説明

表面改質ナノ粒子を有するポリマーナノコンポジット、およびその調製方法

複数のナノ粒子および有機マトリックスを含有するナノコンポジットであって、ナノ粒子がそれぞれ、少なくとも1つのアリール基を有するカルボン酸で改質された表面を有する少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶を含有するナノコンポジットが開示される。ナノコンポジットの調製方法であって、(a)少なくとも1つのアリール基を有するカルボン酸で改質された表面を有する少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶をナノ粒子がそれぞれ含有する、複数のナノ粒子を提供するステップと、(b)放射線硬化性モノマー、放射線硬化性オリゴマー、またはその混合物である有機マトリックスを提供するステップと、(c)複数のナノ粒子を有機マトリックスと混合して、複数のナノ粒子の溶解をもたらすステップとからなる方法も開示される。ステップ(b)が、熱可塑性ポリマーである有機マトリックスを提供するステップからなる、ナノコンポジットの第2の調製方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ナノコンポジット、詳細には複数の表面改質ナノ粒子を含むポリマーナノコンポジットに関する。ナノコンポジットの調製方法も開示する。
【背景技術】
【0002】
ナノコンポジットは、成分の少なくとも1つがナノメートル領域の1つまたは複数の大きさを有する、少なくとも2つの異なる成分の混合物である。ナノコンポジットは、例えばその成分のそれぞれに帰属する特性を示すので、多くの用途で使用されている。ナノコンポジットの1タイプは、ポリマーなどの有機マトリックスに分布されたナノ粒子を含む。このタイプのナノコンポジットは、ナノ粒子を使用して、ポリマーの屈折率を増大させる光学用途に有用である。ナノコンポジットで、光散乱に起因するヘイズが最小限にしか示されないように、ナノ粒子はポリマー内で最小限にしか凝固せず、均一に分布されていなければならない。
【0003】
容易に調製することができ、光学用途での使用に適したナノコンポジットが必要とされている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、複数のナノ粒子および有機マトリックスを含むナノコンポジットであって、ナノ粒子がそれぞれ、少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸で改質された表面を有する少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶を含む、ナノコンポジットに関する。
【0005】
本開示は、ナノコンポジットの調製方法であって、(a)少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸で改質された表面を有する少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶をナノ粒子がそれぞれ含む、複数のナノ粒子を提供するステップと、(b)放射線硬化性モノマー、もしくは放射線硬化性オリゴマー、またはその混合物を含む有機マトリックスを提供するステップと、(c)複数のナノ粒子を有機マトリックスと混合して、複数のナノ粒子の溶解をもたらすステップとを含む方法にも関する。
【0006】
本開示は、ナノコンポジットの調製方法であって、(a)少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸で改質された表面を有する少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶をナノ粒子がそれぞれ含む、複数のナノ粒子を提供するステップと、(b)熱可塑性ポリマーを含む有機マトリックスを提供するステップと、(c)複数のナノ粒子を有機マトリックスと混合して、複数のナノ粒子の溶解をもたらすステップとを含む方法にも関する。
【0007】
本明細書で開示するナノコンポジットは、光学用途など、様々な用途で使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本開示は、複数のナノ粒子を含むナノコンポジットであって、ナノ粒子がそれぞれ、少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸で改質された表面を有する少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶を含む、ナノコンポジットに関する。有用なナノ粒子が、本出願と同日付に出願された、ウィリアムズ(Williams)らによる、「表面改質ナノ粒子およびその調製方法(Surface Modified Nanoparticle and Methods of Preparing Same)」という名称の米国特許出願第 号(代理人整理番号第60352号)に開示されている。ナノ粒子は、
(a)非アルカリ金属塩と少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸とを溶解して含む第1の有機溶媒の第1の溶液を提供し、
(b)硫化物材料を提供し、そして
(c)第1の溶液と硫化物材料を組み合わせて、反応溶液を形成して、それによって少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸で改質された表面を有する少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶をナノ粒子がそれぞれ含むナノ粒子を形成する
方法で調製することができる。
【0009】
本発明は、さらに
(d)第1の有機溶媒と混和性であるがナノ粒子に対して貧溶媒である第3の溶媒を反応溶液に添加することによって、ナノ粒子を沈殿させるステップと、
(e)ナノ粒子を単離するステップと、
(f)場合によっては、ナノ粒子を第3の溶媒で洗浄するステップと、
(g)ナノ粒子を乾燥して、粉末にするステップと
からなっていてもよい。
【0010】
第1の有機溶媒は、非アルカリ金属塩と少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸とを溶解することができる任意の有機溶媒とすることができ、またナノ粒子が形成される反応溶液を形成するために、硫化物材料とも相溶性でなければならない。一実施形態では、第1の有機溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ピリジン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、N−メチルピロリドン、炭酸プロピレン、またはその混合物などの非プロトン性双極性有機溶媒である。
【0011】
非アルカリ金属塩は、化学量論的に硫化物材料と組み合わせて金属硫化物ナノ結晶を形成する金属イオンを提供する。非アルカリ金属塩の特定の選択は、上記に記載する方法で使用する溶媒および/または少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸に依存する場合がある。例えば、一実施形態では、非アルカリ金属塩は、遷移金属の塩、第IIA族金属の塩、またはその混合物である。というのは、これらの金属の金属硫化物ナノ結晶は、第3の溶媒として水を使用した場合に分離が容易であるからである。遷移金属および第IIA族金属の例は、Ba、Ti、Mn、Zn、Cd、Zr、Hg、およびPbである。
【0012】
非アルカリ金属塩の選択に影響を及ぼす別の要因は、金属硫化物ナノ結晶の所望の特性、したがってナノ粒子の所望の特性である。例えば、ナノコンポジットが光学用途向けである場合、硫化亜鉛ナノ結晶が無色で、高い屈折率を有するので、非アルカリ金属塩を亜鉛塩とすることができる。半導体用途では、硫化カドミウムナノ結晶が有用なエネルギー範囲の光を吸収し、発することができるので、非アルカリ金属塩をカドミウム塩とすることができる。
【0013】
少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸は、少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶の表面を改質する。少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸の特定の選択は、上記に記載する方法で使用する溶媒および非アルカリ金属塩に依存する場合がある。少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸は、第1の有機溶媒に溶解しなければならず、第1の溶液を硫化物材料と組み合わせたときに形成される少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶を表面改質することができなければならない。特定の少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸の選択は、ナノ粒子の所期の使用に依存する場合もある。ナノコンポジットに使用するためには、少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸は、ナノ粒子が、ブレンドされる有機マトリックスと相溶するのを助けることができる。一実施形態では、第1の有機溶媒に可溶であり、広範囲の有機マトリックスと相溶性であるナノ粒子を与えるために、少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸の分子量は60〜1000である。
【0014】
別の実施形態では、少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸は、次式:
Ar−L1−CO2
[式中、L1は、飽和、不飽和、直鎖状、分枝状、または脂環式である、1〜10個のC原子のアルキレン残基を含み、
Arは、フェニル、フェノキシ、ナフチル、ナフトキシ、フルオレニル、フェニルチオ、またはナフチルチオ基を含む]で表される。アルキレン残基は、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、またはペンチレンとすることができる。アルキレン残基が5個より多いC原子を有する場合、第1の有機溶媒での溶解性が限定される恐れがあり、かつ/または表面改質が効果的でない恐れがある。アルキレン基および/またはアリール基は、アルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン、または他の基で置換されていてよい。少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸は、3−フェニルプロピオン酸、4−フェニル酪酸、5−フェニル吉草酸、2−フェニル酪酸、3−フェニル酪酸、1−ナフチル酢酸、3,3,3−トリフェニルプロピオン酸、トリフェニル酢酸、2−メトキシフェニル酢酸、3−メトキシフェニル酢酸、4−メトキシフェニル酢酸、4−フェニルケイ皮酸、またはその混合物とすることができる。
【0015】
別の実施形態では、少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸は、次式:
Ar−L2−CO2
[式中、L2は、フェニレンまたはナフチレン(napthylene)残基を含み、
Arは、フェニル、フェノキシ、ナフチル、ナフトキシ、フルオレニル、フェニルチオ、またはナフチルチオ基を含む]で表される。フェニレンまたはナフチレン残基および/またはアリール基は、アルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン、または他の基で置換されていてよい。少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸は、2−フェノキシ安息香酸、3−フェノキシ安息香酸、4−フェノキシ安息香酸、2−フェニル安息香酸、3−フェニル安息香酸、4−フェニル安息香酸、またはその混合物とすることができる。
【0016】
第1の溶液では、少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸と非アルカリ金属塩の有用な重量比は、1:2〜1:200である。少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸と非アルカリ金属塩のモル比は、1:10未満とすることができる。使用する特定の重量比は、少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸および非アルカリ金属塩の溶解性、硫化物材料が何であるか、反応条件、例えば温度、時間、撹拌など、様々な要因に依存する。
【0017】
硫化物材料は、化学量論的に非アルカリ金属イオンと反応して、少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶を形成する硫化物を提供する。一実施形態では、硫化物材料は、第1の溶液に通気させることができる硫化水素ガスを含む。別の実施形態では、硫化物材料は、硫化水素ガスまたは硫化物イオンを溶解して含有する、第1の有機溶媒と混和性である第2の有機溶媒の第2の溶液を含む。有用な第2の有機溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、イソブタノール、またはその混合物である。硫化物イオンの第2の溶液は、硫化物塩を第2の有機溶媒に溶解して得ることができる。有用な硫化物塩は、アルカリ金属硫化物、硫化アンモニウム、または置換硫化アンモニウムである。硫化物材料の量を、非アルカリ金属イオンの化学量論的当量の90%に限定することが有用である場合が多い。一実施形態では、第1の溶液は、非アルカリ金属イオンを溶解して含み、第2の溶液は、硫化物イオンを溶解して含み、非アルカリ金属イオンと硫化物イオンのモル比は、10:9以上である。
【0018】
本明細書で開示するナノコンポジットに使用するナノ粒子は、少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶を含む。一実施形態では、金属硫化物ナノ結晶は、遷移金属硫化物ナノ結晶、第IIA族金属硫化物ナノ結晶、またはその混合物である。別の実施形態では、金属硫化物ナノ結晶は、亜鉛金属硫化物ナノ結晶を含む。さらに別の実施形態では、閃亜鉛鉱結晶形が、硫化亜鉛の他の鉱物形に比べて最も高い屈折率を有し、したがって光学用途向けのナノコンポジットで非常に有用であるので、亜鉛金属硫化物ナノ結晶の鉱物形は閃亜鉛鉱結晶形である。
【0019】
ナノ粒子は少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶を含み、ナノ結晶の正確な数は、様々な要因に応じて変わる場合がある。例えば、各ナノ粒子中のナノ結晶の数は、非アルカリ金属塩、少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸、または硫化物材料の特定の選択、ならびにステップ(a)、(b)、または(c)で使用するそれらの濃度および相対量に応じて変わる場合がある。各ナノ粒子中のナノ結晶の数は、ステップ(a)、(b)、または(c)で使用する反応条件に応じて変わる場合もある。反応条件の例としては、温度、時間、および撹拌などが挙げられる。上述のこれらの要因はすべて、ナノ結晶の形状、密度、およびサイズ、ならびにその結晶の全体的品質および純度にも影響を及ぼす場合がある。ナノ粒子が同じ反応溶液中で同じ非アルカリ金属イオンおよび硫化物材料から形成されるとしても、金属硫化物ナノ結晶の数は、所与の反応溶液中の個々の各ナノ粒子について変わる場合がある。
【0020】
少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶は、少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸で改質された表面を有する。表面の数は、先の段落に記載する要因、および1つより多いナノ結晶が存在する場合にはナノ粒子内の特定のナノ結晶配列に応じて変わる場合がある。1つまたは複数のカルボン酸分子は個別に、表面改質に関与することができ、ナノ粒子の所望の特性が得られる限り、1つまたは複数のカルボン酸分子と少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶との特定の配列および/または相互作用に限定されない。例えば、カルボン酸分子の多くは、少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶を封入するシェル様コーティングを形成することができ、あるいは1つまたは2つのカルボン酸分子しか、少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶と相互作用しない場合がある。
【0021】
ナノ粒子は、特定の用途に応じて、任意の平均粒径を有することができる。本明細書では、平均粒径は、少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸を含んでも含まなくてもよいナノ粒子の、通常の方法で測定できるサイズを意味する。平均粒径は、ナノ粒子中に存在する少なくとも1つのナノ結晶の数、形状、サイズなどに直接相関することができ、上記に記載する要因はそれに応じて変わり得る。一般に、平均粒径は1ミクロン以下とすることができる。平均粒径を500nm以下とすることができる用途もあれば、200nm以下とすることができる用途もある。光学用途向けのナノコンポジットで使用する場合、光散乱を最小限に抑えるために平均粒径は50nm以下である。一部の光学用途では、平均粒径を20nm以下とすることができる。
【0022】
平均粒径は、溶液中のナノ粒子の吸収スペクトルの励起子吸収端のシフトから決定することができる。結果は、ZnSの平均粒径に関する以前のレポート(R.ロセッティ(R.Rossetti)、Y.ヤン(Y.Yang)、F.L.ビアン(F.L.Bian)、およびJ.C.ブルス(J.C.Brus)、J.Chem.Phys.1985年、82、552)に一致する。平均粒径は、透過型電子顕微鏡を使用して決定することもできる。
【0023】
ナノ粒子は、合成化学分野で知られている任意の通常の技法を使用することによって単離することができる。一実施形態では、上記のステップ(d)〜(g)で記載するようにナノ粒子を単離する。ナノ粒子を沈殿させるために、第3の溶媒を反応溶液に添加する。第3の溶媒は、ナノ粒子に対して貧溶媒であり、反応溶液中に残留する他の成分すべてに対して溶媒である限り、任意のものを使用することができる。貧溶媒は、その重量の1重量%未満のナノ粒子しか溶解することができないものとすることができる。一実施形態では、第3の溶媒は、水、水混和性有機溶媒、またはその混合物である。水混和性有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールが挙げられる。
【0024】
ナノ粒子を遠心、濾過などで単離し、続いて第3の溶媒で洗浄して、非揮発性副生物および不純物を除去することができる。次いで、ナノ粒子を例えば周囲条件下または真空下で乾燥することができる。一部の用途では、溶媒すべての除去が重要である。光学用途で使用するナノコンポジットでは、残留溶媒が、ナノ粒子の屈折率を低下させ、あるいは気泡および/またはヘイズをナノコンポジット内で形成させる恐れがある。
【0025】
本開示は、上記に記載するナノ粒子および有機マトリックスを含むナノコンポジットに関する。有機マトリックスは、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、またはその混合物などのポリマーとすることができる。いずれの場合も、ポリマーは任意の構造組成を有することができ、例えばラジカルまたはカチオン機構で不飽和モノマーが付加することによって形成された付加ポリマーとすることができ、あるいはモノマー間で水が脱離することによって形成された縮合ポリマーとすることができる。ポリマーは、ランダム、ブロック、グラフト、デンドリマー状などとすることもできる。
【0026】
一実施形態では、ポリマーは、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアクリラート、ポリメタクリラート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエーテル、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリカルボナート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエポキシド、セルロース、またはその混合物とすることができる。別の実施形態では、ポリマーは、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアクリラート、ポリメタクリラート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエーテル、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリカルボナート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエポキシド、またはセルロースのコポリマーとすることができる。例えば、コポリマーは、ポリエステル−ポリウレタン、ポリメタクリラート−ポリスチレンなどとすることができる。さらに別の実施形態では、ポリマーは、高い屈折率の場合には芳香族環、ハロゲン、および硫黄原子を含む。有用なポリマーの例は、ポリカルボナートZ(三菱瓦斯化学(Mitsubishi Gas Chemical)製ユーピロン(Iupilon)(登録商標)Z−200、CAS番号25134−45−6)である。
【0027】
一実施形態では、有機マトリックスは熱可塑性ポリマーを含み、ナノコンポジットは、
(a)少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸で改質された表面を有する少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶をナノ粒子がそれぞれ含む、複数のナノ粒子を提供し、
(b)熱可塑性ポリマーを含む有機マトリックスを提供し、そして
(c)複数のナノ粒子を有機マトリックスと混合して、複数のナノ粒子の溶解をもたらす方法で調製することができる。混合は、任意の適切な手段を使用して実施することができ、熱可塑性ポリマーおよびナノ粒子の物理的諸特性に依存する場合がある。適切な手段の例としては、一軸および多軸押出機、多段押出機、ピストン押出機、混練機、撹拌機、プロセッサーなどが挙げられる。温度、圧力、時間、速度など、必要な混合条件は、熱可塑性ポリマーとナノ粒子の特定の組合せに依存する場合もある。適切な熱可塑性ポリマーおよびナノ粒子は、上記に記載されている。
【0028】
別の実施形態では、有機マトリックスは、放射線硬化性モノマー、放射線硬化性オリゴマー、またはその混合物を含む。このような有機マトリックスを含むナノコンポジットは、
(a)少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸で改質された表面を有する少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶をナノ粒子がそれぞれ含む、複数のナノ粒子を提供し、
(b)放射線硬化性モノマー、放射線硬化性オリゴマー、またはその混合物を含む有機マトリックスを提供し、かつ
(c)複数のナノ粒子を有機マトリックスと混合して、複数のナノ粒子の溶解をもたらす方法で調製することができる。
【0029】
有用な放射線硬化性モノマーおよびオリゴマーは、粒子、化学線、または熱放射による硬化時に上述のポリマーのいずれかを形成できるもののいずれかである。このような放射線硬化性材料および方法の例は、米国特許第4,559,382号明細書に記載されている。一実施形態では、放射線硬化性モノマーまたは放射線硬化性オリゴマーは、アクリラート、メタクリラート、もしくはスチレン基、またはその混合物など、通常はラジカルで重合される基を含む。放射線硬化性モノマーの特定の例は、2−カルボキシエチルアクリラート、フェノキシエチルアクリラート、またはその混合物である。
【0030】
別の実施形態では、放射線硬化性モノマーおよびオリゴマーは、カチオン重合性であり、エポキシド、環状エーテル、ビニルエーテル、ビニルアミン、不飽和炭化水素、ラクトン、もしくは他の環状エステル、ラクタム、環状カルボナート、環状アセタール、アルデヒド、環状アミン、環状スルフィド、シクロシロキサン、またはシクロトリホスファゼンなど、少なくとも1つのカチオン重合性基を含む。他の有用なカチオン重合性モノマーおよびオリゴマーは、G.オディアン(G.Odian)、「重合の原理(Principles of Polymerization)」、第3版、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ・インコーポレーテッド(John Wiley & Sons Inc.)、1991年、ニューヨーク(N.Y.)、および「エンサイクロペディア・オブ・ポリマー・サイエンス・アンド・エンジニアリング(Encyclopedia of Polymer Science and Engineering)」、第2版、H.F.マーク(H.F.Mark)、N.M.ビカレス(N.M.Bikales)、C.G.オーバーベルガー(C.G.Overberger)、G.メンゲス(G.Menges)、J.I.クロシュウィッツ(J.I.Kroschwitz)編集、第2巻、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)、1985年、ニューヨーク(N.Y.)、729〜814頁に記載されている。カチオン重合性モノマーの特定の例は、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、またはその混合物である。
【0031】
一実施形態では、有機マトリックスは、放射線硬化性モノマー、放射線硬化性オリゴマー、放射線硬化性ポリマー、またはその混合物から形成された熱可塑性または熱硬化性のポリマーを含む。有用な放射線硬化性モノマー、オリゴマー、またはポリマーは、上記に記載されている。一実施形態では、ナノコンポジットは、
(a)少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸で改質された表面を有する少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶をナノ粒子がそれぞれ含む、複数のナノ粒子を提供し、
(b)放射線硬化性モノマー、放射線硬化性オリゴマー、またはその混合物を含む有機マトリックスを提供し、
(c)複数のナノ粒子を有機マトリックスと混合して、複数のナノ粒子の溶解をもたらし、
(d)光開始剤を添加し、そして
(e)化学線で硬化させる方法で調製することができる。
【0032】
別の実施形態では、ナノコンポジットは、
(a)少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸で改質された表面を有する少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶をナノ粒子がそれぞれ含む、複数のナノ粒子を提供し、
(b)放射線硬化性モノマー、放射線硬化性オリゴマー、またはその混合物を含む有機マトリックスを提供し、
(c)複数のナノ粒子を有機マトリックスと混合して、複数のナノ粒子の溶解をもたらし、
(d)熱開始剤を添加し、そして
(e)化学線で硬化させる方法で調製することができる。
【0033】
放射線硬化性モノマーまたはオリゴマーが、ラジカルで重合可能な少なくとも1つの基を含む場合、および硬化用放射線が粒子放射線、例えば放射性同位元素からのガンマ線、x線、アルファ粒子、およびベータ粒子、電子ビームなどである場合、重合を開始するためのラジカル供給源を追加する必要はない。一般に、最終生成物への硬化を提供するのに、0.5〜10メガラドの放射線の使用で十分である。
【0034】
硬化エネルギーが、紫外線もしくは可視光線などの化学線、または熱放射である場合、硬化エネルギーを適用した時に反応が開始するようにラジカル供給源を組成物に添加する必要がある。本明細書で開示する組成物に適したラジカル供給源または開始剤には、有機ペルオキシドや有機ヒドロペルオキシドなど、通常の熱活性化化合物または熱開始剤が含まれる。これらの代表例は、過酸化ベンゾイル、過安息香酸第三級ブチル、クメンヒドロペルオキシド、およびアゾビス(イソブチロニトリル)である。放射線が紫外線または可視光線である場合、開始剤は、組成物が照射されたときに重合を容易にする光重合開始剤または光開始剤とすることができる。これらの開始剤には、アシロインおよびその誘導体、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、およびα−メチルベンゾイン;ジケトン、例えばベンジルおよびジアセチル;有機スルフィド、例えばジフェニルモノスルフィド、ジフェニルジスルフィド、デシルフェニルスルフィド、およびテトラメチルチウラムモノスルフィド;S−アシルジチオカルバマート、例えばS−ベンゾイル−N,N−ジメチルジチオカルバマート;フェノン、例えばアセトフェノン、α,α,α−トリブロモアセトフェノン、α,α−ジエトキシアセトフェノン、o−ニトロ−α,α,α−トリブロモアセトフェノン、ベンゾフェノン、およびp,p’−テトラメチルジアミノベンゾフェノン;ホスフィンオキシド、例えばチバ、米国ニューヨーク州タリータウン(Ciba,Tarrytown,NY)のイルガキュア(IRGACURE)(登録商標)819として入手可能なビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシドが含まれる。開始剤は、全重合性組成物の約0.01〜5重量%の量で使用することができる。量が0.01重量%未満であると、重合速度は一般に低すぎる。量が約5重量%を超えると、それに対応して改善された効果を期待することができない。一実施形態では、重合性組成物中約0.05〜1.0重量%の開始剤を使用する。化学線は、フュージョンUVシステムズ・インコーポレーテッド、米国メリーランド州ゲーサーズバーグ(Fusion UV Systems,Inc.,Gaithersburg,MD)などの企業から市販されているいくつもの供給源によって一般的に提供される。効率を最大にするためにランプ発光を光開始剤吸収と一致させることは、当業者間において常識である。50〜500mJ/cm2の範囲の吸収線量を一般に使用する。
【0035】
放射線硬化性モノマーまたはオリゴマーが、カチオン触媒で重合可能な少なくとも1つの基である場合、硬化エネルギーは、通常は紫外線や可視光線などの化学線、または熱放射である。硬化エネルギーを適用した時に反応が開始するようにカチオン供給源を組成物に添加する必要がある。有用な触媒および開始剤は、(1)重合を開始または触媒するのに必要なブレンステッド酸またはルイス酸(および場合によってはラジカル)の潜在的供給源として働く熱反応性または光化学反応性のカチオン部分と(2)非求核性カウンターアニオンからなる塩である。このような触媒および開始剤の特定の例は、米国特許第5,514,728号明細書に見ることができ、イルガキュア(IRGACURE)(登録商標)250(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)から入手可能なヨードニウム型)、およびサーキャット(SarCat)K185(サートマー・カンパニー(Sartomer Company)から入手可能なスルホニウム型)が挙げられる。
【0036】
上記のナノコンポジットは、複数のナノ粒子および有機マトリックスを溶媒、例えば塩化メチレンに溶解し、続いて蒸発により溶媒を除去することによって調製することもできる。
【0037】
本明細書で開示するナノコンポジットで使用するナノ粒子と有機マトリックスの相対量は、屈折率、剛性、硬度、気体透過性、耐久性、電気導電率などを含めて、光学的および物理的諸特性など、ナノコンポジットの所望の特性に依存する場合がある。ナノコンポジットの所望の特性は、使用される用途に依存する場合がある。ナノコンポジットで使用する複数のナノ粒子の量は、ナノ粒子および有機マトリックスの特性に依存する場合もある。
【0038】
一実施形態では、複数のナノ粒子を使用して、有機マトリックスの屈折率を増大することができ、複数のナノ粒子は、ナノコンポジットの屈折率が有機マトリックスの屈折率より少なくとも0.01高くなるような量で存在する。有機マトリックスとして使用される大部分のポリマーは、1.6以下の屈折率を有する。一実施形態では、複数のナノ粒子は、ナノコンポジットが少なくとも1.61の屈折率を有するような量で存在する。別の実施形態では、複数のナノ粒子は、有機マトリックスの重量に比べて50重量%以下の量で存在する。さらに別の実施形態では、複数のナノ粒子は、有機マトリックスの体積に比べて25体積%以下の量で存在する。
【0039】
本明細書で開示するナノコンポジットは、様々な用途およびデバイスで使用することができる。例えば、本明細書で開示するナノコンポジットは、半導体用途で量子ドットとして、または生細胞および生体外(in vitro)生物学的検定において分子過程を追跡かつ標識するために使用する材料として使用することができる。本明細書で開示するナノコンポジットを、発光デバイスで封止材として使用することもでき、またはレンズ、プリズム、フィルム、導波管などの物品に形成することもできる。本明細書で開示するナノコンポジットは、コンピュータモニターまたは携帯電話のバックライト電子ディスプレイ用の輝度上昇フィルムとして使用することができる。一実施形態では、ナノコンポジットは、光学用途で有用であるために5%未満のヘイズ値を有する。用語「ヘイズ値」は、物品によって伝導され、光ビーム軸から立体角2.5度で外側に散乱した光量を意味する。
【0040】
以下に記載する実施例は、例示のために提示されているにすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0041】
ナノ粒子およびその調製
イソプロパノール中H2Sの調製
10mLのジメチルホルムアミド(DMF)中に0.200gの酢酸亜鉛二水和物(0.00091モル)を含む溶液を調製した。イソプロパノール(IPA)中にH2Sを含む別の溶液は、細かい気泡のH2Sガス流をIPAに、溶液が飽和されると想定される24時間通気することによって調製した。酢酸鉛紙によって過剰のH2Sの存在が示唆されるまで、酢酸亜鉛溶液をH2S溶液で滴定した。この滴定により、0.00083モルのH2Sを有するH2S溶液の体積が決定された(H2Sに対して亜鉛が10モル%過剰)。下記の実施例のために溶液を作製するために、この決定された体積に10を掛け、次いでIPAを添加して、全体積を50mLにした。
【0042】
ナノ粒子NP−1
2.0gの酢酸亜鉛二水和物(0.0091モル)および0.06gの2−フェノキシ安息香酸を40mLのDMFに溶解することによって、溶液を調製した。強力に撹拌しながら、これを、上記に記載するIPA中に0.0083モルのH2Sを含むH2S溶液50mLに注ぎ込んだ。得られた混合物に、撹拌しながら100mLの水を添加した。得られた混合物を周囲条件で放置した。1日かけて沈殿が形成され、遠心で分離し、水およびIPAで洗浄した。真空デシケーター中で終夜乾燥した後、超音波撹拌で少量の固体をDMFに溶解した。UV−VIS分光法を使用して、この溶液を試験し、吸収曲線の肩が290nmにおいて生じ、これは平均粒径3.0nmに対応する。NP−1の調製を繰り返し、平均粒径は3.6nmであった。
【0043】
ナノ粒子NP−2〜NP−17
異なるカルボン酸を使用した点以外は、ナノ粒子NP−1で記載するようにして、ナノ粒子NP−2〜NP−17を調製した。カルボン酸の量は、各実施例において0.06gであり、したがってカルボン酸と酢酸亜鉛のモル比は異なった。ナノ粒子の要約を表1に列挙する。カルボン酸と酢酸亜鉛のモル比は0.022〜0.048であり、平均粒径は3〜8nmであった。
【0044】
【表1】

【0045】
硬化性ナノコンポジットおよびその調製
硬化性ナノコンポジットCN−1
5gのNP−1を5gの2−カルボキシエチルアクリラート(CEA)と混合した。混合物を終夜放置し、次いで超音波分散機を超音波ホーン30kHz、ホーン端部の電力約20W/cm2で使用して、水冷しながら40分間撹拌した。このプロセスの最中、混濁したコンポジットはだんだん透明になり、ナノ粒子が完全に溶解した後、1.615の屈折率を有する透明な硬化性ナノコンポジットが形成した。このナノコンポジットは粘性液体であった。
【0046】
粘性液体に、0.05gのダロキュア(DAROCUR)(登録商標)1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)から入手可能な光開始剤)を添加した。厚さ100umの硬化性ナノコンポジットフィルムを、2つのポリエステルフィルム間に調製した。低圧水銀ランプで2分間照射した後、ポリエステルフィルムをはがすと、硬化ナノコンポジットの透明フィルムが残った。
【0047】
硬化性ナノコンポジットCN−2〜CN−14
異なるナノ粒子を使用した点以外は、CN−1で記載するようにして、硬化性ナノコンポジットCN−2〜CN−14を調製した。ナノ粒子/CEAの各組合せについて、ナノ粒子のCEA中での溶解を、下記の説明に従って定性的に評価した。要約を表2に提示する。
【0048】
良:超音波分散機を使用して撹拌した最初の1分の間に、ナノ粒子とCEAの混合物が白色液体になった。白色液体が乳白色になり、次の10分の間に、だんだん透明になった。
【0049】
可:超音波分散機を使用して撹拌の最中に、ナノ粒子とCEAの混合物が白色液体になった。白色液体が1時間かけてだんだん透明になった。
【0050】
不良:超音波分散機を使用して撹拌の最中に、ナノ粒子とCEAの混合物が白色液体になったが、1時間撹拌した後でさえ、白色液体のままであった。
【0051】
不溶:超音波分散機を使用して撹拌の最中に、ナノ粒子とCEAの混合物が白色になったが、ナノ粒子が沈殿した。
【0052】
【表2】

【0053】
硬化前後の屈折率の比較
NP−2を含有するナノコンポジットについて、CN−1で記載するようにしてナノコンポジットをフィルムに硬化する前と後に屈折率を測定した。未硬化ナノコンポジットの粘度は、ナノ粒子含有量が増大するにつれて、有意に増大した。ナノコンポジット中のナノ粒子の最大濃度は50重量%または25体積%であり、到達したとき、未硬化ナノコンポジットはかろうじて成形可能であった。結果を表3に示す。結果から、NP−2が存在した場合、硬化ナノコンポジットの屈折率が少なくとも0.10高かったことが明らかである。さらに、硬化ナノコンポジットは透明で可撓性であった。
【0054】
【表3】

【0055】
CEAは屈折率が低いので、より高い屈折率を有するPEAで置換した。ナノ粒子表面から水を徹底的に除去した後、70%までのCEAをPEAで置換することができた。屈折率は、硬化前に1.455から1.495に増大した。20体積%のNP−2を添加すると、硬化後の屈折率は1.64であった。100ミクロンまでの厚さ、3%以下のヘイズ値のフィルムが得られた。用語「ヘイズ値」は、物品によって伝導され、光ビーム軸から立体角2.5度で外側に散乱した光量を意味する。
【0056】
吸収され、吸着された水をナノ粒子から除去する様々な方法を、風乾および真空乾燥、沸騰トルエンまたはキシレン中での処理を含めて研究した。沸騰トルエン中でナノ粒子を8時間処理することによって、最高の結果が得られた。乾燥は、沸騰トルエン中で以下の通り行った。三口フラスコに還流冷却器を備えた。フラスコに、CaClを入れ、水およびいくらかの量のトルエンを吸収させた。フラスコの中心に置かれた小ビーカーに、ナノ粒子粉末を入れ、トルエンの沸点まで加熱し、プロセスを8時間継続した。熱トルエンは、水と共に共沸混合物を形成し、ナノ粒子の表面から水を除去した。その後、ナノ粒子をフラスコから除去し、風乾した。キシレンを同様に使用した。キシレンは、水を除去するのに良好な、より高い沸点を有するが、ナノ粒子から、トルエンよりゆっくりと乾燥した。
【0057】
デシケーター中で、風乾を60〜70℃で10時間行った。より高い温度で、ナノ粒子は少し黄色になった。好都合な装置であればどれでも使用することができる。ガラス管中のナノ粒子を水銀約10-2mmの真空中80℃に約2時間加熱することによって、真空乾燥も使用した。トルエンおよびキシレン乾燥によって、最高の結果(モノマー混合物へのナノ粒子の溶解が良好であること、乾燥後のナノ粒子の色がないこと)が得られた。
【0058】
ナノコンポジットの形成の最中に、水および溶媒がナノ粒子に吸着する場合がある。続いて、これらの溶媒が蒸発することによって、ナノコンポジットに大きな空隙が形成される。同じ組成物で異なるナノ粒子のフィルムのヘイズ値は、96〜12%と様々であった。一般に、カルボン酸が大きくかつ長くなると、ヘイズ値が低くなる。しかし、カルボン酸がトリフェニル酢酸である場合、黄色が出現した。また、非常に大きい酸を含む溶液は、それほど安定ではなかった。
【0059】
長期乾燥により溶媒および水をなくすことによって、ポリカルボナート中8体積%のZnSの100ミクロンのフィルムのヘイズ値を6%に低下させることができた。
【0060】
有機マトリックスの比較
カルボン酸が5−フェニル吉草酸であるNP−9など、少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸で作製されたナノ粒子、および有機マトリックスを使用して、PEAなどのモノマーがカルボン酸で希釈されているナノコンポジットを調製した。通常は、約30%過剰のカルボン酸が溶液を安定化するのに必要であり、したがってナノ粒子は沈殿しなかった。しかし、得られた未重合の溶液は非常に粘性であり、硬化ナノコンポジットは非常に軟質であった。モノマー混合物がPEA中30%のCEAからなった場合、余分なカルボン酸は必要でなく、得られた溶液は安定であり、硬化コンポジットは良好な特性を有した。CEAをカルボン酸の代わりに使用した場合、CEAは水に可溶であるので不十分な結果が得られ、水添加による沈殿によって、ナノ粒子からCEAが除去された。結果を表4にまとめる。
【0061】
【表4】

【0062】
カルボン酸が何であろうと、ナノ粒子を、まず超音波撹拌でCEAに溶解させなければならず、次いで他のモノマーを添加することができた。CEAのアクリラート基とカルボン酸基の組合せは、それを使用する上で鍵である。その組合せを有する市販モノマーは極めて少ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノコンポジットであって、
少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸で改質された表面を有する少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶をナノ粒子がそれぞれ含む、複数のナノ粒子と、
有機マトリックスと
を含むナノコンポジット。
【請求項2】
前記少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶が、遷移金属硫化物ナノ結晶、第IIA族金属硫化物ナノ結晶、またはその混合物を含む、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項3】
前記遷移金属硫化物ナノ結晶が、閃亜鉛鉱結晶形の硫化亜鉛ナノ結晶を含む、請求項2に記載のナノコンポジット。
【請求項4】
前記ナノ粒子の平均粒径が50nm以下である、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項5】
少なくとも1つのアリール基を含む前記カルボン酸の分子量が60〜1000である、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項6】
少なくとも1つのアリール基を含む前記カルボン酸が、次式:
Ar−L1−CO2
[式中、L1は、飽和、不飽和、直鎖状、分枝状、または脂環式である、1〜10個のC原子のアルキレン残基を含み、
Arは、フェニル、フェノキシ、ナフチル、ナフトキシ、フルオレニル、フェニルチオ、またはナフチルチオ基を含む]で表される、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項7】
前記アルキレン残基が、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、またはペンチレンである、請求項6に記載のナノコンポジット。
【請求項8】
少なくとも1つのアリール基を含む前記カルボン酸が、3−フェニルプロピオン酸、4−フェニル酪酸、5−フェニル吉草酸、2−フェニル酪酸、3−フェニル酪酸、1−ナフチル酢酸、3,3,3−トリフェニルプロピオン酸、トリフェニル酢酸、2−メトキシフェニル酢酸、3−メトキシフェニル酢酸、4−メトキシフェニル酢酸、4−フェニルケイ皮酸、またはその混合物である、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項9】
少なくとも1つのアリール基を含む前記カルボン酸が、次式:
Ar−L2−CO2
[式中、L2は、フェニレンまたはナフチレン残基を含み、
Arは、フェニル、フェノキシ、ナフチル、ナフトキシ、フルオレニル、フェニルチオ、またはナフチルチオ基を含む]で表される、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項10】
少なくとも1つのアリール基を含む前記カルボン酸が、2−フェノキシ安息香酸、3−フェノキシ安息香酸、4−フェノキシ安息香酸、2−フェニル安息香酸、3−フェニル安息香酸、4−フェニル安息香酸、またはその混合物である、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項11】
前記有機マトリックスが、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアクリラート、ポリメタクリラート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエーテル、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリカルボナート、ポリアミド、ポリイミド、セルロース、またはその混合物である、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項12】
前記有機マトリックスが、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアクリラート、ポリメタクリラート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエーテル、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリカルボナート、ポリアミド、ポリイミド、またはセルロースのコポリマーである、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項13】
ナノコンポジットの調製方法であって、
(a)少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸で改質された表面を有する少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶をナノ粒子がそれぞれ含む、複数のナノ粒子を提供するステップと、
(b)熱可塑性ポリマーを含む有機マトリックスを提供するステップと、
(c)前記複数のナノ粒子を前記有機マトリックスと混合して、前記複数のナノ粒子の溶解をもたらすステップと
を含む方法。
【請求項14】
ナノコンポジットの調製方法であって、
(a)少なくとも1つのアリール基を含むカルボン酸で改質された表面を有する少なくとも1つの金属硫化物ナノ結晶をナノ粒子がそれぞれ含む、複数のナノ粒子を提供するステップと、
(b)放射線硬化性モノマー、放射線硬化性オリゴマー、またはその混合物を含む有機マトリックスを提供するステップと、
(c)前記複数のナノ粒子を前記有機マトリックスと混合して、前記複数のナノ粒子の溶解をもたらすステップと
を含む方法。
【請求項15】
前記有機マトリックスが、放射線硬化性モノマー、放射線硬化性オリゴマー、またはその混合物を含む、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項16】
前記放射線硬化性モノマーまたは前記放射線硬化性オリゴマーが、アクリラート、メタクリラート、もしくはスチレン基、またはその混合物を含む、請求項15に記載のナノコンポジット。
【請求項17】
前記放射線硬化性モノマーが、2−カルボキシエチルアクリラート、フェノキシエチルアクリラート、またはその混合物である、請求項15に記載のナノコンポジット。
【請求項18】
(d)光開始剤を添加するステップと、
(e)化学線で硬化させるステップと
をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
(d)熱開始剤を添加するステップと、
(e)化学線で硬化させるステップと
をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1.61の屈折率を有する、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項21】
前記有機マトリックスの屈折率より少なくとも0.01高い屈折率を有する、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項22】
前記複数のナノ粒子が、前記有機マトリックスの重量に比べて50重量%以下の量で存在する、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項23】
前記複数のナノ粒子が、前記有機マトリックスの体積に比べて25体積%以下の量で存在する、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項24】
5%未満のヘイズ値を有する、請求項1に記載のナノコンポジット。

【公表番号】特表2008−538124(P2008−538124A)
【公表日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503033(P2008−503033)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/009266
【国際公開番号】WO2006/104689
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】