説明

表面プラズモンセンサ、及びこれを用いたセンシング装置

【課題】従来よりも高感度なセンシングが可能な表面プラズモンセンサを提供する。
【解決手段】表面プラズモンセンサ1は、誘電体プリズム10と金属膜20とを備えてなり、誘電体プリズム10と金属膜20との界面S1で全反射する条件で測定光L1が入射されて、金属膜20の表面で表面プラズモンが励起されるセンサである。表面プラズモンセンサ1において、金属膜20の誘電体プリズム10と反対側の表面S2に、特定の被検出物質Rのみが結合可能な表面修飾A1が施されており、被検出物質Rが、被検出物質Rと選択的に結合する少なくとも表面が金属からなる金属粒子Mにて標識されてセンシングが行われる。表面プラズモンセンサ1においては、金属膜20に被検出物質R及び金属粒子Mが結合されたときに、金属粒子Mの表面で発生する散乱光L3の光学特性が検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモンの励起を利用してセンシングが行われる表面プラズモンセンサ、及びこれを用いたセンシング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Kretschmann型の表面プラズモンセンサは、誘電体プリズムとこの誘電体プリズムの一面に成膜された金属膜とを基本構成とするセンサである。かかる表面プラズモンセンサでは、誘電体プリズムと金属膜との界面に対して、表面プラズモンが励起される条件で測定光が入射され、誘電体プリズムと金属膜との界面で反射された反射光の光学特性が検出される。
【0003】
P偏光の直線ビームを金属膜に対して全反射角以上の特定入射角θSPで入射させると、金属膜のプリズムと反対側にエバネッセント波が生じ、このエバネッセント波によって金属膜の表面に表面プラズモンが励起される。エバネッセント光の波数ベクトルが表面プラズモンの波数と等しくて波数整合が成立すると両者は共鳴状態となり、光のエネルギーが表面プラズモンに移行するので、プリズムと金属膜との界面で全反射する光の強度が著しく低下する。表面プラズモンの波数KSPと、表面プラズモンの角周波数ωと、金属膜の誘電率εmと、金属膜の表面に付着させられた試料の誘電率εsとの間には、相関関係があることが知られている。したがって、例えば上記特定入射角θSP(全反射解消角)を測定することで試料の誘電率εsが求められ、試料中の被検出物質の有無あるいは量等を分析することができる。
【0004】
特許文献1には、金属膜の誘電体プリズムと反対側の表面に、大腸菌等の被検出物質が特異結合可能な機能膜(20)を積層したKretschmann型の表面プラズモンセンサが開示されている。かかるセンサでは、誘電体プリズムと金属膜との界面で反射された反射光の光学特性に合わせて、機能膜に被検出物質が結合されたときに、表面プラズモンの電場が乱されて生じる散乱光(22)の光学特性を検出することができる。
【特許文献1】特開平10-78390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来よりも高感度なセンシングが可能な表面プラズモンセンサ、及びこれを用いたセンシング装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の表面プラズモンセンサは、誘電体プリズムと、該誘電体プリズムの一面に成膜された金属膜とを備えてなり、前記誘電体プリズムの他面から、前記誘電体プリズムと前記金属膜との界面で全反射する条件で測定光が入射されて、前記金属膜の表面で表面プラズモンが励起される表面プラズモンセンサにおいて、
前記金属膜の前記誘電体プリズムと反対側の表面に、特定の被検出物質のみが結合可能な表面修飾が施されており、
前記被検出物質が、該被検出物質と選択的に結合する少なくとも表面が金属からなる金属粒子にて標識されてセンシングが行われるものであり、
前記金属膜に前記被検出物質及び前記金属粒子が結合されたときに、該金属粒子の表面で発生する散乱光の光学特性が検出されるものであることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の第1の表面プラズモンセンサにおいて、前記散乱光には、前記金属粒子によって前記表面プラズモンが散乱されて発生する散乱光、及び/又は前記表面プラズモンの電場により励起されて前記金属粒子の周囲に発生する局在プラズモンにより発生する散乱光が含まれる。
【0008】
本発明の第2の表面プラズモンセンサは、上記本発明の第1の表面プラズモンセンサを基本構成とし、さらに、前記散乱光の光学特性に合わせて、前記測定光が前記誘電体プリズムと前記金属膜との界面で反射されて生じる反射光の光学特性が検出されるものであることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の第3の表面プラズモンセンサは、上記本発明の第1の表面プラズモンセンサを基本構成とし、さらに、前記金属粒子として、表面に蛍光物質が固定された粒子を用いてセンシングが行われるものであり、前記金属膜に前記被検出物質及び前記金属粒子が結合されたときに、前記金属粒子の周囲のプラズモン電場により、前記蛍光物質が励起されて生じる蛍光の光学特性が検出されるものであることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の第1〜第3の表面プラズモンセンサにおいて、前記金属膜が銀を含むことが好ましい。前記金属膜が銀等の比較的酸化されやすい金属を含む場合、前記金属膜の前記誘電体プリズムと反対側の表面に酸化防止処理が施されていることが好ましい。
【0011】
本発明の第1のセンシング装置は、上記本発明の第1の表面プラズモンセンサと、
前記表面プラズモンセンサに前記測定光を照射する測定光照射手段と、
前記散乱光の光学特性を検出する散乱光検出手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
本発明の第2のセンシング装置は、上記本発明の第2の表面プラズモンセンサと、
前記表面プラズモンセンサに前記測定光を照射する測定光照射手段と、
前記散乱光の光学特性を検出する散乱光検出手段と、
前記反射光の光学特性を検出する反射光検出手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の第3のセンシング装置は、上記本発明の第3の表面プラズモンセンサと、
前記表面プラズモンセンサに前記測定光を照射する測定光照射手段と、
前記散乱光の光学特性を検出する散乱光検出手段と、
前記蛍光の光学特性を検出する蛍光検出手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0014】
本発明の第1〜第3のセンシング装置を用いることで、前記被検出物質の有無及び/又は量を分析することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の表面プラズモンセンサは、誘電体プリズムと誘電体プリズムの一面に成膜された金属膜とを備えたKretschmann型の表面プラズモンセンサであり、金属膜の誘電体プリズムと反対側の表面に、特定の被検出物質のみが結合可能な表面修飾が施されたものである。本発明の表面プラズモンセンサは、被検出物質が、被検出物質と選択的に結合する少なくとも表面が金属からなる金属粒子にて標識されてセンシングが行われるものであり、金属膜に被検出物質及び金属粒子が結合されたときに、金属粒子の表面で発生する散乱光の光学特性が検出されるものである。
【0016】
本発明の表面プラズモンセンサにおいて、上記散乱光には、金属粒子によって表面プラズモンが散乱されて発生する散乱光、及び/又は表面プラズモンの電場により励起されて金属粒子の周囲に発生する局在プラズモンにより発生する散乱光が含まれる。
【0017】
「背景技術」の項で挙げた特許文献1では、大腸菌等の被検出物質を標識することなくセンサに結合させるのに対して、本発明では、被検出物質を金属粒子にて標識してセンサに結合させる。金属粒子を用いる本発明の系では、表面プラズモンの散乱がより強く起こる。また、金属粒子を用いる本発明の系では、表面プラズモンの電場により金属粒子の表面で局在プラズモンが励起され、局在プラズモンによる散乱光も強く発生する。
【0018】
したがって、金属粒子によって表面プラズモンが散乱されて発生する散乱光、及び/又は表面プラズモンの電場により励起されて金属粒子の周囲に発生する局在プラズモンにより発生する散乱光の光学特性を検出することで、高感度なセンシングが可能となる。特に、測定光が誘電体プリズムと金属膜との界面で反射されて生じる反射光の光学特性を検出する通常の表面プラズモンセンサのセンシングに合わせて、上記散乱光の光学特性を検出するセンシングを行うことで、より高感度なセンシングが可能となる。本発明によれば、従来よりも高感度なセンシングが可能な表面プラズモンセンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
「第1実施形態」
図面を参照して、本発明に係る第1実施形態の表面プラズモンセンサ及びセンシング装置の構成について説明する。図1Aは試料を接触させた表面プラズモンセンサの断面図、図1Bはセンシング装置の全体図である。各構成要素を視認しやすくするため、実際のものとは適宜縮尺を異ならせてある。
【0020】
本実施形態の表面プラズモンセンサ1は、断面視三角形状の誘電体プリズム10と、この誘電体プリズム10の一面(図示上面)S1に成膜された金属膜20とを備え、金属膜20の誘電体プリズム10と反対側の表面S2に、特定の被検出物質Rのみが結合可能な表面修飾A1が施されたものである。
【0021】
誘電体プリズム10の構成材料としては特に制限なく、ガラス等が好ましい。
金属膜20の構成材料としては特に制限なく、表面プラズモンを効果的に励起することができ、化学的安定性(試料に対する安定性)にも優れることから、金(Au)及び銀(Ag)等が好ましい。表面プラズモンの励起効果が大きいことから、金属膜20は銀等を含むことが特に好ましい。金属膜20が比較的酸化されやすい銀等を含む場合、金属膜20の表面S2に酸化防止処理が施されていることが好ましい。金属膜20の酸化防止処理としては、酸化防止膜による被覆処理が挙げられる。酸化防止膜による被覆処理を行う場合、酸化防止膜の表面に特定の被検出物質Rのみが結合可能な表面修飾A1を施せばよい。
【0022】
酸化防止膜としては、特開2005-189198号公報に記載のレドックス膜、疎水性高分子膜、及び無機酸化物膜等が挙げられる。
【0023】
酸化防止膜に用いる疎水性高分子としては、水に対する溶解度が20質量%以下であるモノマーを50質量%以上含むものが好ましい。
疎水性高分子を形成するモノマーの25℃の水に対する溶解度は、新実験化学講座基本操作1(丸善化学、1975)に記載されている方法で測定することができる。この方法で測定するとモノマーの20℃の水に対する溶解度は、例えば2−エチルヘキシルメタクリレートで0.00質量%、スチレンで0.03質量%、メチルメタクリレートで1.35質量%、ブチルアクリレートで0.32質量%、ブチルメタクリレートで0.03質量%である。疎水性高分子膜としての水に対する溶解度の指標としては、10質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。
【0024】
水に対する溶解度が20質量%以下であるモノマーの具体例としては、ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、オレフィン類、スチレン類、クロトン酸エステル類、イタコン酸ジエステル類、マレイン酸ジエステル類、フマル酸ジエステル類、アリル化合物類、ビニルエーテル類、ビニルケトン類等から任意に選ぶことができ、スチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヘキサフルオロプロパン、酢酸ビニル、アクリロニトリルなどが好ましく用いられる。疎水性高分子としては、1種類のモノマーから成るホモポリマーでも、2種類以上のモノマーから成るコポリマーでもよい。
【0025】
酸化防止膜に用いる疎水性高分子としては、前述の水に対する溶解度が20質量%以下であるモノマーと共に、水に対する溶解度が20質量%以上であるモノマーを共重合した高分子化合物を用いてもよい。水に対する溶解度が20質量%以上であるモノマーの具体例としては、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸、アクリル酸、及びアリルアルコール等が挙げられる。
【0026】
酸化防止膜に用いる疎水性高分子としては、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリエステル、及びポリスチレン等が好ましい。そうすることによって、膜形成が容易になりかつ表面に生理活性物質を固定化するための官能基を露出することも容易になる。例えばポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、あるいはポリエステルで形成された膜は表面を酸や塩基で加水分解することによって表面にカルボキシル基とヒドロキシル基を露出することが容易である。またポリスチレン膜はUV/オゾン処理などの酸化処理施すことによってカルボン酸を露出することが容易である。
【0027】
酸化防止膜に用いる無機酸化物としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、フェライト、及びこれらの複合材料あるいは誘導体を選択することができる。
【0028】
表面プラズモンセンサ1では、誘電体プリズム10の他面から、誘電体プリズム10と金属膜20との界面S1で全反射する条件で測定光L1が入射されて、金属膜20の表面で表面プラズモンが励起される。
【0029】
本実施形態のセンシング装置2には、表面プラズモンセンサ1と、表面プラズモンセンサ1に対して、誘電体プリズム10と金属膜20との界面S1で全反射する条件で測定光L1を照射する測定光照射手段30とが備えられている。
【0030】
本実施形態では、被検出物質Rが、被検出物質Rと選択的に結合する少なくとも表面が金属からなる金属粒子Mにて標識されてセンシングが行われる。金属粒子Mには、被検出物質Rと選択的に結合可能な表面修飾A2が施されている。
【0031】
例えば被検出物質Rが抗原である場合、金属膜20の表面S2は被検出物質Rと特異結合する第1の抗体により修飾し(表面修飾A1)、標識物質Mは被検出物質Rと特異的に結合する第2の抗体により表面修飾しておけばよい(表面修飾A2)。この場合、金属膜20に表面修飾される第1の抗体と標識物質Mに表面修飾される第2の抗体とは、抗原である被検出物質Rに対して互いに別の部位に結合するものが用いられる。
【0032】
被検出物質Rの金属粒子Mによる標識のタイミングは特に制限されず、被検出物質Rをセンサ1に結合させる前でも後でも構わない。すなわち、あらかじめ試料に金属粒子Mを添加しておいてもよいし、センサ1に試料を接触させた後、センサ1に金属粒子Mを接触させてもよい。いずれの手順を採るにせよ、試料中に被検出物質Rが存在している場合には、金属膜20の表面S2に被検出物質Rと金属粒子Mとの結合体が結合される。後記検出手段40,50による光学検出を行う前にあらかじめ、金属膜20の表面S2に結合されていないフリーの金属粒子Mは洗浄除去される。
【0033】
試料中に被検出物質Rが存在しており、金属膜20に被検出物質R及び金属粒子Mが結合されたときには、金属膜20の表面S2に金属粒子Mの層が形成される。この金属粒子Mの層によって、散乱光L3が発生する。
【0034】
散乱光L3には、金属粒子Mによって表面プラズモンが散乱されて発生する散乱光、及び/又は表面プラズモンの電場により励起されて金属粒子Mの周囲に発生する局在プラズモンにより発生する散乱光が含まれる。
【0035】
特に局在プラズモン共鳴が起こる波長条件では、局在プラズモンによる散乱光が著しく増大する。局在プラズモン共鳴は、金属の自由電子が光の電場に共鳴して振動することで電場を生じる現象である。
【0036】
金属粒子Mの構成金属としては特に制限なく、局在プラズモンを効果的に励起することができ、化学的安定性(試料に対する安定性)にも優れることから、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)等が好ましい。金属粒子Mの形状は特に制限なく、球状及びロッド状等が挙げられる。金属粒子Mの粒子径(ここで言う粒子径は粒子の最大径を意味する。)は、局在プラズモンを効果的に励起することから、測定光L1の波長より小さいことが好ましく、10〜200nmが特に好ましい。
【0037】
本実施形態のセンシング装置2には、測定光L1が誘電体プリズム10と金属膜20との界面S1で反射されて生じる反射光L2の光学特性を検出する反射光検出手段40と、金属粒子Mの層によって生じる散乱光L3の光学特性を検出する散乱光検出手段50とが備えられている。
【0038】
すなわち、本実施形態では、測定光L1が誘電体プリズム10と金属膜20との界面S1で反射されて生じる反射光L2の光学特性を検出する通常の表面プラズモンセンサのセンシングに合わせて、金属粒子Mの層によって生じる散乱光L3の光学特性を検出するセンシングが行われる。
【0039】
本実施形態において、測定光L1は単波長光である。測定光照射手段30は、半導体レーザ等の単波長光源31、及び必要に応じて光源31からの出射光をセンサ1に導光する導光光学系により構成されている。測定光照射手段30はまた、測定光L1として、誘電体プリズム10と金属膜20との界面S1に対する入射角θが固定された直線ビームを照射するよう、構成されている。
【0040】
本実施形態において、反射光検出手段40は、反射光L2の光強度を検出するフォトダイオード等の光強度検出器41により構成されている。
【0041】
P偏光の直線ビームを金属膜20に対して全反射角以上の特定入射角θSPで入射させると、金属膜20のプリズム10と反対側にエバネッセント波が生じ、このエバネッセント波によって金属膜20の表面に表面プラズモンが励起される。エバネッセント光の波数ベクトルが表面プラズモンの波数と等しくて波数整合が成立すると両者は共鳴状態となり、光のエネルギーが表面プラズモンに移行するので、プリズム10と金属膜20との界面S1で全反射する光の強度が著しく低下する。表面プラズモンの波数KSPと、表面プラズモンの角周波数ωと、金属膜20の誘電率εmと、金属膜20の表面に存在する試料の誘電率εsとの間には、下記のような相関関係があることが知られている。式中、cは真空中の光速を示している。
【数1】

【0042】
本実施形態において、測定光L1の誘電体プリズム10と金属膜20との界面S1に対する入射角θは、金属膜20に被検出物質Rが結合していない状態において金属膜20の表面で表面プラズモン共鳴が起こる上記特定入射角θSPに設定されることが好ましい。この特定入射角θSPは全反射解消角あるいは共鳴角と称される。
【0043】
金属膜20の表面S2に被検出物質R及び金属粒子Mが結合されると、これらの有無及び量によって、これらの層の誘電率が変わり、全反射解消角θSPがシフトする。同じ入射角条件であれば、反射光強度が変化することとなる。
【0044】
したがって、測定光L1の誘電体プリズム10と金属膜20との界面S1に対する入射角θを、金属膜20に被検出物質Rが結合していない状態において金属膜20の表面で表面プラズモン共鳴が起こる全反射解消角θSPに設定し、反射光検出手段40によって反射光L2の光強度を検出することにより、試料中の被検出物質Rの有無及び/又は量を分析することができる。
【0045】
本実施形態において、散乱光検出手段50は、散乱光L3の光強度を検出するフォトダイオード等の光強度検出器51により構成されている。散乱光L3の光強度の程度は、金属膜20の表面S2に結合された被検出物質R及び金属粒子Mの有無及び量によって依存するので、散乱光検出手段50によって散乱光L3の光強度を検出することにより、試料中の被検出物質Rの有無及び/又は量を分析することができる。
【0046】
特に局在プラズモン共鳴が起こる波長条件では、局在プラズモンによる散乱光が著しく増大するので、測定光L1の波長を金属粒子Mの表面で局在プラズモン共鳴が起こる波長(共鳴ピーク波長)に合わせておくことが好ましい。
【0047】
本実施形態の表面プラズモンセンサ1は、誘電体プリズム10と誘電体プリズム10の一面に成膜された金属膜20とを備えたKretschmann型の表面プラズモンセンサであり、金属膜20の誘電体プリズム10と反対側の表面S2に、特定の被検出物質Rのみが結合可能な表面修飾A1が施されたものである。本実施形態の表面プラズモンセンサ1は、被検出物質Rが、被検出物質Rと選択的に結合する少なくとも表面が金属からなる金属粒子Mにて標識されてセンシングが行われるものであり、金属膜20に被検出物質R及び金属粒子Mが結合されたときに、金属粒子Mの表面で発生する散乱光L3の光学特性が検出されるものである。
【0048】
本実施形態の表面プラズモンセンサ1において、散乱光L3には、金属粒子Mによって表面プラズモンが散乱されて発生する散乱光、及び/又は表面プラズモンの電場により励起されて金属粒子Mの周囲に発生する局在プラズモンにより発生する散乱光が含まれる。
【0049】
「背景技術」の項で挙げた特許文献1では、大腸菌等の被検出物質を標識することなくセンサに結合させるのに対して、本実施形態では、被検出物質Rを金属粒子Mにて標識してセンサ1に結合させる。金属粒子Mを用いる本実施形態の系では、表面プラズモンの散乱がより強く起こる。また、金属粒子Mを用いる本実施形態の系では、表面プラズモンの電場により金属粒子Mの表面で局在プラズモンが励起され、局在プラズモンによる散乱光も強く発生する。
【0050】
したがって、金属粒子Mによって表面プラズモンが散乱されて発生する散乱光、及び/又は表面プラズモンの電場により励起されて金属粒子Mの周囲に発生する局在プラズモンにより発生する散乱光の光学特性を検出することで、高感度なセンシングが可能となる。
【0051】
本実施形態ではさらに、測定光L1が誘電体プリズム10と金属膜20との界面S1で反射されて生じる反射光L2の光学特性を検出する通常の表面プラズモンセンサのセンシングに合わせて、上記散乱光L3の光学特性を検出するセンシングを行う構成としている。反射光L2の光学特性と散乱光L3の光学特性を両方検出することで、より高感度なセンシングが可能となる。本実施形態によれば、従来よりも高感度なセンシングが可能な表面プラズモンセンサ1及びセンシング装置2を提供することができる。
【0052】
(第1実施形態の設計変更例)
図面を参照して、第1実施形態の設計変更例である表面プラズモンセンサ3及びセンシング装置4の構成について説明する。図2A及び図2Bは、図1A及び図1Bに対応する図である。第1実施形態と同じ構成要素には同じ参照符号を付してある。
【0053】
図2Aに示すように、金属粒子Mとして、表面に蛍光物質Luが固定された粒子を用いてセンシングが行うことができる。ここでは、金属粒子Mの表面を蛍光物質Luの層で被覆し、蛍光物質Luの層の表面に表面修飾A2を施した場合について図示してある。蛍光物質Luの固定箇所及び表面修飾A2の修飾箇所は適宜設計できる。
【0054】
この場合、金属膜20に被検出物質R及び金属粒子Mが結合されたときに、金属粒子Mの周囲のプラズモン電場により、蛍光物質Luが励起されて蛍光L4が発せられる。ここで言う「プラズモン電場」は、金属膜20の表面S2で発生する表面プラズモン電場、及び/又は金属粒子Mの周囲に発生する局在プラズモン電場である。
【0055】
センシング装置4は、蛍光物質Luが励起されて生じる蛍光L4の光学特性を検出する蛍光検出手段を備える構成とすることができる。通常、散乱光L3の波長と蛍光L4の波長とは異なるので、例えば図2Bに示すように、センサ1の散乱光L3の出射側に、波長スペクトルを測定可能な分光器等の光検出手段60(散乱光検出手段と蛍光検出手段とを兼ねた光検出手段)を設けることで、散乱光L3の光強度と蛍光L4の光強度を同時に検出することができる。かかる構成では、反射光L2と散乱光L3と蛍光L4とを検出することができるので、より高感度なセンシングが可能となる。
【0056】
「第2実施形態」
図面を参照して、本発明に係る第2実施形態のセンシング装置の構成について説明する。本実施形態のセンシング装置5は上記第1実施形態の表面プラズモンセンサ1を用いたものであり、第1実施形態と同様に、被検出物質Rが金属粒子Mにて標識されてセンシングを行われ、金属粒子Mの表面で発生する散乱光L3の光学特性が検出されるものである。本実施形態のセンシング装置5の構成は、測定光照射手段30と反射光検出手段40の構成が異なる以外は、第1実施形態と同様である。図3は第1実施形態の図1Bに対応する図である。第1実施形態と同じ構成要素には同じ参照符号を付して、説明は省略する。
【0057】
本実施形態のセンシング装置5においても測定光L1は単波長光であるが、測定光照射手段30は、測定光L1として、誘電体プリズム10と金属膜20との界面S1に対する入射角θの異なる複数のビーム成分を含む集束ビームを照射する光学系により構成されている。
【0058】
具体的には、測定光照射手段30は、半導体レーザ等の単波長光源31と、単波長光源31から出射された直線ビームを発散させるレンズ32と、レンズ32から出射された発散光を平行光束化するコリメータレンズ33と、コリメータレンズ33から出射された平行光束を誘電体プリズム10の長さ方向に垂直な面内のみで集束させる(図示奥行き方向には集束させない)シリンドリカルレンズ34とから構成されている。かかる光学系により、誘電体プリズム10と金属膜20との界面S1に対する入射角θの異なる複数のビーム成分を含む集束ビームが生成される(最小入射角θ〜最大入射角θ)。
【0059】
誘電体プリズム10と金属膜20との界面S1に対して異なる入射角θで入射した上記複数のビーム成分は、それぞれ入射角θに応じた反射角で反射される。本実施形態において、反射光検出手段40は、入射角θの異なる複数のビーム成分の反射光強度を各々検出するものである。具体的には、反射光検出手段40は、複数のビーム成分に各々対応した複数の受光部を備えたCCDラインセンサ等の光強度検出器42により構成されている。
【0060】
本実施形態では、誘電体プリズム10と金属膜20との界面S1に対する入射角θと反射光強度との関係が求められるので、金属膜20の表面で表面プラズモン共鳴が起こる全反射解消角(共鳴角)θSPが求められる。金属膜20の表面S2に結合された被検出物質R及び金属粒子Mの有無及び量によって、これらの層の誘電率が変わり、全反射解消角θSPがシフトするので、全反射解消角θSPから、試料中の被検出物質Rの有無及び/又は量を分析することができる。
【0061】
測定光照射手段30は、測定光L1として、あるタイミングにおいて誘電体プリズム10と金属膜20との界面S1に対する入射角θが1つである単波長の直線ビームを、誘電体プリズム10と金属膜20との界面S1に対する入射角θを変えて光学走査する光学系により構成してもよい。光走査手段としては、ポリゴンミラーやガルバノミラー等の1種又は2種以上の可動ミラーが挙げられる。この場合、反射光検出手段40は例えば、反射光L2の光強度を検出するフォトダイオード等の光強度検出器により構成し、誘電体プリズム10と金属膜20との界面S1に対する入射角θを変えるごとに、反射光強度を検出するようにすればよい。
【0062】
散乱光検出手段50は第1実施形態と同様である。本実施形態においても、第1実施形態と同様に、金属粒子Mによって表面プラズモンが散乱されて発生する散乱光、及び/又は表面プラズモンの電場により励起されて金属粒子Mの周囲に発生する局在プラズモンにより発生する散乱光の光学特性を検出することで、高感度なセンシングが可能である。
【0063】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、反射光L2の光学特性と散乱光L3の光学特性を両方検出することができ、従来よりも高感度なセンシングが可能なセンシング装置5を提供することができる。
【0064】
「第3実施形態」
図面を参照して、本発明に係る第3実施形態のセンシング装置の構成について説明する。本実施形態のセンシング装置6は上記第1実施形態の表面プラズモンセンサ1を用いたものであり、第1実施形態と同様に、被検出物質Rが金属粒子Mにて標識されてセンシングを行われ、金属粒子Mの表面で発生する散乱光L3の光学特性が検出されるものである。本実施形態のセンシング装置6の構成は、測定光照射手段30と反射光検出手段40と散乱光検出手段50の構成が異なる以外は、第1実施形態と同様である。図4は第1実施形態の図1Bに対応する図である。第1実施形態あるいは第2実施形態と同じ構成要素には同じ参照符号を付して、説明は省略する。
【0065】
本実施形態のセンシング装置6においても測定光L1は単波長光であるが、測定光照射手段30は、測定光L1として、誘電体プリズム10と金属膜20との界面S2に対して平行光束を照射する光学系により構成されている。具体的には、測定光照射手段30は、半導体レーザ等の単波長光源31と、単波長光源31から出射された直線ビームを発散させるレンズ32と、レンズ32から出射された発散光を平行光束化するコリメータレンズ33とから構成されている。
【0066】
本実施形態では、測定光L1が平行光束であるので、反射光L2も平行光束となる。また、誘電体プリズム10と金属膜20との界面S1に対して比較的広範囲に測定光L1が照射されるので、金属膜20の表面S2の比較的広範囲に散乱光L3が発生する。本実施形態では例えば、反射光検出手段40は、比較的広範囲に広がる反射光L2の光強度を検出するエリアセンサ等の光強度検出器43により構成し、散乱光検出手段50は、比較的広範囲に広がる散乱光L3の光強度を検出するエリアセンサ等の光強度検出器52により構成すればよい。
【0067】
本実施形態においても、第1及び第2実施形態と同様に、金属粒子Mによって表面プラズモンが散乱されて発生する散乱光、及び/又は表面プラズモンの電場により励起されて金属粒子Mの周囲に発生する局在プラズモンにより発生する散乱光の光学特性を検出することで、高感度なセンシングが可能である。
【0068】
本実施形態においても、第1及び第2実施形態と同様に、反射光L2の光学特性と散乱光L3の光学特性を両方検出することができ、従来よりも高感度なセンシングが可能なセンシング装置6を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の表面プラズモンセンサは、バイオセンサ等として好ましく利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1A】本発明に係る第1実施形態の表面プラズモンセンサに試料を接触させた状態を示す断面図
【図1B】本発明に係る第1実施形態のセンシング装置の全体図
【図2A】図1Aの設計変更例を示す図
【図2B】図1Bの設計変更例を示す図
【図3】本発明に係る第2実施形態のセンシング装置の全体図
【図4】本発明に係る第3実施形態のセンシング装置の全体図
【符号の説明】
【0071】
1,3 表面プラズモンセンサ
2,4,5,6 センシング装置
10 誘電体プリズム
20 金属膜
30 測定光照射手段
40 反射光検出手段
50 散乱光検出手段
60 散乱光検出手段と蛍光検出手段とを兼ねた光検出手段
S1 誘電体プリズムと金属膜との界面
S2 金属膜の誘電体プリズムと反対側の表面
L1 測定光
L2 反射光
L3 散乱光
L4 蛍光
A1、A2 表面修飾
R 被検出物質
M 金属粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体プリズムと、該誘電体プリズムの一面に成膜された金属膜とを備えてなり、
前記誘電体プリズムの他面から、前記誘電体プリズムと前記金属膜との界面で全反射する条件で測定光が入射されて、前記金属膜の表面で表面プラズモンが励起される表面プラズモンセンサにおいて、
前記金属膜の前記誘電体プリズムと反対側の表面に、特定の被検出物質のみが結合可能な表面修飾が施されており、
前記被検出物質が、該被検出物質と選択的に結合する少なくとも表面が金属からなる金属粒子にて標識されてセンシングが行われるものであり、
前記金属膜に前記被検出物質及び前記金属粒子が結合されたときに、該金属粒子の表面で発生する散乱光の光学特性が検出されるものであることを特徴とする表面プラズモンセンサ。
【請求項2】
前記散乱光には、前記金属粒子によって前記表面プラズモンが散乱されて発生する散乱光、及び/又は前記表面プラズモンの電場により励起されて前記金属粒子の周囲に発生する局在プラズモンにより発生する散乱光が含まれることを特徴とする請求項1に記載の表面プラズモンセンサ。
【請求項3】
前記測定光が前記誘電体プリズムと前記金属膜との界面で反射されて生じる反射光の光学特性が検出されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面プラズモンセンサ。
【請求項4】
前記金属粒子として、表面に蛍光物質が固定された粒子を用いてセンシングが行われるものであり、
前記金属膜に前記被検出物質及び前記金属粒子が結合されたときに、前記金属粒子の周囲のプラズモン電場により、前記蛍光物質が励起されて生じる蛍光の光学特性が検出されるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の表面プラズモンセンサ。
【請求項5】
前記金属膜が銀を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表面プラズモンセンサ。
【請求項6】
前記金属膜の前記誘電体プリズムと反対側の表面に酸化防止処理が施されていることを特徴とする請求項1〜5に記載の表面プラズモンセンサ。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の表面プラズモンセンサと、
前記表面プラズモンセンサに前記測定光を照射する測定光照射手段と、
前記散乱光の光学特性を検出する散乱光検出手段とを備えたことを特徴とするセンシング装置。
【請求項8】
請求項3に記載の表面プラズモンセンサと、
前記表面プラズモンセンサに前記測定光を照射する測定光照射手段と、
前記散乱光の光学特性を検出する散乱光検出手段と、
前記反射光の光学特性を検出する反射光検出手段とを備えたことを特徴とするセンシング装置。
【請求項9】
請求項4に記載の表面プラズモンセンサと、
前記表面プラズモンセンサに前記測定光を照射する測定光照射手段と、
前記散乱光の光学特性を検出する散乱光検出手段と、
前記蛍光の光学特性を検出する蛍光検出手段とを備えたことを特徴とするセンシング装置。
【請求項10】
前記散乱光検出手段は、前記散乱光の光強度を検出するものであることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のセンシング装置。
【請求項11】
前記測定光照射手段は、前記測定光として、前記誘電体プリズムと前記金属膜との界面に対する入射角が固定された単波長の直線ビーム、若しくは前記誘電体プリズムと前記金属膜との界面に対する入射角が固定された単波長の平行光束を照射するものであり、
前記反射光検出手段は、前記反射光の光強度を検出するものであることを特徴とする請求項8に記載のセンシング装置。
【請求項12】
前記入射角は、前記金属膜に前記被検出物質が結合していない状態において前記金属膜の表面で表面プラズモン共鳴が起こる全反射解消角に設定されていることを特徴とする請求項11に記載のセンシング装置。
【請求項13】
前記測定光照射手段は、前記測定光として、前記誘電体プリズムと前記金属膜との界面に対する入射角の異なる複数のビーム成分を含む単波長の集束ビームを照射するものであることを特徴とする請求項8に記載のセンシング装置。
【請求項14】
前記測定光照射手段は、前記測定光として、あるタイミングにおいて前記誘電体プリズムと前記金属膜との界面に対する入射角が1つである単波長の直線ビームを、前記誘電体プリズムと前記金属膜との界面に対する入射角を変えて照射するものであることを特徴とする請求項8に記載のセンシング装置。
【請求項15】
前記反射光検出手段は、前記入射角の異なる複数のビーム成分の反射光強度を各々検出するものであることを特徴とする請求項13又は14に記載のセンシング装置。
【請求項16】
前記被検出物質の有無及び/又は量を分析するものであることを特徴とする請求項7〜15のいずれかに記載のセンシング装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−203187(P2008−203187A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−42240(P2007−42240)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】