説明

表面改質フィルム

【課題】
短時間でフィルムとコーティング膜の密着性を高め、かつ装置のコンパクト化、省エネルギー化、操作の簡素化及び作業安全性の確保が可能な表面改質フィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【解決手段】
トリアセチルセルロースフィルムの表面に化学放射線を放射し、該トリアセチルセルロースフィルムの表面のC−C、C−O結合のピーク比が1:1.5〜1:2.5であり、トリアセチルセルロースフィルム表面の水に対する接触角が25度以下あることを特徴とする表面改質フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックの接着などを容易に行うことが出来るようにするための、トリアセチルセルロースフィルムの表面の改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリアセチルセルロースフィルムの用途としては、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等に用いられる偏光板が挙げられる。偏光板は、ポリビニルアルコール(PVA)を両側からトリアセチルセルロースフィルムで挟みこむ構造となっている。
【0003】
しかし、トリアセチルセルロースフィルムは、PVAに対し難接着であり、フィルム表面の接着性を向上させる表面改質方法として、例えば特許文献1に述べられているような、アルカリ溶液での鹸化処理方法が用いられている。
【0004】
以下に先行技術文献を示す。
【特許文献1】特開2005−88578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フィルムをアルカリ、酸、界面活性剤等の溶液および各種溶剤に浸漬する表面改質方法は、各々の浸漬時間が長く、枚葉処理には不向きなため、バッチ処理が一般的である。よって、透明プラスチック部材およびその固定部材の両方を浸漬できうる大型の浸漬槽が、乾燥工程を含め10〜15槽必要なため、必然的に装置は大型化し、コンパクト性が失われる。同時に、乾燥に関わる熱量やクリーン度を管理する多くの電力エネルギーも必要とする。また、揮発成分の補充等、繁雑な日常の液管理と、液の取り扱いに関する作業安全性の確保も必要となる。
【0006】
また、例えばアルカリ溶液で鹸化処理しているトリアセチルセルロースでは、廃液の問題や、膨潤等により材料に光学的な欠陥が生じるという問題があり、ドライ化が求められていた。
【0007】
ドライ化として、プラズマ照射による表面改質方法が行われているが、プラズマ照射による方法では改質効果の持続が短いなどの欠陥があり、十分な処理ができていなかった。
【0008】
そこで本発明は、このような問題点を解決するもので、その目的とするところは、短時間でフィルムとコーティング膜の密着性を高め、かつ装置のコンパクト化、省エネルギー化、操作のシンプル化、および作業安全性の確保が可能な表面改質フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、フィルム表面のC−C、C−O結合のピーク比が1:1.5〜1:2.5であることを特徴とする表面改質トリアセチルセルロースフィルムである。
【0010】
請求項2に係る発明は、上記フィルム表面の水に対する接触角が25度以下であることを特徴とする請求項1に記載の表面改質トリアセチルセルロースフィルムである。
【0011】
請求項3に係る発明は、波長が120nm〜260nmの範囲内にメインピークを持つ紫外線を、上記フィルム表面に照射、作用されていることを特徴とする請求項1または2に記載の表面改質トリアセチルセルロースフィルムである。
【0012】
請求項4に係る発明は、紫外線照射直後の上記フィルム表面の水に対する接触角と紫外線照射から2週間後の同フィルム表面の水に対する接触角の変化が10%以内である請求項3に記載の表面改質トリアセチルセルロースフィルムである。
【発明の効果】
【0013】
トリアセチルセルロースフィルム表面のC−C、C−O結合のピーク比が1:1.5〜1:2.5であることにより、濡れ性が向上する。また、フィルム表面の改質効果が長く持続する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明においては、トリアセチルセルロースフィルムの少なくとも片面に、表面処理をすることにより、フィルム表面のC−C、C−O結合のピーク比が1:1.5〜1:2.5の範囲内にすることを特徴とする。
このような表面処理としては波長120〜260nmの範囲内にメインピークを有する紫外線を照射する方法が挙げられる。紫外線を照射する方法には、バッチ式のほか、搬送系装置を用いる方法がある。
【0015】
特にエキシマランプおよび低圧水銀ランプより放射される紫外線を照射することで、トリアセチルセルロースフィルム表面が効果的に改質される。
【0016】
キセノンガスが封入されたエキシマランプは、172nm付近にメインピークを持つ紫外線を放射する。175nmより短波長の紫外線は、直接大気中の酸素に吸収され、活性酸素を生成する。
【0017】
また、低圧水銀ランプは、主に185nm付近と254nm付近にメインピークを持つ紫外線を放射する。185nm付近の短波長紫外線は、大気中の酸素Oに吸収されてオゾンOを発生する。さらに、このオゾンに254nm付近の紫外線が吸収されると、活性酸素Oが生成する。
【0018】
活性酸素の酸化作用は、透明プラスチック部材表面の有機物をHO、CO、CO、NO等の物質に分解して短時間で除去し、清浄化することが可能である。
【0019】
また、光の持つ化学的エネルギーは、その光の波長が短いほど強いことは知られている。これら短波長領域の紫外線は、大抵の有機物の結合を切断しうるエネルギーを有している。よって、フィルム表面に直接作用することで、結合の切断、フリーラジカルの生成を経て上記活性酸素と反応し、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基等の親水性基を持った表面が形成され、表面が活性化される。ここで短波長とは、260nm以下の波長を言っている。
【0020】
短波長領域の紫外線を短時間照射するだけで、フィルム表面の清浄化・活性化が可能なこの方法は、処理時間が非常に短く、処理による汚れの発生がなく、特別な洗浄工程も必要としないため、装置は非常にシンプルかつコンパクトであり、枚葉処理・インライン化に適した処理方法である。また、他の表面改質の方法に比べて電力エネルギーの使用量が少なく、有機溶剤や水も必要としないため、環境にやさしい処理方法であり、製造コストも削減できる。特に、エキシマ紫外線は172nm付近にのみメインピークを持つ単一波長であるため極めて効率がよい。
【0021】
このようにすることで、フィルム上に設けるコーティング膜とフィルム表面が、不均一層に阻害されず十分に密着、結合できるため、密着性を高めることが可能となる。さらに、フィルム表面全体に対しても、均一な改質が可能であり、親水性基の導入によって濡れ性も向上する。
【0022】
また、フィルム表面のC−C、C−O結合のピーク比は、X線光電子分光法(日本電子製 JPS−90MXVmicro)を用いてフィルムの表面分析を行い、ピーク分離をした後面積強度比を算出したものである。ここで、フィルム表面のC−C、C−O結合のピーク比が1:1.5〜1:2.5の範囲内であることが好ましい。この範囲内であればPVA等を積層する際、十分な密着性を示すことができる。また、長時間フィルム表面の改質効果を維持できる。
【0023】
また、表面改質後に行うコーティングに使用するコーティング材料の種類としては、PVA等の水溶系をはじめとする水系コーティング材の他、ゾルゲル法によるコーティング材、紫外線、電子ビーム硬化型のアクリル系、エポキシ系、エン−チオール系等が挙げられる。特に、PVAを用いる場合に良好な密着性を示す。また、表面改質後のトリアセチルセルロースフィルムとPVAとを重ね合わせることで、良好な偏光板を得ることができる。
【実施例1】
【0024】
エキシマ紫外線照射装置(岩崎電気社製 UEEX204)を用いて、トリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム製 TDY80UL)に、照射距離3mmで90〜120秒エキシマ紫外線を照射し、実施例1のサンプルを得た。
【実施例2】
【0025】
低圧水銀灯紫外線照射装置(岩崎電気社製 OC−2506)を用いて、トリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム製 TDY80UL)に、照射距離25mmで25ワット×4灯の低圧水銀灯紫外線を420〜600秒照射し、実施例2のサンプルを得た。
【0026】
<比較例1>
リモート型プラズマ照射装置を用いて、トリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム製 TDY80UL)に、照射距離2mmで1キロワット20KHzのプラズマを2.5〜8.33秒照射し、比較例1のサンプルを得た。
【0027】
(評価1:接触角)
実施例、比較例のサンプル及び未処理のフィルムの水との接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1より、プラズマを照射したフィルムに比べ、エキシマ紫外線を照射したフィルムと低圧水銀灯紫外線を照射したフィルムの接触角は小さい。プラズマ照射ではイオンをフィルム表面にぶつけるためフィルム表面に凹凸ができ、濡れ性が減少するためである。
また、エキシマ紫外線を照射したフィルムは、低圧水銀灯紫外線を照射したフィルムに比べ表面改質速度が速い。これは、短波長であるため光の持つ化学的エネルギーが強く、また172nm付近にのみメインピークを持つ単一波長であるため、化学反応に必要な紫外線エネルギーだけを効率よく照射できることによる。
【0030】
(評価2:密着性)
実施例のサンプル及び未処理のフィルムにPVAをスピンコーティング法で塗布し、その後密着性を測定した。
密着性はフィルムとPVAとの密着性はJISK5400に準じてクロスカットテープ試験によって評価した。すなわち、ナイフを用い基盤表面に1mm感覚に切れ目を入れ1mm2マス目を100個形成する。次にその上へセロハン粘着テープ(JIS Z1522に準ずる)を強く押しつけて、すばやく表面から90°方向へ引っ張り剥離した後、コーティング被膜の残ったマス目をもって密着性評価指標とした。
【0031】
この密着性試験の結果、実施例1のサンプルは残った個数が100/100であり、十分な密着性が得られた。
また、実施例2のサンプルは残った個数が100/100であり、十分な密着性が得られた。
また、紫外線による照射を行わない未処理フィルムでは、密着性が全くみられず、塗布が不可能であった。
【0032】
(評価3:結合ピーク比)
実施例、比較例のサンプル及び未処理のフィルムの表面分析をX線光電子分光法(日本電子製 JPS−90MXVmicro)により行い、ピーク分離をした後面積強度比を算出し、表2の結果を得た。
【0033】
【表2】

【0034】
表2より実施例1のサンプルはエキシマ紫外線を照射することでC−C結合が減少し、C−O結合が増加している。エキシマ紫外線を照射する前に存在していた有機物の化学結合が、エキシマ紫外線を照射することで切断され酸化分解・揮発したことによる。
【0035】
(評価4:接触角の経時変化)
実施例1、比較例1の処理直後、1週間後、2週間後に水の接触角を測定し、図1の結果を得た。なお実施例1のサンプルは処理時間120秒のものを、比較例1のサンプルは処理時間8.33秒のものを用いた。
【0036】
実施例1のサンプルの場合、フィルム表面に直接作用することで、結合の切断、フリーラジカルの生成を経て活性酸素と反応し、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基等の親水性基を持った表面が形成され、表面が活性化される。そのため、比較例1のサンプルと比べて改質効果の持続が長い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】表面改質を行ったトリアセチルセルロースフィルムの水に対する接触角と時間との関係を表した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム表面のC−C、C−O結合のピーク比が1:1.5〜1:2.5であることを特徴とする表面改質トリアセチルセルロースフィルム。
【請求項2】
上記フィルム表面の水に対する接触角が25度以下であることを特徴とする請求項1に記載の表面改質トリアセチルセルロースフィルム。
【請求項3】
波長が120nm〜260nmの範囲内にメインピークを持つ紫外線を、上記フィルム表面に照射、作用されていることを特徴とする請求項1または2に記載の表面改質トリアセチルセルロースフィルム。
【請求項4】
紫外線照射直後の上記フィルム表面の水に対する接触角と紫外線照射から2週間後の同フィルム表面の水に対する接触角の変化が10%以内である請求項3に記載の表面改質トリアセチルセルロースフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2007−182504(P2007−182504A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1656(P2006−1656)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】