説明

表面筋電位センサ

【課題】誰にでも簡単に装着できて、繰り返し使用可能な表面筋電位センサを提供する。
【解決手段】乾式の受動電極からなる筋電位検出電極2と、筋電位検出電極2で検出された筋電位を増幅する増幅回路3とを有する表面筋電位センサ1であって、筋電位検出電極2と増幅回路3とを同軸ケーブル4で接続し、かつ同軸ケーブル4の外部導体5をボディアース配線6としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋肉が収縮する際に発生する筋電位を皮膚表面から検出する表面筋電位センサに係り、特に筋電位検出電極と増幅回路との間の接続を改良した表面筋電位センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
筋肉の活動は、図6に示すように、脊髄60の中にあるα運動ニューロン61から始まる。α運動ニューロン61が脳からの指令や、脊髄60を経由する種々の反射によって興奮すると、その興奮インパルスが神経軸索62を経て筋肉に伝わる。筋肉に興奮インパルスが伝わると、興奮インパルスは、神経筋接続部63から、筋繊維64の端部に向かって伝搬していく。興奮が筋繊維64に伝わることで、筋繊維64が収縮するが、この過程で電圧が発生することが知られている。
【0003】
したがって、図6に示すように、筋繊維64の興奮インパルスの伝搬路上に電極65を設けることで、筋肉の活動状態に応じた筋電位を検出することができる。但し、筋繊維64に直接電極65を設ける方法は、必然的に侵襲的な計測となるため、医療現場で筋肉ごとの細かなデータが欲しい場合に限って実施される。
【0004】
他の方法としては、皮膚表面から筋電位信号を検出する方法も用いられている。この方法では、計測信号は様々な筋肉で発生する筋電位信号の干渉波形となってしまい、またSN比も劣化してしまうが、簡易な計測方法として用いられている。
【0005】
皮膚表面から取得された筋電位は表面筋電位と呼ばれ、非侵襲的な計測が可能であるため、スポーツトレーニングやリハビリ等で筋肉の動作状態を大まかに計測する場合に用いられる他、近年では、義手の制御やコンピュータの操作等、筋電位信号を制御に用いる方法が研究されており、筋力の弱った人の筋力をサポートするパワーアシストスーツ等、実用化の近い応用製品もできつつある。
【0006】
表面筋電位は、数mV程度の非常に小さな信号であるため、測定には、図7に示すような、計装アンプ70を用いた作動増幅回路を利用して、人体に存在する筋電位と無関係な同相ノイズ信号を除去する方法が採られている。
【0007】
計装アンプ70は、皮膚表面71に配置された2つの筋電位検出電極72,73から2つの入力端子にそれぞれ入力された筋電位の差を増幅し、基準電位VREFを中心に出力するアンプである。計装アンプ70には、ゲイン(高域通過特性)を調整するゲイン調整回路74が備えられる。
【0008】
ボディアース電極75は、人体の電位を基準電位VREFと等電位にすることにより、ハムノイズ等の空間を伝わって人体へ結合するノイズを抑制する働きがある。
【0009】
また、検出電極方式として、筋電位検出電極72,73と皮膚間の接触インピーダンスを小さくするために、皮膚表面71に導電ペーストを用いる湿式電極方式と、導電ペーストを用いない乾式電極方式がある。
【0010】
乾式電極を用いる場合には、接触インピーダンスが非常に大きいため、筋電位検出電極72,73と計装アンプ70の入力端子間の配線が高インピーダンスとなり、ノイズに弱くなってしまい配線長を長くとることができない。
【0011】
このため、配線を長くとりたい場合には、図8に示すように、筋電位検出電極72,73の直後にバッファアンプ80を入れ、配線のインピーダンスを下げている(能動電極)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−89676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、表面筋電位センサを、義手等の複雑な動きをする対象の制御へ応用することを考えた場合、複数箇所の筋電位を同時計測することが必須である。また、表面筋電位センサは容易に着脱可能な方が望ましく、図9に示すように、衣服状のものに多数の筋電位検出電極(又は表面筋電位センサ)90を設置し、着る感覚で装着できる多点筋電位センサ(衣服型表面筋電位センサ)91が研究されている。
【0014】
しかしながら、筋電位検出電極として、能動電極を用いた場合には、筋電位検出電極に能動回路素子(バッファアンプ80)を必要とすることから、多数の筋電位検出電極を設置すると、柔軟性が失われてしまう問題があった。体の形状には個人差があることから、誰にでも表面筋電位センサをフィットさせるためには、柔軟性が失われることは好ましくない。
【0015】
また、湿式電極は、粘着性のある導電ペーストを皮膚表面に塗る必要があり、繰り返しの使用には不向きであるといった問題がある。
【0016】
そこで、本発明の目的は、これら課題を解決し、誰にでも簡単に装着できて、繰り返し使用可能な表面筋電位センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために創案された本発明は、乾式の受動電極からなる筋電位検出電極と、該筋電位検出電極で検出された筋電位を増幅する増幅回路とを有する表面筋電位センサであって、前記筋電位検出電極と前記増幅回路とを同軸ケーブルで接続し、かつ該同軸ケーブルの外部導体をボディアース配線としたことを特徴とする表面筋電位センサである。
【0018】
前記筋電位検出電極とボディアース電極を1対とした複数のユニットを、伸縮性素材でつなぎ合わせ、各ユニットの前記筋電位検出電極をそれぞれ前記同軸ケーブルにて各増幅回路に接続し、かつ前記各ユニットの前記ボディアース電極を各同軸ケーブルの外部導体に接続してもよい。
【0019】
前記筋電位検出電極及び前記ボディアース電極は、布状素材に固定され、少なくとも前記同軸ケーブルの一部が前記布状素材に縫い付けられていてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、誰にでも簡単に装着できて、繰り返し使用可能な表面筋電位センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態を示す表面筋電位センサの概略図である。
【図2】乾式電極を受動電極として用いて取得した筋電位波形を示す図である。
【図3】乾式電極を受動電極として用い、さらに筋電位検出電極と計装アンプの入力端子間を同軸ケーブルで配線して取得した筋電位波形を示す図である。
【図4】筋電位検出電極と計装アンプの接続例を示す図である。
【図5】本発明の他の実施の形態を示す表面筋電位センサの概略図である。
【図6】筋電位の発生機構を説明する図である。
【図7】筋電位検出回路の一例を示す概略図である。
【図8】乾式電極を能動電極として用いた筋電位検出回路の一例を示す概略図である。
【図9】衣服型表面筋電位センサのイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0023】
図1は、本発明の好適な実施の形態に係る表面筋電位センサの概略図である。
【0024】
図1に示すように、表面筋電位センサ1は、乾式の受動電極からなる筋電位検出電極2と、筋電位検出電極2で検出された筋電位を増幅する増幅回路(以下、計装アンプと言う)3とを有し、筋電位検出電極2と計装アンプ3とを同軸ケーブル4で接続し、かつ同軸ケーブル4の外部導体5をボディアース配線6としたものである。
【0025】
同軸ケーブル4としては、中心導体7の外周に、絶縁被覆層8、外部導体5からなる外部導体層、被覆層9を順次被覆した極細同軸ケーブルを用いるとよい。
【0026】
筋電位検出電極2及びボディアース電極10は、人体に装着するために、布状素材11に固定され、さらに、同軸ケーブル4の一部が布状素材11に縫い付けられて着用部を構成している。
【0027】
ボディアースは、人体と低インピーダンスで接続することが望ましいことから、人体と接する面を全面導電布として、これをボディアース電極10としている。そのボディアース電極10上に、絶縁層12を挟んで筋電位検出電極2が必要箇所に配置されている。
【0028】
各筋電位検出電極2は、それぞれ同軸ケーブル4の中心導体7と導通され、各同軸ケーブル4の中心導体7の他端はそれぞれ計装アンプ3の入力端子に接続される。各同軸ケーブル4の外部導体5はそれぞれボディアース電極10と導通され、外部導体5の他端は計装アンプ3の基準電位VREFと等電位に導通され、ハムノイズ等の空間を伝わって人体へ結合するノイズを抑制するようにされる。なお、各同軸ケーブル4は筋電位計測時に邪魔にならないように束ねられている。
【0029】
計装アンプ3は、2つの入力端子を有する差動アンプであり、一方の入力端子には、上述したように筋電位検出電極2が同軸ケーブル4を介して接続される。他方の入力端子には別の筋電位検出電極2から基準となる筋電位信号が入力されるようになっている。筋電位検出電極2と計装アンプ3の接続方法の詳細については後述する。また、計装アンプ3には、ゲイン(高域通過特性)を調整するゲイン調整回路(図示せず)が備えられる。この計装アンプ3は、それぞれの入力端子に入力された筋電位の差を増幅し、基準電位VREFを中心に出力するものである。
【0030】
計装アンプ3には、図示しない表示部などが接続されており、筋電位の計測結果を人が感知できるように出力するようになっている。これら計装アンプ3や表示部などの検出回路部は着用部とは別に設けられている。
【0031】
本発明の表面筋電位センサ1の作用を述べる。
【0032】
表面筋電位センサ1を用いて筋電位を計測する際には、各筋電位検出電極2及び各ボディアース電極10を人体の皮膚表面に配置する。筋肉の活動によって筋電位が生じたとき、各筋電位検出電極2で検出された筋電位と基準となる筋電位との差が計装アンプ3に入力された後増幅されて、基準電位VREFを中心電位として出力され、表示部などに表示される。以上の動作により、筋電位を検出することができる。
【0033】
本発明の表面筋電位センサ1では、筋電位検出電極2と計装アンプ3とを同軸ケーブル4で接続し、かつ同軸ケーブル4の外部導体5をボディアース配線6としている。同軸ケーブル4に用いる極細同軸ケーブルは、最も細いものでは直径0.16mmのものまで市販されており、柔軟性があり、ミシンなどを用いて布に縫い付けることもできるため、縫い糸と同様に扱うことができ、また、筋電位検出電極2として能動回路素子を必要としない受動電極を用いており、多数の配線を縫い付けても、表面筋電位センサ1の柔軟性が失われない。また、表面筋電位センサ1では、繰り返し使用に適した乾式の受動電極からなる筋電位検出電極2を用いている。
【0034】
よって、本発明の表面筋電位センサ1によれば、多数の配線を縫い付けても、表面筋電位センサ1の柔軟性が失われず、誰にでも簡単に装着できて、繰り返し使用可能な表面筋電位センサ1を提供することができる。
【0035】
また、筋電位を計測するためには、筋電位を検出する筋電位検出電極2以外に、ボディアース電極10が必要となるが、本発明の表面筋電位センサ1では、同軸ケーブル4の外部導体5をボディアース配線6としているため、同軸ケーブル4の中心導体7を筋電位信号用(筋電位検出用)の配線とすると、外部導体5は筋電位信号に外部から混入するノイズを遮断すると共に、ボディアース配線6を兼ねることができるので配線のコンパクト化を図ることができる。
【0036】
また例えば、筋電位検出電極2として乾式の受動電極を用い、筋電位検出電極2と計装アンプ3の入力端子間を通常の単心ケーブルで接続した従来の表面筋電位センサでは、図2に示すように、周囲空間のハムノイズの混入により、筋電位信号が全く見えなくなってしまう。これに対して、筋電位検出電極2と計装アンプ3の入力端子間を同軸ケーブル4で接続した本発明の表面筋電位センサ1では、図3に示すように、ノイズの混入が抑制され、乾式の受動電極を筋電位検出電極2として使用した場合にも、筋電位検出電極2と計装アンプ3の入力端子間の配線を長く伸ばすことができる。
【0037】
つまり、本発明の表面筋電位センサ1では、筋電位検出電極2と計装アンプ3とを同軸ケーブル4で接続することで、ノイズの混入を抑制でき、筋電位検出電極2と計装アンプ3の入力端子間の配線を長く伸ばすことができる。
【0038】
次に、筋電位検出電極2と計装アンプ3の接続例を図4を用いて説明する。
【0039】
筋電位検出電極2の数だけ計装アンプ3を用意し、計装アンプ3の一方の入力端子には筋電位検出電極2を接続する。他方の入力端子にはマルチプレクサ40を用いて、任意の別の筋電位検出電極2からの信号COMを接続する。
【0040】
また、計装アンプ3の直前にはバッファアンプ41が設けられる。バッファアンプ81は、筋電位検出電極72,73と計装アンプ70の入力端子間のインピーダンスを下げ、ノイズに強くするために設けているが、バッファアンプ41は、マルチプレクサ40により、検出回路の入力インピーダンスが小さくなる可能性があるため、検出回路を高入力インピーダンスにするために入れるものであり、計装アンプ3の直前に設けている。
【0041】
このような接続にすることで、任意の筋電位検出電極2を基準とした筋電位波形を取得することができる。また、微弱な筋電位を増幅することができ、検出精度を向上させることができる。
【0042】
次に、本発明の他の実施の形態に係る表面筋電位センサを説明する。
【0043】
図5は、本発明の他の実施の形態を示す表面筋電位センサの概略図である。
【0044】
表面筋電位センサを人体にフィットさせるためには、柔軟性だけでなく、伸縮性があることが望ましい。上記実施の形態においては、人体に接触する面を全面導電布にしているが、導電布は一般に伸縮性があまりない。
【0045】
そこで、図5に示すように、表面筋電位センサ50では、導電布を筋電位検出電極2ごとに小さく区切り、区切った導電布からなるボディアース電極10と筋電位検出電極2とを1対とした複数のユニットを、伸縮性素材51でつなぎ合わせている。
【0046】
図示していないが、各ユニットの筋電位検出電極2は、それぞれ同軸ケーブル4の中心導体7にて各計装アンプ3に接続されており、かつ各ユニットのボディアース電極10は、各同軸ケーブル4の外部導体5に接続されている。筋電位検出電極2と計装アンプ3の接続方法は、図4で説明した接続例と同様である。
【0047】
このような構成にすることにより、表面筋電位センサに伸縮性を持たせることができる。また、同軸ケーブル4の外部導体5は、全て基準電位に接続されているため、細かく区切られた導電布は全て等電位となり、ボディアースとして働く。そのため、個別では人体とボディアース電極10の接触面積は小さいが、多点で分布的にボディアースがとれているため、トータルでは大きな接触面積を得ることができる。
【0048】
以上要するに、本発明の表面筋電位センサ50によれば、ボディアース電極10と筋電位検出電極2とを1対とした複数のユニットを、伸縮性素材でつなぎ合わせ、各ユニットの筋電位検出電極2をそれぞれ同軸ケーブル4にて各計装アンプ3に接続し、かつ各ユニットのボディアース電極10を各同軸ケーブル4の外部導体5に接続しているため、伸縮性に特に優れ、誰にでも簡単に装着できて、繰り返し使用可能な表面筋電位センサを提供することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 表面筋電位センサ
2 筋電位検出電極
3 増幅回路(計装アンプ)
4 同軸ケーブル
5 外部導体
6 ボディアース配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式の受動電極からなる筋電位検出電極と、該筋電位検出電極で検出された筋電位を増幅する増幅回路とを有する表面筋電位センサであって、
前記筋電位検出電極と前記増幅回路とを同軸ケーブルで接続し、かつ該同軸ケーブルの外部導体をボディアース配線としたことを特徴とする表面筋電位センサ。
【請求項2】
前記筋電位検出電極とボディアース電極を1対とした複数のユニットを、伸縮性素材でつなぎ合わせ、各ユニットの前記筋電位検出電極をそれぞれ前記同軸ケーブルにて各増幅回路に接続し、かつ前記各ユニットの前記ボディアース電極を各同軸ケーブルの外部導体に接続した請求項1に記載の表面筋電位センサ。
【請求項3】
前記筋電位検出電極及び前記ボディアース電極は、布状素材に固定され、少なくとも前記同軸ケーブルの一部が前記布状素材に縫い付けられた請求項1又は2に記載の表面筋電位センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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