説明

表面弾性波発生装置

【課題】表面弾性波を完全反射させることで、所定位置にある液体又は粉粒体の移動を容易に実現できるとともに、表面弾性波を一部反射させることで、異なる位置にある各液体又は各粉粒体の移動を容易に実現可能な表面弾性波発生装置を得る。
【解決手段】表面弾性波発生装置1は、一方の面2aに凹部2bが形成された圧電基板2と、圧電基板2の一方の面2aに形成されるとともに、凹部2bを介して粉粒体Pに伝搬可能な表面弾性波を発生可能な電極層3と、を備え、凹部2bの深さは、表面弾性波が凹部2bにおいて完全反射可能に構成されていることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面弾性波(SAW:Surface acoustic wave)を利用した表面弾性波発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、表面弾性波を利用して液体を移動させながら混合する液体混合装置が開示されており、この液体混合装置は、表面弾性波を伝搬可能な伝搬部材2と、表面弾性波を発生可能な櫛歯電極5とを有している(例えば、特許文献1の図1〜図3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−254112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の液体混合装置では、表面弾性波の反射によって、伝搬経路内の所定位置にある液体を制御して移動させたり、伝搬経路内において異なる位置にある各液体を同時に制御して移動させたりすることは困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、表面弾性波の反射によって、所定位置にある液体又は粉粒体の移動を容易に実現できる、或いは、異なる位置にある各液体又は各粉粒体の移動を容易に実現可能な表面弾性波発生装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明の表面弾性波発生装置は、一方の面に凹部が形成された圧電基板と、前記圧電基板の一方の面に形成されるとともに、前記凹部を介して液体又は粉粒体に伝搬可能な表面弾性波を発生可能な電極層と、を備え、前記凹部の深さは、前記表面弾性波が前記凹部において完全又は一部反射可能に構成されていることを特徴とするものである。ここでの「完全反射」とは、凹部において表面弾性波のエネルギーの大半(例えば90%以上)を反射させることを含む。
【0007】
上記(1)の構成によれば、凹部の深さを所定の深さにすることによって、表面弾性波が完全又は一部反射可能に構成することができる。すなわち、凹部における表面弾性波の完全反射によって、所定位置にある液体又は粉粒体の移動を容易に実現できる、或いは、凹部における表面弾性波の一部反射と他部透過とによって、異なる位置にある各液体又は各粉粒体の移動、若しくは、異なる位置にある液体と粉粒体との移動を容易に実現できる。さらに言い換えれば、例えば、表面弾性波を完全反射させるような深さの凹部とすることで、所定位置にある液体又は粉粒体の移動を容易に実現できる。また、表面弾性波を一部反射、させるような深さの凹部とすることで、異なる位置にある各液体又は各粉粒体の移動、若しくは、異なる位置にある液体と粉粒体との移動を容易に実現することができる。
【0008】
(2) 上記(1)の表面弾性波発生装置において、前記凹部に伝搬可能な表面弾性波の振幅A、前記凹部において反射可能な表面弾性波の振幅A、該表面弾性波の反射率ζ、前記圧電基板の面方位に対する角度θ、及び、前記凹部の深さdの関係が、以下の関係式(1),(2)で表されることが好ましい。ここでの「角度θ」とは、圧電基板の面方位に対して直交する方向に延びるとともに、面方位を含まない圧電基板の円形部分の中心を通過する直線に対する傾斜角を含む。また、ここでの「角度θ」は、前記圧電基板がLiNbO基板(127.8度 y回転 x伝搬)である場合、凹部において表面弾性波を完全反射させる場合には、上記角度θを60°に設定することが好ましく、凹部において表面弾性波を一部反射させる場合には、上記角度θを30°に設定することが好ましい。
【数1】

【数2】

【0009】
上記(2)の構成によれば、上記関係式(1),(2)に基づいて、移動対象となる液体又は粉粒体の位置に応じて、移動対象に伝搬される表面弾性波の向きを最適な方向に合わせることができる。
【0010】
(3) 上記(1)又は(2)の表面弾性波発生装置においては、前記凹部の深さが、前記表面弾性波の周波数の一波長に相当することが好ましい。ここでの「凹部の深さ」は、100μmに設定することが好ましい。
【0011】
上記(3)の構成によれば、凹部の深さを表面弾性波の周波数の一波長に相当する長さに設計することで、圧電基板の一方の面の近傍を伝搬する表面弾性波のエネルギー大半(例えば90%以上)を凹部において液体又は粉粒体の位置に応じて反射させることができる。
【0012】
(4) 上記(3)の表面弾性波発生装置においては、前記凹部が、前記電極層から前記表面弾性波を伝搬可能な伝搬面を備え、前記伝搬面が、2つの平面が交わる線で形成されていることが好ましい。
【0013】
上記(4)の構成によれば、伝搬面を2つの平面が交わる線で形成された凹凸状に構成することで、伝搬面に当たった表面弾性波のエネルギーの大半を液体又は粉粒体の位置に合わせて様々な方向に散乱させることができる。ここでの「凹凸面」とは、圧電基板を機械加工する際の裂け目又は割れ目などのクラックを利用できる。
【0014】
(5) 上記(3)の表面弾性波発生装置においては、前記凹部が、前記電極層から前記表面弾性波を伝搬可能な伝搬面を備え、前記伝搬面が、前記凹部の内側に向かう凸状の2つの曲面が交わる線で形成されていることが好ましい。
【0015】
上記(5)の構成によれば、伝搬面を凹部の内側に向かう凸状の2つの曲面が交わる線で形成された凹凸状に構成することで、伝搬面に当たった表面弾性波のエネルギーの大半を液体又は粉粒体の位置に合わせて様々な方向に散乱させることができる。ここでの「凹凸面」は、圧電基板を機械加工する際の裂け目又は割れ目などのクラックを利用できる。
【0016】
(6) 上記(1)又は(2)の表面弾性波発生装置においては、前記溝の深さが、前記表面弾性波の周波数の一波長よりも短いことが好ましい。ここでの「凹部の深さ」は、10μmに設定することが好ましい。
【0017】
上記(6)の構成によれば、凹部の深さを表面弾性波の周波数の一波長よりも短い長さに設計することで、圧電基板の一方の面の近傍を伝搬する表面弾性波のエネルギーを液体又は粉粒体の位置に応じて効率的に透過させることができる。
【0018】
(7) 上記(6)の表面弾性波発生装置においては、前記圧電基板が、前記圧電基板及び前記電極層の積層方向に対して直交する方向に一定間隔を隔てて形成された複数の凹部を備えることが好ましい。
【0019】
上記(7)の構成によれば、圧電基板に複数の凹部を平行且つ等間隔に刻むことで、圧電基板の一方の面の近傍を透過する表面弾性波の回折を利用することができる。これにより、各凹部の接続部分で遮られた表面弾性波を、該接続部分を回り込んで伝搬させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係る表面弾性波発生装置1の要部構成を示す斜視図である。
【図2】表面弾性波発生装置1の駆動機構を示した模式図である。
【図3】圧電基板2の面方位OFに対する角度θと、電力の入り易さη、及び、波の伝わり易さτとの関係を示した説明図である。
【図4】(a)は、圧電基板2の面方位OFに対する角度θと、電力の入り易さηとの関係を示した説明図であって、(b)は、表面弾性波の進行方向の決定例を示した説明図である。
【図5】(a)は、レイリー波の移動を示した説明図であって、(b)は、圧電基板2の凹部2bの形状を説明するための側面視図である。
【図6】表面弾性波発生装置1の動作により生じた粉粒体の移動を観察するための実験機構を示した模式図である。
【図7】高解像度カメラの記録結果を示した写真であって、(a)は、時刻t=0(sec.)の時点における粉粒体Pの状態を示し、(b)は、時刻t=30(sec.)の時点における粉粒体Pの状態を示すものである。
【図8】(a)は、本発明の第2実施形態に係る表面弾性波発生装置21の要部構成を示す斜視図であって、(b)は、圧電基板22の凹部22bの形状を説明するための側面視図である。
【図9】(a)は、本発明の第3実施形態に係る表面弾性波発生装置31の要部構成を示す斜視図であって、(b)は、圧電基板32の凹部32bの形状を説明するための側面視図である。
【図10】(a)は、本発明の第4実施形態に係る表面弾性波発生装置41の要部構成を示す斜視図であって、(b)は、圧電基板42の凹部42bの形状を説明するための側面視図である。
【図11】表面弾性波発生装置41の動作により生じた粉粒体の移動を観察するための実験機構を示した模式図である。
【図12】高解像度カメラの記録結果を示した写真であって、(a)は、時刻t=0(sec.)の時点における粉粒体P2の状態を示し、(b)は、時刻t=2(sec.)の時点における粉粒体P2の状態を示すものである。
【図13】本発明の第5実施形態に係る表面弾性波発生装置51の要部構成を示す斜視図である。
【図14】圧電基板の凹部と、櫛歯電極と、の位置関係(レイアウト)の変形例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
<第1実施形態>
以下、図1〜図7を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る表面弾性波発生装置について説明する。なお、図1においては、駆動回路4及び振動計5の図示を省略している。
【0022】
(表面弾性波発生装置1の構成)
図1及び図2に示すように、表面弾性波発生装置1は、圧電基板(piezoelectric substrate)2と、櫛型電極(interdigital transducer)3と、駆動回路4と、振動計5と、を備えているものである。なお、表面弾性波発生装置1による制御対象となる粉粒体Pは、図1に示すように、圧電基板2の一方の面2aにおける所定位置に配置されているものである。
【0023】
(圧電基板2の構成)
圧電基板2は、表面弾性波を伝搬可能な圧電材料からなるものであり、図1に示すように、一方の面2aに凹部2bが形成されているものである。該凹部2bの深さは、表面弾性波が凹部2bにおいて完全反射可能に構成されているものである。ここでの「完全反射」とは、凹部2bにおいて表面弾性波のエネルギーの大半(例えば90%以上)を反射させることを含む。従って、図5(b)に示すように、凹部2bの深さを100μmとした場合には、櫛歯電極3から伝搬された入射波(incident SAW)のエネルギーの90%以上が凹部2bにおいて反射波(reflected SAW)として反射して粉粒体Pに向けて伝搬されるとともに、10%以下の残りのエネルギーが透過波(transmitted SAW)として凹部2bで反射することなく伝搬されるものである。なお、圧電基板2としては、例えば、ニオブ酸リチウム(化学式:LiNbO)などの圧電体結晶であって、カットアングル及び伝播が、127.8 ゜回転Yカット、及び、X伝搬のLiNbOウェハを用いることができるが、これに限られない。
【0024】
(凹部2bの構成)
ここで、凹部2bに伝搬可能な表面弾性波の振幅A、凹部2bにおいて反射可能な表面弾性波の振幅A、該表面弾性波の反射率ζ、圧電基板2の面方位OF(orientation flat)に対する角度θ、及び、凹部2bの深さdの関係は、以下の関係式(1),(2)で表されるものである。ここでの角度θとは、図2に示すように、面方位OFに対して直交する方向に延びるとともに、面方位OFを含まない圧電基板2の円形部分Cの中心Oを通過する直線L1に対する傾斜角を示すものである。
【数3】

【数4】

【0025】
(櫛歯電極3の構成)
櫛型電極(電極層)3は、表面弾性波を発生可能なAl、Au、Cu、Cr、Ti、Ptなどの金属、又は、これらの金属の合金からなるものであり、図1に示すように、圧電基板2の一方の面2aにフォトリソグラフィーなどを用いて形成されているものである。櫛歯電極3は、図1に示すように、直線状の基端部3aと、該基端部3aに対して略直交する方向に夫々櫛歯状に延びる複数本の細幅状の櫛歯部3bと、を備えている。なお、櫛型電極(電極層)3は、2層以上の金属又は合金からなるものであってもよい。
【0026】
(駆動回路4の構成)
駆動回路4は、櫛歯電極3を駆動可能な駆動エネルギーPを生成可能であって、信号発生器47と、増幅器48と、電力計49と、を備えているものである。信号発生器47は、例えば、19.2MHzの正弦波1000周期から構成された1kHzの突発的な駆動信号を生成可能となっている。増幅器48は、信号発生器47で発生した駆動信号を所定の増幅率で増幅可能であって、増幅した駆動信号を入射エネルギーPとして櫛歯電極3に出力可能となっている。電力計49は、増幅器48から櫛歯電極3への入射エネルギーPと、櫛歯電極3から増幅器48への反射エネルギーPとを電力値(W)として測定可能であって、以下の式(3)に示すように、入射エネルギーPと反射エネルギーPの差分を駆動エネルギーPとして測定可能となっている。
【数5】

【0027】
(振動計5の構成)
振動計5は、ドップラー効果の振動数変化を利用したものであって、凹部2bに伝搬可能な表面弾性波の振幅A、及び、凹部2bにおいて反射可能な表面弾性波の振幅Aを測定可能となっている。
【実施例1】
【0028】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、本実施例に限定されるものではない。
【0029】
(圧電基板2の面方位OFに対する角度θと、電力の入り易さη、及び、波の伝わり易さτとの関係)
本発明者は、図1及び図2に示した構成について、圧電基板2の面方位OFに対する角度θと、電力の入り易さ(power transmissivity)η(%)、及び、波の伝わり易さ(amplitude/applied power)τ(pm/W)との関係についての実験を行った。なお、電力の入り易さηは、駆動エネルギーPを入射エネルギーPで除すことにより得られる数値であって、以下の式(4)で表すことができる。また、波の伝わり易さτは、凹部2bに伝搬可能な表面弾性波の振幅Aを駆動エネルギーPで除すことにより得られる数値であって、以下の式(5)で表すことができる。
【数6】

【数7】

【0030】
本実験において、本発明者は、圧電基板2として、カットアングルが127.8
゜回転Yカットであって、伝搬方向がX伝搬のLiNbOウェハを使用した。また、本発明者は、櫛歯電極3として、LiNbOウェハの一方の面にパターン形成され、ストリップ線(上記実施形態における櫛歯部3bに相当する部分)のピッチ幅200μm、開口5mm、20対のストリップ線からなるAl/Crの2層構造の櫛型電極を使用した。さらに、本発明者は、信号発生器47として、周波数19.2MHz及び100周期からなる正弦波で構成された1kHzの周波数を有する突発的な駆動信号を生成可能なものを使用し、増幅器48による駆動信号の増幅、及び、増幅された駆動信号の櫛歯電極3への出力を試みた。
【0031】
そして、本発明者は、増幅された駆動信号が櫛歯電極3に出力された際に、表面弾性波が発生することを確認した。この際、本発明者は、電力計49を用いて、駆動エネルギーPを電圧値(V)としてではなく電力値(W)として測定した。そして、本発明者は、表面弾性波がLiNbOウェハの面方位OFに対して直交する方向に延びる直線L1に対する角度θの方向に伝搬することを確認した。ここで、表面弾性波の振幅Aは、上述した振動計5を用いて測定している。
【0032】
図3に示すように、圧電基板がLiNbO基板(127.8度 y回転 x伝搬)である場合、本発明者は、電力の入り易さηが、上記角度θの増加に伴って減少することを見出した。他方、本発明者は、圧電基板がLiNbO基板(127.8度 y回転 x伝搬)である場合、波の伝わり易さτが、上記角度θが0°と60°の場合において、高い値(高い伝搬性)を示すことを見出した。
【0033】
(表面弾性波発生装置1の作製例)
次に、表面弾性波発生装置1の作製例について説明する。図4(a)は、圧電基板2の面方位OFに対する角度θと、電力の入り易さηとの関係を示すものである。なお、図4(a)においては、説明の都合上、面方位OFに対して直交する方向に延びるとともに、面方位OFを含まない圧電基板2の円形部分Cの中心O(後述するXY二次元座標系の原点O)を通過する直線L1(図中の破線)をX軸と定義するものである。同様に、該中心Oを通過し、且つ、X軸に対して直交する方向(面方位OFと平行な方向)に延びる直線L2(図中の破線)をY軸と定義するものである。また、図4(a)においては、図3に示す上記実験結果に基づき、波の伝わり易さτとして最も高い値が得られた直線L1(X軸)に対する角度θ=0°,60°を細い実線で示すとともに、その他の角度θ=30°,90°を太い実線で示すものである。
【0034】
(表面弾性波の進行方向の決定例)
そこで、本発明者は、図4(b)に示すように、櫛歯電極3を、上記角度θが0°となる位置、つまり、波の伝わり易さτとして最も高い値が得られた位置に配置した。換言すれば、本発明者は、櫛歯電極3の形成位置を、櫛歯電極3から圧電基板2の凹部2bに伝搬される表面弾性波の進行方向を示す角度θが0°となる位置、つまり、波の伝わり易さτとして最も高い値が得られた位置に決定した。
【0035】
さらに、本発明者は、圧電基板2の凹部2bの直線L2(Y軸)に対する傾斜角δ(=θ/2)を30°に決定することにより、圧電基板2の凹部2bの奥行き方向を直線L2(Y軸)に対して30°の方向に決定した。したがって、本発明者は、圧電基板2の凹部2bの形成位置を、圧電基板2の凹部2bで完全反射した表面弾性波の進行方向を示す角度θが60°となる位置、つまり、波の伝わり易さτとして最も高い値が得られた位置に決定した。これら一連の工程により、圧電基板2の凹部2bで完全反射させる表面弾性波の進行方向を決定できた。
【0036】
(凹部2bの深さdの決定例)
他方で、本発明者は、理論上、表面弾性波が圧電基板2の一方の面2aの近傍を伝搬し、図5(a)に示すように、深さ方向では一方の面2aからレイリー波の一波長以内に相当する深さに表面弾性波のエネルギーの90%以上が含まれていることに着目した。その結果、本発明者は、図5(b)に示すように、圧電基板2の凹部2bの深さdを表面弾性波の周波数の一波長に相当する100μmに決定した。
【0037】
(表面弾性波発生装置1の動作例)
次に、表面弾性波発生装置1の動作例について説明する。図6は、表面弾性波発生装置1の動作により生じた粉粒体の移動を観察するための実験機構を示しているものである。本動作例では、凹部2bの各パラメータとして、凹部2bの直線L2(Y軸)に対する傾斜角δ(=θ/2)を30°とし、凹部2bで完全反射した表面弾性波の進行方向を示す角度θを60°とし、凹部2bの深さdの寸法を100μmとし、凹部2bの奥行きLの寸法を20mmとした。さらに、櫛歯電極3の各パラメータとして、ストリップ線のピッチ幅200μm、開口5mm、20対のストリップ線からなるAl/Crの2層構造の櫛型電極を使用した。加えて、信号発生器47は、周波数19.2MHz及び100周期からなる正弦波で構成された1kHzの突発的な周波数を有する駆動信号を生成可能なものを使用した。そして、本実験において、駆動回路4から櫛歯電極3に供給された駆動エネルギーPは、1.7Wとなっている。
【0038】
本実験において、櫛歯電極3から圧電基板2の凹部2bに伝搬される表面弾性波が、面方位OFに対して直交する方向(上記角度θ=0°となる方向)に伝搬することを確認することができた。また、櫛歯電極3から20mmの距離Dを隔てた位置に形成された凹部2bにおいて表面弾性波が反射することを確認することができた。さらに、反射した表面弾性波が、圧電基板2の一方の面2aにおける所定位置にある銅製の粉粒体Pに到達したことを確認することもできた。なお、この粉粒体Pは、比重が8.9であり、直径が約10μmの平均的な粒子からなるものである。
【0039】
そして、上記反射した表面弾性波によってエネルギーが付与された粉粒体Pが、上記反射した表面弾性波の上流側、すなわち、凹部2bに向かって移動することを確認することができた。なお、この粉粒体Pの移動は、図6に示す高解像度カメラ(High-definition camera)6によって記録されており、その記録結果の写真を図7(a),(b)に示す。図7に示すように、本記録結果は、表面弾性波発生装置1が粉粒体Pを移動可能であることを表すものである。上記反射した表面弾性波による粉粒体Pの移動速度は約0.4mm/秒となっている。
【0040】
上記構成によれば、凹部2bの深さを表面弾性波が完全反射できるように構成し、凹部2bで表面弾性波を完全反射させることで、圧電基板2の一方の面2aにおける所定位置にある粉粒体Pの移動を容易に実現することができる。
【0041】
また、上記構成によれば、上記関係式(1),(2)に基づいて、移動対象となる粉粒体Pの位置に応じて、移動対象に伝搬される表面弾性波の向きを最適な方向に合わせることができる。
【0042】
また、上記構成によれば、凹部2bの深さを表面弾性波の周波数の一波長λに相当する長さに設計することで、圧電基板2の一方の面2aの近傍を伝搬する表面弾性波のエネルギー大半(例えば90%以上)を凹部2bにおいて粉粒体Pの位置に応じて反射させることができる。
【0043】
<第2実施形態>
以下、図8を参照しながら、本発明の第2実施形態に係る表面弾性波発生装置について説明する。なお、第1実施形態の部位3〜5と、本実施形態の部位23〜25(図示していない部位がある)とは、順に同様のものであるので、説明を省略することがある。
【0044】
(表面弾性波発生装置21の構成)
図8(a)に示すように、表面弾性波発生装置21は、圧電基板22と、櫛型電極(電極層)23と、を備えているものである。なお、図8(a)においては、駆動回路24及び振動計25の図示を省略している。
【0045】
(圧電基板22の構成)
圧電基板22は、表面弾性波を伝搬可能な圧電材料からなるものであり、図8(a)に示すように、一方の面22aに凹部22bが形成されているものである。該凹部2bの深さは、表面弾性波が凹部22bにおいて完全反射可能に構成されているものである。凹部22bは、図8(b)に示すように、櫛歯電極23から表面弾性波を伝搬可能な伝搬面22cを備えており、該伝搬面22cは、2つの平面F1,F2が交わる線で形成されているものである。
【0046】
上記構成によれば、第1実施形態に係る表面弾性波発生装置と同様の効果を得ることができる。
【0047】
また、上記構成によれば、伝搬面22cを2つの平面F1,F2が交わる線で形成された凹凸状に構成することで、伝搬面22cに当たった表面弾性波のエネルギーの大半を粉粒体Pの位置に合わせて様々な方向に散乱させることができる。
【0048】
<第3実施形態>
以下、図9を参照しながら、本発明の第3実施形態に係る表面弾性波発生装置について説明する。なお、第1実施形態の部位3〜5と、本実施形態の部位33〜35(図示していない部位がある)とは、順に同様のものであるので、説明を省略することがある。
【0049】
(表面弾性波発生装置31の構成)
図9(a)に示すように、表面弾性波発生装置31は、圧電基板32と、櫛型電極(電極層)33と、を備えているものである。なお、図9(a)においては、駆動回路34及び振動計35の図示を省略している。
【0050】
(圧電基板32の構成)
圧電基板32は、表面弾性波を伝搬可能な圧電材料からなるものであり、図9(a)に示すように、一方の面32aに凹部32bが形成されているものである。該凹部32bの深さは、表面弾性波が凹部32bにおいて完全反射可能に構成されているものである。凹部32bは、図9(b)に示すように、櫛歯電極33から表面弾性波を伝搬可能な伝搬面32cを備えており、該伝搬面32cは、凹部32bの内側に向かう凸状の2つの曲面C1,C2が交わる線で形成されているものである。
【0051】
上記構成によれば、第1実施形態に係る表面弾性波発生装置と同様の効果を得ることができる。
【0052】
また、上記構成によれば、伝搬面32cを凹部32bの内側に向かう凸状の2つの曲面C1,C2が交わる線で形成された凹凸状に構成することで、伝搬面32cに当たった表面弾性波のエネルギーの大半を粉粒体Pの位置に合わせて様々な方向に散乱させることができる。
【0053】
<第4実施形態>
以下、図10〜図12を参照しながら、本発明の第4実施形態に係る表面弾性波発生装置について説明する。なお、第1実施形態の部位3〜5,47〜49と、本実施形態の部位43〜45,447〜449(図示していない部位がある)とは、順に同様のものであるので、説明を省略することがある。
【0054】
(表面弾性波発生装置41の構成)
図10(a)に示すように、表面弾性波発生装置41は、圧電基板42と、櫛型電極(電極層)43と、を備えているものである。なお、図10(a)においては、駆動回路44及び振動計45の図示を省略している。また、表面弾性波発生装置41による制御対象となる各粉粒体P1,P2は、図10(a)に示すように、圧電基板42の一方の面42aにおいて異なる位置にそれぞれ配置されているものである。
【0055】
(圧電基板42の構成)
圧電基板42は、表面弾性波を伝搬可能な圧電材料からなるものであり、図10(a)に示すように、一方の面42aに凹部42bが形成されているものである。図10(b)に示すように、該凹部42bの深さは、表面弾性波が凹部42bにおいて一部反射可能に構成されているものである。従って、図10(b)に示すように、凹部42bの深さを100μm(図5(b)参照)よりも浅い10μmとした場合には、櫛歯電極43から伝搬される入射波のエネルギーの大半が凹部42bにおいて反射することなく透過波とともに粉粒体P2に向けて伝搬されるとともに、凹部42bにおいて反射した残りのエネルギーは反射波として粉粒体P1に向けて伝搬されるものである。
【実施例2】
【0056】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、本実施例に限定されるものではない。
【0057】
(表面弾性波発生装置41の動作例)
次に、表面弾性波発生装置41の動作例について説明する。図11は、表面弾性波発生装置41の動作により生じた粉粒体の移動を観察するための実験機構を示しているものである。本動作例では、凹部42bの各パラメータとして、図6に示した実験機構と同様の作製手順で、凹部42bの直線L2(Y軸)に対する傾斜角δ(=θ/2)を15°とし、凹部42bで一部反射した表面弾性波の進行方向を示す角度θを30°とした。さらに、凹部42bの深さdの寸法を表面弾性波の周波数の一波長よりも短い10μmとし、凹部42bの奥行きLの寸法を20mmとした。さらに、櫛歯電極43の各パラメータとして、ストリップ線のピッチ幅200μm、開口5mm、20対のストリップ線からなるAl/Crの2層構造の櫛型電極を使用した。加えて、信号発生器447は、周波数19.2MHz及び100周期からなる正弦波で構成された1kHzの突発的な周波数を有する駆動信号を生成可能なものを使用した。そして、本実験において、駆動回路44から櫛歯電極43に供給された駆動エネルギーPは、1.7Wとなっている。
【0058】
表面弾性波発生装置41を動作させた結果、凹部42bにおいて一部反射した表面弾性波が粉粒体P1に到達したことを確認するとともに、凹部42bを透過した表面弾性波も粉粒体P2に到達したことを確認することができた。なお、これらの粉粒体P1,P2は、比重が8.9、直径が約10μmの平均的な粒子からなるものである。
【0059】
具体的に上述の動作結果を説明すると、上記透過した表面弾性波によってエネルギーが付与された粉粒体P2が、上記透過した表面弾性波の上流側、すなわち、凹部42bに向かって移動することを確認することができた。なお、この粉粒体P2の移動は、図11に示す高解像度カメラ46によって記録されており、その記録結果を図12(a),(b)に示す。図12に示すように、本記録結果は、表面弾性波発生装置41が粉粒体P2を移動可能であることを表すものである。
【0060】
上記構成によれば、凹部42bの深さを表面弾性波が一部反射可能に構成することで、異なる位置にある各粉粒体P1,P2の移動を容易に実現することができる。
【0061】
また、上記構成によれば、上記関係式(1),(2)に基づいて、移動対象となる各粉粒体P1,P2の位置に応じて、移動対象に伝搬される表面弾性波の向きを最適な方向に合わせることができる。
【0062】
また、上記構成によれば、凹部42bの深さを表面弾性波の周波数の一波長よりも短い長さに設計することで、圧電基板42の一方の面42aの近傍を伝搬する表面弾性波のエネルギーを粉粒体P1,P2の各位置に応じて効率的に透過させることができる。
【0063】
<第5実施形態>
以下、図13を参照しながら、本発明の第5実施形態に係る表面弾性波発生装置について説明する。なお、第4実施形態の部位43〜45と、本実施形態の部位53〜55(図示していない部位がある)とは、順に同様のものであるので、説明を省略することがある。
【0064】
(表面弾性波発生装置51の構成)
図13に示すように、表面弾性波発生装置51は、圧電基板52と、櫛型電極(電極層)53と、を備えているものである。なお、図13においては、駆動回路54及び振動計55の図示を省略している。
【0065】
(圧電基板52の構成)
圧電基板52は、表面弾性波を伝搬可能な圧電材料からなるものであり、図13に示すように、圧電基板52及び櫛歯電極53の積層方向に対して直交する方向に一定間隔を隔てて形成された複数の凹部52bを備えているものである。複数の凹部52bの各間において圧電基板52の一方の面52aの近傍を表面弾性波が通過すると、回折現象が起こるように設計されている。
【0066】
上記構成によれば、第4実施形態に係る表面弾性波発生装置と同様の効果を得ることができる。
【0067】
また、上記構成によれば、圧電基板52に複数の凹部52bを平行且つ等間隔に刻むことで、複数の凹部52bの各間において圧電基板52の一方の面52aの近傍を通過する表面弾性波の回折を利用することができる。これにより、各凹部52bの接続部分52d(図13参照)で遮られた表面弾性波を、該接続部分52dを回り込んで伝搬させることができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0069】
なお、上記第1〜第4実施形態では、圧電基板の一方の面に単数の凹部を形成する例について述べたが、複数の凹部を制御対象となる粉粒体の数に応じて適宜に組み合わせることにより、種々の発明を形成することができる。例えば、図14に示すように、複数の凹部(表面弾性波を完全反射するもの及び一部反射・一部透過するもの)と櫛歯電極との組み合わせにより、複数個の粉粒体P3,P4の位置に応じたより柔軟な粉粒体の移動を実現することができる。
【0070】
なお、上記各実施形態では、表面弾性波発生装置による制御対象を粉粒体とする例について述べたが、本発明はこれに限定されず、表面弾性波発生装置による制御対象を液体としてもよい。
【0071】
なお、上記各実施形態では、電極層として櫛歯電極を用いたが、本発明はこれに限定されず、凹部に表面弾性波を伝搬可能な電極であれば、どのような形状の電極を用いてもよい。
【0072】
なお、上記第2及び第3実施形態では、凹部に凹凸状の伝搬面を形成する例について述べたが、該凹凸面は、圧電基板を機械加工する際の裂け目又は割れ目などのクラックを利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1、21、31、41、51 表面弾性波発生装置
2、22、32、42、52 圧電基板
2a、22a、32a、42a、52a 面
2b、22b、32b、42b、52b 凹部
3、23、33、43、53 櫛歯電極(電極層)
3a 基端部
3b 櫛歯部
4、24、34、44、54 駆動回路
5、25、35、45、55 振動計
6、46 高解像度カメラ
22c、32c 伝搬面
47、447 信号発生器
48、448 増幅器
49、449 電力計
52d 接続部分
C 円形部分
C1、C2 曲面
F1、F2 平面
L1、L2 直線
OF 面方位
P1、P2、P3、P4 粉粒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に凹部が形成された圧電基板と、
前記圧電基板の一方の面に形成されるとともに、前記凹部を介して液体又は粉粒体に伝搬可能な表面弾性波を発生可能な電極層と、を備え、
前記凹部の深さは、
前記表面弾性波が前記凹部において完全反射又は一部反射可能に構成されていることを特徴とする表面弾性波発生装置。
【請求項2】
前記凹部に伝搬可能な表面弾性波の振幅A、前記凹部において反射可能な表面弾性波の振幅A、該表面弾性波の反射率ζ、前記圧電基板の結晶面方位に対する傾斜角θ、及び、前記凹部の深さdの関係が、以下の関係式(1),(2)で表されることを特徴とする請求項1に記載の表面弾性波発生装置。
【数1】

【数2】

【請求項3】
前記凹部の深さが、
前記表面弾性波の周波数の一波長に相当することを特徴とする請求項1又は2に記載の表面弾性波発生装置。
【請求項4】
前記凹部が、
前記電極層から前記表面弾性波を伝搬可能な伝搬面を備え、
前記伝搬面が、
2つの平面が交わる線で形成されていることを特徴とする請求項3に記載の表面弾性波発生装置。
【請求項5】
前記凹部が、
前記電極層から前記表面弾性波を伝搬可能な伝搬面を備え、
前記伝搬面が、
前記凹部の内側に向かう凸状の2つの曲面が交わる線で形成されていることを特徴とする請求項3に記載の表面弾性波発生装置。
【請求項6】
前記溝の深さが、
前記表面弾性波の周波数の一波長よりも短いことを特徴とする請求項1又は2に記載の表面弾性波発生装置。
【請求項7】
前記圧電基板が、
前記圧電基板及び前記電極層の積層方向に対して直交する方向に一定間隔を隔てて形成された複数の凹部を備えることを特徴とする請求項6に記載の表面弾性波発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図7】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−63397(P2013−63397A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203952(P2011−203952)
【出願日】平成23年9月19日(2011.9.19)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】