説明

表面形状測定用触針式段差計における測定精度の改善方法及び装置

【課題】表面形状への追随性が良くて、より実物に近い段差部形状が得られ、かつ、変位雑音が小さい触針式段差計における測定精度の改善方法及び装置を提供する。
【解決手段】変位雑音を小さくするために遮断周波数が15Hz程度の低域通過フィルターとして、計算処理で行うデジタルフィルターを用いて計測結果をフィルタリングし、その際の窓関数としてブラックマン窓等を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の表面形状を測定する触針式段差計における測定精度の改善方法及び装置に関するものである。
【0002】
本明細書において、用語“試料の表面形状”は試料の段差、膜厚、表面粗さの概念を包含して意味するものとする。
【背景技術】
【0003】
この種の段差計としては従来、先端が試料表面に接触する探針と、探針を試料表面に一定の負荷で接触させる針圧発生装置と、その負荷方向と直交する方向に振動して探針を試料表面に対して平行運動で往復動させる装置と、振動付加時の探針の試料に対する摩擦力に対応する振動の大きさを検出する検出装置とを備えた構造のものが知られている。
【0004】
特許文献1において、本発明者は、先に、支点に揺動可能に取付けられた支持体の一端に探針を取付け、支持体の他端には探針の垂直方向変位を検出する変位センサを成す差動トランスの磁性体コアを取付け、また探針に針圧を加える針圧発生装置の磁性体コアを設け、探針が捉えた試料の表面形状を支持体の支点回りの回転運動により変位センサで測定する表面形状測定用触針式段差計を提案した。
【0005】
このように変位センサに差動トランスを用いた触針式段差計では、例えばロックインアンプの手法により、センサコアの変位は低雑音で高精度に測定される(例えば、特許文献2、特許文献3及び特許文献4参照)。
【0006】
測定された変位雑音を小さくするために、測定結果には通常、遮断周波数が15Hz程度の低域通過フィルターがかけられる。それにより雑音の1秒間でのピーク−ピークが0.3〜1nm程度となり、表面形状測定に使用される。
【0007】
触針式段差計では通常、特許文献1に記載のように探針と変位センサコアが棒状物で接続され、それらを支持する支点から離れて設置され、試料表面での探針の上下の動きが変位センサに伝えられる(特許文献5、6参照)。その変位は例えば、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)を用いて構成したデジタルロックインアンプにより低雑音で高精度に測定される。
【0008】
一般的には低雑音にするために、この測定結果に最終的に遮断周波数が15Hz程度の低域通過フィルター(LPF)がかけられる。この低域通過フィルター(LPF)は計測回路の最終段にコンデンサと抵抗体を用いてハードとして構成して設けてもよいし、例えば計測器内のDSPでの計算処理(デジタル信号処理)で行ってもよい。測定データは表示するためにコンピュータ(PC)に送られるが、コンピュータ(PC)での計算処理で低域通過フィルター(LPF)によるフィルタリングをかけてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-17296
【特許文献2】特開2008-122254
【特許文献3】特願2009-229525
【特許文献4】特願2010-089355
【特許文献5】特開2006-226964
【特許文献6】特開2009-20050
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
変位雑音を小さくするために、変位センサでの計測結果には最終的に、遮断周波数fc=15Hz程度の低域通過フィルター(LPF)がかけられるが、例えばフィルターの特性として一般的なバタワース特性のLPFでは段差部分でオーバーシュートが起きて、段差部形状への追随性が悪く、正しい段差形状が得られない。遮断周波数を上げると追随性はよくなるが、変位雑音が大きくなるという問題がある。
【0011】
バタワース特性での例を図1に示す。これはシミュレーションの結果である。黒の細線が本来の段差形状で、高さ1μm、長さ20μmに渡る凸部分を含む。この段差形状部を、先端の曲率半径が2.5μmの探針で、100μm/sで走査した場合に得られるのが太線aである。横軸の時間の単位は秒である。探針の先端の曲率半径が有限のために、段差部の裾が広がった形になる。この太線aにバタワース特性のLPF fc=15Hzをかけた結果を計算した。ここでは無限インパルス応答IIRのデジタルフィルターを用いて段差部形状に対する応答を計算したが、コンデンサと抵抗体で構成したハードのLPFであってもバタワース特性なら結果は同じである。図1ではフィルターの次数が1次、2次、4次の結果を示した。
【0012】
図2は図1の上段部分を拡大したグラフである。1次ではオーバーシュートはないものの、段差部で形がいびつで、左右非対称で実物とはかけ離れた形になり、2次、4次ではオーバーシュートが起きており、これでは正しい段差形状が分からない。
【0013】
図5には、バタワース特性LPF fc=15Hzの『通過前後での振幅比の周波数特性』を示す。次数が大きいほど、fc以上の周波数域での雑音の減衰が大きいので、変位雑音は小さくなるが、図1及び図2で見たように段差部での追随が悪くなる。
【0014】
コンデンサと抵抗体で構成するハードのLPF及び、IIRのデジタルフィルターには、他にチェビシェフ特性、エリプティック特性、ベッセル特性などがあるが、いずれもステップ応答(入力信号が時間に対してステップ状に変化したときの出力信号の応答)においてはオーバーシュートが発生する。これらの中では最もステップ応答性のよいベッセル特性でも小さいながらオーバーシュートが発生する。
【0015】
図3には、図1と同じ測定条件(段差形状、探針の先端の曲率半径、走査速度)での、ベッセル特性LPF fc=15Hzでの結果を示し、図4は図3拡大である。試料の段差が1μmであるとき、4次ではオーバーシュートが5.5nmとなり、高精度の測定においては無視できない値である。図6にはベッセル特性LPF fc=15Hzの『通過前後での振幅比の周波数特性』を示す。
【0016】
そこで、本発明は、表面形状への追随性が良くて、より実物に近い段差部形状が得られ、かつ、変位雑音が小さい触針式段差計における測定精度の改善方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の発明によれば、支点に揺動可能に取付けられた支持体の一端に探針を取付け、他端に探針の垂直方向変位を検出する変位センサの磁性体コアを取付け、探針が捉えた試料の表面形状を支持体の支点回りの回転運動により変位センサで測定する表面形状測定用触針式段差計における測定精度の改善方法において、
変位雑音を小さくするために遮断周波数が15Hz程度の低域通過フィルターとして、計算処理で行うデジタルフィルターを用いて計測結果をフィルタリングし、その際の窓関数としてブラックマン窓等を用いることを特徴としている。
【0018】
デジタルフィルターは、有限インパルス応答FIRの低域通過フィルターを用い得る。
【0019】
また、本発明の第2の発明によれば、支点に揺動可能に取付けられた支持体の一端に探針を取付け、他端に探針の垂直方向変位を検出する変位センサの磁性体コアを取付け、探針が捉えた試料の表面形状を支持体の支点回りの回転運動により変位センサで測定する表面形状測定用触針式段差計における測定精度の改善装置において、
変位雑音を小さくするために計測結果をフィルタリングする遮断周波数が15Hz程度の低域通過フィルターが、計算処理で行うデジタルフィルターで構成され、窓関数としてブラックマン窓が用いられることを特徴としている。
【0020】
本発明においては、窓関数としてブラックマン窓を用いることで、試料の段差部形状への追随性がよく、実物に近い形状が得られ、かつ、変位が低雑音で得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法によれば、変位雑音を小さくするために遮断周波数が15Hz程度の低域通過フィルターとして、計算処理で行うデジタルフィルターを用いて計測結果をフィルタリングし、その際の窓関数としてブラックマン窓等を用いることにより、低域通過フィルターの遮断周波数fcが15Hz程度と低くても、試料の段差部分でのオーバーシュートがなく、実物に近い段差形状が得られる。またfc=15Hz程度の低域通過フィルターがかかっているので、変位雑音が小さい。
【0022】
また、本発明の装置によれば、変位雑音を小さくするために計測結果をフィルタリングする遮断周波数が15Hz程度の低域通過フィルターが、計算処理で行うデジタルフィルターで構成され、窓関数としてブラックマン窓が用いられることにより、計算処理のソフトウェアでこのフィルターを構成しているので、コンデンサ、抵抗体、演算増幅器などで構成するハードウェアのフィルターよりコストが低く、しかもソフトウェアで構成されているので、プログラムの変更だけでfcやフィルターの次数を変更でき、ハードウェアのものに比べ簡単に変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】バタワース特性の低域通過フィルターをかけたときの段差形状を示すグラフ。
【図2】図1の拡大グラフ。
【図3】ベッセル特性の低域通過フィルターをかけたときの段差形状を示すグラフ。
【図4】図3の拡大グラフ。
【図5】バタワース特性の低域通過フィルターの『通過前後での振幅比の周波数特性』を示すグラフ。
【図6】ベッセル特性の低域通過フィルターの『通過前後での振幅比の周波数特性』を示すグラフ。
【図7】本発明が実施される触針式段差計の構成を概略図。
【図8】図7における触針式段差計の要部を下から見た概略線図。
【図9】図7における触針式段差計のホルダー部分の構成を示すA−B線に沿った拡大部分断面図。
【図10】図7における触針式段差計のホルダー部分を下から見た図。
【図11】図7における触針式段差計の支点部の構造を示す拡大断面図。
【図12】本発明において用いられ変位測定用計測回路装置の一例を示すブロック線図。
【図13】本発明に従ってFIR ブラックマン窓の低域通過フィルターをかけたときの段差形状を示すグラフ。
【図14】図13の拡大グラフ。
【図15】本発明に従ってFIR ブラックマン窓の低域通過フィルターの『通過前後での振幅比の周波数特性』を示すグラフ。
【図16】バタワース特性とベッセル特性の低域通過フィルターをかけたときの変位雑音を示すグラフ。
【図17】本発明に従ってFIR ブラックマン窓の低域通過フィルターをかけたときの変位雑音を示すグラフ。
【図18】本発明に従ってFIR ブラックマン窓の低域通過フィルターをかけたときの変位の測定例を示すグラフ。
【図19】本発明に従ってFIR ブラックマン窓の低域通過フィルターをかけたときの変位雑音の測定例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明が適用される触針式段差計は、添付図面の図7〜図11に示すように、棒状の第1の支持部材1を有し、この第1の支持部材1はその中間部位に左右両横方向にのびる支点用針取付け部材2を備え、支点用針取付け部材2の両端には二つの支点用針3が取付けられている。これら二つの支点用針3は二つの支点受け部材4(図11)で支持され、それにより第1の支持部材1は支点受け部材4に支点用針3を介して揺動自在に支持される。第1の支持部材1の一端には、変位センサ5の測定子すなわちコア6が取付けられている。この変位センサ5は探針の垂直方向変位に応じて電気信号を発生する差動トランスから成り、コイル7を備えている。
【0025】
第1の支持部材1の他端には、探針に針圧を加える針圧発生装置8のコア9が設けられ、針圧発生装置8はコイル10を備えている。コア9は、コイル10の中心から軸方向にずれた位置に配置した高透磁率部材から成っている。第1の支持部材1における支点用針取付け部材2の両端の二つの支点用針3を結ぶ線上を中心として、第1の支持部材1の下面には、二つの磁石11を埋め込んだホルダー12が取付けられている。ホルダー12は図9に示すように断面台形の長手方向溝13を備え、この長手方向溝13の両側壁は下方へ向ってテーパー状に開いており、水平平面に対して傾斜面を構成している。ホルダー12に埋め込まれた二つの磁石11は、図7に示すように極性が互いに逆向きになるように配置されている。二つの磁石11を内蔵したホルダー12は軽くするためにカーボンで構成されている。
【0026】
また、図7、図8及び図10において、14は棒状の第2の支持部材であり、その先端には探針15が下向きに取付けられ、他端は高透磁率部材16で構成されている。高透磁率部材16の長手方向の両端には上向きにのびるガイド突起17が形成され、これらガイド突起17の対向側面は上方に向って開いた傾斜面として形成される。この高透磁率部材16の傾斜面はホルダー12における長手方向溝13の両側壁の傾斜面と共に、第1の支持部材に第2の支持部材を取付ける際の互いの位置決めを確保すると共にガイドの役割を果たしている。第2の支持部材14の他端における高透磁率部材16は第1の支持部材1におけるホルダー12の溝13に嵌るようにされ、その際、第2の支持部材14の他端における高透磁率部材16はホルダー12の溝の底面に接触し、二つの磁石11には接触しないように構成されている。また溝と高透磁率材部品には図9に示したような傾斜面を設け、互いの位置決めの確保と取付け時のガイドの役割を果たしている。
【0027】
第1の支持部材1及び第2支持部材14は慣性モーメントを小さくするために軽いカーボンで構成されている。一方、密度が高く質量が大きい第2支持部材14における高透磁率部材16及び第1の支持部材1におけるホルダー12内の磁石11は、支点まわりの慣性モーメントを小さくするために、支点の近くに配置している。
【0028】
さらに図9に示すように、第2支持部材14における高透磁率部材16の下側には板状部材18が設けられ、この板状部材18は磁場遮蔽効果を高めるため、高透磁率の材料で構成され、この板状部材18により交換部品を第1の支持部材1におけるホルダー12の溝13に傾けて近づけても正しい位置に収まるようにしている。
【0029】
上述のように第1の支持部材1におけるホルダー12に埋め込まれた磁石11は極性が逆になるように配置したことにより、磁気双極子が離れた場所に作る磁場が小さくなるので、差動トランス5、針圧発生装置8及び試料での磁場を小さくできる。また、この配置により磁石11の下部では磁力線が第2の支持部材14における高透磁率部材16の中を通るので、その下方及び探針位置の試料での磁場が小さくなる。
【0030】
図11には、支点用針3を受ける支点受け部材4の構造を拡大して示している。支点受け部材4は図示したように支点用針3を受ける凹面4aを備え、この凹面は逆円錐形状に構成され、支点用針3を精度よく位置決めして受けるようにされている。
【0031】
このように構成した図示触針式段差計においては、両端にそれぞれ変位センサ5及び針圧発生装置8を備え、二つの支点受け部材4に支点用針3を介して揺動自在に支持された第1の支持部材1のホルダー12に、両端にそれぞれ探針15及び高透磁率部材16を備えた第2の支持部材14を磁石の吸着力によって固定する。この場合、ホルダー12における長手方向溝13の両側壁の傾斜面と第2の支持部材14の高透磁率部材16におけるガイド突起17の対向傾斜面とにより、第2の支持部材14は第1の支持部材1のホルダー12に対して予定の位置に正確に位置決めして簡単に固定できる。
【0032】
そして、針圧発生装置8のコイル10に所定の電流を流すことにより、その電流の大きさに応じて力が発生され、この力により針圧発生装置8のコア9はコイル10の中心へ引き込まれる。それにより第1及び第2の支持部材1、14は支点用針3を介して揺動し、探針15を試料に押し当てる。試料又は検出系を走査することにより、探針15は試料表面をなぞり、その表面形状に応じて、固定された支点のまわりに第1及び第2の支持部材1、14が微小に回転運動し、差動トランス5のコア6の変位が検出され、このコア6の変位を探針15の針先の変位に換算することにより試料の表面形状や段差が測定される。
【0033】
図12には、本発明を実施している制御回路装置の一つの実施形態をブロック線図で示し、20は触針式段差計の変位センサであり、21は前置増幅器であり、22はデジタルシグナル処理回路(DSP)であり、23はアナログ入力ボードであり、24は設定、表示用のコンピュータである。デジタルシグナル処理回路(DSP)22は、前置増幅器21を介して触針式段差計の変位センサ20に接続され、変位センサ20を構成している差動トランスの二次コイルからの測定信号を受けるようにされている。またデジタルシグナル処理回路(DSP)22は、図示していないがデジタル−アナログ変換器及び電圧−電流変換回路を介して針圧付加手段の力発生用コイルに接続される。さらにデジタルシグナル処理回路(DSP)22は、RS−232Cシリアル通信系を介して設定、表示用のコンピュータ24に接続されている。またアナログ入力ボード23はデジタルシグナル処理回路(DSP)22におけるデジタル−アナログ変換器(図示していない)からアナログ電圧を受け、そして設定、表示用のコンピュータ24に接続されている。
【0034】
デジタルシグナル処理回路(DSP)22では、デジタルロックインアンプの手法により変位センサのコアの位置を算出し、コアと探針の支点からの距離の比を用いて探針の位置を算出する。その結果に低域通過フィルターをかけて雑音が低減される。遮断周波数fcは15Hz程度である。かかる低域通過フィルターは、デジタル信号処理による計算で行うフィルターであり、デジタルシグナル処理回路(DSP)22とアナログ入力ボード23の間に設けることができ、そして本発明によれば、計算処理によるデジタルフィルターで構成される。このデジタルフィルターによる計算処理は、デジタルシグナル処理回路(DSP)22において行なうことができる。代わりに、デジタルフィルターによる計算処理は、設定、表示用のコンピュータ24へデータを送信後に設定、表示用のコンピュータ24において行なうこともできる。
【0035】
デジタルフィルターには無限インパルス応答IIRと有限インパルス応答FIRの2種類があるが、直線位相特性を持ちステップ応答性がよい有限インパルス応答FIRが用いられる。有限インパルス応答FIRフィルターでは窓関数が用いられるが、その関数として例えばブラックマン窓が用いられる。サンプリング周波数は例えば1kHzで、次数は例えば90次程度までとする。
【0036】
図1と同じ段差形状、探針の先端の曲率半径、走査速度での走査結果に、このFIRの低域通過フィルタリングfc=15Hz をかけたシミュレーション結果を図13に示し、それを拡大したものを図14に示す。30、50、70、90次の結果が示されている。90次の場合に0.1nm程度の無視できるくらい小さいオーバーシュートが見えるだけで、他の次数ではオーバーシュートは見られない。形も段差部形状を反映して左右対象の形である。時間的には全体的に少し遅れるが、段差形状が時間軸方向にシフトしただけなので、そのことは段差形状測定において何ら問題にならない。
【0037】
図15には、90次の場合の『通過前後での振幅比の周波数特性』を示す。このFIR LPF fc=15Hzをかけた場合の変位雑音を測定した結果を図17に示す。デジタルシグナル処理回路(DSP)22での測定結果をアナログ電圧で設定、表示用のコンピュータ24に送り、設定、表示用のコンピュータ24においてデジタルフィルターをかけた結果であるが、計測回路のデジタルシグナル処理回路(DSP)22でデジタルフィルターをかけても結果は同様である。窓関数にはブラックマン窓と完全ブラックマン窓を用いた。探針を試料上に降ろして、走査はせず、静止状態で変位を1msごとに測定し、0.5Hz以下のうねり相当を除去した後、1秒間での『ピーク−ピーク』を算出した。次数が30次以上で、雑音の1秒間での『ピーク−ピーク』が1nm以下と小さい値が得られた。
【0038】
ブラックマン窓、90次の変位雑音の測定例を図18に示す。1msごとに4秒間、変位を測定した例である。1秒間での『ピーク−ピーク』を6秒ごとに2時間に渡ってモニターした例が図19の点群Aで示され、その平均は0.575nmである。点群Bは1秒間での標準偏差で、その平均は0.119nmである。低雑音が得られている。
【0039】
比較のためにIIR LPF fc=15Hzのバタワース特性とベッセル特性での雑音を図16に示す。変位雑音自体はIIRでもFIRでも同程度である。
【0040】
以上例示したように、変位雑音を小さくするために測定結果に最終的にかける遮断周波数15Hz程度の低域通過フィルターとして、デジタルフィルターの有限インパルス応答FIRフィルターでブラックマン窓などを用いることにより、オーバーシュートがなく、段差部形状が実物に近く、かつ、変位雑音(ピーク−ピーク)が0.6nmと小さい段差計が得られた。
【符号の説明】
【0041】
1:第1の支持部材
2:支点用針取付け部材
3 :支点用針
4 :支点受け部材
5 :変位センサ
6 :コア
7 :コイル
8 :針圧発生装置
9 :コア
10:針圧発生装置8のコイル
15:探針
20:触針式段差計の変位センサ
21:前置増幅器
22:デジタルシグナル処理回路(DSP)
23:アナログ入力ボード
24:設定、表示用のコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支点に揺動可能に取付けられた支持体の一端に探針を取付け、他端に探針の垂直方向変位を検出する変位センサの磁性体コアを取付け、探針が捉えた試料の表面形状を支持体の支点回りの回転運動により変位センサで測定する表面形状測定用触針式段差計における測定精度の改善方法において、
変位雑音を小さくするために遮断周波数が15Hz程度の低域通過フィルターとして、計算処理で行うデジタルフィルターを用いて計測結果をフィルタリングし、その際の窓関数としてブラックマン窓等を用いることを特徴とする表面形状測定用触針式段差計における測定精度の改善方法。
【請求項2】
デジタルフィルターが、有限インパルス応答FIRの低域通過フィルターであることを特徴とする請求項1記載の表面形状測定用触針式段差計における測定精度の改善方法。
【請求項3】
支点に揺動可能に取付けられた支持体の一端に探針を取付け、他端に探針の垂直方向変位を検出する変位センサの磁性体コアを取付け、探針が捉えた試料の表面形状を支持体の支点回りの回転運動により変位センサで測定する表面形状測定用触針式段差計における測定精度の改善装置において、
変位雑音を小さくするために計測結果をフィルタリングする遮断周波数が15Hz程度の低域通過フィルターが、計算処理で行うデジタルフィルターで構成され、窓関数としてブラックマン窓が用いられることを特徴とする表面形状測定用触針式段差計における測定精度の改善装置。
【請求項4】
デジタルフィルターが、有限インパルス応答FIRの低域通過フィルターから成ることを特徴とする請求項3記載の表面形状測定用触針式段差計における測定精度の改善装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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