説明

表面形状認識用センサ及びその製造方法

【課題】残留指紋の発生、及び視認性の高いキズの発生を抑制することができる表面形状認識用センサを提供する。
【解決手段】本発明の表面形状認識用センサは、半導体基板上に各々が絶縁分離されて配置された複数のセンサ電極と、前記センサ電極を覆う絶縁膜とを備え、前記絶縁膜は、前記絶縁膜に共有結合する有機シラン薄膜によって覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間の指紋など微細な凹凸を有する表面形状を感知するために用いられる表面形状認識用センサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットの普及とともに、本人認証の重要性に関して大きな関心が寄せられており、生体の特徴を計測評価して本人認証を行うバイオメトリクスは、認証技術の一分野として大きく進展しつつある。中でも、指紋を用いた本人認証は、容易に変えることのできない身体的特徴を計測評価する認証手段として盛んに研究開発がなされている。
【0003】
指紋を用いて本人認証を行うためには指紋を読み取ることになる。この指紋の読み取りには、光学式,容量式など各種の方式があるが、光学式の一部を除いては、指紋を読み取る際に、指を指紋センサの検出面に接触させるようにしているのが一般的である。
【0004】
しかしながら、指などの検出対象を検出面に接触させる方式の場合、皮脂などの油成分(油分)による残像(残留指紋)が問題となっている。この残留指紋は、さらなる認証の際にセンシングノイズとして干渉するため、指紋センサの認証性能を劣化させることがある。
【0005】
このような残留指紋の問題点を解消するための手段として、例えば、特許文献1では、センサ電極を覆う絶縁膜上に、油分を吸収するポリイミドなどからなる樹脂膜を形成している。
【特許文献1】特開2004−267588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ポリイミド等の樹脂膜は、センサ電極上の絶縁膜に比べて柔らかいため、センサ表面引っ掻きに対しては、絶縁膜よりキズが発生しやすくなる。このキズは、例え、回路動作に問題を生じさせないとしても、ユーザーに不安を与えることがあり、問題となる場合がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、残留指紋の発生、及び視認性の高いキズの発生を抑制することができる表面形状認識用センサを提供するものである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
本発明の表面形状認識用センサは、半導体基板上に各々が絶縁分離されて配置された複数のセンサ電極と、前記センサ電極を覆う絶縁膜とを備え、前記絶縁膜は、前記絶縁膜に共有結合する有機シラン薄膜によって覆われている。
【0009】
本発明のセンサの有機シラン薄膜は、共有結合によって、非常に強固に絶縁膜に結合し、薄膜表面を擦っても剥がれ難く、表面摩擦に対する耐性が高い。
従来の樹脂膜は、表面摩擦に対する耐性が低かったので、ある程度の厚膜化が必要であったが、本発明の有機シラン薄膜は、表面摩擦に耐性が強いので、極めて薄く(0.5〜3nm程度)形成することができ、単分子膜にすることもできる。なお、本明細書において、「薄膜」とは、複数段の単分子膜を共有結合させたものを意味する。
薄膜を極めて薄く形成すると、表面にひっかきキズが形成された場合でも、そのキズは、視認性が低く、ユーザーは、キズに気付きにくく、従って、ユーザーに余計な不安を与えるという従来のセンサの欠点が解消される。また、センサの容量膜厚が薄くなり、結果的に容量センサの感度が向上する。
【0010】
また、有機シラン薄膜は、通常、前記絶縁膜よりも撥水性及び撥油性が高いので、残留指紋の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図面は、説明の便宜のために用いられるものであり、本発明の範囲は、図面に示す実施形態に限定されない。
【0012】
本発明のセンサは、一例として、半導体基板上に、各々が絶縁分離されて配置された複数のセンサ電極と、前記センサ電極を覆う絶縁膜を形成し、前記絶縁膜に共有結合する有機シラン薄膜を形成する工程を備える方法で製造することができる。以下,この方法について詳述する。
【0013】
1.センサ電極形成工程
この工程では、半導体基板1上に複数のセンサ電極7を形成する。
具体的には、図1(a)に示すように、半導体基板1上に多層配線層3を形成し、多層配線層3上に層間絶縁膜5を介して複数のセンサ電極(1つのみ図示した。)7を形成する。多層配線層3は、複数の配線層9を備えている。上下に隣接する2つの配線層9間は、絶縁膜11によって互いに絶縁されている。各配線層9には、通常、複数の配線9aが含まれ、異なる配線層9間では、配線9a同士は、接続電極13を介して電気的に接続されている。多層配線層3の最上層にある配線9aとセンサ電極7の間も接続電極13を介して電気的に接続されている。複数のセンサ電極7は、通常は、マトリックス状に配置される。隣接するセンサ電極7間は、互いに絶縁分離されている。センサ電極7と同じ層に、後述するアース電極17に接続される配線7aも形成することができる。
多層配線層3,層間絶縁膜5及びセンサ電極7は、それぞれ、CVD法,スパッタ法又は蒸着法などによる成膜と、フォトリソグラフィ及びエッチング技術を用いたパターニングを組み合わせることによって形成することができる。配線9aや電極7,13は、Al膜又はTiNとTiの積層膜などで形成することができる。絶縁膜11又は層間絶縁膜5は、酸化シリコン又は窒化シリコンなどで形成することができる。
【0014】
2.絶縁膜形成工程
次に、センサ電極7を覆う絶縁膜15を形成し、図1(b)に示す構造を得る。絶縁膜15は、CVD法などにより、酸化シリコン又は窒化シリコンなどで形成することができる。絶縁膜15は、厚さ100〜3000nmで形成することができる。絶縁膜15は、センサの容量膜や保護膜として機能する。絶縁膜15は、パッシベーション膜とも呼ばれる。
【0015】
3.アース電極、パッド部形成工程
次に、絶縁膜15の所定の領域に開口を形成し、その後、アース電極用の金属膜を形成後、フォトリソグラフィおよびエッチング技術にて、前記金属膜をパターニングして、アース電極17を形成し、図1(c)に示す構造を得る。これによって、表面に露出したアース電極17が得られる。前記金属膜は、スパッタ法又は蒸着法などにより、TiNとTiの積層膜などで形成することができる。
アース電極17を形成する際に、ワイヤーボンディングパッド部(図示せず)も一緒に形成してもよい。また、アース電極17を必要としない場合は、この工程において、ワイヤーボンディングパッド部のみを形成してもよい。
【0016】
4.アセンブリ工程
この工程では、ここまでの工程によって得られた基板19を、リード端子を備えるアセンブリ基板21上にマウントする。その状態で、基板19のパッド部と、前記リード端子とをAuなどからなるワイヤーを用いて電気的に接続させる(ワイヤーボンディング工程)。次に、基板19の周縁をアセンブリ樹脂23で被覆し、図2(d)に示す構造のアセンブリ品を得る。
【0017】
5.有機シラン薄膜形成工程
次に、有機シラン薄膜形成前処理として、基板19表面をO2プラズマ等でアッシングし、表面を洗浄にする。次に、絶縁膜15に共有結合する有機シラン薄膜25を形成し、図2(e)に示す構造を得る。
有機シラン薄膜25は、絶縁膜15に共有結合するものであれば、その種類は特に限定されない。また、有機シラン薄膜25は、絶縁膜15よりも撥水性及び撥油性が高いものが好ましい。撥水性及び撥油性は、それぞれ、純水及び油に対する接触角の大きさに基づいて比較することができる。撥油性の比較に用いる油は、皮脂自体又はそれに特性が似たものを使用する。接触角は、(1/2)θ法で測定する。有機シラン薄膜25は、好ましくは、絶縁性である。
有機シラン薄膜25は、有機シラン単分子膜(以下、「単分子膜」とも呼ぶ。)、又はこの単分子膜を複数段共有結合させたものからなる。従って、まず、単分子膜を形成する方法を説明し、その後、複数段の単分子膜を共有結合させる方法について説明する。
単分子膜は、有機官能基を有する有機トリアルコシキシランを気相成長させることによって形成することができる。単分子膜の厚さは、有機官能基の種類等によって異なるが、通常は、0.5〜3nm程度である。
有機トリアルコシキシランは、好ましくは、置換又は非置換で、直鎖又は分岐鎖のアルキル基と、アルコキシ基とを有するアルキルトリアルコキシシランからなる。この場合、置換又は非置換で、直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有するアルキルシラン単分子膜が形成される。
アルキル基は、好ましくは炭素数が3〜20(さらに好ましくは3〜18)であり、例えば、オクタデシル基、オクチル基、ブチル基又はトリメチル基(−CH2−CH2−CH3)からなる。アルキル基は、含有する水素原子の少なくとも一部が他の原子又は有機官能基に置換されていてもよく、例えば、末端のメチル基がフルオロカーボン基(モノ,ジ,又はトリフルオロメチル基の総称)で置換されていてもよい。この置換によって膜の撥水性及び撥油性を調節することができる。アルコキシ基は、好ましくは炭素数が1〜4であり、例えば、メトキシ基又はエトキシ基からなる。アルキルトリアルコキシシランは、具体的には、例えば、オクタデシルトリメトキシシラン(以下、「ODS」)からなる。
【0018】
ここで、ODSを用いて、単分子膜を形成する方法の一例について説明する。
まず、アッシング処理後のアセンブリ品と、ODS(100ml)をテフロン(登録商標)の密閉容器に入れ、150℃で約90分間置く。すると気相成長により、アセンブリ品の表面に約2nmの単分子膜が形成される。次に、物理吸着した単分子を除去するために、表面に単分子膜が形成されたアセンブリ品をアセトン溶液中に浸し、約10分間超音波洗浄する。この洗浄により、基板19の表面の絶縁膜15に化学吸着(共有結合)した単分子膜が形成される。なお、アセトンの代わりにアルコールを用いてもよい。
【0019】
ODSを用いて形成される単分子膜25aの概念図を図3に示す。図3に示すように、シリコン原子が下地の絶縁膜15に共有結合しており、隣接するシリコン原子同士は、酸素原子を介して共有結合しており、残りの一本の手に、アルキル基が結合している。このように、単分子膜25aは、共有結合により構成されているので、非常に強固であり、また、一分子分の厚さしかないので、非常に薄い。
【0020】
以上の方法で単分子膜を形成することができる。また、単分子膜は、液相成長によって形成してもよい。
また、有機トリアルコシキシランとして、両端に、同一又は互いに異なるトリアルコキシシリル基を有するものを用い、複数回の気相又は液相成長を行うことによって、上記単分子膜を複数段共有結合させることができる。
【0021】
本実施形態では、有機シラン薄膜25は、アセンブリ工程でのワイヤーボンディングを行った後に形成する。ワイヤーボンディングの前に有機シラン薄膜25を形成する場合、ワイヤーボンディングパッド部上の有機シラン薄膜25を除去する工程が必要になるが、本実施形態ではそのような工程は必要ない。
【0022】
2.第2実施形態
本実施形態では、有機シラン薄膜25は、アセンブリ工程の前、従って、ワイヤーボンディングの前であって、ワイヤーボンディングパッド部を形成した後に形成する。従って、有機シラン薄膜25は、表面の絶縁膜15及びパッド部を覆うように形成される。パッド部が有機シラン薄膜25で覆われたままではワイヤーボンディングの妨げになることがあるので、パッド部上方の有機シラン薄膜25を除去する工程をさらに備えることが好ましい。これによって、有機シラン薄膜25に、パッド部が露出するように開口部が形成される。その他の点については、第1実施形態と同様である。
【0023】
以上の実施形態で示した種々の特徴は、互いに組み合わせることができる。1つの実施形態中に複数の特徴が含まれている場合、そのうちの1又は複数個の特徴を適宜抜き出して、単独で又は組み合わせて、本発明に採用することができる。
【実施例】
【0024】
第1実施形態で示した方法で、窒化シリコンからなる絶縁膜15上にODSを用いて単分子膜を形成した。
この単分子膜上に純水を滴下したところ、その接触角は、90度以上であった。また、単分子膜を強く引っ掻いたところ、視認可能なキズは、形成されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の第1実施形態の表面形状認識用センサの製造工程を示す断面図である。
【図2】(d)〜(e)は、本発明の第1実施形態の表面形状認識用センサの製造工程を示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る、単分子膜の概念図である。
【符号の説明】
【0026】
1:半導体基板 3:多層配線層 5:層間絶縁膜 7:センサ電極 7a:アース電極に接続される配線 9:配線層 9a:配線 11:絶縁膜 13:接続電極 15:絶縁膜 17:アース電極 19:基板 21:アセンブリ基板 23:アセンブリ樹脂 25:有機シラン薄膜 25a:有機シラン単分子膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に各々が絶縁分離されて配置された複数のセンサ電極と、前記センサ電極を覆う絶縁膜とを備え、前記絶縁膜は、前記絶縁膜に共有結合する有機シラン薄膜によって覆われていることを特徴とする表面形状認識用センサ。
【請求項2】
前記有機シラン薄膜は、前記絶縁膜よりも撥水性及び撥油性が高い請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記有機シラン薄膜は、単分子膜である請求項1に記載のセンサ。
【請求項4】
前記有機シラン薄膜は、置換又は非置換で、直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有するアルキルシラン単分子膜である請求項3に記載のセンサ。
【請求項5】
前記アルキル基は、炭素数が3〜20である請求項4に記載のセンサ。
【請求項6】
前記アルキル基は、オクタデシル基、オクチル基、ブチル基又はトリメチル基からなる請求項4に記載のセンサ。
【請求項7】
前記アルキル基は、末端のメチル基がフルオロカーボン基で置換されている請求項4に記載のセンサ。
【請求項8】
前記絶縁膜上に、ワイヤーボンディングパッド部をさらに備え、
前記有機シラン薄膜は、前記パッド部を露出させる開口部を有する請求項1に記載のセンサ。
【請求項9】
表面に露出したアース電極をさらに備える請求項1に記載のセンサ
【請求項10】
半導体基板上に各々が絶縁分離されて配置された複数のセンサ電極と、前記センサ電極を覆う絶縁膜を形成し、
前記絶縁膜に共有結合する有機シラン薄膜を形成する工程を備える表面形状認識用センサの製造方法。
【請求項11】
前記有機シラン薄膜は、前記絶縁膜よりも撥水性及び撥油性が高い請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記有機シラン薄膜は、単分子膜である請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記有機シラン薄膜は、置換又は非置換で、直鎖又は分岐鎖であるアルキル基と、アルコキシ基とを有するアルキルトリアルコキシシランを用いて形成される請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記アルキル基は、炭素数が3〜20である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記アルキル基は、オクタデシル基、オクチル基、ブチル基又はトリメチル基からなる請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記アルコキシ基は、炭素数が1〜4である請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記アルコキシ基は、メトキシ基又はエトキシ基からなる請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記絶縁膜形成後に、ワイヤーボンディングパッド部を形成し、前記パッド部を用いてワイヤーボンディングを行う工程をさらに備え、
前記有機シラン薄膜は、ワイヤーボンディングの後に形成される請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記絶縁膜形成後に、ワイヤーボンディングパッド部を形成する工程をさらに備え、
前記有機シラン薄膜は、前記絶縁膜及び前記パッド部を覆うように形成され、
前記パッド部上方の前記有機シラン薄膜を除去する工程をさらに備える請求項10に記載の方法。
【請求項20】
表面に露出したアース電極を形成する工程をさらに備える請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−155606(P2007−155606A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353762(P2005−353762)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】