説明

表面欠陥検出装置

【課題】非連続板状被検材の先端部や尾端部の自重垂れや、反り等に起因した表面欠陥検出精度の低下を抑制することができる表面欠陥検出装置を提供する。
【解決手段】搬送中の非連続板状被検材の表裏面に存在する未開口欠陥を、励磁コイルと2つの検出コイルを有するE型渦流センサを用いて検出する表面欠陥検出装置において、上記E型渦流センサを2つの検出コイルを被検材の搬送方向に向けて搬送方向と直角する方向に複数配列し、これらのE型センサを収納するセンサボックスと、その前後の搬送ロール間に補助ロールを設置してなることを特徴とする表面欠陥検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚鋼板などの非連続的な板状被検材の表裏面に存在するヘゲ等の密着性未開口欠陥を、被検材の搬送中に渦流センサを用いて検出する表面欠陥検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
厚鋼板の表面欠陥には、図1に示すような、ヘゲと呼ばれる密着性未開口の欠陥がある。ヘゲの形状は、発生原因等によって様々であるが、その多くは圧延方向に延ばされた楕円に近い形状のものである。また、大きさも様々であり、深さが0.1〜0.3mm程度で、幅が10〜100mm程度、長さが10mm〜1m近くのものが多い。
【0003】
ヘゲの発生原因としては、製鋼起因のものと、圧延起因のものに大別され、製鋼起因のヘゲとしては、スラブをトーチカットした際に残されたトーチノロが圧延されて密着したトーチヘゲや、スラブのコーナー部に発生する割れや疵等が圧延されて発生したコーナヘゲと呼ばれるものが、また、圧延起因のヘゲとしては、圧延時や搬送時にテーブルへの突き当たり等でスラブ裏面の角が折れ曲がり、それがそのまま圧延されて発生する裏面ヘゲと呼ばれるものなどがある。
【0004】
上記製鋼起因、圧延起因のいずれのヘゲも、密着性未開口の表面欠陥であり、製品板の先端および尾端部の非定常部に発生することが多い。しかし、欠陥部と良品部の違いとしては、色の違いがあるだけであることが多いため、目視検査で精度よく検出することは難しい。そのため、厚鋼板の先端部や尾端部の表面欠陥を精度よく検出することは、品質保証上、極めて重要な課題である。
【0005】
ヘゲのような、密着性未開口の表面欠陥を検出する方法としては、被検材の搬送中に、渦流センサを用いて検出する技術がある。例えば、特許文献1には、図2に示したように、E型形状の強磁性体の3本の脚部にコイルを巻き、中央の脚部を励磁コイルとし、外側の2つの脚部を検出コイルとしたE型渦流センサを複数個、2つの検出コイルの方向を搬送方向に対して直角方向(横配列)とし、かつ、被検材の搬送方向に沿って互いに離間して配置すると共に、隣接する渦流センサどうしを被検材の搬送方向から見て隙間がないように千鳥状に配列した表面欠陥検出装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−284191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の装置は、E型渦流センサを複数個配置させるに当り、渦流センサ相互の干渉を防止するため、数10〜100mm程度の間隔を空けて離間配置をせざるを得ず、渦流センサを収納するセンサボックスが大きくなってしまう。そのため、搬送ロール(テーブルロール)で搬送中の厚鋼板に発生したヘゲを検出するには、設置スペースを確保するために、搬送ロール間の間隔を大きく開ける必要がある。
【0008】
しかし、搬送ロール間が大きくなると、搬送中の被検材の先端や尾端がロール間で片持ち状態となり、図3に示したように、被検材の自重で撓み(以降、「自重垂れ」という)が生じる。しかし、渦流センサの検出信号は、被検材に存在する傷の大きさの他に、被検材と渦流センサ間の距離(以下、「ギャップ」ともいう)によって、図4のように大きく変化する。そのため、被検材の先端部や尾端部の自重垂れが大きくなると、ギャップが小さくなってセンサの検出信号が大きくなるため、本来、欠陥のない場合でも誤検出を起こしたり、逆に、被検材の先端部や尾端部が上方に反っていた場合には、センサの検出信号が小さくなって欠陥を検出できなくなったりするという問題がある。
【0009】
また、自重垂れを起こした被検材の先端部が、下流側の搬送ロールに到達したときには搬送ロールに対して追突状態となるため、被検材が跳ね上がって振動したり、横振れや斜行を起こしたりし、やはり表面欠陥の誤検出や不検出の原因となる。さらに、被検材の先端部や尾端部に反りが発生していた場合には、被検材がセンサボックスに接触し、センサを破損するおそれがある。そして、この接触を防止するにはギャップを大きく設定する必要があり、センサの検出精度の低下を招くことになる。
このようなことから、従来技術では、被検材の先端部や尾端部の欠陥を精度よく検出することは難しい。
【0010】
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、被検材の先端部や尾端部の自重垂れや、反り等に起因した表面欠陥検出精度の低下を抑制することができる表面欠陥検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意検討を重ねた結果、以下の発明をするに至った。すなわち、本発明は、搬送中の非連続板状被検材の表裏面に存在する未開口欠陥を、励磁コイルと2つの検出コイルを有するE型渦流センサを用いて検出する表面欠陥検出装置において、上記E型渦流センサの2つの検出コイルを被検材の搬送方向に向けると共に、そのE型渦流センサを搬送方向と直角する方向に複数配列し、これらのE型センサを収納するセンサボックスと、その前後の搬送ロール間に補助ロールを設置してなることを特徴とする表面欠陥検出装置である。
【0012】
本発明の表面欠陥検出装置は、上記センサボックスの上流側にピンチロールを配設してなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の表面欠陥検出装置は、被検材のパスライン変動量を計測し、その測定値を用いてセンサの欠陥信号を補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、E型渦流センサを搬送方向に離間して配置する必要がないので、センサボックスを小型化し、センサボックスと搬送ロール間に補助ロールを配設することができるので、被検材の自重垂れ等による表面欠陥の誤検出・不検出を防止することができる。また、本発明によれば、上記に加えて、渦流センサの上流側にピンチロールを配設することで、被検材の振動や反り等によるギャップの変動を最小化することで、表面欠陥検出精度を高めることができる。また、本発明によれば、被検材と渦流センサ間のギャップを測定し、検出信号を補正することで、より高い精度で欠陥を検出することができる。さらに、本発明によれば、被検材の自重垂れや形状不良によるセンサの破損を防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】厚鋼板に発生する表面欠陥(ヘゲ)を説明する図である。
【図2】従来技術の表面欠陥検出装置のE型渦流センサの配列を説明する図である。
【図3】従来技術の問題点を説明する図である。
【図4】被検材と渦流センサ間の距離(ギャップ)がセンサの検出信号の強度に及ぼす影響を説明する図である。
【図5】本発明の表面欠陥検出装置のE型渦流センサの配列例を説明する図である。
【図6】本発明の表面欠陥検出装置の概要を説明する図である。
【図7】本発明の表面欠陥検出装置と従来の表面欠陥検出装置における被検材のパスラインの変動量を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の表面欠陥検出装置は、搬送中の非連続板状被検材の表裏面に存在する未開口欠陥を、1つの励磁コイルとその両側に2つの検出コイルを有するE型渦流センサを用いて検出するものであり、その特徴は、上記E型渦流センサの2つの検出コイルを被検材の搬送方向に向けて縦配列し、かつ、そのE型渦流センサを搬送方向と直角方向に複数隣接して配列することで、これらのE型センサを収納するセンサボックスを小型化し、その前後の搬送ロール間に補助ロールを設置できるようにしたところにある。
【0017】
従来の特許文献1の技術では、図2に示したように、E型渦流センサの2つの検出コイルが被検材の搬送方向に直交するように配列(横配列)していた。しかし、この配列では、隣接する渦流センサの励磁によって生じる厚鋼板表面の渦電流が干渉を起こし、健全部であるにも拘わらず渦電流が乱れて、欠陥信号が埋もれてしまったりするため、精度よく欠陥を検出することができないという欠点があるため、隣接する渦流センサを被検材の搬送方向に沿って互いに離間し、例えば、千鳥状にして配置する必要があった。そのため、渦流センサを収納するセンサボックスが大型化し、センサボックスを設置する必要スペースも大きくなるため、搬送ロール間が大きく離間していた。
【0018】
その結果、厚鋼板のような非連続な板状被検材を検査する場合には、図3に示したように、被検材1の先端部や尾端部が上記搬送ロール間で自重により撓み、いわゆる、自重垂れを起こす。この自重垂れは、被検材と渦流センサとの間の距離(ギャップ)の変動をもたらすため、センサの感度が変化する(図4参照)。また、被検材の先端が、下流側の搬送ロール3´に到達したときには追突して跳ね上がり、被検材が振動や横振れ、斜行を起こしたりするため、欠陥検出精度の低下を招く。さらに、被検材の剛性が弱くて自重垂れが大きい場合や、先端部や尾端部に反りなどの形状不良が発生していた場合には、被検材がセンサボックス2と接触し、渦流センサを損傷するおそれすらある。
【0019】
発明者らは、上記問題点を解決するべく検討を重ねた結果、E型渦流センサを、図5に示したように、E型渦流センサの2つの検出コイルの方向を被検材の搬送方向の向きにした場合には、隣接する渦流センサどうしの干渉を防止することができることを見出した。そして、このような配置の仕方では、図5のように、隣接する渦流センサを被検材の幅方向に隙間なく配列させることができるので、E型渦流センサを収納するセンサボックス2の搬送方向長さを最小化し、小型化することができる。
【0020】
ここで、E型渦流センサの2つの検出コイルを被検材の搬送方向になるように配置することで、隣接する渦流センサどうしの干渉を防止することができる理由について、発明者らは以下のように考えている。
厚鋼板表面に発生する渦電流の合成が、図5のように縦配置の場合は、位相が揃って安定した渦電流に合成される。一方、図2のように千鳥配列の場合は、渦電流の位相が違うため、その合成はいびつな形になる。その結果、健全部での渦電流の信号の零調整(ゼロバランス)が取り難くなる。
【0021】
そして、センサボックスの小型化は、図6に示したように、その前後に配設された搬送ロール3,3´とセンサボックス間に、被検材の自重垂れを防止する補助ロール4,4´を設置することを可能とする。この補助ロールは、被検材の先端部や尾端部の搬送ロール間での自重垂れを小さくできるため、被検材の先端部が搬送ロールに追突したときに生じる跳ね上がりによる振動や横振れ等を防止し、被検材のパスラインの変動を抑制する効果があるので、被検材と渦流センサ間のギャップ変動を低減することができ、被検材の先端部や尾端部に多く存在する表面欠陥の誤検出や不検出を防止し、検出精度を高めることができる。ここで、上記パスラインとは、図3に示したように、被検査材(厚鋼板)の下面が通過するラインと定義する。この場合、基準パスラインは、搬送ロール上面を結ぶラインとなる。
【0022】
上記補助ロールは、設置スペースが十分ある場合には、センサボックスの前後に配設するのが好ましい。前後に配設することで、図3に示したような被検材先端部の接触や追突等による悪影響のみならず、尾端部における悪影響も回避できるからである。
【0023】
また、本発明の上記表面欠陥検出装置は、図6に示したように、センサボックスの上流側にピンチロール5を配設してもよい。このピンチロールは、被検材の振動を抑制する効果があるだけでなく、被検材の横振れや斜行を防止する効果があるので、渦流センサを設置した搬送ロール間における被検材のパスラインの変動を、より効果的に抑制し、検出精度を高めることができる。なお、このピンチロールは、尾端部の振動や横振れ等を防止するため、センサボックスの下流側に設置してもよい。
【0024】
さらに、本発明の上記表面欠陥検出装置は、自重垂れや反りなどの形状変化に伴う被検材と渦流センサとの間のギャップの変動量を、渦流センサ近傍に設置した距離計6等を用いて測定し、その値に応じてセンサ信号を補正するようにしてもよい。これにより、渦流センサを設置した搬送ロール間での、被検材の先端部や尾端部の自重垂れや、形状変動等による表面欠陥の誤検出や不検出を防止し、検出精度を向上することができる。上記補正の方法としては、図4に示したような、被検材と渦流センサ間のギャップ量と、センサ信号の強度との関係を、例えば、2次曲線などの近似曲線で予め求めておき、測定した板厚を加味したギャップの変動量に応じて渦流センサの検出信号を補正してやるのが好ましい。なお、板厚は、上位コンピュータなどから設定値として与えてやってもよいし、あるいは、距離計の値と、事前に計測しておいた基準パスライン(搬送ロール上面)までの距離の値との差から求められる計算板厚を用いてもよい。
【0025】
なお、上記ギャップを測定する距離計としては、いずれの方式でもよいが、温度の影響を受け難く、離隔距離がとれ、かつ、応答速度が速い、レーザ式距離計等を用いることが好ましい。
【実施例1】
【0026】
本発明に係る表面欠陥検出装置を厚鋼板製造設備に設置し、厚鋼板裏面側に発生した未開口表面欠陥(ヘゲ)を検出することを試みた。上記表面欠陥検出装置は、図5に示したように、厚鋼板製造設備の搬送ライン途中の2本の搬送ロール間に、E型渦流センサの2つの検出コイルを被検材の搬送方向に縦配列し、かつ、搬送方向と直角な方向に上記渦流センサを9個、隣接して配列したセンサボックスを、厚鋼板幅端部の裏面に向けて、被検材とセンサの間隔(ギャップ)を15mmとして設置したものである。なお、上記搬送ロール間は1000mm、センサボックスの搬送方向長さは180mmであり、そのセンサボックスの前後には、直径が130mmφの補助ロールを2本、パスラインを搬送ロールと同じとして、4「10mmの間隔をあけて配設した。さらに、上記2本の搬送ロールの上流側には、被検材を拘束して振動を抑制するため、図6のように、上下1対からなるピンチロール(直径:700mmφ)を配設した。
【0027】
上記表面欠陥検出装置を用いて、実生産している厚鋼板の表面欠陥検査を実施し、目視検査によるヘゲ欠陥検出精度に対する欠陥検出率、非検出率および過検出率を、目視検査をベースとして、表1に示した。なお、比較として、図3に示した従来の表面欠陥検出装置を用いた場合についても、同様の検査を行い、その結果を表1中に併記した。
【0028】
なお、上記欠陥検出率、過検出率および非検出率の定義は、以下のとおりである。
・目視検査、センサを用いた検査共に検出した件数:A件
・目視検査で検出できたが、センサを用いた検査では非検出の件数:B件
・目視検査では非検出だが、センサを用いた検査で検出できた件数:C件
・目視検査、センサを用いた検査共に非検出の検出:D件
としたとき、
欠陥検出率(%):A/(A+B)×100
非検出率(%):D/(A+B)×100
過検出率(%):C/(A+B+C+D)×100
【0029】
【表1】

【0030】
表1から、本発明の表面欠陥検出装置を用いることにより、未開口表面欠陥(ヘゲ)の検出率が、従来技術や目視検査よりも向上していることがわかる。
【0031】
図7は、上記表面欠陥検出装置のセンサボックス上方に、レーザ式距離計を設置し、センサボックスの位置における被検査材(厚鋼板)のパスラインの変動量を測定し、その結果を、補助ロール等を有しない従来の表面欠陥検出装置における変動量と比較して示したものである。この図から、本発明の表面欠陥検出装置では、補助ロール等を設けたことにより、厚鋼板の先端部が搬送ロールに追突した際の跳ね上がりによるギャップの変動がほとんど解消され、厚鋼板搬送時の小刻みな振動もなくなっていることがわかる。
これらのことから、本発明の表面欠陥検出装置を用いることで表面欠陥(ヘゲ)検出率が、従来技術より向上した理由は、パスラインの変動が抑制されて、先端部や尾端部の欠陥検出精度が向上したためであることがわかる。
【実施例2】
【0032】
上記実施例1で用いた距離計を設置した表面欠陥検出装置を厚鋼板製造設備に設置し、上記距離計で測定したギャップの変動量に応じてセンサ信号を補正し、厚鋼板裏面側に発生した未開口表面欠陥(ヘゲ)を検出することを試みた。そして、実施例1と同様にして、未開口表面欠陥(ヘゲ)の検出率を調査し、その結果を表1中に併記した。
この結果から、被検材のパスラインの変動、すなわち、ギャップ変動量に基づいて、センサの検出信号を補正することで、欠陥検出精度をより向上できることがわかる。
【符号の説明】
【0033】
1:被検材(厚鋼板)
2:センサボックス
3,3´:搬送ロール
4,4´:補助ロール
5:ピンチロール
6:距離計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送中の非連続板状被検材の表裏面に存在する未開口欠陥を、励磁コイルと2つの検出コイルを有するE型渦流センサを用いて検出する表面欠陥検出装置において、
上記E型渦流センサの2つの検出コイルを被検材の搬送方向に向けると共に、そのE型渦流センサを搬送方向と直角する方向に複数配列し、これらのE型センサを収納するセンサボックスと、その前後の搬送ロール間に補助ロールを設置してなることを特徴とする表面欠陥検出装置。
【請求項2】
上記センサボックスの上流側にピンチロールを配設してなることを特徴とする請求項1に記載の表面欠陥検出装置。
【請求項3】
被検材のパスライン変動量を計測し、その測定値を用いてセンサの欠陥信号を補正することを特徴とする請求項1または2に記載の表面欠陥検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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