説明

表面処理装置

【課題】被処理物を異なる寸法のものに変更する際、反応ガスノズルの交換作業を省略する。
【解決手段】被処理物9を、表面処理装置1の支持部10の円筒ロール11,12によって支持する。反応ガスノズル20と円筒ロール11の周面(支持面)との間の処理空間90に、反応ガスノズル20の吹出し口29から重合性モノマーを含有する反応ガスを吹き出す。反応ガスノズル20の端部分の好ましくは側部に希薄化ノズル30を設ける。希薄化ノズル30を排気手段3又は希釈ガスの供給手段4に接続する。被処理物9の処理幅方向の幅寸法に応じて希薄化ノズル30を操作し、処理空間90における端側空間部92の反応ガスを中央空間部91より希薄にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物の表面を反応ガスにて処理する表面処理装置に関し、特に上記反応ガスの反応成分として重合性モノマーを用いる表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、連続シート状の樹脂フィルムからなる被処理物を表面処理する装置が記載されている。該装置は、円筒状のロール電極と、対向電極と、反応ガスノズルを備えている。連続シート状の被処理物の幅方向をロール電極の軸線方向(以下「処理幅方向」と称す)に向けて、これをロール電極に巻き付ける。ロール電極を回転させて被処理物を処理幅方向と直交する搬送方向に搬送する。反応ガスノズルは、処理幅方向にロール電極の軸長と同程度の長さを有している。反応ガスノズルのロール電極を向く先端面に吹出し口が設けられている。吹出し口は、反応ガスノズルの処理幅方向の一端部から他端部まで延びている。この吹出し口から反応ガスを被処理物に付き付ける。反応ガスは、アクリル酸等の重合性モノマーを含有している。この重合性モノマーが被処理物の表面上に凝縮する。続いて、被処理物が上記対向電極とロール電極との間の放電空間に導入される。これによって、重合性モノマーのプラズマ重合反応が起き、被処理物の表面にプラズマ重合膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−150372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、反応ガスノズルの処理幅方向の長さは、被処理物の幅寸法に合わせて設定されている。異なる寸法の被処理物を処理する際は、反応ガスノズルをその寸法に対応する大きさのものに交換する。しかし、反応ガスノズルには、反応ガスの供給配管の他、温調液のための温調用配管等が接続されている。このため、反応ガスノズルの交換の際は、これら配管の切離及び再接続等の煩雑な作業を要す。また、反応ガスノズルの長さは、近年の被処理物の大型化(処理幅の長大化)に伴って長大化しており、例えば2mに及ぶ場合もある。それだけ反応ガスノズルの重量も大きく、交換は容易でなく、作業に時間がかかる。被処理物を複数段にわたって処理するために反応ガスノズルが複数設けられている場合には、これら反応ガスノズルのすべてを交換しなければならず、交換作業の所要時間が一層長くなる。さらに、被処理物の寸法ごとに反応ガスノズルを用意するのは、費用が嵩む。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の解決手段として、例えば反応ガスノズルを処理幅方向に複数のノズル部に分割し、反応ガスの供給管を複数の分岐路に分岐させて、各ノズル部に上記分岐路の1つを接続しておくことが考えられる。そして、反応ガスノズルの規格より小さい寸法の被処理物を処理するときは、例えば処理幅方向の端部のノズル部に対応する分岐路を閉じ、処理幅方向の中央部のノズル部からだけ反応ガスを吹き出す。しかし、そうすると、閉じた分岐路の内部で反応ガス中の重合性モノマーが重合反応を起こし、該分岐路が詰まるおそれがある。
【0006】
別の解決手段として、反応ガスノズルの規格より小さい寸法の被処理物を処理するときは、反応ガスノズルの吹出し口の処理幅方向の端部に閉塞板を設けて、閉塞板より処理幅方向の内側の部分からだけ反応ガスが吹き出されるようにすることが考えられる。しかし、そうすると、閉塞板の近傍では反応ガスの流速が増幅され、処理幅方向の流速の均一性が損なわれる。また、反応ガスが邪魔板と接触したときに、反応ガス中の重合性モノマーが冷やされて液化し、液滴となって被処理物に塗布されるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記研究考察の下になされたものであり、被処理物に重合性モノマーを含有する反応ガスを接触させる表面処理装置であって、
(イ)処理幅方向に延びる支持面を有して、前記被処理物を前記支持面に被せて支持する支持部と、
(ロ)前記処理幅方向に延び、かつ前記支持面と対向して前記支持面との間に処理空間を画成するノズル面と、前記ノズル面の前記処理幅方向に連続または分散して開口された吹出し口とを有して、前記反応ガスを前記吹出し口から吹き出す反応ガスノズルと、
(ハ)前記吹出し口の前記処理幅方向の端側の部分に近接して設けられ、かつ排気手段又は希釈ガスの供給手段に接続され、前記処理空間の前記処理幅方向の端側の空間部の前記反応ガスを、前記処理空間の前記処理幅方向の中央の空間部の反応ガスより希薄にする希薄化ノズルと、
(ニ)前記被処理物の前記処理幅方向の幅寸法に応じて前記希薄化ノズルを操作する操作部と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
希薄化ノズルが排気手段に接続されている場合、希薄化ノズルを操作することで、処理空間の端側の空間部のガスを希薄化ノズルから排気すると、前記端側空間部のガス圧ひいては重合性モノマー蒸気の分圧が低下する。或いは、排気に伴なって外部の雰囲気ガスが前記端側空間部に引き込まれて反応ガスと混合し、重合性モノマー蒸気の濃度が低下する。また、希薄化ノズルが希釈ガス供給手段に接続されている場合、希薄化ノズルを操作することで、希釈ガスを希薄化ノズルから前記処理空間の端側の空間部に吹き出すと、反応ガスと希釈ガスとが混合して反応ガスが希釈され、重合性モノマー蒸気の濃度が低下する。これによって、前記端側空間部の反応ガスを、前記処理空間の処理幅方向の中央の空間部の反応ガスより希薄にすることができる。ここで、「希薄にする」とは、重合性モノマー蒸気の分圧が低下すること、及び重合性モノマー蒸気の濃度が低下することを含む。これによって、支持面における被処理物より処理幅方向の外側の露出部分に重合性モノマーが付着するのを防止又は抑制できる。よって、支持部のメンテナンスを容易化できる。被処理物を異なる寸法のものに変更する際は、操作部にて希薄化ノズルを開閉したり、作動・停止したりすれば済み、反応ガスノズルの交換作業を省略することができる。
【0009】
前記希薄化ノズルが、前記反応ガスノズルの処理幅方向の端部分における、前記支持面と前記ノズル面との対向方向及び前記処理幅方向の何れの方向とも直交する並び方向の側部に設けられていることが好ましい。これによって、端側空間部のガスを前記並び方向の側部から排気したり希釈したりできる。端側空間部が処理幅方向にある長さを有している場合であっても、該端側空間部内の反応ガスを偏り無く希薄化できる。
【0010】
前記希薄化ノズルが、前記処理幅方向に並べられた複数のノズル部を有し、前記操作部が、前記被処理物より前記処理幅方向の外側のノズル部を開放して作動させ、かつ前記被処理物の前記処理幅方向の縁より前記処理幅方向の内側のノズル部を閉止することが好ましい。これによって、被処理物の種々の幅寸法に合わせて、その被処理物より処理幅方向の外側の反応ガスを確実に希薄化でき、かつ被処理物上の反応ガスについては被処理物の幅方向の中央部上は勿論、幅方向の端部分上においても希薄化を回避又は抑制できる。したがって、被処理物の幅方向の中央部は勿論、端部分をも確実に処理することができる。
【0011】
前記支持部が、軸線を前記処理幅方向に向け、少なくとも外周部が金属からなる円筒状をなし、かつ前記軸線のまわりに回転される円筒ロールを含むことが好ましい。更に、表面処理装置が、前記円筒ロールと対向して前記円筒ロールとの間に放電を生成する対向電極を備えていることが好ましい。これによって、重合性モノマーをプラズマ重合させて被処理物の表面にプラズマ重合膜を形成できる。幅寸法が異なる被処理物を処理する際は、反応ガスノズルを交換しなくても、希薄化ノズルの操作によって、円筒ロールの周面の端部の露出部分にプラズマ重合膜が被膜されるのを抑制又は防止できる。この場合、支持部は、被処理物の搬送手段及び放電用の電極としての機能を兼ねる。
【0012】
前記表面処理は、大気圧近傍下にて行なうことが好ましい。ここで、大気圧近傍とは、1.013×10〜50.663×10Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×10〜10.664×10Paが好ましく、9.331×10〜10.397×10Paがより好ましい。
【0013】
本発明は、難接着性の光学樹脂フィルムの処理に好適であり、該難接着性の光学樹脂フィルムを易接着性の光学樹脂フィルムに接着するにあたり、難接着性の光学樹脂フィルムの接着性を向上させるのに好適である。
前記難接着性の光学樹脂フィルムの主成分としては、例えばトリアセテートセルロース(TAC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、シクロオレフィン重合体(COP)、シクロオレフィン共重合体(COC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリイミド(PI)等が挙げられる。
【0014】
前記易接着性の光学樹脂フィルムの主成分としては、例えばポリビニルアルコール(PVA)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)等が挙げられる。
【0015】
前記難接着性の光学樹脂フィルムの接着性向上のための表面処理等においては、前記反応成分として、重合性モノマーを用いることが好ましい。
前記重合性モノマーとしては、不飽和結合及び所定の官能基を有するモノマーが挙げられる。所定の官能基は、水酸基、カルボキシル基、アセチル基、グリシジル基、エポキシ基、炭素数1〜10のエステル基、スルホン基、アルデヒド基から選択されることが好ましく、特に、カルボキシル基や水酸基等の親水基が好ましい。
【0016】
不飽和結合及び水酸基を有するモノマーとしては、メタクリル酸エチレングリコール、アリルアルコール、メタクリル酸ヒドロキシエチル等が挙げられる。
不飽和結合及びカルボキシル基を有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マイレン酸、2−メタクリロイルプロピオン酸等が挙げられる。
不飽和結合及びアセチル基を有するモノマーとしては、酢酸ビニル等が挙げられる。
不飽和結合及びグリシジル基を有するモノマーとしては、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。
不飽和結合及びエステル基を有するモノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸2−エチル等が挙げられる。
不飽和結合及びアルデヒド基を有するモノマーとしては、アクリルアルデヒド、クロトンアルデヒド等が挙げられる。
【0017】
好ましくは、前記重合性モノマーは、エチレン性不飽和二重結合及びカルボキシル基を有するモノマーである。かかるモノマーとして、アクリル酸(CH=CHCOOH)、メタクリル酸(CH=C(CH)COOH)が挙げられる。前記重合性モノマーは、アクリル酸又はメタクリル酸であることが好ましい。これによって、難接着性樹脂フィルムの接着性を確実に高めることができる。前記重合性モノマーは、アクリル酸であることがより好ましい。
【0018】
前記重合性モノマーは、キャリアガスによって搬送することにしてもよい。キャリアガスは、好ましくは窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスから選択される。経済性の観点からは、キャリアガスとして窒素を用いるのが好ましい。
アクリル酸やメタクリル酸等の重合性モノマーの多くは、常温常圧で液相である。そのような重合性モノマーは、不活性ガス等のキャリアガス中に気化させるとよい。重合性モノマーをキャリアガス中に気化させる方法としては、重合性モノマー液の液面上の飽和蒸気をキャリアガスで押し出す方法、重合性モノマー液中にキャリアガスをバブリングする方法、重合性モノマー液を加熱して蒸発を促進させる方法等が挙げられる。押し出しと加熱、又はバブリングと加熱を併用してもよい。
【0019】
加熱して気化させる場合、加熱器の負担を考慮し、重合性モノマーは、沸点が300℃以下のものを選択するのが好ましい。また、重合性モノマーは、加熱により分解(化学変化)しないものを選択するのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、被処理物を異なる寸法のものに変更する際、操作部にて希薄化ノズルを操作すれば済み、反応ガスノズルの交換作業を省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係る表面処理装置を概略的に示す斜視図である。
【図2】上記表面プラズマ処理装置を、中寸法の被処理フィルムを処理する状態で示す正面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う、上記表面プラズマ処理装置の反応ガスノズルの断面図である。
【図4】図2のIV−IV線に沿う、上記反応ガスノズルの断面図である。
【図5】上記反応ガスノズルの底面図である。
【図6】上記表面プラズマ処理装置を、小寸法の被処理フィルムを処理する状態で示す正面図である。
【図7】上記表面プラズマ処理装置を、大寸法の被処理フィルムを処理する状態で示す正面図である。
【図8】本発明の第2実施形態を示す正面図である。
【図9】本発明の第3実施形態を示す正面図である。
【図10】本発明の第4実施形態を示す斜視図である。
【図11】本発明の第5実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。 図1は、本発明の第1実施形態を示したものである。本実施形態の被処理物9は、連続する樹脂フィルムにて構成されている。被処理フィルム9は、例えば偏光板の保護フィルムである。保護フィルム9は、トリアセテートセルロース(TAC)を主成分として含む。フィルム9の成分は、TACに限られず、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、シクロオレフィン重合体(COP)、シクロオレフィン共重合体(COC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリイミド(PI)等であってもよい。フィルム9の厚さは、例えば100μm程度である。図面において、フィルム9の厚さは誇張されている。
【0023】
上記保護フィルム9とPVAフィルムからなる偏光フィルムとが接着剤にて貼り合わされ、偏光板が構成される。接着剤としては、PVA水溶液等の水系接着剤が用いられる。接着工程に先立ち、表面処理装置1によって保護フィルム9を表面処理し、保護フィルム9の接着性を向上させる。
【0024】
図1に示すように、表面処理装置1は、被処理フィルム9の支持部10と、ガスノズル20,50を備えている。支持部10は、一対の円筒ロール11,12を備えている。円筒ロール11,12は、互いの軸線を平行に揃えて軸線と直交する方向に並べられている。円筒ロール11,12どうしの間に狭いギャップ93が形成されている。以下、円筒ロール11,12の軸線に沿う方向を「処理幅方向」と称し、上記軸線と直交(交差)する方向を「並び方向」と称す。処理幅方向及び並び方向は水平であるが、これに限られず、垂直でもよく、斜めでもよい。
【0025】
図1に示すように、連続シート状の被処理フィルム9が、その幅方向を処理幅方向に向け、円筒ロール11,12の上側の周面(処理幅方向に延びる支持面)に被せられて支持されている。被処理フィルム9の円筒ロール11,12間の部分は、ギャップ93に通されて、円筒ロール11,12よりも下方へ垂らされ、ガイドロール15,15にて折り返されている。円筒ロール11,12が、それぞれ自らの軸線まわりに、かつ互いに同期して同一方向(図1において時計周り)に回転される。これにより、被処理フィルム9が、円筒ロール11から円筒ロール12へ搬送される。支持部10は、被処理フィルム9の搬送手段を兼ねている。
【0026】
ここで、被処理フィルム9には種々の幅寸法(処理幅方向の寸法)がある。図2、図6、図7に示すように、この実施形態では、例えば大小3つの幅寸法の被処理フィルム9が処理対象になっている。以下、これら被処理フィルム9を互いに区別するときは、図7に示す大きな幅寸法の被処理フィルム9については符号を「9L」として表記し、図2に示す中間の幅寸法の被処理フィルム9については符号を「9M」として表記し、図6に示す小さい幅寸法の被処理フィルム9については符号を「9S」として表記する。
【0027】
表面処理装置1の寸法規格は、被処理フィルム9Lに対応している。図7に示すように、円筒ロール11,12は、被処理フィルム9Lの幅寸法に対応する軸長を有している。被処理フィルム9Lは、円筒ロール11,12の周面の処理幅方向のほぼ全体に被さる。詳細には、第1円筒ロール11の場合、被処理フィルム9Lは、後記吹出し口29と対応する部分の全体に被さる。図2及び図6に示すように、被処理フィルム9M,9Sは、円筒ロール11の周面の処理幅方向の両端部より内側の部分に被さる。円筒ロール11の周面の処理幅方向の両端部が露出した状態になる。被処理フィルム9Sの場合、被処理フィルム9Mよりも円筒ロール11の上記露出した部分11eの露出幅が大きい。
【0028】
図示は省略するが、円筒ロール11,12の内部には温調路(フィルム温調手段)が形成されている。この温調路に水等の温調媒体を流通させることで、円筒ロール11,12の温度ひいては被処理フィルム9の温度が後記反応ガス中の反応成分(重合性モノマー)の凝縮温度より低温になるよう調節される。
【0029】
円筒ロール11,12は、被処理フィルム9の支持部及び搬送手段としての機能だけでなく、プラズマ放電生成用の電極として機能をも兼ね備えている。円筒ロール11,12の少なくとも外周部は、金属にて構成されている。更に円筒ロール11,12の外周面には固体誘電体層が被膜されている。一対の円筒ロール11,12のうち一方が電源(図示省略)に接続されている。円筒ロール11,12のうち他方が電気的に接地されている。電源は、例えばパルス波状や交流正弦波状の電力を円筒ロール11,12に供給する。これにより、一対の円筒ロール11,12どうしの間に電界が印加され、ロール間ギャップ93内に大気圧近傍下においてプラズマが生成され、ロール間ギャップ93が放電空間になる。第1円筒ロール11に対して第2円筒ロール12は「対向電極」を構成する。
【0030】
図1に示すように、ロール間ギャップ93の上側に放電生成ガスノズル50が配置されている。放電生成ガスノズル50は、長手方向を処理幅方向に向け、円筒ロール11,12の軸長とほぼ同じ長さ延びている。放電生成ガスノズル50の処理幅方向と直交する断面は、下方に向かって先細になっている。放電生成ガスノズル50の下端部(先端部)が、円筒ロール11,12間の漸次狭くなる箇所に差し入れられ、ロール間ギャップ93の上端部に臨んでいる。放電生成ガスノズル50の下端には、処理幅方向に延びるスリット状の吹出し口(図示省略)が形成されている。
【0031】
図示は省略するが、放電生成ガスノズル50の内部には、放電生成ガス用の整流部が設けられている。該整流部は、処理幅方向に延びるチャンバー、処理幅方向に延びるスリット、処理幅方向に分散して配置された複数の小孔等を含み、その下流端が、上記吹出し口に連なっている。
【0032】
放電生成ガスノズル50は、放電生成ガス供給路5bを介して放電生成ガス源5aに接続されている。放電生成ガス源5aは、放電生成ガスとして例えば窒素(N)を供給する。放電生成ガスとして、窒素に代えて、アルゴン、ヘリウム、ネオン等の希ガスを用いてもよい。放電生成ガス源5aの放電生成ガス(N)が、放電生成ガス供給路5bから放電生成ガスノズル50に導入され、上記整流部によって処理幅方向に均一に分散されたうえで、放電生成ガスノズル50の下端の吹出し口からロール間ギャップ93に吹き出される。この放電生成ガスが、ロール間ギャップ93内でプラズマ化(励起、活性化、分解、イオン化等を含む)される。
【0033】
なお、放電生成ガスノズル50を、上下に反転させてロール間ギャップ93の下側(被処理フィルム9の三角形の折り返し部分の内部)に配置してもよい。ロール間ギャップ93を挟んで上下に一対の放電生成ガスノズル50を設けてもよい。
【0034】
図1に示すように、第1円筒ロール11の上方に反応ガスノズル20が配置されている。反応ガスノズル20は、長手方向を処理幅方向に向け、円筒ロール11の軸長とほぼ同じ長さ延びている。反応ガスノズル20の処理幅方向と直交する断面は、大略四角形になっている。図3に示すように、反応ガスノズル20の処理幅方向(図3の紙面と直交する方向)の両端部の下側部は、下方に向かうにしたがって並び方向(図3の左右)の幅が小さくなっており、斜めの切欠部26が形成されている。
【0035】
反応ガスノズル20と円筒ロール11が上下方向(処理幅方向と直交する対向方向)に対向している。図2及び図4に示すように、反応ガスノズル20の底面(ノズル面)と円筒ロール11の上側の周面(支持面)との間に吹付処理空間90が画成されている。処理空間90は、処理幅方向(図2において左右)に延びている。処理空間90における、反応ガスノズル20の斜め切欠部26より処理幅方向の内側の部分と円筒ロール11との間に画成された部分が、中央空間部91を構成している。処理空間90における、反応ガスノズル20の斜め切欠部26が在る端部分(後記希薄化ノズル30と対応する部分)と円筒ロール11との間に画成された部分が、端側空間部92を構成している。
【0036】
被処理フィルム9の一部(円筒ロール11に被せられた部分)が、処理空間90内に配置されている。図7に示すように、大きな幅の被処理フィルム9Lの場合、その幅方向の縁が、処理空間90の処理幅方向の端部に位置する。図6に示すように、小さな幅の被処理フィルム9Sの場合、その幅方向の縁が、処理空間90の中央空間部91と端側空間部92との境あたりに位置する。図2に示すように、中間の幅の被処理フィルム9Mの場合、その幅方向の縁が、端側空間部92の中間部に位置する。
【0037】
図4に示すように、反応ガスノズル20の内部には整流部25が設けられている。詳細な図示は省略するが、整流部25は、処理幅方向に延びるチャンバー、処理幅方向に延びるスリット、処理幅方向に分散して配置された複数の小孔等を含む。
【0038】
図4に示すように、反応ガスノズル20の底面(ノズル面)には、吹出し口29が形成されている。吹出し口29が、円筒ロール11に向かって開口している。図5に示すように、吹出し口29は、反応ガスノズル20の長手方向(処理幅方向)の一端部から他端部まで連続するスリット状になっている。整流部25の下流端が吹出し口29に連なっている。
吹出し口29が、処理幅方向に分散して配置された多数(複数)の小孔にて構成されていてもよい。
【0039】
吹出し口29の処理幅方向の長さは、処理空間90の処理幅方向の長さと等しい。吹出し口29の処理幅方向の全体が処理空間90に直接的に連なっている。吹出し口29の処理幅方向の中央部分が中央空間部91に直接的に連なっている。吹出し口29の処理幅方向の両端部分の各々が、処理幅方向の同じ端側の空間部92に直接的に連なっている。吹出し口29の処理幅方向の長さは、被処理フィルム9Lの幅寸法とほぼ等しく、被処理フィルム9M,9Sの幅寸法より大きい。
【0040】
図示は省略するが、反応ガスノズル20には温調往路管及び温調還路管が接続されていいる。反応ガスノズル20の内部には、温調路(ノズル温調手段)が形成されている。温調路は、反応ガスノズル20のほぼ全長にわたって延びている。上記温調往路管が温調路の上流端に接続されている。温調路の下流端に上記温調還路管が接続されている。水等の温調媒体が、温調往路管から温調路に導入され、温調路内を流通し、温調還路管へ導出される。これにより、反応ガスノズル20の温度が後記反応ガス中の反応成分(重合性モノマー)の凝縮温度より高温になるよう調節される。
【0041】
図1に示すように、反応ガスノズル20には反応ガス供給手段2が接続されている。反応ガス供給手段2は、重合性モノマー源2aと、気化器2cを有している。重合性モノマーとしては、アクリル酸が用いられている。重合性モノマー源2aに液体のアクリル酸が蓄えられている。重合性モノマー源2aは気化器2cに接続されている。液体のアクリル酸が気化器2cに供給される。気化器2cには加熱器(図示省略)が設けられており、この加熱器にて液体アクリル酸の温度を調節している。
【0042】
更に気化器2cにはキャリアガス源2bが接続されている。キャリアガス源2bは、キャリアガスを気化器2cに導入する。キャリアガスとして例えば窒素(N)が用いられている。気化器2c内において、キャリアガス(N)にアクリル酸が気化して混合され、反応ガス(アクリル酸AA+N)が生成される。キャリアガスは、気化器2c内の液体アクリル酸の液面より上側に導入してもよく、液体アクリル酸の内部に導入してバブリングしてもよい。キャリアガスの一部を気化器2cに導入し、残部は気化器2cに通さないことにし、気化器2cの下流側でキャリアガスの上記一部と残部を合流させることにしてもよい。液体アクリル酸の温度やキャリアガスの上記一部と残部の分配比によって、反応ガス中のアクリル酸濃度を調節できる。気化器2cの温度を調節することで、液体アクリル酸の気化量を調節してもよい。
【0043】
気化器2cから反応ガス供給路2eが延びている。供給路2eの先端が反応ガスノズル20に接続され、更には整流部25の上流端に連なっている。供給路2eを構成する管には、リボンヒータ等の供給路温調手段が設けられている。
【0044】
上記反応ガスが、気化器2cから反応ガスノズル20に導入され、整流部25にて処理幅方向に均一に分散されたうえで、吹出し口29の全体から処理空間90に吹き出される。
【0045】
図1〜図3に示すように、反応ガスノズル20には希薄化ノズル30が付設されている。希薄化ノズル30は、反応ガスノズル20の処理幅方向の両端部分における並び方向(図3において左右)の両側部に添えられている。反応ガスノズル20の処理幅方向の各端部分が、並び方向の両側の一対の希薄化ノズル30,30によって挟まれている。希薄化ノズル30は、処理空間90の中央空間部91と端側空間部92のうち端側空間部92とだけ対応するよう配置されている。反応ガスノズル20の処理幅方向の中央部には希薄化ノズル30が設けられていない。
【0046】
図2及び図5に示すように、各希薄化ノズル30は、複数(2以上)のノズル部を有している。これらノズル部が処理幅方向に並べられている。換言すると、各希薄化ノズル30が処理幅方向に複数のノズル部に分割されている。この実施形態では、希薄化ノズル30は、2つのノズル部31,32を含む。第1ノズル部31は、相対的に処理幅方向の外側に配置され、第2ノズル部32は、相対的に処理幅方向の中央側に配置されている。これらノズル部31,32が互いに接している。
【0047】
図1及び図3に示すように、ノズル部31,32は、互いにほぼ同一形状、同一構造のユニットになっている。ノズル部31,32の反応ガスノズル20と接する壁部の下側部分は、下方に向かうにしたがって並び方向(図3において左右)の内側へ斜めに突出している。この斜めの突出部分36が、反応ガスノズル20の斜めの切欠部26に嵌められている。斜め突出部分36の下端部が、吹出し口29の処理幅方向の端側の部分に近接している。
【0048】
図3に示すように、希薄化ノズル30(ノズル部31,32)の底面は、反応ガスノズル20の底面と面一になっている。希薄化ノズル30の底面は、円筒ロール11と対向し、端側空間部92を画成する要素になっている。希薄化ノズル30(ノズル部31,32)の底面が、反応ガスノズル20より下に突出していてもよく、反応ガスノズル20の底面より上に引っ込んでいてもよい。希薄化ノズル30の底面が、円筒ロール11の周面に沿う凹曲面になっていてもよい(図11参照)。
【0049】
図5に示すように、第1ノズル部31の底面には第1ノズル孔31eが形成されている。第1ノズル孔31eは、処理幅方向(図5において左右)に延びるスリット状になっている。ノズル部32の底面には、第2ノズル孔32eが形成されている。第2ノズル孔32eは、処理幅方向に延びるスリット状になっている。2つ(複数)のノズル孔31e,32eが、処理幅方向に一直線に並んでいる。処理幅方向に隣接するノズル孔31e,32eどうしの互いに対峙する端部間の距離d2は、なるべく小さいことが好ましく、例えばd2=2mm〜3mm程度である。ノズル孔31e,32eは、斜め突出部分36の下部に配置され、吹出し口29の処理幅方向の端側の部分に近接している。各ノズル孔31e,32eと吹出し口29の並び方向の離間距離d1は、好ましくはd1=2mm〜10mm程度である。
【0050】
この実施形態では、ノズル孔31e,32eの開口厚さ(並び方向の寸法)は、吹出し口29の開口厚さ(並び方向の寸法)より狭くなっているが、これに限られず、ノズル孔31e,32eの開口厚さが、吹出し口29の開口厚さと同程度になっていてもよく、反応ガスノズル20の開口厚さより大きくてもよい。
【0051】
図7に示すように、幅広の被処理フィルム9Lの幅方向の縁は、希薄化ノズル30の外側の端部(第1ノズル部31の第2ノズル部32側とは反対側の端部)と処理幅方向のほぼ同じ位置に配置される。図2に示すように、中間の幅寸法の被処理フィルム9Mの幅方向の縁は、希薄化ノズル30の中間部と処理幅方向のほぼ同じ位置に配置され、より詳細には、ノズル部31,32どうしの境と処理幅方向のほぼ同じ位置に配置される。図6に示すように、小さい幅の被処理フィルム9Sの幅方向の縁は、希薄化ノズル30の内側の端部(第2ノズル部32の第1ノズル部31とは反対側の端部)と処理幅方向のほぼ同じ位置に配置される。
【0052】
図1に示すように、希薄化ノズル30は、排気手段3に接続されている。排気手段3は、複数の排気枝路3c,3dと、これら排気枝路3c,3dが合流してなる排気路3bと、排気路3bに連なる排気源3aとを備えている。排気源3aは、排気ポンプにて構成されている。第1排気枝路3cが、第1ノズル部31に連なっている。第2排気枝路3dが、第2ノズル部32に連なっている。
【0053】
更に、表面処理装置1は、希薄化ノズル30を開閉操作する操作部40を備えている。操作部40は、開閉弁41,42を含む。第1開閉弁41は、第1排気枝路3cに設けられている。第2開閉弁42は、第2排気枝路3dに設けられている。開閉弁41,42を開くことで、ノズル部31,32が開放されて作動(ガス吸引)する。開閉弁41,42を開くことで、ノズル部31,32が閉止されて作動(ガス吸引)を停止する。開閉弁41,42ひいてはノズル部31,32は、処理すべきフィルム9の幅寸法に応じて開閉操作される。開閉弁41,42は、電磁弁であってもよく、手動式の弁であってもよい。開閉弁41,42が電磁弁である場合、操作部40が上記電磁弁をパイロット操作するコントローラを有していてもよい。
【0054】
上記のように構成された表面処理装置1による被処理フィルム9の表面処理方法を、希薄化ノズル30及び操作部40の動作を中心に説明する。
被処理フィルム9をロール11,12,15に掛け回し、ロール11,12を図1において時計周りに回転させ、被処理フィルム9を大略右方向へ搬送する。
気化器2cにおいてキャリアガス(N)にアクリル酸(AA)を気化させ、反応ガス(AA+N)を生成する。この反応ガスを供給路2eから反応ガスノズル20に導入する。反応ガスは、整流部25によって反応ガスノズル20の長手方向(処理幅方向)に均一に分散されたうえで、吹出し口29の全体から処理空間90に吹き出される。すなわち、反応ガスは、吹出し口29の処理幅方向の中央部分からも端側の部分からも吹き出される。吹出し口20の中央部分からの反応ガスは、処理空間90の中央空間部91に導入される。これによって、中央空間部91のアクリル酸蒸気(重合性モノマー)の濃度及び分圧が高まる。このアクリル酸蒸気が中央空間部91内の被処理フィルム9と接触すると冷やされて凝縮し、被処理フィルム9上にアクリル酸凝縮層(重合性モノマーの凝縮層)が形成される。吹出し口20の端側の部分からの反応ガスは、処理空間90の端側空間部92に導入される。
【0055】
ここで、被処理フィルム9の幅寸法に合わせて、操作部40によって希薄化ノズル30を開閉操作する。具体的には、被処理フィルム9より処理幅方向の外側のノズル部を開放して作動させ、被処理フィルム9の幅方向の縁より処理幅方向の内側のノズル部を閉止する。ここでは、図2に示すように、中間の幅寸法の被処理フィルム9Mを処理するものとする。上述したように、被処理フィルム9Mの幅方向の縁は、処理空間92の端側空間部92の中間部に位置している。円筒ロール11の周面の端部分11eが、被処理フィルム9Mより処理幅方向の外側に露出している。この場合、開閉弁41を開くことでノズル部31を開放して作動させ、かつ開閉弁42を閉じることでノズル部32を閉止する。これによって、処理空間92の端側空間部92における中間部より外側の空間部分では、吹出し口29からの反応ガスが並び方向の側方へ流れてノズル孔31eに直ちに吸い込まれる。そのため、アクリル酸蒸気(重合性モノマー蒸気)の分圧が低下する。更には、排気に伴なって外部の雰囲気ガスが端側空間部92の中間部より外側の空間部分に引き込まれて反応ガスと混合し、アクリル酸蒸気の濃度が低下する。したがって、端側空間部92における上記外側の空間部分の反応ガスが、中央空間部91の反応ガスより希薄になる。これによって、円筒ロール11の露出部分11eにアクリル酸が付着するのを防止又は抑制できる。希薄化ノズル30が反応ガスノズル20の並び方向の側部に設けられているから、円筒ロール11の露出部分11eが処理幅方向にある長さを有している場合であっても、端側空間部91内の反応ガスを処理幅方向に偏り無く希薄化でき、露出部分11eの全体についてアクリル酸付着を防止又は抑制できる。
【0056】
ノズル孔31eに吸い込まれた反応ガスは、ノズル部31に連なる排気枝路3c及び排気路3bを経て、排気源3aから排出される。この排気流量は、中央空間部91のガス流に影響が出ないよう調節することが好ましい。
【0057】
被処理フィルム9上の反応ガスについては希薄化を確実に回避できる。特に、希薄化ノズル30の第2ノズル部32を閉止することで、端側空間部92のうち中間部より内側の第2ノズル部32に対応する空間部分の反応ガスが希薄化されるのを回避できる。したがって、被処理フィルム9Mの幅方向の端部分についてもアクリル酸凝縮層を確実に形成できる。
【0058】
ロール11,12の回転に伴なって、被処理フィルム9の上記アクリル酸凝縮層が形成された部分が、ロール間ギャップ93へ送られる。ロール間ギャップ93には、放電生成ガスノズル50から放電生成ガス(N)が導入される。併行して、不図示の電源からの電力供給によって、ロール間ギャップ93に大気圧近傍のプラズマ放電が生成され、放電生成ガスがプラズマ化される。このプラズマが被処理フィルム9のアクリル酸凝縮層に照射され、プラズマ重合反応が起きる。これによって、被処理フィルム9の表面にアクリル酸のプラズマ重合膜(接着性促進層)が形成される。上記希薄化ノズル30の操作によって、被処理フィルム9の幅方向の中央部は勿論、端部分にもプラズマ重合膜を形成でき、かつ円筒ロール11の露出部分11eにはプラズマ重合膜が被膜されるのを回避又は抑制できる。よって、円筒ロール11のメンテナンスを容易化できる。
【0059】
処理後の被処理フィルム9をPVAフィルム等からなる偏光フィルムと接着することにより、偏光板を作製する。接着剤としてはPVA水溶液等の水系接着剤を用いる。このとき、上記アクリル酸のプラズマ重合膜によって被処理フィルム9と接着剤との接着強度を高めることができる。これによって、偏光板の品質を高めることができる。
【0060】
次に、図6に示すように、小さい幅の被処理フィルム9Sを表面処理装置1にて処理する場合の操作を説明する。上述したように、被処理フィルム9Sの幅方向の縁は、処理空間92の端側空間部92と中央空間部91の境付近に位置する。円筒ロール11の周面の端側空間部92を画成する端部分の全体が、被処理フィルム9Sより処理幅方向の外側に露出して、露出部分11eを構成する。この場合、開閉弁41,42を共に開くことで、ノズル部31,32を共に開放する。これによって、端側空間部92では、吹出し口29からの反応ガスが直ちにノズル孔31e,32eに吸い込まれる。したがって、端側空間部92全域の反応ガスが、中央空間部91の反応ガスより希薄になる。これによって、円筒ロール11の上記露出部分にアクリル酸が付着するのを防止又は抑制できる。被処理フィルム9Sの表面には、幅方向の全域にわたってアクリル酸凝縮層ひいてはプラズマ重合膜を形成できる。
【0061】
次に、図7に示すように、大きい幅の被処理フィルム9Lを表面処理装置1にて処理する場合の操作を説明する。この場合、円筒ロール11の吹出し口29と対応する部分の全体が、被処理フィルム9Lにて覆われる。そこで、開閉弁41,42を共に閉じることで、ノズル部31,32を共に閉止する。これによって、処理空間91の全体(中央空間部91及び端側空間部92)のアクリル酸蒸気の濃度を均一に、かつ高くできる。したがって、被処理フィルム9Lの幅方向の全体にアクリル酸凝縮層を確実に形成でき、ひいてはプラズマ重合膜を確実に形成できる。
【0062】
このように、表面処理装置1によれば、操作部40によって希薄化ノズル30を開閉操作することで、異なる幅寸法の被処理フィルム9に迅速に対応できる。処理すべきフィルム9の幅寸法が変わっても反応ガスノズル20を交換する必要はない。したがって、交換作業のための時間を省略できる。反応ガス供給管2e、並びに不図示の温調用往路管及び還路管等の切り離しや接続等の煩雑な作業は不要である。反応ガスノズル20が長大で重量が大きくても容易に対応できる。
希薄化ノズル30を処理幅方向に複数のノズル部31,32に分割することで、被処理フィルム9の種々の幅寸法に合わせて、その被処理フィルム9より処理幅方向の外側の反応ガスを確実に希薄化でき、かつ被処理フィルム9上の反応ガスについては十分高濃度に維持できる。したがって、被処理フィルム9の幅方向の全体を(中央部は勿論、端部分をも)確実に処理できる。
【0063】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において、既述の実施形態と重複する内容に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
希薄化ノズル30の分割ノズルの数は、2つに限られない。図8(第2実施形態)に示すように、希薄化ノズル30が3つのノズル部31〜33に分割されていてもよい。第1実施形態(図1〜図7)の第2ノズル部32の処理幅方向の内側に更に第3ノズル部33を設けてもよい。ノズル部33は、ノズル部31,32と実質的に同一構造になっている。ノズル部33の下面(底面)には第3のノズル孔33eが形成されている。ノズル孔33eは、ノズル部31,32のノズル孔31e,32eと処理幅方向に一列に並んでいる。排気手段3の第3排気枝路3eがノズル部33に接続されている。排気枝路3eに操作部40の開閉弁43が設けられている。反応ガスノズル20と円筒ロール11との間に処理空間20が画成されている。反応ガスノズル20におけるノズル部33より処理幅方向の内側の部分と、円筒ロール11との間が、中央空間部91になる。反応ガスノズル20のノズル部31,32,33と対応する部分と円筒ロール11との間が、端側空間部92になる。
【0064】
第2実施形態においても、操作部40によって、被処理フィルム9より処理幅方向の外側のノズル部を開放して作動させ、かつ被処理フィルムの幅方向の縁より処理幅方向の内側のノズル部を閉止する。これによって、幅寸法が異なる4種類の被処理フィルム9L,9M,9S,9SSに対応できる。
【0065】
具体的には、図8において三点鎖線にて示すように、幅広の被処理フィルム9Lを処理するときは、すべての開閉弁41,42,43を閉じることで、3つのノズル部31,32,33をすべて閉止する。、図8において実線にて示すように、中間幅の被処理フィルム9Mを処理するときは、開閉弁41を開き、かつ開閉弁42,43を閉じることで、ノズル部31を開放し、ノズル部32,33を閉止する。
【0066】
図8において一点鎖線にて示すように、小さい幅の被処理フィルム9Sを処理するときは、開閉弁41,42を開き、かつ開閉弁43を閉じることで、ノズル部31,32を開放し、ノズル部33を閉止する。ここで、被処理フィルム9Sの幅方向の縁は、ノズル部32,33どうしの境と処理幅方向の同じ位置に配置される。
【0067】
図8において二点鎖線にて示すように、被処理フィルム9Sよりも更に幅が小さい被処理フィルム9SSを処理するときは、すべての開閉弁41,42,43を開くことで、3つのノズル部31,32,33をすべて開放する。ここで、被処理フィルム9SSの幅方向の縁は、最も内側のノズル部33の内側の端部(ノズル部32側とは反対側の端部)と処理幅方向の同じ位置に配置される。これによって、各被処理フィルム9M,9S,9SSより処理幅方向の外側の端側空間部92の反応ガスを中央空間部91の反応ガスより希薄化できる。この結果、円筒ロール11の露出部分11eにアクリル酸が付着するのを防止又は抑制できる。しかも、被処理フィルム9L,9M,9S,9SSの表面には、幅方向の中央部分は勿論、幅方向の端部にもアクリル酸凝縮層を確実に形成でき、ひいてはプラズマ重合膜を確実に形成できる。
【0068】
図9(第3実施形態)に示すように、希薄化ノズル30が分割されておらず、単一のノズル部(ユニット)にて構成されていてもよい。この第3実施形態の表面処理装置1は、幅寸法が異なる2種類の被処理フィルム9L,9Mに対応することができる。図9の三点鎖線で示すように、被処理フィルム9Lを処理するときは、操作部40(開閉弁)を閉じることで希薄化ノズル30を閉止する。図9の実線で示すように、被処理フィルム9Mを処理するときは、操作部40(開閉弁)を開くことで希薄化ノズル30を開放する。これによって、被処理フィルム9Mより処理幅方向の外側の端側空間部92のガスを希薄化ノズル30のノズル孔30eから吸い込んで排気する。したがって、端側空間部92の反応ガスを中央空間部91の反応ガスより希薄化できる。この結果、円筒ロール11の露出部分11eにアクリル酸が付着するのを防止又は抑制できる。しかも、被処理フィルム9L,9Mの表面には、幅方向の中央部分は勿論、幅方向の端部にもアクリル酸凝縮層を確実に形成でき、ひいてはプラズマ重合膜を確実に形成できる。
【0069】
図10は、本発明の第4実施形態を示したものである。第4実施形態の支持部10は、3つの円筒ロール11,12,13を備えている。3つの円筒ロール11,12,13が平行に並べられている。これら円筒ロール11,12,13の上側の周面に被処理フィルム9が掛け回されている。被処理フィルム9の折り返し用のガイドロール15が、円筒ロール11,12間の下方だけでなく、円筒ロール12,13間の下方にも配置されている。反応ガスノズル20は、円筒ロール11の上方だけでなく、円筒ロール12の上方にも配置されている。各反応ガスノズル20の処理幅方向の両端部に希薄化ノズル30が設けられている。放電生成ガスノズル50は、円筒ロール11,12間だけでなく、円筒ロール12,13間にも配置されている。
【0070】
第4実施形態では、円筒ロール11上の処理空間90において被処理フィルム9上にアクリル酸凝縮膜を形成し、次いで円筒ロール11,12間の放電ギャップ93においてプラズマ重合膜を形成する。その後、円筒ロール12上の処理空間90において、上記プラズマ重合膜上に更にアクリル酸凝縮膜を形成し、次いで円筒ロール12,13間の放電ギャップ93においてプラズマ重合膜を再形成する。したがって、プラズマ重合膜の形成処理を二段階にわたって連続的に行なうことができ、プラズマ重合膜の厚さを十分に大きくでき、かつ重合度を高めることができる。
【0071】
第4実施形態においても、幅寸法が異なる被処理フィルム9を処理するときは、操作部40によって希薄化ノズル30を開閉操作すればよく、2つの反応ガスノズル20を交換する必要が無い。したがって、反応ガスノズル20の数が増えても、被処理フィルム9の幅寸法への対応作業が煩雑になることはない。
【0072】
図11は、本発明の第5実施形態を示したものである。この実施形態の表面処理装置1Bは、排気手段3に代えて、希釈ガス供給手段4を備えている。希釈ガス供給手段4は、希釈ガス源4aを備えている。希釈ガスとしては、不活性ガスを用いることが好ましい。ここでは、希釈ガスとして窒素(N)が用いられている。希釈ガスは、Nに限られず、空気でもよく、酸素含有ガス等でもよい。希釈ガス源4aから希釈ガス供給路4bが延びている。希釈ガス供給路4bが複数の供給枝路4cに分岐している。各供給枝路4cが、対応する希薄化ノズル34のノズル部に接続されている。各供給枝路4cに開閉弁44(操作部)が設けられている。各希薄化ノズル34に含まれるノズル部の数は、第1実施形態と同じく2つでもよく、第2実施形態と同じく3つでもよく、第3実施形態と同じく1つでもよく、4つ以上でもよい。希薄化ノズル34が複数のノズル部に分割されている場合、これらノズル部は、処理幅方向(図11の紙面と直交する方向)に並べられている。
【0073】
図11に示すように、第5実施形態の希薄化ノズル34の底部(先端部)は、反応ガスノズル20より下(円筒ロール11の側)に突出し、円筒ロール11の周面に沿っている。希薄化ノズル34と円筒ロール11との間の隙間が、反応ガスノズル20と円筒ロール11との間の隙間(処理空間90の上下方向の厚さ)より狭くなっている。ノズル孔34eが処理空間90に向かって開口している。希薄化ノズル34の底面と円筒ロール11との間の距離d3は、d3=1mm〜8mm程度が好ましい。なお、反応ガスノズル20の底面と円筒ロール11との間の距離d0は、d0=4mm〜20mm程度が好ましい。
【0074】
第5実施形態においても、被処理フィルム9の幅寸法に応じて、操作部40によって希薄化ノズル34を開閉操作する。具体的には、被処理フィルム9より処理幅方向の外側のノズル部を開放し、被処理フィルム9の幅方向の縁より処理幅方向の内側のノズル部を閉止する。これにより、上記開放されたノズル部のノズル孔34eから希釈ガスが端側空間部92に吹き出される。この希釈ガスが、端側空間部92内で吹出し口29の端部からの反応ガス(AA+N)と混合される。希薄化ノズル34と円筒ロール11との間の隙間が反応ガスノズル20と円筒ロール11との間の端側空間部92の厚さより狭いため(d3<d0)、希釈ガスを上記端側空間部92に確実に導くことができ、上記端側空間部92の反応ガスと確実に混合できる。したがって、端側空間部92における反応ガスのアクリル酸濃度が希釈され、中央空間部91より希薄化される。これによって、円筒ロール11の露出部分11eにアクリル酸が付着するのを抑制又は防止できる。端側空間部92内の上記混合ガスは、端側空間部92の処理幅方向の端部から排出される。
【0075】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、希薄化ノズル30,34が、4つ以上のノズル部に分割されていてもよい。希薄化ノズル30が、4つ以上のノズル部を含んでいてもよい。
希薄化ノズル30,34が、反応ガスノズル20の並び方向の片側にだけ設けられていてもよい。その場合、希薄化ノズル30,34は、反応ガスノズル20よりもフィルム搬送方向の上流側(図3において左)に配置されていてもよく、反応ガスノズル20よりもフィルム搬送方向の下流側(図3において右)に配置されていてもよい。
希薄化ノズル30,34が反応ガスノズル20の処理幅方向の外側に配置されていてもよい。
被処理物9の幅寸法に応じて、反応ガスノズル20の底面(ノズル面)の処理幅方向の端側の部分を中央部分より突出させてもよく中央部分より引っ込ませてもよい。
支持部10が4つ以上のロールを有していてもよく、プラズマ重合膜の形成処理を三段階以上にわたって連続的に行なうことにしてもよい。
複数の実施形態の各要素を互いに組み合わせてもよい。例えば、第1〜第3実施形態の希薄化ノズル30の底部を、第5実施形態と同様に反応ガスノズル20よりロール11側に突出させてもよい。第5実施形態の希薄化ノズル34の底面を、第1〜第3実施形態と同様に反応ガスノズル20の底面と面一にしてもよい。
支持部10は、円筒ロール11,12に限られず、平板状のステージであってもよく、コンベアであってもよい。
重合性モノマーは、アクリル酸に限られず、メタクリル酸等の他のモノマーであってもよい。
被処理物9は、樹脂フィルムに限られず、ガラス基板や半導体ウェハ等であってもよい。
本発明は、偏光板用保護フィルムの表面処理に限られず、種々の被処理物の表面処理に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、例えばフラットパネルディスプレイ(FPD)の偏光板や半導体ウェハの製造に適用可能である。
【符号の説明】
【0077】
1,1B 表面処理装置
2 反応ガス供給手段
2a 重合性モノマー源
2b キャリアガス源
2c 気化器
2e 供給路
3 排気手段
3a 排気源
3b 排気路
3c,3d,3e 排気枝路
4 希釈ガス供給手段
4a 希釈ガス源
4b 希釈ガス供給路
4c 供給枝路
5a 放電生成ガス源
5b 放電生成ガス供給路
9 被処理フィルム(被処理物)
10 支持部
11 円筒ロール、第1電極
12 円筒ロール、第2電極
13 円筒ロール
15 ガイドロール
20 反応ガスノズル
25 整流部26 斜め切欠部
29 吹出し口
30,34 希薄化ノズル
31,32,33 ノズル部
31e,32e,33e,34e ノズル孔
36 斜め突出部
40 操作部
41,42,43,44 開閉弁
50 放電生成ガスノズル
90 吹付処理空間(処理空間)
91 中央空間部
92 端側空間部
93 ロール間ギャップ(放電処理空間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物に重合性モノマーを含有する反応ガスを接触させる表面処理装置であって、
(イ)処理幅方向に延びる支持面を有して、前記被処理物を前記支持面に被せて支持する支持部と、
(ロ)前記処理幅方向に延び、かつ前記支持面と対向して前記支持面との間に処理空間を画成するノズル面と、前記ノズル面の前記処理幅方向に連続または分散して開口された吹出し口とを有して、前記反応ガスを前記吹出し口から吹き出す反応ガスノズルと、
(ハ)前記吹出し口の前記処理幅方向の端側の部分に近接して設けられ、かつ排気手段又は希釈ガスの供給手段に接続され、前記処理空間の前記処理幅方向の端側の空間部の前記反応ガスを、前記処理空間の前記処理幅方向の中央の空間部の反応ガスより希薄にする希薄化ノズルと、
(ニ)前記被処理物の前記処理幅方向の幅寸法に応じて前記希薄化ノズルを操作する操作部と、
を備えたことを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記希薄化ノズルが、前記反応ガスノズルの処理幅方向の端部分における、前記支持面と前記ノズル面との対向方向及び前記処理幅方向の何れの方向とも直交する方向の側部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記希薄化ノズルが、前記処理幅方向に並べられた複数のノズル部を有し、前記操作部が、前記被処理物より前記処理幅方向の外側のノズル部を開放して作動させ、かつ前記被処理物の前記処理幅方向の縁より前記処理幅方向の内側のノズル部を閉止することを特徴とする請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記支持部が、軸線を前記処理幅方向に向け、少なくとも外周部が金属からなる円筒状をなし、かつ前記軸線のまわりに回転される円筒ロールを含み、
更に、前記円筒ロールと対向して前記円筒ロールとの間に放電を生成する対向電極を備えたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−197396(P2012−197396A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63944(P2011−63944)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】