説明

衣服内の流速を計測する衣服内環境測定システム

【課題】衣服内環境は従来行われている温度と湿度の計測に加えて新たに気体の流速の測定という要求が各大学の研究室、化繊メーカーの研究開発部門、官公庁の研究室等から出されている。現在一般の気象計測において使用されている風速計は風杯(または羽根車)が回転することにより風速(流速)を計測するために屋外、または微風用でも室内で使われるように設計されているため、衣服内の測定には向かない。
【解決手段】
「マイクロフロー▲R▼センサ」が市場から比較的容易に入手できる。このセンサ気体の流れる方向を持っているため、気象計測のように絶えず流れの方向が変わるような用途には使いにくいが、衣服内のように限定された条件ならば使用できる。スレショルドは1mm/sと非常に遅い流速まで検出可能で、衣服内環境の計測という目的にあっている。
本案はそのデータを無線LANにより送信する技術と組み合わせて解決するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は衣服内の気体の流速を計測して無線LANにより伝送するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
衣服内環境測定のための代表的な測定項目に温度と湿度が挙げられ、実際には温度と湿度二種類のセンサを被測定体である人体に取り付け、被測定体が測定中にある程度自由に動くことができるようにするために次のような計測手段がとられている。
1)各サンサと信号変換装置を長いケーブル(通常5m、最長15m)で接続し、常時計測信号を出力するリアルタイム計測、または
2)温度と湿度の計測信号をデジタル化し、ある一定期間信号変換器内にストレージした後、一括して外部に出力する非リアルタイム方式がとられている。後者の非リアルタイム方式による測定は長いケーブルで接続するリアルタイム方式に対し被測定体の自由度は大きい。
特開2007−73020には上記両方式を統合して、被測定体が自由に行動することができ、かつ計測データを常時監視することのできる、無線LANによる伝送システムが開示されている。
【特許文献1】特開2007−73020
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
衣服内環境の計測において、温度、湿度に加えてもう一つの測定項目として衣服内の気体の流速がある。これらは特に機密性の高い衣服、即ち消防服、寒冷地、大型冷凍室、溶鉱炉または送配電線の高所作業等の劣悪な環境に対応した着衣またはスポーツウエアー全般の衣服内における空気の流れる方向と速さを的確に測定するという要求に応えるためである。しかし、衣服内の気体流速を可動部分のない流速センサを用いて測定するシステムは提案されていない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明は、衣服内の気体流速を計測するために可動部分のない気体流速センサを備え、計測された気体流速を無線LANで伝達することを特徴とする衣服内環境測定システムである。
【発明の効果】
【0005】
無線LAN技術によりデータを送受信する方法は、前記したリアル方式及び非リアル方式の二つの方式を一つに集約して長いケーブルを介在させる必要がなく、被測定体は自由に運動ができるにも関わらず、計測中に刻々と変化する生のデータを見ながらそれらを収集できる。また、羽根車のような可動部分を持たないセンサを使用するので、衣服内に収納することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
衣服内環境の流速は、最低二ヵ所に気体の流速センサを取り付けて測定を行う。この発明のシステムにおいては、衣服内環境としての気体の流速に加えて、温度及び湿度を、それぞれのセンサを用いて計測することができる。
【0007】
流速センサを人体に取り付けるためにはおのずと寸法的な制約があり、具体的な寸法として大略次のようなものが求められる。即ち、巾10mmx長さ20〜30mmx厚さ5mm以下であり、可動部分等があってはならない。可動部分とは現在一般的に気体の流速測定に用いられている羽根車式のものを指す。
【0008】
「寸法的条件」と「可動部分が無い」という条件の、二つの条件を満足させる流速センサとして株式会社山武が流量プロセス制御用センサとして開発した「マイクロフロー▲R▼センサ」を好適に使用することができる。このセンサは、薄膜製造プロセス、パターンニング、異方性エッチング等の基礎技術によりチップ化され、センサチップは1.7mm角シリコンチップ上に約1μmの厚さのダイアフラムを形成しその中央にヒータを、左右に温度センサを配置して、気体の流速を計測する。
【0009】
センサチップは1.7mm角のシリコンチップであるが、実際にはセンサを駆動する回路基板がセンサと一体化されており全体の大きさは巾8mmx長さ30mmx厚さ4.5mmとなる。図1はこのマイクロフローセンサの外観を、図2は図1のA−A線断面図を、図3は本センサの心臓部であるダイアフラムに上印刷された一対のセンサと中央部のヒータの配置を、図4は計測原理を示している。
【0010】
図5はMCS100A108マイクロフローセンサの出力特性を示す。この出力特性のままでは計測装置として使用できないので直線化補正(風洞での校正を含む)、ゼロ点補正ならびにゲイン補正が必要である。
【0011】
図6は流速センサ部1を示す。このマイクロフローセンサは一定方向の気体の流路を持っているため一旦センサを身体に取り付けた後に最適な気体の流路を探せるようセンサ部を90度旋回させる機構を持たせた。5は気体の流路を示し、この流路は反対側まで貫通している。2はアッパパーツでセンサと回路基板および気体の流路5と一体化しており、2のアッパパーツは手で容易に回転することができるので、気体の流路も90度の範囲で向きを変えることができる。3は流路センサ部1のロアパーツ、4は回路基板のための電源並びに信号用ケーブルである。
【0012】
この計測システムの回路の構成を図7に示す。6は移動局、7は固定局である。
【0013】
移動局6(計測される人体に取り付けられる)には通常二個の流速センサ1−1及び1−2が設けられる。流速センサと回路基板により構成される1−1及び1−2で検出された衣服内の空気の流速はアナログ信号で出力される。この信号は直結するデジタル変換アンプ8によりデジタル信号に変換される。尚、この段階でアナログ信号は図5に示すように曲線で出力するので、デジタル変換アンプ8内でデジタル処理され直線化された後出力される。
【0014】
デジタル信号化した衣服内の空気の流速は、記録器(中央演算処理ユニット)9に入力される。記録器9は入力した信号を制御・演算し、インターフェイス10を経た後に移動局6のLAN送受信器11へ送られる。LAN送受信器11は固定局7からf−2で予め送られた、タイマの設定、測定の開始・終了・測定間隔の指令によって測定結果を無線LANのf−1により固定局7に送出する。尚、送出される計測データと同じ内容のデータが予備情報として可動局6の記録器9に記録される。12は移動局6全体の電源で乾電池を使用する。
【0015】
被測定体に取り付けられた移動局6から離れ、机上等に設置される固定局7の構成は以下の通りである。
固定局7は次のような基本機能を有する。
1)移動局6に対し装置内のタイマの設定、計測開始、終了、測定間隔の指定をする。
2)測定中の生データ送り出しの開始と停止の指令をする。
3)データの一括転送機能を有する。
【0016】
固定局7の無線LAN送受信器12に対し、移動局6の無線LAN送受信器11から空気の流速データf−1が送信される。次に、これらのデータは固定局7の無線LAN送受信器12に接続された汎用パソコン13によりリアルタイムに計測の実数値として数値表示され、また時間の経過に伴う波形として記録される。
【0017】
上記3)のデータの一括転送機能とは次のような機能を指す。これは無線LANに異常があっても記録器9の記録結果を回収できる機能で、汎用パソコン13をf−1を介さず有線で移動局6と直結しg−1により記録内容をそのまま回収しバイナリ形式のファイルを作り、それを基に汎用パソコン13内でテキスト形式のファイルを作ることができる。
【0018】
移動局の無線LAN送受信器11と固定局の無線LAN送受信器12の通信距離は半径約100mである。無線LANは電波法により規制を受けるが、無線LANの製造者が種々の規制に基づき製品を製造するものであり、規制の範囲以内であれば製品の使用者はこの制約を受けるものではない。15は電源で商用電源(AC100V等)または電池による直流電源を用いる。
【0019】
図9はこの発明のシステムの応用例を示す。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】マクロフローセンサの外観
【図2】図1のA−A線断面図
【図3】本センサの心臓部であるダイアフラムに上印刷された一対のセンサと中央部のヒータの配置
【図4】計測原理
【図5】MCS100A108マイクロフローセンサの出力特性
【図6】流速センサ部1
【図7】計測システムの回路の構成
【図8】この発明の応用例
【符号の説明】
【0021】
1 流速センサ
1−1 流速センサ部
1−2 流速センサ部
2 流速センサのアッパパーツ
3 流速センサのロアパーツ
4 信号・電源ケーブル
5 気体(空気)の流路
6 移動局(身体に取り付けて計測データを送信する)
7 固定局(移動局より送信され計測データを離れた机上等で受信する)
8 アナログ信号をデジタル信号に変換する
9 デジタル信号に変換された気体の流速を制御・演算処理する
10 記録器9と無線LAN11のインターフェイス
11 無線LAN送受信器(移動局側)
12 無線LAN送受信器(固定局側)
13 汎用パソコン(計測データの実数値表示、時間経過に伴う波形表示、有線でg−1により移動局6の記録器9より直結で記録内容を回収し、バイナリ形式のファイルを作成し、テキスト形式のファイルとする)
14 移動局6の電源(通常乾電池を使用)
15 固定局7及び汎用パソコンの電源(通常商用電源AC100Vを使用)
f−1 移動局6の無線LAN送受信器11より固定局7の無線LAN送受信器12へ送信される計測データ
f−2 固定局7から移動局6の記録器9に対し送られるタイマの設定・測定開始・終了・測定間隔等の条件設定用信号
g−1 移動局6の記録器9と直結して計測データを汎用パソコン13に直接呼び出す
g−2 g−1の操作を行うため移動局6の記録器9に対し汎用パソコン13からの指令

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣服内の気体流速を計測するために可動部分のない気体流速センサを備え、計測された気体流速を無線LANで伝達することを特徴とする衣服内環境測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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