しているのは、超硬キャップが、約960GPaまたは1,000GPaを超えるヤング率を有するPCDを含む場合であり、該超硬キャップは、通常、例えば石油やガスのボーリング、採鉱、建設(トンネル)作業等での岩石、コンクリート、アスファルトの掘り崩し、ボーリング、加工、掘削に使用できる。特に、PCDその他の超硬キャップ付きインサートは、固い物体または構成物に衝撃を与えるのに好適であり、例えば衝撃式ボーリング、鉱山用ピック組み立て体、道路のならし作業、掘り崩し、リサイクルに使用される。
【0023】
幾つかの実施例では、超硬キャップが先端を丸くされた円錐形を有し、頂点のところでの超硬キャップの軸線方向厚さは1.14‐2.4mmであり、より好ましくは1.4‐2.3mmである。幾つかの実施例では、頂点のところでの超硬キャップの軸線方向厚さは、少なくとも約0.1mm、または少なくとも約0.2mm、または少なくとも約0.5mm、または少なくとも1mmでもよい。幾つかの実施例では、この厚さは、最大2.4mm、または最大2.3mmでもよい。軸線方向厚さとは、界面から測定した厚さを言い、該軸線はインサートの中心軸線と整線する。
幾つかの実施例では、頂点は、少なくとも0.5mm、または少なくとも1.3mmの曲率半径を有することができる。幾つかの実施例では、頂点は最大4mmの曲率半径を有することができる。好ましくは、頂点は、0.5‐4mmの、より好ましくは1.3‐4mmの曲率半径を有している。
【0024】
本発明の第2態様によれば、衝撃式工具用のインサートを製造する方法が提供される。該方法は、強化ボルスタ部分のプレフォームと、支持部分用のプレフォームと、PCDキャップ用のプレフォームとを得る作業と、これらのプレフォームを所期の構成に集成し、かつ接触させてプレフォーム集成体を形成する作業と、該プレフォーム集成体を、ダイヤモンドが熱力学的に安定する超高圧および温度条件に曝露する作業とを含んでいる。
【0025】
好ましくは、強化ボルスタ部分のプレフォームを製造する方法は、次の段階を含んでいる。すなわち
・ダイヤモンド粒子を、通常、高融点金属炭化物粒子を含む硬質金属の出発粉体に添加し、出発粉体ブレンドを生成する段階と、
・該出発粉体ブレンドを金型内で圧縮することにより未焼結圧粉体を生成する段階と、
・該未焼結圧粉体を約1,000°C、より好ましくは約1,200°Cを超える温度で、約1GPa以下の圧力を加えて焼結することにより強化ボルスタ部分のプレフォームを作る段階と、である。
【0026】
この方法を使用する場合、意外にも、強化ボルスタ部分のヤング率が、技術上周知の配合から予想されるように、混和したダイヤモンド粒子の絶対含有量に依存するのみでなく、粉体に配合され、したがってボルスタの未焼結体に添加されるダイヤモンド粒子の粒径にも依存することが観察された。特に、ヤング率は、ダイヤモンド粒子の粒径が大きければ、それだけ高い値となる傾向が観察された。例えば、平均粒径約70マイクロメートルの分散ダイヤモンド粒子を7.5重量%含有するダイヤモンド増強炭化物の場合、ヤング率は約660GPaであるのに対して、等しいダイヤモンド含有量で、ダイヤモンドの平均粒径が約2マイクロメートルの類似の物品の場合は、ヤング率は約580GPaだった。
【0027】
本発明の第3態様によれば、本発明の第1態様によるインサートを使用して、岩石、コンクリート、アスファルトを含む群から選択された硬質な材料から成る物体、物品、構成物を掘り崩しまたは破砕する方法が提供され、該方法には、超硬キャップが物体、物品、構成体に衝撃を与える段階が含まれている。
以下で添付図面を参照して複数実施例を説明するが、該実施例は本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】2つの異なる形状の衝撃式工具インサートの略示断面図。本発明のこの実施例は、超硬キャップと、支持部分と、超硬キャップ/支持部分間に配置された強化ボルスタ部分とを含んでいる。最も外側の部分が超硬チップになっているインサート作業部分は、頂点が丸くされた円錐形状を有している。強化ボルスタ部分の一端は、カップの作業面と概して同形の非平面状の界面のところでキャップ下側に接合され、他端は、事実上平面状の界面のところで支持部分に接合されている。基材の円筒形外周面のところで強化ボルスタ部分が露出している。
【図2】2つの異なる形状の衝撃式工具インサートの略示断面図。この実施例は、超硬キャップと、支持部分と、基材体部内に埋收された強化ボルスタ部分とを含んでいる。インサートの作業部分、つまり最も外側の部分は、超硬チップであり、頂点が丸くされた円錐形状を有している。
【図3】衝撃式工具インサートの部分断面図。この実施例は、超硬キャップと、支持部分と、超硬キャップ/支持部分間に配置された強化ボルスタ部分とを含んでいる。最も外側の部分が超硬チップであるインサート作業部分は、頂点が丸くされた円錐形状を有している。強化ボルスタ部分は、一端が、キャップ作業面と概して同形の非平面状の界面のところでキャップ下側に接合され、他端が、事実上平面状の界面のところで支持部分に接合されている。
【図4】強化ボルスタ部分に適した平均ヤング率の値を超硬キャップのヤング率の関数として750‐1,100GPaの範囲で示す線図。通常、石油およびガスのボーリングで使用される品級のPCDのヤング率範囲、つまり約960GPa‐約1,050GPaが示されている。また、PCDインサートの基材として通常使用される品級のCo結合炭化タングステンと、低コバルトの品級とのヤング率範囲が示され、同じく、超硬粒子を増強し内部に分散させた品級の結合炭化物のヤング率範囲も併せて示されている。
【図5】完全に焼結されたPCD製品で測定した、いわゆる4モードの粒径分布を有するPCDの粒径分布を示す線図。この粒径分布は、少なくとも4つの異なる事実上標準的な分布または非標準的な分布に分析でき、ダイヤモンド粒子の80%を超える粒子が約20マイクロメートル以下の粒径を有している。全体の平均ダイヤモンド粒径は1‐15マイクロメートルの範囲内であり、大きなピークは約5‐10マイクロメートルの間である。
【図6(a)】好適強化ボルスタ部分の実施例のプレフォーム・サンプルを示す走査電子顕微鏡写真(SEM)。サンプルは、コバルト結合剤により結合されたWC粒子と部分的に再変換されたダイヤモンド粒子とから成っている。ダイヤモンド粒子は、黒鉛(濃灰色)に囲まれたコア(黒色)を含んでいる。黒鉛は、熱処理過程で生成され、比較的大きい原ダイヤモンド粒子の外側部分が黒鉛化したものである。ダイヤモンド粒子の粒径は、約100‐200マイクロメートルである。顕微鏡写真の白っぽい部分は硬質金属地(すなわち、Co金属結合剤により結合されたWC粒子)である。
【図6(b)】好適強化ボルスタ部分の実施例の一サンプルを示す走査電子顕微鏡写真(SEM)。このサンプルは、図6(a)のプレフォームを、ダイヤモンドが熱力学的に安定する超高圧および温度条件に曝露することによって得られたものである。プレフォームに見られるダイヤモンド粒子のコア(黒色)は依然として明らかだが、コア周囲の黒鉛はダイヤモンド(黒色)に再変換されている。顕微鏡写真の再変換ダイヤモンドの大部分は、コアを取り巻く、より小さな粒子の暈(ハロー)のように見える。ダイヤモンドのコアの平均粒径は、再変換により生じたダイヤモンド粒子の平均粒径より少なくとも1桁大である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
ここで用いている「超硬」材料という用語は、ヴィッカース硬さで約25GPaを超える材料を意味する。該材料には、ダイヤモンド、立方晶系窒化ホウ素、亜酸化ホウ素、炭化ホウ素、多結晶ダイヤモンド(PCD)、立法多結晶窒化ホウ素(PCBN)、炭化ケイ素で結合されたダイヤモンド(ScD)が含まれる。
ここで用いられるPCBNという用語は、立方多結晶窒化ホウ素を意味し、該窒化ホウ素は、通常、金属相および/またはセラミック相を含む結合相内に分散した立方晶窒化ホウ素の粒子を含んでいる。
ここで用いるPCDという用語は、微粒状または粒状の焼結ダイヤモンドを含む材料を意味し、ダイヤモンド粒子間が事実上直接結合している。
ここで用いる「ダイヤモンド増強炭化物」(DEC)という用語は、ダイヤモンドと炭化物相とを含む平均的な圧縮粉の意味と考えられ、通常、ダイヤモンドおよび炭化物相は、接合相内または結合相内に分散している。
【0030】
「衝撃式工具」という用語は、例えば岩石、コンクリート、アスファルト等の物体の掘り崩しまたは破砕に使用される工具または工具インサートを意味すると理解され、該工具またはインサートは、通常、粉砕、採鉱、地盤ボーリング、掘り崩し、掘削等の用途に使用される。衝撃式工具は、通常、出来る限り耐摩耗性かつ耐衝撃性に構成されるが、これらの特性の相対的な重要度は、用途に左右されよう。衝撃式工具には、ピック、カッタ、打撃式ボーリング工具、回転式ボーリング工具が含まれる。
「ピック工具」という用語は、或る程度物体内へ貫入する大型機構によって物体を破砕するか掘り崩すか、または物体を少なくとも割るか削剥するようにされた衝撃式工具を意味すると理解される。ピック工具の作業端部は、通常、尖っているか、またはたがね形である。
【0031】
ここで用いられる「工具インサート」という用語は、作業部分を含む構成要素を意味し、工具または他の担体に何らかの形式で結合、付加、固定するようにされた個別のユニットとして提供される。このことは、例えば収容穴内への挿入等の特定の結合または付加方式を含意または示唆するものではない。
「金属混合物」、またはより簡単に「合金」という用語は、少なくとも1つの金属を含み、かつ金属特性、半金属特性、金属間特性を有する金属を意味すると理解される。セラミック成分を添加することもできる。
「超硬キャップ」の「キャップ」という用語は、周囲条件下で事実上硬質の(すなわち非コンプライアントの、または剛性の)外側層またはチップを含むものであり、該外側層またはチップは、例えば摩耗防止のため、または工具インサートの主要作業部分として機能するように、物体に、通常は工具インサートの一端に、付加または結合される。キャップは、構造および組成が均質である必要はなく、例えば構造の異なる材料層を含んでいてもよい。
【0032】
図1に示す本発明の衝撃式工具インサート10の一好適実施例は、超硬キャップ11を含み、該キャップは、或る体積を有し、界面13のところで基材12に接合されている。基材の特徴は、界面直近の基材区域の平均剛性を高める手段として第1強化ボルスタ部分14を含み、該強化ボルスタ部分の少なくとも一部が、界面の少なくとも一部の直近に配置され、超硬キャップより大きい連続する切れ目のない体積と、超硬キャップの少なくとも80%の平均ヤング率とを有することである。図1に示す実施例の場合、強化ボルスタ部分は、事実上、PCDキャップ直近の第1界面から、基材の第2支持部分15との第2界面まで延びる切れ目のない単一の区域である。支持部分15は、強化ボルスタ部分と共に基材全体を形成しており、該第2界面は、第1界面の事実上反対側にあり、強化ボルスタ部分の外表面は、基材外周面のところで露出している。インサートは作業端を有し、該作業端が、峰または頂点16を有する先細形状またはたがね様の形状を有している。
【0033】
図2に示す衝撃式工具インサート20の一実施例による強化ボルスタ部分24は、基材の支持部分25より高いヤング率を有する材料26を含み、該材料が、基材内に埋收されている。強化ボルスタ部分24の体積は、埋收されている材料の体積と必ずしも合致しない。強化ボルスタ部分の体積は、基材内の最大体積として計算され、該最大体積は、平均ヤング率が超硬キャップのそれの少なくとも60%、好ましくは70%、より好ましくは80%となるように基材内に取り囲まれる。図2には、超硬キャップ材料の種類、品級、したがってヤング率に応じて、強化ボルスタ部分に適当な材料をどのように選択できるかが示されている。
【0034】
きわめて重要な点は、強化ボルスタ部分が高剛性を有することであり、このことは、単に弾性率またはヤング率に依存するのみでなく、強化ボルスタ部分の体積および形状に依存する広範な特性である。本発明の強化ボルスタ部分が従来技術のいわゆる「中間層」と区別される点は、該中間層が、通常、金属地によって互いに結合された炭化物とダイヤモンドとの粒子を含み、超硬キャップとその下に接合された炭化物基材との中間に配置された比較的薄い層である点である。中間層は、超硬キャップと基材との界面に生じる応力、特に、hphT焼結作業後にインサート製品の冷却時に生じる熱応力を低減すると考えられる。公知中間層は比較的高いヤング率を有しはするが、その体積は、通常、使用時に超硬キャップに対し十分な剛性と支持とを与えるには小さすぎる。本発明の強化ボルスタ部分の体積は、超硬キャップの体積の少なくとも2倍、好ましくは3倍、更に好ましくは4倍以上となるはずである。また、平均ヤング率は、超硬キャップのそれの少なくとも80%、好ましくは80%を超える値を有していなければならない。
【0035】
強化ボルスタ部分は、ダイヤモンドとは異なる超硬材料を含むことができるが、ダイヤモンドその他の超硬材料を欠いてもよい。
図3に略示した第1好適実施例では、超硬キャップ31が、全体ではないが、主要な部分としてPCDを含み、このPCDキャップが、出来るだけ高い値の平均ヤング率、すなわち750‐850GPaの平均ヤング率を有している。超硬キャップは、丸くされた先細形状または先端形状と頂点36とを有し、頂点36は、1.3‐4mmの先端曲率半径と、1.8‐2.3mmの厚さ37とを有している。超硬キャップは、一体形成され、非平面状の第1界面33のところで、ダイヤモンドが熱力学的に安定な条件下で基材32に接合される。超硬キャップは、また基材の強化ボルスタ部分34に第1界面のところで接合され、強化ボルスタ部分34は、一部が事実上平面状の第2界面のところで支持部分35に接合される。
【0036】
強化ボルスタ部分は、ダイヤモンドを増強した炭化物(DEC)を含んでいる。多くの種類のDEC材料と、それらを製造する多くの方法が、技術上公知であり、それらに教示されるか、またはそれらを適応させるかして、この実施例の強化ボルスタ部分に使用することができる。これらの先行技術の例には、米国特許第4,505,746号および米国特許第5,453,105号が含まれ、これらの特許は、ダイヤモンド粒子、硬質相金属(例えばWC)、結合相金属(例えばCo)から成る複合材料を作製する方法を教えている。また米国特許第5,453,105号では、DEC内のダイヤモンドは、含有量が50体積%を超え、或る程度まで連晶化されている。hphT焼結が採用されている米国特許第5,786,075号には、ヒートシンク用のDECの合成が開示されている。更に、米国特許第7,033,408号も、同じようにDEC合成にhphT焼結を用いているが、また耐摩耗性が、結合剤に第2金属を加えることにより更に改善されることが示されており、その場合、第2金属は、一次結合金属より強力な炭化物生成物である。
【0037】
米国特許第5,158,148号が教えている手法では、最終粉体混合物の炭素総含有量が炭化物粉体の化学量論的レベルを超えるように、余分の非ダイヤモンド炭素が炭化物粉体に添加される。粉体混合物には、金属結合相の存在下で従来式の炭化物焼結処理が加えられ、その結果生じる焼結製品は、非ダイヤモンド炭素材料の凝集体を含有する。この焼結製品は、引き続き、hphT条件下で第2焼結サイクルに曝露され、その結果、非ダイヤモンド炭素がダイヤモンドに変換される。最終製品は、金属結合剤によって結合された炭化物とダイヤモンド粒子から成り、非ダイヤモンド炭素はほとんど、または全く含まない。また米国特許第6,214,079号は、焼結多孔質炭化物体内への炭素質ガスの化学的溶浸を教えており、この炭化物体が、引き続きhphT焼結サイクルに曝露される。米国特許第5,158,148号の場合のように、非ダイヤモンド炭素は、このサイクル時にダイヤモンドに変換される。
【0038】
ダイヤモンドの安定閾値を下回る圧力および温度条件下でのDEC材料の焼結作業には、非ダイヤモンド炭素への添加ダイヤモンドの変換を防止または最小化する方法が要求される。このダイヤモンド減成処理は、通常、DEC材料内の結合剤として使用される金属の存在によって加速することが知られており、このため、一つの手法は、ダイヤモンド粒子を、ダイヤモンド表面と結合金属との接触を阻止または接触面積を低減するバリヤ層で被覆することである(例えば米国特許第5,723,117号、ヨーロッパ特許第1,028,171号、米国特許第6,673,439号)。別の手法は、圧粉体内のダイヤモンドを比較的短時間高温で維持すればよい焼結方法を使用することで、変換を最小化することである。この方法は、例えば、放電プラズマ焼結法(SPS)が、周知の例(例えばヨーロッパ特許第1,028,171号および米国特許第5,889,219号)であるいわゆる電界付与焼結法(FAST)や、マイクロ波焼結法(例えば米国特許第6,315,066号)を使用することで達成できる。
【0039】
第1好適実施例の一変化形では、強化ボルスタ部分が、一般的に「超炭化物」と呼ばれるものを含み、該超炭化物は、結晶状または多結晶状の超硬粒子または超硬微粒子、炭化タングステン粒子、コバルト等の金属結合剤を含む。炭化タングステン粒子は、予め焼結するか、またはPCDキャップを焼結するのと同じ段階に現場で焼結してもよい。超硬顆粒は、ダイヤモンドを含むのは好ましいが、cBNまたはPSBNを含むのはあまり好ましくない。超炭化物のバリアントおよびその製造方法は、米国特許第5,453,105号、第6,919,040号、第7,033,408号に開示されており、同じくそれらに挙げられている参考文献の幾つかにも開示されている。
【0040】
超炭化物は、ダイヤモンドが熱力学的に安定な超高圧および温度条件にプレフォームを曝露する段階を含む処理によって製造される。超炭化物は、通常、超硬材料の含有量がPCDまたはPCBNの含有量よりかなり低く、通常、約10‐18重量%以下であり、したがって超硬相は、PCDにおけるより連晶度は遥かに低い。ダイヤモンド相を有する超炭化物は、したがって、PCDとは構造的に区別され、PCDより硬度および耐摩耗性が有意に低い。図4に示すように、超炭化物は、800GPaを超えるか、または850GPaをも超えるヤング率を有することができる。
【0041】
第2好適実施例では、強化ボルスタ部分が、結合炭化物、好ましくはコバルトによる結合炭化タングステンを含み、その場合、金属結合剤の含有量は、低い値であり、好ましくは8重量%、より好ましくは6重量%であり、結合剤には、超硬粒子は事実上含めないでよい。このことは、第1好適実施例の有利な特徴と組み合わせて利用するのが好ましい。
【0042】
本発明による製品を製造する方法の一実施例の場合、超硬キャップは、PCDまたはPCBNの製造技術により、公知の超高圧および温度(hphT)条件下で強化ボルスタ部分および支持部分と一体形成される。これにより、3部分を含む衝撃式工具インサートのプレフォームが得られる。第1部分は基材の支持部分であり、第2部分は強化ボルスタ部分のプレフォームであり、第3部分はPCDキャップのプレフォームである。基材の支持部分と強化ボルスタ部分とは、別個の製品または一体製品として、従来式の炭化物焼結装置によって予備焼結されるのが好ましい。
【0043】
別個の製品として予備焼結される場合には、hphT焼結段階で互いに接合でき、その段階で、PCDキャップがダイヤモンド粒子の焼結により形成される。PCDプレフォーム内のダイヤモンド粒子の平均粒径は、通常、0.5‐60マイクロメートルである。一実施例では、平均粒径は0.5‐20マイクロメートルである。PCDプレフォームとの界面に最も近い基材部分は、コバルトまたは他の鉄族金属を含むが、該金属は、hphT条件下での溶融時、PCDプレフォームに溶浸でき、かつダイヤモンド粒子の直接結合を触媒し、PCD凝集結合塊を形成する。包み込まれたプレフォームは、通常、熱処理されて、結合剤および不純物が焼尽され、hphT焼結装置および焼結工程で使用するのに適したカプセル集成体内へ導入される。
【0044】
本発明の衝撃式工具インサートは、舗装掘り崩しドラム、石油およびガス工業で使用される衝撃式ボーリング・ビット、せん断式回転ボーリング・ビット、切断工具、のこ工具、切削工具等に使用できる。工具の幾何形状は、これらの用途で使用される従来の超硬インサートの幾何形状と事実上等しく、従来の超硬インサートと事実上異なる形式で工具ホールダにインサートを取り付ける必要は、ほとんど無いだろうが、或る場合には、性能を最適化するために、或る程度取り付け処理を変えて適応させることもできる。
【0045】
例1
図4に示した設計により7個組のピック工具インサートを作製した。超硬キャップ31は、PCDであり、基板32の強化ボルスタ部分34に直接接合され、一体形成された。強化ボルスタ部分は、ダイヤモンド増強炭化物と基材32の支持部分35とを含み、コバルト結合炭化タングステンである。
PCDキャップは、1‐20マイクロメートルの平均粒径分布を有する焼結ダイヤモンド粒子を含んでいる。この種の品級のPCDとこれを製造する方法とは、米国特許出願第10/503,323号と第11/712,067号とに開示され、この技術分野で周知の技術および方法として使用できる。PCDのヤング率は1030‐1055GPaの範囲内だった。PCDキャップの厚さ37は、頂点または先端36のところで約2.2mm、丸くされた頂点の曲率半径は約2.0mmだった。
【0046】
強化ボルスタ部分は、9重量%のダイヤモンド粒子、5.4重量%のコバルト結合剤、85.6重量%のWC粒子から成り、WC粒子は、1‐3マイクロメートルの平均粒径を有していた。ダイヤモンド粒子は、強化ボルスタ部分全体にわたって事実上均等に分散しており、約200‐250マイクロメートルの平均粒径を有していた。強化ボルスタ部分のヤング率は、約700±20GPaと見積もったが、この範囲は、PCDキャップのヤング率の約64%‐70%に相当する。強化ボルスタ部分は、基材内で切れ目のない区域であり、非平面状の界面のところでPCDキャップに接合され、基材の円筒形外周面のところでは露出している。強化ボルスタ部分の体積は、PCDキャップのほぼ3倍から5倍であり、これにより、キャップに対する剛性の強化支持体として機能した。強化ボルスタ部分は、事実上平面状の界面のところで基材の支持部分に接合された。
【0047】
この例のインサートは、PCDキャップ、強化ボルスタ部分、支持部分の各プレフォームを、ダイヤモンドが熱力学的に安定なhphT条件下で処理することによって製造された。3つのプレフォームを3つの構成要素として別個に作製し、該構成要素を集成し、高融点金属製の被包スリーブ内に被包した後、hphT段階を実施した。PCDプレフォームは、非平面状界面のところで強化ボルスタ部分のプレフォームと接触するように配置し、強化ボルスタ部分は、事実上平面状の界面のところで支持部分と接触配置した。プレフォーム集成体は、図3に略示した焼結体の全体形状に対応する。
【0048】
強化ボルスタ部分のプレフォームは、i)粉体を調製する段階、ii)未焼結圧粉体を形成する段階、iii)未焼結圧粉体を従来式の硬質金属焼結法によって焼結する段階を含む処理によって製造した。出発粉体の調製には、平均粒径約200‐250マイクロメートルのダイヤモンド粒子を、約1‐3マイクロメートルの平均粒径分布のWC粒子と、焼結炭化物材料を作製する粉末冶金工業分野で、通常、使用される種類および品級のコバルト粉末と混合する作業が含まれる。ダイヤモンド、WC、Co粉体の割合は、各々約9重量%、85.6重量%、5.4重量%だった。
【0049】
粉体は、多方向ミキサ(登録商標(RTM)「タービュラ」)により乾式混合し、有機加圧補助剤を混合物に添加した。未焼結粉体を、次に、図3に略示した形態に、周囲温度(室温)で単一軸方向に圧縮成形した。この未焼結圧粉体を炉内へ配置し、従来式の硬質金属焼結工程を加えた。この工程では、真空内で約2時間、1400°Cを超える温度で加熱した。この焼結された圧粉体を炉から取り出した(冷却後)。この焼結された圧粉体の検査の結果、ダイヤモンド粒子の外側部分は黒鉛炭素に転換したが、内部またはコア部分はダイヤモンドのままであることが分かった。焼結された圧粉体は、ボルスタのプレフォームとして使用した。
【0050】
基材の支持部分は、90重量%のWC粒子と10重量%のCo結合剤とを含むコバルト結合炭化タングステンであり、WC粒子の平均粒径は1‐3マイクロメートルである。支持部分は、硬質金属技術分野や、石油およびガス工業での地盤ボーリング・インサート等のPCDインサート用基材作製技術分野で周知の従来式方法を使用して製作した。
PCDキャップのプレフォームは、有機結合剤により相互結合されたダイヤモンド粒子から成っている。種々のPCDプレフォームおよびそれらを得る方法は、当該技術分野で公知であり、当業者は、本発明を実施するにあたって、それらの技術を使用し、適応させる仕方を承知していよう。
【0051】
PCDプレフォームを含む複合プレフォームは、非平面状の突面のところで強化ボルスタ部分と接触配置され、強化ボルスタ部分は支持部分とも接触配置された。こうして集成し組み立てたプレフォームを、約5.5GPaを超える圧力と、約1400°Cの温度とに約10分間曝露した。これらの条件は、ダイヤモンドが熱力学的に安定する条件であり、その結果、プレフォーム成分中のコバルトが溶融し、PCDが焼結され、PCDと強化ボルスタ部分とが一体接合された。同時に、強化ボルスタ部分は、支持部分とも一体接合され、焼結された。
【0052】
hphT焼結段階のさい、強化ボルスタ部分のプレフォーム内のダイヤモンド・コアはダイヤモンドに再変換されたが、粉末に添加されたダイヤモンドの形状とは異なるものになった。再変換されたダイヤモンドは、粒子状になり、粒径は、コアの粒径より事実上小さく、コア周囲に概して等方性に分散し、かつ一種の同心的な球形の暈を形成した。ダイヤモンドへの黒鉛の再変換の結果、強化ボルスタ部分の体積は約30%減少した。この減少を考慮に入れるのが重要になるのは、強化ボルスタ部分のプレフォームを作製する場合であり、そうすることにより、最終製品での強化ボルスタ部分の目標形状および目標粒径が達成できる。この体積減少の程度は計算により見積もることができたが、一連の経験的な「試行錯誤」段階により、より精密な予測が可能であることが分かった。なぜなら、従来式の焼結段階では、ダイヤモンド粒子量のどの位の量が黒鉛に変換されるか正確に予測するのは容易ではないからである。
【0053】
hphT焼結段階の後、外被で包まれたインサートをカプセルから取り出し、強酸性溶液に浸漬することで外被を除去し、インサートを、当該技術分野で周知のように、最終的に仕上げ、かつ公差が得られるように処理した。
現場試験で最初に得られた指示は、この例により製作されたインサートは、アスファルトの堀り崩しの場合、先行技術PCDインサートよりも有意に高い衝撃耐性および有効使用寿命を有するということだった。
【0054】
例2
例1の処置を反復した。ただし、強化ボルスタ部分の粉体に添加されたダイヤモンド粒子の平均粒径が約10‐50マイクロメートルだった点を除く。
炉から(冷却後)取り出した後に行った強化ボルスタ部分の、焼結された圧粉体試験では、事実上すべてのダイヤモンド粒子が黒鉛に変換されたことが明らかになった。この焼結された圧粉体は強化ボルスタ部分のプレフォームとして使用した。
【0055】
例3
この例では、せん断カッタ型のPCDキャップ付きインサートを基材上に焼結した。その場合、基材全体が、必要なヤング率および剛性を有するボルスタとして機能するようにした。これらのPCDインサートの作業表面は、事実上平面状だった。ダイヤモンド増強基材は、例1で説明した方法を使用して作製し、ダイヤモンド増強の強化ボルスタ部分を作製した。ダイヤモンド粒子は出発粉末に添加した。ダイヤモンド、WC、Co粉体の割合は、それぞれ約7.1重量%、86.4重量%、6.5重量%だった。ダイヤモンド粒子の平均粒径は、マルヴァーン・マスタサイザ(Malvern Mastersizer)(RTM)で測定して約60‐80マイクロメートルだった。使用したダイヤモンド粉体は、エレメント・シックス・プロダクトPDA878240/270だった。
【0056】
基材は次の段階を含む工程によって作製した。すなわち
1.ダイヤモンド粉体62gと、Co粉体56gと、〜2重量%のPEGを加えた13重量%に当たるCo‐WC粉体750gとを、約500ml容量の容器内へ投入する、
2.スラリを生成するのに十分なメタノールを添加する、
3.スラリを混合する、
4.スラリを乾燥させ、乳鉢と乳棒で砕いて軟質の凝集物にする、
5.乾燥粉体をダイに入れ圧縮し、未焼結圧粉体を成形する、
6.この未焼結圧粉体を従来式の炭化物焼結装置により圧力および温度を加えて焼結する。焼結後、基材は、黒鉛のために鈍い灰色に見える(この段階により、ダイヤモンド含有サンプルのダイヤモンドの幾らかが完全に黒鉛に変換される)、
7.事実上円筒形状の基材を等しい外径および高さに研削する。
【0057】
増強基材プレフォームは、続くPCDインサート製作時に、従来のCo結合炭化物基材に代用した。PCD層は、各増強基材上に、従来のhphT手法を用いて一体焼結された。この技術分野で周知のように、この加工では、ダイヤモンド粒子を含むダイヤモンドPCDプレフォームを基材の一端に配置することで複合プレフォームが形成される。これらのプレフォームを集成して、hphT焼結に使用される従来のPCDインサート・カプセルに入れ、そのカプセルを標準的な方法で脱ガスし、そのさい空気がカプセルから排出され、次いで密封された。カプセルには、削岩用のPCDカッタ・インサートの製造に使用される標準hphT焼結サイクルを実施した(すなわち、約5Gpaを超える圧力と、約1400°Cを超える温度に曝露した)。hphTサイクルの間、基材内の非ダイヤモンド炭素の事実上すべてが、例1の場合のように、ダイヤモンドに変換された。
【0058】
例4
図3に示すような幾何形状を有するDECボルスタ部分を備えた成形カッタを構成した。有機加工補助剤と共に微粒子を圧縮してダイヤモンド・テーブル(PCD)を作製し、該補助剤は焼結前に焼尽した。このダイヤモンド・テーブル層の厚さと形状は、適宜の形状の成形型で圧縮成形した。
ダイヤモンド圧粉体はダイヤモンド混合物から成り、その場合、ダイヤモンド粒子の粒径分布は、ピークが約10μm‐45μmの広範囲の多モードだった。全体の粒径範囲は、〜2μm‐50μmだった。
ダイヤモンド圧粉体は、添加物としてCoを含有するが、主として基材および強化ボルスタ部分からのCoにより溶浸され、焼結が達せられた。強化ボルスタ部分は、1‐6μmのWC粒子と〜2μmのダイヤモンド粒子との混合物と、コバルトとから成っている。
WC:ダイヤモンドの体積比は、1:1‐3:1の間で変動した。ヤング率が比較的高い場合は、1:1の体積比が予想される。
【0059】
ダイヤモンドと強化ボルスタ部分との圧粉体は、集成の最終段階で一緒に圧縮され、確実に2層間の完全接合が達せられた。このことにより、また有機加工補助剤の除去前に良好な高密度化が確実に行われた。
平面状界面の基材は、強化ボルスタ部分の底部に配置した。この予備焼結WC/Co複合材料は、高圧焼結作業時の堅固なベースとして機能し、また強化ボルスタ部分およびダイヤモンド・テーブル両方の溶浸および適正な焼結のための追加Coを供給した。
【0060】
圧縮超硬材料、製造方法、それらの種々の用途についての以上の説明には、多くの具体例が含まれているが、それらは、本発明の範囲を制限するものと考えるべきではなく、幾つかの実施例を説明するためのものにすぎない。同様に、本発明の精神または範囲を逸脱することなく、他の実施例を構成することも可能である。本発明の範囲は、したがって、特許請求の範囲およびその法的相当事項によってのみ指示されかつ制限されるものであり、以上の説明によって制限されるものではない。ここに開示したような、請求の意味および範囲を含む本発明に対するすべての追加、削除、変更も、本発明に含まれるものである。
【図1(a)】

【図1(b)】

【図2(a)】

【図2(b)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝撃式工具用インサートであって、該インサートが超硬キャップを含み、該超硬キャップが、或る体積を有し、かつ界面のところで基材に接合され、更に900GPaを超える平均ヤング率を有する形式のものにおいて、
前記基材が、界面直近の基材区域の剛性を高める手段として強化ボルスタ部分を含み、該強化ボルスタ部分が、超硬キャップの総計体積より大きい総計体積と、超硬キャップの平均ヤング率の少なくとも60%の平均ヤング率とを有することを特徴とする、衝撃式工具用インサート。
【請求項2】
前記強化ボルスタ部分が界面直近に配置されている、請求項1記載のインサート。
【請求項3】
前記強化ボルスタ部分が、超硬キャップの総計体積の少なくとも3倍の総計体積を有し、かつ超硬キャップの平均ヤング率の少なくとも70%の平均ヤング率を有している、請求項1記載のインサート。
【請求項4】
前記強化ボルスタ部分が超硬材料を含む、請求項1から請求項3までのいずれか1項記載のインサート。
【請求項5】
前記強化ボルスタ部分が、例えばCo等の結合金属内に分散した超硬材料粒子を含み、該超硬材料粒子の平均粒径が50マイクロメートルを超える値である、請求項1から請求項3までのいずれか1項記載のインサート。
【請求項6】
前記超硬材料がダイヤモンドを含む、請求項4または請求項5記載のインサート。
【請求項7】
前記超硬キャップが第1界面のところで強化ボルスタ部分に接合され、該強化ボルスタ部分が第2界面のところで支持部分に接合されており、該支持部分が硬質金属を含む、請求項1から請求項3までのいずれか1項記載のインサート。
【請求項8】
前記超硬キャップが、丸くされた先細または尖端の形状と頂点とを有し、該頂点が1.4‐4mmの曲率半径を有する、請求項1から請求項7までのいずれか1項記載のインサート。
【請求項9】
前記超硬キャップが、丸くされた先細または尖端の形状と頂点とを有し、頂点での超硬キャップの厚さが1.4‐2.4mmである、請求項1から請求項7までのいずれか1項記載のインサート。
【請求項10】
超硬キャップの平均ヤング率が960GPaを超える値である、請求項1から請求項9までのいずれか1項記載のインサート。
【請求項11】
強化ボルスタ部分の平均ヤング率が650‐900GPaである、請求項1から請求項10までのいずれか1項記載のインサート。
【請求項12】
超硬キャップの平均ヤング率が960GPaを超える値であり、強化ボルスタ部分の平均ヤング率が650‐900GPaである、請求項1から請求項9までのいずれか1項記載のインサート。
【請求項13】
前記超硬キャップがPCDを含み、前記強化ボルスタ部分が金属炭化物粒子と粒状または部粒状ダイヤモンドとを含み、該金属が、W,Ti,Ta,Nb,Mo,Cr,Hf,Zr,Siの中から選択され、更に、遷移金属を含む結合剤を含んでおり、前記超硬キャップが強化ボルスタ部分に直接に接合されている、請求項1から請求項12までのいずれか1項記載のインサート。
【請求項14】
請求項1から請求項13までのいずれか1項記載のインサートを製造する方法において、
前記方法が、強化ボルスタ部分のプレフォームと、支持部分のプレフォームと、PCDキャップのプレフォームとを得る作業と、
これらのプレフォームを目標形状に集成し接触させ、プレフォーム集成体を形成する作業と、
該プレフォーム集成体を超高圧および温度条件に、それもダイヤモンドが熱力学的に安定な条件に曝露する作業とを含む、インサートを製造する方法。
【請求項15】
岩石、コンクリート、アスファルトを含む群から選択された硬質材料を含む物体、物品、構成体の掘り崩しまたは破砕用の、請求項1から請求項13までのいずれか1項記載のインサートを使用する方法において、
前記方法が、前記物体、物品、構成体に超硬キャップが衝撃を与える段階を含む、インサートを使用する方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【公表番号】特表2012−506508(P2012−506508A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532759(P2011−532759)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【国際出願番号】PCT/IB2009/054649
【国際公開番号】WO2010/046863
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(507142155)エレメント シックス (プロダクション)(プロプライエタリィ) リミテッド (44)
【出願人】(301008534)ベイカー ヒューズ インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】