説明

表面改質処理により高性能化された半導体光触媒及びその製造方法並びに該光触媒を用いた水素製造方法。

【課題】レドックス媒体を還元し、それと同時に酸素を製造する光触媒反応を高効率に進行できる光触媒を提供する。
【解決手段】可逆的なレドックス媒体の存在下、水から酸素を生成するための、タングステン化合物等の可視光応答性光触媒に対し、アルカリ金属、アルカリ土類金属、銀及びニッケルからなる群のうち、少なくとも1つの元素Mを含む溶液によって表面改質処理を行うことで、レドックス媒体を還元し、それと同時に酸素を製造する光触媒反応の活性を大きく向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体触媒に関し、特に表面改質処理により高性能化された半導体光触媒及びその製造方法並びに該光触媒を用いた水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素エネルギーは非常にクリーンなエネルギー源であり、燃料電池や水素エンジンなど様々な応用が考えられ、まさに化石エネルギーに代わる未来のエネルギー形態の中心になると思われる。
しかし、現在の水素の大部分は化石資源のスチームリフォーミングなどで製造されている。将来の化石資源の枯渇や炭酸ガスによる地球温暖化問題などを考慮すると、最終的には無尽蔵の水を水素源にするしかない。水から水素を製造するには電気分解が簡単であるが、電気を生み出すために化石燃料を用いたのでは意味がない。
【0003】
そこで、無尽蔵でクリーンかつ安全な太陽エネルギーを太陽電池で電気エネルギーに変換し、水を電解して水素を製造するアイデアが提案されている。しかしながら、このアイデアの最大の欠点は、システム、特に太陽電池の高いコストおよび低いエネルギー収支(システムがその寿命までに製造するエネルギー/システムを製造するエネルギー)である。シリコンなどの太陽電池や電気分解技術は精力的に研究されてきたが、太陽光による水素製造を実現するためには、革新的な技術でシステムのコストやエネルギー収支を大幅に向上する必要がある。また、水の電気分解技術もかなり進んで来ているが、ガス発生を進行させる過電圧が非常に高く、水の理論電解電圧の1.23Vよりかなり高い電圧が必要とされ、そのためのエネルギーロスも大きな問題である。
【0004】
一方、光触媒を用いて太陽光のエネルギーで水を水素と酸素に直接分解する研究も進んでいる。この技術はコストが非常に低くまたリサイクルや耐久性の面で優れているが、現段階では、その効率の低さが問題となっている。そのため、より革新的な新たなエネルギー変換システムの確立が望まれている。
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、WOやTiO、Inなどの半導体光触媒を用い、Fe3+を含有する水溶液に光照射して、酸素とFe2+を発生させ、次に、Fe2+を含む水溶液を電解してFe3+を再生するとともに水素を発生させることにより、水素発生のための電解電圧を大幅に減少させて、非常に低コストの水素製造を可能にする方法(特許文献1)及びそのための装置(特許文献2)を提案した。
また、本発明者らは、前記Fe3+/Fe2+以外の新たなレドックスを開発した結果、酸化状態から還元状態に変化させることができるヨウ素化合物を含む水溶液に、光照射を行って酸素と還元状態にあるヨウ素化合物を生成させ、生成した還元状態にあるヨウ素化合物を電解して酸化状態にあるヨウ素化合物を再生すると共に水素を発生させる方法も提案している(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−233602号公報
【特許文献2】特開平11−157801号公報
【特許文献3】特開2002−255502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の半導体光触媒とレドックス媒体を用いた水素製造方法・装置においては、用いている半導体光触媒の光触媒反応が未だ充分とはいえず、そのため更に高性能な新規半導体光触媒もしくは、既存の光触媒を高性能化するための手法の開発が望まれている。
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、レドックス媒体を還元し、それと同時に酸素を製造する光触媒反応を高効率に進行できる光触媒を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、タングステン化合物等の可視光応答性光触媒に対し、アルカリ金属、アルカリ土類金属、銀及びニッケルからなる群のうち、少なくとも1つの元素Mを含む溶液によって表面改質処理を行うことで、レドックス媒体を還元し、それと同時に酸素を製造する光触媒反応の活性を大きく向上させることができるという知見を得た。
【0009】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]可逆的なレドックス媒体の存在下、水から酸素を生成するための半導体光触媒であって、半導体の結晶粒子の表面に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、銀、及びニッケルからなる群のうち、少なくとも1つの金属元素が取り込まれた構造を有していることを特徴とする半導体光触媒。
[2]前記半導体が、可視光応答性のタングステン化合物であることを特徴とする上記[1]の半導体光触媒。
[3]前記タングステン化合物が、酸化タングステンである上記[2]の半導体光触媒。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの半導体光触媒を製造する方法であって、アルカリ金属、アルカリ土類金属、銀、及びニッケルからなる群のうち、少なくとも1つの金属元素を含む金属塩溶液を用いて、水熱処理又は含浸処理することを特徴とする半導体光触媒の製造方法。
[5]前記金属塩が、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩化物及び水酸化物のいずれかから選ばれることを特徴とする上記[4]の半導体光触媒の製造方法。
[6]上記[1]〜[3]のいずれかの半導体光触媒の存在下、可逆的なレドックス媒体の酸化体を含有する水溶液に光照射して酸素とレドックス媒体の還元体を生成させる工程、及び生成されたレドックス媒体の還元体を電解して酸化体に再生すると共に水素を発生させる工程を含むことを特徴とする水素の製造方法。
[7]前記可逆的なレドックス媒体が、鉄イオン又はヨウ素化合物イオンであることを特徴とする上記[6]に記載の水素の製造方法。
[8]上記[1]〜[3]のいずれかの半導体光触媒の存在下、可逆的なレドックス媒体の酸化体を含有する水溶液に光照射して酸素と該レドックス媒体の還元体を生成させる半導体光触媒反応装置、生成された該レドックス媒体の還元体を電解して酸化体に再生すると共に水素を発生させる電解装置、及び再生された該レドックス媒体の酸化体を前記半導体光触媒反応装置に供給する装置からなることを特徴とする水素の製造装置。
[9] 上記[1]〜[3]のいずれかの半導体光触媒が導電性基板上で膜状に存在した光電極において、光照射して光電極上で酸素を発生させ、光電極とつながった対極で水素を発生させることを特徴とする水素の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の表面改質処理を施したタングステン系の可視光応答性光触媒によれば、レドックス媒体を還元し、同時に酸素を生成する光触媒反応に対する活性を、未処理のものと比べ飛躍的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の半導体光触媒の構造を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の半導体光触媒は、可逆的なレドックス媒体の存在下、水から酸素を生成するための半導体光触媒であって、半導体の結晶粒子の表面に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、銀、及びニッケルからなる群のうち、少なくとも1つの金属元素Mが取り込まれた構造を有していることを特徴とするものである。
図1は、本発明の半導体光触媒に係る半導体結晶粒子の構造を示す模式図であり、図中、1は、半導体結晶粒子、2は、表面処理で半導体結晶粒子の表面近傍内部に生成した金属Mと半導体との複合酸化物の薄膜層を表している。
【0013】
本発明の半導体光触媒は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、銀及びびニッケルからなる群のうち、少なくとも1つの元素Mを含む金属塩溶液を用いて水熱処理法もしくは含浸法により、半導体光触媒に表面改質処理を施すことにより製造される。
【0014】
半導体光触媒に対して行った上記の表面改質処理は、表面で進行する光触媒作用を促進させ、その光触媒活性を大幅に向上させることができる。
したがって、半導体光触媒に対して施されるこの表面改質処理方法は、可視光照射によって、たとえば、Fe3+やIOなどといったレドックス媒体を還元して、同時に酸素を製造するエネルギー蓄積型の光触媒反応に対する活性を大幅に向上させることができる。
【0015】
表面改質処理に用いられる金属塩溶液は、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び銀、ニッケルからなる群のうち、少なくとも1つの元素Mを含む金属塩溶液であれば特に制限はないが、特にセシウムが好ましい。
【0016】
本発明における水熱処理法又は含浸法としては、図1のように、金属元素Mが半導体の表面近傍の結晶に取り込まれている構造を形成することのできる手法であればどのような方法であっても良いが、特に、金属を溶解した溶液を半導体粉末に含浸して適切な温度で短時間加熱する方法が好ましい。表面処理で半導体結晶粒子の表面内部に金属Mと半導体との複合酸化物の薄膜層が形成されることが好ましい。高温または長時間処理すると半導体の改質が表面だけでなく半導体結晶粒子内部にまで及ぶことになり、好ましくない。
XRD測定を表面処理前後で行い、半導体結晶粒子のXRDピークが変化していないことが好ましい。XRD測定は、バルク全体の結晶情報を反映しているので、処理が半導体結晶粒子内部に影響を与えていないことが分かる。
また、過酷な条件(長時間処理や高温処理、高濃度処理など)で表面処理を行うと、半導体内部まで金属Mと半導体との複合酸化物が形成されることがXRD測定で観測できるが、その場合は活性が大きく低下するので、処理条件を緩和(短時間処理や低温処理、低濃度処理など)する必要がある。
【0017】
また、金属元素Mが半導体の表面近傍の結晶に取り込まれていることは、金属元素Mが溶解する条件の溶液で良く洗浄した後の半導体をXPSで観測できる。XPS測定は、表面1nm前後の深さの情報が得られるので、金属元素Mが安定に表面に存在していることを確認することで検証できる。
【0018】
レドックス媒体を還元し、同時に酸素を製造する光触媒反応に対して、その反応効率を促進するための手法としては、半導体の表面の上にPtやRuOなどの助触媒担持することが報告されている(J.Phys.Chem.1984,88,4001.)。助触媒は反応中に溶解しない安定な元素材料を半導体に担持して用いる。アルカリ金属など元素Mが半導体表面上に担持や吸着しているだけでは、酸性溶液中に簡単にほとんど脱離してしまうので活性向上効果は無い。
【0019】
一方、本発明では、半導体結晶粒子自体を改質し、元素Mが半導体表面近傍の内部に存在している。アルカリ金属など反応中に溶解する不安定な元素材料を用いることができる。また、例えば銀の場合、半導体結晶粒子の表面に光電着という手法で銀粒子を担持することができるが、これでは活性は向上しない。銀イオンを含む水溶液と半導体をオートクレーブに入れて高温で水熱処理することで銀が半導体の一部と複合し、半導体表面近傍の内部にまで存在することで、活性が向上できる。本発明の半導体光触媒を水溶液に入れると中に外表面に露出している元素Mが一部外れることもあるが、半導体表面近傍の内部は構造が保持されるので、活性は向上したまま持続できる。外表面に露出している元素Mが他の元素とイオン交換しても良い。イオン交換するイオンとしては、酸素発生の中間体である過酸化水素の自己酸化分解を促進するイオンが好ましい。つまり、+0.682〜+1.77V(SHE)の間の標準酸化還元準位であるイオンが好ましく、例えば、鉄イオンや銅イオン、マンガンイオン、クロムイオン、セリウムイオンなどがあるが、特にFe2+とイオン交換するのは好ましい。
【0020】
これらの金属塩溶液は、一般的には半導体光触媒に対して0.01atom%〜10atom%の範囲内において使用することが考慮される。この使用量については、金属塩溶液と可視光応答性光触媒の種類、そして、光触媒粉末の表面積などによって具体的に定めることができる。
【0021】
本発明に係る可視光応答性光触媒の触媒活性促進効果が、当該光触媒の機能を補填し、レドックス媒体の還元作用を促進する理由の詳細は現時点では明らかではないが、以下のように推定している。
半導体結晶粒子表面の金属Mと半導体との複合酸化物の薄膜層が形成された部分では、光励起で生成した正孔と水との反応がすみやかに進行し、酸素発生が効率よく進行すると考えられる。または、半導体結晶粒子表面の金属Mと半導体との複合酸化物の薄膜層が形成された部分では、レドックス酸化体の吸着がすみやかに進み、光励起で生成した電子とレドックス酸化体との反応がすみやかに進行し、レドックス還元が効率よく進行すると考えられる。
【0022】
このように、可視光応答性光触媒を用いたレドックス媒体を還元して同時に酸素を製造するエネルギー蓄積型の光触媒反応において、反応効率を低下させる要因をうまく抑制することで、劇的に反応活性を向上させることができる。
以上の理由から、本発明の表面処理法と併用できる可視光応答性光触媒としては、可視光を吸収することにより、レドックス媒体を還元し、同時に酸素を製造できるものであれば、その光触媒活性の大小に拘わらず、従来公知の可視光応答性半導体化合物、例えば、BiVOなどの複合酸化物、TaONなどの含窒素化合物、N−TiOなどのドープ化合物などの何れも使用できるが、特にタングステン化合物半導体に対して特に有効である。
【0023】
タングステン系可視光応答性光触媒の半導体化合物としては、タングステン酸化物、タングステンを含む複合化合物が用いられる。酸素欠陥のあるWOxや異種金属やアニオン(N,C,S)をドーピングや置換した化合物でも良い。タングステンと同族であり似た特性を持つモリブデン化合物との固溶体半導体も用いることができる。
半導体光触媒の具体例は、WO(X≦3)、WMo1−y(x≦3、y≦1)、BiWO、BiMoOが例示される。その中でも、酸化タングステンが特に好ましい。
【0024】
次に、本発明に係る可視光応答性光触媒に対する代表的な表面改質処理方法について説明する。
その一つはタングステン化合物に対して炭酸セシウム溶液を含浸するものである。この場合、典型的には、炭酸セシウム水溶液を磁性るつぼにとり、そこにタングステン化合物をケン濁させる。そして、100℃に加温したホットプレート上で蒸発乾固させ、その後電気炉を用い500℃で10分間焼成する。最後に表面のセシウムを取り除くために、純水で洗浄する。光触媒を導電性基板上に成膜した半導体光電極に対しては、作成した光電極に炭酸セシウム水溶液を滴下して常温で乾燥させ、その後500℃で10分間焼成する。
【0025】
以下に酸化タングステン粉末を、炭酸セシウム水溶液を用いて表面改質処理する場合を例として説明する。酸化タングステン粉末を、炭酸セシウム水溶液を用いて表面処理する場合には、含浸するセシウムは酸化タングステン粉末に対して0.1atom%〜10atom%が好ましく、より好ましくは1atom%である。水熱処理法でも同様の量を用いるのが好ましい。
【0026】
本発明に係る半導体光触媒に対する表面改質処理方法は、レドックス媒体を還元して、同時に酸素を製造するエネルギー蓄積型の光触媒反応を進行するための触媒として極めて有効である。
レドックス媒体としては、いくつかのレドックスが使用できるが、特に鉄イオンの他にIO等のヨウ素化合物に有効である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1〜8)
様々な金属塩水溶液にて表面処理したWOを以下のように調製した。
高純度化学製のWO粉末1gと表1に示した様々な金属塩水溶液10mLを、タングステンと金属イオンの化学両論比1:0.01になるようにPARR社製の酸分解用反応容器(4749)に仕込んだ。そして、240度に加温したオーブンの中で12時間水熱処理した。その後、純水で十分に洗浄し、70度に加温されたオーブンで乾燥した。X線回折計(XRD;MX Laboマックサイエンス社製)によりWOが主生成物であることを同定した。
これらの表面処理されたWO粉末(0.4g)とFe3+を含んだ反応溶液(4.2mM/300mL)を側面照射型の反応管に入れ、ガスクロと真空ポンプを備えた閉鎖循環系に接続した。反応溶液はマグネチックスターラーで攪拌した。そして、閉鎖循環系内を真空脱気したのち、光源にL42のカットオフフィルターで照射光を可視光に制御した300WのXeランプを用いて光照射を行った。その後、生成した気体をガスクロにて定性定量した。その結果を表1に示す。
【0028】
WOは、水熱処理を行うだけでも、性能が向上することがわかった。それに対して、Rh、Ir、Cr、Co、La、B、そしてPtなどの様々な種類の金属イオン存在下で水熱処理したものは、活性が変わらないかまたは減少した。一方、アルカリ金属、アルカリ土類金属、そして銀、ニッケルで処理したものは、特異的に酸素生成活性が向上することがわかった。特に、セシウムで処理したもので性能が最も高かった。水熱処理された粒子の表面状態を光電子スペクトル計(Ulvac-Phi; XPS-1800)および電子顕微鏡(SEM;Hitachi S-800)により確認した。その結果、粒径や見た目には大きな変化はなかった。XRD測定でも変化はなかった。XPS測定では表面に表面改質処理した元素が存在していることが確かめられた。タングステン化合物は一般的にアルカリ性に弱いが、このように条件を最適化すれば表面付近のみ改質することができる。アルカリ金属、アルカリ土類金属、銀、ニッケルを加熱せずに半導体表面上に吸着や光電着させただけでは活性は向上しなかった。つまり、ある程度の温度で水熱加熱処理することで、半導体表面自体を改質する必要があることが言える。
【0029】
【表1】

【0030】
(実施例9〜14)
炭酸セシウム水溶液にて表面処理したWOを以下のように調製した。
高純度化学製のWO粉末と表2に示した様々な濃度の炭酸セシウム水溶液10mLを、タングステンと金属イオンの化学両論比1:0.01〜0.1になるようにPARR社製の酸分解用反応容器(4749)に仕込んだ。そして、240℃に加温したオーブンの中で12時間水熱処理した。その後、純水で十分に洗浄し、70℃に加温されたオーブンで乾燥した。X線回折計(XRD;MX Laboマックサイエンス社製)によりWOが主生成物であることを同定した。紫外可視分光光度計(DRS;Jasco;Ubest-570)により、吸収スペクトルに変化が見られないことを確認した。
セシウムの仕込み量を変化させて水熱処理により表面処理を行ったWOを用いて、実施例1と同様の実験条件において、光触媒活性を比較した結果を表2に示した。この条件では0.01atom%では効果が無く、それを超えるセシウムイオン濃度が必要であった。1atom%の量のセシウムイオンを共存させた溶液下で水熱処理することで最も高い活性を示すことがわかった。
【0031】
【表2】

【0032】
(実施例15〜19)
炭酸セシウム水溶液にて表面処理したWOを実施例1〜14とは別法にて調製した。高純度化学製のWO粉末1gを前処理として700℃〜900℃で焼成し、その後、純水10mLを入れたPARR社製の酸分解用反応容器(4749)に仕込んで、100℃〜240℃に加温したオーブンの中で12時間水熱処理した。次に、表面改質処理として、任意の量のセシウム溶液を入れた磁性るつぼにWO(0.5g)をケン濁させ、100℃に加温したホットプレート上で蒸発乾固した。そして500℃で10分焼成した後に、純水で十分に洗浄し、70℃に加温されたオーブンで乾燥した。X線回折計(XRD;MX Laboマックサイエンス社製)によりWOが主生成物であることを同定した。種々の条件で表面処理を行ったWOを用いて、実施例1および2と同様の実験条件において、光触媒活性を比較した結果を表3に示した。WO光触媒は、セシウムを添加せず、焼成と水熱処理のみでも、条件を最適化すれば、4倍程度まで活性が向上することがわかった。さらに、その最適条件で調製したWOに対し、セシウムを含浸し、表面処理を行うことでさらに2倍以上活性が向上した。最適化された条件で改めて水熱処理時にセシウムを共存させ、表面処理したWOは、含浸法で行ったものよりも活性が低かったことから、含浸法で処理することがもっとも好ましいことがわかった。実施例17のセシウム表面処理した触媒を光触媒反応実験後に濾過回収して、もう一度Fe3+を含んだ反応溶液に入れて光触媒反応を行うと酸素発生活性は約2倍に向上した。一回目の光触媒反応実験中に鉄イオンが触媒上のセシウムと一部イオン交換したためと推察される。
【0033】
【表3】

【0034】
(実施例20)
炭酸セシウム水溶液にて表面処理したWOを実施例15〜19と同様の手法にて調製した。高純度化学製のWO粉末1gをタングステンに対して1atom%にあたる量の炭酸セシウム溶液を入れた磁性るつぼにケン濁させ、100℃に加温したホットプレート上で蒸発乾固した。そして500℃で10分焼成した後に、純水で十分に洗浄し、70℃に加温されたオーブンで乾燥した。その後乾燥した触媒を用いて、0.5wt%にあたるPtを、HPtCl溶液を用いて炭酸セシウムと同じ手法で含浸し、500℃で30分焼成した。表面処理を行ったWOを用いて、Fe3+イオンの代わりに、IOからの酸素生成反応の光触媒活性を比較した結果を表4に示した。このように、セシウムによる表面処理を施したWOはFe3+を還元しながら酸素を生成する反応だけでなく、IOを還元しながら酸素を生成する反応に対しても非常に高い性能を発揮することがわかった。
【0035】
【表4】

【0036】
(実施例21)
炭酸セシウム水溶液にて表面処理したWO3光電極を実施例15〜19と同様の手法にて調製した。日本板ガラス製の導電性ガラスに厚さ1000nmの酸化タングステン粒子膜のスパッタ法で成膜し、500℃で30分間焼成した。その後、炭酸セシウム水溶液を滴下してさらに500℃で10分間焼成し、純水で十分に洗浄した。
この表面処理を行ったWO光電極を用いて、1.2V vs Ag/AgCl(pH2.3)のバイアスを印加した場合の光電流を比較した結果を表5に示した。このように、セシウムによる表面処理を施したWO光電極は、WO粉末同様性能が向上し、高い光電流が得られることがわかった。白金対極ではこの時光電流に比例した水素発生が起こる。故に、セシウムの表面処理は半導体光触媒粉末だけでなく、光触媒を導電性基板上に成膜した半導体光電極にも向上効果があることがわかった。
【0037】
【表5】

【符号の説明】
【0038】
1:半導体結晶粒子
2:表面処理で半導体結晶粒子の表面近傍内部に生成した金属Mと半導体との複合酸化物の薄膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可逆的なレドックス媒体の存在下、水から酸素を生成するための半導体光触媒であって、半導体の結晶粒子の表面に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、銀、及びニッケルからなる群のうち、少なくとも1つの金属元素が取り込まれた構造を有していることを特徴とする半導体光触媒。
【請求項2】
前記半導体が、可視光応答性のタングステン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の半導体光触媒。
【請求項3】
前記タングステン化合物が、酸化タングステンである請求項2に記載の半導体光触媒。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された半導体光触媒を製造する方法であって、アルカリ金属、アルカリ土類金属、銀、及びニッケルからなる群のうち、少なくとも1つの金属元素を含む金属塩溶液を用いて、水熱処理又は含浸処理することを特徴とする半導体光触媒の製造方法。
【請求項5】
前記金属塩が、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩化物及び水酸化物のいずれかから選ばれることを特徴とする請求項4に記載の半導体光触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された半導体光触媒の存在下、可逆的なレドックス媒体の酸化体を含有する水溶液に光照射して酸素とレドックス媒体の還元体を生成させる工程、及び生成されたレドックス媒体の還元体を電解して酸化体に再生すると共に水素を発生させる工程を含むことを特徴とする水素の製造方法。
【請求項7】
前記可逆的なレドックス媒体が、鉄イオン又はヨウ素化合物イオンであることを特徴とする請求項6に記載の水素の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された半導体光触媒の存在下、可逆的なレドックス媒体の酸化体を含有する水溶液に光照射して酸素と該レドックス媒体の還元体を生成させる半導体光触媒反応装置、生成された該レドックス媒体の還元体を電解して酸化体に再生すると共に水素を発生させる電解装置、及び再生された該レドックス媒体の酸化体を前記半導体光触媒反応装置に供給する装置からなることを特徴とする水素の製造装置。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された半導体光触媒が導電性基板上で膜状に存在した光電極において、光照射して光電極上で酸素を発生させ、光電極とつながった対極で水素を発生させることを特徴とする水素の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−50895(P2011−50895A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203596(P2009−203596)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素製造・輸送・貯蔵システム等技術開発/次世代技術開発・フィージビリティスタディ等革新的な次世代技術の探索・有効性検証に関する研究開発/可視光応答性半導体を用いた光触媒および多孔質光電極による水分解水素製造の研究開発」委託研究 産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】