説明

表示素子の電極用保護膜

【課題】硫化水素雰囲気下で高温焼成した場合でも電極が硫化されないような表示素子の電極用保護膜を提供する。
【解決手段】一対の電極層を有するエレクトロルミネッセント素子の、少なくとも一方の電極層の表面に設ける電極用保護膜であって、前記保護層が、無機化合物が結晶化した薄膜からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセント素子(以下、EL素子ともいう。)の電極保護膜、およびその電極保護膜を用いたEL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
EL表示素子は、薄型、自発光などの特徴から、次世代の表示素子として、近年盛んに研究開発が進められている。EL素子には、発光源として有機材料を使用する有機EL素子および無機材料を使用する無機EL素子に大別される。
【0003】
無機EL素子は、有機EL素子に比較して、発光源が無機材料から構成されているため、素子が安定で優れた耐久性を備えるという特徴を有している。
【0004】
無機EL素子の構造は、単純には、発光源である発光層、誘電体層、および発光体に電圧を印可するための一対の電極層から構成されている。そして、このような構成は、上記の各層を順次、基材上に積層させることにより構築されている。すなわち、通常、発光層の形成は、一方の電極層を形成した後に行われる。
【0005】
無機材料からなる発光層は、一般的に高温焼成を経て形成されるため、無機EL素子の製造においては、必然的に、いずれか一方の電極も、発光層の形成時に高温焼成されることになる。従って、EL素子のいずれか少なくとも一方の電極は、このような高温焼成温度に耐えうる材料から構成される必要がある。
【0006】
また、EL素子に使用される発光無機化合物は、通常、Ceを添加したSrSやTmを添加したZnS、Smを添加したZnSやEuを添加したCaS、Tbを添加したZnSやCeを添加したCaS等の硫化物材料が用いられる場合があり、特開平7−122364号公報(特許文献1)に記載のように、硫化物材料で発光層を形成する際、硫黄の不足分を補うために、発光層の成膜時にHSガス等の雰囲気下で成膜することがある。
【0007】
しかしながら、このHSガスによって既存の電極が硫化されてしまい、導電性が低下したり、電極表面が黒色化してしまい、輝度が低下してしまうという問題がある。
【0008】
このような問題を解決するため、硫化物材料からなる発光層を使用する無機EL素子においては、電極として、硫化物を作りにくいAuやPt等の金属を使用している。しかしながら、AuやPt等の金属は高価であるため、材料コストの観点から大画面表示素子等への応用には問題があった。
【特許文献1】特開平7−122364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、今般、特定の材料からなる薄膜を電極層上に形成して電極層表面に保護膜を設けることにより、硫化水素雰囲気下で高温焼成した場合でも電極が硫化されないとの知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0010】
従って、本発明の目的は、硫化水素雰囲気下で高温焼成した場合でも電極が硫化されないような表示素子の電極用保護膜を提供することにある。
【0011】
また、本発明の別の目的は、上記電極用保護膜の製造方法を提供することである。
【0012】
さらに、本発明の目的は、この電極用保護膜を用いたEL表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による電極用保護膜は、一対の電極層を有するエレクトロルミネッセント素子の、少なくとも一方の電極層の表面に設ける電極用保護膜であって、
前記保護層が、無機化合物が結晶化した薄膜からなることを特徴とするものである。
【0014】
好ましい態様として、前記結晶化無機化合物からなる薄膜が、電極上に無機化合物からなる薄膜を設けた後、焼成することにより形成されたものである。
【0015】
また、本発明においては、前記無機化合物が無機酸化物であることが好ましい。
【0016】
さらに、好ましい態様としては、前記無機酸化物が、酸化チタン、酸化タンタル、および酸化アルミニウムからなる群から選択されるものである。
【0017】
本発明の好ましい態様としては、前記薄膜が、スパッタリング法によって形成される。
【0018】
また、本発明の態様においては、前記薄膜の膜厚が、10〜1000nmであることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明の態様においては、前記電極が、AgまたはAg/Pdからなる金属から形成されていることが好ましい。
【0020】
また、本発明の別の態様においいては、一対の電極層を有するエレクトロルミネッセント素子の、少なくとも一方の電極層の表面に、無機化合物からなる薄膜を形成し、
前記薄膜を焼成して無機化合物を結晶化させること、
を含んでなることを特徴とする、電極保護膜の製造方法を提供する。
【0021】
さらに、本発明の別の態様においては、上記の電極保護膜を含んでなるエレクトロルミネッセント素子を提供する。
【0022】
本発明によれば、硫化水素雰囲気下で高温焼成した場合でも電極が硫化されないような表示素子を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
電極保護膜
以下、本発明による電極保護膜について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
エレクトロルミネッセント素子は、図1に示すように、一般的に、基板と、一対の電極層とその電極層の間に狭持された発光層とから構成され、所望により、電極層と発光層との間に誘電体層を設けたり、発光層上にカラーフィルタ層を適宜設けた構成を有する。
【0025】
本発明においては、この一対の電極層の少なくとも一方の表面に電極保護層が設けられている。そして、この電極保護層の表面上に、発光層または所望により誘電体層が形成されている。
【0026】
発光層は、後記するように、発光材料としてCeを添加したSrS等の硫化物等の無機材料を使用することができるが、発光層を形成する工程においては、形成する発光層によるが、500〜600℃以上の温度で焼成したり、また、硫黄の不足分を補うためにHSガス等の雰囲気下で発光層を形成することがある。本発明においては、電極層の表面上に、結晶化させた無機化合物からなる薄膜が形成されているため、高温焼成時に電極が酸化されたり、また、HSガス等の雰囲気下で発光層を形成する際にも、電極が硫化されることがない。また、結晶化した無機化合物を使用することにより、この保護層自体の誘電率が向上する。その結果、発光層からの輝度が低下したり、発光輝度のムラ等も低減することもなく、かつエレクトロルミネッセント素子自体の寿命も向上する。
【0027】
本発明による電極保護膜に用いる材料としては、無機化合物が結晶化したものを用いる必要がある。このように、結晶化した無機材料を使用することにより、化学的安定性が向上し、後の工程への影響が低減する。また、結晶化した無機材料を用いることにより、アモルファス構造の無機材料の場合と比較してより誘電率が向上する。
【0028】
結晶化し得る無機化合物としては、特に制限されるものではなく、例えば、チタン、タンタル、アルミニウム、タングステン、ニッケル、バナジウム、鉄、銅、イットリウム、マンガン、スズ、ジルコニウム、ニオブ、ハウニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の無機材料を使用することができるが、本発明においては、これらの中でも無機酸化物を使用することが好ましい。酸化物を使用することにより、より一層、電極表面が酸化されたり硫化されるのを抑制することができる。無機酸化物としては、上記した無機化合物の酸化物を好適に使用できるが、これらの中でも酸化チタン、酸化タンタル、酸化アルミニウムがより好ましい。
【0029】
例えば、無機酸化物としてアルミナ(Al)を用いて電極保護膜を形成した場合、アルミナがアモルファスの形態では、比誘電率は7〜8(陽極酸化法)であるのに対し、結晶形態(コランダム型(α))では、軸に垂直で9.34、軸に平行で11.54の比誘電率を有する(化学便覧 基礎編 改訂3版 丸善 II−505頁)。また、酸化タンタルV(Ta)の場合、アモルファスの形態では比誘電率は24.1(特許第2770856号)であるのに対し、結晶形態では27.1の比誘電率を有する(山形大学 データベースアメニティー研究所ホームページ)。さらに、酸化チタン(TiO)の場合、アモルファスの形態では比誘電率は13.7(W.G.Lee et.al.,Thin Solid Films 237,1994,105)であるのに対し、結晶形態(ルチル型)では、軸に垂直で85.8、軸に平行で170の比誘電率を有する(化学便覧 基礎編 改訂3版 丸善 II−505頁)。なお、電極保護膜を構成する材料が結晶形態にあるかアモルファス形態にあるかは、後記するように、X線回折により確認することができる。
【0030】
保護層として形成する結晶化無機化合物の薄膜は、その膜厚が10〜1000nm、より好ましくは20〜500nm、特に好ましくは、25〜250nmである。保護膜の厚みが10nm未満であると、電極の酸化または硫化を抑制する効果が不十分となり、また、電極の表面に凹凸がある場合に、凸部分が保護膜によって保護されない場合がある。一方、1000nmを超える膜厚となると、電極の酸化や硫化を制御することはできるものの、駆動電圧の上昇を招き、また成膜工程におけるランニングコストの観点から好ましくない。
【0031】
電極保護膜の製造方法
本発明による電極保護膜の製造方法は、一対の電極層を有するエレクトロルミネッセント素子の、少なくとも一方の電極層の表面に、無機化合物からなる薄膜を形成する工程と、前記薄膜を焼成して無機化合物を結晶化させる工程とを含む。
【0032】
薄膜の形成は、当該技術分野に通常用いられる薄膜形成技術を適用できるが、本発明においてはスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の真空を用いた乾式成膜法を好適に使用できる。これらの薄膜形成手段の中でも、スパッタリング法が好ましい。スパッタリング方法によって薄膜を形成することにより、大面積の基板を使用した場合であっても均一に電極保護層を設けることができる。また、他の成膜技術と比較して、スパッタリング法によれば、成膜速度および膜厚の制御、内部応力の制御、ならびに酸化物の組成の制御などを容易に行うことができる。
【0033】
次いで、乾式成膜法によって形成された無機化合物の薄膜を焼成して結晶化させる。この結晶化工程における焼成温度は、使用する無機材料の結晶化温度以上とする必要がある。結晶化温度は、通常行われている方法によって決定でき、例えば、示差走査熱量測定(DSC)によって、結晶化温度を測定できる。焼成温度は、具体的には、使用する無機化合物の種類にもよるが、概ね300〜900℃、好ましくは300〜800℃である。300℃未満であると、無機化合物が結晶化せず、一方、800℃を超えると、無機薄膜は結晶化するが、使用する基板や電極によっては耐久温度を超えてしまう可能性がある。なお、無機材料として無機酸化物を使用する場合、焼成工程は、空気雰囲気下で行うことができる。
【0034】
上記の工程によって得られた薄膜が結晶化していることの確認は、X線回折(XRD)等によって行うことができる。
【0035】
エレクトロルミネッセント素子
本発明による電極保護層を備えたエレクトロルミネッセント素子の構成について一例を説明するが、本発明が限定されるものではなく、電極表面上に電極保護層を設ける以外は、種々の構成とすることができる。
【0036】
エレクトロルミネッセント表示素子用ディスプレイ基板は、基板1上に第1電極層2、電極保護層8、厚膜誘電体層3、薄膜誘電体層4、発光層5、薄膜誘電体層6、および第二電極層7が設けられた構造を有している。なお、薄膜誘電体層4は多層としてもよい。以下、各層について説明する。
【0037】
(1)基板
基板としては、アルミナ(Al)、石英ガラス(SiO)、マグネシア(MgO)、フォルステライト(2MgO・SiO)、ステアタイト(MgO・SiO)、ムライト(3Al・2SiO)、ベリリア(BeO)、ジルコニア(ZrO)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化シリコン(SiN)、炭化シリコン(SiC+BeO)等のセラミック基板、結晶化ガラス、石英ガラス等を用いることができる。そのほか、Ba系、Sr系、およびPb系ペロブスカイトを用いることもできる。
【0038】
また、基板として、高耐熱ガラス等を用いてもよく、ホウロウ等の絶縁処理を行った金属基板等を用いてもよい。
【0039】
(2)第1電極層
第1電極層は、導電性の良い材料であれば特に制限されず、例えば、Au、Ag、Pt、Ir等の貴金属、Ni、W、Mo、Nb、Ta等の高融点金属やこれら貴金属または高融点金属の合金を使用することができる。通常、AuやPt等の貴金属が用いられるが、本発明においては、上記したような電極保護層が電極層の表面に設けられているため、酸化や硫化され易いような金属、例えば、Ag、Ag/Pd等を用いることができる。
【0040】
第1電極層2は、基板1の一面上に形成されるが、通常、所定のストライプ形状にパターン化して形成される。第1電極層の形成は、上記した貴金属または高融点金属もしくはそれらの合金の粉体を、例えば溶剤に、または溶剤と樹脂に、もしくはガラスフリット等を添加して混合し、これらを混練して得られたペーストを、スクリーン印刷等の方式によって、基板上に所望のパターン状となるように適用し、焼成することにより行う。また、ペーストをパターン状にではなく基板全面に適用して焼成した後に、フォトリソグラフィー法によりパターニングしてもよい。
【0041】
また、第1電極層は、上記の金属または合金を用いて、メッキ、蒸着、またはスパッタリングを行うことにより、基板全面に一様に金属層または合金層を形成した後に、上記のようにしてパターニングすることもでき、あるいは、メッキ、蒸着、またはスパッタリングをマスクパターンを介して行うことにより、パターニングすることもできる。
【0042】
第1電極層の厚みは、形成方法によっても異なるが、スクリーン印刷等の厚膜の形成に適した方式による場合は、0.5〜5μm程度であることが好ましく、蒸着やスパッタリング等の薄膜の形成に適した方式による場合は、0.1〜1.0μm程度であることが好ましい。
【0043】
(3)厚膜誘電体層
厚膜誘電体層3は、誘電体の粉体を、例えば溶剤に、または溶剤と樹脂に、もしくはガラスフリット等を添加して混合し、これらを混練して得られたペーストを、スクリーン印刷等の方式によって、基板1上の第1電極層2を覆うように適応し、焼成することにより形成する。本発明においては、焼成前に厚膜誘電体層の上面に、表面が平滑な基準板を載置し、静水圧プレス法によって圧縮し、その後に焼成を行うことが好ましい。静水圧プレスの条件としては、室温〜300℃で、50KPa〜400MPa、特に100KPa〜400MPaが好ましい。圧力を500KPa以上とすることにより、静水圧プレス後に誘電体粉体の密度が高くなり、誘電特性の優れる厚膜誘電体層が得られる。なお、圧力の上限値は、静水圧プレス機で実質的に可能な範囲で制限される。
【0044】
なお、厚膜誘電体層の形成は、静水圧プレス法に限られるものではなく、通常のゾルゲル法やMOD(Metal Organic Decomposition)法等によって形成することができることは言うまでもない。
【0045】
誘電体粉体としては、例えば、BaTiO、(BaCa1−x)TiO、(BaSr1−x)TiO、PbTiO、Pb(ZrTi1−x)O(以下、PZTともいう)等のペロブスカイト構造を有する強誘電体、Pb(Mg1/3Nb2/3)O(以下、PMNともいう)等に代表される複合ペロブスカイト型強誘電体、BiTi12、SrBiTaに代表されるビスマス層状化合物、(SrBa1−x)Nb、PbNb等に代表されるタングステンブロンズ型強誘電体等を用いることができる。
【0046】
これらの中でも、特により高い誘電率を達成でき、かつより低い焼成温度で熱処理可能である、BaTiO、PZT、PMN等のペロブスカイト型誘電体がより好ましく、さらに、その中でも化学組成中に鉛元素を含む誘電体がより好ましい。この鉛を含む誘電体は、基板としてガラスを用いる場合に特に適している。また、PMNに代表されるPbを含む複合ペロブスカイト型化合物は、リラクサと呼ばれ、広い温度範囲で高い比誘電率を示すことから、厚膜誘電体材料として好ましい。
【0047】
厚膜誘電体の厚みは、2〜100μm程度が好ましく、5〜20μm程度がより好ましい。100μmよりも厚いと緻密化が困難となり、また2μmよりも薄いと第1電極層におけるパターニング部分での段差の影響が大きくなる。
【0048】
後記する発光層は、厚膜誘電体層と、電気的に直列に配置されることなるため、外部から電圧を印可したとき、発光層に効率よく電圧がかかるようにするためには、厚膜誘電体層の静電容量が発光層の静電容量よりも高いことが好ましく、具体的には10倍程度であることが好ましい。なお厚膜誘電体層の静電容量と発光層の静電容量との比は、それぞれの層の「比誘電率/膜厚」どうしの比率に等しくなる。
【0049】
(4)薄膜誘電体層
上記したように、厚膜誘電体層は、静水圧プレス法によって形成されるため、発光層側の表面は非常に平坦に形成されているが、より発光層側の平坦性を向上させ、かつより厚膜誘電体層の誘電率特性を向上させる目的で、本発明においては、厚膜誘電体層4上に薄膜誘電体層4を設けている。
【0050】
薄膜誘電体層4は、上記した本発明による強誘電体塗布用組成物を用いて形成される。まず、すでに形成した厚膜誘電体層3上に、当該組成物からなる塗布液を、塗布に適した方式、例えば、ダイコーティング法、ロールコーティング法、ブレードコーティング法、スピンコーティング法等の塗布方式によって塗布し、塗膜を形成する。次いで、塗膜を塗布液の組成に応じて乾燥を行い、その後、焼成を行うことによって、薄膜誘電体層4を形成することができる。
【0051】
また薄膜誘電体層4は、本発明による誘電体塗布用組成物から作製された層以外にも、別の層を含んでもよい。他の材料からなる層を積層することにより、平坦性や電気特性がさらに向上するためである。これらの他の層を作製する方法としては、前述のウェットコーティングや、真空成膜も適用することができる。
【0052】
また、後記する発光層を形成した後、発光層5上に薄膜誘電体層6を設ける。薄膜誘電体層を設けることにより、外部からの水蒸気や酸素等が発光層側へ侵入することを抑制することができる。発光層5上に薄膜誘電体層6を設ける場合も、上記と同様にして薄膜誘電体層を形成することができる。
【0053】
薄膜誘電体層の膜厚は、0.01〜3μm程度でよい。薄膜誘電体層4の膜厚は、好ましくは0.02〜3μm程度、より好ましくは0.03〜2μm程度である。また、薄膜誘電体層6の膜厚は、好ましくは0.01〜1μm程度、より好ましくは0.015〜0.5μm程度である。膜厚が0.01μm未満の場合は、膜としての機能を有さず、また、3μmを超える厚膜となるとクラックが発生し易くなるとともに、基板全体の誘電率が増加するため、電圧印可時に発光層の発光材料に十分に電圧が印可されない場合がある。なお、薄膜誘電体層4と6とで好ましい膜厚が異なっているのは、それぞれの薄膜誘電体層を設ける下地の表面粗さが異なっているためである。
【0054】
(5)発光層
発光層5は、薄膜誘電体層4の上に形成される。薄膜誘電体層は、上記したように、非常に表面が均一で平坦であり、例え厚膜誘電体層上に凹凸や異物が付着しているような場合であっても、薄膜誘電体層を設けることにより、表面が平坦化される。したがって、発光層は、非常に平坦で均一な表面上に形成されることになるため、発光特性に優れたものとなる。
【0055】
発光層は、発光材料を薄膜化したもので構成される。例えば、赤色発光を得る材料としては、ZnS、Mn/CdSSe等、緑色発光を得る材料としては、ZnS:TbOF、ZnS:Tb等、青色発光を得るための材料としては、SrS:Ce、(SrS:Ce/Zns)n、CaGa:Ce、SrGa:Ce等、また白色発光を得るための材料としてSrS:Ce/ZnS:Mn等が挙げられる。
【0056】
発光層の形成は、上記したような発光材料を用いて、蒸着またはスパッタリングもしくはCVD法等によって行うことができる。
【0057】
発光層の膜厚は、0.1〜3μm程度が好ましく、より好ましくは0.3〜2μm程度である。
【0058】
(6)第2電極層
第2電極層7は、観測者側に設けられるため、発光層5からの発光、すなわち表示を妨げないように、透明電極材料で形成する必要がある。
【0059】
透明電極材料としては、ITO(酸化インジウム錫)、SnO、ZnO−Al等の酸化物導電性材料が挙げられる。
【0060】
第2電極層の形成は、上記の酸化物導電性材料を用いて、蒸着またはスパッタリングにより行うことができる。
【0061】
第2電極層の厚みは、0.05〜0.2μm程度が好ましい。
【実施例】
【0062】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明の範囲がこれら実施例に限定されるものではない。
【0063】
実施例1
(1)電極の形成
基板として50mm×50mmのガラス基板を用い、Ag粉体を含有するペーストをスクリーン印刷法によって基板上に適用することにより、パターニングされた厚さ1.5μmのAg電極を形成した。
【0064】
(2)電極保護膜の作製
この電極上に、厚さ75nmの酸化チタン(TiO)の薄膜を形成した。薄膜の形成は、スパッタリング装置(SPF-730H、キヤノンアネルバ(株)社製)を用い、Tiの金属ターゲットを用い、Ar、O混合ガスを用いた反応性スパッタリング法を適用して行った。成膜時の圧力は2.0Paとし、基板温度は無加熱(基板加熱未実施)とした。
【0065】
このようにして得られた酸化チタン薄膜を、焼成炉に入れ、650℃で30分間焼成し、酸化チタンを結晶化させた。酸化チタン薄膜のXRDを測定し、TiO由来の回折パターンが存在していることを確認した。
【0066】
(3)電極評価試験
電極と電極保護膜とを設けたガラス基板を、HS濃度が3ppmのチャンバー内に入れ、温度40℃、湿度80%RHの条件下で、30分間放置した。
【0067】
その後、チャンバー内からガラス基板を取り出し、電極表面の外観を、HS処理前のガラス基板と比較した。
【0068】
実施例2
電極の表面に形成する薄膜を、酸化タンタル(Ta)とした以外は、実施例1と同様にして、電極上に電極保護膜を形成した。
【0069】
また、実施例1と同様にして、電極評価試験を行った。
【0070】
実施例3
電極の表面に形成する薄膜を、酸化アルミニウム(Al)とした以外は、実施例1と同様にして、電極上に電極保護膜を形成した。
【0071】
また、実施例1と同様にして、電極評価試験を行った。
【0072】
比較例1
実施例1において使用した、電極保護層を形成する前の、電極を設けたガラス基板についても、実施例1と同様にして電極評価試験を行った。
【0073】
その結果、図2に示されるように、電極保護層を設けていない電極(比較例1)は、全体的に青黒く変色し、また変色ムラも観察されたのに対し、電極保護層を設けた電極はほとんど変色もなかった。この結果により、電極保護膜を設けたAg電極は、硫化水素の存在化であっても、ほとんど硫化されていないことが推測できた。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の電極保護層を備えるエレクトロルミネッセント素子の断面概略図である。
【図2】実施例および比較例における電極評価試験結果を示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極層を有するエレクトロルミネッセント素子の、少なくとも一方の電極層の表面に設ける電極用保護膜であって、
前記保護層が、無機化合物が結晶化した薄膜からなることを特徴とする、電極保護層。
【請求項2】
前記結晶化無機化合物からなる薄膜が、電極上に無機化合物からなる薄膜を設けた後、焼成することにより形成されたものである、請求項1に記載の電極保護膜。
【請求項3】
前記無機化合物が無機酸化物である、請求項1または2に記載の電極保護層。
【請求項4】
前記無機酸化物が、酸化チタン、酸化タンタル、および酸化アルミニウムからなる群から選択されるものである、請求項3に記載の電極保護層。
【請求項5】
前記薄膜が、スパッタリング法によって形成される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電極保護膜。
【請求項6】
前記薄膜の膜厚が、10〜1000nmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電極保護膜。
【請求項7】
前記電極が、AgまたはAg/Pdから形成されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電極保護膜。
【請求項8】
一対の電極層を有するエレクトロルミネッセント素子の、少なくとも一方の電極層の表面に、無機化合物からなる薄膜を形成し、
前記薄膜を焼成して無機化合物を結晶化させること、
を含んでなることを特徴とする、電極保護膜の製造方法。
【請求項9】
前記薄膜の形成を、スパッタリング法により行う、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記薄膜の焼成を、300〜900℃の温度で行う、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の電極保護膜を含んでなる、エレクトロルミネッセント素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−198424(P2008−198424A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30719(P2007−30719)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】