説明

表面保護フィルム

【課題】初期接着力に優れ、接着力の経時安定性に優れており、さらに剥離作業性にも優れている表面保護フィルムを提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系基材にゴム系粘着剤層が積層されている表面保護フィルムであって、前記ゴム系樹脂成分が、スチレン系重合体ブロック(A)とオレフィンエラストマー成分(B)とのブロック共重合体、またはスチレン系重合体ブロック(A)とスチレンとエラストマー成分とのランダム共重合体ブロック(B’)とのブロック共重合体、またはこれらの水添物を主骨格とするスチレン系エラストマーであり、前記ゴム系粘着層の周波数10Hzにおける引張貯蔵弾性率が、−100℃で2.5×109Pa以上であり、10Hzにおける剪断貯蔵弾性率が23℃で5×104〜5×106Paの範囲にある表面保護フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着体表面への塵埃の付着や被着体表面の傷つきを防止するための表面保護フィルムに関し、特に、ポリオレフィン系基材の片面にゴム系粘着剤層が積層されている表面保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な物品や部材を保護するために、物品や部材の表面に表面保護フィルムが仮着されていることが多い。例えば、合成樹脂板、金属板、化粧合板、塗装鋼板、塗装樹脂板または各種銘板などの様々な被着体、中でも塗装鋼板や塗装樹脂板の表面に、加工時及び運搬時にこれらの表面への汚れの付着や表面の傷つきを防止するために、表面保護フィルムが多用されている。
【0003】
この種の表面保護フィルムは、フィルム基材の片面に粘着剤層を積層した構造を有する。上記フィルム基材としては、一般に、熱可塑性樹脂からなるフィルム基材が用いられている。表面保護フィルムは、被着体表面に上記粘着剤層の粘着力を利用して貼付され、被着体表面の保護を図る。被着体が使用される際には、表面保護フィルムは被着体表面から剥離されることになる。従って、表面保護フィルムでは、被着体の表面に容易に仮着され得るのに適切な粘着性を有することが求められており、かつ使用後には、被着体表面から容易に剥離し得る程度の良好な剥離性を有することが求められている。さらに、剥離後の被着体表面を糊残り等により汚染しないことも強く求められている。
【0004】
特に、塗装鋼板などの塗膜の表面保護に用いられる表面保護フィルムは、一般に手貼りにより塗膜表面に仮着され、使用に先立ち剥離される。従って、1)初期接着力が十分であり、2)接着力の経時安定性が良好であること、接着力が経時により変動し難いこと、並びに3)剥離に際して容易に剥離でき、かつ糊残りが生じ難いことが求められる。
【0005】
下記の特許文献1には、基材の表面に粘着剤層が積層されており、該粘着剤層としてポリイソブチレンを用いた表面保護フィルムが開示されている。ここでは、ポリイソブチレンを粘着剤層に用いることにより表面保護フィルムの性能を高め得ると示されている。しかしながら、ポリイソブチレン系粘着剤は、接着力の経時安定性及び剥離作業性においては優れているものの、SP値が非常に低いため、塗装鋼板との初期接着力が十分でなかった。すなわち、上記1)の初期接着力については改良の余地があった。
【0006】
他方、下記の特許文献2には、スチレン系エラストマーからなる粘着剤層を用いた表面保護フィルムが開示されている。ここでは、上記粘着剤層の弾性率を制御することにより、1)初期接着力が十分であるとされており、かつ2)接着力の経時安定性が高められるとされている。
【0007】
しかしながら、3)剥離作業性に関しては、ポリイソブチレンを粘着剤層に用いた表面保護フィルムよりも劣っていた。
【0008】
また、ソフトセグメントのエラストマー部分に共役ジエンが用いられており、最後に水素添加されているが、工業的には、水素添加を完全に100%とすることが困難であるため、耐熱性も十分ではなかった。
【特許文献1】特開平6−73352号公報
【特許文献2】特開2001−234149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状の欠点を解消し、初期接着力に優れ、接着力の経時安定性に優れており、さらに剥離作業性にも優れている表面保護フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を達成するためになされたものであり、ポリオレフィン系基材にゴム系樹脂成分と粘着付与樹脂とを含む粘着層が積層されている表面保護フィルムであって、前記ゴム系樹脂成分が、スチレン系重合体ブロック(A)とオレフィン系重合体ブロック(B)とのブロック共重合体、またはスチレン系重合体ブロック(A)とスチレンとオレフィンとのランダム共重合体ブロック(B’)とのブロック共重合体、またはこれらの水添物を主骨格とするスチレン系エラストマーであり、前記ゴム系粘着層の周波数10Hzにおける引張貯蔵弾性率が、−100℃で2.5×109Pa以上であり、10Hzにおける剪断貯蔵弾性率が23℃で5×104〜5×106Paの範囲にあることを特徴とする表面保護フィルムである。
【0011】
本発明に係る表面保護フィルムのある特定の局面では、前記ゴム系樹脂成分が、スチレン系重合体ブロック(A)とオレフィン系重合体ブロック(B)のブロック共重合体を主骨格とするスチレン系エラストマーであり、該ブロック(B)がポリイソブチレンである。
【0012】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0013】
本願発明者らは、ポリオレフィン系基材の表面にゴム系粘着剤層が積層されている表面保護フィルムについて鋭意検討した結果、ゴム系粘着剤層を上記オレフィン系重合体ブロック(B)あるいはスチレンとオレフィンとのランダム共重合体ブロック(B’)を含むスチレン系エラストマーとし、かつ10Hzにおける引張貯蔵弾性率を−100℃で2.5×109Pa以上とし、10Hzにおける剪断貯蔵弾性率を23℃で5×104〜5×106Paの範囲とすれば、上記課題を達成し得ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0014】
本発明に係る表面保護フィルムのゴム系粘着剤層は、ゴム系樹脂成分を含む。そして、ゴム系樹脂成分は、上記のように、スチレン系重合体ブロック(A)とオレフィン系重合体ブロック(B)とのブロック共重合体、スチレン系重合体ブロック(A)とスチレンとオレフィンとのランダム共重合体ブロック(B’)とのブロック共重合体、またはこれらの水添物を主骨格とするスチレン系エラストマーである。言い換えると、上記スチレン系エラストマーは下記の(1)、(2)または(3)のスチレン系エラストマーである。
【0015】
(1)スチレン系重合体ブロック(A)とオレフィン系重合体ブロック(B)とのブロック共重合体を主骨格とするスチレン系エラストマー。ここで、オレフィン系重合体ブロック(B)は、より具体的には、共役ジエン重合体ブロック、イソブチレン重合体ブロックなどが挙げられる。このスチレン系エラストマーとしては、(A)−(B)ブロック共重合体を主骨格とする限り、特に限定されず、例えばA−B、A−B−A、(A−B)nまたは(A−B)nXなどで表わされる共重合体が挙げられる。なお、Xはカップリング剤に由来する残基である。
【0016】
(2)スチレン系重合体ブロック(A)とスチレンと共役ジエンやイソブチレンとのランダム共重合体ブロック(B’)とからなるブロック共重合体を主要骨格とするスチレン系エラストマー。このようなスチレン系エラストマーとしては、下記の(2−1)〜(2−4)が挙げられる。
【0017】
(2−1)ブロック(A)とブロック(B’)とが結合したもの:A−B’ブロック共重合体
(2−2)スチレンと共役ジエンやイソブチレンの内スチレンが漸増するテーパーブロック(C)を含むもの:A−B’−Cブロック共重合体
(2−3)上記テーパーブロック(C)に代えてスチレン系重合体ブロック(A)を含むもの:A−B’−Aブロック共重合体
(2−4)(2−1)〜(2−3)の繰り返しやこれらが任意の割合で結合したもの:(A−B’)n、(A−B’)nX、(A−B’−C)nX、(A−B’−A)nXなど。
(3)上記(1)または(2)の水添物からなるスチレン系エラストマー。
【0018】
スチレン系エラストマーのオレフィン系重合体ブロック(B)やランダム共重合体ブロック(B’)に用いられるオレフィン系重合体ブロックとしてはブタジエンやイソプレン等の共役ジエン、イソブチレンなどが挙げられるが、好ましくはイソブチレンが用いられる。イソブチレンが用いられている場合、本来、脂肪族性不飽和結合を有さないため、水素添加が不要で、熱安定性や耐候性に優れるものとすることができる。
【0019】
上記ゴム系樹脂のオレフィン系重合体ブロック(B)は、好ましくはポリイソブチレンからなる。
【0020】
上記(2)のスチレン系エラストマーあるいは(2)の水添物においては、構成成分であるスチレンと、共役ジエンまたはイソブチレンとの含有割合は、重量比で5対95〜60対40の範囲が好ましく、より好ましくは7対93〜40対60である。スチレンの含有割合が5重量%未満では、粘着剤の凝集力が低下し、被着体から剥離する際に被着体に糊残りが生じるおそれがあり、60重量%を超えると、粘着力が不足し、被着体に対する貼付が困難となることがある。
【0021】
(2)のスチレン系エラストマー及びその水添物である(3)のスチレン系エラストマーにおいて、ブロック(C)を含む構成においては、スチレン系エラストマーを構成している全モノマー構成中のブロック(A)におけるスチレン含有量とブロック(C)におけるスチレン含有量との合計であるスチレン含有割合の合計は3〜50重量%が好ましく、より好ましくは5〜40重量%、さらに好ましくは5〜25重量%である。ブロック(A)及びブロック(C)のスチレンの合計の含有割合が全モノマー中3重量%未満では、粘着剤の凝集力が低下し、被着体からの剥離に際し糊残りが生じるおそれがあり、50重量%を超えると、粘着剤の粘着力が不足し、被着体への貼付が困難となるおそれがある。上記ブロック(A)中のスチレンのスチレン系エラストマーを構成している全モノマー中の割合は、3重量%以上が好ましく、より好ましくは3〜20重量%である。
【0022】
上記(1)のスチレン系エラストマーの水添物である(3)のスチレン系エラストマーにおいて、共役ジエン重合体ブロック(B)中または上記スチレンと共役ジエンとのランダム共重合体ブロック(B’)中の共役ジエン部分の二重結合の少なくとも80%が水素添加により飽和されていることが好ましく、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95〜100%である。水素添加の割合が80%未満では、耐熱性や耐候性が劣下し、好ましくない。
【0023】
スチレン系エラストマーのGPCにより測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量は、30000〜400000の範囲が好ましく、より好ましくは50000〜200000である。30000未満では、粘着剤の凝集力が低下し、被着体からの剥離に際し糊残りが生じることがあり、400000を超えると、粘着力が不足し、かつ流動性が悪化しがちとなる。
【0024】
本発明に係るゴム系粘着剤では、上記ゴム系樹脂成分に加えて、さらに粘着付与樹脂が配合されている。粘着付与樹脂としては、ゴム系樹脂成分に添加された際に、前述した引張貯蔵弾性率及び剪断貯蔵弾性率範囲を満足し得るものである限り、特に限定されない。このような粘着付与樹脂としては、例えば、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、テルペン系樹脂、テルペン・フェノール系樹脂、アルキル・フェノール系樹脂、クマロン・インデン系樹脂、ロジン系樹脂、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、芳香族系オイル、ひまし油、トール油、天然油、液状ポリイソブチレン樹脂等が挙げられる。具体的には脂環族系石油樹脂として荒川化学社製、商品名:アルコン、テルペン系樹脂としてヤスハラケミカル社製、商品名:クリアロン、パラフィン系オイルとして出光興産社製、商品名:ダイアナプロセスオイル,ダイアナフレシア、液状ポリイソブチレン樹脂としてBASF社製、商品名:グリソパールなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0025】
上記粘着付与樹脂は、ゴム系樹脂100重量部に対し、5〜70重量部の範囲で配合されることが好ましく、より好ましくは20〜50重量部である。5重量部未満では、上記剪断貯蔵弾性率が高くなりすぎることがあり、さらに被着体に対する粘着力が不足することがある。70重量部を超えると、粘着剤の凝集力が不足し、表面保護フィルムとして使用した後、被着体から剥離し難いことがあり、また剥離に際し、糊残りが生じるおそれがある。
【0026】
本発明に係る表面保護フィルムのゴム系粘着剤層は、周波数10Hzにおける引張貯蔵弾性率が、−100℃で2.5×109Pa以上である。表面保護フィルムを被着体から剥離する際には、人間の手により剥離が行われる。この場合の平均的な剥離速度は20m/分以上である。本願発明者らは、この人間の手による剥離工程について鋭意検討した結果、剥離する際の粘着剤層の被着体に対する粘着力が、周波数10Hzにおける−100℃における引張貯蔵弾性率と密接に関連していることを見出し、本発明をなすに至った。すなわち、上記−100℃における引張弾性率が、人の手により剥離する際の剥離作業性に密接に関連していることが本願発明者により初めて見出されたものであり、本願発明は、この−100℃における引張弾性率を特定の値、すなわち、2.5×109Pa以上とすることにより、人の手により剥離した際に糊残りを生じることなく円滑に被着体から剥離し得る表面保護フィルムを提供するものである。
【0027】
本願出願時において、ゴム系粘着剤層の−100℃における引張貯蔵弾性率を2.5×109Pa以上とすることで、人の手による剥離に際し優れた作業性を与える旨の特有の効果を奏することは当業者においても予想し得るものではなかった。すなわち、上記−100℃において、引張貯蔵弾性率が2.5×109Pa以上である構成は、当業者において非予測性を有する効果を発現するものである。
【0028】
他方、上記ゴム系粘着剤層の周波数10Hzにおける剪断貯蔵弾性率は、23℃で5×104〜5×106Paの範囲とされる必要がある。剪断貯蔵弾性率がこの範囲以外の場合には、粘着力不足により輸送中に表面保護フィルムが被着体から剥離したり、剥離工程における作業性が悪くなるおそれがある。
【0029】
すなわち、本発明では、周波数10Hzにおける−100℃における引張貯蔵弾性率、及び23℃における剪断貯蔵弾性率を上記特定の範囲としたことにより、表面保護フィルムの(1)初期接着力、(2)接着力の経時安定性及び(3)剥離作業性が全て良好とされている。
【0030】
本発明に係るゴム系粘着剤層の厚みは、特に限定されないが、3〜50μmの範囲が望ましい。3μm未満の場合では、粘着力不足となることがあり、50μmを超えると、コスト的に不利となる。
【0031】
本発明に係る表面保護フィルムでは、上記粘着剤層に、必要に応じて、粘着性能を阻害しない範囲で、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、接着昂進防止剤などが添加されてもよい。
【0032】
上記紫外線吸収剤としては特に限定されず、例えば、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の通常使用されるものが挙げられる。上記光安定化剤としては、ヒンダードアミン系化合物が挙げられる。上記酸化防止剤としては特に限定されず、例えば、フェノール系(モノフェノール系、ビスフェノール系、高分子型フェノール系)、硫黄系、リン系等の通常使用されるものが挙げられる。上記接着昂進防止剤としては、脂肪酸アミド、ポリエチレンイミンの長鎖アルキルグラフト物、大豆油変性アルキド樹脂(例えば、荒川化学社製、商品名「アラキード251」等)、トール油変性アルキド樹脂(例えば、荒川化学社製、商品名「アラキード6300」等)などが挙げられる。
【0033】
(ポリオレフィン系基材)
本発明に係る表面保護フィルムは、ポリオレフィン系基材の片面に上記ゴム系粘着剤層が積層された構造を有する。上記ポリオレフィン系基材を構成するポリオレフィンについては特に限定されず、ポリプロピレンなどのポリオレフィンやポリオレフィンにオレフィン系エラストマーを混合したものなどを用いることができる。上記ポリオレフィン系基材の厚みは、使用目的によっても異なるが、20〜100μmが好ましい。
【0034】
本発明においては、ポリオレフィン系基材中には、この分野で通常配合される公知の添加剤が配合されることは任意である。添加剤としては上記粘着剤層に添加され得る例示の添加剤のほか、滑剤、帯電防止剤、防錆剤、顔料等が例示できる。特に、紫外線に晒されるような表面保護フィルムの場合には、好ましくは、ポリオレフィン系基材に耐光剤が配合される。
【0035】
ポリオレフィン系基材に配合される耐光剤としては、紫外線遮蔽剤及び/または紫外線安定化剤が好ましく用いられる。
【0036】
上記紫外線遮蔽剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、カーボンブラック等の無機顔料等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数のものをブレンドして用いてもよい。なかでも、紫外線遮蔽性に優れるため、酸化チタンが特に好ましく用いられる。
【0037】
上記紫外線安定化剤としては、例えば、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系化合物等の光安定化剤が挙げられる。これらは、1種のみが用いられてもよく2種以上が併用されてもよい。
【0038】
(製造方法)
本発明に係る表面保護フィルムの製造方法は特に限定されない。例えば、ゴム系粘着剤層を構成する粘着剤組成物と、ポリオレフィン系基材を構成する組成物とを共押出することにより積層一体化する方法、あるいは成膜されたポリオレフィン系基材上にゴム系粘着剤をラミネートし、積層一体化する方法などが挙げられる。
【0039】
ポリオレフィン系基材とゴム系粘着剤とを共押出により積層一体化する方法としては、インフレーション法やTダイ法などの公知の方法が用いられ得る。ゴム系粘着剤をポリオレフィン系基材にラミネートする方法としては、粘着剤溶液を塗工する溶液塗工法、ドライラミネーション法、Tダイを用いた押出コーティング法などが用いられる。これらの中でも、品質を高め、かつ経済的に製造し得るため、Tダイによる共押出法が好ましい。また、溶液塗工法の場合には、基材層と粘着剤層との間の接合強度を高めるために、ポリオレフィン系基材に予めプライマー塗布などの表面処理を施すことが好ましい。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係る表面保護フィルムでは、ポリオレフィン系基材にゴム系粘着剤層が積層されており、ゴム系粘着剤層を構成しているゴム系樹脂成分が、上記特定のスチレン系エラストマーであり、かつ粘着層の周波数10Hzにおける引張貯蔵弾性率が−100℃で2.5×109Pa以上であり、10Hzにおける剪断貯蔵弾性率が23℃で5×104〜5×106Paの範囲とされているので、上記のように(1)初期接着力に優れ、被着体表面に対して確実に貼付することができ、それによって被着体表面への塵埃の付着を防止したり、傷つきを防止することができる。また、(2)接着力の経時による安定性が高められると共に、(3)剥離に際しての作業性も良好とされる。従って、(1)初期接着力、(2)接着力の経時安定性及び(3)剥離作業性のいずれにおいても優れた表面保護フィルムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げることにより本発明の効果を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
以下、上記表面保護フィルムの具体的な実施例及び比較例を説明する。
【0043】
(使用した材料)
〔ゴム系樹脂成分〕
SIBS(1);カネカ社製、品番:シブスター 073T、スチレンとイソブチレンのブロック共重合体(Mw約70000、全モノマー中のスチレン含有割合30重量%)
SIBS(2);カネカ社製、品番:シブスター 072T、スチレンとイソブチレンのブロック共重合体(Mw約70000、全モノマー中のスチレン含有割合23重量%)
SIBS(3);カネカ社製、品番:シブスター 102T、スチレンとイソブチレンのブロック共重合体(Mw約100000、全モノマー中のスチレン含有割合14重量%)
SIBS(4);カネカ社製、品番:シブスター 103T、スチレンとイソブチレンのブロック共重合体(Mw約100000、全モノマー中のスチレン含有割合30重量%)
SEBS(1);クレイトンポリマー社製、品番:クレイトンG1657、スチレンとエチレン・ブチレンとのブロック共重合体(全モノマー中のスチレン含有割合13重量%)
SEBS(2);旭化成社製、品番:タフテックH1052、スチレンとエチレン・ブチレンとのブロック共重合体(全モノマー中のスチレン含有割合20重量%)
SEBS(3);旭化成社製、品番:タフテックH1221、スチレンとエチレン・ブチレンとのブロック共重合体(スチレン含有量12重量%)
HSBR;JSR社製、品番:ダイナロン1321P、スチレンブロックとスチレンと共役ジエンとのランダムブロックを有するエラストマーの水添物(スチレン含有量10重量%)
〔粘着付与樹脂〕
ダイアナフレシア;出光興産社製パラフィン系オイル、商品名:ダイアナフレシアP−430
グリソパールV190;BASF社製、液状ポリイソブチレン樹脂
グリソパールV500;BASF社製、液状ポリイソブチレン樹脂
クリアロンLH;ヤスハラケミカル社製、水添テルペン樹脂
アルコンP125;荒川化学社製、水添石油樹脂
〔ポリオレフィン系基材材料〕
PB170A;サンアロマー社製ポリプロピレン
PEX6800A;東京インキ社製酸化チタン、商品名:PEX6800A White
UVT−52;東京インキ社製ヒンダードアミン系光安定化剤、商品名:PPM UVT−52
(実施例1)
スチレン系エラストマーとしてSIBS(2)(カネカ社製 SIBS、品番:シブスター 072T)100重量部と、粘着付与樹脂としての脂環族系飽和石油樹脂(荒川化学社製、商品名:アルコンP125)を20重量部とを含む粘着剤組成物と、ポリプロピレン(サンアロマー社製、品番:PB170A)とからなるポリプロピレン基材層とをTダイ法により共押出し、50μmの厚みのポリプロピレン基材上に10μmの厚みのゴム系粘着剤層が積層された表面保護フィルムを得た。
【0044】
(実施例2〜5及び比較例1〜6)
使用したスチレン系エラストマー及び粘着付与樹脂並びにそれらの配合割合を下記の表1に示すように変更したことを除いては、実施例1と同様にして表面保護フィルムを得た。
【0045】
(実施例及び比較例の評価)
上記のようにして得た各表面保護フィルムにおけるゴム系粘着剤層の(1)23℃剪断貯蔵弾性率及び(2)−100℃引張貯蔵弾性率を以下の要領で求めた。また、得られた表面保護フィルムの(3)初期粘着力、(4)初期剥離力及び(5)経時粘着力及び(6)被着体汚染評価を以下の要領で行った。結果を下記の表1に示す。
【0046】
(1)23℃剪断貯蔵弾性率
ゴム系粘着剤層の剪断貯蔵弾性率を、動的粘弾性スペクトル測定装置(IT計測制御社製、品番:DVA200)により、周波数10Hz、昇温速度6℃/分で−50℃〜+150℃の範囲で測定し、23℃における剪断貯蔵弾性率を求めた。
【0047】
(2)−100℃引張貯蔵弾性率
得られたゴム系粘着剤層の引張貯蔵弾性率を、動的粘弾性スペクトル測定装置(IT計測制御社製、品番:DVA200)により周波数10Hz、昇温速度6℃/分で−100℃〜+50℃の範囲で測定し、−100℃における引張貯蔵弾性率を求めた。
【0048】
(3)初期粘着力
得られた表面保護フィルムを、室温23℃及び相対湿度65%の環境下で、ステンレス板(SUS304、280番研磨)及び自動車用塗装鋼板(ガラス転移点が60℃のアルキッド・メラミン塗膜を有する鋼板、表面グロス80%)に、それぞれ2kgの圧着ゴムローラーを用いて、300mm/分の速度で貼り付け、その状態で30分間放置した後、JIS Z0237に準拠し、25mm幅における180度剥離強度を300mm/分の速度で測定した。このようにして測定された剥離強度を初期粘着力とした。
【0049】
(4)初期剥離力
得られた表面保護フィルムを、室温23℃及び相対湿度65%の環境下で、ステンレス板(SUS304、280番研磨)及び自動車用塗装鋼板(ガラス転移点が60℃のアルキッド・メラミン塗膜を有する鋼板、表面グロス80%)に、それぞれ2kgの圧着ゴムローラーを用いて、300mm/分の速度で貼り付け、その状態で30分間放置した後、JIS Z0237に準拠し、25mm幅における180度剥離強度を30m/分の速度で測定した。このようにして測定された剥離強度を初期剥離力とした。
【0050】
(5)経時粘着力
得られた表面保護フィルムを、(4)の初期剥離力測定の場合と同様にして自動車用塗装鋼板に貼り付け、その状態で70℃のギアオーブン中に7日間放置した後、JIS Z0237に準拠して25mm幅における180度剥離強度を300mm/分の速度で測定した。
【0051】
(6)被着体の汚染評価:(3)〜(5)の各剥離強度の測定時において、剥離後の被着体表面の汚染の有無を目視により観察した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1から明らかなように、−100℃における引張貯蔵弾性率が2.5×109Pa未満である比較例1〜6では、初期粘着力は被着体表面に十分に貼付し得る大きさであるが、初期剥離力が4.8〜5.5N/25mmと大きく、剥離作業性が低いことがわかる。これに対して、実施例1〜5では、初期剥離力が1.2N/25mm以下と小さく、従って、被着体から容易に剥離し得ることがわかる。しかも、実施例1〜5では、初期粘着力も1.0N/25mm以上と十分な大きさを有しており、さらに経時による粘着力の所望でない増大も生じていないことがわかる。
【0054】
特に、実施例3では、初期粘着力が5.7N/25mmと高くされているのにもかかわらず、初期剥離力は1.2N/25mmと低い値に留まっており、剥離作業性に優れていることがわかる。これは、−100℃の引張貯蔵弾性率が3.8×109Paと高いことによる。
【0055】
(実施例6)
ゴム系樹脂成分であるスチレン系エラストマーとしてSIBS(1)を100重量部、及び粘着付与樹脂としてダイアナフレシアP−430を20重量部含むゴム系粘着剤組成物を用意した。
【0056】
次に、ポリプロピレン樹脂(PB170A)を100重量部、酸化チタン(PEX6800A)を20重量部、ヒンダードアミン系光安定化剤(UVT−52)を3重量部ドライブレンドしてなるポリプロピレン基材層と、上記ゴム系粘着剤組成物からなるゴム系粘着剤層とをTダイ法により共押出し、50μmの厚みのポリプロピレン基材上に10μmの厚みのゴム系粘着剤層が積層された表面保護用フィルムを得た。
【0057】
(実施例7〜11及び比較例7〜10)
使用したポリオレフィン系基材材料、ゴム系樹脂成分及び粘着付与樹脂の種類と配合割合とを下記の表2、3に示すように変更したことを除いては、実施例6と同様にして表面保護用フィルムを得た。
【0058】
(実施例6〜11及び比較例7〜10の評価)
上記の各表面保護フィルムの粘着剤層の(1)23℃剪断貯蔵弾性率及び−100℃引張貯蔵弾性率について、実施例1の場合と同様にして評価した。また、各表面保護フィルムの塗装鋼板(ガラス転移点が60℃のアルキッド・メラミン塗膜を有する鋼板、表面グロス80%)とアクリル板(クラレ社製、パラグラスキャスト板)及びステンレス板(SUS304、280番研磨表面を有する)に対する(2)初期粘着力、(3)初期剥離力及び(4)経時粘着力を実施例1に準じて評価し、(5)糊残りの評価を下記の要領で評価した。
【0059】
〔糊残りの評価〕
ガラス転移点が60℃のアルキッド・メラミン塗膜を有する鋼板に、室温にて表面保護フィルムをゴム系粘着剤層側から接着した後、JIS B 7751に準拠し、サンシャインカーボンアーク試験を1000時間行った。次に、室温で3時間放置した後、表面保護フィルムを塗膜表面から剥離した。剥離後の塗膜表面における糊残りの有無を下記評価基準で評価した。糊残り評価に関しては、特に表面保護フィルムの周縁部に相当する部分を調べた。
【0060】
○:糊残りが見られなかった
×:糊残りが見られた
表2、3から明らかなように、本発明の実施態様である実施例6〜11では、アクリル系樹脂のような合成樹脂からなる被着体表面に適用した場合、並びにステンレスのような極性を有する被着体表面に適用した場合においても、アルキッド・メラミン塗膜を有する鋼板と同様に初期粘着力、初期剥離力ともに十分な性能を発揮することが理解できる。また、自動車用塗装鋼板のように苛酷な使用環境が想定される場合であっても、剥離後に糊残りによって被着体表面が汚染されることもない。
【0061】
【表2】

【0062】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系基材にゴム系樹脂成分と粘着付与樹脂とを含む粘着層が積層されている表面保護フィルムであって、
前記ゴム系樹脂成分が、スチレン系重合体ブロック(A)とオレフィン系重合体ブロック(B)とのブロック共重合体、またはスチレン系重合体ブロック(A)とスチレンとオレフィンとのランダム共重合体ブロック(B’)とのブロック共重合体、またはこれらの水添物を主骨格とするスチレン系エラストマーであり、
前記ゴム系粘着層の周波数10Hzにおける引張貯蔵弾性率が、−100℃で2.5×109Pa以上であり、10Hzにおける剪断貯蔵弾性率が23℃で5×104〜5×106Paの範囲にあることを特徴とする表面保護フィルム。
【請求項2】
前記ゴム系樹脂成分が、スチレン系重合体ブロック(A)とオレフィン系重合体ブロック(B)のブロック共重合体を主骨格とするスチレン系エラストマーであり、該ブロック(B)がポリイソブチレンである、請求項1に記載の表面保護フィルム。

【公開番号】特開2007−16217(P2007−16217A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156825(P2006−156825)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】