説明

表面修飾酸化亜鉛微粒子

【課題】 長期にわたって安定的に凝集を防止し、溶媒や樹脂中に容易に均一分散可能な数平均粒子径20nm以下の酸化亜鉛微粒子を提供すること。さらに常温常圧で液体の酸化亜鉛微粒子を提供すること。
【解決手段】 式(1)
SiX(4−a) (1)
(式中、Rは炭素数1〜18の1価の有機基、Xは加水分解性基をあらわし、aは1、2、または3である)で示されるシラン化合物で表面修飾された、数平均粒子径0.5〜20nmの酸化亜鉛微粒子であり、SiとZnのモル比(Si/Zn)が0.1〜5の範囲にある、表面修飾酸化亜鉛微粒子。長期にわたって安定的に凝集することなく保存可能であり、溶媒や樹脂中に容易に均一分散することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面修飾酸化亜鉛微粒子に関する。より詳しくは、加水分解性基含有シラン化合物により表面修飾された酸化亜鉛微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径20nm以下の酸化亜鉛微粒子は量子的特性に由来する紫外線吸収、蛍光、発光、発電などの効果を発現することが知られており、これらの性質を利用する用途展開が検討されている。しかし酸化亜鉛微粒子はサイズが小さくなるほど凝集しやすくなり、いったん凝集してしまうと一次粒子として再分散させることはほぼ不可能となる。しかも凝集した酸化亜鉛微粒子は上述の量子的特性が失われてしまう。したがってこのような酸化亜鉛微粒子は何らかの方法で凝集を防止し、溶媒や樹脂中に均一分散させる必要がある。
【0003】
粒子径の小さい酸化亜鉛微粒子の凝集を防止するための方法としては、種々の表面修飾剤で酸化亜鉛微粒子表面を覆う技術が一般的である。
【0004】
例えば特許文献1では、金属元素に対して0.01〜14モル%のカルボキシル基を含有する金属酸化物微粒子について記載されている。しかしカルボキシル基が酸化亜鉛微粒子表面に結合する力が弱いため、溶媒や樹脂中に分散させた場合に容易に凝集が起こり、長期安定性や触媒活性をコントロールする上で問題があった。
【0005】
金属酸化物に強固に結合可能な表面修飾剤としてケイ素基含有化合物を用いた例として特許文献2では酸化亜鉛微粒子をジメチルシリコーン20重量部で処理することが開示されている。しかし、ジメチルシリコーンは酸化亜鉛微粒子に対する結合力が弱く長期安定性に問題があった。 特許文献3には金属酸化物微粒子表面を修飾するためにエポキシ基、加水分解性シリル基、ヒドロキシシリル基を有するポリアルキレン構造化合物を使用する技術が記載されている。しかし該方法では修飾剤としてポリマーを使用するためにその立体反発に起因して修飾されない粒子表面が残存し、触媒活性のコントロールが困難であった。
【0006】
低分子のシランカップリング剤で酸化亜鉛微粒子の表面修飾を行う方法が特許文献4に記載されている。該文献では酸化亜鉛微粒子として数平均粒子径が100nm以上と換算できるものを用いている(顕微鏡写真およびBET比表面積データから計算)が、粒子径が大きいために溶媒や樹脂中に混合した場合に透明性が低いという問題があった。また使用しているシランカップリング剤の量が少ないため、表面修飾の効果が十分ではなく、凝集防止や光触媒活性のコントロールが困難であった。
【0007】
また、これら上記従来技術においてはいずれも酸化亜鉛微粒子は固体粉末として得られており、コーティングなどに有用な液体の材料は得られていなかった。
【特許文献1】特開2000−185916号公報
【特許文献2】特開2003−128837号公報
【特許文献3】特開2004−111348号公報
【特許文献4】特開平8−59890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、数平均粒子径が20nm以下という非常に小さな酸化亜鉛微粒子において、長期にわたって安定的に凝集を防止し、溶媒や樹脂中に容易に均一分散可能な材料を提供することである。さらに従来存在しなかった表面修飾酸化亜鉛微粒子として、常温常圧で液体;可視光領域の透明性を維持しつつ高い紫外線遮蔽能を有する;表面の触媒活性のコントロール可能、などの特性を付与した材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するため、以下の表面修飾酸化亜鉛微粒子を発明した。
1). 式(1)
SiX(4−a) (1)
(式中、Rは炭素数1〜18の1価の有機基、Xは加水分解性基をあらわし、aは1、2、または3である)で示されるシラン化合物で表面修飾された、酸化亜鉛部分の数平均粒子径が0.5〜20nmの酸化亜鉛微粒子であり、SiとZnのモル比(Si/Zn)が0.1〜5の範囲にある、表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【0010】
2). 酸化亜鉛微粒子の数平均粒子径が1〜10nmの範囲である、1)に記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【0011】
3). Si/Znが0.2〜4の範囲にある、1)または2)のいずれかに記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【0012】
4). Rの0〜50%がメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、シクロヘキシルメチル基、ヘキシル基、オクチル基、フェニル基、ビニル基、3−アクリロキシプロピル基、3−メタクリロキシプロピル基、3−アミノプロピル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、アリル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−シアノエチル基からなる群より選ばれる1種以上の有機基であり、Rの50〜100%が炭素数10〜18のアルキル基である、1)〜3)のいずれかに記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【0013】
5). Xが炭素数3以下のアルコキシ基である、1)〜4)のいずれかに記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【0014】
6). a=1である、1)〜5)のいずれかに記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【0015】
7). 25℃、1気圧の条件で液体である、1)〜6)のいずれかに記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【0016】
8). 0.1mmの膜厚で測定した際の光線透過率が、350nmにおいて1%以下であり、500nmにおいて90%以上である、1)〜7)のいずれかに記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【0017】
9). 酸化亜鉛微粒子のアルコール分散液と式(1)のシラン化合物とを混合し、100〜300℃かつ0.2〜5MPaの条件で反応させることにより得られる、1)〜8)のいずれかに記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【0018】
10). 酸化亜鉛微粒子が、アルコール溶媒中アルカリ金属水酸化物とカルボン酸亜鉛化合物とを反応させて得られるものである、1)〜9)のいずれかに記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【0019】
11). 酸化亜鉛微粒子がアルカリ金属水酸化物のアルコール溶液にカルボン酸亜鉛化合物を添加して反応させて得られるものであり;カルボン酸亜鉛化合物が酢酸亜鉛またはその水和物であり;その濃度が0.01〜0.5mol/Lであり;アルカリ金属水酸化物がNaOHまたはKOHであり;その使用量がカルボン酸亜鉛化合物1モルに対して1.5〜4モルの範囲である、10)に記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【発明の効果】
【0020】
本発明の表面修飾酸化亜鉛微粒子は、十分な量のシラン化合物で表面がを覆われているため、長期にわたって安定で、単離した状態で保存しても溶媒や樹脂中に均一際分散させることが可能であり、透明度の高い分散液や樹脂組成物を得ることができる。しかも粒子径が十分小さいために量子効果が発現され、紫外線吸収・発光・光電変換(発電)などの特性を有する。
【0021】
また本発明の表面修飾酸化亜鉛微粒子は常温常圧で液体となり得るため、従来のような固体粉末では適用困難であったコーティング・液体レンズ・液浸露光用高屈折率液体などへの適用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の表面修飾酸化亜鉛微粒子は、式(1)
SiX(4−a) (1)
(式中、Rは炭素数1〜18の1価の有機基、Xは加水分解性基をあらわし、aは1、2、または3である)で示されるシラン化合物で表面修飾された、数平均粒子径0.5〜20nmの酸化亜鉛微粒子であり、SiとZnのモル比(Si/Zn)が0.1〜5の範囲にあることを特徴とする。
【0023】
上記式(1)のシラン化合物において、炭素数1〜18の1価の有機基Rとしては特に限定されないが、入手性および価格の点でメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、シクロヘキシルメチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、フェニル基、ビニル基、3−メタクリロキシプロピル基、3−アクリロキシプロピル基、3−アミノプロピル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、アリル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−シアノエチル基が好ましい。
【0024】
さらに得られる表面修飾酸化亜鉛微粒子が25℃、1気圧の条件で液体となる点で、炭素数1〜18の1価の有機基Rの0〜50%が炭素数1〜9の1価の有機基であり、Rの50〜100%が炭素数10〜18のアルキル基であることがより好ましい。炭素数1〜9の1価の有機基の中では具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、シクロヘキシルメチル基、ヘキシル基、オクチル基、フェニル基、ビニル基、3−アクリロキシプロピル基、3−メタクリロキシプロピル基、3−アミノプロピル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、アリル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−シアノエチル基からなる群より選ぶことができる。
【0025】
炭素数10〜18のアルキル基としては、入手性および価格の点でデシル基が特に好ましい。
【0026】
これらは単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。またaが2または3の場合、1分子中の複数のRは同一でもよく異なっていてもよい。
【0027】
上記式(1)において加水分解性基Xとしては特に限定されず、アルコキシ基、オキシム基、オキシカルボニル基、ハロゲン原子、水素原子などを挙げることができるが、酸化亜鉛微粒子表面を修飾する際の反応がマイルドである点でアルコキシ基、オキシム基、オキシカルボニル基が好ましく、入手性および価格の点でアルコキシ基がより好ましく、炭素数3以下のアルコキシ基がさらに好ましい。これらは単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。またaが1または2の場合、1分子中の複数のXは同一でもよく異なっていてもよい。
【0028】
また上記式(1)においてaは1、2、または3をあらわすが、入手性および価格の点でaは1または2であることが好ましく、溶媒や樹脂への分散性が良好である点で1であることがより好ましい。
【0029】
上記式(1)であらわされるシラン化合物の好ましい例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0030】
これらのうち表面修飾酸化亜鉛微粒子が25℃、1気圧の条件で液体となる点で、デシルトリメトキシシランおよびデシルトリエトキシシランが特に好ましい。上記式(1)であらわされるシラン化合物は、単独で使用してもよく複数を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
複数を組み合わせて使用する場合は、その50%以上がデシルトリメトキシシランまたはデシルトリエトキシシランであることが好ましい。
【0032】
本発明の表面修飾酸化亜鉛微粒子は、上記シラン化合物で表面修飾された酸化亜鉛微粒子であるが、SiとZnのモル比(Si/Zn)は0.1〜5の範囲にあることが特徴である。このSi/Znはシラン化合物による表面修飾の度合いを表す数値であり、数値が大きいほど表面修飾の度合いが大きい。Si/Znが0.1未満の場合、シラン化合物による表面修飾が不十分であるため酸化亜鉛微粒子同士の凝集を抑制することが困難である。
【0033】
例えば酸化亜鉛微粒子を単離した後、再び溶媒中に分散させる場合でも均一な透明分散液が得難い。またSi/Znが0.1未満の場合、酸化亜鉛微粒子の有する光触媒活性を抑制することが難しく、抑制が不十分であると樹脂中に分散させた場合樹脂を劣化させる原因となってしまう。一方Si/Znが5を超えると、表面修飾酸化亜鉛微粒子中の酸化亜鉛の含有量が低くなりすぎ、酸化亜鉛微粒子が本来有する量子的効果が弱くなってしまう。例えば紫外線吸収能が低くなったり、発光強度が弱くなったりする。凝集防止と量子的効果発現の兼ね合いから、Si/Znは0.2〜4の範囲にあることが好ましく、0.3〜3.5の範囲にあることがより好ましい。
【0034】
表面修飾酸化亜鉛微粒子のSi/Znを測定する方法としては、灰分測定による方法やプラズマ発光質量分析(ICP−MS)による方法が挙げられる。灰分測定においては、一定量の試料を焼成し、得られた残渣が酸化亜鉛と二酸化ケイ素であると仮定して失われた有機成分量から両者の比率を計算することができる。
【0035】
本発明の表面修飾酸化亜鉛微粒子は酸化亜鉛部分の数平均粒子径が0.5〜20nmの範囲にある。数平均粒子径が0.5未満の場合、紫外線吸収などの効果を示さない場合があり、20nmを超えると溶媒や樹脂中に分散させた場合に透明な材料が得られなかったり、蛍光スペクトルを示さず発光材料としての特性が得られなかったりする。紫外線吸収や発光など量子的効果が強く現れる点で、酸化亜鉛微粒子の数平均粒子径は1〜10nmの範囲であることが好ましく、2〜8nmの範囲であることがより好ましい。なお酸化亜鉛微粒子の数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)分析により90〜110個程度の粒子径を測定し、その和を粒子数で除して平均することによって求めることができる。
【0036】
本発明の表面修飾酸化亜鉛微粒子は、固体または液体の状態をとる。溶媒や樹脂中に容易に分散させることができ、かつ適用可能な用途範囲が広いことから25℃、1気圧の条件で液体であることが好ましい。このような液体状態の表面修飾酸化亜鉛微粒子は、上記シラン化合物として炭素数10以上のアルキル基含有シラン化合物を用いることにより得ることができる。なお従来酸化亜鉛微粒子としてこのような液体状態の化合物は報告されておらず、まったく新規な物質である。
【0037】
本発明の表面修飾酸化亜鉛微粒子の特徴として、紫外線吸収能と可視光透過性の両立があげられる。透明な紫外線吸収材料として有用である点で、表面修飾酸化亜鉛微粒子を0.1mmの膜厚に調整して測定した際の光線透過率が、350nmにおいて3%以下であり、500nmにおいて85%以上であることが好ましく、350nmにおいて1%以下であり、500nmにおいて90%以上であることがより好ましい。
【0038】
光線透過率の測定は紫外可視吸収スペクトル(UV−Vis)分析により実施することができる。0.1mmの膜厚に調整するには、表面修飾酸化亜鉛微粒子が液体の場合には間隔を0.1mmに保った石英セルに充填すればよく、固体の場合には0.1mmのスペーサーを用いてプレスして薄膜にすればよい。
【0039】
本発明の表面修飾酸化亜鉛微粒子は、その製造方法については特に限定されないが、Si/Znを任意にコントロールすることが可能である点で酸化亜鉛微粒子のアルコール分散液と上記シラン化合物とを混合し、100〜300℃かつ0.2〜5MPaの条件で反応させることが好ましく、100〜200℃かつ0.25〜2MPaの条件で反応させることがより好ましい。
【0040】
アルコールとしては特に限定されないが、酸化亜鉛微粒子とシラン化合物の両方を分散あるいは溶解させやすい点および後述するように酸化亜鉛微粒子を合成した後1ポットで表面修飾反応を実施できる点で、炭素数3以下の脂肪族アルコールが好ましい。
【0041】
酸化亜鉛微粒子とシラン化合物とを反応させる際、反応時間は特に限定されないがシラン化合物による表面修飾が十分達成される点および経済性の点で5分〜10時間が好ましく、10分〜3時間がより好ましい。該反応は通常オートクレーブなどの密閉容器を用い、加熱することにより実施する。圧力上昇が不十分な場合には窒素や二酸化炭素などの不活性ガスを圧入して加圧してもよい。
【0042】
また回分式反応以外に連続式反応も可能である。連続式反応を実施する場合、例えば加熱しながら管状反応機に酸化亜鉛微粒子の分散液とシラン化合物を導入し、投入速度が排出速度を上回るように調節することにより内部を加圧状態に保つことができる。上記反応においては、特に触媒を必要としないが、反応効率を高める目的で一般に用いられている加水分解触媒を使用してもよい。
【0043】
本発明の表面修飾酸化亜鉛微粒子は、酸化亜鉛微粒子をシラン化合物で表面修飾して得られるものであるが、原料となる酸化亜鉛微粒子としては特に限定されず、気相法または液相法いずれの方法で合成されたものでもよい。粒子径が均一でコントロールされている点で液相法で合成された酸化亜鉛微粒子が好ましく、アルコール溶媒中アルカリ金属水酸化物とカルボン酸亜鉛化合物とを反応させて得られる酸化亜鉛微粒子がより好ましい。このとき使用するアルコールとしては限定されないが、容易に再利用できる点で沸点100℃以下のアルコールが好ましく、炭素数3以下の脂肪族アルコールがより好ましい。
【0044】
この溶媒は酸化亜鉛微粒子と表面修飾剤とを反応させる際の溶媒と同一であるものが、工程簡略化できる点で好ましい。すなわち、アルカリ金属水酸化物とカルボン酸亜鉛化合物とを反応させて酸化亜鉛微粒子を製造し、溶媒置換を経ることなく1ポットで表面修飾剤と反応させることが可能となる。
【0045】
上記アルカリ金属水酸化物としては限定されないが、入手性と反応性の点でNaOHあるいはKOHが好ましい。上記カルボン酸亜鉛化合物としては限定されず酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、ラウリル酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、アジピン酸亜鉛、ヒドロキシ酢酸亜鉛などを挙げることができる。これらは水和物であってもよく、無水物であってもよい。入手性および経済性の点で酢酸亜鉛および酢酸亜鉛二水和物が好ましい。上記アルカリ金属水酸化物やカルボン酸亜鉛化合物はそれぞれ単独で使用してもよく、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
アルカリ金属水酸化物とカルボン酸亜鉛化合物とを反応させる際、反応が効率よく進行する点でまずアルカリ金属水酸化物のアルコール溶液を調製しておき、そこにカルボン酸亜鉛化合物を添加する方法が好ましい。カルボン酸亜鉛化合物は単体で加えてもよく、アルコール溶液として加えてもよいが、反応がスムーズに進行する点でアルコール溶液として加えることが好ましい。カルボン酸亜鉛化合物の濃度については特に限定されないが、0.01〜0.5mol/Lであることが好ましく、0.02〜0.3mol/Lであることがより好ましい。濃度が低すぎると得られる酸化亜鉛微粒子の量が少ないため経済的でなく、濃度が高すぎると酸化亜鉛微粒子同士の凝集が起こりやすくなる。
【0047】
アルカリ金属水酸化物の使用量としては特に限定されないが、酸化亜鉛微粒子の収率および純度の点で、カルボン酸亜鉛化合物1モルに対して1.5〜4モルとなる範囲が好ましく、1.8〜3モルとなる範囲がより好ましい。反応温度は特に限定されないが、経済性と酸化亜鉛微粒子の品質の点で0〜80℃が好ましく、20〜60℃の範囲がより好ましい。反応時間については特に限定されないが、以下に示すように反応液の見かけ上の変化から決定することができる。
【0048】
アルカリ金属水酸化物のアルコール溶液にカルボン酸亜鉛化合物を添加すると、最初は白色の濁りが生じるがしばらくすると無色透明となる。そのまま攪拌を続けると再び濁りが生じる。この無色透明段階の後に表れる濁りは酸化亜鉛微粒子同士の凝集に起因するものであるため、反応液が無色透明の状態で次の反応に移るのが好ましい。濃度や反応温度に左右されるため一概に言うことは困難であるが、一般的に3分〜5時間の範囲が好ましく、5分から3時間の範囲がより好ましい。
【0049】
本発明の表面修飾酸化亜鉛微粒子は、そのまま使用してもよく、溶媒などに分散させて使用してもよく、樹脂中に混合して使用してもよい。
【実施例】
【0050】
以下に本発明の実施例を記載する。
【0051】
表面修飾酸化亜鉛微粒子において、酸化亜鉛の含有量は、灰分測定、すなわち一定量のサンプルを秤取してるつぼで焼成し、残渣の重量を測定することにより求めた。標準処方としては、0.2−0.3g程度の表面修飾酸化亜鉛微粒子をるつぼに秤取し、500℃で6時間焼成した後に残渣の重量を測定して計算した。なお、シラン化合物中のケイ素原子は酸化物(SiO)として酸化亜鉛と共に残渣中に残存し、焼成により失われた重量はRSiX(4−a)のRとX(4−a)に由来するものとして酸化亜鉛の重量を見積もった。
【0052】
紫外可視吸収(UV−Vis)スペクトルは紫外可視分光光度計V−560(日本分光(株)製)を用いて実施した。蛍光(PL)スペクトルは蛍光分光光度計PF−5600(日本分光(株)製)を用いて実施した。透過型電子顕微鏡(TEM)観察はJEM−1200EX(日本電子(株)製)を用いて実施した。X線結晶回折分析(XRD)は回転対陰極型X線回折装置RAD−RB((株)リガク製)を用いて実施した。
【0053】
酸化亜鉛微粒子の数平均粒子径は、TEM観察において90〜110個程度の粒子の直径を測定し、その和を粒子数で除することにより計算した。
【0054】
(製造例1)
窒素導入管、還流冷却管、温度計を備えたセパラブルフラスコ(容量3L)を窒素置換し、そこにKOH45g(酢酸亜鉛1モルに対して2モルに相当)とメタノール1.6Lとを入れて攪拌し、完全に溶解させた。別の容器に酢酸亜鉛二水和物88gをとり、メタノール0.6Lを加えて溶解させた。この酢酸亜鉛のメタノール溶液を一度にKOHのメタノール溶液に加え、35℃で20分間攪拌することにより透明な酸化亜鉛微粒子のメタノール分散液を得た。この分散液中の酸化亜鉛微粒子の濃度は0.2mol/Lである。得られた酸化亜鉛微粒子のTEM観察により酸化亜鉛微粒子の数平均粒子径が3nmであることを確認した。
【0055】
(実施例1)
製造例1で合成した酸化亜鉛微粒子のメタノール分散液200mL(酸化亜鉛0.04モル含有)をオートクレーブ(容量300mL;(株)耐圧硝子工業製)に入れ、デシルトリメトキシシラン3.85g(LS−5258;信越化学工業(株)製;酸化亜鉛1モルに対して0.37モルに相当)を加え、120℃/0.3MPaで2時間加熱した。反応液が2層に分離していたため上澄み液を取り除き、沈殿物にヘキサン50mLを加えた。少量の不溶物をろ過により除去した後ヘキサン溶液から溶媒を留去し、80℃で10時間減圧乾燥させることにより、デシルトリメトキシシランで表面修飾された酸化亜鉛微粒子5.3gを無色透明液体として得た。灰分測定の結果酸化亜鉛の含有量は64wt%であり、収率は100%であった。Si/Zn=0.24と計算される。
【0056】
この表面修飾酸化亜鉛微粒子のXRDスペクトルを図1に示すが、ウルツ鉱型酸化亜鉛結晶以外のシグナルが認められず高純度であることがわかる。この表面修飾酸化亜鉛微粒子は室温で5ヶ月放置しても無色透明液体として性状が変わらず安定に存在した。この表面修飾酸化亜鉛微粒子を、スペーサーで間隔を0.1mmに調節した2枚の石英板の間に充填し、UV−Visスペクトルを測定した。その結果を図2に示す。図2から明らかなようにこの表面修飾酸化亜鉛微粒子の0.1mmの膜厚における光線透過率は350nmにおいて0%であり500nmにおいて91%であり、高い紫外線遮蔽能と可視光透過性を両立できている。
【0057】
この表面修飾酸化亜鉛微粒子を50w/w%のヘキサン溶液とし、室温で5ヶ月放置したが無色透明のままであり粒子同士の凝集は認められず、長期間安定に存在することを確認した。またヘキサン以外の溶媒として、トルエン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)、メタクリル酸メチル(MMA)にも同様に溶解させることができ、室温で5ヶ月安定に存在することを確認した。
【0058】
(実施例2)
製造例1で合成した酸化亜鉛微粒子のメタノール分散液200mL(酸化亜鉛0.04モル含有)をオートクレーブ(容量300mL;耐圧硝子工業(株)製)に入れ、フェニルトリメトキシシラン2.6g(Gelest社製;酸化亜鉛1モルに対して0.33モルに相当)を加え、120℃/0.3MPaで2時間加熱した。溶媒を留去して得られた沈殿を水で洗浄した後アセトンに溶解させ、少量の不溶物をろ過で取り除き、アセトンを留去して80℃で10時間減圧乾燥させることにより、フェニルトリメトキシシランで表面修飾された酸化亜鉛微粒子を白色粉末として得た(4.45g)。灰分測定から酸化亜鉛の含有量は63wt%と見積もった。Si/Znは0.37と計算される。酸化亜鉛の収率は86%である。
【0059】
この表面修飾酸化亜鉛微粒子のXRDスペクトルは実施例1と同様であり、ウルツ鉱型酸化亜鉛結晶以外のシグナルが認められず高純度であることを確認した。単離した表面修飾酸化亜鉛微粒子は室温で3ヶ月以上放置しても安定に存在し、アセトンに10w/w%の濃度で再分散させて透明分散液とすることが可能であった。この透明分散液は室温で10ヶ月放置しても濁りが生じず、酸化亜鉛微粒子が凝集することなく室温で10ヶ月安定性に優れることを確認した。
【0060】
得られた表面修飾酸化亜鉛微粒子を0.1mmのスペーサーを介してホットプレス(150℃/3MPa)し、無色透明のシートを得た。このシートのUV−Vis分析より、光線透過率が350nmにおいて0%であり、500nmにおいて92%であることを確認した。
【0061】
(実施例3)
製造例1で合成した酸化亜鉛微粒子のメタノール分散液200mL(酸化亜鉛0.04モル含有)をオートクレーブ(容量300mL;耐圧硝子工業(株)製)に入れ、ヘキシルトリメトキシシラン2.72g((株)アズマックス製;酸化亜鉛1モルに対して0.33モルに相当)を加え、120℃/0.3MPaで2時間加熱した。反応液から溶媒を留去し、得られた固体を水で洗浄した後80℃で12時間減圧乾燥することにより、ヘキシルトリメトキシシランで表面修飾された酸化亜鉛微粒子を白色粉末として得た(3.91g)。灰分測定から見積もった酸化亜鉛の含有量は84wt%であり、酸化亜鉛の収率は100%であった。Si/Znは0.11と計算される。
【0062】
この表面修飾酸化亜鉛微粒子のXRDスペクトルは実施例1と同様であり、ウルツ鉱型酸化亜鉛結晶以外のシグナルが認められず高純度であることを確認した。単離した表面修飾酸化亜鉛微粒子は室温で3ヶ月放置しても安定に存在し、ヘキサン−イソプロパノール混合溶媒に10w/w%の濃度で再分散させて透明分散液とすることが可能であった。この透明分散液は室温で3ヶ月以上放置しても濁りが生じず、酸化亜鉛微粒子が凝集することなく室温で3ヶ月安定性に優れることを確認した。
【0063】
得られた表面修飾酸化亜鉛微粒子を0.1mmのスペーサーを介してホットプレス(150℃/3MPa)し、無色透明のシートを得た。このシートのUV−Vis分析より、光線透過率が350nmにおいて0%であり、500nmにおいて91%であることを確認した。
【0064】
(比較例1)
製造例1で合成した酸化亜鉛微粒子のメタノール分散液200mL(酸化亜鉛0.04モル含有)を4口フラスコ(容量500mL)に入れ、デシルトリメトキシシラン0.87g(LS−5258;信越化学工業(株)製;酸化亜鉛1モルに対して0.083モルに相当)を加え、60℃で2時間加熱した。反応液が白濁していたので遠心分離し、デシルトリメトキシシランで表面修飾された酸化亜鉛微粒子2.61gを白色粉末として得た。灰分測定の結果酸化亜鉛の含有量は86%であり、収率は69%と低かった。収率が低い原因は、デシルトリメトキシシランによる表面修飾が不十分であるために酸化亜鉛の一部がメタノール中に分散したまま残っていることにあると考えられる。Si/Znは0.07と計算される。
【0065】
得られた表面修飾酸化亜鉛微粒子を0.1mmのスペーサーを介してホットプレス(150℃/3MPa)したが、透過光を測定するためのシートが得られず白色粉末のままであった。この表面修飾酸化亜鉛微粒子から1w/w%のヘキサン分散液を調製しようとしたが均一分散することができず不透明であった。ヘキサン以外の溶媒としてトルエン、MIBK、MEK、MMAを用いて同様の実験を行ったが、透明な分散液を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の表面修飾酸化亜鉛微粒子は粒子径が20nm以下と量子的効果が発現されるサイズであるにもかかわらず凝集せずに長期間安定に存在し、無色透明である。発現される量子的効果としては紫外線吸収、フォトルミネッセンス、エレクトロルミネッセンス、光発電などが挙げられる。さらに酸化亜鉛を高い割合で含有するため屈折率が高い。また常温常圧で液体状態をとり得るため、溶媒や樹脂への分散が非常に容易である。これらの性質から、本発明の表面修飾酸化亜鉛微粒子は、レンズ、フラットパネルディスプレイ用フィルム、光拡散板、LED封止材、蛍光体、光アイソレーター、光導波路、グラスファイバー、液体レンズ、高屈折率液体、有機EL、無機EL、放熱材料、塗料、各種コーティング剤、紫外線吸収剤、熱安定化剤、酸化防止剤、接着剤、粘着剤などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】表面修飾酸化亜鉛微粒子(実施例1)のXRDスペクトル
【図2】表面修飾酸化亜鉛微粒子(実施例1)のUV−VISスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
SiX(4−a) (1)
(式中、Rは炭素数1〜18の1価の有機基、Xは加水分解性基をあらわし、aは1、2、または3である)で示されるシラン化合物で表面修飾された、酸化亜鉛部分の数平均粒子径が0.5〜20nmの酸化亜鉛微粒子であり、SiとZnのモル比(Si/Zn)が0.1〜5の範囲にある、表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【請求項2】
酸化亜鉛微粒子の数平均粒子径が1〜10nmの範囲である、請求項1に記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【請求項3】
Si/Znが0.2〜4の範囲にある、請求項1または2のいずれかに記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【請求項4】
Rの0〜50%がメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、シクロヘキシルメチル基、ヘキシル基、オクチル基、フェニル基、ビニル基、3−アクリロキシプロピル基、3−メタクリロキシプロピル基、3−アミノプロピル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、アリル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−シアノエチル基からなる群より選ばれる1種以上の有機基であり、Rの50〜100%が炭素数10〜18のアルキル基である、請求項1〜3のいずれかに記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【請求項5】
Xが炭素数3以下のアルコキシ基である、請求項1〜4のいずれかに記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【請求項6】
a=1である、請求項1〜5のいずれかに記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【請求項7】
25℃、1気圧の条件で液体である、請求項1〜6のいずれかに記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【請求項8】
0.1mmの膜厚で測定した際の光線透過率が、350nmにおいて1%以下であり、500nmにおいて90%以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【請求項9】
酸化亜鉛微粒子のアルコール分散液と式(1)のシラン化合物とを混合し、100〜300℃かつ0.2〜5MPaの条件で反応させることにより得られる、請求項1〜8のいずれかに記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【請求項10】
酸化亜鉛微粒子が、アルコール溶媒中アルカリ金属水酸化物とカルボン酸亜鉛化合物とを反応させて得られるものである、請求項1〜9のいずれかに記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。
【請求項11】
酸化亜鉛微粒子がアルカリ金属水酸化物のアルコール溶液にカルボン酸亜鉛化合物を添加して反応させて得られるものであり;カルボン酸亜鉛化合物が酢酸亜鉛またはその水和物であり;その濃度が0.01〜0.5mol/Lであり;アルカリ金属水酸化物がNaOHまたはKOHであり;その使用量がカルボン酸亜鉛化合物1モルに対して1.5〜4モルの範囲である、請求項10に記載の表面修飾酸化亜鉛微粒子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−280202(P2008−280202A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125037(P2007−125037)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】