説明

表面が改質されたインプラントの製造方法及びそれによって製造されたインプラント

表面が改質されたインプラントの製造方法及びそれによって製造されたインプラントを提供する。チタンまたはチタン合金を含む基材をリン酸塩またはフッ素イオン、及びストロンチウムイオンのうち少なくとも一つを含む電解質溶液に沈積する段階と、温度、圧力及び時間条件による水熱反応を通じて沈積されている基材の表面にリン酸塩またはフッ素イオン、及びストロンチウムイオンのうち少なくとも一つと基材のチタンまたはチタン合金とが反応して、マイクロ単位の微細粗度が形成された表面構造を有する酸化膜層を形成する段階と、を含むことを特徴とする表面が改質されたインプラントの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプラントの製造方法及びそれによって製造されたインプラントに係り、より詳細には、表面が改質されたインプラントの製造方法及びそれによって製造されたインプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
インプラントは、人体組職が喪失された場合、回復させる代替物を意味するが、歯科では、人工で作った歯牙を移植することを言う。すなわち、人間の顎骨に人工歯牙を半永久的に埋植するために使うことを言う。一般補綴物や総入れ歯の場合、経時的に周りの歯牙と骨とが傷むが、インプラントは周辺歯牙組職を傷まないようにし、自然歯牙と機能や形状が同じながらも虫歯が生じないので、半永久的に使用できる。
【0003】
歯科と整形外科領域でインプラント材料として主に使われるチタンとチタン合金は、一般的に生体不活性の性質によって骨組職との直接的な結合はなされない。これにより、生体活性を有した材料を金属性インプラント表面にコーティングをするなど表面処理を通じてインプラントに生体活性を付与することによって、臨床成功率を増進するための方法が試みされてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が果たそうとする技術的課題は、骨組職との結合力に優れ、骨組職形成を促進するインプラントの製造方法を提供することである。
【0005】
また、本発明が果たそうとする他の技術的課題は、前記した方法で製造されたインプラントを提供することである。
【0006】
本発明が果たそうとする技術的課題は、前述した技術的課題に制限されず、言及されていないまた他の技術的課題は、下記の記載から当業者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記技術的課題を果たすための本発明の一実施形態による表面が改質されたインプラントの製造方法は、チタンまたはチタン合金を含む基材をリン酸塩またはフッ素イオン、及びストロンチウムイオンのうち少なくとも一つを含む電解質溶液に沈積する段階と、温度、圧力及び時間条件による水熱反応を通じて前記沈積されている基材の表面に、前記リン酸塩またはフッ素イオン、及び前記ストロンチウムイオンのうち少なくとも一つと前記基材のチタンまたはチタン合金とが反応して、マイクロ単位の微細粗度が形成された表面構造を有する酸化膜層を形成する段階と、を含む。
【0008】
前記リン酸塩イオンを含む前記電解質溶液は、例えば、約0.1重量%以上の濃度を有するリン酸溶液を使って製造されることができ、前記フッ素イオンを含む前記電解質溶液は、例えば、約0.01重量%以上の濃度を有するフッ酸溶液を使って製造されることができ、前記ストロンチウムイオンを含む前記電解質溶液は、例えば、約0.001mol/lの濃度を有するストロンチウム水溶液を使って製造可能である。
【0009】
また、前記電解質溶液は、鉱化剤をさらに含むことができ、このような前記鉱化剤は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのうち少なくとも一つが使われることができ、前記電解質溶液中の前記鉱化剤の濃度は、例えば、約0.1ないし1mol/lであり得る。
【0010】
また、前記電解質溶液は、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンのうち少なくとも一つをさらに含むことができ、前記カルシウムイオンとマグネシウムイオンとを含む前記電解質溶液は、例えば、それぞれ約0.001mol/l以上の濃度を有するカルシウム溶液及びマグネシウム溶液を使って製造可能である。
【0011】
また、前記水熱反応は、例えば、約100ないし250℃で約1ないし20atmの圧力で、約1時間以上行われる。
【0012】
また、前記酸化膜層形成段階後に、熱処理段階をさらに含むことができ、前記熱処理段階は、例えば、約300ないし500℃温度で約1時間以上行われる。
【0013】
また、前記沈積段階前に、前記基材を切削加工した後、サンドブラスティング、酸腐蝕、洗浄、乾燥及び保管のうち少なくとも一つを行う前処理段階をさらに含みうる。
【0014】
それだけではなく、前記酸化膜層形成段階後、水洗及び乾燥する段階をさらに含みうる。
【0015】
また、前記酸化膜層のRa値は、例えば、約1ないし5μmであり得る。
【0016】
前記他の技術的課題を果たすための本発明の一実施形態による表面が改質されたインプラントは、チタンまたはチタン合金を含む基材と、前記基材の表面上にチタンリン酸塩、ストロンチウムチタン、ストロンチウムチタンリン酸塩のうち少なくとも一つを含み、マイクロ単位の微細粗度が形成された表面構造を有する酸化膜層と、を含む。
【0017】
また、前記酸化膜層は、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンのうち少なくとも一つをさらに含むこともできる。
【0018】
また、前記酸化膜層のRa値は、例えば、約1ないし5μmであり得る。
【0019】
前記技術的課題を果たすための本発明の他の実施形態による表面が改質されたインプラントは、チタンまたはチタン合金を含む基材と、前記基材の表面上にフッ化チタン、ストロンチウムチタン、フッ化酸化ストロンチウムチタンのうち少なくとも一つを含み、マイクロ単位の微細粗度が形成された表面構造を有する酸化膜層と、を含みうる。
【0020】
また、前記酸化膜層は、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンのうち少なくとも一つをさらに含みうる。
【0021】
また、前記酸化膜層のRa値は、例えば、約1ないし5μmであり得る。
【0022】
その他の実施形態の具体的な事項は、詳細な説明及び図面に含まれている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によって製造されたインプラントは、生体内で骨組職との微細機械的結合(micromechanical interlocking)に必須なマイクロ単位の微細粗度を有する表面構造を有し、骨組職形成を促進するイオンが結合されている酸化膜層を含むことによって、優れた生体適合性と優れた骨組職反応とを成して、従来と比較時、改善された骨癒合の結果を表わすことができ、相対的に優れた機械物理的性質を有しうる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態によるインプラントの製造方法を順次に示した工程フローチャートである。
【図2】本発明の実験例の試片に対する走査電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実験例の試片に対する走査電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の比較例の試片に対する走査電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実験例及び比較例の試片に対するX線回折分析結果を示すグラフである。
【図6】本発明の実験例及び比較例の試片に対するX線回折分析結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実験例及び比較例の試片に対するX線回折分析結果を示すグラフである。
【図8】本発明の実験例で製造した試片を擬似体液(Hank’s溶液)に4週間沈積した後、試片表面に対する走査電子顕微鏡写真である。
【図9】本発明の実験例で製造した試片を擬似体液(Hank’s溶液)に4週間沈積した後、試片表面に対する走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態によるインプラントの製造方法を、図1を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態による表面が改質されたインプラントの製造方法を順次に示した工程フローチャートである。
【0026】
図1に示したように、基材をリン酸塩及びストロンチウムイオンのうち少なくとも一つを含む電解質溶液に沈積する(S1)。
【0027】
本発明で使われる基材は、純粋なチタンを含んでなることもでき、チタンに他の金属、例えば、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、ニオビオム(Nb)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、錫(Sn)、モリブデン(Mo)のうち少なくとも一つの金属を添加したチタン合金を含んでなることもできる。より具体的には、基材は、純粋なチタンまたは、例えば、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−7Nb、Ti−30Nb、Ti−13Nb−13zr、Ti−15Mo、Ti−35.3Nb−5.1Ta−7.1Zr、Ti−29Nb−13Ta−4.6Zr、Ti−29Nb−13Ta−2Sn、Ti−29Nb−13Ta−4.6Sn、Ti−29Nb−13Ta−6Sn、Ti−16Nb−13Ta−4Moのうちから選択されうる。
【0028】
このようなチタンまたはチタン合金からなる基材は、選択的に前処理段階を経ることができる。例えば、基材表面を切削加工することもでき、切削加工後、酸腐蝕またはサンドブラスティング処理をすることもでき、切削加工、酸腐蝕またはサンドブラスティング処理をした後、洗浄、乾燥することができる。
【0029】
前述したような基材を電解質溶液に沈積する。電解質溶液は、リン酸塩とストロンチウムイオンとのうち少なくとも一つを供給する供給源であって、リン酸塩イオンは、骨形成と密接な関係があると知られたアパタイトの生体内形成を促進し、ストロンチウムイオンは、骨形成細胞の増殖と分化とを促進する役割を果たす。
【0030】
このようなリン酸塩イオンは、例えば、リン酸(HPO、phosphoric acid)溶液などから供給されることができ、ストロンチウムイオンは、酸化ストロンチウム(SrO、calcium oxide)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH)、strontium chloride)、塩化ストロンチウム(SrClまたはSrCl6HO、strontium chlorideまたはstrontium chloride hexahydrate)溶液などから供給されうる。このようなリン酸塩イオン供給源とストロンチウムイオン供給源は、前記したところに限定されず、リン酸塩イオンまたはストロンチウムイオンを供給できるものであれば、特別に限定されずに多様な種類の供給源が使われる。
【0031】
この際、電解質溶液に使われるリン酸塩イオン供給源、すなわち、リン酸溶液の濃度は、例えば、約0.1重量%以上であるものを使うことができ、望ましくは、約1ないし5重量%のリン酸溶液を使うことができる。電解質溶液に使われるリン酸溶液の濃度が、前記範囲である場合、後述する基材表面の過度な腐蝕を防止し、基材表面に適切な厚さの酸化膜層を形成させる。
【0032】
また、電解質溶液に使われるストロンチウムイオン供給源、すなわち、ストロンチウム水溶液の濃度は、例えば、約0.001mol/lであり、望ましくは、約0.001ないし0.05mol/lであり得る。前記電解質溶液の使用を通じてストロンチウムが結合されたチタン酸化膜層を形成しうる。
【0033】
また、電解質溶液中には、強アルカリ性を帯びる鉱化剤(mineralizer)をさらに含みうる。鉱化剤は、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH、sodium hydroxide)と水酸化カリウム(KOH、pottasium hydroxide)とのうち少なくとも一つが選択されて使われる。鉱化剤は、電解質溶液中に、例えば、約0.1ないし1mol/lの濃度で含まれることができ、前記したような濃度範囲で使われる場合、基材表面に結晶化度が高い酸化膜層を形成しうる。
【0034】
それだけではなく、電解質溶液は、カルシウム及びマグネシウムイオンのうち少なくとも一つをさらに含みうる。このようなカルシウム及びマグネシウムイオンは、骨形成細胞のインプラント表面付着を増進する役割をして、骨形成をより有利にさせる。
【0035】
カルシウムイオンは、例えば、酸化カルシウム(CaO、calcium oxide)、水酸化カルシウム(Ca(OH)、calcium hydroxide)、塩化カルシウム(CaCl、calcium chloride)溶液などから供給されることができ、マグネシウムイオンは、例えば、酸化マグネシウム(MgO、magnesiumoxide)、水酸化マグネシウム(MgOH、magnesium hydroxide)、塩化マグネシウム(MgCl、magnesium chloride)溶液などから供給されうる。このようなカルシウムイオン供給源とマグネシウムイオン供給源は、前記したところに限定されず、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンを供給できるものであれば、特別に限定されずに多様な種類の供給源が使われる。
【0036】
この際、電解質溶液に使われるカルシウムイオン供給源またはマグネシウムイオン供給源、すなわち、カルシウム溶液またはマグネシウム溶液の濃度は、例えば、約0.001mol/l以上であり、望ましくは、0.001ないし0.05mol/lであり得る。
【0037】
次いで、図1に示したように、水熱反応を通じて基材表面にマイクロ単位の微細粗度を有する酸化膜層を形成する(S2)。
【0038】
電解質溶液に沈積された基材は、水熱反応を通じて基材表面にマイクロ単位の微細粗度、例えば、Ra値が、1ないし5μmを有する酸化膜層を形成しうる。この際、電解質溶液は、リン酸塩イオン及びストロンチウムイオンのうち少なくとも一つを含んでいるので、基材表面に形成される酸化膜層は、チタンリン酸塩、ストロンチウムチタン及びストロンチウムチタンリン酸塩のうち少なくとも一つを酸化膜層に含みうる。それだけではなく、電解質溶液にカルシウムイオンとマグネシウムイオンとのうち少なくとも一つが含まれている場合、前記した酸化膜層には、カルシウムイオンとマグネシウムイオンとのうち少なくとも一つがさらに含まれうる。
【0039】
基材表面に、前述したような酸化膜層を形成するためには、所定の温度、圧力及び時間水熱反応を行うことが必要である。水熱反応は、例えば、テフロン(Teflon)(登録商標)がコーティングされた密閉された水熱反応器内でなされることができ、例えば、約100ないし250℃の温度で、約1ないし20atmの圧力で、約1時間以上、望ましくは、1ないし24時間行われる。
【0040】
水熱反応条件と関連して、前記したような範囲の温度と圧力とで水熱反応を行うことによって、耐蝕性に優れたチタンまたはチタン合金を含んでなる基材表面の腐蝕がよく起きるようにでき、基材の表面から腐蝕されて出たチタンが電解質溶液中のイオン、例えば、リン酸塩イオン、ストロンチウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンなどと結合して、基材表面に数μmの厚さを有する酸化膜層を形成する。
【0041】
酸化膜層が形成された基材は、例えば、脱イオン水を用いて数秒ないし数十分間超音波洗浄した後、乾燥させることができる。
【0042】
引き続き、図1に示したように、酸化膜層が形成された基材に熱処理を行うことができる(S3)。
【0043】
酸化膜層が形成された基材に熱処理を行う理由は、酸を利用した水熱反応を通じて発生する水素脆性(hydrogen embrittlement)による機械物理的性質の弱化を防止するためのことである。酸化膜層が形成された基材の熱処理は、例えば、約300ないし500℃の温度で約1時間以上、望ましくは、1ないし24時間行うことができる。
【0044】
引き続き、通常のインプラント製造工程を通じて表面が改質されたインプラントを完成する。
【0045】
次いで、本発明の他の実施形態によるインプラントの製造方法を、図1を参照して説明する。本発明の他の実施形態によるインプラントの製造方法は、電解質溶液中にリン酸塩イオンの代りにフッ素イオンを含んで、基材の表面に形成される酸化膜層にフッ化チタンまたはフッ化酸化ストロンチウムチタンが含まれるということを除いては、本発明の一実施形態によるインプラントの製造方法と実質的に同一であるので、その差点を中心に説明する。
【0046】
図1に示したように、基材をフッ素イオン及びストロンチウムイオンのうち少なくとも一つを含む電解質溶液に沈積する(S1)。
【0047】
基材は、本発明の一実施形態によるインプラントの製造方法でのように、純粋なチタンまたはチタン合金からなりうる。基材は、選択的に前処理段階を経ることができる。例えば、基材表面を切削加工をすることもでき、切削加工後、さらに酸腐蝕またはサンドブラスティング処理をすることもでき、切削加工、酸腐蝕またはサンドブラスティング処理後、洗浄、乾燥することができる。
【0048】
このような基材をフッ素イオンとストロンチウムイオンとのうち少なくとも一つを含む電解質溶液に沈積する。フッ素イオンは、骨形成と密接な関係があるものであって、骨質を増加させて骨芽細胞の分化を促進し、ストロンチウムイオンは、骨形成細胞の増殖と分化とを促進する役割を果たす。
【0049】
フッ素イオンは、例えば、フッ酸(HF、hydrofluoric acid)などの溶液から供給されることができ、ストロンチウムイオンは、酸化ストロンチウム(SrO)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH))、塩化ストロンチウム(SrClまたはSrCl6HO)などの溶液から供給されうる。このようなフッ素イオン供給源とストロンチウムイオン供給源は、前記したところに限定されず、フッ素イオンまたはストロンチウムイオンを供給できるものであれば、特別に限定されずに多様な種類の供給源が使われる。
【0050】
この際、電解質溶液に使われるフッ酸溶液の濃度は、例えば、約0.01重量%以上であり、望ましくは、約0.01ないし1重量%であり得る。電解質溶液に使われるフッ酸溶液の濃度が、前記範囲である場合、後述する基材表面の過度な腐蝕を防止し、基材表面に適切な厚さの酸化膜層を形成させる。
【0051】
また、電解質溶液に使われるストロンチウムイオン供給源、すなわち、ストロンチウム水溶液の濃度は、例えば、約0.001mol/l以上であり、望ましくは、約0.001ないし0.05mol/lであり得る。
【0052】
前記の電解質溶液を使ってフッ素イオンまたはストロンチウムイオンが、チタン酸化膜に結合された表面層を形成しうる。
【0053】
また、電解質溶液中には、強アルカリ性を帯びる鉱化剤をさらに含むこともでき、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンのうち少なくとも一つをさらに含みうる。鉱化剤の種類、濃度、カルシウムイオンとマグネシウムイオンとの供給源、及び濃度については、本発明の一実施形態によるインプラントの製造方法とは実質的に同一であるので、ここでは、詳細な説明は省略する。
【0054】
次いで、図1に示したように、水熱反応を通じて基材表面にマイクロ単位の微細粗度を有する酸化膜層を形成する(S2)。
【0055】
電解質溶液に沈積された基材に水熱反応を起こすことによって、基材表面にマイクロ単位の微細粗度、例えば、Ra値が、1ないし5μmを有する酸化膜層を形成しうる。この際、電解質溶液中にフッ素イオン及びストロンチウムイオンのうち少なくとも一つを含んでいるので、基材表面に形成される酸化膜層は、フッ化チタン、ストロンチウムチタン、及びフッ化酸化ストロンチウムチタンのうち少なくとも一つを酸化膜層に含みうる。それだけではなく、電解質溶液にカルシウムイオン及びマグネシウムイオンのうち少なくとも一つが含まれている場合、前述した酸化膜層には、カルシウムイオンとマグネシウムイオンとがさらに含まれうる。
【0056】
基材表面に、前述したような酸化膜層を形成するためには、所定の温度、圧力及び時間水熱反応を行うことが必要である。水熱反応は、例えば、テフロン(登録商標)がコーティングされた密閉された水熱反応器内でなされることができ、例えば、約100ないし250℃の温度で、約1ないし20atmの圧力で、約1時間以上、望ましくは、1ないし24時間行われる。水熱反応条件と関連して、前記したような範囲の温度と圧力とで水熱反応を行うことによって、耐蝕性に優れたチタンまたはチタン合金を含んでなる基材表面の腐蝕がよく起きるようにでき、基材の表面から腐蝕されて出たチタンが電解質溶液中のイオン、例えば、フッ素イオン、ストロンチウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンなどと結合して、基材表面に数μmの厚さを有する酸化膜層を形成する。
【0057】
酸化膜層が形成された基材は、例えば、脱イオン水を用いて数秒ないし数十分間超音波洗浄した後、乾燥させることができる。
【0058】
引き続き、図1に示したように、酸化膜層が形成された基材に熱処理を行うことができる(S3)。
【0059】
酸化膜層が形成された基材に熱処理を行う理由は、酸を利用した水熱反応を通じて発生する水素脆性による機械物理的性質の弱化を防止することであって、例えば、約300ないし500℃の温度で、例えば、1時間以上、望ましくは、1ないし24時間熱処理を行うことができる。
【0060】
引き続き、通常のインプラント製造工程を通じて表面が改質されたインプラントを完成する。
【0061】
以下、実験例及び比較例を通じて、本発明をさらに詳細に説明する。但し、下記実験例は、本発明を例示するためのものであって、本発明が、下記実験例によって限定されるものではないということが理解されなければならない。
【0062】
〔実験例1〕
厚さ1mmの常用の純粋チタン板を10×10mmサイズに切断して基材を準備した。基材の表面を#1200のSiC研磨紙で段階的に研磨した後、アセトン、アルコール、蒸溜水溶液で順次にそれぞれ15分間超音波洗浄した。洗浄後、無菌作業台内で空気中に乾燥して保管した。
【0063】
次いで、リン酸塩イオンを含有する電解質溶液を製造するために、シグマ社の85%リン酸溶液(orthophosphoric acid、HPO)2mlを脱イオン水98mlに添加して使った。
【0064】
引き続き、テフロン(登録商標)がコーティングされた水熱反応器に電解質溶液を移し、電解質溶液内に基材を沈積した。そして、180℃、10atmで4時間水熱反応を行った。
【0065】
次いで、基材を脱イオン水を用いて20分間超音波洗浄した後、空気中で24時間乾燥した後、電気炉で約400℃温度で約12時間熱処理を行ってインプラントを完成した。
【0066】
〔実験例2〕
実験例1のように前処理された基材を準備した。
【0067】
次いで、リン酸塩とストロンチウムイオンとを含む電解質溶液を製造するために、シグマ社の85%リン酸溶液6ml、水酸化ナトリウム1.8g、塩化ストロンチウム0.6gを脱イオン水294mlに添加して使った。
【0068】
引き続き、テフロン(登録商標)がコーティングされた水熱反応器に電解質溶液を移し、電解質溶液内に基材を沈積した。そして、180℃、10atmで2時間水熱反応を行った。
【0069】
次いで、基材を脱イオン水を用いて20分間超音波洗浄した後、空気中で24時間乾燥した後、電気炉で400℃で12時間熱処理を行ってインプラントを完成した。
【0070】
〔比較例1〕
厚さ1mmの常用の純粋チタン板を10×10mmサイズに切断して基材を準備した。基材の表面を#1200のSiC研磨紙で段階的に研磨した後、アセトン、アルコール、蒸溜水で順次にそれぞれ15分間超音波洗浄した。洗浄後、無菌作業台内で空気中に乾燥して保管した。
【0071】
次いで、リン酸塩を含有する電解質溶液を製造するために、シグマ社の85%リン酸溶液5mlを脱イオン水95mlに添加して使った。
【0072】
引き続き、テフロン(登録商標)がコーティングされた水熱反応器に電解質溶液を移し、電解質溶液内に基材を沈積した。そして、80℃、常圧で24時間水熱反応を行った。
【0073】
次いで、基材を脱イオン水を用いて5分間超音波洗浄した後、空気中で24時間乾燥した。このうち一部は、付加的に電気炉で400℃で12時間熱処理を行ってインプラントを完成した。
【0074】
〔比較例2〕
比較例1のように、前処理された基材を50mMのストロンチウム水溶液に沈積した後、80℃、常圧で24時間水熱反応を行ってインプラントを完成した。このうち一部は、付加的に電気炉で400℃で12時間熱処理を行ってインプラントを完成した。
【0075】
〔インプラント試片表面の形態学的微細構造〕
実験例1、2及び比較例1のインプラント試片表面の形態学的微細構造を走査電子顕微鏡(scanning electron microscopy)で観察して、その結果をそれぞれ図2ないし図4に示した。
【0076】
図2は、実験例1の試片に対する走査電子顕微鏡写真であり、図3は、実験例2の試片に対する走査電子顕微鏡写真であって、実験例1と実験例2との試片の表面でそれぞれマイクロ単位の表面構造と、これによるマイクロ単位の表面粗度が形成されているということが分かる。
【0077】
図4は、比較例1の試片に対する走査電子顕微鏡写真であって、熱処理の有無に関係なく、水熱反応前と比較時、表面構造において差が観察されない。また、図示していないが、比較例2の試片の場合にも、走査電子顕微鏡観察時、水熱反応前と比較時、差が観察されなかった。
【0078】
したがって、本発明の実施形態によって製造された実験例1と2とのインプラントの表面にマイクロ単位の微細粗度が形成されるということを確認することができる。
【0079】
〔インプラント試片のX線回折分析結果〕
実験例1、2及び比較例1のインプラント試片のX線回折分析結果を、図5ないし図7に示した。図5は、実施形態1の試片に対するX線回折分析結果であり、図6は、実験例2の試片に対するX線回折分析結果である。図7は、比較例1の試片に対するX線回折分析結果である。インプラント表面に存在する結晶構造を薄膜分析装置が付着されたX線回折器(thin−film X−ray diffractometer)で分析した。
【0080】
図5は、実験例1の試片に対する分析結果であって、チタンリン酸塩(titanium phosphate、TiPO)のピーク(JCPDS #81−1334)が観察され、熱処理施行前の試片で強い水素化チタン(titanium hydride)のピークを見せたこととは異なって、水素化チタンピークが観察されなかった。
【0081】
図6は、実験例2の試片に対する分析結果であって、ストロンチウムチタンリン酸塩(strontium titanium phosphate、SrTi(PO)のピーク(JCPDS #33−1356)が観察された。
【0082】
また、図7は、比較例1の試片に対する分析結果であって、チタンピークの外にチタンリン酸塩の二次的なピークは観察されなかった。図示していないが、比較例2の試片に対する分析結果でも、チタン以外のストロンチウムチタンの二次的なピークは観察されなかった。
【0083】
したがって、本発明の実施形態によって製造された実験例1と2とのインプラント表面の酸化膜層には、チタンリン酸塩またはストロンチウムチタンリン酸塩層が生成されるということを確認することができた。
【0084】
〔インプラント試片の電子線微細分析器の分析結果〕
実験例1、2及び比較例1、2のインプラント試片を電子線微細分析器(Electron probe micro analyzer)で分析した結果、実験例1の試片では、チタンリン酸塩(TiPO)層、実験例2の試片では、ストロンチウムチタンリン酸塩(SrTi(PO)層の形成を表わす定量的な元素構成比を確認することができ、これは、試片のX線回折分析結果と一致した。一方、比較例1、2の試片では、このようなリン酸塩またはストロンチウムイオンの存在を確認することができなかった。
【0085】
〔インプラント試片の生体擬似溶液での表面のアパタイト形成の評価〕
実験例1、2の試片の生体活性を評価するために、試片を生体擬似溶液(Hank’s溶液)に4週間沈積した後、表面に生成されたアパタイトの走査電子顕微鏡写真を、図8と図9とに示した。
【0086】
4週の所見で、実験例1(図8)と実験例2(図9)との試片表面全体に生成された比較的に厚いアパタイト形成が観察され、図示していないが、比較例1、2の試片では、このようなアパタイトの形成を観察することができなかった。したがって、試験管的評価で製造された試片が骨組職形成を促進することができる生体活性を有することを確認することができた。したがって、本発明の実施形態によって製造された実験例1、2のインプラントは、優れた生体適合性を有することが分かる。
【0087】
このように、本発明は、記載の実験例に限定されるものではなく、本発明の思想及び範囲を外れずに多様に修正及び変形できるということは、当業者に自明である。したがって、そのような修正例または変形例は、本発明の特許請求の範囲に属すると言わなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0088】
インプラントは、生体内で骨組職との微細機械的結合に必須なマイクロ単位の微細粗度を有する表面構造を有し、骨組職形成を促進するイオンが結合されている酸化膜層を含むことによって、優れた生体適合性と優れた骨組職反応とを成して、従来と比較時、改善された骨癒合の結果を表わすことができ、相対的に優れた機械物理的性質を有しうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンまたはチタン合金を含む基材をリン酸塩またはフッ素イオン、及びストロンチウムイオンのうち少なくとも一つを含む電解質溶液に沈積する段階と、
温度、圧力及び時間条件による水熱反応を通じて前記沈積されている基材の表面に、前記リン酸塩またはフッ素イオン、及び前記ストロンチウムイオンのうち少なくとも一つと前記基材のチタンまたはチタン合金とが反応して、マイクロ単位の微細粗度が形成された表面構造を有する酸化膜層を形成する段階と、
を含むことを特徴とする表面が改質されたインプラントの製造方法。
【請求項2】
前記リン酸塩イオンを含む前記電解質溶液は、0.1重量%以上の濃度を有するリン酸溶液を用いて製造されることを特徴とする請求項1に記載の表面が改質されたインプラントの製造方法。
【請求項3】
前記フッ素イオンを含む前記電解質溶液は、0.01重量%以上の濃度を有するフッ酸溶液を用いて製造されることを特徴とする請求項1に記載の表面が改質されたインプラントの製造方法。
【請求項4】
前記ストロンチウムイオンを含む前記電解質溶液は、0.001mol/l以上の濃度を有するストロンチウム水溶液を用いて製造されることを特徴とする請求項1に記載の表面が改質されたインプラントの製造方法。
【請求項5】
前記電解質溶液は、鉱化剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の表面が改質されたインプラントの製造方法。
【請求項6】
前記鉱化剤は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項5に記載の表面が改質されたインプラントの製造方法。
【請求項7】
前記鉱化剤の濃度は、0.1ないし1mol/lであることを特徴とする請求項5に記載の表面が改質されたインプラントの製造方法。
【請求項8】
前記電解質溶液は、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンのうち少なくとも一つをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の表面が改質されたインプラントの製造方法。
【請求項9】
前記カルシウムイオンとマグネシウムイオンとを含む前記電解質溶液は、それぞれ0.001mol/l以上の濃度を有するカルシウム溶液とマグネシウム溶液とを用いて製造されることを特徴とする請求項8に記載の表面が改質されたインプラントの製造方法。
【請求項10】
前記水熱反応は、100ないし250℃で1ないし20atmの圧力で行われることを特徴とする請求項1に記載の表面が改質されたインプラントの製造方法。
【請求項11】
前記水熱反応は、1時間以上行われることを特徴とする請求項10に記載の表面が改質されたインプラントの製造方法。
【請求項12】
前記酸化膜層形成段階後に、熱処理段階をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の表面が改質されたインプラントの製造方法。
【請求項13】
前記熱処理段階は、300ないし500℃温度で1時間以上行われることを特徴とする請求項12に記載の表面が改質されたインプラントの製造方法。
【請求項14】
前記沈積段階前に、前記基材を切削加工した後、サンドブラスティングまたは酸腐蝕処理、洗浄、乾燥及び保管のうち少なくとも一つを行う前処理段階をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の表面が改質されたインプラントの製造方法。
【請求項15】
前記酸化膜層形成段階後、水洗及び乾燥する段階をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の表面が改質されたインプラントの製造方法。
【請求項16】
前記酸化膜層のRa値は、1ないし5μmであることを特徴とする請求項1に記載の表面が改質されたインプラントの製造方法。
【請求項17】
チタンまたはチタン合金を含む基材と、
前記基材の表面上にチタンリン酸塩、ストロンチウムチタン、ストロンチウムチタンリン酸塩のうち少なくとも一つを含み、マイクロ単位の微細粗度が形成された表面構造を有する酸化膜層と、
を含むことを特徴とする表面が改質されたインプラント。
【請求項18】
前記酸化膜層は、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンのうち少なくとも一つをさらに含むことを特徴とする請求項17に記載の表面が改質されたインプラント。
【請求項19】
前記酸化膜層のRa値は、1ないし5μmであることを特徴とする請求項17に記載の表面が改質されたインプラント。
【請求項20】
チタンまたはチタン合金を含む基材と、
前記基材の表面上にフッ化チタン、ストロンチウムチタン、フッ化酸化ストロンチウムチタンのうち少なくとも一つを含み、マイクロ単位の粗度が形成された表面構造を有する酸化膜層と、
を含むことを特徴とする表面が改質されたインプラント。
【請求項21】
前記酸化膜層は、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンのうち少なくとも一つをさらに含むことを特徴とする請求項20に記載の表面が改質されたインプラント。
【請求項22】
前記酸化膜層のRa値は、1ないし5μmであることを特徴とする請求項20に記載の表面が改質されたインプラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−533708(P2010−533708A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516912(P2010−516912)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【国際出願番号】PCT/KR2008/002556
【国際公開番号】WO2009/011489
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(509350262)オステオフィル カンパニー,リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Osteophil Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】#705,College of Dentistry,Gyeongbuk National Univ.,188−1,Samdeok−dong 2−ga,Jung−gu,Daegu 700−721,Republic of Korea
【Fターム(参考)】