説明

表示装置

【課題】副画素数を増やすことなく、色域の広い表示装置を提供する。
【解決手段】1画素をそれぞれ有機EL素子を備えた3つの副画素で構成し、該3つの副画素のうち少なくとも1つは、有機EL素子への印加電圧により発光色の色度が変化するように構成することによって、3つの副画素で4色以上の発光色を発光する表示装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子を備えた表示装置に関するものであり、詳しくは多色表示が可能な表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、自発光型素子、低電圧駆動、薄型、軽量などの特長から、近年、携帯型電子機器(携帯電話、携帯テレビ、デジタルカメラ、ヘッドマウントディスプレイ)用のフルカラーディスプレイへの応用が精力的に検討されている。フルカラーディスプレイの実現のためには、1画素で少なくとも光の三原色である赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の3色を発光させる必要があり、このRGBの各色度がフルカラーディスプレイの色域を決定している。
【0003】
色域は、CIE(Commission International de l’Eclairage;国際照明委員会)1931色度図(CIE色度図)を用いて表すことができる。1画素がRGBの3色の副画素から構成されるフルカラーディスプレイの場合、色域は、CIE色度図上のRGB各色度を頂点とする三角形の三辺上とその内部の領域で表される。この三角形の面積が大きいほどフルカラーディスプレイで表示できる色の範囲が広いことを意味している。
【0004】
特許文献1には、フルカラーディスプレイの色域を拡大する方法として、RGB3色の副画素に加え、RGBの3色の副画素により規定される色域の外部の色を持つ副画素を導入することが提案されている。一方、特許文献2には、高精細化のために、1画素が、印加電圧により発光色が変化する有機EL素子を備えた副画素と、印加電圧により発光色が変化しない有機EL素子を備えた副画素との2副画素から構成される表示装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6570584号明細書
【特許文献2】特許第3469764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術では色域を拡げるために1画素を3副画素よりも多くしなければならない。しかしながら、副画素数を多くすると、1画素の面積が大きくなり、高精細化が困難になるという課題がある。また、特許文献2に開示された技術では、1画素を、発光色が青色の有機EL素子と印加電圧により発光色が赤色から緑色に変わる有機EL素子との2副画素で構成することにより高精細化が容易になるが、色域を拡げることに関しては何ら開示されていない。
【0007】
本発明の課題は、副画素数を増やすことなく、即ち精細度を落とすことなく、色域の広い表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、表示部が複数の画素から構成され、前記各画素が3つの副画素から構成され、前記3つの副画素がそれぞれ有機EL素子を備え、前記3つの副画素のうち少なくとも1つは有機EL素子への印加電圧により発光色の色度が変化し、前記画素が表示しうる表示色のCIE色度図を用いて表される色域が、前記3つの副画素が発光する4色以上の発光色の色度をつないだ多角形を構成していることを特徴とする表示装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、1画素を構成する3つの副画素のうち少なくとも1つの副画素の発光色を2色とすることにより、係る副画素の発光色を4色以上とし、副画素数を3から増やすことなく、1画素が表示しうる色域を従来よりも拡げた表示装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の表示装置の表示部を構成する画素構造の一例を模式的に表す平面図である。
【図2】本発明の表示装置において、有機EL素子への印加電圧によって発光色が変化する副画素が1つの場合の画素の表示色の色域をCIE色度図を用いて表した図である。
【図3】本発明の表示装置において、有機EL素子への印加電圧によって発光色が変化する副画素が2つの場合の画素の表示色の色域をCIE色度図を用いて表した図である。
【図4】本発明の表示装置において、有機EL素子への印加電圧によって発光色が変化する副画素が3つの場合の画素の表示色の色域をCIE色度図を用いて表した図である。
【図5】印加電圧により発光色が変化しない有機EL素子の一例(A)と変化する有機EL素子の一例(B)の断面模式図である。
【図6】本発明の実施例1の発光色が電圧により変化する青色副画素の発光スペクトルを示す図である。
【図7】本発明の実施例1の画素の表示色の色域をCIE色度図を用いて表した図である。
【図8】本発明の実施例2の発光色が電圧により変化する青色副画素の発光スペクトルを示す図である。
【図9】本発明の実施例2の画素の表示色の色域をCIE色度図を用いて表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の表示装置の実施形態を説明する。
【0012】
図1は、本発明の表示装置の表示部を構成する画素構造の一例を模式的に表す上面図である。図1に示すように、1つの画素100は、赤色(R)副画素110、緑色(G)副画素120、青色(B)副画素130の3つの副画素から構成されている。そして、各副画素はそれぞれ有機EL素子を備え、その3つの副画素の中で少なくとも1つの副画素については、該副画素が有する有機EL素子への印加電圧により発光色の色度が変化し、残りの副画素については、印加電圧を変えても発光色は変化しないか、発光色変化が無視できる。
【0013】
図1では、R副画素110、G副画素120、B副画素130の大きさを同一で描画したが、R副画素110、G副画素120、B副画素130の大きさは、それぞれの副画素の発光効率や駆動寿命に合わせて異なっていても構わない。
【0014】
印加電圧により発光色の色度が変化する有機EL素子は以下の2つに大別できる。
(A)印加電圧の変化と共に発光色の色度が連続的に変化する有機EL素子
(B)ある印加電圧で発光色の色度が切り替わる有機EL素子
【0015】
前記(A)の中で発光色の色度が変化する電圧領域が狭く、現実的には発光色が変化する領域の発光色(色度)が使用できない場合は前記(B)に該当する。
【0016】
ところで、本発明の表示装置において、発光色が変化する副画素は、所望の色度を発光する電圧に固定し、パルス駆動のデューティ比を変化させることにより輝度階調制御を行うことが好ましい。より好ましくはPulse Width Modulation(PWM)制御が好ましい。PWM制御とは、電気信号のパルス周波数は一定、即ち1フレームの時間は一定で、パルス幅を変化させることによって、有機EL素子からの発光輝度の階調を制御する方法である。これによって、印加電圧を変化することなく、輝度だけを制御することができる。つまり、各色の副画素ごとに有機EL素子に印加する設定電圧で発光スペクトルを決定し、PWMデューティで輝度階調を制御できるため、本発明の表示装置はフルカラーディスプレイとして利用可能である。
【0017】
又、前記(B)に該当する有機EL素子であっても、1フレーム内で、色度が切り替わる電圧より低い電圧と高い電圧の2つのパルス駆動電圧を用いることにより、低電圧駆動時の発光色と高電圧駆動時の発光色の間の発光色(中間色)を出すことが可能である。この中間色の色度は、高電圧駆動時のパルス幅と低電圧駆動時のパルス幅の比により制御することが可能である。
【0018】
前記(A)に該当する有機EL素子であっても、1フレーム内で、色度が異なる2つのパルス駆動電圧を用いて、低電圧駆動時の発光色と高電圧駆動時の発光色の間の発光色(中間色)を出してもよい。
【0019】
発光色が変化しない副画素は、発光色が変化する副画素と同じくパルス駆動のデューティ比を変化させることにより輝度階調制御を行っても構わないし、DC駆動で電圧値もしくは電流値を変化させることにより輝度階調制御を行っても構わない。
【0020】
印加電圧によって有機EL素子の発光色の色度が変化する副画素(以下、「発光色が変化する副画素」と記す。)が1つの場合、1画素を構成する3副画素で4色発光させることがきる。また、発光色が変化する副画素が2つの場合は5色、3つの場合は6色発光させることができる。そして、3つの副画素で4色以上発光させることによって、3つの副画素で3色発光した場合に比べて画素の表示色の色域を拡げることができる。
【0021】
以下に、1画素において発光色が変化する副画素が1つの場合について、図2を用いて色域の拡大と共に説明する。
【0022】
図2は、発光色が変化する副画素が1つの場合の本発明の表示装置のCIE色度図を用いて表される色域の模式図を示している。図2では、発光色が変化する副画素がG副画素であり、色度が高電圧側でx座標の小さい方に変化する場合を示しているが、G副画素の発光色の色度が高電圧側でx座標の大きい方に変化する場合、或いはy座標が変化する場合でも同様に色域を拡げることができる。また、発光色の色度が変化する副画素がR副画素又はB副画素の場合も同様に色域を拡げることができる。CIE色度図中のR2はR副画素からの発光色の色度、G2LはG副画素の低電圧駆動時の発光色の色度、G2HはG副画素の高電圧駆動時の発光色の色度、B2はB副画素からの発光色の色度をそれぞれ表している。
【0023】
本構成において、G2Hの色度をCIE色度図上の三角形R22L2の外部にすることにより、色域を拡げることができる。即ち、有機EL素子への印加電圧の変化と共に発光色の色度が連続的に変化する場合、CIE色度図を用いて表した色域は四角形R22L2H2となり、三角形B22L2Hの分だけ電圧上昇により色域が拡がることになる。即ち3副画素で4色発光の表示装置は、3副画素で3色発光の表示装置より、副画素数を増やすことなく、色域が拡がることになる。
【0024】
また、ある電圧で有機EL素子の発光色の色度が切り替わる場合も、CIE色度図を用いて表した色域はR22L2H2となる。尚、この場合、三角形G2L22H内の色域は、G2L、P2、G2Hを使って表示することが可能で、具体的には、G2LとG2Hのパルス幅を調整することで表現することができる。
【0025】
発光色が変化する副画素が1画素に2つの場合、係る3副画素で4色又は5色発光させることができる。以下に図3を用いて色域の拡大と共に説明する。
【0026】
図3は、発光色が変化する副画素がG副画素とB副画素の2つの場合の本発明の表示装置のCIE色度図を用いて表した色域の模式図を示している。図3では、G副画素からの発光色の色度が高電圧側でx座標の小さい方に変化し、且つB副画素からの発光色の色度が高電圧側でy座標の大きい方に変化する場合を示しているが、これに限定されるわけではない。本発明においては、その他の発光色変化の場合も同様に色域を拡げることができる。また、発光色が変化する副画素が任意の2つの副画素の場合でも同様に色域を拡げることができる。CIE色度図中のB3LはB副画素からの低電圧駆動時の発光色の色度、B3HはB副画素からの高電圧駆動時の発光色の色度を表している。また、G3LはG副画素の低電圧駆動時の発光色の色度、G3HはG副画素の高電圧駆動時の発光色の色度を表している。R3はB副画素からの発光色の色度を表している。
【0027】
本構成では、B3H及びG3Hの色度をCIE色度図上の三角形B3L3L3の外部にすることにより、色域を拡げることができる。即ち、有機EL素子への印加電圧の変化と共に色度が連続的に移動し、且つB3HとG3Hの色度が異なる場合、CIE色度図を用いて表した色域は五角形B3L3H3H3L3となり、四角形B3L3H3H3Lの分だけ色域が拡がる。
【0028】
また、有機EL素子への印加電圧の変化と共に発光色の色度が連続的に移動し、且つB3HとG3Hの色度が同一であるC3の場合、CIE色度図を用いて表した色域は四角形R33L33Lとなり、三角形G3L33Lの分だけ色域を拡げることができる。
【0029】
また、ある電圧で有機EL素子の発光色の色度が切り替わる場合も、CIE色度図を用いて表した色域はR33L3H3H3Lとなる。この場合、三角形G3L3G3H内の色域はG3LとG3Hのパルス幅を調整することで表現することができ、三角形B3H3B3L内の色域はB3HとB3Lのパルス幅を調整することで表現することができる。また、四角形G3H3G3B3Hの領域は、G3LとG3Hのパルス幅及びB3LとB3Hのパルス幅の一方または両方を調整することで表現できる。
【0030】
さらに、ある電圧で有機EL素子の発光色の色度が切り替わり、且つB3HとG3Hの色度が同一であるC3の場合、CIE色度図を用いて表した色域は四角形R33L33Lとなり、三角形G3L33Lの分だけ色域を拡げることができる。
【0031】
3副画素で5色発光の表示装置においても、3副画素で3色発光の表示装置より、副画素数を増やすことなく、色域が拡がることになる。
【0032】
発光色が変化する副画素が3つの場合、係る3副画素で5色又は6色発光させることができる。以下に図4を用いて色域の拡大と共に説明する。
【0033】
図4は、3つの副画素全てが発光色の変化する副画素で構成されている場合の本発明の表示装置のCIE色度図を用いて表した色域の模式図を示している。図4では、R副画素からの発光色の色度が高電圧側でy座標の大きい方に変化し、且つG副画素からの発光色の色度が高電圧側でx座標の小さい方に変化し、さらにB副画素からの発光色の色度が高電圧側でy座標の大きい方に変化する場合を示している。本発明では、これに限定されるわけではなく、その他の発光色変化の場合も同様に色域を拡げることができる。CIE色度図中のR4LはR副画素からの低電圧駆動時の発光色の色度、R4HはR副画素からの高電圧駆動時の発光色の色度を表している。また、G4LはG副画素の低電圧駆動時の発光色の色度、G4HはG副画素の高電圧駆動時の発光色の色度を表している。B4LはB副画素からの低電圧駆動時の発光色の色度、B4HはB副画素の高電圧駆動時の発光色の色度を表している。
【0034】
本構成では、R4H、G4H、B4Hの色度をCIE色度図上の三角形R4L4L4Lの外部にすることにより、色域を拡げることができる。即ち、有機EL素子への印加電圧の変化と共に発光色の色度が連続的に移動し、且つB4HとG4Hの色度が異なる場合、CIE色度図を用いて表した色域は六角形B4L4H4H4L4H4Lとなる。つまり、四角形B4L4H4H4L及び三角形G4L4H4Lの分だけ色域が拡がる。
【0035】
また、有機EL素子への印加電圧の変化と共に発光色の色度が連続的に移動し、且つB4HとG4Hの色度が同一であるC4の場合、CIE色度図を用いて表した色域は五角形B4L44L4H4Lとなる。即ち、三角形B4L44Lと三角形G4L4H4Lの分だけ色域を拡げることができる。
【0036】
3副画素で6色発光の表示装置においても、3副画素で3色発光の表示装置より、副画素数を増やすことなく、色域が拡がることになる。
【0037】
また、ある電圧で有機EL素子の発光色の色度が切り替わり、B4HとG4Hの色度が異なる場合も、CIE色度図を用いて表した色域は六角形B4L4H4H4L4H4Lとなる。よって、四角形B4L4H4H4L及び三角形G4L4H4Lの分だけ色域が拡がる。尚、三角形G4L4G4Hの領域は、G4LとG4Hのパルス幅を調整することで表現することができ、三角形B4H4B4Lの領域は、B4LとB4Hのパルス幅を調整することで表現することができる。また、四角形G4L4G4B4Hの領域は、G4LとG4Hのパルス幅及びB4LとB4Hのパルス幅の一方または両方を調整することで表現できる。
【0038】
さらに、ある電圧で発光色の色度が切り替わり、且つB4HとG4Hの色度が同一であるC4の場合、CIE色度図を用いて表した色域は五角形B3L44L4H4Lとなり、三角形B4L44Lと三角形G4L4H4Lの分だけ色域を拡げることができる。
【0039】
図2乃至図4を用いた前記説明の通り、1画素を構成する3副画素が発する4色以上の発光色の色度がCIE色度図上で多角形を形成する場合、副画素数を増やすことなく色域を拡げることができる。また、印加電圧により発光色が変化する副画素数が多いほど色域を拡げることができる。従って、色域を拡げるためには前記多角形を形成するための、有機EL素子への印加電圧により発光色の色度が変化する副画素が少なくとも1つ必要である。また、好ましくは2つの副画素が印加電圧により発光色が変化し、さらに好ましくは3副画素全てが印加電圧により発光色が変化する副画素であることがよい。
【0040】
本発明に用いられる有機EL素子は、蛍光性有機化合物を用いた蛍光型有機EL素子と燐光性化合物を用いた燐光型有機EL素子とに分類される。蛍光型有機EL素子は一般に内部量子効率は25%と言われており、Triplet−triplet fusionを用いた高効率タイプの蛍光型有機EL素子においても内部量子効率は最大で40%と言われている。一方、燐光型有機EL素子は一般に内部量子効率は最大で100%が可能であり、効率の面からは燐光型有機EL素子の方が好ましい。
【0041】
しかしながら、青色燐光素子は、未だ実用に耐えられるものは開発されていない。そのため、B副画素は蛍光型有機EL素子を用い、G副画素及びB副画素は燐光型有機EL素子を用いることが、効率の面から好ましい。
【0042】
特に、有機EL素子を用いた表示装置は、以下のNTSC(National Television System Committee)のRGBの色度座標と近い値で発光させることが多い。
R:CIEx=0.67、CIEy=0.33
G:CIEx=0.21、CIEy=0.71
G:CIEx=0.14、CIEy=0.08
【0043】
この場合、シアン領域の色再現性が乏しくなる。従って、B副画素の発光色を印加電圧により青色からシアンに変化させる、或いはG副画素の発光色を印加電圧により緑色からシアンに変化させることが好ましい。より好ましくは、燐光型有機EL素子を用いたG副画素の発光色を印加電圧により緑色からシアンに変化させることである。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、以下の実施例では、R副画素の有機EL素子及びB副画素の有機EL素子は電圧により発光色は変化せず、G副画素の有機EL素子は電圧により発光色が変化する画素について説明する。
【0045】
図5(A)に電圧により発光色が変化しないR副画素及びB副画素の有機EL素子の断面模式図の一例を、図5(B)に電圧により発光色が変化するG副画素の有機EL素子の断面模式図の一例を示す。
【0046】
図5(A)の有機EL素子は、陽極9、ホール注入層10、ホール輸送層11、第1発光層12、電子輸送層14、電子注入層15及び陰極16を順次設けてある有機EL素子である。また、図5(B)の有機EL素子は、陽極9、ホール注入層10、ホール輸送層11、第1発光層12、第2発光層13、電子輸送層14、電子注入層15及び陰極16を順次設けてある有機EL素子である。
【0047】
図5(A)及び図5(B)の有機EL素子において、陽極9が反射電極の場合は、陰極16が光透過性電極であり、逆に陽極9が光透過性電極の場合は、陰極16が反射電極である。
【0048】
(実施例1)
表示装置の表示部を構成する画素を下記の工程により作製した。
【0049】
先ずスパッタ法により、ガラス基板上に、膜厚130nmの酸化錫インジウム(ITO)を成膜し、フォトレジストを用いたウエットエッチング方式によりストライプ状にパターニングして陽極9を形成した。次に、陽極9が形成されている基板を、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、次いでIPAで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄した。以上のようにして処理した基板を透明導電性支持基板として以下の工程で用いた。
【0050】
下記に示す化合物1とクロロホルムとを混合して0.1質量%のトルエン溶液を調製した。このトルエン溶液を陽極9上に滴下し、最初に回転数500rmpで10秒、次に回転数1000rpmで1分間スピンコートを行い、薄膜を形成した後、80℃の真空オーブンで10分間乾燥して、薄膜中の溶剤を完全に除去した。以上の方法にて形成されたホール注入層10の膜厚は11nmであった。
【0051】
次に、真空蒸着法により、ホール注入層10上に、下記に示す化合物2を成膜してホール輸送層11を形成した。この時、ホール輸送層11の膜厚を15nmとした。
【0052】
次に、真空蒸着法により、ホール輸送層11上に、シャドーマスクを用いてR,G,B各色の副画素の発光層を順次成膜した。
【0053】
R発光層として、CBPとIr(piq)3を、それぞれ別のボートから同時蒸着した。この時、CBPとIr(piq)3の濃度を、それぞれ90質量%、10質量%、となるように蒸着レートを調節し、膜厚を30nmとした。
【0054】
次に、G副画素として下記に示す化合物3と、下記に示す化合物4を、それぞれ別のボートから同時蒸着して第1発光層12を形成した。この時、発光層12に含まれる化合物3、化合物4の濃度を、それぞれ99質量%、1質量%、となるように蒸着レートを調節し、第1発光層12の膜厚を5nmとした。
【0055】
真空蒸着法により、第1発光層上に、下記に示す化合物3と、下記に示す化合物5を、それぞれ別のボートから同時蒸着して第2発光層13を形成した。この時、第2発光層13に含まれる化合物3、化合物5の濃度を、それぞれ99質量%、1質量%、となるように蒸着レートを調節し、第2発光層13の膜厚を25nmとした。
【0056】
B発光層として、化合物8と化合物9を、それぞれ別のボートから同時蒸着した。この時、化合物8と化合物9を、それぞれ95質量%、5質量%、となるように蒸着レートを調節し、膜厚を20nmとした。
【0057】
次に、前記R,G,B各発光層の上に、真空蒸着法により、下記に示す化合物6を成膜することにより電子輸送層14を形成した。この時、電子輸送層14の膜厚を10nmとした。
【0058】
次に、真空蒸着法により、電子輸送層14上に、下記に示す化合物7を成膜することにより電子注入層15を形成した。この時、電子輸送層7の膜厚を20nmとした。
【0059】
【化1】

【0060】
有機EL素子を構成する有機化合物層は、ホール注入層10、ホール輸送層11、第1発光層12、第2発光層13、電子輸送層14、電子注入層15からなる。また、この有機化合物層を真空蒸着法により形成する際には、蒸着時の真空度を7.0×10-5Pa以下とし、成膜速度を0.08nm/sec以上0.10nm/sec以下とした。但し、第1発光層12、第2発光層13はホスト及びドーパントの両者を合わせた蒸着速度である。
【0061】
次に、真空蒸着法により、電子注入層15上に、フッ化リチウム(LiF)を成膜してLiF膜を形成した。この時、LiF膜の膜厚を0.5nmとし、蒸着時の真空度を1.0×10-4Paとし、成膜速度を0.05nm/secとした。次に、真空蒸着法により、LiF膜上に、アルミニウムを成膜してAl膜を形成した。この時、Al膜の膜厚を150nmとし、蒸着時の真空度を1.0×10-4Paとし、成膜速度を1.0nm/sec以上1.2nm/sec以下の条件とした。尚、LiF膜及びAl膜は電子注入電極(陰極16)として機能する。
【0062】
最後に、素子が大気中の水分を吸着しないように、露点−70℃以下の窒素雰囲気下において保護用ガラス板をかぶせ、エポキシ系接着材で封止した。尚、保護ガラスの接着面側には掘り込みを入れ、水分吸着用のシート(有機EL用水分ゲッターシート、ダイニック株式会社製)を封入した。以上のようにしてG副画素の発光色が電圧により変化する画素を得た。
【0063】
得られた画素について、ITO電極(陽極9)を正極、アルミニウム電極(陰極16)を負極にして、R,G,B各副画素に電圧を印加した。
【0064】
R副画素に4.0Vの電圧を印加したところ、CIExy色度(0.65、0.35)の赤色発光が観測された。
【0065】
また、G副画素に3.2Vの電圧を印加したところ、CIExy色度(0.25、0.49)の緑色発光が観測された。G副画素に3.8Vの電圧を印加したところ、CIExy色度(0.16、0.23)の青色発光が観測された。図6にG副画素の発光スペクトルを示す。先ず素子に3.2Vの電圧を印加し、そこから徐々に3.8Vまで印加電圧を大きくすると、最初に緑色の発光が見られ、次いで印加電圧の上昇に伴い、緑色の発光比率が低下し、青色の発光比率が連続的に増加した。
【0066】
また、B副画素に4.0Vの電圧を印加したところ、CIExy色度(0.14、0.11)の青色発光が観測された。
【0067】
図7に実施例1の画素を用いた表示装置の色域を示す。CIE色度図中のB7はB副画素からの発光色の色度、R7はR副画素からの発光色の色度を表している。また、G7LはG副画素からの3.2V駆動時の発光色の色度を、G7HはG副画素からの3.8V駆動時の発光色の色度を表している。3.2V駆動時の色域は三角形B77L7、3.8V駆動時の色域は三角形B77H7で表される。即ち、3.2V駆動時に比べて、G副画素の発光色が高電圧で変化することにより、三角形B77H7L分色域が増加した。
【0068】
実施例1の場合、発光色の色度が変化する電圧領域が狭いため、1フレーム中のG7HとG7Lをそれぞれ発光させるためのパルス幅の比を変えることにより、G7HとG7Lの間の発光色が表せる。
【0069】
(実施例2)
化合物1を下記に示す化合物8に置き換えた以外、実施例1と同じ構成で、R副画素の有機EL素子及びB副画素の有機EL素子は電圧により発光色は変化せず、G副画素の有機EL素子は電圧により発光色が変化する画素を作製した。
【0070】
【化2】

【0071】
得られた画素について、ITO電極(陽極9)を正極、アルミニウム電極(陰極16)を負極にして、R,G,B各副画素に電圧を印加した。
【0072】
R副画素に4.0Vの電圧を印加したところ、CIExy色度(0.65、0.35)の赤色発光が観測された。
【0073】
また、G副画素に3.4Vの電圧を印加したところ、CIExy色度(0.28、0.58)の緑色発光が観測された。G副画素に7.4Vの電圧を印加したところ、CIExy色度(0.21、0.4)の青みがかった緑色発光が観測された。図8にG副画素の発光スペクトルを示す。先ず素子に3.4Vの電圧を印加し、そこから徐々に7.4Vまで印加電圧を大きくすると、最初に緑色の発光が見られ、次いで印加電圧の上昇に伴い、緑色の発光比率が低下し、青色の発光比率が連続的に増加した。
【0074】
また、B副画素に4.0Vの電圧を印加したところ、CIExy色度(0.15、0.14)の青色発光が観測された。
【0075】
図9に本実施例の色域を示す。CIE色度図中のB9はB副画素からの発光色の色度、R9はR副画素からの発光色の色度を表している。また、G9LはG副画素からの3.2V駆動時の発光色の色度を、G9HはG副画素からの7.4V駆動時の発光色の色度を表している。3.2V駆動時の色域は三角形B99L9、7.4V駆動時の色域は三角形B99H9で表される。即ち、3.2V駆動時に比べて、G副画素の発光色が高電圧で変化することにより、三角形B99H9L分色域が増加した。
【0076】
前記実施例1及び実施例2の電圧により発光色が変化する有機EL素子は、発光色により発光位置が異なる。そのため有機EL素子から放出される光を効率良く利用するために、発光色毎に有機EL素子の光学的干渉距離を調整して、取り出し効率を高めることが好ましい。特に、有機EL素子の発光領域と反射電極の反射面との光学距離が、発光波長の1/4倍、又は3/4倍であることが好ましい。
【0077】
前記実施例1及び実施例2では、発光色が電圧により変化する有機EL素子として、発光色の異なる発光層を直接積層した構成を用いて説明したが、これに限定されるものではない。2つの発光層の間に発光層以外の層が入っても構わないし、1つの発光層で電圧により発光色が変化する有機EL素子でも構わない。
【0078】
前記実施例1及び実施例2では、有機EL素子の光取り出し方向に関してボトムエミッション構成で説明したが、これに限定されるものではなく、トップエミッション構成でも構わない。
【0079】
また、前記実施例1及び実施例2では、パッシブタイプの表示装置の画素で説明したが、これに限定されるものではなく、アクティブタイプでも構わない。
【符号の説明】
【0080】
9:陽極、10:ホール注入層、11:ホール輸送層、12:第1発光層、13:第2発光層、14:電子輸送層、15:電子注入層、16:陰極、100:画素、110:R副画素、120:G副画素、130:B副画素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示部が複数の画素から構成され、前記各画素が3つの副画素から構成され、前記3つの副画素がそれぞれ有機EL素子を備え、前記3つの副画素のうち少なくとも1つは有機EL素子への印加電圧により発光色の色度が変化し、前記画素が表示しうる表示色のCIE色度図を用いて表した色域が、前記3つの副画素が発光する4色以上の発光色の色度をつないだ多角形を構成していることを特徴とする表示装置。
【請求項2】
前記3つの副画素の発光色の組み合わせの少なくとも1つが赤色、緑色、青色であることを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記3つの副画素のうち、青色を表示する副画素の有機EL素子は蛍光型であり、緑色を表示する副画素の有機EL素子が印加電圧により発光色が緑色からシアン色に変化する燐光型であり、赤色を表示する副画素の有機EL素子が燐光型であることを特徴とする請求項2項に記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−221641(P2012−221641A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84194(P2011−84194)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】