説明

被吊り下げ体の設計支援方法及び被吊り下げ体の設計支援装置

【課題】被吊り下げ体をワイヤーで吊るす際の被吊り下げ体の傾きを簡単に検証できるとともに、当該被吊り下げ体の傾きを簡単に抑制できる被吊り下げ体の設計支援方法及び設計支援装置を提供すること。
【解決手段】金型30の重心Gを通り上下方向に延びる重心線G1を求め(ステップS21)、金型30が備える複数のワイヤー取付部34に、それぞれワイヤー33の下端33aを位置づけるとともに、当該ワイヤー33の上端33bを重心線G1上に位置づけ、すべてのワイヤー33について、金型30の角部31cと接触する当該ワイヤー33の中間部33cを変化させ、当該ワイヤー33の上端33bが到達しうる重心線G1上の最も高い位置を求め(ステップS22)、各ワイヤー33の上端33bが到達しうる重心線G1上の最も高い位置のうち、最も低い位置と最も高い位置との差分hを求める(ステップS25)ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本のワイヤーによりクレーン等に吊り下げられる被吊り下げ体の設計支援方法及び設計支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プレスマシン用の金型(被吊り下げ体)等の重量物は、複数本のワイヤーによりクレーンに吊り下げられて搬送される。この場合、各ワイヤーの一端は、金型の側面に形成されたワイヤー取付部に取り付けられ、当該ワイヤーの他端は1つに集合してクレーンのフックに取り付けられる。このように、金型を複数本のワイヤーによりクレーンに吊り下げる場合には、この金型の重心の真上に上記ワイヤーの各他端が位置していないと、この金型が傾いてしまう。このため、クレーンに配置された光学ポインターにより、金型の重心位置を推定し、この重心の真上にクレーンの中心が位置するように当該クレーンの動作を制御する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、金型の表面には複数の凹凸が形成された複雑な形状を有しているため、上記した技術を用いても、金型の傾きを抑制するのは十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−255475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、コンピュータを用いて、所定の形状のプレス成型が可能なように金型の設計がなされる傾向にある。しかし、これまでの金型設計では、金型を吊り下げた際に当該金型が傾斜するか否かの検証はなされておらず、金型を実際に吊り下げる際に、クレーン作業者が金型の傾きを抑えるようにワイヤー経路を調整していた。この調整作業は作業者の熟練度を要し、この熟練度に応じて作業時間が大きく変わるといった問題があった。
そこで、本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、被吊り下げ体をワイヤーで吊るす際の被吊り下げ体の傾きを簡単に検証できるとともに、当該被吊り下げ体の傾きを簡単に抑制できる被吊り下げ体の設計支援方法及び設計支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、複数のワイヤーにより吊り下げられる被吊り下げ体の設計支援方法であって、前記被吊り下げ体の重心位置を通り上下方向に延びる重心線を求めるステップと、前記被吊り下げ体が備える複数のワイヤー取付部に、それぞれワイヤーの一端を位置づけるとともに、当該ワイヤーの他端を前記重心線上に位置づけ、すべてのワイヤーについて、前記被吊り下げ体と接触する当該ワイヤーの中間接触位置を変化させ、当該ワイヤーの他端が到達しうる前記重心線上の最も高い位置を求めるステップと、各ワイヤーの他端が到達しうる前記重心線上の最も高い位置のうち、最も低い位置と最も高い位置との差分を求めるステップと、を備えることを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、ワイヤーの他端が到達しうる重心線上の最も高い位置のうち、最も低い位置と最も高い位置との差分を指標として、被吊り下げ体を吊り下げた際に当該被吊り下げ体が傾斜するか否かを簡単に検証することができる。
【0007】
この構成において、前記差分を所定の許容範囲と比較するステップと、前記差分が前記許容範囲外の場合、前記他端が到達しうる前記重心線上の最も高い位置が最も低いワイヤー以外の他のワイヤーのうち、少なくとも一のワイヤーについて、前記中間接触位置を変化させ、当該ワイヤーの他端の位置を前記重心線上に沿って下げるステップと、を備え、前記差分が前記許容範囲内になった際に、各ワイヤーの中間接触位置が接触する前記被吊り下げ体の対応位置をワイヤー引っ掛け部として設定する構成としても良い。
この構成によれば、設定されたワイヤー引っ掛け部にワイヤーを引っ掛けて被吊り下げ体を吊り下げることで、当該被吊り下げ体の傾斜を簡単に抑制することができる。
【0008】
また、前記他のワイヤーのうち、前記他端が到達しうる前記重心線上の最も高い位置が最も高いワイヤーについて、当該他端の位置を前記重心線上に沿って下げる処理を行っても良い。
この構成によれば、他端が到達しうる重心線上の最も高い位置のうち、最も低い位置と最も高い位置との差分が小さくなるため、被吊り下げ体の傾斜を効果的に抑制することができる。
また、前記差分が許容範囲内となるまで、前記各ステップを繰り返し実行しても良い。この構成によれば、確実に被吊り下げ体の傾斜を抑制できる。
【0009】
また、本発明は、複数のワイヤーにより吊り下げられる被吊り下げ体の設計支援装置であって、前記被吊り下げ体の重心位置を通り上下方向に延びる重心線を設定する重心線設定手段と、すべてのワイヤーについて、前記被吊り下げ体と接触する当該ワイヤーの中間接触位置を変化させ、当該ワイヤーの他端が到達しうる前記重心線上の最も高い位置を算出する他端位置算出手段と、各ワイヤーの他端が到達しうる前記重心線上の最も高い位置のうち、最も低い位置と最も高い位置との差分を算出する差分算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この構成において、前記差分を所定の許容範囲と比較する比較手段と、前記差分が前記許容範囲外の場合、前記他端が到達しうる前記重心線上の最も高い位置が最も低いワイヤー以外の他のワイヤーのうち、少なくとも一のワイヤーについて、前記中間接触位置を変化させ、当該ワイヤーの他端の位置を前記重心線上に沿って下げる他端位置修正手段と、前記差分が前記許容範囲内になった際に、各ワイヤーの中間接触位置が接触する前記被吊り下げ体の対応位置をワイヤー引っ掛け部として設定する引っ掛け部設定手段と、を備えても良い。
【0011】
また、前記他端位置修正手段は、前記他端が到達しうる前記重心線上の最も高い位置が最も高いワイヤーについて、当該他端の位置を前記重心線上に沿って下げる構成としても良い。また、前記複数のワイヤーは、略同一の長さに設定されている構成としても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ワイヤーの他端が到達しうる重心線上の最も高い位置のうち、最も低い位置と最も高い位置との差分を指標として、被吊り下げ体を吊り下げた際に当該被吊り下げ体が傾斜するか否かを簡単に検証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の設計支援装置を適用したコンピュータの構成を示す機能ブロック図である。
【図2】複数のワイヤーにより金型を吊り下げた状態を示す斜視図である。
【図3】本実施形態の動作手順を示すフローチャートである。
【図4】金型を吊り下げた際の傾きを検証する手順を示すフローチャートである。
【図5】図4の動作手順を説明するための金型の模式図である。
【図6】新たな引っ掛け部の設定処理を示すフローチャートである。
【図7】図6の動作手順を説明するための金型の模式図である。
【図8】ワイヤー経路が妥当でない状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を適用した実施形態について説明する。
図1は、本発明の設計支援装置を適用したコンピュータ1の構成を示す機能ブロック図である。
この図1に示すコンピュータ1は、複数のワイヤーにより被吊り下げ体としての金型を吊り下げる際に、シミュレーションにより、この金型の傾斜の程度を検証するとともに、当該金型の傾斜が大きい場合に当該傾斜を抑制するワイヤー経路を求める機能を有する。
コンピュータ1は、所定のプログラムを実行してデータを処理するCPU(Central Processing Unit)10と、CPU10により実行される基本制御プログラム及び基本制御プログラムに関するデータを記憶したROM(Read Only Memory)11と、CPU10により実行される各種プログラム及び処理されるデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)12と、を備えている。また、コンピュータ1は、キーボードやマウス等の入力デバイスを有し、これら入力デバイスにおける入力操作を検出して操作信号をCPU10に出力する入力部13と、LCD(液晶表示画面)等からなる表示画面(図示略)を備え、この表示画面に処理結果等を表示させる表示部14と、プリンタやスキャナ等の外部の機器(図示略)に接続される外部インタフェース部15と、通信回線を介して外部のサーバ等(図示略)に接続される通信インタフェース部16と、を備えている。さらに、コンピュータ1は、CPU10により実行される各種プログラム、及び、これらのプログラムの実行時に処理されるデータ等を記憶する記憶部20を有する。これらの各部は、バス17によって相互に接続されている。
【0015】
CPU10は、ROM11に記憶された基本制御プログラム及びデータを読み出して、RAM12に設けられるワークエリアに展開して一時的に保持させるとともに、所定の順序で基本制御プログラムのコードを実行することにより、コンピュータ1の各部を初期化して制御する。
また、CPU10は、入力部13から入力される操作信号に応じて、記憶部20に記憶されたプログラムを読み出して実行し、各種データを処理することにより、各種の機能を実現する。
【0016】
本実施形態において、記憶部20には、設計支援プログラム21及び部品データ23が記憶されている。設計支援プログラム21は、コンピュータ1において、いわゆるCAD(Computer Aided Design)装置としての機能を実現し、金型の設計を行い、金型の形状及びサイズを規定する部品データ23を生成するためのプログラムである。
部品データ23は、金型の形状及びサイズを規定するデータであって、金型の各部の立体的形状を詳細に規定した、いわゆる3次元CADデータである。
【0017】
図2は、複数のワイヤーにより金型を吊り下げた状態を示す斜視図である。
金型30は、例えば、プレスマシン(不図示)等に配置されて金属板等の材料(不図示)を所定の形状にプレス成型するための金型である。金型30は鋳鉄等で形成された重量物であるため、この金型30をプレスマシンに搬送する際には、当該金型30を複数本のワイヤー33により工場内に備えつけられるクレーン(不図示)で吊り下げて搬送を行っている。この金型30は、上金型31と下金型32とを備え、本実施形態では、上金型31及び下金型32を一体として4本のワイヤー33で吊り下げて搬送している。なお、上金型31、下金型32をそれぞれ別個に吊り下げて搬送しても構わないことは勿論である。
【0018】
これら上金型31及び下金型32は、それぞれ略矩形形状を呈しており、上金型31の側面31a及び下金型32の側面32aには、それぞれワイヤー33が取り付けられるワイヤー取付部34、35が一体に設けられている。これらワイヤー取付部34、35は、それぞれ上金型31及び下金型32の長手方向に延びる両側面31a、32aに設けられ、プレスマシンに対する当該上金型31及び下金型32の取り付けを阻害しない位置に設けられている。本実施形態では、下金型32の側面に形成された4か所のワイヤー取付部34を用いて、上金型31及び下金型32を一体に4本のワイヤー33で吊り下げている。
ワイヤー取付部34は、図2に示すように、側面32aから横並びに延出する一対の突出片34a、34bと、これら突出片34a、34b間を貫通して固定される固定ピン36とを備え、この固定ピン36は、突出片34a、34bに着脱自在である。また、ワイヤー取付部35についても同様の構成となっているため、同様の符号を付して説明を省略する。
ワイヤー33の両端は、それぞれ環状に固定された環状部が形成されており、ワイヤー33の下端(一端)33aの環状部は、上記した固定ピン36が貫通した状態で突出片34a、34bに固定されることで、ワイヤー33の下端33aがワイヤー取付部34に固定される。一方、ワイヤー33の上端(他端)33bは、上金型31の上面31bの上方で1つに集められ、これら集められた上端33bの環状部にクレーンのフックが引っ掛けられる。
【0019】
また、図2では記載を省略したが、上金型31及び下金型32の対向面は、上記した金属板を所定の形状に成型するための凹凸を有する成型面として形成されている。さらに、上金型31及び下金型32の表面には、当該上金型31及び下金型32をプレスマシンに取り付けるための凹凸や、軽量化を図るための凹部が形成されている。このような上金型31及び下金型32の成型面、表面の形状、及びワイヤー取付部34、35の位置、形状は、コンピュータ1の設計支援プログラム21に基づいて設計される。
【0020】
ところで、金型30をワイヤー33で吊り下げる場合、当該金型30が傾くと危険である。従来の金型設計では、金型30を吊り下げた際に当該金型30が傾斜するか否かの検証はなされておらず、金型30を実際に吊り下げる際に、クレーン作業者が金型30の傾きを抑えるようにワイヤー33経路を調整していた。この調整作業は作業者の熟練度を要し、この熟練度に応じて作業時間が大きく変わるといった問題があった。
このため、本構成では、コンピュータ1のシミュレーションにより、設計した金型30を吊り下げた際の傾斜の程度の検証処理を行うとともに、当該金型30の傾斜が大きい場合に当該傾斜を抑制するワイヤー経路を求める処理を行う点に特徴を有する。
【0021】
次に、上記した検証処理及びワイヤー経路を求める処理手順について説明する。これら処理手順を実行する場合、CPU10は、重心線設定手段、他端位置算出手段、差分算出手段、比較手段、他端位置修正手段、及び、引っ掛け部設定手段として機能する。
【0022】
図3は、これら手順を示すフローチャートである。
この図3に示すように、CPU10は、記憶部20から設計支援プログラム21を読み出し、この設計支援プログラム21を起動する(ステップS1)。続いて、CPU10は、記憶部20から対象となる金型(上金型31、下金型32)30のCADデータを読み出し、この読み出したCADデータから当該金型30の重心G(図5参照)、各ワイヤー取付部34及び当該金型30の稜線を示す座標データをそれぞれ取得する(ステップS2)。ここで、記憶部20には、金型30の形状を示すCADデータが記録されているため、このCADデータに基づいて重心Gの位置座標を算出することができる。
また、金型30の稜線とは、金型における突出した部位の輪郭を示すものであり、ワイヤー33の中間部(中間接触点)33cと接触する金型30の接触点を示すものである。本実施形態では、金型30の稜線として、上金型31の側面31aと上面31bとの角部31cの座標データが取得される。
【0023】
次に、CPU10は、表示部14に使用するワイヤー33の長さと、金型30上の引っ掛かり位置とを入力するための入力画面を表示し、作業者に上記した項目を入力させる(ステップS3)。作業者は、入力部13を用いて、必要な情報の入力を行う。本実施形態では、4本のワイヤー33は、すべて略同一の長さに設定されている。この構成によれば、これら同一長のワイヤー33を後述するワイヤー経路で吊り下げるだけで、熟練度を要することなく、金型30の傾きを抑制できる。
引っ掛かり位置とは、作業者が想定した経路でワイヤー33を張った際に、このワイヤー33の中間部33cと、上金型31の側面31aと上面31bとの角部31cとが接触する位置を示すものである。作業者は、入力部13を介して、画面上に表示された金型30にワイヤー経路を記入すると、CPU10は、記入されたワイヤー経路に基づいて、ワイヤー33の中間部33cと上金型31の角部31cとが接触する位置座標を算出し、この位置座標を取得する。
【0024】
次に、CPU10は、作業者が設定したワイヤー経路で金型30を吊り下げた際に、この金型30が傾斜するか否か、及び、傾斜する場合には当該傾斜により変更されるワイヤー経路を算出する(ステップS4)。
具体的には、図4に示すように、CPU10は、取得した重心Gを通り、金型30の上下方向に延びる重心線G1を設定する(ステップS21)。続いて、CPU10は、ワイヤー33の下端33aをワイヤー取付部34に位置づけ、ワイヤー33の上端33bを重心線G1上に位置づけるとともに、図2に矢印Xで示すように、ワイヤー33の中間部33cの位置を上記角部31cに沿って変化させることにより、ワイヤー33の上端33bが到達しうる重心線G1上の最も高い位置となるワイヤー経路を算出する(ステップS22)。ワイヤー33の上端33bが到達しうる重心線G1上の最も高い位置となるワイヤー経路を算出するのは、金型30を吊り下げる際に、ワイヤー経路が変更されて当該金型30が傾斜することを防止するためである。そして、このワイヤー経路において、ワイヤー33の中間部33cが接触する上金型31の角部31c(接触点)の位置座標を算出する(ステップS23)。
【0025】
続いて、CPU10は、4本のワイヤー33のすべてについて、上記した中間部33cと接触する角部31cの位置座標を算出したか否かを判別する(ステップS24)。この判別において、算出されていなければ(ステップS24;No)、処理をステップS21に戻し、他のワイヤー33について上記したステップS21〜ステップS24を実行する。また、算出されていれば(ステップS24;Yes)、図5に示すように、4本のワイヤー33における最高点の最も高い位置と最も低い位置との差分hから当該金型30の傾きを算出する(ステップS25)。上述のように、本構成では、金型30は、4本のワイヤー33の上端33bを1つに集めて吊り下げている。このため、4本のワイヤー33の上端33bの位置は同じ高さとなることにより、当該ワイヤー33の上端33bが到達しうる最高点の高さ位置が異なると、その差分に応じて金型30が傾斜することとなる。
出願人は、この点に注目し、ワイヤー33の上端33bが到達しうる最高点の最も高い位置と最も低い位置との差分を指標として、吊り下げた際に金型30が傾斜するか否かを検証することにより、簡単な構成で金型30のワイヤー経路が適当であるか否かを判別することができる。
【0026】
続いて、図3に戻り、金型30の傾きが所定の許容範囲内にあるか否かを判別する(ステップS5)。ここで、所定の許容範囲とは、金型30が傾いて特定のワイヤー33に過剰な荷重がかかったとしても、作業者の安全性を確保できる範囲とするのが好ましい。この判別において、金型30の傾きが所定の許容範囲内にある場合には(ステップS5;Yes)、処理をステップS7に移行する。
また、金型30の傾きが所定の許容範囲内にない場合には(ステップS5;No)、この傾きを所定の範囲内となるように、金型30に新たな引っ掛け部を設定する(ステップS6)。
【0027】
図6は、新たな引っ掛け部の設定処理を示すフローチャートである。
CPU10は、ワイヤー33の上端33bが到達しうる最高点の最も高いワイヤー33の上端位置を、重心線G1に沿って、当該最高点の最も低いワイヤー33の上端位置に合わせて低下させる(ステップS31)。具体的には、図7に示すように、ワイヤー33の中間部33cの位置を角部31cに沿って、図中X1方向に移動させることにより、ワイヤー33は二点鎖線の位置から実線の位置に変化し、これに伴いワイヤー33の上端33bの位置が、図中Z1方向に差分hだけ低下する。
上述のように、ワイヤー33の上端33bが到達しうる最高点の最も高い位置と最も低い位置との差分hの大きさが金型30の傾斜に大きく関連することが判明している。このため、最高点の最も高いワイヤー33の上端位置を最高点の最も低いワイヤー33の上端位置に合わせて低下させることで、差分hが解消されるため、金型30が傾斜する要因の1つが解消される。
【0028】
続いて、CPU10は、ワイヤー33の上端33bの位置を差分hだけ低下させた場合に、このワイヤー33の中間部33cが接触する上金型31の角部31cの座標を算出する(ステップS32)。そして、ワイヤー33の上端33bの位置を差分hだけ低下させた場合のワイヤー経路に基づいて、金型30の傾きが所定の許容範囲内であるか否かを判別する(ステップS33)。
この判別において、金型30の傾きが所定の許容範囲内でない(ステップS33;No)場合には、CPU10は、処理をステップS31に戻し、現状で上端33bが到達しうる最高点の最も高いワイヤー33について、上記ステップS31〜S33の処理を行う。
また、金型30の傾きが所定の許容範囲内にある(ステップS33;Yes)場合には、CPU10は、ステップS32にて算出した上金型31の角部31cの座標を新たな引っ掛け部設定位置とし、図7に示すように、この位置に引っ掛け部37を設定する(ステップS34)。この場合、読み出した金型30(上金型31)のCADデータに新たな引っ掛け部37を設けることが望ましい。これによれば、設計段階の金型30を吊り下げた際の傾斜を抑制する引っ掛け部37が設定されるため、この金型30の傾斜を簡単に抑制することができる。
【0029】
再び、図3に戻り、CPU10は、設定されたワイヤー経路が妥当であるか否かを判別する(ステップS7)。ワイヤー経路が妥当であるか否かは、ワイヤー33の中間部33c、33dが金型30と接触する箇所において、逆折れが生じているか否かを判別する。逆折れとは、図8に示すように、ワイヤー33の中間部33c、33dにおいて、ワイヤー33よりも上方に金型30が位置する現象をいう。この逆折れが生じると、ワイヤー33の中間部33c、33dに過剰な荷重がかかることとなり、当該ワイヤー33が破損する恐れがある。このため、設定されたワイヤー経路が妥当でなければ(ステップS7;No)、ワイヤー経路を逆折れが生じていない適正な経路に変更し(ステップS8)、処理をステップS3に戻す。
一方、設定されたワイヤー経路が妥当であれば(ステップS7;Yes)、そのまま処理を終了する。
【0030】
本実施形態によれば、設計支援装置としてのコンピュータ1は、金型30の重心Gを通り上下方向に延びる重心線G1を設定し、すべてのワイヤー33について、金型30の角部31cと接触する当該ワイヤー33の中間部33cを変化させ、当該ワイヤー33の上端33bが到達しうる重心線G1上の最も高い位置を算出し、各ワイヤー33の上端33bが到達しうる重心線G1上の最も高い位置のうち、最も低い位置と最も高い位置との差分hを算出するため、この差分hを指標とすることで、金型30を吊り下げた際に当該金型30が傾斜するか否かを簡単に検証することができる。
【0031】
また、本実施形態によれば、差分hを所定の許容範囲と比較し、差分hが許容範囲外の場合、上端33bが到達しうる重心線G1上の最も高い位置が最も高いワイヤー33について、中間部33cを変化させ、当該ワイヤー33の上端33bの位置を重心線G1上に沿って低下させ、差分hが許容範囲内になった際に、各ワイヤー33の中間部33cが接触する金型30の角部31cを引っ掛け部37として設定するため、この引っ掛け部37にワイヤー33を引っ掛けて金型30を吊り下げることで、当該金型30の傾斜を簡単に抑制することができる。
【0032】
また、本実施形態によれば、複数のワイヤー33は、略同一の長さに設定されているため、これら同一長のワイヤー33を決まったワイヤー経路で吊り下げるだけで、熟練度を要することなく、金型30の傾きを抑制できる。
【0033】
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは勿論である。例えば、本実施の形態では、被吊り下げ体として金型30を一例として説明したが、複数のワイヤーにて吊り下げられるものであれば、他のものに適用することもできる。
また、本実施形態では、4本のワイヤー33で吊り下げる構成について説明したが、3本以上のワイヤーで吊り下げるもの構成であれば、ワイヤーの数を限定するものではない。
また、本実施形態では、金型30が所定の範囲内よりも大きく傾斜する場合には、ワイヤー33の上端33bが到達しうる最高点の最も高いワイヤー33の上端位置を、重心線G1に沿って、当該最高点の最も低いワイヤー33の上端位置に合わせて低下させていたが、これに限るものではなく、最高点の最も低いワイヤー33以外のワイヤー33のいずれかの上端位置を低下させても良い。この構成では、最高点の最も高いワイヤー33の上端位置を低下させるものに比べて効果は小さいが、各ワイヤー33のバランスが取れて、金型30の傾斜を所定の範囲内とすることができる場合がある。
【0034】
また、本実施形態では、金型設計の途中段階として、金型に新たな引っ掛け部を設定することにより、設計段階にある金型の傾斜を抑えることができる構成について説明したが、現在使用している金型についても、金型及び引っ掛け部の強度を保つことができれば、引っ掛け部を後加工により設けることで金型の傾斜を抑えることは可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 コンピュータ(設計支援装置)
10 CPU(重心線設定手段、他端位置算出手段、差分算出手段、比較手段、他端位置修正手段、引っ掛け部設定手段)
30 金型
31 上金型
31a 側面
31c 角部(接触点、対応位置)
32 下金型
33 ワイヤー
33a 下端(一端)
33b 上端(他端)
33c 中間部(中間接触位置)
34、35 ワイヤー取付部
37 引っ掛け部(ワイヤー引っ掛け部)
G1 重心線
G 重心
h 差分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のワイヤーにより吊り下げられる被吊り下げ体の設計支援方法であって、
前記被吊り下げ体の重心位置を通り上下方向に延びる重心線を求めるステップと、
前記被吊り下げ体が備える複数のワイヤー取付部に、それぞれワイヤーの一端を位置づけるとともに、当該ワイヤーの他端を前記重心線上に位置づけ、すべてのワイヤーについて、前記被吊り下げ体と接触する当該ワイヤーの中間接触位置を変化させ、当該ワイヤーの他端が到達しうる前記重心線上の最も高い位置を求めるステップと、
各ワイヤーの他端が到達しうる前記重心線上の最も高い位置のうち、最も低い位置と最も高い位置との差分を求めるステップと、を備えることを特徴とする被吊り下げ体の設計支援方法。
【請求項2】
前記差分を所定の許容範囲と比較するステップと、前記差分が前記許容範囲外の場合、前記他端が到達しうる前記重心線上の最も高い位置が最も低いワイヤー以外の他のワイヤーのうち、少なくとも一のワイヤーについて、前記中間接触位置を変化させ、当該ワイヤーの他端の位置を前記重心線上に沿って下げるステップと、を備え、前記差分が前記許容範囲内になった際に、各ワイヤーの中間接触位置が接触する前記被吊り下げ体の対応位置をワイヤー引っ掛け部として設定することを特徴とする請求項1に記載の被吊り下げ体の設計支援方法。
【請求項3】
前記他のワイヤーのうち、前記他端が到達しうる前記重心線上の最も高い位置が最も高いワイヤーについて、当該他端の位置を前記重心線上に沿って下げる処理を行うことを特徴とする請求項2に記載の被吊り下げ体の設計支援方法。
【請求項4】
前記差分が許容範囲内となるまで、前記各ステップを繰り返し実行することを特徴とする請求項2または3に記載の被吊り下げ体の設計支援方法。
【請求項5】
複数のワイヤーにより吊り下げられる被吊り下げ体の設計支援装置であって、
前記被吊り下げ体の重心位置を通り上下方向に延びる重心線を設定する重心線設定手段と、
すべてのワイヤーについて、前記被吊り下げ体と接触する当該ワイヤーの中間接触位置を変化させ、当該ワイヤーの他端が到達しうる前記重心線上の最も高い位置を算出する他端位置算出手段と、
各ワイヤーの他端が到達しうる前記重心線上の最も高い位置のうち、最も低い位置と最も高い位置との差分を算出する差分算出手段と、を備えることを特徴とする被吊り下げ体の設計支援装置。
【請求項6】
前記差分を所定の許容範囲と比較する比較手段と、前記差分が前記許容範囲外の場合、前記他端が到達しうる前記重心線上の最も高い位置が最も低いワイヤー以外の他のワイヤーのうち、少なくとも一のワイヤーについて、前記中間接触位置を変化させ、当該ワイヤーの他端の位置を前記重心線上に沿って下げる他端位置修正手段と、前記差分が前記許容範囲内になった際に、各ワイヤーの中間接触位置が接触する前記被吊り下げ体の対応位置をワイヤー引っ掛け部として設定する引っ掛け部設定手段と、を備えることを特徴とする請求項5に記載の被吊り下げ体の設計支援装置。
【請求項7】
前記他端位置修正手段は、前記他端が到達しうる前記重心線上の最も高い位置が最も高いワイヤーについて、当該他端の位置を前記重心線上に沿って下げることを特徴とする請求項6に記載の被吊り下げ体の設計支援装置。
【請求項8】
前記複数のワイヤーは、略同一の長さに設定されていることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の被吊り下げ体の設計支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−221030(P2012−221030A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83571(P2011−83571)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】