説明

被洗浄物の洗浄方法、被洗浄物の洗浄装置

【課題】被洗浄物の洗浄方法、被洗浄物の洗浄装置を提供する。
【解決手段】浸漬時に空気16を保持可能な穴部14を表面に有する被洗浄物(多結晶シリコン12)を洗浄槽18に浸漬して前記洗浄槽18を気密封止し、前記洗浄槽18内の空気を排出することにより前記洗浄槽18内を減圧する工程と、気体44を前記洗浄槽18内に導入することにより前記洗浄槽18内を加圧する工程と、を繰り返すことにより、前記穴部14に保持された空気16を前記洗浄液28と入れ替えて前記穴部14の洗浄を行う被洗浄物の洗浄方法であって、前記気体44として、空気より溶解度の低いものを前記洗浄槽18に導入することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液や純水などの洗浄液を用いた被洗浄物の洗浄技術に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の原料となる多結晶シリコンと同じ成分から構成されるシリコンウエハを高い洗浄度で洗浄することが要求される工程がある。このような工程では、従来ウエハに付着したパーティクルや有機物等の汚染物を高濃度の薬品とともに浸漬槽内で浸漬洗浄していたが、大量に薬品を使用するなど課題が多かった。このため、超純水に洗浄に寄与するガス(例えば水素)を溶存し超音波洗浄を行うことで、従来に比べ洗浄時に使用する薬品量を大幅に低減できる機能水洗浄という手法が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
図3に第1の従来技術に係る洗浄機を示す。図3に示すように、洗浄機100は洗浄槽102と洗浄槽102の下部に取り付けられた超音波振動子104から構成されている。洗浄槽102内には洗浄に寄与するガスが溶存している洗浄液106中に洗浄対象のシリコンウエハ108がカセット110に格納された状態で浸漬されており、周波数20KHz以上の超音波を洗浄槽102の下部から照射することでシリコンウエハ108上に付着している粒子に加振力を加えることで、シリコンウエハ108表面から剥離することで洗浄する。
【0004】
この洗浄方法は、洗浄液106中に超音波が伝播し、シリコンウエハ108表面上の粒子に加振力を加えるとともにキャビテーションを発生させることでシリコンウエハ108上に付着している汚染物を洗浄できる。一方、シリコンウエハの原料となる太陽電池向けの多結晶シリコンは、多結晶シリコンからなる芯材が、還元反応炉内で通電加熱され、この状態で還元反応炉内にシラン系ガスと水素ガスの混合ガスから原料ガスが導入され、還元反応炉内の芯材が気相反応により成長し、棒状の多結晶シリコンが製造される。このように製造された棒状の多結晶シリコンは、所定長さのロッドに切断したり、タングステンカーバイドなどの超硬工具でつくられたハンマーで適当な大きさの塊粒状に破砕してナゲット状の多結晶シリコンが形成される。ところで、還元反応炉内の電極の上部に相当するショルダー部において表面に複雑で微細な穴を有するポーラス形状の多結晶シリコンが形成される。特に太陽電池向けの多結晶シリコン製造時には製品価格を抑えるために気相成長速度を速く設定するため、ショルダー部におけるポーラス形状の多結晶シリコンの成長が顕著となっており品質の低下が懸念されている。このような原料を従来の浸漬超音波洗浄で洗浄すると微細な穴内部にまで洗浄液が入りにくく、また穴内部に残存する空気の影響で超音波が伝播しない。このため、微細な穴内部までは洗浄効果が得られなかった。
【0005】
このような微細な穴内部に洗浄液を浸透させる方法として、洗浄時に超音波洗浄槽内を減圧と大気開放を繰り返す方法がある。この洗浄方法は洗浄槽内に洗浄対象のワークを洗浄液とともに洗浄槽内を減圧することで、洗浄対象のワークの穴内部の空気を膨張させて排出した後、洗浄槽内を大気開放して空気を収縮させる。さらに、再度減圧をすることで再び洗浄対象のワークの穴内部の空気を膨張させて排出するとともに脱気水中に空気を溶存させる。この減圧と大気開放を繰り返すことで、洗浄対象のワークの穴内部の空気は膨張・収縮・溶存・脱気を繰り返しやがて洗浄液と完全に交換することができる。このため、微細な穴内部にまで洗浄液を効率よく浸透できるとともに、超音波の伝播効率を向上させることができる。
【0006】
図4に第2の従来技術に係る洗浄機を示す。図4に示すように、洗浄機200は洗浄槽202と洗浄液204を洗浄槽202内に供給する洗浄液供給ライン206と洗浄液供給ポンプ208、制御バルブ210及び洗浄液204を洗浄槽202外に排出するドレイン212と排水ポンプ214、制御バルブ216及び洗浄槽202内を減圧状態に保てる密閉構造と洗浄槽202内を減圧するための真空ライン218と真空ポンプ220、制御バルブ222及び洗浄槽202内に20KHz以上の超音波を照射することができる超音波振動子224とから構成される。
【0007】
図5に減圧時の洗浄機内の様子を示し、図6に大気開放時の洗浄機内の様子を示す。洗浄対象のワーク226は洗浄槽202内の洗浄液中に浸漬される。この洗浄槽202内部を装置に付帯する真空ポンプ220により減圧することで、洗浄対象のワーク226の穴部228に存在する空気230を膨張させて洗浄液204中に排出するとともに洗浄液204中の空気を脱気する(図5)。この際洗浄液204に超音波を照射することで、洗浄液中の脱気効果を向上させることができる。
【0008】
その後、減圧されていた洗浄槽202内を大気開放することで洗浄対象のワーク226の穴部228に存在していた空気230は収縮して、洗浄液204が穴部228に浸透するとともに脱気水中に空気230が溶存する(図6)。
【0009】
その後、再び減圧することで洗浄対象のワーク226の穴部228の空気230を膨張させることで洗浄対象のワーク226の穴部228の空気230を排出する。この減圧と大気開放を繰り返すことで、洗浄対象のワーク226の穴部228の空気230は洗浄液204と完全に交換され、洗浄液204と超音波の洗浄効果により洗浄される(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許3521393
【特許文献2】特許2977922
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この洗浄方法は、減圧と大気開放を繰り返すことで洗浄対象のワーク226の微細な穴部228の空気230を洗浄液204に完全に交換し、洗浄液204と超音波の効果でワークの微細な穴部228まで洗浄できる。しかしながら、減圧後大気開放するため脱気された洗浄液204に再度外部から空気が溶け込んでしまう。このため、洗浄対象のワーク226の穴部228に残った空気230が洗浄液中に溶存させる際の効率が低下するため、減圧と大気開放の繰り返し回数が増えてしまい、また外部から溶存させるガスが空気であるため超音波洗浄時の効果が十分でないという問題があった。
【0012】
そこで本発明は上記問題点に着目し、被洗浄物の穴部に保持された空気を被洗浄物から取り除く効率を高めて効果的に洗浄することが可能な被洗浄物の洗浄方法、被洗浄物の洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係る被洗浄物の洗浄方法は、第1には、浸漬時に空気を保持可能な穴部を表面に有する被洗浄物を洗浄槽に浸漬して前記洗浄槽を気密封止し、前記洗浄槽内の空気を排出することにより前記洗浄槽内を減圧する工程と、気体を前記洗浄槽内に導入することにより前記洗浄槽内を加圧する工程と、を繰り返すことにより、前記穴部に保持された空気を前記洗浄液と入れ替えて前記穴部の洗浄を行う被洗浄物の洗浄方法であって、前記気体として、空気より溶解度の低いものを前記洗浄槽に導入することを特徴とする。
【0014】
上記方法において、洗浄槽内を減圧する工程では、洗浄液中に溶存する空気を析出させて脱気させるとともに、被洗浄物の穴部に保持された空気を膨張させてその一部を排出させる。一方、加圧することにより穴部に保持された空気を収縮させるとともに、その一部を脱気水となった洗浄液に溶存させる。このとき、減圧の解除を空気より溶解度の低い気体を用いて行なうので、その気体が洗浄液に溶け込む量はわずかである。よって洗浄液の脱気の効率、及び被洗浄物の穴部に保持された空気の溶存の効率を妨げる空気を洗浄槽から排除して穴部に保持された空気を効果的に取り除き、洗浄効率を高めることができる。
【0015】
第2には、前記洗浄液に超音波を照射することを特徴とする。これにより、超音波の加振力を用いて、洗浄液中の空気の脱気効率を高めることができる。
第3には、前記気体として水素を導入することを特徴とする。これにより、わずかながら溶存する水素を用いて洗浄液の洗浄効果を高め、被洗浄物の表面や穴部を効果的に洗浄することができる。
第4には、前記洗浄槽内を加圧する工程において、前記洗浄槽内に導入する気体を前記洗浄槽内の気圧が大気圧より高くなるまで導入することを特徴とする。
【0016】
これにより、洗浄液中に析出される空気の収縮効率を高めることができる。また洗浄槽に導入する気体を洗浄液にある程度溶け込ませることができるが、特に気体として水素を用いた場合は洗浄液中の水素の濃度を高めることができるので洗浄効果を高めることができる。
【0017】
一方、本発明に係る被洗浄物の洗浄装置は、第1には、浸漬時に空気を保持可能な穴部を表面に有する被洗浄物が浸漬された洗浄液を気密封止可能な洗浄槽と、前記洗浄槽内の空気を排出することにより前記洗浄槽内の減圧を行なう真空ポンプと、気体を前記洗浄槽内に導入することにより前記洗浄槽内を加圧する気体供給手段と、を備え、前記真空ポンプによる減圧と前記気体供給手段による加圧とを繰り返すことにより、前記穴部に保持された空気を前記洗浄液と入れ替えて前記穴部の洗浄を行う被洗浄物の洗浄装置であって、前記気体は、空気より低い溶解度を有することを特徴とする。
【0018】
上記構成において、洗浄槽内の減圧時には、洗浄液中に溶存する空気を析出させて脱気させるとともに、被洗浄物の穴部に保持された空気を膨張させてその一部を排出させる。一方、加圧することにより穴部に保持された空気を収縮させるとともに、その一部を脱気水となった洗浄液に溶存させる。このとき、減圧の解除を空気より溶解度の低い気体を用いて行なうので、その気体が洗浄液に溶け込む量はわずかである。よって洗浄液の脱気の効率、及び被洗浄物の穴部に保持された空気の溶存の効率を妨げる空気を洗浄槽から排除して穴部に保持された空気を効果的に取り除き、洗浄効率を高めることが可能な被洗浄物の洗浄装置となる。
【0019】
第2には、前記洗浄液に超音波を照射可能な超音波振動子が取り付けられたことを特徴とする。これにより、超音波の加振力を用いて、洗浄液中の空気の脱気効率を高めることが可能な被洗浄物の洗浄装置となる。
第3には、前記気体は水素であることを特徴とする。これにより、わずかながら溶存する水素を用いて洗浄液の洗浄効果を高め、被洗浄物の表面や穴部を効果的に洗浄することが可能な被洗浄物の洗浄装置となる。
【0020】
第4には、前記気体供給手段は、前記洗浄槽内の圧力が大気圧より高くなるように加圧可能であることを特徴とする。これにより、洗浄液中に析出される空気の収縮効率を高めることができる。また洗浄槽に導入する気体を洗浄液にある程度溶け込ませることができるが、特に気体として水素を用いた場合は洗浄液中の水素の濃度を高めることができるので洗浄効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る被洗浄物の洗浄方法、及び洗浄装置によれば、被洗浄物に保持された空気を被洗浄物から取り除く効率を高めて洗浄槽内の減圧・減圧解除の繰り返し回数を削減して効果的に洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係る被洗浄物の洗浄装置の模式図である。
【図2】本実施形態の被洗浄物の洗浄装置の変形例を示す模式図である。
【図3】第1の従来技術に係る洗浄機の模式図である。
【図4】第2の従来技術に係る洗浄機の模式図である。
【図5】減圧時の洗浄機内の様子を示す模式図である。
【図6】大気開放時の洗浄機内の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0024】
本実施形態に係る被洗浄物の洗浄装置を図1に示す。本実施形態に係る洗浄装置10は、浸漬時に空気16を保持可能な穴部14を表面に有する被洗浄物(多結晶シリコン12)が浸漬された洗浄液28を気密封止可能な洗浄槽18と、前記洗浄槽18内の空気を排出することにより前記洗浄槽18内の減圧を行なう真空ポンプ52と、気体44を前記洗浄槽18内に導入することにより前記洗浄槽18内を加圧する気体供給手段(ガス供給ライン38)と、を備え、前記真空ポンプ52による減圧と前記気体供給手段による加圧とを繰り返すことにより、前記穴部14に保持された空気16を前記洗浄液28と入れ替えて前記穴部14の洗浄を行う被洗浄物の洗浄装置10であって、前記気体44は、空気より低い溶解度を有するものである。
【0025】
そして本実施形態に係る被洗浄物の洗浄方法は、浸漬時に空気16を保持可能な穴部14を表面に有する被洗浄物(多結晶シリコン12)を洗浄槽18に浸漬して前記洗浄槽18を気密封止し、前記洗浄槽18内の空気を排出することにより前記洗浄槽18内を減圧する工程と、気体44を前記洗浄槽18内に導入することにより前記洗浄槽18内を加圧する工程と、を繰り返すことにより、前記穴部14に保持された空気16を前記洗浄液28と入れ替えて前記穴部14の洗浄を行う被洗浄物の洗浄方法であって、前記気体44として、空気より溶解度の低いものを前記洗浄槽18に導入するものである。
【0026】
洗浄槽18は、一度に洗浄する被洗浄物である多数のナゲット状の多結晶シリコン12を洗浄液28に浸漬した状態で収容可能な内部空間を有し、多結晶シリコン12を収容するための蓋部(不図示)を有している。また洗浄槽18は蓋部(不図示)を閉じることにより内部空間を気密封止することができる。このとき洗浄槽18は内部空間を完全に満たすことはなく、洗浄液28の水面と洗浄槽内部空間の上端との間に上部空間17を形成するものとする。また洗浄槽18には洗浄液供給ライン22、薬液供給ライン30、ガス供給ライン38、真空ライン50、ドレイン56が取り付けられている。また洗浄槽18の下部には20KHz以上の超音波を照射可能な超音波振動子20が取り付けられている。超音波振動子20は洗浄槽18内の洗浄液28及び多結晶シリコン12に超音波を照射して多結晶シリコン12に付着した粒子を加振力により剥離するとともに、洗浄液28中に溶存した空気を析出して脱気させる。
【0027】
洗浄液供給ライン22は、洗浄液供給ポンプ24、バルブ26が介装され、一端が超純水を洗浄液28として蓄えた洗浄液貯留槽(不図示)に接続され、他端が洗浄槽18に接続されている。よって洗浄液供給ライン22はバルブ26を開放し洗浄液供給ポンプ24を駆動させることにより、洗浄液貯留槽(不図示)に蓄えられた洗浄液28を洗浄槽18に供給することができる。
【0028】
また洗浄液供給ライン22には薬液供給ライン30が接続されている。薬液供給ライン30は、薬注ポンプ32、バルブ34が介装され、一端がアンモニア等のpH調整用の薬液36を蓄えた供給源(不図示)に接続され、他端が洗浄液供給ライン22に接続している。よって薬液供給ライン30はバルブ34を開放し薬注ポンプ32を駆動させることにより、薬液36を洗浄液供給ライン22に供給することができる。なお薬液供給ライン30は洗浄液供給ライン22に洗浄液28が流れているときに薬液36を洗浄液供給ライン22に供給するものとする。また薬液供給ライン30は、必要に応じてオゾンのほかにフッ酸や硝酸等を供給できるようにしてもよい。
【0029】
ガス供給ライン38は、空気より溶解度の低い気体44(本実施形態では水素)を蓄えた気体供給手段(ガスボンベ40、コンプレッサー等)を有し、バルブ42が介装され、洗浄槽18の上部に接続されている。よってガス供給ライン38はバルブ42を開放し気体供給手段を構成するガスボンベ40を開放させることにより、気体44を洗浄槽18内に供給することができるとともに、洗浄槽18内が気密封止されていれば洗浄槽18内の気圧を上昇させることができる。ここで、ガス供給ライン38で用いられる気体44は水素以外にも窒素やヘリウム、キセノン、クリプトン等の希ガスなど空気より溶解度の低い気体であれば適用可能であるが、本実施形態のように水素を用いることにより洗浄液28を粒子除去に効果をもつ水素水とすることができる。また洗浄槽18内の気圧を大気圧以上になるように水素を供給してもよい。これにより洗浄液28に溶存する水素の濃度を高めて多結晶シリコン12を効率的に洗浄することができる。
【0030】
真空ライン50は、真空ポンプ52、バルブ54が介装され、一端が大気開放され他端が洗浄槽18の上部に接続されている。よってバルブ54を開放し、真空ポンプ52を駆動させることにより洗浄槽18内の空気を洗浄槽18外に排出することができるとともに、洗浄槽18内が気密封止時に洗浄槽18内の気圧を大気圧以下に減圧することができる。なお真空ライン50とガス供給ライン38は同時に駆動することはない。
【0031】
ドレイン56は、排水ポンプ58、バルブ60が介装され、一端が排水貯留槽(不図示)に接続され、他端が洗浄槽18の下部に接続されている。よってドレイン56は、バルブ60を開放し排水ポンプ58を駆動すると洗浄槽18内の洗浄液28を排水貯留槽(不図示)に排出することができる。なお排水ポンプ58の駆動時は、例えば洗浄槽18の蓋部(不図示)を開けて洗浄槽18を大気開放し、洗浄液28の排出を容易に行えるようにする。
【0032】
被洗浄物のワークとなる多結晶シリコン12の製造方法等は従来技術で述べたとおりである。また本実施形態においては、太陽電池向けの多結晶シリコン12以外でも表面に複雑な穴を有している精密な機械加工部品など、通常の浸漬洗浄では洗浄液を十分に浸透できず洗浄できないような対象であれば特に限定されない。多結晶シリコン12は、その表面に多数の穴部14を有している。この穴部14の大きさは数μm〜数mm程度であって、空気16を洗浄液28の表面張力により保持できる程度の大きさの開口部14aを有しているものとする。よってこの穴部14を有する多結晶シリコン12を洗浄液28に浸漬しても穴部14には超音波を受けた洗浄液28が浸透せず、洗浄が進行しないことになる。なお図においてはナゲット状の多結晶シリコン12は穴部14を強調して記載している。
【0033】
上記構成を有する被洗浄物の洗浄装置10の操作手順について説明する。第1の手順として、洗浄槽18の蓋部(不図示)を開放して洗浄槽18内に被洗浄物である多結晶シリコン12を投入する。
【0034】
第2の手順として、洗浄液供給ライン22のバルブ26を開放し、洗浄液供給ポンプ24を駆動して洗浄液28を洗浄槽18に供給する。このとき洗浄槽18内に一定量の厚みで上部空間17が形成される程度に洗浄液28を供給し、多結晶シリコン12を洗浄液28に浸漬させる。また薬液供給ライン30のバルブ26を開放し薬注ポンプ32を駆動させることによりpH調整用の薬液36を洗浄槽18に供給する。このとき洗浄液のpHが10〜11程度となるように薬液36を供給することが望ましい。そして所定量の洗浄液28が洗浄槽18に供給されたところで洗浄液供給ポンプ24を停止してバルブ26を閉じ、蓋部(不図示)を閉じて洗浄槽18を気密封止する。このとき穴部14には洗浄液28は浸透せず、穴部14は空気16を保持している。
【0035】
第3の手順として、真空ライン50のバルブ54を開放して真空ポンプ52を駆動し洗浄槽18の上部空間17から吸引して洗浄槽18内を減圧する。これにより穴部14に保持された空気16は膨張して穴部14から排出される(図5参照)。このとき洗浄液28に溶存していた空気(不図示)も減圧により析出して排出されることにより洗浄液28は脱気される。そして所定時間後に真空ポンプ52の駆動を停止しバルブ54を閉める。
【0036】
第4の手順として、超音波振動子20を起動する。すると照射された超音波による加振力により洗浄液28に溶存した空気の脱気が促進されるとともに、多結晶シリコン12の表面に付着した粒子が加振力により除去される。
【0037】
そして穴部14に存在する空気16が洗浄液28と完全に入れ替わるまで、上述の第3の手順と第4の手順とを繰り返す。2回目以降の減圧時には空気のみならず気体44も真空ポンプ52により洗浄槽18から排出される。ここで減圧時には洗浄槽18中の空気(気体44)が排出されるとともに、洗浄液28中に析出した空気(不図示)及び空気16が洗浄槽18外に排出され洗浄液28は脱気されるが、減圧の解除は空気より溶解度の低い気体44により行なわれるため、洗浄液28において減圧時の脱気が維持される。よって穴部14に残留した空気16の溶存効率が向上し、従来技術のように大気開放で減圧を解除する場合より少ない回数で穴部14の空気16を排出・溶存させて、穴部14の洗浄を効率よく行なうことができる。このようにして、穴部14の内壁の洗浄液28と接触する部分は洗浄液28により洗浄され、また超音波が伝達するのでその加振力により洗浄される。
【0038】
第5の手順として、洗浄槽18の蓋部(不図示)を開放して洗浄槽18内を大気開放し、ドレイン56のバルブ60を開放し、排水ポンプ58を駆動させて洗浄液28を排出し、排出後に多結晶シリコン12を取り出すことにより多結晶シリコン12の洗浄は終了する。
【0039】
図2に本実施形態の変形例を示す。図2に示すように、変形例においては洗浄に用いた洗浄液28を再利用する構成を付加している。即ち変形例では、ドレイン56から排出される使用後の洗浄液28aを蓄える排水貯留槽62と、排水貯留槽62の洗浄液28aを濾過して洗浄液供給ライン22へ供給する濾過ライン64を有している。
【0040】
濾過ライン64は、濾過用ポンプ66とフィルタ68が介装され、一端が排水貯留槽62に接続され、他端が洗浄液供給ライン22を構成する洗浄液貯留槽70に接続されている。濾過用ポンプ66は排水貯留槽62に蓄えられた使用後の洗浄液28aを一定の圧力でフィルタ68に出力する。逆浸透膜等で形成されたフィルタ68は、濾過用ポンプ66により使用後の洗浄液28aから圧力を受けると、その洗浄液28aを濾過済みの洗浄液28と濃縮液28bに分離する。そして洗浄液28を洗浄液貯留槽70に供給し、濃縮液28bを排水貯留槽62に還流させる。
【0041】
この変形例は、上述の第7の手順において、排水ポンプ58から排出された使用後の洗浄液28aを排水貯留槽62に蓄え、濾過用ポンプ66を駆動してフィルタ68に洗浄液28aを供給し、フィルタ68において濾過後の洗浄液28を洗浄液貯留槽70に供給する。そして次回の多結晶シリコン12の洗浄時に、洗浄液貯留槽70に戻された洗浄液28が薬液36によりpH調整を行った状態で、再度洗浄槽18に供給される。このように洗浄液28を再利用することにより洗浄液28の消費を抑えランニングコストを抑制することができる。
【0042】
なお、図において多結晶シリコン12の穴部14の開口部14aは上向きになっている。しかし本実施形態においては加圧・減圧の繰り返しにより穴部14に保持された空気16を洗浄液28に入れ替えるものであるため、空気16の浮力には依存しない。よって開口部14aの向きに係らず穴部14に保持された空気16を洗浄液28に入れ替えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
被洗浄物に保持された空気を被洗浄物から取り除く効率を高めて洗浄槽内の減圧・減圧解除の繰り返し回数を削減して効果的に洗浄することが可能な被洗浄物の洗浄方法、及び洗浄装置として利用できる。
【符号の説明】
【0044】
10………洗浄装置、12………多結晶シリコン、14………穴部、14a………開口部、16………空気、17………上部空間、18………洗浄槽、20………超音波振動子、22………洗浄液供給ライン、24………洗浄液供給ポンプ、26………バルブ、28………洗浄液、28a………洗浄液、28b………濃縮液、30………薬液供給ライン、32………薬注ポンプ、34………バルブ、36………薬液、38………ガス供給ライン、40………ガスボンベ、42………バルブ、44………気体、50………真空ライン、52………真空ポンプ、54………バルブ、56………ドレイン、58………排水ポンプ、60………バルブ、62………排水貯留槽、64………濾過ライン、66………濾過用ポンプ、68………フィルタ、70………洗浄液貯留槽、100………洗浄機、102………洗浄槽、104………超音波振動子、106………洗浄液、108………シリコンウエハ、110………カセット、200………洗浄機、202………洗浄槽、204………洗浄液、206………洗浄液供給ライン、208………洗浄液供給ポンプ、210………制御バルブ、212………ドレイン、214………排水ポンプ、216………制御バルブ、218………真空ライン、220………真空ポンプ、222………制御バルブ、224………超音波振動子、226………ワーク、228………穴部、230………空気。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸漬時に空気を保持可能な穴部を表面に有する被洗浄物を洗浄槽に浸漬して前記洗浄槽を気密封止し、前記洗浄槽内の空気を排出することにより前記洗浄槽内を減圧する工程と、気体を前記洗浄槽内に導入することにより前記洗浄槽内を加圧する工程と、を繰り返すことにより、前記穴部に保持された空気を前記洗浄液と入れ替えて前記穴部の洗浄を行う被洗浄物の洗浄方法であって、
前記気体として、空気より溶解度の低いものを前記洗浄槽に導入することを特徴とする被洗浄物の洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄液に超音波を照射することを特徴とする請求項1に記載の被洗浄物の洗浄方法。
【請求項3】
前記気体として水素を導入することを特徴とする請求項1または2に記載の被洗浄物の洗浄方法。
【請求項4】
前記洗浄槽内を加圧する工程において、前記洗浄槽内に導入する気体を前記洗浄槽内の気圧が大気圧より高くなるまで導入することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の被洗浄物の洗浄方法。
【請求項5】
浸漬時に空気を保持可能な穴部を表面に有する被洗浄物が浸漬された洗浄液を気密封止可能な洗浄槽と、
前記洗浄槽内の空気を排出することにより前記洗浄槽内の減圧を行なう真空ポンプと、
気体を前記洗浄槽内に導入することにより前記洗浄槽内を加圧する気体供給手段と、を備え、
前記真空ポンプによる減圧と前記気体供給手段による加圧とを繰り返すことにより、前記穴部に保持された空気を前記洗浄液と入れ替えて前記穴部の洗浄を行う被洗浄物の洗浄装置であって、
前記気体は、空気より低い溶解度を有することを特徴とする被洗浄物の洗浄装置。
【請求項6】
前記洗浄液に超音波を照射可能な超音波振動子が取り付けられたことを特徴とする請求項5に記載の被洗浄物の洗浄装置。
【請求項7】
前記気体は水素であることを特徴とする請求項5または6に記載の被洗浄物の洗浄装置。
【請求項8】
前記気体供給手段は、前記洗浄槽内の圧力が大気圧より高くなるように加圧可能であることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の被洗浄物の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−598(P2012−598A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140228(P2010−140228)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】