説明

表層緻密化モルタルまたはコンクリートおよびその製造法

【課題】Ca溶出、塩害、スケーリングおよび凍結融解に対する抵抗性を高めた耐久性セメント系材料を提供する。
【解決手段】セメント100質量部に対しγビーライト8〜70質量部を含む混練物の硬化体であって、表層部に緻密化層を有し、その緻密化層の空隙率K1と緻密化層を除く内部の空隙率K2の比K1/K2が0.8以下である表層緻密化モルタルまたはコンクリート。あるいは、γビーライト、αワラストナイトおよびカルシウムマグネシウムシリケートの1種または2種以上を含有させたセメント混練物の硬化体であって、硬化後に表層部を炭酸化した表層緻密化モルタルまたはコンクリート。緻密化層の厚さは例えば0.5〜10mmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表層部を緻密化したモルタルまたはコンクリートおよびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モルタルやコンクリート(以下これらを「セメント系材料」という)の耐久性がクローズアップされている。例えば、放射性廃棄物処分場におけるセメント系材料は、溶脱(セメント系材料を構成する成分が地下水に溶けてやせ細っていく現象)に対する耐久性確保が重要項目となっており、数万年あるいは数百万年という超長期において「溶けにくい」、「物質移動をさせない」といった性能の維持が要求される。また、一般的建造物においても、コンクリート中への塩化物イオンの浸透によってもたらされる鉄筋の腐食現象(いわゆる塩害)や、塩化物系融雪剤の散布によるコンクリート表面の剥離現象(いわゆるスケーリング)が問題視されている。特に融雪剤を用いる寒冷地では凍結融解によるコンクリートの劣化も顕在化している。
【0003】
従来、耐久性を向上させたコンクリート製品として、AQフォームやダクタルなどがある。AQフォームは高性能AE減水剤によって低水セメント比(例えば24%)とすることで優れた耐久性を付与し、さらに収縮低減剤としてファイバーを添加することなどにより力学的に優れた機械的強度を付与したものである。ダクタルは水セメント比を20%以下に低減したうえ、セメント粒子の他にシリカフューム(1つの粒子がタバコの煙粒子より小さい粉体で、比表面積200万cm2/g程度。ちなみに一般のセメント粒子は比表面積3500cm2/g程度)などの微細粉体を添加し、その粒度分布を勘案して最密充填化を図り高強度を追求したものである(特許文献1参照)。
【0004】
一方、特許文献2には、γビーライト(γ−2CaO・SiO2であり、γ−C2Sと表記されることもある)、αワラストナイト(α−CaO・SiO2であり、α−CSと表記されることもある)、カルシウムマグネシウムシリケートといった、非水硬性化合物を含有する製鋼スラグに着目し、これをセメント混和材料として有効利用する技術が開示されている。
【0005】
特許文献3には、ビーライト(2CaO・SiO2化合物)の含有量が高いセメントは、初期材齢における強度、若材齢時から曝露された場合の耐久性(中性化や凍結溶融抵抗性)、塩化物イオン浸透抵抗性などが一般のセメントより劣ることが教示され、その解決法として高ビーライトセメントの一部をフライアッシュと置換してコンクリートを得る技術が開示されている。
【0006】
特許文献4〜6には、ビーライトを混和材料等として添加したセメント硬化体において、その表面を強制的に炭酸化させることにより強度を向上させる技術が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平11−246255号公報
【特許文献2】国際公開第03/016234号パンフレット
【特許文献3】特開2002−145654号公報
【特許文献4】特開平10−194798号公報
【特許文献5】特開平10−194799号公報
【特許文献6】特開2003−212617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のAQフォームやダクタルは、機械的な強度に優れ、短期的に見ると高い耐久性を呈するセメント系材料である。しかし、低水セメント比にすることで未水和セメントが増加するため、長期的に見ると必ずしも耐久性の向上には繋がらない。未水和セメントは一般に、水和によって生成されたセメント組成よりCa分が溶出し易く、地下水に長期間曝されることにより溶脱が進行する懸念がある。したがって、このようなセメント系材料を放射性廃棄物処分場の構造材に使用するには無理がある。
【0009】
セメントに大量のシリカフュームを添加することで、セメントの水和によって生じるCa(OH)2とシリカフュームとを反応させて積極的にCSH水和物を生成させ、水和物を溶けにくい組成に変化させる技術も開発されている。すなわち、化学的に溶けやすいCa(OH)2を溶けにくいCSH水和物に変えようというものである。しかし、Ca(OH)2を完全に消費するためにはシリカフュームをセメントに対して20%程度も添加する必要があり、そのような高置換率にすると粘性が増大し、施工性が極めて低下する。
【0010】
また、塩害を抑制するには、セメント系材料の水セメント比を小さくする方法や高炉セメントを利用する方法が挙げられるが、前者は前述のように未水和セメントの増大を招き長期耐久性の点では問題があり、後者も十分な対策にはなっていない。スケーリングや凍結融解の抑制方法としては、セメント系材料の空気量を4.5%以上確保することが有効であるとされるが、コンクリート製品では振動締め固め時に空気量がロスしてしまったり、製品表面にアバタやクレータが発生したりする問題があり、抜本的な対策にはなっていない。なお、アバタやクレータの発生を抑制するには膨張剤や収縮低減剤の使用が有効と考えられるが、コスト増になるため限られた製品にしか適用できないのが現状である。
【0011】
一方、セメント系材料の高強度化にはビーライトの含有と炭酸化が有効であることが知られており(特許文献3〜6)、この高強度化はセメント系材料の耐久性を向上させるものである。しかし、長期間地下水に曝された場合の溶脱現象の防止を図り、超長期にわたってセメント系材料構造体を健全な状態で維持する手法については、未だ確立されていない。また、塩害、スケーリング、凍結融解などに対する耐久性付与手段についても明らかにされていない。
【0012】
特許文献6にはγビーライト(γ−C2S)を含有したセメント系材料を炭酸化すると、優れた強度を有する炭酸化硬化体が得られることが教示されている。しかしながら、この炭酸化硬化体は材料全体を炭酸化することにより顕著な強度発現性を期待したものである。したがって、鉄筋の腐食問題の観点から特許文献6の技術をそのまま鉄筋コンクリートに適用することはできない。
【0013】
本発明は、このような現状に鑑み、溶脱が防止できる性能を有する長期耐久性・信頼性に優れたセメント系材料、あるいはまた塩化物遮蔽効果の高いセメント系材料を開発し提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明で提供する耐溶脱性に優れた耐久性セメント系材料は、セメント100質量部に対しγビーライト8〜70質量部を含む混練物のセメント硬化体であって、表層部に緻密化層を有し、その緻密化層の空隙率K1と緻密化層を除く内部の空隙率K2の比K1/K2が0.8以下である表層緻密化モルタルまたはコンクリートである。ここで「緻密化」とは、セメント硬化体の組織構造において、空隙が元の状態よりも埋まった状態になることをいう。緻密化層の厚さは0.5〜10mmとすることができ、鉄筋コンクリートの場合は「0.5mm以上鉄筋のかぶり厚以下」のものが採用される。なお、空隙率は水銀圧入法により求めることができる。
【0015】
また、塩害、スケーリング、凍結融解に対する抵抗性を高めた耐久性セメント系材料として、γビーライト、αワラストナイトおよびカルシウムマグネシウムシリケートの1種または2種以上を含有させたセメント混練物の硬化体であって、硬化後に表層部を炭酸化した表層緻密化モルタルまたはコンクリートが提供される。このセメント系材料は、γビーライト、αワラストナイトおよびカルシウムマグネシウムシリケートの1種または2種以上を例えば混和材料または骨材として含有させたセメント混練物を型枠に充填し、脱型後に、必要に応じて蒸気養生を行い、その後、炭酸化養生を行う方法で製造できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、内部に比べ表層部を顕著に緻密化したセメント系材料が提供された。その緻密化した表層部は、セメントの主要構成元素であるCaの溶出に対し高い抵抗力を有し、溶脱現象の抑止効果に優れる。また、種々の物質の透過に対しても高い抵抗力を生じる。さらに、塩害、スケーリング、凍結融解に対しても高い耐久性を発現する。したがって本発明のセメント系材料は、放射性廃棄物処分場、海洋重要構造物など、超長期にわたって高耐久性が要求される構造材や、土壌汚染物質を取り扱う施設の構造材、さらには橋梁をはじめとする社会資本の構造材として、従来材では得られない高い信頼性を発揮し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
通常のセメントには、エーライト:3CaO・SiO2(組成式C3S)、ビーライト:2CaO・SiO2(組成式C2S)、アルミネート:3CaO・Al23(組成式C3A)、フェライト:4CaO・Al23・Fe23(組成式C4AF)等のセメント鉱物が含まれている。このうちビーライトは、ポルトランドセメントの主要鉱物成分の1つであり、水和熱や乾燥収縮を減少させ、また化学抵抗性を増大させる機能を有すると考えられている。
【0018】
ビーライトはCaOとSiO2を主成分とするダイカルシウムシリケートの1種であり、α型、α'型、β型およびγ型が存在し、それぞれ結晶構造や密度が異なる。このうちα型、α'型、β型は水と反応して水硬性を示す。ところがγ型は、水硬性を示さず、且つ二酸化炭素と反応するという特性を有する。ポルトランドセメントをはじめとする通常のセメントには、このγ型のビーライト(γビーライト)は基本的に含まれていない。なお、γビーライトには2CaO・SiO2の他、Al23、Fe23、MgO、Na2O、K2O、TiO2、MnO、ZnO、CuO等の酸化物が不純物として固溶している場合があるが、このような鉱物を固溶したγビーライトも本発明でいうγビーライトに含まれる。
【0019】
発明者らは種々検討の結果、γビーライトの含有量を増大させたセメント混練物を作ってこれを硬化させたとき、その硬化体は、炭酸ガス等による炭酸化によって表層部を顕著に緻密化できることを知見した。そして、その緻密化した表層部はCaの溶出抵抗が非常に高く、塩化物遮蔽効果にも優れることが確認された。
【0020】
γビーライトを富化したセメント硬化体が炭酸ガス等で緻密化するメカニズムについては未解明な部分も多いが、以下のように考えられる。すなわち、通常のセメント硬化体が炭酸化(中性化)する場合には、セメントの水和反応によって生じたCa(OH)2が炭酸ガス等と反応してCaCO3になるのであるが、セメント硬化体中にγビーライトが多量に存在すると、γビーライトが水和反応せずに直接炭酸ガス等と反応して多量のCaCO3とSiO2を生成する。さらにセメントの水和反応で生じたCa(OH)2も炭酸ガス等と反応してCaCO3になる。このため、通常のセメント硬化体に比べ早期に多量の反応生成物が生じ、これがセメント硬化体内の空隙を埋めて緻密化すると考えられる。
【0021】
緻密化の程度は、表層部に生じた緻密化層の空隙率K1と緻密化層を除くセメント硬化体内部の空隙率K2の比K1/K2によって表すことができる。以下、このK1/K2の値を「相対空隙率」ということがある。発明者らの研究によれば、γビーライトを富化したセメント硬化体において、相対空隙率K1/K2が0.8以下になっていると、Caの溶出に対する抵抗力が格段に向上することがわかった。0.75以下であると一層好ましい。
【0022】
緻密化層の厚さは少なくとも0.5mmは必要である。これより薄いとセメント硬化体表面に不可避的に生じる疵等の影響を受けやすく、安定した耐Ca溶出性が得られない場合がある。1mm以上とすることが望ましく、2mm以上とすることが一層好ましい。緻密化層厚さの上限については、内部に鉄筋を含まない場合や、鉄筋のように腐食するおそれのない材質の補強部材を用いる場合は、特に限定する必要はない。ただし、あまり過剰な緻密化層厚さを確保することは炭酸化処理の負荷を増大させるだけでコストメリットが低下するので、一般的には10mm以下の範囲で十分である。通常5mm程度とすれば良く、例えば2〜10mm、あるいは3〜8mm程度の緻密化層を形成するのが実用的である。
【0023】
鉄筋コンクリートの場合は、緻密化層が鉄筋に達しないようにすることが肝要である。したがって、緻密化層の厚さは0.5mm以上〜鉄筋のかぶり厚以下の範囲にコントロールしなければならない。鉄筋の周囲には十分なアルカリ性領域を確保することが望ましいので、緻密化層厚さの上限を「鉄筋のかぶり厚−5mm」とすることが好ましい。
【0024】
この緻密化層によって優れた耐Ca溶出性を付与するには、炭酸化処理に供するセメント系材料中に多量のγビーライトが含まれている必要がある。具体的には、セメント100質量部に対しγビーライト8〜70質量部を含むように組成調整したセメント混練物を使用することが望ましい。γビーライト量を20〜60質量部とすることが一層好ましく、30〜50質量部とすることがより一層好ましい。
【0025】
γビーライトの多量含有を必須とするセメント系材料を用いて、表層部を緻密化したものは、Caの溶脱現象に対して高い抵抗性を有し、かつ塩害、スケーリング、凍結融解に対する抵抗性にも富むものであるが、塩害、スケーリング、凍結融解に対する抵抗力付与を主目的とする場合は、γビーライトの多量含有は必ずしも必須ではない。この場合は、γビーライト、αワラストナイトおよびカルシウムマグネシウムシリケートの1種または2種以上を混和材料または骨材として含有させたセメント系材料を用いることが有効である。
【0026】
αワラストナイト(α−CaO・SiO2)はCaOとSiO2を主成分とするモノカルシウムシリケートの1種である。モノカルシウムシリケートにはα型とβ型があり、これらは結晶構造や密度が異なる。モノカルシウムシリケートは一般にワラストナイトと呼ばれ、天然に産出するものはほとんどがβ型である。しかし、緻密化層に優れた耐塩害性等を持たせるにはβ型では不十分であり、α型のワラストナイト(αワラストナイト)を選ぶ必要がある。
【0027】
カルシウムマグネシウムシリケートは特に限定されるものではないが、例えば、メルヴィナイト、アケルマナイト、モンチセライトが挙げられ、このうちメルヴィナイトを使用することが好ましい。
【0028】
添加するγビーライト、あるいはαワラストナイト、カルシウムマグネシウムシリケートの原料としては、それぞれの単体物質を入手して添加しても良いが、それらの物質のうち必要とする物質が多量に含まれる高炉スラグや製鋼スラグを使用することもできる。
高炉スラグや製鋼スラグを使用する場合は、スラグ中のγビーライト量が35質量%以上のものを使用することが望ましく、45質量%以上のものを使用することが一層望ましい。製鋼スラグのうち電気炉還元期スラグやステンレススラグは一般にγビーライト含有量が高いので好適である。
【0029】
使用する高炉スラグや製鋼スラグの各々の成分には特に限定はないが、具体的には、CaO、SiO2、Al23、MnO2、Cr23、F、MgO等を主要成分とし、その他、TiO2、Na2O、S、P25、Fe23等が挙げられる。スラグ中に含有される化合物としては、ダイカルシウムシリケート:2CaO・SiO2、トライカルシウムシリケート:3CaO・SiO2、ランキナイト:3CaO・2SiO2、ワラストナイト:CaO・SiO2等のカルシウムシリケート、12CaO・7Al23、CaO・7Al23・CaF2、3CaO・Al23等のカルシウムアルミネート、メルヴィナイト:3CaO・MgO・2SiO2、アケルマナイト:2CaO・MgO・2SiO2、モンチセライト:CaO・MgO・SiO2等のカルシウムマグネシウムシリケート、ゲーレナイト:2CaO・Al23・SiO2、アノーサイト:CaO・Al23・2SiO2等のカルシウムアルミノシリケート、アケルマナイトとゲーレナイトの混晶であるメリライト、遊離石灰、遊離マグネシア、カルシウムフェライト:2CaO・Fe23、カルシウムアルミノフェライト:4CaO・Al23・Fe23、リューサイト:(K2O、Na2O)・Al23・SiO2、スピネル:MgO・Al23、マグネタイト:Fe34などが挙げられる。
【0030】
このようなスラグのうち特に、非水硬性化合物を60質量%以上、あるいは70質量%以上含有し、その中にγビーライトを含むものが好ましい。ここで、非水硬性化合物としては、αワラストナイト、γビーライトの他、上述した化合物のうち、ランキナイト、ワラストナイト、メルヴィナイト、アケルマナイト、モンチセライト、ゲーレナイト、アノーサイト、メリライトが挙げられる。
【0031】
これらの非水硬性化合物を含む物質(以下、「本混和材」という)のブレーン比表面積は特に限定されるものではないが、本混和材が製鋼スラグの場合、通常、ブレーン比表面積2000cm2/g未満の粉粒状で発生する。これをそのまま使用しても良いし、さらに粉砕処理して微粉末としたものを使用しても良い。粉粒状のものを用いると細骨材の一部として多量に配合することができる。微粉末のものはあまり多量に配合できないが、少ない配合量でも本発明の効果は顕著となるため有用である。なお、γビーライトを単体物質で添加する場合は、ブレーン比表面積が1000〜8000cm2/g程度のγビーライトを使用することが望ましく、1500〜5000cm2/g、あるいは1500〜3000cm2/gのγビーライトがさらに好ましい。
【0032】
本混和材の使用量はとくに限定されないが、通常、セメント系材料1m3あたり20〜750kgが好ましく、50〜500kgがより好ましい。20kg未満では緻密化層にCa溶出、塩害、スケーリングおよび凍結融解に対する十分な抵抗性を付与することが難しい。750kgを超えると単位水量が多くなりすぎたり、(AE)減水剤や高性能(AE)減水剤などの化学混和材の添加量が多くなって極度に凝結時間が長くなったり、強度発現性が悪くなったりする場合がある。なお、緻密化層の耐Ca溶出性を重視する場合はγビーライトが前記のような含有量を占めるように本混和材の使用量をコントロールする必要がある。
【0033】
水の使用量は特に限定されるものではなく、通常の使用範囲が適用できる。具体的には、単位水量で150〜225kgとすることができ、多くの場合165〜185kgの範囲が好適に採用できる。単位水量が150kg未満だと作業性の悪いセメント系材料となり、225kgを超えると十分な強度を確保しにくくなる。
【0034】
セメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱等の各種ポルトランドセメントが使用できる。また、これらのポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ等を混合した各種混合セメント、都市ごみ焼却灰や下水汚泥焼却灰などを原料として製造された廃棄物利用セメント、いわゆるエコセメント(登録商標)、石灰石粉末や高炉徐冷スラグ微粉末を混合した各種フィラーセメント等を使用することもできる。
【0035】
セメント以外の構成材料としては、砂や砂利などの骨材の他、石灰石微粉末、高炉徐冷スラグ微粉末等の混和材料を使用することができ、その他、膨張剤、急硬剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、ポリマー、凝結調整剤や、スチールファイバー、ビニロンファイバー、炭素繊維等の繊維質物質や、ベントナイト等の粘度鉱物や、ハイドロタルサイト等のアニオン交換体などを、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で1種以上必要に応じて配合することができる。
【0036】
これら各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、予め一部または全部を混合しておいても構わない。混合装置としては既存の種々のものが使用できる。例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、ナウタミキサ等が挙げられる。
【0037】
本発明に係るモルタルまたはコンクリートの製品は表層部に緻密化層を有していることを特徴とするが、その緻密化表層はセメント硬化体を炭酸化処理することによって得ることができる。炭酸化処理の方法は特に限定されるものではないが、例えばセメント硬化体の表面を炭酸化物質(CO2、CO32-、HCO3-等を供給可能な物質)と接触させる方法が採用できる。炭酸化物質としては、炭酸ガス、超臨界二酸化炭素、ドライアイスや、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸鉄等の炭酸塩や、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸鉄等の重炭酸塩や、炭酸水等が挙げられる。なお、炭酸化処理の際には適度な湿分が必要である。炭酸化の温度は20℃以上が好ましく、30℃以上が一層好ましい。
【0038】
炭酸化処理のタイミングは、セメント系材料が十分に硬化した後(例えば脱型後)に行うのが好ましい。具体的にはセメント硬化体の圧縮強度が20N/mm2以上に達した時点以降に炭酸化処理を行うことが好ましい。30N/mm2以上に達した時点以降とすることが一層好ましい。圧縮強度が20N/mm2未満の状態で炭酸化処理を行うと、炭酸化深さ(炭酸化領域の厚さ)を0.5mm以上にすることは可能であるものの、Caの溶出に対する抵抗力や塩害等に対する抵抗力を十分に付与することが難しいのである(この場合の炭酸化領域は、緻密化した表層部に相当しないこともあり得る)。なお、コンクリートがまだ固まらないうちに炭酸化処理を行って硬化させた場合は、本発明で目的とする硬化体(耐久性セメント系材料)は全く得られない。
【0039】
炭酸化処理を行うまでのモルタルまたはコンクリートの養生方法が常温常圧養生(いわゆる標準養生)である場合は、材齢7日以降に炭酸化養生を行うことが望ましい。また、炭酸化処理を行うまでの養生方法が高温常圧養生(いわゆる蒸気養生)である場合は、材齢1日以降に炭酸化養生を行うことが望ましい。前記の材齢未満ではセメント硬化体の圧縮強度が20N/mm2に達しない場合があり好ましくない。
【0040】
製品がプレキャストコンクリートである場合は、オートクレーブ養生を行った後、5〜20体積%CO2、20〜50℃、50〜70%R.H.の雰囲気中に曝す方法で炭酸化処理することができる。また、重炭酸ナトリウム水溶液に浸漬する方法も有効である。この場合は、オートクレーブ養生、あるいは温水浸漬による促進養生を行った後、濃度1〜200mg/L、好ましくは10〜50mg/Lの重炭酸ナトリウム水溶液に浸漬すると良い。
【実施例1】
【0041】
表1に示す材料を使用してモルタルを作った。セメントとしては、普通ポルトランドセメント(記号;OPC)を用いた。混和材料としては、高炉徐冷スラグ(記号;CFS)、βビーライト(記号;β-C2S)、γビーライト(記号;γ-C2S(A)、γ-C2S(B))をそれぞれ用いた。このうちCFSは高炉スラグを徐冷して結晶化させたもので、メリライトを主成分とし、γビーライトを約20質量%含むものである。β-C2Sおよびγ-C2Sはそれぞれβビーライトおよびγビーライトの純薬から合成したものであり、γ-C2S(A)とγ-C2S(B)は比表面積が異なるものである。なお、細骨材としてはセメント強さ試験用標準砂を用いた。
【0042】
【表1】

【0043】
モルタルの配合は、JIS R 5201(1997)を参考にして、水セメント比(W/C)を50%、細骨材と結合材質量比(細骨材/結合材比)を3.0とし、混和材料を添加したものにおいては混和材料置換率を40質量%と共通にした。表2に各モルタルのγビーライト含有量(セメント100質量部に対する質量部)を併記した。
【0044】
各モルタルの混練物を型枠に打設した後、20℃、90%R.H.の恒温恒湿槽にて24時間初期養生を行った。脱型後、材齢28日まで5体積%CO2、20℃、60%R.H.の雰囲気中にて強制炭酸化養生を行うことにより炭酸化処理した試料を用意した。一部のモルタルについては強制炭酸化養生の代わりに20℃標準中性養生(以下「標準養生」という)を行った試料も用意した。各モルタル試料(供試体)の寸法は40×40×160(mm)である。
【0045】
炭酸化処理を行った各モルタル試料について、供試体の切断面にフェノールフタレイン1%溶液を噴霧し、供試体表層部の赤変しない領域の厚さを測定することにより炭酸化深さ(炭酸化領域の厚さ)を求めた。その結果、各試料とも炭酸化深さは5.5〜10.0mmの範囲に収まっていた。そこで、各試料の供試体について、「炭酸化領域」および「炭酸化領域を除いた内部」からそれぞれ試験片を切り出し、水銀圧入法により空隙率を測定した。そして、炭酸化領域の空隙率をK1、炭酸化領域を除いた内部の空隙率をK2とした場合の相対空隙率K1/K2の値を求めた。
【0046】
また、各モルタル試料について、以下のようにCaの溶解抵抗性試験を行った。
すなわち、各供試体の表面から深さ5mm以内の領域からモルタル片を切り出した(炭酸化処理した供試体の場合、このモルタル片は炭酸化領域のみから切り出したことになる)。得られたモルタル片を窒素ガス雰囲気中で粉砕し、全粒子が125μm以下になるように粒度を調整した。粒度調整試料20gに対して純水2000gを加え、スターラーにて2時間低速攪拌した後、2週間、20℃にて静置した。その後、静置していた試料粒子を含む液を濾過し、得られた濾液について原子吸光にてCaイオンの存在量(積算溶出Caイオン量)を測定した。試験中は炭酸ガス侵入による炭酸カルシウムの析出を防止するため、窒素ガスにてパージした環境を維持した。代表試料について静置中のCaイオン濃度の変化を測定し、静置中に炭酸カルシウムの析出が生じないことを確認している。Ca溶出率を下記(1)式により算出した。
Ca溶出率(%)=(積算溶出Caイオン量/初期Ca含有量)×100 ……(1)
ここで、初期Ca含有量は、前記モルタル片を粉砕した粒度調整試料中に含まれるCa量であり、モルタルの配合から算出される。
試験結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2からわかるように、γビーライト含有量を十分確保した本発明例のものは相対空隙率K1/K2が0.8以下の緻密化した表層部を有しており、当該緻密化表層は試料No.1の炭酸化処理モルタルの場合と比べ、顕著な耐Ca溶出性を発揮した。βビーライトを添加した比較例(試料No.3)は、表層部の緻密化は比較的大きいものの、耐Ca溶出性は本発明例のものに比べ劣っている。なお、試料No.7の比較例に見られるように、γビーライトを十分含有させたものでも表層部の緻密化を図っていないと優れた耐Ca溶出性の改善効果は得られない。
【実施例2】
【0049】
単位セメント量380kg/m3、混和材料の単位量50kg/m3とし、単位水量175kg/m3、細骨材率(s/a)=46%、空気量2.0〜3.0%のコンクリートを調製した。ただし、混和材料は細骨材に置換して配合した。使用した8種類の混和材料の種類は表3にA〜Hで示し、その詳細は後述のとおりである。各コンクリートの混練物を型枠に打設し、4時間静置した後、蒸気養生を施した。蒸気養生の条件は、昇温速度15℃/hrで65℃まで加温し、4時間保持し、放冷するというものである。蒸気養生後、水中養生を材齢7日まで行い、次いで炭酸化養生を行った。炭酸化養生の条件は、10体積%CO2、30℃、60%R.H.の雰囲気中に7日間曝すというものである。得られた供試体の寸法は100×100×400(mm)である。
【0050】
なお、使用した材料は以下のとおりである。
〔セメント〕市販の普通ポルトランドセメントである。ブレーン比表面積3000cm2/g。
〔混和材料A〕γビーライトである。2モルの炭酸カルシウムと1モルの二酸化ケイ素を配合して1450℃で焼成して合成したもの。比重3.01、ブレーン比表面積1800cm2/g。
〔混和材料B〕αワラストナイトである。1モルの炭酸カルシウムと1モルの二酸化ケイ素を配合して1450℃で焼成して合成したもの。比重2.93、ブレーン比表面積1500cm2/g。
〔混和材料C〕メルヴィナイトである。比重3.33、ブレーン比表面積1500cm2/g。
〔混和材料D〕製鋼スラグ(電気炉還元期スラグ)である。酸化物換算CaO:52%、酸化物換算SiO2:27%、Al23:11%、MgO:0.5%、F(フッ素):0.7%、S:0.5%を含む。主な化合物相は、γビーライト:約45%、αワラストナイト:約20%、12CaO・7Al23固溶体:約25%である。非水硬性化合物含有量はγビーライトとαワラストナイトの和で約65%である。比重3.06、ブレーン比表面積1200cm2/g。
〔混和材料E〕製鋼スラグ(ステンレススラグ)である。CaO:52%、SiO2:28%、MgO:10%、Al23:7%、Na2O:0.5%、F:0.5%を含む。主な化合物相は、γビーライト:約35%、メルヴィナイト:約44%、12CaO・7Al23固溶体:約14%、遊離マグネシア:約4%である。非水硬性化合物含有量はγビーライトとメルヴィナイトの和で約79%である。比重3.14、ブレーン比表面積1500cm2/g。
〔混和材料F〕製鋼スラグ(電気炉還元期スラグ)である。酸化物換算CaO:53%、酸化物換算SiO2:35%、Al23:4%、MgO:6%、F:1.5%、S:0.5%を含む。主な化合物相は、γビーライト:約40%、カスピディン:14%、メルヴィナイト:40%である。非水硬性化合物含有量はγビーライトとカスピディンとメルヴィナイトの和で約94%である。比重3.04、ブレーン比表面積1200cm2/g。
〔混和材料G〕製鋼スラグ(電気炉還元期スラグ)である。酸化物換算CaO:53%、酸化物換算SiO2:26%、Al23:13%、MgO:5%、F:2.0%、S:0.5%を含む。主な化合物相は、γビーライト:約40%、カスピディン:12%、メルヴィナイト:18%、12CaO・7Al23固溶体:約25%である。非水硬性化合物含有量はγビーライトとカスピディンとメルヴィナイトの和で約70%である。比重3.03、ブレーン比表面積1200cm2/g。
〔混和材料H〕石灰石微粉末である。新潟県青海鉱山産の石灰石の粉砕物で、比重2.71、ブレーン比表面積1500cm2/g。
〔水〕水道水。
〔細骨材〕新潟県姫川産、比重2.62。
〔粗骨材〕新潟県姫川産、比重2.64。
【0051】
各供試体について、以下の要領で凍結融解試験、長さ変化率試験、スケーリング試験、および塩化物浸透深さ試験を行った。
〔凍結融解試験〕JSCE−G 501−1999に準じて行った。
〔長さ変化率試験〕JIS A 6202(B)に準じて行った。
〔スケーリング試験〕ASTM C 672に準じて行い、スケーリング量(kg/m2)を求めた。
〔塩化物浸透深さ試験〕材齢28日のコンクリート供試体を擬似海水に4週間にわたって浸漬した。その後、供試体を切断し、断面をEPMAのマッピング分析によって観察し、塩素の浸透深さを測定した。
これらの試験結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3からわかるように、γビーライト、αワラストナイトおよびカルシウムマグネシウムシリケートの1種または2種以上を十分量含有させた実施例のものは実験No.1−1の比較例と比べ、塩害、スケーリング、凍結融解に対して、いずれも顕著な抵抗性を発揮した。また、実験No.1−9の比較例に見られるように、混和材料として、本発明例と同じ単位量の石灰石微粉末(混和材料H)を添加しても、実施例のような改善効果は得られない。
【実施例3】
【0054】
混和材料Aを使用し、混和材料の使用量を表4に示すように変化させたこと以外、実施例2と同様の試験を行った。結果を表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
表4からわかるように、γビーライト(混和材料A)では、50〜500kg/m3の単位量(使用量)によって塩害、スケーリング、凍結融解に対する十分な抵抗性をコンクリート系材料に付与することができる。
【実施例4】
【0057】
混和材料Aを使用し、炭酸化処理期間を表5に示すように変化させたこと以外、実施例2と同様の試験を行った。なお、炭酸化深さは、供試体断面にフェノールフタレイン1%濃度のアルコール溶液を噴霧して赤変しなかった部分の厚さを測定することによって求めた。結果を表5に示す。
【0058】
【表5】

【0059】
表5からわかるように、γビーライト(混和材料A)を含有させたコンクリート供試体では、1〜28日の炭酸化処理期間によって炭酸化深さ(炭酸化領域の厚さ)は0.5〜8.5mmの範囲に収まっている。処理期間3日以上の炭酸化領域は緻密化した表層部に相当し、塩害、スケーリング、凍結融解に対する抵抗性が高まったと推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント100質量部に対しγビーライト8〜70質量部を含む混練物のセメント硬化体であって、表層部に緻密化層を有し、その緻密化層の空隙率K1と緻密化層を除く内部の空隙率K2の比K1/K2が0.8以下である表層緻密化モルタルまたはコンクリート。
【請求項2】
前記緻密化層の厚さが0.5〜10mmである請求項1に記載の表層緻密化モルタルまたはコンクリート。
【請求項3】
前記緻密化層の厚さが0.5mm以上鉄筋のかぶり厚以下である請求項1に記載の表層緻密化コンクリート。
【請求項4】
γビーライト、αワラストナイトおよびカルシウムマグネシウムシリケートの1種または2種以上を含有させたセメント混練物の硬化体であって、硬化後に表層部を炭酸化した表層緻密化モルタルまたはコンクリート。
【請求項5】
γビーライト、αワラストナイトおよびカルシウムマグネシウムシリケートの1種または2種以上を含有させたセメント混練物を型枠に充填し、脱型後に炭酸化養生を行う請求項4に記載の表層緻密化モルタルまたはコンクリートの製造法。
【請求項6】
脱型後に蒸気養生を行った後、炭酸化養生を行う請求項5に記載の製造法。

【公開番号】特開2006−182583(P2006−182583A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375549(P2004−375549)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】