説明

表面処理装置および表面処理方法

車両部品等の難接着性基材に対する接着、印刷、塗装などを容易に実施するための表面処理装置、および難接着性基材に対する表面処理方法を提供する。
そのため、火炎発生部と、基材処理部と、を含む表面処理装置およびそれを用いた表面処理方法において、火炎発生部は、シラン化合物を含んだ燃料ガスに由来した火炎を噴射させるための燃料タンクおよび噴射装置を備えており、基材処理部は、難接着性基材を固定させるとともに、表面処理の前後において、難接着性基材を所定の水平軸を中心に回転移動させるための反転テーブルを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、表面処理装置および表面処理方法に関し、特に、車両部品等の難接着性基材に対する表面処理装置および表面処理方法に関する。
【背景技術】
車両部品等に、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ウレタン樹脂等の難接着性材料が多用されているが、これら難接着性材料からなる難接着性基材等の表面は、疎水性や撥水性であることが多く、他部材の接着、印刷、紫外線塗装等の表面処理が一般に困難である。特に、これらの難接着性材料を立体加工した場合や、発泡させた場合には、難接着性基材の表面構造が複雑かつ平滑で無くなって、他部材との接着等が困難であるという問題が見られた。
そこで、このような難接着性材料からなる難接着性基材の表面特性を改質する方法として、例えば、浸漬装置やスプレー装置を用いてプライマー処理を施したり、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等を表面に塗布したりすることが行われている。
しかしながら、所定の改質効果を得るためには、比較的多量のプライマーやシランカップリング剤等を必要とし、しかも特定の処理設備を必要とするばかりか、処理時間が長くかかるなどの製造工程上の問題点が見られた。
そこで、プライマー処理やカップリング剤処理にかわる難接着性基材の表面改質方法として、紫外線照射法、コロナ放電処理、プラズマ処理、表面感応基付与法、表面光グラフト法、サンドブラスト法、溶剤処理、クロム酸混液処理などの各種表面改質方法が検討されている。
例えば、特開平5−68934号公報には、疎水性プラスチックの表面に対し、合成石英製高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射して、塗装の濡れ性及び密着性を向上させる技術が開示されている。また、米国特許No.5098618によれば、混合ガス下で、疎水性プラスチックの表面に対し、185nmおよび254nmの波長を有する紫外線を選択的に照射して、塗装の濡れ性及び密着性を向上させる技術が開示されている。また、特開平10−67869号公報には、濡れ性に芝しいプラスチック表面に、気体を吹付けながら、高電圧パルスによってコロナ処理を行う方法が開示されている。また、特開平8−109228号公報には、染色性を向上させるために、ポリオレフィン樹脂等の表面に、オゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理、高圧放電処理、紫外線照射等の表面活性化処理を施した後、ビニル単量体をグラフトする方法が開示されている。
しかしながら、これらの表面改質方法では、表面特性の改質が不十分であるばかりか、作業環境が汚染される、危険であるなどの環境上の問題点、水洗や廃液処理などが必要となる等の作業上の問題点、および設備が大規模、高価であるといった経済上の問題点も見られた。
一方、簡便で安価な表面改質方法として、難接着性基材の表面を火炎処理することも考えられるが、濡れ指数や接触角に代表される表面特性の改質が不十分であるばかりか、効果が長期間持続しないといった問題点が見られた。さらに、特開平9−124810号公報に開示されているように、難接着性基材の表面を火炎処理する場合に、熱変形が生じやすいといった問題点が見られた。
そこで、本発明の発明者らは、DE0010019926A1公報に開示されているように、バーナーを用いて、主として金属やガラス製品の固体基体の表面に対し、少なくとも1回の酸化炎処理で該表面を変性する工程と、少なくとも1回のケイ酸化炎処理で該表面を変性する工程と、を含む固体基体表面の変性方法を提案している。かかる固体基体表面の変性方法によれば、固体基体の表面を確実に変性処理することができ、印刷用インキや紫外線硬化型塗料等を強固に接着できるという効果を得ることができる。
しかしながら、開示された固体基体表面の変性方法は、シラン化合物として、沸点が高いテトラメトキシシラン(沸点:122℃)等のアルコキシシラン化合物を単独使用していたため、このようなアルコキシシラン化合物を多量に空気等と混合する場合に、一部不完全燃焼しやすくなる現象が見られた。また、ケイ酸化炎処理前に、別途酸化炎処理工程を含むため、固体基体表面に対して、より優れた変性効果が得られるものの、その分処理時間が長くかかるという問題が見られた。
そこで、発明者らは、鋭意努力した結果、反転テーブルを利用するとともに、シラン化合物を含む燃料ガスに由来した火炎処理を施すことにより、車両部品等の大型の難接着性基材に対して、極めて迅速かつ効率的に、表面処理を施せることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、車両部品等の難接着性基材に対して、迅速かつ効率的に表面処理を施し、その上に発泡層やクッション層(中間層)、さらには装飾層を強固に接着することができる表面処理装置および表面処理方法を提供することにある。
【発明の開示】
[1] 本発明によれば、火炎発生部と、基材処理部と、を含む難接着性基材用の表面処理装置において、火炎発生部は、シラン化合物を含んだ燃料ガスを供給するための燃料タンクおよびその燃料ガスに由来した火炎を噴射させるための噴射装置を備えており、基材処理部は、難接着性基材を固定させるとともに、表面処理の前後において、当該難接着性基材を所定の水平軸を中心に、回転移動させるための反転テーブルを備えていることを特徴とする表面処理装置が提供される。
[2] また、本発明の表面処理装置を構成するにあたり、反転テーブルは、実質的に平板状であって、その両面に固定具を備えており、当該固定具によって、難接着性基材を固定することが好ましい。
[3] また、本発明の表面処理装置を構成するにあたり、反転テーブルの鉛直方向に対する角度を調整するための角度調整部材を備えることが好ましい。
[4] また、本発明の表面処理装置を構成するにあたり、火炎発生部および基材処理部は、筐体内部に実質的に収容されているとともに、反転テーブルが、当該筐体の一部を構成することが好ましい。
[5] また、本発明の表面処理装置を構成するにあたり、火炎発生部の位置を制御するためのサーボモータを備えていることが好ましい。
[6] また、本発明の表面処理装置を構成するにあたり、難接着性基材の形状を予め記憶し、その記憶した形状に関する情報に基づいて、火炎発生部の位置を移動させるための制御装置を備えていることが好ましい。
[7] また、本発明の別の態様は、火炎発生部と、基材処理部と、を含む表面処理装置を用いた表面処理方法において、火炎発生部から、シラン化合物を含んだ燃料ガスに由来した火炎を噴射させる工程と、基材処理部において、難接着性基材を反転テーブルに固定させた状態で、火炎を照射する工程と、当該反転テーブルを所定の水平軸を中心に回転させた後、表面処理された難接着性基材を取り出す工程と、を含むことを特徴とする表面処理方法である。
[8] また、本発明の表面処理方法を実施するにあたり、難接着性基材が、オレフィン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、またはポリエステル樹脂の少なくとも一つの樹脂から構成してあることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る表面処理装置を説明するために供する図である。
図2は、本発明の表面処理装置による表面処理方法を説明するために供する図である。
図3は、本発明の表面処理装置の火炎発生部を説明するために供する図である。
図4は、インフロントパネルの斜視図である。
図5は、ドアの斜視図である。
図6は、シートの斜視図である。
図7は、コンソールボックスの斜視図である。
図8は、ドアに装着する内装材の斜視図である。
図9は、バンパーの斜視図である。
図10は、オーナメントの斜視図である。
図11は、装飾部材をスラッシュパウダー成形する方法を説明するために供する図である(その1)。
図12は、装飾部材をスラッシュパウダー成形する方法を説明するために供する図である(その2)。
図13は、本発明に係る表面処理装置を用いた立体的装飾体の製造方法を説明するために供する図である。
図14は、立体的装飾体を説明するために供する図である。
図15は、立体的装飾体を作成する際の装飾部材の積層方法を説明するために供する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、図面を参照して、本発明の表面処理装置および表面処理方法に関する好適な実施の形態について具体的に説明する。
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、図1および図2に例示されるように、火炎発生部と、基材処理部と、を含んだ表面処理装置10であって、火炎発生部は、シラン化合物を含んだ燃料ガスを供給するための燃料タンク9およびその燃料ガスに由来した火炎8を噴射させるための噴射装置12を備えており、基材処理部は、難接着性基材を固定させるとともに、表面処理の前後において、難接着性基材を所定の水平軸20に沿って、回転移動させるための反転テーブル18を備えていることを特徴とする表面処理装置10である。
1.火炎発生部
図2に示すように、火炎発生部は、シラン化合物を貯蔵するための貯蔵タンク9や制御装置を含む貯蔵部と、燃料ガスを移送するための移送管7を含む移送部と、燃料ガスの火炎8を吹き付けるための噴射装置12を含む噴射部と、当該噴射装置12の位置を適宜移動させるための駆動装置13を含む駆動部と、からなる構成であることが好ましい。
(1)貯蔵タンク
図3に示すように、火炎発生部は、加熱手段36を有し、シラン化合物34を貯蔵するための第1の貯蔵タンク32と、圧縮空気等の引火性ガスを貯蔵するための第2の貯蔵タンク(図示せず)と、を備えることが好ましい。この例では、第1の貯蔵タンク32の下方に、ヒータや伝熱線、あるいは熱交換器に接続した加熱板等からなる加熱手段36を備えてあり、常温、常圧状態では液状のシラン化合物34を気化させることが好ましい。
そして、難接着性基材を表面処理する際には、加熱手段36によって、第1の貯蔵タンク32内のシラン化合物34を所定温度に加熱し、気化させた状態で、引火性ガス(空気等)と混合し、燃焼ガスとすることが好ましい。
また、燃焼ガス中におけるシラン化合物の含有量は極めて重要であるため、当該シラン化合物の含有量を間接的に制御すべく、第1の貯蔵タンク32に圧力計(または液面のレベル計)38を設けて、シラン化合物の蒸気圧(またはシラン化合物量)をモニターすることが好ましい。
さらに、燃料ガスの一部に、シラン化合物を使用することを特徴とするが、使用するシラン化合物の沸点(大気圧下)を10〜100℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるシラン化合物の沸点が10℃未満の値であっては、揮発性が激しくて、取扱いが困難となる場合があるためである。一方、かかるシラン化合物の沸点が100℃を超えると、空気等の引火性ガスや助燃剤との混合性が著しく低下し、シラン化合物が不完全燃焼しやすくなって、難接着性基材の表面改質が不均一になったり、長時間にわたって、改質効果を持続させることが困難になったりする場合があるためである。
したがって、かかるシラン化合物の沸点を15〜80℃の範囲内の値とすることがより好ましく、20〜60℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかるシラン化合物の沸点は、シラン化合物自体の構造を制限することによっても調整することができるが、その他、比較的沸点が低いアルキルシラン化合物等と、比較的沸点が高いアルコキシラン化合物等とを適宜混合使用することによっても調整することができる。
また、シラン化合物の種類についても特に制限されるものではないが、例えば、アルキルシラン化合物やアルコキシシラン化合物、あるいはその変性物が挙げられる。
また、これらの化合物のうち、アルキルシラン化合物は、一般に沸点が低いものが多く、加熱により容易に気化して、空気等と均一に混合できることから好ましいシラン化合物である。
このようなアルキルシラン化合物の好適例としては、テトラメチルシラン、テトラエチルシラン、1,2−ジクロロテトラメチルシラン、1,2−ジフェニルテトラメチルシラン、1,2−ジクロロテトラエチルシラン、1,2−ジフェニルテトラエチルシラン、1,2,3−トリクロロテトラメチルシラン、1,2,3−トリフェニルテトラメチルシラン、ジメチルジエチルテトラシラン等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
さらに、このようなアルキルシラン化合物のうち、テトラメチルシランおよびテトラエチルシランは、特に沸点が低く、空気等と容易に混合することから好ましいシラン化合物であり、1,2−ジクロロテトラメチルシラン等のハロゲン化シラン化合物は、表面改質効果が特に優れていることから好ましいシラン化合物である。
また、上述した化合物のうち、アルコキシシラン化合物は、そのエステル構造に起因して、一般に沸点が高いものが多いものの、その沸点が10〜100℃の範囲内である限り、難接着性基材に対してより優れた表面改質効果を発揮できることから好ましいシラン化合物である。
また、シラン化合物の平均分子量を、マススペクトル測定において、50〜1、000の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるシラン化合物の平均分子量が50未満となると、揮発性が高くて、取扱いが困難となる場合があるためである。一方、かかるシラン化合物の平均分子量が1、000を超えると、加熱により気化して、空気等と容易に混合することが困難となる場合があるためである。
したがって、シラン化合物の平均分子量を、マススペクトル測定において、60〜500の範囲内の値とすることがより好ましく、70〜200の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
また、シラン化合物の液体状態での密度を、0.3〜0.9g/cmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるシラン化合物の密度が0.3g/cm未満となると、取扱いが困難となったり、エアゾール缶に収容したりすることが困難となる場合があるためである。一方、かかるシラン化合物の密度が0.9g/cmを超えると、気化しづらくなるとともに、エアゾール缶に収容した場合に、空気等と完全に分離した状態となる場合があるためである。
したがって、シラン化合物の密度を0.4〜0.8g/cmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.5〜0.7g/cmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
(2)移送部
移送部は、通常、管構造であって、図3に示すように、第1の貯蔵タンク32から移送されてきたシラン化合物34および第2の貯蔵タンク(図示せず)から移送されてきた引火性ガス(空気)とを均一に混合し、燃焼ガスにするための混合室42を備えるとともに、流量を制御するための弁や流量計、あるいは燃焼ガスの圧力を制御するための圧力計48を備えていることが好ましい。
また、シラン化合物および引火性ガスを所定割合で、均一に混合した上で、流量を厳格に制御できるように、混合室42に混合ポンプや、滞留時間を長くするための邪魔板等を備えることも好ましい。
(3)噴射部
噴射部には、図3に示すように、移送部44を経て送られてきた燃焼ガスを燃やし、得られた火炎8を、被処理物である難接着性基材に吹き付けるための噴射装置12、例えば、バーナー備えることが好ましい。また、かかるバーナーの種類は特に制限されるものでないが、例えば、予混合型バーナー、拡散型バーナー、部分予混合型バーナー、噴霧バーナー、蒸発バーナー、微粉炭バーナー等のいずれであっても良い。また、バーナーの形態についても特に制限されるものでなく、例えば、図3に示すように、先端部に向かって拡大し、全体として扇型の構成であっても良く、あるいは、概ね長方形であって、噴射口が横方向に配列されたバーナーであっても良い。
また、噴射部の配置、すなわち、バーナーの配置や数は、被処理物である難接着性基材の形状、大きさ、重量等を考慮しつつ、さらには難接着性基材に対する表面改質の容易さ等を考慮して決定することが好ましい。
(4)駆動部
火炎発生部は、難接着性基材を適切に表面処理するために、少なくとも噴射装置の位置を変更可能なように、駆動装置を含む駆動部を備えることが好ましい。
すなわち、火炎発生部は、噴射装置から所定の火炎を噴射した状態であっても、自由に三次元移動できるように、駆動装置として、例えば、図2に示すような、アームロボット13を備えることが好ましい。
この理由は、このようなアームロボットを備えることにより、被処理物である難接着性基材の形状等にかかわらず、均一かつ迅速な表面処理が可能となるためである。
また、かかるアームロボットにおいて、アームの長さや位置を適宜制御して、上下方向の位置および難接着性基材との間の距離を、常に所定範囲内に定めることが好ましい。この理由は、このような位置関係を保持するように制御することにより、常に均一な表面処理条件を達成することができるためである。
さらにまた、かかるアームロボットは、図2に示すように、台座16上に備えてあり、その台座16の下面には、さらに車輪16aおよびレール16bを備えることが好ましい。この理由は、台座16およびこれら車輪16aおよびレール16bの協働によって、アームロボットシステムの位置を水平方向においても、迅速かつ円滑に移動可能とするためである。
よって、火炎発生部は、難接着性基材の形状や大きさに対応して、自由に三次元移動して、その位置を変えることができるため、難接着性基材の表面処理を均一かつ十分に行うことができる。
(5)着火装置
火炎発生部には、燃料ガスの火炎を吹き付けるための噴射装置のほかに、着火装置および火炎検知手段(図示せず)が備えてあり、任意時期に火炎を照射したり、火炎発生部における火炎照射状態を検知したりすることが好ましい。
この理由は、後述する基材処理部と同期させて極め細かく着火および消火を繰り返すことにより、燃料ガスの消費を少なくするとともに、二酸化炭素の発生量を少なくすることができるためである。
なお、火炎発生部において、火炎が照射されない場合や不十分な場合には、火炎発生部に設けた火炎検知手段によって、その状態を検知して、安全装置により、火炎発生部における火炎照射を確実に中止したり、あるいは条件によっては、再び着火させたりすることが好ましい。
また、図1に示すように、噴射装置12の近傍に、パイロット着火装置12aを備え、当該パイロット着火装置12aは、通常の燃焼ガスを利用して、常に着火してあるとともに、ケイ酸化炎処理を実施するための火炎8を噴射する噴射装置12においては、かかるパイロット着火装置12aを介して、任意時期、例えば、ケイ酸化炎処理を実施する直前に着火させることが好ましい。
この理由は、噴射装置をかかるパイロット着火装置の火炎に近づけるだけで、噴射装置に着火させることが可能となるためである。したがって、このようなパイロット着火装置を備えることにより、噴射装置における着火システムを簡易化および長寿命化することができる。
(6)制御装置
火炎発生部には、その制御装置として、アームロボットの位置制御システムや被処理物の形状記憶装置等を含むことが好ましい。
この理由は、このような制御装置を備えることにより、被処理物である難接着性基材の存在場所を正確に認識し、さらには、難接着性基材の形状や大きさ等にかかわらず、火炎発生部において、均一かつ迅速な表面処理が可能となるためである。
したがって、被処理物である難接着性基材の位置や形状等を一旦認識した後は、その認識した情報に基づいて、すばやく表面処理を実施することができる。
なお、火炎発生部における制御装置は、基材処理部の制御装置も兼ねていることが好ましい。すなわち、火炎発生部における制御装置は、基材処理部の動作と同期させて、火炎発生部におけるアームロボットの位置を制御しつつ、火炎処理を実施することが好ましい。
2.基材処理部
(1)反転テーブル
第1の実施形態の表面改質装置は、図1および図2に示すように、基材処理部に、所定の水平軸20に沿って回転または半回転する反転テーブル18を含み、当該反転テーブル18を使用して、難接着性基材の表面改質を実施することが好ましい。
すなわち、反転テーブルの両面または片面をそれぞれ利用して、複数の難接着性基材をそれぞれに固定した状態で、表面および裏面、あるいはいずれか一方の面において、順次に表面改質を実施することが好ましい。
この理由は、このような反転テーブルを利用することにより、一方の面において一つの難接着性基材に対して表面処理を実施している間に、もう一方の面において次の難接着性基材を固定準備することができ、車両部品等の大型の難接着性基材であっても、極めて迅速かつ効率的に、順次に表面処理を施すことができるためである。
また、反転テーブルは、図1および図2に示すように、主として、基材載置部18(18a、18b)と、水平軸20を含む回転冶具22と、制御装置28と、角度調整部材(図示せず)と、から構成することが好ましい。
この理由は、このような構成の反転テーブルを利用することにより、作業効率を著しく高められるためである。すなわち、反転テーブルを、制御装置および角度調整部材によって制御、保持された回転冶具により、その位置を決定して、難接着性基材の固定、回転移動、および表面処理を迅速に実施することができるためである。
また、反転テーブルは、図1および図2に示すように、表面改質装置を収容するための筐体17の一部を構成していることが好ましい。すなわち、反転テーブル18が、難接着性基材(A)を固定した状態で表面処理を実施している際、例えば、反転テーブル18が垂直方向に位置している場合には、かかる反転テーブル18が、筐体17の壁部の一部として機能することが好ましい。
この理由は、このような機能を有する反転テーブルを備えることにより、火炎発生部における火炎が外部に放出されることを有効に防止することができるためである。
(2)固定具
反転テーブルは、図2に示すように、固定具26、27を備え、当該固定具26、27により、難接着性基材を所定位置に保持した状態で、表面改質を実施することが好ましい。
この理由は、このような固定具を備えた反転テーブルを利用することにより、反転テーブルに、難接着性基材を固定して回転させた場合であっても、位置ずれすることなく、難接着性基材に対して、精度良く表面改質を実施することができるためである。
ここで、固定具の形状は特に制限されるものではないが、図1に示すように、簡易的な固定が可能な爪状部26や、それ一つであっても強固な固定が可能なストッパー27等から構成することが好ましい。
3.筐体
少なくとも火炎発生部および基材処理部は、図1および図2に示すように、筐体17内に実質的に収容されていることが好ましい。
この理由は、このような筐体を設けて、その内部に火炎発生部および基材処理部を備えることにより、安全性に優れた作業環境を提供できるためである。したがって、作業者としては、火炎発生部における火炎や熱等を気にせずに作業することが可能である。
ただし、図2に示すように、火炎発生部の燃料タンク9および制御装置等の一部については、筐体17の外側、より好ましくは、筐体17の外壁に近接して設けた固定場所11に配置することが好ましい。
この理由は、このように燃料タンク等を配置することにより、燃料ガスの補給が容易になるとともに、このように燃料タンクと、火炎発生部とを、筐体の外壁を介して、完全分離することにより、安全性に優れた作業環境を提供できるためである。
また、筐体17は、移動手段17a、例えば、ローラやレールをその下部位置に備えたり、あるいは外部の移動手段、例えば、フォークリフト等を用いて、移動可能な構成とすることが好ましい。
この理由は、このような移動手段等を備えることにより、本発明の表面改質装置を筐体の内部に収容したまま、任意の場所に、容易かつ迅速に移動することができるためである。したがって、難接着性基材の成形機の近傍に配置したり、難接着性基材への塗装装置の近傍に配置したりすることが容易に達成でき、例えば、難接着性基材の成形から装飾までの処理体系の全体を任意かつ便利な構成とすることが可能である。
4.対象物
(1)難接着性基材
また、第1の実施形態において使用される難接着性基材の種類は、特に制限されるものではないが、例えば、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、変性ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニル樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリトリフルオロクロロエチレン樹脂、エチレン−トリフルオロクロロエチレン共重合体オレフィンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、スチレン系熱可塑性エラストマー、およびウレタン系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される少なくとも一つが挙げられる。
これらの樹脂のうち、特に接触角が大きく、濡れ指数が小さいポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等に対してケイ酸化炎処理を実施することにより、優れた改質効果を発揮することができる。
(2)充填材
また、難接着性基材中に、金属材料や無機フィラー、あるいは繊維等の充填材を添加することも好ましい。
このような金属材料としては、アルミニウム、マグネシウム、ステンレス、ニッケル、クロム、タングステン、金、銅、鉄、銀、亜鉛、スズ、鉛等の一種単独または二種以上の金属材料の組み合わせが好ましい。
また、無機フィラーとして、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、石灰、ゼオライト、金、銀、銅、亜鉛、ニッケル、スズ、鉛、半田、ガラス、セラミック等の一種単独または二種以上の組み合わせが好ましい。
さらに、繊維としては、カーボン繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、金属繊維、セラミック繊維等の一種単独または二種以上の組み合わせが好ましい。
なお、難接着性基材に対して、金属材料や無機フィラー、あるいは繊維を添加する場合、全体量に対して、その添加量を0.01〜80重量%の範囲内の値とすることが好ましく、0.1〜50重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、1〜30重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
(3)形態
また、難接着性基材の形態は立体的であれば特に制限されるものではないが、例えば、筒状、柱状、球状、ブロック状、チューブ状、パイプ状、凹凸状、膜状、繊維状、織物状、束状等が好ましい。また、図4に示すようなインフロントパネル101、図5に示すようなドア102、図6に示すようなイス103、図7に示すようなコンソールボックス104、図8に示すようなドアに装着する内装材105、図9に示すようなバンパー106、および図10に示すようなオーナメント107等の車両部品であっても良い。
また、難接着性基材は、板状、シート状、フィルム状、テープ状、短冊状、パネル状、紐状などの平面構造を部分的に有するものであっても良い。
さらに、このような難接着性基材の形態の変形例として、難接着性基材からなる立体構造物と、金属部品、セラミック部品、ガラス部品、紙部品、木部品等との組み合わせからなる複合構造体であることも好ましい。
(4)装飾部材
また、表面処理した難接着性基材に積層する装飾部材は、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、またはポリエステル樹脂の少なくとも一つの樹脂から構成してあることが好ましい。
この理由は、このように構成することにより、汎用性が高く、安価であり、しかも装飾性に優れた装飾部材を使用することができるためである。すなわち、安価で、装飾性に優れた表面処理装置を提供することができるためである。
ただし、後述するパウダースラッシュ成形に適していることから、Bステージ(半硬化状態)のエポキシ樹脂を使用することがより好ましい。
また、装飾部材の厚さを10〜500μmの範囲内の値とすることが好ましい。この理由は、かかる装飾部材の厚さが10μm未満の値になると、装飾部材の機械的強度や耐久性が著しく低下する場合があるためである。一方、かかる装飾部材の厚さが500μmを超えると、取扱いや接着が困難になる場合があるためである。したがって、装飾部材の厚さを25〜300μmの範囲内の値とすることがより好ましい。
また、装飾部材の形態は、接着性や取扱いが容易なことから平坦なフィルムであることも好ましいが、より装飾性に優れていることから、表面にエンボス処理や開口部(スリットを含む)が設けてあることも好ましい。さらに、装飾部材の表面や内部に、所定の印刷や着色が施してあることも好ましい。
さらに、装飾部材が、図11(a)〜(c)および図12(a)〜(c)に示すように、パウダースラッシュ成形してあることが好ましい。
この理由は、パウダースラッシュ成形してある装飾部材であれば、立体感に優れ、特殊な形状を保持し、しかも大きな寸法(例えば、幅が1m以上)から小さな寸法(例えば、幅が10cm以下)まで、任意の大きさの装飾部材を提供することができるためである。
また、図14に示すように、表面処理した難接着性基材58の表面に対して、装飾部材94を積層する場合、難接着性基材58と、装飾部材94との間に、中間層56として、プライマー層や接着改良層、あるいは発泡層やクッション層を設けることも好ましい。
この理由は、プライマー層や接着改良層を設けることにより、難接着性基材と、装飾部材と、の間の接着強度を著しく向上させることができるためである。また、発泡層やクッション層を設けることにより、より立体感に優れ、しかも適度なクッション性を有する表面処理装置を提供することができるためである。
また、かかる中間層の種類は特に制限されるものではないが、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シランカップリング剤、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
なお、中間層の厚さはその機能によるが、例えば、プライマー層や接着改良層の場合には、0.1〜100μmの範囲内の値とすることが好ましく、発泡層やクッション層の場合には、0.1〜10mmの範囲内の値とすることが好ましい。
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、図2(a)〜(d)に例示するように、火炎発生部と、基材処理部と、を含み、反転チーブルを備えた表面処理装置を用いた表面処理方法であって、以下の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする表面処理方法である。
(1)火炎発生部から、シラン化合物を含んだ燃料ガスに由来した火炎を噴射させる工程(以下、第1の工程と称する場合がある。)
(2)基材処理部において、難接着性基材を反転テーブルに固定させた状態で、火炎を照射して、表面処理を実施する工程(以下、第2の工程と称する場合がある。)
(3)反転テーブルを所定の水平軸を中心に回転させた後、表面処理された難接着性基材を取り出す工程(以下、第3の工程と称する場合がある。)
1.第1の工程
第1の工程を実施するに際して、燃料ガスとして、第1の実施形態と同様のシラン化合物や引火性ガスを使用することができる。
また、シラン化合物の添加量を、燃焼ガスの全体量を100モル%としたときに、1×10−10〜10モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるシラン化合物の添加量が1×10−10モル%未満の値になると、難接着性基材に対する改質効果が発現しない場合があるためである。一方、かかるシラン化合物の添加量が10モル%を超えると、シラン化合物と空気等との混合性が低下し、それにつれてシラン化合物が不完全燃焼する場合があるためである。
したがって、シラン化合物の添加量を、燃焼ガスの全体量を100モル%としたときに、1×10−9〜5モル%の範囲内の値とすることがより好ましく、1×10−8〜1モル%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
また、火炎温度の制御が容易にできることから、燃焼ガス中に、通常、引火性ガスを添加することが好ましい。このような引火性ガスとして、プロパンガスや天然ガス等の炭化水素ガス、あるいは、水素、酸素、空気等の引火性ガスが挙げられる。なお、燃焼ガスをエアゾール缶に入れて使用する場合には、このような引火性ガスとして、プロパンガスおよび圧縮空気等を使用することが好ましい。
また、このような引火性ガスの含有量を、燃焼ガスの全体量を100モル%としたときに、80〜99.9モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる引火性ガスの含有量が80モル%未満の値になると、シラン化合物と空気等との混合性が低下し、それにつれてシラン化合物が不完全燃焼する場合があるためである。一方、かかるシラン化合物の添加量が99.9モル%を超えると、難接着性基材に対する改質効果が発現しない場合があるためである。
したがって、シラン化合物の添加量を、燃焼ガスの全体量を100モル%としたときに、85〜99モル%の範囲内の値とすることがより好ましく、90〜99モル%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
また、燃焼ガス中に、シラン化合物を均一に混合するために、キャリアガスを添加することも好ましい。すなわち、シラン化合物と、キャリアガスとを予め混合し、次いで、空気流等の引火性ガスに混合することが好ましい。
この理由は、かかるキャリアガスを添加することにより、比較的分子量が大きく、移動しづらいシラン化合物を用いた場合であっても、空気流と均一に混合することができるためである。すなわち、キャリアガスを添加することにより、シラン化合物を燃焼しやすくして、難接着性基材の表面改質を均一かつ十分に実施することができるためである。
なお、このような好ましいキャリアガスとして、引火性ガスと同種のガスを使用することが好ましく、例えば、空気や酸素、あるいはプロパンガスや天然ガス等の炭化水素を挙げることができる。
2.第2の工程
第2の工程を実施するに際して、ケイ酸化炎処理の火炎温度を500〜1,500℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる火炎温度が500℃未満の値になると、シラン化合物の不完全燃焼を有効に防止することが困難になる場合があるためである。一方、かかる火炎の温度が1,500℃を超えると、表面改質する対象の難接着性基材が、熱変形したり、熱劣化したりする場合があり、使用可能な難接着性基材の種類が過度に制限される場合があるためである。
したがって、かかる火炎温度を550〜1,200℃の範囲内の値とすることが好ましく、600〜900℃未満の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかる火炎温度は、火炎の先端部において測定される温度であって、使用する燃焼ガスの種類や、燃焼ガスの流量、あるいは、燃焼ガスに添加するシラン化合物の種類や量によって、適宜調節することができる。
また、ケイ酸化炎処理における火炎の処理時間(噴射時間)を0.1秒〜100秒の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる火炎の処理時間が0.1秒未満の値になると、シラン化合物による改質効果が均一に発現しない場合があるためである。一方、かかる火炎の処理時間が100秒を超えると、表面改質する対象の難接着性基材が、熱変形したり、熱劣化したりする場合があり、使用可能な難接着性基材の種類が過度に制限される場合があるためである。
したがって、火炎の処理時間を0.3〜30秒の範囲内の値とすることが好ましく、0.5〜20秒の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
3.第3の工程
第3の工程を実施するに際して、表面処理された難接着性基材を取り外すために、垂直方向にある反転テーブルを、所定の水平軸を中心に約90°回転させて、図2(c)に示すように、一旦水平状態とすることが好ましい。
この理由は、かかる反転テーブル18が水平状態であることから、その表面18bに、次に処理すべき難接着性基材を、容易に装着することができるためである。すなわち、難接着性基材が大きい場合や形状が複雑な場合であっても、反転テーブルが水平状態であれば、その一面から、容易に脱着することができるためである。
次いで、水平状態にある反転テーブル18を、所定の水平軸を中心に約90°回転させて、図2(d)に示すように、再び垂直状態にすることが好ましい。
この理由は、このように配置することにより、表面処理された難接着性基材Aを、反転テーブル18の固定具26から容易かつ安全に取り外すことができるためである。すなわち、車両部品等の大型で、各種形状を有する難接着性基材であっても、垂直方向の反転テーブル18から、迅速に次工程に移すことができるため、後述するように装飾部材を積層したり、所定文字や記号等を容易に印刷したりすることができる。
なお、図2(d)に示すように、表面処理された難接着性基材Aを取り外す際には、その表面処理された難接着性基材Aが固定された反転テーブル18の裏面18bには、次に処理すべき難接着性基材Bが、既に固定されていることが好ましい。この理由は、表面処理された難接着性基材を取り外しながら、別の難接着性基材に対して、表面処理を実施することができるためである。
4.その他
第3の工程を実施した後に、装飾工程を設けることが好ましい。より具体的には、立体感や形態に優れ、しかも任意の大きさが選択できることから、図11〜図13に例示するように、パウダースラッシュ成形した装飾部材を積層することが好ましい。
ここで、図11(a)は、成形面85を有する金属製のスラッシュ金型82を、例えばガスあるいは電気等を熱源とする加熱装置86により加熱する工程である。ここで、スラッシュ金型82を、粉末樹脂が溶融する温度まで加熱することが好ましい。また、使用するスラッシュ金型82の成形型84における成形面85の形状は、製作する樹脂成形品の形状によって決定されることが好ましい。
また、図11(b)は、加熱したスラッシュ金型82と、流動状を有する粉末樹脂92を収容したリザーバタンク88とを、成形型84の成形面85を下向きにし、リザーバタンク88の開口面を上向きにした状態で、上下に一体的に連結する工程である。
また、図11(c)は、スラッシュ金型82と、リザーバタンク88とを回転させて、スラッシュ金型82の成形型84の成形面85に所定の厚さの樹脂膜94を形成する工程である。すなわち、スラッシュ金型82と、リザーバタンク88とを上下に反転させることが好ましい。この理由は、リザーバタンク88内の粉末樹脂92は自重により、成形型84の成形面85上に落下し、したがって、成形面85に接する樹脂および積層するある部分までの樹脂94は、成形型84の熱によって溶融状態となり、成形面85に表層として付着するためである。
また、図12(a)は、成形型84に、所定厚さの樹脂膜94が形成された状態で、リザーバタンク88を、スラッシュ金型82から取り外す工程である。
また、図12(b)は、スラッシュ金型82全体あるいは成形型84の部分を水冷あるいは空冷等の冷却手段98により冷却して、樹脂膜94を硬化させる工程である。
また、図12(c)は、成形型84から樹脂膜94を剥離、すなわち脱型する工程である。
次いで、得られた樹脂膜(装飾部材)を難接着性基材上に積層することが好ましい。なお、難接着性基材上に装飾部材を積層するにあたり、図13(a)〜(e)に示すように、難接着性基材58の表面上に、中間層56、例えば、プライマー処理や接着力調整層を設けるとともに、装飾部材94を積層することが好ましい。この理由は、このように実施することにより、中間層56の形成具合を確認しながら、装飾部材94を積層することができ、優れた仕上がり具合を得ることができる。
ただし、より工程が簡便化および迅速化できることから、図15に例示するように、中間層56の原料となる材料57を難接着性基材58上に形成した後、装飾部材94をさらにその上に積層した状態で、加熱したり、紫外線を照射したりすることで、装飾部材94の接着固定と、中間層56の形成を同時に実施することも好ましい。
【実施例】
【実施例1】
1.表面処理装置の製造
立体加工された難接着性基材を準備した。すなわち、ポリプロピレン製の車両用フロントパネル基材(縦50cm、横200cm、奥行き50cm)を準備した。
次いで、図1に示すような表面処理装置を準備し、その反転テーブルを水平状態にして、反転テーブルに備えてある爪状固定具およびストッパーを用いて、車両用フロントパネル基材を固定した。
次いで、表面処理装置を動作して、車両用フロントパネル基材の表面に対して、ケイ酸化炎処理を実施した。すなわち、基材に対して、中間層および装飾部材を強固に接着することができるように、シラン化合物(トリメチルシラン)を含んだ燃料ガスに由来した火炎による処理を、単位面積当り(100cm)、0.5秒間実施した。
次いで、発泡ウレタン剤を塗布形成するとともに、装飾部材を形成した。その後、30〜60℃、1〜5分の条件で加熱し、中間層としての発泡ウレタン剤を発泡させるとともに、装飾部材を接着させ、車両用フロントパネルとした。
2.難接着性基材の評価
ケイ酸化炎処理を実施した段階での車両用フロントパネル基材の濡れ指数を、標準液を用いて測定した。また、ケイ酸化炎処理を実施する前の車両用フロントパネル基材の濡れ指数を同様に測定した。
3.表面処理装置の評価
車両用フロントパネル基材上に発泡ウレタン層および装飾部材を形成して得られた車両用フロントパネルにおける、装飾部材の剥離力を碁盤目試験(JIS基準)により測定し、以下の基準に沿って評価した。
また、
◎:100個の碁盤目試験で、全く剥がれが無い。
○:100個の碁盤目試験で、剥がれ数は1〜2個である。
△:100個の碁盤目試験で、剥がれ数は3〜10個である。
×:100個の碁盤目試験で、剥がれ数は11個以上である。
【実施例2〜7】
実施例2〜7では、表1に示すように、車両用フロントパネル基材を構成する難接着性基材の種類、および車両用フロントパネル基材に対するケイ酸化炎処理時間を変えて、実施例1と同様に、車両用フロントパネル基材および表面処理装置の評価をそれぞれ行った。
[比較例1〜2]
比較例1においては、全く表面処理を実施せず、また、比較例2においては、実施例1におけるシラン化合物入りの混合ガスの代わりに、シラン化合物を含まない圧縮空気およびプロパンからなる燃料ガスを用いたほかは、それぞれ実施例1と同様に、車両用フロントパネル基材および表面処理装置の評価を行った。

【産業上の利用可能性】
以上の説明の通り、本発明の表面処理装置によれば、難接着性基材の表面に、シラン化合物を含んだ燃料ガスに由来した火炎処理を施こすことにより、特殊なプライマー処理等を実施することなく、中間層を介して、難接着性基材と、装飾部材との間で、強固な接着力が得られるようになった。
また、本発明の表面処理方法によれば、立体加工された難接着性基材の表面に、シラン化合物を含んだ燃料ガスに由来した火炎処理を施こすことにより、特殊なプライマー処理等を実施することなく、立体加工された難接着性基材と、装飾部材との間で、強固な接着力が得られるようになった。
なお、本発明の表面処理装置および表面処理方法により表面処理された難接着性基材は、表面処理後2月経過しても、表面処理効果をそのまま維持していた。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
火炎発生部と、基材処理部と、を含む難接着性基材用の表面処理装置において、
前記火炎発生部は、シラン化合物を含んだ燃料ガスを供給するための燃料タンクおよびその燃料ガスに由来した火炎を噴射させるための噴射装置を備えており、
前記基材処理部は、前記難接着性基材を固定させるとともに、表面処理の前後において、当該難接着性基材を所定の水平軸を中心に、回転移動させるための反転テーブルを備えていることを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記反転テーブルは、実質的に平板状であって、その両面に固定具を備えており、当該固定具によって、前記難接着性基材を固定することを特徴とする請求の範囲1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記反転テーブルの鉛直方向に対する角度を調整するための角度調整部材を備えることを特徴とする請求の範囲1に記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記火炎発生部および前記基材処理部は、筐体内部に実質的に収容されているとともに、前記反転テーブルが、当該筐体の一部を構成することを特徴とする請求の範囲1に記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記火炎発生部の位置を制御するためのサーボモータを備えていることを特徴とする請求の範囲1に記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記難接着性基材の形状を予め記憶し、その記憶した形状に関する情報に基づいて、前記火炎発生部の位置を移動させるための制御装置を備えていることを特徴とする請求の範囲1に記載の表面処理装置。
【請求項7】
火炎発生部と、基材処理部と、を含む表面処理装置を用いた難接着性基材に対する表面処理方法において、
前記火炎発生部から、シラン化合物を含んだ燃料ガスに由来した火炎を噴射させる工程と、
前記基材処理部において、前記難接着性基材を反転テーブルに固定させた状態で、前記火炎を照射する工程と、
当該反転テーブルを所定の水平軸を中心に回転させた後、表面処理された難接着性基材を取り出す工程と、
を含むことを特徴とする表面処理方法。
【請求項8】
前記難接着性基材が、オレフィン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、またはポリエステル樹脂の少なくとも一つの樹脂を主原料として構成してあることを特徴とする請求の範囲7に記載の表面処理方法。

【国際公開番号】WO2004/037518
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【発行日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546368(P2004−546368)
【国際出願番号】PCT/JP2002/010971
【国際出願日】平成14年10月23日(2002.10.23)
【出願人】(000150512)株式会社仲田コーティング (40)
【Fターム(参考)】