説明

表皮材の貼り付け装置および貼り付け方法

【課題】表皮材に過度の引張歪を生じさせることなく、もって、品質に優れ、耐久性の高い基材および表皮材からなる部材を製造することのできる表皮材の貼り付け装置と貼り付け方法を提供する。
【解決手段】表皮材の貼り付け装置10は、型閉め姿勢において上下のチャンバーにて表皮材Sを挟み込み、この表皮材Sによって上チャンバー空間K1と下チャンバー空間K2が画成される上チャンバー1および下チャンバー2と、下チャンバー2内において、基材Wを載置するとともに上チャンバー1側へ上昇自在な載置台5と、チャンバー内を高温雰囲気にして表皮材Sを軟化させる加熱手段11と、を備え、載置台5上において、基材Wが直接設置されて回動自在な回動手段61と、この回動手段を載置台5上で水平移動させる水平移動手段62を備え、少なくとも回動手段61の回動制御と水平移動手段62の水平移動制御を同期して実行する制御手段をさらに備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面にたとえば意匠面を具備する表皮材を貼り付ける装置と方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂や金属素材の基材表面に、着色表面や絵柄表面を備えたプラスチックフィルムやプラスチックシート等の表皮材を貼り付けるに際し、特許文献1に開示の被覆方法、装置のように、チャンバーボックスのうち、上下のチャンバーにて表皮材を把持し、この表皮材にてチャンバーボックス内を上下2つの空間に画成し、基材(ここでは中空芯材)に被覆する表皮材を加熱軟化させた状態で、下方のチャンバー空間を減圧し、上方のチャンバー空間を加圧することで、表皮材を基材に押圧して被覆する方法が知られている。
【0003】
この方法によれば、チャンバー内で真空引きと加圧をおこなうことにより、軟化したフィルムを基材に対して良好に貼り付けることができる。より具体的には、基材の形状が特許文献1に開示のもののように平面状の場合であって、かつ表皮材が一様な意匠面からなる場合にはその効果を享受することができる。
【0004】
しかし、基材が相互に傾斜した2つの側面が連続してなる3次元形状を呈し、この2つの側面が連続する箇所が突部を成す形状の場合(車室内のインパネなど)にはその効果が十分に期待できない。そして、基材の表面に表皮材を貼り付けるに当たり、特に基材がアンダーカット部、すなわち、基材を構成する突部を境界としてその一方側が下チャンバー側に傾斜して上チャンバー側から視認できないような場合には、このアンダーカット部に表皮材を貼り込む際に大きな加圧力や吸引力が必要となり、特許文献1に開示の装置では不十分である。また、このような3次元形状の表皮材にはその基材への貼り付けの際に局所的に極めて大きな引張力が作用し、この引張力に起因する引張歪によって表皮材とこれを具備する部材の耐久性が低下するという課題がある。
【0005】
このことを図5a,bを参照して説明する。図5aは、特許文献1で開示される上下のチャンバーを含む装置構成のほとんどを省略して載置台上の基材と表皮材を拡大して示した模式図である。表皮材Sは、上チャンバーCB1と下チャンバーCB2で挟み込まれ、加熱軟化された表皮材Sは、昇降自在なステージST上の載置台Dに載置された基材Wの突部Tの一部で支持される(表皮材支持部R)。同図において、上チャンバーCB1と下チャンバーCB2で表皮材Sが挟み込まれることにより、上チャンバー空間K1と下チャンバー空間K2が画成されている。
【0006】
図示する基材Wは略平坦で相互に傾斜した2つの側面が連続し、この側面が連続する箇所が上チャンバー側に突出する突部Tを有する3次元形状を呈しており、載置台Dの載置面は、この基材Wと相補的な3次元形状を有している。そして、この側面の表面に表皮材Sを接着するべく、一方の側面が表皮材S側に対向するように載置台D上に載置された図示例の姿勢において、他方の側面は下チャンバー側に対向するために上チャンバー側からは視認できないアンダーカット部UKとなってしまう。
【0007】
このような3次元形状の基材Wの表面に対し、表皮材Sの上下のチャンバー空間に圧力差を設け、相対的に上チャンバー空間を高圧にして表皮材Sを貼り付けようとすると、図5bで示すように、上チャンバー側に臨む表皮材支持部Rよりも左側の表皮材領域S1は適度な引張力P1にて引っ張られながら基材W表面に貼り付く一方で、表皮材支持部Rよりも右側のアンダーカット部UKに対応する表皮材領域S2は、過度な吸引力および加圧力によって基材の端部Waを回り込ませるようにして張り付かせる必要がある。
【0008】
より詳細には、表皮材Sは、最初に中央の表皮材支持部R近傍の領域から基材Wに貼り付き、その左右の表皮材領域S1、S2の端部に向かって順に貼り付いていくことになる。ここで、アンダーカット部UKに対応する表皮材領域S2を基材Wの端部Waに回り込ませながら貼り付けようとすると、図示する一点鎖線の状態となっている表皮材Sを実線の状態に移行させる必要があり、そのために表皮材領域S2に過度の引張力P2を作用させて伸張させながら基材Wへ貼り付けることになる。
【0009】
その結果、表皮材Sにおいては、その中央の表皮材支持部R近傍を境界にその左右で引張応力が大きく相違する。本発明者等の検証によれば、同図における表皮材領域S1の引張歪が50%程度であるのに対して、表皮材領域S2の引張歪、中でもその端部領域の引張歪は400%程度にも及ぶことが特定されている。
【0010】
領域ごとに引張歪が大きく異なる表皮材Sが基材Wに貼り付けられてなる部材(製品)は、過度の引張歪を内包する表皮材領域S2の端部から剥がれが生じ易く、一度剥がれが生じてしまうとこれを起点として過度の引張歪みを解消するように剥がれが助長されてしまい、このことが製品の耐久性を大きく低下させる要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−7422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、たとえば相互に傾斜した2つの側面が連続してなる3次元形状を呈した基材の表面にたとえば意匠面を具備する表皮材を貼り付けるに際し、表皮材に過度の引張歪を生じさせることなく、もって、品質に優れ、耐久性の高い基材および表皮材からなる部材を製造することのできる表皮材の貼り付け装置と貼り付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成すべく、本発明による表皮材の貼り付け装置は、基材の表面に表皮材を貼り付ける表皮材の貼り付け装置であって、相互に型閉めされる上チャンバーおよび下チャンバーであって、型閉め姿勢において上下のチャンバーにて表皮材を挟み込み、この表皮材によって上チャンバー空間と下チャンバー空間が画成される上チャンバーおよび下チャンバーと、下チャンバー内において、基材を載置するとともに上チャンバー側へ上昇自在な載置台と、チャンバー内を高温雰囲気にして表皮材を軟化させる加熱手段と、を備え、前記載置台上において、前記基材が直接設置されて回動自在な回動手段と、この回動手段を載置台上で水平移動させる水平移動手段を備え、少なくとも回動手段の回動制御と水平移動手段の水平移動制御を同期して実行する制御手段をさらに備えているものである。
【0014】
本発明の表皮材の貼り付け装置は、上下チャンバーからなる貼り付け装置の下チャンバー内で上昇自在に設けられた載置台上において基材を載置して回動自在な回動手段とこの回動手段を水平移動させる水平移動手段を配し、任意の3次元形状の基材の表面に表皮材を貼り付けるに当たり、制御手段にて回動手段と水平移動手段を同期して稼動させながら表皮材の貼り付けをおこなうことで表皮材に過度の引張力を作用させず、過度の引張歪みを内包させないようにしてその貼り付けをおこなうことのできる装置である。
【0015】
ここで、表皮材が貼り付けられる基材は、湾曲状の側面、略平坦な側面、相互に傾斜した複数の平坦もしくは略平坦な側面の組み合わせ、平坦もしくは略平坦な側面と湾曲状の側面の組み合わせなどからなる任意の3次元形状を呈した基材である。
【0016】
基材を載置する載置台は、下チャンバー内においてたとえばシリンダ機構等によって昇降自在に構成され、基材を載置した姿勢で載置台が上昇し、表皮材と基材が当接する位置で停止するように制御される。
【0017】
上チャンバーおよび/または下チャンバーには、電熱線、ヒータ等の適宜の加熱手段が設けてあり、この加熱手段が所定のタイミングで作動することで上チャンバーおよび/または下チャンバー内を高温雰囲気とし、上下チャンバーに把持固定された樹脂フィルム等の表皮材を軟化させて基材への貼り付けに移行するようになっている。
【0018】
載置台には、基材が直接載置される回動自在な回動手段(回動台)が設けてあり、さらに、シリンダ機構もしくは送りネジ機構などからなる水平移動手段にこの回動手段が取り付けられている。
【0019】
これら回動手段と水平移動手段は装置を構成するコンピュータ内に内蔵された制御部にて作動制御されるようになっている。すなわち、回動手段の回動速度および回動タイミングと水平移動手段の水平移動速度および水平移動タイミング、さらには、これらを同期して作動させる同期制御が制御部にて実行制御される。
【0020】
制御部による回動手段の回動制御と水平移動手段の水平移動制御を同期して実行することにより、たとえば、上記する3次元形状の一方の側面の表面に表皮材を貼り付け、次いで、表皮材に引張力が極力作用しないように、基材が搭載された回動手段を回動させながら同時に水平移動させることで、表皮材をさらに連続的に他方の側面の表面に亘って貼り付けることができる。
【0021】
ここで、表皮材の貼り付け装置の好ましい実施の形態として、上チャンバー空間および下チャンバー空間をともに減圧する吸引手段をさらに備えているのがよい。
【0022】
上下のチャンバー空間の双方を同程度の圧力に減圧した状態で基材の表面に表皮材を貼り付けることで、大気圧雰囲気下での貼り付けに比して接着性がより一層良好となる。
【0023】
また、表皮材の貼り付け装置の好ましい実施の形態として、上チャンバー空間を加圧する加圧手段をさらに備えているのがよい。
【0024】
上下チャンバー空間を大気圧未満に減圧した状態で表皮材を基材表面に貼り付け、次いで、上チャンバー空間のみ加圧手段にて加圧することで、基材が複雑な3次元形状を呈してそのアンダーカット部が入り組んだ形状の場合であっても、精緻な表皮材の貼り付けを実現することが可能となる。
【0025】
なお、上チャンバーが加圧手段を具備することのほかに、上チャンバー空間を大気圧開放自在に構成しておくことで、所望のタイミングで上チャンバー空間のみを大気圧開放した際に、表皮材に上チャンバー空間から基材側への押し込み力を付与させることができる。
【0026】
また、本発明は表皮材の貼り付け方法にも及ぶものであり、少なくとも相互に傾斜した2つの側面が連続してなる3次元形状を呈した基材の該側面の表面に表皮材を貼り付ける表皮材の貼り付け方法であって、相互に型閉めされる上チャンバーおよび下チャンバーにおいて、基材を下チャンバー内の載置台に載置する第1のステップ、上下のチャンバーを型閉めして双方のチャンバーにて表皮材を挟み込み、この表皮材によって上チャンバー空間と下チャンバー空間を画成し、上下のチャンバー空間を高温雰囲気として表皮材を軟化させる第2のステップ、基材の一方の側面を上チャンバー側に向けた姿勢で載置台を上昇させて該側面の表面に表皮材を接着し、基材を回動させながら水平移動させることにより、基材の回動および水平移動の過程で前記一方の側面に続いてさらに他方の側面の表面に表皮材を接着させて基材の表面に表皮材を貼り付ける第3のステップからなるものである。
【0027】
第1のステップでは、載置台上に載置された基材の表面に接着剤を塗布もしくは散布しておいてもよいし、表皮材の表面に接着剤を塗布しておいてもよい。また、表皮材が接着性の樹脂フィルムからなる場合は、これが軟化して基材表面に当接した際に自身の接着力にて接着される形態であってもよい。
【0028】
第2のステップでは、基材表面への表皮材の貼り付けに際し、まず、上下チャンバー内を高温雰囲気にして表皮材を所望に軟化させる。
【0029】
たとえば基材が2つの傾斜する略平坦な側面が連続する形状を呈する場合において、第3のステップでは、まず、その一方の略平坦な側面がその上方位置で上下チャンバーにて把持固定されて水平に延びる表皮材に対向するように基材の姿勢制御をおこなう。
【0030】
次いで、載置台を上昇させて上記一方の略平坦な側面を軟化した表皮材に接着させ、基材を回動させながら水平移動させることによって略平坦な他方の側面まで連続的に表皮材の貼り付けをおこなう。
【0031】
既述するように、この基材の回動と水平移動に関しては、表皮材の貼り付けの際に当該表皮材に引張力が極力作用しないように、回動の際の回動速度と水平移動の際の水平移動速度が所望に調整され、双方が同期しておこなわれるようになっている。
【0032】
ここで、表皮材の貼り付け方法の好ましい実施の形態として、前記第3のステップにおいて基材の表面に表皮材を接着する前に、上下のチャンバー空間を同じ圧力で大気圧よりも低い圧力雰囲気に減圧するのがよい。既述するように、より一層良好な表皮材の接着を実現することができる。
【0033】
また、表皮材の貼り付け方法の好ましい実施の形態として、前記第3のステップにおいて基材の表面に表皮材を接着している途中で、上チャンバー空間を大気圧雰囲気とするのがよい。下チャンバー空間が減圧雰囲気である一方で上チャンバー空間が大気圧雰囲気となることで表皮材に対して基材側への押し込み力が作用することから、たとえば基材が複雑な3次元形状を呈してそのアンダーカット部が入り組んだ形状の場合であっても、精緻な表皮材の貼り付けを実現することができる。
【0034】
さらに、表皮材の貼り付け方法の好ましい実施の形態として、前記第3のステップにおいて基材の表面に表皮材を接着している途中で、上チャンバー空間を加圧して大気圧よりも高い圧力雰囲気とするのがよい。
【0035】
上チャンバー空間を大気圧開放する場合よりもより高い圧力雰囲気とすることで、表皮材に対して基材側へのより一層高い押し込み力を付与することができる。
【発明の効果】
【0036】
以上の説明から理解できるように、本発明の表皮材の貼り付け装置と貼り付け方法によれば、たとえば少なくとも相互に傾斜した2つの側面が連続してなる3次元形状を呈した基材に表皮材を貼り付けるに際し、基材の一方の側面に表皮材を貼り付けた後に、この基材を回動させながら水平移動させて基材の他方の側面に亘る連続的な表皮材の貼り付けをおこなうことで、この貼り付けの際に表皮材に引張力を作用させない、もしくはほとんど作用させないようにすることができ、品質に優れ、高耐久な基材および表皮材からなる部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の貼り付け装置において、上チャンバーと下チャンバーが型開きした状態を説明した模式図である。
【図2】上チャンバーと下チャンバーが型閉めされて表皮材を挟み込み、チャンバー内が加熱されて表皮材が軟化され、さらに、基材の姿勢制御がおこなわれ、載置台が上昇して基材の一方の側面が表皮材に接着された状態を説明した模式図である。
【図3】載置台上の回動装置が回動しながらこれがシリンダ装置によって水平移動されて他方の側面に表皮材が接着されようとしている状態を説明した図である。
【図4】基材の全表面に表皮材が貼り付けられた状態を説明した模式図である。
【図5】(a)は、従来の貼り付け装置において載置台が上昇して基材が表皮材と当接し、表皮材支持部を形成している状態を説明した図であり、(b)は、基材表面に表皮材が貼り付けられた状態を説明した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照して本発明の表皮材の貼り付け装置および貼り付け方法を説明する。なお、図示する基材は、相互に傾斜した2つの略平坦な側面からなる3次元形状を呈するものであるが、図示例以外にも、双方の側面が完全に平坦な3次元形状を呈するもの、全体が湾曲状を呈するもの、湾曲した側面と平坦もしくは略平坦な側面が連続したものなど、多様な3次元形状の基材が本発明の装置および方法の適用対象であることは勿論のことである。
【0039】
図1は、本発明の貼り付け装置において、上チャンバーと下チャンバーが型開きした状態を説明した模式図であり、図2は、上チャンバーと下チャンバーが型閉めされて表皮材を挟み込み、チャンバー内が加熱されて表皮材が軟化され、さらに、基材の姿勢制御がおこなわれ、載置台が上昇して基材の一方の側面が表皮材に接着された状態を説明した模式図である。
【0040】
図示する貼り付け装置10は、シリンダ装置3にて昇降自在(X1方向)な上チャンバー1と、別途の昇降装置4にて昇降自在(X2方向)な載置台5とこの上に配設されて基材Wを回動自在(X3方向)に載置するとともに車輪を具備して載置台5上を水平移動自在(X4方向)な回動装置61と、回動装置61に固定されたピストンを出し入れして回動装置61を載置台5上で水平移動させるシリンダ装置62と、載置台5を内部に具備する下チャンバー2と、から大略構成されている。
【0041】
上チャンバー1は、その内部に加熱ヒータ11を内蔵しており、上下チャンバーが型閉めされた状態で加熱ヒータ11が稼動し、上下チャンバーにて挟み込んだ表皮材Sを所望に軟化できるようになっている。なお、この加熱ヒータは下チャンバー2に内蔵されるものであってもよい。
【0042】
また、上チャンバー1には、圧縮エア等の加圧流体を上チャンバー1の内部に通流させる配管系12およびコンプレッサ13(もしくは圧力ポンプ)が流体連通している。
【0043】
一方、下チャンバー2には、下チャンバー2の内部を真空引きする配管系21と吸引ポンプ22が流体連通している。さらに、この配管系21と上チャンバー1の配管系12が切換え弁14を介して流体連通しており、上チャンバー1の内部は、この切換え弁14を所望に制御することで、下チャンバー2の内部とともに真空引きされて大気圧未満の減圧雰囲気とされたり、上チャンバー1の内部のみ加圧されて大気圧よりも高い圧力雰囲気とされるようになっている。
【0044】
着色表面や絵柄表面を備えたプラスチックフィルムやプラスチックシート等の表皮材Sが貼り付けられる基材Wは、相互に傾斜した2つの略平坦な側面W1,W2が連続してなる3次元形状を呈したたとえばインパネ形成用の基材である。
【0045】
載置台5上に配された回動装置61は、キャスターを具備する移動台とこの移動台に不図示のサーボモータを介して繋がれて基材Wを載置する回動台とから構成され、この回動台の基材載置面は基材Wと相補的な3次元形状を呈している。
【0046】
さらに、貼り付け装置10は不図示のパーソナルコンピュータを具備しており、このコンピュータ内には、回動装置61の回動速度および回動タイミングとシリンダ装置62のピストンによる回動装置61の押出し速度(水平移動速度)と水平移動のタイミングを同期して制御する制御部(制御手段)が内蔵されている。なお、このコンピュータ内には、CPUやRAM,ROMが内蔵され、制御部とともにこれらが信号送受信自在にバスにて繋がれている公知の内部構成を有している。
【0047】
以下、図1〜図4を参照して、本発明の貼り付け装置10の作動とともに本発明の貼り付け方法を詳述する。
【0048】
まず、図1で示すように、上下のチャンバー1,2の型開き姿勢において、基材Wの側面W1,W2の表面に接着剤が塗布された状態でこれが回転装置61に載置され、下チャンバー2上に表皮材Sが配設される(第1のステップ)。
【0049】
次いで、図2で示すように、シリンダ装置3を稼動させて上チャンバー1を降下させ(X1’方向)、上下のチャンバー1,2で表皮材Sを挟み込む。
【0050】
上下のチャンバー1,2を型閉めすることにより、上チャンバー1と挟持された表皮材Sとで上チャンバー空間K1が画成され、同様に、下チャンバー2と表皮材Sとで下チャンバー空間K2が画成される。
【0051】
次に、上チャンバー1内の加熱ヒータ11を稼動させて(熱流れ:Y3)、表皮材Sを加熱軟化させる(第2のステップ)。
【0052】
表皮材Sが所望に加熱軟化した段階で、吸引ポンプ22を稼動させて上下のチャンバー空間K1,K2を真空引きし(Y2方向)、双方の空間を同じ減圧雰囲気とする。
【0053】
さらに、回動装置61を回動させて(X3方向)基材Wの一方の略平坦な側面W1をその上方で水平方向に配設された表皮材Sに対向させ、ステージ5を上昇させて(X2’方向)側面W1の表面に表皮材Sに接着する。なお、この状態において、基材Wの他方の側面W2は表皮材S側から視認できないアンダーカット部UKを成している。
【0054】
基材Wの一方の側面W1の表面に表皮材Sが接着されたら、制御部が作動して回動装置61とシリンダ装置62の同期制御が実行される。
【0055】
ここで、図3は載置台5上の回動装置61が回動しながらこれがシリンダ装置62によって水平移動されて他方の側面W2に表皮材Sが接着されようとしている状態を説明した図であり、図4は基材Wの全表面に表皮材Sが貼り付けられた状態を説明した模式図である。
【0056】
図3で示すように、回動装置61の回動によって既に表皮材Sが接着された側面W1から除々に側面W2を表皮材Sと接着させるに当たり、単に回動装置61が回動するのみでは表皮材Sのうちの回動装置61の回動方向X3と反対側の領域S’に引張力が作用し、回動の進行にともなって除々に作用する引張力が増加する。
【0057】
このような引張力の作用と作用する引張力の増加を抑止するべく、表皮材Sに引張力が作用しないように、回動装置61の回動速度に呼応してシリンダ装置62が回動装置61を回動方向X3と反対側の領域S’側へ水平移動させるものである。
【0058】
なお、表皮材Sに引張応力が生じているか否かを検知する歪ゲージや、上下チャンバー内における一連の表皮材Sの基材Wへの貼り付けを管理者が視認できるようなCCDカメラ等がチャンバー内に装備されていてもよい。
【0059】
また、基材Wへの表皮材Sの貼り付けに際して、この表皮材Sに引張力が生じない、もしくは所望の許容引張力以下の引張力に制御するための回動装置61の回動速度とこれを水平移動させるシリンダ装置62の押出し速度は、実験や経験則に基づいて予め決定され、制御部に双方の制御速度データが格納されている。
【0060】
表皮材Sに作用する引張力が許容値以下となるようにして回動装置61とシリンダ装置62を同期制御することにより、図2における側面W1の表面への表皮材Sの貼り付けから連続して、図4で示すように他方の側面W2の表面への表皮材Sの貼り付けがおこなわれる(第3のステップ)。
【0061】
ここで、第3のステップにおいては、上下のチャンバー1,2内は真空引きされて大気圧以下の減圧雰囲気となっているが、表皮材Sを当初アンダーカット部UKであった側面W2に貼り付ける際には、コンプレッサ13を作動させて上チャンバー空間K1を大気圧よりも高い圧力雰囲気に調整して、表皮材Sを側面W2側へ押し込むようにしてもよい。
【0062】
図示する貼り付け装置10を用いた基材Wへの表皮材Sの貼り付け方法を適用することで、任意の3次元形状を呈する基材の表面に対し、表皮材に過度の引張応力や引張歪みを生じさせることなく、その貼り付けをおこなうことができる。したがって、品質に優れて高耐久な、基材とその表面に貼り付けられた表皮材からなる部材を製造することができる。
【0063】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0064】
1…上チャンバー、11…加熱ヒータ(加熱手段)、13…コンプレッサ(加圧手段)、14…切換え弁、2…下チャンバー、22…吸引ポンプ(吸引手段)、3,4…シリンダ装置、5…載置台(ステージ)、61…回動装置(回動手段)、62…シリンダ装置(水平移動手段)、10…貼り付け装置、K1…上チャンバー空間、K2…下チャンバー空間、W…基材、W1、W2…側面、UK…アンダーカット部、S…表皮材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に表皮材を貼り付ける表皮材の貼り付け装置であって、
相互に型閉めされる上チャンバーおよび下チャンバーであって、型閉め姿勢において上下のチャンバーにて表皮材を挟み込み、この表皮材によって上チャンバー空間と下チャンバー空間が画成される上チャンバーおよび下チャンバーと、
下チャンバー内において、基材を載置するとともに上チャンバー側へ上昇自在な載置台と、
チャンバー内を高温雰囲気にして表皮材を軟化させる加熱手段と、を備え、
前記載置台上において、前記基材が直接設置されて回動自在な回動手段と、この回動手段を載置台上で水平移動させる水平移動手段を備え、少なくとも回動手段の回動制御と水平移動手段の水平移動制御を同期して実行する制御手段をさらに備えている表皮材の貼り付け装置。
【請求項2】
上チャンバー空間および下チャンバー空間をともに減圧する吸引手段をさらに備えている請求項1に記載の表皮材の貼り付け装置。
【請求項3】
上チャンバー空間を加圧する加圧手段をさらに備えている請求項1または2に記載の表皮材の貼り付け装置。
【請求項4】
少なくとも相互に傾斜した2つの側面が連続してなる3次元形状を呈した基材の該側面の表面に表皮材を貼り付ける表皮材の貼り付け方法であって、
相互に型閉めされる上チャンバーおよび下チャンバーにおいて、基材を下チャンバー内の載置台に載置する第1のステップ、
上下のチャンバーを型閉めして双方のチャンバーにて表皮材を挟み込み、この表皮材によって上チャンバー空間と下チャンバー空間を画成し、上下のチャンバー空間を高温雰囲気として表皮材を軟化させる第2のステップ、
基材の一方の側面を上チャンバー側に向けた姿勢で載置台を上昇させて該側面の表面に表皮材を接着し、基材を回動させながら水平移動させることにより、基材の回動および水平移動の過程で前記一方の側面に続いてさらに他方の側面の表面に表皮材を接着させて基材の表面に表皮材を貼り付ける第3のステップからなる表皮材の貼り付け方法。
【請求項5】
前記第3のステップにおいて基材の表面に表皮材を接着する前に、上下のチャンバー空間を同じ圧力で大気圧よりも低い圧力雰囲気に減圧する請求項4に記載の表皮材の貼り付け方法。
【請求項6】
前記第3のステップにおいて基材の表面に表皮材を接着している途中で、上チャンバー空間を大気圧雰囲気とする請求項5に記載の表皮材の貼り付け方法。
【請求項7】
前記第3のステップにおいて基材の表面に表皮材を接着している途中で、上チャンバー空間を加圧して大気圧よりも高い圧力雰囲気とする請求項5に記載の表皮材の貼り付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−91329(P2012−91329A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238371(P2010−238371)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】