表示体
【課題】 より高い偽造防止効果を実現する。
【解決手段】 本発明の表示体は、基材、印刷層、金属反射層、光透過層を順に具備しており、前記光透過層の金属反射層側の界面は、複数の凹部又は凸部又はその両方を含む凹凸構造領域を少なくとも1領域以上有しており、前記金属反射層は、膜厚が5nm以上60nm以下であり、かつ、前記凹凸構造領域の少なくとも一部を被覆しており、前記印刷層は、印刷絵柄を含んでおり、前記金属反射層に被覆された前記凹凸構造領域の少なくとも一部に前記印刷絵柄を配置していることを特徴とする。
【解決手段】 本発明の表示体は、基材、印刷層、金属反射層、光透過層を順に具備しており、前記光透過層の金属反射層側の界面は、複数の凹部又は凸部又はその両方を含む凹凸構造領域を少なくとも1領域以上有しており、前記金属反射層は、膜厚が5nm以上60nm以下であり、かつ、前記凹凸構造領域の少なくとも一部を被覆しており、前記印刷層は、印刷絵柄を含んでおり、前記金属反射層に被覆された前記凹凸構造領域の少なくとも一部に前記印刷絵柄を配置していることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
キャッシュカード、クレジットカード及びパスポートなどの認証物品並びに商品券及び株券などの有価証券には、偽造が困難であることが望まれる。そのため、従来から、そのような物品には、その偽造を抑止すべく、偽造又は模造が困難であると共に、偽造品や模造品との区別が容易なラベルが貼り付けられている。
【0003】
また、近年では、認証物品及び有価証券以外の物品についても、偽造品の流通が問題視されている。そのため、このような物品に、認証物品及び有価証券に関して上述した偽造防止技術を適用する機会が増えている。
【0004】
特許文献1には、複数の画素を配列してなる表示体が記載されている。この表示体において、各画素は、複数の溝を配置してなるレリーフ型回折格子を含んでいる。
【0005】
この表示体は、回折光を利用して画像を表示するため、印刷技術や電子写真技術を利用した偽造等は不可能である。したがって、この表示体を真偽判定用のラベルとして物品に取り付ければ、このラベルが表示する画像を見てその物品が真正品であることを確認することができる。それゆえ、このラベルを取り付けた物品は、このラベルを取り付けていない物品と比較して偽造され難い。
【0006】
しかしながら、先のレリーフ型回折格子は、回折光を十分に観察しやすくするため、回折格子の凹凸の深さは100nm前後であり、回折格子の凹凸形成面に高反射率の金属反射層を付けたものである。従って、回折光が観察されない場合、銀色の鏡面としての印象が強いため、何らかの加工を行ったアルミ箔などによって似たものが作られやすい。また、回折光が観察される場合でも、回折格子自体がレーザー光源の普及によって作製容易になってきており、この表示体の目視における偽造防止効果は低下しつつある。
なお、ここでは、偽造又は模造が困難であること、偽造品や模造品との区別が容易であることを偽造防止効果と呼ぶ。
【0007】
【特許文献1】特開平2−72320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、より高い偽造防止効果を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1側面によると、基材、印刷層、金属反射層、光透過層を順に具備しており、前記光透過層の金属反射層側の界面は、複数の凹部又は凸部又はその両方を含む凹凸構造領域を少なくとも1領域以上有しており、前記金属反射層は、膜厚が5nm以上60nm以下であり、かつ、前記凹凸構造領域の少なくとも一部を被覆しており、前記印刷層は、印刷絵柄を含んでおり、前記金属反射層に被覆された前記凹凸構造領域の少なくとも一部に前記印刷絵柄を配置していることを特徴とする表示体が提供される。
【0010】
本発明の第2側面によると、基材、印刷層、金属反射層、光透過層を順に具備しており、前記光透過層の金属反射層側の界面は、平滑面からなる非凹凸構造領域と複数の凹部又は凸部又はその両方を含む凹凸構造領域とを少なくとも各々1領域以上有しており、前記金属反射層は、膜厚が5nm以上60nm以下であり、かつ、前記非凹凸構造領域の少なくとも一部と前記凹凸構造領域の少なくとも一部を被覆しており、前記印刷層は、印刷絵柄を含んでおり、前記金属反射層に被覆された前記凹凸構造領域の少なくとも一部に前記印刷絵柄を配置していることを特徴とする表示体が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、より高い偽造防止効果を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は、本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図である。図1(a)は光透過層の凹凸構造領域の配置パターンを示し、同(b)は印刷層の印刷パターンを示している。観察者からは、図1の(a)の背面に(b)が配置されていることになる。図2は、図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図である。
【0014】
この表示体10は、光透過層11、金属反射層13、印刷層21、基材23からなり、図2に示す例では、上方向(光透過層11側)から観察するものとして、光透過層11と反射層13の界面に、凹凸構造領域12a及び12bと非凹凸構造領域12cとを含んでいる。後述するように、凹凸構造領域(12a及び12b)には、複数の凹部又は凸部又はその両方が設けられている。
さらに、凹凸構造領域(12a及び12b)を被覆するように反射層13を形成している。
【0015】
本発明に用いられる光透過層11の材料としては、例えば、アクリル、ポリカーボネート、エポキシ、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの可視光透過性を有する樹脂を使用することができる。その中でも、例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、原版を用いた転写により、光透過層11の背面(金属反射層13との界面)に複数の凹部又は凸部又はその両方が設けられた凹凸構造領域を容易に形成することができる。
【0016】
光透過層11は可視光の少なくとも一部の波長について十分な透過率を有していればよく、特定の波長帯域を吸収する色素などを添加してもよい。その場合、光透過層11を通して見える部分が着色して見える。
【0017】
本発明における表示体10では、凹凸構造領域12a及び12bを光透過層11の背面側に含んでいるため、凹凸構造の損傷を生じ難く、表示体の表示像に高い耐久性を付与することができ、安定した偽造防止効果を発揮できる。
【0018】
本発明に用いられる金属反射層13としては、例えば、アルミニウム、銀、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。本発明の表示体10は金属反射層13を凹凸構造領域(12a及び12b)の少なくとも一部を被覆するように設けているが、金属反射層13に被覆されていない凹凸構造領域は、屈折率の近い樹脂などで被覆されてしまうことで、凹凸構造がないものとして、光学的な作用を及ぼさなくなる。一般的に、偽造防止用の表示体は物品に貼付されるものであるから、接着層などで凹凸構造領域は被覆される。従って、金属反射層によって被覆された部分のみが光学的な作用を及ぼし、金属反射層によって被覆されていない部分は透明なフィルムと同様となるため、金属反射層の被覆領域の外形によって絵柄が表現でき、また金属反射層の被覆領域内にある凹凸構造領域や非凹凸構造領域の配置によって更に多彩な表示が可能となる。以下、光学的な作用効果を論じる場合には、金属反射層の被覆領域に関しての議論を前提とする。
【0019】
本発明の表示体10では、金属反射層13の膜厚を5nm以上60nm以下としている。一般的な金属反射層では、反射率は膜厚に依存し、概ね40nm以上の厚みがあれば高い反射率で安定する。一方、概ね40nmより厚みが小さい場合、反射率の低下がはっきりと現れる。目視で認識できる程度に金属反射層としての効果を発揮するためには、5nm以上の厚みが必要である。具体的には、例えば、図19の実験結果に示すように平滑面におけるアルミニウムの反射層の反射率・透過率は変化している。銀、金などの他の代表的な金属反射層でも、同様の傾向が見られる。ここで、本発明における金属反射層13の膜厚とは、平滑面を被覆した際の物理膜厚を示すものである。
【0020】
本発明の表示体では、凹凸構造領域及びそれ以外の領域に蒸着・スパッタ等の方法を用いて、金属反射層を一様な条件で形成した場合、凹凸構造領域における実効的な膜厚(以下、実効膜厚)は小さくなる。つまり、凹凸構造領域での反射率は低下し、透過率は増加する。特に、本発明では、金属反射層の膜厚(以下、物理膜厚)が5nm以上60nm以下であるため、凹凸構造領域における実効膜厚の変化は、金属反射層の反射率・透過率の変化に直接的に関係している。
【0021】
このとき、平滑面(非凹凸構造領域12c)に対して5nm以上60nm以下の範囲の中で予め決められた物理膜厚となるように金属反射層を一様に蒸着すると、図3に示すように、凹凸構造領域(12a又は12b)の傾斜面の傾斜角θが45度以上であれば、非凹凸構造領域12cにおいて最大60nm程度の物理膜厚(h1)があったとしても、凹凸構造領域(12aまたは12b)における傾斜面の傾斜角θを考慮した実効膜厚(h2)は概ね40nmより小さくなり、凹凸構造領域(12a又は12b)では非凹凸構造領域12cに比べて反射率が低下する。ここで、傾斜面の傾斜角θとは、凹凸構造領域を平面として捉えたときの、その平面と凹部又は凸部の傾斜面とのなす角を意味する。
【0022】
さらに、凹凸構造領域(12aまたは12b)の周期が400nm以下であれば、構造の凹みには蒸着されにくくなり、一層反射率は低下する。また、傾斜面の傾斜角θがほぼ90度の場合には、深さ・高さが大きいほど、反射率は低下しやすい。これらの構造による反射率の低下は、透過率の上昇と対応している。
【0023】
従って、凹凸構造領域(12a又は12b)に配置された複数の凹部又は凸部の周期や深さ・高さ、傾斜面の傾斜角θに依存して、背面に配置された印刷絵柄が凹凸構造領域(12a又は12b)の構造によってそれぞれ異なる透過率で透けて見えることになる。特に、凹凸構造領域の凹部又は凸部が傾斜角45度以上である傾斜面を含んでいるときは、反射率及び透過率の設定幅を広げることができるため好ましい。
【0024】
本発明における印刷絵柄とは、印刷層21、あるいは印刷層21のインキ類と基材23の組み合わせによって表現された絵柄(画像、図柄、数字、文字、パターンなど)を指す。
【0025】
すなわち、印刷絵柄と、凹凸構造領域、金属反射層の組み合わせにより、多彩な表示が行うことが可能である。印刷絵柄は主として、印刷インキ22aの配置により、はっきりしたコントラスト(白等の明色/黒等の暗色)や濃淡表現、色を使った複雑な絵柄の表現に向いている。はっきりしたコントラストの印刷絵柄は、上記の透過率の上昇を際立たせ、視覚効果を顕著にすることができる。なお、図2では透明な接着剤22bもインキの一種とし、印刷層の一部としている。また、必要に応じて用いられる、基材23との密着性を上げるためのアンカー層などもここでは印刷層の一部とする。
【0026】
一方、凹凸構造領域については、以下に示すように、別の光学効果を考慮しなければならない。
【0027】
図4及び図5は、図1及び図2に示す表示体の凹凸構造領域12a及び12bにそれぞれ採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図である。
【0028】
図4に示す凹凸構造領域12aには、複数の凹部14aが設けられている。ここでは、複数の凹部14aのみにより凹凸構造領域12aが形成されているが、これは一例にすぎず、本発明では、複数の凸部、又は、複数の凹部と凸部を用いて凹凸構造領域12aを形成することができる。なお、図4に示す凹凸構造領域12aは、1次元的に一定の周期で配列してなる。
【0029】
図5に示す凹凸構造領域12bには、複数の凸部14bが設けられている。ここでは、複数の凸部14bのみにより凹凸構造領域12bが形成されているが、これは一例にすぎず、本発明では、複数の凸部、又は、複数の凹部と凸部を用いて凹凸構造領域12bを形成することができる。なお、図5に示す凹凸構造領域12bは、2次元的に一定の周期で配列してなる。
【0030】
また、図2に示す非凹凸構造領域12cは、平滑面である。
【0031】
次に、凹凸構造領域12a及び12bに起因した表示体10の特殊な視覚効果について説明する。
【0032】
図6は、凹凸構造領域12aが回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図6において、31aは照明光を示し、32aは正反射光又は0次回折光を示し、33aは1次回折光を示している。
【0033】
本発明の凹凸構造領域において、凹部又は凸部又はその両方の周期が一定の周期を有しているとき、凹凸構造領域に照明光を照射すると、凹凸構造領域は、入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に回折光を射出する。特に、金属反射層で凹凸構造領域を被覆していることにより、高い反射率、高い回折効率を得ることができやすくなる。
【0034】
最も代表的な回折光は、1次回折光である。1次回折光の射出角βは、下記等式(1)から算出することができる。
d=λ/(sinα−sinβ)…(1)
【0035】
この等式(1)において、dは凹部又は凸部の構造の周期を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、すなわち正反射光、の射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は、照明光の入射角の絶対値と等しく、正反射光の射出角は入射角とはZ軸に対して対称な関係である。なお、α、βは、Z軸から時計回りの方向を正方向とする。
【0036】
等式(1)から明らかなように、1次回折光の射出角βは、波長λに応じて変化する。すなわち、凹凸構造領域は、分光器としての機能を有している。したがって、照明光が白色光である場合、凹凸構造領域の観察角度を変化させると、観察者が知覚する色が変化する。
また、或る観察条件のもとで観察者が知覚する色は、周期dに応じて変化する。
【0037】
一例として、凹凸構造領域は、その法線方向に1次回折光を射出するとする。ここで、法線方向とは凹凸構造領域を面として捉えたときに、その面と垂直な方向を意味する。すなわち、1次回折光の射出角βは、0°であるとする。そして、観察者は、この1次回折光を知覚するとする。このときの0次回折光の射出角をαNとすると、等式(1)は、下記等式(2)へと簡略化することができる。
d=λ/sinαN…(2)
【0038】
等式(2)から明らかなように、観察者に特定の色を知覚させるには、その色に対応した波長λと照明光の入射角|αN|と周期dとを、それらが等式(2)に示す関係を満足するように設定すればよい。
【0039】
ここで、周期dを可視光の波長と同程度以下に小さくすると(具体的には周期dが400nm以下)、法線方向には1次回折光が射出しなくなる。つまり、本発明における凹部又は凸部又はその両方の周期が400nm以下であると、可視波長範囲400〜700nmにおいて、凹部又は凸部又はその両方からの回折光成分が、法線方向へ発生することを避けることができる。(2)式において、89°の照明光であっても400nmの光がようやく法線方向付近へ向かうことになるので、実質的に可視波長の全てについて実際上起こりうるほぼ全ての照明条件下で十分な強度の回折光が当該凹凸構造領域から法線方向に発生することが無くなる。従って、法線方向から観察した際に、凹凸構造領域をより確実に低反射条件にすることができ、真偽判定が容易となり、偽造防止効果を高めることができる。
【0040】
凹部又は凸部又はその両方の周期が400nm以下であり、かつ、金属反射層が十分に厚く形成された場合(100nm以上)を考えると、透過率が低くなり、凹凸構造領域がそれ以外の領域に比べて暗い、あるいは黒い領域として観察されることになる。特に、図5のように2次元的に一定の周期で配列されている場合、法線方向から観察する際の反射率は一層低下し、凹凸構造領域によってより黒い領域を表現することができる。
【0041】
図7は、凹部又は凸部又はその両方の周期が400nm以下である場合の凹凸構造領域12bが回折光を射出する様子を概略的に示す図である。照明光31bに対する正反射光32bを著しく小さくすることができ、また、構造の周期性により照明光31bの入射角度によっては可視光の1次回折光33bを特定方向に発生させることができる。図7において、31bは照明光を示し、32bは正反射光又は0次回折光を示し、33bは1次回折光を示している。
【0042】
また、凹部又は凸部の又はその両方の周期が200nm以上350nm以下であると、可視波長範囲400〜700nmにおいて、少なくとも赤色成分の回折光が凹凸構造領域において観察されることが無くなる。(1)式において、350nmの周期では89°の照明光の場合におよそ700nmの光が89°方向へ回折することになるので、実質的に赤色光についてはあらゆる照明条件下で十分な強度の回折光が当該凹凸構造領域から法線方向に発生することが無くなる。一方、200nmの周期では89°の照明光の場合におよそ400nmの光が89°方向へ回折することになるので、青色光が回折される下限であることが分かる。従って、凹部又は凸部の又はその両方の配置間隔が200nm以上350nm以下とすることにより、深い角度の照明光に対して、同様に深い角度から赤色以外の回折光を観察することができる。また、それ以外の条件では、回折光が発生せず、一般的な観察条件下では回折光が認識されることはない。従って、法線方向から観察した際に、凹凸構造領域をより確実に低反射にすることができると共に、特定条件下では青色もしくは緑色等の回折光を観察することができ、極めて真偽判定が容易かつ確実となり、偽造防止効果を高めることができる。
【0043】
一方、本発明における表示体では、前述のように、金属反射層の膜厚が5nm以上60nm以下に設定されているため、凹凸構造領域は単に黒く(暗く)なるだけではなく、透過率も上昇する。特に、より黒くなる凹凸構造領域の条件では、透過率がより高くなりやすい。
【0044】
従って、本発明における表示体では、非凹凸構造領域では、反射率が最大(鏡面)となり、周期が400nm以下であり、傾斜面の傾斜角の大きい(45度以上)凹凸構造領域では、反射率が最小となる。また、周期が400nmより大きく、傾斜面の傾斜角の小さい(45度未満)凹凸構造領域では、反射率が中程度となる。さらに、非凹凸構造領域では、透過率が最小(印刷絵柄がもっとも見えにくい、あるいは見えない)となり、周期が400nm以下であり、傾斜面の傾斜角の大きい(45度以上)凹凸構造領域では、透過率が最大(印刷絵柄が見やすい)となる。また、周期が400nmより大きく、傾斜面の傾斜角の小さい(45度未満)凹凸構造領域では、透過率が中程度(印刷絵柄がやや見える)となる。
【0045】
本発明における表示体では、このような見え方の複合により、目視による真偽判定が容易となり、偽造防止効果を高めることができる。特に、非凹凸構造領域を含むことにより、視覚効果の多彩さが増加するだけでなく、その鏡面的な光学効果と凹凸構造領域の光学効果との対比が容易になり、一層の偽造防止効果を得ることが可能である。
【0046】
具体的には、例えば、本発明における表示体10をその法線方向から観察した場合、凹凸構造領域12bは低反射状態となり、印刷絵柄がよく見える。一方、非凹凸構造領域12cは高反射率、凹凸構造領域12aは中程度の反射率であり、それぞれに被覆する金属反射層における反射率の強弱、下地の印刷絵柄の見え方として異なる印象を与える。極端な場合、凹凸構造領域12bは、あたかも金属反射層上に形成された印刷絵柄の如く見える。
【0047】
しかも、前述の通り凹凸構造領域の周期の設定を適切に行うことにより、射出される回折光を観察することも可能である。通常、印刷絵柄の散乱光よりも、特定方向に射出する1次回折光の方が強いため、回折光が観察される際には、該当する凹凸構造領域の印刷絵柄はほとんど見えなくなる。従って、観察角度を変えていくことによって、印刷絵柄が透けて見える状態から、回折光が観察される状態への切り替わりを認識することが可能となり、通常の印刷物とは全く異なり、極めて高い偽造防止効果を発揮させることができる。
【0048】
図8は、図1及び2に対応する表示体の目視観察結果の概略を示す説明図である。
【0049】
図8(a)は通常の照明条件下において、表示体の正面付近で観察した様子を示している。すなわち、印刷インキの黒い部分22aと400nm以下の周期の凹凸構造領域12bが重なっている領域は一際黒く見え(「9」の文字の右半分)、透明な接着剤である印刷インキ22bを介して白地の基材23と凹凸構造領域12bが重なっている部分は明るい領域として見える(「9」の文字の左半分)。やや粗い周期の凹凸構造領域12aと重なっている部分は、透過率が低く、印刷絵柄の濃淡がかすかにしか見えない。それ以外の白く表現されている部分は非凹凸構造領域12cに相当し、金属反射層がアルミニウムや銀の場合、銀色の鏡面に見える(30nm以上の金属反射層があれば、ほぼ印刷層は見えない)。
【0050】
一方、図8(b)は、回折光が観察される条件で表示体を観察した様子を示している。すなわち、印刷絵柄はほとんど見えず、各凹凸構造領域からは凹凸構造の周期に依存した波長の回折光が観察され、非凹凸構造領域12cは相変わらず鏡面のままに見える。
【0051】
以上、図8は、金属反射層が全体にあるものとして説明した。一方、金属反射層が一部を被覆する例を図9及び9を用いて説明する。
【0052】
図9は、(a)が400nm以下の周期の凹凸構造領域12を、(b)が金属反射層13の被覆領域を、(c)が印刷層21を示している。印刷絵柄は、黒インキ22c、白インキ22d、グレーインキ22eで塗り表現されている。これらを重ねて本発明の表示体を構成し、観察した結果を図10に示す。
【0053】
図10(a)は通常の照明条件下において、表示体の正面付近で観察した様子を示している。すなわち、黒インキ22c部分と凹凸構造領域12が重なっている領域は一際黒く見え、グレーインキ22e部分と凹凸構造領域12が重なっている領域は若干黒く見え、白インキ22dと凹凸構造領域12bが重なっている部分は明るい領域として見える。四隅の白い三角形は、非凹凸構造領域に金属反射層があるため、鏡面に見える。これらの外側は通常の印刷インキが直接見えている。
【0054】
一方、図10(b)は、回折光が観察される条件で表示体を観察した様子を示している。すなわち、印刷絵柄はほとんど見えず、凹凸構造領域からは凹凸構造の周期に依存した波長の回折光が観察され、非凹凸構造領域は相変わらず鏡面のままに見える。金属反射層が無い部分は通常の印刷インキが直接見える。
【0055】
なお、凹凸構造領域は、図1や図9のような複雑な外形の閉領域に限らず、例えば、矩形や円形などでもよい。微小な矩形や円形の領域を凹凸構造領域とし、マトリクス状に並べて配置することにより、デジタル画像データから容易に任意の画像を表示する表示体を形成することができる。この場合、通常の目視観察時に高精細な画像として認識されるので、1つの領域を300μm以下の大きさにすることが望ましい。
【0056】
また、レーザー光による干渉縞のフォトレジストへの記録や等ピッチでの微細加工などの方法を用いて、設計通りに凹凸構造領域が配置された原版を形成することが可能である。さらに、その原版を用いて熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂にエンボス加工を行うことにより、複雑で緻密な凹凸構造領域をパターン化した場合でも同一の表示体を精密に量産できる。また、金属反射層の形成も、エンボス加工面に一定条件で一様な蒸着、スパッタ等を行うことができ、簡便に安定した量産が可能である。その後、印刷した基材との精度の良い貼り合わせなどは周知の技術を活用することができる。しかもその一方で、本発明の表示体の外観から、その凹部又は凸部又はその両方の構造や配置パターンを解析し、全く同一の表示体を作製することは極めて困難であり、偽造防止効果が高い。
【0057】
以上のように、本発明における表示体10を通常の照明条件下において観察を行う場合、金属反射層に被覆された領域において、凹凸構造領域の構造に応じた反射率での反射面としての効果と、凹凸構造領域の構造に応じた透過率で印刷絵柄が透けて見える効果とを、組み合わせて観察することができる。従って、金属反射層に被覆された領域において、凹凸構造領域で表現されたパターンと印刷絵柄とが確認することができる。
【0058】
また、本発明における表示体10において、凹凸構造領域から回折光が射出する条件下において観察を行う場合、金属反射層に被覆された凹凸構造領域において回折光が強く認識され、印刷絵柄はほとんど認識することができなくなる。
【0059】
本発明における凹凸構造領域では、外形形状や配置パターンにより、絵柄を表現することで、偽造又は模造が困難になるだけでなく、視覚的にも認識しやすくなるため、真贋判定を一層容易にすることができる。
【0060】
また、印刷絵柄が、金属反射層に被覆された凹凸構造領域に配置されている場合、または、金属反射層に被覆された凹凸構造領域と金属反射層に被覆された非凹凸構造領域に配置されている場合、印刷絵柄は、少なくとも、黒色又は暗色と、白色又は明色と、から形成されていることが好ましい。ここで、黒色又は暗色は全可視波長について光の反射率がおよそ30%以下となるような色、白色又は明色は全可視波長又は可視光のうちの特定波長について光の反射率がおよそ70%以上となるような色を指し、前者と後者を組み合わせて表現された印刷絵柄はコントラストが高いものとなる。
【0061】
また、金属反射層に被覆された凹凸構造領域は、予め設定した透過率を実現するものであるが、一般的には100%よりはずっと低い透過率となる。従って、その下地となる印刷絵柄として、コントラストの高い絵柄を配置すると、透過率が低くても容易に印刷絵柄が認識できるようになる。
【0062】
印刷絵柄は、繰り返しパターンや一様なパターンからなる柄とし、金属反射層に被覆された凹凸構造領域と金属反射層に被覆されていない凹凸構造領域に亘って配置することにより、印刷絵柄と金属反射層/凹凸構造領域との位置合わせを必ずしも必要なくでき、作製を容易にするとともに、直接印刷絵柄が観察される部分と金属反射層に被覆された凹凸構造領域を通して観察される部分とができ、比較することによって真正品であることを確認しやすくなる。
【0063】
また、金属反射層に被覆された凹凸構造領域と金属反射層に被覆された非凹凸構造領域に亘って印刷絵柄として繰り返しパターンや一様なパターンからなる柄を表示することにより、印刷絵柄と金属反射層/凹凸構造領域との位置合わせを必ずしも必要なくでき、作製を容易にするとともに、凹凸構造領域と非凹凸構造領域との境界における反射率の差異による印刷絵柄の透け方をはっきりと確認できるようになり、真贋判定を助ける。
【0064】
印刷絵柄が、上述したように、金属反射層に被覆された凹凸構造領域と金属反射層に被覆されていない凹凸構造領域及び/又は非凹凸構造領域に配置されている場合、印刷絵柄は、少なくとも、黒色又は暗色と、白色又は明色と、から形成されていることが好ましい。
【0065】
また、複数の凹部又は凸部の周期又は/及び深さ・高さ又は/及び配列パターンが異なる複数の凹凸構造領域を有することによって、反射率や回折光の出方を任意に変えられるため、これらの設計値を複数用意し、複数の凹凸構造領域に対して選択的に使用することで、特に回折光により階調や色を表示体に付与することが可能となる。同時に、透過率も変化させることができるため、印刷絵柄と複合した視覚効果は独特のものとなり、観察者に真正品であることが分かりやすい。
【0066】
図11乃至図14は、凹凸構造領域の2次元的な配置例を示す平面図である。以下、凹部や凸部、X方向やY方向に関する議論は、それぞれ入れ替えても同様に成り立つ。
【0067】
図11では、凸部14bがX方向とY方向とで等しい周期で配置している例である。このように配置することで、設計や作製工程を簡略化することができ、また1次元的な配置に比べて反射率を低下させやすい。さらに、回折光を観察する場合に、X方向とY方向とで同一条件であるため、回折光を観察しやすく、上述した視覚効果の確認が容易となる。一方、凸部14bの周期をX方向及びY方向の双方で小さく設定すると、照明方向に拘らず、凹凸構造領域12bから法線方向への回折光の射出を防止することができる。
【0068】
図12は、凸部14bがX方向とY方向とで異なる周期で配置している例である。ここでは、X方向の凸部14bの周期よりもY方向の凸部14bの周期の方が大きいため、X方向よりもY方向の方が回折角が小さい。また、それぞれの方向の周期を(1)式を使って適切に設定することにより、Y方向に垂直な方向から表示体10を照明した場合と、X方向に垂直な方向から表示体10を照明した場合とでは、凹凸構造領域12bから射出する回折光の波長を異ならしめることも可能である。
【0069】
一方、凸部14bの周期をX方向及びY方向の双方で小さく設定した場合、照明方向に拘らず、凹凸構造領域12bから法線方向への回折光の射出を防止することができる。また、一方向のみの周期を小さく設定すると、当該方向においては法線方向への回折光の射出を防止し、直交方向においては法線方向へ回折光を射出させることができる。
【0070】
図13では、凸部14bが不規則に配置されている。凸部14bを不規則に配置した場合、凹凸構造領域12bからの回折光の射出がさらに生じ難くなる。なお、この配置は、例えば、光の干渉を利用してスペックルの強度分布を記録することにより形成することができる。また、図13では、凸部14bの大きさを均一に図示しているが、不均一であってもよい。このように不規則に配置した場合、平均周期が十分に大きくなるにつれ、上述の1次回折光の代わりとして、散乱光が観察される。従って、白く光る領域を表現することができる。
【0071】
図14(a)では、凸部14bと凹部14cがそれぞれX方向とY方向とで異なる周期で配置している例である。図14(b)は、凸部14bと凹部14cとを備える凹凸構造領域12bの製造方法を概略的に示す平面図である。
【0072】
図14(b)では、破線領域L1乃至L4に示すように、Y方向に1回目の線状凹部形成を行っている。次に、破線領域L5乃至L9に示すように、X方向に2回目の線状凹部形成を行っている。破線領域L1乃至L4と破線領域L5乃至L9が交差する箇所は、凹部形成を2回行っているため、最も深い凹部14c(図14(a)及び(b)では黒丸で示す)が形成される。破線領域L1乃至L9内であり、破線領域が交差していない箇所は、凹部形成を1回のみ行っているため、凹部14cの約半分の深さを有する中間部14dが形成される。破線領域L1乃至L9外であり、破線領域L1乃至L9で周囲を囲まれた箇所は、凹部形成を1回も行っていないため、深さを有さない凸部14b(図14(a)及び(b)では白丸で示す)が形成される。具体的な凹部形成方法としては、レジスト材料に対してレーザーの干渉パターンを記録したり、電子線描画を行う方法を挙げることができる。
【0073】
図14(b)に示す製造方法を用いて形成された凹凸構造領域12bの原版では、レジスト材料表面と凸部14b先端が概ね同じ高さに位置している。すなわち、中間部14dの高さを平面として捉え、基準面としたときに、基準面がレジスト材料表面より下部に位置している。
【0074】
しかし、本発明の凹凸構造領域12bはこれに限定されるものではなく、凸部14bと凹部14cとを備える凹凸構造領域12bにおいて、基準面が、レジスト材料表面と同一平面上に位置していても、上部に位置していてもよい。さらに、中間部14dは、省略することも可能である。また、凸部14bと凹部14cとを備える凹凸構造領域12bでは、凸部14bの高さ及び凹部14cの深さは基準面からの深さおよび高さを意味している。
【0075】
図11乃至14に例示したように、凹部又は凸部又はその両方の配置パターンには、様々な変形が可能である。そして、各配置パターンは、それに固有の視覚効果等を有している。それゆえ、凹部又は凸部又はその両方の配置パターンが異なる複数の凹凸構造領域12bを用いて表示体を構成すると、より複雑な視覚効果を得ることができる。
【0076】
図11乃至14の説明では、主としてX方向、Y方向に構造が配列している場合について説明したが、配列方向は任意に選択でき、2次元的な配列も直交している必要はない。配列の周期方向に、(1)式に従って1次回折光が射出する可能性があるため、回折光の観察を考慮して配列方向を決定することが好ましい。複数の凹凸構造領域において、異なる配列方向にしておくと、それぞれの回折光は異なる方向から独立に観察できるようにすることも可能である。
【0077】
図15乃至16は、本発明において採用可能な凹凸構造領域の例を拡大して示す斜視図である。ここでは、複数の凸部14bのみにより凹凸構造領域12bが形成されているが、これは一例にすぎず、本発明では、複数の凹部、又は、複数の凹部と凸部を用いて凹凸構造領域12bを形成することができる。
【0078】
図15乃至16に示す構造は、図5に示す構造の変形例である。図15乃至16に示す凸部14bは何れも、順テーパ形状を有している。そのため、凹凸構造領域12bの反射率は小さくなりやすい。
【0079】
図5に示す構造では、凸部14bは、円錐形状を有している。凹部及び/又は凸部を円錐形状とする場合、凹部及び/又は凸部は先端が尖っていてもよく、切頭円錐形状を有していてもよい。但し、凹部及び/又は凸部を先端が尖った円錐形状とした場合、凹部及び/又は凸部は凹凸構造領域に平行な面を有していないので、切頭円錐形状とした場合と比較して、凹凸構造領域の正反射光をより小さくしやすい。
【0080】
図15に示す構造では、凸部14bは、四角錐形状を有している。凹部及び/又は凸部は、三角錐形状などの四角錐形状以外の角錐形状を有していてもよい。この場合、特定条件で発生する回折光の強度を高くすることができ、観察をより容易にする。また、凹部及び/又は凸部を角錐形状とする場合、凹部及び/又は凸部は先端が尖っていてもよく、切頭角錐形状を有していてもよい。但し、凹部及び/又は凸部を先端が尖った角錐形状とした場合、凹部及び/又は凸部は凹凸構造領域に平行な面を有していないので、切頭角錐形状とした場合と比較して、凹凸構造領域の正反射光をより小さくしやすい。
【0081】
図16に示す構造では、凸部14bは、紡錘形状を有している。図16に示す構造を採用した場合、図5又は図15に示す構造を採用した場合より、凹凸構造領域の反射率を小さくすることは難しい。ただし、図16に示す構造を採用した場合、図5又は図15に示す構造を採用した場合と比較して、原版への凹部及び/又は凸部の形成や原版から光透過層11への凹部及び/又は凸部の転写がより容易である。
【0082】
図17に示す構造では、凸部14bは、底面積が異なる複数の四角柱をその底面積が大きなものから順に積み重ねた構造を有している。なお、四角柱の代わりに、円柱や三角柱などの四角柱以外の柱状体を積み重ねてもよい。
【0083】
図17に示す構造を採用した場合、図5、図15又は図16に示す構造を採用した場合と比較して、凹凸構造領域の正反射光を小さくすることが難しい。但し、図17に示す構造を採用した場合、図5、図15又は図16に示す構造を採用した場合より、バイナリ加工プロセスによって精密かつ安定した凹部及び/又は凸部の形成が可能である。
【0084】
このように、凹部及び/又は凸部の形状は、凹凸構造領域の反射率に影響を及ぼす。それゆえ、凹部及び/又は凸部の形状が異なる複数の画素で凹凸構造領域を構成すると、凹凸構造領域で階調表示を行うこともできる。
【0085】
また、本発明で用いられる凹凸構造領域は、凹部又は凸部の深さ又は高さを大きくすると、より反射率を低くすることができる。例えば、凹部又は凸部の深さ又は高さを、それらの周期の1/2以上とすると(凹凸構造の傾斜面の角度は確実に45度以上を含むようになる)、凹凸構造領域は、極めて低反射率になる。それゆえ、凹部又は凸部の深さ又は高さが異なる複数の凹凸構造領域で表示体を構成すると、凹凸構造領域で階調表示を行うことができる。
【0086】
本発明で用いられる凹凸構造領域は、凹凸構造領域を平面として捉えたときの、その平面内における一方向についての凹部又は凸部の寸法とこの方向についての凹部又は凸部の周期とを1:1に近づけると、より反射率を低くすることができる。そして、前記平面内における一方向についての凹部又は凸部の寸法とこの方向についての周期とを等しくした場合、凹凸構造領域は最も低反射率となる。それゆえ、先の比が異なる複数の凹凸構造領域で表示体を構成すると、凹凸構造領域で階調表示を行うことができる。
【0087】
図18は、基材としてカードを用いた場合の一例を概略的に示す平面図である。
【0088】
この表示体10は、磁気カードである基材23を含んでいる。基材23は、例えば、プラスチックからなる。基材23上には、通常の印刷部52と帯状の磁気記録部53とが形成されている。さらに、基材23上には、偽造防止用又は識別用の領域があり、この領域が図1及び図2において説明した構成となっている。
【0089】
なお、通常の印刷部52と凹凸構造の裏面に配置する印刷層21とは必ずしも区別する必要はない。例えば、基材23の全面に印刷を行い、その一部に凹凸が形成された光透過層11と金属反射層13を接着することにより、簡便に本発明の効果を発揮する表示体10を構成することができる。その際、金属反射層に被覆された凹凸構造領域の透過率とその空間的配置を考慮して、デザインした印刷絵柄を印刷層21として印刷しておくことが好ましい。一方、凹凸構造領域の空間的配置と精度良く印刷絵柄を合わせたい場合には、予め光透過層11の凹凸構造面に形成された金属反射層上に印刷を行い、後から基材23に熱転写などにより接着しても良い。
【0090】
なお、図18には、基材23として磁気カードを例示しているが、基材23はこれに限定されるものではない。例えば、基材23は、無線カード、IC(integrated circuit)カード、ID(identification)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、基材23は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、基材23は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、基材23は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0091】
紙を基材23とする場合、紙の一部を光透過層の表面にも配置されるように構成すれば、基材と表示部分が完全に一体となるため、一層偽造防止効果が高まる。なお、例えば、表示体10を予め作った上で紙に漉き込み、表示体10が表示する絵柄が見えるように適当な位置で紙を開口させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図。
【図2】図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図。
【図3】凹凸構造領域に採用可能な凸部及び金属反射層を概略的に示す断面図。
【図4】図1及び図2に示す表示体の凹凸構造領域に採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図。
【図5】図1及び図2に示す表示体の凹凸構造領域に採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図。
【図6】凹凸構造領域が回折光を射出する様子を概略的に示す図。
【図7】より微細な凹凸構造領域が回折光を射出する様子を概略的に示す図。
【図8】図1及び図2に示す表示体の目視観察結果の概略的に示す平面図。
【図9】本発明の別の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図。
【図10】図9に示す表示体の目視観察結果の概略的に示す平面図。
【図11】凹凸構造領域に採用可能な凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図。
【図12】凹凸構造領域に採用可能な凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図。
【図13】凹凸構造領域に採用可能な凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図。
【図14】凹凸構造領域に採用可能な凹部及び凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図。
【図15】本発明において採用可能な凹凸構造領域の一例を拡大して示す斜視図。
【図16】本発明において採用可能な凹凸構造領域の一例を拡大して示す斜視図。
【図17】本発明において採用可能な凹凸構造領域の一例を拡大して示す斜視図。
【図18】カード状物品とした本発明の一例を概略的に示す平面図。
【図19】アルミニウムの膜厚による反射率・透過率の変化を示す図。
【符号の説明】
【0093】
10…表示体、11…光透過層、12a…凹凸構造領域、12b…凹凸構造領域、13…反射層、14a…凹部、14b…凸部、14c…凹部、14d…中間部、21…印刷層、22a…印刷インキ、22b…印刷インキ(接着剤)、22c…黒インキ、22d…白インキ、22e…グレーインキ、23…基材、31…照明光、32…正反射光又は0次回折光、33…1次回折光、52…印刷部、53…磁気記録部、h1…金属反射層の物理膜厚、h2…金属反射層の実効的な膜厚、θ…傾斜面の傾斜角
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
キャッシュカード、クレジットカード及びパスポートなどの認証物品並びに商品券及び株券などの有価証券には、偽造が困難であることが望まれる。そのため、従来から、そのような物品には、その偽造を抑止すべく、偽造又は模造が困難であると共に、偽造品や模造品との区別が容易なラベルが貼り付けられている。
【0003】
また、近年では、認証物品及び有価証券以外の物品についても、偽造品の流通が問題視されている。そのため、このような物品に、認証物品及び有価証券に関して上述した偽造防止技術を適用する機会が増えている。
【0004】
特許文献1には、複数の画素を配列してなる表示体が記載されている。この表示体において、各画素は、複数の溝を配置してなるレリーフ型回折格子を含んでいる。
【0005】
この表示体は、回折光を利用して画像を表示するため、印刷技術や電子写真技術を利用した偽造等は不可能である。したがって、この表示体を真偽判定用のラベルとして物品に取り付ければ、このラベルが表示する画像を見てその物品が真正品であることを確認することができる。それゆえ、このラベルを取り付けた物品は、このラベルを取り付けていない物品と比較して偽造され難い。
【0006】
しかしながら、先のレリーフ型回折格子は、回折光を十分に観察しやすくするため、回折格子の凹凸の深さは100nm前後であり、回折格子の凹凸形成面に高反射率の金属反射層を付けたものである。従って、回折光が観察されない場合、銀色の鏡面としての印象が強いため、何らかの加工を行ったアルミ箔などによって似たものが作られやすい。また、回折光が観察される場合でも、回折格子自体がレーザー光源の普及によって作製容易になってきており、この表示体の目視における偽造防止効果は低下しつつある。
なお、ここでは、偽造又は模造が困難であること、偽造品や模造品との区別が容易であることを偽造防止効果と呼ぶ。
【0007】
【特許文献1】特開平2−72320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、より高い偽造防止効果を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1側面によると、基材、印刷層、金属反射層、光透過層を順に具備しており、前記光透過層の金属反射層側の界面は、複数の凹部又は凸部又はその両方を含む凹凸構造領域を少なくとも1領域以上有しており、前記金属反射層は、膜厚が5nm以上60nm以下であり、かつ、前記凹凸構造領域の少なくとも一部を被覆しており、前記印刷層は、印刷絵柄を含んでおり、前記金属反射層に被覆された前記凹凸構造領域の少なくとも一部に前記印刷絵柄を配置していることを特徴とする表示体が提供される。
【0010】
本発明の第2側面によると、基材、印刷層、金属反射層、光透過層を順に具備しており、前記光透過層の金属反射層側の界面は、平滑面からなる非凹凸構造領域と複数の凹部又は凸部又はその両方を含む凹凸構造領域とを少なくとも各々1領域以上有しており、前記金属反射層は、膜厚が5nm以上60nm以下であり、かつ、前記非凹凸構造領域の少なくとも一部と前記凹凸構造領域の少なくとも一部を被覆しており、前記印刷層は、印刷絵柄を含んでおり、前記金属反射層に被覆された前記凹凸構造領域の少なくとも一部に前記印刷絵柄を配置していることを特徴とする表示体が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、より高い偽造防止効果を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は、本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図である。図1(a)は光透過層の凹凸構造領域の配置パターンを示し、同(b)は印刷層の印刷パターンを示している。観察者からは、図1の(a)の背面に(b)が配置されていることになる。図2は、図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図である。
【0014】
この表示体10は、光透過層11、金属反射層13、印刷層21、基材23からなり、図2に示す例では、上方向(光透過層11側)から観察するものとして、光透過層11と反射層13の界面に、凹凸構造領域12a及び12bと非凹凸構造領域12cとを含んでいる。後述するように、凹凸構造領域(12a及び12b)には、複数の凹部又は凸部又はその両方が設けられている。
さらに、凹凸構造領域(12a及び12b)を被覆するように反射層13を形成している。
【0015】
本発明に用いられる光透過層11の材料としては、例えば、アクリル、ポリカーボネート、エポキシ、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの可視光透過性を有する樹脂を使用することができる。その中でも、例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、原版を用いた転写により、光透過層11の背面(金属反射層13との界面)に複数の凹部又は凸部又はその両方が設けられた凹凸構造領域を容易に形成することができる。
【0016】
光透過層11は可視光の少なくとも一部の波長について十分な透過率を有していればよく、特定の波長帯域を吸収する色素などを添加してもよい。その場合、光透過層11を通して見える部分が着色して見える。
【0017】
本発明における表示体10では、凹凸構造領域12a及び12bを光透過層11の背面側に含んでいるため、凹凸構造の損傷を生じ難く、表示体の表示像に高い耐久性を付与することができ、安定した偽造防止効果を発揮できる。
【0018】
本発明に用いられる金属反射層13としては、例えば、アルミニウム、銀、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。本発明の表示体10は金属反射層13を凹凸構造領域(12a及び12b)の少なくとも一部を被覆するように設けているが、金属反射層13に被覆されていない凹凸構造領域は、屈折率の近い樹脂などで被覆されてしまうことで、凹凸構造がないものとして、光学的な作用を及ぼさなくなる。一般的に、偽造防止用の表示体は物品に貼付されるものであるから、接着層などで凹凸構造領域は被覆される。従って、金属反射層によって被覆された部分のみが光学的な作用を及ぼし、金属反射層によって被覆されていない部分は透明なフィルムと同様となるため、金属反射層の被覆領域の外形によって絵柄が表現でき、また金属反射層の被覆領域内にある凹凸構造領域や非凹凸構造領域の配置によって更に多彩な表示が可能となる。以下、光学的な作用効果を論じる場合には、金属反射層の被覆領域に関しての議論を前提とする。
【0019】
本発明の表示体10では、金属反射層13の膜厚を5nm以上60nm以下としている。一般的な金属反射層では、反射率は膜厚に依存し、概ね40nm以上の厚みがあれば高い反射率で安定する。一方、概ね40nmより厚みが小さい場合、反射率の低下がはっきりと現れる。目視で認識できる程度に金属反射層としての効果を発揮するためには、5nm以上の厚みが必要である。具体的には、例えば、図19の実験結果に示すように平滑面におけるアルミニウムの反射層の反射率・透過率は変化している。銀、金などの他の代表的な金属反射層でも、同様の傾向が見られる。ここで、本発明における金属反射層13の膜厚とは、平滑面を被覆した際の物理膜厚を示すものである。
【0020】
本発明の表示体では、凹凸構造領域及びそれ以外の領域に蒸着・スパッタ等の方法を用いて、金属反射層を一様な条件で形成した場合、凹凸構造領域における実効的な膜厚(以下、実効膜厚)は小さくなる。つまり、凹凸構造領域での反射率は低下し、透過率は増加する。特に、本発明では、金属反射層の膜厚(以下、物理膜厚)が5nm以上60nm以下であるため、凹凸構造領域における実効膜厚の変化は、金属反射層の反射率・透過率の変化に直接的に関係している。
【0021】
このとき、平滑面(非凹凸構造領域12c)に対して5nm以上60nm以下の範囲の中で予め決められた物理膜厚となるように金属反射層を一様に蒸着すると、図3に示すように、凹凸構造領域(12a又は12b)の傾斜面の傾斜角θが45度以上であれば、非凹凸構造領域12cにおいて最大60nm程度の物理膜厚(h1)があったとしても、凹凸構造領域(12aまたは12b)における傾斜面の傾斜角θを考慮した実効膜厚(h2)は概ね40nmより小さくなり、凹凸構造領域(12a又は12b)では非凹凸構造領域12cに比べて反射率が低下する。ここで、傾斜面の傾斜角θとは、凹凸構造領域を平面として捉えたときの、その平面と凹部又は凸部の傾斜面とのなす角を意味する。
【0022】
さらに、凹凸構造領域(12aまたは12b)の周期が400nm以下であれば、構造の凹みには蒸着されにくくなり、一層反射率は低下する。また、傾斜面の傾斜角θがほぼ90度の場合には、深さ・高さが大きいほど、反射率は低下しやすい。これらの構造による反射率の低下は、透過率の上昇と対応している。
【0023】
従って、凹凸構造領域(12a又は12b)に配置された複数の凹部又は凸部の周期や深さ・高さ、傾斜面の傾斜角θに依存して、背面に配置された印刷絵柄が凹凸構造領域(12a又は12b)の構造によってそれぞれ異なる透過率で透けて見えることになる。特に、凹凸構造領域の凹部又は凸部が傾斜角45度以上である傾斜面を含んでいるときは、反射率及び透過率の設定幅を広げることができるため好ましい。
【0024】
本発明における印刷絵柄とは、印刷層21、あるいは印刷層21のインキ類と基材23の組み合わせによって表現された絵柄(画像、図柄、数字、文字、パターンなど)を指す。
【0025】
すなわち、印刷絵柄と、凹凸構造領域、金属反射層の組み合わせにより、多彩な表示が行うことが可能である。印刷絵柄は主として、印刷インキ22aの配置により、はっきりしたコントラスト(白等の明色/黒等の暗色)や濃淡表現、色を使った複雑な絵柄の表現に向いている。はっきりしたコントラストの印刷絵柄は、上記の透過率の上昇を際立たせ、視覚効果を顕著にすることができる。なお、図2では透明な接着剤22bもインキの一種とし、印刷層の一部としている。また、必要に応じて用いられる、基材23との密着性を上げるためのアンカー層などもここでは印刷層の一部とする。
【0026】
一方、凹凸構造領域については、以下に示すように、別の光学効果を考慮しなければならない。
【0027】
図4及び図5は、図1及び図2に示す表示体の凹凸構造領域12a及び12bにそれぞれ採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図である。
【0028】
図4に示す凹凸構造領域12aには、複数の凹部14aが設けられている。ここでは、複数の凹部14aのみにより凹凸構造領域12aが形成されているが、これは一例にすぎず、本発明では、複数の凸部、又は、複数の凹部と凸部を用いて凹凸構造領域12aを形成することができる。なお、図4に示す凹凸構造領域12aは、1次元的に一定の周期で配列してなる。
【0029】
図5に示す凹凸構造領域12bには、複数の凸部14bが設けられている。ここでは、複数の凸部14bのみにより凹凸構造領域12bが形成されているが、これは一例にすぎず、本発明では、複数の凸部、又は、複数の凹部と凸部を用いて凹凸構造領域12bを形成することができる。なお、図5に示す凹凸構造領域12bは、2次元的に一定の周期で配列してなる。
【0030】
また、図2に示す非凹凸構造領域12cは、平滑面である。
【0031】
次に、凹凸構造領域12a及び12bに起因した表示体10の特殊な視覚効果について説明する。
【0032】
図6は、凹凸構造領域12aが回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図6において、31aは照明光を示し、32aは正反射光又は0次回折光を示し、33aは1次回折光を示している。
【0033】
本発明の凹凸構造領域において、凹部又は凸部又はその両方の周期が一定の周期を有しているとき、凹凸構造領域に照明光を照射すると、凹凸構造領域は、入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に回折光を射出する。特に、金属反射層で凹凸構造領域を被覆していることにより、高い反射率、高い回折効率を得ることができやすくなる。
【0034】
最も代表的な回折光は、1次回折光である。1次回折光の射出角βは、下記等式(1)から算出することができる。
d=λ/(sinα−sinβ)…(1)
【0035】
この等式(1)において、dは凹部又は凸部の構造の周期を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、すなわち正反射光、の射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は、照明光の入射角の絶対値と等しく、正反射光の射出角は入射角とはZ軸に対して対称な関係である。なお、α、βは、Z軸から時計回りの方向を正方向とする。
【0036】
等式(1)から明らかなように、1次回折光の射出角βは、波長λに応じて変化する。すなわち、凹凸構造領域は、分光器としての機能を有している。したがって、照明光が白色光である場合、凹凸構造領域の観察角度を変化させると、観察者が知覚する色が変化する。
また、或る観察条件のもとで観察者が知覚する色は、周期dに応じて変化する。
【0037】
一例として、凹凸構造領域は、その法線方向に1次回折光を射出するとする。ここで、法線方向とは凹凸構造領域を面として捉えたときに、その面と垂直な方向を意味する。すなわち、1次回折光の射出角βは、0°であるとする。そして、観察者は、この1次回折光を知覚するとする。このときの0次回折光の射出角をαNとすると、等式(1)は、下記等式(2)へと簡略化することができる。
d=λ/sinαN…(2)
【0038】
等式(2)から明らかなように、観察者に特定の色を知覚させるには、その色に対応した波長λと照明光の入射角|αN|と周期dとを、それらが等式(2)に示す関係を満足するように設定すればよい。
【0039】
ここで、周期dを可視光の波長と同程度以下に小さくすると(具体的には周期dが400nm以下)、法線方向には1次回折光が射出しなくなる。つまり、本発明における凹部又は凸部又はその両方の周期が400nm以下であると、可視波長範囲400〜700nmにおいて、凹部又は凸部又はその両方からの回折光成分が、法線方向へ発生することを避けることができる。(2)式において、89°の照明光であっても400nmの光がようやく法線方向付近へ向かうことになるので、実質的に可視波長の全てについて実際上起こりうるほぼ全ての照明条件下で十分な強度の回折光が当該凹凸構造領域から法線方向に発生することが無くなる。従って、法線方向から観察した際に、凹凸構造領域をより確実に低反射条件にすることができ、真偽判定が容易となり、偽造防止効果を高めることができる。
【0040】
凹部又は凸部又はその両方の周期が400nm以下であり、かつ、金属反射層が十分に厚く形成された場合(100nm以上)を考えると、透過率が低くなり、凹凸構造領域がそれ以外の領域に比べて暗い、あるいは黒い領域として観察されることになる。特に、図5のように2次元的に一定の周期で配列されている場合、法線方向から観察する際の反射率は一層低下し、凹凸構造領域によってより黒い領域を表現することができる。
【0041】
図7は、凹部又は凸部又はその両方の周期が400nm以下である場合の凹凸構造領域12bが回折光を射出する様子を概略的に示す図である。照明光31bに対する正反射光32bを著しく小さくすることができ、また、構造の周期性により照明光31bの入射角度によっては可視光の1次回折光33bを特定方向に発生させることができる。図7において、31bは照明光を示し、32bは正反射光又は0次回折光を示し、33bは1次回折光を示している。
【0042】
また、凹部又は凸部の又はその両方の周期が200nm以上350nm以下であると、可視波長範囲400〜700nmにおいて、少なくとも赤色成分の回折光が凹凸構造領域において観察されることが無くなる。(1)式において、350nmの周期では89°の照明光の場合におよそ700nmの光が89°方向へ回折することになるので、実質的に赤色光についてはあらゆる照明条件下で十分な強度の回折光が当該凹凸構造領域から法線方向に発生することが無くなる。一方、200nmの周期では89°の照明光の場合におよそ400nmの光が89°方向へ回折することになるので、青色光が回折される下限であることが分かる。従って、凹部又は凸部の又はその両方の配置間隔が200nm以上350nm以下とすることにより、深い角度の照明光に対して、同様に深い角度から赤色以外の回折光を観察することができる。また、それ以外の条件では、回折光が発生せず、一般的な観察条件下では回折光が認識されることはない。従って、法線方向から観察した際に、凹凸構造領域をより確実に低反射にすることができると共に、特定条件下では青色もしくは緑色等の回折光を観察することができ、極めて真偽判定が容易かつ確実となり、偽造防止効果を高めることができる。
【0043】
一方、本発明における表示体では、前述のように、金属反射層の膜厚が5nm以上60nm以下に設定されているため、凹凸構造領域は単に黒く(暗く)なるだけではなく、透過率も上昇する。特に、より黒くなる凹凸構造領域の条件では、透過率がより高くなりやすい。
【0044】
従って、本発明における表示体では、非凹凸構造領域では、反射率が最大(鏡面)となり、周期が400nm以下であり、傾斜面の傾斜角の大きい(45度以上)凹凸構造領域では、反射率が最小となる。また、周期が400nmより大きく、傾斜面の傾斜角の小さい(45度未満)凹凸構造領域では、反射率が中程度となる。さらに、非凹凸構造領域では、透過率が最小(印刷絵柄がもっとも見えにくい、あるいは見えない)となり、周期が400nm以下であり、傾斜面の傾斜角の大きい(45度以上)凹凸構造領域では、透過率が最大(印刷絵柄が見やすい)となる。また、周期が400nmより大きく、傾斜面の傾斜角の小さい(45度未満)凹凸構造領域では、透過率が中程度(印刷絵柄がやや見える)となる。
【0045】
本発明における表示体では、このような見え方の複合により、目視による真偽判定が容易となり、偽造防止効果を高めることができる。特に、非凹凸構造領域を含むことにより、視覚効果の多彩さが増加するだけでなく、その鏡面的な光学効果と凹凸構造領域の光学効果との対比が容易になり、一層の偽造防止効果を得ることが可能である。
【0046】
具体的には、例えば、本発明における表示体10をその法線方向から観察した場合、凹凸構造領域12bは低反射状態となり、印刷絵柄がよく見える。一方、非凹凸構造領域12cは高反射率、凹凸構造領域12aは中程度の反射率であり、それぞれに被覆する金属反射層における反射率の強弱、下地の印刷絵柄の見え方として異なる印象を与える。極端な場合、凹凸構造領域12bは、あたかも金属反射層上に形成された印刷絵柄の如く見える。
【0047】
しかも、前述の通り凹凸構造領域の周期の設定を適切に行うことにより、射出される回折光を観察することも可能である。通常、印刷絵柄の散乱光よりも、特定方向に射出する1次回折光の方が強いため、回折光が観察される際には、該当する凹凸構造領域の印刷絵柄はほとんど見えなくなる。従って、観察角度を変えていくことによって、印刷絵柄が透けて見える状態から、回折光が観察される状態への切り替わりを認識することが可能となり、通常の印刷物とは全く異なり、極めて高い偽造防止効果を発揮させることができる。
【0048】
図8は、図1及び2に対応する表示体の目視観察結果の概略を示す説明図である。
【0049】
図8(a)は通常の照明条件下において、表示体の正面付近で観察した様子を示している。すなわち、印刷インキの黒い部分22aと400nm以下の周期の凹凸構造領域12bが重なっている領域は一際黒く見え(「9」の文字の右半分)、透明な接着剤である印刷インキ22bを介して白地の基材23と凹凸構造領域12bが重なっている部分は明るい領域として見える(「9」の文字の左半分)。やや粗い周期の凹凸構造領域12aと重なっている部分は、透過率が低く、印刷絵柄の濃淡がかすかにしか見えない。それ以外の白く表現されている部分は非凹凸構造領域12cに相当し、金属反射層がアルミニウムや銀の場合、銀色の鏡面に見える(30nm以上の金属反射層があれば、ほぼ印刷層は見えない)。
【0050】
一方、図8(b)は、回折光が観察される条件で表示体を観察した様子を示している。すなわち、印刷絵柄はほとんど見えず、各凹凸構造領域からは凹凸構造の周期に依存した波長の回折光が観察され、非凹凸構造領域12cは相変わらず鏡面のままに見える。
【0051】
以上、図8は、金属反射層が全体にあるものとして説明した。一方、金属反射層が一部を被覆する例を図9及び9を用いて説明する。
【0052】
図9は、(a)が400nm以下の周期の凹凸構造領域12を、(b)が金属反射層13の被覆領域を、(c)が印刷層21を示している。印刷絵柄は、黒インキ22c、白インキ22d、グレーインキ22eで塗り表現されている。これらを重ねて本発明の表示体を構成し、観察した結果を図10に示す。
【0053】
図10(a)は通常の照明条件下において、表示体の正面付近で観察した様子を示している。すなわち、黒インキ22c部分と凹凸構造領域12が重なっている領域は一際黒く見え、グレーインキ22e部分と凹凸構造領域12が重なっている領域は若干黒く見え、白インキ22dと凹凸構造領域12bが重なっている部分は明るい領域として見える。四隅の白い三角形は、非凹凸構造領域に金属反射層があるため、鏡面に見える。これらの外側は通常の印刷インキが直接見えている。
【0054】
一方、図10(b)は、回折光が観察される条件で表示体を観察した様子を示している。すなわち、印刷絵柄はほとんど見えず、凹凸構造領域からは凹凸構造の周期に依存した波長の回折光が観察され、非凹凸構造領域は相変わらず鏡面のままに見える。金属反射層が無い部分は通常の印刷インキが直接見える。
【0055】
なお、凹凸構造領域は、図1や図9のような複雑な外形の閉領域に限らず、例えば、矩形や円形などでもよい。微小な矩形や円形の領域を凹凸構造領域とし、マトリクス状に並べて配置することにより、デジタル画像データから容易に任意の画像を表示する表示体を形成することができる。この場合、通常の目視観察時に高精細な画像として認識されるので、1つの領域を300μm以下の大きさにすることが望ましい。
【0056】
また、レーザー光による干渉縞のフォトレジストへの記録や等ピッチでの微細加工などの方法を用いて、設計通りに凹凸構造領域が配置された原版を形成することが可能である。さらに、その原版を用いて熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂にエンボス加工を行うことにより、複雑で緻密な凹凸構造領域をパターン化した場合でも同一の表示体を精密に量産できる。また、金属反射層の形成も、エンボス加工面に一定条件で一様な蒸着、スパッタ等を行うことができ、簡便に安定した量産が可能である。その後、印刷した基材との精度の良い貼り合わせなどは周知の技術を活用することができる。しかもその一方で、本発明の表示体の外観から、その凹部又は凸部又はその両方の構造や配置パターンを解析し、全く同一の表示体を作製することは極めて困難であり、偽造防止効果が高い。
【0057】
以上のように、本発明における表示体10を通常の照明条件下において観察を行う場合、金属反射層に被覆された領域において、凹凸構造領域の構造に応じた反射率での反射面としての効果と、凹凸構造領域の構造に応じた透過率で印刷絵柄が透けて見える効果とを、組み合わせて観察することができる。従って、金属反射層に被覆された領域において、凹凸構造領域で表現されたパターンと印刷絵柄とが確認することができる。
【0058】
また、本発明における表示体10において、凹凸構造領域から回折光が射出する条件下において観察を行う場合、金属反射層に被覆された凹凸構造領域において回折光が強く認識され、印刷絵柄はほとんど認識することができなくなる。
【0059】
本発明における凹凸構造領域では、外形形状や配置パターンにより、絵柄を表現することで、偽造又は模造が困難になるだけでなく、視覚的にも認識しやすくなるため、真贋判定を一層容易にすることができる。
【0060】
また、印刷絵柄が、金属反射層に被覆された凹凸構造領域に配置されている場合、または、金属反射層に被覆された凹凸構造領域と金属反射層に被覆された非凹凸構造領域に配置されている場合、印刷絵柄は、少なくとも、黒色又は暗色と、白色又は明色と、から形成されていることが好ましい。ここで、黒色又は暗色は全可視波長について光の反射率がおよそ30%以下となるような色、白色又は明色は全可視波長又は可視光のうちの特定波長について光の反射率がおよそ70%以上となるような色を指し、前者と後者を組み合わせて表現された印刷絵柄はコントラストが高いものとなる。
【0061】
また、金属反射層に被覆された凹凸構造領域は、予め設定した透過率を実現するものであるが、一般的には100%よりはずっと低い透過率となる。従って、その下地となる印刷絵柄として、コントラストの高い絵柄を配置すると、透過率が低くても容易に印刷絵柄が認識できるようになる。
【0062】
印刷絵柄は、繰り返しパターンや一様なパターンからなる柄とし、金属反射層に被覆された凹凸構造領域と金属反射層に被覆されていない凹凸構造領域に亘って配置することにより、印刷絵柄と金属反射層/凹凸構造領域との位置合わせを必ずしも必要なくでき、作製を容易にするとともに、直接印刷絵柄が観察される部分と金属反射層に被覆された凹凸構造領域を通して観察される部分とができ、比較することによって真正品であることを確認しやすくなる。
【0063】
また、金属反射層に被覆された凹凸構造領域と金属反射層に被覆された非凹凸構造領域に亘って印刷絵柄として繰り返しパターンや一様なパターンからなる柄を表示することにより、印刷絵柄と金属反射層/凹凸構造領域との位置合わせを必ずしも必要なくでき、作製を容易にするとともに、凹凸構造領域と非凹凸構造領域との境界における反射率の差異による印刷絵柄の透け方をはっきりと確認できるようになり、真贋判定を助ける。
【0064】
印刷絵柄が、上述したように、金属反射層に被覆された凹凸構造領域と金属反射層に被覆されていない凹凸構造領域及び/又は非凹凸構造領域に配置されている場合、印刷絵柄は、少なくとも、黒色又は暗色と、白色又は明色と、から形成されていることが好ましい。
【0065】
また、複数の凹部又は凸部の周期又は/及び深さ・高さ又は/及び配列パターンが異なる複数の凹凸構造領域を有することによって、反射率や回折光の出方を任意に変えられるため、これらの設計値を複数用意し、複数の凹凸構造領域に対して選択的に使用することで、特に回折光により階調や色を表示体に付与することが可能となる。同時に、透過率も変化させることができるため、印刷絵柄と複合した視覚効果は独特のものとなり、観察者に真正品であることが分かりやすい。
【0066】
図11乃至図14は、凹凸構造領域の2次元的な配置例を示す平面図である。以下、凹部や凸部、X方向やY方向に関する議論は、それぞれ入れ替えても同様に成り立つ。
【0067】
図11では、凸部14bがX方向とY方向とで等しい周期で配置している例である。このように配置することで、設計や作製工程を簡略化することができ、また1次元的な配置に比べて反射率を低下させやすい。さらに、回折光を観察する場合に、X方向とY方向とで同一条件であるため、回折光を観察しやすく、上述した視覚効果の確認が容易となる。一方、凸部14bの周期をX方向及びY方向の双方で小さく設定すると、照明方向に拘らず、凹凸構造領域12bから法線方向への回折光の射出を防止することができる。
【0068】
図12は、凸部14bがX方向とY方向とで異なる周期で配置している例である。ここでは、X方向の凸部14bの周期よりもY方向の凸部14bの周期の方が大きいため、X方向よりもY方向の方が回折角が小さい。また、それぞれの方向の周期を(1)式を使って適切に設定することにより、Y方向に垂直な方向から表示体10を照明した場合と、X方向に垂直な方向から表示体10を照明した場合とでは、凹凸構造領域12bから射出する回折光の波長を異ならしめることも可能である。
【0069】
一方、凸部14bの周期をX方向及びY方向の双方で小さく設定した場合、照明方向に拘らず、凹凸構造領域12bから法線方向への回折光の射出を防止することができる。また、一方向のみの周期を小さく設定すると、当該方向においては法線方向への回折光の射出を防止し、直交方向においては法線方向へ回折光を射出させることができる。
【0070】
図13では、凸部14bが不規則に配置されている。凸部14bを不規則に配置した場合、凹凸構造領域12bからの回折光の射出がさらに生じ難くなる。なお、この配置は、例えば、光の干渉を利用してスペックルの強度分布を記録することにより形成することができる。また、図13では、凸部14bの大きさを均一に図示しているが、不均一であってもよい。このように不規則に配置した場合、平均周期が十分に大きくなるにつれ、上述の1次回折光の代わりとして、散乱光が観察される。従って、白く光る領域を表現することができる。
【0071】
図14(a)では、凸部14bと凹部14cがそれぞれX方向とY方向とで異なる周期で配置している例である。図14(b)は、凸部14bと凹部14cとを備える凹凸構造領域12bの製造方法を概略的に示す平面図である。
【0072】
図14(b)では、破線領域L1乃至L4に示すように、Y方向に1回目の線状凹部形成を行っている。次に、破線領域L5乃至L9に示すように、X方向に2回目の線状凹部形成を行っている。破線領域L1乃至L4と破線領域L5乃至L9が交差する箇所は、凹部形成を2回行っているため、最も深い凹部14c(図14(a)及び(b)では黒丸で示す)が形成される。破線領域L1乃至L9内であり、破線領域が交差していない箇所は、凹部形成を1回のみ行っているため、凹部14cの約半分の深さを有する中間部14dが形成される。破線領域L1乃至L9外であり、破線領域L1乃至L9で周囲を囲まれた箇所は、凹部形成を1回も行っていないため、深さを有さない凸部14b(図14(a)及び(b)では白丸で示す)が形成される。具体的な凹部形成方法としては、レジスト材料に対してレーザーの干渉パターンを記録したり、電子線描画を行う方法を挙げることができる。
【0073】
図14(b)に示す製造方法を用いて形成された凹凸構造領域12bの原版では、レジスト材料表面と凸部14b先端が概ね同じ高さに位置している。すなわち、中間部14dの高さを平面として捉え、基準面としたときに、基準面がレジスト材料表面より下部に位置している。
【0074】
しかし、本発明の凹凸構造領域12bはこれに限定されるものではなく、凸部14bと凹部14cとを備える凹凸構造領域12bにおいて、基準面が、レジスト材料表面と同一平面上に位置していても、上部に位置していてもよい。さらに、中間部14dは、省略することも可能である。また、凸部14bと凹部14cとを備える凹凸構造領域12bでは、凸部14bの高さ及び凹部14cの深さは基準面からの深さおよび高さを意味している。
【0075】
図11乃至14に例示したように、凹部又は凸部又はその両方の配置パターンには、様々な変形が可能である。そして、各配置パターンは、それに固有の視覚効果等を有している。それゆえ、凹部又は凸部又はその両方の配置パターンが異なる複数の凹凸構造領域12bを用いて表示体を構成すると、より複雑な視覚効果を得ることができる。
【0076】
図11乃至14の説明では、主としてX方向、Y方向に構造が配列している場合について説明したが、配列方向は任意に選択でき、2次元的な配列も直交している必要はない。配列の周期方向に、(1)式に従って1次回折光が射出する可能性があるため、回折光の観察を考慮して配列方向を決定することが好ましい。複数の凹凸構造領域において、異なる配列方向にしておくと、それぞれの回折光は異なる方向から独立に観察できるようにすることも可能である。
【0077】
図15乃至16は、本発明において採用可能な凹凸構造領域の例を拡大して示す斜視図である。ここでは、複数の凸部14bのみにより凹凸構造領域12bが形成されているが、これは一例にすぎず、本発明では、複数の凹部、又は、複数の凹部と凸部を用いて凹凸構造領域12bを形成することができる。
【0078】
図15乃至16に示す構造は、図5に示す構造の変形例である。図15乃至16に示す凸部14bは何れも、順テーパ形状を有している。そのため、凹凸構造領域12bの反射率は小さくなりやすい。
【0079】
図5に示す構造では、凸部14bは、円錐形状を有している。凹部及び/又は凸部を円錐形状とする場合、凹部及び/又は凸部は先端が尖っていてもよく、切頭円錐形状を有していてもよい。但し、凹部及び/又は凸部を先端が尖った円錐形状とした場合、凹部及び/又は凸部は凹凸構造領域に平行な面を有していないので、切頭円錐形状とした場合と比較して、凹凸構造領域の正反射光をより小さくしやすい。
【0080】
図15に示す構造では、凸部14bは、四角錐形状を有している。凹部及び/又は凸部は、三角錐形状などの四角錐形状以外の角錐形状を有していてもよい。この場合、特定条件で発生する回折光の強度を高くすることができ、観察をより容易にする。また、凹部及び/又は凸部を角錐形状とする場合、凹部及び/又は凸部は先端が尖っていてもよく、切頭角錐形状を有していてもよい。但し、凹部及び/又は凸部を先端が尖った角錐形状とした場合、凹部及び/又は凸部は凹凸構造領域に平行な面を有していないので、切頭角錐形状とした場合と比較して、凹凸構造領域の正反射光をより小さくしやすい。
【0081】
図16に示す構造では、凸部14bは、紡錘形状を有している。図16に示す構造を採用した場合、図5又は図15に示す構造を採用した場合より、凹凸構造領域の反射率を小さくすることは難しい。ただし、図16に示す構造を採用した場合、図5又は図15に示す構造を採用した場合と比較して、原版への凹部及び/又は凸部の形成や原版から光透過層11への凹部及び/又は凸部の転写がより容易である。
【0082】
図17に示す構造では、凸部14bは、底面積が異なる複数の四角柱をその底面積が大きなものから順に積み重ねた構造を有している。なお、四角柱の代わりに、円柱や三角柱などの四角柱以外の柱状体を積み重ねてもよい。
【0083】
図17に示す構造を採用した場合、図5、図15又は図16に示す構造を採用した場合と比較して、凹凸構造領域の正反射光を小さくすることが難しい。但し、図17に示す構造を採用した場合、図5、図15又は図16に示す構造を採用した場合より、バイナリ加工プロセスによって精密かつ安定した凹部及び/又は凸部の形成が可能である。
【0084】
このように、凹部及び/又は凸部の形状は、凹凸構造領域の反射率に影響を及ぼす。それゆえ、凹部及び/又は凸部の形状が異なる複数の画素で凹凸構造領域を構成すると、凹凸構造領域で階調表示を行うこともできる。
【0085】
また、本発明で用いられる凹凸構造領域は、凹部又は凸部の深さ又は高さを大きくすると、より反射率を低くすることができる。例えば、凹部又は凸部の深さ又は高さを、それらの周期の1/2以上とすると(凹凸構造の傾斜面の角度は確実に45度以上を含むようになる)、凹凸構造領域は、極めて低反射率になる。それゆえ、凹部又は凸部の深さ又は高さが異なる複数の凹凸構造領域で表示体を構成すると、凹凸構造領域で階調表示を行うことができる。
【0086】
本発明で用いられる凹凸構造領域は、凹凸構造領域を平面として捉えたときの、その平面内における一方向についての凹部又は凸部の寸法とこの方向についての凹部又は凸部の周期とを1:1に近づけると、より反射率を低くすることができる。そして、前記平面内における一方向についての凹部又は凸部の寸法とこの方向についての周期とを等しくした場合、凹凸構造領域は最も低反射率となる。それゆえ、先の比が異なる複数の凹凸構造領域で表示体を構成すると、凹凸構造領域で階調表示を行うことができる。
【0087】
図18は、基材としてカードを用いた場合の一例を概略的に示す平面図である。
【0088】
この表示体10は、磁気カードである基材23を含んでいる。基材23は、例えば、プラスチックからなる。基材23上には、通常の印刷部52と帯状の磁気記録部53とが形成されている。さらに、基材23上には、偽造防止用又は識別用の領域があり、この領域が図1及び図2において説明した構成となっている。
【0089】
なお、通常の印刷部52と凹凸構造の裏面に配置する印刷層21とは必ずしも区別する必要はない。例えば、基材23の全面に印刷を行い、その一部に凹凸が形成された光透過層11と金属反射層13を接着することにより、簡便に本発明の効果を発揮する表示体10を構成することができる。その際、金属反射層に被覆された凹凸構造領域の透過率とその空間的配置を考慮して、デザインした印刷絵柄を印刷層21として印刷しておくことが好ましい。一方、凹凸構造領域の空間的配置と精度良く印刷絵柄を合わせたい場合には、予め光透過層11の凹凸構造面に形成された金属反射層上に印刷を行い、後から基材23に熱転写などにより接着しても良い。
【0090】
なお、図18には、基材23として磁気カードを例示しているが、基材23はこれに限定されるものではない。例えば、基材23は、無線カード、IC(integrated circuit)カード、ID(identification)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、基材23は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、基材23は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、基材23は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0091】
紙を基材23とする場合、紙の一部を光透過層の表面にも配置されるように構成すれば、基材と表示部分が完全に一体となるため、一層偽造防止効果が高まる。なお、例えば、表示体10を予め作った上で紙に漉き込み、表示体10が表示する絵柄が見えるように適当な位置で紙を開口させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図。
【図2】図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図。
【図3】凹凸構造領域に採用可能な凸部及び金属反射層を概略的に示す断面図。
【図4】図1及び図2に示す表示体の凹凸構造領域に採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図。
【図5】図1及び図2に示す表示体の凹凸構造領域に採用可能な構造の一例を拡大して示す斜視図。
【図6】凹凸構造領域が回折光を射出する様子を概略的に示す図。
【図7】より微細な凹凸構造領域が回折光を射出する様子を概略的に示す図。
【図8】図1及び図2に示す表示体の目視観察結果の概略的に示す平面図。
【図9】本発明の別の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図。
【図10】図9に示す表示体の目視観察結果の概略的に示す平面図。
【図11】凹凸構造領域に採用可能な凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図。
【図12】凹凸構造領域に採用可能な凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図。
【図13】凹凸構造領域に採用可能な凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図。
【図14】凹凸構造領域に採用可能な凹部及び凸部の配置パターンの例を概略的に示す平面図。
【図15】本発明において採用可能な凹凸構造領域の一例を拡大して示す斜視図。
【図16】本発明において採用可能な凹凸構造領域の一例を拡大して示す斜視図。
【図17】本発明において採用可能な凹凸構造領域の一例を拡大して示す斜視図。
【図18】カード状物品とした本発明の一例を概略的に示す平面図。
【図19】アルミニウムの膜厚による反射率・透過率の変化を示す図。
【符号の説明】
【0093】
10…表示体、11…光透過層、12a…凹凸構造領域、12b…凹凸構造領域、13…反射層、14a…凹部、14b…凸部、14c…凹部、14d…中間部、21…印刷層、22a…印刷インキ、22b…印刷インキ(接着剤)、22c…黒インキ、22d…白インキ、22e…グレーインキ、23…基材、31…照明光、32…正反射光又は0次回折光、33…1次回折光、52…印刷部、53…磁気記録部、h1…金属反射層の物理膜厚、h2…金属反射層の実効的な膜厚、θ…傾斜面の傾斜角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、印刷層、金属反射層、光透過層を順に具備しており、
前記光透過層の金属反射層側の界面は、複数の凹部又は凸部又はその両方を含む凹凸構造領域を少なくとも1領域以上有しており、
前記金属反射層は、膜厚が5nm以上60nm以下であり、かつ、前記凹凸構造領域の少なくとも一部を被覆しており、
前記印刷層は、印刷絵柄を含んでおり、前記金属反射層に被覆された前記凹凸構造領域の少なくとも一部に前記印刷絵柄を配置している
ことを特徴とする表示体。
【請求項2】
基材、印刷層、金属反射層、光透過層を順に具備しており、
前記光透過層の金属反射層側の界面は、平滑面からなる非凹凸構造領域と複数の凹部又は凸部又はその両方を含む凹凸構造領域とを少なくとも各々1領域以上有しており、
前記金属反射層は、膜厚が5nm以上60nm以下であり、かつ、前記非凹凸構造領域の少なくとも一部と前記凹凸構造領域の少なくとも一部を被覆しており、
前記印刷層は、印刷絵柄を含んでおり、前記金属反射層に被覆された前記凹凸構造領域の少なくとも一部に前記印刷絵柄を配置している
ことを特徴とする表示体。
【請求項3】
前記凹凸構造領域の凹部又は凸部は、傾斜角が45度以上である傾斜面を含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の表示体。
【請求項4】
前記凹凸構造領域の凹部又は凸部は、1次元もしくは2次元的に一定の周期で配列していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の表示体。
【請求項5】
前記複数の凹部又は凸部の周期又は/及び深さ・高さ又は/及び配列パターンが異なる複数の凹凸構造領域を有していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の表示体。
【請求項6】
前記金属反射層に被覆された前記凹凸構造領域の形状又は/及び配置パターンが、絵柄を表現していることを特徴とする請求項1乃至5に記載の表示体。
【請求項7】
前記周期は、400nm以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の表示体。
【請求項8】
前記周期は、200nm乃至350nmの範囲内であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の表示体。
【請求項9】
前記印刷絵柄は、前記金属反射層に被覆された凹凸構造領域に配置されており、かつ、少なくとも、黒色又は暗色と、白色又は明色と、から形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の表示体。
【請求項10】
前記印刷絵柄は、前記金属反射層に被覆された凹凸構造領域と前記金属反射層に被覆されていない凹凸構造領域及び/又は非凹凸構造領域に配置されており、かつ、少なくとも、黒色又は暗色と、白色又は明色と、から形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の表示体。
【請求項11】
前記印刷絵柄は、前記金属反射層に被覆された凹凸構造領域と前記金属反射層に被覆された非凹凸構造領域に配置されており、かつ、少なくとも、黒色又は暗色と、白色又は明色と、から形成されていることを特徴とする請求項2から8のいずれかに記載の表示体。
【請求項1】
基材、印刷層、金属反射層、光透過層を順に具備しており、
前記光透過層の金属反射層側の界面は、複数の凹部又は凸部又はその両方を含む凹凸構造領域を少なくとも1領域以上有しており、
前記金属反射層は、膜厚が5nm以上60nm以下であり、かつ、前記凹凸構造領域の少なくとも一部を被覆しており、
前記印刷層は、印刷絵柄を含んでおり、前記金属反射層に被覆された前記凹凸構造領域の少なくとも一部に前記印刷絵柄を配置している
ことを特徴とする表示体。
【請求項2】
基材、印刷層、金属反射層、光透過層を順に具備しており、
前記光透過層の金属反射層側の界面は、平滑面からなる非凹凸構造領域と複数の凹部又は凸部又はその両方を含む凹凸構造領域とを少なくとも各々1領域以上有しており、
前記金属反射層は、膜厚が5nm以上60nm以下であり、かつ、前記非凹凸構造領域の少なくとも一部と前記凹凸構造領域の少なくとも一部を被覆しており、
前記印刷層は、印刷絵柄を含んでおり、前記金属反射層に被覆された前記凹凸構造領域の少なくとも一部に前記印刷絵柄を配置している
ことを特徴とする表示体。
【請求項3】
前記凹凸構造領域の凹部又は凸部は、傾斜角が45度以上である傾斜面を含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の表示体。
【請求項4】
前記凹凸構造領域の凹部又は凸部は、1次元もしくは2次元的に一定の周期で配列していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の表示体。
【請求項5】
前記複数の凹部又は凸部の周期又は/及び深さ・高さ又は/及び配列パターンが異なる複数の凹凸構造領域を有していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の表示体。
【請求項6】
前記金属反射層に被覆された前記凹凸構造領域の形状又は/及び配置パターンが、絵柄を表現していることを特徴とする請求項1乃至5に記載の表示体。
【請求項7】
前記周期は、400nm以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の表示体。
【請求項8】
前記周期は、200nm乃至350nmの範囲内であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の表示体。
【請求項9】
前記印刷絵柄は、前記金属反射層に被覆された凹凸構造領域に配置されており、かつ、少なくとも、黒色又は暗色と、白色又は明色と、から形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の表示体。
【請求項10】
前記印刷絵柄は、前記金属反射層に被覆された凹凸構造領域と前記金属反射層に被覆されていない凹凸構造領域及び/又は非凹凸構造領域に配置されており、かつ、少なくとも、黒色又は暗色と、白色又は明色と、から形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の表示体。
【請求項11】
前記印刷絵柄は、前記金属反射層に被覆された凹凸構造領域と前記金属反射層に被覆された非凹凸構造領域に配置されており、かつ、少なくとも、黒色又は暗色と、白色又は明色と、から形成されていることを特徴とする請求項2から8のいずれかに記載の表示体。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図1】
【図2】
【図8】
【図9】
【図10】
【図18】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図1】
【図2】
【図8】
【図9】
【図10】
【図18】
【公開番号】特開2009−192979(P2009−192979A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35726(P2008−35726)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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