説明

被検体分析用チップおよびその製造方法

【課題】被検液による汚染や感染の危険性が少なく、しかも量産性が良好な被検体分析用チップを提案するものである。
【解決手段】液体試料を分析するための細長い平板状の分析用チップであって、複数枚のシート部材を貼合せてなり、チップ先端部には計測装置に挿入した際の位置決め孔を有し、チップ中央部側面には側面から突出した試料導入孔を有し、チップ内部には導入された試料を毛細管現象によって試料貯留部に導く試料流路と、試料貯留部に導入された試料を処理するメンブレンフィルターを有し、チップ下面には処理された被検液を取り出して検査するための検査孔を有し、チップ上面には試料の進入を円滑化する空気孔を有し、チップ先端部の反対側端部はチップを把持するための把持部を形成し、チップ表面および/または裏面の、少なくとも試料導入孔周辺部分に撥水処理を施したことを特徴とする被検体分析用チップである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液等を被検体として種々の特性値について測定を行うための被検体分析用チップに関する。
【背景技術】
【0002】
血液を被検体として、種々の測定を簡便に行うための血液分析用チップとしては、さまざまな提案がなされている。これらのチップの中で、最も一般的に用いられているものは、血糖値の測定用チップである。
【0003】
血液分析用チップは、その使用目的に従い、大きく2種類に分けられる。一つは個人が自分の血液の状態を測定するために使用するものであり、もう一つは病院や検査機関等において、不特定多数の人の血液を分析測定するために使用されるものである。
【0004】
個人が自分の血液を測定するために使用するチップの場合は、汚染や感染の問題は殆ど問題とならないが、不特定多数の人の血液を取り扱う場合には、血液が測定器に付着することによって生じる汚染の問題や、検査者が検体である血液によって感染することを防止するための何らかの手段を講じることが必要である。
【0005】
特許文献1に記載されたバイオセンサ検査ストリップは、視力が低下した糖尿病患者でも触覚によって扱うことができるように、側面に凹みを設けた血糖値分析用チップである。このような目的のために提供されるチップの場合、上記の汚染や感染に関する問題は生じないため、事実何等の対策もとられていない。この点に関しては、特許文献2に記載されたバイオセンサについても、同様である。
【0006】
特許文献3に記載されたマイクロデバイスは、特許文献2に記載されたバイオセンサと同様の用途に使用するチップであり、特許文献2に記載されたバイオセンサの問題点である、「血液に接触させて血液を内部に取り込むための点着部の先端が矩形状であるため点着した際に血液が点着部以外のマイクロデバイスの外壁面に付着してしまう」という問題を解決するためになされたものである。特許文献3のマイクロデバイスにおいては、この問題を解決するための手段として、流路となる溝が掘られたベースプレートにカバープレートを重ね合わせて内部に毛細管キャビティを形成するとともに、基端が前記毛細管キャビティに接続され先端がカバープレートから突出した点着部を設け、点着部の先端が、ベースプレートの流路形成面から離れる方向に突出した半球状に形成したものである。
【0007】
特許文献3に記載されたマイクロデバイスにおいては、点着部を突出させるとともに、点着部の周囲にカバープレートと一体に樹脂成形されたリブを設け、このリブが合成樹脂材料自身の撥水性で血液を弾くことにより、血液が点着部以外の部分に付着するのを防止している。
【0008】
特許文献3に記載されたマイクロデバイスは、ベースプレートを樹脂成形によって形成し、また樹脂成形で形成した流路内を血液が円滑に流れるように、流路の内面に別途親水処理を行う必要があり、コストがかかる。また点着部周辺への血液の付着を防止する手段として、リブの材料自身の撥水性を利用しているため、撥水性が十分でなく、汚染や感染の防止効果において不十分であった。
【0009】
特許文献4に記載された被検液分析用チップは、測定機器の内部の汚染と作業者の汚染を防ぐことを主な課題としてなされたものであり、チップの形状や構造を工夫することに
よってこの目的を達成しようとしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2001-526388号公報
【特許文献2】特開2001-159618号公報
【特許文献3】特開2009-229243号公報
【特許文献4】特開2009-175118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献4に記載された被検液分析用チップは、平板状の部材を3枚貼り合わせて形成する構造であるため、構造自体は比較的単純であるが、流路を形成するために、流路の形状に打抜いた両面粘着テープを使用している関係上、組み立てに当っては人の手作業に頼らざるを得ないため、量産性やコストの面で問題があった。また被検液である血液を導入する接触口の周縁に血液が付着しやすいという問題もあった。
【0012】
本発明は、これらの課題を解決するためになされたものであり、被検液による汚染や感染の危険性が少なく、しかも量産性が良好な被検体分析用チップを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、液体状の被検体試料を分析するための細長い平板状の分析用チップであって、複数枚のシート部材を貼合せてなり、チップ先端部には、計測装置に挿入した際の位置決めを行うための位置決め孔を有し、チップ中央部側面には、チップ内部に被検体試料を導入するための、チップ側面から突出した試料導入孔を有し、チップ内部には、試料貯留部と、試料導入孔から導入された被検体試料を毛細管現象によって試料貯留部に導く試料流路と、試料貯留部に導入された被検体試料を処理するメンブレンフィルターを有し、チップ下面には、処理された被検液を取り出して検査するための検査孔を有し、チップ上面には、被検体試料の試料流路への進入を円滑にするための空気孔を有し、チップ先端部の反対側端部は、チップを把持するための把持部を形成し、チップ表面および/または裏面の、少なくとも試料導入孔周辺部分に撥水処理を施したことを特徴とする被検体分析用チップである。
【0014】
また、請求項2に記載の発明は、前記複数枚のシート部材が、透明で表面が親水性を有し、検査孔が穿孔されたA部材と、メンブレンフィルターと、基材の両面に粘着層を有し試料流路と試料貯留部となるべき部分が打抜かれて除去されたB部材と、透明で表面が親水性を有し空気孔が穿孔されたC部材と、透明で上面にヒートシーラブル材料層を有し空気孔が穿孔されたD部材と、透明で下面に印刷層とヒートシーラブル材料層を有し空気孔が穿孔されたE部材を少なくとも含み、前記A部材、メンブレンフィルター、B〜E部材が下からこの順序に積層され、位置決め孔が穿孔されてなることを特徴とする請求項1記載の被検体分析用チップである。
【0015】
また、請求項3に記載の発明は、前記A部材の下面に撥水性ニスを塗布する工程、A部材に検査孔を穿孔し、検査孔に前記メンブレンフィルターを貼り付ける工程、前記B部材の試料流路と試料貯留部になるべき部分を打抜いて除去する工程、前記C部材とD部材を予め貼り合せ、さらにE部材と貼り合せて、空気孔を穿孔する工程、前記工程を経たA部材、B部材、C、D、E部材を貼り合せて一体化し、位置決め孔を穿孔し、外形を所定のチップ形状に打抜く工程を少なくとも含むことを特徴とする請求項2に記載の被検体分析用チップの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る被検体分析用チップは、複数枚のシート部材を貼り合せた細長い平板状の形状であり、計測装置に挿入する先端部の反対側の端部が把持部となっており、先端部と把持部の中間に被検体試料を導入するための試料導入孔を有する構造であるため、チップに被検体試料を導入する際に、被検体に手を触れることなく分析操作を行うことができる。
【0017】
また、試料導入孔は、チップ側面から突出しており、さらに試料導入孔周辺部分に撥水処理を施したので、被検体が試料導入孔周辺に付着して、計測装置を汚染したりする問題が発生する恐れが少ない。このため、不特定の人の血液等を分析する病院や検査機関等においても、安全にまた清潔に分析処理をおこなうことができる。
【0018】
また本発明に係る被検体分析用チップは、複数枚のシート状部材を貼り合せて構成されており、それぞれの部材に必要な機能を分散して持たせることができるので、無駄のない設計が可能であり、材料コストを低くすることができる。
【0019】
請求項3に記載の製造方法によれば、すべての工程を人手によらずに機械化することが可能であるため、安定した品質の分析用チップを迅速かつ大量に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る被検体分析用チップの一実施態様を示した説明図であり、(1)は表面側から見た状態を、(2)は裏面側から見た状態を示す。
【図2】図1に示した被検体分析用チップの断面構成を模式的に示した断面説明図であり、(1)は図1(1)のXX断面を、(2)は図1(1)のYY断面を示す。
【図3】図1に示した被検体分析用チップの層構成を模式的に示した断面説明図である。
【図4】図1に示した被検体分析用チップの試料導入孔部分の拡大図である。
【図5】図1に示した被検体分析用チップの層構成を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下図面を参照しながら、本発明に係る被検体分析用チップについて詳細に説明する。図1は、本発明に係る被検体分析用チップの一実施態様を示した説明図である。図1(1)は表面側から見た状態を、図1(2)は裏面側から見た状態を示している。また図2は、図1に示した被検体分析用チップの断面構成を模式的に示した断面説明図である。図2(1)は図1(1)のXX断面を、図2(2)は図1(1)のYY断面を示している。
本発明に係る被検体分析用チップ1は、液体状の被検体試料を分析するための細長い平板状の分析用チップであって、複数枚のシート部材A〜E部材を貼合せてなる。
【0022】
チップ先端部2には、計測装置に挿入した際の位置決めを行うための位置決め孔4を有し、チップ中央部側面には、チップ内部に被検体試料を導入するための、試料導入孔6を有する。試料導入孔6は、チップ側面から突出していることを特徴とする。
チップ内部には、試料貯留部8と、試料導入孔6から導入された被検体試料を毛細管現象によって試料貯留部8に導く試料流路7と、試料貯留部8に導入された被検体試料を処理するメンブレンフィルター71を有する。
チップ下面には、メンブレンフィルター71によって処理された被検液を取り出して検査するための検査孔5を有し、チップ上面には、被検体試料の試料流路7への進入を円滑に
するための空気抜きである空気孔9を有する。
【0023】
空気孔9は、被検体試料が試料流路7を伝って流入するのに伴って、逃げ場のなくなるチップ内部の空気をチップ上面側に逃がす働きをする。空気孔9は、試料流路7が試料貯留部8を通過して延長した部分に開口している。このため、試料導入孔6から進入した被検体試料は、試料流路7を進み、試料貯留部8を満たし、さらに空気孔9まで到達する。
【0024】
チップ先端部2の反対側端部は、チップを把持するための把持部3を形成し、チップ表面および/または裏面の、少なくとも試料導入孔6の周辺部分に撥水処理を施した撥水処理部10を設けたことを特徴とする。
【0025】
本発明に係る被検体分析用チップ1は、血液、尿などの液体状の被検体試料を分析するために使用されるチップであり、チップの把持部3を持って、被検体に試料導入孔6を接触させ、毛細管現象によって被検体を試料流路7に沿って導入する。この時、試料流路7の最奥には、空気抜きである空気孔9が設けられているので、被検体は円滑に導入される。導入された被検体は試料貯留部8に溜り、メンブレンフィルター71に接触する。
【0026】
メンブレンフィルター71は、被検体試料中の測定対象成分のみを分離する働きをもっている膜である。例えば被検体が血液であれば、血液から血漿成分のみを分離する血球分離膜が使用される。メンブレンフィルター71を通過した被検液は、検査孔5から取り出され、計測装置によって分析される。
【0027】
本発明に係る被検体分析用チップ1は、計測装置に挿入する先端部2とは反対側の端部に把持部3を設け、試料導入孔6をその中間に配置したので、被検体に一切手を触れることなく、分析操作を行うことが可能である。また試料導入孔6は、チップ側面から突出しているため、被検体に試料導入孔6を接触させる際に、試料導入孔以外の部分に不必要に被検体が付着することを防止することが容易にできる。またさらにチップ表面および/または裏面の、少なくとも試料導入孔6の周辺部分に撥水処理を施したので、被検体が試料導入孔6の周辺に付着してこれが計測装置などを汚染することを未然に防止する効果がある。撥水処理は、分析用チップの試料導入孔周辺の裏面および表面に施すことが好ましいが、いずれか一方の面に施しても十分な効果がある。なお計測装置内に挿入される必要がある検査孔5の部分は、試料導入孔6とチップ先端部2との中間に位置するので、試料導入孔6の部分は、計測装置内に挿入される必要がない。このため万一試料導入孔の周辺が被検体によって汚染されたとしても、計測装置内が汚染されることはない。
【0028】
撥水処理の方法としては、撥水性のニスを塗布または印刷する方法や、撥水性のフィルムを貼り付ける方法がある。印刷法によって必要な部分だけに撥水性のニスを施す方法が最も材料の無駄がなく、生産の効率も高い。
図4は、図1に示した被検体分析用チップの試料導入孔部分の拡大図である。
この実施態様においては、試料導入孔6の位置がチップの裏面側に近い位置にあるため、チップの裏面側のみに撥水処理部10を設けてあるが、上記の撥水効果は十分に発揮される。なおこの実施態様において裏面のみに撥水処理部10を設けた理由としては、裏面に用いたA部材が両面に親水処理を施した材料であることによる。
【0029】
試料導入孔6に接触した被検体試料は、毛細管現象によって試料流路7に沿って進入するが、被検体試料の進入を円滑にするために、試料流路7の内壁を被検体試料によって濡れやすいものとすることが効果的である。被検体が血液や尿であれば、試料流路7の内壁を親水性の表面にしてやることにより、この目的が達せられる。この時、試料流路内壁の全面を親水性にする必要は必ずしもなく、例えば床面と天井面のみを親水性にするだけでも、十分な効果が発揮される。
【0030】
次に本発明に係る被検体分析用チップの層構成および構成材料について説明する。
図3は、図1に示した被検体分析用チップの層構成を模式的に示した断面説明図である。本発明に係る被検体分析用チップは、複数枚のシート部材を貼り合せてなる。図3に示した実施態様においては、A〜Eの5枚のシート部材とメンブレンフィルターからなっている。
【0031】
A部材(A)は、透明で表面が親水性を有する親水性フィルム11である。A部材には、検査孔5が穿孔されている。A部材は試料流路7の床面を構成する。A部材として用いられる材料としては、表面に親水性処理を施した親水処理PET(ポリエチレンテレフタレート樹脂)フィルムや親水処理アクリル樹脂フィルム、親水処理アセテート樹脂フィルム等の親水処理フィルムや、フィルム自体が親水性を有するポリビニルアルコールフィルム等が挙げられるが、特に限定されるものではない。親水性の程度としては、水をたらした時の接触角が30°以下となるようなものであれば良い。一般的に、市販されているこれらの材料は、両面に親水処理を施したものが多いが、試料流路7に接する側の面だけに親水処理を施したものでもよい。なおA部材を透明とする理由は、血液等の被検体試料が試料流路7中を進行する様子が見えるようにするためである。
【0032】
A部材の下面すなわち分析用チップ1の底面となる面には、少なくとも試料導入孔6周辺部分に撥水処理を施した撥水処理部10を設ける。撥水処理部を設ける理由は、既に説明した通り、被検体試料に試料導入孔部分を接触させた時に、チップ表面に試料が付着しないようにするためである。撥水処理部10を形成する方法としては、撥水性の粘着テープを貼る方法や、撥水性のニスを塗布する方法があるが、スクリーン印刷法やグラビア印刷法を用いて、必要な部分だけに撥水性のニスを印刷する方法が最も好ましい。撥水処理の程度としては、水をたらした時の接触角が100°以上であることが好ましい。
【0033】
A部材に撥水処理を施すタイミングとしては、特に限定されるものではなく、他の部材と貼り合せて、分析用チップの形になってからでもかまわないが、他の部材と貼り合せる前に、予めA部材の下面に撥水処理を施しておいてもよい。
【0034】
メンブレンフィルター71は、A部材に穿孔された検査孔5を覆うようにA部材に貼り付けられる。従って高価なメンブレンフィルター71は、検査孔5を覆うだけの大きさがあれば十分である。
【0035】
B部材(B)は、基材21の両面に粘着層22、23を有し、試料流路7と試料貯留部8となるべき部分が打抜かれて除去された部材である。B部材を前記A部材と、次に述べるC部材とで挟むように接合することにより、試料流路7と試料貯留部8が一繋がりの空間として形成される。B部材としては、例えばPETフィルムベースの両面粘着テープや、PETフィルムの両面に両面粘着テープを貼り合せたような材料が使用できる。B部材は、打抜かれた側面が試料流路7の壁面を構成するので、ある程度の厚さを必要とすると共に親水性であることが望ましいが、必ずしも親水性である必要はない。またB部材は、打抜かれた部分が試料流路7となるので、透明である必要はなく、むしろ試料流路7の部分が他と区別されて明確に分るように、黒色などに着色されていても良い。この場合は、基材21として着色された基材を用いればよい。B部材は、試料流路等を打ち抜く途中工程においては、両面に離型紙や離型フィルムが付着した状態で取り扱われる。
【0036】
C部材(C)は前記A部材と同様、透明で表面が親水性を有する親水性フィルム31である。C部材としては、前記A部材と同じ材料が使用できるが、撥水処理を施す必要はない。C部材は試料流路7の天井面を構成する。
【0037】
C部材には、空気孔9が穿孔されている。空気孔9は、後に説明するD部材、E部材のチップの同じ位置にも存在し、被検体試料が試料流路7を伝って流入するのに伴って、逃げ場のなくなる空気をチップ表面側に逃がす働きをする。
【0038】
D部材(D)は、分析用チップ1全体に剛性を持たせるための基板の役割をになっている。D部材の基材41としては、厚さ100〜200μm程度の剛性の高い透明なプラスチックシートが適している。材質としては、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、PET樹脂、アクリル樹脂等の一般的な材料が使用できる。基材の上面には、ヒートシーラブル材料層42が設けられている。ヒートシーラブル材料層42は、加熱によって溶融し、接着する材料であり、公知のヒートシールニスやホットメルト接着剤、ヒートシーラブル樹脂、ヒートシーラブルフィルム等が使用できる。ヒートシーラブル材料層42は、材料に応じて、グラビア印刷法、押出しラミネート法、ドライラミネート法等の方法によって形成される。D部材には、前記C部材と同位置に空気孔9が穿孔されている。
【0039】
E部材(E)は、分析用チップ1の最上面を形成する部材である。E部材の基材51は、分析用チップとして使用する上で必要な情報である印刷層52を裏面に印刷形成するために、透明でかつ寸法精度の良い材質であることが求められる。E部材の基材51としては、D部材の基材41として用いたものと同じ材料を用いることができる。
【0040】
印刷層52によって表示される情報としては、チップの名称や型番、把持部の位置やチップの挿入方向を示す表示、試料導入孔の位置を示す表示、被検体試料が導入されるべき終点位置等、チップを使用するに当たって必要な情報を表示する。
【0041】
印刷層52を形成する方法としては、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法等、公知の印刷方法が用いられる。E部材の裏面には、印刷層52の上に、D部材に設けたものと同じヒートシーラブル材料層53が形成されている。E部材には、前記C部材、D部材と同位置に空気孔9が穿孔されている。
【0042】
本発明に係る被検体分析用チップは、前記A部材、メンブレンフィルター、B〜E部材を下からこの順序に積層した後、位置決め孔4が穿孔されてなる。図5は、図1に示した被検体分析用チップの層構成を示した斜視図である。以後、図5と図3を併用しながら本発明に係る被検体分析用チップの製造方法について説明する。
【0043】
まず前記A部材の下面に撥水性ニスを塗布して、撥水処理部10を形成する。撥水処理部10は、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等を用いて、必要な部分だけに設けてもよい。次にA部材に検査孔5を穿孔し、検査孔5の上面側に前記メンブレンフィルター71を、接着剤やヒートシールによって貼り付ける。
【0044】
次に前記B部材の試料流路7と試料貯留部8になるべき部分を打抜いて除去する。打ち抜き作業は、抜き金型を用いてB部材となるべき積層体シートを連続的に順次送りながら能率的に行なう事ができる。なお打ち抜き工程を経て、後に説明する貼り合わせ工程までは、図では省略しているが、B部材の両面に離型紙や離型フィルムが付着した状態とする。
【0045】
次に、D部材の基材41の表面に、ヒートシーラブル材料層42を形成した後、前記C部材と貼合せる。貼合せは、接着剤を用いたドライラミネート法が適当である。図3に示したように、C部材である親水性フィルム31とD部材の基材41とがドライラミネート接着剤層61によって接着された状態となる。(以下これをCD部材と表記する。以下同様である)
【0046】
次にE部材の基材51の裏面に印刷層52を形成し、印刷層52面に前記D部材に用いたものと同じ材質のヒートシーラブル材料層53を形成する。次にこのヒートシーラブル材料層53と、前記CD部材のヒートシーラブル材料層42とを向かい合わせて全体を熱ラミネートして一体化する。この時のヒートシール強度は、1N/15mm以上とするのが好ましい。以上によって1枚のシートとなった貼り合わせ部材(CDE部材)の所定の位置に空気孔9を穿孔する。
【0047】
前記B部材の表裏面の剥離紙を除去し、A部材、B部材、CDE部材を貼り合せて一体化する。次に位置決め孔4を穿孔し、外形を抜き型によって所定のチップ形状に打抜く。以上の工程によって、被検体分析用チップ1が完成する。
【0048】
上記の各工程は、いずれも人手によらずに、機械設備によって自動的に行いうる内容であり、このため上記の各工程からなる製造方法によれば、本発明に係る被検体分析用チップを、きわめて能率的に製造することができる。
以下実施例に基づき、本発明に係る被検体分析用チップについてさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0049】
厚さ188μmのPET樹脂フィルム(東レ社製 S10 片面処理品)の処理面にグラビア印刷法によって所定の印刷絵柄を印刷した後、さらにEVA樹脂系ホットメルト接着剤(DIC社製 DX−11C)を25g/m塗工し、115mm巾にスリットしてE部材を得た。
【0050】
厚さ188μmのPET樹脂フィルム(東レ社製 S10 片面処理品)の処理面にホットメルト接着剤(DIC社製 DX−11C)を塗工し、反対面にドライラミネート用接着剤(東洋モートン社製 ウレタン系接着剤 TM242A/B)を4g/m塗布し、親水性処理を施した厚さ100μmのPET樹脂フィルム(東レ社製 S10)と貼り合わせた。これを40℃の雰囲気中で2日間エージングした後、115mm巾にスリットしてCD部材を得た。
【0051】
親水性処理を施した厚さ100μmのPET樹脂フィルム(東レ社製 S10)の片面に撥水性ニス(東洋インキ製造社製 PANNECOメジウム)を所定の場所にグラビア印刷方式によって印刷し、115mm巾にスリットしてA部材を得た。
【0052】
以上によって得られたシート部材をチップ組み立て装置にセットし、以下の工程に従って、図1に示した被検体分析用チップ1を得た。
1、A部材に直径6mmの検査孔をあけ、この孔を覆うようにメンブレンフィルター(MACHEREY−NAGEL社製 PORAFIL PC、厚さ7μm)をヒートシールして貼り付ける。
2、CD部材とE部材をヒートシールして貼り合わせ、CDE部材とした後、直径0.5mmの空気孔をあける。この時のヒートシール強度は、1N/15mm以上とした。
3、厚さ125μmの黒色PETフィルム(三菱樹脂社製 B100)の両面に両面粘着テープ(日東電工社製 両面テープ No.5620BW)を貼った総厚200μmのシートに試料流路および試料貯留部の形状を打ち抜いてB部材を得る。
4、A部材とCDE部材をB部材を介して貼り合わせた後、直径2mmの位置決め孔をあける。
5、巾約10mm、長さ約75mmの所定の外形に打ち抜いて図1に示したような被検体検査用チップ1を得る。
【0053】
以上の工程に従って得られた被検体分析用チップは、血糖値測定用チップとして用いられ、従来の手作業によって組み立てられていた製品に比較して品質が安定すると共に生産性が大幅に向上した。
【符号の説明】
【0054】
1・・・被検体分析用チップ
2・・・チップ先端部
3・・・把持部
4・・・位置決め孔
5・・・検査孔
6・・・試料導入孔
7・・・試料流路
8・・・試料貯留部
9・・・空気孔
10・・・撥水処理部
A・・・A部材
B・・・B部材
C・・・C部材
D・・・D部材
E・・・E部材
11、31・・・親水性フィルム
21、41、51・・・基材
22、23・・・粘着層
42、53・・・ヒートシーラブル材料層
52・・・印刷層
61・・・ドライラミネート接着剤層
71・・・メンブレンフィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体状の被検体試料を分析するための細長い平板状の分析用チップであって、複数枚のシート部材を貼合せてなり、
チップ先端部には、計測装置に挿入した際の位置決めを行うための位置決め孔を有し、
チップ中央部側面には、チップ内部に被検体試料を導入するための、チップ側面から突出した試料導入孔を有し、
チップ内部には、試料貯留部と、試料導入孔から導入された被検体試料を毛細管現象によって試料貯留部に導く試料流路と、試料貯留部に導入された被検体試料を処理するメンブレンフィルターを有し、
チップ下面には、処理された被検液を取り出して検査するための検査孔を有し、
チップ上面には、被検体試料の試料流路への進入を円滑にするための空気孔を有し、
チップ先端部の反対側端部は、チップを把持するための把持部を形成し、
チップ表面および/または裏面の、少なくとも試料導入孔周辺部分に撥水処理を施したことを特徴とする被検体分析用チップ。
【請求項2】
前記複数枚のシート部材は、
透明で表面が親水性を有し検査孔が穿孔されたA部材と、
メンブレンフィルターと、
基材の両面に粘着層を有し試料流路と試料貯留部となるべき部分が打抜かれて除去されたB部材と、
透明で表面が親水性を有し空気孔が穿孔されたC部材と、
透明で上面にヒートシーラブル材料層を有し空気孔が穿孔されたD部材と、
透明で下面に印刷層とヒートシーラブル材料層を有し空気孔が穿孔されたE部材を少なくとも含み、
前記A部材、メンブレンフィルター、B〜E部材が下からこの順序に積層され、位置決め孔が穿孔されてなることを特徴とする請求項1記載の被検体分析用チップ。
【請求項3】
前記A部材の下面に撥水性ニスを塗布する工程、A部材に検査孔を穿孔し、検査孔に前記メンブレンフィルターを貼り付ける工程、前記B部材の試料流路と試料貯留部になるべき部分を打抜いて除去する工程、前記C部材とD部材を予め貼り合せ、さらにE部材と貼り合せて、空気孔を穿孔する工程、前記工程を経たA部材、B部材、C、D、E部材を貼り合せて一体化し、位置決め孔を穿孔し、外形を所定のチップ形状に打抜く工程を少なくとも含むことを特徴とする請求項2に記載の被検体分析用チップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−169603(P2011−169603A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30934(P2010−30934)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】