説明

表面改質装置及び表面改質装置

【課題】被加工材の表面を改質するための硬質粒子を、この被加工材の加工が行われている領域に円滑かつ確実に供給でき、しかも粒子が周囲に飛散するのを確実に防止できるようにする。
【解決手段】丸棒状の被加工材1の表面に微小隙間を介して回転工具2を対向配設し、被加工材1を軸回りに回転させると共に、前後に移動させ、その間に回転工具2を回転させながら、この回転工具2を挿通させた分散液供給パイプ12から循環用パイプ19を介して硬質粒子6aを分散させた分散液6を供給することによって、分散液6を被加工材1の外周面と回転工具2の作用面2aとの間に供給して、硬質粒子6aの加圧力により被加工材1の表面を改質させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材の表面を改質するための表面改質装置及び表面改質方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材を被加工材として、硬度を向上させたり、また摺動性を良くしたり、さらに耐摩耗性や防錆、耐薬品性を良好にする等の改質を行うために、被加工材の表面に皮膜を形成する処理が行われる。このために、めっきや化成処理,蒸着、さらにはプラズマCVD等の化学的蒸着、イオンプレーティング等の物理的蒸着といった蒸着を行うことが従来から広く活用されている。また、焼き入れや浸炭,窒化等、さらにはショットピーニング等の表面処理を行うことによっても、金属材の表面改質を行うことができる。
【0003】
しかしながら、前述した各方式にあっては、装置構成が複雑になる等といった問題点があり、簡単な構成により必要な表面改質を行うものとして、被加工材表面に硬質粒子を作用させて、摩擦攪拌による表面改質を行う方式が、特許文献1に記載されている。この特許文献1では、被加工材は丸棒であり、この丸棒を回転させ、この間に丸棒の外周面に工具を線接触または点接触させるようになし、かつこの工具を軸回りに回転駆動すると共に、硬質粉末を工具と被加工物との接触部に供給することによって、硬質粉末を被加工物の表面に埋め込むように構成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−172995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1にあっては、硬質粒子を被加工材の表面に埋め込むようにして、この硬質粒子の特性が発揮するように改質できる。しかも、この改質のために、硬質粒子を被加工材の接線方向乃至接線に近い方向から工具と被加工材との間に送り込まれて、この硬質粒子を被加工材の表面に埋め込まれることから、加工時の負荷を小さくすることができて、省エネルギ化が図られ、しかも発熱も少ないことから、被加工材の表面や改質材としての硬質粒子が熱的に変質してしまうのを防止乃至抑制することができる等の利点があるが、なお問題点がない訳ではない。
【0006】
加工を円滑に行うには、改質材としての硬質粒子を被加工材と工具との間に確実に進行するように流動化させる必要がある。このために、特許文献1では工具の外周面に螺旋状の溝を形成して、硬質粒子をこの螺旋溝に沿って送るようにしている。しかしながら、硬質粒子は途中でジャミングを起こすことがあり、被加工材と工具との間に円滑かつ確実に供給できない場合がある。また、硬質粒子は加工中であっても、また加工後においても、周囲に飛散するおそれがあり、改質加工を行う装置の周辺を汚損すると共に、硬質粒子がみだりに浪費されてしまう等といった問題点もある。
【0007】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、被加工材の表面を改質するための硬質粒子を、この被加工材の加工が行われている領域に円滑かつ確実に供給でき、しかも粒子が周囲に飛散するのを確実に防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、被加工材と工具との間に硬質粒子を流動させることにより被加工材の表面の改質を行う装置の発明としては、前記工具と前記被加工材の表面との間を、微小隙間を介して対向配設して、前記被加工材と前記工具との間に前記微小隙間を保って相対動させる駆動機構と、前記硬質粒子を溶液に分散させた分散液を前記微小隙間に供給する分散液供給源ユニットと、前記分散液供給源ユニットから分散液を前記被加工材と前記工具との間の微小隙間に送り込むために、ポンプを有する分散液供給路と、前記被加工材と前記工具との間に供給した分散液を前記供給源ユニットに回収する分散液回収路とから構成したことをその特徴とするものである。
【0009】
ここで、被加工材と工具との間は、微小隙間を介して対向配設されている。ここで、微小隙間としては、分散液中の硬質粒子の平均粒径に基づいて設定される。微小隙間は硬質粒子1個の粒径より小さいと、被加工材と工具との間で硬質粒子が流動化しなくなる。また、多数の硬質粒子が凝集した状態で通過できるようであっては、被加工材の表面に硬質粒子を作用させることはできない。従って、微小隙間の間隔は、硬質粒子の平均粒径の1個以上で5個以下とし、より好ましくは平均粒径の1〜3個分とする。この微小隙間によって加工の度合いが変化する。微小隙間を小さくすると、その分だけ被加工材の表面の硬度が高くなりアブレッシブになり、マイルドな表面改質を行うには、微小隙間を大きくすれば良い。
【0010】
加工時には、被加工材と工具との間を相対動させるが、被加工材が丸棒状の部材である場合には、被加工材の軸線と工具の軸線とが直交する方向に配置して、被加工材を回転駆動しながら前後動させるようになし、工具は被加工材に対面させた状態で回転させるように構成する。従って、工具の端面を平坦面とし、この平坦面が作用面となり、この作用面を被加工材の外周面に近接させて、工具を回転させると共に、被加工材を回転駆動することによって、被加工材と工具との間に供給された分散液は水平方向と垂直方向とに複合的に旋回するように流動化することになり、分散液はこの流れに沿って被加工材と工具との間に導かれて、その間の間隔により被加工材の表面に分散液中の硬質粒子が押し付けられながら摺動する。その結果、被加工材の表面の硬度が微小隙間の度合いに応じて向上することになる。そして、工具及び被加工材の回転を維持した状態で、被加工物を前後動させることによって、被加工材の全面を改質することができる。
【0011】
ここで、硬質粒子としては、被加工材の改質処理を行っている際に崩壊しないことが処理効率の点から必要であり、従って高い硬度を有するものを使用し、好ましくは被加工材より高い硬度の素材を用いる。硬質粒子の粒径が大きくなると、改質すべき表面の粗度が大きくなる。一方、硬質粒子の粒径が小さいと、その分だけ表面が平滑に仕上げることができる。具体的には、硬質粒子の粒径を1mm程度乃至それ以下とするのが望ましい。
【0012】
硬質粒子は母材である被加工材を変質させない材質のもの、つまり被加工材に対して不活性なものを使用するのが望ましい。例えば、被加工材が鉄の場合には、硬質粒子としては、セラミック系,アルミナ,窒化珪素,ジルコニア等が好ましく、被加工材がアルミニウムまたはアルミニウム合金の場合には、ハイス鋼,工具鋼,超鋼等が望ましい。また、分散液を構成する溶液としては、水,切削水,アルコール,油等が好適であり、冷却能力、潤滑性、粒子の分散性等の特性を勘案して適宜のものが選択される。
【0013】
さらに、硬質粒子は、基本的には工具の作用で被加工材の表面を押圧することにより硬度を向上させ、かつ表面の粗度を低下させるためのものである。被加工材の表面に硬度向上に加えて、それ以外の特性を付与することもできる。このためには、硬質粒子と共に被加工材の改質機能を有する改質用微粒子を分散液に混合させる。この改質用微粒子は被加工材の表面に埋入させることによって、その特性を発揮させる。従って、改質用微粒子の粒径は硬質粒子より十分小さいものとする。そして、この改質用微粒子の被加工材表面への埋め込みを行うのは、被加工材と工具との間に介在する硬質粒子である。
【0014】
ここで、改善すべき特性としては、具体的には、摺動性,表面強度,防錆機能等を向上させるといったものである。即ち、摺動性を向上させるための改質用微粒子としては、例えばCu(銅),Mo(モリブデン),S(硫黄),C(炭素),P(燐),Sn(錫),Pb(鉛)等があり、ナイロンやポリイミド等の樹脂材も用いることができる。表面強度の向上を図るには、カーボンナノチューブやアラミド繊維を用いることができ、防錆のためにはNi−Cr(ニッケル・クロム合金),Zn(亜鉛),Zn−Al(亜鉛・アルミニウム合金)等が好適である。
【0015】
分散液は循環して使用することになる。このためには、被加工材と工具との間に送り込まれた分散液は貯留槽により回収させ、この貯留槽から供給源ユニットに送り込むようにする。分散液のまま循環させても良いが、硬質粒子と改質用微粒子とを混合した分散液の場合、硬質粒子はそのほぼ全部が回収されるが、改質用微粒子は被加工材に表面にうめ込まれる分だけ消費されることから、加工後には硬質粒子と改質用微粒子との混合比率が変化する。このために、混合分散液を用いる場合には、分散液回収路に、硬質粒子と、改質用微粒子とを分離して回収する粒子分級手段と、分離した硬質粒子及び改質用微粒子をそれぞれ別個に貯留する回収部を備える構成とする。また、供給源ユニットは混合攪拌槽を設けて、この混合攪拌槽に硬質粒子及び改質用微粒子を分離した溶液と、硬質粒子と、改質用微粒子とを供給して、この混合攪拌槽内で混合するようになし、従って分散液供給路はこの混合攪拌槽に接続する構成とする。
【0016】
また、表面改質方法に関する第1の発明としては、被加工材の表面に工具を微小隙間が保たれるようにして対向配設し、これら被加工材と工具との間を相対動させる間に、硬質粒子を溶液に分散させた分散液を前記被加工材と前記工具との対向する部位に供給することによって、被加工材と工具との間に硬質粒子を流動させるようにして被加工材の表面を改質することを特徴とするものである。
【0017】
さらに、表面改質方法に関する第2の発明としては、被加工材の表面に工具を対向配設させて、これら被加工材と工具との間を相対動させる間に、硬質粒子と改質用微粒子とを溶液に分散させた分散液を前記被加工材と前記工具との対向する部位に供給することによって、被加工材と工具との間に硬質粒子を流動させ、改質用微粒子を被加工材表面に埋め込むようにして被加工材の表面を改質することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
被加工材の表面を改質するための硬質粒子を、この被加工材の加工が行われている領域に円滑かつ確実に供給でき、しかも粒子が周囲に飛散するのを確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】被加工材の表面改質装置の概略構成図である。
【図2】表面改質装置による加工状態を示す作用説明図である。
【図3】従来技術による表面改質装置の加工状態を示す作用説明図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態を示す表面改質装置の全体構成図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態を示す表面改質装置の全体構成図である。
【図6】本発明の第2の表面改質装置による加工状態の作用説明図である。
【図7】本発明の第2の表面改質装置に用いられる硬質粒子と改質用微粒子との粒径分布を示す線図である。
【図8】硬質粒子と改質用微粒子との粒径差を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。まず、図1に鉄製の丸棒を被加工材1として、この被加工材1に対して回転工具2を用いて表面改質を行う原理について説明する。
【0021】
被加工材1は回転駆動部3と往復動駆動部4とに接続されており、これら回転駆動部3と往復動駆動部4とを作動させることによって、図1に矢印R1で示したように、軸回りに回転させながら、矢印Lで示したように、軸線方向に往復動させることができるようになっている。また、回転工具2は回転駆動手段5に接続されており、この回転駆動手段5によって回転工具2が矢印R2で示したように、軸回りに回転駆動されることになる。
【0022】
図1には、回転駆動部3,5及び往復動駆動部4の一構成例が示されている。被加工材1の両端は外面がスプラインを有するクランプ部CLに挟持され、一対からなるクランプ部CLの一方には従動ギアG1が軸線方向に相対移動可能に設けられており、この従動ギアG1には、モータM1に設けた駆動ギアG2が噛合している。また、この一方のクランプ部CLにはシリンダCYが接続されている。また、他方のクランプ部CLは軸受Bに保持されている。これによって回転駆動部3と往復駆動部4とが構成される。また、回転工具2には、その上端部にモータM2が連結されており、これによって回転駆動手段5が構成される。
【0023】
回転工具2は、その端面2aが平坦面となった加工部であり、この端面2aは被加工材1の表面に対して所定の位置関係を保っている。具体的には、図2に示したように、回転工具2の端面2aは被加工材1の表面に対して微小隙間を介して対面しており、従って回転工具2の下端面は作用面2aとなる。
【0024】
被加工材1を回転駆動部3により回転駆動し、往復動駆動部4により移動させ、かつ回転駆動部5により回転工具2を回転駆動するようになし、この間に回転工具2の作用面2aと被加工材1の外周面との間に硬質粒子6aを供給する。ここで、回転工具2及び硬質粒子6aは被加工材1より硬いものとする。これによって、回転工具2の作用面2aと被加工材1の表面との間に介在する硬質粒子6aにより被加工材1の表面が押圧されることになる。
【0025】
ここで、加工中に硬質粒子6aと被加工材1との間で摩擦熱が発生すると、被加工材1の表面が熱で変質して、図3に示したように、硬質粒子6aにより掘り起こされるようになる。しかしながら、硬質粒子6aを分散させた分散液6を供給するので、摩擦による発熱が抑制され、回転工具2の回転と被加工材1の回転との複合作用により分散液6は3次元的な旋回流を形成し、硬質粒子6aがこの流れの作用で被加工材1の表面に沿って転動し、その間に硬質粒子6aによる加圧力によって、被加工材1の表面が塑性変形されて圧縮残留応力が作用し、表面が改質されて、強度が向上することになる。
【0026】
そして、被加工材1及び回転工具2の回転駆動を継続すると共に、分散液6を供給しながら、往復動駆動部4によってこの被加工材1を前後に移動させる。これによって、被加工材1は、その全面にわたって改質することができる。
【0027】
以上のように、被加工材1の表面改質のために分散液6を使用し、この分散液6を被加工材1の外面と、この外面に微小隙間を介して対面している工具2の作用面2aとの間に供給するが、この分散液6は循環するようにして使用される。従って、具体的には、図4に示した構成するものであり、これが第1の実施の形態である。
【0028】
図4において、丸棒からなる被加工材1を分散液6の補給槽10の内部に位置させて、回転工具2はこの補給槽10の上部から垂設して、被加工材1の表面と対面させる。ここで、回転工具2は分散液供給パイプ11の内部に挿通されており、その先端は回転駆動手段としての駆動モータ12に連結されている。
【0029】
分散液供給パイプ11は回転工具2の下端近傍位置に開口しており、また上端部は90度曲折されて、その端部が供給口11aとして開口している。そして、供給口11aには分散液供給路13が接続されている。一方、補給槽10の下部位置には分散液流出路14が接続されており、この分散液流出路14の他端は攪拌槽15に接続されている。この攪拌槽15は分散液6の硬質粒子6aを混合・攪拌するためのものであり、このために攪拌槽15には攪拌装置16が設けられており、この攪拌装置16を回転させることによって、攪拌槽15内の内部が常時攪拌されるようになっている。これによって、硬質粒子6aは常に溶液に均一に分散した状態に保持される。
【0030】
また、攪拌槽15には、溶液補給路17と硬質粒子補給路18とが接続されている。従って、分散液6が減少したり、溶液6aと硬質粒子6aとの混合比が変化したりしたときには、溶液補給路17や硬質粒子補給路18から溶液6aや硬質粒子6aを補給できるようになって、予め設定した混合比率をもった所定量の分散液6が攪拌槽15に保持されるようになっている。
【0031】
そして、供給口11aに接続されている分散液供給路13の他端は攪拌槽15に接続されており、この分散液供給路13の途中には循環用ポンプ19が接続されている。これによって、攪拌槽15内において、硬質粒子6aの濃度が一定になった分散液6が循環用ポンプ19から分散液パイプ11に供給されることになる。そして、分散液6を回転工具2と分散液供給パイプ11との間に形成されている環状の通路を介して回転工具2の作用面2aに向けて確実に流下させるために、回転工具2の外周面には螺旋溝2bが形成されている。
【0032】
ここで、分散液6は、例えばアルコール等の溶液中に硬質粒子6aを均一に分散させたものである。硬質粒子6aは被加工材1と反応しない材質のもの、例えばセラミックの粒子から構成される。この硬質粒子6aの粒径は1mm以下のものが用いられる。分散液6は、好ましくは液圧を作用させた状態にして供給され、これによって回転工具2の端面2aと被加工材1の外周面との間に強制的に送り込まれることになる。また、回転工具2は硬質粒子6aより硬い部材から構成されている。
【0033】
以上のように構成することによって、被加工材1の外周面と回転工具2との間に分散液6を供給することができて、この被加工材1の表面改質を行うことができる。そして、分散液6は被加工材1の表面に沿って流下して、補給槽10に回収されるが、この分散液6は分散液流出路14から攪拌槽15に流入することになる。ここで、被加工材1の表面改質の実行時には流動性の関係から、硬質粒子6aが部分的に集積して、硬質粒子6aが塊状になることがあるが、攪拌槽15内で攪拌装置16により攪拌されているので、塊状となった硬質粒子6aは元の均一な分散状態に戻ることになる。そして、循環用ポンプ19を駆動することによって、攪拌槽15からの分散液6が分散液供給路13から分散液供給パイプ11に向けて分散液6が供給されて、分散液6が循環することになる。
【0034】
ここで、前述した第1の実施の形態では、分散液6は回転工具2と分散液供給パイプ11との間に形成される円環状の流路に沿って流すように構成しているが、第1の実施の形態と同様の硬質粒子20aに加えて、改質用の微粒子20bを混合させた分散液20を用いることができる。これが第2の実施の形態であり、その構成を図5に示す。この第2の実施の形態でも、第1の回転工具2と同様、外周面に螺旋溝21bを設けた回転工具21を用いる。そして、この回転工具21は分散液供給パイプ22内に挿通されており、この分散液供給パイプ22は供給口22aを有し、下端部は開口している。
【0035】
分散液20に含まれる硬質粒子20aは被加工材1の表面に対して加圧力を作用させるものであり、改質用微粒子20bは、被加工材1の表面に埋め込むように被着させて、所定の特性を付与し、若しくは所定の特性を向上させるものである。即ち、図6に示したように、改質用微粒子20bは硬質粒子20aにより被加工材1の表面に埋め込まれるようになっており、従って硬質粒子20aは改質用微粒子20bを被加工材1の表面に押圧するキャリア粒子であって、改質用微粒子20bと硬質粒子20aとでは、硬質粒子20aの方が硬質のものとする。
【0036】
この第2の実施の形態でも、被加工材1は回転駆動部3と往復動駆動部4とにより軸回りに回転させながら、前後動させることができるように構成される。また、被加工材1に作用する回転工具21も前述した第1の実施の形態と同様であり、その下端面が作用面21aであって、被加工材1の外周面に微小隙間を置いて近接するように配置され、回転駆動部5を構成する駆動モータ23により回転駆動されるものである。
【0037】
回転工具21による被加工材1の加工領域の下部位置には補給槽24が設けられており、この補給槽24内に流入した分散液20は循環使用されることになる。即ち、分散液供給パイプ21の供給口21aには、分散液供給路25が接続されている。この分散液供給路25の他端は輸送用ポンプ26を介して攪拌槽27に接続されている。この攪拌槽27は攪拌装置28を備えており、攪拌槽27内の分散液20を攪拌して溶液にキャリア粒子としての硬質粒子20a及び改質用微粒子20bを均一に分散させるようにしている。
【0038】
補給槽24で回収された分散液20は攪拌槽27に還流させて、輸送用ポンプ26から分散液供給路25を介して分散液供給パイプ22内で回転工具21との間隔から、この回転工具の作用面21aと被加工材1との間に循環させることになる。ただし、分散液20に含まれるキャリア粒子20aは、その大半が溶液と共に補給槽24に回収されるが、改質用微粒子20bは被加工材1の表面に埋め込むようにして被着されるので、一部は被加工材1に消費されることになる。このために、補給槽24には還流用配管29に流入することになる。
【0039】
還流用配管29には循環用ポンプ30が接続されている。そして、循環用ポンプ30にはサイクロン式分級装置31が接続されている。従って、このサイクロン分級装置31によって、分散液20から硬質粒子20aと改質用微粒子20bとを分離して、それぞれ硬質粒子20aの分散液及び改質用微粒子20bの分散液を貯留する第1,第2の補給槽32,33に導入される。第1の補給槽32は改質用微粒子20bを含む分散液が流入することになり、第2の補給槽33は硬質粒子20aを含む分散液が回収されることになる。そして、これら第1,第2の補給槽32,33から個別的に攪拌槽27に改質用微粒子20bを高濃度に含む分散液と硬質粒子20aを高濃度に含む分散液とが供給されることになる。従って、攪拌槽27内の分散液20に含まれる硬質粒子20aと改質用微粒子20bとの混合比を検出して、これらが常に一定の比率となるように補給する制御が行われるようになっている。
【0040】
ここで、硬質粒子20aと改質用微粒子20bとの混合比を正確に管理するには、分級装置31による硬質粒子20aと改質用微粒子20bとのそれぞれの粒径に差を持たせると共に、それらの粒径の均等化を図るようにする。即ち、図7に示したように、粒径の管理を正確に行わないと、例えば同図に点線で示したような粒径分布が生じるような場合であっても、改質用微粒子20bの最大粒径bmax以下の分布Aとなるようにし、また硬質粒子20aが最小粒径aminから最大粒径amaxまでの幅を持った分布Bとする。そして、改質用微粒子20bの最大粒径bmaxと硬質粒子20aの最小粒径aminとの間の差distを大きくする。これによって、硬質粒子20aと改質用微粒子20bとの分級を確実に行わせることができる。
【0041】
また、改質用微粒子20bは硬質粒子20aより軟性の部材であることから、改質用微粒子20bが複数の硬質粒子20a間に挟まれて、破壊されるのを極力抑制するために、改質用微粒子20bの粒径は硬質粒子20aの粒径の1/6程度のものとするのが望ましい。これによって、図8に示したように、改質用微粒子20bが複数の硬質粒子20aに挟み込まれたときに、複数の硬質微粒子20a間に生じる隙間に改質用微粒子20bが入り込んで、過度な加圧力が作用するのを防止できる、
【0042】
以上のように構成することによって、前述した第1の実施の形態と同様に、被加工材1の外周面と回転工具21との間に分散液20が供給されて、被加工材1及び回転工具21の回転により被加工材1の表面改質が行われて、表面が硬化される。ここで、分散液20は溶液にキャリア粒子と改質用微粒子とが混合されており、分散液6は回転工具2の回転と矢被加工材1の回転との複合作用による3次元的な旋回流により、キャリア粒子がこの流れの作用で被加工材1の表面に沿って転動しながら、被加工材1に対する加圧力によって、被加工材1の表面が塑性変形されて圧縮残留応力が作用して、その表面が改質されて、硬質化される。
【0043】
ここで、分散液20の硬質粒子20aは、被加工材1の表面への加圧作用によって、被加工材1の外面が塑性流動し、微小粒子である改質用微粒子20bは被加工材1の表面に埋入されるように被着されることになる。このときには、図6から明らかなように、硬質微粒子20aがキャリア粒子となって、回転工具21による押圧力の作用で、被加工材1の表面が塑性流動を生じる際に、微小な粒子である改質用微粒子20bが被加工材1の表面に埋め込まれるようにして被着して積層し、被加工材1の表面に強固に被着することになる。従って、被加工材1が硬化するだけでなく、この改質用微粒子20bの被着により所定の特性が付与される。
【0044】
改質用微粒子20bにより付与される特性としては、被加工材1の摺動性,表面強度,防錆機能,耐摩耗性,耐熱性,耐薬品性等といった特性である。例えば、改質用微粒子30Sとして、Cu(銅),Mo(モリブデン),S(硫黄),C(炭素),P(燐),Sn(錫),Pb(鉛),ナイロン,ポリイミド等を用いると、被加工材1の摺動性が良好となる。表面強度の向上を図るには、カーボンナノチューブやアラミド繊維を用いることができる。さらに、Ni−Cr(ニッケル・クロム合金),Zn(亜鉛),Zn−Al(亜鉛・アルミニウム合金)等を改質用微粒子30iとして用いれば、防錆機能が向上する。
【符号の説明】
【0045】
1 被加工材 2,21 回転工具
2a,21a 作用面 6,20 分散液
6a,20a 硬質粒子 20b 改質用微粒子
10、24 補給槽 12,22 分散液供給パイプ
13,25 分散液供給路 15,27 攪拌槽
17 溶液補給路 18 硬質粒子補給路
19,30 循環用ポンプ 32 第1の補給槽
33 第2の補給槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材と工具との間で硬質粒子を流動させることにより被加工材の表面の改質を行う装置であって、
前記工具と前記被加工材の表面との間を、微小隙間を介して対向配設して、前記被加工材と前記工具との間に前記微小隙間を保って相対動させる駆動機構と、
前記硬質粒子を溶液に分散させた分散液を前記微小隙間に供給する分散液供給源ユニットと、
前記分散液供給源ユニットから分散液を前記被加工材と前記工具との間の微小隙間に送り込むために、ポンプを有する分散液供給路と、
前記被加工材と前記工具との間に供給した分散液を前記供給源ユニットに回収する分散液回収路と
から構成したことを特徴とする表面改質装置。
【請求項2】
前記分散液は、前記硬質粒子と、この硬質粒子より粒径が小さく、前記被加工材の表面に埋め込まれる改質用微粒子との混合物を分散させたものであることを特徴とする請求項1記載の表面改質装置。
【請求項3】
前記分散液回収路には、前記硬質粒子と、前記改質用微粒子とを分離して回収する粒子分離手段と、分離した硬質粒子及び改質用微粒子をそれぞれ別個に貯留する第1,第2の回収部を備えており、また前記供給源ユニットは混合攪拌槽を設けて、この混合攪拌槽には溶液と、硬質粒子と、改質用微粒子とを混合するようになし、前記分散液供給路は前記混合攪拌槽に接続する構成としたことを特徴とする請求項2記載の表面改質装置。
【請求項4】
被加工材の表面に工具を微小隙間が保たれるようにして対向配設し、これら被加工材と工具との間を相対動させる間に、硬質粒子を溶液に分散させた分散液を前記被加工材と前記工具との対向する部位に供給することによって、被加工材と工具との間に硬質粒子を流動させるようにして被加工材の表面を改質することを特徴とする表面改質方法。
【請求項5】
被加工材の表面に工具を対向配設させて、これら被加工材と工具との間を相対動させる間に、硬質粒子と改質用微粒子とを溶液に分散させた分散液を前記被加工材と前記工具との対向する部位に供給することによって、被加工材と工具との間に硬質粒子を流動させ、改質用微粒子を被加工材表面に埋め込むようにして被加工材の表面を改質することを特徴とする表面改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−144765(P2012−144765A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3102(P2011−3102)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】