説明

表示素子

【課題】有機EL素子が用いられ、構造が簡単であり、電力効率の高い表示素子を提供する。
【解決手段】所定形状を表示する表示素子であって、透明絶縁基板上に、透明陽極と、該所定形状と略同一形状に該透明陽極が露出するようにパターニングされた絶縁層とがこの順序で積層され、さらに、該絶縁層および露出した該透明陽極の上に、発光層と陰極とがこの順序で積層された有機エレクトロルミネッセンス素子からなることを特徴とする表示素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示素子に関し、より詳細には、所定形状を表示する、有機エレクトロルミネッセンス(以下「有機EL」とも言う。)素子を利用した表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
EL素子を利用し、所定形状を表示する表示素子としては、従来さまざまな方式の表示素子が知られている。
たとえば特開2001−331134号公報(特許文献1)には、全面発光するEL素子の発光面側表面に、所定形状の透明部が残るように印刷が施された透明性シートを積層した電光表示用シートが開示されている。この電光表示用シートでは、EL素子から発せられた光が、透明性シートの所定形状の透明部のみから外部へ透過することによって、所定形状が表示される。しかしながら、この電光表示用シートには、EL素子が発する光の一部が透明性シートの印刷部で遮蔽されてしまうため、電力効率が低いという問題があった。
【0003】
また特開2003−77664号公報(特許文献2)には、発光表示領域内の素子近傍に、発光表示領域内の端部あるいは基準位置となる素子から所定の素子数毎に特定の標識パターンが形成されているマトリクス型有機ELディスプレイが開示されている。この有機ELディスプレイでは、特定の陽極線および陰極線に電流を流すことで、その交点に当る画素を点灯させており、点灯させる画素を制御することにより所定の形状が表示される。しかしながら、構造が複雑であり、所定形状を表示させるためには、制御装置が必要であり、表示装置のサイズが大きい、コストが大きいなどの問題があった。
【特許文献1】特開2001−331134号公報
【特許文献2】特開2003−77664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、有機EL素子が用いられ、構造が簡単であり、電力効率の高い表示素子を提供することを目的とする。
さらに本発明は、有機EL素子の動作時(点灯時)のみならず非動作時(非点灯時)にも、高い視認性で所定の形状を表示できる表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究し、本発明を完成させた。本発明は以下の[1]〜[9]に関する。
[1] 所定形状を表示する表示素子であって、
透明絶縁基板上に、透明陽極と、該所定形状と略同一形状に該透明陽極が露出するようにパターニングされた絶縁層とがこの順序で積層され、さらに、該絶縁層および露出した該透明陽極の上に、発光層と陰極とがこの順序で積層された有機エレクトロルミネッセンス素子からなる
ことを特徴とする表示素子。
【0006】
[2] 前記絶縁層がポリイミド、ポリアクリレート、ポリウレタンおよびエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなることを特徴とする上記[1]に記載の表示素子。
【0007】
[3] 前記絶縁層の厚さが0.05〜100μmであることを特徴とする上記[2]
に記載の表示素子。
[4] 前記絶縁層がSiO2、Si23、SiON、TiO2およびZrO2から選ば
れる少なくとも1種の金属酸化物および/または金属窒化物からなることを特徴とする上記[1]に記載の表示素子。
【0008】
[5] 前記絶縁層の厚さが0.01〜10μmであることを特徴とする上記[4]に記載の表示素子。
[6] 前記絶縁層の陽極側表面の色が、陰極の色および発光色とは異なることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかに記載の表示素子。
【0009】
[7] 前記発光層が燐光発光性化合物を含有していることを特徴とする上記[1]〜[6]のいずれかに記載の表示素子。
[8] 前記燐光発光性化合物が燐光発光性高分子化合物であることを特徴とする上記[7]に記載の表示素子。
【0010】
[9] 前記燐光発光性高分子化合物が燐光発光性非共役高分子化合物であることを特徴とする上記[8]に記載の表示素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明の表示素子は、簡単な構造で、高い電力効率で所定形状を表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の表示素子をより詳細に説明する。
本発明の表示素子は、所定形状を表示する表示素子であって、透明絶縁基板上に、透明陽極と、該所定形状と略同一形状に該透明陽極が露出するようにパターニングされた絶縁層とがこの順序で積層され、さらに、該絶縁層および露出した該透明陽極の上に、発光層と陰極とがこの順序で積層された有機エレクトロルミネッセンス素子からなることを特徴としている。
【0013】
なお本明細書においては、便宜上、有機EL素子を構成する透明絶縁基板から透明陽極に向かう方向を「上」と表現する。
[有機EL素子]
〔1.素子構成〕
図1は、本発明に用いられる有機EL素子の構成の一例を示す断面図であり、この有機EL素子には、透明基板1上に、陽極2と、パターニングされた絶縁層3と、正孔輸送層4、発光層5および電子輸送層6からなる有機EL化合物層7と、陰極8とが順次設けられている。
【0014】
また、本発明に用いられる有機発光素子の構成は図1の例に限定されず、陽極と陰極の間に順次、1)陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層、2)陽極バッファー層/発光層/電子輸送層、3)陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層、4)陽極バッファー層/正孔輸送性化合物、発光性化合物、電子輸送性化合物を含む層、5)陽極バッファー層/正孔輸送性化合物、発光性化合物を含む層、6)陽極バッファー層/発光性化合物、電子輸送性化合物を含む層、7)陽極バッファー層/正孔電子輸送性化合物、発光性化合物を含む層、8)陽極バッファー層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層を設けた素子構成などを挙げることができる。また、図1に示した発光層は1層であるが、発光層を2層以上有していてもよい。さらに、陽極バッファー層を用いずに直接的に、正孔輸送性化合物を含む層が陽極の表面に接していてもかまわない。
【0015】
なお、本明細書中においては、特に断りのない限り、電子輸送性化合物、正孔輸送性化合物、発光性化合物の全てあるいは一種類以上からなる化合物を有機EL化合物、また層を有機EL化合物層と呼ぶこととする。
【0016】
〔2.陽極〕
陽極は、ITOに代表される導電性かつ光透過性の層により形成される。有機発光を基板を通して観察する場合には、陽極の光透過性は必須であるが、有機発光をトップエミッション、すなわち上部の電極を通して観察する用途の場合では陽極の透過性は必要なく、仕事関数が4.1eVよりも高い金属あるいは金属化合物のような適当な任意の材料を陽
極として用いることができる。例えば、金、ニッケル、マンガン、イリジウム、モリブテン、パラジウム、白金などを単独で、あるいは組み合わせて用いることが可能である。当該陽極は、金属の酸化物、窒化物、セレン化物及び硫化物からなる群より選ぶこともできる。また、光透過性の良好なITOの表面に、光透過性を損なわないように1〜3nmの薄い膜として、上記の金属を成膜したものを陽極として用いることもできる。これらの陽極材料表面への成膜方法としては、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、化学反応法、コーティング法、真空蒸着法などを用いることができる。陽極の厚さは2〜300nmが好ましい。
【0017】
〔3.陽極表面処理〕
また、陽極バッファー層、あるいは、正孔輸送性化合物を含む層の成膜時に陽極表面を前もって処理することによりオーバーコートされる層の性能(陽極基板との密着性、表面平滑性、正孔注入障壁の低減化など)を改善することができる。前もって処理する方法には高周波プラズマ処理を始めとしてスパッタリング処理、コロナ処理、UVオゾン照射処理、または酸素プラズマ処理などがある。
【0018】
〔4.陽極バッファー層:バイトロンなどを使う場合〕
陽極バッファー層をウェットプロセスにて塗布して作製する場合には、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法などを用いて成膜することが出来る。
【0019】
上記ウェットプロセスによる成膜で用い得る化合物は、陽極表面とその上層に含まれる有機EL化合物に良好な付着性を有した化合物であれば特に制限はないが、これまで一般に用いられてきた陽極バッファーを適用することがより好ましい。例えば、ポリ(3,4)−エチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸塩との混合物であるPEDOT−PSS、ポリアニリンとポリスチレンスルホン酸塩との混合物であるPANIなどの導電性ポリマーを挙げることができる。さらに、これら導電性ポリマーにトルエン、イソプロピルアルコールなどの有機溶剤を添加して用いてもよい。また、界面活性剤などの第三成分を含む導電性ポリマーでもよい。前記界面活性剤としては、例えばアルキル基、アルキルアリール基、フルオロアルキル基、アルキルシロキサン基、硫酸塩、スルホン酸塩、カルボキシレート、アミド、ベタイン構造、及び第4級化アンモニウム基からなる群から選択される1種の基を含む界面活性剤が用いられるが、フッ化物ベースの非イオン性界面活性剤も用い得る。
【0020】
〔5.絶縁層〕
本発明に用いられる有機EL素子には、陽極上に、本発明の表示素子により表示する所定形状と略同一形状に該透明陽極が露出するようにパターニングされた絶縁層が設けられている。たとえば図2のような所定形状11を表示するためには、図3に示すような形状の絶縁層3を形成される。なお、この所定形状は、文字であっても図形であってもよい。
【0021】
この絶縁層の材料としては、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリウレタンおよびエポキシ樹脂などの樹脂;SiO2、Si23、SiON、TiO2およびZrO2などの金属
酸化物および/または金属窒化物;インキ(インク);トナーなどが挙げられ、中でもポリイミド、SiO2およびSi23が好ましい。
【0022】
パターンを通常広く用いられるフォトリソグラフィー法によって、安価に簡易に形成できるという観点からは、絶縁層の材料は前記樹脂であることが好ましく、感光性樹脂(組成物)が特に好ましい。絶縁層が前記樹脂からなる場合には、絶縁層の厚さは0.05〜100μm、好ましくは0.1〜10μm、さらに好ましくは0.5〜3μmであることが望ましい。
【0023】
前記絶縁層の材料として感光性樹脂(組成物)を用いる場合には、該感光性樹脂(組成物)を前記陽極上に塗布し、溶剤を蒸発させた後、フォトマスクを用いてパターン上に光照射および現像を行うことで、所望の形状にパターニングされた絶縁層を形成することができる。前記感光性樹脂(組成物)を前記陽極上に塗布する方法としては、スピンコート法、スリットコート法、スクリーンコータ法が挙げられる。
【0024】
また、前記光照射(露光)は通常1回でよいが、多色刷り(たとえば、カラー描画)のように、成分の異なるレジスト(感光性樹脂)を積層する場合には、塗布、乾燥、露光、現像のプロセスを繰り返してもよい。
【0025】
また、絶縁層の熱的・化学的安定性が高いほど、有機EL素子は耐久性に優れる。したがって、絶縁層の材料は金属酸化物および/または金属窒化物であることが好ましい。この場合、絶縁層の厚さは0.01〜10μm、好ましくは0.02〜1μm、さらに好ましくは0.05〜0.3μmであることが望ましい。
【0026】
前記絶縁層の材料として金属酸化物および/または金属窒化物を用いる場合には、たとえば以下のようなリフトオフ法により絶縁層を形成することができる。
まず、一般に液晶用ITO電極形成に用いる紫外線感光型ポジ型レジストなどの材料を用いて、陽極上に、本発明の表示装置により表示する形状と略同一形状のフォトレジストパターンを形成し、このフォトレジストパターンおよび露出した陽極の表面に金属酸化物および/または金属窒化物の薄膜形成して基板を作成する。次いでこの基板をフォトレジスト除去溶剤に浸漬することで、フォトレジストおよびその上の金属酸化物および/または金属窒化物のみを除去する。このようにして、陽極上に、パターニングされた絶縁層を形成することができる。
【0027】
フォトレジストパターンおよび露出した陽極の表面に金属酸化物および/または金属窒化物の薄膜を形成する方法としては、スパッタ法、プラズマCVD法、真空蒸着法などが挙げられる。
【0028】
パターンを大面積に安価に短時間に形成できるという観点からは、絶縁層の材料はインキであることが好ましい。この場合、絶縁層の厚さは0.05〜100μm、好ましくは0.1〜10μm、さらに好ましくは0.5〜3μmであることが望ましい。
【0029】
前記絶縁層の材料としてインキを用いる場合には、たとえば以下のような方法により絶縁層を形成することができる。
インキとしてUV硬化型インキを用いるのであれば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの方法により、このUV硬化型インキからなるパターンを形成し、その後UV照射することにより、パターニングされた絶縁層を形成することができる

【0030】
また、パターンをフォトマスクなしに安価に短時間に形成できるという観点からは、絶縁層の材料はトナーであることが好ましい。この場合、絶縁層の厚さは0.05〜100μm、好ましくは0.1〜10μm、さらに好ましくは0.5〜3μmであることが望ましい。
【0031】
前記絶縁層の材料としてトナーを用いる場合には、コピー装置により陽極上に所望の形状の絶縁層を形成することができ、たとえばパーソナルコンピュータ上で所望の文字・絵柄を作成しこれをレーザプリンターあるいはインクジェットプリンターで陽極上に印刷することができる。
【0032】
前記絶縁層の材料としては、有機EL素子としての安定性や耐久性を重視するのであれば、前記金属酸化物等および前記感光性樹脂が好ましく、前記金属酸化物等が特に好ましく、一方、コスト、工程数、真空プロセスの有無、設計の自由度などの観点から製造容易性を重視するのであれば、前記のインクやトナーが好ましい。
【0033】
本発明で用いられる有機EL素子においては、このように表示したい所定形状11と略同一形状に前記陽極2が露出するように絶縁層3がパターニングされているため(図2)、その発光層の中でも絶縁層3上の領域(図1においては、非発光領域10)は発光することなく、露出した陽極2上の領域(図1においては、発光領域9)のみが発光する。このようにして、前記有機EL素子からなる本発明の表示素子には所定形状11が表示される(図3)。
【0034】
したがって本発明の表示素子によれば、簡単な構造により、電力効率を低下させることなく、所定形状を表示することができる。
さらに、絶縁層が、前記感光性樹脂組成物、インキまたはトナーを材料として形成される場合には、この材料として、本発明の表示装置に用いられる陰極の色および発光色とは異なる色に着色された材料を用いてもよい。前記絶縁層の材料がこのような着色材料であると、発光表示される所定形状がより明確に視認されると共に、非発光時であっても、絶縁層形成領域と絶縁層非形成領域との色の違いから、所定形状を視認できる点で好ましい。同様の理由から、絶縁層の陽極側表面には模様が設けられていることも好ましい。
【0035】
したがって、このように着色された絶縁層を備えた本発明の表示素子は、有機EL素子の動作時(点灯時)のみならず非動作時(非点灯時)にも、高い視認性で所定の形状を表示することが可能であり、夜間は所定形状を発光表示し、昼間は所定形状を発光せずに表示するような用途において有用である。
【0036】
〔6.有機EL化合物層〕
本発明に用いられる有機EL素子における有機EL化合物層、すなわち発光層、正孔輸送層、及び電子輸送層に使用する化合物としては、低分子化合物及び高分子化合物のいずれをも使用することができる。
【0037】
この有機EL化合物層は、パターニングされた絶縁層および露出した陽極を覆うように形成されている。
本発明に用いられる有機EL素子の発光層を形成する有機EL化合物としては、大森裕:応用物理、第70巻、第12号、1419−1425頁(2001年)に記載されている発光性低分子化合物及び発光性高分子化合物などを例示することができる。この中でも、素子作製プロセスが簡素化されるという点で発光性高分子化合物が好ましく、発光効率が高い点で燐光発光性化合物が好ましい。従って、特に燐光発光性高分子化合物が好まし
い。
【0038】
また、発光性高分子化合物は、共役発光性高分子化合物と非共役発光性高分子化合物とに分類することもできるが、中でも非共役発光性高分子化合物が好ましい。
上記の理由から、本発明で用いられる発光材料としては、燐光発光性非共役高分子化合物(前記燐光発光性高分子であり、かつ前記非共役発光性高分子化合物でもある発光材料)が特に好ましい。
【0039】
本発明に用いられる有機EL素子における発光層は、好ましくは、燐光を発光する燐光発光性単位とキャリアを輸送するキャリア輸送性単位とを一つの分子内に備えた、燐光発光性高分子を少なくとも含む。前記燐光発光性高分子は、重合性置換基を有する燐光発光性化合物と、重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物とを共重合することによって得られる。燐光発光性化合物はイリジウム、白金および金の中から一つ選ばれる金属元素を含む金属錯体であり、中でもイリジウム錯体が好ましい。
【0040】
前記重合性置換基を有する燐光発光性化合物としては、例えば下記式(E−1)〜(E−49)に示す金属錯体の一つ以上の水素原子を重合性置換基で置換した化合物を挙げることができる。
【0041】
【化1】

【0042】
【化2】

【0043】
【化3】

【0044】
【化4】

【0045】
【化5】

【0046】
【化6】

【0047】
なお、上記式(E−35)、(E−46)〜(E−49)において、Phはフェニル基を表す。
これらの燐光発光性化合物における重合性置換基としては、例えばビニル基、アクリレート基、メタクリレート基、メタクリロイルオキシエチルカルバメート基等のウレタン(メタ)アクリレート基、スチリル基及びその誘導体、ビニルアミド基及びその誘導体などが挙げられ、中でもビニル基、メタクリレート基、スチリル基及びその誘導体が好ましい。これらの置換基は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を介して金属錯体に結合していてもよい。
【0048】
前記重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物は、ホール輸送性および電子輸送性の内のいずれか一方または両方の機能を有する有機化合物における一つ以上の水素原子を重合性置換基で置換した化合物を挙げることができる。このような化合物の代表的な例として、下記式(E−50)〜(E−67)に示した化合物を挙げることができる。
【0049】
【化7】

【0050】
【化8】

【0051】
例示したこれらのキャリア輸送性化合物における重合性置換基はビニル基であるが、ビニル基をアクリレート基、メタクリレート基、メタクリロイルオキシエチルカルバメート基等のウレタン(メタ)アクリレート基、スチリル基及びその誘導体、ビニルアミド基及びその誘導体などの重合性置換基で置換した化合物であってもよい。また、これらの重合性置換基は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を介して結合していてもよい。
【0052】
重合性置換基を有する燐光発光性化合物と、重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物の重合方法は、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、付加重合のいずれでもよいが、ラジカル重合が好ましい。また、重合体の分子量は重量平均分子量で1,000〜2,000
,000が好ましく、5,000〜1,000,000がより好ましい。ここでの分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法を用いて測定されるポリスチレン換算分子量である。
【0053】
前記燐光発光性高分子は、一つの燐光発光性化合物と一つのキャリア輸送性化合物、一つの燐光発光性化合物と二つ以上のキャリア輸送性化合物を共重合したものであってもよく、また二つ以上の燐光発光性化合物をキャリア輸送性化合物と共重合したものであってもよい。
【0054】
燐光発光性高分子におけるモノマーの配列は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれでもよく、燐光発光性化合物構造の繰り返し単位数をm、キャリア輸送性化合物構造の繰り返し単位数をnとしたとき(m、nは1以上の整数)、全繰り返し単位数に対する燐光発光性化合物構造の繰り返し単位数の割合、すなわちm/(m+n)の値は0.001〜0.5が好ましく、0.001〜0.2がより好ましい。
【0055】
燐光発光性高分子のさらに具体的な例と合成法は、例えば特開2003−342325、特開2003−119179、特開2003−113246、特開2003−206320、特開2003−147021、特開2003−171391、特開2004−346312、特開2005−97589に開示されている。
【0056】
本発明に用いられる有機EL素子における発光層は、好ましくは前記燐光発光性化合物を含む層であるが、発光層のキャリア輸送性を補う目的で正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物が含まれていてもよい。これらの目的で用いられる正孔輸送性化合物としては、例えば、TPD(N,N’−ジメチル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’ジアミン)、α−NPD(4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル)、m−MTDATA(4、4’,4’’−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)などの低分子トリフェニルアミン誘導体や、ポリビニルカルバゾール、前記トリフェニルアミン誘導体に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平8−157575号公報に開示されているトリフェニルアミン骨格の高分子化合物、ポリパラフェニレンビニレン、ポリジアルキルフルオレンなどが挙げられ、また、電子輸送性化合物としては、例えば、Alq3(アルミニウムトリスキノリノレート)などのキノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリアジン誘導体、トリアリールボラン誘導体などの低分子材料や、上記の低分子電子輸送性化合物に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平10−1665号公報に開示されているポリPBDなどの既知の電子輸送性化合物が使用できる。
【0057】
〔7.有機EL化合物層の形成法〕
上記の有機EL化合物層は、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法などにより形成することが可能である。発光性低分子化合物の場合は主として抵抗加熱蒸着法及び電子ビーム蒸着法が用いられ、発光性高分子化合物の場合は主にスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法が用いられる。
【0058】
〔8.正孔ブロック層〕
また、正孔が発光層を通過することを抑え、発光層内で電子と効率よく再結合させる目的で、発光層の陰極側に隣接して正孔ブロック層を設けてもよい。この正孔ブロック層には発光性化合物より最高占有分子軌道(Highest Occupied Molecular Orbital;HOMO)準位の深い化合物を用いることができ、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、アルミニウム錯体などを例示することができる。
【0059】
さらに、励起子(エキシトン)が陰極金属で失活することを防ぐ目的で、発光層の陰極側に隣接してエキシトンブロック層を設けてもよい。このエキシトンブロック層には発光性化合物より励起三重項エネルギーの大きな化合物を用いることができ、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、アルミニウム錯体などを例示することができる。
【0060】
〔9.陰極〕
本発明に用いられる有機EL素子の陰極材料としては、仕事関数が低く、かつ化学的に安定なものが使用され、Al、MgAg合金、AlLiやAlCaなどのAlとアルカリ金属の合金などの既知の陰極材料を例示することができるが、化学的安定性を考慮すると仕事関数は2.9eV以上であることが好ましい。これらの陰極材料の成膜方法としては
、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを用いることができる。陰極の厚さは10nm〜1μmが好ましく、50〜500nmがより好ましい。
【0061】
また、陰極から有機層への電子注入障壁を下げて電子の注入効率を上げる目的で、陰極バッファー層として、陰極より仕事関数の低い金属層を陰極と陰極に隣接する有機層の間に挿入してもよい。このような目的に使用できる低仕事関数の金属としては、アルカリ金属(Na、K、Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Sr、Ba、Ca、Mg)、希土類金属(Pr、Sm、Eu、Yb)等を挙げることができる。また、陰極より仕事関数の低いものであれば、合金または金属化合物も使用することができる。これらの陰極バッファー層の成膜方法としては、蒸着法やスパッタ法などを用いることができる。陰極バッファー層の厚さは0.05〜50nmが好ましく、0.1〜20nmがより好ましく、0.5〜1
0nmがより一層好ましい。
【0062】
さらに、陰極バッファー層は、上記の低仕事関数の物質と電子輸送性化合物の混合物として形成することもできる。なお、ここで用いられる電子輸送性化合物としては前述の電子輸送層に用いられる有機化合物を用いることができる。この場合の成膜方法としては共蒸着法を用いることができる。また、溶液による塗布成膜が可能な場合は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、インクジェット法、印刷法、スプレー法、ディスペンサー法などの既述の成膜方法を用いることができる。この場合の陰極バッファー層の厚さは0.1〜100nmが好ましく、0.5〜50nmがより好ましく、1〜20nmがより一層好ましい。陰極と有機物層との間に、導電性高分子からなる層、あるいは金属酸化物や金属フッ化物、有機絶縁材料等からなる平均膜厚2nm以下の層を設けてもよい。
【0063】
〔10.封止〕
陰極作製後、該有機発光素子を保護する保護層を装着していてもよい。該有機発光素子を長期安定的に用いるためには、素子を外部から保護するために、保護層および/または保護カバーを装着することが好ましい。該保護層としては、高分子化合物、金属酸化物、金属フッ化物、金属ホウ化物などを用いることができる。また、保護カバーとしては、ガラス板、表面に低透水率処理を施したプラスチック板、金属などを用いることができ、該カバーを熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂で素子基板と貼り合わせて密閉する方法が好適に用いられる。スペーサーを用いて空間を維持すれば、素子がキズつくのを防ぐことが容易である。該空間に窒素やアルゴンのような不活性なガスを封入すれば、陰極の酸化を防止することができ、さらに酸化バリウム等の乾燥剤を該空間内に設置することにより製造工程
で吸着した水分が素子にタメージを与えるのを抑制することが容易となる。これらのうち、いずれか1つ以上の方策をとることが好ましい。
【0064】
〔11.基板種類〕
本発明で用いられる有機EL素子の基板としては、発光性化合物の発光波長に対して透明な絶縁性基板、例えば、ガラス、PET(ポリエチレンテレフタレート)やポリカーボネートを始めとする透明プラスチック、シリコン基板などの既知の材料が使用できる。
【0065】
[表示素子]
本発明の表示素子は、前記有機EL素子からなる。前記陽極、ならびに前記陰極または前記導電層に配線を取り付け、両電極間に電圧をかけることにより、所定形状が表示される。
【0066】
上述したように、本発明の表示素子によれば、簡単な構造により、発光層の全領域ではなく所定形状と略同一形状の領域のみが発光するので、高い電力効率で所定形状を表示することができる。
【0067】
また、本発明の表示素子によれば、用いられる有機EL素子が絶縁層が所定の色に着色されている場合であれば、発光時(点灯時)だけでなく、非発光時(非点灯時)であっても所定形状が表示される。
【0068】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0069】
(燐光性高分子の製造)
ビニルスチリル基を有する以下のモノマー、重合性置換基を有するイリジウム錯体(E−2)、正孔輸送性化合物(E−46)、および電子輸送性化合物(E−59)を共重合して、燐光発光性高分子化合物を得た。脱水トルエン溶液に上記のモノマーをE-2:E-46:E-59=1:4:5(モノマー仕込み重量比)で溶解させ、凍結脱気操作を行った後に真空密閉し、70℃で100時間攪拌した。反応後、反応液をアセトン中に滴下して沈殿を生じさせ、さ
らにトルエン−アセトンでの再沈殿精製を3回繰り返して精製した。ここで、アセトンおよびトルエンは高純度グレード(和光純薬製)を蒸留したものを用いた。また、再沈殿精製操作後の溶剤は高速液体クロマトグラフィーで分析を行い、3回目の再沈殿精製後の溶剤中に400nm以上の吸収を有する物質が検出できないことを確認した。このようにして、
燐光発光性高分子化合物中の不純物を取り除いた。その後、上記燐光発光性高分子化合物を、室温で2日間真空乾燥した。得られた燐光発光性高分子化合物の純度は、高速液体クロマトグラフィー(検出波長254nm)により、99.9%を超えることを確認した。
【0070】
この燐光発光性高分子化合物を窒素雰囲気中でトルエンに溶解し、溶液(A)を得た。
【実施例1】
【0071】
表面にITO(酸化インジウム錫)電極(陽極)が形成された100mm角のガラス基板上に、紫外線感光型ポジ型レジスト(東京応化社製、TELR-P003PM)をスピ
ンコート法で塗布し(2000rpm、30秒)、90℃で30分間乾燥した。続いて、レジスト塗布面に重ねてフォトマスクを置き、この状態で平行紫外線光を照射し、レジストを感光させた。感光させたレジストを5%-水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液に
浸漬し、レジスト中の感光した部分を除去した。次に、これを200℃で30分間乾燥・硬化させ、パターンを有する絶縁膜層が形成された。
【0072】
次に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)・ポリスチレンスルホン酸を、回転数3500rpm、塗布時間40秒の条件で、スピンコート法により塗布した。その後、真空乾燥器で減圧下、60℃で2時間乾燥し、陽極バッファ層を形成した。得られた陽極バッファ層の膜厚は、約50nmであった。
【0073】
この陽極バッファ層の表面に、前記燐光性高分子の3%トルエン溶液(A)を、回転数3000rpm、回転時間30秒の条件でスピンコート法により塗布し、真空乾燥機で減圧下、暗中100℃、一時間乾燥し、厚さ80nmの発光層が形成された。
【0074】
次に、発光層を形成した基板を真空蒸着装置内に載置し、抵抗加熱方式によりカルシウムを約10nmの厚さに、次いでアルミニウムを約100nmの厚さに蒸着し、カルシウム膜とアルミニウム膜とからなる陰極を形成した。
【0075】
このようにして形成した有機EL素子に、常法に従い熱硬化型エポキシ接着剤を用いてガラス製封止キャップを取り付け、次いで、電気配線、電源を取り付け、図4に示す形状を表示する避難誘導灯を製造した。
【0076】
製造した避難誘導灯に、発光部(発光層)の面積に対して5mA/cm2の電流を通電
したところ、発光部の正面輝度は1300cd/m2であった。
【実施例2】
【0077】
表面にITO層が形成された100mm角のPET(ポリエチレンテレフタレート)シート(王子トービ社製、面抵抗10オーム/□、厚さ約0.2mm)のITO層上に、イ
ンクジェット(セイコーエプソン社製、型式PM−700C)を用いて、パーソナルコンピュータ上で作成した絵文字を印刷した。次に、これを100℃で30分間乾燥させることにより、パターンを有する絶縁膜層が形成された。
【0078】
このパターンを有する絶縁膜層が形成された基板上に、実施例1と同様の方法で、陽極バッファ層、発光層、陰極を形成して有機EL素子を形成し、ガラス製封止キャップを取り付け、次いで、電気配線、電源を取り付け、図4に示す形状を表示する避難誘導灯を製造した。
【0079】
製造した避難誘導灯に、発光部(発光層)の面積に対して5mA/cm2の電流を通電
したところ、発光部の正面輝度は1300cd/m2であった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、本発明で用いられる有機EL素子の一実施形態の断面図を示す。
【図2】図2は、本発明の表示素子が表示する所定形状の一例を示す。
【図3】図3は、パターニングされた絶縁層の形状の一例を上から見た図である。
【図4】図4は、実施例1および2で製造された避難誘導灯が表示する形状を示す。
【符号の説明】
【0081】
1・・・透明基板
2・・・陽極
3・・・絶縁層
7・・・有機EL化合物層
8・・・陰極
9・・・発光領域
10・・非発光領域
11・・所定形状(発光領域)
12・・マスク
13・・マスクの孔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定形状を表示する表示素子であって、
透明絶縁基板上に、透明陽極と、該所定形状と略同一形状に該透明陽極が露出するようにパターニングされた絶縁層とがこの順序で積層され、さらに、該絶縁層および露出した該透明陽極の上に、発光層と陰極とがこの順序で積層された有機エレクトロルミネッセンス素子からなる
ことを特徴とする表示素子。
【請求項2】
前記絶縁層がポリイミド、ポリアクリレート、ポリウレタンおよびエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の表示素子。
【請求項3】
前記絶縁層の厚さが0.05〜100μmであることを特徴とする請求項2に記載の表示素子。
【請求項4】
前記絶縁層がSiO2、Si23、SiON、TiO2およびZrO2から選ばれる少な
くとも1種の金属酸化物および/または金属窒化物からなることを特徴とする請求項1に記載の表示素子。
【請求項5】
前記絶縁層の厚さが0.01〜10μmであることを特徴とする請求項4に記載の表示素子。
【請求項6】
前記絶縁層の陽極側表面の色が、陰極の色および発光色とは異なることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の表示素子。
【請求項7】
前記発光層が燐光発光性化合物を含有していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の表示素子。
【請求項8】
前記燐光発光性化合物が燐光発光性高分子化合物であることを特徴とする請求項7に記載の表示素子。
【請求項9】
前記燐光発光性高分子化合物が燐光発光性非共役高分子化合物であることを特徴とする請求項8に記載の表示素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−234526(P2007−234526A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57791(P2006−57791)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】