説明

表面処理剤及びその製造方法

【課題】 鉛やクロム系と同等以上の防錆力を持つ、カルシウム・鉄・リン系の無公害型防錆顔料及びその製造方法等を提供する。
【解決手段】 下記一般式(I)
CaFe(OH)12−3X(PO・nHO (I)
(式中、Xは0<X<4、nは0≦n≦6の数を表す。)で示されるカルシウム・鉄・リン複合化合物からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウム・鉄・リン複合化合物、これらの複合化合物の製造方法、これらの複合化合物から成る防錆顔料及びこれらの複合化合物を配合した防錆塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車、土木建築材料、家電製品、日用雑貨品等の工業材料及び冷延鋼板、亜鉛メッキ鋼板、合金化亜鉛メッキ鋼板等の化成処理においても、防錆剤としてクロム酸塩が使われている。
近年これらの産業分野では安全性重視の観点からより安全性の高い、いわゆる無公害型の防錆顔料への転換が進められている。これらのなかではリン酸亜鉛、縮合リン酸アルミニウム、亜リン酸亜鉛カルシウム、モリブデン酸亜鉛等が、シアナミド鉛やクロム酸亜鉛等の鉛やクロム系に代わる防錆顔料として多用化されつつある。
【0003】
ところで、酸化カルシウム(CaO)−酸化鉄(ヘマタイト:Fe)系化合物は、鉛やクロム系に替わる、無公害型の防錆顔料等として、多くの人により研究が行われてきた。
特許文献1には、「酸化鉄に換算して40〜70重量%のFe、Fe及びFeOOHから選ばれる鉄化合物と酸化カルシウムに換算して30〜60重量%のカルシウム炭酸塩、カルシウム水酸化物及びカルシウム酸化物から選ばれるカルシウム化合物とを混合して700〜1150℃の温度範囲で焼成して得られる2CaO・Feを5%以上含んでなる酸化鉄−酸化カルシウム焼結複合体を粉砕した粉末を防食顔料として塗料構成基材中に配合したことを特徴とする防食塗料」、特許文献2には、「下記一般式(a) 3Ca(OH)・2Fe(OH)・A・nHO (a)
(式中AはCaCO又は不存在、nは0≦n≦6の数を表す。)で示される水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体の少なくとも1種以上とCaCO、Ca(OH)及びFe(OH)から選ばれる少なくとも1種以上から成る水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体含有組成物」、そして、特許文献3には、「CaOに換算して29.90〜53.23重量%のカルシウム炭酸塩、カルシウム水酸化物、カルシウム酸化物から選ばれるカルシウム化合物と、Pに換算して46.77〜70.10重量%のHPO、HPO、H、(HPO、H10、HPO、HPO及びPから選ばれるリン化合物との混合物10.0〜65.0重量%に対して、Feに換算して35.0〜90.0重量%のFe、FeOOH及びFeから選ばれる鉄化合物を混合し、この混合物を350〜800℃の温度範囲で焼成して得られるγ−Caを5重量%以上含有した焼結複合体を粉砕した粉末からなる防食顔料」が記載されている。
しかしながら、これらの無公害型防錆顔料は、鉛やクロム系に比べて安全性は改善されているものの、鉛やクロム系と比べ、防錆力に劣るという欠点がある。
【0004】
【特許文献1】特公昭51−30887号公報
【特許文献2】特開2005−255500号公報
【特許文献3】特公昭60−16477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の欠点を解決したものであり、本発明の目的は、鉛やクロム系と同等以上の防錆力を持つ、カルシウム・鉄・リン系の無公害型防錆顔料及びその製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、特許文献2に記載された、一般式(a)
3Ca(OH)・2Fe(OH)・A・nHO (a)
(式中AはCaCO又は不存在、nは0≦n≦6の数を表す。)で示される水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体の少なくとも1種以上とCaCO、Ca(OH)及びFe(OH)から選ばれる少なくとも1種以上から成る水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体の改良について、鋭意検討を進めた結果、驚くべきことに上記一般式(a)で表される水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体とリン酸を反応させることにより得られる、「カルシウム・鉄・リン複合化合物」が、鉛やクロム系と同等以上の防錆力を有することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)下記一般式(I)
CaFe(OH)12−3X(PO・nHO (I)
(式中、Xは0<X<4、nは0≦n≦6の数を表す。)で示されるカルシウム・鉄・リン複合化合物。
(2)P含有量が5〜40%であることを特徴とする前記(1)記載のカルシウム・鉄・リン複合化合物。
(3)下記一般式(II)
3Ca(OH)・2Fe(OH)・A・nHO (II)
(式中AはCaCO又は不存在、nは0≦n≦6の数を表す。)で示される水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体の少なくとも1種以上とCaCO、Ca(OH)及びFe(OH)から選ばれる少なくとも1種以上から成る水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体とリン酸を反応させることを特徴とする前記(1)又は前記(2)記載のカルシウム・鉄・リン複合化合物の製造方法。
(4)下記一般式(I)
CaFe(OH)12−3X(PO・nHO (I)
(式中、Xは0<X<4、nは0≦n≦6の数を表す。)で示されるカルシウム・鉄・リン複合化合物からなることを特徴とする防錆顔料。
(5)下記一般式(I)
CaFe(OH)12−3X(PO・nHO (I)
(式中、Xは0<X<4、nは0≦n≦6の数を表す。)で示されるカルシウム・鉄・リン複合化合物を配合したことを特徴とする防錆塗料。
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一般式(I)で示されるカルシウム・鉄・リン複合化合物は、防錆塗料に配合されたとき、従来の無公害型錆止め顔料よりさらに優れた防錆効果を示す一方で、環境汚染が問題となっている鉛やクロム系の防錆顔料に匹敵する防錆効果を示すため、斯界において好適に用いることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明のカルシウム・鉄・リン複合化合物、これらの複合化合物の製造方法、これらの複合化合物から成る防錆顔料及びこれらの複合化合物を配合した防錆塗料について詳細に説明する。
なお、本発明において、「%」とは、特に断りがない場合、「重量%=質量%」を示す。
1.カルシウム・鉄・リン複合化合物
本発明の下記一般式(I)
CaFe(OH)12−3X(PO・nHO (I)
(式中、Xは0<X<4、nは0≦n≦6の数を表す。)で示されるカルシウム・鉄・リン複合化合物は、その原料に由来するリン酸カルシウム及び/又はリン酸鉄を含んでいても良い。
代表的な組成としては、特に限定されるものではないが、以下の組成が例示される。
▲1▼CaFe(OH)12−3X(PO・nHO: 50%以上(好ましくは60%以上、特に好ましくは80%以上)
▲2▼Ca(PO :0〜30%(好ましくは、0〜5%)
▲3▼FePO :0〜20%(好ましくは、0〜5%)
本発明のカルシウム・鉄・リン複合化合物中のP含有量は、好ましくは5〜40%、特に好ましくは、10〜35%である。P含有量が5%未満では、リンの溶出量が少ないため防錆効果が認められない。40%を超えるとリン溶出量が過多となり防錆効果が逆に少なくなるため好ましくない。
なお、本発明において「P含有量」とは、上記一般式(I)に含まれるカルシウムを「CaO」、鉄を「Fe」及びリンを「P」とすると共に(「CaO」+「Fe」+「P」=100%)とし、[「P」/(「CaO」+「Fe」+「P」)]として得られる割合のことを意味する。
【0010】
2.カルシウム・鉄・リン複合化合物の製造方法
本発明のカルシウム・鉄・リン複合化合物の製造方法としては、特に限定されるものではないが、下記一般式(II)
3Ca(OH)・2Fe(OH)・A・nHO (II)
(式中AはCaCO又は不存在、nは0≦n≦6の数を表す。)で示される水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体の少なくとも1種以上とCaCO、Ca(OH)及びFe(OH)から選ばれる少なくとも1種以上から成る水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体組成物とリン酸を反応させることが好ましい。
【0011】
先ず、上記一般式(II)で示される水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体としては、例えば3Ca(OH)・2Fe(OH)、3Ca(OH)・3Fe(OH)・CaCO・3HO、3Ca(OH)2Fe(OH)・6HO等を挙げることができる。これらの水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体、即ちこれらを含有する組成物は、カルシウム化合物、例えば、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等が例示され、特に好ましくは炭酸カルシウムと鉄化合物、例えば、酸化鉄(ヘマタイト:Fe)、Fe(OH)(本発明において、Fe(OH)は、FeOOHを含むものとする)、特に好ましくは酸化鉄(ヘマタイト)とをCaO:Fe=(1.5〜2.5):(0.5〜1.5)、好ましくは(1.8〜2.2):(0.8〜1.2)、特に好ましくは、(1.9〜2.1):(0.9〜1.1)のモル比で混合し、850℃〜1600℃、好ましくは1000℃〜1300℃で1〜24時間、好ましくは3〜10時間、焼成して得た2CaO・Feを主成分とする組成物を4〜100メッシュになるよう粗砕した後、室温〜100℃で1〜24時間、例えば、湿式ボールミル等で湿式粉砕して水和化させるか、又は乾式粉砕したものを水中に分散して水和化させることにより製造することができる。
水和化は、生産効率等を考えると、湿式粉砕することが好ましく、その粉砕条件は特に限定されるものではないが、固形分を5〜40%とし、固形物:水の容積比を1:4〜10とするのが好ましい。
水和化が終わると、固液分離し乾燥させる。乾燥温度は0〜200℃、より好ましくは80〜120℃で行う。乾燥時間は、2〜100時間、より好ましくは10〜40時間乾燥する。
【0012】
このようにして製造された水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体は、5〜60重量%の水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化鉄(III)、酸化鉄(ヘマタイト)等を含んでおり、水和化の温度、時間、pH等によりこれらの種類、含量及び物理特性等を調節することが出来る。
代表的な組成としては、特に限定されるものではないが、以下の組成が例示される。
▲1▼3Ca(OH)・2Fe(OH)・A・nHO: 50%以上(好ましくは60%以上、特に好ましくは80%以上)
▲2▼CaCO :0〜30%(好ましくは0〜5%)
▲3▼Ca(OH) :0〜20%(好ましくは0〜5%)
▲4▼Fe(OH) :0〜20%(好ましくは0〜5%)
【0013】
なお、上記組成物を乾燥状態で使用する場合には特に問題が無いが、水と混合して用いる場合にはカルシウムイオンが溶出し、その特性が安定的に維持されない場合がある。したがって、このような場合には、カルシウムイオン溶出防止剤を焼成前及び/又は水和化時に添加しておく必要がある。
カルシウムイオン溶出防止剤としては、特に限定されないが、珪酸カルシウム、珪酸、珪酸アルミニウム、珪酸鉄等の珪酸塩が例示され、特に珪酸カルシウム(CaSiO)が好ましい。その添加量は、上記の組成物に対して、酸化ケイ素(SiO)として、0.5〜30%、好ましくは0.5〜10%、更に好ましくは0.5〜5%、特に好ましくは1〜3%である。
【0014】
次に、上記で得られた水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体組成物とリン酸を反応させる。
反応方法としては、水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体組成物を水でスラリーとした後、リン酸を所定量加えてもよいが、上記水和化したスラリーにリン酸を直接添加することもできる。
反応条件は特に限定されるものでないが、反応温度は10〜100℃、より好ましくは20〜60℃、攪拌時間は1〜24時間、より好ましくは6〜10時間で行う。
攪拌方法は、固体と液体を均一に分散できる方法であれば特に問わない。より好ましくは水和化に用いた湿式ボールミルを用いて攪拌させリン酸を反応させる。
用いるリン酸は、リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸カリウム等、水に溶解するリン酸塩であればどれを用いてもよい。より好ましくは、リン酸を用いる。
添加するリン酸量は、本発明のカルシウム・鉄・リン複合化合物の目的組成(P含有量)にあわせ適宜秤量し、それを必要に応じ希釈し、添加すれば良い。
リン酸と反応させた後、固液分離し乾燥させる。乾燥温度は0〜200℃、より好ましくは80〜120℃で行う。乾燥時間は、2〜100時間、より好ましくは10〜40時間乾燥する。
その後、必要に応じて、粉砕、分級等を行うことができる。
【0015】
この様にして、本発明の下記一般式(I)
CaFe(OH)12−3X(PO・nHO (I)
(式中、Xは0<X<4、nは0≦n≦6の数を表す。)で示されるカルシウム・鉄・リン複合化合物を製造することができる。
なお、上記で記載したように、本発明のカルシウム・鉄・リン複合化合物は、その製造方法に由来するリン酸カルシウム及び/又はリン酸鉄を含んでいても良い。
【0016】
3.カルシウム・鉄・リン複合化合物から成る防錆顔料
本発明のカルシウム・鉄・リン複合化合物は、防錆顔料として単独使用の場合、3〜20重量%、好ましくは5〜10重量%配合される。また他の防錆顔料と組み合わせて用いられる場合も、防錆顔料の合計で3〜20%、好ましくは5〜10%配合される。
3%未満では、防錆顔料の含有量が少ないため防錆効果が得られない、また20%を超えると防錆顔料からのリン溶出が過多となり防錆効果が逆に少なくなるため好ましくない。
なお、防錆顔料として用いる場合には、平均粒径が30μmを超えると塗料分散効率が極端に低下し、未分散の防錆顔料が残り塗料の艶引け、塗料分散効率が極端に低下し、未分散の防錆顔料が残り塗料の艶引け、ブツ残りが発生して塗膜不良の原因となるので、好ましくない。
又、比表面積は、5m/g以上、より好ましくは10m/g以上が好ましい。
100m/gを超えると防錆顔料の吸油量が増大して塗料粘度が増し、塗料製造が困難となる。また、多量の溶媒が必要となって塗料の固形分が下がり、塗膜の厚膜化が不可能となるので、好ましくない。
【0017】
4.カルシウム・鉄・リン複合化合物を配合した防錆塗料
本発明のカルシウム・鉄・リン複合化合物を含有する防錆塗料は、バインダー、本発明のカルシウム・鉄・リン複合化合物単独、又は、リン酸塩、縮合リン酸塩、亜リン酸塩の1種または2種以上との組み合わせからなる防錆顔料、溶媒、体質顔料、必要により着色顔料、粘度調整剤、沈降防止剤、たれ防止剤等の配合原料を合わせて混合機、分散機等で均一に混合して製造される。これらの原料を配合して製造された防錆塗料は、ロールコーター、エアスプレー法、バーコーター、刷毛、浸漬等によって被塗物に塗装される。
【0018】
本発明の防錆塗料に用いられるバインダーとしては、例えば短〜長油アルキド、水溶性アルキド、フェノール変性アルキド、エポキシ変性アルキド、アルキドメラミン、アクリル、アクリルエマルション、アクリルメラミン、アクリルウレタン、ポリエステル、エポキシ、塩化ゴム、ポリエチレン等の各樹脂が挙げられる。
【0019】
本発明のカルシウム・鉄・リン複合化合物と組み合わせて用いられる好適な防錆顔料としては、亜鉛、鉄、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム等のリン酸塩、アルミニウム、亜鉛、カルシウム等の縮合リン酸塩、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等の亜リン酸塩(複合塩を含む)が挙げられる。
これらのなかでは特にリン酸亜鉛、縮合リン酸アルミニウム、亜リン酸亜鉛カルシウム複合塩が好ましい。さらにカルシウム・鉄・リン複合化合物とリン酸塩を組み合わせることによる同様の好ましい効果は、本発明のカルシウム・鉄・リン複合化合物を含有する塗料が、リン酸塩等で化成処理された鋼材、アルミニウム板に塗布される場合にも得られる。
【0020】
本発明のカルシウム・鉄・リン複合化合物顔料を含む防錆塗料に、所望によりさらにリン酸塩、縮合リン酸塩、亜リン酸塩以外の防錆顔料を加えることもできる。これらの防錆顔料としては、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、りんモリブデン酸亜鉛、りんモリブデン酸アルミニウム等のモリブデン酸塩、シアナミド亜鉛、ホウ酸バリウム、ホウ酸カルシウム等のホウ酸塩、ケイ酸カルシウム、りんケイ酸カルシウム亜鉛、ほうケイ酸カルシウム等のケイ酸塩が挙げられる。
【0021】
本発明の防錆塗料には、バインダー、防錆顔料以外に主要成分として体質顔料及び溶媒が含まれるが、着色顔料として例えば酸化チタン、弁柄、カーボンブラック等が、体質顔料として例えば酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリンクレー等が、溶媒として例えばトルエン、キシレン、ミネラルスピリット、オイルターペン等が用いられる。
塗料用添加剤として例えばオクチル酸ジルコニウム、ナフテン酸コバルト等のドライヤー、水添ひまし油、脂肪族アマイド、ポリエチレンワックス等のタレ止め、沈降防止剤、界面活性剤ほか、一般に塗料に使用される添加剤が用いられる。
防錆塗料としての代表的な組成としては、特に限定されるものではないが、以下の組成が例示される。
▲1▼本発明のカルシウム・鉄・リン複合化合物: 5〜20%
▲2▼他の防錆顔料 : 0〜10%
▲3▼バインダー :10〜30%
▲4▼溶媒 :10〜50%
▲5▼着色顔料、体質顔料 :10〜30%
▲6▼塗料用添加剤 :0.1〜20%
【実施例】
【0022】
以下に実施例を示して、本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0023】
<カルシウム・鉄・リン複合化合物(防錆顔料)の合成>
炭酸カルシウム(CaCO)400gと酸化鉄(Fe:ヘマタイト)320gをボールミルで5時間均一に混合した後、電気炉に入れて1200℃で5時間焼成した。
得られた焼成物をジョークラッシャーを用いて粗砕して得られた粗砕焼成物の一部250gに水1400gを7.0Lの樹脂製ポットに入れ、さらに10mmジルコニアボール12Kgを加えて20時間メカノケミカル反応を行った。
取り出したスラリーをブフナーロートを用い固液分離した。そして固形分を110℃で7時間乾燥した。
得られた乾燥物の一部200gに、20重量%に希釈したリン酸溶液1059gを7.0Lの樹脂製ポットに入れ、さらに10mmジルコニアボール12Kgを加えて12時間攪拌し、リン酸と反応させた。
取り出したスラリーをブフナーロートを用い固液分離した。そして、固形分を110℃で7時間乾燥し得られた乾燥物をアトマイザーで粉砕して、カルシウム・鉄・リン複合化合物(防錆顔料)を得た。得られた防錆顔料の元素分析、熱分析から得られた化学組成を表1に示す。
得られた複合化合物のX線回折チャートを図1に示す。これは、リン酸と反応させるの前の 3Ca(OH)・2Fe(OH)・A・nH
(式中AはCaCO又は不存在、nは0≦n≦6の数を表す。)で示される水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体の少なくとも1種以上とCaCO、Ca(OH)及びFe(OH)から選ばれる少なくとも1種以上から成る水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体のX線回折パターンとほぼ同じであることから、本発明のカルシウム・鉄・リン複合化合物は、下記一般式(I)
CaFe(OH)12−3X(PO・nHO (I)
(式中、Xは0<X<4、nは0≦n≦6の数を表す。)で示されるものと判定した。
なお、平均粒子径は約7μmであった。
【実施例2】
【0024】
添加するリン酸量を変えた以外は、実施例1と同様にして、カルシウム・鉄・リン複合化合物(防錆顔料)を得た。
表1に得られたカルシウム・鉄・リン複合化合物(防錆顔料)の組成比を示す。分析値は、全て酸化物換算で示す。
【表1】

【実施例3】
【0025】
実施例1、2で得られた試料1〜試料6及び比較例用の防錆顔料(シアナミド鉛、LFボウセイPM300C(菊池カラー製、リンモリブデン酸アルミニウム系防錆顔料:以下PM300Cと記載)に、樹脂ワニス、弁柄、タルク等を塗料配合原料として用いた。
そして、バッチ式サンドミルに、塗料配合原料404gとガラスビーズ(φ1.5mm)200gを入れ6000rpmで20分間攪拌し錆止め塗料を調製した。
なお、防錆顔料の含有率は、5、10及び20重量%とした。
表2に防錆塗料配合比を示す。
【表2】

【実施例4】
【0026】
錆止め試験用の試験片は、脱脂したテストピース(冷延鋼板JIS.G.3141(SPCC−SB)1.0×70×150mm)表面をサンドペーパーで表面を軽く目荒らしし、再度脱脂後、実施例3で調製した防錆塗料をエアースプレーで塗布した。膜厚は30〜40μmを目標として塗装した。また、裏面はエポキシ塗料で裏塗りし、エッジはテープにてマスキング処理を行った。
防錆試験用試験片は、塗膜にカッターナイフの刃先で、交差する二本の対角線を生地に達するように塗膜に引いて試験を行った。塩水噴霧試験には、JIS.Z.2371に準じた塩水噴霧試験機を用いた。JISK5600では96時間の試験評価であるが、本評価は240及び360時間で行った。試験後、水洗しクロスカット部分、平面部の発錆およびふくれの状態を観察し、その総合評価結果を5段階に評価した結果を表3に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
なお評価基準は次に示す通りである。
(1)クロスカット部片側の錆及び膨れはその最大幅により次のように評価点数を設けた。
0:5点
1mm未満:4点
1〜3mm:3点
3〜5mm:2点
5mm以上:1点
(2)平面部の錆及び膨れはその面積により次のように評価点数を設けた。
0%:5点
10%未満:4点
10〜20%:3点
20〜40%:2点
40%以上:1点
そして、(1)及び(2)の評価を総合して、次のように評価点数を設けた。
5点:(1)、(2)の評価を平均した数字が4.1以上
4点:(1)、(2)の評価を平均した数字が3.1〜4.0
3点:(1)、(2)の評価を平均した数字が2.1〜3.0
2点:(1)、(2)の評価を平均した数字が1.1〜2.0
1点:(1)、(2)の評価を平均した数字が1.0以下
【0029】
この結果より、本発明のカルシウム・鉄・リン複合化合物(防錆顔料)は、現在、非クロム・鉛系防錆剤として市販されている防錆塗料と同等以上の防錆効果を有することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1で得られた本発明のカルシウム・鉄・リン複合化合物のX線回折チャートを示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
CaFe(OH)12−3X(PO・nHO (I)
(式中、Xは0<X<4、nは0≦n≦6の数を表す。)で示されるカルシウム・鉄・リン複合化合物。
【請求項2】
含有量が5〜40%であることを特徴とする請求項1記載のカルシウム・鉄・リン複合化合物。
【請求項3】
下記一般式(II)
3Ca(OH)・2Fe(OH)・A・nHO (II)
(式中AはCaCO又は不存在、nは0≦n≦6の数を表す。)で示される水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体の少なくとも1種以上とCaCO、Ca(OH)及びFe(OH)から選ばれる少なくとも1種以上から成る水酸化カルシウム・水酸化鉄(III)複合体とリン酸を反応させることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のカルシウム・鉄・リン複合化合物の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(I)
CaFe(OH)12−3X(PO・nHO (I)
(式中、Xは0<X<4、nは0≦n≦6の数を表す。)で示されるカルシウム・鉄・リン複合化合物からなることを特徴とする防錆顔料。
【請求項5】
下記一般式(I)
CaFe(OH)12−3X(PO・nHO (I)
(式中、Xは0<X<4、nは0≦n≦6の数を表す。)で示されるカルシウム・鉄・リン複合化合物を配合したことを特徴とする防錆塗料。

【図1】
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【公開番号】特開2008−201659(P2008−201659A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75541(P2007−75541)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000208662)第一稀元素化学工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】