説明

表面処理無機酸化物粒子とその製造方法及び表面処理無機酸化物粒子分散液並びに樹脂組成物

【課題】表面処理剤により表面処理された無機酸化物粒子と、樹脂、油脂、有機溶媒等との相溶が可能であり、さらには、この表面処理剤の使用量を低減することが可能な表面処理無機酸化物粒子とその製造方法及び表面処理無機酸化物粒子分散液並びに樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の表面処理無機酸化物粒子は、無機酸化物粒子の表面に、シロキサン化合物および/または界面活性剤からなる一次表面処理剤による一次表面処理と、フッ素含有シラン化合物からなる二次表面処理剤による二次表面処理とにより形成された表面処理層を備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理無機酸化物粒子とその製造方法及び表面処理無機酸化物粒子分散液並びに樹脂組成物に関し、更に詳しくは、無機酸化物粒子の表面に複数種の表面処理を施して、この無機酸化物粒子の溶解性パラメータを制御することにより、この無機酸化物粒子と樹脂、油脂、有機溶媒等との相溶を可能にし、さらには、表面処理剤の使用量を低減することが可能な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化ケイ素や酸化チタン等の無機酸化物粒子は、その表面が親水性を有しているために、この無機酸化物粒子を疎水性である樹脂やオイル等に均一に分散させようとすると、この無機酸化物粒子と樹脂やオイルとが分離したり、あるいは分離こそしないものの濁って失透したり等の不具合が発生する虞がある。したがって、この無機酸化物粒子を樹脂やオイルに、この樹脂やオイルの透明性を維持したまま均一に分散させることは困難である。
そこで、無機酸化物粒子の表面をシランカップリング剤や有機高分子分散剤等の表面処理剤により処理することにより、この無機酸化物粒子の表面を疎水化し、この無機酸化物粒子と樹脂やオイル等との分散性を高める工夫がなされている。
【0003】
一般的に、無機酸化物粒子を樹脂やオイルに相溶させる場合、無機酸化物粒子の表面に存在する親水基とシランカップリング剤などの表面処理剤とを反応させて無機酸化物粒子の表面を疎水化することにより、この無機酸化物粒子と樹脂やオイルとの溶解性パラメーターを近づける方法がとられている。
この無機酸化物粒子の表面を表面処理剤により疎水化する方法としては、例えば、二酸化チタンやシリカゲル等の固体の表面をSi−H基を含むシリコーンポリマーで被覆し、このシリコーンポリマー被覆のSi−H基に、ビニル基またはアリル基を有するパーフルオロ化合物を反応させることにより、パーフルオロ基で表面処理されたシリコーンポリマー被覆撥水性撥油性固体を得る方法が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平8−127733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の無機酸化物粒子の表面を表面処理剤により疎水化する方法では、この無機酸化物粒子を溶解性パラメーターが低いもの、例えば8以下と低いシリコーンオイルや極性の低い樹脂などに分散させる場合や、シングルナノ粒子のような比表面積の高い無機酸化物粒子を疎水化する場合には、添加する表面処理剤の量が多くなり、無機酸化物粒子の特性が十分に得られなくなる可能性があるという問題点があった。
【0005】
この問題点を解決するためには、溶解性パラメーターの非常に低いフッ素系の表面処理剤を用いることも考えられるが、フッ素系の表面処理剤を用いた場合、アルキルシランカップリング剤などと比較して少ない添加量で無機酸化物粒子を疎水化できるものの、添加量が多くなるにつれて凝集性も強くなり、樹脂やオイルなどに分散し難くなってしまうという問題点がある。
また、フッ素系の表面処理剤の添加量が多くなるにつれて、フッ素系の表面処理剤の特徴でもある撥油性が強くなり、シリコーンオイルなどに代表される油類には相溶し難くなるという問題点もあり、したがって、フッ素系の表面処理剤の添加量を制限せざるを得ないという問題点が新たに生じることとなる。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、表面処理剤により表面処理された無機酸化物粒子と、樹脂、油脂、有機溶媒等との相溶が可能であり、さらには、この表面処理剤の使用量を低減することが可能な表面処理無機酸化物粒子とその製造方法及び表面処理無機酸化物粒子分散液並びに樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、無機酸化物粒子に、一次表面処理剤による一次表面処理と、二次表面処理剤による二次表面処理とを順次施すことにより、この無機酸化物粒子の表面に一次表面処理及び二次表面処理からなる表面処理層を設ければ、この無機酸化物粒子を樹脂、油脂、有機溶媒等に相溶させることができ、しかも、表面処理剤の使用量の低減を図ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の表面処理無機酸化物粒子は、無機酸化物粒子の表面に、複数種の表面処理により形成された表面処理層を備えてなることを特徴とする。
【0009】
前記複数種の表面処理は、一次表面処理剤による一次表面処理と、二次表面処理剤による二次表面処理とからなることが好ましい。
前記一次表面処理剤は、シロキサン化合物および/または界面活性剤であることが好ましい。
前記二次表面処理剤は、フッ素含有シラン化合物であることが好ましい。
【0010】
本発明の表面処理無機酸化物粒子の製造方法は、無機酸化物粒子の表面に複数種の表面処理により形成された表面処理層を備えてなる表面処理無機酸化物粒子の製造方法であって、一次表面処理剤を用いて前記無機酸化物粒子の表面に一次表面処理を施し、次いで、この一次表面処理が施された無機酸化物粒子の表面に、さらに、二次表面処理剤を用いて二次表面処理を施すことを特徴とする。
【0011】
前記一次表面処理剤は、シロキサン化合物および/または界面活性剤であることが好ましい。
前記一次表面処理剤の添加量は、前記無機酸化物粒子に対して5重量%以上かつ50重量%以下であることが好ましい。
前記二次表面処理剤は、フッ素含有シラン化合物であることが好ましい。
前記二次表面処理剤の添加量は、前記無機酸化物粒子に対して5重量%以上かつ15重量%以下であることが好ましい。
前記二次表面処理剤の添加量を調整することにより、前記無機酸化物粒子の溶解性パラメータを制御することが好ましい。
【0012】
本発明の表面処理無機酸化物粒子分散液は、本発明の表面処理無機酸化物粒子を分散媒中に分散してなることを特徴とする。
【0013】
本発明の樹脂組成物は、本発明の表面処理無機酸化物粒子を樹脂中に分散してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の表面処理無機酸化物粒子によれば、無機酸化物粒子の表面に複数種の表面処理により形成された表面処理層を備えたので、一次表面処理剤を用いて前記無機酸化物粒子の表面に一次表面処理のみを施した場合と比べて、無機酸化物粒子の表面に形成される表面処理層の厚みを薄くすることができ、その結果、無機酸化物粒子の特性を十分に発現することができる。
また、表面処理層を複数種の表面処理により形成したので、これら複数種の表面処理における表面処理剤及びその添加量を調整することにより、無機酸化物粒子と、樹脂、油脂、有機溶媒等との相溶性を高めることができる。また、複数種の表面処理剤及びその添加量を最適化することで、従来と比べて表面処理剤の添加量を削減することができる。
【0015】
本発明の表面処理無機酸化物粒子の製造方法によれば、一次表面処理剤を用いて前記無機酸化物粒子の表面に一次表面処理を施し、次いで、この一次表面処理が施された無機酸化物粒子の表面に、さらに、二次表面処理剤を用いて二次表面処理を施すので、表面処理層の厚みが薄く、特性を十分に発現することができる表面処理無機酸化物粒子を容易かつ安価に得ることができる。
【0016】
本発明の表面処理無機酸化物粒子分散液によれば、本発明の表面処理無機酸化物粒子を分散媒中に分散したので、この分散液における表面処理無機酸化物粒子の分散性を高めることができ、長期に亘って安定化させることができる。したがって、分散液としての信頼性を向上させることができる。
【0017】
本発明の樹脂組成物によれば、本発明の表面処理無機酸化物粒子を樹脂中に分散したので、この樹脂における表面処理無機酸化物粒子の分散性を高めることができ、長期に亘って安定化させることができる。したがって、樹脂組成物としての信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の表面処理無機酸化物粒子とその製造方法及び表面処理無機酸化物粒子分散液並びに樹脂組成物を実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0019】
「表面処理無機酸化物粒子」
本発明の表面処理無機酸化物粒子は、無機酸化物粒子の表面に複数種の表面処理により形成された表面処理層を備えた構成である。
【0020】
この無機酸化物粒子は、金属酸化物粒子と非金属酸化物粒子を総称したもので、金属酸化物としては、例えば、Zr、Ti、Sn、Al、Fe、Cu、Zn、Y、Nb、Mo、In、Ga、Ta、W、Pb、Bi、Ce、Sb、Geの群から選択された1種または2種以上の金属元素を含有する金属酸化物が好適に用いられる。また、非金属酸化物としては、例えば、SiOが好適に用いられる。
【0021】
この金属酸化物の具体例としては、ZrO、TiO、SnO、Al、Fe、CuO、ZnO、Y、Nb、MoO、In、Ta、WO、PbO、Bi、CeO、Sb、ATO(アンチモン添加酸化スズ)、ITO(スズ添加酸化インジウム)、IZO(亜鉛添加酸化インジウム)、AZO(アルミニウム添加酸化亜鉛)、GZO(ガリウム添加酸化亜鉛)等が挙げられる。
【0022】
この無機酸化物粒子の表面に施される複数種の表面処理は、親水性である無機酸化物粒子の表面を疎水化するために施される一次表面処理剤による一次表面処理と、この疎水化された無機酸化物粒子の表面の溶解性パラメータを調整するために施される二次表面処理剤による二次表面処理とにより構成されている。
ここで、溶解性パラメータとは、溶質と溶媒との混合前後でのエネルギー変化から、ある溶質が溶媒に溶解するか否かを判定するパラメータであり、両者の溶解性パラメータが近い程、溶解し易くなる。
【0023】
ここで、一次表面処理に用いられる一次表面処理剤としては、シロキサン化合物および/または界面活性剤が好ましく、耐熱性の点で優れているシロキサン化合物がより好ましい。
このシロキサン化合物としては、シランカップリング剤、アルキルアルコキシシラン化合物、変性シリコーン、シリコーンレジン等が用いられる。
【0024】
このシランカップリング剤あるいはアルキルアルコキシシラン化合物としては、下記の式(1)
SiR(OR’)4−x …(1)
にて表される化合物が好ましい。
ただし、Rは、ビニル基、アリル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチル基、3−アクリロキシプロピル基、3−メタクリロプロピル基、スチリル基、3−アミノプロピル基、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピル基、N−フェニル−3−アミノプロピル基、「CnC2n+1」で表されるn=1〜20(n:整数)のアルキル基またはフェニル基、の群から選択された1種または2種以上であり、R’は、「CnC2n+1」で表されるn=1〜20(n:整数)のアルキル基、フェニル基、メチルカルボキシ基の群から選択された1種または2種以上である。
【0025】
このようなシランカップリング剤の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0026】
変性シリコーンとしては、エポキシ変性シリコーン、エポキシ・ポリエーテル変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メタクリル変性シリコーン、フェノール変性シリコーン、メチルスチリル変性シリコーン、アクリル変性シリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン、片末端変性シリコーン等が用いられる。
シリコーンレジンとしては、メチルシリコーンレジン、メチルフェニルシリコーンレジン等が用いられる。
【0027】
界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン系界面活性剤が用いられる。
陰イオン系界面活性剤としては、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸ナトリウム系界面活性剤、脂肪酸カリウム、脂肪酸エステルスルフォン酸ナトリウム等の脂肪酸系界面活性剤、アルキルリン酸エステルナトリウム等のリン酸系界面活性剤、アルファオレインスルフォン酸ナトリウム等のオレフィン系界面活性剤、アルキル硫酸ナトリウム等のアルコール系界面活性剤、アルキルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼン系界面活性剤等が用いられる。
【0028】
陽イオン系界面活性剤としては、塩化アルキルメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム等が用いられる。
両性イオン界面活性剤としては、アルキルアミノカルボン酸塩等のカルボン酸系界面活性剤、フォスフォベタイン等のリン酸エステル系界面活性剤等が用いられる。
非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラノリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の脂肪酸系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド等が用いられる。
【0029】
また、二次表面処理に用いられる二次表面処理剤としては、フッ素含有シラン化合物が好ましい。
このフッ素含有シラン化合物としては、パーフルオロアルキルシランカップリング剤が用いられる。
【0030】
「表面処理無機酸化物粒子の製造方法」
本発明の表面処理無機酸化物粒子の製造方法は、無機酸化物粒子の表面に複数種の表面処理により形成された表面処理層を備えてなる表面処理無機酸化物粒子の製造方法であり、一次表面処理剤を用いて無機酸化物粒子の表面に一次表面処理を施し、次いで、この一次表面処理が施された無機酸化物粒子の表面に、さらに、二次表面処理剤を用いて二次表面処理を施す方法である。
【0031】
ここでは、上述した無機酸化物粒子の親水性である表面を疎水化するために、この無機酸化物粒子を分散媒中に分散させ、次いで一次表面処理剤を加えて混合し、その後、分散処理を行い、無機酸化物粒子の表面に一次表面処理を施す。
【0032】
この一次表面処理の際の一次表面処理剤の添加量は、無機酸化物粒子に対して5重量%以上かつ50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5重量%以上かつ35重量%以下である。
ここで、一次表面処理剤の添加量を上記の範囲に限定した理由は、添加量が5重量%未満では、一次表面処理剤が少なすぎるために無機酸化物粒子の表面に親水性の部分が残ってしまい、無機酸化物粒子の表面を十分に疎水化することができないからであり、一方、添加量が50重量%を超えると、一次表面処理剤の添加量が無機酸化物粒子の表面の疎水化に必要な量を超えてしまい、無駄になるからである。
【0033】
分散媒としては、無機酸化物粒子を分散させることができ、かつ一次表面処理剤を溶解することができる溶媒であればよく、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類が好適に用いられ、これらの溶媒のうち1種または2種以上を用いることができる。
【0034】
分散処理を施すための手段としては、ジルコニアビーズを用いたビーズミル、ボールミル等が好適に用いられる。
分散処理に要する時間としては、無機酸化物粒子の表面が疎水化されるのに十分な時間であればよく、通常は1〜6時間である。
これにより、無機酸化物粒子は、その表面が一次表面処理剤により一次表面処理が施されて、表面が疎水化された無機酸化物粒子となる。
【0035】
次いで、この疎水化された無機酸化物粒子の表面の溶解性パラメータを調整するために、この疎水化された無機酸化物粒子を含む分散液に、二次表面処理剤を添加し、その後、所定の温度にて所定の時間反応させ、疎水化された無機酸化物粒子の表面に二次表面処理を施す。
この二次表面処理は、二次表面処理剤にフッ素含有シラン化合物を用いた場合、フッ素処理となる。
【0036】
この二次表面処理剤は、その添加量を調整することにより、疎水化された無機酸化物粒子の表面における溶解性パラメータを制御することができる。
この二次表面処理剤の添加量は、無機酸化物粒子に対して5重量%以上かつ15重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5重量%以上かつ10重量%以下である。
ここで、二次表面処理剤の添加量を上記の範囲に限定した理由は、この範囲が、凝集することなく、疎水化された無機酸化物粒子の表面における溶解性パラメータを制御することが可能な範囲だからである。添加量が上記の範囲を外れると、特に15重量%以上では、表面の溶解性パラメータは下がるが、凝集が強くなり、結果として溶媒や樹脂に分散しなくなる不具合が生じるので好ましくない。
【0037】
二次表面処理剤の反応条件としては、疎水化された無機酸化物粒子の表面の溶解性パラメータを調整するのに十分な温度及び時間であればよく、例えば、二次表面処理剤にフッ素含有シラン化合物を用いた場合、反応温度は50〜80℃程度、反応時間は3〜12時間程度である。
これにより、疎水化された無機酸化物粒子は、その表面に二次表面処理が施されて表面の溶解性パラメータが調整され、本実施形態の表面処理無機酸化物粒子となる。
【0038】
この表面処理無機酸化物粒子は、分散媒中に分散された状態であるから、そのままの状態でも本発明の表面処理無機酸化物粒子分散液となるが、この分散液から表面処理無機酸化物粒子を分離し、この分離された表面処理無機酸化物粒子を所望の分散媒中に分散することにより、所望の分散性を有する表面処理無機酸化物粒子分散液を得ることができる。
【0039】
「樹脂組成物」
本発明の樹脂組成物は、本発明の表面処理無機酸化物粒子を樹脂中に分散した構成であり、この樹脂組成物は、本発明の表面処理無機酸化物粒子分散液と樹脂成分とを混合し、得られた混合物に含まれる分散媒を真空乾燥等により散逸させて該混合物から除去することにより得ることができる。
【0040】
樹脂成分としては、熱可塑性、熱硬化性、可視光線や紫外線や赤外線等による光(電磁波)硬化性、電子線照射による電子線硬化性等の硬化性樹脂が好適であり、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリシクロヘキシルメタクリレート等のアクリレート、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアクリル酸エステル、ポリアミド、フェノール−ホルムアルデヒド(フェノール樹脂)、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、メチルメタクレート・スチレン共重合体(MS樹脂)、ポリ−4−メチルペンテン、ノルボルネン系ポリマー、ポリウレタン、エポキシ、シリコーン等が挙げられ、特に好ましくは、アクリル、エポキシ、シリコーンである。
【0041】
この樹脂成分として、可視光線あるいは近赤外線等の所定の波長帯域の光に対して透明性を有する透明樹脂成分を用いれば、本発明の表面処理無機酸化物粒子を透明樹脂中に分散した透明樹脂組成物が得られる。
この透明樹脂組成物を光学部材や発光装置の封止材に適用する場合、この透明樹脂組成物の可視光線に対する透過率は70%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。その理由は、透過率が70%未満であると、光透過性が悪化し、光学部材や発光装置の封止材とした場合に光の損失が生じるからである。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
シリカ粒子(比表面積150g/m)10gに、分散媒としてトルエンを87g、一次表面処理剤として、シランカップリング剤であるデシルトリメトキシシランを3g加えて混合し、その後、直径が0.1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルにより分散処理を行い、シリカ分散液を調製した。
【0044】
次いで、このシリカ分散液100gに、二次表面処理剤として、フッ素系シランカップリング剤であるトリデカフルオロオクチルトリメトキシシランを0.5g添加し、60℃にて6時間反応させ、フッ素処理した分散液を作製した。
このフッ素処理後の分散液10gとメチルフェニルシリコーン(粘度:15cst)1gとを混合した後、真空乾燥により脱溶媒化し、シリカ含有シリコーン樹脂組成物を作製した。
【0045】
[実施例2]
シリカ粒子(比表面積150g/m)10gに、分散媒としてトルエンを85g、一次表面処理剤として、シランカップリング剤である3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを5g加えて混合し、その後、直径が0.1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルにより分散処理を行い、シリカ分散液を調製した。
【0046】
次いで、このシリカ分散液100gに、二次表面処理剤として、フッ素系シランカップリング剤であるトリデカフルオロオクチルトリメトキシシランを0.7g添加し、60℃にて6時間反応させ、フッ素処理した分散液を作製した。
このフッ素処理後の分散液10gとメチルフェニルシリコーン(粘度:15cst)1gとを混合した後、真空乾燥により脱溶媒化し、シリカ含有シリコーン樹脂組成物を作製した。
【0047】
[比較例1]
シリカ粒子(比表面積150g/m)10gに、分散媒としてトルエンを85g、一次表面処理剤として、シランカップリング剤である3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを5g加えて混合し、その後、直径が0.1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルにより分散処理を行い、シリカ分散液を調製した。
【0048】
次いで、このシリカ分散液100gに、シランカップリング剤であるデシルトリメトキシシランを2.0g添加し、60℃にて6時間反応させ、分散液を作製した。
次いで、この分散液10gとメチルフェニルシリコーン(粘度:15cst)1gとを混合した後、真空乾燥により脱溶媒化し、シリカ含有シリコーン樹脂組成物を作製した。
【0049】
[比較例2]
シリカ粒子(比表面積150g/m)10gに、分散媒としてトルエンを85g、一次表面処理剤として、シランカップリング剤である3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを5g加えて混合し、その後、直径が0.1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルにより分散処理を行い、シリカ分散液を調製した。
【0050】
次いで、このシリカ分散液100gに、二次表面処理剤として、フッ素系シランカップリング剤であるトリデカフルオロオクチルトリメトキシシランを2g添加し、60℃にて6時間反応させ、フッ素処理した分散液を作製した。
次いで、このフッ素処理した分散液10gとメチルフェニルシリコーン(粘度:15cst)1gとを混合した後、真空乾燥により脱溶媒化し、シリカ含有シリコーン樹脂組成物を作製した。
【0051】
[比較例3]
シリカ粒子(比表面積150g/m)10gに、分散媒としてトルエンを87g、一次表面処理剤として、シランカップリング剤であるデシルトリメトキシシランを3g加えて混合し、その後、直径が0.1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルにより分散処理を行い、シリカ分散液を調製した。
【0052】
次いで、このシリカ分散液100gに、二次表面処理剤として、フッ素系シランカップリング剤であるトリデカフルオロオクチルトリメトキシシランを2g添加し、60℃にて6時間反応させ、フッ素処理した分散液を作製した。
次いで、このフッ素処理した分散液10gとメチルフェニルシリコーン(粘度:15cst)1gとを混合した後、真空乾燥により脱溶媒化し、シリカ含有シリコーン樹脂組成物を作製した。
【0053】
[比較例4]
シリカ粒子(比表面積150g/m)10gに、分散媒としてトルエンを80g、表面処理剤として、シランカップリング剤であるデシルトリメトキシシランを10g加えて混合し、その後、直径が0.1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルにより分散処理を行い、シリカ分散液を調製した。
次いで、このシリカ分散液100gとメチルフェニルシリコーン(粘度:15cst)1gとを混合した後、真空乾燥により脱溶媒化し、シリカ含有シリコーン樹脂組成物を作製した。
【0054】
[比較例5]
シリカ粒子(比表面積150g/m)10gに、分散媒としてトルエンを80g、表面処理剤として、シランカップリング剤である3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを10g加えて混合し、その後、直径が0.1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルにより分散処理を行い、シリカ分散液を調製した。
次いで、このシリカ分散液100gとメチルフェニルシリコーン(粘度:15cst)1gとを混合した後、真空乾燥により脱溶媒化し、シリカ含有シリコーン樹脂組成物を作製した。
【0055】
[比較例6]
シリカ粒子(比表面積150g/m)10gに、分散媒としてトルエンを88.5g、表面処理剤として、フッ素系シランカップリング剤であるトリデカフルオロオクチルトリメトキシシランを1.5g加えて混合し、その後、直径が0.1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルにより分散処理を行い、シリカ分散液を調製した。
次いで、このシリカ分散液100gとメチルフェニルシリコーン(粘度:15cst)1gとを混合した後、真空乾燥により脱溶媒化し、シリカ含有シリコーン樹脂組成物を作製した。
【0056】
「可視光線透過率の測定」
実施例1、2及び比較例1〜6各々のシリカ含有シリコーン樹脂組成物について、分光光度計V−570(日本分光社製)を用い、波長350nm〜800nmの範囲の可視光線の透過率を、空気の透過率を100%として測定した。
ここでは、可視光線透過率が80%以上の場合を「○」、80%未満の場合を「×」とした。
表1に実施例1、2及び比較例1〜6各々の可視光線透過率を示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1から明らかなように、実施例1、2のシリカ含有シリコーン樹脂組成物は、80%以上の可視光線透過率を有することが分かった。したがって、これらのシリカ含有シリコーン樹脂組成物を光学部材や発光装置の封止材に適用可能であることが分かった。
一方、比較例1のシリカ含有シリコーン樹脂組成物は、80%以上の可視光線透過率を有するものの、表面処理剤による処理量が実施例1、2と比較して多くなる結果となった。
また、比較例2〜6のシリカ含有シリコーン樹脂組成物は、白濁沈降してしまったために、可視光線透過率を測定すること自体が不可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物粒子の表面に、複数種の表面処理により形成された表面処理層を備えてなることを特徴とする表面処理無機酸化物粒子。
【請求項2】
前記複数種の表面処理は、一次表面処理剤による一次表面処理と、二次表面処理剤による二次表面処理とからなることを特徴とする請求項1記載の表面処理無機酸化物粒子。
【請求項3】
前記一次表面処理剤は、シロキサン化合物および/または界面活性剤であることを特徴とする請求項1または2記載の表面処理無機酸化物粒子。
【請求項4】
前記二次表面処理剤は、フッ素含有シラン化合物であることを特徴とする請求項1、2または3記載の表面処理無機酸化物粒子。
【請求項5】
無機酸化物粒子の表面に複数種の表面処理により形成された表面処理層を備えてなる表面処理無機酸化物粒子の製造方法であって、
一次表面処理剤を用いて前記無機酸化物粒子の表面に一次表面処理を施し、次いで、この一次表面処理が施された無機酸化物粒子の表面に、さらに、二次表面処理剤を用いて二次表面処理を施すことを特徴とする表面処理無機酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
前記一次表面処理剤は、シロキサン化合物および/または界面活性剤であることを特徴とする請求項5記載の表面処理無機酸化物粒子の製造方法。
【請求項7】
前記一次表面処理剤の添加量は、前記無機酸化物粒子に対して5重量%以上かつ50重量%以下であることを特徴とする請求項5または6記載の表面処理無機酸化物粒子の製造方法。
【請求項8】
前記二次表面処理剤は、フッ素含有シラン化合物であることを特徴とする請求項5、6または7記載の表面処理無機酸化物粒子の製造方法。
【請求項9】
前記二次表面処理剤の添加量は、前記無機酸化物粒子に対して5重量%以上かつ15重量%以下であることを特徴とする請求項5ないし8のいずれか1項記載の表面処理無機酸化物粒子の製造方法。
【請求項10】
前記二次表面処理剤の添加量を調整することにより、前記無機酸化物粒子の溶解性パラメータを制御することを特徴とする請求項9記載の表面処理無機酸化物粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の表面処理無機酸化物粒子を分散媒中に分散してなることを特徴とする表面処理無機酸化物粒子分散液。
【請求項12】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の表面処理無機酸化物粒子を樹脂中に分散してなることを特徴とする樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−127253(P2008−127253A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315386(P2006−315386)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】