説明

表示素子の電極保護膜

【課題】硫化水素雰囲気下で高温焼成した場合でも電極が硫化されないような表示素子の電極保護膜を提供する。
【解決手段】一対の電極層を有するエレクトロルミネッセント素子の、少なくとも一方の電極層の表面に設ける電極保護膜であって、前記保護層が、オクチル酸Baおよびオクチル酸Tiを主成分とするオクチル酸金属化合物と、バインダーと、溶媒と、を少なくとも含んでなる組成物を、前記電極の表面に塗布し、焼成して形成されたチタン酸バリウム膜であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセント素子(以下、EL素子ともいう。)の電極保護膜、およびその電極保護膜を用いたEL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
EL表示素子は、薄型、自発光などの特徴から、次世代の表示素子として、近年盛んに研究開発が進められている。EL素子には、発光源として有機材料を使用する有機EL素子および無機材料を使用する無機EL素子に大別される。
【0003】
無機EL素子は、有機EL素子に比較して、発光源が無機材料から構成されているため、素子が安定で優れた耐久性を備えるという特徴を有している。
【0004】
無機EL素子の構造は、単純には、発光源である発光層、誘電体層、および発光体に電圧を印可するための一対の電極層から構成されている。そして、このような構成は、上記の各層を順次、基材上に積層させることにより構築されている。すなわち、通常、発光層の形成は、一方の電極層を形成した後に行われる。
【0005】
無機材料からなる発光層は、一般的に高温焼成を経て形成されるため、無機EL素子の製造においては、必然的に、いずれか一方の電極も、発光層の形成時に高温焼成されることになる。従って、EL素子のいずれか少なくとも一方の電極は、このような高温焼成温度に耐えうる材料から構成される必要がある。
【0006】
また、EL素子に使用される発光無機化合物は、通常、Ceを添加したSrSやTmを添加したZnS、Smを添加したZnSやEuを添加したCaS、Tbを添加したZnSやCeを添加したCaS等の硫化物材料が用いられる場合があり、特開平7−122364号公報(特許文献1)に記載のように、硫化物材料で発光層を形成する際、硫黄の不足分を補うために、発光層の成膜時にHSガス等の雰囲気下で成膜することがある。
【0007】
しかしながら、このHSガスによって既存の電極が硫化されてしまい、導電性が低下したり、電極表面が黒色化してしまい、輝度が低下してしまうという問題がある。
【0008】
このような問題を解決するため、硫化物材料からなる発光材料を使用する無機EL素子においては、電極として、硫化物を作りにくいAuやPt等の金属を使用している。しかしながら、AuやPt等の金属は高価であるため、材料コストの観点から大画面表示素子等への応用には問題があった。
【特許文献1】特開平7−122364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、今般、特定の成分からなる組成物を電極層上に塗布し高温焼成して電極層表面に保護膜を形成することにより、硫化水素雰囲気下で高温焼成した場合でも電極が硫化されないとの知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0010】
従って、本発明の目的は、硫化水素雰囲気下で高温焼成した場合でも電極が硫化されないような表示素子の電極保護膜を提供することにある。
【0011】
また、本発明の別の目的は、上記電極保護膜の製造方法を提供することである。
【0012】
さらに、本発明の別の目的は、この電極保護膜を用いたEL表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による電極保護膜は、一対の電極層を有するエレクトロルミネッセント素子の、少なくとも一方の電極層の表面に設ける電極保護膜であって、
前記保護層が、オクチル酸Baおよびオクチル酸Tiを主成分とするオクチル酸金属化合物と、バインダーと、溶媒と、を少なくとも含んでなる組成物を、前記電極の表面に塗布し、焼成して形成されたチタン酸バリウム膜であることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の態様としては、前記バインダーはエチルセルロースであることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明の好ましい態様としては、前記溶媒が、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、およびα−ターピネオールからなる群から選択されるものである。
【0016】
上記の態様においては、前記溶媒全体に対して、イソプロピルアルコールが40重量%以上含まれてなることが好ましい。
【0017】
また、前記溶媒全体に対して、イソプロピルアルコールが40重量%以上、1−ブタノールが40重量%以下、およびα−ターピネオールが40重量%以下含まれてなることが好ましい。
【0018】
さらに、本発明の態様においては、前記組成物が、アセチレンアルコール系界面活性剤をさらに含んでなることが好ましい。
【0019】
本発明の好ましい態様として、電極保護膜は、膜厚が10〜500nmである。
【0020】
また、本発明の態様としては、前記電極が、Ag、またはAg/Pdの金属からなることが好ましい。
【0021】
本発明の別の態様による電極保護膜を製造する方法は、 オクチル酸Baおよびオクチル酸Tiを主成分とするオクチル酸金属化合物と、バインダーと、溶媒と、を少なくとも含んでなる組成物を準備する工程と、
前記組成物を、一対の電極層を有するエレクトロルミネッセント素子の、少なくとも一方の電極層の表面に塗布する工程と、
塗布された前記組成物を焼成して、チタン酸バリウム膜を形成する工程と、
を含んでなることを特徴とするものである。
【0022】
本発明の態様においては、前記塗布された組成物を、焼成する前に乾燥させる工程をさらに含んでなることが好ましい。
【0023】
また、好ましい態様においては、前記焼成を、500〜900℃で行う。
【0024】
さらに、本発明においては、別の態様として、上記の電極保護膜を含んでなる、エレクトロルミネッセント素子を提供する。
【0025】
本発明によれば、硫化水素雰囲気下で高温焼成した場合でも電極が硫化されないような表示素子を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
電極保護膜
以下、本発明による電極保護膜について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
エレクトロルミネッセント素子は、図1に示すように、一般的に、基板と、一対の電極層とその電極層の間に狭持された発光層とから構成され、所望により、電極層と発光層との間に誘電体層を設けたり、発光層上にカラーフィルタ層を適宜設けた構成を有する。
【0028】
本発明においては、この一対の電極層の少なくとも一方の表面に電極保護層が設けられている。そして、この電極保護層の表面上に、発光層または所望により誘電体層が形成されている。
【0029】
発光層は、後記するように、発光材料としてCeを添加したSrS等の硫化物等の無機材料を使用することができるが、発光層を形成する工程においては、形成する発光層によるが、500〜600℃以上の温度で焼成したり、また、硫黄の不足分を補うためにHSガス等の雰囲気下で発光層を形成することがある。
【0030】
本発明においては、電極層の表面上に、オクチル酸Baおよび/またはオクチル酸Tiを主成分とする組成物を塗布し、焼成することにより、強誘電体であるチタン酸バリウムの膜を形成するため、高温焼成時に電極が酸化されたり、また、HSガス等の雰囲気下で発光層を形成する際にも、電極が硫化されることがない。また、強誘電体であるチタン酸バリウムの膜であるため、この保護層自体の誘電率が向上する。その結果、発光層からの輝度が低下したり、発光輝度のムラ等も低減することもなく、かつエレクトロルミネッセント素子自体の寿命も向上する。
【0031】
本発明による電極保護膜は、電極上にスピンコート法等の塗布法によって強誘電体膜を形成したものであり、その塗工液として、オクチル酸Baおよびオクチル酸Tiを主成分とするオクチル酸金属化合物と、バインダーと、溶媒と、を少なくとも含んでなる組成物を用いるものである。
【0032】
強誘電体材料として従来から使用されているオクチル酸チタン等のオクチル酸金属化合物の1−ブタノール溶液は、その表面張力が24mN/m程度であり、濡れ性の観点からは十分に低い表面張力を有している。
【0033】
しかしながら、このような低表面張力の塗布液をガラス基材等に適用すると、塗布液が基材上に濡れ広がらずに弾かれたり、ムラが発生する。
【0034】
本発明においては、このオクチル酸金属化合物と溶剤に加え、バインダー成分を添加することにより、上記の問題を解決したものである。この理由は定かではないが以下のように考えられる。
【0035】
すなわち、オクチル酸金属化合物を溶剤に溶解させた溶液は、表面張力は低いものの、チキソトロピー性が低い。そのため、低剪断応力化での溶液粘度が低く、このような塗布液を基材に適用すると、基材上で塗布液が移動しやすく、その結果 基材に対して塗布液が弾かれると考えられる。また、上記と同様に、低剪断応力化での塗布液の粘度が低いと、塗布液内に対流が発生して塗布液中に不均一な部分が生じ、その結果、塗布膜にムラが発生するものと考えられる。
【0036】
本発明においては、バインダーを塗布液中に添加することにより、チキソトロピー性を増加させることができ、その結果、塗布法で形成した場合でも、ムラができず、均一な厚みの強誘電体層を形成することができるものと考えられる。
【0037】
以下、本発明の電極保護膜に用いられる組成物ついて説明する。
【0038】
本発明の電極保護膜に用いられる組成物は、オクチル酸Baおよびオクチル酸Tiを主成分として含有する。オクチル酸バリウムとオクチル酸チタンとを混合したものを焼成することにより、チタン酸バリウム(BaTiO)を製造できる。このようなオクチル酸金属化合物を含む強誘電体材料を使用することにより、ゾル状およびゲル状のチタン酸バリウム前駆体生成物を調製することなしに、熱分解または酸化分解反応のみで直接チタン酸バリウム薄膜を形成することができる。通常のゾルゲル法において用いられる強誘電体材料のである、バリウムチタニウムエチルヘキサノブトキシド等の金属アルコキシド化合物をブタノール等の溶剤に溶解させた材料は、当該材料をガラス基板上に滴下すると、溶剤が乾燥した後に粉末状となる。これは、金属アルコキシドが空気中の水分によって急激に加水分解されたためと考えられるが、このような粉末状の状態は、拭き取りの必要が生じた場合に、問題が生じる。また、溶剤の乾燥により粉末化するため、基材上に当該材料を適用する際にノズルから噴射するような塗布装置を用いた場合、ノズルが詰まったりすることがある。
【0039】
これに対し、上記したようなオクチル酸金属化合物を含む塗布液を用いた場合、溶媒が乾燥した後も塗膜の状態が保たれるとともに、拭き取りの必要が生じた場合であっても、溶剤によって容易に拭き取ることができる。また、ノズルから噴出させて塗布するような装置を用いて塗布液を基材上に塗布する場合でも、ノズルを詰まらせるようなことがない、という利点を有する。
【0040】
本発明において使用する組成物は、上記した通り、バインダー成分を含むことに特徴を有する。バインダー成分を添加することにより、保護膜のムラを大幅に低減することができる。バインダーの添加量は、組成物全体に対して、1〜10重量%であることが好ましい。10重量%を超えると、塗布液の粘度が高くなりすぎるため、スピンコート等の塗布法により当該塗布液を塗布できなくなる。また、バインダーの含有量が多いと焼成後の膜が疎になる傾向がある。この理由は、加熱により膜形成後、または膜形成中にバインダー成分(樹脂成分)が燃焼したり蒸発したりするためである。従って、基材との濡れ性が確保できるのであれば、バインダー含有量はできるだけ少ない方が好ましい。バインダーの添加量は、2〜5重量%がより好ましい。
【0041】
バインダーとしては、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロース誘導体、ポリアクリルエステル、アルキッド樹脂などのポリエステル系樹脂、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヘキシルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ドデシルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、オクチルアクリレート、セチルメタクリレート、セチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルメタクリレート、デシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ダイアセトンアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ジエチルアミノエチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、α−メチルスチレン、スチレン、ビニルトルエン、N−ビニル−2−ピロリドン等のモノマーからなる共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラールなどが挙げられる。これらのなかでも特にエチルセルロースが好ましい。
【0042】
本発明において使用する電極保護膜形成用組成物は、溶媒を必須成分として含有する。溶媒は、オクチル酸金属化合物およびバインダーの混合物を均一な状態で保持できるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノ−ル、1−ブタノール、2−エチルヘキサノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、α−、β−、γ−テルピネオール等のアルコール類、アルコール類以外として、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールジアルキルエーテル類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールジアルキルエーテル類、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、エチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルアセテート類、プロピレングリコールジアルキルエーテルアセテート類等を用いることができる。
【0043】
本発明においては、上記した溶媒の中でも、メタノール、エタノール、イソプロパノ−ル、1−ブタノール、2−エチルヘキサノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、α−、β−、γ−テルピネオール等のアルコール類を好ましく使用でき、これらを1種または2種以上混合して用いても良い。アルコール類以外の溶媒としては、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールジアルキルエーテル類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールジアルキルエーテル類、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、エチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルアセテート類、プロピレングリコールジアルキルエーテルアセテート類を好ましく使用でき、これらを上記のアルコール類に単独または2種類以上添加してもよい。
【0044】
バインダーを含む電極保護膜形成用組成物は、上記したように、基板に対して塗布液の濡れ性が優れ、塗膜のムラを抑制することができるが、基板表面が凹凸であったり、基板上に異物が付着しているような場合、塗布液が弾かれたり、凹部分に塗布液は入り込まずに、均一な塗膜が形成できない場合も生じる。本発明によれば、溶媒として、上記したアルコール類溶媒を用いることにより、例え基板表面が凹凸であったり基板上に異物が付着しているような場合でも、ムラのない均一な塗膜が形成できることを見出した。
【0045】
上記したアルコール類溶媒の中でも、イソプロピルアルコールが好ましく、特に、溶剤に対してイソプロピルアルコールが40重量%以上含まれていることが好ましい。また、溶媒全体に対して、イソプロピルアルコールが40重量%以上含まれる場合、1−ブタノールが40重量%以下、およびα−ターピネオールが40重量%以下含まれていることがより好ましく、特に、イソプロピルアルコールが60重量%以上、1−ブタノールが20重量%以下、α―ターピネオールが20重量%以下含まれていることが好ましい。
【0046】
なお、アルコール類溶媒に、上記したアルコール類以外の溶媒を1種または2種以上混合して用いても良い。
【0047】
本発明において使用する電極保護膜形成用組成物は、さらにアセチレンアルコール系界面活性剤を含んでいてもよい。アセチレンアルコール系界面活性剤を添加することにより、さらに塗布液の濡れ性が改善する。アセチレンアルコール系界面活性剤としては、例えば3,5−ジメチル−1−ヘキセン−3−オール(サーフィノール*61、Air Products and Chemical社製)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0048】
電極保護膜の製造方法
本発明による電極保護膜の製造方法は、オクチル酸Baおよび/またはオクチル酸Tiを主成分とするオクチル酸金属化合物と、バインダーと、溶媒と、を少なくとも含んでなる組成物を準備する工程と、前記組成物を、一対の電極層を有するエレクトロルミネッセント素子の、少なくとも一方の電極層の表面に塗布する工程と、塗布された前記組成物を焼成して、チタン酸バリウム膜を形成する工程と、を含む。
【0049】
組成物を、電極上に塗工する方法としては、例えば、ダイコーティング法、ロールコーティング法、ブレードコーティング法、スピンコーティング法等が挙げられる。
【0050】
組成物を塗布して塗膜を形成した後、塗布液の組成に応じて乾燥を行ってもよい。乾燥は、室温〜120℃程度の温度で行うことができる。
【0051】
その後、焼成を行うことによって、チタン酸バリウムからなる膜を形成することができる。焼成温度は、500〜900℃、好ましくは600〜850℃で行う。焼成温度が500℃未満であると、バインダーとして含まれるエチルセルロースの分解が完全に進行しない可能性があり、一方、900℃を超えると、使用する基板や電極の材料によっては、耐久温度を超えてしまう可能性があるため、好ましくない。
【0052】
エレクトロルミネッセント素子
本発明による電極保護層を備えたエレクトロルミネッセント素子の構成について一例を説明するが、本発明が限定されるものではなく、電極表面上に電極保護層を設ける以外は、種々の構成とすることができる。
【0053】
エレクトロルミネッセント表示素子用ディスプレイ基板は、基板1上に第1電極層2、電極保護層8、厚膜誘電体層3、薄膜誘電体層4、発光層5、薄膜誘電体層6、および第二電極層7が設けられた構造を有している。なお、薄膜誘電体層4は多層としてもよい。以下、各層について説明する。
【0054】
(1)基板
基板としては、アルミナ(Al)、石英ガラス(SiO)、マグネシア(MgO)、フォルステライト(2MgO・SiO)、ステアタイト(MgO・SiO)、ムライト(3Al・2SiO)、ベリリア(BeO)、ジルコニア(ZrO)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化シリコン(SiN)、炭化シリコン(SiC+BeO)等のセラミック基板、結晶化ガラス、石英ガラス等を用いることができる。そのほか、Ba系、Sr系、およびPb系ペロブスカイトを用いることもできる。
【0055】
また、基板として、高耐熱ガラス等を用いてもよく、ホウロウ等の絶縁処理を行った金属基板等を用いてもよい。
【0056】
(2)第1電極層
第1電極層は、導電性の良い材料であれば特に制限されず、例えば、Au、Ag、Pt、Ir等の貴金属、Ni、W、Mo、Nb、Ta等の高融点金属やこれら貴金属または高融点金属の合金を使用することができる。通常、AuやPt等の貴金属が用いられるが、本発明においては、上記したような電極保護層が電極層の表面に設けられているため、酸化や硫化され易いような金属、例えば、Ag、Ag/Pd等を用いることができる。
【0057】
第1電極層2は、基板1の一面上に形成されるが、通常、所定のストライプ形状にパターン化して形成される。第1電極層の形成は、上記した貴金属または高融点金属もしくはそれらの合金の粉体を、例えば溶剤に、または溶剤と樹脂に、もしくはガラスフリット等を添加して混合し、これらを混練して得られたペーストを、スクリーン印刷等の方式によって、基板上に所望のパターン状となるように適用し、焼成することにより行う。また、ペーストをパターン状にではなく基板全面に適用して焼成した後に、フォトリソグラフィー法によりパターニングしてもよい。
【0058】
また、第1電極層は、上記の金属または合金を用いて、メッキ、蒸着、またはスパッタリングを行うことにより、基板全面に一様に金属層または合金層を形成した後に、上記のようにしてパターニングすることもでき、あるいは、メッキ、蒸着、またはスパッタリングをマスクパターンを介して行うことにより、パターニングすることもできる。
【0059】
第1電極層の厚みは、形成方法によっても異なるが、スクリーン印刷等の厚膜の形成に適した方式による場合は、0.5〜5μm程度であることが好ましく、蒸着やスパッタリング等の薄膜の形成に適した方式による場合は、0.1〜1.0μm程度であることが好ましい。
【0060】
(3)厚膜誘電体層
厚膜誘電体層3は、誘電体の粉体を、例えば溶剤に、または溶剤と樹脂に、もしくはガラスフリット等を添加して混合し、これらを混練して得られたペーストを、スクリーン印刷等の方式によって、基板1上の第1電極層2を覆うように適応し、焼成することにより形成する。本発明においては、焼成前に厚膜誘電体層の上面に、表面が平滑な基準板を載置し、静水圧プレス法によって圧縮し、その後に焼成を行うことが好ましい。静水圧プレスの条件としては、室温〜300℃で、50KPa〜400MPa、特に100KPa〜400MPaが好ましい。圧力を50KPa以上とすることにより、静水圧プレス後に誘電体粉体の密度が高くなり、誘電特性の優れる厚膜誘電体層が得られる。なお、圧力の上限値は、静水圧プレス機で実質的に可能な範囲で制限される。
【0061】
なお、厚膜誘電体層の形成は、静水圧プレス法に限られるものではなく、通常のゾルゲル法やMOD(Metal Organic Decomposition)法等によって形成することができることは言うまでもない。
【0062】
誘電体粉体としては、例えば、BaTiO、(BaCa1−x)TiO、(BaSr1−x)TiO、PbTiO、Pb(ZrTi1−x)O(以下、PZTともいう)等のペロブスカイト構造を有する強誘電体、Pb(Mg1/3Nb2/3)O(以下、PMNともいう)等に代表される複合ペロブスカイト型強誘電体、BiTi12、SrBiTaに代表されるビスマス層状化合物、(SrBa1−x)Nb、PbNb等に代表されるタングステンブロンズ型強誘電体等を用いることができる。
【0063】
これらの中でも、特により高い誘電率を達成でき、かつより低い焼成温度で熱処理可能である、BaTiO、PZT、PMN等のペロブスカイト型誘電体がより好ましく、さらに、その中でも化学組成中に鉛元素を含む誘電体がより好ましい。この鉛を含む誘電体は、基板としてガラスを用いる場合に特に適している。また、PMNに代表されるPbを含む複合ペロブスカイト型化合物は、リラクサと呼ばれ、広い温度範囲で高い比誘電率を示すことから、厚膜誘電体材料として好ましい。
【0064】
厚膜誘電体の厚みは、2〜100μm程度が好ましく、5〜20μm程度がより好ましい。100μmよりも厚いと緻密化が困難となり、また2μmよりも薄いと第1電極層におけるパターニング部分での段差の影響が大きくなる。
【0065】
後記する発光層は、厚膜誘電体層と、電気的に直列に配置されることなるため、外部から電圧を印可したとき、発光層に効率よく電圧がかかるようにするためには、厚膜誘電体層の静電容量が発光層の静電容量よりも高いことが好ましく、具体的には10倍程度であることが好ましい。なお厚膜誘電体層の静電容量と発光層の静電容量との比は、それぞれの層の「比誘電率/膜厚」どうしの比率に等しくなる。
【0066】
(4)薄膜誘電体層
上記したように、厚膜誘電体層は、静水圧プレス法によって形成されるため、発光層側の表面は非常に平坦に形成されているが、より発光層側の平坦性を向上させ、かつより厚膜誘電体層の誘電率特性を向上させる目的で、本発明においては、厚膜誘電体層4上に薄膜誘電体層4を設けている。
【0067】
薄膜誘電体層4は、上記した本発明による強誘電体塗布用組成物を用いて形成される。まず、すでに形成した厚膜誘電体層3上に、当該組成物からなる塗布液を、塗布に適した方式、例えば、ダイコーティング法、ロールコーティング法、ブレードコーティング法、スピンコーティング法等の塗布方式によって塗布し、塗膜を形成する。次いで、塗膜を塗布液の組成に応じて乾燥を行い、その後、焼成を行うことによって、薄膜誘電体層4を形成することができる。
【0068】
また薄膜誘電体層4は、本発明による誘電体塗布用組成物から作製された層以外にも、別の層を含んでもよい。他の材料からなる層を積層することにより、平坦性や電気特性がさらに向上するためである。これらの他の層を作製する方法としては、前述のウェットコーティングや、真空成膜も適用することができる。
【0069】
また、後記する発光層を形成した後、発光層5上に薄膜誘電体層6を設ける。薄膜誘電体層を設けることにより、外部からの水蒸気や酸素等が発光層側へ侵入することを抑制することができる。発光層5上に薄膜誘電体層6を設ける場合も、上記と同様にして薄膜誘電体層を形成することができる。
【0070】
薄膜誘電体層の膜厚は、0.01〜3μm程度でよい。薄膜誘電体層4の膜厚は、好ましくは0.02〜3μm程度、より好ましくは0.03〜2μm程度である。また、薄膜誘電体層6の膜厚は、好ましくは0.01〜1μm程度、より好ましくは0.015〜0.5μm程度である。膜厚が0.01μm未満の場合は、膜としての機能を有さず、また、3μmを超える厚膜となるとクラックが発生し易くなるとともに、基板全体の誘電率が増加するため、電圧印可時に発光層の発光材料に十分に電圧が印可されない場合がある。なお、薄膜誘電体層4と6とで好ましい膜厚が異なっているのは、それぞれの薄膜誘電体層を設ける下地の表面粗さが異なっているためである。
【0071】
(5)発光層
発光層5は、薄膜誘電体層4の上に形成される。薄膜誘電体層は、上記したように、非常に表面が均一で平坦であり、例え厚膜誘電体層上に凹凸や異物が付着しているような場合であっても、薄膜誘電体層を設けることにより、表面が平坦化される。したがって、発光層は、非常に平坦で均一な表面上に形成されることになるため、発光特性に優れたものとなる。
【0072】
発光層は、発光材料を薄膜化したもので構成される。例えば、赤色発光を得る材料としては、ZnS、Mn/CdSSe等、緑色発光を得る材料としては、ZnS:TbOF、ZnS:Tb等、青色発光を得るための材料としては、SrS:Ce、(SrS:Ce/Zns)n、CaGa:Ce、SrGa:Ce等、また白色発光を得るための材料としてSrS:Ce/ZnS:Mn等が挙げられる。
【0073】
発光層の形成は、上記したような発光材料を用いて、蒸着またはスパッタリングもしくはCVD法等によって行うことができる。
【0074】
発光層の膜厚は、0.1〜3μm程度が好ましく、より好ましくは0.3〜2μm程度である。
【0075】
(6)第2電極層
第2電極層7は、観測者側に設けられるため、発光層5からの発光、すなわち表示を妨げないように、透明電極材料で形成する必要がある。
【0076】
透明電極材料としては、ITO(酸化インジウム錫)、SnO、ZnO−Al等の酸化物導電性材料が挙げられる。
【0077】
第2電極層の形成は、上記の酸化物導電性材料を用いて、蒸着またはスパッタリングにより行うことができる。
【0078】
第2電極層の厚みは、0.05〜0.2μm程度が好ましい。
【実施例】
【0079】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明の範囲がこれら実施例に限定されるものではない。
【0080】
実施例1
(1)電極の形成
基板として50mm×50mmのガラス基板を用い、Ag粉体を含有するペーストをスクリーン印刷法によって基板上に適用することにより、パターニングされた厚さ1.5μmのAg電極を形成した。
【0081】
(2)電極保護膜形成用組成物の調製
オクチル酸チタン(旭電化製)およびオクチル酸バリウム(旭電化製)を各2.5重量%、バインダーとして粘度20cPのエチルセルロース(エトセル、日新化成社製)を2.0重量%、溶媒としてイソプロピルアルコール/1−ブタノール混合溶剤(比率14:3)を84.7重量%含有する組成物を調製した。
【0082】
(3)電極保護膜の作製
電極上に、得られた組成物をスピンコート法により塗布し、室温にて乾燥させた後、電極を形成した基板を焼成炉に入れ、680℃で30分間焼成し、チタン酸バリウム(BT)膜からなる保護膜を形成した。
触針式膜厚測定器(Dektak IIA、Sloanテクノロジー社製)によって、保護膜の厚みを測定したところ、75nmであった。
【0083】
(4)電極評価試験
電極と電極保護膜とを設けたガラス基板を、HS濃度が3ppmのチャンバー内に入れ、温度40℃、湿度80%RHの条件下で、30分間放置した。
その後、チャンバー内からガラス基板を取り出し、電極表面の外観を、HS処理前のガラス基板と比較した。
【0084】
比較例1
実施例1において使用した、電極保護層を形成する前の、電極を設けたガラス基板についても、実施例1と同様にして電極評価試験を行った。
その結果、図2に示されるように、電極保護層を設けていない電極(比較例1)は、全体的に青黒く変色し、また変色ムラも観察されたのに対し、BT層からなる電極保護層を設けた電極(実施例1)はほとんど変色もなかった。この結果により、電極保護膜を設けたAg電極は、硫化水素の存在化であっても、ほとんど硫化されていないことが推測できた。
【0085】
比較例2
実施例1において、電極保護膜形成用組成物としてPZT組成物を用い、MOD法によりPZT層を形成した以外は実施例1と同様にして、電極保護膜としてPZT膜を形成した。保護膜の厚みを測定したところ、100nmであった。
電極保護膜を設けた基板について、実施例1と同様にして、電極評価試験を行った。
その結果、図2に示されるように、PZT層からなる電極保護層を設けた電極(比較例2)は、全体的に青黒く変色し、また変色ムラも観察されたのに対し、BT層からなる電極保護層を設けた電極(実施例1)はほとんど変色もなかった。この結果により、BT層からなる電極保護膜を設けたAg電極は、硫化水素の存在化であっても、ほとんど硫化されていないことが推測できた。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の電極保護層を備えるエレクトロルミネッセント素子の断面概略図である。
【図2】実施例および比較例における電極評価試験結果を示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極層を有するエレクトロルミネッセント素子の、少なくとも一方の電極層の表面に設ける電極保護膜であって、
前記保護層が、オクチル酸Baおよびオクチル酸Tiを主成分とするオクチル酸金属化合物と、バインダーと、溶媒と、を少なくとも含んでなる組成物を、前記電極の表面に塗布し、焼成して形成された、チタン酸バリウム膜であることを特徴とする、電極保護膜。
【請求項2】
前記バインダーがエチルセルロースである、請求項1に記載の電極保護膜。
【請求項3】
前記溶媒が、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、およびα−ターピネオールからなる群から選択されるものである、請求項1または2に記載の電極保護膜。
【請求項4】
前記溶媒全体に対して、イソプロピルアルコールが40重量%以上含まれてなる、請求項3に記載の電極保護膜。
【請求項5】
前記溶媒全体に対して、イソプロピルアルコールが40重量%以上、1−ブタノールが40重量%以下、およびα−ターピネオールが40重量%以下含まれてなる、請求項3に記載の電極保護膜。
【請求項6】
前記組成物が、アセチレンアルコール系界面活性剤をさらに含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電極保護膜。
【請求項7】
膜厚が10〜500nmである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電極保護膜。
【請求項8】
前記電極が、Ag、またはAg/Pdの金属からなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電極保護膜。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の電極保護膜を製造する方法であって、
オクチル酸Baおよび/またはオクチル酸Tiを主成分とするオクチル酸金属化合物と、バインダーと、溶媒と、を少なくとも含んでなる組成物を準備する工程と、
前記組成物を、一対の電極層を有するエレクトロルミネッセント素子の、少なくとも一方の電極層の表面に塗布する工程と、
塗布された前記組成物を焼成して、チタン酸バリウム膜を形成する工程と、
を含んでなることを特徴とする、電極保護膜の製造方法。
【請求項10】
前記塗布された組成物を、焼成する前に乾燥させる工程をさらに含んでなる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記焼成を、500〜900℃で行う、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の電極保護膜を含んでなる、エレクトロルミネッセント素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−198426(P2008−198426A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30781(P2007−30781)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(000183923)ザ・インクテック株式会社 (268)
【Fターム(参考)】