説明

表面処理装置

【課題】小電流で効率よく加工対象物の外表面の粗面化処理を行うことができるようにした表面処理装置を提供する。
【解決手段】電磁コイル7が、内周面に軸芯に向かって突設された複数のティース7bと、ティース7b間に形成されて図示しないコイルが配設されるスロット7cと、を備えたステータ7aで構成され、一部のティース7bの周方向の幅寸法Xが、他のティース7bの周方向の幅寸法Yより広く形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状に形成された加工対象物の外表面に磁性砥粒を衝突させることで、加工対象物の表面を粗面化する表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒状に形成された加工対象物の外表面を粗面化するために、加工対象物と磁性砥粒とを収容槽内に収容し、磁性砥粒を移動させる回転磁場を発生させて、磁性砥粒と回転磁場との間に働く電磁力によって磁性砥粒をランダムに励磁させ、磁性砥粒を加工対象物に衝突させることによって加工対象物の外表面を粗面化する表面処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記表面処理装置は、ベースと、固定保持手段と、電磁コイル移動部と、移動保持部と、移動チャック部と、電磁コイルと、収容槽と、回収部と、冷却部と、リニアエンコーダと制御装置とを備えており、加工対象物である現像スリーブの外表面を粗面化処理する場合には、磁性材料で形成された中空保持部材の外周に加工対象物を同軸に保持して、加工対象物を磁性砥粒が供給された収容槽内に収容し、収容槽と中空保持部材と加工対象物とを同軸に取り付ける。そして、前記回収部の気体流入管で収容槽内に気体を供給すると共に前記冷却部で加圧された気体を収容槽の外側に収容槽と同軸に配置された円環状の前記電磁コイルに吹きつけ、中空保持部材とともに加工対象物を軸芯回りに回転させると共に電磁コイルに三相交流電源から電力を印可して電磁コイルに回転磁場を発生させる。すると、電磁コイルの内側に位置する磁性砥粒が自転しながら軸芯回りに公転して加工対象物の外表面に衝突して加工対象物の外表面を粗面化する。前記電磁コイル移動部が電磁コイルを軸芯に沿って移動させると、電磁コイルの回転磁場の内側に入った磁性砥粒が移動すると共に電磁コイルの内側から抜け出た磁性砥粒がその移動を停止し、電磁コイルを軸芯に沿って往復移動させることにより加工対象物の外表面の粗面化処理が終了する。
【0004】
前記表面処理装置の電磁コイル71は、図8に示すように、円環状のステータ71aを備えており、ステータ71aの内周面には、全周にわたってステータ71aの軸芯に向かって複数のティース71bが並んで突設されている。隣接するティース71bの間にはスロット71cが開口して形成されており、スロット71cには図示しないコイルが配設されて前記電磁コイル71が構成されるようになっている。電磁コイル71では、ステータ71aのコイルに三相交流電源からの電力が印可されることにより、ステータ71aの周方向に移動しながらステータ71aの半径方向にティース71bを通って中空保持部材151の表面に向けて磁束が形成されようになり、磁束に沿って磁性砥粒が移動して、中空保持部材151に保持された加工対象物の外表面に磁性砥粒が衝突することにより、加工対象物の外表面の粗面化処理が行われるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記表面処理装置の電磁コイル71では、ステータ71aに形成されたスロット71cの開口面積によってスロット71cに配設されるコイルの巻数が決まってくるので、図8に示すようにスロット71cの開口面積が小さいと、十分なコイルの巻数を得ることができず、強力な電磁コイル71を得ることができない。そこで、図9に示すように、ステータ71aのスロット71cの開口面積を大きく形成して十分なコイルの巻数を得るようにすることも考えられる。
【0006】
しかし、図9に示すようにステータ71aのスロット71cの開口面積を大きく形成すると、隣接するスロット71c間のティース71bの幅が狭くなり、この幅狭なティース71bを通ってステータ71aの半径方向に中空保持部材151の表面に向かう磁束の量が磁気飽和の影響で制限されてしまい、そのために、加工対象物の表面での磁束密度が減少して、磁束に沿って移動する磁性砥粒の量が減少してしまう。
【0007】
そこで、加工対象物を保持する中空保持部材の表面での磁束密度を増大させて磁束に沿って移動する磁性砥粒の量を増大させ、加工対象物の外表面に衝突する磁性砥粒の量を増大させて所望する加工対象物の表面粗さを得るためには、ステータ71aのコイルにより大きな電流を流すことも考えられるが、コイルに大電流を流すと消費電力が増大して効率が低下するという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる問題点を解決することを目的とし、小電流で効率よく加工対象物の外表面の粗面化処理を行うことができるようにした表面処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の表面処理装置は、内部に円筒状の加工対象物及び磁性砥粒を収容する収容槽と、前記加工対象物を前記収容槽と同軸状に保持して回転させる保持回転手段と、前記収容槽の外側に配置され、前記磁性砥粒を前記加工対象物の表面に衝突させる回転磁場を発生させる磁場発生部と、該磁場発生部を前記収容槽の長手方向に移動させる移動手段と、を備えた表面処理装置において、前記磁場発生部が、内周面に軸芯に向かって突設された複数のティースと、該ティース間に形成されてコイルが配設されるスロットと、を備えたステータで構成され、前記一部のティースの周方向の幅寸法が、他のティースの周方向の幅寸法より広く形成されている、ことを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の表面処理装置は、請求項1記載の表面処理装置において、前記ステータの内周面に開口形成された前記スロットの総数を減少させ、1スロット当たりのスロットの開口面積が大きく形成されている、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の表面処理装置によれば、内部に円筒状の加工対象物及び磁性砥粒を収容する収容槽と、前記加工対象物を前記収容槽と同軸状に保持して回転させる保持回転手段と、前記収容槽の外側に配置され、前記磁性砥粒を前記加工対象物の表面に衝突させる回転磁場を発生させる磁場発生部と、該磁場発生部を前記収容槽の長手方向に移動させる移動手段と、を備えた表面処理装置において、前記磁場発生部が、内周面に軸芯に向かって突設された複数のティースと、該ティース間に形成されてコイルが配設されるスロットと、を備えたステータで構成され、前記一部のティースの周方向の幅寸法が、他のティースの周方向の幅寸法より広く形成されているので、幅広のティースからステータの軸芯位置に配置した保持回転手段の表面へ流れる磁束の量を局所的に多くすることができ、また、所望する加工対象物の表面粗さを得るための磁束の量を幅広のティース部分で十分に確保しつつステータの内周面のスロットの開口面積を大きく形成して、スロットに配設されるコイルの巻数を増加させることができ、小電流で保持回転手段の表面で発生する磁束密度を十分に増大させて、小電流で効率よく加工対象物の外表面の粗面化処理を行うことができる。
【0012】
請求項2に記載の表面処理装置によれば、前記ステータの内周面に開口形成された前記スロットの総数を減少させ、1スロット当たりのスロットの開口面積が大きく形成されているので、スロットに配設されるコイルの巻数をより増加させることができ、より小電流で保持回転手段の表面で発生する磁束密度を十分に増大させて、より小電流で効率よく加工対象物の外表面の粗面化処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る表面処理装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】図1の表面処理装置の収容槽部分を示す断面図である。
【図3】図1の表面処理装置の収容槽部分の取り付け状態を説明する断面図である。
【図4】図1に係る本発明の電磁コイルのステータの軸方向に直交した状態の概略図である。
【図5】図1に係る本発明の電磁コイルのステータの磁界解析による磁束の流れを示す概略図である。
【図6】従来のステータの磁界解析による磁束の流れを示す概略図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る電磁コイルのステータの軸方向に直交した状態の概略図である。
【図8】従来のステータの軸方向に直交した状態の概略図である。
【図9】従来の他のステータの軸方向に直交した状態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図1乃至図4に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る表面処理装置の全体構成を示す概略図である。図2及び図3は、図1に示された表面処理装置の収容槽部分を示す断面図、図4は、電磁コイルのステータの軸方向に直交した状態の概略図である。
【0015】
表面処理装置1は、例えば、複写機、ファクシミリ、プリンター等の画像形成装置に用いられる現像ローラや帯電ローラなどの円筒状に形成された加工対象物2(図2に示す)の外表面を粗面化する装置である。
【0016】
表面処理装置1は、図1に示すように、装置ベース3と、装置ベース3から立設した保持ベース4と、加工対象物2及び磁性砥粒5(図2に示す)を収容する収容槽6と、収容槽6内に磁性砥粒5を移動させる回転磁場を発生させて回転磁場により磁性砥粒5を加工対象物2の外表面に衝突させる磁場発生部としての電磁コイル7と、電磁コイル7を収容槽6の長手方向に沿って移動させる移動手段としての電磁コイル移動部8と、を備えている。
【0017】
図2及び図3に示すように、収容槽6は、2つの円筒状部材6a、6bをカラー6cで連結したもので、その内部に加工対象物2と磁性砥粒5が収容される。図示例では、収容槽6の外径は40〜80mm、収容槽6の肉厚は0.3〜5mm、収容槽6の長手方向の長さは300〜600mmで、収容槽6の円筒状部材6a、6b及びカラー6cはオーステナイト系ステンレス材料などで構成されている。また、収容槽6に収容された磁性砥粒5は、例えば円柱状に形成されており、磁性砥粒5の大きさは、外径が0.8〜3mmで全長が0.5〜3mm程度である。ただし、加工対象物2の所望する表面粗さ、加工時間、及び磁性砥粒5の耐久性などに合わせてその形状及び寸法を適宜変更でき、また、収容槽6に収容される磁性砥粒5の総量も、加工対象物2の所望する表面粗さ、加工時間、及び磁性砥粒5の耐久性などから決定される。
【0018】
収容槽6の円筒状部材6a、6bのカラー6cによる連結部でない端部は、それぞれ、保持部9a、9bにより保持されるようになっている。収容槽6の一方の円筒状部材6aは、高さ調節機構10及び移動用アクチュエータ11、12を備えた保持部9aにより保持されている。また、収容槽6の他方の円筒状部材6bは、移動ブラケット13及び高さ調節機構14を備えた保持部9bにより保持されている。そして、保持部9a、9bにより収容槽6の両端部が保持されることにより、収容槽6が保持ベース4の所定位置に保持される。
【0019】
収容槽6の内部には、加工対象物2を保持して回転させる保持回転手段としての磁性材料で形成された中空保持部材15が収容槽6と同軸に設けられている。そして、中空保持部材15の外周部に、その長手方向に沿って加工対象物2が保持されることにより、中空保持部材15、加工対象物2及び収容槽6が同軸に配置され、磁性砥粒5が収容された収容槽6内に加工対象物2がその外表面を露出して保持されるようになっている。
【0020】
収容槽6内に加工対象物2を保持するには、図3に示すように、保持部9bで保持された収容槽6の他方の円筒状部材6bの内部に取り付けられた中空保持部材15の一端部の主軸マスク部16に加工対象物2の一端部を挿入する。次に、軸芯の移動調整が可能なテール軸17に保持部9aで保持された収容槽6の一方の円筒状部材6aと、円筒状部材6aの軸芯位置に取り付けられたテール軸マスク部18をテール軸17とともに移動させ、中空保持部材15に挿着された加工対象物2の他端部にテール軸マスク部18を嵌合させると共に一方の円筒状部材6aを他方の円筒状部材6bとカラー6cで連結させる。これにより、中空保持部材15の外周部に装着された加工対象物2がその外表面を露出して収容槽6内に保持される。ここで、テール軸17、及びテール軸17に取り付けられたテール軸マスク部18、一方の円筒状部材6aは、図1に示すA方向に最大移動速度200mm/s、最大移動距離300mm、B方向に最大移動速度300mm/s、最大移動距離300mmの範囲内で移動可能となっている。
【0021】
図1乃至図3に示すように、収容槽6の外周には、収容槽6内の磁性砥粒5を移動させる回転磁場を発生させて回転磁場により磁性砥粒5を加工対象物2の外表面に衝突させる電磁コイル7が設けられている。電磁コイル7は、その長手方向長さが収容槽6より極めて短く構成されている。また、電磁コイル7は、電磁コイル移動部8により収容槽6の長手方向に移動可能に構成されており、電磁コイル移動部8は、電磁コイル7のステータ7a(図4に示す)を保持するステータ保持ベース8aと、ステータ保持ベース8aを移動させる移動用アクチュエータ8bを備えている。図示例では、電磁コイル7は、内径が75〜82mm、長手方向長さが70〜85mmで、移動用アクチュエータ8bは、図1に示すC方向に移動速度を300mm/sまで調整でき、移動距離も1200mmまで調整できるようになっている。また、電磁コイル7には、電磁コイル7を連続稼働する際に発生する熱を冷却するための冷却ファン19が設けられている。
【0022】
電磁コイル7は、図4に示すように、円環状のステータ7aを備えており、ステータ7aの内周面には、全周にわたってステータ7aの軸芯に向かって複数のティース7bが並んで突設されている。複数のティース7bの隣接したティース7b間には、スロット7cが開口して形成されており、スロット7cには図示しないコイルが配設されるようになっている。そして、ステータ7a、ティース7b、及びスロット7cに配設されたコイルにより電磁コイル7が構成され、電磁コイル7のステータ7aの内側には、中空保持部材15、加工対象物2及び収容槽6(図示せず)がステータ7aと同軸に配置されるようになっている。
【0023】
電磁コイル7のステータ7aのコイルの巻線は、分布巻きにより構成されており、コイルには、図示しない三相交流電源から電力が印加されるようになっている。電磁コイル7のコイルに互いに位相のずれた電力が印加されると、電磁コイル7のステータ7aには互いに位相のずれた磁場が発生する。そして、電磁コイル7のステータ7aには、これらの磁場を合成したステータ7aの軸芯回りの磁場(回転磁場)が発生し、ステータ7aの内側に位置する中空保持部材15が同期回転速度に近い速度で回転するようになる。また、ステータ7aの周方向に移動しながらステータ7aの半径方向にティース7bを通って中空保持部材15の表面に向けて磁束が形成される。そして、収容槽6内の磁性砥粒5は、回転磁場により自転しながら軸芯回りを公転すると共に磁束に沿って収容槽6内を移動するようになり、中空保持部材15に保持された加工対象物2の外表面に磁性砥粒5が衝突することにより、加工対象物2の外表面が粗面化処理されるようになっている。
【0024】
電磁コイル7のステータ7aを電磁コイル移動部8により収容槽6に沿って移動させると、ステータ7aの内側に入り込む磁性砥粒5が回転磁場により移動すると共にステータ7aの外側に抜け出る磁性砥粒5がその移動を停止するようになる。磁性砥粒5が収容された収容槽6内の空間は、図示しない仕切部材により仕切られており、磁性砥粒5が仕切部材を越えて移動することが規制されている。そのために、磁性砥粒5は、ステータ7aと同期した移動ができなくなり、磁性砥粒5は、回転磁場より開放される衝撃による振動によって脱磁が行われ、磁化された磁性砥粒5の残留磁化が取り除かれるようになっている。
【0025】
ここで、図1に示すように、図示しない三相交流電源と電磁コイル7との間には、電力の周波数、電流値、電圧値を変更可能なインバータ装置20が設けられている。そして、電磁コイル7に印加される電力の周波数、電流値、電圧値を変更することにより、電磁コイル7で発生する回転磁場の強さを変更できるようにしている。また、図2に示すように、中空保持部材15の表面には回転検知センサ21が設けられており、中空保持部材15及び中空保持部材15に保持された加工対象物2の回転数を計測できるようになっている。
【0026】
本発明による表面処理装置1は、図4に示すように、電磁コイル7が、内周面に軸芯に向かって突設された複数のティース7bと、ティース7b間に形成されて図示しないコイルが配設されるスロット7cと、を備えたステータ7aで構成され、一部のティース7bの周方向の幅寸法Xが、他のティース7bの周方向の幅寸法Yより広く形成されている。即ち、ステータ7aの内周面に全周にわたって突設されたティース7bの周方向の幅寸法が均等でなく、そのために、ステータ7aの内周面に全周にわたって開口したスロット7cが等間隔で形成されていないものである。
【0027】
本発明によれば、ステータ7aのコイルに三相交流電源から電力が印加されると、ステータ7aの周方向に移動しながらステータ7aの半径方向にティース7bを通ってステータ7aの内側に配設された中空保持部材15の表面に向けて磁束が形成されるようになり、磁束に沿って収容槽6内の磁性砥粒5が移動して中空保持部材15に保持された加工対象物2の外表面に磁性砥粒5が衝突することにより、加工対象物2の外表面の粗面化処理が行われるようになっている。その際、同相のスロット間のティースの幅寸法Yより異相のスロット間のティースの幅寸法Xが広く形成されて、ステータ7aの内周面に突設されたティース7bの周方向の幅寸法が均等に形成されておらず、ステータ7aの内周面に開口したスロット7cが等間隔で形成されていない。
【0028】
一般に、電動機で使用されるステータは、その内周面に突設されたティースの周方向の幅寸法が均等に形成されると共に、ステータの内周面に開口するスロットが等間隔で形成されており、ステータからロータに流れる磁束がステータの周方向に均一となるように構成されている。これは、ステータからロータに流れる磁束がステータの周方向に均一でないと、ロータの回転に必要な周方向の電磁トルクが脈動して、振動などの問題を引き起こすからである。これに対して、本発明による電磁コイル7のステータ7aは、ステータ7aの軸芯位置に加工対象物2を保持する中空保持部材15を配置し、この中空保持部材15がステータ7aで発生する回転磁場により回転するものであれば、電動機のロータのように滑らかに回転する必要はない。即ち、電動機のようにステータからロータに流れる磁束が周方向に均一でなくとも十分であり、むしろ、ステータ7aの内側に配置された中空保持部材15の表面に向けて局所的に磁束が多く流れるようにすることが、磁束に沿って移動する磁性砥粒5の量を増加させることになり、中空保持部材15に保持した加工対象物2の外表面の処理効率を向上させることになる。
【0029】
そこで、本発明では、図4に示すように、電磁コイル7のステータ7aの一部のティース7bの周方向の幅寸法Xを他のティース7bの周方向の幅寸法Yより広く形成し、幅広のティース7bからステータ7aの軸芯位置に配置した中空保持部材15の表面へ流れる磁束の量を局所的に多くなるように構成した。このように、幅寸法が大きなティース7bを通って中空保持部材15の表面に向けた磁束が形成されるようになると、従来のように幅狭なティースを通って中空保持部材の表面に向けて形成される磁束のように、磁気飽和の影響で磁束の量が制限を受けるようなことがなくなる。そのために、ステータ7aのコイルに大電流を流すことなく、即ち小電流で効率よく、加工対象物2の表面で発生する磁束密度を増大させて磁束に沿って移動する磁性砥粒5の量を増大させることができ、加工対象物2の外表面に衝突する磁性砥粒5の量を増大させて所望する加工対象物2の表面粗さを得ることができる。
【0030】
ここで、図4に示した本発明による電磁コイル7のステータ7aと、図9に示した従来のスロット71cの開口面積を大きく形成したステータ71aについて、電流27A、電流周波数100Hzの条件で磁界解析(二次元過渡応答解析)を用いて解析したところ、図4に示した本発明によるステータ7aのD部で発生する磁束の流れが図5に示すようになり、一方、図9に示した従来のスロット71cの開口面積を大きく形成したステータ71aのE部で発生する磁束の流れが図6に示すようなることが確認された。図5及び図6に示した磁束の流れから、本発明によるステータ7aの幅寸法が大きなティース7bを通って中空保持部材15の表面に向けて形成される磁束の量が、従来の幅狭なティース71bを通って中空保持部材151の表面に向けて形成される磁束の量より増大していることが確認された。
【0031】
また、本発明による表面処理装置1は、図4に示すように、電磁コイル7のステータ7aの一部のティース7bの周方向の幅寸法Xが、他のティース7bの周方向の幅寸法Yより広く形成されているので、幅広のティース7bからステータ7aの軸芯位置に配置した中空保持部材15の表面へ流れる磁束の量が局所的に多くなり、そのために、ステータ7aの内周面に全周にわたって開口したスロット7cの開口面積を大きく形成しても、所望する加工対象物2の表面粗さを得るための磁束の量を幅広のティース7b部分で十分に確保することができ、ステータ7aの内周面に全周にわたって開口したスロット7cの開口面積を大きく形成することにより、スロット7cに配設されるコイルの巻数を増加させることができる。
【0032】
ここで、図4に示した本発明による電磁コイル7のステータ7aと、図8に示した従来のステータ71aについて、所望の表面粗さを有する加工対象物2を得るのに必要な中空保持部材15の表面での磁束密度250mTを発生させるための各ステータ7a、71aに流れる必要電流を比較すると、図8に示した従来のステータ71aは、スロット71cのコイルの巻数が50巻となり、その必要電流が31.1Aとなるのに対して、図4に示した本発明のステータ7aは、スロット7cのコイルの巻数が70巻となり、その必要電流が22.2Aとなることが判明した。
【0033】
このように、本発明による表面処理装置1は、図4に示すように、電磁コイル7のステータ7aの一部のティース7bの周方向の幅寸法Xが、他のティース7bの周方向の幅寸法Yより広く形成されているので、幅広のティース7bからステータ7aの軸芯位置に配置した中空保持部材15の表面へ流れる磁束の量を局所的に多くすることができ、また、所望する加工対象物2の表面粗さを得るための磁束の量を幅広のティース7b部分で十分に確保しつつステータ7aの内周面に全周にわたって開口したスロット7cの開口面積を大きく形成することができ、そのために、スロット7cに配設されるコイルの巻数を増加させることができ、小電流で中空保持部材15の表面で発生する磁束密度を十分に増大させるて、小電流で効率よく加工対象物の外表面の粗面化処理を行うことができる。
【0034】
本実施形態では、本発明による電磁コイル7のステータ7aの移動速度が60mm/s、ステータ7aの移動回数が2パス(1往復)、磁性砥粒5の量が150gとして、加工対象物2の外表面の粗面化処理を行うことにより、ステータ7aの必要電流が22.2Aで所望の表面粗さ(4.0〜6.5μm)の加工対象物2を得ることができた。
【0035】
図7は、本発明の他の実施形態の電磁コイル7のステータ7aの軸方向に直交した状態の概略図で、ステータ7aの内周面に開口形成されたスロット7cの総数を減少させ、1スロット当たりのスロット7cの開口面積が大きく形成されているものである。即ち、図4に示した一実施形態の電磁コイル7のステータ7aは、その内周に24個のスロット7cが開口形成されているが、本実施形態のステータ7aは、その内周に18個のスロット7cが開口形成されており、スロット7cの総数が減少している。このように、ステータ7aの内周に開口形成されたスロット7cの総数を減少させると、1スロット当たりのスロット7cの開口面積を大きく形成することができ、そのために、スロット7cに配設されるコイルの巻数をより増加させることができ、より小電流で中空保持部材15の表面で発生する磁束密度を十分に増大させて、より小電流で効率よく加工対象物2の外表面の粗面化処理を行うことができる。
【0036】
前記した実施形態には本発明の代表的な実施形態を示したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々変形することができる。
【0037】
即ち、前記実施形態では、電磁コイル7で発生する回転磁場により中空保持部材15が回転する構成としたが、中空保持部材15の端部に別途回転モータ等の回転機構を設けて、その回転力により中空保持部材15を回転させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 表面処理装置
2 加工対象物
3 装置ベース
4 保持ベース
5 磁性砥粒
6 収容槽
6a、6b 円筒状部材
6c カラー
7 電磁コイル
7a ステータ
7b ティース
7c スロット
8 電磁コイル移動部
9a、9b 保持部
15 中空保持部材
【先行技術文献】
【特許文献】
【0039】
【特許文献1】特開2007−83314号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に円筒状の加工対象物及び磁性砥粒を収容する収容槽と、
前記加工対象物を前記収容槽と同軸状に保持して回転させる保持回転手段と、
前記収容槽の外側に配置され、前記磁性砥粒を前記加工対象物の表面に衝突させる回転磁場を発生させる磁場発生部と、
該磁場発生部を前記収容槽の長手方向に移動させる移動手段と、
を備えた表面処理装置において、
前記磁場発生部が、内周面に軸芯に向かって突設された複数のティースと、該ティース間に形成されてコイルが配設されるスロットと、を備えたステータで構成され、
前記一部のティースの周方向の幅寸法が、他のティースの周方向の幅寸法より広く形成されている、
ことを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記ステータの内周面に開口形成された前記スロットの総数を減少させ、1スロット当たりのスロットの開口面積が大きく形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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