説明

表面プラズモン共鳴チップ

【課題】チップ面に凹凸を設けることにより検出対象をその寸法の大小により区分けすることが可能であり、しかも、製造が容易かつ安価な表面プラズモン共鳴チップを提供する。
【解決手段】光を透過する光透過性素材によって形成された基板2と、基板2表面に形成された金属膜3と、金属膜3の表面に形成された複数の突起4とを備えており、複数の突起4は、その先端から基板2表面までの距離が、金属膜3に対して基板2側から光を照射したときに発生するエバネッセント光の影響が及ぶ距離よりも長くなるように形成されている。複数の突起4間に物質が侵入し、エバネッセント光の影響が及ぶ領域に到達すると、表面プラズモン共鳴によってその物質の存在を検出することができる。複数の突起4間には、チップ1表面に特別な抗体等を設けなくても、複数の突起4間の距離を調整するだけで所望の検出対象M1を選んで検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン共鳴チップに関する。
【背景技術】
【0002】
まず、表面プラズモン共鳴について簡単に説明する。
表面プラズモン共鳴とは、金属薄膜を蒸着したプリズム等(以下、単にSPRチップという)において、SPRチップのプリズム側から金属薄膜に対して全反射条件にて入射光を照射したときに生じるエバネッセント波に起因して、金属薄膜に表面プラズモンが共鳴励起される現象である。
この共鳴現象の発生の有無は金属薄膜に入射される入射光の入射角に依存しており、一定の入射角のときに表面プラズモンが共鳴励起されるとともに、金属薄膜から反射される反射光強度が減少する。反射光強度が減少する理由は、金属薄膜に照射した光のエネルギーが表面プラズモンの励起に利用されるからである。
【0003】
共鳴現象が発生する入射光の入射角はSPRチップにおける金属薄膜の表面上の物質の状態によって変化するので、この性質を利用して、SPRチップを使用して特定の物質を検出する技術が開発されている。
例えば、SPRチップにおける金属膜の表面に特定の細胞と結合する生理活性物質等を固定しておき、このチップの表面に検出対象となる試料を配置する。そして、金属薄膜に対して全反射条件にて入射光をその入射角度を変えながら照射する。試料中に目的とする細胞等が存在すれば、細胞等と生理活性物質等とが反応して金属薄膜表面の状態が変化する。すると、試料中に目的とする細胞等が存在しない場合に対して、反射光強度が減少する入射角が変化するので、目的とする細胞等の存在の有無を検出することができる。
【0004】
かかる表面プラズモン共鳴を利用した測定は、生体分子間の相互作用をリアルタイム、非修飾、高感度で検出できることから、様々な目的に適したSPRチップが開発されている(非特許文献1、特許文献1)。
【0005】
非特許文献1には、局所プラズモン共鳴を生じさせるSPRチップが開示されている。このSPRチップでは、表面にナノオーダーの金属構造物が周期的に配列されており、金属構造物のサイズや隙間をコントロールすれば、金属構造物に電界を集中してセンシング領域を局在化できるので、環境要因によるノイズを低減することが可能となる旨が記載されている。
【0006】
また、特許文献1には、検出対象となる溶液を所定時間にわたり表面に保持しておくことができるSPRチップが開示されている。このSPRチップは、基板と基板に積層された表面層とを有しており、検出対象となる溶液と基板との親和性が、溶液と表面層との親和性よりも高くされており、かつ、表面層には基板の表面に達する溝が形成されている。このため、SPRチップに溶液を滴下すると、溶液が溝に侵入しかつ溝内で親和性の高い基板と接触するので、溶液と表面層との親和性が低くても、表面層上に溶液を安定した状態で保持できる旨の記載がある。
【0007】
しかるに、上述したSPRチップでは、検出対象となる細胞等を補捉したりまたは検出対象となる細胞等と反応する生理活性物質等を金属層の表面に設けたりしており、かかる生理活性物質等によって検出対象となる細胞を他の物質と判別選択している。
しかし、SPRチップによって判別選択できる検出対象は、SPRチップに固定されている生理活性物質等に限定されるので、複数の検出対象の検査を行うには、各検出対象に適した生理活性物質等が金属層の表面に設けられた複数のチップをそれぞれ用意しなければならない。
【0008】
別のSPRチップの使い方として、通常のフラットな表面を有するSPRチップにおいて、その表面上に何も設けないで溶液のみを滴下し、その場合における反射光強度が減少する入射角(SPR角)を測定することも行われている。この場合には、SPRチップの表面に滴下された溶液の濃度や屈折率に応じて、SPR角が変わるので、溶液の濃度測定などに用いることができる。
しかし、かかる方法では、溶液の濃度や屈折率変化は分るが、溶液に含まれる対象物等をその大きさにより分別することはできない。
【0009】
【特許文献1】特開2007−17432
【非特許文献1】松下智彦、西川武男、山下英之 「局所SPRバイオセンサーの研究」OMRON TECNICS Vol.47,No.1(通巻155号)2006,PP2−7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、表面に凹凸を設けることにより検出対象をその寸法の大小によって区分けすることが可能であり、しかも、製造が容易かつ安価な表面プラズモン共鳴チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の表面プラズモン共鳴チップは、光を透過する光透過性素材によって形成された基板と、該基板表面に形成された金属膜と、該金属膜の表面に形成された複数の突起とを備えており、該複数の突起は、その先端から前記基板表面までの距離が、前記金属膜に対して前記基板側から光を照射したときに発生するエバネッセント光の影響が及ぶ距離よりも長くなるように形成されていることを特徴とする。
第2発明の表面プラズモン共鳴チップは、第1発明において、前記複数の突起は、隣接する突起間の距離が、前記金属膜に向かうに従って変化するように形成されていることを特徴とする。
第3発明の表面プラズモン共鳴チップは、第1または第2発明において、前記複数の突起は、隣接する突起間の距離が、前記金属膜に向かうに従って短くなるように形成されていることを特徴とする。
第4発明の表面プラズモン共鳴チップは、第1、2または第3発明において、特定の物質の通過を阻害する物質が、前記複数の突起間に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、複数の突起間に物質が侵入し、エバネッセント光の影響が及ぶ領域に到達すると、表面プラズモン共鳴によってその物質の存在を検出することができる。しかも、複数の突起間には突起間距離よりも小さい物質しか侵入できないので、チップ表面に特別な抗体等を設けなくても、複数の突起間の距離を調整するだけで所望の検出対象を選んで検出することができる。そして、検出対象の大きさのみによって物質を選択しているので、一つのチップを複数の検出対象に対して使用することもできる。
第2発明によれば、複数の突起間に侵入した物質が時間の経過によって大きさが変化する場合、突起間距離と物質の大きさに応じて、物質と金属膜との距離が変化するから、時間の経過に伴った物質の変化を確認することができる。
第3発明によれば、複数の突起間に侵入した物質が時間の経過によって大きさが変化する場合、突起間距離と物質の大きさに応じて、物質と金属膜との距離が変化するから、時間の経過に伴った物質の変化を確認することができる。
第4発明によれば、目的とする検出対象と近似した形状の大きさを有する物質であって、目的とする検出対象を検出する上で障害となる物質が突起間に侵入することを防ぐことができるので、検査精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1は本実施形態のSPRチップ1の説明図であって、(A)は概略断面図であり、(B)は概略平面図である。同図に示すように、表面プラズモン共鳴チップ(以下、単にSPRチップ1で示す)は、基板2と、基板2の表面に形成された金属膜3と、この金属膜3の表面に形成された突起4とから構成されている。
【0014】
基板2は、例えば、ガラスや樹脂材料等のように光を透過する材料によって形成された板状の部材である。この基板2は、その厚さが0.1〜0.5mm程度であるが、この厚さはとくに限定されない。
なお、基板2は板状の部材に限られず、プリズムや光導波路等でもよい。
【0015】
金属膜3は、例えば金や銀等の金属を素材とする膜である。この金属膜3は、その厚さが50nm程度の場合に、SPRチップ表面における物質の状態の変化等を検出する感度(SPR感度)が良いと一般に知られている。この金属膜3の厚さは、SPRチップ1に入射された入射光L1によって発生するエバネッセント光の影響が及ぶしみ出し深さH2(以下、距離H2で示す)よりも十分うすい。
そして、本実施形態のSPRチップ1において、基板2表面から距離H2の範囲において金属膜3の部分を除いた空間、つまり、金属膜3より上方の空間であって基板2表面から距離H2の範囲に位置する空間が検査領域となる。
なお、表面プラズモン共鳴(SPR)現象を生じさせるためには、一般的に金属膜3の厚さは約50nm程度が望ましいとされており、このとき、距離H2は検出対象の屈折率や入射角度に依存するが、おおよそ数百nm程度となる。
【0016】
図1に示すように、金属膜3の表面には、軸方向に沿って延びた複数の突起4が設けられている。この複数の突起4は、隣接する突起4,4同士の間に、幅W(以下、突起間距離Wという)の空間1hができるように、互いに平行に配設されている。
各突起4は、その先端から前記基板1表面までの距離H1(以下、距離H1で示す)が前記距離H2よりも長くなるように形成されている。具体的には、距離H1が、約1〜3μmとなるように形成されている。
なお、距離H1は、上記範囲に限定されず、検出対象やこの検出対象を含む溶液の屈折率、突起間距離W等に応じて適宜調整することができる。
【0017】
つぎに、本実施形態のSPRチップ1を利用した検出対象M1を検出する作業を、図1〜3に基づいて説明する。なお、図面が分かり易くなるように、検出対象M1を含む試料は記載していない。
【0018】
まず、本実施形態のSPRチップ1として、突起間距離Wが検出対象M1の幅や直径よりも大きいものを準備する。そして、検出対象M1を含まない液体等の試料をSPRチップ1上に配置した状態で、SPRチップ1に対して基板2側から全反射条件で入射光L1を入射する(図1参照)。そして、全反射条件を保ったまま、入射光L1の入射角を変化させて、反射光L2の強度が減衰する入射光L1の入射角θ1(検出対象M1を含まない試料の共鳴角θ1)を検出する(図3)。
なお、図3において、符号RL1が、検出対象M1を含まない試料における入射光L1の入射角に対する反射光強度を示したものである。
【0019】
ついで、同じSPRチップ1上に検出対象M1を含む液体等の試料を配置する。すると、試料に含まれる検出対象M1は突起間距離Wよりも小さいので、突起4,4間の空間1h内に侵入し、検査領域内に到達する(図2(A))。
一方、試料に含まれる他の物質、具体的には、突起間距離Wよりも大きい物質M2は、空間1h内に侵入することができない。つまり、試料に含まれる物質のうち、所望の検出対象M1のみが選択されて検査領域内に配置される。
【0020】
上記状態において、SPRチップ1に対して、基板2側から全反射条件で入射光L1を入射して、その入射角を変化させていくと、反射光L2の強度の減衰する入射光L1の入射角θ2(検出対象M1を含む試料の共鳴角θ2)を検出することができる(図3)。
なお、図3において、符号RL2が、検出対象M1を含む試料における入射光L1の入射角に対する反射光強度を示したものである。
【0021】
ここで、反射光L2の強度の減衰は入射光L1によって金属膜3表面に発生する表面プラズモン共鳴の影響で生じるのであるが、検出対象M1が検査領域内に存在すると、この検出対象M1の影響により、反射光L2の強度が減衰する角度が変化する(図3)。
【0022】
このため、共鳴角θ1と共鳴角θ2とを比較すれば、検出対象M1が試料中に存在するか否かを確認することができる。
しかも、共鳴角θ1と共鳴角θ2との差の度合いから、検出対象M1の存在の多寡を把握することもできる。
【0023】
以上のごとく、本実施形態のSPRチップ1によれば、複数の突起4,4間の空間1hには、突起間距離Wよりも小さい物質しか侵入できないので、SPRチップ1の表面に特別な抗体等を設けなくても、突起間距離Wを調整するだけで所望の検出対象M1を選んで検出することができる。
【0024】
例えば、突起間距離Wを赤血球よりも僅かに広くしておけば、赤血球単体は空間1hに侵入するが、赤血球同士が相互作用をおこしている場合や凝集をおこしている場合は空間1hに侵入することができない。このため、血液を本実施形態のSPRチップ1に適用させたときに、赤血球同士の相互作用が少ない血液の場合、空間1hに侵入する赤血球が多くなるが、赤血球同士の相互作用が多い場合、空間1hに侵入する赤血球が少なくなる。そして、空間1h内の赤血球の量が異なれば共鳴角θ2も異なるから、本実施形態のSPRチップ1を利用して共鳴角θ2を検出すれば、血液の状態を判定することも可能である。
【0025】
また、本実施形態のSPRチップ1では、突起間距離Wだけで検査する対象を選別しているので、SPRチップ1によって検出できる検出対象M1の制約が少なく、突起間距離Wよりも小さい物質であれば、様々な物質の判別選択に使用することができる。
【0026】
さらに、本実施形態のSPRチップ1では、複数の突起4,4間の空間1hに検出対象となる物質を侵入させるだけであり、SPRチップ1の表面と検出対象となる物質とが反応するわけではない。すると、検査終了後、SPRチップ1上の検出対象等を除去すれば、SPRチップ1を再利用することも可能であるし、再利用が非常に容易になる。
【0027】
ここで、本実施形態のSPRチップ1では、試料中に検出対象M1と同等程度の大きさを有する別の物質M3が存在する場合、物質M3が空間1hに入れば共鳴角θ2に影響を与えるので、検出対象M1の検出精度が低下する可能性がある。
しかし、図2(B)に示すように、検出対象M1は透過できるが、物質M3は通過することができない通過阻害物質5(例えば、シート状フィルタ等)を空間1hを覆うように設けておけば、目的とする検出対象M1と近似した大きさを有しかつ検出対象M1の検出の障害となる物質M3が空間1hに侵入することを防ぐことができるので、検出対象M1の検査精度を高めることができる。
なお、物質M3が空間1hに侵入することを防止する方法は上記方法に限られず、SPRチップの1の表面に培養した細胞膜を付着させるなどの方法を採用することもできる。
【0028】
薬物透過試験に使用される細胞株であるCaco-2細胞(ヒト結腸由来)やMDCK細胞(イヌ腎臓由来)を通過阻害物質としてSPRチップの1の表面に付着させておけば、例えば、D-シクロセリン(D-cycloserine:分子量102.19)とマンニトール(Mannitol:分子量182.19)の細胞に対する透過率を評価する場合において、D-シクロセリンは透過するがマンニトールは透過できないので、細胞透過が可能なD-シクロセリンのみを選択的に検出することができる。この原理を利用すれば、新薬開発などに応用することができる。
【0029】
また、上記SPRチップ1を利用すれば、細胞等から排出生成される分泌物の排出生成状況も検出することもできる。
例えば、図2おいて、物質M2が分泌物(検出対象M1)を放出する細胞である場合、細胞(物質M2)の幅よりは突起間距離Wが狭いが、この細胞(物質M2)が放出する分泌物(検出対象M1)の幅よりは突起間距離Wが広くなるように、複数の突起4を形成しておく。
すると、細胞(物質M2)が分泌物(検出対象M1)を放出すれば、分泌物(検出対象M1)のみが空間1h内に侵入する。すると、分泌物(検出対象M1)の存在により共鳴角θ2が共鳴角θ1からずれるので、細胞(物質M2)が分泌物(検出対象M1)を排出したことを確認することができる。
しかも、時間連続的に共鳴角θ2の変化を確認すれば、細胞(物質M2)が排出する分泌物(検出対象M1)の量の変化や、分泌のタイミングを時系列で測定することができる。
【0030】
例えば、酵母菌は、刺激を受けると分泌物を排出したり、また、活性が低下して衰弱したり死滅した場合には細胞内容物が溶出したりするのであるが、本実施形態のSPRチップ1によってこの分泌物の量や、細胞内容物の溶出の量を観察すれば、酵母菌の状態の変化を時系列で観察することもできる。
具体的には、SPRチップ1の突起間距離Wを酵母菌の直径よりも狭くしておく。分泌物は酵母菌よりも小さいので、酵母菌は空間1h内に侵入できないが、分泌物は空間1h内に侵入できる。すると、酵母菌の活性の低下や死滅に従って空間1h内に侵入する分泌物の量が増加すれば共鳴角θ2も変化するから、共鳴角θ2の時間変化に基づいて酵母菌の状況を時系列で把握することができる。
【0031】
とくに、図4(A)に示すように、複数の突起4,4の突起間距離Wが金属膜3に向かうに従って短くなるように形成しておけば、細胞(物質M2)を複数の突起4,4間に保持しておくことができる。具体的には、突起4,4の上端間の距離を、細胞(物質M2)が空間1hに入ってもその下端から基板2表面までの距離D1が距離H2より長くなるようにしておく(図4(A))。すると、細胞(物質M2)が複数の突起4,4間に保持されても、細胞(物質M2)自体が検査領域に侵入せず、検出対象となる分泌物(検出対象M1)の測定精度に影響を与えないので、好ましい。
【0032】
さらに、複数の突起4,4は、突起間距離Wが金属膜3に向かうに従って短くなるようになっていれば、複数の突起4,4間の空間に侵入した検出対象M1が時間の経過によって大きさが変化する場合において、検出対象M1の大きさの変化に伴って検出対象M1と金属膜3との距離が変化するから、時間の経過に伴った検出対象M1の変化を確認することができる。
【0033】
例えば、検出対象M1が活性の低下等により大きさが変化する細胞であれば、以下のように検出対象M1の活性の変化を検出することもできる。
【0034】
まず、図5に示すように、突起4,4の上端間の距離を、活性が高い状態における検出対象M1が空間1hに入ってもその下端から基板2表面までの距離D1(以下、単に距離D1という)が距離H2より長くなるようにしておく(図5(A))。すると、検出対象M1の活性が高い場合には、検出対象M1は検査領域に侵入しないので、共鳴角θ2は変化しない。
【0035】
しかし、検出対象M1が衰弱してその直径が小さくなると、検出対象M1は下方に移動するので、距離D1が徐々に短くなる。
そして、衰弱が進行すると距離D1が距離H2よりも短くなり、検出対象M1の一部が検査領域に侵入する(図5(B))。すると、侵入した検出対象M1の影響により、共鳴角θ2が変化するので、検出対象M1の活性が低下衰弱していることを確認できる。
【0036】
検出対象M1の活性の低下がさらに進行すると、距離D1はさらに短くなり、検査領域内に存在する検出対象M1の量が多くなる。すると、共鳴角θ2がさらに変化し、検出対象M1の衰弱や死滅が進行したことを確認できる。
【0037】
以上のごとく、複数の突起4,4を、その突起間距離Wが金属膜3に向かうに従って短くなるように形成しておけば、検出対象M1の大きさの変化に伴って検出対象M1と金属膜3との距離が変化するから、時間の経過に伴った検出対象M1の変化を確認することができる。
【0038】
なお、図4(B)に示すように、複数の突起4,4は、突起間距離Wが金属膜3に向かうに従って長くなるようにしてもよい。
【0039】
さらになお、突起4,4間の空間1hを溝状に形成した場合において、その突起間距離Wが溝の軸方向に沿って変化するようにしてもよい。例えば、図6(A)に示すように、その突起間距離Wが溝の軸方向に沿ってステップ状に変化するようにすれば、領域100、110、120における突起間距離Wの突起間距離Wがそれぞれ異なることになる。すると、後述するような表面プラズモン共鳴装置により測定を行うときに、領域100、110、120のそれぞれにフォーカスすれば、1枚のSPRチップにより大きさの異なる3種類の検出対象MA、MB、MCを検出することも可能である。また、上記例では突起間距離Wがステップ状に変化する例を示したが、突起間距離Wを変化させる方法は上記のごとき方法に限定されず、図6(B)に示すように、溝の軸方向に沿って突起間距離Wが徐々に変化するよう(テーパ状)に形成してもよい。
【0040】
さらになお、上記の例では、突起4,4間の空間1hが直線状の溝となっているので、球状の検出対象M1だけでなく縦長な楕円球状の検出対象M1の検出に適しているが、突起4,4間の空間1hの形状は目的に応じて自由に設定できる。例えば、図6(C)に示すように、空間1hが網目状に形成されるように突起4を形成してもよい。
そして、複数の突起4を形成する方法はとくに限定されないが、例えば、金属膜3の表面に突起を形成する物質の層を設けその層をエッチングする等して形成すれば、複数の突起4を簡単かつ安価に形成することができるので、本発明のSPRチップ1も簡単かつ安価に製造することができるし、突起4の形状や配置、突起4,4間に形成される溝の形状や配置を自由に設定することができる。
【実施例1】
【0041】
本発明のSPRチップによる物質選択効果を確認した。
実験は、純水を、本発明のSPRチップおよび従来の平面SPRチップ上に2mm程度の厚さとなるように添加または抽入した状態において、粒子(ポリスチレン球、直径1、10μm)を純水に投入したときにおける共鳴角の変化を確認した。
なお、純水は、各SPRチップ上に設けられるPDMS container内に添加または抽入した(図7参照)。
【0042】
実験に使用した従来の平面SPRチップは、ガラス基板(1.6cmx1.6cm、厚さ0.12mm)の表面に、チタン層(5nm)、金層(45nm)を形成したものを使用した。
本発明のSPRチップは、ガラス基板(1.6cmx1.6cm、厚さ0.3mm)の表面に、チタン層(5nm)、金層(45nm)を形成し、かつ、金層の表面にクロムによって突起(高さ1.2μm、突起幅約3μm、突起間距離約3μm)を形成したものを使用した。
なお、従来の平面SPRチップおよび本発明のSPRチップにおいて、チタン層は、ガラス基板と金層の接着強度を向上させるために設けている。
【0043】
実験には、表面プラズモン共鳴装置(Handy-SPR(NTT−AT社製))を使用した。図7に示すよう、この装置は、光源から放出される光をレンズによって集光してSPRチップに照射するように構成されている。SPRチップに照射される入射光は、そのSPRチップへの入射角が65°〜75°となるように集光されており、かかる入射光の反射光を測定することによって、入射角65°〜75°の範囲に存在する共鳴角(SPR angle)を一括で測定できるようになっている。
【0044】
図8および図9に実験結果を示す。
図8(A)は従来のSPRチップ表面に添加または抽入された純水に対して直径1μmの粒子を純水に投入したときの実験結果である。
この実験では、約2300秒のところで直径1μmの粒子を純水に加えたが、表面が平面状のチップであるため、粒子を加えるとすぐに共鳴角が大きく変化(0.850deg.)していることが確認できる。
図8(B)は従来のSPRチップ表面に添加または抽入された純水に対して直径10μmの粒子を純水に投入したときの実験結果である。
この実験では、約1500秒のところで直径10μmの粒子を純水に加えたが、表面が平面状のチップであるため、粒子を加えるとすぐに共鳴角が変化(約0.051deg.)していることが確認できる。
【0045】
図9(A)は本発明のSPRチップ表面に添加または抽入された純水に対して直径1μmの粒子を純水に投入したときの実験結果である。
この実験では、約600秒のところで直径1μmの粒子を純水に加えたが、従来のSPRチップと同様に、粒子を加えるとすぐに共鳴角が大きく変化(0.899deg.)していることが確認できる。直径1μmの粒子は突起間距離(約3μm)よりも十分小さいため、スムースに突起間に侵入できたためと考えられる。また、共鳴角の変化量が、従来のSPRチップに直径1μmの粒子を投入した場合と同程度であることから、突起間距離よりも小さい粒子であれば、従来のSPRチップと同程度の精度で粒子の検出ができると考えられる。
図9(B)は本発明のSPRチップ表面に添加または抽入された純水に対して直径10μmの粒子を純水に投入したときの実験結果である。
この実験では、約3000秒のところで直径10μmの粒子を純水に加えたが、時間が経過しても共鳴角の変化が生じていないことが確認できる。これは、本発明のSPRチップでは、その表面に突起が形成されておりかつ突起間距離が約3μmであるので、突起間距離よりも直径が大きい直径10μmの粒子が突起間に侵入できなかったためであると考えられる。
【0046】
以上のごとく、SPRチップの表面に突起を設けることによって、検出対象をその寸法の大小により区分けすることが可能であり、しかも、突起間距離よりも小さい物質であればフラットな表面のSPRチップと同等の精度で検出できることが確認できた。
【実施例2】
【0047】
本発明のSPRチップの実際の生体の選択に対する有効性を確認した。
実験は、溶液(リン酸緩衝液)を、本発明のSPRチップおよび従来の平面SPRチップ上に2mm程度の厚さとなるように添加または抽入した状態において、酵母菌(直径10〜20μmの球径)の入った溶液を添加(抽入)したときにおける共鳴角の変化を確認した。
なお、溶液は、各SPRチップ上に設けられるPDMS container内に添加または抽入した(図7参照)。
【0048】
実験に使用した従来の平面SPRチップおよび本発明のSPRチップ、および実験装置は、実施例1と同じものである。
【0049】
図10に実験結果を示す。
従来のSPRチップでは、約1000秒のところで酵母菌を溶液に加えたが、図10(A)に示すように、表面が平面状のチップであるため、酵母菌を加えるとすぐに共鳴角が大きく変化していることが確認できる。
一方、本発明のSPRチップでは、約1600秒のところで酵母菌を溶液に加えたが、図10(B)に示すように、共鳴角の変化が生じていないことが確認できる。これは、本発明のSPRチップでは、その表面に突起が形成されておりかつ突起間距離が約3μmであるので、突起間距離よりも直径が大きい酵母菌は突起間に侵入できなかったからであると考えられる。
以上のごとく、SPRチップの表面に突起を設ければ、検出対象をその寸法の大小により区分けすることが可能であり、酵母菌等の生体等の検出にも有効であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の表面プラズモン共鳴チップは、検出対象をその大きさで判別選択したり、細胞等のフィルタリング可能な物質からの分泌の量の変化や、分泌のタイミングをリアルタイムで測定することに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態のSPRチップ1の説明図であって、(A)は概略断面図であり、(B)は概略平面図である。
【図2】本実施形態のSPRチップ1により検出対象M1が選択された状態を示した図である。
【図3】表面プラズモン共鳴現象による共鳴角の変化を説明した図である。
【図4】突起間距離Wが金属膜3に向かうに従って変化するように形成されたSPRチップ1を示した図である。
【図5】突起間距離Wが金属膜3に向かうに従って変化するSPRチップ1により検出対象M1の経時変化を検出する方法の説明図である。
【図6】他の形状の突起4の例である。
【図7】実施例の実験装置における装置構成原理の概略説明図である。
【図8】従来のSPRチップの実験結果である。
【図9】本発明のSPRチップによる物質選択効果を確認した実施例である。
【図10】酵母菌をSPRチップによって確認した実験結果であり、(A)は従来のSPRチップの実験結果であり、(B)は本発明のSPRチップの実験結果である。
【符号の説明】
【0052】
1 SPRチップ
1h 空間
2 基板
3 金属膜
4 突起
5 透過阻害物質
M1 検出対象

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過する光透過性素材によって形成された基板と、
該基板表面に形成された金属膜と、
該金属膜の表面に形成された複数の突起とを備えており、
該複数の突起は、
その先端から前記基板表面までの距離が、前記金属膜に対して前記基板側から光を照射したときに発生するエバネッセント光の影響が及ぶ距離よりも長くなるように形成されている
ことを特徴とする表面プラズモン共鳴チップ。
【請求項2】
前記複数の突起は、
隣接する突起間の距離が、前記金属膜に向かうに従って変化するように形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の表面プラズモン共鳴チップ。
【請求項3】
前記複数の突起は、
隣接する突起間の距離が、前記金属膜に向かうに従って短くなるように形成されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の表面プラズモン共鳴チップ。
【請求項4】
特定の物質の通過を阻害する物質が、前記複数の突起間に設けられている
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の表面プラズモン共鳴チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−85825(P2009−85825A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257548(P2007−257548)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】