説明

表面増強ラマン分光法(SERS)活性複合体ナノ粒子、前記の製造の方法及び前記の使用の方法

ナノ粒子、これを準備する方法及びナノ粒子の実施形態を使用してターゲット分子を検出する方法が開示される。例示するナノ粒子の一つの実施形態は、とりわけ、表面増強ラマン分光法活性複合体ナノ構造を含む。表面増強ラマン分光法活性複合体ナノ構造は、コアと、少なくとも一つのレポーター分子と、カプセル化物質を含む。レポーター分子は、コアに結合されている。レポーター分子は、イソチオシアン酸塩染料、多硫化有機染料、多ヘテロ硫化有機染料、ベンゾトリアゾール染料及びこれらの組み合わせから選択される。カプセル化物質はコア及びレポーター分子の上に配置される。カプセル化物質によるカプセル化の後に、レポーター分子は測定可能な表面増強ラマン分光法形跡を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対する相互参照)本出願は、共に係属中の米国仮特許出願「表面増強分光法(SERS)活性複合体ナノ粒子、前記の製造の方法及び前記の使用の方法」(2003年8月18日出願、付与シリアル番号60/496,104)及び米国特許出願「表面増強ラマン分光法(SERS)活性複合体ナノ粒子、前記の製造の方法及び前記の使用の方法」(2004年8月17日出願)について優先権を主張し、各出願全体は本明細書に参考文献として包含される。
【0002】
(連邦により出資された研究又は開発に関する宣言)米国政府は、本発明の実施形態について支払済のライセンスと、米国政府の国立健康研究所(R01 GM58173)及び科学研究MURIプログラム空軍事務局(認可F49620-02-1-0381)により与えられた認可の条件により規定された通りの正当な文言に基づいて限られた状況において特許の所有者に他者にライセンスを与えることを要求する権利を有し得る。
【0003】
(技術分野)本発明は、一般に表面増強分光法と、表面増強ラマン分光法において使用されるナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0004】
(背景)増強機構の基礎的研究と超高感度光学検出及び分光法の潜在的な用途の両者のために、単一分子及び単一ナノ粒子表面増強ラマン拡散(SERS)の発見は相当な興味を引いた。多数の研究者は、増強係数が1014〜1015の大きさであることを示し、蛍光有機染料の増強係数と同程度又はこれより大きくさえあるラマン拡散交差部分に導いた。この非常に大きい増強は、室温にて単一のナノ粒子表面上又は二つの粒子の接続点に位置する単一分子の分光学的検出及び識別を可能にする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単一分子SERSの構造的及び機械的両方の局面に関して進歩がなされたが、この大きな増強効果が分析化学、分子生物学又は医療診断における適用のためにどのように利用され得るかは未だ不明確である。一つの大きな問題はSERSの内在する界面性であり、前記界面性は分子が金属粗面上において吸収することを要求する。ペプチド、蛋白質及び核酸のような生物学的分子について、表面増強ラマンデータは特に取得が困難であり、解釈が難しく、かつ再生成が不可能に近い。従って、生物学的分子についてのSERSデータを改善する産業内の必要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(要旨)ナノ粒子、ナノ粒子の準備の方法、及びナノ粒子の実施形態を使用してターゲット分子を検出する方法が開示される。例示するナノ粒子の一つの実施形態は、とりわけ表面増強ラマン分光法活性複合体ナノ構造を含む。表面増強ラマン分光法活性複合体ナノ構造は、コア、レポーター分子及びカプセル化物質を含む。レポーター分子は、コアに結合されている。レポーター分子は、イソチオシアン酸塩染料、多硫化有機染料、多ヘテロ硫化有機染料、ベンゾトリアゾール染料及び前記の組み合わせから選択される。カプセル化物質は、コア及びレポーター分子の上に配置される。カプセル化されたレポーター分子は、測定可能な表面増強ラマン分光法形跡を有する。
【0007】
ナノ粒子の異なる実施形態は、とりわけコア、少なくとも一つのレポーター分子及びカプセル化物質を含む。レポーター分子はコア上に配置され、コア上においてコアの表面の約15〜50パーセントを覆う。カプセル化物質はコア及びレポーター分子を覆う。カプセル化物質によるカプセル化の後、レポーター分子は測定可能な表面増強ラマン分光法形跡を有する。
【0008】
例示する方法の一つの実施形態は、とりわけコアをレポーター分子に導入することと、カプセル化物質をコア及びレポーター分子上に配置することを含む。レポーター分子はコアに結合し、レポーター分子はイソチオシアン酸塩染料、多硫化有機染料、多ヘテロ硫化有機染料、ベンゾトリアゾール染料及び/又は前記の組み合わせから選択される。カプセル化物質を配置した後、レポーター分子は測定可能な表面増強ラマン分光法形跡を有する。
【0009】
例示するターゲット分子を検出する方法の一つの実施形態は、とりわけ上述のようにターゲット分子をナノ構造に付加することと、放射線源によりレポーター分子を励起することと、ターゲット分子の存在を決定するためにレポーター分子に対応するナノ構造の表面増強ラマン分光法スペクトルを測定することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(詳細な説明)本発明の目的によれば、本明細書において実現され広く説明されるように、本発明の実施形態は、一つの局面において、表面増強ラマン分光法(SERS)活性複合体ナノ構造、前記ナノ構造を製造する方法及び前記ナノ構造を使用する方法に関連する。SERS活性複合体ナノ構造は識別可能であり、独立して検出され得る。この点において、SERS活性複合体ナノ構造は特定のターゲット分子と相互作用し、ターゲット分子の検出を可能にする。加えて、SERS活性複合体ナノ構造は、多重化システムと共に符号化システムにおいても使用され得る。SERS活性複合体ナノ構造は、フローサイトメトリー、化学配列システム、生物分子配列システム、バイオセンシング、バイオラベリング、高速スクリーニング、遺伝子発現、蛋白質研究、医療診断、診断ライブラリ及びマイクロ流体システムのような、しかしこれらに限られない多数の領域において使用され得る。
【0011】
SERS活性複合体ナノ構造は、コアと、レポーター分子と、カプセル化物質を含むが、これらに限られない。レポーター分子はコアに配置(結合)される一方、カプセル化物質はコアとレポーター分子を覆って保護する。理論により拘束されることを意図しないが、コアはSERSスペクトルを光学的に改善する一方、レポーター分子は明確に識別可能なスペクトルSERS形跡を提供する。コア及びレポーター分子の上にカプセル化物質を配置することは、レポーター分子の分光SERS形跡に実質的な影響を与えない一方、コア及びレポーター分子を保護する。他のSERS粒子とは違い、本明細書において説明されるSERS活性複合体ナノ構造は強いSERS強度(約1秒間に1mWレーザー出力により約10,000カウント以上)を有する。いくつかの実施形態において、SERS活性複合体ナノ構造は測定可能な表面増強共鳴ラマン分光法形跡を有する。
【0012】
図1は、SERS活性複合体ナノ構造10の代表的な実施形態を示す。SERS活性複合体ナノ構造10は、コア12と、レポーター分子14と、カプセル化物質16を含むが、これらに限られない。加えて、コア12とカプセル化物質16の間の結合を支援するために、結合剤がコア12上に配置されることが可能である。ある実施形態において、レポーター分子14は沈殿中の結合剤及び/又はカプセル化物質16による置換に対して安定している硫黄−金結合を形成する。
【0013】
図2Aから図2Cは、図1に示されたSERS活性複合体ナノ構造10を製造する実施形態を示す。図2Aはコア12を示す一方、図2Bはレポーター分子14がその上に配置されたコア12を示す。図2Cはコア12及びレポーター分子14の上に配置されたカプセル化物質16を示す。
【0014】
コア12は金属のような材料により作られ得るが、これに限られない。コア12は金属性コアであり得る。具体的には、コア12は金、銀、銅、遷移金属(例えばZn、Ni及びCd)、半導体(例えばCdSe、CdS及びInAs)及び前記の組み合わせのような、しかしこれらには限られない物質から作られ得る。ある実施形態においては、コア12は金のコアであり得る。
【0015】
レポーター分子14は、イソチオシアン酸塩基を有する有機染料分子(以下「イソチオシアン酸塩染料」とする。)、二以上の硫黄原子を有する有機染料分子(以下「多硫化有機染料」とする。)、それぞれ硫黄原子を包含する二以上の複素環を有する有機染料分子(以下「多ヘテロ硫化有機染料」とする。)及びベンゾトリアゾール染料のような、しかしこれらに限られない分子を含み得る。加えて、レポーター分子14は共鳴ラマンレポーターを含み、共鳴ラマンレポーターが可視スペクトルにおいて強い電子遷移を有することにより、共鳴ラマン増強がさらに信号強度を増幅するために使用され得る。共鳴ラマンレポーターは、有機染料、生体分子、ポルフィリン及び金属ポルフィリンを含むが、これらに限られない。具体的には、共鳴ラマンレポーターは、マラカイトグリーンイソチオシアン酸塩、テトラメチルローダミン−5−イソチオシアン酸塩、X−ローダミン−5−イソチオシアン酸塩、X−ローダミン−6−イソチオシアン酸塩及び3,3’−ジエチルシアジカルボシアニンヨウジド及び前記の組み合わせを含み得るが、これらに限られない。
【0016】
さらに、レポーター分子14はチアシアニン染料、ジチアシアニン染料、チアカルボシアニン染料(例えばチアカルボシアニン染料、チアジカルボシアニン染料及びチアトリカルボシアニン染料)及びジチアカルボシアニン染料(例えばジチアカルボシアニン染料、ジチアジカルボシアニン染料及びジチアトリカルボシアニン染料)及び前記の組み合わせを含み得るが、これらに限られない。
【0017】
さらにその上、レポーター分子14は3,3’−ジエチル −9−メチルチアカルボシアニンヨウジド、1,1’−ジエチル−2,2’−キノトリカルボシアニンヨウジド、3,3’−ジエチルチアシアニンヨウジド、4−アセトアミド−4’−イソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸2ナトリウム塩、ベンゾフェノン−4−イソチオシアン酸塩,4,4’−ジイソチオシアナトジヒドロスチルベン −2,2’−ジスルホン酸2ナトリウム塩、4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸2ナトリウム塩、N−(4−(6−ジメチルアミノ−2−ベンゾフラニル)フェニルイソチオシアン酸塩、7−ジメチルアミノ−4−メチルクマリン−3−イソチオシアン酸塩、エオシン−5−イソチオシアン酸塩、エリトロシン−5−イソチオシアン酸塩、フルオレセイン−5−イソチオシアン酸塩、(S)−1−p−イソチオシアナトベンジルジエチレントリアミン5酢酸、オレゴングリーン(Oregon Green、登録商標)488イソチオシアン酸塩、テトラメチルローダミン−5−イソチオシアン酸塩、テトラメチルローダミン−6−イソチオシアン酸塩、テトラメチルローダミン−5−(及び−6−)イソチオシアン酸塩、X−ローダミン−5−(及び−6−)イソチオシアン酸塩及びこれらの組み合わせを含み得る。
【0018】
ベンゾトリアゾール染料は、アゾベンゾトリアゾール−3,5−ジメトキシフェニルアミン及びジメトキシ−4−(6’−アゾベンゾトリアゾール)フェノールを含み得るが、これらに限られない。
【0019】
上述のように、レポーター分子14は、結合剤及びカプセル化物質16の沈殿に対して安定している硫黄−金結合を形成することが可能なイソチオシアン酸塩基又は二以上の硫黄原子(例えば、イソチオシアン酸塩染料、多硫化有機染料及び多ヘテロ硫化有機染料)を有し得る。加えて、前記レポーター分子14は、可視及び近赤外スペクトル(400〜850nm)において強い電子遷移を有することにより、信号強度を増加させるために共鳴ラマン増強が使用され得る。
【0020】
カプセル化物質16は、シリカ、ポリマー、金属酸化物、金属硫化物、ペプチド、蛋白質、炭水化物、脂質、核酸及び前記の組み合わせ並びに前記それぞれの塩複合体のような材料を含み得るが、これらに限られない。ポリマーは、合成ポリマー、生体ポリマー及びこれらの組み合わせを含み得るが、これらに限られない。カプセル化物質16は、ストレプトアビジン、アビジン、抗体(二次及び一次)及び前記の組み合わせを含み得るが、これらに限られない。金属酸化物は、酸化鉄、酸化銅、二酸化チタン、前記の金属硫化物及び前記の組み合わせを含み得るが、これらに限られない。具体的には、カプセル化物質16はシリカを含み得る。
【0021】
SERS活性複合体ナノ構造10は、約250ナノメートル(nm)、約10〜150nm及び約30〜90nmより小さい球状の直径又は実質的に球状の直径を有し得る。コア12の直径は、約10〜200nm、約20〜100nm及び約40〜80nmである。カプセル化物質16の厚さは、約1〜50nm、約2〜50nm及び約5〜10nmである。一般に、カプセル化物質の直径が大きいほど、提供される保護はより良くなる。しかしながら、増加した直径により、SERS活性複合体ナノ構造の全体のサイズは増加する。適切な寸法の選択は、特定の用途に基づいて決定され得る。
【0022】
一般に、レポーター分子14はコア12の表面の約1〜75パーセント(例えば、レポーター分子がコア粒子表面の約1〜75パーセント上において吸収する)、コア12の表面の約15〜50パーセント、コア12の表面の約15〜30パーセント、及びコア12の表面の約20〜25パーセントを覆う。
【0023】
結合剤を含む実施形態においては、結合剤はコア12の表面の約1〜100パーセント、コア12の表面の約40〜60パーセント、及びコア12の表面の約45〜50パーセントを覆う。レポーター分子14は、コア12の表面の約1〜75パーセント、コア12の表面の約15〜50パーセント、コア12の表面の約15〜30パーセント、及びコア12の表面の約20〜25パーセントを覆う。
【0024】
上記の実施形態は表面増強ラマン拡散に焦点を合わせたが、多数の類似の方法が同等に良く適用され、本発明の範囲内に含まれ得る。例えば、レポーター分子は共鳴励起レポーター分子であることにより、SERS活性複合体ナノ構造を表面増強共鳴ラマン拡散(SERRS)ナノ構造とし得る。同様に、表面増強ハイパーラマン拡散(SEHRS)も、金属粗面において(共鳴類似SEHRRSと共に)起こり得る。実際に、特定のSERS活性複合体ナノ構造の識別は、SERS、SERRS、SEHRS及びSEHRRSを含む光学的反応測定(interrogation)方法の組み合わせに基礎を置くことができた。
【0025】
SERS活性複合体ナノ構造は、一以上の方法により準備され得る。例えば、SERS活性複合体ナノ構造は、レポーター分子がコアに結合するような条件の下においてコアをレポーター分子と混合することにより準備され得る。具体的には、コアは約2.5×10−8M〜1.25×10−7M及び約7.5×10−8Mの濃度を有するレポーター分子と、約1〜30分間混合される。その後、ある実施形態においては、結合剤が、コア上に配置されたレポーター分子を有するコアと混合される。具体的には、結合剤は約2.5×10−7Mの最終的な濃度まで、約1〜30分間に亘り加えられる。その後、コア上に配置されたレポーター分子を有する(及びいくつかの実施形態においてはコア上に配置された結合剤を有する)コアは、約9〜11のpHにおいて約24〜96時間に亘りカプセル化物質と混合される。SERS活性複合体ナノ構造に関する追加の詳細は、実施例1において述べられる。
【0026】
SERS活性複合体ナノ構造の他の実施形態において、カプセル化物質は生体分子であって約30分から4時間に亘り加えられる。典型的には、結合剤は加えられない。pHは、少なくとも部分的には、使用される生体分子に依存し約5から11まで変動し得る。
【0027】
SERS活性複合体ナノ構造は、プローブ分子に付加され得る。SERS活性複合体ナノ構造は、(例えばアッセイ内の)構造に付加され、又は(例えばマイクロ流体システムにおいて若しくはフローサイトメトリーにおいて)自由に浮遊し得る。プローブ分子は、直接的又はリンカーを介して間接的に、SERS活性複合体ナノ構造にリンクされることが可能な任意の分子であり得る。プローブ分子は、安定した物理的及び/又は化学的関係により、SERS活性複合体ナノ構造に付加され得る。
【0028】
プローブ分子は、検出が望まれる一以上のターゲット分子についての親和性を有する。例えば、ターゲット分子が核酸配列である場合、ターゲットとプローブのハイブリッド形成が起こるように、プローブ分子はターゲット分子配列に対して実質的に補完的であるように選択されるべきである。「実質的に補完的である」の語は、選択された反応条件下においてプローブ分子がハイブリッド形成するために十分に補完的であることを意味する。
【0029】
好適には、プローブ分子とターゲット分子はポリペプチド(例えば抗体(単クローン性又は多クローン性)のような、しかしこれに限られない蛋白質)、核酸(単量体及びオリゴマーの両方)、多糖類、糖、脂肪酸、ステロイド、プリン類、ピリミジン、薬物、配位子又はこれらの組み合わせである。
【0030】
「ポリペプチド」又は「蛋白質」の語句の使用は、自然から分離されたもの、ウィルス、微生物、植物若しくは動物(例えば人間のような哺乳類)由来のもの、又は合成を問わず、蛋白質、糖タンパク質、ポリペプチド、ペプチド及び同種の物並びにこれらの断片を包含することを意図している。好適な蛋白質又はその断片は、抗原、抗原のエピトープ、抗体又は抗体の抗原的反応性断片を含むが、これらに限られない。
【0031】
「核酸」の語句の使用は、自然から分離されたもの、ウィルス、微生物、植物若しくは動物(例えば人間のような哺乳類)由来のもの、合成物質、一本鎖、二本鎖、自然若しくは非自然的に生じるヌクレオチドを含むもの又は化学的に変更されたものを問わず、DNA及びRNAを包含することを意図している。
【0032】
本発明は、試料内に一以上のターゲット分子を検出する方法を提供する。前記方法は、ターゲット分子をナノ構造に付加することと、当該ナノ構造のSERSスペクトルを測定することを含み、レポーター分子についての特定のSERSスペクトルの検出は、プローブ分子についての特定のターゲット分子の存在を示す。SERS活性複合体ナノ構造は、化学配列システム及び生体分子配列システムにおいて、一以上のターゲット分子の存在を検出するために使用され得る。加えて、SERS活性複合体ナノ構造は、種々のタイプのシステムにおける符号化及び多重化能力を向上させるために使用され得る。
【0033】
ある実施形態において、一以上のSERS活性複合体ナノ構造を使用して一以上のターゲット分子を検出するために、フロー血球計算器が多重化アッセイ手順において使用され得る。フロー血球計算器は、粒子の光学的特性に基づいて流体混合物において特定の粒子(SERS活性複合体ナノ構造)を分析する光学技術である。フロー血球計算器は、SERS活性複合体ナノ構造の流動停止を流体力学的に細い流れに集中させることにより、SERS活性複合体ナノ構造は実質的に単一の列により流れを下って検査領域を通過する。SERS活性複合体ナノ構造が検査領域を通って流れると、レーザー光線のような焦点を合わされた光線が当該SERS活性複合体ナノ構造を照射する。フロー血球計算器内の光学検出器は、SERS活性複合体ナノ構造と相互作用すると、光の特定の特性を測定する。一般に使用されるフロー血球計算器は、一以上の波長においてSERS活性複合体ナノ構造発光を測定することができる。
【0034】
SERS活性複合体ナノ構造と一以上のターゲット分子について親和性を有する一以上のプローブを使用して、一以上のターゲット分子が検出され得る。各SERS活性複合体ナノ構造は、プローブに対応するレポーター分子を有する。フロー血球計算器に導入される前に、特定のターゲット分子についての特定のSERS活性複合体ナノ構造が一以上のターゲット分子を含み得る試料と混合される。SERS活性複合体ナノ構造は、プローブが親和性を有する対応するターゲット分子と相互作用(例えば結合又はハイブリッド形成)する。
【0035】
次に、SERS活性複合体ナノ構造は、フロー血球計算器に導入される。上述したように、フロー血球計算器は第一のエネルギーに曝された後のSERS活性複合体ナノ構造を検出することが可能である。特定のレポーター分子に対応する特定のラマンスペクトルの検出は、ターゲット分子が試料内に存在することを示す。
【実施例1】
【0036】
ここまでにナノ構造の実施形態を一般的に記述したので、実施例1においては、Doering’s 及びNie著「Anal. Chem.」 2003年75号6171-6176頁、及びWilliam Doering’s Dissertation編「Mechanisms and Applications of Single-Nanoparticle Surface-Enhanced Raman Scattering」、3−5章、Indiana University-Bloomington発行(2003年8月)に述べられたSERS活性ナノ構造のいくつかの実施形態を述べる。SERS活性複合体ナノ構造のいくつかの具体例を記述する。ナノ構造の実施形態が実施例1及び対応する文章及び図に関係して記載されるが、ナノ構造の具体例をこれらの記載に限定する意図はない。反対に、本発明の意図は本発明の実施形態の範囲及び精神内に含まれる全ての代替物、変更物及び同等物に及ぶ。
【0037】
本実施例において、SERSにとって非常に効果的で、単一粒子レベルにおける多重検出及び分光法のために適切であるコアシェルコロイドナノ粒子(例えばSERS活性複合体ナノ構造)のクラスが開示される。SERS活性複合体ナノ構造は、光学的増強のための金属コア、分光形跡のためのレポーター分子、保護と共役のためのカプセル化シリカシェルを含む。ほぼ最適化された金のコアとシリカシェルにより、SERS活性複合体ナノ構造は、強い単一粒子SERSスペクトルを産出する水性電解質と有機溶剤の両方において安定している。点滅又は強度変動は未だ観察され、SERS信号がコアとシェルの間の接触面で単一分子から発生し得ることを示す。驚くべき発見は、イソチオシアン酸塩(-N=C=S)基又は多数の硫黄原子を有する有機染料が、シリカカプセル化処理に適合することと、その豊富な振動スペクトルと結合された表面増強と共鳴増強の可能性により、優れたラマンレポーターのグループであることである。
【0038】
以前のほとんどのSERS研究と対照的に、ここで報告された表面増強ラマン信号は、ターゲット分子からは来ずに、SERS活性複合体ナノ構造に組み込まれているレポーター染料から来る。この設計はとりわけ、表面吸着、基質変異及び乏しいデータの再現性の問題を回避する。この発展は、ラマン活性フローサイトメトリーと細胞分類を含む、単一セルと組織標本における多重バイオマーカーの分光ラベリングのためのSERS使用における新しい可能性を開いた。蛍光染料や半導体量子ドットのような他のバイオラベルと比べると、SERS活性複合体ナノ構造は、信号増強のための組み込まれた機構を含み、周囲条件における豊富な分光情報を提供する。さらに、ラマン分散の非常に短い寿命は、励起状態における光退色、エネルギー伝達又は消滅を防ぐ。
【0039】
(実験のセクション)材料:超純水(18MΩcm‐1)は、全ての水溶液を用意するために使用された。濃硝酸、濃硫酸、テトラクロロ金酸(III)(99.99%)、アンバーライトMB−150(16−50メッシュ)、テトラエチルオルトシリケート(99.999%)、3,3’−ジエチルチアジカルボシアニンヨージド(98%)、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、ケイ酸ナトリウム溶液(NaOH14%においてSiO27%)が、アルドリッチ(Aldrich、ウィスコンシン州ミルウォーキー)から得られ、受け取られたまま使用された。下記の試薬もまた、更なる精製なしに使用された。クエン酸ナトリウム二水和物(99.9%、EMDケミカルズ(Chemicals)、ニュージャージー州ギブスタウン)、濃塩酸(EMDケミカルズ)、水酸化アンモニウム(29.3%、フィッシャー(Fisher)、ペンシルベニア州ピッツバーグ)、クリスタルバイオレット(97%、フィッシャー)、水酸化ナトリウム(50%(重量比)、フィッシャー)、イソチオシアン酸マラカイトグリーン(モレキュラープローブズ(Molecular Probes)、オレゴン州ユージン)、テトラメチルローダミン−5−イソチオシアン酸塩(モレキュラープローブズ)、X−ローダミン−5−(及び−6)−イソチオシアン酸塩(モレキュラープローブズ)、(3−アミノプロピル)トリメトキシシラン(APTMS、ユナイテッド・ケミカル・テクノロジーズ(United Chemical Technologies)、ペンシルベニア州ブリストル)、エタノール(無水、アーパー・アルコール・アンド・ケミカル・カンパニー(Aaper Alcohol and Chemical Co.)、ケンタッキー州シェルビービル)。
【0040】
合成法:約60ナノメートルのターゲット直径を有する金コロイドは、文献の手順に従って合成された。全てのガラス製品は厳密に掃除され、使用前に水で洗い流された。50ミリリットルのガラスのフラスコにおいて、HAuCl水溶液0.01%の30ミリリットルは、磁気の攪拌の下で沸騰に持ち込まれた。沸騰すると、クエン酸ナトリウム1%の180マイクロリットルが、急速に入れられた。数分以内に、淡黄色の溶液が濃い紫色に変化し、直ちに赤へ進んだ。コロイドは、完全な低減を確実にするために約15分間沸騰させられ、室温に冷ましておかれ、使用前に30ミリリットルに再構成された。
【0041】
組み込まれたラマンレポーター(すなわちレポーター分子)を持ったSERS活性複合体ナノ構造を用意するために、約0.1グラムの混合イオン交換樹脂は、過剰なイオンを除去するために新しく用意された金コロイドと共にかき混ぜられた。前記樹脂は、ろ過又は注意深く静かに注ぐことのいずれか一方によって除去され、コロイドは等しい水の量により薄められた。ラマンレポーターは、約7.5×10−8Mを超えない濃度まで急速な攪拌の下において加えられ、約15分間平衡を保たせることが許された。次に、エタノールにおける結合剤(3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン又はMPTMS)は、約2.5×10−7Mの最終的な濃度まで加えられた。結合剤が金粒子上において吸収するための約15分間の後に、pHは、水酸化ナトリウム100mMにより約9.5に調整された。シリカ沈殿は、ケイ酸ナトリウムを使用することによって達成され、水において0.54%に原液を薄めることと、pHを10.8に調整することによって活性化された。このケイ酸溶液のアリコート(約3ミリリットル)はコロイドに加えられ、磁気によって42時間にわたり攪拌された。
【0042】
これらの状態は、均一なシリカ層の遅い成長を好み、純粋なシリカ粒子のコア生成及び形成を避けた。しかし、この遅い成長過程により達成されたシェル厚は、たった約5ナノメートルで、コロイドの粒子を集合から保護するためにはあまりに薄い。従って、シリカシェルは沈殿ステップにより拡大され、沈殿ステップにおいては、エタノールが存在するシェルの上へ残ったケイ酸塩を濃縮するためにゆっくりと加えられた。このステップの間に形成された純粋なシリカ粒子は、約1700グラムについて約90分間の遠心分離によって、カプセル化粒子から容易に分離された。シリカにより覆われた粒子は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、アセトンのような様々な溶媒において再懸濁され得た。
【0043】
測定:走査型分光光度計(シマヅ(Shimadzu)、メリーランド州コロンビア)は、紫外・可視吸収スペクトルを得るために使用された。高倍率伝送電子顕微鏡写真は、フィリップス(Philips)CM200の電子顕微鏡を使用することによって撮られ、2kCCDによるTVIPS2k上に記録された。バルクラマンスペクトルは、分散的なラマン分光システム(ソリューション(Solution)633、ディテクション・リミット(Detection Limit)、ワイオミング州ララミー)を使用して記録された。単一粒子スペクトルは、647ナノメートル励起のためにアルゴン/クリプトン混合ガスイオンレーザー(レクセル(Lexel)3500、カリフォルニア州フレモント)を備えた、反転光学顕微鏡(ダイアフォト(Diaphot)200、ニコン(Nikon)、ニューヨーク州メルビル)により得られた。
【0044】
関心のある領域は、最初に広視野照明により覆われ、ラマン活性粒子は、正面顕微鏡ポートに実装された映像速度が増大されたCCD(ICCD、PTI・インコーポレイテッド(Inc.)、ニュージャージー州ローレンスビル)により示された。その後、焦点を共有する光学機器が個々のSERS活性複合体ナノ構造に焦点を合わせて使用され、後方拡散ラマン信号は、顕微鏡対物(プラン(Plan)100x、油浸、NA=1.25)を通して収集された。三重帯域通過フィルタ(クロマ・テック(Chroma Tech)、バーモント州ブラトルバラ)は、レーザー線及び外生信号を遮るために使用された。分光形跡は、一段分光計(モデル270M、スペックス(Spex)、ニュージャージー州エディソン)に実装されたCCD検出器(TKB512、プリンストン・インストゥルメンツ(Princeton Instruments)、ニュージャージー州トレントン)により得られた。
【0045】
(結果と考察)SERS活性複合体ナノ構造:いくつかの手順は、シリカによるコート付きコロイドのナノ粒子について使用可能である。アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)のような結合剤は、たびたびガラス体に対して強い親和性を有する(vitreophilic)粒子表面を作るために使用され、その後により凝縮されたシリカ層の沈殿が続く。しかしながら、SERS活性粒子は金表面の上にレポーターの直接の吸着を必要とするため、結合剤又はシリカ層がレポーター分子を移動させることができ、ラマン分光形跡の損失を引き起こす。実は、シリカカプセル化金粒子について以前に報告された低いSERS強度は、おそらくレポーター吸着を有するシリカシェルの妨害によって引き起こされる。この問題は、レポーターと結合剤濃度を注意深く制御することと、シリカカプセル化により適合するレポーター分子の特別なクラスを使用することによって解決される。
【0046】
例えば、レポーター分子は最初に金コロイドに加えられ、その後にシラン結合剤の追加が続く。レポーター濃度(7.5×10−8M、粒子表面の被覆率約20〜25%)は、コロイド凝集を防ぐには十分に低いが、強いSERS信号を生み出すには十分に高い。結合剤濃度(2.5×10−7M)も、その最大表面被覆率を約50%にするために制御される。すなわち、金表面の約半分のみが結合剤により覆われる。これらの状況の下で、レポーター分子と結合剤の両方が、粒子上において共に吸着し得る。以前の研究は、結合剤による50%の表面被覆率が、完全なシリカシェルの形成を生じさせるために十分であることを示した。実際には、薄いシリカ層(約5ナノメートルの厚さ)が、活性化されたケイ酸ナトリウムの存在における粒子表面の上で均一に成長し得ることが分かった。この初期シェル(しばしば多孔性)は、エタノールにおけるケイ酸塩沈殿によって拡大され、約10〜50ナノメートルの間の制御可能な厚さを有する濃縮されたシリカ層を生成する。コアシェルナノ粒子構造は、薄いシェルと厚いシェルの両方(図3)について、透過電子顕微鏡法によって確認される。薄いシリカ層は粗く不規則形態を有する一方、薄いシェルは滑らかで密度が高い。実際に、元の金コロイドの形状やサイズに関係なく、増加したシリカ沈殿は球状でほぼ単分散の粒子を導くことが報告された。
【0047】
典型的なSERS活性複合体ナノ構造の一つの特徴は、被覆されないコロイドと比べたその顕著な安定性である。図4に示されるように、SERS活性複合体ナノ構造(b)の吸収スペクトルは、塩化ナトリウム100mMの追加についてほとんど変化を示さないか全く変化を示さない。一方、被覆されないコロイド(a)は、完全に凝集して沈殿する。さらに、SERS活性複合体ナノ構造は、蛋白質により安定化された金コロイドを沈殿させると知られているメタノールやアセトンのような有機溶剤において安定している。水性又は有機性水溶液における長期保存(約18−20ヶ月)の後でおいてすら、SERS活性複合体ナノ構造は、元のSERS活性を維持し、凝集がないことを示した。
【0048】
シリカ被覆は、以前の結果に一致して、コロイド金の表面プラスモン吸収スペクトルにおいてレッドシフト(より長い波長又は低いエネルギー)を引き起こす。このシフトは、プラスモン共鳴周波数が周りの溶媒の屈折率に依存していることと、シリカが水(n=1.33)より高い屈折率(n=1.57)を有することが原因で、発生すると考えられている。シリカ沈殿の様々な段階において得られた紫外可視吸収スペクトルは、波長シフトがシリカシェルの厚さの関数であることを示す(データは示されない)。一貫したシェルは、種々のラマンレポーターにより観察され、シリカ沈殿はレポーター吸着により影響を与えられないことを示す。
【0049】
ラマンレポーター:チオフェノール、メルカプト安息香酸及びビスピリジンのような小さい有機化合物は、以前にラマン分光レポーターとして使用された。前記の分子は、単純なラマンスペクトルを生じさせるが、それは可視励起波長において共鳴ラマン増強を達成することが困難であるか不可能であった。結果として、報告されたSERS強度は、高い(ミリモル)レポーター濃度においてですら比較的低い。この問題を解決するために、ラマンレポーターとしての利用の可能性のための種々の官能基を備えた広範囲の有機化合物が、本実施例において検査される。結果は、イソチオシアン酸塩(−N=C=S)基又は複数の硫黄原子を備えた有機染料がコア粒子上において強力に吸着し、シリカカプセル化に適合することを明らかにする。例えば、強いSERSスペクトルは、(b)イソチオシアン酸マラカイトグリーン(MGITC)や(c)テトラメチルローダミン−5−イソチオシアン酸塩(TRITC)、(d)X−ローダミン−5−(及び−6−)−イソチオシアン酸塩(XRITC)、(a)3,3’−ジエチルチアジカルボシアニンヨージド(DTDC)から得られる(図5)。前記分子の三つはイソチオシアン酸塩基を含む一方、四番目は環状構造において二つの硫黄原子を有する。
【0050】
イソチオシアン酸塩基又は硫黄原子は金表面への結合のための「親和性タグ」を提供し、結合剤とシリカ沈殿に対して安定する金−硫黄結合を生み出す。クリスタルバイオレットやローダミン6Gのように前記親和性タグなしの分子について、強いSERSスペクトルが観察されるが、信号はシリカ被覆の後消滅した。加えて、これらの染料の大部分は、可視スペクトルにおいて強い電子遷移を有する。従って、共鳴ラマン増強は、信号強度のさらなる増加のために使用され得る。厳密に言うと、これらの分子は、チオフェノールや他の非共鳴ラマンレポーターからそれらを識別するための「共鳴ラマンレポーター」と呼ばれるべきである。ほとんどの場合、ラマン共鳴は、単独の表面増強に対して、約2〜3の範囲の倍率の追加の強度を提供する。蛍光性染料と非蛍光性染料の両方が、共鳴ラマンレポーターとして使用され得る。なぜなら、蛍光性発光がラマン測定を妨害せずに、金粒子によって効果的に和らげられるからである。一連のベンゾトリアゾール染料は、表面増強k共鳴ラマン拡散について優れており、多重窒素原子の存在により、これらの分子は、分光符号化及び多重化用途のために共鳴ラマンレポーターの新しいクラスを提供し得る。
【0051】
単一粒子SERS:ほぼ至適条件の下で、被覆されていない金のナノ粒子及び被覆された金のナノ粒子は、1013〜1014の範囲内で全体の増強要素を備えた類似の表面増強共鳴ラマン拡散(SERRS)強度を示す。これらの値は、表面増強及び共鳴増強の全体の増強要因を表し、メタノールの標準ラマン断面により、クリスタルバイオレットのSERS断面を分割することによって計算される。強いSERRSスペクトルは、光学的に「熱い(hot)」破片又は30%〜50%に近づいているSERS活性粒子を有する単一の被覆していない粒子と被覆された粒子の両方から得られ得る。バルク又はアンサンブル平均されたデータと比べて、単一粒子スペクトルは、かなり良く解明されている(図6)。相対的強度又はスペクトルパターンにおいても違いがあるが、これらの違いは、基本的に手段となる人工物によって引き起こされる。二つの異なる手段は、バルク及び単一粒子データを得るために使用されたが、これらの二つのシステムは、非常に異なるスペクトル反応(基本的に光学フィルタを使用することによる)を有する。
【0052】
レポーター分子は、粒子の外に移動し得ず、外部分子は、コア上で吸着を得るために争い得ない。特に、小さいイオンは多孔性シリカシェルを突き抜け得るけれども、大きい分子は遮られるように見える。図7は、濃縮されたクリスタルバイオレットがマラカイトグリーンを予め組み込まれた金コロイドに追加された場合の競合吸着実験から得られたSERSデータを示す。二つのスペクトル(追加されたクリスタルバイオレット有り及び無し)の比較は、マラカイトグリーンスペクトルにおける変化がなく、クリスタルバイオレットからのSERS信号がないことを示す。唯一の違いは、純水におけるクリスタルバイオレットのバックグラウンドに類似したより高いバックグラウンドである。この結果は、ラマンレポーターが「固定される」一方、外部分子が「締め出される」ことを最終的に示す。
【0053】
以前の研究は、空間的に分離され、断続的なオン及びオフの方法において単一金粒子がストークをシフトしたラマン光子を放つことを示した。類似した性質は、単一蛍光性分子及び単一量子ドットにおいても指摘された。この性質の真の起源がまだ論争中である一方で、最近の研究は、主な原因として粒子表面上又は二つの粒子の接点における単一分子の拡散を示唆する。そのため、シリカ層がコアシェル接触面において拡散を妨害し又は削減することが期待されるであろうが、シリカ被覆されたナノ粒子が未だ点滅を示すことは興味深い。この観察は、SERS信号が金コア上の活性位置において吸着された単一レポーター分子から由来し得ることを示唆する。定量的な分析は、各粒子上に多くのレポーター分子が存在すべきことを示すが、SERS信号は、しばしば信号又は少数の分子によって支配される。以前の文書において報告されたように、「多数分子」の状況の下でのこの単一分子の性質は、活性位置の分子寸法からおそらく生じる。活性位置は、単一又は少数の分子にだけ適合し得る。
【0054】
結論として、染料が組み込まれたコロイドのナノ粒子(SERS活性複合体ナノ構造)及びSERSを使用することによるラマン分光法タグのクラスが開発された。SERS活性複合体ナノ構造は、金属コアを含むコアシェル構造、レポーター分子及びシリカ被覆を有する。反応性イソチオシアン酸塩基又は複数の硫黄原子は、コアシェル粒子へ組み込まれる有機染料のための「分子アンカー」として使用され得る。SERS活性複合体ナノ構造は、水性電解質と有機溶剤の両方において安定している。達成した増強係数は、1013〜1014の範囲内で、単一粒子について又は単一分子分光法についてすら十分に大きい。金コロイドを使用することによって、単純な手順により高度に単分散された粒子が準備され得る。他の生体標識に比べて、SERS活性複合体ナノ構造は、高い感度及び分光法情報を提供し、分子バイオマーカーと多重パラメータフローサイトメトリーの多重化された分析を可能にする二つの特徴を提供する。
【0055】
本開示の上述の実施形態、特に任意の「好適な」実施形態は、単なる可能な実施の例であり、単に本発明の原理の明確な理解のために述べられていることが強調されるべきである。多くの変形及び変更は、本発明の精神及び原理から実質的に離れることなしに、本開示の上述の実施形態についてなされ得る。そのような全ての変形及び変更は、本開示の範囲内において本明細書に含まれ、添付の特許請求の範囲によって保護されることが意図される。
従って、少なくとも添付の特許請求の範囲について権利が請求される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
本明細書の開示は、以下の図面を参照することによってより良く理解され得る。図面の構成要素は、必ずしも縮尺を示し強調すべきものではなく、むしろ本発明の原理を明確に示すことについて置かれたものである。
【0057】
【図1】SERS活性複合体ナノ構造の代表的な実施形態を示す。
【図2A】図1に示されたSERS活性複合体ナノ構造を製造する実施形態を示す。
【図2B】図1に示されたSERS活性複合体ナノ構造を製造する実施形態を示す。
【図2C】図1に示されたSERS活性複合体ナノ構造を製造する実施形態を示す。
【図3】透過電子顕微鏡法(TEM)を使用して二つのSERS活性複合体ナノ構造の代表的な実施形態のコアシェル構造を示す。上方の画像は約6ナノメートルの厚さのシリカシェルを有し、下方の画像は40ナノメートルの厚さのシリカシェルを有する。
【図4】SERS活性複合体ナノ構造の代表的な実施形態と被膜のない金ナノ粒子の吸収スペクトルを示す。具体的には、図4はシリカ被膜を有する金ナノ粒子と被膜のない金ナノ粒子の間の安定性比較を示す。上方の画像は、0.1MのNaClを加える前と後における被膜のない金コロイドの光学吸収スペクトルを示す。下方の画像は、0.1MのNaClを加える前と後におけるシリカ被膜を有する金コロイドの光学吸収スペクトルを示す。スペクトル変化がないことは、高い安定性の度合を示す。
【図5】(a)マラカイトグリーンイソチオシアン酸塩(MGITC)、(b)テトラメチルローダミン−5−イソチオシアン酸塩(TRITC)、(c)X−ローダミン−5−(及び−6−)イソチオシアン酸塩(XRITC)及び(d)3,3’−ジエチルシアジカルボシアニンヨウジド(DTDC)のレポーター分子を有するSERS活性複合体ナノ構造についての表面増強共鳴ラマンスペクトルを示す。
【図6】それぞれ明確に識別可能なレポーター分子(a)〜(d)が埋め込まれたシリカ被膜を有する金SERS活性複合体ナノ構造について得られた集合平均化(黒い点線の曲線)及び単一粒子(実線の曲線)表面増強共鳴ラマン拡散スペクトルを示す。コア直径は約60ナノメートルであり、コアは15ナノメートルの厚さのシリカシェルにより覆われている。
【図7】(a)余分のクリスタルバイオレット(1mM)を加える前と(b)加えた後のシリカ被膜を有するMGITC金SERS活性複合体ナノ構造(図6)についての表面増強共鳴ラマン拡散スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、
前記コアに結合されたレポーター分子であって、イソチオシアン酸塩染料、多硫化有機染料、多ヘテロ硫化有機染料、ベンゾトリアゾール染料及びこれらの組み合わせから選択されるレポーター分子と、
前記コア及び前記レポーター分子の上に配置されるカプセル化物質であって、カプセル化された前記レポーター分子が測定可能な表面増強ラマン分光法形跡を有するカプセル化物質
を備えた表面増強ラマン分光法活性複合体ナノ構造を備えたナノ構造。
【請求項2】
前記レポーター分子がチアシアニン染料、ジチアシアニン染料、チアカルボシアニン染料及びジチアカルボシアニン染料から選択される、請求項1に記載のナノ構造。
【請求項3】
前記レポーター分子がマラカイトグリーンイソチオシアン酸塩、テトラメチルローダミン−5−イソチオシアン酸塩、X−ローダミン−5−イソチオシアン酸塩、X−ローダミン−6−イソチオシアン酸塩及び3,3’−ジエチルシアジカルボシアニンヨウジドから選択される、請求項1に記載のナノ構造。
【請求項4】
前記コアが金である、請求項3に記載のナノ構造。
【請求項5】
前記コアが金、銀、銅、ナトリウム、アルミニウム、クロム及びこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載のナノ構造。
【請求項6】
前記コアが約200ナノメートルより小さい直径を有する、請求項1に記載のナノ構造。
【請求項7】
前記カプセル化物質がシリカ、ポリマー、金属酸化物、金属硫化物、蛋白質、ペプチド及びこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載のナノ構造。
【請求項8】
前記カプセル化物質がシリカである、請求項1に記載のナノ構造。
【請求項9】
前記カプセル化物質が約50ナノメートルより小さい直径を有する、請求項1に記載のナノ構造。
【請求項10】
前記レポーター分子がコアの表面の1〜75パーセントを覆う、請求項1に記載のナノ構造。
【請求項11】
表面増強ラマン分光法活性複合体ナノ構造がサイトメトリーシステム、化学配列システム、生物分子配列システム、バイオセンシングシステム、バイオラベリングシステム、高速スクリーニングシステム、遺伝子発現システム、蛋白質発現システム、医療診断システム、診断ライブラリ及びマイクロ流体システムから選択されるシステムに組み込まれる、請求項1に記載のナノ構造。
【請求項12】
コアと、
前記コア上に配置されたレポーター分子であって、前記コアの表面の約15〜50パーセントを覆うレポーター分子と、
前記コア及び前記レポーター分子を覆うカプセル化物質であって、カプセル化された前記レポーター分子が測定可能な表面増強ラマン分光法形跡を有するカプセル化物質
を備えた表面増強ラマン分光法活性複合体ナノ構造。
【請求項13】
前記レポーター分子がイソチオシアン酸塩染料、多硫化有機染料、多ヘテロ硫化有機染料、ベンゾトリアゾール染料及びこれらの組み合わせから選択される、請求項12に記載のナノ構造。
【請求項14】
前記コアが金であって、前記レポーター分子がマラカイトグリーンイソチオシアン酸塩、テトラメチルローダミン−5−イソチオシアン酸塩、X−ローダミン−5−イソチオシアン酸塩、X−ローダミン−6−イソチオシアン酸塩及び3,3’−ジエチルシアジカルボシアニンヨウジドから選択され、前記カプセル化物質がシリカである、請求項12に記載のナノ構造。
【請求項15】
前記コアに結合された結合剤をさらに備えた、請求項12に記載のナノ構造。
【請求項16】
前記結合剤が前記コアの表面の40〜60パーセントを覆う、請求項15に記載のナノ構造。
【請求項17】
前記レポーター分子がマラカイトグリーンイソチオシアン酸塩、テトラメチルローダミン−5−イソチオシアン酸塩、X−ローダミン−5−イソチオシアン酸塩、X−ローダミン−6−イソチオシアン酸塩、3,3’−ジエチルシアジカルボシアニンヨウジド及びこれらの組み合わせから選択される共鳴ラマンレポーターである、請求項12に記載のナノ構造。
【請求項18】
コアをレポーター分子に導入することであって、前記レポーター分子が前記コアに結合され、前記レポーター分子がイソチオシアン酸塩染料、多硫化有機染料、多ヘテロ硫化有機染料、ベンゾトリアゾール染料及びこれらの組み合わせから選択されることと、
カプセル化物質を前記コア及び前記レポーター分子の上に配置することであって、前記カプセル化物質を配置した後に前記レポーター分子が測定可能な表面増強ラマン分光法形跡を有すること、
を含む、ナノ構造を準備する方法。
【請求項19】
前記レポーター分子が、前記コアの表面の約1〜75パーセントを覆うように、前記レポーター分子を総量に導入すること
をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
結合された少なくとも一つのレポーター分子を有する前記コアに結合剤を導入することであって、前記結合剤がコアの覆われていない部分に結合すること
をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ターゲット分子を請求項1に記載のナノ構造に付加することと、
放射線源によりレポーター分子を励起することと、
前記ターゲット分子の存在を決定するために、前記レポーター分子に対応するナノ構造の表面増強ラマン分光法スペクトルを測定すること
を含む、少なくとも一つのターゲット分子を検出する方法。
【請求項22】
前記分子が生体分子を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記レポーター分子が共鳴ラマンレポーター分子であって、
前記ターゲット分子の存在を決定するために、前記レポーター分子に対応するナノ構造の表面増強共鳴ラマン分光法スペクトルを測定すること
をさらに含む、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−502716(P2007−502716A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524000(P2006−524000)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/026786
【国際公開番号】WO2005/062741
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(504357495)エモリー ユニバーシティー (5)
【Fターム(参考)】