説明

表示装置

【課題】高発光効率で、色純度が高く、製造時に発光層のパターニングの必要のない有機EL素子を備えた表示装置を提供する。
【解決手段】同一構成で有機EL素子とカラーフィルタとを有し、有機EL素子が、陽極9と陰極16と、該電極間に配置した、発光色の異なる第1発光層12と第2発光層13とを有し、有機EL素子に印加される電圧によって、第1発光層12と第2発光層13のうちいずれか一方が発光する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の有機EL素子とカラーフィルタとを有する表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子をマルチカラーやフルカラーの表示装置等に利用するための研究開発が盛んに行われている。例えば、印加電圧に依存して発光スペクトルが緑色から赤色に変化する第1の有機EL素子と、青色を発光する第2の有機EL素子とを備えた、有機EL表示装置が開示されている(特許文献1)。しかし、このような表示装置は、構成の異なる複数の有機EL素子を組み合わせる必要があり、メタルマスクを用いた高精細なパターニングが必要であり、その作製プロセスは容易でなかった。
【0003】
一方、有機層のパターニングを必要としない、同一構成の複数の有機EL素子を備えた表示装置としては、有機EL素子から発せられる白色光をカラーフィルタを介して所望の色の光として取り出す装置が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3469764号公報
【特許文献2】特開昭64−40888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2のような表示装置は、白色光のうち、ほとんどの波長の光がカラーフィルタによって遮られるため、発光効率に問題があった。また、発光効率を向上させるために、カラーフィルタの透過波長域を広げると、必要な色以外の色の光が混色し、色純度が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高発光効率で、色純度が高く、製造時に発光層のパターニングの必要のない有機EL素子を備えた表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の表示装置は、異なる色を発する副画素を有する画素を複数有し、前記副画素は有機EL素子とカラーフィルタとを有する表示装置であって、
前記有機EL素子は、互いに同一の構成であり、且つ、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に、発光色の異なる第1発光層と第2発光層を順に有し、
前記有機EL素子の電極間への印加電圧によって、前記第1発光層又は前記第2発光層のうちいずれか一方が発光することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、表示装置を構成する有機EL素子が少なくとも2つの発光層を有し、印加電圧によって発光色を選択するため、同一構成の有機EL素子によって複数色を発光することができる。よって、本発明の表示装置では、有機EL素子が同一構成であるため、製造時に表示色毎に発光層をパターニングする必要がなく、高効率で、色純度の高い表示装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の表示装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の表示装置の第1実施形態の有機EL素子の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明に係る有機EL素子〔1〕の発光スペクトルを示す図である。
【図4】本発明に係る有機EL素子〔2〕の発光スペクトルを示す図である。
【図5】本発明の表示装置の第2実施形態の有機EL素子の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の表示装置は、異なる色を発する副画素を有する画素を複数有し、前記副画素は有機EL素子とカラーフィルタとを有する。そして、記有機EL素子は、互いに同一の構成であり、且つ、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に、発光色の異なる第1発光層と第2発光層を順に有する。そして、本発明の表示装置は、前記電極間への印加電圧によって、前記第1発光層又は前記第2発光層のうちいずれか一方が発光する構成である。
【0011】
印加電圧は、各カラーフィルタの透過波長域になるべく対応する発光スペクトルとなるように、第1発光層、第2発光層のいずれか一方を発光させるように選択される。これによって本発明の表示装置は、白色光を発する有機EL素子とカラーフィルタを組み合わせた表示装置よりも、全発光に対してカラーフィルタを透過する光の割合が大きく、高い発光効率を得る事ができる。また、本発明に係る有機EL素子は、カラーフィルタの透過波長域に対応したスペクトルの発光を行うので、必要な波長以外の光が混じりにくいため、高い色純度を得ることができる。
【0012】
また、印加電圧によって発光色の異なる2つの発光層から1つを発光するように選択する有機EL素子の方が、印加電圧によって1つの発光層に含まれる発光色の異なる2つの材料から発光する材料を選択する有機EL素子よりも、低電圧であり、異なる発光色を発光する際の印加電圧差が小さくなる。
【0013】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
〈第1実施形態〉
図1は、本発明の第1実施形態の表示装置1の構成を模式的に示す断面図であり、1画素分の構成を示す。本発明の表示装置は、1画素が互いに表示色の異なる複数の副画素からなるが、本実施形態においては、1画素が青色、緑色、赤色の3つの副画素B,G,Rからなる。図1に示す表示装置1は、基板2の上部に複数の有機EL素子3b、3g、3rを配列してなる。また、これらの有機EL素子3b、3g、3rの上方には、基板2に対向させて封止基板4が設けられている。この封止基板4における有機EL素子3b、3g、3r側の面には、各有機EL素子3b、3g、3rに対応させてカラーフィルタ5b、5g、5rが設けられている。そして、基板2と封止基板4との間は、中空でもよいし、樹脂等で充填されていてもよい。
【0015】
本実施形態においては、青色副画素Bに有機EL素子3bが、緑色副画素Gに有機EL素子3gが、赤色副画素Rに有機EL素子3rが設けられている。これらの各有機EL素子3b、3g、3rは、基板2側から順に、反射性電極層6、第1発光層及び第2発光層を含む有機化合物層7、光透過性電極層8を積層した構成となっている。ここでは、反射性電極層6は金属等からなる反射層と透明電極層との積層体でもよい。これにより、これらの有機EL素子3b、3g、3rを備えた表示装置1は、各有機EL素子3b、3g、3rでの発光を基板2と反対の光透過性電極層8側から取り出す、いわゆるトップエミッション構造となっている。
【0016】
また、有機EL素子の光取り出し方向に関しては、ボトムエミッション構成(基板2側から光を取り出す構成)でも良く、同様な効果を得る事ができる。この場合、基板2を光透過性材料で構成し、有機EL素子3b、3g、3rの積層順を逆にして基板2側を光透過性電極層8とすれば良い。但し、その場合は、カラーフィルタ5b、5g、5rを光取り出し側に設置する必要がある。
【0017】
図1において、反射性電極層6は、有機EL素子3b、3g、3rにおいて陽極(または陰極)として用いられるもので、画素電極としてパターニングされている。
【0018】
また有機化合物層7、光透過性電極層8は、各有機EL素子3b、3g、3rに共通層として設けられる。これらは、基板2上に画素領域全面にわたって形成されていて良い。
【0019】
カラーフィルタ5b、5g、5rは、青、緑、赤の各色の光のみを透過して取り出す構成であり、青色副画素Bには青色フィルタ5bが、緑色副画素Gには緑色フィルタ5gが、赤色副画素Rには赤色フィルタ5rが設けられている。本発明の表示装置におけるカラーフィルタは上記に限定されないが、透過色を、青、赤、緑とすることで、色再現性の高いフルカラー表示が可能になるため好ましい。また、カラーフィルタの透過色と副画素色は一致する。
【0020】
基板2は、例えば画素駆動用の薄膜トランジスタやこれを駆動する駆動回路を備えた、TFT基板である。
【0021】
一方、封止基板4は、各有機EL素子3b、3g、3rからの発光光を取り出す光透過性材料からなる。
【0022】
本発明の表示装置を駆動するにあたり、有機EL素子3b、3g、3rの電極2,8間へは、副画素色B、G、R毎に予め決められた設定電圧を印加する。具体的には、各副画素色B、G、Rの有機EL素子3b、3g、3rへの印加電圧は、各カラーフィルタの透過波長域になるべく対応する発光スペクトルとなるように、第1発光層、第2発光層のうちいずれか一方を発光させる設定電圧が選択される。これによって本発明の表示装置は、白色光を発する有機EL素子とカラーフィルタを組み合わせた表示装置よりも、全発光に対してカラーフィルタを透過する光の割合が大きく、高い発光効率を得る事ができる。また、本発明に係る有機EL素子は、カラーフィルタの透過波長域に対応したスペクトルの発光を行うので、必要な波長以外の光が混じりにくいため、高い色純度を得る事ができる。
【0023】
図2は、本発明の第1実施形態における有機EL素子3b、3g、3rの詳細な構成を模式的に示す断面図である。本例では、有機EL素子3b、3g、3rは、陽極9、ホール注入層10、ホール輸送層11、第1発光層12、第2発光層13、電子輸送層14、電子注入層15及び陰極16を順次設けてなる。第1発光層12、第2発光層13以外に発光層を有さないことが本発明の実施形態1の有機EL素子の特徴である。陽極が図1の反射性電極層6に対応する場合は、陰極が図1の光透過性電極層8に対応し、陽極が図1の光透過性電極に対応する場合は、陰極が図1の反射性電極層8に対応する。また、ホール注入層10から電子注入層15までが、図1の有機化合物層7に対応する。
【0024】
本発明の第1実施形態の有機EL素子は、陽極9と陰極16の間に、少なくとも第1発光層12と第2発光層13を有していれば良い。しかしながら、ホール注入層10、ホール輸送層11、電子輸送層14、電子注入層15を設けることによって、キャリア輸送と発光の機能を分離し、有機EL素子を高性能化できる。この構成の有機EL素子では、ホールと電子の再結合領域は第1発光層12又は第2発光層13内にある。ホール輸送性、電子輸送性、発光性の各特性を有した化合物と適時組み合わせて用いられ、極めて材料選択の自由度が増すと共に、発光波長を異にする種々の化合物が使用できるため、発光色相の多様化が可能になる。さらに、中央の第1発光層12又は第2発光層13に各キャリアまたは励起子を有効に閉じこめて、発光効率の向上を図ることも可能になる。具体的には、ホール注入層10は陽極9との密着性改善或いはホールの注入性改善に効果があり、低電圧化に効果的である。また、電子注入層15は陰極16からの電子の注入性改善に効果があり、低電圧化に効果的である。また、ホール輸送層11は、LUMO準位のエネルギーの絶対値が小さい材料を用いる事により、第1発光層12から陽極9側への電子漏れを改善し、発光効率の向上に効果的である。また、電子輸送層14は、HOMO準位のエネルギーの絶対値が大きい材料を用いる事により、第2発光層13から陰極16側へのホール漏れを改善し、発光効率の向上に効果的である。
【0025】
尚、ホール注入層10、ホール輸送層11、電子輸送層14、電子注入層15は、それぞれが単層で構成されても良いし積層構造であっても良い。また、1つの層が複数の機能を備えてもよく、例えば電子輸送層14が電子注入層15としての機能を有している場合、1層に統一することもできる。
【0026】
第1発光層12と第2発光層13は、ホスト材料と低濃度の発光材料によって構成されることが好ましい。これによって、発光材料の濃度消光を低減することができ、高い発光効率を得る事ができる。特に、発光材料の濃度は0.5質量%乃至20質量%が好ましい。また、発光材料が上記範囲内のように低濃度の場合、ドーパント材料としての役割を果たす。
【0027】
また、一つの発光層に含まれる発光材料は一種類であることが好ましい。これによって、各発光層の発光スペクトルが製造プロセスの誤差によって変化しにくい、安定したものになる。発光層に複数種類の発光材料が含まれる場合、製造プロセスの誤差によって、発光層中の発光材料の濃度比が変化し、安定的に同一の発光スペクトルが得られにくくなる。
【0028】
特に、第1発光層12、第2発光層13に含まれる発光材料の発光色は、いずれか一方がシアンであり、他方が赤であることが好ましい。シアンの発光材料は一般的に、青と緑の発光成分を多く含むため、青、緑、赤のカラーフィルタと組み合わせることで、高い発光効率と高い色純度が得られ、2種類の発光材料でも、青、緑、赤の発光成分を十分に得ることができる。具体的には、青色及び緑色副画素B,Gにおいては、シアンの発光材料を含んだ発光層を発光させるように設定電圧を選択する。また、赤色副画素Rにおいて、赤色の発光材料を含んだ発光層を発光するように設定電圧を選択する。
【0029】
青、緑、赤のカラーフィルタによって、各色の副画素を形成する表示装置において、有機EL素子にはシアンの発光色の第1発光層、赤の発光色の第2発光層を用い、その他に発光層を有さない場合は、以下のように設定電圧を選択する。青色副画素及び緑色副画素において、シアンの発光材料を含んだ第1発光層を発光させるように設定電圧を選択する。また、赤色副画素において、赤色の発光材料を含んだ第2発光層を発光するように設定電圧を選択する。これによって、青色副画素及び緑色副画素に混じる赤色発光と、赤色副画素に混じる緑色発光及び青色発光を削減することができるため高い色純度を得る事ができる。また、赤色副画素においては、有機EL素子は赤色しか発光しないので、白色光を発する有機EL素子を用いた表示装置のように、カラーフィルタで青色、緑色発光を損失しない。さらに、青色副画素、緑色副画素においては、有機EL素子はシアン色しか発光しないので、白色光を発する有機EL素子を用いた表示装置のように、カラーフィルタで赤色発光を損失しない。そのため、白色光を発する有機EL素子を用いた表示装置よりも、高い発光効率を得ることができるのである。
【0030】
尚、第1発光層12、第2発光層13に含まれる発光材料の発光色は、一方がマゼンタ、他方が緑の組み合わせ、一方がイエロー、他方が青であってもよい。
【0031】
本発明の表示装置1において、有機EL素子3b、3g、3rに印加する駆動電圧をPWM制御することが好ましい。PWM制御とは、電気信号のパルス周波数は一定、即ち1フレームの時間は一定で、PWMデューティーを変化させることによって、有機EL素子からの発光輝度の階調を制御する方法である。これによって、印加電圧を変化することなく、輝度だけを制御することができる。つまり、各色の副画素毎に有機EL素子に印加する設定電圧で発光スペクトルを決定し、PWMデューティーで輝度階調を制御できるため、本発明の表示装置はフルカラーディスプレイとして利用可能である。
【0032】
本発明の有機EL素子3b、3g、3rに印加される電圧は全ての副画素において正であることが好ましい。印加電圧が正とは、有機EL素子の陽極を正極、陰極を負極とし、電圧を印加することである。これによって、有機EL素子を低電圧で駆動することができ、消費電力の面で有利である。なぜなら、正電圧と負電圧を併用する場合、一つの電極からホールと電子を注入する必要がある。そのため、正電圧と負電圧の両方を低電圧で駆動することが難しいのである。
【0033】
また、本発明の表示装置1において、1画素内において、最も大きい設定電圧を印加する色の副画素の画素面積を、他の色の副画素の画素面積よりも大きくすることが好ましい。これによって、表示装置の寿命が向上する。その理由は以下の通りである。表示装置の寿命は最も発光効率劣化しやすい副画素の寿命で律則になる。そして、最も発光効率劣化しやすい副画素は、最も大きい設定電圧を印加する副画素、つまり最も高電流密度が流れる副画素である。なぜなら、有機EL素子の発光効率劣化の速度は電流密度に比例するわけではなく、電流密度の約1.5乗に比例するのが一般的であるからである。つまり、面積あたりの総通電量が同一の二つの有機EL素子は、より大きな電流密度が流れる有機EL素子の方が、発光効率劣化が大きいのである。従って、最も大きい設定電圧を印加する表示色の副画素の画素面積を、他の表示色の副画素の画素面積よりも大きくすることによって、流れる電流密度は変えずに、必要な発光量を確保するための発光時間(PWMデューティー)を、縮減することができる。その分、寿命の律則となる表示色の副画素における有機EL素子の発光効率劣化を抑制することができるので、表示装置としての寿命を向上する事ができるのである。
【0034】
本発明の有機EL素子において、第1発光層12、13からそれぞれ発光する電圧での有機EL素子に流れる電流密度が、有機EL素子が安定的に発光する電流密度の範囲内にあることが望ましい。具体的には、0.01mA/cm2乃至100mA/cm2の範囲内である。そして、第1発光層12から発光する電圧と、第2発光層13から発光する電圧の差が小さい方がより望ましい。さらに、その時の電流密度の差が小さい方が好ましい。そのためには、電圧によって再結合界面が移動し易い有機EL素子を作製する必要がある。本発明に係る有機EL素子は電極9,16間への印加電圧によって、ホール輸送層11と第1発光層12の界面、又は第2発光層13と電子輸送層14の界面の、どちらでホールと電子の再結合をさせるか制御するからである。これによって、第1発光層12と第2発光層13のどちらで発光させるか選択するのである。
【0035】
そこで、本発明者等が鋭意検討した結果、電圧によって再結合界面が移動し易い有機EL素子を構成するための好ましい条件を見出したので以下に記載する。
(1)有機EL素子が、第1発光層12の陽極9側に接するホール輸送層11を有し、ホール輸送層11と第1発光層12の間にある、ホール注入エネルギー障壁が0.2eV以下であること。尚、ホール注入エネルギー障壁とは、隣接する有機化合物層(A,B)の間の界面に生じ、以下の計算式で計算される。有機化合物層Aが第1発光層12に、有機化合物層Bがホール輸送層11に対応する。
(ホール注入エネルギー障壁)=(陰極16側の有機化合物層Aの材料のHOMO準位のエネルギーの絶対値)−(陽極9側の有機化合物層Bの材料のHOMO準位のエネルギーの絶対値)
(2)第1発光層12が、ホスト材料と、ドーパント材料を含み、第1発光層12におけるドーパント材料のLUMO準位のエネルギーの絶対値EL1Dと、第1発光層12におけるホスト材料のLUMO準位のエネルギーの絶対値EL1Hとの関係が、
(EL1D−EL1H)>0であること。
(3)第2発光層13が、ホスト材料と、ドーパント材料を含み、第2発光層13におけるドーパント材料のLUMO準位のエネルギーの絶対値EL2Dと、第2発光層13におけるホスト材料のLUMO準位のエネルギーの絶対値EL2Hとの関係が、
(EL2D−EL2H)>0であること。
(4)EL1Dと、EL1Hと、第2発光層13におけるドーパント材料のHOMO準位のエネルギーの絶対値EH2Dと、第2発光層13におけるホスト材料のHOMO準位のエネルギーの絶対値EH2Hの関係が、
(EL1D−EL1H)>(EH2H−EH2D)であること。
【0036】
その原理を以下に説明する。先ず、上記の条件(1)、(2)、(3)、(4)を満たす有機EL素子は、有機EL素子に印加する電圧が低電圧の場合、再結合領域は第1発光層12である理由を述べる。(EL1D−EL1H)>0であるため、第1発光層12のドーパント材料には電子がトラップされやすい。さらに、(EL1D−EL1H)>(EH2H−EH2D)であるため、ホールが第2発光層13にトラップされるよりも、電子が第1発光層12にトラップされ易い。なぜなら、第2発光層13が(EH2H−EH2D)>0を満たしホールトラップしやすい場合でも、第1発光層12のドーパント材料に電子をトラップするエネルギー(EL1D−EL1H)の方が、第1発光層12のドーパント材料にホールをトラップするエネルギー(EH2H−EH2D)よりも大きいためである。尚、第1発光層12と第2発光層13とは接していなくてもよく、第1発光層12と第2発光層13の間には、キャリアの移動を妨げない有機化合物層を有していてもよい。(EH2H−EH2D)≦0の場合はより好ましく、第2発光層13ではドーパント材料にホールがトラップされない。そのため印加電圧が低電圧の場合は、ホール輸送層11から第1発光層12に注入されたホールは第1発光層12のドーパント材料にトラップされる電子と再結合し、ホールは第2発光層13へ到達しない。よって、再結合領域は第1発光層12であり、第1発光層12のみが発光する。
【0037】
次に、上記の条件(1)、(2)、(3)、(4)を満たす有機EL素子において、有機EL素子に印加する電圧が高電圧になると、再結合領域が第2発光層13に移動し易い理由を述べる。有機EL素子に印加する電圧が高電圧である場合、第1発光層12、第2発光層13に注入される電荷量が増加する。そのため一般的な有機EL素子では、第1発光層12のホール輸送層11側界面にホールが、もしくは第2発光層13の電子輸送層14側界面には電子が、もしくはその両方が蓄積し始める。そして、発光材料にトラップされる電荷と注入電荷の再結合よりも、界面に蓄積する電荷と注入電荷の再結合が支配的になる。そして特に、上記の条件(1)、(2)、(3)、(4)を満たす有機EL素子は、高電圧印加時に、第2発光層の電子輸送層14側界面にのみホールが蓄積するような有機EL素子であるため、第2発光層のみが再結合領域となる。なぜなら、隣接するホール輸送層11と第1発光層12の間に存在するホール注入エネルギー障壁が0.2eV以下であるので、ホール輸送層11から第1発光層12へのホール注入が極めて行われ易いからである。さらに、(EL1D−EL1H)>0且つ、(EL2D−EL2H)>0であるため、第1発光層12、第2発光層13共に、ドーパント材料に電子がトラップされ電子移動度が非常に低いためである。以上の理由から、高電圧印加時において、第1発光層12に到達する電子よりも、第2発光層13に到達するホールの方が遥かに多いため、第2発光層13の電子輸送層14側界面にのみホールが蓄積し、第2発光層13でのみ再結合が行われる。したがって、第2発光層13のみが発光する。
【0038】
次に本発明者等は、上記の仮説を検証するために、以下の実験を行った。具体的にはホール注入層材料とホール輸送層材料の組み合わせの異なる2種類の有機EL素子を作製し、電流密度に対する発光スペクトルの変化度合いを比較した。
【0039】
(有機EL素子〔1〕の作製と特性評価)
図2に示す積層構造の有機EL素子〔1〕を、以下に説明する方法により作製した。先ずスパッタ法により、ガラス基板上に、膜厚130nmの酸化錫インジウム(ITO)を成膜して陽極9を形成した。次に、陽極9が形成されている基板を、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、次いでIPAで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄した。以上のようにして処理した基板を透明導電性支持基板として以下の工程で用いた。
【0040】
下記に示す化合物1(ホール注入性材料)とクロロホルムとを混合して0.1質量%のトルエン溶液を調製した。次に、このトルエン溶液を陽極9上に滴下し、最初に回転数500rpmで10秒、次に回転数1000rpmで1分間スピンコートを行うことで膜を形成した。次に、80℃の真空オーブンで10分間乾燥して、薄膜中の溶剤を完全に除去した。以上の方法にて形成されたホール注入層10の膜厚は11nmであった。
【0041】
次に、真空蒸着法により、ホール注入層10上に、下記に示す化合物2を成膜して膜厚15nmのホール輸送層11を形成した。
【0042】
次に、真空蒸着法により、ホール輸送層11上に、下記に示す化合物3(第1発光層ホスト材料)と、化合物4(第1発光層発光材料)を、それぞれ別のボートから同時蒸着して第1発光層12を形成した。この時、発光層12に含まれる化合物3、化合物4の濃度を、それぞれ99質量%、1質量%、となるように蒸着レートを調節し、第1発光層12の膜厚を5nmとした。また、化合物4は低濃度であるため、ドーパント材料である。
【0043】
次に、真空蒸着法により、第1発光層12上に、下記に示す化合物3(第2発光層ホスト材料)と、化合物5(第2発光層発光材料)を、それぞれ別のボートから同時蒸着して第2発光層13を形成した。この時、発光層13に含まれる化合物3、化合物5の濃度を、それぞれ99質量%、1質量%、となるように蒸着レートを調節し、第2発光層13の膜厚を25nmとした。また、化合物5は低濃度であるため、ドーパント材料である。
【0044】
次に、真空蒸着法により、第2発光層13上に、下記に示す化合物6を成膜することにより電子輸送層14を形成した。この時、電子輸送層14の膜厚を10nmとした。
【0045】
次に、真空蒸着法により、電子輸送層14上に、下記に示す化合物7を成膜することにより電子注入層15を形成した。この時、電子輸送層14の膜厚を20nmとした。
【0046】
【化1】

【0047】
有機EL素子〔1〕を構成する有機化合物層7はホール注入層10、ホール輸送層11、第1発光層12、第2発光層13、電子輸送層14、電子注入層15からなる。また、この有機化合物層7を形成する際には、蒸着時の真空度を7.0×10-5Pa以下とし、成膜速度を0.08nm/sec以上0.10nm/sec以下とした。但し、第1発光層12、第2発光層13はホスト及び発光材料の両者を合わせた蒸着速度である。
【0048】
次に、真空蒸着法により、電子注入層15上に、フッ化リチウム(LiF)を成膜してLiF膜を形成した。この時、LiF膜の膜厚を0.5nmとし、蒸着時の真空度を1.0×10-4Paとし、成膜速度を0.05nm/secとした。次に、真空蒸着法により、LiF膜上に、アルミニウムを成膜してAl膜を形成した。この時、Al膜の膜厚を150nmとし、蒸着時の真空度を1.0×10-4Paとし、成膜速度を1.0nm/sec以上1.2nm/sec以下の条件とした。尚、LiF膜及びAl膜は電子注入電極(陰極16)として機能する。
【0049】
最後に、素子が大気中の水分を吸着しないように、露点−70℃以下の窒素雰囲気下において保護用ガラス板をかぶせ、エポキシ系接着材で封止した。尚、保護用ガラス板の接着面側には掘り込みを入れ、水分吸着用のシート(有機EL用水分ゲッターシート、ダイニック株式会社製)を封入した。以上のようにして有機EL素子〔1〕を得た。
【0050】
得られた素子について、ITO電極(陽極9)を正極、アルミニウム電極(陰極16)を負極にして、3.2Vの電圧を印加した。その結果、有機EL素子〔1〕に電流密度0.061mA/cm2が流れ、発光輝度17.8cd/m2、発光効率29.0cd/A、CIExy色度(0.25、0.49)の、化合物4に由来する最大発光波長515nmの緑色発光が観測された。
【0051】
次に、ITO電極(陽極9)を正極、アルミニウム電極(陰極16)を負極にして、3.8Vの電圧を印加した。その結果、有機EL素子〔1〕に電流密度1mA/cm2が流れ、発光輝度103.7cd/m2、発光効率10.65cd/A、CIExy色度(0.16、0.23)の、化合物5に由来する最大発光波長450nmの青色発光が観測された。
【0052】
図3に有機EL素子〔1〕の発光スペクトルを示す。先ず素子に3.2Vの電圧を印加し、そこから徐々に3.8Vまで印加電圧を大きくすると、最初に緑色の発光が見られ、次いで印加電圧の上昇に伴い、緑色の発光比率が低下し、青色の発光比率が連続的に増加した。
【0053】
(有機EL素子〔2〕の作製と特性評価)
化合物2を化合物1に置き換えた以外、有機EL素子〔1〕と同じ構成で有機EL素子〔2〕を作製した。
【0054】
得られた素子について、ITO電極(陽極9)を正極、アルミニウム電極(陰極16)を負極にして、3.0Vの電圧を印加した。その結果、有機EL素子〔2〕に電流密度0.09mA/cm2が流れ、発光輝度21.91cd/m2、発光効率24.2cd/A、CIExy色度(0.28、0.58)の、化合物4に由来する最大発光波長515nmの緑色発光が観測された。次に、ITO電極(陽極9)を正極、アルミニウム電極(陰極16)を負極にして、6.2Vの電圧を印加した。その結果、有機EL素子〔2〕に電流密度75.3mA/cm2が流れ、発光輝度13811cd/m2、発光効率19.2cd/Aであった。また、CIExy色度(0.21、0.40)の、化合物5に由来する青色発光と化合物4に由来する緑色発光が混合した発光スペクトルが観測された。図4に有機EL素子〔2〕の発光スペクトルを示す。先ず素子に3.0Vの電圧を印加し、そこから徐々に6.2Vまで印加電圧を大きくすると、最初に緑色の発光が見られ、次いで印加電圧の上昇に伴い、緑色の発光比率が低下し、青色の発光比率が連続的に増加した。
【0055】
次に、有機EL素子〔1〕及び〔2〕に用いた、ホール注入層材料とホール輸送層材料のHOMO準位のエネルギーと、第1発光層と第2発光層に用いたホスト材料と発光材料のLUMO準位のエネルギーを評価した。
【0056】
(HOMO準位のエネルギー及びLUMO準位のエネルギーの評価)
化合物1、化合物2、化合物3、化合物4、化合物5の薄膜をそれぞれ真空蒸着法により作製した。次に、作製した薄膜について、以下に示す方法で各物性を評価した。尚、同様の方法で発光材料の最低一重項励起エネルギーについても併せて評価した。
【0057】
(1)最低一重項励起エネルギー
日立製分光光度計U−3010を用いて、サンプルの可視光−紫外吸収スペクトルを測定し、得られた可視光−紫外吸収スペクトルの吸収端からエネルギーギャップを求めた。尚、得られたエネルギーギャップは最低一重項励起エネルギーに相当する。
【0058】
(2)最高被占軌道(HOMO準位)エネルギー
大気下光電子分光法(測定器名AC−2、理研機器製)を用いて測定した。尚、測定によって得られるものはイオン化ポテンシャルであるが、これが最高被占軌道(HOMO準位)のエネルギーに相当する。
【0059】
(3)最低空軌道(LUMO準位)エネルギー
上記(1)及び(2)で得られたエネルギーギャップ及びイオン化ポテンシャルを用いて、以下の計算式で電子親和力を求めた。尚、電子親和力は最低空軌道(LUMO準位)エネルギーに相当する。
【0060】
電子親和力=イオン化ポテンシャル−エネルギーギャップ
【0061】
有機EL素子〔1〕及び〔2〕においては、第1発光層、第2発光層のホスト材料(化合物3)、第1発光層の発光(ドーパント)材料(化合物4)、第2発光層の発光(ドーパント)材料(化合物5)が共通している。そしてLUMO準位のエネルギーの絶対値は、化合物3が2.9eV、化合物4が3.38eV、化合物5が3.25eVであった。従って、いずれの有機EL素子においても、(EL1D−EL1H)>0、(EL2D−EL2H)>0が満たされる。つまり、いずれの有機EL素子においても、上記条件(2)及び(3)が満たされている。
【0062】
また、第2発光層のホスト材料(化合物3)、発光(ドーパント)材料(化合物5)のHOMO準位のエネルギーの絶対値は、化合物3が5.86eV、化合物5が5.93eVであった。従って、いずれの有機EL素子においても、(EL1D−EL1H)=0.48eV、(EH2H−EH2D)=−0.07eVであるため、(EL1D−EL1H)>(EH2H−EH2D)が満たされる。つまり、いずれの有機EL素子においても、上記条件(4)が満たされている。
【0063】
また、ホール輸送層材料に用いた、化合物1、化合物2のHOMO準位のエネルギーの絶対値は、それぞれ、5.56eV、5.72eVであった。
【0064】
また、上記実験結果から、各有機EL素子のホール輸送層と第1発光層のホール注入エネルギー障壁を算出した。
【0065】
以上の実験結果をまとめると以下の表1のようになる。
【0066】
【表1】

【0067】
表1から、有機EL素子〔1〕は、上記条件(1)を満たし、有機EL素子〔2〕は上記条件の(1)を満たさないことが分かる。有機EL素子〔1〕は、電圧によって再結合界面が移動し易い有機EL素子であり、有機EL素子〔2〕は、電圧によって再結合界面が移動し易い有機EL素子といえる。以上の事実から、前記仮説を裏付けることができた。
【0068】
以上は、本発明の有機EL素子に印加する電圧が低電圧の場合には陽極9側にある第1発光層12が発光し、高電圧の場合には陰極16側にある第2発光層13が発光する条件について検討した。これとは逆の構成、つまり、本発明の有機EL素子に印加する電圧が高電圧の場合には陽極9側にある第1発光層12が発光し、低電圧の場合には陰極16側にある第2発光層13が発光する条件を下記に示す。原理は、上述したものと同様であるので省略する。
(1’)有機EL素子が、第2発光層13の陰極16側に隣接して、電子輸送層14を有し、電子輸送層14と第2発光層13の間にある、電子注入エネルギー障壁が0.2eV以下であること。尚、電子注入エネルギー障壁とは、隣接する有機化合物層(C,D)の間の界面に生じ、以下の計算式で計算される。有機化合物層Cが電子輸送層14に、有機化合物層Dが第1発光層12に対応する。
(電子注入エネルギー障壁)=(陰極16側の有機化合物層Cの材料のLUMO準位のエネルギーの絶対値)−(陽極9側の有機化合物層Dの材料のLUMO準位のエネルギーの絶対値)
(2’)第1発光層12が、ホスト材料と、ドーパント材料を含み、第1発光層12におけるドーパント材料のHOMO準位のエネルギーの絶対値EH1Dと、第1発光層12におけるホスト材料のHOMO準位のエネルギーの絶対値EH1Hとの関係が、
(EH1H−EH1D)>0であること。
(3’)第2発光層13が、ホスト材料と、ドーパント材料を含み、第2発光層13におけるドーパント材料のHOMO準位のエネルギーの絶対値EH2Dと、第2発光層13におけるホスト材料のHOMO準位のエネルギーの絶対値EH2Hとの関係が、
(EH2H−EH2D)>0であること。
(4’)EH2Dと、EH2Hと、第1発光層12におけるドーパント材料のLUMO準位のエネルギーの絶対値EL1Dと、第1発光層12におけるホスト材料のLUMO準位のエネルギーの絶対値EL1Hの関係が、
(EH2H−EH2D)>(EL1D−EL1H)であること。
【0069】
次に、本発明の第1実施形態の表示装置の構成部材や作製プロセスについて説明する。
【0070】
ホール輸送層11やホール注入層10に含まれるホール(正孔)輸送性材料としては、陽極2からのホールの注入を容易にし、また注入されたホールを発光層に輸送する優れたモビリティを有することが好ましい。ホール注入輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体が挙げられる。また、オキサゾール誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、及びポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(シリレン)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられる。本発明においては、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0071】
第1発光層12、第2発光層13に含まれる発光材料としては、発光収率が高い材料が好ましい。発光収率が高い発光材料としては、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、トリフェニレン、ペリレン、トラキセン、フルオレン、インデン、フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテンが挙げられる。また、アセナフト[1,2−k]ベンゾ[e]フルオランテン、9,9’−スピロフルオレンなどの芳香族炭化水素化合物やその誘導体が挙げられる。さらに、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、イミダゾピリジン、フェナントロリン、ピラジン、ナフチリジン、キノキサリン、ピロロピリジン、チオキサンテンなどの芳香族複素環化合物やその誘導体が挙げられる。またさらに、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体などのキノリノール金属錯体、ビピリジン金属錯体、ローダミン金属錯体、アゾメチン金属錯体、ジスチルベンゼン誘導体、アルダジン誘導体が挙げられる。また、イミダゾール、カルバゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾールなどのアゾール誘導体及びその金属錯体、ピロメテン誘導体、メロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、アミン誘導体、イリジウム錯体などが挙げられる。本発明においては、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0072】
電子輸送層14、電子注入層15に含まれる電子注入輸送性材料としては、陰極4からの電子の注入を容易にし、注入された電子を発光層に輸送する機能を有するものから任意に選ぶことができる。そして、ホール輸送材料のキャリア移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体が挙げられる。また、キノキサリン誘導体、フルオレノン誘導体、アントロン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機金属錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。また、イオン化ポテンシャルの大きい材料は、ホールブロック層の構成材料として使用することができる。
【0073】
陽極9の構成材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属が挙げられる。これらの金属は単体或いはこれらを複数種組み合わせてなる合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフェニレンスルフィド等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし或いは二種類以上を併用して使用してもよい。また陽極9は一層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0074】
一方、陰極16の構成材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、ルテニウム、チタニウム、マンガン、イットリウム、銀、鉛、錫、クロム等の金属単体を使用することができる。またこれらの金属単体を複数種組み合わせた合金、例えば、リチウム−インジウム、ナトリウム−カリウム、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム、マグネシウム−インジウム等も使用することができる。さらに酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし或いは二種類以上を併用して使用してもよい。また陰極16は一層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0075】
また陽極9及び陰極16は、少なくともいずれか一方が透明又は半透明であることが望ましい。また、反射性電極層6となる電極については、銀(Ag)のような光反射特性の良好な材料からなるのが好ましい。
【0076】
本発明の有機EL素子で使用する基板2としては、特に限定するものではないが、金属製基板、セラミックス製基板等の不透明性基板、ガラス、石英、プラスチックシート等の透明性基板が用いられる。
【0077】
カラーフィルタ5b、5g、5rは、色素と感光性樹脂とを含むことが好ましい。色素としては、高い耐光性を有する顔料を用いることが好ましい。
【0078】
上記感光性樹脂としては、
(1)アクロイル基やメタクロイル基を複数有するアクリル系多官能モノマー及び/又はオリゴマーを、光重合開始剤により重合させて得られる組成物、
(2)ポリビニル桂皮酸エステルと増感剤とからなる組成物、
(3)鎖状または環状オレフィンを、ビスアジドにより重合させて得られる組成物(ナイトレンが発生して、オレフィンを架橋させる)、
(4)エポキシ基を有するモノマーを、光酸発生剤により重合させて得られる組成物、
などが挙げられる。例えば、市販の液晶用カラーフィルタ材料(富士フイルムアーチ製カラーモザイクなど)を用いてカラーフィルタ5b、5g、5rを形成してもよい。尚、各色のカラーフィルタの厚さは1乃至1.5μm程度が好ましい。
【0079】
本発明に係る有機EL素子において、有機材料からなる層(有機化合物層7)は、種々の方法により形成することができる。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマCVDにより各層の薄膜を形成する。或いは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により薄膜を形成する。特に塗布法で成膜する場合は、適当な結着樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0080】
上記結着樹脂としては、広範囲な結着性樹脂より選択できる。例えば、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ブチラール樹脂が挙げられる。また、ポリビニルアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリスルホン樹脂、尿素樹脂等が挙げられる。尚、本発明ではこれらに限定されるものではない。またこれらの樹脂は、ホモポリマーであってもよいしコポリマーであってもよい。さらにこれらの樹脂は、一種類を単独で使用してもよいし二種類以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0081】
尚、作製した有機EL素子に対して、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層或いは封止層を設けることもできる。保護層としては、ダイヤモンド薄膜、金属酸化物、金属窒化物等の無機材料膜、フッ素樹脂、ポリパラキシレン、ポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜、さらには、光硬化性樹脂等が挙げられる。また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属等をカバーし、適当な封止樹脂により素子自体をパッケージングすることもできる。
【0082】
本発明においては、副画素B、G、Rを2次元状に複数配置した表示部とし、例えばパーソナルコンピュータのディスプレイやテレビジョンのディスプレイやヘッドマウントディスプレイのマイクロディスプレイとして用いることもできる。
【0083】
また、本発明の表示装置は、電子写真方式の画像形成装置のタッチパネル部等の操作部として利用することができる。或いは本発明の表示装置を画像表示部としたデジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ等のカメラ(撮像装置)も提供できる。尚、表示部はそれぞれの有機EL素子毎にスイッチング素子を有していても良い。スイッチング素子は例えばTFT(薄膜トランジスタ)である。
【0084】
特に、上述したモバイル機器に搭載するフルカラー画像表示装置においては、限られた電源容量を有効に使用するために、有機EL素子から放出される光を効率良く利用することが望まれる。従って、発光色毎に有機EL素子の光学的干渉距離を調整して、取り出し効率を高めることが好ましい。特に、有機EL素子の発光領域と反射性電極の反射面との光学距離が、発光波長の1/4倍又は3/4倍であることが好ましい。
【0085】
〈第2実施形態〉
第2実施形態の第1実施形態と異なる点は、第1発光層、第2発光層以外に、少なくとも第3発光層を有する点である。図5は、第2実施形態の好ましい構成を模式的に示す断面図である。図中、17が第3発光層であり、第2ホール輸送層19と第2電子輸送層20は、ホール輸送層11と電子輸送層14と同様の役割である。特に、本発明の第2実施形態の表示装置において、図5に例示するように、第1発光層12、第2発光層13と第3発光層17との間に少なくとも電荷発生層18を有することが好ましい。
【0086】
電荷発生層18とは、電荷を発生する1.0×102Ω・cm以上の比抵抗を有する電気的絶縁層であり、材料や機能の詳細は特開2003−27286号公報に記載されている。この文献に記載された有機EL素子によれば、両電極間に所定電圧が印加された時、陰極と陽極が交差する領域に存在する複数の発光ユニットのみが(あたかも直列的に接続されたかのように)同時に発光するということである。
【0087】
これによって、有機EL素子からの全光量に対する第3発光層17の発光比率は電圧によらず一定の有機EL素子を安定して作製することができる。加えて、第1実施形態のホール注入層10から電子注入層15までの構成を、陽極9と電荷発生層18の間に組み込むことによって、電圧によって再結合界面が移動し易い有機EL素子とすることができる。一方、電荷発生層を用いず、3つ以上の発光層を有した場合、電子輸送層14において、ホールがブロックされるため、ホールが第3発光層17まで到達しにくい。また、到達するとしても、作製プロセスの誤差で、容易に到達度合いが変化し、同じ特性の有機EL素子を再現性良く作製しにくい。
【0088】
本実施形態では、第1発光層12、第2発光層13、第3発光層17の発光色は、カラーフィルタに対応する事が好ましい。例えば、青、緑、赤を透過するカラーフィルタの場合、第1発光層12、第2発光層13、第3発光層17の発光色は、青、緑、赤が好ましい。より好ましくは、第1発光層12と第2発光層13に含まれる発光材料が青と緑であることである。青と緑の波長域は近いため、青と緑が特に混色しやすいため、第1発光層12と第2発光層13に含まれる発光材料を青と緑とすることにより、色純度の向上効果が得られる。
【0089】
例えば、第1発光層12が青色、第2発光層13が緑色、第3発光層17が赤色の発光色であるとする。この時、緑色副画素において、緑の発光色である第2発光層13と赤の発光色である第3発光層17のみが発光する設定電圧を選択すると、青色は発光されることがないので、緑のカラーフィルタを介して青色が混色することがない。一方、白色有機EL素子の場合、青色も緑色も同時に発光するため、緑のカラーフィルタを介しても波長の近い青色が混色し易い。
【0090】
また、1画素内の副画素の種類の数が4つ以上である時、二つ以上の電荷発生層を用いて発光層を連結することが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1:表示装置、2:基板、3b、3g、3r:有機EL素子、4:封止基板、5b、5g、5r:カラーフィルタ、6:反射電極層、7:有機化合物層、8:光透過性電極層、9:陽極、10:ホール注入層、11:ホール輸送層、12:第1発光層、13:第2発光層、14:電子輸送層、15:電子注入層、16:陰極、17:第3発光層、18:電荷発生層、19:第2ホール輸送層、20:第2電子輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる色を発する副画素を有する画素を複数有し、前記副画素は有機EL素子とカラーフィルタとを有する表示装置であって、
前記有機EL素子は、互いに同一の構成であり、且つ、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に、発光色の異なる第1発光層と第2発光層を順に有し、
前記有機EL素子の電極間への印加電圧によって、前記第1発光層又は前記第2発光層のうちいずれか一方が発光することを特徴とする表示装置。
【請求項2】
前記有機EL素子が、前記第1発光層の前記陽極側に隣接して、ホール輸送層を有し、
前記ホール輸送層と前記第1発光層の間にあるホール注入エネルギー障壁が0.2eV以下であり、
前記第1発光層が、ホスト材料と、ドーパント材料を含み、前記第1発光層におけるドーパント材料のLUMO準位のエネルギーの絶対値EL1Dと、前記第1発光層におけるホスト材料のLUMO準位のエネルギーの絶対値EL1Hとの関係が、
(EL1D−EL1H)>0であり、
前記第2発光層が、ホスト材料と、ドーパント材料を含み、前記第2発光層におけるドーパント材料のLUMO準位のエネルギーの絶対値EL2Dと、前記第2発光層におけるホスト材料のLUMO準位のエネルギーの絶対値EL2Hとの関係が、
(EL2D−EL2H)>0であり、
前記EL1Dと、前記EL1Hと、前記第2発光層におけるドーパント材料のHOMO準位のエネルギーの絶対値EH2Dと、前記第2発光層におけるホスト材料のHOMO準位のエネルギーの絶対値EH2Hの関係が、
(EL1D−EL1H)>(EH2H−EH2D)であることを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
1画素が互いに表示色の異なる複数の副画素からなり、各画素において、各色の副画素のうち、最も小さい設定電圧で駆動する色の副画素が、最も大きな画素面積を有する請求項1又は2に記載の表示装置。
【請求項4】
各色の副画素に設置された前記カラーフィルタの透過波長域が、それぞれ青、緑、赤であり、
前記第1発光層と前記第2発光層のうち一方の発光色がシアンであり、他方の発光色が赤である請求項1及至3のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項5】
前記有機EL素子が、第1発光層と第2発光層以外に、第3発光層を有する請求項1及至3のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項6】
前記第1発光層もしくは前記第2発光層と前記第3発光層との間に、電荷発生層を有する請求項5に記載の表示装置。
【請求項7】
各色の副画素に設置された前記カラーフィルタの透過波長域が、それぞれ青、緑、赤であり、
前記第1発光層と前記第2発光層のうち一方の発光色がシアンであり、他方の発光色が緑である請求項5又は6に記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−195244(P2012−195244A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59984(P2011−59984)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】