説明

表面形状測定装置

【課題】プローブと測定試料との間にミクロンオーダーの距離を保持しつつ、試料の表面形状を測定可能な表面形状測定装置を提供する。
【解決手段】プローブ移動機構3によりプローブ2をXY平面方向に走査させ、走査に伴う複数位置において、プローブ移動機構3によるプローブ2のZ軸方向の位置又は電圧印加機構による印加電圧を変化させてプローブ2と試料表面との間に絶縁破壊を発生させ、絶縁破壊が生じたときの位置測定機構4又は電圧測定機構6の測定結果に基づいて試料の表面形状を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触の状態で表面の形状を測定できる表面形状測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、非接触で表面の形状を測定する装置としては、原子間力顕微鏡(AFM)が用いられている。典型的なAFMとして、カンチレバーと、該カンチレバーから延びるプローブ先端部とを有するプローブを含むものがある(例えば、特許文献1参照)。この種のAFMでは、測定試料の表面のトポグラフィ(すなわち形状)を測定するために、試料表面に対してプローブを走査させる。該走査動作は、測定試料あるいはプローブの何れかを平行移動させるものである。そして、プローブが試料表面上を走査する際に、プローブ先端部に原子間力が相互作用してカンチレバーが偏倚し、この偏倚を、試料表面に対するプローブ位置の関数として測定することにより、該試料表面の3次元マップを作成していた。
【特許文献1】特開2003−344257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記AFMでは、以下のような問題がある。
まず、プローブと測定試料とを原子間力が生じるレベル、すなわち数nmまで近接させる必要がある。このため、大きな段差を有する測定試料においては、操作中、プローブが試料に衝突してしまう問題が生じる。衝突により、測定が不可能になるばかりか、高価なプローブを破損する危険がある。また、nm以下の細かいプローブの制御が必要となるため、装置が大掛かりで高価なものとなる。また、このような装置を操作するのは熟練の技術者が必要であり、測定が高コストなものとなっている。
【0004】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、プローブと測定試料との間にミクロンオーダーの距離を保持しつつ、試料の表面形状を測定可能な表面形状測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る表面形状測定装置は、試料に対向配置されるプローブと、プローブをXY平面及びXY平面に垂直で試料に対向するZ軸方向に移動させるプローブ移動機構と、プローブの位置を測定する位置測定機構と、プローブと試料表面との間に電圧を印加する電圧印加機構と、プローブと試料表面との間の電位差を測定する電圧測定機構と、各機構を制御する制御手段とを備え、制御手段は、プローブ移動機構によりプローブをXY平面方向に走査させ、走査に伴う複数位置において、プローブ移動機構によるプローブのZ軸方向の位置又は電圧印加機構による印加電圧を変化させてプローブと試料表面との間に絶縁破壊を発生させ、絶縁破壊が生じたときの位置測定機構又は電圧測定機構の測定結果に基づいて試料の表面形状を得るものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、プローブと測定試料との間で絶縁破壊を生じさせることが可能な、ミクロンオーダーの距離を離間した状態で、試料の表面形状を測定可能な表面形状測定装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、本発明の一実施の形態の表面形状測定装置1の概略構成図である。ここでは、図1の紙面の奥行き方向をX軸、左右方向をY軸、上下方向をZ軸とする3次元座標に基づき説明する。
表面形状測定装置1は、金属プローブ(以下、プローブという)2と、プローブ2をX軸及びY軸方向に移動させるとともに、Z軸方向に(試料10との距離を離したり近づけたりする方向で)上下動させるプローブ移動機構3と、プローブ先端2aの位置を測定する位置測定機構4と、プローブ2と測定試料(以下、試料という)10間に数KVオーダーの電圧を印加する電圧印加機構5と、プローブ2と試料10間の電圧(プローブ電圧)を測定する電圧測定機構6と、表面形状測定装置1全体を制御する制御手段7とを有している。なお、試料10は、大気中においてXY平面に平行に置かれる。また、試料10は導電性のものである必要がある。
【0008】
制御手段7は、試料表面に対してプローブ2を走査(XY平面方向の移動)させ、走査に伴う複数位置において、プローブ2をZ軸方向に上下動させる測定動作を、プローブ移動機構3を制御して行わせる。また、位置測定機構4及び電圧測定機構6は、それぞれ計測結果を制御手段7に出力しており、制御手段7は、位置測定機構4及び電圧測定機構6からの測定結果に基づいて後述の表面形状測定処理を行い、試料10の表面形状を計測する。
【0009】
次に、本発明の表面形状計測の原理について説明する。
プローブ先端2aを、試料10の表面に対向して配置することにより、プローブ2と試料10とをそれぞれ電極としたコンデンサー構造が形成される。そして、このコンデンサー構造部分に、空気の絶縁破壊電圧以上の電圧が印加されると、絶縁破壊、すなわちプローブ先端2aと試料10との間に放電が生じ、電圧が下降する。本例の表面形状計測は、放電が生じるタイミングを検出し、そのタイミングにおける物理データを利用して表面形状測定を行うものである。
【0010】
ところで、実際の試料10の表面には凹凸があるが、微少部分では平行平板コンデンサーに近似できる。平行平板コンデンサーにおいて絶縁破壊が生じる電圧に関してはパッシェンの法則が適用される。
【0011】
図2は、パッシェン曲線を示している。すなわち、パッシェンの法則による電極間距離dとその電極間距離dのときに大気中で放電が生じる電位(絶縁破壊電圧)との関係を示している。以下、このパッシェン曲線を利用して、プローブ2と試料10との距離を変化させた場合の放電変化について説明する。
図2において、距離d=0は、プローブ先端2aが試料10に接触した状態である。そして、1000Vの電圧を加え、距離d=0の状態から、プローブ先端2aをZ軸方向に上昇(+方向に移動)させた場合について考える。この場合、パッシェン曲線に示すように、その距離がd0(≒3ミクロン)到達するまでの間は、プローブ電圧は印加電圧と等しく1000Vであり、放電は生じない。そして、更にプローブ2をZ軸方向に上昇させていき、距離dがd0に到達すると放電が開始する。そして、そのままプローブ2をZ軸方向に上昇させていくと、放電が継続されたまま、プローブ電圧はパッシェン曲線に従って下がっていく。
【0012】
このように、プローブ2をZ軸方向に移動させ、試料10との距離を変化させることにより、あるZ座標の位置で放電が生じ、プローブ電圧が下降を開始する。本例の表面形状測定は、このプローブ電圧の下降開始タイミングにおけるプローブ2の位置、すなわち放電開始位置を特定し、その位置特定をXY平面方向の複数位置で行うことで、試料10の表面形状を得るものである。
【0013】
次に、本発明の表面形状測定装置1の動作について説明する。
図3は、表面形状測定装置1における表面形状計測動作の説明図である。
まず、試料10を所定位置にセットし、位置決め固定する。そして、制御手段7は、プローブ移動機構3を駆動してプローブ2をXY平面上の測定開始位置まで移動させ、その後、Z軸方向の位置を決定するための準備動作を行う。
【0014】
本例においては、プローブ2と試料10との間で放電を起こさせ、その放電開始タイミングを把握する必要があることから、プローブ2のZ軸方向の移動範囲(プローブ移動範囲)は、そのプローブ移動範囲内をプローブ先端2aが移動している間に放電が生じる必要がある。しかしながら、試料10を表面形状測定装置1にセットした際には、試料10とプローブ先端2aとの距離は不明であるため、まずはプローブ2と試料10との間の距離を把握する必要がある。
【0015】
すなわち、まず、プローブ先端2aを、試料表面から十分離れた位置(ここでは例えば30ミクロン)にセットする。そして、プローブ2と試料10との間に例えば500V印加し、プローブ先端2aを試料表面に近づけていく。すると、図2のパッシェン曲線から明らかなように、25ミクロンに到達した時点で放電が開始する。そして、更にプローブ2を試料表面に近づけていくと、プローブ電圧はパッシェン曲線に従って下降していく。そして、d1に到達すると、放電が終了し、更にプローブ先端2aを試料表面に近づけていくと、プローブ電圧は、印加電圧と同じ500Vとなる。
【0016】
制御手段7は、電圧測定機構6によるプローブ電圧をチェックしており、プローブ電圧が500Vとなったタイミングで、プローブ2の下降をストップする。このときのプローブ2の位置を図3のP’とする。そして、プローブ2と試料表面との間の距離は、図2のパッシェン曲線から明かなように、d1(約4ミクロン)となっている。以上により、まずは現在のプローブ先端2aと試料表面との間の距離を把握できた状態となる。
【0017】
ところで、表面形状測定動作時に放電開始タイミングを検出するにあたっては、上述したように、印加電圧と同じであったプローブ電圧が下降を開始したタイミングを検出する。このため、放電が開始してプローブ電圧が緩やかに下降するのではなく、急激に下降する部分を特定することが検出精度の観点から好ましい。よって、パッシェン曲線において電極間距離に対する絶縁破壊電圧の変化率が高い範囲、すなわち約4ミクロン以下の範囲でプローブ2を移動させることが好ましい。
【0018】
ここで、表面形状測定動作時の印加電圧を1000Vとする場合、放電開始距離がd0であるため、d0を通過するようにプローブ移動範囲を決定する。具体的には例えば、プローブ先端2aと試料表面との距離がd0であるP0(X0,Y0,Z0)点を中心としてZ軸の±方向に所定距離dz離れたP1(X0,Y0,Z0−dz)からP2(X0,Y0,Z0+dz)をプローブ移動範囲とする。従って、いま、プローブ先端2aと試料表面との距離がd1であるため、現在位置P’と、P0と、距離dzとから、プローブ移動範囲の移動開始位置P1にプローブ先端2aを移動させる。
【0019】
そして、上記の準備段階が終了すると、表面形状計測動作に入る。
制御手段7は、電圧印加機構5により1000Vを印加し、プローブ移動機構3によりプローブ2をP1からP2まで上昇させ、この間のプローブ電圧を、電圧測定機構6からの計測結果に基づきモニタする。そして、放電が開始したときのプローブ位置P3(x0,y0,z3)を、位置測定機構4により取得する。このようにして放電開始時のプローブ位置P3(x0,y0,z3)を取得すると、制御手段7は、プローブ先端2aの高さを、元の高さ位置(高さ位置z0−dz)まで下降させつつ、プローブ2をXY方向に移動させて停止し、その停止位置で上記と同様の動作を行い、放電開始時のプローブ位置を取得する。この処理をXY方向に走査させつつ実施することで、放電開始時のプローブ2の高さ位置の分布が得られ、試料10の表面形状を計測できる。
【0020】
このように、本実施の形態においては、大気中の放電を利用して試料表面の形状計測を行うため、プローブ2と試料10とを数ミクロン離した状態で表面形状計測を行うことができる。すなわち、図2に示したパッシェン曲線から明かなように、放電が生じる距離がミクロンオーダーであることから、表面形状計測に放電を利用することにより、プローブ2と試料10との間の距離を、従来のAFMに比べて大きく取って計測することができる。よって、ナノオーダーの凹凸を有する試料表面の形状を計測するに際し、プローブ2が試料表面に衝突する不安無く、形状計測が可能である。また、プローブ2の試料表面への衝突が回避できるため、プローブ2を破損する危険もない。また、プローブ2の上下の制御はミクロンオーダーで良いため、上記従来のような熟練作業員による技術も不要で、装置が簡便で低コストとすることができる。
【0021】
さらに利点として、Z軸方向の位置の分解能が高いことが上げられる。図2のパッシェン曲線に示されるように、絶縁破壊電圧と電極間距離との関係は、電極間距離が約4ミクロン以下において、10V/nmの感度を持つ。すなわち4ミクロンを超えると、パッシェン曲線の傾きが緩やかで電圧の変化量が少ないのに対し、4ミクロン以下では、急激な傾きとなっており、電圧の変化量が大きい。換言すれば、Z軸方向に高い分解能が得られる。よって、4ミクロン以下をプローブ移動範囲とすることで、電圧の下降タイミング、すなわち放電開始タイミングの特定を精度良く行うことができる。従って、高さ位置の特定も精度良く行うことができる。このようにZ軸方向に高い分解能が得られるのは、従来の接触タイプの表面段差計、AFMなどには見られない特徴である。
【0022】
なお、本実施の形態では、プローブ2を上方(又は下方でも良い)に移動させ、プローブ先端2aと試料表面との距離を変化させることで放電開始タイミングを得るようにしたが、プローブ2を高さ一定のままとし、印加電圧を上昇させることで、放電開始タイミングを得るようにしても良い。この場合、放電が開始したときの電圧と図2のパッシェン曲線とから、プローブ先端2aと試料10との間の距離を取得することができる。すなわち、例えば、印加電圧を0Vから上昇させ、500Vとなったところで放電したとする。この場合、図2のパッシェン曲線から、プローブ先端2aと試料10の間の距離がd1ミクロンと算出できる。そして、プローブ2をその高さ位置を保ったままXY平面上で走査することによってプローブ先端2aから試料10までの距離の分布、すなわち試料表面の形状を決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態の表面形状測定装置の概略構成図である。
【図2】パッシェン曲線を示す図である。
【図3】表面形状測定装置における表面形状計測時の動作説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1 表面形状測定装置
2 プローブ
2a プローブ先端
3 プローブ移動機構
4 位置測定機構
5 電圧印加機構
6 電圧測定機構
7 制御手段
10 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対向配置されるプローブと、
前記プローブをXY平面及びXY平面に垂直で前記試料に対向するZ軸方向に移動させるプローブ移動機構と、
前記プローブの位置を測定する位置測定機構と、
前記プローブと前記試料表面との間に電圧を印加する電圧印加機構と、
前記プローブと前記試料表面との間の電位差を測定する電圧測定機構と、
前記各機構を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記プローブ移動機構により前記プローブをXY平面方向に走査させ、走査に伴う複数位置において、前記プローブ移動機構による前記プローブのZ軸方向の位置又は前記電圧印加機構による印加電圧を変化させて前記プローブと前記試料表面との間に絶縁破壊を発生させ、絶縁破壊が生じたときの前記位置測定機構又は前記電圧測定機構の測定結果に基づいて前記試料の表面形状を得ることを特徴とする表面形状測定装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記電圧印加機構により所定の電圧を印加させたまま、前記プローブ移動機構により前記プローブをZ軸方向に移動させ、絶縁破壊が生じたときの前記プローブの位置を取得することを特徴とする請求項1記載の表面形状測定装置。
【請求項3】
前記プローブをZ軸方向に移動させる際の移動範囲を試料表面との距離が4ミクロン以下の範囲とすることを特徴とする請求項2記載の表面形状測定装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記プローブのZ軸方向の位置を所定位置としたまま、前記電圧印加機構による印加電圧を変化させ、絶縁破壊が生じたときの前記電圧検出手段の測定結果を取得し、該測定結果とパッシェン曲線とにより前記プローブと前記試料表面との間の距離を算出することを特徴とする請求項1記載の表面形状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−229427(P2009−229427A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78760(P2008−78760)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】