表面汚染度評価方法及び表面汚染度評価装置
【課題】吸着した汚染物質の性質などによって被検体の表面性状が変化する場合においても、表面汚染度を評価することが可能な表面汚染度評価方法及び表面汚染度評価装置を提供する。
【解決手段】所定の清浄度を保持することが求められる被検体1に対し、空気中の汚染物質が吸着することによる被検体1の表面1aの汚染度を評価する表面汚染度評価方法であって、空気中の水蒸気が吸着することによる表面1aの吸着水分量を測定し、基準の被検体1の表面1aに吸着した吸着水分量との差に基づいて表面1aの汚染度を評価する。
【解決手段】所定の清浄度を保持することが求められる被検体1に対し、空気中の汚染物質が吸着することによる被検体1の表面1aの汚染度を評価する表面汚染度評価方法であって、空気中の水蒸気が吸着することによる表面1aの吸着水分量を測定し、基準の被検体1の表面1aに吸着した吸着水分量との差に基づいて表面1aの汚染度を評価する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の清浄度を保持することが求められる例えば半導体ウエハやガラス基板などの被検体に対し、空気中の汚染物質が吸着することによる被検体の表面の汚染度を評価するための表面汚染度評価方法及び表面汚染度評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子や液晶ディスプレイなどを製造する際に、クリーンルームや保管庫の空気中の化学物質等(汚染物質)が半導体ウエハやガラス基板(基板、被検体)の表面に吸着し、リーク電流の増大や絶縁耐圧の低下など電気的特性に悪影響を及ぼすことが知られている。このため、半導体素子や液晶ディスプレイなどの製造プロセスでは、製品不良発生による歩留まりの低下や製品の信頼性の低下を阻止するために、基板表面の汚染度評価を行っている。
【0003】
そして、この基板表面の汚染度を評価する際には、昇温脱離ガス分析法(TDS)、表面洗浄法、拭き取り法などが用いられている。
【0004】
昇温脱離ガス分析法は、密閉容器内に基板を収容するとともに昇温して基板表面に吸着した汚染物質を脱離させ、脱離ガス中の汚染物質をガスクロマトグラフ(GC)や質量分析装置(マススペクトル装置(MS))で同定、定量することによって、基板表面の汚染度評価を行う方法である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
表面洗浄法は、基板表面を有機溶媒や純水で洗浄し、洗浄液中の汚染物質をGCやMS、イオンクロマトグラフ(IC)で同定、定量することによって、基板表面の汚染度評価を行う方法である。
【0006】
また、拭き取り法は、基板表面を不織布や石英ウールなどで拭き取った後、有機溶媒で不織布や石英ウールなどから汚染物質を溶出させ、溶出液中の汚染物質をGCやMS、ICで同定、定量することによって、基板表面の汚染度評価を行う方法である。
【0007】
このように、これらの汚染度評価方法は、いずれもGCやMSなどの高価な分析装置を必要とする。また、他の汚染度評価方法として、フーリエ変換型赤外分光装置(FT−IR)などを用いた光学的な方法や、二次イオン質量分析法(SIMS)を用いた方法の開発も進められているが、やはり高価な装置が必要になる。
【0008】
一方、基板表面に純水などの液滴を滴下し、液滴の接触角を測定することによって、基板表面の汚染度評価を行う方法がある(例えば、特許文献2参照)。この汚染度評価方法は、拡大鏡などを用いて液滴を拡大し、基板表面の汚染物質の吸着量が増加するに従って変化する液滴の接触角を液滴の拡大像から測定することによって、基板表面の汚染度を評価する方法である。このため、GCやMSなどの高価な装置を用いることなく、簡便に基板表面の汚染度を評価することが可能である。
【特許文献1】特開2006−337031号公報
【特許文献2】特開平8−338822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の液滴の接触角を測定する方法においては、例えば表面に吸着した汚染物質の性質、すなわち汚染物質が親水性か、疎水性か、さらに親水性の汚染物質と疎水性の汚染物質の割合などによって接触角が変わってしまう。このため、正確に基板表面の汚染度を評価することが難しいという問題があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、吸着した汚染物質の性質などによって被検体の表面性状が変化する場合においても、表面汚染度を評価することが可能な表面汚染度評価方法及び表面汚染度評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0012】
本発明の表面汚染度評価方法は、所定の清浄度を保持することが求められる被検体に対し、空気中の汚染物質が吸着することによる前記被検体の表面の汚染度を評価する表面汚染度評価方法であって、前記空気中の水蒸気が吸着することによる前記表面の吸着水分量を測定し、該吸着水分量に基づいて前記表面の汚染度を評価することを特徴とする。
【0013】
この発明においては、被検体の表面に汚染物質が吸着すると、表面の物理化学的性質(表面性状)が変化し、表面の吸着水分量が汚染物質の吸着量に応じて変化するため、この表面の吸着水分量を測定することで、表面の汚染度を評価することが可能になる。すなわち、清浄な状態の表面に吸着する吸着水分量に対し、親水性の汚染物質が吸着した場合には吸着水分量が増加し、疎水性の汚染物質が吸着した場合には吸着水分量が減少する。このため、被検体の表面に吸着した汚染物質によって表面性状が変化した場合においても、表面の吸着水分量を測定し、この吸着水分量の変化量(増減量)に基づいて、汚染の進行状況を確認することが可能になり、従来の液滴の接触角を測定する方法に対し比較的正確に表面の汚染度を評価することが可能になる。
【0014】
また、本発明の表面汚染度評価方法においては、前記空気の湿度を一定にして前記表面の吸着水分量を測定し、基準の被検体の表面に吸着した吸着水分量との差に基づいて前記被検体の表面の汚染度を評価することが望ましい。
【0015】
この発明においては、空気の湿度を一定にした状態で、この湿度に応じて被検体の表面に吸着する吸着水分量を測定し、基準の被検体の吸着水分量と、汚染度の評価を行う被検体の吸着水分量との差(変化量)を確認することによって、確実に汚染の進行状況を捉えて表面の汚染度を評価することが可能になる。
【0016】
さらに、本発明の表面汚染度評価方法においては、前記空気の湿度を変化させ、複数の湿度条件で前記表面の吸着水分量を測定して前記湿度の変化量に対する前記吸着水分量の変化量の割合を求め、基準の被検体の前記湿度の変化量に対する前記吸着水分量の変化量の割合との差に基づいて前記被検体の表面の汚染度を評価することがより望ましい。
【0017】
この発明においては、複数の湿度条件で表面の吸着水分量を測定し、基準の被検体の湿度の変化量に対する吸着水分量の変化量の割合と、汚染度の評価を行う被検体の前記割合との差(変化量)を確認することによって、より正確に汚染の進行状況を捉えて表面の汚染度を評価することが可能になる。
【0018】
すなわち、表面が清浄な状態である場合や表面に吸着した汚染物質の吸着量が少ない場合には、湿度を変化させると表面に吸着する吸着水分量が変化する。このとき、湿度が高くなると吸着水分量も増加する単調増加の関係があり、異なる湿度条件における吸着水分量を測定することで湿度の変化量に対する吸着水分量の変化量の割合が得られる。そして、この湿度に対する吸着水分量の変化の割合は、汚染の進行により変化するので、この割合を確認することによって、汚染の進行状況を捉えて表面の汚染度を評価することが可能になる。また、このように複数の湿度条件で吸着水分量を測定し、吸着水分量の変化量の割合に基づいて汚染度を評価する場合には、一つの湿度条件で吸着水分量を測定し、この一つの湿度条件における吸着水分量の変化量に基づいて汚染度を評価する場合と比較し、より正確に表面の汚染度を評価することが可能になる。
【0019】
また、本発明の表面汚染度評価方法においては、前記空気の湿度を変化させ、複数の湿度条件で前記表面の吸着水分量を測定して前記湿度と前記吸着水分量の関係を求め、該関係が直線的な関係となる基準の被検体に対し、該関係からの変化を捉えて前記被検体の表面の汚染度を評価することがさらに望ましい。
【0020】
この発明においては、複数の湿度条件で表面の吸着水分量を測定し、基準の被検体の湿度と吸着水分量の直線的な関係が崩れることを確認することで、汚染の進行状況を捉えて表面の汚染度を評価することが可能になる。
【0021】
すなわち、表面に吸着した汚染物質の吸着量が多くなるに従い(汚染の進行に従い)、湿度と吸着水分量の直線的な関係(直線性)が崩れ、湿度と吸着水分量の関係が曲線的な関係に変化する。このため、この直線性からの変化を捉えることによって(直線的な関係が成立しなくなることを捉えることによって)、さらに直線的な関係の吸着水分量に対する吸着水分量の変化量を確認することで、確実に汚染の進行状況を捉え、被検体の表面の汚染度を評価することが可能になる。
【0022】
さらに、本発明の表面汚染度評価方法においては、赤外線水分計を用いて前記吸着水分量を測定することが望ましい。
【0023】
この発明においては、ガスクロマトグラフ(GC)や質量分析装置(MS)などの高価な装置ではなく、比較的安価で取扱いが容易な赤外線水分計を用いて表面の汚染度を評価することが可能になる。
【0024】
また、このように赤外線水分計を用いる場合には、水分に吸収される例えば1.92〜1.95μmの特定吸収波長で吸着水分量を測定することができる。そして、この特定吸収波長は、例えば半導体素子や液晶ディスプレイなどを製造する際に、クリーンルームや保管庫の空気中に存在するアルコール類やヒドロキシカルボン酸などの有機化合物(汚染物質)の水酸基(OH)、アミノ基(NH2)の特定吸収波長と近い。このため、被検体の表面の吸着水分量を測定した際には、実際の吸着水分量に、表面に吸着した汚染物質の水酸基やアミノ基を合わせた見かけの吸着水分量として測定され得る。これにより、吸着水分量だけを検出する場合よりも吸着した汚染物質に関する情報を含んだ測定結果が得られるため、この見かけの吸着水分量によって汚染状況をより詳細に評価することも可能になる。
【0025】
本発明の表面汚染度評価装置は、所定の清浄度を保持することが求められる被検体に対し、空気中の汚染物質が吸着することによる前記被検体の表面の汚染度を評価するための表面汚染度評価装置であって、前記被検体を収容する容器と、該容器内の湿度を調整する湿度調整手段と、前記容器に収容した前記被検体の表面の吸着水分量を測定する水分計とを備えて構成されていることを特徴とする。
【0026】
この発明においては、上記の本発明の表面汚染度評価方法と同様の効果を得ることが可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明の表面汚染度評価方法及び表面汚染度評価装置によれば、従来の液滴の接触角を測定する方法と比較し、被検体の表面に吸着した汚染物質によって表面性状が変化した場合においても、表面性状の変化に応じて表面に吸着する吸着水分量を測定し、この吸着水分量の変化量(増減量)を捉えることで、汚染の進行状況を確認することが可能になり、表面の汚染度を評価することが可能になる。
【0028】
また、このように表面の吸着水分量を測定して表面の汚染度を評価できることにより、ガスクロマトグラフ(GC)や質量分析装置(MS)などの高価な装置を用いる必要がなく、簡便に表面の汚染度を評価することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図1から図5を参照し、本発明の第1実施形態に係る表面汚染度評価方法及び表面汚染度評価装置について説明する。本実施形態では、所定の清浄度を保持することが求められる半導体ウエハや液晶ディスプレイのガラス基板の基板(被検体)表面の汚染度を評価するものとして説明を行う。
【0030】
本実施形態の表面汚染度評価装置Aは、図1に示すように、基板(被検体)1を収容する容器2と、容器2内に湿度センサ3aを配置して容器2内の湿度を計測する湿度計3と、容器2内の湿度(相対湿度)を調整する湿度調整手段4と、容器2に収容した基板1の表面1aに吸着された吸着水分量を測定する赤外線水分計(水分計)5と、湿度計3及び赤外線水分計5の測定値を記録して処理するパソコンなどの処理装置6とを備えて構成されている。
【0031】
容器2には、湿度調整手段4が繋がり、この湿度調整手段4から送気された湿度調整空気を内部に取り込むための給気口2aと、内部空気を外部に排出するための排気口2bとを備えて形成されている。また、容器2内に収容した基板1がその表面1aを上方に向けて載置される反射板2cが内部に設けられている。
【0032】
湿度調整手段4は、乾燥空気製造装置4aと湿度調整装置4bとを備え、乾燥空気製造装置4aで製造した乾燥空気を湿度調整装置4bに送気し、この湿度調整装置4bで所望の湿度に調整した湿度調整空気を給気口2aから容器2内に供給するように構成されている。
【0033】
赤外線水分計5は、光ファイバケーブル5aが外側から容器2の内部に延設され、この光ファイバケーブル5aの先端から基板1の表面1aに赤外線を照射するように設けられている。また、この赤外線水分計5は、水分に吸収されやすい例えば1.92〜1.95μmの波長の水分吸収波長光と、水分の影響を受けにくい例えば1.80μmの波長と例えば2.10μmの波長の参照波長光とをそれぞれ交互に基板1の表面1aに照射し、これらの反射光を受光して、含水率に対応した水分計出力値(IM−D値(mV))を処理装置6に出力する。そして、処理装置6によってIM−D値から基板1の表面1aの吸着水分量が算出される。ちなみに、参照波長光は、基板1の表面1aの色調などの影響を除いて安定した測定を行うために照射される。
【0034】
ついで、上記構成からなる表面汚染度評価装置Aを用いて基板1の表面1aの汚染度を評価する方法について説明するとともに、本実施形態の表面汚染度評価方法及び表面汚染度評価装置Aの作用及び効果について説明する。
【0035】
本実施形態においては、表面汚染度評価装置Aの容器2の内部空気(空気)の湿度を湿度調整手段4によって一定に保持する。これにより、この一定の湿度条件に応じて内部空気中の水蒸気が反射板2c上に設置した基板1の表面1aに吸着し、この基板1の表面1aに吸着する吸着水分量を赤外線水分計5によって測定する。
【0036】
このとき、清浄な状態の基板(基準の被検体)1の表面1aに吸着する吸着水分量に対し、基板1の表面1aに汚染物質が吸着した場合には、汚染物質の吸着量に応じて表面性状が変化し、湿度を一定に保持した場合においてもこの基板1の表面1aに吸着する吸着水分量が増減する。
【0037】
すなわち、親水性の汚染物質が吸着し、表面性状が親水性になった場合には、図2に示すように、清浄な状態の表面(清浄面)1aに吸着する吸着水分量に対して吸着水分量が増加し、疎水性の汚染物質が吸着して表面性状が疎水性になった場合には、図3に示すように、清浄面1aに吸着する吸着水分量に対して吸着水分量が減少する。また、このような吸着水分量の増減量(変化量)は、基板1の表面1aに吸着する汚染物質の吸着量などに応じて変化する。
【0038】
このため、湿度を一定にした状態で、この湿度に応じて基板表面1aに吸着する吸着水分量を測定し、清浄な状態の基板の表面1aに吸着した吸着水分量と、汚染度の評価を行う基板1の表面1aに吸着した吸着水分量との差(変化量)を確認することで、表面1aの汚染度を評価することが可能になる。
【0039】
また、半導体素子や液晶ディスプレイを製造する際には、半導体ウエハや液晶ガラス基板(基板1)が多くの製造工程を経て完成品に至る。そして、各製造工程を行うクリーンルームや、一時的に基板1を保管する保管庫(ストッカー)の空気中の化学物質等(汚染物質)が基板1の表面1aに吸着し、基板1の表面1aが汚染される。
【0040】
このため、清浄な状態の基板1の表面1aに吸着する吸着水分量を測定し、製造工程を経た段階で(例えば各製造工程の完了後毎に)、同一基板1の表面に吸着する吸着水分量を測定して、清浄な状態の基板表面1aの吸着水分量と製造工程後の基板表面1aの吸着水分量との差(変化量)、あるいは前工程における基板(基準の被検体)表面1aの吸着水分量と後工程における基板(被検体)表面1aの吸着水分量との差(変化量)を確認することで、汚染の進行状況を確認することが可能になる。
【0041】
したがって、本実施形態の表面汚染度評価方法及び表面汚染度評価装置Aにおいては、基板1の表面1aに吸着した汚染物質によって表面性状が変化した場合においても、空気の湿度を一定にした状態で、この湿度に応じて基板1の表面1aに吸着する吸着水分量を測定し、基準の基板1の吸着水分量と、汚染度の評価を行う基板1の吸着水分量との差を確認することによって(吸着水分量の変化量に基づいて)、確実に汚染の進行状況を捉えて、従来の液滴の接触角を測定する方法に対し比較的正確に表面1aの汚染度を評価することが可能になる。
【0042】
さらに、比較的安価で取扱いが容易な赤外線水分計5を用いて表面1aの汚染度を評価することが可能になるため、ガスクロマトグラフ(GC)や質量分析装置(MS)などの高価な装置を用いる必要がなく、簡便に表面1aの汚染度を評価することが可能になる。
【0043】
ここで、このように赤外線水分計5を用いる場合には、水分に吸収される例えば1.92〜1.95μmの特定吸収波長で吸着水分量を測定することができる。そして、この特定吸収波長は、半導体素子や液晶ディスプレイなどを製造する際に、クリーンルームや保管庫の空気中に存在するアルコール類やヒドロキシカルボン酸などの有機化合物(汚染物質)の水酸基(OH)、アミノ基(NH2)の特定吸収波長と近い。このため、基板1の表面1aの吸着水分量を測定した際には、図4(親水性の汚染物質が表面1aに吸着した場合)及び図5(疎水性の汚染物質が表面1aに吸着した場合)に示すように、実際の吸着水分量に、表面1aに吸着した汚染物質の水酸基やアミノ基を合わせた見かけの吸着水分量として測定され得る。これにより、吸着水分量だけを検出する場合よりも吸着した汚染物質に関する情報を含んだ測定結果が得られる。そして、半導体素子や液晶ディスプレイを製造するクリーンルームや保管庫のように空気中の汚染物質の種類、濃度などが既知である場合には、一定湿度条件における表面1aに吸着する吸着水分量と汚染物質の吸着量の関係を予め求めておくことで、このような見掛けの吸着水分量から汚染状況をより詳細に評価することも可能になる。
【0044】
ついで、図6及び図7を参照し、本発明の第2実施形態に係る表面汚染度評価方法について説明する。本実施形態では、第1実施形態と同様に、表面汚染度評価装置Aを用いて、所定の清浄度を保持することが求められる半導体ウエハや液晶ディスプレイのガラス基板の基板(被検体)表面の汚染度を評価するものとして説明を行う。
【0045】
ここで、第1実施形態のように、湿度を一定にした状態で測定した基準の基板1の吸着水分量と、汚染度の評価を行う基板1の吸着水分量との差を確認して表面1aの汚染度を評価する場合には、基板の設置状態や赤外線水分計の例えば電圧などの変化で測定値(IM−D値、吸着水分量)全体が上下にシフトしたり、赤外線水分計の特性上時間とともにベースラインが変動するなどして、誤差が生じる場合がある。
【0046】
これに対し、本実施形態の表面汚染度評価方法では、表面汚染度評価装置Aの容器2の内部空気(空気)の湿度を湿度調整手段4によって変化させ、複数の湿度条件で基板1の表面1aに吸着する吸着水分量を測定する。
【0047】
そして、表面1aが清浄な状態である場合や、表面1aに吸着した汚染物質の吸着量が少ない場合には、湿度を変化させると表面1aに吸着する吸着水分量が変化し、このとき、湿度と吸着水分量の関係を直線回帰して求めることができる。すなわち、表面1aが清浄な状態である場合や、汚染物質の吸着量が少ない場合には、湿度と吸着水分量の関係が直線的な関係となる。
【0048】
そして、親水性の汚染物質が吸着し、表面性状が親水性になった場合には、図6に示すように、表面1aが清浄な状態の基板(基準の被検体)1の湿度の変化量に対する吸着水分量の変化量の割合、すなわち表面1aが清浄な状態の基板1の湿度と吸着水分量の直線的な関係の傾きに対し、この汚染物質が吸着した基板1の湿度と吸着水分量の関係の傾きが大きくなる。
【0049】
また、疎水性の汚染物質が吸着し、表面性状が疎水性になった場合には、図7に示すように、表面1aが清浄な状態の基板1の湿度と吸着水分量の直線的な関係の傾きに対し、この汚染物質が吸着した基板1の湿度と吸着水分量の関係の傾きが小さくなる。
【0050】
このため、汚染の進行に応じて変化する湿度の変化量に対する吸着水分量の変化量の割合(傾き)の変化量を確認することによって、汚染の進行状況を捉えて表面1aの汚染度を評価することが可能になる。また、このように複数の湿度条件で吸着水分量を測定して傾きの変化量に基づいて汚染度を評価することで、一つの湿度条件で吸着水分量を測定し、この一つの湿度条件における吸着水分量の変化量に基づいて汚染度を評価する場合に生じる誤差を抑制することができ、より正確に表面1aの汚染度を評価することが可能になる。また、経時的に傾きの変化量を確認することで、汚染の進行状況を確認することが可能になる。なお、本実施形態においては、傾きの変化量を確認する方法であるため、少なくとも2つの湿度条件で測定を行うことにより、評価を行うことが可能である。
【0051】
ついで、図8を参照し、本発明の第3実施形態に係る表面汚染度評価方法について説明する。
【0052】
本実施形態は、第2実施形態と同様に、表面汚染度評価装置Aの容器2の内部空気の湿度を湿度調整手段4によって変化させ、複数の湿度条件で基板1の表面1aに吸着する吸着水分量を測定する。
【0053】
そして、湿度と吸着水分量の関係を求める。このとき、第2実施形態のように測定する湿度条件が2条件ではなく、3条件以上にすることで、湿度変化に対する吸着水分量の変化が直線性の高いものであるかどうか、また直線性からのずれを把握することができる。
【0054】
例えば、図8に示すように、表面1aの汚染の進行に従い、湿度と吸着水分量の関係性(直線性、あるいは直線性からのずれ)が変化する。
【0055】
したがって、本実施形態の表面汚染度評価方法においては、この湿度と吸着水分量の関係が、直線性から変化することを捉えることによって(比例関係が成立しなくなることを捉えることによって)、さらに直線的な関係の吸着水分量に対する吸着水分量の変化量を確認することで、汚染の進行状況を捉え、基板1の表面1aの汚染度を評価することが可能になる。また、経時的に直線性からの変化量を捉えることで、確実に汚染の進行状況を確認することが可能になる。なお、本実施形態においては、直線的な関係からの変化を捉える方法であるため、3つ以上の湿度条件で測定することが望ましい。
【0056】
以上、本発明に係る表面汚染度評価方法及び表面汚染度評価装置の第1、第2及び第3実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、第1〜第3本実施形態では、表面汚染度評価装置Aの水分計が赤外線水分計5であるものとし、この赤外線水分計5で表面1aに吸着する吸着水分量を測定するものとしたが、本発明に係る水分計は、吸着水分量を測定することが可能であれば、赤外線水分計5に限定する必要はない。
【0057】
また、第1〜第3実施形態では、本発明に係る被検体が半導体ウエハやガラス基板などの基板1であるものとして説明を行ったが、本発明は、基板表面1aの汚染度評価への適用に限定されるものではなく、所定の清浄度を保持することが求められる全ての被検体に適用することが可能である。
【0058】
さらに、第1〜第3実施形態では、表面汚染度評価装置Aの容器2内に基板(被検体)1を収容して、この基板表面1aの汚染度を評価するものとしたが、例えば半導体素子や液晶ディスプレイを製造する空間(クリーンルーム内や製造装置内)は温度、湿度ともに制御されているため、このような湿度環境が安定した室内であれば、被検体を容器2に入れる必要はなく、オープンな状態で評価することが可能である。
【実施例】
【0059】
以下に本発明の実施例を具体的に説明する。但し、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0060】
本実施例は、図1に示した汚染度評価装置Aを用い、実際に液晶ガラス基板と半導体ウエハのそれぞれの基板1の表面1aの吸着水分量を測定し、基板表面1aの汚染度評価を行ったものである。
【0061】
はじめに、液晶ガラス基板1の評価について説明する。
本実施例では、0.7mmの厚さで形成した液晶ガラス基板1を用いるとともに、この液晶ガラス基板1の表面1aの吸着水分量の測定に、反射式の赤外線水分計5(株式会社フジワーク製IM−3SCV MODEL−1900)を用いた。また、液晶ガラス基板表面1aをエチルアルコールとヘキサンで交互に洗浄して清浄にし、この清浄な状態の液晶ガラス基板1を、容量が約2.3リットルの容器2の内部に収容して試験を行った。さらに、容器2内の温度を常時20〜21℃で保持し、試験開始前の段階では、湿度(相対湿度)が0.4〜0.5%の乾燥空気を1.0SLMの流量で供給し、容器2内の空気環境を乾燥状態にした。
【0062】
そして、本実施例では、容器2内に液晶ガラス基板1を収容してから、1日後、3日後、4日後、7日後、9日後にそれぞれ湿度操作を行い、湿度を約0.5%から約80%まで変化させて、赤外線水分計5の出力値(IM−D値(mV))の変化を測定した。このとき、乾燥空気製造装置4aで製造した乾燥空気と、乾燥空気の一部を湿度調整装置4bの純水インピンジャーに導入して作った高湿度空気を混合して、混合空気(湿度調整空気)を1.0SLMの流量で容器2内に供給し、湿度を約0.5%から約80%まで連続的に変化させるようにした。
【0063】
図9は、上記の条件で行った試験結果であり、湿度に対するIM−D値を示している。この結果から、液晶ガラス基板1では、全ての湿度条件において、洗浄後の経過日数とともにIM−D値が上昇することが確認された。つまり、いずれの湿度で測定した場合においても、IM−D値は経過日数に応じて上昇することが認められ、容器2内の液晶ガラス基板1の表面1aに、内部空気に含まれた汚染物質が吸着して、経時的に且つ継続的に汚染が進行することが確認された。
【0064】
ついで、図10は、湿度に対するIM−D値の変化量(△IM−D値)を示している。そして、この結果から、洗浄後の日数の経過とともに、IM−D値の変化量が減少することが確認された。特に7日後以降は、湿度の上昇に対する吸着水分量の変化が小さく、疎水性の汚染物質が液晶ガラス基板1の表面1aに吸着し、この疎水性の汚染物質の影響が強く出ている。
【0065】
これにより、本実施例において、液晶ガラス基板1の表面1aは、1日後と3日後の間から汚染が進行し始め、日数が経過するとともに汚染が徐々に進行してゆくことが、IM−D値、すなわち吸着水分量の測定によって確認できる。そして、日数が経過するとともにIM−D値の変化量が減少し、さらに直線性が崩れてゆくことから、液晶ガラス基板1には疎水性の汚染物質が吸着されて、表面性状が徐々に疎水性を強めるように変化することが確認できる。
【0066】
よって、赤外線水分計5を用いて液晶ガラス基板1の表面1aの吸着水分量を測定することができるとともに、このように吸着水分量を測定し、変化量や直線性の崩れを確認することで、汚染の進行を捉え、液晶ガラス基板1の表面汚染度の評価を行えることが実証された。
【0067】
ここで、9日後の測定終了した段階で、容器2から液晶ガラス基板1を取り出し、室内にてさらに9日間暴露、放置した。そして、この液晶ガラス基板1を9日間の暴露後(18日後)に乾燥空気を供給した容器2に戻し、その3日後(21日後)に再測定を行ってみた。
【0068】
この結果、図11に示すように、室内空気の暴露により、湿度に対するIM−D値の変化量の応答が回復することが確認された。しかしながら、湿度とIM−D値の変化量の関係においては、図10の3日後と同様の曲線的な関係が維持されていた。このような湿度に対するIM−D値の変化量の応答性の回復は、液晶ガラス基板1の表面1aの疎水性が回復したことを示唆している。一方で、直線関係からの変化の維持(曲線的な関係の維持)は、液晶ガラス基板1の表面1aに汚染物質が残存していることを示唆する。そして、このように、湿度とIM−D値の関係を詳細に調べることで、単に湿度に対するIM−D値の変化量の変化では捉えられない表面汚染の存在を把握することも可能になる。
【0069】
ついで、半導体ウエハ1の評価について説明する。
本実施例では、CZp型で、方位が100、厚さが625±25μmの半導体ウエハ1を用いた。また、湿度操作を2日後、6日後、8日後に行っており、その他の条件は、液晶ガラス基板1の評価と同様にして試験を行った。
【0070】
図12は、湿度(相対湿度)に対するIM−D値を示している。この結果から、半導体ウエハ1では、全ての湿度条件において、洗浄後の経過日数とともにIM−D値が上昇することが確認された。つまり、いずれの湿度で測定した場合においても、IM−D値は経過日数に応じて上昇することが認められ、容器2内の半導体ウエハ1の表面1aの汚染は、経時的に且つ継続的に進行することが確認された。また、2日後に対して6日後と8日後では低湿度域でIM−D値の応答が低下した。
【0071】
ついで、図13は、湿度に対するIM−D値の変化量(△IM−D値)を示している。そして、この結果から、洗浄後の日数の経過とともに、IM−D値の変化量が減少することが確認された。特に6日後以降は、湿度の上昇に対する吸着水分量の変化が小さく、疎水性の汚染物質が液晶ガラス基板の表面に吸着し、この疎水性の汚染物質の影響が強くでている。また、2日後では、湿度とIM−D値の変化量の関係がほぼ直線的な関係を示しているのに対し、6日後以降では、その直線性が崩れている。
【0072】
よって、半導体ウエハ1に対しても、吸着水分量を測定し、変化量や直線性の崩れを確認することで、汚染の進行を捉え、表面汚染度の評価を行えることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施形態に係る表面汚染度評価装置を示す図である。
【図2】湿度を一定にした状態における清浄な表面と親水性の汚染物質が吸着した表面の吸着水分量の違いを示す図である。
【図3】湿度を一定にした状態における清浄な表面と疎水性の汚染物質が吸着した表面の吸着水分量の違いを示す図である。
【図4】湿度を一定にした状態における清浄な表面と親水性の汚染物質が吸着した表面の見かけの吸着水分量の違いを示す図である。
【図5】湿度を一定にした状態における清浄な表面と疎水性の汚染物質が吸着した表面の見かけの吸着水分量の違いを示す図である。
【図6】清浄な表面と親水性の汚染物質が吸着した表面における湿度と吸着水分量の関係の傾きの違いを示す図である。
【図7】清浄な表面と疎水性の汚染物質が吸着した表面における湿度と吸着水分量の関係の傾きの違いを示す図である。
【図8】汚染の進行に伴う湿度と吸着水分量の関係の変化を示す図である。
【図9】実施例の液晶ガラス基板を用いた評価試験の結果を示した図であり、湿度に対するIM−D値を示す図である。
【図10】実施例の液晶ガラス基板を用いた評価試験の結果を示した図であり、湿度に対するIM−D値の変化量を示す図である。
【図11】実施例の液晶ガラス基板を用いた評価試験の結果を示した図であり、洗浄21日後の湿度に対するIM−D値の変化量を示す図である。
【図12】実施例の半導体ウエハを用いた評価試験の結果を示した図であり、湿度に対するIM−D値を示す図である。
【図13】実施例の半導体ウエハを用いた評価試験の結果を示した図であり、湿度に対するIM−D値の変化量を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 被検体(基板、液晶ガラス基板、半導体ウエハ)
1a 表面
2 容器
2a 給気口
2b 排気口
2c 反射板
3 湿度計
3a 湿度センサ
4 湿度調整手段
4a 乾燥空気製造装置
4b 湿度調整装置
5 赤外線水分計(水分計)
5a 光ファイバケーブル
6 処理装置
A 表面汚染度評価装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の清浄度を保持することが求められる例えば半導体ウエハやガラス基板などの被検体に対し、空気中の汚染物質が吸着することによる被検体の表面の汚染度を評価するための表面汚染度評価方法及び表面汚染度評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子や液晶ディスプレイなどを製造する際に、クリーンルームや保管庫の空気中の化学物質等(汚染物質)が半導体ウエハやガラス基板(基板、被検体)の表面に吸着し、リーク電流の増大や絶縁耐圧の低下など電気的特性に悪影響を及ぼすことが知られている。このため、半導体素子や液晶ディスプレイなどの製造プロセスでは、製品不良発生による歩留まりの低下や製品の信頼性の低下を阻止するために、基板表面の汚染度評価を行っている。
【0003】
そして、この基板表面の汚染度を評価する際には、昇温脱離ガス分析法(TDS)、表面洗浄法、拭き取り法などが用いられている。
【0004】
昇温脱離ガス分析法は、密閉容器内に基板を収容するとともに昇温して基板表面に吸着した汚染物質を脱離させ、脱離ガス中の汚染物質をガスクロマトグラフ(GC)や質量分析装置(マススペクトル装置(MS))で同定、定量することによって、基板表面の汚染度評価を行う方法である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
表面洗浄法は、基板表面を有機溶媒や純水で洗浄し、洗浄液中の汚染物質をGCやMS、イオンクロマトグラフ(IC)で同定、定量することによって、基板表面の汚染度評価を行う方法である。
【0006】
また、拭き取り法は、基板表面を不織布や石英ウールなどで拭き取った後、有機溶媒で不織布や石英ウールなどから汚染物質を溶出させ、溶出液中の汚染物質をGCやMS、ICで同定、定量することによって、基板表面の汚染度評価を行う方法である。
【0007】
このように、これらの汚染度評価方法は、いずれもGCやMSなどの高価な分析装置を必要とする。また、他の汚染度評価方法として、フーリエ変換型赤外分光装置(FT−IR)などを用いた光学的な方法や、二次イオン質量分析法(SIMS)を用いた方法の開発も進められているが、やはり高価な装置が必要になる。
【0008】
一方、基板表面に純水などの液滴を滴下し、液滴の接触角を測定することによって、基板表面の汚染度評価を行う方法がある(例えば、特許文献2参照)。この汚染度評価方法は、拡大鏡などを用いて液滴を拡大し、基板表面の汚染物質の吸着量が増加するに従って変化する液滴の接触角を液滴の拡大像から測定することによって、基板表面の汚染度を評価する方法である。このため、GCやMSなどの高価な装置を用いることなく、簡便に基板表面の汚染度を評価することが可能である。
【特許文献1】特開2006−337031号公報
【特許文献2】特開平8−338822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の液滴の接触角を測定する方法においては、例えば表面に吸着した汚染物質の性質、すなわち汚染物質が親水性か、疎水性か、さらに親水性の汚染物質と疎水性の汚染物質の割合などによって接触角が変わってしまう。このため、正確に基板表面の汚染度を評価することが難しいという問題があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、吸着した汚染物質の性質などによって被検体の表面性状が変化する場合においても、表面汚染度を評価することが可能な表面汚染度評価方法及び表面汚染度評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0012】
本発明の表面汚染度評価方法は、所定の清浄度を保持することが求められる被検体に対し、空気中の汚染物質が吸着することによる前記被検体の表面の汚染度を評価する表面汚染度評価方法であって、前記空気中の水蒸気が吸着することによる前記表面の吸着水分量を測定し、該吸着水分量に基づいて前記表面の汚染度を評価することを特徴とする。
【0013】
この発明においては、被検体の表面に汚染物質が吸着すると、表面の物理化学的性質(表面性状)が変化し、表面の吸着水分量が汚染物質の吸着量に応じて変化するため、この表面の吸着水分量を測定することで、表面の汚染度を評価することが可能になる。すなわち、清浄な状態の表面に吸着する吸着水分量に対し、親水性の汚染物質が吸着した場合には吸着水分量が増加し、疎水性の汚染物質が吸着した場合には吸着水分量が減少する。このため、被検体の表面に吸着した汚染物質によって表面性状が変化した場合においても、表面の吸着水分量を測定し、この吸着水分量の変化量(増減量)に基づいて、汚染の進行状況を確認することが可能になり、従来の液滴の接触角を測定する方法に対し比較的正確に表面の汚染度を評価することが可能になる。
【0014】
また、本発明の表面汚染度評価方法においては、前記空気の湿度を一定にして前記表面の吸着水分量を測定し、基準の被検体の表面に吸着した吸着水分量との差に基づいて前記被検体の表面の汚染度を評価することが望ましい。
【0015】
この発明においては、空気の湿度を一定にした状態で、この湿度に応じて被検体の表面に吸着する吸着水分量を測定し、基準の被検体の吸着水分量と、汚染度の評価を行う被検体の吸着水分量との差(変化量)を確認することによって、確実に汚染の進行状況を捉えて表面の汚染度を評価することが可能になる。
【0016】
さらに、本発明の表面汚染度評価方法においては、前記空気の湿度を変化させ、複数の湿度条件で前記表面の吸着水分量を測定して前記湿度の変化量に対する前記吸着水分量の変化量の割合を求め、基準の被検体の前記湿度の変化量に対する前記吸着水分量の変化量の割合との差に基づいて前記被検体の表面の汚染度を評価することがより望ましい。
【0017】
この発明においては、複数の湿度条件で表面の吸着水分量を測定し、基準の被検体の湿度の変化量に対する吸着水分量の変化量の割合と、汚染度の評価を行う被検体の前記割合との差(変化量)を確認することによって、より正確に汚染の進行状況を捉えて表面の汚染度を評価することが可能になる。
【0018】
すなわち、表面が清浄な状態である場合や表面に吸着した汚染物質の吸着量が少ない場合には、湿度を変化させると表面に吸着する吸着水分量が変化する。このとき、湿度が高くなると吸着水分量も増加する単調増加の関係があり、異なる湿度条件における吸着水分量を測定することで湿度の変化量に対する吸着水分量の変化量の割合が得られる。そして、この湿度に対する吸着水分量の変化の割合は、汚染の進行により変化するので、この割合を確認することによって、汚染の進行状況を捉えて表面の汚染度を評価することが可能になる。また、このように複数の湿度条件で吸着水分量を測定し、吸着水分量の変化量の割合に基づいて汚染度を評価する場合には、一つの湿度条件で吸着水分量を測定し、この一つの湿度条件における吸着水分量の変化量に基づいて汚染度を評価する場合と比較し、より正確に表面の汚染度を評価することが可能になる。
【0019】
また、本発明の表面汚染度評価方法においては、前記空気の湿度を変化させ、複数の湿度条件で前記表面の吸着水分量を測定して前記湿度と前記吸着水分量の関係を求め、該関係が直線的な関係となる基準の被検体に対し、該関係からの変化を捉えて前記被検体の表面の汚染度を評価することがさらに望ましい。
【0020】
この発明においては、複数の湿度条件で表面の吸着水分量を測定し、基準の被検体の湿度と吸着水分量の直線的な関係が崩れることを確認することで、汚染の進行状況を捉えて表面の汚染度を評価することが可能になる。
【0021】
すなわち、表面に吸着した汚染物質の吸着量が多くなるに従い(汚染の進行に従い)、湿度と吸着水分量の直線的な関係(直線性)が崩れ、湿度と吸着水分量の関係が曲線的な関係に変化する。このため、この直線性からの変化を捉えることによって(直線的な関係が成立しなくなることを捉えることによって)、さらに直線的な関係の吸着水分量に対する吸着水分量の変化量を確認することで、確実に汚染の進行状況を捉え、被検体の表面の汚染度を評価することが可能になる。
【0022】
さらに、本発明の表面汚染度評価方法においては、赤外線水分計を用いて前記吸着水分量を測定することが望ましい。
【0023】
この発明においては、ガスクロマトグラフ(GC)や質量分析装置(MS)などの高価な装置ではなく、比較的安価で取扱いが容易な赤外線水分計を用いて表面の汚染度を評価することが可能になる。
【0024】
また、このように赤外線水分計を用いる場合には、水分に吸収される例えば1.92〜1.95μmの特定吸収波長で吸着水分量を測定することができる。そして、この特定吸収波長は、例えば半導体素子や液晶ディスプレイなどを製造する際に、クリーンルームや保管庫の空気中に存在するアルコール類やヒドロキシカルボン酸などの有機化合物(汚染物質)の水酸基(OH)、アミノ基(NH2)の特定吸収波長と近い。このため、被検体の表面の吸着水分量を測定した際には、実際の吸着水分量に、表面に吸着した汚染物質の水酸基やアミノ基を合わせた見かけの吸着水分量として測定され得る。これにより、吸着水分量だけを検出する場合よりも吸着した汚染物質に関する情報を含んだ測定結果が得られるため、この見かけの吸着水分量によって汚染状況をより詳細に評価することも可能になる。
【0025】
本発明の表面汚染度評価装置は、所定の清浄度を保持することが求められる被検体に対し、空気中の汚染物質が吸着することによる前記被検体の表面の汚染度を評価するための表面汚染度評価装置であって、前記被検体を収容する容器と、該容器内の湿度を調整する湿度調整手段と、前記容器に収容した前記被検体の表面の吸着水分量を測定する水分計とを備えて構成されていることを特徴とする。
【0026】
この発明においては、上記の本発明の表面汚染度評価方法と同様の効果を得ることが可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明の表面汚染度評価方法及び表面汚染度評価装置によれば、従来の液滴の接触角を測定する方法と比較し、被検体の表面に吸着した汚染物質によって表面性状が変化した場合においても、表面性状の変化に応じて表面に吸着する吸着水分量を測定し、この吸着水分量の変化量(増減量)を捉えることで、汚染の進行状況を確認することが可能になり、表面の汚染度を評価することが可能になる。
【0028】
また、このように表面の吸着水分量を測定して表面の汚染度を評価できることにより、ガスクロマトグラフ(GC)や質量分析装置(MS)などの高価な装置を用いる必要がなく、簡便に表面の汚染度を評価することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図1から図5を参照し、本発明の第1実施形態に係る表面汚染度評価方法及び表面汚染度評価装置について説明する。本実施形態では、所定の清浄度を保持することが求められる半導体ウエハや液晶ディスプレイのガラス基板の基板(被検体)表面の汚染度を評価するものとして説明を行う。
【0030】
本実施形態の表面汚染度評価装置Aは、図1に示すように、基板(被検体)1を収容する容器2と、容器2内に湿度センサ3aを配置して容器2内の湿度を計測する湿度計3と、容器2内の湿度(相対湿度)を調整する湿度調整手段4と、容器2に収容した基板1の表面1aに吸着された吸着水分量を測定する赤外線水分計(水分計)5と、湿度計3及び赤外線水分計5の測定値を記録して処理するパソコンなどの処理装置6とを備えて構成されている。
【0031】
容器2には、湿度調整手段4が繋がり、この湿度調整手段4から送気された湿度調整空気を内部に取り込むための給気口2aと、内部空気を外部に排出するための排気口2bとを備えて形成されている。また、容器2内に収容した基板1がその表面1aを上方に向けて載置される反射板2cが内部に設けられている。
【0032】
湿度調整手段4は、乾燥空気製造装置4aと湿度調整装置4bとを備え、乾燥空気製造装置4aで製造した乾燥空気を湿度調整装置4bに送気し、この湿度調整装置4bで所望の湿度に調整した湿度調整空気を給気口2aから容器2内に供給するように構成されている。
【0033】
赤外線水分計5は、光ファイバケーブル5aが外側から容器2の内部に延設され、この光ファイバケーブル5aの先端から基板1の表面1aに赤外線を照射するように設けられている。また、この赤外線水分計5は、水分に吸収されやすい例えば1.92〜1.95μmの波長の水分吸収波長光と、水分の影響を受けにくい例えば1.80μmの波長と例えば2.10μmの波長の参照波長光とをそれぞれ交互に基板1の表面1aに照射し、これらの反射光を受光して、含水率に対応した水分計出力値(IM−D値(mV))を処理装置6に出力する。そして、処理装置6によってIM−D値から基板1の表面1aの吸着水分量が算出される。ちなみに、参照波長光は、基板1の表面1aの色調などの影響を除いて安定した測定を行うために照射される。
【0034】
ついで、上記構成からなる表面汚染度評価装置Aを用いて基板1の表面1aの汚染度を評価する方法について説明するとともに、本実施形態の表面汚染度評価方法及び表面汚染度評価装置Aの作用及び効果について説明する。
【0035】
本実施形態においては、表面汚染度評価装置Aの容器2の内部空気(空気)の湿度を湿度調整手段4によって一定に保持する。これにより、この一定の湿度条件に応じて内部空気中の水蒸気が反射板2c上に設置した基板1の表面1aに吸着し、この基板1の表面1aに吸着する吸着水分量を赤外線水分計5によって測定する。
【0036】
このとき、清浄な状態の基板(基準の被検体)1の表面1aに吸着する吸着水分量に対し、基板1の表面1aに汚染物質が吸着した場合には、汚染物質の吸着量に応じて表面性状が変化し、湿度を一定に保持した場合においてもこの基板1の表面1aに吸着する吸着水分量が増減する。
【0037】
すなわち、親水性の汚染物質が吸着し、表面性状が親水性になった場合には、図2に示すように、清浄な状態の表面(清浄面)1aに吸着する吸着水分量に対して吸着水分量が増加し、疎水性の汚染物質が吸着して表面性状が疎水性になった場合には、図3に示すように、清浄面1aに吸着する吸着水分量に対して吸着水分量が減少する。また、このような吸着水分量の増減量(変化量)は、基板1の表面1aに吸着する汚染物質の吸着量などに応じて変化する。
【0038】
このため、湿度を一定にした状態で、この湿度に応じて基板表面1aに吸着する吸着水分量を測定し、清浄な状態の基板の表面1aに吸着した吸着水分量と、汚染度の評価を行う基板1の表面1aに吸着した吸着水分量との差(変化量)を確認することで、表面1aの汚染度を評価することが可能になる。
【0039】
また、半導体素子や液晶ディスプレイを製造する際には、半導体ウエハや液晶ガラス基板(基板1)が多くの製造工程を経て完成品に至る。そして、各製造工程を行うクリーンルームや、一時的に基板1を保管する保管庫(ストッカー)の空気中の化学物質等(汚染物質)が基板1の表面1aに吸着し、基板1の表面1aが汚染される。
【0040】
このため、清浄な状態の基板1の表面1aに吸着する吸着水分量を測定し、製造工程を経た段階で(例えば各製造工程の完了後毎に)、同一基板1の表面に吸着する吸着水分量を測定して、清浄な状態の基板表面1aの吸着水分量と製造工程後の基板表面1aの吸着水分量との差(変化量)、あるいは前工程における基板(基準の被検体)表面1aの吸着水分量と後工程における基板(被検体)表面1aの吸着水分量との差(変化量)を確認することで、汚染の進行状況を確認することが可能になる。
【0041】
したがって、本実施形態の表面汚染度評価方法及び表面汚染度評価装置Aにおいては、基板1の表面1aに吸着した汚染物質によって表面性状が変化した場合においても、空気の湿度を一定にした状態で、この湿度に応じて基板1の表面1aに吸着する吸着水分量を測定し、基準の基板1の吸着水分量と、汚染度の評価を行う基板1の吸着水分量との差を確認することによって(吸着水分量の変化量に基づいて)、確実に汚染の進行状況を捉えて、従来の液滴の接触角を測定する方法に対し比較的正確に表面1aの汚染度を評価することが可能になる。
【0042】
さらに、比較的安価で取扱いが容易な赤外線水分計5を用いて表面1aの汚染度を評価することが可能になるため、ガスクロマトグラフ(GC)や質量分析装置(MS)などの高価な装置を用いる必要がなく、簡便に表面1aの汚染度を評価することが可能になる。
【0043】
ここで、このように赤外線水分計5を用いる場合には、水分に吸収される例えば1.92〜1.95μmの特定吸収波長で吸着水分量を測定することができる。そして、この特定吸収波長は、半導体素子や液晶ディスプレイなどを製造する際に、クリーンルームや保管庫の空気中に存在するアルコール類やヒドロキシカルボン酸などの有機化合物(汚染物質)の水酸基(OH)、アミノ基(NH2)の特定吸収波長と近い。このため、基板1の表面1aの吸着水分量を測定した際には、図4(親水性の汚染物質が表面1aに吸着した場合)及び図5(疎水性の汚染物質が表面1aに吸着した場合)に示すように、実際の吸着水分量に、表面1aに吸着した汚染物質の水酸基やアミノ基を合わせた見かけの吸着水分量として測定され得る。これにより、吸着水分量だけを検出する場合よりも吸着した汚染物質に関する情報を含んだ測定結果が得られる。そして、半導体素子や液晶ディスプレイを製造するクリーンルームや保管庫のように空気中の汚染物質の種類、濃度などが既知である場合には、一定湿度条件における表面1aに吸着する吸着水分量と汚染物質の吸着量の関係を予め求めておくことで、このような見掛けの吸着水分量から汚染状況をより詳細に評価することも可能になる。
【0044】
ついで、図6及び図7を参照し、本発明の第2実施形態に係る表面汚染度評価方法について説明する。本実施形態では、第1実施形態と同様に、表面汚染度評価装置Aを用いて、所定の清浄度を保持することが求められる半導体ウエハや液晶ディスプレイのガラス基板の基板(被検体)表面の汚染度を評価するものとして説明を行う。
【0045】
ここで、第1実施形態のように、湿度を一定にした状態で測定した基準の基板1の吸着水分量と、汚染度の評価を行う基板1の吸着水分量との差を確認して表面1aの汚染度を評価する場合には、基板の設置状態や赤外線水分計の例えば電圧などの変化で測定値(IM−D値、吸着水分量)全体が上下にシフトしたり、赤外線水分計の特性上時間とともにベースラインが変動するなどして、誤差が生じる場合がある。
【0046】
これに対し、本実施形態の表面汚染度評価方法では、表面汚染度評価装置Aの容器2の内部空気(空気)の湿度を湿度調整手段4によって変化させ、複数の湿度条件で基板1の表面1aに吸着する吸着水分量を測定する。
【0047】
そして、表面1aが清浄な状態である場合や、表面1aに吸着した汚染物質の吸着量が少ない場合には、湿度を変化させると表面1aに吸着する吸着水分量が変化し、このとき、湿度と吸着水分量の関係を直線回帰して求めることができる。すなわち、表面1aが清浄な状態である場合や、汚染物質の吸着量が少ない場合には、湿度と吸着水分量の関係が直線的な関係となる。
【0048】
そして、親水性の汚染物質が吸着し、表面性状が親水性になった場合には、図6に示すように、表面1aが清浄な状態の基板(基準の被検体)1の湿度の変化量に対する吸着水分量の変化量の割合、すなわち表面1aが清浄な状態の基板1の湿度と吸着水分量の直線的な関係の傾きに対し、この汚染物質が吸着した基板1の湿度と吸着水分量の関係の傾きが大きくなる。
【0049】
また、疎水性の汚染物質が吸着し、表面性状が疎水性になった場合には、図7に示すように、表面1aが清浄な状態の基板1の湿度と吸着水分量の直線的な関係の傾きに対し、この汚染物質が吸着した基板1の湿度と吸着水分量の関係の傾きが小さくなる。
【0050】
このため、汚染の進行に応じて変化する湿度の変化量に対する吸着水分量の変化量の割合(傾き)の変化量を確認することによって、汚染の進行状況を捉えて表面1aの汚染度を評価することが可能になる。また、このように複数の湿度条件で吸着水分量を測定して傾きの変化量に基づいて汚染度を評価することで、一つの湿度条件で吸着水分量を測定し、この一つの湿度条件における吸着水分量の変化量に基づいて汚染度を評価する場合に生じる誤差を抑制することができ、より正確に表面1aの汚染度を評価することが可能になる。また、経時的に傾きの変化量を確認することで、汚染の進行状況を確認することが可能になる。なお、本実施形態においては、傾きの変化量を確認する方法であるため、少なくとも2つの湿度条件で測定を行うことにより、評価を行うことが可能である。
【0051】
ついで、図8を参照し、本発明の第3実施形態に係る表面汚染度評価方法について説明する。
【0052】
本実施形態は、第2実施形態と同様に、表面汚染度評価装置Aの容器2の内部空気の湿度を湿度調整手段4によって変化させ、複数の湿度条件で基板1の表面1aに吸着する吸着水分量を測定する。
【0053】
そして、湿度と吸着水分量の関係を求める。このとき、第2実施形態のように測定する湿度条件が2条件ではなく、3条件以上にすることで、湿度変化に対する吸着水分量の変化が直線性の高いものであるかどうか、また直線性からのずれを把握することができる。
【0054】
例えば、図8に示すように、表面1aの汚染の進行に従い、湿度と吸着水分量の関係性(直線性、あるいは直線性からのずれ)が変化する。
【0055】
したがって、本実施形態の表面汚染度評価方法においては、この湿度と吸着水分量の関係が、直線性から変化することを捉えることによって(比例関係が成立しなくなることを捉えることによって)、さらに直線的な関係の吸着水分量に対する吸着水分量の変化量を確認することで、汚染の進行状況を捉え、基板1の表面1aの汚染度を評価することが可能になる。また、経時的に直線性からの変化量を捉えることで、確実に汚染の進行状況を確認することが可能になる。なお、本実施形態においては、直線的な関係からの変化を捉える方法であるため、3つ以上の湿度条件で測定することが望ましい。
【0056】
以上、本発明に係る表面汚染度評価方法及び表面汚染度評価装置の第1、第2及び第3実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、第1〜第3本実施形態では、表面汚染度評価装置Aの水分計が赤外線水分計5であるものとし、この赤外線水分計5で表面1aに吸着する吸着水分量を測定するものとしたが、本発明に係る水分計は、吸着水分量を測定することが可能であれば、赤外線水分計5に限定する必要はない。
【0057】
また、第1〜第3実施形態では、本発明に係る被検体が半導体ウエハやガラス基板などの基板1であるものとして説明を行ったが、本発明は、基板表面1aの汚染度評価への適用に限定されるものではなく、所定の清浄度を保持することが求められる全ての被検体に適用することが可能である。
【0058】
さらに、第1〜第3実施形態では、表面汚染度評価装置Aの容器2内に基板(被検体)1を収容して、この基板表面1aの汚染度を評価するものとしたが、例えば半導体素子や液晶ディスプレイを製造する空間(クリーンルーム内や製造装置内)は温度、湿度ともに制御されているため、このような湿度環境が安定した室内であれば、被検体を容器2に入れる必要はなく、オープンな状態で評価することが可能である。
【実施例】
【0059】
以下に本発明の実施例を具体的に説明する。但し、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0060】
本実施例は、図1に示した汚染度評価装置Aを用い、実際に液晶ガラス基板と半導体ウエハのそれぞれの基板1の表面1aの吸着水分量を測定し、基板表面1aの汚染度評価を行ったものである。
【0061】
はじめに、液晶ガラス基板1の評価について説明する。
本実施例では、0.7mmの厚さで形成した液晶ガラス基板1を用いるとともに、この液晶ガラス基板1の表面1aの吸着水分量の測定に、反射式の赤外線水分計5(株式会社フジワーク製IM−3SCV MODEL−1900)を用いた。また、液晶ガラス基板表面1aをエチルアルコールとヘキサンで交互に洗浄して清浄にし、この清浄な状態の液晶ガラス基板1を、容量が約2.3リットルの容器2の内部に収容して試験を行った。さらに、容器2内の温度を常時20〜21℃で保持し、試験開始前の段階では、湿度(相対湿度)が0.4〜0.5%の乾燥空気を1.0SLMの流量で供給し、容器2内の空気環境を乾燥状態にした。
【0062】
そして、本実施例では、容器2内に液晶ガラス基板1を収容してから、1日後、3日後、4日後、7日後、9日後にそれぞれ湿度操作を行い、湿度を約0.5%から約80%まで変化させて、赤外線水分計5の出力値(IM−D値(mV))の変化を測定した。このとき、乾燥空気製造装置4aで製造した乾燥空気と、乾燥空気の一部を湿度調整装置4bの純水インピンジャーに導入して作った高湿度空気を混合して、混合空気(湿度調整空気)を1.0SLMの流量で容器2内に供給し、湿度を約0.5%から約80%まで連続的に変化させるようにした。
【0063】
図9は、上記の条件で行った試験結果であり、湿度に対するIM−D値を示している。この結果から、液晶ガラス基板1では、全ての湿度条件において、洗浄後の経過日数とともにIM−D値が上昇することが確認された。つまり、いずれの湿度で測定した場合においても、IM−D値は経過日数に応じて上昇することが認められ、容器2内の液晶ガラス基板1の表面1aに、内部空気に含まれた汚染物質が吸着して、経時的に且つ継続的に汚染が進行することが確認された。
【0064】
ついで、図10は、湿度に対するIM−D値の変化量(△IM−D値)を示している。そして、この結果から、洗浄後の日数の経過とともに、IM−D値の変化量が減少することが確認された。特に7日後以降は、湿度の上昇に対する吸着水分量の変化が小さく、疎水性の汚染物質が液晶ガラス基板1の表面1aに吸着し、この疎水性の汚染物質の影響が強く出ている。
【0065】
これにより、本実施例において、液晶ガラス基板1の表面1aは、1日後と3日後の間から汚染が進行し始め、日数が経過するとともに汚染が徐々に進行してゆくことが、IM−D値、すなわち吸着水分量の測定によって確認できる。そして、日数が経過するとともにIM−D値の変化量が減少し、さらに直線性が崩れてゆくことから、液晶ガラス基板1には疎水性の汚染物質が吸着されて、表面性状が徐々に疎水性を強めるように変化することが確認できる。
【0066】
よって、赤外線水分計5を用いて液晶ガラス基板1の表面1aの吸着水分量を測定することができるとともに、このように吸着水分量を測定し、変化量や直線性の崩れを確認することで、汚染の進行を捉え、液晶ガラス基板1の表面汚染度の評価を行えることが実証された。
【0067】
ここで、9日後の測定終了した段階で、容器2から液晶ガラス基板1を取り出し、室内にてさらに9日間暴露、放置した。そして、この液晶ガラス基板1を9日間の暴露後(18日後)に乾燥空気を供給した容器2に戻し、その3日後(21日後)に再測定を行ってみた。
【0068】
この結果、図11に示すように、室内空気の暴露により、湿度に対するIM−D値の変化量の応答が回復することが確認された。しかしながら、湿度とIM−D値の変化量の関係においては、図10の3日後と同様の曲線的な関係が維持されていた。このような湿度に対するIM−D値の変化量の応答性の回復は、液晶ガラス基板1の表面1aの疎水性が回復したことを示唆している。一方で、直線関係からの変化の維持(曲線的な関係の維持)は、液晶ガラス基板1の表面1aに汚染物質が残存していることを示唆する。そして、このように、湿度とIM−D値の関係を詳細に調べることで、単に湿度に対するIM−D値の変化量の変化では捉えられない表面汚染の存在を把握することも可能になる。
【0069】
ついで、半導体ウエハ1の評価について説明する。
本実施例では、CZp型で、方位が100、厚さが625±25μmの半導体ウエハ1を用いた。また、湿度操作を2日後、6日後、8日後に行っており、その他の条件は、液晶ガラス基板1の評価と同様にして試験を行った。
【0070】
図12は、湿度(相対湿度)に対するIM−D値を示している。この結果から、半導体ウエハ1では、全ての湿度条件において、洗浄後の経過日数とともにIM−D値が上昇することが確認された。つまり、いずれの湿度で測定した場合においても、IM−D値は経過日数に応じて上昇することが認められ、容器2内の半導体ウエハ1の表面1aの汚染は、経時的に且つ継続的に進行することが確認された。また、2日後に対して6日後と8日後では低湿度域でIM−D値の応答が低下した。
【0071】
ついで、図13は、湿度に対するIM−D値の変化量(△IM−D値)を示している。そして、この結果から、洗浄後の日数の経過とともに、IM−D値の変化量が減少することが確認された。特に6日後以降は、湿度の上昇に対する吸着水分量の変化が小さく、疎水性の汚染物質が液晶ガラス基板の表面に吸着し、この疎水性の汚染物質の影響が強くでている。また、2日後では、湿度とIM−D値の変化量の関係がほぼ直線的な関係を示しているのに対し、6日後以降では、その直線性が崩れている。
【0072】
よって、半導体ウエハ1に対しても、吸着水分量を測定し、変化量や直線性の崩れを確認することで、汚染の進行を捉え、表面汚染度の評価を行えることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施形態に係る表面汚染度評価装置を示す図である。
【図2】湿度を一定にした状態における清浄な表面と親水性の汚染物質が吸着した表面の吸着水分量の違いを示す図である。
【図3】湿度を一定にした状態における清浄な表面と疎水性の汚染物質が吸着した表面の吸着水分量の違いを示す図である。
【図4】湿度を一定にした状態における清浄な表面と親水性の汚染物質が吸着した表面の見かけの吸着水分量の違いを示す図である。
【図5】湿度を一定にした状態における清浄な表面と疎水性の汚染物質が吸着した表面の見かけの吸着水分量の違いを示す図である。
【図6】清浄な表面と親水性の汚染物質が吸着した表面における湿度と吸着水分量の関係の傾きの違いを示す図である。
【図7】清浄な表面と疎水性の汚染物質が吸着した表面における湿度と吸着水分量の関係の傾きの違いを示す図である。
【図8】汚染の進行に伴う湿度と吸着水分量の関係の変化を示す図である。
【図9】実施例の液晶ガラス基板を用いた評価試験の結果を示した図であり、湿度に対するIM−D値を示す図である。
【図10】実施例の液晶ガラス基板を用いた評価試験の結果を示した図であり、湿度に対するIM−D値の変化量を示す図である。
【図11】実施例の液晶ガラス基板を用いた評価試験の結果を示した図であり、洗浄21日後の湿度に対するIM−D値の変化量を示す図である。
【図12】実施例の半導体ウエハを用いた評価試験の結果を示した図であり、湿度に対するIM−D値を示す図である。
【図13】実施例の半導体ウエハを用いた評価試験の結果を示した図であり、湿度に対するIM−D値の変化量を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 被検体(基板、液晶ガラス基板、半導体ウエハ)
1a 表面
2 容器
2a 給気口
2b 排気口
2c 反射板
3 湿度計
3a 湿度センサ
4 湿度調整手段
4a 乾燥空気製造装置
4b 湿度調整装置
5 赤外線水分計(水分計)
5a 光ファイバケーブル
6 処理装置
A 表面汚染度評価装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の清浄度を保持することが求められる被検体に対し、空気中の汚染物質が吸着することによる前記被検体の表面の汚染度を評価する表面汚染度評価方法であって、
前記空気中の水蒸気が吸着することによる前記表面の吸着水分量を測定し、該吸着水分量に基づいて前記表面の汚染度を評価することを特徴とする表面汚染度評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の表面汚染度評価方法において、
前記空気の湿度を一定にして前記表面の吸着水分量を測定し、基準の被検体の表面に吸着した吸着水分量との差に基づいて前記被検体の表面の汚染度を評価することを特徴とする表面汚染度評価方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の表面汚染度評価方法において、
前記空気の湿度を変化させ、複数の湿度条件で前記表面の吸着水分量を測定して前記湿度の変化量に対する前記吸着水分量の変化量の割合を求め、基準の被検体の前記湿度の変化量に対する前記吸着水分量の変化量の割合との差に基づいて前記被検体の表面の汚染度を評価することを特徴とする表面汚染度評価方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の表面汚染度評価方法において、
前記空気の湿度を変化させ、複数の湿度条件で前記表面の吸着水分量を測定して前記湿度と前記吸着水分量の関係を求め、該関係が直線的な関係となる基準の被検体に対し、該関係からの変化を捉えて前記被検体の表面の汚染度を評価することを特徴とする表面汚染度評価方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の表面汚染度評価方法において、
赤外線水分計を用いて前記吸着水分量を測定することを特徴とする表面汚染度評価方法。
【請求項6】
所定の清浄度を保持することが求められる被検体に対し、空気中の汚染物質が吸着することによる前記被検体の表面の汚染度を評価するための表面汚染度評価装置であって、
前記被検体を収容する容器と、該容器内の湿度を調整する湿度調整手段と、前記容器に収容した前記被検体の表面の吸着水分量を測定する水分計とを備えて構成されていることを特徴とする表面汚染度評価装置。
【請求項1】
所定の清浄度を保持することが求められる被検体に対し、空気中の汚染物質が吸着することによる前記被検体の表面の汚染度を評価する表面汚染度評価方法であって、
前記空気中の水蒸気が吸着することによる前記表面の吸着水分量を測定し、該吸着水分量に基づいて前記表面の汚染度を評価することを特徴とする表面汚染度評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の表面汚染度評価方法において、
前記空気の湿度を一定にして前記表面の吸着水分量を測定し、基準の被検体の表面に吸着した吸着水分量との差に基づいて前記被検体の表面の汚染度を評価することを特徴とする表面汚染度評価方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の表面汚染度評価方法において、
前記空気の湿度を変化させ、複数の湿度条件で前記表面の吸着水分量を測定して前記湿度の変化量に対する前記吸着水分量の変化量の割合を求め、基準の被検体の前記湿度の変化量に対する前記吸着水分量の変化量の割合との差に基づいて前記被検体の表面の汚染度を評価することを特徴とする表面汚染度評価方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の表面汚染度評価方法において、
前記空気の湿度を変化させ、複数の湿度条件で前記表面の吸着水分量を測定して前記湿度と前記吸着水分量の関係を求め、該関係が直線的な関係となる基準の被検体に対し、該関係からの変化を捉えて前記被検体の表面の汚染度を評価することを特徴とする表面汚染度評価方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の表面汚染度評価方法において、
赤外線水分計を用いて前記吸着水分量を測定することを特徴とする表面汚染度評価方法。
【請求項6】
所定の清浄度を保持することが求められる被検体に対し、空気中の汚染物質が吸着することによる前記被検体の表面の汚染度を評価するための表面汚染度評価装置であって、
前記被検体を収容する容器と、該容器内の湿度を調整する湿度調整手段と、前記容器に収容した前記被検体の表面の吸着水分量を測定する水分計とを備えて構成されていることを特徴とする表面汚染度評価装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−162609(P2009−162609A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−429(P2008−429)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年7月31日 社団法人 日本建築学会発行の「2007年度大会(九州)学術講演梗概集 D−2分冊」に発表
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年7月31日 社団法人 日本建築学会発行の「2007年度大会(九州)学術講演梗概集 D−2分冊」に発表
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
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